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我が国電気事業との関連における考察

ドキュメント内 北米東部大停電調査中間報告書(案) (ページ 37-42)

第一部 北米北東部停電の概要と我が国へのインプリケーション

4. 我が国電気事業との関連における考察

我が国の電気事業は、現在制度改正を進めているところであり、送配電等業務支援機関に係 るルール整備をはじめとする様々な詳細制度の検討が行われている。それゆえ、規制改革が進 められてきた米国で発生した今回の停電については、これを対岸の火事とするのではなく、他山 の石とすることにより、適切な形でその教訓を活かしていくことが重要である。北米北東部と我が 国とでは、系統構成や事業の規模・形態等の差もあり、必ずしも直接的には参考とならない点も あるが、現在進めている電気事業の制度改正に反映すべきことは積極的に反映させ、また、具体 的に制度には反映させないまでも、制度設計を行う上で留意すべきものについては十分に考慮し ていかなければならない。

4−1. 我が国との比較

今回の中間報告では、停電の直接的な原因を下記の3点だと整理している。

①FE社の不適切な状況把握 ②FE社の不十分な樹木伐採

③信頼度コーディネーターの不適切な判断支援

我が国においては、一般電気事業者の電力系統は原則1点でのみ連系され、各電力系統の 信頼度維持の責任は一義的にはそれぞれの一般電気事業者が担っている。したがって、米国の ように、系統運用において信頼度コーディネーターと系統運用者といった役割の分化もなく、また、

これら事業者間で送電線にかかる情報を相互に交換する必要性も少ない。また、異常が発生した 場合には、北米北東部のようなメッシュ状の系統構成の下で系統全体として外乱に対応するので はなく、異常を検知すると直ちに当該箇所を系統から遮断する等の対応を講じている上、一般電 気事業者間では一点連系の部分を遮断すれば相互の影響を断ち切ることができるので、事故の 影響が広域に波及しにくい構成となっている。したがって、中間報告書で指摘された3点のいずれ かを原因とするような類似の事故は、相対的に起こりにくいものと思われる。

以下では、これら3つの原因に即して北米北東部停電事故と同様の事故が日本で発生する可 能性について、具体的な分析を行う。

(1) 不適切な状況把握

中間報告では、FE社のシステム不調や系統監視盤の不備が指摘されている。

一方、日本の一般電気事業者の系統監視用のシステムは、少なくとも二重系を構成しているこ とはもちろんであるが、システムに自己監視機能が具備されており、システム自体に不調があり、

システムがダウンした場合には、音で確実にそれを運転員に認識させることで、FE社のように、運 転員がシステムダウンに気が付かずにいるようなことが起こらないようにしている。さらに、系統監 視用のシステムに不調があったとしても、系統監視盤の情報は別途系統の生データを取り込んで いるので、運転員はこの監視盤により系統の状態を視覚的に把握する等により系統監視を継続 できるようになっている。

(2) 不十分な樹木伐採

米国では、送電線導体と樹木等との離隔に関する連邦または州レベルの規制はなく、民間レベ ルの自主的な規制が存在するのみであるが、日本では、送電線導体と樹木等の離隔に関して、

電気事業法に基づき、「電気設備に関する技術基準を定める省令」等が定められており、これを 遵守すべく必要に応じて樹木伐採が実施されている。

また、万一、今回の事故のように樹木接触が連鎖的に発生した場合であっても、日本は、会社 間をまたいだメッシュ状系統にはなっておらず、万一の場合には系統分離を図ることにより事故が 広範囲に波及しないような系統構成となっている。

(3) 信頼度コーディネーターの不適切な判断支援

中間報告では、状態推定システムの不具合により、MISOが系統状態を適切に監視できなかっ たため、信頼度コーディネーターとしての判断支援を実施できなかったことが指摘されている。

また、前述のように北米北東部はメッシュ状の系統を構成しているため、自らの管轄エリアの送 電線情報はもちろんのこと、管轄エリア外の送電線情報についても状態推定システムに取り込む 必要がある。しかし、影響するすべての情報をシステムに取り込もうとすると、その範囲が非常に 広範囲になるため、送電線によっては、電話連絡によって送電線情報を変更している箇所もある。

その上、オハイオ州およびその周辺エリアは、信頼度コーディネーターであるMISOとPJM ISO の管轄エリアが入り組んでいることで事態が悪化しており、ISO間の連携が非常に重要となって いたことがうかがえる。

一方、日本では系統構成が相対的にシンプルであり、一般電気事業者はテレメータにより自ら の管轄エリアの系統の生データをすべて取り込んでいる。また、一般電気事業者の供給区域相 互の間は原則1点で連系されているため、連系点の潮流を管理していれば、あとは自らの供給区 域のデータだけで系統状態をほぼ把握することが可能である。このため、今回のMISOのように 情報収集に支障が生じて系統の状況を把握できなくなるような事態は起こりにくい。

4−2. 北米北東部停電事故が意味するもの

このように、今回の中間報告で指摘された3つの原因に即してみる限り、我が国で同様の大停 電が発生する可能性は必ずしも高くないものと思われる。しかし、我が国は今まさに電気事業の 制度改正を進めているところであり、今回顕在化した問題点については、同様の問題点がこれま での我が国電気事業にあるかどうかにかかわらず、これからの制度設計において、それが顕在化 することのないよう十分留意していく必要がある。

かかる観点から、今回の北米北東部停電事故の意味するものを考察する。

(1) 関係者間の役割の明確化

まず第一に、系統運用に携わる関係者間で、系統に関するリアルタイムの情報が着実に共有 され、関係者間のコミュニケーションが適切に行われることの重要性が指摘される。現在の米国 は、系統運用者と信頼度コーディネーターの役割分担、権限関係が明確ではなく、同じ信頼度コ ーディネーターでも、MISOとPJM ISOでは、PJM ISOの方が相対的に強い権限を持っている といった状況であり、系統運用における責任の所在が不明瞭で、相互の連絡も十分でなかったこ とが重大な問題として中間報告書でも指摘されている。特に、今回の停電事故の震源となった米 国中西部においては、MISOがECAR、MAIN、MAPP、SPPと4地域信頼度協議会にまたがる 37 の制御区域について、PJM ISOがECAR、MAIN、MAACの3地域信頼度協議会にまたが る8の制御区域について信頼度調整を行っており、管轄するエリアが複雑に入り組み、両者間の インターフェースは 18 カ所にも及んでいる。したがって、報告書で焦点の当てられているMISOと MISO内に制御区域を有しているFE社との連携はもちろんのこと、MISOとPJM ISOとの間で も本来しっかり連携が図られるべきであったが、実態としては十分にコミュニケーションがとられて おらず、適切な状況把握を阻害する結果となっている。これは単なる関係者間の連絡体制・ルー ルの不徹底という問題にとどまらず、主たる連絡手段を電話に頼っている状況にかんがみれば、

システムの改善を図るべきとの見解もあり、米国において検討課題となっている問題である。また、

今回の停電事故では、MISOやPJM ISOは、FE社の制御区域内の情報を直接把握する手段 を持っておらず、漠然とした情報共有ではなく、どのレベルまでの情報を共有すべきか、あるいは 直接把握できるようにすべきかといった点についての精査も必要となろう。

我が国では、これまでは一般電気事業者それぞれが自らの供給区域について、電圧、周波数 等の維持努力義務の下で責任を持って系統運用を行ってきたが、長らく一般電気事業者がほぼ 占有的に利用していた電力系統を、今後は一般電気事業者のみならず、特定規模電気事業者 等も広く利用することとなる。したがって、現在進めている制度改正においては、電力ネットワーク 部門の公平性・透明性を確保するため、「送配電等業務支援機関」を設立し、系統利用等に関す るルールの策定・監視・運用を行うこととしているが、こうした米国の状況を踏まえれば、この対応 は適切である。今後は、

① 系統の安定維持に係る各関係者の権限と責任、及び、

② 系統の安定維持に関する情報の関係者間における蓄積・利用の在り方 を明確にしていくことが望まれよう。

(2) 緊急時対応体制の整備

第二点目は、関係者間の連携体制も含めた異常時、緊急時対応の体制整備の重要性である。

米国においても、緊急時対応のマニュアルは存在し、所要の訓練等も行われているとのことであ ったが、コンピュータシステムの不調に伴う初期対応が適切ではなかったため、実際には系統状

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