図表
2.36本棚の設置費用と保管費用
0
4
8 12
<4300>
<4300>
<4700>
<13700>
<8300>
<7700>
2.9 PERT/CPM
2.9.1 プロジェクトの管理
あらゆる組織の活動は,大きく分けてオペレーションとプロジェクトに分けることができるで しょう.両者を厳密に区分することは困難ですが,
[?]によると,それぞれの特徴として次の点が あげられています.
オペレーション:
•
明確に定まった期限を持たず継続的に行われる
•
同じ作業が繰り返される プロジェクト:
•
始まりと終了で区切られる計画期間を持つ
•
各プロジェクトは固有の目的と成果物を持つ
•
しばしば組織の戦略的意思決定に関わる
たとえば,製品の製造や販売に関する業務はオペレーションです.一方,新製品の開発や販売 促進キャンペーンなどはプロジェクトと呼べるでしょう.プロジェクトの成否が組織の命運を左右 する場合があることを考えると,プロジェクトの管理がきわめて重要であることは明らかといえ ます.
プロジェクトの規模が大きくなるにともない,参加する人員,機材,資金は増加し,計画期間 も長くなっていきます.適切な計画と制御を行わないと,プロジェクトの遅延,成果物の品質の低 下,果てはプロジェクトの頓挫などといった事態を引き起こしかねません.管理・運用は具体的に は,人的管理や予算管理,品質管理というかたちで細分化され,それぞれに応じた経営手法がある ことはみなさんもほかの経営学の講義で学んでいるはずです.この節では日程管理の古典的技法と してしられる
PERT/CPMを取り上げます.
2.9.2 プロジェクト・ネットワーク図
PERT
は
program evaluation and review techniqueの略称で,
1957—1958年にかけて,米国
海軍,Booz Allen & Hammilton 社
(コンサルティング会社),ロッキード社が共同して開発しました,
PERT
の基本的な目標は日程の管理です.大きなプロジェクトは,その中に多くの小プロジェ クトを含み,また小プロジェクトもそれより一連の作業によって構成されています.それらの作業 を一律に管理しようとしても,管理のための費用や手間を考えると必ずしも効率的ではありませ ん.また,すべての作業が日程の管理にとって,同じように重要であるとは言えません.なぜなら ば,これらの作業は,相互に依存関係を持っており,勝手な順序で仕事を行うことはできないから です.つまり,どこか日程的にボトルネックになる作業とそうならない作業が存在しているという ことです.そこで,ボトルネックになる作業群に着目して管理を行えば,効率的な運用が可能にな るだろう,というのが
PERTの基本的なアイディアです.
問題は,そのボトルネックをいかに見いだすのか,またそれ以外の作業の余裕をどのようにし て評価するのか,です.ここでネットワークを用いた分析が用いられます.
住宅建設を例にとって,PERT を説明します
([5]を参照しました).PERT においては,まずプ ロジェクト・ネットワークと呼ばれるプロジェクトを構成する作業
(以下,アクティビティ
activityとする) の順序関係を図で表現します.住宅建設のアクティビティとその順序関係は,表
2.37のと おりです.表中の先行アクティビティとは,そのアクティビティを実施するために,終了していな ければならない作業を指します.たとえば,“i. 化粧ボード” の先行作業が
“d.電気配線” と
“f.内 部配管
”であるとは,
dと
fが終了してからでないと作業に着手できないことを意味します.
図表
2.37住宅建設におけるアクティビティの先行関係と作業時間
工程 先行アクティビティ 作業時間
(日
)a.
整地
— 2b.
基礎
a 4c.
骨組み
b 10d.
電気配線
c 7e.
外部配管
c 4f.
内部配管
e 5g.
屋根
c 6h.
外壁
g 7i.
化粧ボード
d, f 8j.
外部塗装
e, h 9k.
床張り
i 4l.
内部塗装
i 5m.
外部設備
j 2n.
内部設備
k, l 6PERT
では,先行関係をネットワークによって表現します.プロジェクト・ネットワーク図の 書き方には
2種類あり,一つは端点にアクティビティを対応させる方法
(activity on node; AoN)と,一つは枝にアクティビティを対応させる方法
(activity on arc; AoA)です.ここでは前者を使 うことにし,後者の方法は
2.9.3で簡単に触れるだけにします.
プロジェクト・ネットワーク図は有向ネットワークで表され,一つの端点が一つのアクティビ ティに対応し,枝の向きがアクティビティの間の先行関係に対応します.アクティビティ
1がアク ティビティ2 に先行するという関係を,次のように表します.
1 2
表
2.37にもとづいて,プロジェクト・ネットワークを描くと,図
2.38にようになります.アク
ティビティi の先行作業が
dと
fであることは,端点
dと端点
fをそれぞれ始点とする枝が端点
iを 終点としていることから判断できるのです.本来のアクティビティ
a〜
nに加えて,プロジェクト 全体のスタートとフィニッシュをそれぞれ表す端点
sと端点
tを付け加えてあります.括弧内の数 字は作業時間を示しています.スタートとフィニッシュはダミーとして付け加えたアクティビティ なので作業時間は
0としています.
図表
2.38住宅建設におけるプロジェクト・ネットワーク
(AoN型
)s
a
d
g h j
b
c e f
i
m l
k n
t 整地(2)
基礎(4)
骨組み(10)
電気配線(7)
外部配管(4)
屋根(6)
内部配管(5)
外壁(7)
化粧ボード(8)
外部塗装(9)
床張り(4)
内部塗装(5)
外部設備(2)
内部設備(6) スタート(0)
フィニッシュ(0)
2.9.3 参考:アクティビティを枝に対応させる場合
AoA
型のプロジェクト・ネットワーク図では,枝がアクティビティを表し,端点は事象
(event)に対応します.事象とはアクティビティの始まり
/終りを表すものです.表
2.37にもとづいて,
AOA型のプロジェクト・ネットワークを描くと,図
2.39にようになります.枝の矢印によってアクティ ビティの依存関係が表現されています.アクティビティ
iの先行作業が
dと
fであることは,枝
dと枝
fが端点
7に入ってきており,枝
iが端点
7からでていることで判断できるのです.端点
7は,アクティビティ
fと
dの終了およびアクティビティ
iの開始を意味する事象です.
うまく枝を張れないときは,ダミーの枝を導入して先行関係を表現します.図では,ダミーを 破線の枝で描いています.ダミーの作業時間は
0です.
図表
2.39住宅建設におけるプロジェクト・ネットワーク
(AoA型)
1
2
3
4 6
5
8
7
10 13
12 9
11
a:整地 (2)
b:基礎 (4)
c:骨組み (10)
d:電気配線 (7) e:外部配管 (4)
f:内部配管 (5) g:屋根 (6)
h:外壁 (7)
i:化粧ボード (8) j:外部塗装 (9)
k:床張り (4) l:内部塗装 (5)
m:外部設備 (2)
n:内部設備 (6) スタート
フィニッシュ
ダミー(0)
2.9.4 プロジェクトの時間分析
アクティビティの先行関係と作業時間にもとづいて,プロジェクト内の作業に関する様々な時 刻/時間を計算できます.
最早開始時刻
(earliest start time)先行するすべてのアクティビティが全く遅滞なく遂行された場合に,該当するアクティビティ を開始できる時刻.
これ以上,そのアクティビティを早く開始することはできない.
最遅完了時刻
(latest finish time)後続のすべてのアクティビティの最早開始時刻を遅らせることなく,該当するアクティビティ をもっとも遅く完了することができる時間.
もし最遅完了時刻を超えてしまうと,プロジェクト全体の完了が遅れる.
クリティカル・パス
(critical path)最早開始時刻に作業時間を加えた時刻が最遅完了時刻が一致しているアクティビティに相当 する端点を結ぶとスタートからフィニッシュまでの経路を作ることができる.これをクリティ カル・パスと呼ぶ.
クリティカルパス上のアクティビティに遅延が生じた場合,直ちにその分だけプロジェクト の終了時間が遅くなる.したがって,クリティカルパス上のアクティビティを重点的に管理 する必要がある.
最早開始時刻,最遅完了時刻は次のようにして計算します.
1.
最早開始時刻の計算:
プロジェクトのスタートを表す端点から,順次前方に向かって
(時間の進む方向へ
),ゴール を表す端点まで,次のように計算を行います.
アクティビティ
jの最早開始時刻
Ejは,
Ej= max
i∈P(j){Ei+di}
となります.ここで,P(j) はアクティビティj の直接の先行作業を表す端点の集合です.
アクティビティ
a〜
hの最早開始時刻がわかっているとして,アクティビティ
iの最早開始時 刻を求めてみましょう.P(i) =
{d, f},Ed=16,dd=7,Ef=20,df=5です.
Ei=max16+7, 20+5=25
フィニッシュに相当する端点の最早開始時刻が,プロジェクト全体がもっとも早く完了する時 刻になります.図表
2.37の住宅建設の場合,E
t=44なので,最短で
44日間で終了します.
2.
最遅完了時刻の計算:
最初に決まるのはフィニッシュの最遅完了時刻で,これはその最早開始時刻と一致します.そ
の後,プロジェクトのフィニッシュを表す端点から,順次後方に向かって
(時間を遡る方向
へ),スタートを表す端点まで,次のように計算を行います.
アクティビティj の最遅完了時刻
Ljは,
Lj= min
i∈S(j){Li−di}
となります.ここで,S(j) はアクティビティj の直接の後続作業を表す端点の集合です.
アクティビティt,k〜n の最遅完了時刻がわかっているとして,アクティビティi の最遅完了 時刻を求めてみましょう.
S(i) ={k, l},Lk=38,
dl=4,
Ll=38,
dl=5です.
Li=min38−4, 38−5=33
3.
クリティカル・パスの導出:
すべての端点について,E
jと
Ljを求めたら,E
j+dj=Ljを満たす端点を探しましょう.こ れらの端点を結ぶと必ずスタートからフィニッシュまでの経路をなします.それがクリティ カル・パスです.
住宅建設の例における最早開始時刻/最遅完了時刻を図表
2.40に示しました.太く強調されて いる経路がクリティカル・パスです.
図表
2.40住宅建設における最早開始時刻/最遅完了時刻;端点の上の数値は,d
j,[Ej, Lj]を表す.
s
a
d
g h j
b
c e f
i
m l
k n
t 2 [0,2]
4 [2,6]
10 [6,16]
7 [16,25]
4 [16,20]
6 [16,26]
5 [20,25]
7 [22,33]
8 [25,33]
9 [29,42]
4 [33,38]
5 [33,38]
2 [38,44]
6 [38,44]
0 [0,0]
0 [ 44,44]
余裕時間
最早開始時刻/最遅完了時刻がわかると,余裕時間を評価することができます.
全余裕時間
(total slack, total float)アクティビティj の最早開始時刻を
Ej,アクティビティj の最遅完了時刻を
Lj,作業時間を
djとすると,アクティビティ
jの全余裕時間
TSjは
TSj=Lj−Ej−dj
である.
プロジェクト全体の最短の完了時刻に影響を与えずに,許容し得るアクティビティ
jの作業
の遅れ.
自由余裕時間
(free slack, free float)アクティビティ
jの直接の後続アクティビティの集合を
S(j)とする.アクティビティ
jの自由 余裕時間
SSjは
FSj= min
i∈S(j){Ei}−Ej−dj
である.
アクティビティj の後続のアクティビティが最早開始時刻に作業を開始できるだめに許容さ れ得るアクティビティ
jの作業の遅れ.
安全余裕時間
(safety slack, safety float)アクティビティj の直接の先行アクティビティの集合を
P(j)とする.アクティビティj の安全 余裕時間
SSjは
SSj=Lj−dj− max
i∈P(j){Li}
である.
アクティビティj の先行アクティビティが最遅完了時刻に終了したとして,許容し得るアク ティビティ
jの作業の遅れ.
住宅建設の例における時間分析の結果を図表
2.41にまとめました.
図表
2.41住宅建設における時間分析の結果
工程 先行アクテ
ィビティ
作業時 間
最早開 始時刻
最遅完 了時刻
全余裕 時間
自由余 裕時間
安全余 裕時間
s.
スタート
— 0 0 0 0 0 0a.
整地
s 2 0 2 0 0 0b.
基礎
a 4 2 6 0 0 0c.
骨組み
b 10 6 16 0 0 0d.
電気配線
c 7 16 25 2 2 2e.
外部配管
c 4 16 20 0 0 0f.
内部配管
e 5 20 25 0 0 0g.
屋根
c 6 16 26 4 0 4h.
外壁
g 7 22 33 4 0 0i.
化粧ボード
d, f 8 25 33 0 0 0j.
外部塗装
e, h 9 29 42 4 0 0k.
床張り
i 4 33 38 1 1 1l.
内部塗装
i 5 33 38 0 0 0m.
外部設備
j 2 38 44 4 4 0n.
内部設備
k, l 6 38 44 0 0 0t.
フィニッシュ
m, n 0 44 44 0 0 0演習問題2.13
図表2.37の住宅建設の例において,“j. 外部塗装”の作業時間が9から15にかわったとする.
この場合の時間分析の結果を,図表2.41のようにまとめよ.
2.9.5 作業時間の変化
以上の議論は,アクティビティに要する時間がすべて確定的な場合でした.現実には,アクティ ビティの実行時間を事前に確定することは困難です.作業時間に不確実性がある場合,アクティビ ティの実行時間を確率変数とみなして分析を行うことができます.それには,作業時間の分布を 推定する必要があります.
PERTでは,3 点見積り
(Three-Estimated Approach)がよく用いられ ます.
図表
2.42 3点見積もりの例
duration probability
2 5 6
アクティビティ時間が確率的に変動する場合でも,その期待値をもちいることでクリティカル パスを求めることは可能ですし,実際にはその程度の推定でも十分といえるでしょう.しかし,期 待値にもとづいて計算したクリティカルパスは,作業時間の実現値によってはクリティカルパスと ならないこともあります.確率的なモデルを用いるときは,注意が必要です.
作業時間を確率変数と見なすと,終了時間も確率変数となります.
1.
各々のアクティビティに要する時間は独立の分布に従う.
2.
プロジェクトの終了時間は,アクティビティ時間の期待値に基づいたクリティカルパスによっ て規定される.
上記の仮定のもとでは,終了時間は,近似的に正規分布に従うことが知られています.
2.9.6 CPM
PERT
では,作業時間に着目してプロジェクトの管理を行います.アクティビティの先行関係 をネットワークで表現することで,クリティカル・パスや最早完了時刻などの情報を得ることがで きました.実際のプロジェクト管理では管理すべき対象は時間だけとは限りません.資金や人の配 置なども重要です.
資源とプロジェクトの完了時間にはトレードオフの関係があると考えてよいでしょう.資源
(お金や人,機材,場所
)があって,それを投入するとアクティビティの作業時間を短縮できる場合は
珍しくありません.たとえば,一人でやれば
3日かかる作業も,3 人でやれば
1日でできてしまう
こともあります.そうすると,今度はどのアクティビティにどれくらいの資源を追加するのがもっ
とも効果的か,という問題が発生します.CPM(Critical Path Method) は,資源配分と作業時間
の間に線形な関係を仮定して,アクティビティへの最適な資金配分を求める手法です.
図表
2.43時間費用関数
time cost
j Tn Tjc
α j
CPM
では,すべてのアクティビティについて時間費用関数
(time–cost curve)をつくります.
これは,図表
2.43のようなグラフで表されます.グラフの右側の点が標準点
(normal point),左 側の点が限界点
(crash point)と呼ばれます.標準点は,追加的な費用をかけずにアクティビティ を達成できる時間とその場合の費用に対応しており,限界点は追加的な費用をかけることによって 達成できる最短の時間とその費用に対応しています.ここで言う費用とは直接的な費用で,たとえ ば残業代とか機械の操業費用など時間の短縮に直接かかわるものです.CPM では,作業時間と費 用の間に線形な関係を仮定します.そのため,
CPMでは,期限以内にプロジェクトを終了するた めの最小費用を求める問題を線型計画問題として定式化することができます.
プロジェクトにおけるアクティビティの集合を
Vとおきます.アクティビティ
j∈Vごとに,標 準点(T
jn),限界点(T
jc)とし,時間
–費用曲線の傾き(β
j),切片(α
j)が与えられているとし ます.さらに,アクティビティの間の先行関係を表す枝の集合を
Eとおきます.
決定変数は,アクティビティの作業時間
xj(j∈V)および開始時刻
yj(j∈V)です.スタート とフィニッシュを表す端点が
s,tだったとして,プロジェクト全体の所要時間を
T以内に押さえ るために投入する費用を最小化する問題は,次のようになります.
min ∑
j∈V(αj+βjxj)
s.t. ys=0, xs=0, xt=0 yj+xj−yk≤0, jk∈E yt≤T
Tjc≤xj≤Tjn, j∈V yj≥0, j∈V
(2.13)
期限
Tが定まってない場合は,最適なプロジェクトはどのように決められるでしょうか.この ときは,T を少しずつ変化させて問題
(2.13)を解くことで,期限と期限以内に終了させるための費 用のトレードオフ関係を定量的に評価できます.横軸に
Tの値を取り,縦軸に
Tの値に応じた最 小費用を取れば,右下がりの区分的線形凸関数となることがしられています.
一方,間接費用
(例えば,金利,管理費,工期遅れに対する罰則
)は,プロジェクトの完了時刻
が遅延する程,増大すると考えられるでしょう.したがって,直接費用と間接費用を併せて考える
ことで,最小費用を得ることができます.
演習問題2.14
表2.44のプロジェクトデータに基づき,プロジェクト・ネットワーク図を作り,クリティカル パスを求めなさい.
図表
2.44プロジェクトデータ
アクティビティ 作業時間 先行アクティビティ
A 5 —
B 10 —
C 13 —
D 1 A
E 6 C
F 6 B
G 3 A
H 3 C,G
I 8 E,F
演習問題2.15
表2.45のプロジェクトデータに基づき,プロジェクト・ネットワーク図を作り,CPMの手法を 用いて定式化しなさい.
図表
2.45プロジェクトデータ
(normal timeでの費用を
0とする
)アクティビティ 限界点 標準点 費用直線の傾き 先行アクティビティ
a 3 8 -0.5 —
b 4 7 -0.3 —
c 3 9 -0.8 a
d 2 6 -0.2 a
e 5 5 -0.5 b, c