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米国の電力供給体制

ドキュメント内 北米東部大停電調査中間報告書(案) (ページ 45-53)

第二部 米国の電力供給体制と停電の経緯(参考資料)

1. 米国の電力供給体制

1−1. 規制の構造

米国における電気事業規制は、州と連邦とで権限が交錯しており、電気事業の規制改革も州 と連邦とで異なる動きを見せることもある。このため、複雑な様相を呈しているが、州をまたがる取 引については連邦、州内取引については州の管轄というのが原則である。

具体的に発電所の許認可は、火力発電所が州、水力発電所・再生可能エネルギーは連邦規 制委員会(FERC)、原子力発電所は原子力規制委員会が行う。送電部門については、州をまた がる取引はFERCの管轄、州内部の取引は州の規制となっており、また送電線に関わる経済的 側面、つまり送電線使用料金及び広域的な卸電力取引に関してはFERCの管轄になっているも のと理解されている。配電部門・小売部門は、州内取引であるため、州の管轄である。

このように規制構造が入り組んでいるため、同じ地域であっても、複数の州にまたがった卸電 力取引及び送電線の運用を中心とした自由化への取組みと、各州の小売部門の自由化とは異 なった動きを示す場合が多い。

1−2. 規制改革の歴史

米国における電力規制改革は、1978 年の公益事業規制法(PURPA)が成立したことに始まる。

他産業において進行し成功を収めつつあった規制改革が電気事業にも波及し、発電分野に新規 参入(再生可能エネルギー等)が拡大した。

次いで 1992 年 10 月、カーター政権の下でエネルギー政策法(EPAct)が成立し、FERCの権 限を規定した連邦動力法(FPA)改正によりFERCの託送命令権限を強化するとともに、州をまた がる電気事業に証券取引委員会の規制を課した公益事業持株会社法(PUHCA)改正により独 立発電事業者(Independent Power Producer、IPP)の複数州活動規制の緩和を行った。

1996年4月、FERCはオーダー888・889を決定し、米国の電力規制改革は本格化する。送電 線の開放並びに非差別利用を保証するための情報ネットワークの構築が義務付けされ、独立系 統運用者(ISO)8の設置、卸電力取引が広域化していく。一方、州の権限に任されていた小売部 門でも、1998年3月に、マサチューセッツ州、カリフォルニア州で全米初の小売自由化がスタート する。

1999 年 5 月には、FERCが送電線を所有・運用制御する全ての電気事業者に自主的に地域 送電機関(RTO)に参加することを求める規則案を公示した後、1999年12月にオーダー2000と いう名前で公布し、2000年10月にはISOが設立されていない地域の事業者のRTO設立申請が 出揃った。さらにFERC は、2000 年夏、冬に起きたカリフォルニア電力危機等の影響やエンロン 問題で揺らいだ卸電力ビジネスへの信頼性を回復させる目的もあり、2002年7月末に卸電力市 場の構築に係る「標準市場設計(SMD)」規則案を公表し、RTO構築と合わせた電気事業制度 の構築を図った。ただし、同規則案は2002年12月に施行される予定になっていたが、規則案へ のコメント送付の締切が2003年2月17日に延期された。2003年4月には「標準市場設計に関 わる白書」を公表し、若干の軌道修正を行ったが、その後も北西部や南東部地域の電力会社か らの反対もあり、なお最終規則の公示には至っていない。

8 送電設備を所有せず非営利で系統運用を行う機関

図 1-1 既存・提案中のRTO(2003 年

11

月時点)

(出所)FERC、http://www.ferc.gov/industries/electric/indus-act/rto/rto-map.asp

1−3. 供給信頼度の枠組

(1) 北米電力系統の特徴と信頼度協議会

① 北米電力系統の特徴

北米の電力系統は、総延長32万kmの23万V以上送電線と9億5,000万kWの発電設備 容量の設備を運営し、3,100社を超える電気事業者が 1億口・2 億8,300 万人の需要家に供給 を行っている。

この北米電力系統は「同期系統」として東部系統、西部系統及びテキサス系統の3つの地域に 分かれている(図1-2参照)。3 つの系統は小規模な直流連系線でのみ連系している。なお、テキ サス系統はテキサス州内にあり、「送電線」であっても州際取引が行われないため、FERC の規 制の対象外となっている。

② 信頼度協議会

1965 年に起きたニューヨーク大停電を踏まえ、1968 年に北米信頼度協議会(NERC)が設立 された。NERCは、北米における10の地域信頼度協議会9を会員とする協議会であり、電力系統 の信頼度とセキュリティーを確保するための基準の策定、基準の遵守についての監視、評価、電 力系統のアデカシーの状況と評価、地域信頼度協議会の信頼度基準の調整、系統運用実施主

9 東部中央地域信頼度調整協議会(ECAR)、テキサス電力信頼度委員会(ERCOT)、フロリダ信頼度調整委 員会(FRCC)、大西洋岸中部委員会(MAAC)、米国中央相互連系網(MAIN)、大陸中央地域パワープール

(MAPP)、北東部電力調整委員会(NPCC)、南東部電力信頼度委員会(SERC)、南西部パワープール(SW PP)、西部電力調整委員会(WECC)

体の認証、データベースの管理等を行っている。データベースとしては、以下のようなものがある。

・ 利用可能発電データシステム(Generating Availability Data System、以下「GADS」とい う。):

GADSでは発電設備の改良に係る情報を収集、記録及び修正している。GADSサービスは、

このデータベースを管理し、データベースに蓄えられた利用可能なプラントに係る膨大な情報 の精査を補助するものである。情報は、GADS利用者により信頼度要件を支援し、利用可能 性の分析を行い、意思決定プロセスのために利用される。

・ 電力需給データベース(Electricity Supply and Demand Database、以下「ES&D」とい う。):

ES&Dは、将来10年間に渡る北米の連系された電力システムの信頼度評価を助け、米国・

カナダでの電力需給予測の概要を提供する。

・ システム擾乱データベース(System Disturbances Database):

擾乱分析ワーキンググループ(Disturbance Analysis Working Group、DAWG)データベー スは、北米電力系統で起こった主要な擾乱を要約している。このデータベースは、米国エネ ルギー省へ提出される情報に基づいている。

前述のNERCの会員であるの地域信頼度協議会では、NERCで策定された基準の範囲内で、

各地域の実情に応じた個別規則の策定と監視、紛争処理などを行っている。

従来、NERCで策定される信頼度基準は、電気事業者の自主規制により遵守されてきた。しか し、電力規制改革に伴いトレーダーやアグリゲーターのような従来一般的ではなかった形の事業 者も増え、信頼度確保の困難性が増してきた。そこで、包括エネルギー法案には信頼度基準の 遵守に法的拘束力を与えることが盛り込まれている。最終的には、NERCが同法案に規定された 電力信頼度機関(ERO)の指定を受け、FERCが監督を行うものとされている。なお、法案は今回 の停電を機に審議が加速され、2003 年 11 月には下院を通過したものの、上院で可決されず審 議未了となっている。

図 1

-

2 北米電力系統と信頼度協議会

(出所)NERC、 August 14, 2003 Blackout 、20031119

(2) 系統運用体制

① 系統運用者と制御区域

北米系統の電力会社は、NERC及び自らが所属する地域信頼度協議会の定める信頼度基準 に 従 っ て 送 電 線 の 運 用 を 行 っ て い る 。 こ う し て 送 電 設 備 の 運 用 を 行 う 主 体 を 「 系 統 運 用 者

(System Operator)」と呼び、系統運用者の管轄する地域を「制御区域(Control Area)」と呼ぶ。

図1-3のとおり北米系統はおおよそ140の制御区域に分かれており、特に中西部地域(MAIN・E CAR)で細かく分かれていることがわかる。

なお、米国では電気事業の規制改革に伴い、系統運用機能・送電設備計画機能の分化が起き ており、「系統運用者」が送電設備の所有者と同一主体とは限らない状況が現出した。このためN ERCでは系統運用者の認証方法を主体別ではなく機能別に行う方法へ移行することを検討して おり、当該機能を満たす主体はNERCからの認証を必要とする体制を目指している。

図 1

-

3 制御区域の状況

(出所)NERC、 August 14, 2003 Blackout 、20031119

② 信頼度コーディネーター

同期系統内では電力会社間で電気の取引が行われ、また事故が発生した場合に影響が伝播 することもある。したがって、隣接する系統運用者は互いに密接な協力を行う必要があるが、この 協力をサポートし緊急時には広域的な視点から対応する主体として、NERCは信頼度コーディネ ーター(Reliability coordinator)を設置している。現在、信頼度コーディネーターは図1-4のとおり 18の主体が担っている。

図 1-4 信頼度コーディネーターの責任エリア

(出所)NERC、 August 14, 2003 Blackout 、20031119

(3) オハイオ州周辺の供給体制

図1-5は、2003年8 月14日の停電の発生源となったオハイオ州とその周辺の電力供給体制 である。オハイオ州の主要電力会社はファーストエナジー(FirstEnergy、FE)社とアメリカン・エレ クトリック・パワー(American Electric Power、AEP)社であるが、図で明らかなように両社の供給 区域は互いに入り組んでいる。しかも、FE社の信頼度コーディネーターはMISO、AEP社の信頼 度コーディネーターはPJM ISOと分かれており、緊急時対応が難しい地域であることがこれだけ でもよくわかる。

このような複雑な区分になったのは、FE社がMISOに加入を予定している一方で、AEP社はシ カゴのコモンウェルス・エジソン社等と共にPJM ISOを中心とするPJM RTOへの加入を予定し ているからである。元々オハイオ州周辺の電力会社は隣接するPJM ISOとMISOに対抗して、

イギリスのNational Grid社が運用上重要な役割を果たす Alliance Transcoを結成する予定で あった(図1-6参照)。しかしFERC がRTOの要件を厳しくし、大規模化を求めるようになったため、

Alliance Transcoは再考を求められることとなり、結局FE社はAlliance Transcoの枠組の延長

線上にあるGridAmericaという独立送電会社(Independent Transmission Company、ITC)(イ

ギリスのNational Grid社が運営)に加入することとしたが、AEP社やシカゴを中心とするコモンウ

ェルス・エジソン社はPJM  RTO の枠組を選択したことで、FE社はPJM ISOに囲まれる形とな ってしまったのである。

さらに、FE社の信頼度コーディネーターであるMISOは、制御区域を 37 も抱えており、周辺の 信頼度コーディネーターと比較して制御区域数が格別多いことが表1-1からわかる。これはMIS OがRTOとしての機能の形成途上にあり、リアルタイムの運用権限を現時点では有していないこ との1つの要因にもなっている。

ドキュメント内 北米東部大停電調査中間報告書(案) (ページ 45-53)

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