• 検索結果がありません。

太成学院大学紀要論文第 20 巻 ( 通号 37 号 )pp 看護学生の性格特性と 情緒不安定 社会不適応 が レジリエンスに及ぼす影響 心理的な問題を抱える学生に対しレジリエンスを高める教育とは Characteristics of nursing students and "emo

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "太成学院大学紀要論文第 20 巻 ( 通号 37 号 )pp 看護学生の性格特性と 情緒不安定 社会不適応 が レジリエンスに及ぼす影響 心理的な問題を抱える学生に対しレジリエンスを高める教育とは Characteristics of nursing students and "emo"

Copied!
8
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

看護学生の性格特性と『情緒不安定』『社会不適応』が

レジリエンスに及ぼす影響

―心理的な問題を抱える学生に対しレジリエンスを高める教育とは―

Characteristics of nursing students and "emotional instability" and

"social maladjustment"Impact on resilience

What is Education to Increase Resilience to Students with Psychological Problems

錦織 史子



  新田 弘子



Fumiko NISHIKIORI  Hiroko NITTA

<要約> 近年,看護学生には様々な心理的問題が 指摘されている。そこで今回の研究目的は第1 に看 護学生の性格特性を調査する事を目的とした。第2 に「情緒不安定」や「社会的不適応」の性格特性を 持つ看護学生はどのようなレジリエンス因子に影響 しているのかを,資質的,獲得的レジリエンス要因 の両方から検討した。結果,近年の看護学生は概ね 社交的だが,3 割以上の学生は「情緒不安定」や「社 会的不適応」の性格特性であることが分かった。そ のような学生は遺伝的にも環境的にも総じてレジリ エンスが弱く,精神の健康障がいを引き起こしやす いことが推測された。 今回の結果から,レジリエンスを高め,健康的に 学校生活を送るためには,どのような教育が必要な のか手がかりを得ることが出来た。 <キーワード> 看護学生の性格特性,情緒不安定, 社会不適応,レジリエンス  はじめに 看護学生の学生生活の最終目的は,看護師になる ために必要な単位を修得し,看護師免許資格取得に ある。その道のりは非常に厳しく,看護教育カリキ ュラムは机上の学習だけでなく,学内演習および臨 地実習,さらにはコミュニケーション能力や接遇な どを含む看護師になるために必要な基本的姿勢の獲 得などにも及び,学校は実践的な能力を身に付ける 場として極めて重要な役割を担う。 看護学生の教育カリキュラムにおける単位習得は そのほとんどが必修単位であり,看護学生にとって は,一般の大学生や専門学校生が遭遇するストレス フルなイベントに加え,実習に関連した様々なイベ ント,国家試験に関するイベントなど,看護学生特 有のイベントを経験し,学習過程は非常にストレス フルな環境に置かれる。学生の中にはこれらのイベ ントに上手く適応できず,心身共に疲労し,健康障 がいを患ったり,あるいは必要な学習が期日中にで きず,学習の遅れなどから休学に至る学生も少なか らずみられる。特に看護学生の臨地実習は学校生活 の中で最も大きなイベントとして位置づけられる。 病院で初めて看護を実践する事や,それに対して指 導を受けながら養われるスタッフとの人間関係など, 数か月に及ぶ生活パターンの変化が大きなストレス 因子となり,学生はこれまで学んできたことを活か 太成学院大学紀要 論文 第20巻(通号37号)pp.93-100

(2)

しながらそれらと向き合い成長していく事になる。 近村他1)は,臨地実習前,実習中における不安やコ ーピングの比較と,それによる性格との関連を検討 し,特に「社会的不適応」,「劣等感」,「非協調性」, などの性格傾向では,消極的コーピングスタイルを 多様する特徴を認め,実習中の不安やコーピングに は個々の性格が深く関与することを示唆している。 またストレスの大きさは個人を取り巻く環境と,個 人のパーソナリティーが関与し,これらのストレス を軽減するためには教員や臨地実習指導者など関係 者のソーシャルサポートの重要性も明らかにしてい る。このように看護学生のストレスとコーピングに おける研究は一応の結論が提唱されつつあった。 しかしながら近年では,看護学生の性格傾向と して,実習中に患者と話がうまくできないなどの 「コミュニケーション能力の低下」,指導内容に 対して落ち込みやすい,あるいは逆に反抗的で切 れやすいなどの「情緒不安定」,対人関係が苦手 で協調性が持てない,周囲の空気が上手く読めず に孤立してしまうなどの「社会性の低下」など 様々なことが指摘されており,指導にあたる教員 も,学生の思考や行動,心理的な問題に対する理 解と関わりに難しさを感じている。これらはここ 数十年来に渡って看護学生の性格特性の変化を 示唆するものであると考えられる。さらに,看護 学生の研究の多くは臨地実習前後の学生のストレス 研究であり,それ以前の1年生からのストレスに学 生がどのように向き合って行くかまでは明らかにさ れていない。 この様な事から,1年生の段階から学生が抱える ストレスイベント(テストや毎日のレポートなどの 課題,異年齢集団や同じ目標を達成するために形成 された集団などの人間関係など)に対し,早い時期か ら介入を行い,上手く適応し,乗り越えて行く力を 高めていく事で,学生が健康的に学習を進めて行く 事ができるのではないかと考えている。 これらの事を踏まえ,近年の看護学生のストレス 研究は,ストレスとレジリエンスの関連が提唱され つつある。小塩他 2)によるとレジリエンスとは「非 常にストレスフルな出来事を経験したり,困難な状 況になっても精神的健康や社会的適応行動を維持す る,あるいは回復する心理的特性」と定義され,日 本語では「弾性力」「回復力」と訳される。つまりス トレスから回復する力であり3),心理的ストレスの 低減を目的とするコーピングとは違い,適応状態に 至った結果を重視したもので ,ストレスに対する 柔軟性を示した概念である 。小塩はレジリエンス の状態にある者の心理的特性として「新奇性追求」 「感情調整」「肯定的な未来志向」の  因子がある とし,これらの性格傾向を持ち合わせることが困難 に打ち勝つ強い力を持つとしている。また田中は大 学生  人に対し小塩らが提唱したレジリエンスの  因子について自尊感情との関連を検討した。結果 はレジリエンスの高い人は自尊感情も高いと結論づ けている。 これらの事から,これからの看護教育は,学生が 入学してからの学習過程から,レジリエンスを高め る教育を考えてゆく事によって,非常にストレスフ ルな状況にあっても,学生生活を健康的に乗り越え てゆく事ができると推測できる。 しかしながら看護研究の中では近年,新人看護師 におけるレジリエンスの研究はいくつか見られるも のの,看護学生の性格傾向とレジリエンスにおける 研究はまだ少なく,看護学生個人の性格特性の具体 的にどのような傾向が,どのようなレジリエンス因 子と関連があるのかまでは明らかにはされていない。 またそれに対しての具体的な教育も示唆されていな い。 そこで本研究目的では1 つ目に,近年の看護学 生の性格特性を調査する事を目的とした。そして 本研究目的2 つ目は,田中が結論付けた自尊感情と の関連から考えると,看護学生の中でレジリエンス が低い学生は性格特性として自尊感情が低く,何ら かの心理的困難を抱えていることが予測される。自 尊感情の他にどのような性格特性があるのかを研究 目的1で調査し,どのような因子のレジリエンスと 関連しているのかを検討したいと考える。レジリエ ンスの因子に対して今回は平野6)2 次元レジリエ

(3)

ンス要因尺度を用い,資質的レジリエンス要因,獲 得的レジリエンス要因の両方から検討したいと考え る。そしてレジリエンスを高められるように3 年間 を通して看護学生を健康的に教育していく手掛かり を得たいと考える。  方法  研究対象 看護専門学校に通う1 年生 160 名女性。矢田部・ ギルフォード性格検査において,その中から記入漏 れのある者を除外した155 名を対象とした。またレ ジリエンスの調査においては記入漏れのある者,無 回答の者を除外し 129 名を対象とした。平均年齢 24.1(SD6.8 歳 最小年齢 18 歳 最高年齢 40 歳)で あった。  研究期間 平成26 年 7 月にレジリエンス質問項目を,平成 26 年 8 月に矢田部・ギルフォード性格検査を実施し た。質問紙はそれぞれ個々に配布し記入をしてもら い,その場で回収を行った。  研究方法 矢田部・ギルフォード性格検査(以下 YG 検査) は12 の性格特性尺度「抑うつ」「気分の変化」 「劣等感」「神経質」「主観的」「非協力的」「攻 撃的」「活動的」「のんき」「思考的外向」「支 配性」「社会的外向」に分類され,120 の質問項 目から成り立っており,はい:2 点,どちらでも ない:1 点,いいえ:0 点で計 20 点満点で回答を 求めた。 次に平野の 2 次元レジリエンス要因尺度を用 いた。使用マニュアルに沿って実施した。回答に 影響がないように,2 つの下位尺度をランダムに 並べ替えて,レジリエンス尺度質問用紙21 項目 とし,1「まったくあてはまらない」~5「よく あてはまる」の5 段階尺度で回答を求めた。  分析方法  YG 性格検査の分析については,基礎統計量の集 計を近村の分析に沿って行い表にした。これは近村 の研究結果が2007 年であり,そこから近年の学生 の性格傾向の変化を探るためである。そして学生 個々の検査表に各学生のYG 性格検査プロフィール を記述し,第4.第 5 区域(その性格を表す傾向が強い 区域)に属する学生の割合をパーセンテージで算出 し図に表した。また各尺度における関連については エクセルにおいて相関を求めた。さらに「情緒不安 定」「社会的不適応」に当てはまる尺度の合計点を算 出し,12 尺度の他に 2 項目を追加して表にした。  レジリエンスの分析に対しては,ランダムに並べ た質問を被験者が回答後,資質的レジリエンス,獲 得的レジリエンス各項目の質問紙に分類,ものと質 問紙の順に整理し直し,個人データとして各質問の 尺度を合計し,資質的レジリエンス得点,獲得的レ ジリエンス得点とした。その得点を基に,YG 検査 の12 尺度との等分散を仮定したt検定を行った。 またYG 検査の 12 尺度から「情緒不安定」「社会的 不適応」に当てはまる尺度を用い,それらについて も資質的レジリエンス,獲得的レジリエンスとの等 分散を仮定したt検定を行った。統計処理はエクセ ルを用い,有意水準はp<0.05 とした。 㻌  倫理的配慮 調査対象者に文書ならびに口頭で,研究の趣旨, 研究の方法,倫理的配慮,学会や論文公表の承諾な どについて具体的に説明した。質問紙には年齢等の 個人情報が含まれるが,これらの情報は,統計処理 を行い個人が特定できないにする事,また本研究以 外に使用される事がない事,調査への参加は自由意 志であり,いずれの経過においても拒否できる事を 説明し,研究協力の同意を同意書への署名で得た上, 調査を行った。  結果  <* 性格検査における尺度の平均値 看護学生155名に対してのYG 性格検査による結 果を表1 に示した。

(4)

学生の性格特性については,S「社会的外向性」 がもっとも平均値が高かった(12.44)。次に G「活 動性」に関しても11.19 と高い傾向にあった。しか し同様にD「抑うつ性」は 11.01 であり,C「気分 の変化」は10.25,N「神経質」は 10.23 と『情緒 不安定』示す尺度の平均値も高かった。またYG 検 査では一般的に「抑うつ」「気分の変化」「神経質」 などは連動して動くと言われており,今回の学生も 概ね連動して平均値に大きな開きはない事が分かっ た。G「活動的」と R「のんき」においては『衝動 性』を表す尺度であり,これらも連動しており,平 均値に開きは見られなかった。しかしS「社会的外 向」と連動するA「支配性」の平均値は 9.73 と 8 番目に位置しており,S「社会的外向」から離れた 結果が見られた。これらから,対象とした看護学 生は社会性があり活動的であるが,指導性やリー ダーシップ性は活動性に比較して劣るところが あり,また『情緒不安定』を示す尺度が上位にあ ることから,元気さと不安定さを持ち合わせた精 神のバランスの悪さが見られると 考えられた。  <* 性格検査プロフィールにお ける看護学生の第 第  区域に属す る各尺度の割合  YG 性格検査プロフィールにおいて 第4.第 5 区域の得点は,その尺度の傾 向が強いとされる。看護学生の各尺度 の割合を図1 に示した。「のんき」「思 考的外向」「支配性」「社会的外向」な どの割合が高く,概ね社交的であるが,反対に『情 緒不安定』を表す尺度である「抑うつ」「気分の変化」 「劣等感」「神経質」がそれぞれ30%を超える(四捨 五入)結果であった。また『社会的不適応』を表す尺 度である「主観的」「非協調性」が40%であった(四 捨五入)。攻撃性は低い結果であった。約 3 割以上の 学生が『情緒不安定』や『社会的不適応』な性格特 性を持ち合わせている結果であった。 㻌  <* 性格検査の相関について㻌 YG 性格検査から各尺度との相関を行った(表 2)。 結果はD「抑うつ」C「気分の変化」I「劣等感」N 「神経質」の『情緒不安定』を表す尺度には高い相 関が見られた。これはYG 性格検査の一般的な傾向 と同様の結果であった。しかし,『社会的不適応』を 表す尺度であるO「主観的」Co「非協調性」Ag「攻 撃性」において相関は見られず,O「主観的」Co「非 図1  YG 性格検査プロフィールにおける第4.第5 区域に属する学生の割合(n=155) 表1 看護学生のYG 検査における尺度別得点(n=155) ) 表2 看護学生のYG 性格検査の相関(n=155)

(5)

協調性」はD「抑うつ」と高い相関があり,YG 検 査の一般的な傾向にはならなかった。またA「支配 性」S「社会的外向」に高い相関があり,これらは 「主導権を握る」を表す尺度であり,両者は関連し ており,YG 検査の一般的な傾向と同様の結果であ った。  <* 性格検査の各尺度とレジリエンスの関 連について  YG 性格検査の 12 尺度それぞれを,得点が高い群, 低い群に分け,資質的レジリエンス,獲得的レジリ エンスの関連をt検定を用いて分析した。結果はD 「抑うつ」尺度と獲得的レジリエンスに有意差が見 られた(p<0.031)。また C「気分の変化」において獲 得的レジリエンスに有意差が見られた(p<0.049)。他 の尺度においては資質的,獲得的レジリエンスどち らにおいても有意差は見られなかった(表 3)。   <* 性格検査における『情緒不安定』『社会的不 適応』とレジリエンスの関連について  YG 性格検査の『情緒不安定』を表す D「抑うつ 」 C「気分の変化 」I「劣等感」 N「神経質」の各尺 度の合計得点と,『社会的不適応』を表す O「主観 的」 Co「非協調性」 Ag「攻撃性」の各尺度の合 計得点それぞれを,得点の高い群,低い群に分け, 資質的レジリエンス,獲得的レジリエンスとの関連 をt検定を用いて分析した。結果は『情緒不安定』 『社会的不適応』共に資質的レジリエンス,獲得的 レジリエンスに有意差が見られた(表 4)。 㻌 考察  学生の性格特性について  今回の学生の性格特性は,「社会的外向」「活動的」 「のんき」の平均値が高く,「攻撃性」や「非協調 活発で,思いやりや協調性も見られると考えられる。 これは,近村の研究結果やさらにさかのぼると看護 学生は一般女子学生に比べ外向性が高いという山本 他7)の報告に類似している。つまり看護学生の性格 特性は一般的に外向性が高く,社交的で神経症的傾 向が低い集団であるとされてきたことは,近年もこ こ20 年来も大きく変わってはいないことが考えら れる。しかし山本らの言うように,このような性格 傾向の学生が看護職を目指しているのか,看護教育 によってそのような性格傾向が生じているのかはこ こでは分からない。 だが一つ言えるのは,看護師の役割として必要と されるチーム医療は,患者やスタッフとの信頼関係 や対人関係を良好に保つ事が何より必要と考えられ ている事であり,厳しい教育カリキュラムであって もそれらの傾向が揺らぐことがないように指導して いくことが大切だと言える。 しかし,一方では「抑うつ」「気分の変化」「神経 質」の平均値も高く,また「社会的外向」の平均値 が高い割に「支配性」の平均値が低く,両者は連動 しておらず値に開きが見られることから,社会的な 接触を好み,外向的であっても,社会的指導性やリ ーダーシップ性は消極的な所があると考えられる。 また『情緒不安定性』を示す尺度の平均値が上位に 位置づけられていることから,活発さと情緒不安定 さを持ち合わせている事が考えられる。   <* 性格検査プロフィールにおける看護学生 の第 第  区域に属する各尺度の割合について 本研究の対象学生は,概ね社交的であり,約半数 がこれに該当する結果となった。しかし,反対に『情 表4 YG 性格検査の「情緒不安定」「社会不適応」と2 次元レジリエンスのt 検定結果(n=129) ) 表4 YG 性格検査の「情緒不安定」「社会的不適応」と 2 次元レジリエンスのt 検定結果(n=129) 表3 YG 性格検査の各尺度と2 次元レジリエンスのt 検定結果(n=129)

(6)

緒不安定』『社会的不適応』を示す割合が を超 え,これは約  割の学生が,発達過程における何ら かの心理的な問題を大なり小なり抱えている事が考 えられる。<* 性格検査は  尺度の得点が高いほど その傾向が強くなることを表し, 点満点ではそれ だけでその傾向が非常に強いと判断される。このこ とから『情緒不安定』『社会的不適応』の何らかの 尺度が  点満点であると,悲観的な気分や罪悪感, 著しい気分の変化,自己の過小評価,過度の心配性 などの強い性質を持つと言われている。第 第  区 域は得点が  点から  点と規定されており,今回 の学生にも『情緒不安定』『社会的不適応』に当て はまる尺度のうちのどれかがが  点満点の者が  名見られ,これらの学生は,何らかの強い心理的問 題を抱えていることが推測される。  また攻撃性を除くすべての尺度において割合が ~%であることから,学生の性格特性が強いこ とが考えられる。つまり情緒が安定しており,行動 が活発で感情も上手くコントロールできる,いわゆ る社交的である時と,情緒が不安定で行動や感情が 上手くコントロールできないという状態に極端に分 かれており,どちらにも当てはまる自分を感じてい る学生が多いということが考えられる。このことは, 二極思考でストレスをため込みやすく,自分にとっ て何らかの困難な事柄に対して「そんなこともある」 「何とかなるだろう」などのゆとりを持った考えが なかなかできない。いわゆるグレーゾーンを持たな い学生が多くみられる事が考えられ,学生の中に指 導によって病的に落ち込んだり,社会でいういわゆ る逆切れをしてしまう学生がいることは,このよう な二極思考の性格特性から見られることなのだろう と考える。さらにこのような性格特性は元来パーソ ナリティー障害の症状の一つとして位置づけられる ことや,発達障害などの特徴にもみられるものであ り,今回の <* 性格検査の個々の結果は近年の看護学 生の性格の変化をあらわす結果となり,このような 学生に対しての教育の在り方について大きな課題と なった。   <* 性格検査と各尺度の相関について  YG性格検査は12尺度の2つ以上の尺度が集まっ て1つの意味を持ち,この集まりは強いまとまりを 持ち,原則として得点が大きく離れる事はない。そ して,得点の動き方も連動して動くという性質があ る8)。また強いまとまりを持っている場合には,か なり強い確度で診断する事が出来る(八木.1989)。今 回の学生の結果は『情緒不安定』を表す因子である 「抑うつ性」と「気分の変化」「劣等感」「神経質」 の相関が高い事から,連動しており,YG 性格検査 の一般的な傾向と同様の結果であった。このことか ら,抑うつ傾向を持つ学生は,同時に気分の変動や, 自己の過小評価,不安や神経質な性質を持ち合わせ ていると考える。また「主観的」と「非協調性」や, 「非協調性」と「神経質」にも中程度の正の相関が ある事から,抑うつ傾向を持つ学生は,他者と協調 性を持つことが出来ず,自分中心に物事を考える傾 向が強くなり,それに伴い不安や神経質も強くなっ ていると考えられる。 これらの結果は従来の抑うつ,あるいはうつ病か ら考えると異なった点が見えてくる。それは従来の うつ病あるいは抑うつ傾向は,周囲に合わせすぎて 頑張りすぎる,あるいは周囲の出来事を自分のせい にしてしまう自責の念など,他者との関係における 対人関係の,いわゆる一般的に言う良い人であるが ゆえにストレスを自分で抱え込み,心身共に疲労し てしまうのが本来の姿だが,今回の結果は自己中心 的で協調性が乏しい学生が抑うつなどの情緒不安定 を伴っており,近年の看護学生の『情緒不安定』は, 他者との関係性よりも,自分の思った通りにならな い何らかのストレスから生じていることが要因とし て考えられる。自己中心性や協調性の乏しさは二極 思考の性格傾向ともつながっており,自他や環境の 良い面,悪い面の両方を統合してとらえる力が弱く, 心の発達から考えると非常に幼い一面を持つ学生が 多いことが考えられる。  <* 性格検査の各尺度とレジリエンスの関連に ついて

(7)

 今回の学生は,<* 性格検査において '「抑うつ性」 と &「気分の変化」の尺度と,獲得的レジリエンス 要因に有意差が見られた。抑うつについてはこれま でも田中  らによって,自尊感情と合わせてレ ジリエンスの関連で述べられており,抑うつや自尊 感情はレジリエンスの強さに影響しているとされて おり,レジリエンスと言う点では,抑うつや気分の 変化が高いとレジリエンスは低下する仮説は立証で きたと考える。しかし,今回の研究はレジリエンス を  次元からとらえる事を追加し検証することであ り,平野  はレジリエンス要因を「資質的要因」 と「獲得的要因」に分けて捉え,資質的要因は遺伝 的要因と関連が深く,獲得的要因は遺伝的要因と関 連が低く,後天的に身に着けて行きやすいと示唆し ている。そして,獲得的要因の因子には,問題解決 志向,自己理解,他者理解の  因子が見られるとし ている。これらのことから,抑うつや,気分の変化 が大きい学生は,自分で問題を乗り越えて行く力や, 自己理解や他者理解の未熟さなどが,レジリエンス の強さに非常に影響を与えている事が考えられる。 つまり自己理解や他者理解を育てる事が学生のレジ リエンスを成長させる一つのカギになると考えられ る。   <* 性格検査における『情緒不安定』『社会的不 応』とレジリエンスの関連について 獲得的レジリエンス要因については,構成する下 位因子は先に平野で述べたとおりであり,さらに平 野で言えば,資質的レジリエンス要因の下位因子は 楽観性,統御力,社交性,行動力の4 因子であり, 今回の学生はYG 性格検査の大きなまとまりの因子 である『情緒不安定』『社会不適応』で分類すると, 資質的,獲得的要因それぞれにおいて有意差が見ら れた。このことから近年の学生の性格特性で考察し た何らかの要因で情緒が安定しない学生(抑うつな ど気分の変動が強い,周囲との協調性が取れない, 自己中心的で,自分の事ばかり考えてしまう,二極 思考,現状に不満があるなど たちは,『情緒不安定』 『社会不適応』の性格特性を遺伝的にも,環境的に も持ち合わせ成長してきていることが考えられ,そ れらが総じてレジリエンスの強さに非常に影響を与 えている事が考えられる。つまり,何らかの心理的 な問題を抱えている近年の学生は,精神的回復力が 遺伝的にも育ってきた環境的にも非常に弱く形成さ れているために,教員が考えている以上に立ち直り が遅く,苦痛と感じる体験や環境に対して長く囚わ れてしまいがちであると考えられる。このような状 況下で看護師を目指し,教育を受けていく学生たち にとって,看護師になる学習は教員が考えている以 上にストレスフルな状況であり,それ故,状況に上 手く適応できなくなると,精神の健康障がいを引き 起こすなどの心理的不適応につながりやすいと考え る。 おわりにレジリエンスを高める教育とは 平野は,レジリエンスは精神的な脆弱性,および 精神的健康に負の影響を及ぼすリスクに関する研究 の流れで生まれた概念であり,そのリスクは生得的 には遺伝要因などの生物学的リスクと,後天的には 環境要因であると述べている。そして精神病理や精 神的不適応のリスクには,本人の力ではどうする事 も出来ない場合がほとんどであるが,レジリエンス 要因については,個人がどのような行動特徴を身に 付けてこられたかによって介入が可能であると述べ ている。このことから考えると,今回の心理的に問 題を抱える学生は,レジリエンス要因として,幼少 期から,何かが影響し,生得的にも環境的にも社会 に上手く適応できる行動を身に付けられなかった事 が考えられる。したがって我々教員は,学生の行動 をしっかり観察し,『情緒不安定』や『社会的不適応』 の性格特性が,どのようなレジリエンス要因から引 き起こされているのかをしっかりと見極め,個人の 状況に必要なレジリエンス要因を獲得できるように 支援していく事が必要であると考える。つまり,も ともと社交的ではなく,一人が好きな学生がいても よいし、もともと引っ込み思案でリーダーシップに 乏しい学生がいてもよいのである。社交性や統率力 が生得的な部分であるとするならば,それらは容易

(8)

に変えることは難しく,長い時間を要する。それら に教員自身が学生のマイナス面として囚われてしま うと,学生にとって負の影響になる教育環境が重な り,二極思考に拍車がかかるだろう。そしてレジリ エンスの回復に逆効果となり,ますます自体は悪化 するであろう。生得的に不利な部分があっても学校 などで教育環境に恵まれれば,学校生活において精 神的な困難を抱えず,健康的に学習に励むことがで きるだろう。それよりも獲得していく事が出来るで あろう,自己理解や他者理解を  年生の頃からし っかりと指導し,相手を思いやり共感する心を育て, 他者と人間関係を構築していける指導を丁寧に行っ て行く事である。そうすることで自然とレジリエン スの強さが増し,周囲の人間を信頼し,社会性の大 事さを理解し努力するかもしれない。グループを大 事にするところからリーダーシップの必要性を理解 するかもしれないのである。また問題解決志向とし て,自分の問題を乗り越えるための適切な指導を行 う事などで,正しい解決方法を身に着けるプロセス を支援するなどを積極的に行い,他者の意見を取り 入れ学んだことや,出来たことをしっかり認め,成 功体験を増やす関わりを行う事で自信に繋がるであ ろう。つまりレジリエンスを高める教育とは二極思 考から自他と環境の良い面悪い面を認め,自分を統 合できる教育を行って行く事なのではないかと考え る。小塩のいうレジリエンス状態に必要な因子とし て「新奇性追求」「感情調整」「肯定的な未来志向」 とは,自身を統合できて初めて成し遂げられるもの であると考える。レジリエンスを高める教育は目に 見えないものであるが,そのような教育が近年の看 護教育には何よりも必要なのではないかと考える。  引用文献 )近村千歩・小林敏生・石橋文子・青井聡美・飯田 忠行・山岸まなほ・片岡健  :「看護臨床実 習におけるストレスコーピングおよび性格との 関連」,広島大学保健ジャーナル,第  巻・第  号,S   小塩真司・中谷素之・金子一史・長峰伸治  : 「ネガティブな出来事からの立ち直りを導く心理 的特性―精神的回復力尺度の作成」,カウンセリ ング研究第巻・第号,S-  田中千晶・兒玉憲一  :「レジリエンスと自 尊感情,抑うつ症状,コーピング方略との関連」, 広島大学大学院心理臨床教育研究センター紀要, 第巻,S  石井京子  :「レジリエンスの定義と研究動 向」,看護研究,第巻,第号,S  隅田千絵・細田泰子・星和美  :「看護系大 学生の臨地実習におけるレジリエンスの構成要 素」,日本看護研究学会雑誌,第巻,第号,S  平野真理  :「生得性・後天性の観点から見 たレジリエンスの展望」東京大学大学院教育学研 究科紀要,第  巻,p 7)山本有紀・服部卓・宮沢君子・田村文子(1998):「看 護学生のストレスに関して」,群馬保健学紀要, 第19 巻  八木俊夫著  :「<*テストの診断マニュアル 人事管理における性格検査の活用」日本心理技術 研究所 参考文献  羽賀祥太・石津憲一郎  :「個人的要因と環境 的要因がレジリエンスに及ぼす影響」,富山大学 人間発達科学研究実践総合センター紀要,教育実 践研究,第  巻,通巻  号,p  猪股歳夫  :「異年齢集団における人間関係づ くりの研究自己・他者理解を深め,自己肯定感 を高めるプログラムの実践を通して」,青森県総 合学校教育センター研究紀要,*  中野良哉・野々篤志・塩見将志  :「臨床実習 における心理的ストレス反応とレジリエンスと の関連」,高知リハビリテーション学院紀要,第  巻,p  中野良哉  :「臨床実習における状態特性不 安とレジリエンスとの関連」,高知リハビリテー ション学院紀要,第  巻,p

参照

関連したドキュメント

一貫教育ならではの ビッグブラ ザーシステム 。大学生が学生 コーチとして高等部や中学部の

経済学研究科は、経済学の高等教育機関として研究者を

優越的地位の濫用は︑契約の不完備性に関する問題であり︑契約の不完備性が情報の不完全性によると考えれば︑

17‑4‑672  (香法 ' 9 8 ).. 例えば︑塾は教育︑ という性格のものではなく︑ )ット ~,..

を育成することを使命としており、その実現に向けて、すべての学生が卒業時に学部の区別なく共通に

を育成することを使命としており、その実現に向けて、すべての学生が卒業時に学部の区別なく共通に

 講義後の時点において、性感染症に対する知識をもっと早く習得しておきたかったと思うか、その場

社会学研究科は、社会学および社会心理学の先端的研究を推進するとともに、博士課