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DSpace at My University: T グループを用いたリーダーシップトレーニング −参加学生は何を掴んだか−

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−参加学生は何を掴んだか−

中  西  美  和

What Did Students Learn from Leadership Training using T-group Method?

Miwa Nakanishi

抄    録

 本研究では、T グループを用いたリーダーシップトレーニングへ参加した女子学生の気 づきや学びを明らかにすることを目的とした。筆者がファシリテーターとして担当した T グループのメンバー 12 名が、トレーニング終了時に記述した感想について、KHCoder を 用いた対応分析を行った。対応分析の結果に基づき、類似した気づきや学びを得たと思わ れるメンバーをグルーピングした。3 つのグループについて解釈を行ったところ、トレー ニングを通して、各グループに属するメンバーは、それぞれ「気持ちを伝えること、受け とることへの気づき」、「言葉による他者との関わりへの気づき」、「自己受容と自己への気 づき」を得たことが示唆された。 キーワード:T グループ、リーダーシップトレーニング、青年期女性、KHCoder (2016 年 9 月 24 日受理)

Abstract

The purpose of this study is to examine what students learn from "Leadership Training". The program mainly consists of T-group sessions. The members of the T-group were 12 female students and one facilitator. Comments submitted in writing by the 12 students at the end of training were analyzed. Correspondence analysis was conducted using KHCoder. According to the analysis, the students could be divided into certain groups. Of those groups, three are considered in this study. The results showed that the students of each group seemed to learn the following: "The meaning of expressing their own emotions and accepting others' emotions", "The effect of verbal communication", "A sense of accepting themselves and an awareness of themselves".

Keywords: T-group, Leadership training, Women in adolescence, KHCoder

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1. はじめに

 T グループの T は、Training の略であり、T グループとは、グループで起こる「今―こ こ」の人間関係のプロセスに気づき、その体験から学ぶことを目的としたトレーニング・ グループである(中村,2012)。T グループは、あらかじめ課題や話題が設定されていない Tグループ・セッションを示す場合と、T グループ・セッションを含むトレーニングの場全 体を示す場合がある。T グループでは、取り組む課題や話題があらかじめ設定されておら ず、このような場での体験は、非構成的な体験と呼ばれている。そのため、T グループで は、自然かつ必然的に、目の前の人々と関係を築くことが取り組む課題となってくる。こ れによって、参加者同士がお互いの存在を尊重し、直接的に関わり、「今―ここ」での関係 に生きることが可能になる(中村,2012)。  このような T グループによるトレーニングは、社会的な感受性の養成、コミュニケーショ ンスキルの開発、リーダーシップトレーニング、組織開発などの様々な領域で応用されて いる。しかしながら、T グループによるトレーニングに参加することの負荷を鑑みて、そ の参加条件として、ある一定の社会経験と健康なメンタリティを備えていることが挙げら れており、学生を対象とした T グループは、全国的にも少ない。現在では、筆者の所属す る大学の他に、南山大学やヒューマン・コミュニケーション・ラボラトリー(以下、HCL と記す)などが、学生を対象とした T グループを実施している。そこで、本研究では、学 生対象の T グループの特徴を明らかにするため、筆者の所属する大学の学内プログラムで ある、学生対象の T グループを用いたリーダーシップトレーニング(以下、リートレと記 す)において、筆者の担当したグループの学生が得た、気づきや学びについて検討するこ とを目的とした。筆者の担当したグループの学生に限定した理由は、筆者もグループメン バーの一員として、グループで起こったことを学生と共有しているため、グループでの学 生の経験と、そこからの気づきや学びとのつながりを考察することが可能になると考えた からである。  HCL で対人援助活動を志す学生を対象に、T グループを実施している川島(2003)は、T グループの全プログラムが終了した時点で、「 あなたが気づいたこと、学んだこと、今後 役立つと思うこと 」 の質問欄に自由記述形式で記された内容を KJ 法によって分類した。そ の結果、T グループの経験を通して、「感情の交流・好感を軸にしたコミュニケーションへ の気づき」、「 自己開示やフィードバックについての気づき 」、「他者とのかかわり方への気 づき」、「新たな自分への気づき」、「あるがままの自分を容認する」、「信頼すること・され ること」、「価値の多様性への気づき」などの気づきや学びがあったことが示された。  KJ 法を用いた研究は、分析者が作成したコーディングルールに従って、テキスト型の 素データを分類・解釈するという Dictionary-based アプローチによるものである。一方、 Correlationalアプローチは、テキスト型の素データの中で、共に出現する頻度の高い言葉の グループや、共通する言葉を多く含む文書のグループを、コンピューターを用いた多変量 解析によって自動的に発見・分類するアプローチである。従来までは、テキスト型データ

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の内容を分析する際には、Dictionary-based アプローチと Correlational アプローチのうち、 どちらか一方を用いることが多かった。しかし、この二つのアプローチの長所と短所は、 表裏をなすものであり、互いに補いあうべきアプローチであるという視座から、Dictionary-basedアプローチと Correlational アプローチの一長一短を補うように接合したアプローチ である KHCoder が作成された(樋口,2014)。樋口(2014)によると、KHCoder は、計量 的分析手法を用いてテキスト型データを整理または分析し、内容分析(content analysis) を行う計量テキスト分析であると定義されている。KHCoder は、従来の Dictionary-based アプローチによる質的分析を行う前段階で、Correlational アプローチによる計量的分析手 法を行うことによって、コーディングの信頼性ないしは客観性を向上させ、データの全 体像や概観を描くなどのデータ探索ができることなどの利点を活かした分析方法である。 KHCoderでは、第一段階で、Correlational アプローチにならい、多変量解析を用いること で、分析者のもつ理論や問題意識の影響を極力受けない形で、データを要約・提示し、第 二段階で、Dictionary-based アプローチにならい、第一段階の結果に基づくコーディング ルールを作成することで、明示的に理論仮説の検証や問題意識の追求を行うことを可能に する。そこで、本研究では、KHCoder の第一段階の分析を用いて、分析者の影響を極力受 けない形で、筆者が担当したグループの学生が得た気づきや学びの全体像を把握すること を目的とした。  さらに、川島(2003)の KJ 法を用いた研究では、2 つの異なるグループの参加者が記述 した気づきや学びを、まとめて分析している。そのため、グループの経過や個人的な経験 との対応は考慮されていない。そこで、本研究では、KHCoder を用いた対応分析を行うこ とで、どのような個人的経験が、どのような気づきや学びにつながるのかについても明確 にすることを目的とした。

2. リートレについて

2. 1 プログラム  リートレは、新入生の大学生活のサポートや、学内行事のスタッフとして活躍する Big Sister(以下、BS と記す)になるためのトレーニングとして位置づけられ、2 日間の通学に 図 1 リートレ合宿プログラムの詳細

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よる学内レクチャープログラムと、3 泊 4 日の学外での合宿プログラムから構成されてい る。  レクチャープログラムでは、リートレの学内スタッフが中心となり、合宿への参加目的 を意識化させる実習をいくつか行う。合宿プログラムは、レクチャープログラムの数日後 から開始され、図 1 に示したように、全 9 回の T グループとそのふりかえりのセッション (図 1 中および以後の文中では、T1 ~ T9 と表記)、参加学生全員で集まる全体会(図 1 中で は G1 ~ G7 と表記)、および朝と夜のつどいから構成されている。リートレでの T グルー プは、12 名の参加学生と 1 名のファシリテーターからなる小グループで、何もないところ からグループが動いていく過程にかかわる中で、受容・共感、自分や他者への気づき、お 互いの影響関係などを体験し、新しい行動を試みるというものである。全体会は、T グルー プとは異なる場面で自分や他者、グループの動きに気づくための実習や、全セッションを ふりかえり、そこでの学びを明確にするために、リートレ全体の感想を記述する時間が含 まれている。朝と夜のつどいは、一日の始まりと終わりの短い全体会であり、スタッフの 提供する話や詩を味わいながら、参加学生が自らをふりかえり、自らと対話するひととき である。なお、T グループのメンバーおよびファシリテーターは、日常生活で関わり合い が少ないもの同士が同じグループとなるように分けられる。 2. 2 参加学生  募集時に学生には、具体的なリートレの内容は伝えず、BS になるためのトレーニングで あることと、リートレの全プログラムに出席することが参加条件であることを伝えた。本 研究で報告する 2013 年度も、希望者が募集人数を超過したため、抽選により決定した、短 大 26 名、大学 46 名の計 72 名の学生が参加した。 2. 3 リートレスタッフ  スタッフは、筆者を含めた T グループのファシリテーター 6 名、事務局スタッフ 1 名、 看護師 1 名から構成されていた。

3. 参加学生のリートレでの気づき・学びのまとめ

 本研究をまとめるにあたり、筆者の担当したグループメンバーに対して、リートレ終了 後に、研究の概要、個人情報の取り扱い、学会等で研究結果を公表する旨の説明を行い、 書面にて研究参加の同意を得た。 3. 1 各 T グループの流れと学生の体験  T1 および T2 は 60 分、T3 から T9 は 90 分のセッションであり、各セッションの最後の 10 分間は、セッションのふりかえりを記入する時間とした。T グループのふりかえり用 紙は、セッション中に生じた懸念やグループに対する魅力の程度を 5 件法で回答する 5 つ

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の質問項目、自分やグループに影響を与えたメンバーについて自由に記述する項目、そし て、セッションで感じたことや気づいたことについて自由に記述する項目から構成されて いた。  T1 は、「話題探しのセッション」となった。E(以下同様に、メンバーを A から L のアル ファベットで示す)の提案で自己紹介から始まり、F が留学や料理の話題を提供した。A・ C・E・F・I が主に話をし、その他のメンバーは話を聞き、時間が経過した。B・D・J の発 話はなかった。ふりかえりの記述には、「このグループは楽しい、話しやすい(C・F・G・ I・J)」、「発言ができない、不安(B・D・K)」などの対極の内容がみられた。また、「C の 明るさが自分やグループに影響を与えた(E・F・H・K・L)」という記述が目立った。  T2 は、「提供された話題で時間をつぶすセッション」となった。C と E が中心に話をす る中で、A・F・I から発話の少ない D に対して話をふる動きがあったが、B へ話をふるこ とはなく、B の発話はなかった。E は「沈黙が無理」と表明した。ふりかえりの記述では、 「A の話題をふるような関わり(E・K・L)」や「E の表明(F・H・L)」が自分やグループ に影響を与えた、「話していない人が気になる(E・G・J・L)」など、他者の動きや他者へ の関心についての記述が目立った。一方、発話のなかった B は、「聞いていて楽しい」と 記述していた。  T3 は、「あの時、あそこでの自分の内面を語るセッション」となった。J が「今日はどう だった?」とグループに投げかけ、それに対して数人が応答した。続いて F が「なぜこの 学校を選んだのか?」と投げかけたところ、メンバーが順番に 1 人ずつ話していった。そ の中で、D が「高校時代は不登校だったが先生に支えられた」と涙ながらに語った。他の メンバーはそれを優しく受け止めていた。ふりかえりでは、ほぼ全員が、「入学の動機を 聞いて影響を受けた(A・C・D・E・F・G・H・I・J・L)」という内容を記述し、「仲良く なった(A・I)」、「明日のグループセッションからは自分から話そうと思う(B)」、「心が やわらかくなった(D)」、「みんなのことを知れた(J)」、「緊張がとけてきた(K)」、など、 全員がポジティブな記述をしていた。  T4 は、「話題を介して話を促す関わりが増えたセッション」となった。A が席替えを提 案し、J が真っ先にのった。就職や成人式の話題で、C・E から B へ、L から K へと話がふ られた。表面的な話題についていくことに疲れが見えだしたせいか、会話も途切れがちに なってきた。C と E がファシリテーターに時間の確認をした。ふりかえりでは、話をふら れた B や K は、「そのおかげで話しやすくなった」と記しており、話をふった C・E・L に 対しては、「良かった(C・E・H)」とポジティブに記述されていた。しかしながら、「誰 からもうながされずに自分から話していけるように、このあと 2 日間で自分を変えていき たい(B)」、「声をかけてくれないと発言ができない、少しずつ話せてはいるけど、すごく 辛い(D)」、「話すことが無くなってきてヤバいぞ(E)」、「もう少しみんなが発言できたら いいな(J)」、「まだ私はどういう風にすればいいのかわからないです。早く慣れたいです (K)」、「みんなの口数に差があって、みんなの声をもう少し聞きたい(L)」、など、各人の 不安、焦り、不満が記述され出した。セッション終了後、ファシリテーターが退室した後、

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「これいつまで続くの?誰かトランプ買って来て」と言う G の声が聞こえた。ファシリテー ターは、介入を意識した。  T5 は、「せめぎ合いのセッション」となった。ゲームの提案があったが、誰もそれには 乗らなかった。J はファイルを開いてリートレのねらいを見たが、無言で閉じてしまった。 これまで発話の多かった E の発話が減った。今回も、セッション終了後に、「このねらい を見ててんけど」と話をしている声が聞こえた。ふりかえりでは、「みんなの話を聞いてい て楽しい(B・C・F・H・J)」、「どうしたらいいのかわからない(E)」、「もっといろいろな 意見を聞きたい…(以下同様に…は記述の中略を表す)少しだけファシリテーターの顔色 をみちゃう(L)」などの記述があった。今回のふりかえりは、全セッションの中で、最も 記述量が少なかった。今の状況に違和感や疑念を感じるメンバーと、これまで通り楽しい 場を求めるメンバーの存在が浮かび上がった。  T6 は、「いま・ここの自分を表明するセッション」となった。E が焦りを表明した。J が 「姉と比較されて、評価されず、自分に自信がない。」と涙ながらに告白した。D が「自分 は、目標を持ってリートレに参加したのに、こんなんじゃダメだ」と泣き出し、それに対 して、A が D に駆け寄り、手を握ってサポートした。その姿を見て、もらい泣きするメン バーもいた。H も自分のことを話し始めたが、時間がきて話の途中で終わった。ふりかえ りでは、ほぼ全員が、D が自分やグループにポジティブな影響を与えたと記述していた。 その一方で、「皆がリートレで変わりたいと思っていることを聞いて、私はこんなのでいい のかと感じた。この先、何の話をすればいいのか、わからなくなった(I)」と、戸惑うメ ンバーもいた。気持ちを開示した D と J は、「自分の気持ちを声を伝えることはすごく怖 かった。だけど伝えられて、きっかけをつくれて嬉しかった(D)」、「人の気持ちは自己紹 介や会話ではわかることが出来ない。自らをだすことがすごく勇気のいることだと思った (J)」と記述していた。  T7 は、「自己表明のセッション」となった。前回の続きで、H が「人から見られる自分 と本当の自分は違う。本当の自分は負けず嫌い。」と表明した。F が「みんなのリートレの 達成度を聞きたい」と投げかけ、話したい人が今の自分について話す中で、K が自ら「自 分には積極性がない」と語ったところ、C が「今もこうやって言えているし、少しずつ言 えているよ」とフィードバックをした。ここで、これまで黙っていた B が、家族のことや 昨日の D についての気持ちを自分から表明した。続いて L が、「自分がどうなっているの か、何なのかわからない」と涙ながらに告白した。メンバーの語りを聞いている他のメン バーは、短い言葉で応答したり、語りに触発されて自分を表明することで応答していた。I は発話が少なく、居心地が悪そうであった。ふりかえりでは、自分を表明した B・H・L は、「やっぱり話をしていくうちに、だんだん緊張しちゃう。…はきはき話す人がうらやま しい!(B)」、「自分のことを話せてよかった。…(H)」、「自分の弱さにも改めて気づいた (L)」と記述していた。C からのフィードバックを受けた K は、「C すごく嬉しかった。… もっと頑張っていきたい(K)」と述べていた。発話の少ない I は、「自分のことを話すのは 大事だと教わりましたが、多分、私は話せないと思いました。…自分はこのリートレで何

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をしてよいかわからない(I)」と述べていた。  T8 は、「他者の表明にアドバイスで関わるセッション」となった。F が BS になることへ の不安を語った後、「このような時にはこうすれば良い」などの、BS になった時の対応マ ニュアルを作成するようなやりとりが続いたため、ファシリテーターが、「先のことではな くて、いま、ここで、できることがあるんじゃないかな」と介入したところ、その話は中 断となった。その後、L が発話の少ない K へ話をふり、K が友達関係で味わった辛い経験を 語り出した。それに対してメンバーは、アドバイスをするという形で K に関わった。L は 「何か、つかめた」と言葉にした。C・G・I は発話がほとんどなく、話に入っていけない様 子であった。ふりかえりでは、ファシリテーターの介入に対して「ファシリテーターのコ メントの意味がわからない(F)」と記されていた。自分の辛い経験を語った K は、「私へ のアドバイスで、私は考えすぎなのかなと思いました。…(K)」と、何かつかめた L は、 「みんなの優しい言葉がけに、少しだけずっと思ってた気持ち(わだかまり)が薄れたよう に思う(L)」と、発話の少ない C・G は、「みんな一人一人、その子のことについて真剣に 聞いて、それについて良いアドバイスをしているなって思った(C)」、「…友達関係で苦し い経験なかったし…良いアドバイスがないかな?と思って考えたけど…良いアイディアが 浮かばなかった(G)」と記していた。  T9 は、「メンバーへのお礼とフィードバックセッション」となった。D・K がみんなにお 礼の言葉を語った。L が前々回のセッションより発話が少なかった C・G・I に対して、「静 かやね」と話をふった。それを受けて、C・G・I からは、「自分は目的や悩みを持たずに リートレに参加した」、「みんなの真剣な様子を見て、自分は何のためにリートレに来たの かと感じている」、「楽しければいいと感じていた」などと今の気持ちが語られた。それに 対して、H・K から「C・G・I の楽観的さに救われた」とのフィードバックがあった。ファ シリテーターは、F が気になっていたので、F に対して 「今どうしてる?」と関わったと ころ、F は「自分の引き出しが空っぽになっていく感じ。いろいろ話題をふったりしたが、 良かったのか?」と不安を表明した。それに対して、メンバーから F へ、「F が話題を作っ てくれたので助かった」などのフィードバックがあった。最後に E から、「ファシリテー ターがこのグループをどのように見ていたのかを知りたい」とリクエストがあったため、 ファシリテーターはそれに応じた。ふりかえりでは、ほぼ全員が、自分の達成できたこと やグループメンバーへの感謝について記していた。 3. 2 リートレ全体の感想の分析と分析結果  図 1 中の「G7 全体のふりかえり」は、上述のような T グループを含むリートレ全体を通 しての感想を記述する時間であった。そこでは、「感想文」というタイトルと罫線が印刷さ れた用紙を参加学生に配布した後、スタッフから、リートレで気づいたこと、学んだこと などを自由に書くことと、感想文の用紙は回収するため氏名を書くことを伝え、50 分程度 の記入時間を設けた。  この時間に記述されたリートレの感想に対して、筆者の担当したグループメンバーが得

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た気づきや学びの全体像を把握するために、KHCoder を用いた対応分析を行った。対応分 析とは、質的データを分析する多変量解析法である。本研究の対応分析では、リートレ全 体の感想に出現する言葉の頻度を、メンバーごとに集計して作成されたクロス集計表から、 行と列の相関関係が最大になるように数量化し、行と列の要素を二次元空間に表現した。 原点から離れて布置されるほど、そのカテゴリーは個別の特徴を有すると考えられ、また 関連の強いカテゴリーは近くに布置されるため、類似した記述をしているメンバーや、特 異的な記述をしているメンバーが視覚的に把握できる。なお、対応分析には、助詞など分 析に不要と判断した品詞を除いて、6 回以上の出現数であった 50 語を採用した。対応分析 の結果を図 2 に示した。図 2 中に黒丸でプロットされたものは、対応分析に用いた 50 語 を、四角でプロットされた A から L は、グループメンバーを表している。そして、図 2 の 布置の結果と記述された感想を読み返しながら、類似した記述のメンバー同士をグルーピ ングし、同じグループとみなしたものを破線の丸で囲み、図 2 中に示した。なお本研究で は、紙面の関係上、グループ 1 からグループ 3 までのグルーピングの結果を示し、考察す るものとした。表 1 に、グループ 1 からグループ 3 に属するメンバーの、リートレの感想 の記述のうち、結果の解釈に必要と判断した箇所を抜粋して示した。 図 2 対応分析の結果

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 メンバー D と J、および「感じる」・「気持ち」・「理由」・「伝える」の語は、グループ 1 とした。表 1 より、J の記述中には、自分が感じたことや、自分が抱いた気持ちを表現する ために「感じる」や「気持ち」が用いられている箇所があった。その一方で、D と J は共 に、他者との関わりの中で、感情レベルのコミュニケーションの重要性を表現するために、 「気持ち」や「感じる」を用いていた。よって、D と J は、他者との関わりの中で、「気持 ちを伝えること、受けとることへの気づき」を得たものと解釈した。  メンバー C と K、および「大切」・「楽しい」・「悩み」・「良い」・「嬉しい」・「少し」・「言 表 1 対応分析に採用したメンバーのリートレ全体の感想(抜粋)

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葉」の語は、グループ 2 とした。表 1 より、「良い」は、自分、他者、そしてリートレへの 評価の表現として用いられていた。また、「嬉しい」は、他者からのフィードバックを受 けての感情表現として、あるいは、自分の悩みを聞いてくれたことへの感情表現として用 いられていた。C と K は共に、言葉で自分を開示し受けとめてもらえたことや、言葉によ るフィードバックを受けることが、嬉しいと表現される良い体験であったと言える。よっ て、C と K は、「言葉による他者との関わりへの気づき」を得たものと解釈した。  メンバー H、I、L、および「自分」・「友達」・「話す」・「本当」・「変わる」・「行く」・「リー トレ」・「真剣」・「思う」・「言う」・「今」・「苦手」・「本当に」・「いろいろ」を、グループ 3 とした。表 1 より、「友達」は、従来の友達と、リートレで出会った新しい「友達」を指 して用いられていた。「自分」は、「思う」、「話す」主体としての意味で用いられているほ か、「変わる」主体としてや、気づいたり、受け入れたりする対象としての「自分」の意 味で用いられていることがわかった。「言う」は、自己開示として自分が「言う」場合と、 他者からのフィードバックとして「言われる」場合に用いられていた。「本当」は、「自分」 を修飾する形で、「本当の自分」として用いられていることが多かった。H、I、L は共に、 リートレでの他者との関係の中で、今ある自分を見つめ、自己開示や他者からのフィード バックを通して今の自分に気づく、あるいは自分を受容する経験をしていたと考えられる。 よって、H、I、L は「自己受容と自己への気づき」を得たものと解釈した。

4. 考察

4. 1 メンバー D・J の体験とそこからの気づき・学び  グループ 1 に属する D と J は、リートレを通して、「気持ちを伝えること、受けとること への気づき」を得たものと解釈した。以下、リートレでの体験とそこからの気づきや学び を対応させて考察する。T3 で D がグループで初めて涙を見せ、T6 では、J の涙ながらの自 己表明に続いて、D も涙を流しながら必死にいま、ここでの気持ちを表明した。D は、T6 のふりかえりにおいて、自分の気持ちを伝えることの怖さと、伝えられたことが嬉しかっ たと記述しており、全体の感想においても、関わりの中で自分や他者を感じることの大切 さを述べていた。自分がグループの状況を一変させるかもしれない怖さを抱えながらも、 気持ちを表明することは、D にとっては、大一番の真剣勝負とも言うべき体験であったで あろうし、その真剣勝負にメンバーが正面から応えてくれたことは、他者に自分という存 在を受けとめてもらえた体験であったと思われる。一方、J は全体の感想において、D の 自己表明にふれ、気持ちが人をつなぐと述べていた。T6 のふりかえりの記述より、他のグ ループメンバーの多くが、D の存在に影響を受けたと思われるが、特に J にとっては、自 分の感情の高ぶりに共鳴するかのごとくに D の表明があったため、D の影響は大きく、感 情レベルで関わることのインパクトを受けたのかもしれない。

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4. 2 メンバー C・K の体験とそこからの気づき・学び  グループ 2 に属する C と K は、リートレを通して、「言葉による他者との関わりへの気 づき」を得たものと解釈した。グループメンバーの T1 や T9 のふりかえりに記述されてい るように、C の明るさはグループに影響を与え、C はムードメーカー的存在であった。ま た、C の全体の感想からは、グループメンバー以外のリートレの参加者からも、C は、自 身のポジティブさに対して言葉でのプラスのフィードバックを受けていたことがうかがえ る。さらに C は、全体の感想から、自分が言葉をかけることによって、相手が話をしてく れることを体験し、言葉の大切さを実感したと言える。一方、K は、T1 から T6 までは、自 発的な発話はほとんどなく、他者に促されて話すことが多く、T1 や T4 のふりかえりにお いても、不安感や緊張感を記していた。しかし、T7 において、K は自発的に自分を表明し、 それに対して C よりポジティブなフィードバックを受け、また T8 において、K は自分の 悩みを告白し、それに対してグループメンバーからアドバイスという形で関わってもらっ た。K の T7・T8 のふりかえりや全体の感想からもわかるように、K にとっての T7・T8 は、 新しい自分に出会うきっかけとなったと思われる。C と K は、リートレの全体の感想にも 記しているように、他者から言葉をかける・かけられる体験から、言葉の大切さを実感し たと言える。ここで、一見キャラクターが正反対とも思われる C と K が同じグループに布 置されたのは興味深い。C と K の関係性を考えると、K は C の言葉がけにポジティブな影 響を受け、C は自分の言葉がけが嬉しかったという K の言葉にポジティブな影響を受ける というように、K と C はお互いに影響し合う関係であったのかもしれない。 4. 3 メンバー H・I・L の体験とそこからの気づき・学び  グループ 3 に属する H・I・L は、リートレを通して、「自己受容と自己への気づき」を得 たと解釈した。H は、全般的に聴き手であったが、T6 の D と J の自己開示に触発されたの か、T6 と T7 において自発的に自分の内面を話し始めた。T7 のふりかえりや全体の感想に おいても、初対面の相手に対して本当の自分を出したということが、H の中ではポジティ ブな意味をもち、自分に変化と気づきをもたらす経験であったことがうかがえる。さらに、 Hの全体の感想から、セッション外でも、他者に自分の内面を開示し、それに対して他者 から言葉をかけられたことによって、H は自分に気づき、今の自分を受け入れる経験をし たことがうかがえる。I は、話題中心で話が盛り上がっていた T1 から T5 までは、発話を していたが、T6 以降、グループメンバーの自己開示が進むにつれて発話が減った。I の T6 から T8 のふりかえりや全体の感想からも、自己開示することに抵抗感を抱く自分がおり、 自己開示が進むグループの雰囲気の中で戸惑い、途方にくれていたことがうかがえる。し かし T9 で、安易な気持ちで参加したことを申し訳なく思う気持ちを表明したところ、K や Hから、ポジティブなフィードバックを受けた。この経験は I にとっては大きく、I の全体 の感想にあるように、人の笑顔をみることが好きなのが、他ならぬ自分であると気づき、 そんな自分を受け入れる経験であったとうかがえる。L は、T2・T4・T5 のふりかえりや、 T4 のグループでの関わりからわかるように、グループの中で話をしていない人に関心を持

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ち、話をふっていた。ところが、T7 で自分の在り方がつかめない辛い気持ちを表明した。 T7 のふりかえりには、この気持ちの表明により、自分の弱さに気づいたことが記されてい た。T8 では、K の悩みに L も含むメンバーがアドバイスという形で関わる中で、L 自身も 何かを掴んだようであった。L の全体の感想からは、自分についての気づきと、自分を受 け入れ許すことができたと記述されていた。よって、H、I、L にとっては、自己開示や他 者からのフィードバックがきっかけとなって、自分に気づき、自分を受け入れる経験がで きたものと思われる。 4. 4 T グループで起こっていたこと  津村(2002)は、グループとして共に生きることと個人の欲求との間の葛藤に直面しなが ら、それを乗り越えていくことによってメンバー間の信頼関係を築いていくことになると 指摘している。また柳原(1985)は、T グループのような集中的小グループでの体験を図式 化して詳述し、集中的小グループの体験は、自己開示(self-disclosure)や傾聴(listening) からなる対話(dialogue)と、ならす(leveling:自分が今自分をどのように“経験してい るか”を相手に話すこと)と対決する(confrontation:相手が自分の中にどのように入りこ んできているかを相手に話すこと)からなる出会い(encounter)の状況が存在する時に、 深い次元の体験が起こると指摘している。本研究で報告した T グループでは、T6 において、 普段は人に見せない自分の側面を開示した J や、グループの雰囲気を変えてしまうことを 恐れながらも、思い切って今の気持ちを表明した D の在り方に影響を受けたメンバーが、 T6 以降のセッションでは、自分の気持ちや悩みなどの内面を開示し、グループ内ではそれ を聴いて受けとめ、フィードバックやアドバイスで応答するような関わりが起こった。そ の一方で、I や G は、T6 以降の自己開示が促進されるようなグループの雰囲気に、ついて いけない気持ちを表明した。J・D・I・G は、グループに関与し続けることと、そこで生じ る個人の欲求との間の葛藤に直面しながら、その葛藤を表明し、他のメンバーはその表明 を受けとめ、影響を受けていたと考えられる。また、T6 での「このままではいけない」と いう D の表明は、これまでグループを盛り上げるために動いていたメンバーとの対決を意 味し、さらに I や G の表明も、受容的なグループの雰囲気に水を差すような、グループと の対決を意味すると捉えることもできる。  これより、本研究で報告した T グループでは、信頼関係の構築につながるような関わり や、自己開示と傾聴からなる対話と、ならすと対決することからなる出会いの状況が存在 していたと考えられる。よって、リートレを通して得た学生の気づきは、津村(2002)や 柳原(1985)が指摘するところの信頼関係や深い次元の体験に支えられていることが示唆 された。  津村(1986)は、対人関係能力を向上させていくためには、プロセスに気づく力、すな わち感受性能力が重要になると指摘している。T2 や T4 のふりかえりでは、口数の少ない メンバーが気になることが記述され、T4 以降、口数の少ないメンバーへ話をふるような 関わりが生じていた。さらに T3・T6・T7・T8・T9 では、涙ながらに語るメンバーに対し

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て、他のメンバーは共に涙を流したり、アドバイスや自分の経験を語るという形で応答し ていた。また J の感想からは、グループを、自己を開示しても受けとめてもらえるという 場と感じとっていたことが窺えた。その一方で、ふりかえりの記述から、T7 の I や、T8 の Gは、自己開示をする雰囲気に不自由さを感じたり、うまく応答できない自分を感じてお り、L は、そのようなメンバーに気づき、声をかけていた。これらのことより、この T グ ループの中では、参加学生は、自分や他者の感情や行動、さらにグループの状況などのプ ロセスにも目を向けていたと思われ、人と関わる力を育むための基盤となる経験がなされ ていたと考えられる。  以上より、今回のリートレでは、信頼関係の構築、深い次元の体験、そしてプロセスに 目を向ける体験が生じる場であったと考えられる。そして、このような体験に支えられた 気づきや学びがあるからこそ、リートレは新入生と関わっていく力を養う機会となり得る のかもしれない。 4. 5 本研究の課題と今後の展望  本研究の結果は、あくまで筆者の担当したグループのメンバーが、T グループ、全体会、 そしてセッション外での体験を通して得たことである。よって、筆者のグループ独自の要 素と、他のグループにも共通する要素の両方が混在しており、本研究の結果を一般化する ことは出来ない。今後は、他のグループとの比較検討が必要である。また、本研究で行っ た対応分析では、6 語以上の出現頻度の語を対象としたために、寄与率も十分ではなく、低 い出現頻度でありながら、重要な意味を持つ語を見落としている可能性もある。よって、 素データをさらに読み込み、分析に採用する語の取捨選択を再考し検討を続けていく必要 がある。グルーピングの妥当性についても、素データに立ち返り、当事者や他の研究者の 解釈を含めて検討を重ね、潜在的な要素を追求していく必要がある。  本研究をまとめるにあたり、参加学生の一人一人の迫力のある存在と経験の生々しさが、 分析をしてしまうことで損なわれているのではないかと感じる局面があり、迷いながらも 分析や解釈に細心の注意を払ったつもりである。このような迷いが生じる一因として、本 研究で用いた KHCoder での対応分析が、本研究で扱うような質的データの分析法として、 十分にフィットしていなかった可能性も否めない。今後は、他の質的データの解析法によっ ても、リートレに参加した学生たちの体験の分析を試み、学生たちが掴んだことを明示し ていくことが必要である。さらに、リートレの参加学生が、実際の新入生との関わりの中 で、リートレでの経験をどのように活かしているのかについても検討し、リートレでの体 験の意義を追求していくことが求められる。 5. 引用文献 樋口耕一(2014).『社会調査のための計量テキスト分析−内容分析の継承と発展を目指して』 ナカ ニシヤ出版 川島恵美(2003).“援助者養成の方法−集中的グループトレーニング(T グループ)における学びを

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通して−” 『関西学院大学社会学部紀要』 95,133-143. 中村和彦(2012).「T グループ」 人間性心理学会(編) 『人間性心理学ハンドブック』 創元社  364-365.  津村俊充(1986).“プロセスとは何か” 『人間関係』 4,116-119. 津村俊充(2002).「T グループを中心としたトレーニング・ラボラトリ」 伊藤義美(編) 『ヒュー マニスティック・グループ・アプローチ』 ナカニシヤ出版 第 6 章,79-98. 柳原光(1985).“人間関係訓練による体験学習−トレーニングから学習へ−” 『人間関係』 2・3 合 併号,64-82.

参照

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