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伊丹市内における市民参加によるヒガンバナの開花日調査

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伊丹市内における市民参加によるヒガンバナの開花日調査

田中良尚

・水野由芽

※ 1

・上澤美鈴

※ 2

・児玉佳美

※3 ※ 伊丹市昆虫館・※1 林野庁九州森林管理局・※ 2 株式会社ガーデンラボ・※ 3 トランスコスモス株式会社

Surveys of flowering dates of Lycoris radiata

(Liliales : Amaryllidaceae) by Citizen in Itami City

Yoshinao TANAKA*, Yume MIZUNO*

1

, Misuzu UESAWA*

2

, Yoshimi KODAMA*

3

*Itami City Museum of Insects

*1Forestry Agency, KYUSYU Regional Forest Office *2GARDENLAB Co,Ltd. *3Transcosmos Inc. (2014 年 2 月 28 日受理) はじめに     伊丹市のまちづくりの指針である伊丹市総合計画(第 5 次)では、施策目標の中の一項目として「自然環境と の共生」が挙げられている(伊丹市 , 2011)。その地域 の自然を知ること、生物の観察などの自然学習は、「自 然環境との共生」について直接的に市民の意識に訴えか ける要因となり得ると考えられる。  著者の一人、田中は、財団法人伊丹市公園緑化協会(以 下「緑化協会」、2013 年 3 月 31 日付で解散)事業課在籍時、 市民が身近な自然を知る契機となるような自然学習の題 材として、都市部でも目にすることができる象徴的な生 物(主に植物)を選出することにした。結果、そのよう な生物の一つとして、ヒガンバナ(Lycoris radiata, 図 1) が適していると考えた。その理由は、開花期が秋季とい う季節感があること、花色が赤でよく目立つこと、地方 名及び俗称(マンジュシャゲ、ハカバナ等)が多々ある ものの、知名度が比較的高いと思われたためである。  ヒガンバナは 9 ∼ 10 月に開花する植物で、田畑の畦 など人里近い場所で生育する多年草である(林 , 1983)。 また中国原産の史前帰化植物のようだが、現在では日本 全土に分布している。気象庁が行っている生物季節観測 でもヒガンバナは観測種とされ、その年の気象状況を反 映する植物でもある。  ヒガンバナを題材として自然学習を行うには、上記の ような本種の生態及び性質を考慮し、開花日及びその分 布状況の把握を「市民参加型の調査」という形で行うの が、市民の興味を惹き、また継続的に行うことができる 方法だと考えるに至った。  本調査を開始したのは 2007 年で、2011 年まで毎年実 施した。著者の一人、田中の伊丹市昆虫館への異動 (2012

問い合わせ先 E-mail: ge7n-skmt@asahi-net.or.jp Tel: 072-785-3582

図 1 伊丹市池尻地区の農地で開花する  ヒガンバナ

(2)

0 50 100 150 200 2007 2008 2009 2010 2011 その他 シロバナマンジュシャゲ ヒガンバナ 年 4 月)により一旦の終了とした。以下より、5 年間の 調査記録を報告する。 調査方法  2007 年から 2011 年にかけての秋季(9 月上旬から 10 月下旬まで)、伊丹市内でヒガンバナが咲きだしたこ とに気がついた「月日」、「場所」、「花色」の3点について、 市民より電話、FAX、電子メール等で情報提供を受け た。情報提供の依頼には、本調査が市民にとってより親 しみやすいように、「いたみのヒガンバナをみんなで見 つけよう!」という表題を設け、伊丹市の広報紙への記 事掲載、緑化協会の広報冊子及びホームページへの記事 掲載、市立施設へのチラシ配布、市内公共花壇の維持管 理団体や園芸講座の参加者への直接呼びかけ、という方 法を採用した。情報提供者からの連絡内容には複数の情 報が含まれていることがあるため、個々の情報を「報告」 とし、その累計を「報告件数」として数えた。 結果および考察 1. 報告件数  5 年間の調査で、報告件数の年平均は 170 件であり、 累計は 853 件だった。この報告内容には、開花地点の重 複や不明なもの、開花日の不明なもの、他市域で見たも のの報告も含まれている。尚、開花地点数及び開花日の 集計には、これら重複や不明要素のある報告は削除した。 その際、開花地点 1 ヶ所につき同年で複数の開花日があ る場合は、早い方を採用した。  年間平均 170 件という報告件数は、伊丹市の人口がお よそ 200,000 人という見地からすると少ない印象を受け るかもしれない。広報の方法に問題があったのかもしれ ないが、見返りを求めずヒガンバナの情報提供を行った 市民が 5 年間でのべ 853 人いたことになる。 2. 開花地点  ヒガンバナ類の花色は、野生種だけでなく園芸品種を 含めると多様である。開花地点数は、花色によって 3 項 目に分けた(図 1)。花色が赤のものはヒガンバナ、白 のものはシロバナマンジュシャゲ(Lycoris albifl ora)、 黄やピンクなどのものはその他とした。尚、ヒガンバナ としたものの中にはコヒガンバナ (Lycoris radiata var.

pumila) や他の園芸品種が、シロバナマンジュシャゲと したものの中にもヒガンバナ類の園芸品種が含まれてい る可能性は否定できない。本調査の主たる対象である、 花色が赤のヒガンバナの市内における開花地点数は、最 多数だった 2011 年で 147 ヶ所だった。ただし、この数 が市内のヒガンバナの開花地点全てを表しているわけで はなく、この他にも報告されなかった箇所が存在したと 考えられる。  開花していた場所については、5 年間の合計で河川や 水路の周辺にあるものが最も多かった(図 2)。次いで民 家・マンション等の住宅敷地内が多く、その点に市街化 が進んでいる伊丹市の特徴が表れていると思われる。3 番目に多かった農地については、地区別に見ると昆陽、 池尻、千僧地区が突出して多かった(図 3, 表 1)。昆陽、 千僧地区の農地は比較的小面積であるが、開花地点数は 多い。この原因の一つとしては、立地的にヒガンバナが 開花地点数 年 図 1 ヒガンバナ類の年別開花地点数

(3)

目につきやすい、もしくは開花報告をされやすかった可 能性がある。なぜなら緑化協会が所在していたのは昆陽 地区であり、また市役所は千僧地区にあるためである。  一方、荒牧、山田、森本、中野、東野地区には比較的 大面積の農地があるが、報告件数は少なかった。これは 区画整理のため、農地の境界がコンクリートで仕切られ 畦のない「都市型」田畑が多いためと思われる。また東 野地区は、ウメなどの樹園地が多いことが関係している のかもしれない。先述の池尻地区には、大型商業施設及 び住宅地に囲まれているものの畦のある農地が存在し、 ヒガンバナはその畦で多数開花しているのが観察され た。しかし今後、そのような住宅地に接した小面積の農 地は、将来的に住宅地へと変化していくことが予想され る。事実、2000 年から 2010 年の 10 年間で、伊丹市内 の経営耕地面積は 187ha から 93ha へと半減している(総 務省統計局 web サイト)。ヒガンバナやその他の野草、 及びそれらに依存する昆虫をはじめとした小動物が生育 できる環境が、今後さらに減少していく可能性が考えら れる。 表 1 ヒガンバナの農地における地区別開花地点数(5 年間の合計数) 1 3 7 1 2 9 1 2 6 9 2 7 2 4 6 3 0 図 2 ヒガンバナの開花場所(5 年間の合計数) ※昆陽地区は、住所表示上の「昆陽」、「昆陽東」、「昆陽南」を含めた n=632 ※伊丹市内の地区別経営耕地面積は、2005 年当時のものを使用した ※経営耕地には耕作放棄地は含まれないため、農地と完全には同義ではない 地区名 開花地点数(箇所) 経営耕地面積(ha) 市内全経営耕地との面積比(%) 昆陽

31

2.08

1.9

池尻

27

9.01

8.3

千僧

21

1.7

1.6

寺本

9

3.46

3.2

荒牧

9

7.48

6.9

御願塚

7

2.99

2.7

口酒井

5

2.31

2.2

山田

4

5.36

4.9

森本

3

6.02

5.5

中野

1

12.85

11.8

東野

1

21.99

20.2

伊丹市

昆陽 池尻 寺本 千僧 荒牧 御願塚 口酒井 山田 森本 中野 東野 N 大阪国際空港 図 3 伊丹市の地区名とその位置の概略

(4)

3. 開花日  調査を行った 5 年間の、ヒガンバナの開花日と開花地 点数を図 4 に示す。調査年により、開花地点数が最多に なる日が異なっていることがわかる。ヒガンバナが開花 に至るまでには、気温の影響を大きく受ける。夏期の高 温は開花時期を早め、秋口の気温が高いと開花時期が遅 くなることが知られている(森ら , 1990)。参考に、伊 丹市に最も近い観測点である豊中市の気温(気象庁発表 値)を図 5 に示す。例えば、8 9 月にかけての気温が平 年値を大きく上回ることが多かった 2007 年は、ヒガン バナの開花も他の年より遅れ気味の傾向があり、10 月に 入っても開花株が多数見られた。また、8 月下旬以降の 気温が平年値を下回ることが多かった 2009 年の開花地 点数は、9 月 21 日に大きなピークのある山型となって いる。つまり本調査では、年によって異なるヒガンバナ の開花傾向を可視化することができたと思われる。ただ し本調査の弱点は、市民からの報告を資料としている点 である。情報の精度という点で、これ以上得られたデー タについて論考すべきではないだろう。  開花日と開花していた場所についての関連について は、見出すことができなかった。  本調査では、市民からのヒガンバナの花を見た日と場 所についての報告を資料としているため、データの信頼 性のほか、開花日の報告件数にむらができ、また人目に つきにくい場所の報告が少ないといった問題がある。し かし調査の目的の一つに「市民参加」を挙げている以上、 基本的な調査方法については 5 年間変更を行わなかった。  このような調査は、市民にとって身近な自然を改めて 観察する契機となることを期待する。実際、ヒガンバナ を探すためだと思われるが、「周囲を良く見るようになっ た」という感想を市民からいただいている。普段から周 囲の自然を観察することで、ある植物が少なくなった、 などの環境の変化に気付きやすくなると考えられ、その 面で本調査は有効だったと考えている。   謝辞  ヒガンバナの開花情報をくださった伊丹市民の方々、 調査の支援をしていただいた財団法人伊丹市公園緑化協 会の元職員に感謝申し上げる。 0 5 10 15 20 2 0 0 7 2 0 0 8 2 0 0 9 2 0 1 0 2 0 1 1 開花地点数 開花日 図 4 ヒガンバナの開花日と開花地点数

(5)

引用文献 伊丹市総合政策部政策室 編(2011) 伊丹市総合計画(第  5 次). 伊丹市 , 兵庫 . 林弥栄 編(1983) 日本の野草 . 山と渓谷社 , 東京 . 森源治郎・今西英雄・坂西義洋(1990) Lycoris 属の開  花に及ぼす温度の影響 , 園芸学会誌 59(2) : 377-382. 参考文献・Web サイト 総 務 省 統 計 局 Web サ イ ト 2010 年 世 界 農 林 業 セ ン サ ス 確 報 第 1 巻 都 道 府 県 別 統 計 書 兵 庫 県  URL:http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List. do?bid=000001036116&cycode=0 (2014 年 2 月 28 日アクセス確認) 伊丹市 Web サイト 農家数・人口及び耕作面積 URL: http://pitam.jp/home/SOMU/SSOMU/_8312/_9240 /_16904/0000586/_8265/0000458.html (2014 年 2 月 28 日アクセス確認) 気 象 庁 Web サ イ ト  過 去 の 気 象 デ ー タ 検 索 URL: http://www.data.jma.go.jp/obd/stats/etrn/index. php(2014 年 2 月 28 日アクセス確認) 1 5 2 0 2 5 3 0 2007 2008 2009 2010 2011 平年 図 5 豊中市内の日ごとの平均気温(気象庁発表値) 気温(℃) 月日

参照

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