九州大学学術情報リポジトリ
Kyushu University Institutional Repository
アスペクト表現の「〜ている」に関する習得研究 : 中・上級の中国人日本語学習者の場合
徐, 莉
九州大学大学院比較社会文化学府
https://doi.org/10.15017/4494613
出版情報:比較社会文化研究. 17, pp.85-91, 2005-03-15. Graduate School of Social and Cultural Studies, Kyushu University
バージョン:
権利関係:
Social and Cultural Studies No. 17 (200S), pp. 85,...,91
アスペクト表現の「〜ている」に関する習得研究
中・上級の中国人日本語学習者の場合 猛 邸 リ 莉
0.
はじめに中国人の日本語学習者にとって、日本語で自分の意志を 表現するのはそれほど難しいことではないが、日本語らし い日本語を話すとなると、かなりの困難を伴う。アスペク ト表現のテイル形の習得はそうした困難点の一つである。
日本人が「王さんはもう来ている」と表現する場面を、中 国人の日本語学習者の多くは「王さんが来ました」と話す だろう。また、学習者の「あなたが大学を出るときには私 はもう結婚した」の発話については、ほとんどの日本語母 語話者は認めないだろう。そして、「私はもう結婚している
/結婚していた」というべきだと訂正するだろう。
今まで、日本語のテイル形に関する文法研究は数多く行 われてきたが、それについての日本語学習者に対する習得 研究は黒野 (1995)、許 (1997)、許 (2000)しか見当たら ない。黒野 (1995)は、様々な言語を母語とする初級日本 語学習者を調査の対象とし、テイルの「結果の状態」の用 法は「動作の継続」の用法より習得が困難であると結論付 けている。許 (1997)は、中・上級台湾人日本語学習者を 対象にし、黒野 (1995)で指摘された「動作の継続」と「結 果の状態」以外の用法も含め、合わせて8種類のテイルの用 法に関する習得状況を調べている。その結果、 8種類の用 法の習得難易度は難しい順に、「経歴・経験」、「反実仮想」、
「結果の状態」、「動作の持続」、「習慣・繰り返し」、「形容 詞的働き」、「慣用法」、「所属・職業」となっている。許(2000) は、インタビューによる発話を扱った研究である。そこで は、OPI1によるKYコーパス2のデータを基に、独自に設定 した分類に従って、中国語、韓国語、英語を母語とする学 習者の「〜ている」の使い方を分析している。その結果、
学習者には母語の違いにかかわらず、共通の習得順序が存 在していると報告しているが、分類がきちんとした基準に 基づいていないので、「学習者には母語の違いにかかわら ず、共通の習得順序が存在している」ということが言える
かどうか、その信憑性が疑われている。
中国国内の日本語学習者に対する「テイル」の習得に関 する先行研究はまだない。学習環境が違うため、その習得 の結果はどうなるのかはまだ、未知数だと言える。また、
テイルに関する分類は調査の結果に重要な関連があり、分 類が妥当かどうかによって結果がまったく変わるため、客 観的な検討が必要であると思われている。
1 . 研究の目的
本研究の目的は次の 3点である。
I. 調査結果の客観性を確保するため、適切なテイル分類 を再検討する。
II. 再検討したテイル分類による文法判断テストを行い、
中・上級の中国人日本語学習者が日本語のアスペクト表 現の「〜ている」用法をどの程度習得しているのか、と いう実態を把握する。
III. 文法判断テストの後に使用意識の調査を実施し、結果 の要因を究明する。
2. 本論のテイル分類の立場
これまでの日本語学のアスペクト研究では、テイル形の 意味について多く論じられてきた。テイル形の基本的な意 味として「動作の持続」、「結果の残存」を設定し、さらに その派生的な意味として「パーフェクト」、「習慣」、「単な る状態」があることについてはほぽ一致した見解がある。
本稿では、「単なる状態」は脱アスペクト化しているので、
アスペクト表現の問題と見なされていないため、考察しな ぃ。そして、上記の四つの意味を参考にしながら、学習者 のデータを分析する基準を新たに設定したい。
迫田 (2000)では、調査研究をする前にその研究に関す る分類が妥当かどうかによって、結果に影響があり、客観 1 0 PIとは、最長30分という限られた時間内の面接で、できる限り信頼性のある自然発話を必要最大限採集し、それをACTFL(全米
外国語教育協会)外国語能力基準に照らし合わせて被験者の口頭能力を測定する評価法である。
2「K Yコーパス」という名称は平成8 10年度文部省科学研究費補助金・基盤研究「第二言語としての日本語の習得に関する総合研究」
のメンバーである鎌田修と山口博之の頭文字を合わせてK Yと命名されたことから来ている。
徐
的な検討が必要であると指摘した。いままでの日本語のテ イルに関する習得研究はそのテイル形分類の設定において は、まだ不十分だと言われている。日本語の非母語話者に 対する言語の習得研究、即ち第二言語の習得研究を行うな らば、第一言語の習得(母語の習得)研究と違って、学習 者の母語と日本語との間に言語の仕組みの相違、つまり、
発想の違いによる表現方法の違いがうまく把握できるかど うかという問題が存在するので、学習者の母語という第一 言語からの影響を考慮しなければならないだろう。従って、
本研究では、日中両語間のアスペクト表現方法の相違も、
日本語のアスペクトの本来の形式と共に考慮し、その両面 を踏まえ、客観的にテイル形の分類を再検討してみる。
(一)「動作の継続」
庵 (2001) によると、「動作の継続」は、発話時以前のど こからの時点から始まり、発話時を超えて発話時以降のど こかの時点までその動作や出来事が続くことを表す。日本 語の「動作の継続」に相応して、中国語の表現形式は二つ ある。一つは、「走る」、「聞く」のような「一時的な期間の 動作の継続」を表す場合で、中国語は、日本語と同じく継 続相(「正在」、「着」など)をつけて表現する。もう一つは、
「住む」、「過ごす」のような「長い期間の動作の継続」3を 表す場合で、中国語は常に存在している状況としてとらえ、
動詞の「基本形」で表す。それに基づいて、「動作の継続」
の下位分類は「+長期」と「一長期」に設定する。「+長期」
は「勤めている」、「」のような従来「所属・職業」といわ れてきたものを含んでいる。また、「希望している」、「愛し ている」のような「心理的活動動詞」の場合は、中国人が 感情などの心理的活動を一時的なものにとるのではなく、
長期的に存在しているものとしてとらえ、動詞の基本形で 表すので、「+長期」として扱う。例をあげると次のように なる。
「一長期」
①子供が今、クリスマスツリーを飾っている。
(核子1f]正在装怖蚤旦村)
「+長期」
②彼は町に住んでいる。(他住在慎上)
→「普通の長期的動作動詞」
③姉は学校に勤めている。(姐姐在学校工作)
→「所属・職業」
④彼は家業を継ぐことを希望している。(他希望継承家並)
→「心理的活動動詞」
(二)「結果の残存」
「結果の状態」は、ある動作、出来事が終わって、その 結 果 が 今 あ る 状 態 と し て 残 っ て い る こ と を 表 す 場 合 で あ
莉
る。この用法に対して、中国語は継続相の「着」をつけた り、完了相の「了」をつけたりして、表現する。継続相「着」
を使う場合、その場の状態・様子の特徴を描く。完了相の
「了」を用いる場合、人は動作、出来事の「変化」に注目 し、この「既に起こった」「変化」を記述・伝達する。中国 人日本語学習者が「着」、「了」を基準にして学習している ので、本論では日本語の「結果の残存」を表すテイル形を
「+変化」と「ー変化」に設定しておく。
「一変化」
⑤彼はめがねをかけている。(他戴堕眼鏡)
「+変化」
⑥この青年は結婚している。(迭介青年結婚工)
(三)「パーフェクト」
工 藤 (1995)では、「パーフェクト」とは、ある設定され た時点において、それよりも前に実現した運動がひきつづ き関わり、効力を持っていることを表すと述べている。中 国語では「パーフェクト」は過ぎ去った過去のことで、「〜て いる」のような継続形で表す発想が存在しない。何 (1998) では、この用法に文末の「了」をつけて表現するのがほと んどである。「パーフェクト」についての下位分類の研究が 多く行われ、本論では、バーナード・コムリー (1988) と 望月 (1997)を参考にして、意味的にさらに三つに分けた
ぃ。その三つとは「結果のパーフェクト」、「経験のパーフェ クト」と「存続場面のパーフェクト」である。
a.「結果のパーフェクト」は基準時より前のこと、つまり 完了を表す。
⑦彼は赤字で店を閉めている。(他因力赤字美店工)
b.「経験のパーフェクト」は過去に起こった出来事を発話 時(現在)と関連付けていることを表す。
⑧彼女は子供を一人生んでいる。(地生了一介孜子工)
C •「存続場面のパーフェクト」とは、ある出来事が過去に
始まり現在まで持続していることを指す。
⑨私はここに五年住んでいる。(我在迭)し住了五年工)
(四)「習慣」
「習慣」は一時的に終わる事態ではなく、習慣的な繰り 返しにより長期的に存在している動作を表す。中国語は、
日本語の「反復」用法に対して動詞の基本形で表現する。
⑩私はこの頃毎日10キロ走っている。(我近来毎天胞十公 里)
以上、テイル形の分類について再検討を加えた。そして その結果、アスペクトのテイル形を最終的に「一長期」、「+
長期」、「一変化」、「+変化」、「結果のパーフェクト」、「経 験のパーフェクト」、「存続場面のパーフェクト」、「習慣」
3 高橋 (1985)は、「長い期間の動作の持続」も「運動の局面にあるすがた」としている。同様に、 工藤(1995)では、「住む」、「過ごす」、
「営む」などが「人の長期的動作動詞」として扱われている。
「動作の継続」{「(+長::;日りの動作の継続を表す)
r
基本的意味l
「一長期」(一時的な期間の動作の継続を表す)
「+変化」
テイル形 の 分 類 〈
「一変化」
(結果の残存の状態・様子を描く)
\
派生的意味
「結果のパーフェクト」
(基準時より前のこと、つまり完了を表す)
「パーフェクト」
l
「経験のパーフェクト」(過去に起こった出来事を発話時(現在)と関連付 けていることを表す))
「存続場面のパーフェクト」
(ある出来事が過去に始まり現在まで持続している ことを表す)
「習慣」(長期的な期間において繰り返し起こる習慣的運動を表す)
という 8項目に設定した。図示すると、次のようになる。
3 .
調査の対象と方法3. 1 期間・対象
調査は2003年10月末から11月下旬にかけて、北京大学、
北京外国語大学、大連外国語学院、内蒙古大学の4ヶ所の 大学で、日本語学科の 3年生と 4年生を対象として実施し た。調査を受けた学生は合計102人で、そのうちに3年生が 55人、 4年生が47人である。
3.2 方法
再検討した8種類のテイルの用法をもとにして、「文法判 断テスト」と「使用意識調査」の質問紙を作成し、アンケー ト調査の方法で中国国内の四つの大学に在学している日本 語学科の 3年生と 4年生に対して調査を行った。
3.2.1 「文法判断テスト」
「文法判断テスト」の質問紙は「一.あなた自身につい ての質問」と「二.文法判断テスト」という二部分から構 成されている。「一.あなた自身についての質問」では、回 答者の氏名、出身地、所在大学、所属課程、日本語学習年 数、日本語能力について設問した。「二.文法判断テスト」
は、回答者がアスペクト表現のテイルの用法をどのくらい 習得しているのか、という実態を把握しようとする目的で 作成した。設問の用例はテイルの8種類の用法を「+長期」
の三つ(「普通の長期的動作動詞」の場合、「心理的活動動 詞」の場合、「所属・職業」を表す場合)以外にすべて二つ ずつに設定した。調査中に回答者にテイルの用法を調査し ているテストであることをさとられないように、本調査は
「文法判断テスト」の質問紙には動詞の「ル形、夕形、テ イル形、テイタ形」についての使用状況を調査している雰 囲気を作った。テイル形の 8種類の用法以外に、ル形、タ 形、テイタ形の設問の用例をテストの中に八つ用い、合わ せて文法判断テストの設問は25問とした。設問用例の選択 肢は各設問文にある動詞の「ル形」、「夕形」、「テイル形」、
「テイタ形」という四つの形に設定した。設問に対する答 え方については、四つの選択肢のうち、一つだけを学習者 に選ばせることにした。下記には、実際に使った設問の例 を示す。
設 問: 彼は今、家業を継ぐことを 。 選択肢: 1.希望する 2.希望した
3.希望している 4.希望していた
徐 莉
設 問 : 父は最近毎朝6時前に 。 選択肢: 1.起きる 2.起きた 3.起きている
4.起きていた
3.2.2 「使用意識調査」
「使用意識調査」は文法判断テストの直後に行う、主に 文法判断テストに答えた意識についての調査である。その 構成は「文法判断テストについての解答」と「使用意識に ついての質問」から成っている。「解答」の部分には、調査 の目的を明かして、アスペクト表現のテイル形についての 8種類の用法を公開する。「質問」の部分は次に示すように 大きく八つの内容に分けている。
I 以前学んだテイル形の用法の名前
II 「解答」のテイル形の用法の中で知っている用法 III 自信を持って、いつも正しく使える用法 N 知らない用法に今回正しく答えられた原因 V テイル形の用法を習得する重要性の程度
VI 大学のテイル形の用法の教育方法に対する満足度 VII 文法書籍にあるテイル形の用法の記述に対する満足度 VIll 自由記述意見欄
4. 調査の結果
(一)テイル形の用法の習得順序
中・上級の中国人日本語学習者にとって、テイルの8種 類用法の習得順序は習得状況の良い順に「一長期」、「+長 期」、「ー変化」、「習慣」、「+変化」、「結果のパーフェクト」、
「存続場面のパーフェクト」、「経験のパーフェクト」であ る。大部分の学習者が学んだ用法とよく知っている用法は
「一長期」、「+長期」、「一変化」、「習慣」という四つであ
る。学習者はこれらの用法をほかの用法よりよく習得して いる。
(二)学習年数と習得状況
各大学のテイルの用法に対する習得状況のグラフ 2から 見ると、大連外国語学院4は、ほかの三つの大学より習得状 況が良いということが分かる。その原因を分析すると、大 連外国語学院でだけ、学習年数の長い回答者(日本語学習 年数の5‑10年未満の学習者が14人いる)がたくさんいる ということが分かった。それ以外は、ほかの大学とはほと んど変わらない。それなら、学習年数が長いと、習得状況 もよくなるだろうと考えるようになった。この相互関係を 証明するため、本論では、入学する前に日本語の基礎があ る学習者 (5‑10年未満)と入学する前に日本語の基礎が ない学習者 (2‑4年未満)の習得状況を比べることにし た。表1は両者の8種類のテイルの用法に対する具体的な 正答数と正答率の結果をまとめたものである。グラフ 3は 両者の直観的対照状況を示すため、用いられた正答率によ
る3D棒グラフである。
表lとグラフ 3から分かることは、基本的には学習年数 の長いグループは学習年数の短いグループより習得状況が 良い。しかし、⑦の用法の習得状況については、学習年数 の長い学習者グループは学習年数の短い学習者グループよ り、より多くの人が不正解の動詞のテイタ形を選択したこ とが分かった。インタビューによると、実は、ほとんどの 日本語学習者は、日本語のテイル形に触れてから、テイタ 形を勉強しはじめたのである。それが原因なのか、学習年 数の長い学習者グループは、より多くの人がテイタ形の使 用に注目しているかもしれない。したがって、⑦の用法の 設問に答えた時、自然に学習年数の長い学習者グループの ほうがテイタ形の使用を思いつきやすかったのだろうと考
グラフ 1 全体の回答者のテイル用法に対する習得順序
150
100 98.5 0 0
5 ①
口正答数(平均値) 98.5
■
正答率(平均値)% 96.6̲③ 91 89.2
② 87.3 85.6
⑧ 47.5 46.6
④
38 37.3
⑤ 33.5 32.8
⑦ 28 27.5
⑥一
紅 い
4 大連外国語学院は大連市(中国行政区画からみると、大連市が遼寧省に属する)市内にあり、遼寧省の重点大学として知られている。
遼寧省の部分地域は日本の「旧満州」に所属した時代があり、日本語教育が発達し、初級・高級中学の段階で、日本語教育を実施する学 校が少なくない。
グラフ 2 各大学のテイルの用法に対する習得状況
~ 50%
100%
50%
。]In〗…り三心i I
' 口北京大学
■
北京外国語大学 │I口大連外国語学院 口内蒙古大学
l
① ② ③ ④ ⑤ ⑥ ⑦ ⑧
97.6% 85.7% 95.2% 33.3% 38.1% 4.8% 333% 42.9% 97.1% 80.4% 85.3% 32.4% 29.4% I 2.9% 26.5% 26.5% 100% 86.7% 90% 46.7% 38.3% 11.7% 20% 66.7% 92.6% 863% 86.8% 33.8% I 26.5% 4.4% 30.9% 39.7%
表1 「2‑4年未満」と「5‑10年未満」学習者の習得状況
① ② ③ ④ ⑤ ⑥ ⑦ ⑧
5‑10年未満 正答数 23 22 21 10.5 8.5 2.5 4.5 12 (23人) 正答率 100% 95.7% 91.3% 45.7% 36.9% 10.9% 19.6% 52.2%
2‑4年未満 正答数 75.5 65.5 70 27.5 25 4 23.5 35.5 (79人) 正答率 95.6% 82.7% 88.6% 34.8% 31.6% 5.0% 29.7% 44.9%
グラフ3 両者の正答率による対比状況
100% 80%
60%
40%
20%
0% ①
I '
口5‑10年未満
■
2‑4年未満I
② ③ ④ ⑤ ⑥ ⑦ ⑧
グラフ 4 8種類のテイルの用法における選択肢の回答数(平均値)
150 100 50
゜
(J) ② @) 8 ◎ @q
│R 、 )
口する 2 12.3 3.5 1.5 10.5 1.5 7 43
■
した゜
1 3.5 58 52.5 82 10.5 3.5ロしている 98.5 83.3 91 22.5 25.5 6.5 28 47.5 ロしていた 1.5 5.3 4 20 13.5 11.5 56.5 8
ロする
■
したロしている ロしていた
えられる。
(三)母語干渉の問題
「使用意識調査」では、学習者の間違えた原因について 調べた。調べた結果、一番大きな原因は「中国語の表現と
違うから」、つまり、母語干渉であることが分かった。また、
自由記述欄にもたくさんの学習者が母語干渉に関連する問 題を指摘・強調した。「母語干渉」は確かに中国人日本語学 習者にとって重視すべき問題だと思う。
徐
下 記 に は 文 法 判 断 テ ス ト に お け る テ イ ル 形 の8用 法 の 調査結果(グラフ4を参照)に対する分析と考察である。
①「一長期」
一時的動作(動作の進行中)を表す 「ー長期」用法に中 国語と日本語との間に大きな違いが見られず、中国語は日 本語と同じく継続形(「正在」、「着」など)をつけて表現す る。学習者はこの用法についてほとんど習得している。テ ストによる正答率は96.6%である。
②「+長期」
長く続ける動作を表す場合に、日本語では、動作の進行 の一種として捉えられているのに対して、中国語のほうは、
現在存在しているある状況として、理解し、基本形で表現 する。文法判断テストの結果から見ると、大部分の学習者 がこの用法を習得しているが、習得していない学習者の誤 用 で は 、 約7割が動詞の基本形である。
③「一変化」
ある動作、出来事が終わって、その結果の状態・様子を 描く用法の場合、中国語では、継続形の「着」をつけて表 し、日本語とほほ同じである。テストの結果は全体の87.7%
の学習者が正解を選び、誤用の傾向も見られなかった。
④「+変化」
ある動作、出来事が終わって、その結果の変化性を記述、
伝達するのは「+変化」用法の特徴である。「記述・伝達」
と言えば、時間に対する認識が必要である。この時の「変 化」に「既に起こった」という認識があって、中国語はこ の場合に完了形の「了」を使って表現する。それに対して、
日本語では、完成形「た」は動作の完了を表すだけで、そ の動作による結果が現在まで残っている事実を示す場合、
「〜ている」を使って表現する。この用法には、日中言語 の表現方法の相違がはっきり見られている。中国人日本語 学習者はこの用法を理解するのにとても苦労する。テスト の結果を調べて見ると、正しく答えた学習者は31.4%に過 ぎない。中国語の影響を受けて、 6割近くの学習者がテイ ル形ではなく、動詞の完了形「た」を選んでいる。
⑤「結果のパーフェクト」
基準時より前のこと、つまり完了を表すのが「結果のパー フェクト」の用法である。中国語は「完了」を表す場合、
完了形の「了」を使用して表現する。テストに答えた状況 は 正 答 率 が29.4% で あ り 、 半 分 以 上 の 学 習 者 が 中 国 語 の
「了」に相当する「夕形」を選択した。
⑥「経験のパーフェクト」
過去に起こった出来事を発話時(現在)と関連付けてい ることを表す。中国語では、「経験パーフェクト」が過ぎ去っ た過去のことで、「〜ている」のような継続形で表す発想が
莉
存在しないため、この用法に文末の「了」をつけて表現す る の が ほ と ん ど で あ る 。 テ ス ト の 結 果 は 約8割 の 学 習 者 が、不正解の過去完了「た」を選び、正答率は6.9%に過ぎ ない。
⑦「存続場面のパーフェクト」
ある出来事が過去に始まり現在まで持続している「存続 場面のパーフェクト」用法には、中国語では、ひとまとま り性のあることとして、完了形の「了」をつけて表す。テ ストの回答状況を調べると、 8割ほどの学習者が継続形を 選ぶことを知っているが、その大部分は正解の非過去継続 形「〜ている」ではなく、不正解の過去継続形「〜ていた」
を選択した。学習者は相変わらず、中国語の表現方法によ りこの場合を過去のこととして扱った。この用法の正答率 は27.5%である。
⑧「反復」
「反復」は一時的に終わる事態ではなく、繰り返しによ り長期的に存在しているのである。中国語は、日本語の「反 復」用法に対して動詞の基本形で表現する。この用法に対 して46.6%の学習者が正しく答えた。答えが間違った学習 者の約8割は動詞の基本形を選んだ。
以上の分析により、テイル形の8用法の中で、「一長期」
と「一変化」は、日中言語の表現の相違が大きく見られな い以外は、ほかの六つの用法はすべてその相違がはっきり 見られることが分かる。「一長期」、「+長期」、「一変化」、
「反復」という四つは「使用意識調査」により、大部分の 学習者の学んだ用法であって、習得状況がほかより良いが、
それらの用法を習得するまで、中国語の影響がまだ大きく 存在しているという事実が分かった。要するに今回の調査 から日本語のテイル用法の習得には特に「母語干渉」(中国 語の干渉)の影響を無視することができないということが 明らかになった。
(四)中国国内の日本語教育
調査の結果、大部分の学習者は中国国内の日本語教育に 不満を持っている。学んだテイルの用法の記述が「まだま だ不充分だ」という学習者の声が多く聞かれた。それはと りもなおさず、大学レベルにおけるテイルの用法に対する 教育方法の未熟さと中国の日本語文法書におけるテイルの 用法の記述が不充分なことである。
実は教育部の日本語専攻の教育要綱により、テイルの用 法に関する説明は(中国語に訳すと)「在/着」だけしか書 いていない鯰つまり、日中言語の表現の類似する「一長期」、
「一変化」しか要求されていない。日中言語の相違(学習 者が理解しにくいため、とても関心をもつところ)に全く 及んでいない。このことから、中国国内の日本語教育は典
5 『高等院校日語専業基礎階段教學大綱』教育部高等院校外語専業指導委員會編、大連理工大學出版、 2001年、p.230
型的なテイルの用法を除いてあまり重視されていない現状 が窺える。
テイルの用法に関する習得の重要度に対する調査結果を 見ると、ほとんどの学習者はテイルの用法の習得が重要だ と考えている。その中で、「非常に重要」と認識している学 習者が半分を超えている。また、自由記述欄にも学習者が テイルの用法を更に勉強しようとする意欲も強く示してい る。
したがって、これからの中国国内における日本語のテイ ルの用法に関する日本語教育において、日中言語における 異なる発想と習慣の存在を学習者に気づかせることはとて も重要であり、そして、その教育方法の改善と教育内容の 増加が期待されている。
5. 今後の課題
調査の結果により、学習者は場合によって、「する/して いる」、「した/している」、「している/していた」の使い 分けがうまく把握できないことが分かった。今後、「してい る」だけに注目するのではなく、「している」と「する、し た、していた」との対立関係も璽視する必要があるので、
それらの点を今後の課題として研究を進めていきたい。
参考文献
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出版
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