シクロプロペニノレカチオン系化合物
第
6
報
三員環芳香族のスペクトノレ特性〔その
2
J
堀 卓 也
*I,安田伍朗
*l,井上真一
*l,高 崎 浩 ←
>1'1Compound o
f
Cyclopropenyl C
a
t
i
o
n
Spectrum Analyses o
f
Cyclopropenyl C
a
t
i
o
n
D
e
r
i
v
a
t
i
v
e
s
C
P
a
r
t
l
[
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Takuya HORI
,
Goro Y
ASUDA
,
S
h
i
n
i
c
h
i
INOUE and K
o
i
c
h
i
T
AKASAKI
知 報 か よ 議
)
t
)
品)さは,ρ,
mー置換フェニル誘導体、ンクロフ。ロペニJレカチオンの合成及びP
フェニJレ誘 導体シクロプロぺニJレカチオンのスペクトJレ特性について報告した.この報告では,第一3報iこ引き続き間一 置換フェニル誘導体シクロプロペニルカチオンのUV
,IR
,NMR
,MS
スペクトJレの各スペクトJレ特性に ついて報告する. 1 . 緒 言 三員環芳香族(m
ー置換トリアリ-)レシクロプロぺニ Jレカチオン)についてのスペクトル特性結果を文献中の 類似三員環化合物及び第3報での三員環芳香族 β 置換( トリアリールシクロプロぺニJレカチオン〉と比較検討す る.既知のごとくI
R
,NMR
スペクトルが化合物の確 認に使用せられている中で,
t-置換誘導体シクロプロペ ニ Jレカチオンの IR スペクトルが1400~1430cm-l の領 域に非常に強いブロードの1本の吸収を持つのに対し,m
置換フェニル誘導体では1
3
9
0
c
m
-
1付近にもう1
本の 特性吸収を持ち仰司置換体の特徴と伝っているUV
,NMR
スペクトJレは,
t置換誘導体シクロプロペニルカ チオンとほぼ同様にUV3
0
4
m
!
'
付近とNMR
T1
.
4
0
と 1.8
0
付近の低磁場に2
本の吸収帯を示す.MS
スペクト ルにおいては,一置換体についての測定結果を述べる.2
.
測定結果と考察 表1
化合物のm-置換基RIR2R3
cαnpd
R
1
R
2
OMe
H
2
C
I
H
3
C
l
C
l
L
C
l
C
I
5
B
r
H
6
B
r
C
I
R
1
B
r
R
3
H
H
H
C
l
H
H
R
2
81 測定に使用した合成物は, (1)mーメトキ、ンー,
(z)mク ロル,
(3)m. m'-ジクロルー,
(4)m'm'・
mゲートリクロル. (5)mーブロムー,
(5)m-クロJレ-m'- ブロムトリフェニJレシ クロプロペニjレブロマイドである.UV
スペクトJレは,目立分光光度計EDS-3
型,I
R
スペ クトルは,日立赤外分光器2
1
5
型,NMR
スペクトルは, 日本電子JNM-C-60-H
型,MS
スペクトルは, 日立質 量分析計RMU-6
裂により測定した. *1 応用化学教室 6),7),02
.
1
紫外線吸収スペクトル トリフェニJレシクロプロぺニルブロマイドは82 堀 卓也p 安凹伍郎, 井上真, 高崎浩一 表
2
三員環のuv
スペクトJレcomd
s
o
l
v
e
n
t
人
max
m
L
¥
.
(
1
0
包
ε)
CH
3CN
2
1
5
(
3
.
9
8
)
2
4
9
(
3
応)
3
1
1
(
4
.
0
2
)
2
CH
3CN
2
2
1
2
8
9
(
4
.
3
4
)
3
0
2
仏
3
9
)3
1
8
(
4
.
3
1
)
3
CH
30H
2
2
7
2
9
0
(
4
.
7
6
)
3
0
2
.
5
(
4
.
8
4
)
3
1
8
(
4
.
7
4
)
4
CH
3QH
2
1
8
2
2
9
2
8
9
(
ι
4
9
)
3
0
4
(
4
.
5
3
)
3
2
2
(
4
.
4
6
)
5
CH
3CN
2
1
8
2
8
9
(
4
.
5
2
)
3
0
3
(
4
.
6
2
)
3
1
7
(
4
.
5
6
)
6
CH
30H
2
1
8
2
9
0
(
4
.
4
6
)
3
0
3
5
(
4
.
5
4
)
3
1
9
(
4
.
4
6
)
n U 4 lo μ
﹂ O D L O的
。
。
ν
¥
川
1
0
:
ベ
ベ
ぺ
¥
6
℃
ヘ
l
0
2
0
0
300
200 300
2
0
0
300
~mf
~ 図1
三員環のuv
スペクトル CHRCN ;;;-~~VL'219mp (logc=4.41),
260 (3.94),
304 (4.52), 322(4.48)に吸収帯を示し, 219mμ(E2吸収 帯), 260mp (B吸収帯)がベンゼン環の吸収,そして 304mp付近が三員環の吸収帯と考えられる.ここでは, その三員環特性吸収帯の 304mμ 付近の吸収帯について 考える.P
フェニル誘導体が予倍、される置換基効果を満 足している様に, 間 フ ェ ニJレ誘導体も置換基が一つ付 くと,複雑な構造吸収帯は,一般に単純になり,吸収の 強度が増大し,長波長シフトする.またハロゲンとかア ルキル基が結合しでもほぼ同じ様な領域か,ごくわずか 長波長シフトし,吸光係数も少し増大する.あるいは, 非結合電子対とかπ電子などをもっ基が結合すると,吸 収は著しく長波長シフトし,強度が大きくなるという置 換効果を満足している. たとえば, (1)mーメトキシ基置 換体は311mpへ長波長シフトし,
(2)~(6)mーハロゲン基 置換体は 303mμ 付近に吸収帯を示す.他のベンゼン吸 収と考えられる吸収帯もこの予期される変化を満足して し、る. 2.2 赤外線吸収スペクトルP-
置換フェニJレ誘導体シクロプロペニルカチオン(第 3報)で述べた様に, Westらのハロゲン置換体,Breslow2
し
F h J V6
2
1
0
0
1
5
0
0
C
阿
由
I 図2
三員環のI
R
スペクトJレ3
0
0
0
6
0
0
らのアルキJレ,アリールシクロプロぺニカチオン,J.Chatt
&
R.G.Guyのトリフェニルシクロプロペニ ルカテオンでの研究から,シクロプロぺニル化合物の特 性吸収帯は1400~ 1430cm-1に帰属される.そしてmー 置換フェニル誘導体シクロプロペニルカチオンも 1400~1430cm-l に帰属される.しかし, J.Chatt & R.G. Guyの示した 1390cm-1付近の吸収は
,
P
置換体ではシクロプロぺニルカチオン系化合物第 6報三員環芳香族のスペクトル特性〈そのの
8
3
表 3 三員環の IR スぺクト~)レ 化 合 物 マ 特 性 吸 収 他 の 特 性 吸 収143Q
16001510 895 765 675
2 1
4
20 1395
160015801500 865 780 678
3 14101390 15951497 762
670
4
1400 1382
158715601490 875 795 663
5 14101380 15851490
6 14101390 16001500
1
4
3
0
c
m
-
1の肩として表われたり,完全に分離したりして 表われるのに反し,
m-置換体は全てが完全に分離し て2つの吸収帯として表われる. これはm-
置換体の電 子的寄与(分子構造)に起因するものと思われる.置換 基及び置換位置を示す吸収帯については,第3
報と同様 に,一般的な解析法に従った.2
.
3
核磁気共鳴スペクトル NMR~スペクトルは溶媒としてトリフルオ Jレ酢酸を使 用し,2
0
.
C
,濃度1M
ちで測定したものである. 表4
三員環の NMRスペクトJレFompd
τ
1
2
5
(M)
1
.
.
75
(
M
)
2
1
4
2
(
T
)
192 (
T
)
584 (
5
)
3
1
3
8
1M)
180
(
M
)
4
1
45
(M)
1
93
(
M
)
5
1
4
3
(M)
1
95
(
M
J
6
1
4
2
(M )
1
90
(
M
)
5 s
i
n
g
l
e
t
T t
r
i
p
l
e
t
M m
u
l
t
i
p
l
e
t
芳香性プロトンは,1:1
.
40とf
1
.
80付近に2つの多重量線 を示すもので,一般の芳香性プロトンよれ約 τ2~3 低 磁場にシフトしている.これはシクロプロペニルカチオ ンの構造的寄与と考えられる .t-置換体のように,111ー置 換体も複雑な多重線を示すことから,解析は非常に困難 であるが,中でもわかりやすいクロル置換体について解 析を試みた.それを以下に示す. ー,二,三置換体につき系統的に考えると,一置換体は フェニルの5つの芳香性プロトンとー置換体フェニルの 置換基に影響された4つのプロトンが重なり合って,も っとも複雑な2つの多重線を示し,二置換体は置換基ζt800 770 670
870 810 775 765 665
_r-2
ピ:
3~
4
-4
1
4
4
│ /
5
6
1
ム
斗
o
1 2 3 4 5 6 7 8 9 1
0
1
:
図3
三員環の NMRスペクトJレ 影響される4つのプロトンの影響力から複雑性は半減す る.三置換体においては,置換基に影響される4つのプ ロトンのみであるので,もっと単純な2つの多重線とな る.唯一の置換基メトキシ基のメチルプロトンは,ρ
一置 換体と同様に,一般的吸収位置より少し低磁場である 1 :6
.
0
付近に鋭い一室線を示す.8
4
堀 卓也, 安田伍郎, 井上真一, 高崎浩一2
~ ~
図4
ハロゲン置換体の NMRスペクトル解析2
.
4
質量スペクトル 質量スペクトルの測定法は直接導入法吾用いたもの で,化合物はー置換体にのみ行なったものである.考え られた様に,ー置換体では,イオン自身が親ピークとし て示されるが,それに反し,フラグメンテーションは 単純なものである.又
m/e79と8
0
のブロムのフラグメ ントからイオン化合物であることを示唆している.図 5号
令
1
0
0
0
1
0
0
0
1
0
0
。
2
5
u2
0
5
0
1 1 .1II~
1
0
0
mle
297
mle
3
0
1
mle 3
4
6
1
5
0
2
0
0
2
5
0
m/e
図5
ー置換体のMS
スペクトル3
0
0
3
5
0
4
0
0
シクロプロぺニルカチオン系化合物第6報三員環芳香族のスペクトJレ特性〔その2
コ
85 からわかる様に,メトキシ基は少し変わったフラグメン トを示すが,ハロゲン置換体では,ハロゲン関裂が優先 するという予想とよい一致を示し,多くのフラグメント が抑制されると考えられる. 最後に,この実験遂行にあたり,特に M Sスペクトル の測定には日立製作所の御協力をいただき深く感謝の意 を表します.3
.
文 献 1) 堀卓也,居付敬三,愛知工大研報;3
, 129(1967) . 2) 堀卓也,安田伍朗,井上真一,愛知工大研報;6,
91 (1971) . 3) 堀卓也,安田伍朗,井上真一,愛知工大研報;7,
59 (1972) • 4) 堀卓也,井上真-,愛知工大研報;8
, 35 (1973) . 5) 堀卓也,安田伍朗,井上真一,愛知工大研報; 9,
65 (1974)6) R. West
,
D. C. Zecher and W.Goyet,
J.Am.Chem.Soc.
,
92,
149(1970) .7) 柿沢寛訳 有機化合物への吸収スペクトJレの応用
東京化学同人 (1970) .
8) R.Br巴sIowand H.W.Chang,J.Am,Chem.
Soc.
,
83,
2367 (1961)9) 荒木俊.益子洋一郎訳有機スペクトルによる同 定 法 東 京 化 学 同 人 (1970)
10) R.Breslow,J.T.Groves and G,Ryen, J.Am.Chem. Soc.
,
89,
5048 (1967)。11) S. W. Tobey
,
R. West,
J. Am. Chem. Soc.,
88,2481 (1966) ,
12) R, Breslow