日本 機 械 学 会 論 文 集(B編) 71巻702号(2005-2) 論 文No.04-0621
透過性 を有する物体 まわ りの流動様相*
柿 本 益 志*1, 増 岡 隆 士*1 野 村 篤 志*2, 大 庭 み ゆ き*2Fluid Flow through a Permeable Porous Obstacle Yasushi KAKIMOTO*3, Takashi MASUOKA,
Atsushi NOMURA and Miyuki OOBA
*3
Department of Mechanical Engineering Science, Kyushu University, 6-10-1 Hakozaki, Higashi-ku, Fukuoka-shi, Fukuoka, 812-8581 Japan
An experimental and numerical study has been made on forced convection around a porous obstacle concentrating on the effect due to the permeable surface condition. The effects of porous parameter induce a significant change in flow patterns, where the fluid passing through the porous obstacle produces momentum change and suppresses the Karman vortex in a wake region. The Karman vortex disappears with increase of permeability of the porous media and with increase of Reynolds number of the flow. Further it is noted that the drag coefficient of a porous obstacle is reduced compared with that of an impermeable object. The degree of the decrease in the drag coefficient of the porous obstacle depends on its permeability.
Key Words : Porous Obstacle, Forced Convection, Flow Pattern, Karman Vortex, Drag Reduction
1. 緒 論 円柱 な どの鈍 い物体 を通過す る流れの後流 には, しばしばカル マン渦 と呼ばれ る周期性 の強 い非定常流 が観察される.カ ルマ ン渦 の発生条件は物体の代表寸 法 を基準 としたレイ ノルス徴 にして数十か ら数万 と幅 広 く,実 際の構造物 まわ りの流れや工業機器の広範の 流動条件 に対 して も現れる現象であるため,工 学的 な 応用 とも関連 して,流 れの基本的なメカニズムの解 明 やそ の制御方 法につ いては従来よ り多 くの研究が桁 な われている(1)∼(6). カル マ ン渦の制御 に関す るさ まざまな方法が提案 されて いるが,ト リップワイヤ を用いて渦発生の原因 で ある物体表面か らの流れ の剥離 を抑制する方法(7)あ るいは物体の後流 中の渦形成領域 内に平板 を挿入する ことで剥 離 した流れが巻き込 むのを抑え,反 対側のせ ん断層 との干渉をな くす ことで カルマ ン渦 を抑制する スプ リッタプレー ト法(8)などがある.ま た,物 体 の加 熱 によって得 られ る浮力の もた らす運動量変化がカル マン渦 を崩壊 させ(9),また後流の渦発 生領域の加熱 に よって もカルマン渦 を崩壊 させ ることがで きる(10). 本研究では多孔質体 まわ りの強制対流について考 え る.透 過性を有す る物体 では 内部を通過する流れの もた らす運動量変化が物体 まわ りの流動あるいは熱伝 達 の新たな制御法 を提供す る可能性が ある.透 過性 の ない純固体物体 まわ りの流 動について は数多 くの研究 があるが,流 体 が内部を透過できる物体 まわ りの流れ に関 しては 内部 を透過す る流れ と周 囲流体 との干渉 等の基礎的な解釈 において も未だ不明な点が多 い(11). そ こで本研究では透過可能 な表面が及ぼす影響 に関 し て実験および数値計算によ り検討を行 った. 2. 記 号 Cb: 抗 力 係 数(=F/(ρVin2DL/2)) D: 物 体 の 代 表 寸 法[m] DaD: ダ ル シ ー数(=k/D2) F: 物 体 に か か る 効 力[N] f: 周 波 数[HZ] k: 透 過 率[m2] L: 多 孔 質 体 の 幅[m] M: 金 網1イ ンチ あ た り の メ ッ シ ュ 数 P: 無 次 元 圧 力(=ρ/(ρvin2)) Pv: 鉛 直 速 度 変 動vの パ ワ ー ス ペ ク トル 密 度 [(m/s)2/HZ] P: 圧 力[Pa] ReD: レイ ノ ルレス数(=vinD/v) t: 時 間[s] U,V: 無 次 元 速 度(=u/Vin,v/vin) u,v: 速 度[m/s] *原 稿 受 付2004年5月26日 . *1正 員 ,九 州 大 学 大 学 院 工 学 研 究 院(〓812-8581福 岡 市 東 区 箱 崎6-10-1). *2九 州大 学大 学院 工学 府. E-mail : [email protected]
vin : テ ス トセ ク シ ョン入 口速 度[m/s] X,Y : 無次 元 座標(=x/D,y//D) x,y : 座標[m] α : ス リツ ブ 系数(=1/ε) ε : 空隙 率 v : 動粘 性 係数[m2/s] ρ : 流体 密 度[kg/m3] τ : 無次 元時 間(=t/(D/vin)) 添 え字 f : 流 体 m : 多 孔 質体 3. 実験装置 および方法 実験装置はプロア,デ ィフユーザ,収 縮比1/3の 片 絞 りノズル,整 流装置お よびテス トセ クションで構成 される.作 動流体は常温,大 気圧の空気である.ブ ロ アよ り取 り込 まれた空気 は整流装置 を経てテス トセク シ ョンの下端 よ り流入す る.空 気 はテス トセクション を通過 し,上 端よ り大気 に開放され る.図1に テス ト セクションの概略を示す.テ ス トセ クシ ョンは80mm ×100mmの 矩形断面を持つ全長800mmの 吹 き出 し 型 の風洞である.流 動様相 を観察す るために透 明なア ク リル材で作製 されている.テ ス トセ クシ ョン入 口よ り65mm下 流 に円筒形の透過性物体 を水平 に配置す る.本 実験では,ス テンレス金網 を直径30mmの 中 空 円筒状に成形 したもの(以 下,金 網円筒と呼ぶ)を 用 いて流れ の透過を可能 とする物体の意で多孔質体 を 模 擬した.流 路幅に対する障害物 の寸法,す なわちプ ロッケージ比が0.375と 比較的大 きいが カルマ ン渦 が崩壊するほどの側壁の影響はな い(カ ル マン渦の放 出が停止する限界 プロッケー ジ比は0.6程 度(12)).透 過率の影響 を検 討す るために,単 位面積 あた りのメッ シュ数が異なる数種類の金網 円筒 を用いて実験 を行 な った.金 網円筒の仕様を表1に 示す.金 網 のメッシュ 数Mが 小 さい(網 の 目が粗 い)ほ ど,金 網円筒の透 過率は増大する. 実験はテス トセクションの入 口における主流平均速 度が0.10∼0.49m/sの 範囲で行 なった.こ れ らの条件 は,金 網 円筒 の直径Dに 基 づ くレイ ノルズ数 にして 207∼1017に 相当す る.テ ス トセクションの上流で発 生 させた煙幕 によ って金網 円筒まわ りの流れを可視化 して流動様相の観察 を行 った. 4. 数値 計算 透過流 を伴 う多孔 質体 まわ りの流動 について,図2 に示すような解析系を考え,二 次 元非定常数値解析 を 行な った.本 解 析で は障害物 と して一辺の長 さがD の正方形 の中実多孔 質体 を考え,幅4D,長 さ12D の矩形領域内 に設置す る.作 動流体で ある空気 は計算 領域の下端よ り一様 速度vinで流入 し,上 部境 界よ り 流出する.両 側面は固体壁である.な お,実 験では中 空金網 円筒,解 析では中実多孔質角柱 とい う異なる幾 何条件の障害物を用 いているが,本 研究では多孔質物 体透 過流が後流の流動様相に及 ぼす基本的な影響を明 らかにす ることを 目的 としてお り,物 体が透過 性か 非 透 過性 かの基本的な違 いに着 目す るものであ り,幾 何 条件による影 響の詳細な議論 は今後の課題 とする. 支配方程式は,連 続の式および運動 方程式であ り, 多孔 質内 における運動方程式につ いては慣 性項 を考慮 している.無 次 元支配方程式 を以下に示す。
Fig.1 Test section
連続の式 (1) 流体層の運動方程式 (2) (3) 多孔質内 にお ける運動方程式 (4) (5) ここで εは空隙率,ReDは 多孔質体 の一辺 の長 さD と入 口速度vinに基づ くレイ ノルズ数,DaDは ダル シー 数で ある.な お,支 配方程式の無次元化に用いた代表 値 につ いては記号表 を参照された い. 境界条件 について は 入 口では一定速度で流 入,出 口では自然流出,流 路 の両側面では滑 りな しの条件を 与 えた. 入 口境界条件 (6) 出口境界条件 (7) 流路側面の境界条件 (8) 多孔質体 と流体層の界面にお ける速 度に対 して は 流体層側か らの粘性せん断 力が多孔質層の空隙部のみ の流体 のせ ん断 力と連続 する と考 えた修正Beavers-Joseph条 件(13)を適用 した 多孔質 一流体界面の境界 条件は次式で表 される. (9) (10) ここで αはス リップ係数(13)であ る.√DaD/ε は流 体が多孔質体内部へ浸透する無次元深さのオーダ す なわち多孔質透過流 に対す る有効隙間幅に相当する. 以上の式 を有限差分法で離散化 し,対 流項に3次 精 度風上差分スキー ム,拡 散項 に2次 精度 中心差分,非 定常項にはオイラー陽解法を適用 して,圧 力場の計算 にはHSMAC法 を用 いた.計 算格子 には等間隔のス タ ッガー ト格子 を用い,計 算領域はX方 向に40,Y 方向 に120分 割 した.こ の場合,多 孔質体の一辺は 10メ ッシュ分に相 当する. なお,本 計算コー ドの妥当性 を検証す るため,流 路 側壁 の影響 が小さいと考え られ る系(プ ロッケージ比 0.1)に つ いて非透 過性 の固体 角柱の後流の速度変動 をサ ンプ リングして変動の無次元周期を求めた ところ, 本解析の範囲 ではス トローハル数はおよそ0.17と な り,従 来の解析結果(14)とほぼ一致 した.ま た,多 孔質 角柱の場 合のス トローハル数は 透過率が低 くなる極 限では非透過性固体 の場合 と同じ約0.17の 値 を示 し, 従来の研究結果に漸近 している. 5. 結果お よび考 察 5・1 多孔質物体まわ りの流動様相 金網 円筒の外 径 を代表寸法 とした レイ ノルズ数ReDが425の 場合に, 金網のメ ッシュ数を変 えて行った実験の可視化写真 を 図3に 示す.写 真では作動流体は上方に向か って流れ て いる.全 般的な傾向 として,金 網の メッシュ数M が小 さくな り,メ ッシュが粗 くなるほど金網 円筒を透 過する流れ は強 くなって いる.図3(a)のM=100の 場合 には円筒内へ の流 入はほとん ど見 られず,固 体円柱の 場 合と同様 に後流 には左右非対称 のカルマン渦列が観 察 される.図3(b),(c)に示すよ うにMが24,20と 小 さくな り金網 円筒の透過 性が増大す るにつれて金網 円 筒 を透過す る流れは強ま り,後 流域の非対称だった渦 列 は左右対称 に近 い渦列へ と遷移す る.さ らにMが 小
さ くな る と,図3(d)の よ うに 後流 域 の 揺動 は ほぼ 抑 制 され カル マ ン渦 列 の 崩壊 した 流 れ へ と変 化 した. 図4は,メ ッシ ュ数M』20の 金 網 円筒 に対 し,レ イ ノル ズ数 砺 を変 化 させ た場 合 の 流 動パ ター ンの変 化 を 可視 化 した写 真 で あ る.レ イ ノルズ 数 馬 が増 大 す る に つれ て 金網 円筒 を透 過す る流 れ 力験 ま り,後 流 域 の揺 動 も徐 々 に抑 制 され て い く こ とがわ か る.メ ッ シュ数M=24とM=18の 金網 円筒 の 場 合 に も同 様 の傾 向 が 確認 され たが,こ の傾 向 は メ ッ シュ数 が 小 さ くな る ほ ど顕 著 で あ った.一 方,図5に 示 すM=100と 透 過性 が比 較的 小 さ い場 合 の結 果 を 見 てみ る と,レ イ ノ ル ズ 数が 増 加 して も金 網 円筒 内 へ の 流 入量 はほ とん ど 増加 せ ず,後 流 のカ ル マ ン渦 列 に も特 に変 化 は見 られ な か った.透 過 性が 小 さ い場 合に は レイ ノル ズ数 が 増大 して も透 過流 は 促 進 され ず,固 体 表 面 と同 じよ う な特 性 を示す と考 え られ る. 図6に は,ReD=425の と き 金 網 円 筒 中 心 か ら 130mm下 流 の 点 で サ ンプ リ ング した鉛 直 方 向 速 度v の時 系 列 デ ー タよ り算 出 した 周 波 数 とパ ワー ス ペ ク ト ル密 度 の 関係 を示 す.パ ワー ス ペ ク トル 密 度 が最 大 と な る卓 越 周波 数 を無次 元化 した ス トロー ハ ル 数 は メ ッ シ ュ数や レイ ノル ズ数 の 条 件 に よ らず026∼028の ほ ぼ一 定値 とな っ た.卓 越 周 波数 にお ける パ ワー ス ペ ク トル 密度 の 強度 を 見 て み る と,M=100の 場 合 に は 鋭 い大 き な ピー ク が 認 め られ るが,こ の ピー ク の値 は Mが 小 さ くな る につ れ て次 第 に減 少 し,M=16に な る と際 立 っ た ピー ク は見 られ な くな る.こ の 結果 も また, メ ッ シュ数 が 小 さ くな り金 網 円筒 の透 過 性が増 大 す る につ れ て後 流 域 の揺 動 が 抑 制 され て い く こ とを示 す. 以 上 の実 験 結果 よ り,物 体 内部 を透 過す る流 れ は 後 流 域 の カル マ ン渦列 の挙 動 に 大 きな 影 響 を 及 ぼす こ と が わ か った.多 孔 質 内透 過 流 が物 体 まわ りの流 動 様相 に及 ぼ す影 響 を詳細 につ い て数 値 計 算 に よ る検 討 を行 な った. 一 例 と して,レ イ ノル ズ 数ReD=300を 固定 し,多 孔 質体の無次元透過率 √DaD/ε を変化 させた解析結果 を図7に 示 す が,数 値 解 析 結果 は実 験 に よ る流 動 様相 を良 く再 現 して い る.図7(a)は,比 較 的透 過 率 が 小 さ い √DaD/ε=2.7×10-3の 場 合 には 多 孔 質 体 内部 へ の 流体 の浸透はほとん ど見 られず,実 験 結果 と同様に後 流には左右非対 称のカルマン渦が現れていることを示 す.透 過率が増大する と流体 の多孔質体内への透 過が 始 ま る が 図7(c)に 示 す √DaD/ε=1.6×10-2で は 流 体 の浸透は界面の近傍に限 られてお り,後 流のカルマ ン渦 にも特に変化は見 られな い.さ らに透過率が増大 (a) M = 100 (b) M = 24 (c) M = 20 (d) M = 18
(a) ReD = 348 (b) ReD = 425 (c) ReD = 541
(a) ReD = 348 (b) ReD = 425 (c) ReD = 541 Fig.3 Flow Pattern at ReD = 425
Fig.4 Flow Pattern at M=20
(a) √DaD/ε =2.7×10-3 (b) √DaD/ε =1.2×10-2 (c) √DaD/ε =1.6×10-2 (d) √DaD/ε =3.3×10-2 (e) √DaD/ε =5.1×10-2 して √DaD/ε=3.3×10-2に な る と,流 体 は多 孔 質 体 内部を透過 して渦列の形成領域にまで及び,カ ルマン 渦への影響が認め られる.さ らに透過率が大き くな り 多孔質内透 過流は増大す ると,後 流の渦形成領域は下 流側へ と移動 し,後 流の揺動 も小 さくなる.や がて実 験結果 と同様 にカルマン渦は完全に抑制 される. 5・2 多孔質透 過流 と抗力係数 透過性 を有する物 体が受ける抗 力について実験および数値計算の両面か ら検討を行 った.実 験では,精 密電子天秤 を用いて金 網 円筒 にかかる力を測定 し,抗 力係数 ら を見 積もっ た.一 方,数 値計算では 多孔質体を内包する コント ロールボ リューム にかか る力とコン トロールボ リュー ム内の運動量変化のバ ランスよ り抗 力係数を算出 した. 図8に 金網 円筒の抗 力係 数 ら の実験値 を示す. 同図 には測定誤差 をエ ラーバー で示 している.金 網 円筒 にかか る力が非常 に小 さいため相対的に測定誤 差 が大 きくなっているが,大 まかな傾向 として金網 円筒の抗 力係 数は レイ ノルズ数 の増 加 とともに減少 して いる.ま た,金 網の メッシュ数が小さ くな り透 過性が増大す るほ ど抗力係数 は小さ くなる.図9に 示す多孔質角柱 に関す る数値 計算結 果 において も, レイ ノル ズ数 の増加あ るいは多孔 質の透過率の増大 に伴 い抗 力係 数が低下す るとい う実験 結果 と同様の 傾向が確認 された.多 孔質 内部 を透過 し後部境界よ り流出す る流 れは,物 体表面か ら剥離 した境界層が Fig.6 Power Spectral Density at ReD=425
物体背後へ巻 き込 まれるの を阻害す る とともに運動 量変化 をもた らし,さ らに流体が 内部を透過す る こ とによ って物体 まわ りの差圧が低減 される ことによ り,多 孔質物体 の抗 力係数 は完全 な固体の場合 よ り も小 さくな ると考 え られ る. 6. 結 論 透過性 を有す る物 体 まわ りの強 制対流 につ いて実 験および数値 計算 による検討 を行 った.多 孔質特有 のパ ラメー タである透 過率は物体 まわ りの流動様相 に重大な影響 を及 ぼす.す なわ ち条 件によ って は多 孔 質内部 を透過す る流れ によ って 生 じた運動量変化 によ り後 流域のカルマ ン渦は消滅す る.透 過率が大 き いほどカルマ ン渦 の抑 制効 果は大 きい.さ らに多 孔質体 の抗 力係数 は,透 過性 のな い完全 な固体 物体 のそれよ りも小 さい.抗 力係 数の低下 の程度 は透過 率に依存す る. 最後 に,本 研 究は科学研究 費補助金(No.15560185) による ことを付 記 し,謝 意 を表 す. 文 献
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Fig.8 Experimental Drag Coefficient of Wire-Netting Cylinder