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停電の原因と経過

ドキュメント内 北米東部大停電調査中間報告書(案) (ページ 53-81)

第二部 米国の電力供給体制と停電の経緯(参考資料)

2. 停電の原因と経過

本章では米加合同調査委員会の中間報告書を基に、8月14日の状況と停電に至る経過につ いて述べることにする。なお、以下で記述する時間は米国東部夏時間である。

2−1. 8月14 日の状況

(1) 概要

2003年8月14日は夏の暑い日であったが、電力のピーク需要は 2003年最高値を記録した 訳ではなく、予想の範囲内であったとされている。FE社、アメリカン・エレクトリック・パワー(AEP)

社の所属する地域信頼度協議会であるECAR地域には、テネシー州、ケンタッキー州やミズーリ 州といった南方とウィスコンシン州、ミネソタ州やイリノイ州といった西方から、オハイオ州、ミシガ ン州やオンタリオ州といった北方と東方(ニューヨーク州)に向かう重潮流が発生しており、特にA EP系統からPJM地域、FE社、Michigan Electric Coordinated Systemsに向かって多くの電気 が流れていた(図2-1参照)。しかし、これらの水準も過去に例がないものではなかった(図2-2参 照)。

図 2-1 

15:05

の発電、負荷及び潮流状況

(注)MW:有効電力、MVAR:無効電力、Load:負荷、Generation:発電

(出所)米加停電合同調査委員会、”Interim Report: Causes of the August 14th Blackout in the United States and Canada”、20031119

図 2-2 北東部中央地域での輸出入計画値(2003 年

8

14

日)

-8,000 -6,000 -4,000 -2,000 0 2,000 4,000 6,000

0:00 2:00 4:00 6:00 8:00 10:00 12:00 14:00 16:00 18:00 20:00 22:00 最小値

最大値 平均値 8月14日 輸出

輸入

1,000kW

(出所)米加停電合同調査委員会、”Interim Report: Causes of the August 14th Blackout in the United States and Canada”、20031119

(2) 周波数・電圧

2003年8月14日15:05までの周波数は必ずしも安定していなかったことがわかっているが、

NERCの定める運用政策(Operating Policies)の枠組みの範囲内であり、安全な運用が可能な 水準であった、と中間報告書は結論している。

図 2

-

3 

15

31

までの周波数の動向

(出所)米加停電合同調査委員会、”Interim Report: Causes of the August 14th Blackout in the United States and Canada”、20031119

その一方で電圧は、高気温に伴う高負荷と重潮流によりオハイオ州北部で低下気味であった 模様であるが、いずれもFE社の設定する許容値に収まっていた。10

図 2-4 

15:05

前の電圧の状態

(注)色の濃い地域ほど電圧が低いことを表している。

(出所)NERC、 August 14, 2003 Blackout 、20031119日より作成

2−2. 停電の経過

次に停電に至る経緯を、中間報告書に従って時系列で示すことにする。オハイオ州周辺の送 電網の状況は図2-5のとおりである。図中、送電線の電圧レベルは色により分けられている。

中間報告書では、送電設備・発電設備といった設備に関わる事象について、15:05 以前、15:

05〜16:05、16:05 以降を明確に区分している。系統状況のシミュレーションを行った上で、15:

05 以前に起きた事象は停電事故の直接的な原因にはなっていないという見方を示している。停 電の直接の原因は 15:05〜16:05 に起きた各種事象であり、16:05 以降は系統が制御不能な 状況に陥りカスケードへと発展したという認識を示している。そこで、(1) 15:05以前、(2) 15:05〜

16:05、(3) 16:05以降、に分けて各種事象の解説を行うものとする。

10 ただしFE社の設定する電圧変動水準は幅が他の系統運用者より大きい。例えばFE社の設定値の下限は 92%に設定されているが、AEP社のそれは95%に設定されている。

図 2-5 オハイオ州近辺の送電網の概要

ONTARIO

Transmission Lines 765 kV 500 kV 345 kV 230 kV 送電線

76.5万V 50万V 34.5万V 23万kV オハイオ州

ミシガン州

インディアナ州

ペンシルベニア州 ニューヨーク州 オンタリオ州

ウェストヴァージニア州

ONTARIO

Transmission Lines 765 kV 500 kV 345 kV 230 kV 送電線

76.5万V 50万V 34.5万V 23万kV

ONTARIO

Transmission Lines 765 kV 500 kV 345 kV 230 kV 送電線

76.5万V 50万V 34.5万V 23万kV オハイオ州

ミシガン州

インディアナ州

ペンシルベニア州 ニューヨーク州 オンタリオ州

ウェストヴァージニア州

(出所)NERC、 August 14, 2003 Blackout 、20031119日より作成

(1) 15:05前

8月14日の正午過ぎから15:00頃までの間に、3つの重要な計画外設備停止が発生している。

①Cinergy社での停電をもたらした送電線停止、②FE社East Lake発電所5号機の停止、③DP

L社Stuart-Atlanta 34.5万V送電線の停止、の3件である。しかし、中間報告ではいずれも今回

の停電の直接的な原因ではない、と結論づけられている。

表 2

-

1 

12

08

15

05

前の主要な事象(FE社、DPL社、

CIN

社)

時刻 First Energy Dayton Power & Light Cinergy (CIN)

12:08:00 Bedford-Columbus 34.5V送電線(インディアナ州)が樹木の

接触のためトリップ

12:10:00 インディアナ州中南部13.8V送電線が負荷とのバランスを外れ

て開放

12:12:00 インディアナ州中南部の 23 V送電線が導体スリーブの失敗の

ためトリップ

12:23:00 MISOと系統の状態をレビューするため連絡

12:26:00 幾つかの13.8V及び6.9V送電線がトリップし、インディア

ナ州地域の Columbus – Bedfordで僅か区分化され 5,400 口でサービスが停止

12:33:00 5,400口の需要家のうち3,800口までが7分で切換えを通じ

て復旧

13:00:00 CinergyがMISOと発電の再給電計画の協議のため連絡

13:07:00 Wabash River発電所の再給電実施

13:18:00 5,400口のうち残りの需要家も復旧

13:31:34 Eastlake 5 号 機

(59.7kW)トリップ

13:45:00 Wabash River発電所の再給電完了、系統安定化

14:02:00 Stuart-Atlanta34.5 V 送電線がロックアウトされる。

(出所)オハイオ州公益事業委員会、”Sequence of Events on August 14, 2003.”、20039月より作成

① Cinergy社での停電をもたらした送電線停止

12:08 に Cinergy 社の 34.5 万 V 送電線が、樹木の接触により停止した。その後連鎖的に

Cinergy社の13.8万V送電線、23万V送電線が順次停止し、Cinergy社の地域で電圧上の

問題が発生し、12:26〜13:18 に一部地域で停電が発生した。Cinergy 社の発電所の切換え やMISOの系統運用者がインディアナ州中西部で潮流を制御したことで、系統は安定に復帰し た。

② FE社East Lake発電所5号機の停止

FE社のEast Lake 発電所5号機は、エリー湖近辺のクリーブランドの西側に位置する59.7万

kW の発電機である(図2-6参照)。クリーブランド地域への無効電力の主要な供給源と位置づけ られている。13:31 に発電機のオペレータが無効電力供給を増加させようとしたが、ユニット保護 システムが作動して停止した。この停止そのものは停電の直接の原因とはなっていないが、無効 電力の不足によりFE社の系統運用上の制約を増大させることとなった。

図 2

-

6 

13

31

34

(出所)NERC、 August 14, 2003 Blackout 、20031119日より作成

③ DPL社Stuart-Atlanta 34.5万V送電線の停止

次にDayton Power & Light(DPL)社の運営するStuart-Atlanta 345-kV送電線11が14:02 に樹木の接触により停止した。同送電線はDPL社とAEP社の連系線となっており、PJM ISOが 信頼度コーディネーターとなっているものである。後述のとおり、MISOの系統運用者はこの送電 線の状態を監視できておらず、送電線停止を認識していなかったことがわかっている。

11 DPLとAEPの共同所有となっている。

図 2-7 

14:02

StuartーAtlanta送電線 StuartーAtlanta送電線

(出所)NERC、 August 14, 2003 Blackout 、20031119日より作成

(2) FE社・MISOの系統状況の把握

① MISOの状況把握

信頼度コーディネーター及び各地域の系統運用者は、意思決定支援システムである状態推定 システム(SE)というシステムを使って、系統状況を把握している。これは系統サンプル・データを 基に実際の系統の状態を推定する計算を行うものであり、このデータを基にリアルタイム事故分 析(Real Time Contingency Analysis、RTCA)を行うことで、多様な条件や事故の影響の分析を 可能としている。ただし、状態推定システムは入力データに誤りがある場合には解が出ないことも ある。また、MISOは系統運用者としての機能を拡充中であり、状態推定システムとRTCAも開発 途上の段階であると見なしていた模様である。

MISOではこの状態推定システムを5分毎に走らせてRTCAを行っていた。

8月14日の12:15頃、MISOの状態推定システムで大きな計算のミスマッチが発生した。これ

はCinergy社のインディアナ州にあるBloomington-Deniois Creek 23.5万V送電線の停止情

報を取り込んでいなかったためである。MISOの信頼度コーディネーターの区域に関する情報は 地域信頼度協議会であるECARのデータ・ネットワークを介してまたは直接データを取り込んで収 集されるが、直接データを収集するシステムを構築中であった。このトラブルは正しいデータに訂 正され、13:00 に状態推定システムが、13:07 にRTCAが正常な解を出したので解消されたが、

トラブル解消のために自動計算を停止していたのを担当者が忘れ、この状態は 14:40 に気づか れるまで放置された。

再び自動計算への切換えが行われたが、再度状態推定システムに計算エラーが発生した。こ

れはStuart-Atlanta 345kV送電線が14:02に停止したが、同送電線はPJM ISOが信頼度コー

ディネーターとなっていたため(むしろMISO内の電力潮流に影響を与えるにもかかわらず)、MIS

OのSEのデータが更新されず、状態推定システムは正しい解を導くことができなかったものである。

システム・エンジニアがStuart-Atlanta 345-kV送電線に問題が発生している可能性を指摘したが、

MISOの系統運用者はこれを否定したため、システム・エンジニアはMISOの系統運用者がPJM  ISOに状態照合を要求する15:29まで Stuart-Atlanta送電線が健全なものとして計算不一致の 解消を試みている。Stuart-Atlanta 送電線停止が判明した後に状態推定システムを更新し、15:

41にRTCAが正常に復帰し、状態推定システムと事故分析は 16:04 までに正常に復帰したが、

これはカスケードが起こる僅か2分前であった。

② FE社の状況把握

FE社の系統制御・データ収集(System Control and Data Acquisition、SCADA)システム12 の警報・記録ソフトが 14:14 頃に故障し、FE社制御室では警報が鳴らなくなった。これ以降、FE 社の系統運用者は装置の停止による重大な障害の下に置かれたが、運用者は警報装置が故障 したことを認識していなかったため、系統状況が変わっていることに気づいていなかった。警報装 置 は 、 給 電 指 令 者 の 意 思 決 定 支 援 シ ス テ ム で あ る エ ネ ル ギ ー 管 理 シ ス テ ム (Energy

Management System、EMS)13の主要な構成要素の一つであるが、これが故障したことに気づ

いていれば、FE社の系統運用者はEMSの残りの機能を用いて系統状況の把握に努めることは できた。しかし、MISO、AEP、PJM ISO及びFE社の現地作業員から電話を受け取るまで、系 統運用者は把握している状況が実際のFE社の設備状況と矛盾していることに気がつかなかっ た。

14:20から 14:25の間には、幾つかのFE社変電所の遠隔制御端末が停止した。FE社はこの

原因を端末が 待機状態 となり、端末のバッファーが過負荷となったためと説明している。FE社 の系統運用者は、ある変電所の現地作業員が15:00の勤務交代のために14:36にその変電所 に到着して端末が動作していないことに気づき、中央制御室にこれを報告するまで、この事態に 気づかなかった。

FE社のEMSシステムにはバックアップ・サーバーが設置されているが、14:41 にEMS警報装 置を司る主系サーバーが、警報装置の停止または遠隔制御端末の 待機状態 (あるいはその複 合要因)によって停止、警報装置と他のEMS機能は自動的にバックアップ・サーバーに切り替わ ったが、警報装置が停止した状態のままバックアップに切り替えられたため、14:54 にバックアッ プ・コンピューターもダウンしてしまった。15:08にIT技術者は主系サーバーの再起動を行ったが、

警報装置が復旧しているかどうかを制御室に確認しなかったため、警報装置が依然復旧しなかっ たことに気づかず、逆に 15:42 に制御室から警報装置が復旧していないとの連絡を受けている。

結局、14:54〜15:08及びIT技術者が警報装置の復旧を試みて改めてサーバーを再起動させた

15:46〜15:59 の2回に渡って、FE社の二つのサーバーはダウンしており、この間負荷に合わせ

た発電機の制御は行われない状況になった。

EMSシステムが作動しない状況では、系統の状況を監視する方法は電話連絡とテレメータを 使用した直接のアナログ情報の利用のみとなるが、中間報告書はFE社の制御室ではEMSの警 報処理が動作していないことに気づいておらず、他の可能な監視を行っていなかったと指摘して いる。このためFE社は 15:05 以降に起こる自社の送電設備の停止状況を十分把握できずにい た模様である。

12 系統データを収集し、送電設備の制御を行うためのシステム。

13 給電指令者の意思決定支援システムで、リアルタイムで電力系統の状況を監視し、発電設備・送電設備の 制御のために用いるもの。

ドキュメント内 北米東部大停電調査中間報告書(案) (ページ 53-81)

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