市民参加条例と和光市市民参加条例について
著者名(日)
小林 博志
雑誌名
東洋法学
巻
47
号
1
ページ
1-42
発行年
2003-09-30
URL
http://id.nii.ac.jp/1060/00000173/
Creative Commons : 表示 - 非営利 - 改変禁止 http://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/3.0/deed.ja︻論 説︼
市民参加条例と和光市市民参加条例について
イ・林
博
志
はじめに
東洋法学
私は、二〇〇二年の五月から埼玉県和光市の市民参加条例の制定作業に関わってきた。本稿は、二〇〇三年三 月に﹁和光市まちづくり市民会議﹂から提言された和光市市民参加条例案及び同年六月に和光市の和光市市民参 加条例庁内検討委員会︵以下﹁検討委員会﹂と略す︶で纏められた修正案の策定経過を明らかにし、そこで間題 となった事項を検討し、今後の市民参加条例や自治基本条例の制定に寄与することを目的とするものである。 条例案づくりとくに市町村のそれ︵ただし、議員提案を除く︶には、現在以下の五つの型があるように思われ る。①担当課職員が作成するまたは関係する職員が研究会をつくって作成する、②職員と学識経験者が一緒にな って作成する、③学識経験者のグループに作成を委託する、④職員と学識経験者、それに住民代表を入れた審議 会などで条例案を作成する、⑤職員、学識経験者、住民代表、それに議員を入れた審議会などで案を作成する。 いままでの条例案は、国から示されたモデル条例に従って職員がつくっていた①の類型であったが、いわゆる自1
市民参加条例と和光市市民参加条例について 主条例を中心に住民の権利に関わる情報公開条例とか個人情報保護条例などの制定には、学識経験者や住民など ︵lV の関与が増え、②から⑤の類型になり、とくに一九九九年四月に地方分権一括法が施行されたことから、住民の ︵2︶ 権利に関わる条例案は④または⑤で作成されることが多い。ところで、和光市市民参加条例については、公募市 民一五名で構成される﹁和光市まちづくり市民会議﹂︵以下﹁市民会議﹂と略す︶が条例案をつくり、私は、その 市民会議のアドバイザーとして条例の制定に関わることになった。そして、委員である市民が条例案の文面を作 成し、私や職員は市民会議に助言や意見を述べたりするという建前は、実態上もほぼ貫徹し、市民会議の策定し た条例案は市民による条例案となった。こうした市民だけの市民参加条例案の作成は、和光市が最初ではないか ︵3︶ と思われる。そのためであろうか、他の市町村では見られない﹁ですます﹂体や各種の市民提案制度が市民会議の 条例案では採用された。しかし、その後これらが検討委員会での検討、修正作業で大きな間題となった。 なお、市民会議及び検討委員会が参考にした条例及び条例案は以下のものである。①市民参加条例 箕面市市 民参加条例︵平成九年三月三一日制定、同年四月一日施行︶、小長井町まちづくり町民参加条例︵平成一二年七月 一日施行︶、幕別町まちづくり町民参加条例︵平成一二年九月二九日制定、平成二二年一月一日施行︶、猿払村村民 参加条例︵平成二二年三月二三日制定、同年四月一日施行︶、宝塚市市民参加条例︵平成一四年四月一日施行︶、石 狩市行政活動への市民参加推進に関する条例、通称市民の声を活かす条例︵平成一三年制定、平成一四年四月一 日施行︶、旭川市市民参加推進条例︵平成一四年七月四日制定︶、西東京市市民参加条例︵平成一四年一〇月一日 制定施行︶、清瀬市まちづくり基本条例︵平成一四年九月二七日制定、平成一五年四月一日施行︶、②自治基本条
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例 ニセコ町まちづくり基本条例︵平成一二年一二月二七日制定、平成二二年四月一日施行︶、生野町まちづくり 基本条例︵平成二二年三月二八日制定、平成一四年六月一日施行︶、北海道行政基本条例︵平成一四年一〇月一八 日制定施行︶、杉並区自治基本条例︵平成一五年五月一日施行︶、③個別条例 高浜市改正住民投票条例︵平成一 四年九月施行︶、横須賀市パブリックコメント条例︵平成一三年九月二〇日制定、平成一五年四月一日施行︶、④ 条例案 多摩市自治基本条例案︵平成一四年三月︶、小金井市市民参加条例案︵平成一四年一〇月二三日︶、東久 留米市基本条例︵仮称︶研究会報告書︵平成一四年七月︶、狛江市市民参加基本条例︵案︶︵平成一三年三月否決︶。 これらは、以下﹁○○市参加条例﹂﹁○○市基本条例﹂とか﹁○○市条例案﹂と略すことにする。
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︵1︶ ︵2︶ ︵3︶ 注 したがって、我々学識経験者も以前より地方自治体の実務に関与することが増えた。私も、茨城県猿島郡総和町 の情報公開条例と個人情報保護条例の制定、及び群馬県邑楽郡板倉町のそれら二つの制定に学識経験者として関わ った。これらの作業は、一つを除いて要綱で設置された情報公開懇談会で進められた。附属機関条例主義との関係 からすれば、これらは条例で設置されることが望ましいが、懇談会がコ時的・臨時的﹂機関ということで、要綱で 設置されているのである。この点については、稲葉馨﹁自治組織権と附属機関条例主義﹂︵﹃行政法の発展と変革下﹄ ︵有斐閣、二〇〇一年︶︶三五〇頁以下が詳しい。 例えば、兼子仁名誉教授は以下のように述べている。すなわち、﹁条例を詰めるのには当然法務専門の知識能力を 要するが、自治施策として条例案の骨子をどう選んで創るかについては、住民参加懇談会の方式はまさに”住民自 治体”らしさを示すであろう﹂︵兼子仁﹃自治体・住民の法律入門﹄二二四頁︶ 辻山幸宣教授は、自治基本条例づくりは公募委員のみの市民委員会方式が現在の主流であるとする︵﹁自治基本条3
市民参加条例と和光市市民参加条例について 例の設計﹂地方自治職員研修二〇〇二年三月号二〇頁︶が、実質的に市民だけで条例案づくりをした例はないように 思われる。三鷹市では、二〇〇〇年一〇月に市民会議二一が三鷹市基本構想の見直しと第三次基本計画について提 言を出したが、これは条例案ではない︵西尾隆﹁協働型市民・住民論﹂︵﹃市民・住民と自治体のパートナーシップ 一・分権社会と協働﹄︵ぎょうせい、二〇〇一︶︶八九頁︶。西東京市では、二〇〇〇年八月に公募市民二〇名による まちづくり市民会議が設置され、その中の﹁市民との協働によるまちづくり部会﹂︵一〇名︶が市民参加条例案を検 討し市長に提言した。ただこの場合には、事務局として参加した職員が市民会議に案を提案し審議に協力している。 また、多摩市自治基本条例案も、職員との協働作業によっている︵岩永ひさか﹁多摩市市民自治基本条例制定の取 り組み﹂地方自治職員研修二〇〇二年三月号一八八頁︶。石狩市条例、旭川市条例、清瀬市基本条例、東久留米市基 本条例︵仮称︶研究会報告書、小金井市市民参加条例案にも委員として学識経験者や弁護士が関わっている。 第一節 市民参加条例の意義と種類
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和光市市民参加条例案を検討する前に、検討の予備作業として市民参加条例の意義及び種類などを検討してお こう。最近何故市民参加条例が制定されるようになったのであろうか。それは、﹁まちづくりにおいて市民参加が 欠かせない﹂とか、﹁市民の自発的な活動と決定参加を保障し、市民の自治によって地域社会の活力を高めなけれ ばいけない﹂という意識が日本社会に普遍化してきたことである。とりわけ、こうした意識を首長そして議会が 捉え、市民参加制度を条例化することになるが、こうした意識は様々な面に見られ、次の三点に集約される。 第一に、まちづくりに市民参加が欠かせないことは、自治体のまちづくり条例の制定史の中で確認されてきた。 ︵−︶ ﹁まちづくり﹂という名称をもつまたは﹁まちづくり﹂という内容を持つ条例は多様であり、次の五つが区別され東洋法学
る。まちづくり条例の一つめは、一九六〇年代の宅地開発の規制を意図した﹁宅地開発指導要綱﹂が八○年代の 国の通達、違法とする最高裁判決、九三年の行政手続法により、そのままでは存続できなくなったことから、﹁宅 地開発指導要綱﹂を条例化したものである。これには、九四年の﹁真鶴町まちづくり条例﹂や﹁長岡京市まちづ くり条例﹂など多数の例がある。二つめは、文化財や景観を保護するために、七五年の文化財保護法や都市計画 法の改正を受けて制定された﹁まちづくり条例﹂である。これには、九〇年の﹁湯布院町潤いのあるまちづくり 条例﹂や﹁掛川市生涯まちづくり土地条例﹂などが属する。三つめは、一九八○年の都市計画法の改正で地区計 画制度が導入され、自治体がこれにより住民合意による地区計画を進めるために制定した﹁まちづくり条例﹂で ある。これには、八一年の﹁神戸市まちづくり条例﹂と八二年の﹁世田谷区まちづくり条例﹂が含まれる。四つ めは、一九九二年の都市計画法の改正により、自治体に都市計画の基本的方針つまりマスタープランを制定する 権限が与えられ、住民参加の視点でマスタープランをつくる条例がでてくる。前述の﹁真鶴町まちづくり条例﹂ や九八年の﹁大和市みんなのまちづくり条例﹂がその例である。五つめは、とくに最近の現象であるが、いわゆ る自治体の憲法として制定されたまちづくり基本条例である。それは、九七年の箕面市の﹁まちづくり理念条例﹂ そして、二〇〇〇年のニセコ町の﹁まちづくり基本条例﹂などである。これら五つのまちづくり条例のうちの前 の四つは、自治体におけるマンション規制、景観規制、地域計画、マスタープランという物的な空間に関わるが、 これらの規制、計画には住民の参加による規制ないし計画のいっそうの充実が盛り込まれており、これらが市政 ︵2︶ あるいは町政への市民参加という契機を持っていたことは否定できない。平成一四年に制定された﹁清瀬市まち5
市民参加条例と和光市市民参加条例について づくり基本条例﹂は﹁基本構想等への市民の参画﹂︵八条︶や﹁附属機関の委員に公募の委員を加える﹂︵一〇条︶ に見られるように、市民参加条例であるが、まちづくり基本条例という名称を持っているのは、市民参加がまち づくりの基本または第一条件であるという趣旨であろう。まちづくりという用語は多様な意味を持っているが、 ︵3︶︵4V 市民参加と結びついていることは否定できないのである。 第二に、市民がまちづくりに関わる市民参加型社会の重要性は、地方分権が進む中で地方分権推進委員会が行 った地方分権改革の目標であったことが再認識されるようになっている。例えば、辻山幸宣教授は、地方分権推 進委員会の目指した分権型社会について次のように述べている。すなわち、﹁地方分権改革はあくまでも制度の改 変なのであって、それ自体が目的というわけではない。地方分権推進委員会のすべての勧告に﹃分権型社会の創 造﹄という副題が付けられていたのは、分権改革が﹃分権型社会﹄を創り出すための条件整備であることを宣明 ︵5︶ するためであった。﹂﹁地方のことはそれぞれの地域で自己決定することができるようにし、自治体と市民そして ︵6︶ 企業とがうまく連携して個性的で多様な地域社会をつくっていくことにあるといってよい。﹂として、自治基本条 例や市民参加条例の意義を認めている。すなわち、分権改革の第二段階は、市民が自治に参加する社会を創るこ とであり、その点で市民参加条例が必要とされるのである。また、分権改革の流れの中から、自治体の憲法とし ての自治体基本条例の制定の必要性を主張するのは、松下圭一名誉教授である。松下教授は、その基本条例の必 要性を①自立した自治体の基本構造への市民合意、②地方分権による独自政策・制度の枠組法、③自立した法務、 財務の準則、④地域的個性をつくる戦略構想などの四点に纏め、そして、基本条例の制定について、総合性を持
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つ包括的な基本条例の策定を行う方法と、関連課題ごとに市民参加条例、議会運営条例、環境保全条例などの個 ︵7︶ 別条例を制定する方法の二つを区別し、どちらの方法を選択するのかは自治体の状況によるとする。すなわち、 地方分権改革の中では自治体の憲法としての自治基本条例が必要とされ、市民参加条例の制定はその自治基本条 例制定の第一歩として位置づけられるのである。 第三に、原子力発電所や産業廃棄物処理場の建設そして市町村合併などの間題という、首長や議会の二元的な 代表制度では決定できない間題が登場し、市民の政治決定すなわち市民参加が求められてきたという事実がある ということである。一九九六年の巻町の原子力発電所の建設や二〇〇〇年の徳島市の可動堰の建設の是非をめぐ る住民投票の実施は、こうした間題につき町民または市民の決断を求めるものであったが、そのことは地方政治 ︵8︶ における市民参加の重みを再認識させた。この流れは、二〇〇二年の合併協議会設置についての住民投票制度の 導入によって弾みがつき、本年の統一地方選挙では市町村合併の間題に対する住民の意思が首長や議員選挙また ︵9︶ は独自の住民投票という形で間接ないし直接に間われた。こうした住民投票を求める直接請求や住民投票の実施 という事実は、住民投票制度を市民参加制度として設置させることに発展することになる。住民投票制度だけを ︵−o︶ 設ける条例も考えられるが、九七年の箕面市市民参加条例のように住民投票制度を含めた市民参加制度の導入を 目指す市民参加条例が今日の主流になってきたのである。 市民参加あるいは市民参加条例が求められる基本的な理由は以上の三点に集約されるが、これら以外でも、市 民参加を求める理由として、まず、地方財政の逼迫が挙げられる。例えば佐藤克廣教授は次のように述べている。7
市民参加条例と和光市市民参加条例について すなわち、﹁国・地方を通じた財源の逼迫により、地方住民の積極的参加がなければ公共政策的課題を解決に向け ︵11︶ た行政の対応を不可能にしている﹂と。さらには、﹁首長が変わっても自治を後退させないために﹂条例化すると ︵1 2︶ いうニセコ町の事例も見られる。また、研究者団体が﹁政策法務﹂の理念を研究する過程で、市民参加の手続を 条例化する必要性を感じとり、その研究者団体に加わっていた職員がその所属する市町村で条例化を構想したこ ︵13︶ とも市民参加条例の制定の原因となっているようである。 以上のように、市民の地方政治への参加が常識化する中で、地方政治への市民の参加の質や内容が問題となる のは、自然の成り行きであった。これからの分権社会を﹁協働型社会﹂と位置づけ、﹁協働﹂や﹁パートナーシッ プ﹂がキーワードとして議論されているが、協働型社会を指向した市民参加という視点で、市民参加の質や内容 が問われることになる。 パートナーシップや協働で間題となるのが、市民のパートナーすなわち当事者の間題である。地方自治体は二 元的代表制で、首長と議会に分かれている。市民参加のパートナーとして第一次的に考えられるのは、首長部局 などの執行機関であり、市民と執行機関との協働すなわち﹁行政への市民参加﹂はかなり進んでいる。しかし一 方、議会との協働は、執行機関との関係とは質的に異なり、現在でも進んでいないといえよう。この点で、自治 基本条例や市民参加条例をつくるにしても、二つの類型が出てくることになる。すなわち、①市民と執行機関と の協働、パートナーシップだけを念頭においた市民参加制度と、②それに議会との協働を含めた市民参加制度で ︵14V ある。杉並区自治基本条例や多摩市自治基本条例案に見られるように、自治基本条例という場合には、議会の位
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置づけは必要であり後者の型が望ましいが、石狩市、旭川市や西東京市など多くの市民参加条例は前者の型であ る。 協働型社会を指向する市民参加として、どういう内容の協働またはパートナーシップが考えられるか、が次に 間題となってくる。パートナーシップという概念を画定することはなかなか難しい間題である。武藤博己教授は、 パートナーシップを広義と狭義に分けて、前者を﹁市民社会の存続のためにあらゆるセクターが対等な立場から B 協力しあうこと﹂後者を﹁共通の目的を達成するために、対等な立場で互いに協力しあうこと﹂と定義している。 どちらにしても、市民と行政さらには、議会を含めて対等な立場で協力しあうことと考えてよいであろう。ただ 協力の場面は多々ある。この点、野村武司助教授は、﹁行政と市民とのパートナーシップ﹂を①コミュニケーショ ンを前提とするインタラクティブな関係で、優劣あるいは差違がない協働の関係、②行政の政策形成へ市民が実 ︵16︶ 質的に関与する、③公共的な課題を市民が担うこともある、という三つの場面に分けて論じているのが参考にな る。③はNPOなどが行政の課題を執行している場面であり、市民参加では間題となりえない。また、①は情報 の共有という一般的な場面での市民と行政との関係を位置づけるものであり、これは、市民参加の前提であり、 市民参加で間題となるのは、①と②の関係である。①の関係では、市民参加条例はそのほとんどが市民と市との 情報の共有を規定している。 行政の政策形成に市民が参加するといっても、その参加の形態すなわち方法は様々であり、また、市民参加条 例が規定する市民の参加の方法がその実効性までを念頭においているかどうかによっても区別される。市民が市9
市民参加条例と和光市市民参加条例について 町村の政治に参加する方法は様々あり、制定された市民参加条例を見ると、審議会︵公募委員、会議の公開、議 事録の公開︶、パブリックコメント制度、公聴会、住民投票制度などが考えられており、最近では西東京市のよう にワークショップという新たな方法も見られる。こうした参加の方法と市民参加条例との関係から、一つの市民 参加の方法を採用した個別市民参加条例と前述の市民参加の方法をほぼすべて採用した総合的な市民参加条例の 二つが区別される。高浜市改正住民投票条例や横須賀市パブリックコメント条例は前者の例である。市民参加条 例の多くは、審議会、住民投票やパブリックコメント制度などを規定する総合的な市民参加条例であるが、これ にも、①基本原則や市民参加手続の大綱を定めた条例すなわち大綱的市民参加条例と、②多様な市民参加手続を 保障するとともに、従来ならば規則などで規定される手続的事項を条例で規定している、いわゆる手続的市民参 ︵17︶ 加条例の二つが区別される。最近では、手続的な市民参加条例が増えている。前者の例として宝塚市、猿払村や 箕面市の市民参加条例、後者の例として旭川市、石狩市や西東京市の市民参加条例が挙げられる。さらに、後者 の手続的市民参加条例の中にも、市民参加の形態の何に重点をおくかで違いが見られる。従来は、公募委員、会 議公開や住民投票の三つを並べて規定するものが多かった︵箕面市、小長井市︶が、最近は、パブリックコメン ト、審議会などを重視して、これらを詳細に規定するが、住民投票制度については市民参加の標準的な形態では ないとして別の条例で規定することを予定して、規定しなかったり︵石狩市︶、簡単に規定する市民参加条例︵旭 川、西東京市︶が増えている。 協働型社会における市民参加の場合、市民、その代表機関である首長、議会、そして、職員それぞれが、協働 10
︵18︶ 型社会を意識して変わらなければいけないことになるが、市民参加条例では、それぞれの役割の中で、市民の責 任と市︵首長、職員︶の情報の提供が重視されている。また、市民参加を補助する推進組織をつくることは必要 であり、ほとんどの市民参加条例がそれをおいている。しかし、それに職員を入れるのか、また議員を入れるの ︵19︶ かで区別が見られる。 以上のことから、市民参加条例の要素としては、①パートナーシップ︵協働︶、②情報の共有︵市の情報の提供︶、 ③市民の責任、④市民参加の方法︵審議会、パブリックコメント、住民投票など︶、⑤推進組織の五つが考えられ、 この五つの要素の組み合わせと④の市民参加の方法とその内容により様々の型の市民参加条例がつくられている といえよう。
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︵1︶ ︵2︶ 注 本文では、まちづくり条例を五つの類型にまとめた。しかし、これら以外にも一九九八年に大規模小売店舗立地 法が制定されたが、この規制が周辺住民の居住環境を守る上で十分でないことから、条例で居住環境を守るための 規制をする必要性が出てくる。たとえば、﹁金沢市における良好な商業環境の形成によるまちづくり推進に関する条 例﹂などがその例である。この種の条例もまちづくり条例である。 例えば、卯月盛夫教授は、まちづくりについて﹁早期の市民参加﹂や﹁市民の直接請求権の保障﹂などを主張し ていた︵﹁まちづくりの住民参加と合意形成﹂地方分権一九九九年二一月号二九頁以下︶。また、渋谷区まちづくり 課の早川淳氏も、次のように述べている。すなわち、﹁地域の物的環境整備としての﹃まちづくり条例﹄と、自治体 の基本原理を定める﹃自治基本条例﹄という一見異なる条例がなぜ融合しつつあるのであろうか? その接点に﹃市 民参加﹄という要素があることが最も大きな要因であると思われる﹂︵早川淳﹁まちづくり条例と自治基本条例﹂地 11市民参加条例と和光市市民参加条例について ︵3︶ ︵4︶
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︵8︶ ︵9︶ ︵10︶ ︵n︶ ︵12︶ 方自治職員研修臨時増刊七一号一二二頁︶。また、参照、早川淳﹁まちづくり条例の新展開﹂自治研二〇〇二年一月 号四五頁以下。木佐茂男教授も、次のように述べている。すなわち、﹁研究過程において、総合計画を策定する手続 規定を各種の住民参加とともに定める条例が必要であると認識するに至り、そこから自治基本条例的なものを定め る必然性を感じ取っていった﹂︵木佐茂男﹁自治基本条例の論点と到達点﹂地方自治職員研修臨時増刊七一号三三頁︶。 木佐茂男編﹃︿まちづくり権﹀への挑戦﹄︵二〇〇二年、信山社︶は、日田サテライト訴訟で持ち出された﹁まち づくり権﹂という自治体の新たな権利を検討しているが、この権利は住民の個々的な権利の集積と捉えられており、 自治体のまちづくり権には自治体への市民参加が前提であるという視点がある︵七五頁以下︶。 ただし、地域計画などへの市民参加では、行政側がまちづくりとの関係で住民を地権者に限定する傾向も強いと いえよう。参照、佐谷和江﹁協働のケーススタディ⑤1まちづくりと市民活動﹂︵山岡議典他編﹃市民・住民と自 治体のパートナーシップ三・協働社会のスケッチ﹄︵ぎょうせい、二〇〇一年︶︶一五九頁。 辻山幸宣﹁分権改革から自治型社会へ﹂自治研二〇〇二年一月号一七頁。 辻山幸宣﹁分権改革から自治型社会へ﹂自治研二〇〇二年一月号二一頁。 松下圭一﹁なぜ、いま、基本条例なのか﹂地方自治職員研修臨時増刊七一号一四頁。また、﹁自治基本条例の制定 を進め、﹃自治体の憲法﹄制定の積み重ねの中から、地方自治基本法を展望するという戦略﹂︵木佐茂男、逢坂誠二 ﹃わたくしたちのまちの憲法﹄︵日本経済評論社、二〇〇三年︶一七三頁︶もあるようである。 住民投票に対する直接請求や実施についての統計は、地方分権二三号四三頁の資料四︵住民投票立法フォーラム 作成︶などを参照されたい。 朝日新聞四月二八日の朝刊によれば、統一地方選挙で、合併推進派の勝利が二三で、慎重派の勝利が一四で、住 民は合併について﹁割れた﹂としている。 常設型の住民投票制度だけの創設を目的としたのは、二〇〇〇年一二月に成立した高浜市改正住民投票条例であ る。参照、地方分権二三号四六頁以下。 佐藤克廣教授は、財政的な理由をローカルガバナンス論と結びつけている。佐藤克廣﹁住民参加制度条例化の可 能性−石狩市市民の声を活かす条例を例にしてー﹂地方自治職員研修臨時増刊七一号二二二頁。 木佐茂男、逢坂誠二・前掲書一七七頁。 12東洋法学
ハ パ 1413 ) ) パ パ 1615 ) ) ︵17︶ ︵18︶ ︵19︶ 木佐茂男﹁自治基本条例の論点と到達点﹂地方自治職員研修臨時増刊七一号三三頁。 木佐茂男教授は、市民と行政との関係の行動規範についてのみ扱った基本条例を行政基本条例と呼んでいる︵﹁自 治基本条例の論点と到達点﹂地方自治職員研修臨時増刊七一号三三頁︶。 武藤博己﹁協働社会の構成﹂︵﹃市民・住民と自治体のパートナーシップ一・分権社会と協働﹄︶二五頁。 野村武司﹁住民と行政との情報の共有﹂︵﹃市民・住民と自治体のパートナーシップニ・協働型の制度づくりと政 策形成﹄︵ぎょうせい、二〇〇〇年︶五三ー五四頁。 松下啓一﹃新しい公共と自治体﹄︵信山社、二〇〇二年︶五〇頁。この点で、福士明教授は、市民参加条例を列記 型参加条例と総合型参加条例に区別している︵福士明﹁市民参加条例の現在と展望﹂地方自治職員研修二〇〇二年三月号 二五頁︶が、この二つの区別は、本文で使用した松下啓一氏の大綱的市民参加条例と手続的市民参加条例の区別に ほぼ相当する。 山岡義典氏は、協働型市民として組織化された市民を主張する︵山岡義典﹁座談会・協働社会の未来、日本の未 来﹂﹃市民・住民と自治体のパートナーシップ一・分権社会と協働﹄二四〇頁以下︶。また、﹁協働型﹂職員について、 谷本有美子氏は﹁透察性﹂・﹁誠実性﹂・﹁戦術性﹂を求めている︵﹁﹁透察性﹂・﹁誠実性﹂・﹁戦術性﹂ー“転職”を 迫られる地方公務員1﹂﹃市民・住民と自治体のパートナーシップ一・分権社会と協働﹄︶。さらに、議会の位置づ けも問題となるが、パブリックコメント制度の導入により、市民の意見を吸収した案が出てくる。議会はこれにつ いて、パブリックコメント制度の追認機関となるのか、一方、議会審議に際して十分な意見を収集した制度として これを活用するのか、を選択することになるが、北村喜宣教授は、後者が正しいとする︵北村喜宣﹃自治力の発想﹄ ︵信山社、二〇〇一年︶二八頁︶。 江藤俊昭氏は、協働を実質化する条件として、﹁ある程度権限を有する住民参加制度の設置、その事務局ともなり、 縦割り行政をつなぐ総合的な窓口機関として機能する行政機関の設置、そして住民の立場に立って行政から自立し ている専門家︵1略1︶を自由に活用できる制度化である﹂︵江藤俊昭﹁地域事業の決定・実施をめぐる協働の ための条件整備1︿住民ー住民V関係の構築を目指してー﹂﹃市民・住民と自治体のパートナーシップニ・協働 型の制度づくりと政策形成﹄二四五頁︶ことを主張しているが、推進組織はこうした観点からすれば、専門家の配 置を考えて組織する必要があろう。 1314 市民参加条例と和光市市民参加条例について 第二節 和光市市民参加条例案の策定と問題点 ︵一︶ 条例案の策定過程 前述したように、和光市市民参加条例案は、市長が制定した﹁和光市まちづくり市民会議設置要綱﹂︵二〇〇二 年四月一日施行︶により設置された市民会議により検討された。設置要綱三条により、この市民会議は二〇名以 内の公募市民委員で設けられることになっていたが、公募に応じたのは一五名であった。市民会議は五月二三日 の第一回会議から条例案づくりを始めた。条例案の検討は、二〇〇三年三月二七日の答申まで一二回に及んでい る。 当初、﹁まちづくりに係る市民参画の仕組みについて、市民の視点から検討し、市長に提案する﹂︵設置要綱二 条︶という内容について、①市民参加条例に限定するのか、②景観や地区計画を含めたまちづくり条例にまで拡 大するのか、の二つの意見に市民会議が分かれた。後者の論拠は市民参加条例だけでは意義が薄いということで あったが、第一回会議での市長の説明などを考慮して、市民会議の課題を前者に絞ることにした。そして、条例 ︵−︶ 案の検討は、先進市町村の市民参加条例を比較参照して、条文案を作成するという方法により行なわれた。 会議は、和光市情報公開条例二四条の﹁付属機関の会議の公開﹂により、原則公開とした︵和光市まちづくり 市民会議傍聴要領︶。また、会議録の記載については、①要点記録とするのかまたは全文記録によるのか、②個人 名を明記するのかしないのか、の二点について意見が分かれ、当初要点筆記を求めそして個人名を出さないとい
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う意見が多数を占めたが、第二回会議で傍聴者︵議員︶から情報の共有という視点を指摘され、その結果、会議 録はできるだけ詳しくしそして個人名を明記することにした。 そして、市民会議の検討状況を市民に知ってもらうために、会議録を和光市のホームページ上でも公開するこ とにした。また、コンピュータネットワークを使用できない人のために、市報一二月号から市民会議専用のコー ナーを設け、できるだけ情報を提供することにし、市民参加条例案のパブリックコメントということで、一月号 では条例案の概要を示し意見募集を行った。また、一月と三月の二回、市民との意見交換会を行った。一月の説 明会は市報にあらかじめ条例案の概要を示して行い、その後の議論に市民の意見を生かしたが、三月は当日に市 民に条例案を示し説明するに止まり、提言書には市民の意見を反映することはできなかった。 市民会議は、二〇〇三年三月二七日に市長に提言書を手渡し、検討を終えたが、二七日の会議で確認された修 正意見を四月一八日に文書にして追加提言を行っている。これらを受けて二〇〇三年四月二五日に和光市内部に 設置された検討委員会で市民会議が作成した条例案について検討及び修正作業が進められ、その結果、六月二八 日に和光市の条例案がまとめられた。私はアドバイザーとしてこの作業にも関わっている。以下では、市民会議 が作成した和光市市民参加条例案と検討委員会が作成した和光市案を説明しながら、争点となった問題点などを 検討する。なお、市民会議が作成した条例案と検討委員会が作成した修正案は本稿の末尾に掲載している。 ︵二︶ 条文上の問題点 条例案づくり全体を通して、市民会議で確認されたことが二つある。一つは、中学生でも読んで理解できる分 15市民参加条例と和光市市民参加条例について ︵2︶ かりやすい条例をつくることである。これは、条文のスタイルを﹁である﹂体でなく﹁ですます﹂体を使用した ことに現れているし、また、章や条文の見出しにおいて﹁総則﹂や﹁定義﹂ではなくそれに代えて﹁基本的事項﹂ や﹁用語の意味﹂という言葉を使用したことに現れている。﹁ですます﹂体については、旭川市条例や西東京市条 例のように、前文に採用した市民参加条例はあるが、本文について採用した条例はない。また、本文に採用する ︵3︶ ことに消極的なのが通説である。検討委員会でも正確性に間題があるという意見も出されたが、賠償間題や罰則 など複雑な法的間題に関わる条文も少ないことや、市民会議の提案を尊重し、和光市としてはこれを前例とせず、 ︵4V 特例として認めることにした。また、本条例が導入した住民投票の請求が条例案を添えて行うことは当然予定さ れている︵一四条四項︶が、このことを住民が条例を見てすぐ分かるように、﹁条例案を添え、iを請求する﹂ というように規定した︵同条一項︶。もう一つは、市民参加のコンセプトを市民と市と議会の三者の協働においた ことである。したがって、市民会議案は行政への市民参加条例という建前をとっていない。これは多摩市自治基 本条例案の影響である。しかし、実際上、市民と議会とのパートナーシップさらに市の機関を加えた三者のパー トナーシップは、宣言的なものに終わっている。検討委員会でも扱いに苦慮したが、市民会議の提案を尊重し三 者の協働を宣言あるいは理念として残すことにした。
①名称と前文
条例の名称については、男女共同参画社会基本法を受けた自治体の男女共同参画条例づくりについて議論があ ︵5︶ ることが知られている。それと同様に単に市民参加条例とするよりも、﹁推進﹂︵旭川市︶という言葉やさらには 16東洋法学
石狩市のように﹁市民の声を活かす﹂という言葉を入れた方がよいという意見もあったが、市民会議では、これ らは少数意見で採用されなかった。名称については、住民の意見を募集するという方法があるが、今回はとられ ︵6︶ ていない。検討委員会は、市民会議の提言を尊重し名称は単に市民参加条例とすることにした。ところで、市民 会議は、旭川市や西東京市に倣い、条例に前文をつけた。その内容は、市民と市と議会とのパートナーシップを 謳うものである。ところが、和光市にはいままで前文をつけた条例や規則はなく、検討委員会では条例に前文を つけるかどうか間題となったが、市民会議の提案を尊重し前文をつけることにした。 ② 市民の定義 住民すなわち市民、町民、村民または区民︵以下単に﹁市民﹂という︶について、箕面市条例から定義しない 市民参加条例や自治基本条例が続いてきた。箕面市、小長井町や猿払村などの市民参加条例においては、市民参 加の方法が会議の公開、公募委員の採用、住民投票というもので、前二者は市民の定義と関係なく機能し、また、 住民投票の投票資格者は投票手続と同様に別に条例で定めることになっていることから、参加条例で市民を定義 する必要がないという判断があったためであると考えられる。最近制定された石狩市、旭川市や西東京市の市民 参加条例では、市民参加の方法として新たにパブリックコメントが加わったが、市民の定義はない。これは、市 民参加の対象によって市民像は変化することを考慮して市民を条例の個々の条文や規則で規定すればよいと考え ︵7︶ たためである。一方、最近制定された杉並区自治基本条例や多摩市自治基本条例案では、市民の定義がおかれ、 市民は﹁区︵市︶に住み、働き、学ぶすべての人﹂と定義されている。市民の定義をおくことは、自治基本条例 17市民参加条例と和光市市民参加条例について ︵8︶ ︵9︶ を自治体の憲法と位置づけて制定していることによると考えられる。つまり、憲法には国民の定義があり︵一〇 ︵−o︶ 条︶、それが人権の主体、国政の信託などとの関係で意味を持つからである。市民会議は、市民を﹁和光市に住み、 働き、学ぷすべての人々及び市内に事務所又は事業所を有するすべての団体﹂︵二条一号︶として定義した。 市民の定義については、三つの間題が検討された。一つは、市民に事業者を含めるかどうかである。杉並区自 治基本条例では、選挙権、直接請求権や個人の情報保護は区民だけに保障されるが、それ以外の区政への参画に ついては区民と事業者は同じであるということから、二つが区別して定義されている。一方、旭川市や石狩市の 条例では、市民の定義はないが、市民には事業者が含まれている。私は、主権者としての市民とそうでない事業 ︵n︶ 者は分けて位置づける必要があると考えている。もう一つは、市民でも未成年者をどう扱うかである。市民会議 は、年齢にこだわることはないとして、二条の市民の定義では年齢について規定しなかった。私は、各種の提案 制度との関係で、市民には提案をする能力が必要となることからある程度の年齢︵一八歳以上の者︶は必要であ ると考えている。また、外国人に市民参加を認めるのかも間題となった。市民会議は、前述のように市民を広く 定義したため外国人にも市民参加を認めた。間題は、条例の構成上、①市民の共通の定義をおくという方法、と ②住民投票制度や各種の提案制度において、個別的に参加者をつまり市民を定義するという方法、のどちらが優 れているかである。私は、居住する外国人、事業者、在学者や在勤者などが市政に積極的に参加することを明ら かにする意味から、市民の共通の定義をおいて、それを広く定義することが望ましいと考えている。ただし、前 述したように、市民と事業者は区別すべきである。検討委員会は、議論した結果市民の共通の定義は困難である 18
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と判断し、個別的に市民を定義した。とくに、パブリックコメント制度では、﹁事案に利害関係を有するもの﹂︵一〇 条三項六号︶にも市民参加を拡大している。従って、市民の定義がない場合には、旭川市や石狩市の例のように、 未成年者や外国人さらには事業者などに広く市民参加を認めることになる。 ③市民参加の対象と実施 従来の市民参加条例の中には、委員の公募、住民投票などを並列的に規定するだけの条例が多かったが、最近 では、市民参加の実施については、条例で列挙された方法の中から、市が実施方法を選ぶ制度が導入されている 条例が多い。そのため、市民参加の方法や内容について、総則規定として、市民参加の対象、方法、公表などが 規定され、そして、次にパブリックコメント制度、審議会や住民投票の個別的方法が規定される。旭川市、石狩 市や西東京市はその例である。市民会議の条例案もこの方法に倣っている。この構成は検討委員会でも基本的に は維持されたが、住民投票は他の市民参加手続と性格を異にするとして、章を別にして規定された。 市民参加の対象については、旭川市条例や石狩市条例を参考にした。この点で第一に間題となるのは、地方自 治法が直接請求の対象から除いている地方税や使用料に関する条例の制定・改廃を対象にするかどうかである。 ︵12︶ これらを、除外している条例︵旭川市や西東京市︶と除外していない条例︵石狩市︶の二つがある。この問題は 市民会議では議論されなかった。しかし、検討委員会では意見が分かれ、私は対象とすべきであるとする積極論 ︵13︶ を主張した。議論した結果、除外事項を﹁対象としないことができます﹂︵六条二項︶と規定して、地方税などに 関する事項を除外するかどうかは市の当該機関の判断に委ねることにした。対象事項でもう一つの問題となった 19市民参加条例と和光市市民参加条例について のは、市民参加の対象とする﹁大規模施設﹂の範囲であった。事業費でこれを画定することにしたが、土地の価 格などがこれに含まれることや事業費の算定の時期をどのように設定するのか︵事業の計画策定時なのか、事業 の実施時期なのか︶で事業費が変動する可能性があることから、事業費を﹁おおむね一〇億円以上﹂とすること にし、また、市民参加の対象であることから、﹁大規模施設﹂を市民の利用する施設に限定した︵施行規則三条︶。 次に、実施について、市民会議では、一つではなく二つ以上の市民参加の方法を併用すべきであるという意見 が多数を占めた。とりわけ、公聴会の実施については、これ一つではなく、それ以外の市民参加との併用を求め る意見が強く出された。その結果、条例でコ以上の適切な方法により行います。﹂︵八条一項︶という文言を入 れることにした。これは、西東京市条例六条の規定を参考にしたものである。検討委員会も、和光市で市政の重 要事項について審議会の設置やアンケートの実施が常態化している現状を踏まえ、念のため﹁複数の市民参加を 併用する﹂努力義務を市の機関に課すことにした︵八条二項︶。 ④ 市民提案制度 市民会議が提案した和光市市民参加条例案の大きな特徴の一つは、市民提案制度を四つすなわち、①市民参加 実施についての市民の提案、②市政に対する市民の具体的な提案、③住民投票実施の市民の提案、④条例見直し についての市民の提案、を設けたことである。③と④については、後述することにする。①は﹁市民は、市民参 加の対象、方法又は方法の選択について具体的な提案をすることができます。﹂︵八条二項︶で、提案は厳密にい えば対象、方法及び方法の選択の三つに分かれる。市民参加の対象は、市民から見てすぐ分かるように、石狩市 20
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条例や旭川市条例のように、条文で列挙すれば足りるとする意見が市民会議では多数を占めたが、しかし、委員 の中の、市民の提案権を入れた方が不測のものにも対応できるという意見を無視できず、こうした制度を創設す ることにした。こうした考えは、方法についても貫徹することになる。第七条で住民投票、市民意見聴取制度な ど五つの市民参加の方法を列挙したが、市民ワークショップなど新しい市民と市との意見交換方法を考慮して、 方法についても市民提案制度を創設することにした。これには明確な根拠があると思われる。さらに、方法の選 択についても市民提案制度が設けられた。例えば、体育館の建設について、市が市民意見聴取制度︵パブリック コメント制度︶による市民参加の実施を決定した場合、市民からそれに加えて審議会で検討すべきであると提案 するのである。これらの提案制度が市民から提起された背景には、市民参加に対する和光市のいままでの対応に 対する市民の強い不満があった。もう一つの市民提案制度は、﹁市民は市に対して具体的な提案を行うことができ ます。﹂︵九条二項︶という市民意見提案制度である。これを設置した理由は、提言書にもあるように、①他の市 民参加の方法が市民にとって受動的なものであり、一つぐらい市民の方から積極的な市政への関与があってもよ いと考えたこと、②陳情、請願が審議されていない実態を考慮したこと、である。これらの二つの提案制度の手 続について、市民会議の案では、市が出された提案を検討し、検討した結果を提案者に通知し、公表することだ けが規定されているが、その他の手続は規定されていない。要するに、市民会議ではこの二つの提案制度につい ては時間がなかったため深く検討されていない。残された間題は、提案制度自体が実施可能かどうかを含めて、 検討委員会で検討されることになった。 21市民参加条例と和光市市民参加条例について ︵14V 現在のところ、市民からの提案制度を導入した市民参加条例は、石狩市の市民の提案の一部に対応する制度を 除いてはないようである。ただ、多摩市自治基本条例案では、①市民の提案が盛んであること、②陳情、請願に ︵15︶ より議員に申し出ても、審議される保障がないということから、市民提案制度が設けられている。市民会議の案 は、この多摩市の案の影響も受けている。ところで、市民参加条例で市民提案制度が創設されていないのは、提 案制度を設けた場合にはその救済制度をつくる必要があり、また救済制度により行政運営が混乱する、という理 ︵16V 由からのようである。検討委員会の検討作業は、①提案制度が実施可能かどうか、②実施した場合の手続をどの ようにするのか、③どのような提案制度にすれば、制度が意味を持つのか、という三点に及んだ。市民会議の案 では、提案者は一人となっているが、市民一人一人の提案に対応すれば、事務に支障が出てくる。私は、この点、 提案の要件を、①提案者をある程度の数にする︵一〇名以上とか二〇名以上とか︶、②理由の明示を求める、とい うようにある程度厳格化し、制度化することが望ましいと考えている。ただし、条例案の提案には、地方自治法 の条例案の直接請求の要件﹁選挙権を有する者の五〇分の一以上﹂︵七四条一項︶との関係もあるので、その数が ︵17︶ 間題となる。私は、直接請求の規制緩和を求める意見などを考慮し、条例の提案には選挙権を有する者の一〇〇 分の一以上に近い五〇〇名以上、それ以外の提案については、市民一〇名以上の署名を求める案を主張した。ま た、現在、和光市では苦情処理の一種である﹁市長への手紙﹂という制度が事実上市長への提案制度として機能 しているので、これとの関係で市民参加条例で創設される提案制度と市長への手紙との違いを明確にし、提案制 度に意義を持たせることが必要となる。そこで、私は、要件︵一〇名以上の署名など︶を充足した提案について 22
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は、その内容を広報などに公表する制度と、要件︵署名五〇〇名以上︶を充足した条例提案については、地方自 治法七四条四項にあるように、提案の代表者に議会での説明の機会を与えることを主張した。さらに、市民に在 勤者や在学者を含め、また、一八歳以上の者の未成年者も含めることが望ましいと考えて、その署名については、 住民投票のような選挙管理委員会の照合は無理なので、各種の証明書のコピーの添付を求める制度を主張した。 ただ、署名の確認という作業をする上で、事業者の確認は不可能であるということで事業者は除くべきであろう。 検討委員会は、二つの市民提案制度の内、市民参加の対象、方法又は方法の選択に関する市民提案制度を削除 した。というのは、例えば、市の機関が当初予定していた審議会の設置について予算措置などをして準備を進め ていたところへ、市民からそれを止めてパブリックコメント制度の実施を提案されても、これには応えられない など間題点があるからである。削除した代わりに、市民参加の対象については、﹁市の機関は、対象事項以外の事 項にあっても、市民参加の対象とすることができます﹂︵六条四項︶という規定を設け、また、市民参加の方法に ついても、﹁市の機関が適当と認める方法﹂︵七条五項︶を設け、さらに、市民参加の実施についても、﹁適切な時 期に﹂︵八条一項︶を加えて市民参加の充実を考慮した。その上、二二条を新設し、より効果的と認められるその 他の市民参加の方法を用いる努力義務を課すことにした。一方、市民意見提案制度は、﹁市民政策提案手続﹂に衣 替えした。つまり市民から市が採用すべき政策を提案する制度としたのである。そして、私の案や政策の提案で あることを考慮して、提案者を一人ではなく一〇人以上とし、また、提案に必要な能力と提案者の確認を考慮し て、提案者を﹁年齢一八歳以上の市内に住所を有する者﹂に限定した。 23市民参加条例と和光市市民参加条例について ⑤ 住民投票 住民投票制度について、幌別町条例や石狩市条例では、市民参加の方法として規定されていない。これは、 ①市民参加条例で住民投票を規定するとしても、簡単に﹁市長は、住民投票を実施できる。﹂﹁詳細は、別に条例 を定めて規定する﹂という二条で規定することが、住民投票を常設したことにならないのではないか、②住民投 票は市民参加の方法としては異例なものであり、パブリックコメントなどの市民参加で十分ではないか、という ︵18︶ 理由からである。市民会議でも、住民投票は市民参加の方法としては異例のものであり、採用しても意味がない という意見もあったが、市民参加条例の説明会で、市民から、合併についての住民投票が市長から提起されたが、 市民から住民投票を提起する制度もあってよい、という意見が出され、この意見を尊重して、市民から住民投票 を提案する手続を中心に条例化することにした。 住民投票の制度化について、市民会議では次の三点が問題となった。すなわち、①提案者の範囲をどうするの か、②提案者数の要件すなわち署名数をどうするのか、例えば、地方自治法の条例の制定・改廃の直接請求の要 件である選挙権を有する者の五〇分の一以上を緩和するかどうか、③投票資格者の範囲をどうするか、である。 提案者には、当初、在勤者や在学者を含むことが考えられたが、彼らについては原簿での確認が不可能であるこ とが判明したため、選挙権を有する者に限定することになった。提案者数の要件については、地方自治法の五〇 分の一以上を緩和すべきという意見が大勢を占めたが、市民会議では、その数は決められなかった。また、投票 資格者についても、市民会議では、外国人と未成年者に拡大することが確認されたが、年齢をどうするのかなど 24
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詳細はつめられなかった。 住民投票については、実施すれば費用もかかることから、市民からの提案制度を導入しようとすれば、提案要 件を厳格にすることが求められる。一つは、提案者の署名数による規制であり、もう一つは、住民投票をする動 機となる実質的理由の要求である。提案者数について、私は、地方自治法の選挙権を有する者の五〇分の一︵和 光市では約一、一〇三人︶以上を緩和し、五五分の一以上に近い数で、市民に分かりやすい一〇〇〇人以上を主 張した。また、実質的理由については、高浜市条例や杉並区基本条例を参考にして、﹁市民に直接賛否を間う必要 のある市政運営上の重要事項﹂という要件を課すことを主張した。そして、提案要件を充足した提案の取り扱い について、市民会議では﹁市長はそれを尊重します﹂となっていたが、私は、﹁市長は住民投票実施の条例案を議 会に提案します﹂に変更することを主張した。また、投票資格者の要件については、最近では一五歳以上の未成 年者の投票を認めている例もあるが、私は、和光市が人の出入りが激しい都市型のまちであることを考えて年齢 要件としては一八歳以上そして、居住要件として居住三ヶ月以上を主張した。外国人と一八歳以上の未成年者を ︵19︶ 含む場合には、名簿の調製が必要となることから、名簿の調製をどうするのか、間題となる。 検討委員会は、市民会議の提案の趣旨を考慮して、市民の住民投票実施の提案を地方自治法の直接請求とする とともに、その提案者数を緩和した。提案者に外国人や未成年者を加えるべきとする意見もあったが、住民投票 の実施は一〇年に一回ぐらいしか考えられないので、そのために名簿管理を行うことは費用の無駄であると判断 して請求者は選挙権を有する者に限定した。市民からの直接請求の要件は、私の案が採用されて、署名数を分か 25市民参加条例と和光市市民参加条例について りやすい一〇〇〇人以上とし、﹁市民に直接賛否を間う必要のある市政運営上の重要事項﹂という要件も課された。 そして、直接請求の結果として、要件を充足する条例案は市長が必ず議会に提案することになった︵一四条三項︶。 さらに、請求の代表者には、条例案について議会で説明する機会も付与された︵同条四項︶。また、投票資格者に ついては、市長提案による住民投票は一八歳以上の未成年者と永住外国人に拡大した︵一五条二項︶。一方、市民 の請求による住民投票の投票資格者については、請求された条例でその内容を決めることになるので、一五歳以 上の未成年者を投票資格者とすることもできる。 ⑥ その他の問題 推進組織について、市民会議は、公募市民と数名の学識経験者で構成される推進組織の設置を求めた。しかし、 私は、市民参加条例案が検討委員会で修正されたことや、市民と市との協働という視点を考慮して、職員が委員 として入った推進組織の設置が必要であると考え、検討委員会でもそのことを主張した。その結果、私の案が検 討委員会で採用された。その他、追加提言で主張された意見提案者の住所、氏名の明示も、協働という観点から ︵20︶ 重要である。署名要件がある場合には、住所と氏名の提示は前提とされているが、署名要件のないパブリックコ メント制度などについてはこれが求められることになった︵一〇条四項︶。さらに、条例見直しについての市民提 案制度は、市民政策提案手続で代替できるとして、削除された。 今後、検討委員会で作成された条例案は、市民会議との調整、さらには議会での審議を経て確定されるが、そ の間多少の修正はあるであろう。そして、条例案が可決された後、施行するための庁内の体制を整え、そして、 26
市民への宣伝などが必要となる。施行された後は、市の機関は、市民参加の対象事項とされた計画や事業に取り かかるときには、予め住民との関わりを考えて計画や事業に関わることが予想される。そのことによって、執行 される事業などが住民の目線で作成され、そして住民立場で執行されることが保障されるといえよう。そのこと ︵21︶ は、行政に市民の声を活かし行政活動の質を高めるものではないか、と期待される。それは市民会議が真に求め ていたものである。
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︵1︶ ︵2︶ ((43
)) 蕨市男女共同参画パートナーシップ条例︵平成一五年六月施行︶は、蕨市男女共同参画市民懇談会の﹁文言は平 木佐茂男﹁自治基本条例の論点と到達点﹂地方自治職員研修臨時増刊七一号三九頁。 二〇〇三年︶四六頁︶。 ってわかりにくい条例が、市民・事業者にとってわかりやすいはずがない。﹂︵北村喜宣﹃自治力の冒険﹄︵信山社、 分かりやすい条例を求める声は強い。例えば、北村喜宣教授は次のように述べている。すなわち、﹁行政職員にと 孝男﹃条例づくりへの挑戦﹄︵二〇〇二年、新山社︶一四頁︶であると説明される。 設計・運用に活かすこと﹂とか、﹁ベンチマーキングの対象にした他の自治体の最も優れた条例のシステム﹂︵田中 ﹁他の自治体の最も優れた条例などのシステムを、自己の自治体の現状と継続的に比較分析して、自己の条例の制度 こうしたやり方は、条例のベンチマーキングとかベンチマーキングモデルという言葉で表現されるようであり、 注 易にわかりやすいものにしていただき、中学生が学べるようなものに表現していただきたい。例えば、﹃私たちは男 性も女性ももって生まれた能力をいかします﹄というようなわかりやすいものを希望します。﹂という提言を尊重し て、﹁ですます﹂体を採用している。この条例があることも、検討委員会で﹁ですます﹂体を採用した根拠の一つと なっている。 27市民参加条例と和光市市民参加条例について ︵5︶ ︵6︶ ︵7︶ ((
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)) パ パ 1110 ︵12︶ 男女共同参画社会を目指す条例については、基本法に倣って男女共同参画基本条例とするか共同参画を推進する ことを強調するために男女共同参画推進条例とするか議論があり、現在は後者が多くなっているようである︵斉藤 誠﹁男女共同参画推進条例の条項と解説﹂︵山下泰子他﹃男女共同参画推進条例のつくり方﹄︵ぎょうせい、二〇〇一 年︶六五頁︶。 埼玉県は、男女共同参画推進条例の制定にあたって論点整理を県民に発表し意見を求めた結果、名称について意 見が出されたとのことである︵山下泰子﹁条例づくりの具体的なプロセス﹂︵山下泰子他・前掲書三七頁︶。 例えば、旭川市市民参加推進条例では、市民の定義はないが、次のように説明されている。すなわち、﹁なお、﹃市 民﹄については、市民参加の対象となる施策や事業の内容によって伸縮するものであり、限定的、例示的に示すこ とは困難であることから、市民の定義はしないこととしました。また、﹃市民﹄はいわゆる﹃住民﹄に限定されるも のではなく、場合によっては自然人以外の法人や団体をも含むなど、可能な限りより広範な市民を対象とするよう 努力していく必要があると考えています﹂︵﹁旭川市市民参加推進条例及びその基本的考え方﹂︵旭川市ホームページ︶ 三頁︶。石狩市行政活動への市民参加推進に関する条例も同様な考え方をとっている。すなわち、﹁市内に居住する 個人及び市内に所在する法入を含むことを基本として、市民参加手続の対象となる行政活動により影響をうける者 の範囲などに応じ、その都度伸縮させて考えるのが適当と思われることから、あえて定義を置かないこととした﹂ ︵﹁石狩市行政活動への市民参加の推進に関する条例︶の考え方﹂︵石狩市ホームページ︶二頁︶。 杉並区自治基本条例三一条は、同条例を﹁区が定める最高規範﹂として位置づけている。 生野町やニセコ町の基本条例において住民の定義はないことが間題となるが、ニセコ町の基本条例では、﹁満二〇 未満の町民の権利﹂︵一一条︶の反対解釈として町民は二〇歳以上の者ということで明確になっている。また、生野 町の条例に町民の定義がないことの理由は定かではないが、町民投票との関係を考慮しておかなかったと考えられ る。 例えば、辻山幸宣﹁自治基本条例の設計﹂地方自治職員研修臨時増刊七一号五八頁。 ニセコ町の基本条例のように、未成年者の参加権を個別に規定する試みも意義がある。参照、福村一広﹁=セコ まちまちづくり条例﹄の運用と課題﹂地方自治職員研修臨時増刊七一号一一一頁。 田中孝男氏はこの区別を国原型系の制度と石狩系の制度と呼んでいる︵田中孝男﹃条例づくりへの挑戦﹄︵二〇〇二 28東洋法学
︵13︶ ︵14︶ 1615 ︵17︶ ︵18︶ ︵19︶ 年、信山社︶四八頁︶。 山口道昭教授は、税、手数料などを市民参加の対象から除外している条例が、地方自治法七四条一項が除外して いること、及び行政手続条例が名宛人の意見陳述手続を除外していることをその根拠としているとして、この点に ついて、地方自治法の規定は戦後間もない時期に電気ガス税の廃止運動に対応したものであり、現在では意味がな いこと、また、行政手続法では、﹁金銭﹂の特殊性に鑑みて行政効率の点から事後手続で対応するという選択がなさ れたので、これらの理由づけも説得力を欠いているとする︵山口道昭﹃政策法務入門﹄︵信山社、二〇〇二年︶八一 頁︶。 石狩市条例では、市民の提案について﹁その趣旨及び内容がこの条例の目的に合致する﹂ものについては、パブ リックコメント制度の手続により検討し公表する︵二七条︶となっており、かなりの制約が設けられている。 多摩市市民自治基本条例案解説七頁。 出石稔﹁横須賀市市民パブリックコメント手続条例﹂地方自治職員研修臨時増刊七一号一四八頁。また、出石稔 氏は、パブリックコメント制度が﹁適正な行政手続を確保するための仕組み︵道具︶として整備する﹂という性格 から、手続権を創設しなくてもその実効性を確保できると考え、採用されなかったとする。救済手続については、 実施機関に対する意見申出制度を設け、これを市民が参加した審議会により審査させる方法などが主張されている ︵田中孝男﹃条例づくりへの挑戦﹄六八頁︶が、今回の条例案では、救済策は規定されていない。これは、今後の課 題とした。 例えば、江藤俊昭教授は次のように述べている。すなわち、﹁今日ようやく協働へのテイクオフのための滑走が始 まっている。そこでは、条例制定の直接請求の規制緩和をはじめ、住民投票の制度が必要であろう﹂︵江藤俊昭﹁地 域事業の決定・実施をめぐる協働のための条件整備1︿住民−住民﹀関係の構築を目指してーー﹂﹃市民・住民と 自治体のパートナーシップニ・協働型の制度づくりと政策形成﹄二七四頁︶。 石狩市条例については、佐藤克廣﹁住民参加制度条例化の可能性﹂地方自治職員研修臨時増刊七一号二二九頁及 び一四〇頁を参照されたい。 この場合、確実性や省力化のために、投票資格を申請にした者に限定する方法が望ましいようである︵武田真一郎 ﹁条例による住民投票の制度設計﹂︵地方自治職員研修臨時増刊七一号一〇〇頁︶。 29市民参加条例と和光市市民参加条例について ︵20︶ ︵21︶ 横須賀市のパブリックコメント条例では、﹁意見には必ず住所︵勤務先・学校名︶、氏名を記載することとし、市民 にも相応の責任をもった意見の提出を求めている。これは市民協働の観点からも必要なことと考えている﹂︵出石稔 ﹁横須賀市市民パブリックコメント手続条例﹂月刊地方自治職員研修臨時増刊七一号一四六頁︶。西東京市にも住所、 氏名の明示規定がある︵一五条三項︶。 藤田正人﹁石狩市市民の声を活かす条例 市民参加に関する行政活動の﹃品質管理﹄ツール﹂地方自治職員研修 二〇〇二年三月号四一頁。 [追記] 七月五日に、市︵検討委員会のメンバーなど︶と市民会議との調整が行われ、その結果、検討委員会は修正案 の前文の前から三行目からの﹁これまでは∼増えてきました﹂の三行を削除することにし、委員会案を確定した。そして、 この案は、七月九日の和光市の政策会議で市長案として確定し、九月議会に提出されることになった。ところで、本稿執 筆にあたっては、市民会議の皆さんとの議論や検討委員会の皆さんとの議論に多くの示唆を得ている。また、和光市まち づくり条例策定プロジェクトチーム︵石田、田中、久保、加藤︶の皆さんには、資料の提供など事務局としてお世話を項 いた。さらに、野木和光市長及び横内企画部長には市民参加条例に関わる機会を与えて頂いた。こうした方々の協力がな かったら、本稿は書けなかった。最後になったが、これらの皆さんに感謝申し上げる。 30
は検討委員会で削除した部分 は検討委員会で付け加えた部分 和光市市民参加条例案 前 文 私たち和光市民は、 和光市がより住みやすいまちになることを望んでいます。市民生活をより豊かで快適なものとして いくためには、より多くの市民が市政にかかわり、市政を更に発展させていくことが必要です。これまでは市あしごとに 対して、市民は、市政を市に任せきりにしてきた面もありました。一方では、市民意識の変化忙対むて、行政側の対応も 十分にほ機能しな惹なちて鱒養面もありや市民が行政に求めるものの多様化に伴い、 えてきました。 市は、その対応に苦慮することが増 市民は、地方自治の主役であり、市政に参加する権利があります。これからは市民も責任と自覚を持って積極的に市の しごど政に参加して、市民の持つ知識・経験・創造性を反映させていくことが大切です。そのためには市のじごと政につ いての情報や活動内容を市民がいつでも簡単に知ることや、市民がどのように市畏政に参加できるかを決めておくことが 必要です。また、市民と市の機関と市の議会がお互いの立場を理解し、尊重し、協力しあうことも欠かせません。 これからのよヶ良熟布民生活より住みやすいまちを目指して、市民が市政に参加を行うするための基本的な取り決めを まとめた﹁和光市市民参加条例﹂をここにつくります。