ノウ・ハウの現物出資
著者
盛岡 一夫
雑誌名
東洋法学
巻
18
号
2
ページ
p63-98
発行年
1975-03
URL
http://id.nii.ac.jp/1060/00006074/
Creative Commons : 表示 - 非営利 - 改変禁止 http://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/3.0/deed.jaノウ・
ハウの現物出資
盛 岡
一
夫
六五四三二一
はしがき ノウ・ハウの意義 ノウ・ハウの貸借対照表能カ ノウ・ハウの履行 ノウ・ハウの評価と償却 むすび 一 はしがき 産業の発達の促進にとって必要なことは、新しい優秀な技術を開発することである。企業間の競争の激烈な今日に おいて、競争関係にある他の企業より優位な地位を占めるためにも、また国際間の技術競争に対処していくためにも 優秀な技術を開発することが必要である。わが国においても技術を開発するために多額の費用をかけて研究している ノウ・ハウの現物出資 六三東洋法学 六四
のであるが、企業が期待しているような優秀な技術を開発することは少ないので、外国から技術を導入する方法をと っている。戦後わが国が欧米先進国との技術格差を縮め、経済の驚異的な高度成長をもたらしたのは.外国からの優 秀な技術の導入であった。わが国は先進国から技術を導入し、これを吸収することによって発展してきたのである。 技術の急激な進歩によって、技術が高度複雑になると特許の明細書の記載だけでは、実際にその実施の過程におい て技術上の操作などの詳細はわからないから、特許とともにノウ・ハウが導入されることが多い。また技術を開発し た企業は.特許権を取得するために特許の出願をすることもあるが.特許法は出願公開制度.出願公告制度を採用し ているから.技術の内容を競争関係にある他の企業に教えることになり.他の企業によって.それよりもきらに優秀 な技術を開発され.不利を招くことなどの理霞により.今縫では発明の公開をさけ特許の出願をしないでノウ・ハウ として秘密のまま利用する傾向がある、このようにノウ・ハウには.特許を取得することができるが.技術の公開を さけるために特許を取得しないものもある。ノウ・ハウは.技術上の価値および財産的価値において.特許権よりす ぐれたものもある。 ノウ・ハウは.技術導入において、実施許諾契約または譲渡契約の形をとることが多かったが.今日では資本とし て現物出資されることも多くなってきた。 技術導入契約においては.その契約期間が規定されているが.その期間が満了した場合に更新するか否かはわから ない。技術を導入した企業は、その技術を習得すると契約の更新をしないこともあるからである。契約終了後、技術 を導入した企業はノウ・ハウを返還しなければならないが、技術的知識および経験であるノウ・ハウを伝授され、いったん覚えたものを返還する︵忘れる︶ということは不可能である。したがって、技術を供与した企業はノウ・ハウ を返還させることが困難である。また最近では外国の企業が、わが国の経営に参加したいので合弁会社の設立を要求 ︵1︶ している。 このような理由から、合弁会社の形態を用いるようになってきた。すなわち、技術を供与する企業と、これを受け る企業とが共同して合弁会社を設立するのであるが、このときに外国の企業は、ノウ・ハウを現物出資することが多 ( 診 し 現物出資の目的たる財産を過大に評価することは、資本の充実を害し、会社債権者のみならず、金銭出資をした他 の株主をも害することになるから、商法は、変態設立事項として定款に詳細に記載させ、かっ、厳重な検査を受ける ことを要件として、例外的に金銭出資以外の現物出資を認めている。 商法は法文中に現物出資の概念規定を明確にしていないので、いかなるものが現物出資の目的物として適格性を有 するかが問題であるが、通説は、貸借対照表に資産として計上されうるものは、その種類を間わず現物出資の目的に なりうると解し、動産、不動産、債権、鉱業権、漁業権、特許権、実用新案権などの権利のほか、得意先関係、仕入 先関係などの経済上重要な価値を有する事実上の財産および営業の全部または一部も現物出資の目的になりうるとし ている。 しかし、ノウ・ハウは、産業上の利用において実際に適用するのに必要な技術的知識および経験であり、秘密とき れているものであるから、商法上、株式会社における資本充実の原則からみて、ノウ・ハウが現物出資の目的となリ ノウ・ハウの現物出資 六五
東洋法学
六六 うるか否か、すなわち、貸借対照表に資産として計上されうるものであるか否か疑問とする見解がある。 商法によれば現物出資は.会社成立前または新株発行の効力発生前に全部の給付をしなければならないとしている がノウ・ハウは技術的知識および経験であるから、会社成立後に技術者を派遣して技術を指導することもある。この ように将来未必の時期に履行の完了されるような財産が.資本充実の立前から現物出資として許されるか否か疑問が あるとされている。また.ノウ・ハウは秘密の技術および知識であり.その技術を公開するとその価値を失うので. ノウ・ハウの出資者は現物出資として出資する際にも完全な公開は容易にしないので.その評価が困難であるという 点に疑閥があるときれている。さらに.貸借対照表能力が認められるとした場合に.それは有償取得の場合にかぎる のかそれとも無償取得および自家創設のノウ・ハウの場合にも認められるのか否か間題がある。本稿では.ノウ・ハ ウの現物出資に関する問題点について検討するのであるが.まずその前に.ノウ・ハウの意義について述べることに する。 ︵三︶ ︵2︶ 小津修二﹁技術提携の現状﹂ジュリストニ五七号七四頁.五月女正三﹁国際技術導入契約における最近の傾向﹂ジュリス ト三九六号二六頁.鈴田敦之﹁技術導入の経済的意義﹂ジ.一リスト三九六号三二頁参照。 長谷部茂吉﹁いわゆる﹃ノウ・ハウ﹄の現物串資にっいて﹂商事法務研究一九一号四頁、田申誠二・吉永栄助・山村忠平 ﹁再全訂コンメンタール会社法﹂三三一頁以下.土井輝生﹁園際知的財産取引の基本閥題﹂四六頁は,特許やノウ・ハウ を所有する外国の会社が、わが国の会社と共同出資して、わが国に合弁会社を設立し、これに特許やノウ・ハウを使絹さ せるテクニックとして、第一に、両会社が、ともに金銭出資をして新会社の株式を取得し、技術を所有する外国の会社 が、新会社に特許やノウ・ハウを実施許諾する方法があり、第二に、外国の会社が、特許やノウ・ハウを新会社に現物出資して、株式を取得する方法があり、また特許の排他的実施権ないし尊用実施権を現物出資することもある。第三に、外 国の会社が、特許やノウ・ハウを新会社に譲渡する方法があるとされる。
ニ ノウ・ハウの意義
ω 最近技術援助契約︵富魯蓉♂αq8巴霧ω翼餌昌88鵠霞8け︶などの増加に伴って、ノウ・ハウ ︵区8拳頃o乏︶と いう用語が用いられているが、この用語は、実務界より生じたものであり、確立した定義はなく、これを定義づける ことは困難であるとされている。この用語は、はじめアメリカにおいて用いられていたが、今日では翻訳されないで そのまま用いられている。わが国においては、技術秘訣と訳されることもあるが、多くはそのまま用いられている。 このように、ノウ・ハウという用語は、国際的にも、またわが国においても周知となったが、トレード・シ⋮クレ ッッ︵弓建号留R魯営業秘密・企業秘密︶と区別されないで混同して用いられており、きわめて不明確である。そ こでまずはじめにトレード・シークレッツについて述べることにする。 ③ ターナー︵↓霞”鍵︶は、トレード・シークレッツ保護の対象︵浮三Φ♀欝顛簿窪名置魯簿黛訂嘆o富。富飢︶と して、工程︵準8霧ω霧︶、機械︵ζ霧獣器ω︶、アイディア︵疑①器︶、秘密情報︵ω①R9一氏霞霧呂8︶、費用、時間ま たは労力をつかった利益︵ω窪艦房無円捲窪鎌言89竃き①ざ↓巨①霞≦o雛︽︶とともにノウ・ハウをとりあげて ︵1︶ いる。 ヵルマン︵O&匿簿岩︶は、トレード・シークレッツの対象として、特定の営業と独立して存在するものと、特定 ノウ・ハウの現物出資 六七東洋法学 六八
︵2︶ の営業と関連して存在するものとの二つのグル⋮プがあるとする。前者はアイディアと呼ばれるものであり、プラン、 ︵3︶ 工程、道具、機構︵欝①3鎧置簿︶または調合方法︵9導℃S&︶などである。これらのトレード・シークレッッは特 許権と類似しているし、また.そのアイディアの形態が秘密であるという点で著作権にも類似している。しかし.ト レード・シークレッツと特許権とは重要な相違がある。特許は有用な技術︵欝無巳鍵酔︶.機械、製品または物の構成 ︵8鷺賢霧識窪鑑響舞紳韓︶に対して付与される。前述のプラン、工程.道具、機構または調合方法はトレード・シー ︵誌︶ クレッツとしては保護されるが.特許能力のないものもある。営業上のアイディア︵欝鶴鑓毒 ・墾 農難欝︶は特許能力はな ︵器﹀ いが.トレード・シークレッッの対象物になり.広告のアイディア︵鉱毒賊酔鉱薦鶴露︶は保護される。後者の特定 の営業と関連して存在するものとしては.不動産の買入の情報などであるとする. アメリカの不法行為法リステイトメント︵鱒舗齢舞齢鱒②羅象轡冨欝零亀穆欝邑の第七五七条の定義によると.ト レード・シークレッツとは.事業に用いるあらゆるフォーミュラ.パターン。老案または情報の集合よりなるもので あり、その使用者に.それを知らずまたはそれを用いない競業者︵8欝需簿○誘︶よりも.優位な地位を占めることが できるものである。それは化合物のフォーミュラ.物の製造.処理もしくは保存の工程、機械もしくはその他の老案 のパターン.または顧客のリストなどであるとする。 小野博士は.トレード・シークレッツとは.営業に関する秘密であり.その対象は.工業的なものと.商業的なも の.あるいは、ある企業と独立して存在しうるものと、ある企業と関連してはじめて価値あるものとを間わず、すべ て営業に関するものが含まれるとされ、トレード・シークレッツは、営業に関し一定の制限された範囲の者にのみ知られ、そしてそれを知りまたは用いようと欲する者にただちに知りまたは用いることができない状態的事業を意味し、 ︵6︾ それはその秘密を保持することに競業上の利益があるものであると解される。 ︵ま︶ ︵2︶ ︵3︶ ︵4︶ ︵5︶ ︾導σ念①↓q讐①び↓箒富毛o鴎爵区①ω①R①畠︵お爵︶肇討窪 9一巨餌導”菊&。F象鼠残9き冨簿圃8餌琶摩鑑?竃p 。葺ω︸鱒&お8︵惹夢お額の§讐①箏Φ旨︶悼お箆暁 2讐睡o猛一↓縄σ①○ρ<。国霧叶①簿↓自ぴ①Ooこ器○窯oΩ幹Ω戸&o 。”囑O︵68︶ 霊ぎ峯α爵讐希廼≧愚一弩①○・β︿。Ooき82。ざ伊笛α簿G 。o oε。9︵お濠︶ 営躇①窪俸霞昌o拳↓3零80ρ<。窯昌9一黛ぎ斜︾署。濤9一逡罫銅 N8︵一80︶本件は、原告が被告の たばこ会社に独創的な広告方法があるといって手紙をだした。原告がこの手紙に書いた広告方法のアイディアは、二人の 神士が立っていて、そのうちの一人がシガレット箱をきし出し、.、類餌<ooぎ9爵①器、、といい、他の一人が.、20浮餌苧 駐旧持 ω簿o寄Ω一①ω$議巴富.、と答えるものである。原告は最後に ﹁私は、このアイディアは妥当な報酬を請求するに 十分な価値を有することを確信する﹂と書いてあった。その後、被告はこのアイディアと同じような広告をだした。それ は、二人のゴルファーと一入のキャディ⋮が立っていて、一人のゴルファーが開いたシガレット・ケースをもち、他のゴ ルファーがチェスターフィールドの箱を持っていて、.、H.一一呂鼻8Ωおω審注巴房、.というスローガンを書いてあった。 そして下の方に、.竃ま窪o轟び8吋き旨o身帥&﹃簿甚2銘蓼身,O冨ω8益Φ箆..と印刷してあった。そこで原告は 被告に損害賠償の請求をした。第一審裁判所は被告に九〇〇〇ドルの支払を命じたので被告は控訴したが、控訴裁判所も 第一審判決を支持した。その判決のなかで、﹁抽象的なアイディア︵呂馨獲9箆S︶は財産権︵冥o需旨紹吋お窪︶の目 的とならないことを認めるが、われわれが本件にみいだすような具体的な形態︵8蓉話8暁霞欝︶をとるときには、売買 の目的となりうる財産権となるというのがわれわれの見解である。もちろん、これは新規で新しいものでなければならな い﹂と述べている。 ノウ・ハウの現物出資 六九
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︵6︶ 小野昌延﹁営業秘密の保護﹂五五五頁。 七〇 ③ 次にノウ・ハウの定義をみてみよう。タ⋮ナーは・ノウ・ハウという用語は・イギリスにおいて非常に限定さ れた技術者からきりはなすことのできない現実に雇用者にとって.技術的価値であるところの技術者の習得した技能 ︵箋︶ ︵蜘£鑑灘急灘 段鷺δおよび蓄積した経験︵髄8綴簿彊鑓審鳥爵需甑霧8︶の意昧に用いられることがあるという。 次に国際商業会議所︵騨欝羅総欝難剛δ罫欝欝瞬諏δ懲繭鱒嚢欝鴨轡⇔O︶の草案などの定義を紹介する、蓋・C・C が洋成した﹁ノウ・ハウ保護のための標準条項草案︵雛欝沖 も 嚇欝菰欝瓢欝黛鉱叢鴎講讐鋤噂羅竃蕪露織麟響壌− 瓢ゆ壌との第一条は.ノウ・ハウとは.単独でまたは結合して工業目的に役だつある種の技術を完成し.またはそれ を実際に応用するのに必要な秘密の技術的知識および経験またはそれらの集積をいうとする。 翌・C・Cの﹁ノウ・ハウ保護に関する決議︵麺舘鉱蘇ご麟汐o欝豊露鉱麟き率瓢o壌︶﹂は.特許能力があるも のとないものとを問わず.一般にノウ・ハウといわれるところの企業によって開発きれた技術的改良︵帰9ぎ鉱霞8a 欝鷺o器欝Φ糞︶は.近年特許およびその他の権利を補充する工業所有権︵回鼠霧欝難鷲暑舞馨︶として、非常に価値 のある目的物となり.大きな経済的重要性をもつようになり.また企業間において重要な契約の目的物となってい る。したがって.経済的および技術的進歩を促進するための企業におけるノウ・ハウの交流を促進するためには.ノ ウ・ハウを国際的に保護する必要があるとし、第一条に.工業的ノウ・ハウ︵H&霧鼠餌二白○季ぎ≦︶は.工業目的 に役だつ技術を完成し.またはそれを実際に適用するのに必要な応用技術知識︵巷讐&審魯凱畠二途○註①舟①︶、方法︵糞亀乙騎︶および資料︵留欝︶をいうと定めている。 工業所有権の保護に関するパリ条約の事務局と著作権の保護に関するベヌル条約の事務局とが合体した知的財産保 護国際合同事務局︵ωのH$黄ぎ8跨蝕窪髪図鼠巷δ宕畦鼠℃3富鼠呂8鑓冥8濠齢似一旨亀g露亀色ω。回因らレ︶ が作成した﹁発明に関する発展途上国のための模範法︵窯&巴霊毒臣霞U象巴○風謎09纂膏ω臼ぎ毒簿δ霧︶﹂は、 第二部において、技術的ノウ・ハウ︵↓①&巳8=︷8妻出・毒︶とは、生産工程︵彰磐蔑8ε臨お鷲・8器霧︶または 工業技術の使用および適用︵島o弩伽巷嘗8ぎ昌無一&塁霞芭審魯鉱曉霧︶に関する知識であるとする。 ︵!︶ ↓唱露Φび答箆こP嵩 ㈲ わが国において、ノウ・ハウの意義に関する判例はなかったが、最近、大阪地裁が、所得税法第一六一条七号 イは、国内源泉所得として﹁工業所有権その他の技術に関する権利、特別の技術による生産方式若しくはこれらに準 ずるものの使用料又はその譲渡による対価﹂と規定しているところ、このうち﹁特別の技術による生産方式若しくは ︵1︶ これに準ずるもの﹂がノウ・ハウにあたるとした。 次に、わが国の学説を大別すると、ω工業目的に役だつものとする説、@より広く産業目的に役だつものとする説 の社会的または経済的目的に役だつものとする説、◎最も広く技術的なもののほかに商業的なものまでも含める説な どがあるから、これらの学説を簡単に紹介する。 ω 工業目的に役だつものに限定する説 大隅博士は、 ﹁工業の生産過程にとって必要または有益な技術上の知識 ノウ・ハウの現物出資 七一
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および経験であって.外部に対して秘密とされているものをいう﹂とされ、たとえば刀剣の製法は公知であるが、火 加減や湯加減のいかんによっては.銘刀ともなり鈍刀ともなる。その火加減や湯加減といった秘伝ないし秘法に相当 ︵2︶ する工業技術上の秘密がノウ・ハウであると解される。また松居氏は.ノウ・ハウを﹁工業目的に使用される技術を 単独であるいは他の技術と結合して現実に工業上使用する場合あるいは応用する場合に有益な.あるいは必要な秘密 の技術的知識あるいは秘匿された経験上の知見である。そして.それを加えて技術を工業化することによって.技術 的効果の向上すなわち製品の品質向上.取得率の向上.生産羅ストの低減などの効果および作業の簡易化.設備の耐 用年数の増加.生産管理の簡素化などの効果をもたらすものである。技術の改善という面で効果を奏するものという ︵3︶ ことができる﹂と解される. ㈲ 産業目的に役だつものとする説 吉藤氏は. ﹁産業上利用することができる技術的思想の創作︵意匠を含む︶ またはこれを実現するに必要な具体的な技術的知識・資料・経験であって.これを創作・開発・作製または体得した ︵基︶ 者︵その者から伝授を受けた者を含む︶が現に秘密にしているもの﹂をノウ・ハウというと解され.また滝野博士は ﹁産業の生産過程において実際に適用するのに必要な技術的知識および経験であり.秘密とされているもの﹂がノウ ︵5︶ ・ハウであると解され.さらに播磨助教授は. ﹁ノウ・ハウとは.産業上の生産過程にとって必要または有益な.技 ︵6︶ 術上の知識および経験であって外部に対して秘密とされているもの﹂と定義される。 の 社会的または経済的騒的に役だつものとする説 長井・野口両氏は、ノウ・ハウとはコ定の社会的または経 済的目的の達成に役だつ技術的方法、方式またはそれを実際に適用するに必要かつ有益な技術的知識のうち秘密状態にあるもの﹂を指すとされ、現代のごとき技術革新の多面的深化、および総合化の時代においては、ノウ・ハウを工 業目的の達成に役だつもののみに限定することは狭きに失するから、塵芥焼却方法、汚物処理方法あるいは医療方法 のごとく直接社会目的の達成を企図するものや、植物の栽培方法のごとく工業目的以外の経済的目的を実現するもの ︵7︶ にも、拡大するのが妥当である﹂と解される。 ⇔ 技術的なもののほかに商業的なものまでも含める説 ノウ・ハウには、技術的ノウ・ハウのほかに商業的ノウ ・ハウもあるとされる永田博士は、技術的ノウ・ハウとは、ある人がその有する技術を最良の条件のもとに実施する ︵8︶ のに必要とされる知識であるとされ、また紋谷助教授は、工業的ノウ・ハウは商業的・金融的ノウ・ハウと合しては じめてその最大の価値を実現しうるものであり、またすでに技術導人の対象とされた汚物処理法、植物栽培法などを もノウ・ハウの概念から除外する必要もないとされる。したがって、ノウ・ハウの保護一般を考察するにあたっては 商業的・金融的なものまでも含めて、広く企業秘密一般と定義づける方が望ましい態度であり、またそれがわが国企 ︵9︶ 業の要請ともおもわれると解される。 ((2ま
))
︵3︶ ︵4︶ 大阪地判昭和四九・五・二八金融・商事判例四二三号六頁以下。 大隅健一郎﹁ノウ・ハウの現物出資﹂商法の諸問題八一八頁、同﹁ノウ・ハウの貸借対照表能力﹂商法の諸問題三六頁、 同﹁技術提携︵経営法学全集U︶二七頁、同﹁ノウ・ハウとその譲渡﹂商法学論集︵小町谷先生古稀記念﹂四頁、同旨、 竜田節﹁ノウ・ハウをめぐる諸問題﹂会社訴訟・特許訴訟︵実務民事訴訟講座5︶三三頁。 松居祥二﹁特許関係契約﹂特許管理二九八頁。 吉藤幸朔﹁特許法概説新版﹂四一四頁以下。 ノウ・ハウの現物出資 七三︵5︶ ︵6︶ ︵7︶ ︵8︶ ︵嚢︶ 東洋法学 七四 滝野文三﹁最新工業所有権法﹂三七二頁。 播磨良承﹁工業所有権法王﹂九三頁以下。 長井亜歴山・野欝良光﹁改訂増補技術援助契約の実際﹂八七頁。 永田大二郎﹁特許﹂特許等管理︵経営法学全集7︶二四頁以下、なお同氏は.ノウ・ハウは青写真.報告.見本などのよ うな有形であることも、機密方式、機密情報、個人的熟練などのような無形であることもあるが、ノウ・ハウはこれを利 用することにより.その利用前と利胴後とを比較してみて.結果の上に差異を生じなければならないといわれる。 紋谷﹁図蓉噸ー畿嫌講およびその保護﹂ジ講リスト五〇〇号五七二頁。 樹 ノウ・ハウとトレード・シークレッツとの関係について述べることにする.ノウ・八ウという用語は.もとも ︵蓋﹀ と実務界より生じたものであり.その範囲は一定していない.前述のようにノウ・ハウを広義に解し商業的.金融的 なものまで含めてトレード・シークレッツと同様に用いられることもあるが.普通は技術的なものに限定して用いら れている。 ノウ・ハウとトレード・シークレッツとは混同して用いられることもあるが.ターナーが.トレード・シークレッ ッの対象物の分類︵Ω霧る 陰田⇔舞陣象鉱も 殺暮寄魯簿簿欝騰︶のところで、その一部としてノウ・ハウをあげているよう ︵2︶ に.ノウ・ハウとトレ1ド・シークレッツとは区別し.ノウ・ハウはトレード・シークレッツの一部分であると解す ︵3︶ べきであろう。すなわち.ノウ・ハウはトレード・シークレッツの対象物の一つである。ノウ・ハウは技術的なもの に限定し、トレード・シ⋮クレッッは技術上の知識・経験のほかに商業上の知識.顧客リストなどをも含んだ広い意 ︵4︶ 昧に解すべきであろう。また技術の発達した今日では、ノウ・ハウを工業目的に役だつものに限定しては狭いので.
産業の範囲まで拡げる方がよいであろう。さらにノウ・ハウを生産過程にのみ限定する見解も狭いので、広く解すべ きであろう。 ノウ・ハウの秘密性は、保護要件ではありえても、その本質的要素ではないから、ノウ・ハウの定義に、秘密性を ︵5︶ 要素とすることは正当でないとする見解がある。 しかし、ノウ・ハウが経済的価値を有し、技術援助契約などにおいて特許権とともに取引の目的とされているのは その技術が秘密のものであるからである。技術が秘密であるから、これを知らない競争関係にある企業よりも優位な ︵6︶ 地位を占めることができるのであり、技術が公知のものであったら、その価値は無になる。一部の者に知られていて も、その者が一定の範囲に限定され、秘密にすべき関係にある者にのみ知られているときは、秘密状態にあるといえ る。ノウ・ハウは、公開されないで秘密のまま保持されることを生命とし、その秘密の期間のみ存続し、公知公用と ︵7︶ なったときに消滅する。 ノウ・ハウを定義することは困難であるが、 ﹁ノウ・ハウとは、産業上の利用において、実際に適用するのに必要 な技術的知識および経験であり、秘密とされているものである﹂と定義して、本稿を進めていきたいとおもう。 ︵1︶ ︵2︶ ︵3︶ ︵4︶ 土井﹁ノウ・ハウ﹂一二頁、大隅﹁ノウ ↓償騰類Φびぎ箆こ℃●憲 小野﹁前掲﹂五四九頁。 O巴一筥鋤瓢欝讐箆こやお刈 ノウ・ハウの現物出資 ・ハウの貸借対照表能力﹂前掲三一五頁、 小野﹁前掲﹂五四五頁以下参照。 七五
((
65
)) ︵7︶東洋法学
紋谷﹁前掲﹂五七三頁。 特許制度は、特許権者に対して一定期間独占権を与える代りに、発明を公開、実施する義務を課し、 可侵義務を課し、もって産業の発達に寄与しようとするものである。 これに対し、特許権の存続期間は有限である。すなわち.出願公告の霞から一五年である。ただし. ○年をこえることができない︵特許法第六七条︶。 七六 公衆に対しては、不 特許出願の日から二三 ノウハウの貸借対照表能力
ω 外園からノウ・ハウを導入する場合としては.ノウ・ハウの実施契約︵麟蓉壌−ぎ謎野齢欝圃お弧鷺館鯵魯酔︶ま たはノウ・ハウの譲渡契約︵霧Q 。戯澤簿。纂竃写o蕪かo譲︶の形態をとる場合と.合弁会社︵憲謬講纂霞⑱︶の形態を ︵王︶︵2︶ とる場合とがある。 ノウ・ハウの実施契約においては.その契約期間が規定されているが.その期間が満了した場合に更新するか否か はわからない。また.ノウ・ハウを導入した者は.契約終了後に返還しなければならないが.いったん覚えたものを 返還する︵忘れる︶ということは不可能である。このような理由から、わが国の企業と長期間密接に関係を続けたい ︵3︶︵塁︶ 場合や経営に参加したい場合には.合弁会社を設立するのである。このときに、外国の企業は.ノウ・ハウおよび特 ︵5︶ 許権を現物出資するのに対し、わが国の企業は現金出資をするのである。 この場合に、財産的価値を評価することが困難なノウ・ハウを.株式会社において現物出資の目的とすると、その評価を過大に評価することもあり、資本の充実を害することになる。株式会社において最も重要視すべき資本充実の 原則に反することは、会社の財産のみを担保とする会社債権者を害することになり、また、金銭出資をした他の株主 の損失において、ノウ・ハウの出資者を不当に利得させるおそれがある。このような理由から、ノウ.ハウの現物出 資を認めることに疑問をもたれる見解もある。 商法は、法文中に現物出資の概念規定を明確にしていないので、いかなるものが現物出資の目的物として適格性を 有するかが問題である。商法は、資本充実のための種々の規定を設けており、現物出資に関する規定もその一還をな すものである。かかる要請に応え、現物出資の目的たりうるための要件として、商法の規定および現物出資制度の目 的からして、志村教授は、ω確定性、㈲現に存する価値物、の評価可能性、⇔独立の譲渡可能性の四つの要件を完備 い6︶ することが必要であると解されるが、通説は、現物出資の目的となりうる財産は、貸借対照表に資産としてかかげる ことができるかぎり、その種類を問わないとするから、動産、不動産、債権、鉱業権、有価証券、特許権などの権利 のほか、得意先、営業の秘訣などの経済上の重要な価値を有する事実上の財産および営業の全部または一部も現物出 ︵7︶︵8︶ 資の目的となりうるとする。 したがって、ノウ・ハウが貸借対照表に資産として計上されうるものであれば、現物出資の目的になりうることに なる。そこでノウ・ハウの貸借対照表能力︵霧器器魯豪蔓o︷ζo撃ぎ妻8ぴ巴き8魯Φ2﹃鼻く巴蓼無す○響 ぎ名︶について述べることにする。 ︵1︶ 合弁会社の重要性について、 ノウ・ハウの現物出資 永田大二郎﹁実施契約﹂二一七頁は、 ノウ・ハウは、 ﹁一旦教えれば取返しのできないもの 七七
︵2︶ ︵3︶ ︵4︶ ((
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である。教えただけで相手の会社に逃げられてしまってはつまらないという考え方から、相手方との関係を長く続けたい という希望がその一つの主な動機ではないかと思う。また、外国と技術提携するのに、その会社が合弁会祉でなければ提 携せぬという原則をとっている場合、例えば、アメリカ合衆国の会社がフランスとかイギリスとかで合弁会社をつくっ て.それにライセンスを与えている場合に.日本だけに例外を認めるわけにはいかない場合がある。このことも大きな原 因の一つである﹂といわれる。 技術援助契約と合弁会社設立契約の相違点にっいて.松技遽夫﹁合弁会社の法律実務﹂六三頁は. ﹁技術援助契約は民法 典には分類きれていないが有償・双務の債権契約でライセンサーとライ働ンシーとの権利義務の関係を定めるものであ る、そこにはギブ・アンド・テイクの思想が聡瞭に現われてい葛﹂が.合弁会社設立契約は﹁会社設立と運営という協働 行為に関する舎意で.権利義務の対立関係より合同行為・協働行為として理解すべ愚ものである﹂と述べられる、 五遡女﹁前掲は二六頁以下は.産業分野の禽歯化によ参.先づ外国資本が企図するものは.企業と資本の進晦であり.商 品市場の支配である。そして.これらの方法で独占または支配の利が得られない場合のみ.技術の販売による作戦を企図 するのが常であるといわれる。また.鈴鎖嘆前掲ヒ一三頁以下は、最近.外国の企業は技術は金だけでは売らないという ケースが多くなり.技術を与える代りに経営にも参加させるように主張する。このように技術と資本とはしだいにきりは なせない状態になりつつあると述べられる。 国民経済的観点からみれば.外国資本との合弁方式には種々の問題があるが.この点にっいて.小津﹁前掲﹂七二頁以下 は、第一に.企業の細分化を招き、企業規模の拡大化に逆行し.場合によっては、企業の合岡.合併に支障となることが あるとされ.第二に.経営の多角化.総合化によりえられるべき各部門間の損益プールという合理化効果を減殺する可能 性をもっているときれ.第三に.経営権の自主性を喪失し.産業内の自主調整など産業政策の滲透に障害となるおそれが あるから.合弁方式の濫用は.わが国の企業にとっても産業全体にとっても決して好ましいことではないと述べられる。 大隅﹁技術提携﹂前掲一七一頁。 志村治美﹁現物出資の目的物としての適格性﹂大森先生還暦記念・商法・保険法の諸問題、三〇頁以下、なお、確定性と は、何が現物出資の目的物として出資されるかを客観的に明確化しうることを意味し、次に、現に存する価値物とは、現︵7︶ ︵8︶ 物出資制度の目的からして要請される要件であるとされ、さらに、評価可能性については、現物出資の対価として株式が 与えられる以上その目的物にっき客観的な評価方法が存在することが必要となるとされ、最後に、独立の譲渡可能性も、 商法第一七二条、第二八○条の九第一項が﹁給付スルコトヲ要ス﹂と定めていることからも要件としなければならないと 述べられる。 大森忠夫﹁新版会社法講義︵改訂版︶﹂八七頁、鈴木竹雄﹁新版会社法全訂第一版﹂五〇頁、石井照久﹁会社法上巻﹂八 五頁、上柳克郎﹁注釈会社法図﹂九三頁、大隅健一郎﹁新版会社法概説﹂五三貝、今井宏﹁変態設立事項﹂総合判例研究 叢書商法ω一〇三頁、三東三司﹁逐条判例会社法全書2﹂五四頁、加美和照﹁現物出資・財産引受・事後設立し法学演習 講座⑥会社法七五頁。 アメリカ法にっいては、大森忠夫﹁アメリカ株式会社の一特色﹂英米会社法研究一七頁以下参照。なおドイッでは、株式 の券面額または券面額以上の発行価格の払込によらないで給付すべき出資を現物出資︵留畠魚巳品9︶といい、現物出資 の目的物となりうるものは、貸借対照表に記載能力のある財産であり、かつ譲渡可能なものであると解されている。ドイ ツ法については、志村治美﹁現物設立と事後設立ードイッ法との比較においてー﹂西南学院大商学論集二巻三号九 三頁以下参照。 ω 貸借対照表に資産として計上されうるための要件としては、ω金銭で表示しうる価値を有すること、㈲譲渡が 可能であること、⑲法的保護をうけるものであること、の三つの要件を具備することが必要であるから、ノウ・ハウ が、この三つの要件を具備するか否かということについて順次検討してみよう。 ω ノウ・ハウは金銭で表示しうる価値を有するのであろうか 企業間の競争の激烈な今日、わが国内において、また国際間において優位な地位を占めるためには、競争関係にあ ノウ・ハウの現物出資 七九
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る他の企業よりも優秀な技術を開発しなければならないから.このために企業は多額の費用、時間および労力をかけ て研究している。 このように多額の研究費、時間および労力をかけて技術を開発しても、特許権を取得するまでは長期間を要するの が現状である。特許権を取得するためには、特許出願をしなければならないが、特許法は出願の鶏から一年六ヵ月を 経過したときは技術を公開する出願公開制度を採用しているから︵瑚鰭磁壌ハV.技術の内容を競争関係にある他の企業に 教えることになり.他の企業によって.それよりもさらに優秀な技術を開発されることにより.その技術の財産的価 値は喪失してしまう・特許の出願をすると・技術は公開されるが・審査が遅延し・出願公開から出願公告︵講鰭法第烈︶ま で.さらに特許権を取得するまでは長期間を要するので.技術を開発した企業は.特許の出願をしないで.ノウ・ハ ウとして秘密のまま技術を利用することもある。 特許法は、技術を開発した者に一定期間独占権を与える代りに.発明を公開する義務を課している。技術を公開し 特許権を取得すると.特許権者は業として特許発明の実施をする権利を専有し︵嚇鰭法茎ハ︶.特許法によって強く保護さ れるのであるが.技術を公開して独占権をうるよりも.公開しないで利用する方が有利な場合には.ノウ・ハウとし ︵i︶ て秘密のまま利用するのである。 また技術の進歩した今βでは、技術を開発した直後に、それよりもさらに優秀な技術を他の企業によって開発きれ ることも多く、特許権を取得しても、その独占状態は短期間になってきているので特許の出願をしない場合もある。 ︵2︶ ノウ・ハウには、特許要件を具備しないので特許を取得することができないものもあるが、産業上の利用性、新規性および進歩性など︵帯嬬継曝二辱蹴孫ボ覇紅︶の特許要件を具備して特許を取得することができる場合でも、技術の公開をさ けるために特許を取得していないものもある。 このようにノウ・ハウは、技術的価値および経済的価値において特許権と同様にすぐれたものがある。実際に、ノ ︵3︶ ウ・ハウの経済的価値は高く数億円の価値があることもある。優秀な技術を開発するためには、多額の費用、時問お よび労力を要するのであるが、先進国から優秀な技術を導入して、これを利用すれば、このような多額の研究費、時 間および労力を要することなく、直ちに生産することができるから、ノウ・ハウは高い経済的価値を有するのであ る。このように、ノウ・ハウは、経済的価値を有し、国際的取引の対象となっており、金銭で表示しうる価値を有し ている。 しかし、ノウ・ハウの財産的性質を論じるにはいろいろの困難な問題がある。この点について、ラドクリフ卿 ︵9劉閑巴。露8︶は、 ﹁﹃ノウ・ハウ﹄について、私はこれを資産︵霧器ほ︶として述べることに異論はない。これ は無形のもの︵冒鑓轟鷺Φ︶である。しかし、のれん︵αQo&且εも同じである。−⋮とれを当然の貸借対照表の項目 ︵び巴き8路8江審霧︶とは考えない。しかし、これはロールス・ロイスのものとして生産、および開発と結びついた とき現実となる。そして、その全部ではないが大部分は、各種のライセンス契約︵ぽ露8お器。簿窪酔︶に定められ たリスト、図面ならびに製造および技術資料に有形的な記録︵B象窪巴器8&︶がみられる。⋮⋮それは、工場や事 務所の建物、倉庫、プラントや機械、あるいは特許権、著作権や商標権のような独立した法律上の権利、さらにのれ んとさえ容易に評価できない。 ﹃ノウ・ハウ﹄は高度に特殊化された生産組織︵窯αq匡鴇ω需畠冴&嘆○餌9ぎ欝07 ノウ・ハウの現物出資 八一
東洋法学 八二
σq き盟鉱8︶にゆきわたり、かつ、製造業者がその生産目的のために保持し、その製品にその価値を表示するかぎり、 これを固定資本︵︷鍵亀8冨巴︶と表現するのは正しいとおもうが、そのように表現するにあたっては、 ﹃ノウ・ハ ウ﹄を固定資本のより直接な要素︵。 。嘗餌蒔簿ぎ暑錠創簿欝Φ纂ω︶から区別する固有の相違によって容易に否定できる 類推をしているということを理解しなければならない。⋮⋮﹃ノウ・ハウ﹄はいかなる意味においても.製造業者に その価値を失うことなく、製造業者自身の営業外の他人に伝達し、または分けることのできる特異の性質を有する。 ⋮とれらの考察から. ﹃ノウ・ハウ﹄は.類推によって固定資本乏述べられる財産であるが.それは、麟、の所有者 臼身が決定する用途によって非常に容易にそのカテゴリーを変更することのできる種類の無形のものである。ーーし ハ慈︶ たがって.私は. ﹃ノウ・ハウ﹄は.固定資本の一つの項目である﹂と述べている。 ㈱ ノウ・ハウは.譲渡が可能なものであろうか 技術水準の低い国では.技術の遅れをとりもどすために.工業先進国から技術を導入することが多い。わが国が戦 後欧米先進国との技術格差を縮め.高度経済成長をもたらしたのは.外国から優秀な技術を積極的に導入したからで ある。わが国は.外国の技術に依存し.工業先進国から技術を導入し.これを吸収することによって発展してきたの である。 この場合に.特許とともにノウ・ハウが.技術援助契約の対象となっているのである。企業は.技術を開発するた めに、多くの費用、時間および労力をかけて研究しているのであるが、企業が期待するような優秀な技術を開発する ことは稀であるから、ノウ・ハウを導入する方が有利な場合がある。他方、技術を開発した企業側としても、技術進歩が急激化している今日では、その技術の開発直後に、他の企業によって、それよりもきらに優秀な技術を開発され ることにより、その技術の価値は喪失してしまうから、自己の技術的価値、経済的価値がある間に、技術そのものを 売って利益をはかるようになってきている。多額の研究投資を回収するには、自国で製品を生産し輸出をすることが 必ずしも、有利とはいえないし、また、早期に研究投資を回収するためには、広く国際的に技術を売る方が有利だから である。 また特許を導入する場合でも、技術の急速な進歩によって、技術が複雑、高度になると、特許明細書の記載だけで は、実際にその実施の過程において、技術上の操作などの詳細はわからないから、その特許の価値が減じない間に少 しでも早く生産し販売するために、特許とともにノウ・ハウが導入されることが多い。ノウ・ハウは、重要な財産的 価値があるものであると同時に、高度に発達した現在の資本主義機構の下においては、それ自体一種の商品として移 ︵5︶ 転しているといわれるように、ノウ・ハウは、技術援助契約などにおいて、特許とともに譲渡され、あるいはノウ・ ハウ自体単独で譲渡されている。 の ノウ・ハウは、法的保護をうけるものであろうか ノウ・ハウの保護を広く認めると、発明の公開を奨励する特許制度の意義が失われるとして、ノウ・ハウの保護に ︵6︶ 批判的見解がある。たしかに、発明を公開しないで、秘密のまま保持することは、産業の発展、技術の進歩を阻害す るものであり、特許制度に反することになる。しかし、ノウ・ハウは経済的価値のある財産であり、企業問における 競争上の優位を占めるために必要なものであるから、競争関係にある企業は、優位な地位を占めるためにノウ・ハウ ノウ・、ハウの現物出資 八三
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を不正な手段によって.これを手に入れようとする。このような場合にノウ・ハゥを法的に保護する必要がある。 そこで.王・C・Cはノウ・ハウを国際的に保護することが必要であるとして原則を定めた決議をした。これによ ると.企業が、他の企業の秘密ノウ・ハウ︵む 。8議二塗・墾ぎ毒︶を.その企業の同意をえないで使用すること︵霧①︶ 漏洩すること︵黛謹蒔Φ︶.譲渡すること︵窪勲霧︷禽︶は不法であるとし.この場合においては.差止命令︵︸三誘&§︶ もしくは損害賠償命令︵Φ義澱欝鷲矯欝総懸鷺も ・︶またはその爾方ができるとしている。また.B・亙・R・P・亙が 作成した﹁発鵬に関する開発途上国のための模範法﹂も第二編、技術的ノウ・ハウ︵浮魯繊欝圃團訟黛撃瞬鍛欄︶にお いて.第三者による不法な使用.開示または伝達から保護きれることを規定している︵雛灘鷹幾﹀。きらに.アメリカ含 衆国諸州の判例によウて確立された原則を集約した不法行為法リストメント︵鑓塗轡鶏Φ羅鋤鶴鉱轡帯鍔壌鑑聴緯琶 は.トレード・シークレッッを特権なく開示または使用する者に責任をおわせている︵鵬鮎五︶。 英米においては.財産理論︵鷺書R蔓鮪8曙︶と信頼関係理論︵8獣籏農紳巨箆舞ご霧鷺℃跨8還︶によってノウ ︵7︶ ・ハウの侵害に対し.損害賠償請求権と差止請求権を認めている。これに対し、わが国の判例は、ノウ・ハウが権利 的なものとして第三者にも強制的にこれを認めさせるだけの効力を法律が許容しているとまでは現在のところ解しえ ︵8﹀ ないとして差止請求権を否定している。また.学説も損害賠償請求権を認めることについては問題がないが.差止請 ︵9︶ 求権は認められないとする見解がある。しかし.しかし.ノウ・ハウは公開されないで秘密のまま保持されることを 生命とし、公知公用となったときに消滅するものであるから、侵害が現になされている侵害行為を阻止することによ り、ノウ・ハウの保護は完全である。防害排除譜求権を認めるか否かは被侵害利益の強固さの程度と、侵害行為の悪性の度合、さらに妨害排除を認めることによって生ずべき侵害者の犠牲の程度と、妨害排除を否認することによって ︵10︶ 生ずべき被害者の程度なども相関的に考慮して決定しようとする見解は、ノウ・ハウの侵害の場合にも妥当する。し たがって、ノウ・ハウの侵害についても差止請求権を認めることができるであろうし、また認めることが必要であ る。 このように、ノウ・ハウは、ω金銭で表示しうる価値を有し、@譲渡も可能であり、の法的保護もうけるものであ るから、貸借対照表に資産として計上されうる。また、前述の志村教授が主張されるω確定性、㈲現に存する価値 物、の評価可能性、◎独立の譲渡可能性の四つの要件を具備することも、これまで述べたことから窺うことができる であろう。したがって、ノウ・ハウは現物出資の目的になりうると解することができる。 ︵王︶ ︵2︶ ︵3︶ 9一ぎき評薫貸︸PおOは、アイディアが有能な特許能力のある発明︵短$馨呂冨汐お旨δ⇒︶の場合には、特許法の ルール、たとえば、均等の原理︵30鍵ぎ①98巳く巴o馨。 。︶などを適用しうる。トレ⋮ド・シークレッツの所有者︵o毛− 器騰︶は、特許能力がある場含は、それを特許出願するか、それを秘密のまま利用するか否を選択することができる。 ﹁南 京錠は特許より強固︵冒亀o畠竃簿段夢碧鴬冨$馨と︵90訂蒙畠露OO。∼H暮Φ導簿δ欝一奨畠900こ8罫ト 悔ρ89一9︾簿口O一〇 。]︶であると、考えれば、アイディアを公開して、特許法の保護を受けるよりは、トレード・ シークレッツとして保持するであろうという。 ○巴ざ弩夢憲傘も鳥8は、トレード・シークレッツは必ずしも新しさ︵幕類︶新規さ︵8︿巴︶またはユニークさ︵§5ま︶ は必要でないという・ 小関健二﹁東京地裁における﹃ノウ・ハウ﹄の取扱い実績﹂商事法務研究一九一号七頁によると、ノウ・ハウは特許権な ノウ・ハウの現物出資 八五
︵4︶ ︵5︶ ︵慕︶ ︵7︶ ︵8︶ ︵9︶ ︵10︶ 東 洋 法 学 八六 どと合体することによって経済的価値を発揮するから、各別に評価することは無意昧であり、いずれの場合も一体として の価格が評価されており、ノウ・ハウの現物出資として東京地裁に検査役選任の露請のあった一三件のうちう、一億円未 満が一件、一億円以上二億円未満が五件、二億円以上三億円未満が二件、四億円以上五億円未満が一件、五億円以上が四 件となっている。 沁亀甲沁昌8ピ狂”︿﹂①簿2︵お総︶榊≧担切夷聴o 。黛 紋谷﹁前掲﹂五七五頁。 染野義信・染野啓子﹁構報社会におけるノウ・ハウ規制の理論﹂ジ講婆スト閥二八号臓四頁以下。 ω礁㌘欝欝蹴撒羅雲欝㌘磁黛礪9隷レ画器囲難鋼蝋鱒愈搾欝一8︵感購︶事件におい甲・.ホームズ判事 畿騨織蔀瓢? 叢繋は.﹁商標やトレード・シークレッツに適用される﹃財産﹄、.欝魯韓麟・、、という用語は.法が誠実︵讐鼠窯終︶の 基本的要求をなす第一次的な事実の第二次的結果の米分析な表現である。原皆が価値ある秘密を持っているか否かに関係 なく.被告は受諾した特甥の信頼︵。 ・鷲臨瓢蓉蕪階緊Φ︶によって.その事実を知ゆている。財産は否定できるが儒頼は 否定できない︵魂欝霞o驚憎蔓隷塁欝瓢魯繍筏“ぴ繋轡濡撫態鷺欝結欝欝禽欝︶。濫曳れゆえ.この事実の出発点は財産 でも正当な法の手続でもなく.被告が原告と信頼関係︵8圃臨藷獣難器嗣鯨欝窮︶にたったこともしくはこれらのいずれか である。これが対立となっているが,確認されるべき第一のことは、被告がそのうけた信託を不正に濫用してはならない ことである。これが信頼関係における通常の義務である。たとえ被告の秘密をしったことによって、いかなる不利益をう けようとも.被告は誠実に義務︵び幾傷$証簿酔冨び亀○鼠︶を負わなければならない﹂と判示した。これは、トレード・ シークレッツの保護の根拠について財産理論を疑問としたホームズ判事が、使弔者と被罵者との信頼関係に求めるべきで あるとしたものであり.その後の判例に引用されている。 東京高決昭和閥丁九・五下級民集一七巻九二〇号七六九頁。 大隅﹁ノウ・ハウとその譲渡﹂前掲一四頁。 舟橋諄一﹁物権法﹂三六頁以下、同﹁所有権の濫用﹂権利の濫用︵中︶二六頁以下。
㈹ ノウ・ハウは、,貸借対照表の資産の部に計上しうるものであるが、自家創設のノウハウはいまだ会計上の資産 としての取扱いをうけることなく、他から有償で譲受けまたは合併によって取得した場合にかぎり、その取得価格の ︵王︶ 範囲内で、これを貸借対照表の資産の部に計上しうるとする見解がある。 その理由として、ノウ・ハウは、法律上いわゆる物︵嘱融鱗︶でもなく、またノウ・ハウの中には特許の対象となりう るものもあるが、通常は特許の対象となりにくいか、またはそれに適しないものであるから、通常は特許権のような 無体財産権の対象ともならない。このようにノウ・ハウは法律上の権利ではないが、それ自体独自の財産価値を有し ている。この点において、ノウ・ハウは得意先・仕入先関係。営業上の秘訣などのいわゆるのれんに類似するといえ ︵2︶ るから、商法第二八五条ノ七の規定をノウ・ハウにも類推適用すべきであろうとされる。 しかし、ノウ・ハウはのれんよりも、むしろ特許権に類似していると解する。技術を開発した企業は、技術を公 開して特許権を取得するか、それともノウ・ハウとして秘密のまま利用するか選択することになるが、企業間の競争 の激しい今日では、特許の出願をしないで、ノウ・ハウとして秘密のまま実施することも多い。特許要件を具備し、 特許権を取得することができる場合でも、技術の公開をさけるため、特許権を取得しないこともある。このようなノ ウ・ハウは、技術的価値および経済的価値において特許権に劣らないものが多い。このようにノウ・ハウは経済的価 ︵3︶ 値を有し、国際的にも取引の対象となっており、法的保護もうけるものであるから無体財産権であると解する。アメ ︵4︶ リカでは、単なるアイディスに対しても財産権を認めた判例がある。ノウ・ハウは法律上の権利ではなく、単に財産 的価値を有する事実関係であるから、のれんに類似すると解されているが、むしろ特許権に類似した性質を有してい ノウ・ハウの現物出資 八七
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︵5︶ ると解する。 したがって、ノウ・ハウは自家創設の場合および無償取得の場合にも貸借対照表能力が認められるのか否かは.特 許権に準じて老えればよい。 商法は第二八五条ノ七に、のれんについては.有償取得または合併により取得した場合にかぎり.貸借対照表の資 嘗︶ 産の部に計上することができるものとしているが.特許権その他の無体財産権については.明文の規定がないので. 有償取得の場合だけでなく.無償取得の場合も認められるのか.また霞家創設の場合も認められるのか.見解が分れ ている. まずはじめに自家創設の場合について検討してみたい。のれんと特許権などの無体財産権とは.法的性質︵のれん は.法律上の権利ではなく.企業の有している事実関係である︶およびその実質上の差異︵のれんは.その換価性や 換価価値が通常の資産のように明白でない︶があるから.のれんについては、商法第二八五条ノ七の特別規定を設け 有償譲受または合併の場合にかぎり.資産の部に計上できるとしている。これに対して.特許権その他の無体財産権 は.当然に商法第三四条二号の固定資産の中に入れ.有償譲受または.合併の場合にかぎらず.自家創設の場合でも その取得価格のあるかぎり.その取得価格で評価して貸借対照表の資産の部に計上できるし.またしなければならな ︵7︶ いと解されている。 ノウ・ハウは.のれんに類似する事実上の財産であるから.自家創設のノウ・ハウは貸借対照表の資産の部に計上 することができないとする見解があるが、ノウ・ハウは法的性質において特許権に類似する無体財産権であると解するから、自家創設の場合でも、そのために直接支出した費用をもって取得価格とし、貸借対照表能力を認めるべきで ︵8︶ あろう。 次に、無償取得の場合について検討してみよう。この場合については、原価としての取得価格はないものとしてこ め9︶ の資産は簿外資産として評価しないものとする見解があるが、公正な評価額を付し、これを取得価格として第三四条 ︵10︶ の償却をなすべきものとする見解が妥当であるとおもう。ノウ・ハウは秘密のものであるから、無償取得の場合には、 その適正かつ客観的な評価が困難であり過大評価の危険もあるし、また、このような手段で入手されるノウ・ハウが いつまで企業に超過収益力をもたらすか、その継続性も疑問であるとして、ノウ・ハウを無償取得した場合に貸借対 ︵1 1︶ 照表能力を否定される見解がある。たしかにノウ・ハウの評価には、客観的要素のほかに主観的要素も加味されてい るが、これを控え目に評価し、過大に評価しないで公正な評価額を付し、これを取得価格として貸借対照表に計上で きると解する。したがって、ノウ・ハウを無償取得した場合も貸借対照表能力を認めるべきであろう。 すなわち、ノウ・ハウを有償取得した場合のみでなく無償取得した場合および自家創設のノウ・ハウについても貸 借対照表能力を認めるべきであろう。 ((
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)) 大隅﹁ノウ・ハウの現物出資﹂前掲一九三頁、同﹁ノウ・ハウの貸借対照表能力﹂前掲三二一頁。 大隅﹁ノウ・ハウの現物出資﹂前掲一八九頁は、のれんが多年の営業活動の沈澱物として営業に定着したもので、営業の 収益力がこれに依存することが多いのと同様に、ノウ・ハウもまた特定の生産手続の遂行の過程において生じた沈澱物と いうべきものにほかならなく、それ自体高い経済的価値を有するが、権利として保護されるものではない。その意味で、 ノウ・ハウの現物出資 八九︵3︶ ︵4︶ ︵5︶ ︵6︶ ︵7︶ ︵8︶ ︵9︶ ︵憩︶ 東洋 法学 九〇 のれんと同様に事実上の財産とよばれるべきものであると解される。 拙稿﹁ノウ・ハウの法的性質日﹂東洋法学第一六巻一号七七頁以下、同﹁ノウ・ハウの法的性質口﹂東洋法学第一八巻一 号七一頁以下参照。 ぼぴQ槻簿酔簿竃器器碗oび霧80ρぎρ︿・罵①憲詳3遍ぎ輿︾噂℃。爵9一総塑錦8①︵陣8㎝︶ ノウ・ハウと特許との相違点については、拙稿﹁ノウ・ハウの法的性質8﹂前掲八八頁以下。 のれんについては.長谷川雄一﹁暖簾の貸借対照表能力にっいて﹂田申誠二先生古稀記念・現代商法学の諸問題四〇二頁 以下参照。 醗申誠二﹁会社法詳論下巻臨六欝九頁以下。黒木正憲﹁新商法にもとづく会社決算実務]九閥頁.西山患範﹁注釈会社法 ⑥﹂一〇四頁以下参照。 吉永栄助﹁注釈会社法圏]澱八九頁.庄政志﹁会社の計算上巻﹂二八○頁は.自家創設のノウ・ハウも.特許権の対象と なる程度になれば.そのため濾接に支出した費用があれば.ノウ・ハウとして貸借対照表に計上できると解きれる.しか し.特許権の対象にもならない程度に技術性の低いノウ・ハウはその貸借対照表能力を否定される。その理由としては. このようなノウ・ハウは、有罵性の程度が低く、しかも.企業の秘密とされているから客観性がなく.評価が困難であり 必ずしも企業に超過収益力をもたらすとはかぎらないからであるとされる。 石井﹁会社法下巻﹂壬二〇頁.大住達雄﹁新版商法の計算理論﹂一二頁以下は.﹁固定資産を無償取得したときは.商 法の解釈としては.その取得価格を零とするのが原則であって名目的に備忘価格を付することができるとすべきではある が.企業会計原則では. ﹃贈与によって固定資産を取得した場合には.公正な評価格による﹂と定めていたのを.第一次 修正案では.その取得原因を贈与から無償取得に、またその対象を固定資産から資産全般に拡張し. ﹃贈与その他無償で 取得した資産ならびに現物串資および交換によって取得した資産は、原則として、公正な評価額をもって取得原価とみな す﹄と改めた。しかし、これも商法の解釈に反するので、第二次修正案では、この条項を全部削除した﹂と述べられる。 類串﹁前掲﹂六三七頁以下、柿崎栄治﹁株式会社法辞典﹂九九三頁。
︵n︶ 吉永﹁前掲﹂四八九頁、庄﹁前掲﹂二八○頁、大住﹁前掲﹂一四一頁。
四 ノウ ハウの履行
商法の規定によると、現物出資者は、会社の成立前または新株発行の効力発生前に現物出資の目的たる財産の全部 を給付しなければならない︵瑚興虚雛課ん篠能莞瞭︶が、ノウ・ハゥは、産業上の利用において、実際に適用するのに必要な 技術的知識および経験であり秘密とされているものであるから、会社成立前または新株発行の効力発生前に全部の履 行を完了することはきわめて困難である。 たとえば、技術者を派遣して現実に技術を指導すべき場合のように、ノウ・ハウには将来の給付も含まれているか ら、ノウ・ハウの現実的履行は会社の成立後、しかもその成立後相当期間を経てはじめて完了されるものもある。こ のように、出資の履行が会社成立後の将来未必の時期にかかるような財産が、資本充実の立前から現物出資として許 ︵三︶ されるか否か疑問であるとされるいる。 しかし、ノウ・ハウの現物出資に類似したものに、債権の現物出資がある。債権はその性質上その内容の実現は将 来にかかるものであり、しかも満足をうけるか否か不確定の要素があるが、債権は現物出資の目的になりうるとされ ︵2︶︵3︶ ているから、これに類似しているノウ・ハウの現物出資も肯定すべきであろう。 現物出資者は、払込の期醸に出資の目的たる財産の全部を給付することを要する。登記・登録も払込期臼になすこ ノウ・ハウの現物出資 九一東洋法学 九二
とを要するとすれば、会社が成立するまでは.会社名義による登録をすることはできないから、まず発起人名義の登 記・登録をし、次に会社成立後に会社名義に移転しなければならない。そこで.登記・登録その他の権利の設定また は移転をもって第三者に対抗するために必要な行為は.会社成立後になすことができるものとされている︵繭鰍麟難七︶。 すなわち、現物出資者は.会社成立前または新株発行の効力発生前に現物出資の給付をなすことを要するが.例外と して.会社成立後に現物出資の給付をなすことを認めている。しかし.この場合にも.資本充実を確圃ならしめるた ︵ゑ め.登記・登録の手続に必要な書類を発起人に交付する嬬とを要すると解されている. ノウ・ハウは.技術的知識および経験であり.秘密とされているものであるが.その申には.設計・図面・説明書 などの有形な文書・図型などに表現することができるものと.技術者を工場に巡遣し.実施について実際に技術指導 ︵5︶ を要するような無形のものとがある。このように.ノウ・ハウには有形の資料と無形のものとがあり.設計・図面・ 説明などの有形の文書・図型などに表現できる場合でも.それらに含まれている知識および経験がノウ・ハウであり 有形の資料そのものがノウ・ハウではない。 ノウ・ハウが文書・図型などに表現できる場合は.会社成立前または新株発行の効力発生前に有形の資料を提供す ることができるが.工場に技術者を巡遣し.実施について実際の技術指導を要する場合には.会社成立後または新株 発行の効力発生後に履行することになる。営業が出資の目的となっている場合において.営業上の秘訣の伝授.得意 先または取引先への紹介のごとく、その性質上会社の成立前に履行することができないものは、会社成立後遅滞なく ︵6︶ 履行すれば足りると解されているから、これと同様に.ノウ・ハウの場合にも技術者を工場に巡遣し.実施について技術指導を要するような場合には、その性質上会社成立前または新株発行の効力発生前に全部を履行する.㌧とは不可 ︵7︶ 能であるから、会社成立後または新株発行の効力発生後に遅滞なく履行すればよいであろう。 前述のように、商法第一七二条但書の類推適用をうける場合には、資本充実を確固ならしめるため、登記・登録の 手続をとるために必要な書類を発起人総代に交付することを要すると解されているから、これと同様に、無形のノウ ・ハウの場合にも、会社成立前から技術指導者を用意し、会社成立後いつでも技術の指導ができるように用意してお くことが必要である。 ︵1︶ ︵2︶ ︵3︶ 長谷部﹁前掲﹂四頁、しかし、同教授は、経済の需要は時に強行法規をも破るものであり、すでに譲渡担保、根抵当、白 紙委任状附株金払込領収証の流通を認めたように、ノウ・ハウの現物出資をも認めることになるのではないかと述べられ るo 田中・吉永・山村﹁前掲﹂三三二頁は、一定の必要技術の給付を請求する債権を出資するという意味で、ノウ・ハウは現 物出資たりうると解される。松枝﹁前掲﹂一一八頁参照。 長谷部﹁前掲﹂五頁は、第三者に対する金銭債権は、その実価が常に債務者の資力により左右されるだけでなく、債務者 の履行意思のいかんにより、その現金化にはきわめて多くの困難ないし費用をともなうことがあるから、弁済期がすでに 到来した評緬可能な債権はともかく、少くとも一般金銭債権は現物出資の目的になりえないのではないかと疑問視される。 これに対し、大隅﹁ノウ・ハウの現物出資﹂前掲二〇一頁は、弁済期未到来の第三者に対する金銭債権の現物出資が資本 充実の原則からみて疑問視されるならば、会社が取引によりかかる債権を取得することも資本充実の原則上疑問となりか ねないのではなかろうかと述べられる。また、志村﹁現物出資の目的物としての適格性﹂前掲四八頁は、長谷部教授は、第 三者に対する金銭債権につき、第三者の資力いかんによって出資の履行が不確実となることを理由に適格性がないとされ るが、その場合は、かかる不確実な債権を受領した発起人の責任として払込担保責任の問題になるといわれる。 ノウ・ハウの現物出資 九三
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