コンクリートの電気抵抗率と塩化物イオンの
見掛けの拡散係数との関係に関する基礎的研究
皆川 浩
1・久田 真
2・榎原 彩野
3・齊藤 佑貴
3・市川 聖芳
4・井上 浩男
5 1正会員 東北大学大学院助教 工学研究科土木工学専攻(〒980-8579 仙台市青葉区荒巻字青葉6-6-06) E-mail: [email protected] 2正会員 東北大学大学院准教授 工学研究科土木工学専攻(〒980-8579 仙台市青葉区荒巻字青葉6-6-06) E-mail: [email protected] 3学生会員 東北大学大学院 工学研究科土木工学専攻(〒980-8579 仙台市青葉区荒巻字青葉6-6-06) 4正会員 ドーピー建設工業(株) 技術部東京技術グループ(〒170-0004 東京都豊島区北大塚1-16-6) E-mail: [email protected] 5正会員 三井造船(株) 技術本部技術総括部(〒104-0045 東京都中央区築地5-6-4) E-mail: [email protected] コンクリートの電気抵抗率は,測定方法が簡便・短時間・非破壊であること,および,塩化物イオンの 浸透性の支配的要因であるコンクリートの空隙構造を間接的に評価できることから,塩分浸透性の評価指 標として着目されてきた.しかし,電気抵抗率と塩分浸透性の評価指標である塩化物イオンの見掛けの拡 散係数の関連性については整理が不十分であり,定量的な関係式は十分に把握されていない.本研究では, 結合材の種類,水結合材比および骨材量が電気抵抗率及び塩化物イオンの見掛けの拡散係数に及ぼす影響 を整理し,コンクリートの電気抵抗率と塩化物イオン拡散係数の関連性について検討した.また, Nernst-Planck 式等から電気抵抗率と拡散係数の関係式を導出し,電気抵抗率から塩化物イオンの見掛けの拡散係 数を定量的に推計する方法を検討した.Key Words : resistivity, diffusivity, porosity, ionic concentration, Nernst-Planck equation
1. はじめに
建設材料として様々な材料が使用されている中,コン クリートは欠かすことができない主要な材料であり,現 在に至るまで多くの土木構造物に使用されてきた.しか しながら,1980 年代以降,我が国ではコンクリート構 造物の早期劣化および耐久性が大きな社会問題として採 り上げられ,劣化機構や耐久性向上のための研究が鋭意 なされるようになった.特に,日本は沿岸部が多く積雪 寒冷地域も存在することから,海洋からの飛来塩分や融 雪剤に由来する塩分による塩害に関する研究が幅広くな されている.その結果,塩害に対する耐久性能照査型の 設計体系が構築され,土木学会コンクリート標準示方書 にもその内容が反映されるようになった. 2007 年制定の土木学会コンクリート標準示方書【設 計編】では,塩害に対する照査は鋼材位置における塩化 物イオン濃度が鋼材腐食発生限界濃度以下であることを 確認することで行うことになっており,鋼材位置の塩化 物イオン濃度は一般にフィックの拡散方程式の解をもと に推定してよいとしている.また,同示方書【維持管理 編】でも,塩化物イオンの拡散の予測はフィックの拡散 方程式の解を用いてよいとしている. フィックの拡散方程式を用いて塩化物イオンの拡散を 予測する場合,塩化物イオン拡散係数が重要な材料物性 値となる.このため,塩化物イオン拡散係数を評価する 方法の規準が必要となり,実験的な方法として「電気泳 動法によるコンクリート中の塩化物イオンの実効拡散係 数試験方法(案)JSCE-G571-2007」,「浸せきによるコ ンクリート中の塩化物イオンの見掛けの拡散係数試験方 法(案)JSCE-G572-2007」が,実構造物における拡散係 数の評価方法として「実構造物におけるコンクリート中 の全塩化物イオン分布の測定方法(案) JSCE-G573-2007」が土木学会規準として制定された.これらの方法 は実績や蓄積されたデータ量が多く,信頼性が確保され た方法である.しかしながら,これらの方法で竣工時の 構造物のコンクリートの品質を検査する場合には試験用のコア試料を母材から採取する必要があり,測定点数お よび測定個所が限定される,または,測定結果を得るた めにはある程度の試験期間を要するといった制約が伴う. つまり,塩害に関する構造物のコンクリートの品質を直 接的かつ効率的に検査するためには,塩化物イオン拡散 係数の非破壊評価試験の開発が必要であると考えられる. ここで,塩害に関する構造物のコンクリートの品質評 価指標の一つとして,コンクリートの電気抵抗率が注目 されている.これは電気抵抗率の測定方法が比較的簡便 で,測定方法によっては非破壊かつ短時間で結果が得ら れること,および,電気抵抗率とコンクリートの遮塩性 能には相関があることが既往の研究 1)-4)により指摘され ているためである. しかしながら,コンクリートの電気抵抗率と塩化物イ オンの見掛けの拡散係数との関係は,これらの評価・測 定方法が規準化されていなかったこともあり,十分に整 理されているとは言い難いのが現状である.また,電気 抵抗率を塩化物イオン拡散係数に換算する方法 2), 3)も 種々提案されているが,理論的根拠に基づく定量的な推 計手法の確立には至ってはいない. 以上の背景から,本研究では,まず,Nernst-Planck 式, 電流密度とイオンフラックスの関係式,オームの法則, Debye-Hückel 式および Einstein 式から電気抵抗率と塩化物 イオン拡散係数の関係式を理論的に導出し,電気抵抗率 と塩化物イオン拡散係数の関係について考察した.また, 「四電極法による断面修復材の体積抵抗率測定方法 (案)(JSCE-K 562-2008)」5)により測定されるコンクリー トの電気抵抗率と「浸せきによるコンクリート中の塩化 物イオンの見掛けの拡散係数試験方法(案) JSCE-G572-2007」6)により算出される塩化物イオンの見掛けの拡散 係数(以下,Cl- 見掛けの拡散係数をDap とする)について, これらの関係に及ぼす結合材種,水結合材比,骨材量の 影響を整理した.さらに,本研究で導出した電気抵抗率 と塩化物イオン拡散係数の関係式から Cl- 見掛けの拡散 係数を定量的に推計する方法を検討し,同方法の課題に ついて考察を行った.
2. 電気抵抗率と塩化物イオンの推計拡散係数の
関係式の導出
(1) 塩化物イオンの拡散係数の表記について 本章では,電気抵抗率と塩化物イオンの拡散係数の関 係式を理論的に導出する.なお,本章で扱う塩化物イオ ンの拡散係数は Cl-見掛けの拡散係数と区別するために, 塩化物イオンの推計拡散係数(以下,Cl- 推計拡散係数, DCl)と表記する.ここで,Cl- 推計拡散係数は,交流電 圧を印加することによって測定される電気抵抗率と,空 隙中のイオン濃度から算出される移動指標である.また, 電気抵抗率の測定時間は 1~2 分程度と極めて短く,外 部から供試体内部に塩化物イオンなどの物質は侵入しな い.従って,Cl- 推計拡散係数は空隙中を移動する塩化 物イオンの挙動を表す指標であり,塩化物イオンの固定 化現象や外部から浸透した共存イオンの影響,試験材齢 などの要因は排除された移動指標であると考えられる. 一方,JSCE-G571-2007 により得られる実効拡散係数は, 直流電流を印加して塩化物イオンを外部から供試体中へ 透過させて得られるものであり,塩化物イオンの流速が 一定になった状態(定常状態)における,空隙中に存在 する塩化物イオンの電気泳動のし易さを表す移動指標で ある.また,JSCE-G572-2007 により得られる Cl- 見掛け の拡散係数は,固定化を伴いながら濃度勾配を駆動力と して移動すると見なしたとき,全ての塩化物イオンを対 象として拡散の速さを規定する移動指標である. このように,Cl- 推計拡散係数,実効拡散係数および Cl- 見掛けの拡散係数は,コンクリート中を移動する塩 化物イオンの移動指標であることが共通点だが,それら の導出過程を考慮すると本質的には異なるものである. (2) 関係式の導出 交流電流を印加することで測定される電気抵抗率が直 流電流を印加して測定される電気抵抗率と等しいと仮定 すると,オームの法則より以下の式が成立する.i
x
1
⋅
⎟
⎠
⎞
⎜
⎝
⎛
∂
∂
−
=
φ
ρ
(1) ここで,ρ:電気抵抗率(Ω m),∂φ/∂x:電位勾配 (V/m),i:電流密度(A/m2)である.また,直流電流 が印加されるコンクリート中の導電物質は細孔溶液中の イオンのみによると仮定すると,電流密度i は式(2)のよ うに記述できる.(
)
∑
⋅ ⋅ = n n n J Z F i (2) ここで,F:ファラデー定数(=9.65×104 C/mol),n:イ オンの種類,Z:イオンの価数,J:イオン移動フラック ス(mol m-2 s-1)である.さらに,コンクリート中のイオ ン移動フラックスは式(3)の Nernst-Planck 式 7), 8) を用いて 示すことができる.x C B Z e x C C B T k J n n n n n n n n ∂ ∂ ⋅ ⋅ ⋅ ⋅ − ∂ ∂ ⋅ ⎟⎟ ⎠ ⎞ ⎜⎜ ⎝ ⎛ ∂ ∂ + ⋅ ⋅ ⋅ − = γ φ ln ln 1 (3) ここで,k : ボルツマン定数(=1.38×10-23 J/K),T : 絶対温度 (K),B : 工学的絶対移動度(m N-1 s-1),γ:イオンの活量係 数,C : コンクリート単位体積あたりのイオン濃度 (mol/m3),∂Cn/∂x:イオン種 n の濃度勾配,e : 電気素量 (=1.60×10-19 C)である.式(3)の右辺の左項および右項はイ オンの拡散および電気泳動に起因するフラックスを表し ている. ここで,直流電流が流れるコンクリート中において, イオン移動の支配的要因が電気泳動であるとすると,式 (3)は式(4)のようになる. x C B Z e Jn n n n ∂ ∂ ⋅ ⋅ ⋅ ⋅ − =
φ
(4) 式(2)に式(1)および式(4)を代入して電気抵抗率ρについて 整理すると,式(5)が導かれる.(
)
∑ ⋅ ⋅ ⋅ ⋅ = n n n n C B Z e F 2 1 ρ (5) ところで,コンクリート中の空隙が連続した円管で, かつ細孔溶液で飽和されていると仮定すると,工学的絶 対移動度9) は式(6)で示される. n n B B = 2 ⋅τ
ε
(6) ここで,ε:空隙率,τ:屈曲度, B :水溶液中の絶対移 動度(m N-1 s-1)である.式(6)を式(5)に代入して整理すると, 式(7)が得られる.(
)
∑ ⋅ ⋅ ⋅ ⋅ ⋅ = n Zn Bn Cn e F 2 2 1 1 ρ τ ε (7) 式(7)より,電気抵抗率は空隙率や屈曲度といった空隙 構造,および,空隙水中のイオン濃度に影響を受けて変 化することが予想される. ところで,塩化物イオンの固定化といった固相と細孔 溶液中のイオンの相互作用が存在しないと仮定すると, 塩化物イオン拡散係数と工学的絶対移動度には,Einstein 式およびDebye-Hückel 式から導出される式(8)のような関 係9) がある.(
)
Cl s s Cl Cl Cl B I I Z C T k D ⎟⎟⋅ ⎠ ⎞ ⎜ ⎜ ⎝ ⎛ + ⋅ ⋅ ⋅ × − ⋅ ⋅ = 4 2 1 4 51 . 0 10 ln 1 (8) ここで,Is:イオン強度である.イオン強度 Isは,式(9) で示される. =∑
(
⋅)
n n n s Z C I 2 2 1 (9) 式(8)に式(5)および式(6)を代入すると,式(10)のように Cl- 推計拡散係数と電気抵抗率の関係式が得られる. ( )(
)
∑ ⋅ ⋅ ⋅ ⋅ ⋅ ⎟ ⎠ ⎞ ⎜ ⎝ ⎛ − × ⋅ ⋅ ⋅ ⋅ = ⋅ + ⋅ n n n n Cl I I Z Cl Cl C B Z e F B C T k D s s Cl 2 1 4 51 . 0 2 4 10 ln 1 1 ρ (10) 式(10)より,塩化物イオンの固定化といった固相と細孔 溶液中のイオンの相互作用が存在しないと仮定できれば, 理論的には塩化物イオン拡散係数と電気抵抗率の関係は 反比例の関係になることがわかる. なお,本研究では次章に示す方法で測定される電気抵 抗率,温度,コンクリート中のイオン濃度から Cl- 推計 表-1 使用した材料の諸元 材料名/諸元 普通ポルトランドセメント(OPC) 密度:3.15 g/cm3,比表面積:3 290 cm2/g 早強ポルトランドセメント(HPC) 密度:3.13 g/cm3,比表面積:4 690 cm2/g 高炉スラグ微粉末(BFS) 密度:2.92 g/cm3,比表面積:8 240 cm2/g ガラス化率98%,SiO2含有率:33.4 % フライアッシュ(FA) 密度:2.40 g/cm3,比表面積:3 780cm2/g SiO2含有率:53.7 % シリカフューム(SF) 密度:2.31 g/cm3,比表面積:204 000 cm2/g SiO2含有率:89.6 % 細骨材 種類:山砂,産地:宮城県大和町 表乾密度:2.62 g/cm3,吸水率:2.64 % 粗粒率:2.71 粗骨材 種類:砕石,産地:宮城県丸森町 表乾密度:2.85 g/cm3,吸水率:0.98 % 粗粒率:7.01 増粘剤 アルキルアリルスルホン酸塩とアルキルアンモニ ウム塩の二成分系 AE剤 アニオン系界面活性剤表-2 配合表 Ser. I W/B S/B s/a 空気量 % - % W C F S G A1 A2 A3 % OPC_40_M3 40 2.6 100 232 579 0 1525 0 0 0 0 -OPC_50_M3 50 3.0 100 254 509 0 1525 0 0 0 0 -OPC_60_M3 60 3.4 100 272 453 0 1525 0 0 0 0 -OPC+BFS_50_M3 50 3.0 100 252 252 252 1525 0 0 0 0 -OPC+FA_40_M3 40 2.7 100 227 453 113 1525 0 0 0 0 -OPC+FA_50_M3 50 3.1 100 249 399 100 1525 0 0 0 0 -OPC+FA_60_M3 60 3.4 100 267 356 89 1525 0 0 0 0 -OPC+SF_50_M3 50 3.0 100 252 453 50 1525 0 0 0 0 -HPC_40_M3 40 2.6 100 231 578 0 1525 0 0 0 0 -HPC+BFS_40_M3 40 2.6 100 230 289 289 1525 0 0 0 0 -Ser. II W/B S/B s/a 空気量 % - % W C F S G A1 A2 A3 % OPC_50_M0 50 0.0 - 612 1223 0 0 0 24.47 0.122 0 -OPC_50_M1 50 1.0 100 417 834 0 834 0 16.68 0.083 0 -OPC_50_M2 50 2.0 100 316 633 0 1265 0 12.65 0.063 0 -OPC_50_C1 50 2.0 75 260 519 0 1039 382 0 0 0.26 4.5 OPC_50_C2 50 2.0 55 217 435 0 869 764 0 0 0.217 4.5 OPC_50_C3 50 2.0 40 175 350 0 699 1146 0 0 0.175 4.5 OPC+BFS_50_M0 50 0.0 - 603 603 603 0 0 24.11 0.121 0 -OPC+BFS_50_M1 50 1.0 100 411 411 411 834 0 16.44 0.082 0 -OPC+BFS_50_M2 50 2.0 100 312 312 312 1265 0 12.47 0.062 0 -OPC+BFS_50_C1 50 2.0 75 259 257 257 1029 382 0 0 0.257 4.5 OPC+BFS_50_C2 50 2.0 55 216 215 215 861 764 0 0 0.215 4.5 OPC+BFS_50_C3 50 2.0 40 174 173 173 693 1146 0 0 0.173 4.5 単位量(kg/m3) 供試体No. 単位量(kg/m 3) 供試体 No. ※モルタルの配合はバッチ配合としているため単位量に空気量を含まない. ※F:高炉スラグ,A1:増粘剤,A2:消泡剤,A3:AE剤 ※供試体No.の末尾に記載される Mはモルタルの,Cはコンクリートの配合を示している. 拡散係数を式(10)により算出し,Cl- 見掛けの拡散係数と 比較する.
3. 実験概要
(1) 供試体の作製 a) 使用材料 使用材料の諸元を表-1 に示す.なお,結合材につい ては,これ以降,普通ポルトランドセメント:OPC,早 強ポルトランドセメント:HPC,高炉スラグ微粉末: BFS,フライアッシュ:FA,シリカフューム:SF と記 述する. b) 配合 表-2 に配合表を示す.配合は,骨材量を一定にした シリーズI と,骨材量を変化させたシリーズ II の 2 シリ ーズである.以下に,各シリーズにおける配合の詳細を 記す. シリーズI では,練混ぜに使用した水,結合材および 細骨材の全体積に占める細骨材体積がOPC-50-M3(普通 ポルトランドセメントモルタル,W/B=50 %,S/B=3.0) のケースと等しくなるように S/C を調整して全 10 ケー スの配合を決定した.結合材はOPC と HPC の単体,ベ ースセメントとしてOPC を用いて BFS,FA,SF をそれ ぞれ 50 %,20 %,10 %の重量内割り置換したもの,お よび,ベースセメントとしてHPCを用いて BFSを 50 % の重量内割り置換したものを用いた.W/B は,OPC およ びOPC+FA は 40,50,60 %の 3 水準とし,HPC および HPC+BFSは 40 %,その他の配合は 50 %とした. シリーズ II では,W/B=50 %一定とし,S/B を 0.0,1.0, 2.0 と変化させた配合,および,S/B=2.0 かつ s/a をそれぞ れ 40,55,75 %と変化させたコンクリートの配合を設 定した.即ち,モルタルの配合においては,細骨材量が 変化し,コンクリートの配合ではS/B 一定で粗骨材量の割合が変化する配合となっている.結合材は OPC と OPC に BFS を 50 %の重量内割り置換した 2 種類を用い た.また,過度のブリーディングによる供試体内部の物 性値のばらつき,および,電流分布やイオン移動の局所 化を抑制するために,セメントペーストおよびモルタル には結合材の重量に対してアルキルアリルスルホン酸塩 とアルキルアンモニウム塩の二成分系増粘剤を2 %,消 泡剤を0.01 %混和した.また,コンクリートには AE 剤 (アニオン系界面活性剤)を結合材の重量に対して 0.05 %ほど混和した. c) 供試体の作製および養生 供試体の形状は角柱体であり,寸法はペーストおよび モルタル供試体については40×40×160 mm,コンクリー トについては100×100×400 mmとした.ペーストとモル タルの練混ぜおよび打設はJIS R 5201に準拠して行った. 打設した直後の供試体は,乾燥しないように濡れ筵をか け,打設後約2時間で表面成形を行い,打設後 24 ± 2 時 間で脱型を行った.その後,供試体は20 ℃の水中で91 日間養生した. (2) 測定項目 a) 電気抵抗率 養生が終了した供試体を用いて,「四電極法による断 面修復材の体積抵抗率測定方法(案)(JSCE-K 562-2008)」5)によりモルタルとコンクリートの電気抵抗率を 測定した.なお,本研究で物体内部を導通する電流から 求まる電気抵抗率を対象としており,本研究の電気抵抗 率と JSCE-K 562-2008 の体積抵抗率は等価なものである. 供試体に印加した交流電圧と周波数はそれぞれ 30 V, 73.3 Hz であり,電位差電極間の距離はモルタル供試体 では80 mm,コンクリート供試体では 200 mm とした. また,測定時の試験室の室温は20 ℃である. b) 供試体の空隙率および真密度 電気抵抗率の測定後の供試体を用い,重量差法によっ て供試体の空隙率および真密度を測定した.式(11)およ び式(12)に供試体の空隙率および真密度の算定式を示す. w w W W W W δ δ ε / ) ( / ) ( 3 2 1 2 − − = (11) 3 1 1 W W W con= − δ (12) ここで,ε:空隙率(%),W1:絶乾状態における試料 の気中質量(g),W2:表乾状態における試料の気中質 量(g),W3:表乾状態における試料の水中質量(g), δw:水の密度(g/cm3),δcon:モルタルまたはコンクリ ートの真密度(g/cm3)である.なお,絶乾状態の試料 は,粗粉砕した試料を60 ℃の乾燥炉内に 48 時間ほど静 置することで調整した. c) コンクリート中のイオン濃度 本研究で着目したコンクリート中のイオンは Na+,K+, Ca2+,Cl-,SO42-,OH-である. このうち,Na+および K+の濃度は建設省総合技術開発 プロジェクトのコンクリート中の水溶性アルカリ金属元 素の分析法(案) 10) を,また,Cl- および SO 42- の濃度は JCI-SC4 の可溶性塩分定量方法 11) を参考にして,抽出し た試料溶液をイオンクロマトグラフ法により測定するこ とで定量した.具体的な手順を以下に示す. [1] 供試体から試料を切り出し,48 時間,65℃の乾燥炉 中で試料を絶乾状態にする. [2] 絶乾状態の試料を乳鉢で 146 μm の標準ふるい(JIS Z8801)を全通するように粉砕し,粉末試料にする. [3] 粉末試料 10g と蒸留水 100g を混合攪拌し,40℃の恒 温槽に24時間静置する. [4] ろ紙にて[3]の上澄み液をろ過する. [5] [4]で得られた溶液試料のイオン濃度 Csample(ppm)を イオンクロマトグラフィー法により測定する. [6] 細孔溶液中イオン濃度を式(13)により算出する. ε ε δ × × − × × = ′ n con sample n MW C C 100 ) 1 ( (13) ここで,n:イオンの種類,C’n:細孔溶液中のイオン種 n の濃度 (mol/L),Csample:溶液試料中のイオン濃度 (ppm),MWn:イオン種nの分子量(g/mol)である. さらに,Ca2+ とOH- の濃度は,測定したNa+,K+,Cl-, SO42- の濃度を用い,式(14),式(15)および式(16)に代入し, 連立方程式を解くことで算出できると仮定して求めた. w OH H C K C′+⋅ ′ −= (14) sp OH Ca C K C′ 2+⋅ ′2 −= (15) 0 2 2 2 4 2 = ′ ⋅ − ′ − ′ − ′ + ′ + ′ + ′ ⋅ = ′ ⋅ − − − + + + +
∑
SO Cl OH H K Na Ca n n n C C C C C C C C Z (16) ここで, Kw:水のイオン積 (=1.0×10-14 mol2 L -2) , Ksp:水酸化カルシウムの溶解度積 (= 5.5×10-6 mol3 L-3),Zn: イオン種n の電荷数である.式(16)は電気的中性条件を示 しており,本研究では,細孔溶液中に存在する着目イオ ンの電荷量の総和は0 になると仮定して Ca2+ およびOH- の濃度を算出した.また,上記の計算においては,細孔表-3 測定結果および測定結果から算出した物性値の一覧
ε δcon ρ Dap DCl Na+ K+ Cl- SO42- Ca2+ OH
-% g/cm3 Ω m x10-12m2/s x10-12m2/s mmol/L mmol/L mmol/L mmol/L mmol/L mmol/L
OPC_40_ M3 14.3 2.05 54.6 4.12 20.90 254.29 220.39 1.75 9.60 0.03 453.79 OPC_50_ M3 18.9 2.23 38.1 7.29 61.03 132.09 49.27 2.57 5.97 0.20 167.25 OPC_60_ M3 21.3 2.01 31.0 8.88 160.90 32.94 37.44 0.71 3.60 1.30 65.07 OPC+BFS_50_ M3 15.0 2.02 133.0 2.54 9.41 373.47 75.56 42.32 17.94 0.04 370.91 OPC+FA_40_ M3 15.1 2.16 119.3 2.85 33.71 67.73 60.69 2.12 5.98 0.41 115.18 OPC+FA_50_ M3 18.2 2.08 90.3 4.44 51.58 44.41 46.98 2.36 7.20 0.94 76.51 OPC+FA_60_ M3 20.9 2.10 63.8 5.39 34.99 189.55 38.10 132.72 41.76 7.68 26.76 OPC+SF_50_ M3 17.8 2.06 171.3 3.81 44.41 42.77 5.87 23.91 10.45 9.88 23.59 HPC_40_ M3 17.1 2.57 47.7 6.34 53.37 123.00 59.70 2.67 8.46 0.21 164.00 HPC+BFS_40_ M3 17.8 2.55 174.8 1.90 20.79 101.00 10.50 8.87 54.00 13.00 20.50 OPC_50_ M0 46.4 2.56 12.0 11.50 139.15 129.28 112.33 39.05 18.68 0.20 165.61 OPC_50_ M1 34.3 2.54 22.8 6.98 84.30 156.71 118.30 54.91 11.78 0.14 196.85 OPC_50_ M2 25.3 2.42 30.7 9.51 51.29 237.29 152.01 63.70 17.77 0.07 290.21 OPC_50_ C1 19.1 2.55 33.3 9.43 47.39 318.05 172.70 122.02 36.67 0.06 295.54 OPC_50_ C2 15.7 2.58 44.6 14.20 39.58 328.65 185.64 95.38 44.84 0.05 329.35 OPC_50_ C3 14.6 2.57 56.4 15.92 37.65 312.53 164.42 94.12 38.04 0.06 306.88 OPC+BFS_50_ M0 47.3 2.48 26.6 3.28 77.13 113.91 97.42 56.49 20.15 0.41 115.38 OPC+BFS_50_ M1 33.4 2.46 50.4 2.77 45.30 129.12 120.47 65.17 47.44 0.67 90.86 OPC+BFS_50_ M2 25.3 2.32 85.4 2.71 38.32 140.24 99.62 72.34 56.12 1.61 58.49 OPC+BFS_50_ C1 17.0 2.53 96.2 2.35 22.75 230.76 183.73 82.03 59.41 0.12 213.89 OPC+BFS_50_ C2 16.3 2.56 138.7 2.58 23.61 201.67 134.96 117.10 74.87 1.06 71.93 OPC+BFS_50_ C3 13.5 2.64 160.9 1.82 18.52 239.90 162.57 107.02 74.56 0.26 146.85 細孔溶液中イオン濃度 供試体No. 溶液の温度は実験室の室温と同じ20 ℃であるとして解を 算出している. コンクリート中のイオン濃度(コンクリート単位体積 あたりのイオン量)は次式により算出した. ε × ′ × = n n C C 1000 (17) d) 塩化物イオンの見掛けの拡散係数 塩化物イオンの見掛けの拡散係数(Cl- 見掛けの拡散 係数,Dap )は,「浸せきによるコンクリート中の塩化物 イオンの見掛けの拡散係数試験方法(案)(JSCE - G 572 - 2007)」6)に準じて測定した. なお,浸せき試験用の角柱供試体は,型枠面の影響を 除去するために,モルタル供試体は 10 mm ほど,コン クリート供試体は 50 mm ほど端面を乾式カッターで切 り落とし,切断面以外をエポキシ樹脂で被覆した.浸せ き溶液はNaCl濃度 10 %であり,浸せき期間は 70 日間で ある.浸せき試験終了後,Cl- 浸透深さ方向に 10 mm 間 隔で供試体を切断して分析用試料を採取した.そして, 分析用試料中の全塩化物イオン濃度を「硬化コンクリー ト 中 に 含 ま れ る 塩 化 物 イ オ ン の 試 験 方 法 (JIS A 1154)」にて測定し,得られる塩化物イオン濃度分布よ りCl-見掛けの拡散係数を算出した.
4. 結果と考察
本研究で得られた測定結果および測定結果から算出し た諸物性値の一覧を表-3 に示す.以下,得られた結果 について考察する. (1) 電気抵抗率とCl-見掛けの拡散係数に及ぼす諸要因の 影響の整理 a) 結合材の種類による影響 シリーズI のベースセメントが OPC で W/B=50 %と, ベースセメントがHPC で W/B=40 %のモルタル供試体に ついて,図-1 および図-2 に,電気抵抗率とCl-見掛けの 拡散係数をそれぞれ示す.図-1 および図-2 より,混和 材を使用するとベースセメント単体のモルタルと比較し て電気抵抗率は増加し,Cl-見掛けの拡散係数は低減す ることがわかる.これらは既往の研究結果 1), 4)と一致す る結果である.混和材の使用により電気抵抗率が増加し た理由は,潜在水硬性,ポゾラン反応,マイクロフィラ ー効果を有する混和材の使用により,セメントペースト 部や骨材界面の組織が緻密化し,交流電場においては電 流の媒体となるイオンの移動が妨げられたためと考えら れる.また,浸せき試験においては,混和材による緻密 化のほかに,塩化物イオン固定化能力の変化も Cl-見掛 けの拡散係数を小さくした要因として考えられる.0 40 80 120 160 200 OPC_50_M 3 OPC+BFS_50_M 3 OPC+FA_50_M 3 OPC+SF_50_M 3 HPC_40_M 3 HPC+BFS_40_M 3 電気抵抗率, ρ (Ω m) 図-1 結合材種別の電気抵抗率 0 50 100 150 30 40 50 60 70 W /B (%) 電気抵抗率 , ρ (Ω m) 0 2 4 6 8 10 Cl - 見掛けの拡散係数 , D ap (x 10 -1 2 m 2 /s ) □:ρ, OPC △:ρ, OPC+FA ■:Dap, OPC ▲:Dap, OPC+FA 図-3 電気抵抗率およびCl-見掛けの拡散係数とW/Bの関係 b) 水結合材比による影響 図-3 に,電気抵抗率および Cl-見掛けの拡散係数と W/B の関係を示す.ここに示す結果はシリーズ I の配合 で,OPC と OPC に FA を混和したモルタル供試体のも のである.図-3 より,低 W/B ほど,電気抵抗率は大き くなり,Cl-見掛けの拡散係数は小さくなる傾向が得ら れた.これらは,低 W/B においてはセメントペースト 中の空隙量が減少し,内部組織が緻密化したためと考え られる. 図-4 にW/B=50 %の結果を基準として算出した電気抵 抗率の比および Cl-見掛けの拡散係数の比と W/B の関係 を示す.図-4 より,電気抵抗率の比および Cl-見掛けの 拡散係数の比がW/B に受ける影響程度は,FA の混和の 有無に関わらず同程度であるといえる.また,電気抵抗 率の比および Cl-見掛けの拡散係数の比の変動幅はほぼ 同等であった.これらは,骨材量が一定という条件のも 0 2 4 6 8 10 OPC_50_M 3 OPC+BFS_50_M 3 OPC+FA_50_M 3 OPC+SF_50_M 3 HPC_40_M 3 HPC+BFS_40_M 3 Cl-見掛けの拡散係数, Dap (x10-12 m2/s) 図-2 結合材種別のCl-見掛けの拡散係数 0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 30 40 50 60 70 W /B (%) 電気抵抗率の 比 0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 Cl -見掛けの拡散係 数の比 □:ρ, OPC △:ρ, OPC+FA ■:Dap, OPC ▲:Dap, OPC+FA 図-4 電気抵抗率の比およびCl-見掛けの拡散係数の比と W/B の関係 とで W/B を変化させた場合,電気抵抗率と Cl-見掛けの 拡散係数に及ぼす影響因子は,空隙水中のイオン濃度や 塩化物イオンの固定化力のような化学的性質の変化より も,未水和水の増減による空隙構造の変化が支配的であ るためと考えられる. c) 単位細骨材量による影響 図-5 に,シリーズII の W/B=50 %一定で,S/B を 0.0, 1.0,2.0,3.0 としたペーストおよびモルタルの電気抵抗 率および Cl-見掛けの拡散係数と単位細骨材量の関係を 示す.また,図-6 には,S/B=2.0 の結果を基準としてと った電気抵抗率の比および Cl-見掛けの拡散係数の比と 単位細骨材量の関係を示す.なお,結合材の種類は OPCと OPCに BFSを混和したものである. 図-5 および図-6 より,単位細骨材が増加するに伴い, 電気抵抗率は増加することがわかる.本研究の細骨材の 電気抵抗率はセメントペーストのそれと比較して極めて
大きく,ほぼ絶縁材料とみなせる.このため,単位細骨 材量が増加するに伴い絶縁部分が増加したため,電気抵 抗率が増加したと考えられる.また,図-7 に示すよう に,単位粗骨材量の増加に伴い単位セメントペースト量 が減少し,電流の移動媒体であるイオンが透過する空隙 量は減少する.このことも,電気抵抗率の増加に寄与し たものと考えられる.さらに,図-7 より見掛けのイオ ン強度は,単位細骨材量の増加に伴い減少していること がわかる.これは,単位細骨材量の増加に伴い単位セメ ント量が減少すると,供試体単位体積あたりの電解質量 も減少することを示している.つまり,単位細骨材量が 増加するに伴い,電流の移動媒体となるイオン量が減少 したことも,電気抵抗率が増加した原因のひとつとして 考えられる.なお,単位細骨材量が増加すると骨材界面 に生じる比較的ポーラスな領域(遷移帯)の量が増加し, 電気抵抗率を低減させる可能性もある.しかし,本研究 の供試体では増粘剤の混和により材料分離が抑制され, 細骨材表面に形成される遷移帯が比較的緻密となり,絶 縁部分および空隙の量と電解質であるイオン量が支配的 要因となって電気抵抗率が変化したと考えられる. 一方,図-5 および図-6 より,単位細骨材が増加する に伴い,Cl-見掛けの拡散係数は概ね減少傾向になるこ とがわかる.これはセメントペースト部よりも遮塩性が 高い細骨材の混入量が増加したことによると考えられる. なお,単位細骨材量が増加すると骨材界面に生じる比較 的ポーラスな領域(遷移帯)の量が増加し,Cl-見掛け の拡散係数を増加させる可能性もある.しかし,本研究 の供試体では増粘剤の混和により材料分離が抑制され, 細骨材表面に形成される遷移帯が比較的緻密となり,遮 塩性が高い細骨材の量が支配的要因となって Cl-見掛け の拡散係数が変化したと考えられる. また,図-6 より電気抵抗率の変化程度と比較して, Cl-見掛けの拡散係数の変化程度は小さくなっているこ とがわかる.これは,単位細骨材量の増加に伴い単位結 合材量が減少し,モルタルの塩化物イオン固定化能力が 低下したためと考えられる.このことは,単位細骨材量 の増加は,物理的には電流の流れおよび塩化物イオンの 拡散を妨げる方向に働くが,化学的には電流の流れを妨 げる一方で塩化物イオンを拡散しやすくすることを示し ている.このような理由のために,単位細骨材量の影響 感度が電気抵抗率と Cl-見掛けの拡散係数とで異なった と考えられる. d) 単位粗骨材量による影響 図-8 に,シリーズII の W/B=50 %,S/B=2.0 一定で, 単位粗骨材量を変化させた供試体の電気抵抗率および Cl-見掛けの拡散係数と単位粗骨材量の関係を示す.ま た,図-9 には,単位粗骨材量が0 kg/m3の結果を基準と 0 50 100 150 0 400 800 1200 1600 単位細骨材量, S (kg/m3) 電気抵 抗率 , ρ (Ω m) 0 5 10 15 Cl -見掛け の拡散係 数, D ap (x 10 -1 2 m 2 /s ) □:ρ, OPC △:ρ, OPC+BFS ■:Dap, OPC ▲:Dap, OPC+BFS 図-5 電気抵抗率および Cl-見掛けの拡散係数と単位細骨材量 の関係(W/B=50 %モルタル) 0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 0 400 800 1200 1600 単位細骨材量, S (kg/m3) 電気 抵抗率の 比 0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 Cl - 見 掛けの拡散 係数の比 □:ρ, OPC △:ρ, OPC+BFS ■:Dap, OPC ▲:Dap, OPC+BFS 図-6 電気抵抗率の比および Cl-見掛けの拡散係数の比と単位 細骨材量の関係(W/B=50 %モルタル) 0 10 20 30 40 50 0 400 800 1200 1600 単位細骨材量, S (kg/m3) 空隙率, ε (%) 0 20 40 60 80 100 120 140 160 見 掛けのイオ ン強度, Is (k m ol /m 3 ) □:ε, OPC △:ε, OPC+BFS ■:Is, OPC ▲:Is, OPC+BFS 図-7 空隙率および見掛けのイオン強度と単位細骨材量の関係 (W/B=50 %モルタル)
してとった電気抵抗率の比および Cl-見掛けの拡散係数 の比と単位細骨材量の関係を示す.なお,結合材の種類 はOPCと OPCに BFSを混和したものである. 図-8 および図-9 より,単位粗骨材量が増加するに伴 い,電気抵抗率は増加することがわかる.本研究で使用 した粗骨材の電気抵抗率は,細骨材同様,セメントペー ストのそれと比較して極めて大きく,ほぼ絶縁材料とみ なせる.このため,単位細骨材量と同様の理由で,単位 粗骨材量が増加するに伴い電気抵抗率が増加したと考え られる.なお,図-7 および図-10 を比較してわかるよう に,単位粗骨材量の変化が空隙量および見掛けのイオン 強度に及ぼす影響感度は,単位細骨材量のケースと比較 して小さいにもかかわらず,電気抵抗率の骨材量の変化 に対する影響感度は図-6 と図-9 とで同程度となった. この理由としては,粒径の大きい粗骨材が混入すること で電流の経路が大きく屈曲したことが考えられる. 一方,図-8 および図-9 より,単位粗骨材の増加に伴 い,Cl-見掛けの拡散係数は OPC では増加し,OPC+BFS では減少していることがわかる.この傾向の違いは,骨 材界面に形成される遷移帯の質と連結性が影響している と考えられる.骨材量がある一定量以上に増加すると, 骨材周辺に散在していた遷移帯は互いに連結するために, 単位時間あたりに透過する物質量は増加し,結果として 拡散係数が増加する12)ことが知られている.本研究では OPC の Cl-見掛けの拡散係数の挙動がこれにあたる.一 方,OPC+BFS の供試体でも遷移帯の連結は発生するも のの,BFS の使用により遷移帯における脆弱層の形成が 抑制され13),結果として遷移帯の連結の影響よりも単位 粗骨材量の増加に伴うセメントペースト部の減少の影響 が支配的となり,塩化物イオン浸透性を低下させたもの と考えられる. なお,W/Bや単位細骨材量を変化させた場合では,一 般に電気抵抗率が増加するとCl-見掛けの拡散係数は低 下したが,単位粗骨材量を変化させたシリーズのOPCで はこれとは異なる傾向を示した.これは遷移帯の質や連 結性が及ぼす影響感度が電気抵抗率とCl-見掛けの拡散 係数とでは異なる可能性があることを示唆していると考 えられる.つまり,電気抵抗率では遷移帯の質や連結性 に関する影響感度は小さく,Cl-見掛けの拡散係数では 大きくなるため,図-8および図-9のような結果が得られ たと考えられる. (2) 電気抵抗率とCl- 見掛けの拡散係数との関係 図-11 に供試体の電気抵抗率と Cl- 見掛けの拡散係数 の関係を示す.図-11 より,電気抵抗率の増加に伴いCl- 見掛けの拡散係数は低下する傾向にあり,両者の関係は 反比例に近い関係を示していることがわかる.一方,式 0 50 100 150 200 0 200 400 600 800 1000 1200 単位粗骨材量, G (kg/m3) 電気抵抗率 , ρ (Ω m) 0 5 10 15 20 Cl - 見掛けの拡散係数 , D ap (x10 -1 2 m 2 /s ) □:ρ, OPC △:ρ, OPC+BFS ■:Dap, OPC ▲:Dap, OPC+BFS 図-8 電気抵抗率および Cl-見掛けの拡散係数と単位粗骨材量 の関係(W/B=50 %,S/B=2.0) 0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 0 200 400 600 800 1000 1200 単位粗骨材量, G (kg/m3) 電気 抵抗率の 比 0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 Cl - 見 掛けの拡散 係数の比 □:ρ, OPC △:ρ, OPC+BFS ■:Dap, OPC ▲:Dap, OPC+BFS 図-9 電気抵抗率の比および Cl-見掛けの拡散係数の比と単位 粗骨材量の関係(W/B=50 %,S/B=2.0) 0 10 20 30 40 50 0 200 400 600 800 1000 1200 単位粗骨材量, G (kg/m3) 空隙率, ε (%) 0 20 40 60 80 100 120 140 160 見掛け のイオン 強度 , Is (k m ol /m 3) □:ε, OPC △:ε, OPC+BFS ■:Is, OPC ▲:Is, OPC+BFS 図-10 空隙率および見掛けのイオン強度と単位粗骨材量の関 係(W/B=50 %,S/B=2.0)
(10)においては,電気抵抗率と塩化物イオン拡散係数の 関係は反比例となっている.これらのことから,飽水条 件下において,Cl- 見掛けの拡散係数は電気抵抗率のべ き乗を説明変数として推計できる可能性がある.そこで, 本研究で得られた結果を回帰分析することで得られた Cl- 見掛けの拡散係数の推計式を式(18)に示す. 652 . 0 11 1 10 93 . 6 ρ ⋅ × = − ap D (18) 式(18)の決定係数は R2=0.52 であり,必ずしも電気抵抗 率とCl- 見掛けの拡散係数の関係は1:1 になってはいない. 本章(1)の検討結果や式(10)の導出仮定を踏まえると,電 気抵抗率から Cl- 見掛けの拡散係数を正確に推計するに は,空隙の連結性や結合材の塩化物イオン固定化能力の 影響および細孔溶液中の各種イオン濃度を考慮する必要 があると考えられる. なお,図-11 では,図全体を俯瞰すると電気抵抗率と Cl- 見掛けの拡散係数の関係は反比例になっているが, セメント種類毎に整理すると直線的な関係になってもい る.本研究の範囲では配合パラメータの設定が限定的で あり,セメント種類などの影響を明確にすることは困難 であるため,今後,W/B などの配合パラメータをより広 範囲に設定した上で,セメント種類の影響を明らかにす る必要がある. (3) Cl-推計拡散係数とCl-見掛けの拡散係数の関係 図-12 に,式(10)により算定した Cl- 推計拡散係数とCl- 見掛けの拡散係数の関係を示す.Cl- 推計拡散係数は Cl- 見掛けの拡散係数と比較して 2.4 倍~23.5 倍程度の値と なった.これは,Cl- 見掛けの拡散係数は固定化される 塩化物イオン量も対象として算出される値であるのに対 して,Cl- 推計拡散係数は式(10)の導出過程において固定 塩分を考慮していないことが影響していると考えられる. また,Cl-の拡散係数には濃度依存性があり,コンクリ ート中のイオン濃度の上昇により Cl-の拡散係数は低下 する 7), 9), 14)ことが知られている.Cl- 見掛けの拡散係数は, Na+や Cl-の浸透による供試体中イオン濃度の上昇後に評 価されているのに対し,Cl- 推計拡散係数は浸せき前の 供試体により評価されている.このことも Cl- 推計拡散 係数が Cl- 見掛けの拡散係数よりも大きくなった原因と 考えられる.しかしながら,図-12 のデータの分布は DCl = Dap直線とほぼ平行に分布しており,両者には一定 の相関性が確認でき,電気抵抗率から算出される Cl- 推 計拡散係数により Cl- 見掛けの拡散係数を定量評価でき る可能性があると考えられる. さらに,Cl- 推計拡散係数と Cl- 見掛けの拡散係数との 0 50 100 150 200 0 5 10 15 20 Cl-見掛けの拡散係数,Dap (x10 -12 m2/s) 電気抵抗率, ρ (Ω m) OPC_paste OPC_mortar OPC_concrete OPC+BFS_paste OPC+BFS_mortar OPC+BFS_concrete OPC+FA_mortar OPC+SF_mortar HPC_mortar HPC+BFS_mortar 式(18) 図-11 電気抵抗率とCl-見掛けの拡散係数の関係 1 10 100 1000 10000 1 10 100 Cl-見掛けの拡散係数,D ap (x10-12 m2/s) Cl -推計拡散係 数 ,D Cl (x10 -1 2 m 2 /s ) OPC_paste OPC_mortar OPC_concrete OPC+BFS_paste OPC+BFS_mortar OPC+BFS_concrete OPC+FA_mortar OPC+SF_mortar HPC_mortar HPC+BFS_mortar DCl=Dap 図-12 Cl-推計拡散係数とCl-見掛けの拡散係数の関係 差の影響を検討するために,Cl- 推計拡散係数とCl- 見掛 けの拡散係数の関係を式(19)で表し,影響要因との比較 を行った. Cl ap D D =
α
(19) ここで,α: 拡散係数比,と定義する. 図-13 に供試体毎の拡散係数比αを示す.図-13 より, 結合材種以外の配合条件が同等の供試体で比較すると, 一般的に混和材を使用したケースの方が拡散係数比は小0.20 0.08 0.08 0.19 0.12 0.06 0.04 0.06 0.07 0.27 0.08 0.09 0.15 0.09 0.12 0.09 0.20 0.36 0.42 0.10 0.11 0.10 0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 OPC_40_M3 OPC_50_M0 OPC_50_M1 OPC_50_M2 OPC_50_M3 OPC_60_M3 OPC+BFS_50_M0 OPC+BFS_50_M1 OPC+BFS_50_M2 OPC+BFS_50_M3 OPC+FA_40_M3 OPC+FA_50_M3 OPC+FA_60_M3 OPC+SF_50_M3 HPC_40_M 3 HPC+BFS_40_M3 OPC_50_C1 OPC_50_C2 OPC_50_C3 OPC+BFS_50_C1 OPC+BFS_50_C2 OPC+BFS_50_C3 拡散係数比(Dap/DCl) 図-13 配合種別の拡散係数比 さくなった.これは,混和材の使用により塩化物イオン の固定化力が増加したためと考えられる.この混和材の 使用による拡散係数比の違いの傾向は,特にコンクリー ト供試体で顕著になり,モルタルやセメントペースト供 試体では小さくなった.これは,セメントペーストやモ ルタル供試体では,単位セメント量が多くなりより多く の塩化物イオンを固定化できるため,結果として混和材 による影響が相対的に小さくなったためと考えられる. ここで,「実構造物におけるコンクリート中の全塩化 物イオン分布の測定方法(案)(JSCE-G 573-2007)」に は,Dapと「実構造物におけるコンクリート中の全塩化 物イオン分布の測定方法(案)(JSCE-G 573-2007)」に 準拠して求めた見掛けの拡散係数をまとめ一般化した用 語としての見掛けの拡散係数 Daと,「電気泳動による コンクリート中の塩化物イオンの実効拡散係数試験方法 (案)(JSCE-G 571-2007)」に準拠して求めた実効拡散 係数Deとの関係を式(20)15), 16)のように示している. 2 1 k k D D e a = ⋅ (20) ここで, k1:コンクリート表面におけるコンクリート側, 陰極側溶液側それぞれの塩化物イオン濃度の釣り合いに かかわる係数,k2:セメント水和物中への塩化物イオン の固定化現象にかかわる係数.このように,実効拡散係 数と見掛けの拡散係数は塩化物イオンの固定化現象にか かわる係数によって関連付けられている. Cl- 推計拡散係数と電気泳動セル試験から得られる実 効拡散係数の評価式の導出過程を考慮すると,Cl- 推計 拡散係数と実効拡散係は近い性質をもつ物質移動指標で あると考えられる.よって,Cl- 推計拡散係数からCl- 見 掛けの拡散係数を推計する場合にも,水和物による塩化 物イオンの固定化力を考慮する必要があると考えられる.
5.結論
本研究では,Nernst-Planck 式,電流密度とイオンフラ ックスの関係式,オームの法則,Debye-Hückel 式および Einstein 式から電気抵抗率と塩化物イオン拡散係数の関 係式を理論的に導出し,電気抵抗率と塩化物イオン拡散 係数の関係について考察した.また,JSCE-K 562-2008 に より測定される電気抵抗率と JSCE-G572-2007 により算 出される塩化物イオンの見掛けの拡散係数(Cl- 見掛け の拡散係数)について,これらの関係に及ぼす結合材種, 水結合材比,骨材量の影響を整理した.さらに,本研究 で導出した電気抵抗率と塩化物イオン拡散係数の関係式 から Cl- 見掛けの拡散係数を定量的に推計する方法を検 討し,同方法の課題について考察を行った.以下に本研 究で得られた知見をまとめる. (1) 飽水条件下において,電気抵抗率の増加に伴い Cl -見掛けの拡散係数は低下する傾向にあり,両者の関 係は反比例に近い関係を示すことから,電気抵抗率 から Cl-見掛けの拡散係数を推計できる可能性があ る.また,電気抵抗率から Cl- 見掛けの拡散係数を 正確に推計するには,空隙の連結性や空隙中のイオ ン濃度,および,結合材の塩化物イオン固定化能力 の影響を考慮する必要がある. (2) コンクリートの電気抵抗率と塩化物イオン拡散係数 の関係式から算出されるCl- 推計拡散係数は Cl- 見掛 けの拡散係数と比較して 2.4 倍~23.5 倍程度の値と なるが,両者には一定の相関性が確認でき, Cl- 推 計拡散係数により Cl- 見掛けの拡散係数を定量評価 できる可能性がある.また,Cl- 推計拡散係数は電 気泳動セル試験から得られる実効拡散係数と近い性質をもつ物質移動指標であると考えられる. (3) コンクリートの電気抵抗率は,空隙構造を緻密化す る混和材の使用,W/B の低減,単位細骨材量および 単位粗骨材量の増加によって大きくなる.一方,Cl- 見掛けの拡散係数は,空隙構造を緻密化する混和材 の使用,W/B の低減,単位細骨材量の増加により小 さくなる.また,Cl- 見掛けの拡散係数に及ぼす単 位粗骨材量の影響は,骨材界面に形成される遷移帯 の質と連結性によって変化する. (4) 単位体積あたりの骨材量一定で W/B を変化させた モルタルの電気抵抗率と Cl-見掛けの拡散係数に及 ぼす影響因子は,空隙水中イオン濃度や塩化物イオ ンの固定化力のような化学的性質の変化よりも,未 水和水の増減による空隙構造の変化が支配的になる. (5) W/B 一定で単位細骨材量を増加させると,絶縁体で ある細骨材の増加,空隙量の減少,および電流の移 動媒体となるイオン量の減少により,モルタルの電 気抵抗率は大きくなる.一方,Cl-見掛けの拡散係数 は,セメントペースト部よりも遮塩性が高い細骨材 の混入量の増加により,概ね減少傾向になる. (6) W/B 一定条件下のモルタルにおいて,単位細骨材量 が電気抵抗率と Cl-見掛けの拡散係数に及ぼす影響 の感度はそれぞれ異なる.これは,単位細骨材量の 増加が物理的には電流の流れと塩化物イオンの拡散 を妨げる方向に働くが,化学的には電流の流れを妨 げる一方で塩化物イオンを拡散しやすくする方向に 働くためである. (7) W/B および S/B が一定条件下において,単位粗骨材 量が増加するに伴い,電気抵抗率は増加する.これ は,単位細骨材量が変化した場合の理由に加え,粒 径の大きい粗骨材が混入することで電流の経路が大 きく屈曲したためである. 謝辞:本研究の一部は,第 21 回(2007 年度)セメント 協会研究奨励金により行われました.また,本研究の遂 行にあたり,三井造船(株)江澤一明氏,酒井正和氏,ド ーピー建設工業(株)立神久雄氏,および濱田譲,安森浩 の両氏(研究当時,ドーピー建設工業(株))にご協力を 賜りました.ここに謝意を表します. 参考文献 1) 建設省土木研究所:コンクリートの電気抵抗による耐久 性評価の基礎的研究,土木研究所資料第3716号,2000.3
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FUNDAMENTAL STUDY ON RELATIONSHIP BETWEEN
ELECTRIC RESISTIVITY AND CHLORIDE ION DIFFUSIVITY OF CONCRETE
Hiroshi MINAGAWA, Makoto HISADA, Ayano EHARA, Yuki SAITO,
Masayoshi ICHIKAWA and Hiroo INOUE
Electric resistivity has attracted attention as one of the index for evaluating chloride ions permeability of concrete. However, the relationship between the apparent diffusion coefficient of chloride ions in concrete and the electric resistivity is not still clarified. In this study, this relationship was disccused from some experimental results obtained by several types of specimens. Moreover, the relational expression of the electric resistivity and the diffusion coefficient was derived from Nernst-Planck equation etc., and a quantitative evaluating method of apparent diffusion coefficient of chloride ions from electric resistivity and this relational expression was examined.