博 士 学 位 論 文
内容の要旨および審査結果の要旨
第 22 集
(平成18年度)
は し が き
本集は、学位規則(昭和28年4月1日文部省令第9号)第8条
による公表を目的として、本学において博士(医学)の学位を授
与した者の論文内容の要旨および審査の結果の要旨を収録した
ものである。
― 第22集 目 次(平成18年度)―
学位授与
番 号 氏 名 論文 題 名 頁
甲 第339号 唐 澤 紀 幸 Hepatic pre-sinusoidal vessels contract in anaphylactic
hypotension in rabbits …… 1
甲 第340号 董 凌 莉 Identification and Characterization of Novel HumanRecombinant Monoclonal Fab Fragments Specific for EBV
Viral Capsid Antigen Established by Phage Display …… 4
甲 第341号 三 秋 恒 平 日本白色家兎に対する酸化ストレス誘発剤を用いた骨壊死誘発実験 …… 7 甲 第342号 米 山 智 子 Dietary intake of fatty acids and serum C-reactive protein in Japanese …… 10 甲 第343号 髙 橋 知 子 FDG 集積度,HRCT 所見,および血清 CEA 値による肺腺癌(3cm 以下)の術後再発予測 …… 13 甲 第344号 若 狭 稔 特発性左室収縮機能障害患者におけるアミノ酸代謝異常に関する臨床的検討 …… 17 甲 第345号 川 村 友 美 非定型抗精神病薬オランザピンとアリピプラゾールの急性投与による家兎海馬における興奮性シナプス伝達およびド ーパミン, セロトニン濃度に及ぼす影響について …… 19 甲 第346号 山 田 真 善 肝細胞癌を発生した非アルコール性脂肪肝炎(NASH)モデルマウス肝における酸化ストレスと抗酸化酵素の発現 …… 23 甲 第347号 安 田 廣 生 ヒアルロン酸およびコラーゲン注入後の皮膚組織反応の検討 …… 26 甲 第348号 闞 凱 一側肺大線量一回照射による放射線肺障害の実験的検討 …… 30 甲 第349号 清 澤 旬 指尖血流脈波のゆらぎ解析による交感神経活動の評価とその応用 …… 33 甲 第350号 林 圭 アゾキシメタン誘発マウス大腸発癌における柑橘類化合物の発癌抑制効果の研究 …… 36 甲 第351号 三 枝 誠一郎 メタボリックシンドロームを背景とするウイルス性心筋炎におけるアンデジオテシンⅡ受容体拮抗薬の心筋保護作用 の解析-心筋内アディポネクチン発現の意義- …… 39
甲 第352号 守 屋 純 二 慢性疲労症候群(Chronic Fatigue Syndrome)のマウスモデル作製と漢方治療有効性の検討 …… 42 甲 第353号 篠 倉 千 早 胎児肺成熟度判定におけるMRI の有用性に関する研究 …… 45 甲 第354号 廣 﨑 奈津子 黄体化未破裂卵胞(LUF)に対する排卵誘発補助薬としてのG-CSF の有用性に関する研究 …… 48 乙 第259号 大 黒 正 志 Converting Enzyme Inhibitor Improves Reactive Hyperemia inElderly Hypertensives with Arteriosclerosis Obliterans …… 51 乙 第260号 中 村 常 之 Vasculitis induced by immunization with Bacillus Calmette Guerin followed by atypical mycobacterium antigen : a new
学位授与
番 号 氏 名 論文 題 名 頁
乙 第261号 古 田 薫 抗酸化剤による紫外線傷害の防御に関する細胞化学的研究 …… 58
氏名(生年月日)
唐
から澤
さわ紀
のり幸
ゆき (昭和 46 年 2 月 11 日) 本 籍 長 野 県 学 位 の 種 類 博 士(医 学) 学 位 記 番 号 甲 第339号 学 位 授 与 の 日 付 平成19年3月22日 学 位 授 与 の 要 件 学位規則第4条第1項該当学 位 論 文 題 目 Hepatic pre-sinusoidal vessels contract in anaphylactic hypotension in rabbits
(ウサギのアナフィラキシー低血圧では前類洞血管が 収縮する) 主 査 土 田 英 昭 論 文 審 査 委 員 副 査 西 尾 眞 友 松 原 純 一 加 藤 伸 郎 学 位 論 文 内 容 の 要 旨 研究目的 アナフィラキシーは即時型過敏症であり,気管支攣縮,浮腫,肺水腫などがみられるが, 最も生命を脅かすものに循環ショックがある。このショックによる血圧低下の原因として 不整脈,心筋収縮能低下,肺高血圧や循環血液量の減少が挙げられるが,血圧低下の機序 にはいまだに不明な点がある。一方,肝臓の血管収縮が血圧低下に関与することが報告さ れてきている。しかしながらアナフィラキシーショック時の肝血管収縮はイヌ,ラット, モルモットでみられるが,ウサギでの報告は無い。また,摘出灌流肝標本における肝アナ フィラキシーモデルでは,アナフィラキシー肝血管収縮部位に種差があることが報告され ている。すなわち,イヌとモルモットでは有意の肝静脈収縮により肝鬱血が生ずるが,ラ ットではほぼ選択的な前類洞収縮により肝重量が減少する。しかしながら,ウサギについ てはアナフィラキシーによる肝血管収縮の有無ならびに肝血管収縮部位については不明で ある。そこで,本研究はウサギのアナフィラキシーモデルをin vivo と摘出灌流肝標本で 作成し,in vivo では体血圧と門脈圧の変化に注目し,摘出灌流肝では肝血管収縮部位と 肝血液量の変動に注目して検討を行った。 実験方法 New Zealand 白色家兎 26 羽(体重 2.8kg±0.1kg)を使用した。 ①In vivoでのアナフィラキシー低血圧時の門脈圧の検討:家兎(n=6)に抗原として卵白 アルブミン2.5 mgを完全アジュバントと共に週1回,合計3回皮下投与し,感作した。実 験は最終抗原投与1週間後に行った。一方,対照群(n=5)では完全アジュバントだけ
を同様に皮下投与した。ペントバルビタール麻酔下に門脈,外頚静脈,大腿動脈にカテ ーテルを挿入し,門脈圧(Ppv),体血圧(Psa),中心静脈圧(CVP),心拍数を測定した。 アナフィラキシー低血圧は抗原2.5 mgを静脈内投与して惹起した。 ②摘出灌流肝臓での肝アナフィラキシーの検討:家兎(n=9)に①と同様の感作を行い, 最終抗原投与の1週間後に実験を行った。ペントバルビタール麻酔後に開腹し,肝動脈 を結紮後に,肝臓を摘出した。門脈と下大静脈にカニュレーションをし,門脈側からヘ パリン加希釈自家血液(Hct 8%)にて定流量(27±1 ml/min/10g 肝重量)で灌流した。 Ppv,肝静脈圧(Phv),肝重量,門脈血流量(Q)を連続的に測定した。また,総胆管 にもカニュレーションし胆汁流量を測定した。灌流液に抗原 2.5 mg を投与してアナフ ィラキシーを惹起した。門脈と肝静脈を同時に閉塞した時に平衡に達する圧である double occlusion pressure(Pdo)により肝類洞圧を評価し,それに基づいて,肝血管 抵抗(Rt)を以下のように前類洞抵抗(Rpre)と後類洞抵抗(Rpost)に分けて評価し た。 Rt=(Ppv‐Phv)/Q Rpre=(Ppv‐Pdo)/Q Rpost=(Pdo‐Phv)/Q 結果は平均±標準誤差で示し,統計学的検討は分散分析を行い,Post-hoc testとして Bonferroni法を用いた。 実験成績 ①In vivoでは,抗原投与によりPsaは投与前値79±2 mmHgから投与後10分には40±4 mmHg へと低下し,60分には65±5 mmHgに回復した。Ppvは投与前値9.5±2.2 cmH2Oから投与 後3分には24.1±3.9 cmH2Oに上昇し,10分に12±1 cmH2Oに回復した。CVPは抗原投与直 後には2.4±0.2から6.1±1.1 cmH2Oへと上昇が認められたが,血圧低下の持続とともに 低下した。このときPpvの上昇が,他のパラメーターの変化に比べて最も早く認められ た。一方,コントロール群ではこれらの数値に有意の変化はみられなかった。 ②摘出灌流肝臓への抗原投与により,Ppvは投与前値5.4±0.1から6分後に28.6±2.4 cmH2Oと有意に上昇し,肝血管収縮がみられた。血管収縮時にPdoは2.2±0.2から3.8± 0.2 cmH2Oへ上昇した。PpvとPdoの圧較差の増加(3.3±0.1 vs 24.8±2.1 cmH2O : 投与 前 vs 投与後)に比べて,PdoとPhvとの圧較差の増加(1.9±0.1 vs 3.5±0.2 cmH2O) はわずかであった。このことから,Rpostは投与前のわずか85%だけ上昇したのに対し て,Rpreは680%上昇し,ほぼ選択的な前類洞血管の収縮がみられた。血管収縮と共に, 肝重量は0.2g/10g肝重量の減少がみられた。 総括および結論 ウサギにおいてもアナフィラキシー反応時に動脈圧の低下と,著しい門脈圧の低下が認 められた。さらに摘出灌流肝の検討から,ウサギの肝アナフィラキシーによる血管収縮は, イヌやモルモットとは異なり,ラットと同様な,ほぼ選択的な前類洞血管の収縮によるこ とが示された。またこれに伴い肝内血液が減少することから,肝重量の低下が認められた。 これより,ウサギのアナフィラキシー低血圧におけるほぼ選択的な前類洞血管の収縮は,
腹腔内臓器の鬱血や静脈還流量の低下により,血圧の低下に関与することが推測される。 論 文 審 査 結 果 の 要 旨 麻酔中は短期間に様々な種類の薬剤を投与することから,しばしばアナフィラキシーシ ョックの起こることが報告されている。アナフィラキシーでは抗原に反応して様々な内因 性物質が遊離され,これが血圧低下を引き起こす。申請者はこの血圧低下の原因の一端を 探るべく,ウサギを用い,in vivo と in vitro の両面から肝血流量の変化を検討した。 その結果,in vivo の実験で抗原投与後,門脈圧の著明な上昇に引き続いて体血圧が低下 することを明らかにした。また,in vitro の実験から,抗原投与後に前類洞血管抵抗が 大きく上昇するのに対し,後類洞血管抵抗の上昇はわずかに留まることが明らとなった。 この結果から申請者は,ウサギのアナフィラキシーモデルにおいては,全身の血圧低下に 先立って前類洞血管の強い収縮が起こり,その結果として門脈圧が亢進し,腹腔内臓器の 鬱血が引き起こされ,これが血圧低下の原因になっていることが強く示唆されるとした。 今回の結果より,アナフィラキシーの結果として生じる門脈圧上昇は,イヌ,モルモッ ト,ラット,ウサギなどの哺乳類に共通した現象であることが明らかとなった。このこと は,ヒトでも同様のことが起こる可能性を強く示唆しており,ヒトにおいても門脈圧上昇 による腹腔内臓器への血液貯留がアナフィラキシーショックの成因となっている可能性を 示しているものと考えられる。しかし,ヒトのモデルとしてどの動物が最適かはいまだ明 らかになっておらず,今後の検討課題である。本研究はアナフィラキシーショックの病態 生理を解明する上で大きく貢献するだけでなく,今後の研究発展にも寄与するものと考え られた。 以上により,本論文は博士(医学)の学位を授与するに値するものと認められる。 (主論文公表誌)
氏名(生年月日)
董
とう凌
りょう莉
り (1974 年 5 月 15 日) 本 籍 中華人民共和国 学 位 の 種 類 博 士(医 学) 学 位 記 番 号 甲 第340号 学 位 授 与 の 日 付 平成19年3月22日 学 位 授 与 の 要 件 学位規則第4条第1項該当学 位 論 文 題 目 Identification and Characterization of Novel
Human Recombinant Monoclonal Fab Fragments Specific for EBV Viral Capsid Antigen Established by Phage Display (ファジーディスプレイ法を用いたEBウイルスカプシド 抗原に対する新規モノクロナールFab抗体の樹立と その特異性の検討) 主 査 竹 上 勉 論 文 審 査 委 員 副 査 梅 原 久 範 伊 達 孝 保 野 島 孝 之 学 位 論 文 内 容 の 要 旨 研究目的 EB ウイルスは感染症を起こすとともに細胞癌化を引き起こすという両面性をもつウイ ルスである。EB ウイルス関連腫瘍としてバーキットリンパ腫,ホジキン病,非ホジキン 性悪性リンパ腫,鼻腔咽頭癌など多種類の悪性腫瘍がある。こうした EB ウイルスに関わ る疾病,腫瘍化に対して EB ウイルスの検出および治療のために特異性の高い手法の確立 は重要なものといえる。EB ウイルス関連の腫瘍,癌細胞において EB ウイルスは latent state あるいは lytic cycles で存在している。本研究の目的は抗 EBV-カプシド抗原 VCA (viral capsid antigen)に対する人型 Fab 単クローンを樹立し,その抗体特異性を解析 し,EB ウイルス関連腫瘍患者の診断と治療への応用の可能性について検討することであ る。EB ウイルスカプシド抗原 VCA はウイルス粒子の外層にあるカプシド蛋白で,ウイル ス増殖時に発現される蛋白であり,実際に EB ウイルス関連腫瘍患者では抗 VCA 抗体の検 出陽性率は健常人より高い。ここでは費用面でも安全面でも優れた方法であるファージデ ィスプレイ法(Phage display)を用いて,抗体作成を試みた。 実験方法
Phage display library の作成のために Marginal zone B cell lymphoma を発症した EB 感染 Sjogren’s Syndrome(SS)患者の骨髄より RNA を抽出しcDNA 合成後,各々数組 primer を使用して PCR を行い,Heavy chain および Light chain,Fd 部分を増幅する。そ
れらの PCR 産物をpComb3 Vector に順次組み込み Fab Library を構築し,回収には M13 helper phage を感染させて行う。
クローンの選択を行うために EBV-VCA 抗原を固相化した ELISA プレートに Fab library の Phage 溶液を4Cycles Panning した。特異的に反応した Phage を大腸菌―XL1 blue に 感染させ,増幅後,M13 Helper phage にて回収し,可溶性の Fab を得る。
遺伝子解析は Big dye terminator for cycle sequencing kit を用いて反応させた後, DNA シークエンサー(ABI 310) にかけ,配列決定を行う。
EBV-VCA に強く反応した Fab クローンを Immunoaffinity chromatography で精製し,純 度については SDS-PAGE で検討する。
精製した Fab クローンの特異性は EBV-VCA 抗原との反応について ELISA 及び Western blotting の方法で検討する。
さらに得られた Fab クローンを EBV-VCA と mouse monoclonal 抗体との反応系に入れ, 阻害効果を Inhibition ELISA で行う。
Indirect immunofluorescence assay(IFA)で Fab クローンと EBV 陽性 P3HR1 細胞株と の反応,及び Immunohistochemistry で Fab クローンと 5 例 EBV 陽性悪性リンパ腫患者組 織との反応性を検討する。 Negative control として抗 Rotavirus Fab 抗体を使用する。 実験成績
Phage display 法によって EBV-VCA に反応する 4 種の単クローン(Fab1, Fab15, Fab16, Fab21)が得られた。
得られた 4 種の単クローンの IgG の Germ-line 遺伝子について調べるために,DNA シー クエンサーを用いてヌクレオチド配列決定の検討を行った結果,Fab1, Fab15, Fab16 の Heavy chain は VH4 Subgroup と,Fab21 の Heavy Chain は VH3 Subgroup とホモロジーが 高く,Fab1 と Fab21 の Light chain は同一の VH Subgroup とホモロジーが高いもので あった。
精製した Fab の純度は高く,その分子量は 28KDa であった。
EBV-VCA との結合性を ELISA で検討したところ,2 個のクローン(Fab1 と Fab21)は高 親和性であり,特異的に VCA 抗原と反応性することが認めらた。
Western blotting で EBV-VCA 蛋白との反応性を検討すると,Fab1 では 160KD, 85KD 58KD, 30KD の蛋白,Fab15 では 58KD, 30KD,Fab21 では 160KD, 85KD, 30KD の蛋白との結 合が各々認められた。
VCA と最も親和性の強かった Fab21 と Fab1 については Inhibition ELISA で EBV-VCA と Mouse monoclonal antibody との反応を阻害することが確認された。
IFA による解析では,得られた4つの Fab クローンの中で Fab1 と Fab21 が EBV 感染陽 性 P3HR1 細胞株と反応し, Immunohistochemistry でも Fab1 と Fab21 が 5 例の EBV 感染 陽性悪性リンパ腫患者組織と反応することが確認された。Negative control として使用 した抗 Rotavirus Fab 抗体や EBV 陰性悪性リンパ腫患者脾臓ではその反応性は観察されな かった。
総括および結論
クローン(Fab1 と Fab21)は ELISA, Western blotting, Inhibition ELISA, IFA のそ れ ぞ れ の 方 法 で 高 親 和 性 に VCA 抗 原 と 特 異 的 反 応 す る こ と が 認 め ら れ た 。 ま た Immunohistochemistry で EBV 感染陽性悪性リンパ腫患者組織を染色することが確認され た。以上の事実から本研究で得られた人型単クローン Fab 抗体は臨床診断に有用であるこ とが示唆された。更に Fab クローンの DNA シークエンスを行い,その内容を遺伝子レベル で明らかにしたことによって将来 EB ウイルス関連腫瘍患者の治療に応用できる可能性が 考えられる。 論 文 審 査 結 果 の 要 旨 ウイルス感染が起点となって生じる発癌の機構には未だ明らかでない点が数多くある。 EBV による発癌としては,良く知られるバーキットリンパ腫,悪性リンパ腫,鼻腔咽頭癌 等の悪性腫瘍,さらにはそれらに加えて胃がんの起因の可能性が指摘されている。いずれ の場合も癌化の分子機構は不明である。 本研究では EBV 感染の早期の診断,治療への応用を行うために有用と考えられる単クロ ーン抗体の樹立を目指し,方法としてはファージディスプレイ法を用いて研究を行ってい る。申請者は以下のような結果を得ている。 ファージディスプレイ法によって EBV カプシド抗原 VCA に対する単クローン抗体を4種 類得た。含まれる IgG 鎖の配列については DNA ヌクレオチド配列決定法によって確認した。 4種類の単クローン抗体の中で,Fab1 と Fab21 の2種類は Western blotting 法にて VCA と反応することを示し,また ELISA によって EBV-VCA と Mouse monoclonal antibody と の反応を阻害することを示し,単クローン抗体の特異性を明らかにした。さらに IFA によ る解析によって EBV 感染陽性 P3HR1 細胞株と反応することを示し,EBV 特異性を確認した。
Immunohistochemistry の方法によって Fab1 と Fab21 が5例の EBV 感染陽性悪性リンパ 腫患者組織と反応することを確認し,ここで得られた単クローン抗体が実際に使用できる ことを明らかにした。 以上の結果から申請者は EBV に対して特異性を有する2種類の単クローン抗体を樹立し たとしており,それらを診断,治療に用いることが可能であるとしている。本研究におい ては有用な単クローン抗体を得ることに成功しており,極めて実際的で有用な研究成果で あるといえる。それらの単クローン抗体は EBV 感染に対して早期の診断のために活用でき るものと考えられる。さらには,未だ不明である EBV による癌化のプロセスの解明のため にもこうした単クローン抗体を用いることが考えられる。将来的には治療面への応用の可 能性もあるであろう。今後の発展性には大きなものがあると期待される。 以上により,本論文は博士(医学)の学位を授与するに値するものと認められる。 (主論文公表誌) 金沢医科大学雑誌 第 31 巻 第 3 号 平成 18 年
氏名(生年月日)
三
み秋
あき恒
こう平
へい (昭和 45 年 1 月 10 日) 本 籍 長 野 県 学 位 の 種 類 博 士(医 学) 学 位 記 番 号 甲 第341号 学 位 授 与 の 日 付 平成19年3月22日 学 位 授 与 の 要 件 学位規則第4条第1項該当 学 位 論 文 題 目 日本白色家兎に対する酸化ストレス誘発剤を用いた 骨壊死誘発実験 主 査 松 本 忠 美 論 文 審 査 委 員 副 査 勝 田 省 吾 梅 原 久 範 野 島 孝 之 学 位 論 文 内 容 の 要 旨 研究目的 ステロイド投与が大腿骨頭壊死症を発生させる重要な要因であることは明らかにされて いる。最終的には骨内の虚血によって発生するという点においては意見の一致をみている が,その詳細な機序については未だ不明であり,病態解明や予防法の確立が重要な課題と なっている。 近年動脈硬化などの血管障害をはじめとする様々な疾患の病態に酸化ストレスの関与が 報告されており,当科でも骨壊死と酸化ストレスとの関与に着目して研究を行い,抗酸化 剤でステロイド性骨壊死を抑制できることを明らかにし,さらにラットに酸化ストレス誘 発剤を単独で投与することによって骨壊死が生じることを明らかにした。本研究の目的は, ステロイド性骨壊死モデルとして確立されている家兎において,ステロイドの投与ではな く, 酸化ストレス誘発剤を単独で投与することによってステロイド性骨壊死と同部位に骨 壊死が発生するかを検討することである。 実験方法 体 重 約 3.5kg の 雌 性 日 本 白 色 家 兎 に 酸 化 ス ト レ ス 誘 発 剤 で あ る Buthionine-Sulfoximine(以下, BSO)500mg/kg を 14 日間連日静脈投与した 10 羽を BSO 群とした。 また, コントロールとして生理食塩水を 14 日間連日静脈投与した 10 羽を CTR 群とした。 投与開始日を 1 日目とし, 投与開始直前, 5 日目, 14 日目に採血を行った。14 日目の 採血後に犠牲死として両側の大腿骨を摘出し, 各群において以下の検討を行った。 1.病理組織学的検討 各群において H-E 染色標本を作製し光学顕微鏡にて大腿骨近位骨幹部における骨壊死発 生の有無について検討した。骨壊死の定義は, 病理組織学的定義に基づき判定した。2.免疫組織学的検討 骨内での酸化ストレスの発生を確認するため, 免疫組織学的に抗 8-hydroxy-2’- deoxyguanosine(以下, 8-OhdG)モノクロール抗体を用いて各群の大腿骨の染色性につ いて検討した。 3.血液生化学的検討 抗酸化の指標として還元型グルタチオン(以下, GSH)を, 脂質系の指標として総コレ ステロール(以下, T-cho), トリグリセライド(以下, TG)を測定した。 実験成績 1. CTR 群では, 10 羽全例で骨壊死を認めなかったのに対して, BSO 群は, 10 羽中 3 羽 にステロイド性骨壊死の好発部位である大腿骨近位骨幹部に骨壊死を認めた。 2. BSO 群では, コントロール群と比較して骨髄造血細胞における 8-OHdG の発現が明ら かに亢進しており, %PC はコントロール群 7.6±2.8%, BSO 群 16.6±2.5%であり, 統計 学的に有意差を認めた(p<0.01)。 3. GSH は BSO 群において 5 日目の値は注射前の値と比較して著明に低下しており, 14 日目の値は若干回復していた。これはラットで行った壊死誘発実験とほぼ同様な結果で あり, また両群間で統計学的に有意差を認めた(p<0.05)。T-cho と TG に関して, BSO 群, CTR 群ともに 5 日目, 14 日目の値は投与開始直前の値と比較して値の上昇は認めず, また両群間で統計学的に有意差を認めなかった。 総括および結論 近年, 生体内酸化ストレスは種々の疾患への関与が報告されている。当科でもこれまで に特発性大腿骨頭壊死症に対する酸化ストレスの関与を研究してきた。その発生機序は最 終的には骨内の虚血により発症するが,家兎大腿骨の血管内皮増殖因子(VEGF)や VEGF-mRNA の発現より虚血発作は, ステロイド投与後 3 日前後で生じることが報告されている。 また, 当科で家兎において生体内酸化ストレスは, ステロイド投与後 3~5 日で大腿骨内 に発生することを明らかにし, またステロイド投与家兎に酸化ストレス抑制剤である GSH を投与することによって有意に骨壊死発生を抑制できることを報告した。さらにラットに 酸化ストレス誘発剤を単独で投与することによって大腿骨頭に壊死を生じたことを報告し た。 今回, BSO 群の 10 羽中 3 羽にステロイド性骨壊死と同部位に骨壊死を認め,大腿骨内 に酸化ストレスが発生していたことよりステロイド性骨壊死は,ステロイド投与により酸 化ストレスが誘発され壊死が発生する可能性が非常に高く,ステロイド性骨壊死の発生に は酸化ストレスが重要な役割を果たしていると考えられた。また,将来酸化ストレスを抑 制すれば骨壊死を予防できる可能性が示唆された。 論 文 審 査 結 果 の 要 旨 特発性性大腿骨頭壊死症の発生機序はこれまでに様々な説が報告されているが,その詳 細は未だ不明である。特発性大腿骨頭壊死症の中でも約半数を占め社会的問題となってい
るステロイド性大腿骨頭壊死症の病態を解明することは非常に重要な課題である。本研究 は,今までステロイド性骨壊死を再現する良いモデルとして認識されている家兎において, ステロイドではなく,酸化ストレス誘発剤を投与することによってステロイド性骨壊死モ デルと同部位に骨壊死が発生するかどうかを検討している。 本研究の結果,以下の成績が得られたとしている。 病理組織学的検討から,酸化ストレス誘発剤投与家兎 10 羽中 3 羽にステロイド性骨壊死 モデルと同部位に骨壊死が発生していた。 免疫組織学的検討から,酸化ストレス誘発剤投与群で明らかに骨髄造血細胞に抗 8OHdG 抗 体の発現が亢進し,大腿骨内に酸化ストレスが発生していた。 血液生化学的検討から,酸化ストレス誘発剤投与によって還元型グルタチオンは有意に低 下していた。また,総コレステロール,トリグリセライド値の変化はほとんどなく,脂質 代謝異常は生じていなかった。 本実験から,ステロイド性骨壊死の発生機序の重要な原因として酸化ストレスが存在す ることが明らかとなった。本研究から酸化ストレスを抑制する(抗酸化剤を投与する)こ とでステロイド性骨壊死を予防できる可能性が示された。今回得られた知見は,ステロイ ド性骨壊死の発生機序及び予防法の確立において非常に重要と考えられ,今後の臨床応用 も期待される研究である。 以上により,本論文は博士(医学)の学位を授与するに値するものと認められる。 (主論文公表誌) 金沢医科大学雑誌 第 31 巻 第 3 号 平成 18 年
氏名(生年月日)
米
よね山
やま智
さと子
こ (昭和 44 年 4 月 1 日) 本 籍 群 馬 県 学 位 の 種 類 博 士(医 学) 学 位 記 番 号 甲 第342号 学 位 授 与 の 日 付 平成19年3月22日 学 位 授 与 の 要 件 学位規則第4条第1項該当学 位 論 文 題 目 Dietary intake of fatty acids and serum C-reactive protein in Japanese.
(日本人成人男女における各種脂肪酸摂取と 血清高感度 CRP) 主 査 中 川 秀 昭 論 文 審 査 委 員 副 査 勝 田 省 吾 松 本 正 幸 梶 波 康 二 学 位 論 文 内 容 の 要 旨 研究目的 近年急性期の炎症マーカーである高感度 CRP(hsCRP)は動脈硬化性循環器疾患の強い 予測因子として注目されている。多価不飽和脂肪酸,特に n-3 脂肪酸がサイトカイン産 生による炎症を抑制するとの報告があり,疫学研究,臨床試験では長鎖 n-3 脂肪酸(エイ コタペンタエン酸(EPA)+ドコサヘキサエン酸(DHA))やその前駆体であるα-リノレン 酸と hsCRP との関連をみた研究がなされている。しかし一致した見解に至っておらず,ま たこれら脂肪酸がどのように抗炎症,抗血栓効果があるのかメカニズムも解っていない。 地中海式ダイエットはオレイン酸,n-3 脂肪酸,野菜,果物,ナッツを多く含み循環器疾 患発症予防の点で注目を集めているが,我が国は地中海地域より冠動脈疾患の死亡率が低 く日本食は世界的にも注目を集めている。しかし日本食における各種脂肪酸組成が hsCRP とどのような関連があるのかについてもほとんど検討がなされていない。 本研究は大規模な日本人集団において各種脂肪酸摂取量と hsCRP の関連について明らか にするものである。 研究方法 2002-3 年に富山県東部の某企業に勤務する 35-60 歳の男女 3017 人(男性 1556 人,女 性 1461 人)において hsCRP を測定し,詳細な食事調査を行った。食事調査は妥当性が確 認 さ れ て い る 自 記 式 食 事 歴 法 質 問 票 ( Self-administered Dietary History Questionnaire(DHQ))を用いて行った。DHQ においては過去1ヶ月間の 133 種の食品摂取 の頻度と量から,各種栄養素と 7 つの脂肪酸の摂取量をエネルギー比で算出した。解析は
すべて男女別に行った。各種脂肪酸摂取量を5分位に分け,共分散分析を用いて年齢,飲 酒,喫煙,身体活動量等を調整した hsCRP の平均値を算出し比較した。また長鎖 n-3 脂肪 酸の摂取量の違いにおけるオレイン酸,リノール酸,α-リノレン酸と hsCRP との関連を みるために,長鎖 n-3 脂肪酸(EPA+DHA)の低摂取群,中程度摂取群,高摂取群の3群に 分けて hsCRP に関する重回帰分析を行った。hsCRP は正規分布をとらなかったので対数変 換した値を用いた。また感染症による炎症の除外のため hsCRP10mg/L 以上のものを除外し て分析した。 研究成績 対象者の平均年齢は男女とも 47 歳,平均 BMI は男性 23.5kg/m2,女性 22.7kg/m2,hsCRP の幾何平均値は男性 0.43mg/L,女性 0.27mg/L であった。総脂肪摂取量は男性 20.8%E,女 性 27.0%E で男性より女性で大きい値をとった(p<0.001)。また特に摂取量の多い脂肪酸 ではオレイン酸が男性 6.1%E,女性 7.8%E,リノール酸が男性 4.6%E,女性 5.8%E で男性 より女性で大きい値をとった(p<0.001)。各種脂肪酸摂取を5分位に分けときの hsCRP の 幾何平均値は女性でオレイン酸(p=0.008),α―リノレン酸(p=0.026)で摂取エネルギ ー比が高いほど有意に低い傾向を認めた。長鎖 n-3 脂肪酸(EPA+DHA)の摂取量に関して 3群に分けて hsCRP と主な脂肪酸との関連を見たところ,男性では長鎖 n-3 脂肪酸の中程 度摂取群でオレイン酸(P=0.009)およびリノール酸(p=0.021)と統計学的に有意な負の 関連を示した。また女性では長鎖 n-3 脂肪酸の中程度摂取群でオレイン酸(p=0.028),リ ノール酸(p=0.009),α―リノレン酸(p=0.018)と最も強い負の関連を示した。 総括および結論 今回我々は hsCRP との関連が明らかになっていないオレイン酸,または炎症作用が報告 されているアラキドン酸の前駆体であるリノール酸,そして抗炎症作用のあるエイコタペ ンタエン酸の前駆体であるα-リノレン酸について焦点を絞って検討し日本人で摂取の多 い長鎖 n-3 脂肪酸(EPA+DHA)の中程度摂取群において hsCRP はオレイン酸,リノール酸, α - リ ノ レ ン 酸 で 特 に 強 い 負 の 関 連 を 示 す 傾 向 が あ る こ と を 明 ら か に し た 。 δ -5 desaturase とδ-6 desaturase によりα-リノレン酸は EPA に伸張し抗炎症作用のある PGE3に,リノール酸はアラキドン酸に伸張し炎症作用のある PGE2と LTE4を産生し,オレ イン酸は EPA の疑似体のエイコサトリエン酸に伸張し抗炎症作用に働くとされている。こ れらの伸張は競合するので各々の脂肪酸の摂取比率により抗炎症,炎症作用が決まるとさ れているがメカニズム等は完全に解っていない。我々の結果は魚に多く含まれる EPA や DHA の日本人の平均的な摂取がオレイン酸,リノール酸,α-リノレン酸の抗炎症作用を 有効に働かせることを示唆したものであり,循環器疾患予防のための脂肪摂取のあり方に 新たな知見を提供するものである。 論 文 審 査 結 果 の 要 旨 炎症指標である血清 CRP の軽微な上昇は,動脈硬化による循環器疾患発症の独立した危 険因子として最近確立されてきており,血清高感度 CRP の測定がなされるようになった。
血清高感度 CRP に影響する要因としては性,年齢,肥満度,喫煙などが指摘されているが, 栄養学的要因については明らかではない。特に脂質の摂取状況が独特で,低い心筋梗塞発 症率が世界的に注目されている日本人での検討が十分ではなかった。本研究は,妥当性の 確立した厳密な栄養調査を大規模な日本人集団で実施して血清高感度 CRP と脂肪酸摂取と の関連を検討しており,わが国では大変貴重な大規模疫学データと言える。また,日本人 を代表するデータとして国際的にも価値が高いと考えられる。 本研究では,諸外国に比べて日本人摂取量が多い長鎖 n-3 脂肪酸(EPA および DHA)によ る交互作用が検討されている。この脂肪酸は魚介類からの摂取が中心のものである。その 結果,長鎖 n-3 脂肪酸の摂取が中等量の群で,オレイン酸,リノール酸,α-リノレン酸 と高感度 CRP との負の関連が最も強いことが分かった。この摂取量は欧米に比べればなお 高い摂取量であり,欧米での魚介類摂取増加を勧めるとともに,わが国では現在の摂取量 を維持することで,一価不飽和脂肪酸,多価不飽和脂肪酸による抗炎症作用が効果的にな るという仮説を提唱するものである。これが本論文の新知見の部分であり,今後の循環器 疾患予防研究に一石を投じることになろう。ただしこれらの脂肪酸摂取が動脈硬化の進展 および動脈硬化性循環器疾患の発症にどう関わっていくかを見る縦断的疫学研究が今後必 要である。 本研究は,疫学研究としての規模の大きさ,質の高い栄養調査方法,また新たな知見が 評価され,日本疫学会の official journal である Journal of Epidemiology に掲載され た。また,わが国での循環器疾患予防のための食事の取り方への新たな提言となる可能性 も高く,公衆衛生学的意義も高い。
以上により,本論文は博士(医学)の学位を授与するに値するものと認められる。
(主論文公表誌)
氏名(生年月日)
髙
たか橋
はし知
とも子
こ (昭和 51 年 4 月 21 日) 本 籍 長 野 県 学 位 の 種 類 博 士(医 学) 学 位 記 番 号 甲 第343号 学 位 授 与 の 日 付 平成19年3月22日 学 位 授 与 の 要 件 学位規則第4条第1項該当 学 位 論 文 題 目 FDG 集積度,HRCT 所見,および血清 CEA 値による 肺腺癌(3cm 以下)の術後再発予測 主 査 利 波 久 雄 論 文 審 査 委 員 副 査 栂 博 久 勝 田 省 吾 佐 川 元 保 学 位 論 文 内 容 の 要 旨 研究目的 小型肺癌発見の増加に伴い,肺癌の縮小手術適応に対する議論がされている。すなわち 非浸潤性肺癌を術前に予測することができれば,縮小手術の標準化を進めることが可能に なり,さらには術前あるいは術後化学療法の併用を考慮するうえでの一助となるとも考え られる。 このような考えから,術前画像所見による原発巣の浸潤性評価の試みが行われている。 その一つとして,high resolution computed tomography(HRCT)上の原発巣の ground-glass opacity(GGO)の割合が浸潤性や術後予後と相関すると報告されている。一方 18F-fluorodeoxyglucose(FDG)を用いた positron emission tomography(PET)は,生体の 糖代謝を画像化する方法であり,肺腺癌では原発巣の FDG 集積度は生物学的悪性度を反映 すると報告されている。 また,血清 carcinoembryonic antigen(CEA)値も肺腺癌の予後予測因子としての有用 性が検討されており,術前血清 CEA 高値の症例では術後予後が悪いと報告されている。 本研究の目的は,術前画像診断(原発巣の FDG 集積度と HRCT 所見),および血清 CEA 値 により肺腺癌(3cm 以下)の術後再発を予測しうるか否かを明らかにすることである。 実験方法 対象は,術前に FDG PET および HRCT 検査,血清 CEA 値測定が行われた肺腺癌(3cm 以 下)標準手術症例 75 例である。本研究は術前評価に用いることを考慮して TNM 分類で用 いられている腫瘍径(3cm)を基準として腫瘍径 3cm 以下の症例を対象とした。 FDG PET は 3 機種を用い,FDG 静注 40~60 分後より撮像開始し全例に吸収補正を施行し た。原発巣の FDG 集積度は,視覚的に縦隔の血中濃度を基準として,FDG 低集積度群と
FDG 高集積度群の 2 群に分類した。
HRCT は 2 機種を用い,肺野全体を helical mode(10mm 厚)にて撮像し,病変部分を thin section(2mm 厚)にて追加撮像した。HRCT 上の原発巣における GGO の割合は,腫瘍 断面の最大径と GGO 以外の腫瘍部分の最大径を用いて半定量的に計測し,GGO 割合 50%を 基準として solid pattern と GGO pattern の 2 群に分類した。
血清 CEA 値は,20ng/ml を基準値として 20ng/ml 未満と 20ng/ml 以上の 2 群に分類した。 以上の方法を用いて,手術標本における病理組織学的浸潤性(血管浸襲リンパ管浸 襲胸膜浸潤)については術前画像所見および血清 CEA 値との関連を Fisher’s exact test で検討した。術後再発は,術後から再発診断までの期間を無再発生存期間と設定し, 術前画像所見および血清 CEA 値と術後再発との関連を Kaplan-Meier 法(log rank test) で検討した。さらに HRCT 上の solid pattern 群に限定して,術後再発に関与する因子と して,年齢(65 歳未満,65 歳以上)性別術前血清 CEA 値病理病期分類(I 期,II
III 期)FDG 集積度を選択し Cox 比例ハザードモデルによる多変量解析を行った。加えて
HRCT 上の solid pattern 群で FDG 集積度と血清 CEA 値を組み合わせた場合の術後再発に ついて検討した。 実験成績 1.原発巣の FDG 集積度 浸潤性は,FDG 低集積度群では 16.2%(6/37),FDG 高集積度群では 68.6%(24/35)で 認められ,FDG 高集積度群では有意に浸潤性を認める症例が多かった(p<0.0001)。 術後再発は,FDG 低集積度群では 5.3%(2/38),FDG 高集積度群では 37.8%(14/37) で認められ,FDG 高集積度群は有意に術後再発率が高かった(p=0.0006)。 2.原発巣の HRCT 所見
浸潤性は,GGO pattern 群では 0%(0/13),solid pattern 群では 50.8%(30/59)で 認められ,solid pattern 群では有意に浸潤性を認める症例が多かった(p<0.0001)。 術後再発は,GGO pattern 群では 0%(0/13),solid pattern 群では 25.8%(16/62) で認められ,solid pattern 群は有意に術後再発率が高かった(p=0.0359)。 3.術前血清 CEA 値 浸潤性は,血清 CEA 値 20ng/ml 未満の群では 37.3%(25/67),20ng/ml 以上の群では 100.0%(5/5)で認められ,血清 CEA 値 20ng/ml 以上の群では有意に浸潤性を認める症 例が多かった(p=0.010)。 術後再発は,血清 CEA 値 20ng/ml 未満の群では 17.1%(12/70),20ng/ml 以上の群で は 80.0%(4/5)で認められ,血清 CEA 値 20ng/ml 以上の群は有意に術後再発率が高か った(p=0.0002)。 4.Solid pattern 群に限定した場合の解析結果
GGO pattern 群 で は 浸 潤 性 お よ び 術 後 再 発 が 共 に 認 め ら れ な か っ た た め solid pattern 群(62 例)に限定した場合の検討を行った。
浸潤性は,FDG 低集積度群では 24.0%(6/25),FDG 高集積度群では 70.6%(24/34) で認められ,FDG 高集積度群では有意に浸潤性を認める症例が多かった(p=0.001)。
で認められ,FDG 高集積度群は有意に術後再発率が高かった(p=0.0079)。 術後再発に関与する主要因子について多変量解析を行ったところ,病理病期分類 (p=0.040)と FDG 集積度(p=0.040)のみが独立した術後再発予測因子であった。 原発巣の FDG 集積度と血清 CEA 値を組み合わせて検討を行ったところ,solid pattern でなおかつ FDG 高集積度の症例において,血清 CEA 値 20ng/ml 未満の群では 32.3%(10/31),20ng/ml 以上の群では 80.0%(4/5)で術後再発が認められ,血清 CEA 値 20ng/ml 以上の群は有意に術後再発率が高かった(p=0.0461)。 総括および結論 原発巣の FDG 集積度HRCT 所見,血清 CEA 値と病理組織学的浸潤性および術後再発と の間には,有意な関連が認められた。HRCT 上 GGO pattern を呈した症例では術後再発が 認められず,強い予後良好の所見と考えられた。HRCT 上 solid pattern を呈した症例で は,FDG 集積度が独立して重要な術後再発予測因子であることが判明した。さらに,血清 CEA 値 20ng/ml 以上は強い予後不良の所見であった。 以上より,肺腺癌(3cm 以下)において原発巣の FDG 集積度,HRCT 所見,および血清 CEA 値を組み合わせることにより,術後再発をより高い精度で予測できることが判明した。 論 文 審 査 結 果 の 要 旨 胸部 CT 検診の普及や日常臨床での胸部 CT 検査に伴い,小型肺癌が多く発見されるよう になった。しかし病期分類Ⅰ期にもかかわらず術後早期に再発し予後の悪い症例も散見さ れ,病期分類のみでは肺癌の予後因子として十分とは言えないことが指摘されている。こ のような考えから術前画像所見による浸潤性評価や術後予後予測の試みがされているが, 複数の検査結果を組み合わせた検討は少ない。そこで,術前画像診断(原発巣の FDG 集積 度と HRCT 所見),および術前血清 CEA 値により肺腺癌(3cm 以下)の術後再発を予測しう るか否かを明らかにすることを目的として以下の研究を行った。 対象は,術前に FDG PET および HRCT 検査を施行し血清 CEA 値測定が行われた肺腺癌 (3cm 以下)標準手術症例 75 例である。原発巣の FDG 集積度は視覚的に縦隔の血中濃度 を基準として FDG 低集積度群と FDG 高集積度群の 2 群した。HRCT 上の原発巣における GGO の割合は半定量的計測により 50%を基準として solid pattern と GGO pattern の 2 群に分 類した。血清 CEA 値は,20ng/ml を基準値として 20ng/ml 未満と 20ng/ml 以上の 2 群に分 類した。以上を単独または組み合わせて病理組織学的浸潤性および術後再発との関連を統 計学的に検討した。 本研究により得られた結果は以下のとおりである。 1. 原発巣の FDG 集積度HRCT 所見,血清 CEA 値と病理組織学的浸潤性および術後再発 との間には有意な関連が認められた。すなわち FDG 高集積度solid pattern血清 CEA 値 20ng/ml 以上の群ではそれぞれ有意に浸潤性を認める症例が多く,術後再発率も 高かった。 2. GGO pattern 群では病理組織学的浸潤性および術後再発が認められず,強い予後良好 の所見であることが示された。
3. solid pattern 群では FDG 集積度が独立して重要な術後再発予測因子であることが示 された。 4. 血清 CEA 値 20ng/ml 以上は強い予後不良の所見であることが示された。 本研究により,肺腺癌(3cm 以下)において原発巣の FDG 集積度,HRCT 所見,および血 清 CEA 値を組み合わせることにより,術後再発をより高い精度で予測できることが判明し た。この結果は,臨床において適切な治療法の選択,特に縮小手術や術前術後化学療法の 適応の決定に大きく寄与するものと考えられる。 以上により,本論文は博士(医学)の学位を授与するに値するものと認められる。 (主論文公表誌) 金沢医科大学雑誌 第 31 巻 第 3 号 平成 18 年
氏名(生年月日)
若
わか狭
さ稔
みのる (昭和 51 年 12 月 21 日) 本 籍 石 川 県 学 位 の 種 類 博 士(医 学) 学 位 記 番 号 甲 第344号 学 位 授 与 の 日 付 平成19年3月22日 学 位 授 与 の 要 件 学位規則第4条第1項該当 学 位 論 文 題 目 特発性左室収縮機能障害患者におけるアミノ酸代謝異常 に関する臨床的検討 主 査 梶 波 康 二 論 文 審 査 委 員 副 査 松 井 忍 高 橋 弘 昭 伊 達 孝 保 学 位 論 文 内 容 の 要 旨 研究目的 左室収縮機能障害は左室の収縮能が徐々にあるいは急速に障害される疾患であり,その 克服には,左室収縮機能障害の原因の多くを占める拡張型心筋症の病態解明が重要である。 拡張型心筋症の責任遺伝子座が同定されたものは数少なく,またミトコンドリア遺伝子異 常,脂肪酸代謝異常,アミノ酸代謝異常など,代謝異常が原因と考えられる症例が散見さ れるが,系統だった検討はなされていない。そこで本研究では,アミノ酸代謝異常が成人 発症の特発性拡張型心筋症を呈するとの仮説を検証することを目的に,左室収縮機能障害 患者の尿中アミノ酸およびその代謝物24 種を測定し臨床像との相互関係を検討した。 実験方法 1.対象 対象は2005 年 4 月から 2006 年 3 月までに金沢医科大学病院循環器内科に通院または入 院し,心エコー検査で左室駆出率が 45%以下,心筋血流シンチグラム(99mTc-MIBI)で左 室駆出率が 45%以下,左室造影検査で全周性の壁運動低下のいずれかを満たす左室収縮 機能障害を指摘された患者連続 23 例(男性 18 例,女性 5 例,平均年齢 61±17 歳)であ る。心筋疾患を有する対照群として肥大型心筋症患者13 例(男性 12 例,女性 1 例,平均 年齢67±13 歳),正常対照群として 33 例(男 20 例,女 13 例,平均年齢 56±5 歳)と比較 した。二次性心筋症は対象から除外した。 随時尿を 10ml 採取し常温で保存。ガスクロマトグラフ-質量分析計-コンピューター (GC/MS/COM)システムを用いてアミノ酸およびその代謝物計 24 種を安定同位体希釈法 により測定し,これをクレアチニン濃度で補正した。対数変換処理によって求めたコント ロール値(200 例)をもとに,測定値の異常度をコントロール値の標準偏差(SD)を指標に表し,平均+2SD 以上を異常値とした。
実験成績
左室収縮機能障害患者 23 例中 11 例に,肥大型心筋症患者 13 例中 5 例に,正常対照患
者 33 例中 8
例に尿中アミノ酸およびその代謝物の高値をそれぞれ認めた。このうち,3-methylglutaconate の高値(3-methylglutaconic aciduria)を認めた3例においては,再検査で
も異常値が確認された。これら 3 例の発症年齢はそれぞれ 44,55,70 歳と成人以降の発 症であり,心不全重症度はいずれも NYHAⅡ度程度に留まっていた。また平均 71 歳時の 心エコー検査 M モードでの左室駆出率は 55±16%,左室拡張末期径 56±12mm,BNP36 ±13pg/ml で,1 例に心房細動を合併したが,心室性期外収縮(Lown 分類 grade3 以上)の 合併は認めなかった。一方,3-methylglutaconic aciduria を認めない左室収縮機能障害患者 では,同じく平均 67 歳時の左室駆出率 40±18%,BNP244±310pg/ml,左室拡張末期径 62±10mm で,6 例に心房細動を,7 例に心室性期外収縮(Lown 分類 grade3 以上)を合併 した。以上より3-methylglutaconic aciduria を認めた 3 例では左室機能障害は比較的軽度に とどまると考えられた。 総括および結論 左室収縮機能障害を認める 23 例中 3 例に 3-methylglutaconic aciduria を認め,正常対照 群に比べ有意に高頻度であった。また臨床的には,比較的軽症の左室機能障害に留まる可 能性が示唆された。以上より,原因不明の左室収縮機能障害を呈する心筋症患者の中にア ミノ酸代謝異常が少なからず存在する可能性を示唆され,今後の心筋症診断と治療に有用 な成果と考えられた。 論 文 審 査 結 果 の 要 旨 本研究は,アミノ酸代謝異常が成人発症の特発性拡張型心筋症を呈するとの仮説を検証 することを目的に,左室収縮機能障害患者の尿中アミノ酸およびその代謝物 24 種を測定 し,臨床像との相互関係を検討したものである。その結果,原因不明の左室収縮機能障害 患者23例中3例にアミノ酸代謝異常が認められ,心筋症の病因論に新たな展開をもたら す有用な成果と考えられた。今後これらの患者において,遺伝子解析を含めた検討を加え ることで新しい疾患概念にもつながることが期待される内容である。 以上により,本論文は博士(医学)の学位を授与するに値するものと認められる。 (主論文公表誌) 金沢医科大学雑誌 第 31 巻 第 3 号 平成 18 年
氏名(生年月日)
川
かわ村
むら友
とも美
み (昭和 52 年 8 月 26 日) 本 籍 岩 手 県 学 位 の 種 類 博 士(医 学) 学 位 記 番 号 甲 第345号 学 位 授 与 の 日 付 平成19年3月22日 学 位 授 与 の 要 件 学位規則第4条第1項該当 学 位 論 文 題 目 非定型抗精神病薬オランザピンとアリピプラゾールの 急性投与による家兎海馬における興奮性シナプス伝達 およびドーパミン, セロトニン濃度に及ぼす影響につ いて 主 査 地 引 逸 亀 論 文 審 査 委 員 副 査 飯 塚 秀 明 松 井 真 加 藤 伸 郎 学 位 論 文 内 容 の 要 旨 研究目的 近年の精神科臨床において, 統合失調症の薬物療法に非定型抗精神病薬が広く用いられ るようになってきている。非定型抗精神病薬は, 幻覚と妄想といった陽性症状に対する効 果に加えて, 意欲低下, 社会的な引きこもりなどの陰性症状, 注意障害と記憶障害などの 認知機能障害に対しても有効であるとされている。 非定型抗精神病薬は共通して dopamine (DA)D2 受容体遮断作用とそれ以上に強力な serotonin(5-HT)2A 受容体遮断作用を有し, serotonin-dopamine antagonist(SDA)と 呼ばれる。特に非定型抗精神病薬のうちの olanzapine は D2 以外の他の DA 受容体あるい は, muscarine 受容体など多数の受容体への作用を有することから MARTA(multi-acting receptor targeted agent)と呼ばれる。Olanzapine は主に前頭前野の DA 活動を賦活す ることにより統合失調症の陰性症状と認知障害を改善すると考えられている。 一方, 新規の非定型抗精神病薬である aripiprazole は, D2 受容体部分作動薬である。 5-HT2A 受容体拮抗作用を有し, 5-HT1A 受容体部分作動薬としての性格も有している。 Aripiprazole は統合失調症で DA 過剰活動状態にある中脳辺縁系では D2 受容体への拮抗 作用により陽性症状を抑制し, DA 活動の低下した前頭前野では D2 受容体作動薬として働 いて陰性症状を改善する可能性が推測され, これまでの非定型抗精神病薬とは作用機序が 異なっていると考えられる。 その他の非定型抗精神病薬による陰性症状および認知機能障害の改善作用の機序として, 前頭前野における N-methyl-D-aspartate(NMDA)受容体の活性化が考えられており, in vitro ではラットの前頭前野スライスで, clozapine, olanzapine, risperidone などについて, この NMDA 受容体を介した興奮性シナプス伝達の増強作用が観察されている。 本研究ではこの非定型抗精神病薬の陰性症状または認知機能障害の改善効果のメカニズ ムを探る目的で, MARTA の代表である olanzapine と, D2 受容体部分作動薬である aripiprazole について, 特に認知機能と関係の深い海馬における興奮性シナプス伝達お よび DA, 5-HT の細胞外濃度に及ぼす影響を研究した。 実験方法 体重 2.5-3.5kg の家兎 30 羽を用い, 家兎の一側海馬歯状回に, ガイドカニューレに記 録電極を組み合わせたものを, 同側貫通路に刺激電極を植え込み, 慢性条件下で実験をお こなった。Olanzapine と aripiprazole の両実験とも最初に対照記録として, 一定強度の 単発刺激を行い, 集合スパイク(PS)と集合 EPSP からなる貫通路-歯状回反応波を 60 分 間記録した。次に溶媒のみを腹腔内投与したコントロール群 5 例, olanzapine 10, 20mg/kg, aripiprazole 10, 20, 40mg/kg をそれぞれ腹腔内へ投与した olanzapine 投与 群, aripiprazole 投与群それぞれ 10 例と 15 例とで, 反応波をそれぞれ 60 分間記録後, 貫通路に弱いテタヌス刺激を加え, さらに 60 分間反応波を記録して海馬歯状回における 長期増強現象(long-term potentiation, LTP)の発現の有無を観察した。DA, 5-HT 濃度 の測定については, まず脳内微小透析用のマイクロプローブをガイドカニューレに挿入し, 人工脳脊髄液を灌流し, まず DA, 5-HT 濃度基線安定のための期間を設けた。その後 PS と EPSP の記録開始と同時に並行して実験開始から終了まで 180 分間, マイクロプローブか ら継時的に海馬歯状回での細胞外灌流液を 5 分ごとに 10μl ずつ採取した。 全ての実験は,「金沢医科大学動物実験指針」に基づいて行った。 反応波の PS, EPSP と DA, 5-HT 濃度の統計学的解析は, それぞれの値の時間経過とそれぞ れの群間での有意差について ANOVA とそれに続く Scheffe 法による多重比較を用いて検討 した。 実験成績 Olanzapine と aripiprazole の両方とも, どの用量の投与群でも投与後で単発刺激によ る貫通路-歯状回反応波の興奮性シナプス伝達の変化は見られなかったが, テタヌス刺激 による LTP の発現が抑制された。一方, DA 濃度は olanzapine 10 ㎎/kg の投与では有意 な変化を認めなかったが, 20mg/kg の投与後で有意に上昇した。Aripiprazole ではどの投 与群でも DA 濃度は変化しなかった。5-HT 濃度は olanzapine も aripiprazole も, どの用 量の投与群でも変化しなかった。 総括および結論 Olanzapine は DA の増加を生じ, これが統合失調症の陰性症状や認知機能障害の改善と 関係する可能性がある。一方, aripiprazole は興奮性シナプス伝達の増強も DA の増加も 起こさず, その臨床効果にはこれらとは別な機序が関係すると考えられる。なお,本実験 における LTP の発現の抑制はむしろ, 薬物の副作用としての陰性症状や認知機能障害類似 の症状の誘発と関係するかもしれない。
論 文 審 査 結 果 の 要 旨 申請者らの研究グループは本実験と同様な家兎海馬の慢性実験で, 非定型抗精神病薬の 代表的薬物である clozapine が, 単発刺激による貫通路-歯状回反応波の興奮性シナプス 伝達の増強を惹き起こし, しかもその増強が NMDA 受容体介在性の現象であることを報告 している。さらに microdialysis と呼ばれる手法を導入して, その興奮性シナプス伝達の 増強に伴って DA の海馬歯状回の細胞外濃度の増加がみられることを見出し,これらの現 象が非定型抗精神病薬の臨床効果の特徴である統合失調症の陰性症状や認知障害の改善効 果と関係する可能性を提唱している。 本研究はこれらの現象が非定型抗精神病薬の共通の性質として, clozapine のみならず 他の非定型抗精神病薬にもみられるかどうかを調べたもので, 申請者らの研究グループの 非定型抗精神病薬の薬理, 特に統合失調症における陰性症状や認知障害の改善効果のメカ ニズムに関する精神薬理学的研究の一環である。本研究の背景には, このような抗精神病 薬の薬理作用に関する研究が, 幻覚や妄想よりも統合失調症の社会復帰を妨げる最も主要 な要因で, しかもまだよく分かっていない陰性症状や認知障害の病態メカニズムの解明に つながることを期待する意図がある。本研究では非定型抗精神病薬として特に MARTA の代 表である olanzapine や, 本邦で最近市販され, 今までにない D2 受容体部分作動薬として の性質を有する新規の薬物である aripiprazole を対象とした。これらの薬物に関する過 去の薬理学的研究はまだ極めて少なく, したがって申請者の今回の研究の目的は精神医学 的研究として有意義かつ合理的なものということができる。 実験方法における海馬の field potential の記録に関する電気生理学手法については, 申請者らの研究グループは過去に同様な手法による研究成果を多くの国際誌に発表してお り問題はない。microdialysis による DA や5HT の細胞外濃度の測定方法についても, 本 実験に先立ちマイクロプローブから人工脳脊髄液を灌流し, 7~8 時間の濃度の基線の安 定のための期間を設けるなど信頼に値する。統計解析についても問題はない。 論文全体の構成はもとより考察における論旨の構成や, その内容とくに結果の解釈に必 要な文献考察においても過不足なく述べられている。本研究の主要な所見は海馬歯状回で olanzapine が興奮性シナプス伝達の増強は起こさないが, 用量依存性に DA の増加を生じ たことである。これと類似した海馬での所見は過去に1編しか見られず priority は高い。 おそらくその DA の増加は olanzapine の持つ統合失調症の陰性症状や認知機能障害の改善 と関係すると思われる。また本所見から興奮性シナプス伝達の増強と DA の増加が別々の 独立した現象である可能性が示唆された。一方, aripiprazole は興奮性シナプス伝達の 増強も DA の増加も起こさず, その臨床効果にはこれらとは別な機序が関係すると考えら れ, その薬理作用の特異性が確かめられた。なお, 本研究における抗精神病薬による LTP の発現の抑制は, 過去に申請者らの研究グループが定型抗精神病薬の haloperidol を初め, risperidone や zotepine の 非 定 型 抗 精 神 病 薬 で も 報 告 し て い る 現 象 で あ る が , olanzapine や aripiprazole による報告は本研究が初めてである。LTP は記憶や学習のエ ングラムとして認知機能のメカニズムに関係すると考えられている。また抗精神病薬によ って陰性症状や認知機能障害に類似した症状が誘発されることが知られていることから, おそらく LTP の発現の抑制はそのような抗精神病薬の副作用との関係を示唆して有意義と
思われる。 結論すると本研究は olanzapine や aripiprazole の海馬における興奮性シナプス伝達 や, DA および5HT の細胞外濃度への影響の有無を明らかにしたが, 本研究は非定型抗精 神病薬の臨床薬理や統合失調症の病態の解明に寄与して有意義と思われる。 以上により,本論文は博士(医学)の学位を授与するに値するものと認められる。 (主論文公表誌) 金沢医科大学雑誌 第 31 巻 第 4 号 平成 18 年
氏名(生年月日)
山
やま田
だ真
まさ善
よし (昭和 53 年 2 月 9 日) 本 籍 大 阪 府 学 位 の 種 類 博 士(医 学) 学 位 記 番 号 甲 第346号 学 位 授 与 の 日 付 平成19年3月22日 学 位 授 与 の 要 件 学位規則第4条第1項該当 学 位 論 文 題 目 肝細胞癌を発生した非アルコール性脂肪肝炎(NASH) モデルマウス肝における酸化ストレスと抗酸化酵素 の発現 主 査 髙 瀬 修二郎 論 文 審 査 委 員 副 査 田 中 卓 二 梶 波 康 二 竹 上 勉 学 位 論 文 内 容 の 要 旨 研究目的 飲酒歴がないにもかかわらずアルコール性肝炎と類似の肝組織像を示す非アルコール性 脂肪肝炎(non-alcoholic steatohepatitis: NASH)は肝硬変に進展し,一部には肝癌を 合併する病態として注目されている。申請者は NASH の発生と進展に対する酸化ストレス の関与を明らかにするために,脂肪肝を自然発症する Fatty Liver Shionogi(FLS)マウ スと,NASH 類似の肝組織像を呈した FLS-ob マウスの肝臓について,網羅的遺伝子解析に よって酸化ストレス関連遺伝子の分析を行った。また,肝細胞癌を発生した FLS-ob マウ ス肝における非癌部と癌部の酸化ストレスと抗酸化酵素の発現状況を検討した。 実験方法 1.実験動物:FLS マウスと,C57BL-ob マウスの ob 遺伝子を導入した FLS-ob マウス各 10 匹を 40 週間飼育して,肝組織の変化および発癌状況を観察した。2.Gene Chip による網羅的遺伝子発現解析:FLS および FLS-ob の非癌部肝臓から total RNA を抽出し,cDNA を合成,さらに biotin で蛍光標識した cRNA を作成した。次で断片 化した cRNA を Mouse Genome microarray とハイビリダイズさせ,GeneChip Scanner 3000 でスキャンし,Gene Spring GX により遺伝子発現解析を行った。 3.酸化ストレスと抗酸化酵素の免疫組織化学染色:酸化ストレスの指標として 8- hydroxydeoxyguanosine(8-OhdG),4-hydroxynoneral(4-HNE),3-nitrotyrosine(3-NT),チトクローム P450 2E1(CYP2E1)を,一方抗酸化酵素の指標として Mn-SOD と, Cu/Zn-SOD,catalase を,それぞれに対する抗体を用いた LSAB 法により肝組織を染色 した。
4.抗酸化酵素遺伝子の RT-PCR,Real time PCR:FLS-ob 肝の非癌部および癌部から抽出 した RNA について,Mn-SOD,Cu/Zn-SOD および catalase の mRNA を TaqMan プローブ法 による Real time PCR で定量的に測定した。
5.抗酸化酵素の Western blot:FLS-ob 肝の非癌部と癌部について,Mn-SOD,Cu/Zn-SOD および catalase の蛋白量を enhanced chemiluminesence(ECL)キットで測定した。
実験成績 1.マウスの飼育状況と肝組織所見:飼育 40 週後の平均体重は FLS が 39.1g,FLS-ob が 66.0g で,明らかな差がみられた。肝組織所見についてみると,FLS では少量の脂肪沈 着を散在性に認めるのみであった。一方,FLS-ob 10 匹中 4 匹に合計 6 個の結節を認 め,いずれも充実性で,索状に配列した高分化型肝癌であった。非癌部では肝細胞の大 滴性脂肪沈着,肝細胞壊死および肝細胞周囲の線維化が認められた。 2.網羅的遺伝子発現解析による酸化ストレス関連遺伝子の発現状況:非癌部肝組織につ いて,Gene Chip により 45,101 個の遺伝子を網羅的に解析したが,Gene Spring GX で 検索し得た酸化ストレス関連遺伝子は 49 個であった。これらのうち,FLS-ob において FLS より 2 倍以上の発現亢進が認められたのは,アポトーシスの過程で働く Casp3,グ ルタチオン代謝に関与する Gpx7 と Mpo,ミトコンドリア内に局在しイソクエン酸をオ キ サ ロ コ ハ ク 酸 に 変 換 す る Idh1 , 抗 酸 化 酵 素 Sod1 , お よ び ア ラ キ ド ン 酸 か ら prostaglandin-H を合成するのに重要な酵素である Ptgs2 の 6 個で,Ptgs2 遺伝子の発 現が最も強かった。 3.FLS-ob マウス肝の癌部と非癌部における酸化ストレスの発現:8-OHdG は非癌部では 核に強く染色されたが,癌部では細胞質がびまん性に染色されただけであった。4-HNE と 3-NT は非癌部では細胞質内に顆粒状に染色されが,癌部では染色されなかった。 CYP2E1 は非癌部の小葉中心部肝細胞に強く染色されたが,癌部では染色されなかっ た。 4.FLS-ob マウス肝の癌部と非癌部における抗酸化酵素の発現:Mn-SOD は非癌部の小葉 中心部肝細胞に顆粒状に染色され,癌部では腫瘍全体に強い染色が認められた。Cu/Zn-SOD は非癌部の小葉中心部の細胞質と,癌部の細胞質に染色され,catalase も細胞質に 染色性を認めたが,癌部と非癌部における染色程度の差はなかった。
Real time PCR による遺伝子発現では,Mn-SOD は癌部において非癌部の 1.73 倍, Cu/Zn-SOD は 1.34 倍,catalase は 1.21 倍で,特に Mn-SOD の発現は推計学的にも有意に 高かった。Western blot による蛋白量では,Mn-SOD は癌部では非癌部の 1.8 倍と推計学 的にも有意に高く,Cu/Zn-SOD および catalase は癌部の方が高い傾向がみられた。 総括および結論 NASH の病態追求のために使用した FLS-ob マウスは肥満,高脂血症,糖尿病を伴い,肝 組織では著明な脂肪化に加え,肝細胞壊死,肝細胞周囲性線維化を認めることから,より ヒトに類似した NASH 実験モデルとなりうると考えられた。 FLS-ob 肝の網羅的遺伝子発現の検索において 6 個の酸化ストレス関連遺伝子の亢進が 確認され,これらのうち最も亢進していた Ptgs2 発現は,肝の強い炎症性変化と肝星細胞
の活性化を介した肝線維化に反映されていると考えられた。 FLS-ob 肝の免疫組織化学染色による検討では,酸化ストレスは非癌部で強く検出さ れ,癌部ではほとんどみられなかったのに対し,抗酸化酵素は癌部で強く検出された。ま た,抗酸化酵素の遺伝子量,蛋白量はともに非癌部に比べ癌部で多く発現していた。 以上のごとく,NASH 動物実験モデル FLS-ob マウスにおいて高発現を示す酸化ストレス 関連遺伝子が明らかとなり,さらに,この実験モデルで発生する肝細胞癌は,抗酸化酵素 を強く発現して酸化ストレスを消去している可能性が示唆された。 論 文 審 査 結 果 の 要 旨 非アルコール性脂肪肝炎(NASH)の発症と進展には酸化ストレスが重要な役割を果たし ているが,肝発癌の過程では酸化ストレスによる細胞障害を回避する機序が作動している 可能性が考えられる。そこで,肝癌を発生した NASH 実験モデルマウス肝における酸化ス トレスと抗酸化酵素の発現状況を明らかにすることを目的とした研究である。実験方法 は,Fatty liver shionogi(FLS)マウスと FLS-ob マウスを 40 週間飼育し,Gene Chip により肝の網羅的遺伝子発現解析を行っている。さらに,肝癌を認めた FLS-ob マウス肝 について,癌部と非癌部における酸化ストレスと抗酸化酵素の発現状況を検討している。 実験の結果,以下の成績が得られたとしている。 1.FLS マウス肝では脂肪滴を認めるのみであったが,FLS-ob マウスでは NASH 類似の肝 組織像を呈し,10 匹中 4 匹に高分化型肝細胞癌を認めた。 2.FLS-ob マウス肝における 45,101 個の網羅的遺伝子発現解析のうち酸化ストレス関連 遺伝子は 49 個で,そのうち 6 個が高発現しており,特に Ptgs2 遺伝子の発現が顕著で あった。 3.非癌部では酸化ストレスマーカーが強く発現していたが,癌部ではほとんど検出され なかった。一方,癌部での抗酸化酵素は強く発現しており,特に Mn-SOD の有意に高い 発現を認めた。 以上のごとく,NASH の病態追求のために使用した FLS-ob マウスは,よりヒトに類似し た NASH 実験モデルとなりうることが示された。また,FLS-ob マウス肝の網羅的遺伝子発 現の検索によって亢進している酸化ストレス関連遺伝子が確認された。さらに,FLS-ob マウス肝に発生した肝細胞癌では,抗酸化酵素の高発現によって酸化ストレスを消去する 機構が作動し,酸化ストレスによる細胞障害を防御していると考えられた。本研究の論旨 は,NASH の発症,病態,進展の要因を理解するうえにおいて,きわめて示唆に富むもの と評価された。 以上により,本論文は博士(医学)の学位を授与するに値するものと認められる。 (主論文公表誌) 金沢医科大学雑誌 第 31 巻 第 4 号 平成 18 年