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ナース
ワゴン
α
No.35
AIロボットにはできない
人間にしかない能力を伸ばしたい
大事なのは「意志ある学び」です。 文部科学省的に言うと、「主体的な学び」になりますが、学習者本 人が自分のこととして感じられる言葉を使いたいので、私は「意志あ る学び」と表現します。「与えられた学びから、意志ある学びへ」が 未来教育の思想です。 今、学校教育は大きく変わりつつあります。小学校の教科書を見て みてください。マインドマップの作り方とかインタビューの仕方とか、 プレゼンテーションとか、いわゆる課題解決のための学びがすごく増 えています。これからの新しい時代は「人工知能」が進歩し、会社の 受付には人間に見えるアンドロイドが座るようになるでしょう。だか らこそ教育は、「人工知能ではできないことを伸ばすためのもの」で あるべきだと私は考えています。ロボットにできないことを集中的に 教育したい。そうすると、「人間にしかできないことは何?」という ことになります。 これまでの教育は「知識やスキルの習得」で完了していましたが、 これからの社会では「知識やスキルを現実に活用できる力」コンピテ ンシーが求められます。実践力とか応用力ということです。 現実の課題に対して、「この街をもっと良くしたい」「この病院をもっ と愛される存在にしたい」といった、「したい!」という気持ち。つ まり「will」。「課題」は「願い」でもありますが、これは人間にしか新しい時代を生きる力を
身に付けるために
ポートフォリオに取り組もう!
ポートフォリオって何だろう
勤医協中央病院学習会 第1部
講演会概要
講師:鈴木 敏恵
先生
2015 年 10 月 30 日(金)/勤医協中央病院みなくる A 主催:看護部教育研修委員会/参加者:55 人 【プロフィール】 シンクタンク未来教育ビジョン 代表・教育クリエータ・一級建 築士・文部科学省 H22「確か な学力」事業採択・日本赤十字 秋田看護大学大学院非常勤講 師・放送大学非常勤講師(心理 と教育) 「意志ある学び」を理念とする 新しい教育を構想、提唱、実践。 ポートフォリオ手法プロジェク ト学習の第一人者。教育界、医 療界、自治体などを対象に全国 で指導者育成講師として活躍し ている。 【公職歴】内閣府中央防災会議 専門委員(避難/人材育成)ほ か・千葉大学教育部特命教授ないものです。特に子どもたちは夢いっぱいです。「こういうことが できる」「ああいうことができる」と飛躍的に考え、夢見るように「あ りたい未来を自由に描くことができる」のが人間。ロボットにはでき ません。
これからの教育に必要な
3つの手法
「意志ある学び」と「良くしたいという気持ち」で、現実の中で知 識やスキルを生かせる力を身に付けるというのが、新しい時代の教育 の「狙い」になっています。 もはや講師や指導者が専門知識を話すだけで終わる研修はあり得な い。研修の成果を生みあげるプロダクトを生む研修をします。教えら れる側にいる人が学びを得て「プレゼンテーション」するような研修 であれば、現実の中で生かせる力が身に付きます。 私は「意志ある学び」を理念とした、以下の 3 つの手法を 1995 年 ごろから日本に広めています。 ●プロジェクト学習 ●ポートフォリオ評価 ●対話コーチング 「プロジェクト学習」と「ポートフォリオ」を両輪にした学びを「対 話コーチング」でサポートします。 導入した看護学校は国家試験の合格率が上がったり、何より、学生 が辞めなくなり、意欲的になった。新人になっても離職が減少したと いう嬉しい成果を上げています。看護師になろうと志した若者たちの 夢を叶えることになり嬉しいです。京都市立の私が指導した高校では プロジェクト学習を続けていたら、面接で自分の考えをしっかりと言 えるようになり、飛躍的に就職や進路の合格率が高くなったと、担任 の先生が教えてくれました。プロジェクト学習とは
願いを胸に宿して目標に向かうこと
プロジェクト学習の「プロ」とは「前」とか「先」ということで、「プ ロジェクト」というのは「未来の具体的な目標を描いて、そこへ行く ぞ」ということ。大切なのは未来志向の矢。矢は「始点(目的)」と「到 達点(目標)」をつないでいます。これからの教育の狙いは
現実の中で生かせる力を身に付けること
を言い換えると「願い」になります。つまり何かを始めるときには「何 のために何をやり遂げたいのか(目的)」を明確に決めてスタートさ せます。「何のために」を具体的に言うと例えば、「患者さんに自宅で 転んで欲しくないな」とか「患者さんが自宅で褥瘡になって欲しくな いよ」といったことです。 その目的を果たすために具体的な目標(到達点・ゴール)を決めま す。「退院前にご家族と面談し褥瘡ケアの 5 分セミナーを行い、説明 用のプリントを渡す(目標)」でしょうか。大切なのは、目標よりも 目的です。ですから、スタッフが「私はこんな目標にしました」と言っ たら、必ず「あなたの願いは何?(目的)」と聞くとよいでしょう。 例えば新人の目標が「私は、患者さんが夜中にポータブルトイレを 使う時の転倒を絶対になくす」だった場合、「何のために?」と聞き ます。きっと「高齢者が転倒すると骨折します。それは患者さんにとっ て辛いことだから」という答えが返ってくると思いますが、この思い がエネルギーであり、エンジンになるからです。だから、必ず本人に 語らせる。究極のシンプルなコーチングです。「何のために?」とい う願いは、今がそうじゃないのですから、「じゃあ、これを解決する と願いが叶うね! いいね!」となるわけです。 プロジェクト学習は、「ありたい状態(願い)」から発します。最初 に「目標」を書くのではなく、「どうありたいのかという願い(目的)」 を書く。その方が人間の能力が高まります。現状を見ると解決すべき 問題がいっぱいあって、クリアしなければいけないわけですが、気持 ち良く取り組める。つまり、ただ問題に向かうよりも「願い」を胸に 宿して向かった方が、その人のアイデアとか積極性とか頭の切れ味と かが数段良くなるということです。
「目標」を決めたら、聞きましょう
何のために?
(目的=願い)
まず、「どうありたいか」を書く
願いを胸に宿して向かうと、人間の能力が高まる
「願い」から発すると
頭の切れ味が数段良くなります
何よりいい気持ちで向かえます
ポートフォリオは作るものではなく
使うものです!
ポートフォリオを一言で表現するとファイリングです。ただのファ イリングとの一番の違いは、表紙に「ゴールシート」が入っているこ と。100 円ショップに行ってファイルを買い、表紙に「ビジョン(目 的)」と「ゴール(目標)」を書いた紙を入れるということです。もし かしたら、ビジョンしか書けないかもしれない。でもいいんです。ポー トフォリオでも、目標より目的が大事なんです。 ここでしっかり確認していただきたいのは、ポートフォリオの目的 は「ファイルを作ること」ではありません。「ファイルを使って、学 習意欲を高める教育の手法」だということです。作るものではなく、 使うものなんです。 ポートフォリオのファイルには、外から手に入れた情報と自分の内 側から湧いた情報の 2 種類が入ります。研修資料しか入っていないも のは、ただの資料集です。アイデアや創造的なひらめきが入っている ことが重要なんです。自分の目標や成長に関与した関連資料や新聞記 事、レポート、手書きのメモ、先輩からの励ましのメッセージ、患者 さんがくださった手紙、給料明細や思い出の品々などをどんどん入れ ます。ポートフォリオのコツは、「ファイリングを途切れさせないこ と」。つまり、「ポートフォリオが潤沢に膨らんでいないと始まりませ ん」ということです。 実は病院でも学校でも、ここが一番難しい。「すかすかポートフォ リオ」「とりあえずポートフォリオ」にならないよう、管理職やプリ セプターが、ここぞという場面でコーチングを行います。カメラで写 真を撮ってプリントし「ファイルしてね」と渡したりするサポートも 必要になります。ポートフォリオの効果・活用
ポートフォリオは目的によって
3つに分けられています
パーソナル
ポートフォリオ
(関心・実績)
(仕事・学習)
テーマ
ポートフォリオ
(体・健康)
ライフ
ポートフォリオ
❶「目標」や「成果」や「評価」を明確にする
❷結果だけでなく「プロセス重視」の評価ができる
❸自己評価・他者評価・相互評価など「360 度評価」が叶う
❹個性や特性が見いだせるので、進路検討や採用面接や評価に生きる
■目的 ・自己受容/自尊感情 ・キャリアマネジメント ・自己能力のプレゼンテーション ■対応領域 ・個性発見/進路設計/進路選択 ・採用面接/人事考査 ・目標管理 ・キャリアパス ・チームビルディング ・臨床研修/認定看護師……etc ■目的 ・自立 ・セルフマネジメント ・健康管理/生活改善 ■対応領域 ・生活習慣病(糖尿病……etc) ・医師との情報共有 ・チーム医療 ・在宅看護……etc ■目的 ・クオリティーの高い成果 ・コンピテンシー修得 ・目標到達/戦略/自己評価 ■対応領域 ・一般教科/総合学習 ・プロジェクト学習 ・体験学習 ・臨床研修/現場実習 ・継続教育 ・目標管理 ・クリニカルラダー ・認定看護師プリセプターの重要な役割は
対話コーチング
新人看護師がポートフォリオをする場合は、最初の数ページに「ゴー ルシート」と「1 年目に習得しなければならないスキルの一覧表」を 入れてもらいます。次にファイリングを1年間続けます。膨らんだポー トフォリオには「1 年間の自分」が入るということです。 プリセプターとプリセプティが同じテーブルに隣り合って座りま す。厚くなったポートフォリオを一緒にめくりながら、「これは何で 入れたの?」「これはどこでもらったの?」と新人看護師と対話します。 そして、「ここは時間かけて頑張ったね」と具体的に褒めます。新人 さんはあまり自分から話さないものですが、ポートフォリオがあると 会話が弾みます。 ゴールに向かっていくためには、ゴールシートを書いて、計画を立 てて、情報を集め、解決して……というフェーズ(段階、局面)が必 要です。「何をさせるか・するか」ではなくて、「どんな力を身に付け てもらうか」を考えます。管理職とかプリセプターが教育力を上げる ことも必要です。査定するのではなく、人を伸ばせるようにすること です。「この力を身に付けるために、こういう活動がありますよ」「こ ういう力を身に付けたければ、こういうコーチングがありますよ」と 「意志ある学び」につながるように導きましょう。 ポートフォリオをめくることが、自分でやったことを自分で客観的 に見直すことになります。例えば「何でこうなっちゃったの?」とい うことがあった場合、その前の出来事が関係しています。「その前の 日は?」「その 2 時間前は何していた?」ということが必要になります。 ですから、ポートフォリオのファイルに入れるときは必ず日付を書き 込みます。時系列に入れることが絶対的なルールなんです。過去を振 り返り内省する時に、日付は欠かせないものです。 ポートフォリオを見ていくと、長い時間をかけて丁寧にファイリン グしている時期があったり、何も入れていない時期があったりします。 ファイリングがされていない時は何かあったと推測できます。ファイ ルの内容を見て、「こんな勉強したのは、すごいね!」と褒めてあげ ることができます。これが「根拠を持った支援」になります。 情報がバラバラだと人間は俯瞰できないものですが、一元化され 1 冊のファイルにまとまっていると俯瞰ができます。自分自身が集めた 資料や成果物を俯瞰することで、「価値ある成果」や「思考プロセス」 だけでなく、「自分の成長」や「将来の方向性」を見つけることがで きます。これが「意志ある学び」につながります。 年度末など、最後に「知の再構築」をして「凝縮ポートフォリオ(A3 サイズ 1 枚)」を作ります。 また、自分のスタッフに「計画を立てる力」を付けてもらおうと思っポートフォリオによる俯瞰が
「意志ある学び」へとつながります
いでしょう。するとスタッフは「えーっと、毎月最終木曜を目標管理 に使うから、毎月 1 回× 2 時間なので……」と、戦略を意識した具体 的な計画を立てられるようになります。上司がコーチングすることで、 本人が自然にセルフコーチングできるようになります。