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地域開発と水環境保全 : 空港建設を事例として(岡部昭二教授退官記念論文集)

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323

地域開発と水環境保全

一一一

港建設を事例として

近  藤

学 [1] はじめに  1987年の「四全総」や「リゾート法」の策定以降,バブル経済の後押しをも 受けながら,「内需拡大」,「社会資本整備」,「地域活性化」等を目的とした各種 の開発行為が,高度成長期を上回る規模と勢いで各地を席巻している。そして ここ近畿の水源地である滋賀県においても,「リゾート開発」,「琵琶湖総合開発 計画(再延長部分)」,「多目的保安林総合整備事業」等と並んで,びわこ空港と 第二名神のi建設計画が進行しつつある。  こうした大規模な開発計画は,地域経済および環境への両面に重大な影響を 与え,経済成長と環境保全の持続可能な発展のあり方を検討する際の貴重な実 例と素材をわれわれに提供している。本稿ではその一例としてびわこ空港建設 計画を主たる対象として取り上げ,その影響,問題点について検討を加えるこ とにする。 [2] びわこ空港計画の経過と概要  びわこ空港計画は,1987年9月,滋賀県が三つの空港候補地(田上,蒲生・ 日野,甲賀)を公表し,第六次空港整備5ケ年計画への採択を希望した時に初 めて具体的にその姿を県民の前に現したといってよい。翌年の9月には,空港 立地可能性調査専門委員会は空港候補地として蒲生・日野地区が最適との結論 を出し,同年11月,臨時県議会は,空港候補地を「蒲生・日野地区」とするこ とを決定した。一方,肝心の空港基本計画は東京便を巡って二転三転し,結局,        1) 1990年8月,県は東京便を含まない「びわこ空港基本計画案」を公表した。そ

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324  岡部昭二教授退官記念論文集(第279・280号)        表1 びわこ空港基本計画 ○種別   地方空港(第三種) 0設置・管理者者   滋賀県 ○規模   滑走路:全体計画2500m(暫定計画2000m)      面積:全体計画約180ha(暫定計画約130ha) ○位置   滋賀県蒲生郡蒲生町・日野町 ○土工量   約980立方メートル ○事業費   280億円 ○年間発着回数   7300回(1日あたり20便) ○開港時予想航空需要   62万人 ○開港時航空路線   札幌,福岡,沖縄の3路線 ○開港予定   2000年 の後,1990年12月には国土庁は,「琵琶湖リゾートネックレス構想」を承認し, 翌91年11月には六空整で「予定事業」となることが閣議決定された。本年4月 には,県は空港推進へむけ人員・予算等の機構改革を行うとともに,地権者集 落への「補助金」支出など地元対策を本格化させるとともに,同年9月には約 6000億円もの周辺整備事業計画案(「びわこ空港臨空都市構想(案)」)を公表し た。 [3] 検討の方法と議論の限定  さて,こうした空港の建設は様々な問題点をはらみ,その影響は長期かつ広 範囲に及ぶため,慎重に検討されなければならない。一般には,空港は道路・ 鉄道などと同様の公益性の高い交通社会資本とみなされているが,他方,大阪 国際空港や成田空港,名古屋新幹線,国道43号線の訴訟事例などに見られるよ うに深刻な交通公害問題を発生させ,地域住民との間に様々な社会的あつれき を引き起こしている。とくに最近における石油資源の枯渇や地球環境問題,さ らには近畿の水源への影響など検討すべき問題点は多岐にわたる。そこで空港 建設問題を考える場合の全体像について最初に整理しておこう。  空港の建設が与える影響については,空港(およびアクセス道路などの関連 1)2000年の年間利用客は154.5万人(’88.8)→130万人(’89.6)→62万人(’90.8)と縮  小された。

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      地域開発と水環境保全  325 施設を含む)が建設されるまでの問題群と建設後の問題群に一応分けられる。  第一の問題群は, ①空港の立地可能性…空域,地質,地形,気象,位置など ②空港の必要性■・■航空需要,路線,航空会社の就航の見通し,空港の財政収支,      地方自治体の財政収支計画,既存または将来の地域開発計画との整      合性,地域経済効果,代替的交通手段との競合,輸送時間の効率化      の程度,その他空港の公益性の評価 ③地域住民の合意…地権者および地域住民の合意とその手続き,情報公開,騒      音対策,補償問題,計画への参加の保証など ④空港の安全性…管制方法,所要人員の確保,飛行コース,空の過密,事故へ      の対処など ⑤生活環境への影響…地下水,埋蔵文化財,大気汚染,騒音被害,健康被害,      生態系や水質への影響,水産資源への影響など に関わるものである。  第二の問題群は,空港の利用に関わるものであり, ①周辺開発計画…空港と関連した周辺地域の開発のあり方,財源負担,人口や      地域コミュニティーへの影響など ②地域開発計画…空港と関連したより広域レベルの交通・産業や街づくりへの      対応,地価問題,土地利用や都市計画のあり方,外来資本との競合,      交通混雑や防災問題などへの対応 ③地方自治体の長期財政負担問題…債務返還や追加支出などの財政負担への対      応 ④資源・エネルギー・廃棄物問題…水・電力などの需要増大やエネルギー資源      の枯渇やゴミ・廃棄物増大への対応 ⑤地球環境問題…大気汚染,温暖化への対応など などが考えられる。  本稿では,第一の問題群から,②⑤を取り上げ,第二の問題群から④⑤を取 り上げる。ただし,取り上げた問題の全ての論点にわたって十分な議論をする

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326  岡部昭二教授退官記念論文集(第279・280号) ことは筆者の能力を越える。なお,空港建設が地域経済とどの様に関わるか, とくにリゾート開発との関連や地方財政への影響については別の角度から既に 検討したことがあるので参考文献[18]を見られたい。 [4] 空港・航空を巡る一般的状況  空港の建設は航空法(1952.7)や空港整備法(1956.4)により,国家の段 階的整備計画(第一次∼第六次)の枠内で,一定の政策的判断により計画・実 施されてきた。例えば第六次空港整備5ケ年計画においては最近の国際物流の 増大や航空需要の増大に対処するためとして3大プロジェクト(羽田・成田の 拡張と関西国際空港)の実現や地方空港の整備に,民間資金も導入しつつ,多 額の予算を投入している。  次に,現在の空港の分布・整備状況について見てみよう。 表2 空港整備5力年計画の推移 策定時点 計画期間(年度) 投資規模(億円) 達成率(%)  第一次  第二次  第三次  第四次 1969.3 .25 72.3 .17 76.10.1 81.12.11  67一一71 71一一75 76一一80 81一一85  1,150 5,600 9,200 17,100  55.ユ      82.ユ     95.9     65.8 第五次 86.11.28 86一一90 19,200 ユ17.4 第六次 91.11.29 91 一一 95 31,900 (出所)1991.3.1閣議了解および1992.1129閣議決定。第五次に新規採択された第三種空  港は,庄内,福島,石見,佐賀の4空港。第六次に「予定事業」とされた新設・移転の第  三種空港は大館能代,小笠原,静岡,びわこ,神戸,新石垣の6空港。 表3 空港の整備状況 種種種他 一二三の 第第第そ 既 存 3( 3) 25 (23) 44 (16) 9( 5) 建設中  1  1  7  4

計4265113

計 81 (47) 13 94 (注) ()はジェット機の定期便の就航する飛行場。1990.11現在。 (出所)「運輸白書(平成2年版)」p.139

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       地域開発と水環境保全  327  現在,供用および未供用あわせて空港数は,94あり(非公共用は除く),うち ジェット機の定期便が就航する空港は47ある。(このほかに米軍専用の横田,岩 国,嘉手納がある)  全国の飛行場の分布をみると,分布は均等ではなく,北海道や九州,離島に 集中し,逆に東京や大阪の近辺には比較的飛行場が少ない。とくに,第三種空 港でかつジェット機の定期便が就航できる飛行場を具体的に見ると,中標津, 女満別,青森,花巻,入丈島,富山,鳥取,出雲,岡山,対馬,福江,奄美, 徳之島,宮古,下地島,石垣となっており,これらは離島地域かまたは首都圏 への他に有効なアクセス手段をもたない遠距離地である。実際,89年度の国内 航空旅客数に占める東京,大阪両国際空港の利用比率をみると,東京国際空港 を利用したものが58。1%,大阪国際空港を利用したものが25.7%,東京一大本 線の旅客は6.4%となっており,航空における東京一極集中の実態が明瞭に見て 取れる2)。  次に,空港整備の面から,国内地方空港が不足しているかどうかを検討して みよう。「第六次空港整備5ケ年計画の基本的考え方について(中間とりまと め)」(1990.8.24)を見ると,空港整備のマクロ的指標として,総滑走路延長        3) 指標という新しい概念が用いられている。そして欧米先進諸国ではこの値が平 均1048であるが,わが国では1989年度末で752であり,空港整備水準の立ち後れ が目だつとしている。そして2000年度には概ね1000程度,1995年度末には約880 を達成するべく計画期間中に相当規模の整備を行うとの記載がある。今このペ ース(平均年率2.8%)で総滑走路延長指標を2000年まで延長すると,1003とな る。これより人口,国土面積一定として,2000年度時点で運輸省が必要と考え る総:滑走路延長距離を求めると約215kmとなる。他方,1990年度の総滑走路延長 距離は163.3kmであるから,51.7kmの滑走路が今後整備必要となる。そこで三大 空港の整備計画,第五次空整までに採択となった空港の滑走路延長距離を見る と次のようである。 2)文献[9]p.36参照。 3)総滑走路延長指標=総滑走路延長(m)/人口(百万人)×面積(千平方キロ)の平方根。

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328  岡部昭二教授退官記念論文集(第279・280号)       表4 今後の滑走路延長計画(試算) 三大プロジェクト関係 19.45km    成田空港増設5.7,羽田空港増設2.85, 関西空港新設10.9 第五次回整継続事業  14.8km   新千歳3,青森1.1,新広島2.5,松山 0.5,新石垣2.5,庄内2,福島2,鳥 取0.2,美保0.5,出雲0.5 第五次空整新規事業  32.5km    函館3,名古屋3,釧路2.5,仙台2.5, 新潟2.5,新岡山2.5,新北九州2.5,松 本2,福井2,皇紀白浜2,石見2, 佐賀2,新種子島2,久米島2 総延長増加合計    66.75km (出所)文献[9]より作成  これを見ると,既に計画中のものだけでも2000年までの整備許容計画量を15 km程度超えており,これは2500m級の地方空港の6コ分に相当する。すなわち, 地方空港は必ずしも不足しているとは言えないのである。  次に,航空需要の動向を検討しよう。国内旅客輸送は1975年から1989年まで の15年間で1.67倍(輸送三二でみて)に伸びているが,この間航空は2.4倍に伸 びている。しかし航空のシェアはO.05%から0.08%とわずかの増加に留まって  4) いる。また,航空需要はばらつきが大きく(所得弾力性が大きく),全輸送手段 に占める航空の比重は近年わずかに増加傾向にあるとはいえ,利用者はなお一 部のものに限られているのが実状である。輸送キロでみた場合には航空のシェ アは幾分増加するが,それでもこの15年間で2.69%から3.72%と4%足らずの シェアである。従って旅客輸送手段としての航空の公共性は自動車,民鉄, JR,バス,旅客船と比較すると相対的に低いものであることが指摘される。  さらに,国内貨物に占める航空の比重(輸送トンでみて)はさらに低く0.01 %(輸送トンキロでは0.15%;1989年)である。  航空需要の将来見通しはどうであろうか。運輸省は航空輸送の将来展望とし 4)新幹線の旅客輸送量はこの15年間でL5倍で,そのシェアはO.34%から0.31%へとわずか  に低下している。

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      地域開発と水環境保全  329 図1 輸送機関別国内旅客輸送人員 単位・10億人

00000000

87654321

0  75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 EZZ]JR 愚民鉄 睡國バス 團國乗用車等 ■航空 ■■旅客船 て,「時間価値の上昇に伴う高速交通ニーズの高まり」,「国民生活における旅行 需要の強まり」により表5のような航空需要予測を挙げている。       表5 航空需要の将来展望 1989年度実績値   1995年度(予測値) 2000年度(予測値) 国内 旅客    貨物 国際 旅客    貨物 6,012万人  661千トン 2,995万人 1,518千トン   立口 引  ’4 α 0 0 8 8 立口 ︷ 4 4 1 ︵ 0 5 9   糊口 研

5

q

O O 5 4   立ロ イ 8 5 1 ︵ 0 0 4 2 10,300(1.71倍) 1,250(1.89倍) 5,700(1.90倍) 3,100(2.04倍) (出所) 運輸省航空審議会:「第六次空港整備5ケ年計画の基本的考え方について(中間とり   まとめ)」(1990.8.24)  国内旅客数は1989年度から2000年度にかけて約1.7倍と着実な増加が見込ま れている。ただし,この航空需要予測は,表6に見るように過去において予測 精度が必ずしも良好ではなかったことは注目される。  次に,運輸部門とエネルギー消費や環境との関わりについてみると,OECD

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330  岡部昭二教授退官記念論文集(第279・280号)        表6 航空需要の予測と実績 国内旅客(万人) 国際旅客(万人) 年度 予 測 出 所 予測    実績 予測    実績 1980 4,200  4,000 1,500   1,215 第三空整(’76.10) 1985 6,700   4,400 2,550   1,758 第四空事C80.8) 1990 11,000  (6,013) 3,700∼4,200(2,995) 第四空整(’80.8) ユ995 8,800    一 4,500    一 第六平骨上聞(’90.8) 2000 10,300    一 5,700    一 第六空心中間C90.8) (注) ()内の数値は1989年度の実績値 (出所) 「幻想の巨大開発」p.259,運輸省航空審議会「第六次空港整備5ケ年計画の基本的考  え方について(中間とりまとめ)」1990.8.24 の「環境白書」(1992年版)では,「運輸部門からの排出は,先進工業国の人為 的排出におけるかなりの部分,すなわちCOの約90%, NOXの約50%,都市部 の炭化水素類の50%,大気中への鉛の排出の少なくとも50%,そしてベンゼン の約80%を占めている」(p.243)とされる。また,日本の石油製品消費に占め        5) る運輸部門の比重は約4割,最:終エネルギー消費に占める運輸部門の比重は22 %と高く,また日本の輸送機関全体に占める航空のエネルギー消費の比重は4    6) %である。さらに日本の騒音公害は相対的に深刻であるといえ,とくに道路輸 送による騒音で「65dB以上の騒音にさらされている人口」は3700万人にも上り,         7) 先進国中最大である。  こうした諸事実から,総体的にみて先進工業国の運輸部門からの人為的排出 は資源や環境への影響度が高いこと,また日本では運輸部門が公害発生(騒音, 大気汚染など)の重大な負荷因子の一つとなっていることが分かる。  次に,航空会社の経営状態については,航空の規制緩和政策により企業間競 争が激化していること,航空会社の採算は他産業に比して悪いとされている。 ただし,近年は平成景気の中で観光需要や生鮮食料品・尊き等の多頻度小口航 5)「運輸政策審議会答申(1991. 7)」p. 40。 6)「運輸白書(1991.1)」p.エ92。 7)表7参照。

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地域開発と水環境保全 331 表7 運輸と環境主な指標 カナダアメリカ フランス西ドイツ イタリアイ判ス 日本 北米 ?[ロ〆ハOECD OECD インフラストラクチャー 自動車道路 %変化率a 170 55 323 95 55 182 513 61 146 81 自動車保有台数 %変化率 92 66 87 104 151 68 198 68 111 94 所有率 1000人あた 閧フ台数 600 730 480 500 490 400 430 720 370 500 交通量 全道路輸送量 %変化率 75 81 92 78 99 83b 113 80 92 86 道路貨物輸送量 %変化率 107 70 69 94 179 47 79 72 105 84 鉄道貨物輸送量 %変化率 11 30 一23 一17 8 一26 一63 27 一6 21 エネルギー消費 輸送機関による全最 終エネルギー消費量 全体 NTOE 42 482 40 49 32 43 66 523 254 868 内訳.航空 % 11 15 9 10 5 15 4 15 11 13 道路 % 80 82 86 87 91 80 85 82 83 82 鉄道 % 5 2 3 3 2 2 4 3 3 3 道路輸送における fィーゼル消費 %変化率 447 191 233 112 279 86 210 203 172 191 全体における割合 % 18 17 42 34 52 28 42 17 40 26 道路輸送における騒音 65dB以上の騒音に ウらされている人口 100万 2 17 9 8 10 6 37 19 63 120 大気汚染 全排出量に占める 運輸部門の割合 NOx % 61 41 76 65 52 49 44 43 60 49 CO % 66 67 71 74 91 86 67 78 71 HC % 37 33 60 53 87 32 33 50 39 SOx % 3 4 10 6 4 2 18 4 4 4 注:a)1970∼1988年の変化率     その他の統計は1988年の値又は最新のデータ使用   b)イングランドとウェールズのみ 出典OECD環境白書(’92.2.7)p.254 表8 各排出量に占める運輸部門の割合(日本)

NOX

440/o

CO2

21.6% 駆眺

S−

(出所) 「OECD環境白書」, p.254。 CO2は「図でみる運輸白書(1992年版)」 空輸送が増大しており,        8)経営指標は好転している。 8)「運:輸白書(1991.1)」p.325。

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332  岡部昭二教授退官記念論文集(第279・280.号) [5] びわこ空港の問題点一航空需要との関わりで一  問題点の第一は,果して航空会社の採算に合うほどの航空需要が見込めるか どうかという点である。滋賀県は東に名古屋空港(第二種),西に大阪国際空港 (第一種)という国際級の空港を抱え,新幹線や国道1号線,名神高速道や北 陸自動車道が集まる交通の要衝である。東京や福岡へも新幹線で日帰りで用を 足すことが十分可能な立地である。こうした交通立地上恵まれた滋賀県におい て航空会社の採算に合致する航空需要や路線設定が可能かどうかは慎重に検討 すべき問題である。県はびわこ空港の利用圏として,図2のように滋賀県全域 図2 びわこ空港の利用圏 ;;.、  .隔    1     …   ;・          一  .:i

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ハ      闇闇 :iK・〆ゼ (注) 太字実線は県の計画するびわこ空港利用圏(1時間,約530万人),細字  実線は滋賀県域,破線は大阪国際港と名古屋空港の50km圏域 (出所) 「びわこ空港(パンフレット)」,県企画部空港対策室より一部改作

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      地域開発と水環境保全  333 京都市域,奈良市:域,岐阜県西部,三重県北西部をあげているが,たとえ将来, 第二名神の開通により交通アクセスが改善されたとしても大阪国際空港や名古 屋空港との競合を考慮すれば,京都市域,奈良市域,岐阜県西部および滋賀県 湖西地域はびわこ空港の100%利用圏とはならないことは十分予測される。  すでに見たように第三種空港は既設と建設中を合わせて51あり,このうちジ ェット機の定期便の就航する空港は16である。これらはいずれも首都圏に有効 なアクセス手段を持たない地域である。例えば地方空港の優等生とされる新岡 山空港は1989年の国内年間旅客数は39.1万人で,東京便(1日3便)が73.8%, 沖縄便(1日1便)17.7%,鹿児島便(1日1便,ただしプロペラ機)8.5%と 東京便が圧倒的である。従って地方空港の存立にとって東京便が設置可能か否 かは,ビジネス空港としての資格,航空会社の路線設定に関わる極めて重大な     9) 問題である。  ところで,将来,びわこ空港に東京便が設置可能かどうかは新幹線との競合 問題が強く影響すると予想される。新幹線と航空路線の競合の事例は多く,経       10) 験的にみておよそ3時間以内ならば航空路線の設定は困難とされている。こう した基準から判断すると,東京便はたとえ東京の離発着能力が改善されたとし ても路線設定の可能性は低いものと予測される。 表9 2000年における近畿圏の国内航空需要予測 年間利用客数(万人) 対89年伸び率(倍) 離発着回数(万回/年) 運輸省 3252 2.10 21 滋賀県 3300 2.13 21 近藤 2432 1.57 15.8 (出所) 「大阪国際空港のあり方に関する調査報告書」など 9)読売新聞(1989.1.13)。 10)航空と新幹線の競合の事例(読売新聞(1989.1.13)より)。上越新幹線の開通により東  京一新潟間の路線が廃止,山陽新幹線の開通により福岡一広島,広島一大阪,大阪一宇部  の各路線が廃止,東北新幹線の開通により東京一花巻の路線が廃止となった。また新幹線  と航空との国内旅客輸送量を比較してみると,航空が新幹線を上回るスピードでその国内  旅客輸送量を伸ばしているとは言えない。

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334  岡部昭二教授退官記念論文集(第279・280号)  次に,2000年の国内航空需要に対し近畿の空港施設能力は不足するかどうか を検討してみよう。1976∼89年度の実績値(自然対数に変換)を時間を説明変 数として,単純回帰で2000年まで延長すれば,近畿圏における国内航空需要は 2432万人,1989年度実績値の1.57倍となる。参考までに運輸省や滋賀県の2000 年における近畿圏の国内旅客需要の予測と比較すれば表9のとおりである。  2000年における近畿の空港の離発着能力は,存続の決まった大阪国際空港と 関西国際空港をあわせると,12.9(’89年度実績値)+16=28.9(万回)とな る。このうち国際線用を4万回(’89年度実績の2倍)とみると,国内線用の設 備能力は24.9万回となる。さらに関西国際空港の全体計画が完了すればさらに 10万回が増強され,合計34.9万回にもなる。さらに,既存の南紀白浜,入尾, 但馬や建設予定の神戸,播磨などを考慮すれば,近畿の空港設備能力は十分に        11) 存在するのである。  次に,筆者の推計によれば2000年度のびわこ空港の旅客予想は次のようであ 12) る。 表10 びわこ空港3路線旅客予想 総旅客数(万人) 札幌      福岡      沖縄 県推計 ゚藤推計   62 R5.3∼36.5   27       25       10 P2.7∼13,1      12.4∼12.8      10.2∼10.6  一般に「1路線に年間約10万人の利用が確実ならば1日にジェット2便を就      13) 航させられる」とされていることから,びわこ空港の場合,札幌2∼3便,福

岡2∼3便,沖縄2便,計6∼8便が1日あたり就航可能とみられる。この場

合のびわこ空港の収支は次のように0.47∼1.69億円程度の赤字になると推測さ 11)「大阪国際空港のあり方に関する調査報告書」(文献[3])によれば,「2000年の潜在需要  に対しても空港施設能力面での不足はなく,現有施設の活用で十分対応可能」(p.13)との  結論が明記されている。 12)詳細は補血参照。 13)JAS相談役藤井 勉氏,産経新聞(1989.1.13)より。

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       地域開発と水環境保全  335 表11 びわこ空港の収支予測 入用 収費 1.31∼1.75億円 2.22∼3 億円 3∼4着陸/日×12万円×365日 空港維持費,夜間照明料,人件費など (注)費用の根拠は「滋賀の空港整備に向けて一QあんどA一」(空港対策室,1989.4)と,  新岡山空港の1989年の年間維持費実績を参考にした。 れる。  次に,びわこ空港ができると,どの程度便利になるかを検討しよう。これを 考えるため,時間メリットを計算すると,表12のようになる。既存の最速の代 替的交通機関を利用する場合と比較してわずか26分∼36分しか速くならないこ とがわかる。特筆されるのは,東京便のみでなく,福岡便も新幹線との競合の 可能性があるという点である。 表12 びわこ空港の時間メリット 行き先

利用交通機関

合計 時間メリット 東京 札幌 福岡 沖縄 在来線 a 大津一京都一伊丹一一一羽田一東京

   11 55 1100 15

b’大津一びわこ空港…羽田一東京

   35 55 15

c 大津一京都一東京

   11 2:40

a:大津一京都一伊丹…千歳一札幌

   11 55 II45 39

b:大津,r勘こ空港1i互。千歳、「札幌 。:大津:一京都一東京一札幌

   11 2:40 10 50

a:大津一京都一伊丹…福岡

   11 55 IIOO

b:大津一びわこ空港一一一福岡

   35 1:05

c’

蜥テ一京都一福岡

   11 3:07

a 大津一京都一伊丹…沖縄

   11 55 2’10

b:大津一びわこ空港…沖縄

   35 2,15

    航空……  車一  新幹線 2121 1:45 2151 3130 2:54 13141 2106 1140 3118 3116 2150  一36

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(14)

336  岡部昭二教授退官記念論文集(第279・280号)  以上をまとめると,航空需要という点からみても,滋賀県および近畿圏にお ける交通手段の整備・充実という点からみても,空港の財政収支という点から みても,輸送時間の効率化という点からみても,また福岡路線における新幹線 との競合の可能性という点からみても,びわこ空港の建設は克服すべき多くの 問題点を抱えていると言わざるをえない。 [6] びわこ空港の問題点一地域開発との関わりで一  第二の問題点はびわこ空港が地域経済に対してどのような影響をもつかとい う点である。県の計画によれば,21世紀は「空の時代」であり,空港は産業社 会の「三種の神器」であり,「臨空新都市の形成」,「臨空工業団地」,「琵琶湖リ ゾートネックレス構想」,「関西文化学術研究都市」など近畿のビッグ・プロジ ェクトを支える交通基盤として必要としている。  近畿圏には東の筑波と並ぶ国家的プロジェクトとして「関西文化学術研究都 市構想」があり,ここは大阪国際空港から約30km,びわこ空港から約76kmの立 地である。こうした立地条件の中で,すでに見たように将来とも東京便設置が 困難とみられる地方空港に先端企業が進出するかどうかは疑問である。また滋 賀県はテクノポリス計画やいわゆる「頭脳立地法」の指定地域にはなっていな い。先端技術開発は日本経済にとって重要なテーマであるが,東京便を欠いた びわこ空港の周辺にこうした先端技術企業が立地する可能性は低いと見られる。  従って,びわこ空港は琵琶湖リゾートネックレス構想や国際観光地域として の様々な開発と連動した「観光空港」,「リゾート空港」となる可能性が高い。  ところで,最近のリゾートビジネスの成功の可能性に関しては既に様々な問 題点が露呈しつつある。その理由としては,競合地域が多いこと,地域の個性 が生かしきれずどこでも同じ様な画一的な内容になっていること,国民の余暇 時間や余暇意識などの成熟が見られないことがあげられる。とくにバブル経済 の崩壊の影響によってここ滋賀県でも進出を予定していた外来資本が進出を撤 退したり,見合わせたりする事例が散見される。さらに,リゾートビジネスが かりに滋賀県で成功したとしても,一般に地域への雇用効果は極めてわずかで

(15)

      地域開発と水環境保全  337

      14) 15)

あることが各種の調査報告で指摘されている。別の機会に述べたように,滋賀 県はこの10年間でみても日本経済を上回るテンポで成長をとげ,人口流入が続 く活力ある地域である。こうした地域では,リゾート開発のあり方とともに, 「地域活性化」そのものの必要性を再検討すべきではなかろうか。  次に検討すべき問題は,「観光空港」,「リゾート空港」と連動した周辺開発・ 関連開発の問題である。既に検討したように,現状では滋賀県に十分な航空需 要があるとは見られない。では,十分な航空需要のないところにどうして空港 建設の「予定事業」が認められたのであろうか。その理由はびわこ空港が今後 のリゾート開発・観光開発計画と連動することによって十分な航空需要を作り 出すことができるからと開発推進側は考えているからであろう。すなわち,滋 賀県の豊かな自然と水環境を「国際的な観光資源」と見て,ここにゴルフ場, 高層マンション,マリーナ,大レジャー施設などの開発やアクセス道路の整備 を大規模に行い,そのことによって年間62万人の航空需要の創出・確保が可能 であると考えているからと推察される。実際,図3に示したように,滋賀県内 にはゴルフ場をはじめとして多くのレジャー関連の開発計画が現在進行中であ る。こうした計画の具体例が京都・滋賀・奈良を国際観光の拠点として整備し ようという早耳奈文化圏構想(通称“エコクリエ”計画)であり,また130件・ 15兆円のビッグ・プvジェクトがひしめく“大阪湾ベイエリア開発構想”(近畿        16) 全域では800件・35兆円とされる)であろう。また滋賀県におけるリゾート開発 ・レジャー開発の頂点にたつのが竜王に計画され,ディズニーランドを上回る 規模といわれている大レジャーランド計画である。滋賀県はこの野洲・竜王地 14)一例をあげると,環瀬戸内海振興計画研究会(連絡先 日本開発銀行広島支店)の「瀬  戸内リゾート開発と地域振興」(1991.3)がある。 15)文献[14]。 16)各紙の新聞報道によれば,1991年7月26日,国土審議会近畿圏整備特別委貝会(宇野 収  委員長)は,1991年度から1995年度までの近畿圏整備計画(概算事業規模約22兆円)を承  慣し,同日,内閣総理大臣に答申を行った。この計画には関西国際空港一大阪湾ベイエリ  ア開発一学目口一一びわこ空港一第二名神などのビッグ・プロジェクトを網羅した開発計  画が盛り込まれている。同計画は1988年の近畿圏基本整備計画,通称“スバルプラン”が  ベースとされる。

(16)

338 岡部昭二教授退官記念論文集(第279・280号) 図3 滋賀県下の開発状況(1992.7) [凡例] ▲主な山,∼主な川, ヨン帯 置1自然公園(除く一中) ・ゴルフ場概設34カ所) Oゴルフ場(進行中12カ所,うち増設5ヵ所) ○ゴルフ場(計画中25カ所,うち増設7カ所} ○多目的保安林総合整備事業‘進行中}カ所,既設4ヵ所〉 ロダム計画(計画または進行中8カ所) 凹各種事業または施設(既設) □各種事業または施設(計画または進行中) 一湖岸堤管理道路〔なぎさ公園事業または河川改修事業) ⑫リゾートネノクレス構想重点整備地区(7カ所) ⑭自然公園規制緩和地域        ・・聯弾 79 B8

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(17)

地域開発と水環境保全 339 ゴルフ場 [1]京阪ロイヤルGC [35]コムウソドGC 18ホール造成中 〔2]大津CC [36コ紫香楽ハイランド 18ホール造成中 [3]信楽CC杉山 [37]京阪ロイヤルGC 9ホール増設造成中 [4]信楽CC田代 [38]タラ才CC ,ホール増設造成中 [5]滋賀CC [39]朝宮GC 18ホール手続き中 [6]紫香楽国際CC [40]田代GC 18ホール手続き中 [7]ビノグワンCC信楽 [41]大津CC 18ホール増設手続き中 [8]タラオCC [42]富士スタゾアムGC 36ホール手続き中 [9]瀬田GC [43]湖南CC Pホール手続き中 [10]皇子山CC [44]近江CC 2ホール増設手続き中 [正1]琵琶湖大橋GC [45]ビ/グワンCC信楽 ,ホール増設手続き中 [12]比良GC [46]二/トウ土山 ,ホール手続き中 [13]朽木GC [47]甲西.三豊地区 9ホール増設計画中 [14]ンヤパンエースGC [48]信楽,神山地区 18ホール計画中 [15]琵琶湖CC [49]石部.石部地区 18ホール計画中 [16]近江CC [50]志賀、栗原・北浜地区 18ホール計画中 [17]竜王GC [51]大津,仰木地区 18ホール計画中 [18]オレンジシがCC [52]大津,大石小田原地区 27ホール計画中 [19]甲賀CC [53]大津,瀬田大江地区 8ホール増設計画中 [20]滋賀GC [54コ湖北隔びわ地区 18ホール計画中 [21ユ甲南CC [55コ朽木,宮前坊地区 9ホール増設計画中 [22]センチュリーシがGC [56コ甲南,池田・野川地区 9ホール増設計画中 [23]名神栗束CC土山 [57]水口,春日地区 18ホール計画中 [24]大甲賀CC神 [58]水口,伴中山地区 10ホール計画中 [25]大甲賀CC油日 [59]水口,松尾地区 18ホール計画中 [26]名神竜ヨニCC [60]栗東,六地蔵地区 9ホール増設計画中 [27]朝日野CC [61]日野,・」・野・川原地区 27ホール計画中 [28コ名神八日市CC [62コ日野,西大路・鎌掛地区 9ホール増設計画中 [29コ蒲生GC [63]高島,皇土地区 18ホール計画中 [30]日野GC [64]西浅井,集福寺地区 18ホール計画中 [31]近江富士CC [65]西浅井.山門地区 18ホール計画中 [32]彦根CC [66]近圧入幡,津田地区 18ホール’計画中 [33]協和GC (滋賀県側) [67]竜王,薬帥地区 18ホール計画中 [34]イースタンリゾート滋賀 [68]水源寺,池之脇地区 18ホール計画中 [69]新旭、饗庭地区 18ホール計画中 既設 34カ所,造成中 4カ所, 阮セき中 8カ所,計画中 25カ所 ン計59カ所 7900ha [70]土山,鮎河・黒川地区 18ホール計画中 [71]土山,山女原地区 9ホール増設計画中 多目的保安林総合整備事業 リゾート関連開発 [72]志賀・暮雪山 [87]湖のテラス [73]信楽・愛宕由 [88]箱館山家族旅行村 [74]多賀・藤瀬 [89]鳥丸半島リゾート開発 [75]近江・日撫山 [90]竜王の大レジャーランド計画 [76]マキノ・牧野 [91]マイアミ浜のリゾート開発 総計 68ha [92]大規模自転車道計画(特に蓬莱一志二区間) ダム礁業 [93]守山リゾートマンション [77〕栗栖ダム [94]葛篭尾崎の遊歩道計画 [78]丹生ダム [95]瀬田南部大リゾート施設計画 [79]第一北川ダム その他の事業・開発等 [80]第二北川ダム [96]余呉高原スキー場 [81]姉川ダム [97]揚水発電計画 [82]大戸川ダム [98]比良スキー場拡張計画 [83]蔵王ダム [99]世界一の大観覧車 [84]水源寺上ニダム [100]人工島のパークゴルフ場 総貯水量22,869万t [101]多賀町分校の統廃合汁画 大規模公共事業 [102」鈴鹿林道建設 [85]びわこ空港 [103コ西の湖・蛇砂川の河Ill改修工事計画 [104]大見の残土投棄計画 [105]大原・比叡山ロープウェー計画 [106]湖岸堤管理用道路 [107]安曇川の農薬空中散布 種別 第三種 地方空港 p地造成面積 約180ha 幕ニ費 280億円 y工量 約980立.方メートル N間発着回数 7300回 ¥想年間旅客需要 62万人 D幌,福岡,沖縄の3路線 J港予定 2000年 [108]布施溜池整備事業 [109]大津なぎさ公園事業 [110]乙女ケ池水景整備事業計画 [111]安土城跡の史跡公園言十画 [86]第二名神高速道路 [112]三島池の公園整備事業 [113]大津の高層マンンヨン計画 [114]草津の高層マンンヨン計画 県内延長 約51キロメートル,6車線 ン計速度 120km/hr P日計画交通量 58−68万台 A絡路延長 約3km,4車線 [115]志賀のリゾートマンンヨン計画 [116]大津の高層ホテル

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340  岡部昭二教授退官記念論文集(第279・280号) 域をリゾート開発の重点整備地区の一つに定め,また県立公園の第3種特別地        17) 域から普通地:域への区域変更を行った。  こうした一連のレジャー開発は,そのための交通アクセス開発の誘引となり, 地方自治体の財政負担問題や次にみるように琵琶湖の水環境保全にとって看過 できない影響を与えるものと予想される。 [7] びわこ空港の問題点一町琶湖水環境との関わりで一  滋賀県は近畿1400万人の飲料水源地=琵琶湖を預かる地:域である。それは現 在及び将来にわたって清浄に保全される必要がある。琵琶湖の水質は約30年前 にはそのまま飲料水としての価値があったこと,セタシジミやアユ,モロコ, ニゴロブナなど豊かな水産資源があったこと,ヨシ帯をはじめとするのどかな 自然湖岸が広がり日本の水環境の一典型としての原風景が残っていたこと,と 対比すれば現在の落差は明かに危機的である。  こうした琵琶湖水環境の危機は,ほぼ30年ほどの間に段階的に積み上げられ        18) てきたものである。50∼60年代には食糧増産を名目とした内湖の埋め立て,60 年代には京阪神間の企業誘致を中心とした急速な内陸工業化の進展,70年代に は高度成長に見合う巨大都市圏の水需要増大に対処するためとして総額1.8兆 円もの「琵琶総」(将来,最大毎秒40トンの水出し増)が計画・実施された。こ こでは膨張する巨大都市をそのままに是認し,その前提にたっての水資源開発 が肯定された。しかし,石油ショックによる低成長時代への突入と企業におけ る水の循環利用の促進による工業用水需要の低下などにより水余りは明白とな った。従って,1982年の延長時には大都市の巨大化と水需要の増大を抜本的に 見直し,「国土の均衡ある発展」を考えるべき時であったが,この検討はなされ なかった。  公共事業は湖沼,湖岸,河川,山林など環境保全,水質保全機能に重大な関 わりをもつ地:域に対し行われることが多い。ところが現在の開発優先行政,縦 17)図3を参照。 18)1944∼71年までの内湖の埋め立て面積の累計は2521.3haに上る。

(19)

      地域開発と水環境保全  341 割行政,中央直結行政のもとでは環境優位の立場からの公用事業へのチェック が必ずしも十分に機能しない事例が散見される。このため,公共事業そのもの が環境破壊や埋蔵文化財破壊の重要な一因となる場合もあったと言わねばなら ない。  今回のリゾート開発と大規模開発はこうした琵琶湖開発の歴史的前提と環境 破壊の蓄積の上に加えられる大規模な開発行為であり,今後の一層の水質の悪 化が十分懸念される。       19)  その一例として,ゴルフ場開発を挙げておく。滋賀県の既存のゴルフ場は92 年4月現在,34カ所,3,933.5ha(琵琶湖を除く解明面積の1.0%)であったが, 同年3月時点での「国土利用計画に位置づけられたもの」を加えると,全県で 59カ所,約8,000ha(琵琶湖を除く県土面積の2.1%)にも上る。これらのゴル フ場で撒かれる農薬は約220トン(1990年度実績は110トン)と予想され,下水 道整備の遅れや非特定汚染源からの琵琶湖への汚濁物の直接流入等を考えると き,憂慮すべき事態となることが十分に予想される。もちろん計画されたゴル フ場のすべてが実行される訳ではないが,リゾート開発やその関連開発の進 展状況如何によっては重大な事態となることもありえると見なければならな い。 [8] びわこ空港の問題点 地球環境問題との関わりで一  人類をはじめとするあらゆる生命の源である地球環境の危機が明確に認識さ れるようになってきたのはほぼ80年代以降のことである。地球温暖化や酸性雨, オゾンホール,湖沼や閉鎖性海域の汚染などはもはや地球環境の容量を越えて おり,このままではわずか数十年後には化石燃料を中心としたエネルギー資源 の枯渇とともに,発展途上国や将来世代の生存権を脅かすことが確実に予測さ れている。        20)  その主因は先進工業国の急激な工業化と都市化にあると言える。そして,工 19)ゴルフ場の位置等については図3参照。 20)今日,先進工業国は人口23%,鉄消費量は79%,エネルギーは80%,紙85%,非鉄金属  86%を消費し,二酸化炭素やフロンガスの排出の大部分を占めている。(地球サミットへの  CASA資料)

(20)

342  岡部昭二教授退官記念論文集(第279・280号) 業化や都市化は交通手段,とくに高速道路や高速鉄道などの高速輸送手段の整 備・発達を不可避とし,それらのあり方と密接に関連している。  工業化および都市化は資源やエネルギーの循環利用という面から見ると,非 自立的な開いた系(生産・消費システム)である。このため,工業(および都 市)は大規模化すればするほど資源やエネルギーを外部から不断に大量にかつ 遅滞なく投入することが必要となり,そのための高速輸送手段が必要となる。 特に高速輸送手段は,風力,水力,牛馬などの伝統的なエネルギーに代わって, 産業革命以降,石炭や石油・天然ガスといった化石燃料の利用を大量に必要と したために,イオウ酸化物,窒素酸化物,炭酸ガス,浮遊ふんじんなどの排気 物・汚染物質を大気中や河川,地中,海洋に放出・蓄積してきた。  また,都市化や交通手段の整備を目的として,森林破壊,湿地帯や湖沼・沿 岸域の埋め立てが進行した。これらの人為的行為は自然浄化機能や生態系の破 壊を生じさせ,汚染を一層加速させてきた。  この10年間,日本経済はほぼ4%で成長したが,他方エネルギー消費量も約 3%,廃棄物(一般廃棄物と産業廃棄物の合計)も約3%の年率で増大した。 通産省のシナリオによれば2000年までGNP成長率は4%,2010年までは3% とし,省印ネ対策等によりエネルギー消費の増大を1.6%に抑え,石油に代わっ て原子力を現在の3倍,天然ガスを2倍に増やせば炭酸ガスが現状(1988年)       21) の16%増に納まると見ている。  しかし,省エネ対策が一巡した今日,明らかにこの予測は楽観的にすぎ,エ ネルギー供給の面からも地球環境容量の面からも,また成長機会の公平化の立 場からも,日本は今以上のエネルギーの効率的利用に努めると共に,3∼4% の成長計画をもっとスローダウンさせるべきであろう。  こうした観点にたてば,地球環境の悪化と化石燃料の枯渇に重大な影響を与 える高速交通手段の整備,従ってびわこ空港や第二名神高速道路の建設は,「需 要の充足」や「需要創出」を名目とした従来型の開発の延長線上にではなく, 地球環境と持続可能な,より高い,より長期の観点から,高速交通需要の内実 21)文献[15]参照。

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       地域開発と水環境保全  343 を見直し,総合的な交通体系の再編と関連させながら,抜本的に再検討される 必要があろう。        [9] まとめにかえて一高速文明の転換を/一  日本の高速文明は新幹線と高速道路網を手に入れる事によって成立した。そ れは遅くとも70年代末には成立したと考えられる。そして,今回の「四全総」 計画は14,000kmの高速道路網と新幹線・航空ネットワークの一層の整備により, 日本社会を新たな高速文明の段階に押し上げて行こうとしているように思われ る。しかしながら,僅かの利便性を手に入れる代償として,膨大な社会的費用, 自然破壊が蓄積されてきたことを看過すべきではない。騒音公害,大気汚染, 酸性雨,地球温暖化,自然破壊,交通事故,駐車場確保困難と路上駐車問題 交通渋滞,通勤時間の長;期化,輸送業界における過密労働,都市化のいっそう の進行と過疎化の進行,地元産業の圧迫,農業の衰退,景観破壊,埋蔵文化財 の破壊,石油資源の枯渇などなど。高速化と都市化をその内実とする利便性の 追求は累積的傾向をもち,どこかで反転させなければならない。        図4 高速化と都市化の悪循環 交通インフラの充実一一一一→輸送手段の増大

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混雑現象の発生←一一一一一利便性の向上 →騒音,健康被害,自然破壊  地球環境汚染,資源枯渇 →都市化の進展,過密と過疎  地球環境問題や化石燃料を中心としたエネルギー資源の枯渇が明かとなり, 従来型の「成長の限界」が様々に指摘されている。地球サミットが開催された 今こそこうした高速文明の転換をじっくりとみすえる好機ではないだろうか。        (1992.10.23)

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344  岡部昭二教授退官記念論文集(第279・280号) 補論 びわこ空港の2000年度における国内旅客需要の推計 1.国内航空旅客需要関数の推計  次の推計式により,標記の関数を推計した。R2は自由度修正済み決定係数SEは標 準誤差,DWはダービン・ワトソン比,()内はt一値である。        表13国内航空旅客需要関数の推計 標本期間(1976−89) a b c d R2

SE

DW

一12.9310 O.3716 1.7438 一〇.0579 O.930 O.05 1.54        (1.201) (2.727) (一1.160) 推計式 ln(y>=a+bln(x1)+cln(x2)+d(pO/p)  y :国内航空旅客需要(千人)  x1:実質GNP(暦年,昭和60年基準,10億円)  x2:国内旅客輸送量(百万人)  pO:ジェット燃料油価格指数(暦年,昭和60年基準)  p :輸入原油価格指数(暦年,昭和60年基準) (データ出所)運輸省編:運輸経済統計要覧(平成3年版),1991.10.20 2.2000年度の国内航空旅客需要 (想定) (1)1989年度を基準とし,今後,実質GNPは3%または4%で成長すると想定す る。なお,1989年度の実質GNP(昭和60年価格)は388200(10億円)であった。  3%の場合には,x1(2000)=約537兆円, lnx1(2000)=13.194423  4%の場合には,x1(2000)=約598兆円, lnx1(2000)=13.300704 となった。 (2)2000年度の国内旅客(x2(2000))とエネルギー相対価格(pO/p)(2000)は,時 間を説明変数とする単純回帰によりパラメータを推定し,時間を2000年度まで延長し て求めた。この結果,   ln(x2(2000))=11。212745 (推計式ln(x2)=10.879554+0.019039×T)   (pO/p)(2000):= 2.859543 (推計式(pO/p)=1.215106+0.093968×T) となった。  1で求めた表13の推計式に上記の予測値を代入し,ln(y(2000))を求めると次のよ

(23)

      地域開発と水環境保全  345 うになった。  3%のケース 1n(y(2000))=11.358987, y(2000)=8573万人  4%のケース ln(y(2000))=11.398473, y(2000)=8919万人 よって,2000年度の国内旅客需要は,1989年度の国内航空旅客数6012万人と比較する と,1.43∼1.48倍となる。 3。2000年度における近畿圏の国内3路線(福岡,札幌,那覇)旅客数の予測 (想定)1989年度の大阪と国内3路線(福岡,札幌,那覇)の航空旅客数の実績値に 2で求めた倍率(L43∼1.48倍)を乗じた値を,2000年における近畿圏の国内3路線 (福岡,札幌,那覇)の航空旅客数と見なす。従って,東京一極集中はないものと想 定している。       表14 近畿圏の国内3路線の旅客実績 (千人) 1980      87      88      89 計 路線シェア(%) 大阪一福岡  1297  1274 1277 1382 蜊繹齊D幌  982  1388  1444  1576 蜊繹齠゚覇  853  1127  1118  1246 5230 T390 S344 35.0 R6.0 Q9.0 計    3132  3789  3839 4204 14964 100.0 (出所)文献[9]p.37より作成  その結果,601∼622万人となった。 4.びわこ空港のシェア推計  近畿圏の2000年時にはびわこと大阪国際,関西国際,南紀白浜,八尾,但馬(コミ ュータ空港),神戸,播磨の8空港が最大利用可能と見られるが,現在の大阪国際空港 国内便の3路線旅客は将来は大阪国際と関西国際とびわこの3空港にのみ配分され るものと想定する。すると,びわこと大阪の2空港間で3で求めた3路線人員(601∼ 622万人)の競合が生じる。そこで,びわこ空港のシェアを推計しなくてはならない が,そのシェアは,①代品人口,②国内便の1日あたりの着陸回数の平方根の積に依 存すると想定する。  びわこ空港の45キロ圏人口は,「びわこ空港関連産業立地可能性調査報告書」(1991.

(24)

346  岡部昭二教授退官記念論文集(第279・280号) 5.2)によれば,約470万人(京都乙訓地区約150万人,滋賀県約125万人など)であ る。これにアクセス性を考慮して,鉄道および自動車による1時間圏を重ね合わせる と,空港利用可能人口はほぼ5割程度に減少すると見られるが(中日新聞’88.9.27に よれば208万人),将来の第二名神の開通や,空港への高速アクセス道路の設置などに より,470万人はびわこ空港圏と仮定しよう。次に,大阪国際空港,関西国際空港の45 キロ圏人口はデータが得られなかったが,1990年の「読売年鑑別冊データファイル」 (p.41)によれば,大阪50キロ圏人口(1989,3現在)は1583.7万人であった。次に, 1989年の大阪国際空港国内線の1日あたり着陸回数は149回,同じく第三種空港44港 の平均1日あたり着陸回数は6.59であった。(文献[9]p. 102−107)(県の基本計画で は2000年の1日あたりの着陸回数は10回である。)        表15びわこ空港と大阪2空港の国内便3路線シェア びわこ 大阪2 圏域人口(万人) 470 (1991年> 1583.7(1989年〉 着陸回数  6.59 149 シェア指数

 1206

 19331 シェア 5.870/0 94.130/o (注) シェア指数=圏域人口(万人〉×着陸回数の平方根 5.びわこ空港3路線旅客需要の予測  以上の手順によると,びわこ空港の2000年度の国内3路線旅客数は表16のとおり 35.3∼36.5万人となった。(各路線の割り振りは表14の路線シェア実績に準じた) 表16 びわこ空港3路線旅客予想の比較 県推計 ゚藤推計 総旅客数(万人) @  62 @35.3∼36.5  札幌      福岡      沖縄 @ 27       25       10 P2.7∼13.1     12.4∼12.8     10.2∼10.6  この予測値の根拠になった倍率(1。43∼1.48倍)については,運輸省の国内旅客需 要予測の倍率1.71倍(表5)より控え目であるが,筆者の2000年における近畿圏の国 内旅客需要予測の倍率1.57倍(表9)とほぼ整合的である。また,①1989年の実質GNP は平成景気の真只中にあり,トレンド線より上方に乖離していた可能性がある,②び わこ空港の声域人口は過大評価を含んでいること,③東京一極集中はないという仮定

(25)

       地域開発と水環境保全  347 の妥当性,④福岡路線における新幹線との競合の可能性,⑤石油資源の枯渇による燃 料価格の高騰などの諸点を考慮すると,概ね妥当なものと判断される。        参 考 文 献 [1] 滋賀県:びわこ空港(仮称)基本計画〈案〉について,1990.8 [2] 運輸省航空審議会空港・航空保安施設整備部会:第六次空港整備五箇年計画の基本的   考え方について,1990。8 [3]運輸省航空局,三菱総合研究所編:大阪国際空港のあり方に関する調査報告書,1989 [4]滋賀県企画部企画調整課空港対策室:滋賀の空港整備にむけて一QあんどA一,1989.   4 [5] [6] [7] [8] [9] [10] [11] [12] [13] [14] [15] [16] [17] [18] [19]   社, [20]   の対応について,財団法人運輸経済研究センター,1991.7 [21] 空港問題合同研究会編:関西新空港一幻想の巨大開発,汐文社,1981.7 [22]奥野正寛,篠原総一,金本良嗣編:交通政策の経済学,日本経済新聞社,1989.9  滋賀県:空港一基礎編一,1989.3  滋賀県(空港調査会):びわこ空港関連産業立地可能性調査報告書(要約版),1991.5  滋賀県(企画部空港対策室):BIWAKO AIRPORT  びわこ空港建:設促進期成同盟会:空の時代のニーズに応えるびわこ空港  運輸省航空局監修:数字でみる航空 1991,1991.3  通商産業省公害保安局監修:公害防止の技術と法規(騒音編),産業公害防止協会,1972  加藤一郎編:公害法のしくみ,有斐閣,1971  川口 満:航空(日経産業シリーズ),日本経済新聞社,1988.3  船橋晴俊,長谷川公一,畠中宗一,勝田晴美著:新幹線公害一高速文明の社会問題一, 有斐閣,1985  滋賀自治体問題研究所編:びわこ空港一住民にとって何が問題か一,1992.3  日本科学者会議編:地球サミットへの提言一JSAレポートー,青木書店,1992.5  山村恒年著:自然保護の法と戦略,有斐閣,1989.7  びわ湖自然環境ネットワーク編:且且の自然と環境破壊の現場から[第2号],1992.1  運輸省編:平成2年目運輸自書,1991.1  0ECD環境委員会編(環境庁地球環境部監訳):OECD環境白書,中央法規出版株式会   1992. 2  運輸省編:運輸政策審議会答申一21世紀に向けての90年代の交通政策の基本的課題へ

参照

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