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北米東部大停電調査中間報告書(案)

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2003 年 8 月 14 日

北米北東部停電事故に関する

調査報告書

2004 年 3 月

北米北東部停電調査団

(2)
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<目次> はじめに ...1 第一部 北米北東部停電の概要と我が国へのインプリケーション ...3 1. 停電の概要と過去の停電との比較 ...5 1−1. 停電の概要 ...5 (1) 概要...5 (2) 停電の経緯 ...6 1−2. 過去の停電との比較 ...12 2. 米国電力供給体制の概要 ...14 2−1. 米国電力供給体制の特徴 ...14 (1) 数多い電気事業者 ...14 (2) 供給体制の地域的多様性と州と連邦の規制権限 ...14 (3) 自由化による供給体制の変化 ...15 2−2. 米国における系統運用体制...16 (1) 信頼度協議会と自主規制方式...16 (2) 北米電力系統の特徴 ...17 3. 米国における背景と考察 ...20 3−1.米加合同調査委員会中間報告書 ...20 (1) 停電の直接的原因...20 (2) 三つの原因 ...20 (3) 中間報告書の見方と間接的要因 ...23 3−2.関係者との会合の結果 ...23 (1)調査の主旨 ...23 (2)共通認識(停電に関する基本的な考え方)...24 (3)政府関係者の認識(包括エネルギー法案への影響) ...25 (4) 関係事業者・団体の認識...26 (5) 学識経験者の認識...28 4. 我が国電気事業との関連における考察 ...29 4−1. 我が国との比較 ...29 (1) 不適切な状況把握 ...29 (2) 不十分な樹木伐採 ...29 (3) 信頼度コーディネーターの不適切な判断支援...30 4−2. 北米北東部停電事故が意味するもの...31 (1) 関係者間の役割の明確化 ...31 (2) 緊急時対応体制の整備 ...31 (3) 系統運用者の資質の確保・安全文化の醸成...32 (4) 信頼度関連ルールの遵守とその監視 ...33 (5) 無効電力の管理 ...33 5. 最後に...34 第二部 米国の電力供給体制と停電の経緯(参考資料)...35 1. 米国の電力供給体制 ...37 1−1. 規制の構造 ...37 1−2. 規制改革の歴史 ...37

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1−3. 供給信頼度の枠組 ...38 (1) 北米電力系統の特徴と信頼度協議会 ...38 (2) 系統運用体制...40 (3) オハイオ州周辺の供給体制...41 2. 停電の原因と経過...45 2−1. 8 月 14 日の状況...45 (1) 概要...45 (2) 周波数・電圧 ...46 2−2. 停電の経過 ...47 (1) 15:05 前...48 (2) FE社・MISOの系統状況の把握 ...50 (3) 15:05∼16:05 ...53 (4) 16:05 以降 ...57 【海外出張調査者リスト】...71 【海外調査訪問先リスト】...72 【参考文献】 ...73

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<図目次>

第一部 図 1-1 停電の影響のあった地域 ...5 図 1-2 停電による影響(衛星からの夜景の変化) ...6 図 1-3 カスケード前の主要事象 ...8 図 1-4 関係する主要な送電線等...10 図 1-5 カスケードの推移 ... 11 図 2-1 米国電力供給体制の概要(北東部地域) ...14 図 2-2 州別小売自由化実施状況 ...15 図 2-3 自由化に伴う体制の変化 ...16 図 2-4 北米電力系統と信頼度協議会 ...17 図 2-5 制御区域の状況...18 図 2-6 信頼度コーディネーターの責任エリア ...19 図 3-1 送電線周囲の状況の影響...21 図 3-2 Hanna-Juniper 送電線の樹木接触 ...21 図 3-3 エリー湖周辺の電力供給体制 ...22 第二部 図 1-1 既存・提案中のRTO(2003 年 11 月時点) ...38 図 1-2 北米電力系統と信頼度協議会 ...39 図 1-3 制御区域の状況...40 図 1-4 信頼度コーディネーターの責任エリア ...41 図 1-5 エリー湖周辺の電力供給体制 ...42 図 1-6 当初のRTO申請状況 ...42 図 1-7 ファーストエナジー社の概要 ...43 図 1-8 ファーストエナジー社送電網(ATSI) ...44 図 2-1 15:05 の発電、負荷及び潮流状況 ...45 図 2-2 北東部中央地域での輸出入計画値(2003 年 8 月 14 日)...46 図 2-3 15:31 までの周波数の動向 ...46 図 2-4 15:05 前の電圧の状態 ...47 図 2-5 オハイオ州近辺の送電網の概要 ...48 図 2-6 13:31:34 ...49 図 2-7 14:02...50 図 2-8 FE社送電線の位置関係 ...53 図 2-9 Hanna-Juniper 送電線の樹木接触 ...54 図 2-10 FE社送電線の潮流状況...56 図 2-11 FE社 13.8 万 V 系統における電圧の変化 ...57 図 2-12 16:05∼16:09:07...59 図 2-13 16:09:08∼16:10:27 ...60 図 2-14 16:10:36∼16:10:37 ...61 図 2-15 16:10:37.5∼16:10:38.6 ...62 図 2-16 16:10:38.6 時点 ...63 図 2-17 オンタリオからデトロイトへ向かう有効電力・無効電力・電圧の推移 ...63

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図 2-18 16:10:44 時点...64

図 2-19 16:10:39∼16:10:46 ...65

図 2-20 16:10:43∼16:10:45 ...66

図 2-21 16:10:46∼16:13...68

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<表目次>

第一部 表 1-1 停電の主要な経緯...6 表 1-2 過去の主要な大停電(米国関係) ...13 表 3-1中間報告書での事故原因の整理 ...23 第二部 表 1-1 エリー湖周辺の信頼度コーディネーターの特徴 ...43 表 2-1 12:08∼15:05 前の主要な事象(FE社、DPL社、CIN 社)...48 表 2-2 FE社のシステム上に発生した主要な事象 ...52 表 2-3 NERCの信頼度基準違反 ...52

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はじめに

2003 年 8 月 14 日午後(米国東部時間)、米国北東部及びカナダ南西部を襲った停電は、停電 規模にして 6,180 万 kW、影響は 5,000 万人に及び、復旧には2日近く、一部地域では完全復旧 までに1週間以上を要するという大事故となった。 言うまでもなく、電力は最も重要な社会インフラの1つであり、一度その供給が停止すれば、広く 国民生活一般、そして経済活動に甚大な影響をもたらすものである。したがって、電力の安定供 給には最大限の配慮が払われなければならない。折しも、我が国においては、現在、全国規模の 電力流通の活性化、需要家選択肢の拡大等を通じた安定供給確保を目指して、電気事業の制 度改正を進めているところである。一方、今回停電が発生した地域も、積極的にこうした対応を進 めてきている地域である。したがって、我が国と北米地域の電気事業の形態、事業を取り巻く環 境には異なる側面も多々あるが、今回の停電事故の原因と背景を分析することは、現在我が国 で進められている電気事業に関する制度改正を、よりその本来の趣旨に沿った形で実現していく ために、極めて有意義なものと考えられる。 かかる問題意識を背景として、2003 年 11 月に、学識経験者、業界関係者及び政府関係者か らなる調査団が米国を訪問し、関係者との意見交換を通じて、今回の停電事故の原因と背景の 調査を行った。ちょうど、米加両国の停電事故合同調査委員会(U.S.-Canada Power System Outage Task Force)の中間報告が公表された時期に重なり、解明された事実関係に基づき、有 意義な意見交換が行われた。 本報告書は、調査団の成果を、調査団報告書として取りまとめたものである。現地調査に当た っては、日本国大使館、(財)エネルギー総合工学研究所、(社)海外電力調査会をはじめとする関 係諸機関の方々にも多大な御尽力をいただいたところであり、この場を借りて、改めて厚く御礼を 申し上げたい。 今回の停電事故は極めて大規模であったため、米加両国の合同調査委員会の報告書も、まだ 中間報告となっている。米加合同調査委員会における作業はなお継続されており、我が国として は、今後ともその動向を注視していく必要があるが、本報告書は、現時点で明らかになっている事 実を基に、可能な限りの検討を加えたつもりである。本報告書が、今後の我が国における制度改 正の検討の一助になることを祈念する。 2004 年 3 月 北米北東部停電調査団一同

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第一部 北米北東部停電の概要と我が国への

インプリケーション

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1. 停電の概要と過去の停電との比較

1−1. 停電の概要

(1) 概要 2003 年 8 月 14 日 16 時過ぎ(米国東部夏時間、以下同じ)に北米北東部・中西部で発生した 停電は、6,180 万kWの規模となり、その影響は米国8州(オハイオ州、ミシガン州、ペンシルベニ ア州、ニューヨーク州、バーモント州、マサチューセッツ州、コネチカット州及びニュージャージー 州)及びカナダオンタリオ州の合計約 5,000 万人に影響が及んだ(図1-1参照)。米国では地域に よっては復旧に2日間を要したところもあり、カナダのオンタリオ州では完全復旧に1週間以上を 要した。 今回の停電は、世界的な金融センターでもあるニューヨーク市にも停電の被害が及んだことも あり、メディアを通じて全世界に大きく報道された。そこには、家路を急ぐ市民が路上にあふれ、家 族に無事を告げるため汗まみれになりながら公衆電話前に長蛇の列を作った姿が映し出されて いた。停電に伴う火災は 60 件にのぼり、死者は4名(うち火災3名)出た。被害額は AP 通信によ ると 40 億∼60 億ドルに達するものと見積もられている。 クリントン政権下でエネルギー長官をしていたリチャードソン氏が、「米国は超大国でもあるにも かかわらず、その送電網は第三世界並み」という発言をするなど、電力構造改革の影響や設備形 成の在り方などを巡って議論が百出し、改めて供給信頼度の確保の重要性を認識させる事象で あった。

図 1-1 停電の影響のあった地域

停電により影響を受けた地域 (幾つかの地域では供給を継続) 局所的な停電が発 生した地域 停電により影響を受けた地域 (幾つかの地域では供給を継続) 局所的な停電が発 生した地域 (出所)NERC、“August 14, 2003 Blackout“、2003 年 11 月 19 日より作成

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図 1-2 停電による影響(衛星からの夜景の変化)

8月13日夜 8月14日夜 (出所)Platts、http://platts.com/features/poweroutage/index.shtml

表 1-1 停電の主要な経緯

日時 事象 14 日 13:31 頃 ・ 米オハイオ州ファースト・エナジー(FE)社の East Lake 石炭火力発電所5号機が 過励磁で停止 15:05∼16:05 ・ FE社の複数の 34.5 万 kV 送電線(クリーブランド近郊)が樹木接触で停止 15:39∼16:05 ・ オハイオ州の 13.8 万 kV 送電網で相次ぎ送電線停止 16:05∼10 ・ オハイオ州、ミシガン州で、送電線、発電所が相次いで停止し、同地域で停電 16:10∼13 ・ カナダ及び米国東部系統でカスケード状に発電所、送電線が停止。これら地域で 系統分離が発生し、系統崩壊。停電が発生。 16:13 ・ カスケード上の系統崩壊が収束。全体で 531 基の発電設備が停止し、6,180 万 kW が停電 23:00 ・ 北米電力信頼度協議会(NERC)が供給停止になった発電容量のうち 3 分の 1 以 上が復旧と発表 15 日 未明 ・ ニューヨークのタイムズスクエアなどで電力供給が一部復旧 11:00 ・ NERCが供給の止まっていた発電容量のうち約 8 割が復旧したと発表 21:00 過ぎ ・ ニューヨーク市の電力供給が完全復旧 16 日早朝 ・ ニューヨーク市内の地下鉄が運転再開 11:00 ・ 被害地域の全域で電力供給が再開。一部では調整のための計画停電を実施 (出所)各種資料より作成 (2) 停電の経緯 2003 年 11 月 19 日に公表された米加停電合同調査委員会の中間報告書(”Interim Report: Causes of the August 14th Blackout in the United States and Canada”)では、今回の停電に 関して、①当日は平年より暑かったものの、よくあるような夏の日であり 15 時頃までに複数の送 電線事故等があったがいずれも直接の原因と言えないこと、②オハイオ州のファーストエナジー (FirstEnergy)社(以下「FE社」という。)の送電事故が重なって東部系統に重大な影響を及ぼし たことが停電の原因であること、③16 時 05 分頃から、カスケード状の停電範囲の広域化が始まり、 設備保護リレーの動作等の結果として系統分離が発生し、停電した地域とこれを免れた地域とに 分かれたことが示されている。 また、停電の発生した地域にあった原子力発電所は、機器や系統保護のため設計どおり停止

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または出力減となった。さらに、停電がテロ活動によるものという兆候は見出されていないというこ とである。 以下ではこの流れを時系列で概観することにする。 ① 2003 年 8 月 14 日の状況 2003 年 8 月 14 日の午後は、平年より気温は高かったものの、普通の暑い夏の日の午後であ ったとされる。実際、電気の流れ(潮流)も過去実績の範囲内にあり、周波数・電圧ともに変動気 味であったが、許容値の範囲内であったとされている。 正午過ぎから 15:00 頃までの間に系統に影響を及ぼす可能性のある事故として、①Cinergy 社の停電をもたらした送電事故(12:08∼13:18)、②FE社の East Lake 石炭火力発電所 5 号機 の停止(13:31)、③DPL(Dayton Power&Light)社 Stuart-Atlanta34.5 万 V 送電線停止、があっ たが、いずれも今回の停電の原因となるような事象ではないと判定されている。

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図 1-3 カスケード前の主要事象

12:00

13:00

14:00

15:00

16:00

第一段階:通常の夏の午後 12:15-14:14 第二段階:FE社コンピュータ故障 14:14-15:59 第三段階:FE社34.5万V送電線 で事故15:05-15:57 第四段階:13.8万V系統の崩壊 15:39-16:08 系 統 事 故 コ ン ピ ュ ー ター 事 故 人 的 ミ ス Eastlake発電所 5号機停止 13:31 Stuart-Atlanta34.5万 送電線停止(樹木接触) 14:02 Star-S Canton34.5万 送電線停止(樹木接触)・再閉路 14:27 Harding-Chamberlin34.5万 送電線停止(樹木接触) 15:05 Hanna-Juniper34.5万 送電線停止(樹木接触) 15:32 FE社13.8万V 送電線停止 15:39 Star-S Cantonr34.5万 送電線停止(樹木接触) 15:41 FE社13.8万V 15回線停止 15:42 Star-Starr34.5万 送電線停止 16:05 MISO SEに 問題発生 12:15 Stuart-Atlanta 34.5万送電線停止 でMISO SEが混乱 14:02 FE EMSの 警報装置故障 14:14 FE社遠隔操 作端末の半分 を喪失 14:20 FE社主系 EMSサー バーが故障 14:41 FE社バックアッ プEMSサー バーが故障 14:54 FE社主系 EMSサー バー再起動 15:08 FE社IT技術者H4とH1を 再起動 15:46-15:59 AEP社がFE社に Star-S Canton停止 について連絡 14:32 FE EMSがデータ更新せず 14:32 再度AEP社がFE社 にStar-S Canton停 止について連絡 15:19 AEPとPJMは TLR手続き作業 実施 15:35 MISOがFE社に Star-Juniper停止 について連絡 15:36 FE社運用者がIT 技術者と警報装置 の故障を協議 15:42 AEP社がFE 社に複数の 送電線が過 負荷と連絡 15:45 FE社系統 崩壊の可能 性を言及 15:46 FE社変電所 に職員派遣 15:48 PJMがFE社 にStar-S Canton停止 について連絡 15:56 FE社MISOに送 電線停止を連絡 15:57

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② カスケード以前 今回の中間報告書では、停電の直接的な原因は、15 時頃から発生した一連の送電事故にあ るとされている。まず 15:05 にオハイオ州北部にある Harding-Chamberlin 34.5 万 V 送電線が 樹木接触により停止し、次いで 15:32 に Hanna-Juniper34.5 万 V 送電線が、さらに 15:41 に Star-South Canton 34.5 万 V 送電線が停止した。これらの影響でFE社の 13.8 万 V 系統も重潮 流による連鎖的な停止を始め、遂に 16:05 には Sammis-Star34.5 万 V 送電線が停止した。樹 木接触で停止したそれまでの3本の 34.5 万 V 送電線と異なり、これは距離リレーの動作による停 止であり、ここに及んで、カスケード的な停電波及は避けられない事態になった、と中間報告では 分析されている。(図1-4参照) このようにFE社の送電線が連鎖的に停止したのは、①送電線路の樹木伐採が不十分で、潮 流は許容値の範囲内であったにもかかわらず樹木接触が連鎖的に発生したこと、②14:14 に警 報装置が故障したため、FE社はその後発生した事態に対して、周辺の系統運用者への連絡を含 めた適切な対応が取れなかったこと、③FE社の信頼度コーディネーター1であるミッドウェストISO

(Midwest ISO、以下「MISO」という。)の状態推定システム(State Estimator、SE)2に問題が発

生したため、MISOで状況把握ができず、適切な支援措置をとれなかったこと、に原因があるとさ れている。 システム上の問題があったにせよ、最初の送電事故より1時間あまりにわたって事態が放置さ れたことで、FE社の送電系統の連鎖的な停止が引き起こされ、16 時過ぎ時点で周囲に多大な影 響を与える事態にまで至ってしまったことになる。 1 第二部1−3.(2)②信頼度コーディネーターの項を参照 2 系統運用者が意思決定を行う支援システムの一部として、生の系統サンプル・データを基に、実際の系統の 状況を把握する系統状況解析システムであり、このデータを基にリアルタイム事故分析を行い、多様な状況変化 や事故の影響の分析を可能としている。

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図 1-4 関係する主要な送電線等

④Sammis-Star送電線 ③Star- S. Canton送電線 ②Hanna-Juniper送電線 ①Harding - Chamberlin送電線 StuartーAtlanta送電線 East Lake 5号機 ④Sammis-Star送電線 ③Star- S. Canton送電線 ②Hanna-Juniper送電線 ①Harding - Chamberlin送電線 StuartーAtlanta送電線 East Lake 5号機 (出所)NERC、“August 14, 2003 Blackout“、2003 年 11 月 19 日より作成 ③ カスケードの発生 16:05 にFE社の Sammis-Star34.5 万 V 送電線が停止してからさらに複数の送電線と発電所 が停止、16:10 過ぎからカスケード状に被害が拡大し、16:13 頃には停電の広域化が終了し、事 態は非常に短時間のうちに推移した。 オハイオ州近辺では南方からエリー湖周辺やミシガン州のデトロイト等へ向かって電気が流れ ていたが、16:09 前後にオハイオ州南部、西部から同州北部、ミシガン州東部への送電経路が断 たれた結果、これら地域には東方のペンシルベニア州北東部からエリー湖南岸に沿ったルートと、 西方のミシガン州、オンタリオ州を経てデトロイトに流れ込むルートの2つの迂回した電気の流れ が発生した。 16:10:36∼38 にはミシガン州内の送電線停止が進行するとともに、ペンシルベニア州とクリー ブランドが分離され、この2つの迂回した電気の流れも遮断された。これにより、16:10:38.6 には ペンシルベニア州からニューヨーク州、オンタリオ州を経てミシガン州東部・オハイオ州北部へと向 かう、エリー湖周辺を反時計周りに巡る大潮流が発生した。この影響でペンシルベニア州とニュー ヨーク州を結ぶ送電線が停止し、16:10:45 には東部系統がニュージャージー州北部、ニューヨー ク州、ニューイングランド地域、カナダの沿岸地域、ミシガン州東部、オンタリオ州の大半及びケベ ック州に跨る東部系統の北東地域とそれ以外の東部系統とに系統分離した。 その後分離した系統内で、さらにニューイングランド州の分離、ニューヨーク州の東西分離、オ ンタリオ州のニューヨーク州西部からの分離等複数の系統分離が起こり、16:13 までに需給バラ ンスを維持できなかったニューヨーク市などが停電に至った。一方、系統分離された結果需給バラ ンスが維持できたニューイングランド等は、停電を免れた。(図1-5参照)

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図 1-5 カスケードの推移

1) 16:06

2) 16:08:57

3) 16:10:37

4) 16:10:38.6

5) 16:10:39

6) 16:10:44

7) 16:10:45

8) 16:13

(出所)米加停電合同調査委員会、”Interim Report: Causes of the August 14th Blackout in the United States and Canada”、2003 年 11 月 19 日より作成 なお、以上の事態の推移において「系統分離」という言葉を使用したが、米国東部地域では系 統を分離して事故波及を最小限に止める「事故波及防止リレーシステム」に類する装置は設置さ れていなかったことが、今回の調査で明らかになっている。これは、東部系統は送電線が網の目 のように張り巡らされたメッシュ系統を構成しており、事故の影響を系統全体で吸収するという考 え方がとられていたためである。すなわち、今回の系統分離は、停電範囲を極小化すべく意図的 に行ったものではなく、設備保護を目的としたリレーシステムが作動し、他の地域から送電系統が 切り離されてしまった結果である。 いずれにしても 16:05 のFE社 Sammis-Star34.5 万 V 送電線の停止から、東部系統がニュー ジャージー州北部、ニューヨーク州、ニューイングランド地域、カナダの沿岸地域、ミシガン州東部、 オンタリオ州の大半及びケベック州にまたがる地域とそれ以外とに系統分離するまでに5分程度 であり、FE社やMISOから他の系統運用者に適切な情報が伝わっていなかった状況では対処は 困難であったことがうかがえる。

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1−2. 過去の停電との比較

これまで米国で“Blackout”と言えば 1965 年のニューヨーク大停電を指していた。1965 年 11 月 9 日に起きたこの停電は、規模で 2,000 万 kW 以上、約 3,000 万人に影響が及び、復旧まで に 13 時間を要したという歴史的な大停電であった。この停電は、カナダでの送電線停止により系 統が不安定化し、連鎖的に発電所が停止したことで、広域的な停電へと波及したものであった。 ニューヨーク市では 1977 年 7 月 13 日にも、規模にして約 600 万 kW、約 900 万人に影響が 及ぶ停電を経験している。この停電では復旧に 26 時間も要している。これは、ニューヨーク市が 元々発電所の立地が難しい上に地理的な制約もあり、供給信頼度の確保が難しい状況にあった 中で、34.5 万 V 送電線 2 回線が落雷により停止し、その後ニューヨーク市の送電系統が孤立化し たが需給バランスを維持できずに停電に至ったものである。 この他米国では、西部地域が 1996 年に2度大規模な停電を経験している。同年 7 月 2 日に起 きた大停電は、カナダから米国、メキシコに至る広域的な大停電となった。規模にして北米西部系 統の約 10%に相当する 1,185 万 kW、約 200 万人に影響が及んだ。この停電では地域により復 旧の早さに差が生じ、数分で回復した地域もあれば、最長では 3 時間半を要した地域もあった。こ の停電は、落雷により 34.5 万 V 送電線が樹木接触で停止したことに、保護リレーの誤動作も絡 んで発電所が停止したため、西部系統全体で周波数の低下が起こり 5 つの地域に系統が分離し て停電へと至った。 続く同年 8 月 10 日の西部地域の大停電は、規模にして 2,800 万 kW、需要家 750 万口が停 電の影響を被り、復旧に 9 時間を要した。これは、折からの豊水により、カナダから米国北西部、 カリフォルニアへ至る送電線が重潮流となっていた中で、50 万 V 送電線が樹木接触により停止し、 残る送電線が過負荷となったことで広域的な停電へと至ったものである。 こうしたこれまで米国が経験した停電と規模・時間を比較しても、今回の停電は最大規模のも のである。(表1-2参照)

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表 1-2 過去の主要な大停電(米国関係)

発生年月 停電の影響 停電電力、期間 原因 1965 年 11 月 9 日 北東部停電(ニュー ヨーク大停電) ニューヨーク州、マサチューセ ッツ州などの米国北東部6州 と 、 カ ナ ダ オ ン タ リ オ 州 の 3,000 万人に影響 2,000 万 kW 以 上 13 時間 保 護 装 置 の誤 動 作 によ る 1本 の送 電 線停止から、4本の送電線が連鎖停止 に至り、系統動揺が発生した。 1977 年 7 月 13 日 ニューヨーク市停電 ニューヨーク市の 900 万人に 影響 600 万 kW 26 時間 落雷により2本の送電線が停止したた め、オペレータが電力系統の維持を試 みたが、最終的に系統が分離し、ニュ ーヨーク市が発電量不足により系統崩 壊に至った。 1982 年 12 月 22 日 西部停電 西部地域の 500 万人に影響 1,235 万 kW 最長 3 時間半 強風により鉄塔が倒壊し2本の送電線 が停止したが、系統分離のための信号 遅延もあり系統動揺が起こり、過電圧・ 周波数低下で西部系統が4つに分離。 分離した系統のうち2つが周波数低下 で大停電に。 1996 年 7 月 2 日 西部停電 ワシントン州、カリフォルニア 州、テキサス州などの米国西 部 14 州と、カナダ、メキシコ の 200 万人に影響 1,185 万 kW 数分∼数時間 保護 装 置の誤 動作により送電 線が停 止し、これに連系していた 2 箇所の発 電 所が停 止。周 波 数 維 持 のために需 要家への電力供給が停止した。 1996 年 8 月 10 日 西部停電 ワシントン州、カリフォルニア 州、テキサス州などの米国西 部 14 州と、カナダ、メキシコ の 750 万口に影響 2,800 万 kW 9 時間 樹木接触による送電線停止を機に、残 りの送 電 線が連 鎖 的 に過 負 荷 停 止し 系統動揺が発生。西部系統が4つに分 断され、多くの発電所と電力供給が停 止した。 1998 年 6 月 25 日 オン タ リオ・ 米 国 中 北部停電 ミネソタ州、モンタナ州などの 米 国 北 部 5 州 と 、 オ ン タ リ オ 州 な ど カ ナ ダ 3 州 の 15 万 2000 人に影響 95 万 kW 19 時間 落雷により基幹送電線が2本停止し、 下位系統の送電線に連鎖的な過負荷 停止が発生した。 2003 年 8 月 14 日 北東部停電 ニューヨーク州、ミシガン州な どの米 国 東 部8州と、オン タ リ オ 州 な ど の カ ナ ダ 2 州 の 5,000 万人以上に影響 6,180 万 kW 43 時間 オハイオ 州 北 部 の1本 の 送 電 線 停 止 (樹木 接 触)を機に、周辺 の送 電線 が 連鎖的に過停止。これにより系統動揺 が発生し、系統分離と周辺の発電所が 連鎖停止することで停電へ至った。

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2. 米国電力供給体制の概要

米国の電力供給体制は、我が国のそれと大きく異なっている。大きな特徴は、①事業者数が多 い、②地域により供給体制が大きく異なる(及び規制権限が州と連邦に分化している)、③自由化 に伴い供給体制が複雑化している、という点であり、今回の北米北東部停電を考察する上でもこ れらの点を踏まえることが重要である。以下ではこれら諸点について簡単に整理することとする。

2−1. 米国電力供給体制の特徴

(1) 数多い電気事業者 我が国では、従来、発電部門から送電、配電、小売事業まで地域内でほぼ一貫して営む 10 社 の一般電気事業者が、電力供給の太宗を担ってきた。しかし、米国では、このような規模が大きく、 かつ発電から小売までを地域内でほぼ一貫して営む電力会社は少ない。近年M&Aにより規模 の大きい電力会社が増えたものの、供給地域が分散していたり、いずれかの部門のウェイトが大 きいケースが多い。 さらに、州や市、郡などが所有する公営電気事業者や地元住民の共同出資で運営される協同 組合営電気事業者という形態で、配電設備(場合によっては発送電設備も)を所有し、小売供給 を行っている地域も多い。私営電気事業者は 2002 年時点で 230 社あるが、その一方で連邦営 電気事業者が9社、公営電気事業者が 2,012 社、協同組合営電気事業者が 882 社あり、電気事 業者全体では 3,100 社を超える事業者がいる状態である。ただし、規模で見ると日本の電力会社 に相当する私営電気事業者が、送電設備の 7 割を所有しており、小売供給の大半を担っている (図2-1参照)。

図 2-1 米国電力供給体制の概要(北東部地域)

B電力会社 C公営会社 【発電部門】 【送電部門】 【配電部門】 【供給部門】 D発電会社 ISO(独立系統運用者)の設置 A電力会社 A電力 会社 E電力会社 (2) 供給体制の地域的多様性と州と連邦の規制権限 米国は、①北西部は水力が多いが、東部には石炭火力が多い等、地域毎にエネルギー資源 の賦存状況が大きく異なること、②需要規模や密度も地域によるバラツキが大きいことなどから、 地域より供給体制は大きく異なっている。これら諸条件の地域的差異により、電気料金の内々価 格差は我が国よりはるかに大きく、家庭用料金水準を見ると最も安いケンタッキー州の 5.65 セン ト/kWh と最も高いハワイ州の 15.63 セント/kWh(米国本土ではニューヨーク州の 13.58 セント

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/kWh)の間で 2.77 倍の開きがある。3 このような諸条件の違いに加え、米国の電気事業規制は州が中心となって行って来た歴史的 経緯があり、州をまたがる電力取引とそれを支える送電設備は連邦の規制(連邦エネルギー規制 委員会)に属するが、電力会社の事業形態をはじめとして、それ以外の多くの規制は州の規制機 関(公益事業規制委員会)が担っている。このため、州の規制権限に属する小売自由化について も、積極的に小売自由化を推進している州と、慎重な対応を行っている州、カリフォルニア州等の 自由化の状況を見て作業を中断している州、そもそも自由化を推進していない州とに対応が分か れている(図2-2参照)。 米国では州と連邦の規制権限が交錯していることから、連邦エネルギー規制委員会(Federal Energy Regulatory Commision、以下「FERC」という。)が連邦大で送電部門の改革を行おうと しても、州の規制機関の反対により、地域より実施状況が異なるという状況も起こるという我が 国では想像しにくい状況を生み出している。

図 2-2 州別小売自由化実施状況

(注)図中”Restructuring Active”となっている州で小売自由化が実施されている。 (出所)DOE EIA、http://www.eia.doe.gov/cneaf/electricity/chg_str/regmap.html (3) 自由化による供給体制の変化 近年の電力規制改革により被規制部門と自由化部門を別会社化する事例も多く、持株会社の 下に様々な子会社が所属している形態が一般的である。(図2-1、図2-3参照) 特に今回の停電 で影響の大きかった米国の北東部地域は自由化が進められている地域であり、公平性の確保や 広域的な電力流通を確保するため、送電部門では非営利で送電設備を所有せずに広域的に系 統運用を行う独立系統運用者(Independent System Operator、以下「ISO」という。)を設置し、

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小売部門の自由化を実施している州が多い。この小売自由化に伴い発電所の売却を行うケース もあり、独立系の発電事業者という形態も見られる。これら自由化の動きに伴い、新規参入の発 電会社・小売供給会社4が登場しており、供給形態が大きく変化し、複雑化しているのが最近の大 きな特徴になっている。

図 2-3 自由化に伴う体制の変化

発電所 発電所 発電所 送配電設備 需要家 供給部門 独占供給 発電所 発電所 発電所 送電会社(送配電設備の所有) 供給会社(LSE) 発電会社 他社所有 新規参入 供給会社(LSE) 分 社 化 需要家 自由化以前 現状 競争状態 私営電力会社 運用はISO (独立系統運 用者)に移管

(注)LSE:load Serving Entity(負荷供給事業者)の略で、米国における小売事業者の呼称。

2−2. 米国における系統運用体制 (1) 信頼度協議会と自主規制方式

1965 年のニューヨーク大停電を契機として、1968 年に北米信頼度協議会(North American Reliability Council、以下「NERC」という。)が設立された。NERC は 10 の地域信頼度協議会を 会員とする協議会であり、電力系統の信頼度を確保するための基準を策定している。(図2-4参 照 ) 。 具 体 的 に は 、 「 系 統 運 用 方 針 ・ 設 備 計 画 策 定 基 準 ( Operating Policies & Planning Standards)」という形で、系統運用者が果たすべき「諸手続き」を中心に取りまとめており、NER Cが標準的なルールを策定し、各地域信頼度協議会が地域毎の事情を反映させたルールを策定 する、という流れをとっている。 このルールは、拘束力のない業界自主ルールであり、これを関係者が遵守することで安定的な 電力供給を達成する、という枠組みとなっていた。しかし、電力規制改革の進展に伴い、系統運 用を行う主体と設備形成を行う主体が分化したり、系統運用機能自体も分化したり、と供給体制 が「機能分化」の傾向にあるため、この自主規制において「誰がどういったルールを守るのか」とい った責任の所在と役割をより明確化する必要性が高まっている。このため、昨年(2003 年)11 月 に審議未了となった包括エネルギー法案(Comprehensive Energy Bills)」でも信頼度基準への 法的拘束力の付与が盛り込まれており、NERCはこれに合わせた組織改革及びルールの見直し を行っている。

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図 2-4 北米電力系統と信頼度協議会

(注)NPCC:北東電力協調会議、MAAC:中部大西洋地域協議会、ECAR:中東地域信頼度協調協定、SERC: 南東電力信頼度協議会、MAIN:中部アメリカ相互プール網、SPP:南西電力プール、ERCOT:テキサス電 力信頼度協議会、MAPP:中部大陸地域電力プール、WECC:西部電力協調協議会、FRCC:フロリダ信頼 度協調協議会 (出所)NERC、“August 14, 2003 Blackout“、2003 年 11 月 19 日 (2) 北米電力系統の特徴 ① 数多い制御区域 北米の電力系統は、東部系統、西部系統、テキサス(ERCOT)系統の3つに分かれており、西 部系統、テキサス系統は、それぞれ地域信頼度協議会のうち、西部電力調整委員会(WECC)、 テキサス電力信頼度協議会(ERCOT)に対応している。残る8の地域信頼度協議会はすべて東 部系統に属する(前掲図2-4参照)。 実 際 に 、N ER Cの 定 め る 信 頼 度 基 準 に 従 って 送 電 設 備 を 運 用 す る 主 体 は「 系 統 運 用 者 (System Operator)」で、系統運用者の管轄する地域を「制御区域(Control Area)」と呼ぶ。この 制御区域の分布は図2-5のとおりであり、北米系統はおおよそ 140 の制御区域に分かれている。 これを見ると、特に中西部地域(MAIN・ECAR)で制御区域が細かく分かれていることがわかる。 今回の停電で大きな影響を持ったFE社はこの中西部地域の系統運用者の1つである

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図 2-5 制御区域の状況

(出所)NERC、“August 14, 2003 Blackout“、2003 年 11 月 19 日 ② 信頼度コーディネーターの存在 同期系統内では電力会社間で電気の取引が行われ、また事故が発生した場合に影響が伝播 することもある。したがって、隣接する系統運用者は互いに密接な協力を行う必要があるが、この 協力をサポートし緊急時には広域的な視点から対応を行う主体として、NERCは信頼度コーディ ネーター(Reliability Coordinator)を設置している。現在、信頼度コーディネーターは図2-6のと おり 18 の主体が担っている。ほぼこれがISOの概念に相当するものであるが、さらに広域的な対 応を行うため、地域送電機関(Regional Transmission Organization、以下「RTO」と呼ぶ。)とい う概念も導入されている。

今回の停電で大きな影響を持ったMISOは、この中西部地域の信頼度コーディネーターの1つ であり、現在このMISOとPJM ISOのみが、FERCからRTOとしての指定を受けている。

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図 2-6 信頼度コーディネーターの責任エリア

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3. 米国における背景と考察

3−1.米加合同調査委員会中間報告書

米国・カナダ両国政府は、今回の停電の原因究明及び今後の対応方針の検討のために合同 調査委員会を設置し、関係者・団体からのヒアリングや資料収集を通じた事実関係の整理と、系 統シミュレーション分析を通じた要因分析等を行い、2003 年 11 月 19 日に中間報告書(”Interim Report: Causes of the August 14th Blackout in the United States and Canada”)をとりまとめ て公表した。 同報告書では、事故発生直前までの系統状況の把握及び停電の広域波及に至った事象の時 系列的整理を行った上で、今回の停電の原因分析を行っている。また、停電したエリアにあった 原子力発電施設は、すべてプラントの保護機能が正常に作動して停止されたこと及び今回の事 故原因としてテロ行為の関与の兆候は見出されていないことが明らかにされている。 なお、同報告書は、事故に至った経緯等を明らかにするという位置づけのものであり、今後に 向けた政策提言等についての記述はない。これらは、今後まとめられることとなっている最終報告 書で明らかにされる予定である。 (1) 停電の直接的原因 今回の停電の原因は、直接的には 15 時頃から発生した一連の送電線事故にあるとしている。 前 述 の と お り ま ず 15 : 05 に オ ハ イ オ 州 北 部 の 電 力 会 社 F E 社 の 所 有 ・ 運 営 す る Harding-Chamberlin 34.5 万 V 送電線が樹木接触により停止してから、16:05 までに合計 34.5 万V送電線4本と下位の 13.8 万V送電系統 16 本が連鎖的に停止していった。この段階で東部系 統には対応が困難な影響が生じ、その後のカスケード的な停電の波及に至ったと分析されてい る。 中間報告では、このような一連のFE社送電線の停止をもたらした原因を、以下に述べる①FE 社の不適切な状況把握、②FE社の不十分な樹木伐採、及び③信頼度コーディネーターの不適 切な判断支援の3点だと整理している。 (2) 三つの原因 ① FE社の不適切な状況把握 今回の一連の事象の直接的な要因となった事象として、FE社が適切に状況を把握していなか ったことが挙げられている。事故当日、同社のシステムに不調があり警報装置が正常に作動しな かった上、同社のコントロールルームには系統全体が監視できる系統監視盤がなかったため、運 転員は系統の状態を視覚的に認識できなかったことが指摘されている。このため、FE 社は、系統 運用者でありながら、送電線が樹木と接触して使用不能になったことを的確に把握していなかっ た、という事態となっていたとされている。 さらに、同社の系統運用者が的確に状況把握できなかったことは、単に系統運用上必要な対 応の遅れを招いたことにとどまらず、隣接する区域の系統運用者との連絡調整を阻害することと なり、ひいては一連の停電の広域波及が始まるに至った一因になったとされている。 なお、このシステム不調については、システム自体の不備(バックアップシステムの不調)に加え て、システム再起動後のチェックの不備や社内連絡体制の不備などの問題が指摘されている。

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② FE社の不十分な樹木伐採 FE社所有の送電線が樹木と接触し、使用不能となったことが一連の停電カスケードのスター ト・ポイントとされている。FE 社は年2回各送電線を上空から巡回しており、2001 年、2002 年の 巡回では、伐採や選定の必要のある樹木を多数確認している。しかし、本来5年に1度伐採され ることになっている樹木が、実際には適切に伐採されていなかったため、送電電力の増加に起因 する送電線の「たわみ」により、接触事故が発生したものである。送電電力の増加が許容値の範 囲内にあったにもかかわらず、15:05 に Harding-Chamberlin 34.5 万 V 送電線が、15:32:03 に Hanna-Juniper34.5 万 V 送電線が、15:41 に Star-South Canton 34.5 万 V 送電線が、いずれ も樹木接触で停止したことが問題視されている。

図 3-1 送電線周囲の状況の影響

(出所)NERC、“August 14, 2003 Blackout“、2003 年 11 月 19 日

図 3-2 Hanna-Juniper 送電線の樹木接触

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③ 信頼度コーディネーターの不適切な判断支援 北米北東部はメッシュ状の系統を構成しており、系統の状況把握のために取り込まなければな らない系統データが多くなるため、経済性等の観点から、状態推定システムに一部の系統データ を取り込み、それを基に系統全体の状況を推定、把握している。この場合、自らの管轄エリアの 送電線情報はもちろんのこと、管轄エリア外の送電線情報についても状態推定システムに取り込 む必要がある。しかし、FE社の信頼度コーディネーターであるMISOの状態推定システム(State Estimator、SE)はまだ整備の途上にあり、一部の送電線情報を取り込んでいなかったことからシ ステムの信頼性が低く、結果として系統状況の認識に不備が生じたことが指摘されている。具体 的には、DPL(Dayton Power & Light)社が運用する Stuart-Atlanta34.5 万 V 送電線5の停止が

状態推定システムにデータとして取り込まれず、この送電線が 14:02 に停止した際、状態推定シ ステムでの計算に不整合が生じ、さらに、その結果に対する判断ミスが重なったことで、その後の 対応を遅らせる結果となった。 また、MISOは Stuart-Atlanta34.5 万 V 送電線の停止に関して、当該送電線の信頼度コーディ ネーターであるPJM ISOとの連絡体制・協調体制に不備があり、十分に情報交換や連携が図 れなかったことも指摘されている。図3-3に示されるように信頼度コーディネーターとしての責任エ リアがMISOとPJM ISOとで入り組んでおり、その必要性と重要性が高かったであろうことがう かがえる。

図 3-3 エリー湖周辺の電力供給体制

(出所)NERC、“August 14, 2003 Blackout“、2003 年 11 月 19 日 5 AEP社とDPL社の共同所有。PJM ISOが信頼度コーディネーターになっている。

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表 3-1中間報告書での事故原因の整理

グループ1:ファーストエナジー(FE)社の不適切な状況認識 ・ FE社は平常時から十分な想定事故解析を実施しておらず、事故発生後に信頼度を維持できなかった。 ・ FE社は、運転員が重要な監視ツールの作動状況に常に注意を払うための手順を定めていなかった。 ・ FE社は監視ツールの修復後、その作動状況を確認する効果的な手順を定めていなかった。 ・ FE社はメインの監視アラーム装置が故障した場合に監視員が送電系統の状況を把握するための、視認性 の高い補助的な監視ツールを具備していなかった。 グループ2:送電線路周囲での不十分な樹木管理 ・ FE社は送電線路周囲での樹木管理を十分行っていなかった。 グループ3:信頼度コーディネーターの不適切な判断支援 ・ MISOの状態推定システム(State Estimator)がデータ・エラーのため機能しなかったため、FE社の問題を 早期に把握できず、結果として同社に対する情報提供支援ができなかった。 ・ MISOのフローゲート監視にリアルタイムデータを使用していなかったため、FE社の(N-1)基準違反を発見 できなかった。 ・ MISOは送電線停止の発生箇所の特定とその重要性を判断する効果的な手法を有していなかったため、 重大な送電線停止の把握が遅れた。 ・ PJM ISOとMISOは、両者の管轄区域の境界付近で発生した問題を調整するための手順や規定を定め ていなかった。 (出所)NERC、“August 14, 2003 Blackout“、2003 年 11 月 19 日より作成 (3) 中間報告書の見方と間接的要因 以上のように、中間報告書では、FE社及びMISOの過失又は不作為を、今回停電が広域に波 及した直接的な原因だとしている。特に原因として挙げられている上記3項目のうち①と③はNE RCの定める信頼度基準に対する違反であり、FE社とMISOが遵守していれば問題は生じなかっ たという見方をしている。 また、事故当日の気温や需要パターンは特異なものではなかったとしており、FE社の送電線停 止前にもあった発電所の停止等は、分析の結果、直接的な停電の原因と見なすことはできないと 明記している。その一方で事故発生当初話題となっていた送電設備の不備(送電設備への投資 が十分でない、送電線の老朽化が進んでいる等)や規制改革との関係といった問題は、事故の 直接的な原因ではないこともあり、今回の中間報告書では明記されていない。

3−2.関係者との会合の結果

(1)調査の主旨 北米北東部停電の調査を実施するため、学識経験者、業界関係者及び政府関係者からなる 専門家調査団が、学識経験者(経済学者W.ホーガン教授)、関係事業者・団体(NERC、ニュー ヨークISO、PJM ISO)及び政府関係者(議会関係者及び規制当局(FERC))を訪問した。 訪問先では停電した地域の元々の設備形成の考え方や停電時の対応を含む系統運用の実態 を把握するとともに、報告書の記述内容からさらに踏み込んだ事故前後の詳細な状況の確認や 今回の事故に対する関係者の考え方等を聴取し、今回の事故の直接的な原因のみならず、その 背景となった要因を見極め、もって我が国電気事業に生かすべき教訓の把握に努めた。これに加 え、会期終了につき審議未了となった包括エネルギー法案の審議への影響についても聴取し、今 後の米国における電気事業に係る政策の展開の方向性を探った。 調査は米加合同調査委員会の中間報告書の公表に合わせて行われ、2003 年 11 月 19 日∼ 11 月 26 日に実施された。

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(2)共通認識(停電に関する基本的な考え方) ① 停電の原因に関する考え方 今回の調査で訪問した関係者の認識は、ほぼ中間報告書の内容に沿ったものであった。すな わち、 ・事故の直接の原因はFE社及びMISOという個別の事業者による過失・不作為に起因する ものであり、 ・これにより事態が制御困難な状況になるに至って、広域停電という結果となったもので、 ・停電発生当初に指摘されていたような送電設備投資の不足や小売自由化をはじめとする 電力規制改革との関係は薄い、 という見方で概ね一致していた。規制改革に伴い電力取引の広域化など従来は見られなかった 変化は生じていたが、それに合わせた規則・運用ルールの対応が行われており、概して現行のシ ステムに大きな欠陥がある訳ではなかったとして、何よりもルールが遵守されていなかったことが 問題だという見方である。むしろ、電力規制改革の完成こそが再発防止策との意見もあった。 今回の調査では、問題があるとされたFE社とMISOの訪問が実現しなかったため、これら当事 者の考え方は直接確認できていないが、それでも当初多くの関係者が指摘していたような送電線 投資の問題や電力規制改革との因果関係については、概ね否定的な見解が示された。 ② 停電の広域波及に関する考え方 今回の調査では、停電の原因のみならず停電が広域に波及した問題についても意見を聴取し た。我が国では、原則として電力会社間は一点のみで連系されており、万一の場合、その連系を 断つことで事故等の影響を他の電力会社のエリアには波及させないような設備形成と運用が行 われているし、一電力会社の供給区域内でも事故が発生した系統を分離することで、停電の範囲 を極小化するような措置が講じられている。米国では、なぜこうした停電波及が防止できなかった のかを明らかにすることがその意図である。 米国東部地域は、電源と需要地が適当に分散しており、電力会社の供給区域も相互に入り組 んでいることから、電力系統は送電線が網の目のように張り巡らされたメッシュ系統を構成してお り、電力会社間も多点連系されている。こうしたメッシュ系統では、系統規模が大きくなればなるほ ど、送電線事故や発電所の停止といった事故の影響を系統全体で吸収することで停電が発生し にくい構造となっており、その限りにおいては事故に強い構造となっている。したがって、米国の東 部地域では、事故が発生した場合に影響を極小化する日本のような「系統分離」の考え方の導入 も検討はしたが、結論としてその採用を見送っていたとのことである。しかし、一定レベル以下での 事故に対しては強みを発揮するメッシュ系統は、一度それを超えた事象が発生するとバランスが 大きく崩れ、系統全体に影響が波及するという危険もあり、今回はまさにそれに該当したものであ る。6 しかし、各関係者とも、FE社及びMISOの過失・不作為により生じた今回の事態(FE社送電線 の一連の停止)は、想定を超えたまれな事象であり、これに対してまで対応可能な設備形成は 「可能であるが高価過ぎるので考えていない」という立場をとっている模様である。 6 一方我が国では、電力会社の送電系統間がほぼ一点のみで連系されており、連系容量は限定されるが、一 定規模の事態が起きた場合には連系線が遮断され、他の電力会社の送電系統へ影響が波及しないような設計 で設備形成が行われてきている。

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(3)政府関係者の認識(包括エネルギー法案への影響) 残念ながら、今回の調査ではエネルギー省への訪問は議会スケジュールとの調整がつかず実 現しなかったものの、米国におけるエネルギー規制改革を進めている連邦エネルギー規制委員 会(FERC)や包括エネルギー法案の審議に直接関わっていた議会関係者を訪問することにより、 政府関係者が今回の停電をどのように受け止めているのかを把握することができた。 ① 停電事故の捉え方 FERCは、停電の背景となった信頼度低下の要因として、インフラ整備の遅れと、系統運用者が 自らの系統のみを見ており送電ネットワーク全体を見ていないことを指摘している。インフラ整備 について言及したのは、今回の訪問先で唯一FERCのみである。ただし、インフラ整備の遅れの 理由を規制改革の移行期間が長く続いたことによる事業の不確実性に求めており、結果として今 後信頼度を確保するための方策として、 ・ 市場構造改革の完成、 ・ 系統に関する情報公開による、公正・透明な市場の形成、及び、 ・ 信頼度基準遵守の義務づけ を挙げている。FERCは、総じて後述する包括エネルギー法案等を通じて進めようとしていた諸政 策の正当性が今回の停電事故で証明されたと捉えており、包括エネルギー法案そのものは審議 未了となったものの、この機会を捉えて、公聴会の開催などにより、自らの政策実現のための現 実的な解を探ろうとしているとの印象を受けた。 ② 包括エネルギー法案を巡る動き 元々2001 年 7 月にブッシュ政権より提案された包括エネルギー法案は、上・下院で内容が食 い違ったため両院協議会で調整が行われ、その調整案が下院で可決されたものの、第108議会 第一会期末までに上院での可決には至らなかった。 同法案の電力関連部分では、これまで業界の自主基準にとどまっていた信頼度基準に対する 法的強制力の付与(FERCの監督下で強制力を有する信頼度基準を作成・監視する電力信頼度 機関(Electric Reliability Organization、以下「ERO」と呼ぶ。)の創設、具体的には現在任意団 体として活動しているNERCが当該機関となることが想定される。)や送電線建設に関する連邦 権限の強化、公益事業持株会社法(PUHCA)の廃止等がポイントとなっている。 ここで示された電力関係の対策は、今回の停電事故でその必要性がより明らかになったとの見 方こそあれ、停電を踏まえて見直さなければならないといった指摘はなかったようである。法案は 既に対応策を織り込んだものと見なされており、事故後においても特に大きな争点とはならず、大 きな内容の変更もなかった。むしろ、停電事故を踏まえて、どの議員も電力に関してはしかるべき 対応が必要と考えるようになった結果、膠着状態にあった法案審議が再活性化される効果があっ たとのことである。 そして、一時は電力関連部分だけでも切り出してその成立を急ぐべきといった動きも見られたが、 同法案を巡っては、共和党・民主党間の対立構造だけでなく、連邦主導の規制改革に従って改革 を進めている地域(主に北東部)と州の自治を尊重して独自の路線をとっている地域(主に南東部、 北西部)という地域間の対立構造もあり、利害が複雑に錯綜していたために法案の切り分け方が 難しかったことから、結局電力関連以外の部分も含む全体がパッケージとなったまま審議が続け られ、最終的に可決に至らなかったものである。

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③ 信頼度の確保について(信頼度基準への法的拘束力付与) 米国で「大停電」というと、これまでは 1965 年のニューヨーク大停電を指すことが多く、いわばこ れが米国における停電の代名詞となっていたが、この停電を教訓として、米国及びカナダの両地 域をカバーする形で、1968 年に任意団体として北米信頼度協議会(NERC)が設立され、統一的 な信頼度基準の作成・監視等を行うこととなった。しかし、実際のルール監視等はNERCの会員 である 10 の地域信頼度協議会ごとに行われているにとどまっており、中央で一元的に実施されて きたわけではなかった上、あくまでも任意団体の自主的な信頼度基準であり、何ら法的拘束力は 有していなかった。 PJM ISOの場合のように、系統運用者と事業者の間であらかじめ協定を結び、信頼度基準 の遵守を当該協定上の義務とすることもあるが、一般には自主的に基準を遵守するという形にな っているため、違反に対して明確な形でペナルティをかけることができないでいるのが現状であ る。 前述のとおり包括エネルギー法案では、FERCの認可の下でNERCをEROへ改組するのに伴 い、このNERCの信頼度基準に法的拘束力を付与することを規定していたが、法案は審議未了 で可決に至らなかった。しかし、FERCは信頼度基準遵守の義務化は、信頼度確保の観点から、 暫定的なものであっても早急に推進していくことが必要と考えており、議会から信頼度強化のため の予算が認められていることを根拠として、NERC等と協力しながら、法案成立に先行させて検 討を進めていくこととしている。実際に 12 月には関係者を集めたコンファレンスが開催され、信頼 度基準への法的拘束力の付与の必要性が強調されるとともに、活発な議論が行われている。 さらにFERCとしては、まずはこれまで進めてきている規制改革を完成させることが重要であり、 系統に関する情報を公開し、公正・透明な市場を作ることが、信頼度確保につながる今後の対策 だとしている。 ④ 標準市場設計

包括エネルギー法案では、標準市場設計(Standard Market Design、以下「SMD」という。)の 凍結が規定されている。SMDは、効率的で活発かつ競争的な卸電力市場の構築を目指し、公正 で開かれた送電システムの下での信頼性の高い電力輸送と電力調達のための効率的な価格シ グナルの形成及び安定した市場メカニズムの開発を行うものであり、その凍結により、これまでの FERCの大きな課題でありSMDの根幹をなす地域送電機関(RTO)設立の推進や、SMDによる 全米大でのルールの統一化を巡る今後の動きが注目された。 これに対して、FERCや今回訪問したハーバード大学のホーガン教授は、むしろ今回の動きを、 議論が停滞している感のあったSMDを見直し、議論を再び活性化させる契機であると肯定的に 捉えている。どちらも、最終的には現在進めている構造改革の形(具体的にはRTOの設立やSM Dに基づく電力市場ルールの統一)に落ち着くはずであると認識しており、その方向性自体が大き く変わるものではないと考えているようである。 (4) 関係事業者・団体の認識 ① 中間報告書の評価 関係事業者・団体としてはNERC、ニューヨークISO(NYISO)及びPJM ISOを訪問した。米 加合同調査委員会に係る作業の関係者であったこともあり、上述のとおり原則的には中間報告 書の内容を支持するコメントが聞かれた。 NERCは系統運用者の規則に関わる団体であり、ISOは設備を所有しない系統運用者だとい

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うこともあり、今回の聴取内容は概して系統運用面の視点からの意見が強かった。停電後にマス コミ等を通じて送電設備投資不足の問題が取り沙汰されたが、NERCやPJM ISOは、今回の 事故はあくまでもルールが守られなかったことで発生したものであるとして、そうした見方を否定し た。むしろ、系統運用の当事者は与えられた設備で信頼度を維持しながら運用することが責務で あり、送電線の利用率が建設当初の想定より高くなっている傾向にあることは事実であるが、そ れに応じたルールも整備しており、設備に問題はなかったという見解であった。 なお、審議未了となった包括エネルギー法案で示されていた信頼度基準への法的拘束力の付 与等の考え方については、いずれも賛成の意を示していた。特にPJM ISOの場合は、前述のと おり系統運用者と事業者の間であらかじめ協定を結び、信頼度基準の遵守を当該協定上の義務 としてきただけあって、むしろFERCがその方法を採用したといった捉え方をしており、相応の自信 がうかがえた。 ② 停電の教訓 事業者サイドでは、今回の停電を踏まえた教訓として、的確な状況把握を行うシステムの充実 と、関係者間のコミュニケーションに係るツールとルールの整備を挙げている。 前者については、具体的な例として系統状況を視覚化するツールを挙げている。これは、現在 のシステムでも必要な情報を得られないわけではないが、系統に係る情報は膨大なため、特に緊 急時においては必要な情報が的確に運転員に示されることが重要であり、そういった運転員の判 断を支援する機能が十分には整っていないことに由来する。今回の訪問先ではなかったが、Felix Wu 香港大学教授(元カリフォルニア大学バークレー校教授)は、こうした状況をDataは十分にあ ったがInformationはなかった、と言い表している。 後者の問題は、今回の停電で実際に問題となったことでもあるが、必ずしも系統運用者間又は 系統運用者と事業者間のコミュニケーションが十分ではないという事実に由来する。この問題はさ らに2つの要素に分けられ、1つ目は、NERCが構築している各事業者からの情報を一元的に集 め公開するシステムが、必ずしも緊急時対応に耐えうるシステムとは言い難いものであること、今 回のような緊急時においても電話が主な通信手段であったことといった設備に係る問題であり、2 つ目は、系統利用に関する用語・術語が統一されていないために緊急時の情報交換に支障が生 じたこと、そもそも異常発生時の関係者間の協調体制に関するマニュアルが適切に整備されてい なかったことといったソフト対応の問題である。 今回のような事故の場合は、隣接している地域の事業者の情報が相互に的確に把握されてい なければ適切な対応をとることは不可能であり、この的確な状況把握と関係者間のコミュニケー ションという2つの問題は互いに密接に絡んでいる。更に言えば、系統運用者は平常時には基本 的に自ら管理する系統の情報しか収集していないが、ある程度隣接地域の情報も直接入手して いた方が良い、との考え方もある。 このため、系統運用者としては、運転員がより的確に系統の状況を把握するための情報収集・ 表示システムの改良が必要との考えを示していた。また、今後の対応として隣接するエリアの系 統運用者との間で連絡を密に取り、相互にシステムをリンクさせる等により、ある程度はあらかじ め隣接地域の系統状況についても把握するようにすることを検討しているようである。7 さらに、N ERCにおいては、系統利用に関する用語・術語を信頼度基準ルールのように統一化することによ り、コミュニケーションをとりやすい環境を整備すべく検討を行っているとのことであった。 7 PJM ISOとMISOは 12 月に東部系統全体を把握可能な状態推定システムの導入を完了した、という報道 があった。(2003 年 12 月 17 日付けPJM ISOプレス・リリース、2004 年 1 月 15 日付けMISOプレス・リリース)

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(5) 学識経験者の認識 今回の調査ではハーバード大学のW.ホーガン教授を訪問し、停電に対する見方やその他の 動きについての意見も聴取した。ホーガン教授も、現在の系統には致命的な欠陥があるわけでは なく、事故原因は一義的には事業者の過失であるとする中間報告書の内容を、基本的に支持し ていた。 しかし、政府関係者・事業者と若干異なっていたのは、こうした事故の起きた背景として、現在 の系統は一応安定的に運用されているといえる状況ではあるものの、その安定性は非常に危う いものであったのではないか、という考え方を示したことであった。具体的には、ビルの屋上の端 に立っていながら自分の重心は建物の内側にあるから大丈夫、と言っているようなもので、危険 な「安定」である、という表現でその問題を指摘した。その本質は、信頼度にかかる技術的規則 (reliability rule)と経済性にかかる商業的規則(commercial rule、例えばSMD)は別々のもので はなく、商業的規則に従って利潤を追求する結果が信頼度の向上にもつながるような制度設計が 必要である、というところにある。

そして、ホーガン教授は安定的なシステムに改善するためにも地点別限界価格(Locational Marginal Pricing、LMP)を基礎としたエネルギー市場の導入が必要であるとし、FERCの進める RTO・SMD構想を支持するとしていた。

図  1-2 停電による影響(衛星からの夜景の変化)  8月13日夜 8月14日夜 (出所)Platts、http://platts.com/features/poweroutage/index.shtml  表  1-1 停電の主要な経緯  日時  事象  14 日 13:31 頃  ・  米オハイオ州ファースト・エナジー(FE)社の East Lake 石炭火力発電所5号機が 過励磁で停止        15:05∼16:05  ・  FE社の複数の 34.5 万 kV 送電線(クリーブランド近郊)が樹
図  1-3 カスケード前の主要事象  12:00 13:00 14:00 15:00 16:00 第一段階:通常の夏の午後 12:15-14:14 第二段階:FE社コンピュータ故障14:14-15:59 第三段階:FE社34.5万V送電線で事故15:05-15:57 第四段階:13.8万V系統の崩壊15:39-16:08 系 統 事 故 コ ン ピ ュ ー ター事故 人 的 ミ ス Eastlake発電所5号機停止13:31 Stuart-Atlanta34.5万 送電線停止(樹木接触)14:02 St
図  1-4 関係する主要な送電線等  ④Sammis-Star送電線 ③Star- S. Canton送電線 ②Hanna-Juniper送電線①Harding - Chamberlin送電線 StuartーAtlanta送電線 East Lake 5号機 ④Sammis-Star送電線③Star- S
図  1-5 カスケードの推移
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