• 検索結果がありません。

「がんを合併した統合失調症患者への在宅医療支援体制の取り組み」

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "「がんを合併した統合失調症患者への在宅医療支援体制の取り組み」"

Copied!
20
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)テーマ. がんを合併した統合失調症患者への在宅医療支援体制の取り組み. 申請者名 健康科学大学福祉心理学科荒井春生. 助成対象年度 2012年度前期. 提出4年月日 2013年8月30日.

(2) I.はじめに. わが国では、1994年に精神科病院の訪問看護サービスが本格化してから約20年が経過している。精 神科病院で行う訪問看護の意義は、在宅で暮らす精神障害者の社会復帰と再発防止に対する支援であり、 対象者の多くは統合失調症患者である。さらに、訪問看護で行う主なサービス内容は、患者の症状の再 発や再燃を予防するための服薬指導1)2)、ADLの向上帥、社会生活機能の回復訓練4)、対人関係を円滑. にして就労につなげるための支援5)、QOLを向上するための援助帥7)、日常生活の援助帥、家族の支援9) '⑩、身体合併症の支援'1)などが先行研究から明らかにされており、精神科病院の訪問看護師は柔軟かつ 多様な状況の中で患者を支援することが求められている。. 一方、わが国における死亡原因の第1位はがんであり、今後も増加するがん患者への対策として2006 年にがん対策基本法が制定された。この法に基づく理念は、「がん研究の推進」「地域格差の是正」「患者 の意向を尊重した医療体制の整備」の3つに集約される12)。さらにその具体的な施策の1つとして、在 宅で暮らすがん患者に、「住み慣れた家庭や地域での療養も選択できるよう、在宅医療の充実を図るこ と」’3)が提言された。. しかしながら、地域で暮らす統合失調症患者ががんを合併した場合、患者の意向を尊重した治療の選 択や在宅医療を活用した訪問看護サービス、なかでも緩和ケアが充実しているとは言い難い。この背景. には、患者の幻覚や妄想などの精神症状とがんに伴う様々な痛み、不'決な症状、精神的不安などの問題 から見極めが非常に難しく'4)'帥、がんの早期発見や適切な治療が遅れる傾向1句が報告されている。また、. 一般病院の訪問看護師からは、「統合失調症患者の訴えが非常に少なく対応に不安がある」「患者のみな らず家族とのコミュニケーションが取りにくい」「患者の精神症状が悪くなった時、どんなケアをしてい いのか戸惑う」などの理由から、一般病院と単科精神科病院の訪問看護室が連携して、患者にとってよ り良い緩和ケアを提供しているとは言い難い状況である。. このような状況から、地域で暮らす統合失調症患者ががんを合併した時、患者へのがん告知の是非、 治療病院の選択、家族への支援、日常生活の援助、がんの進行や精神症状の兼ね合いなどについて現状. を把握することは、今後の在宅医療体制における訪問看護サービスの意義や患者のQualityofLifeを 向上するための緩和ケアを考えるために重要である。 これまで、単科の精神科病院で行なわれている訪問看護ケアの内容については、一施設での症例報告. が多く、医療的支援の必要性、福祉サービスの調整など重要性が述べられているが、緩和ケアの具体的 な内容は経験的に蓄積されているのみである。. そこで本研究では、単科精神科病院の訪問看護室に勤務する看護師を対象に、がんを合併した統合失 調症患者に向けた訪問看護サービスでどのような緩和ケアが行われているのか、現状を明らかにするこ とを目的として調査を実施した。. Ⅱ、研究方法. ( 1 ) 駕 蛎 −1−.

(3) 対象地域の選定は、筆者らが平成21年厚生労働省地域保健医療基礎統計の都道府県別精神科在宅訪問 看護施設リストを参考に、茨城県9ケ所・山梨県8ケ所、計17施設に電話で問い合わせを行った。その. 結果、「がんを合併した統合失調症患者に訪問看護を実施している」との回答が得られた13施設に協力 を依頼し、調査への参加と同意が得られた5施設を対象とした。. (2)対象. 筆者らは5施設の対象者に向けて、平成21年4月∼平成24年5月末時点で、「がんを合併した統合 失調症患者に訪問看護ケアを行った経験を持つ」と回答をした26名に、研究の趣旨を口頭と文書で説明 した。その後、研究への協力と参加の意思を確認した13名の訪問看護師を対象とした。. 2.言葉の定義. 本研究で用いる緩和ケアとは、Ⅷ0の緩和ケアの定義'"を参考に、「在宅で暮らす統合失調症患者が、. がんと診断された時に伴う様々な身体的痛み、不快な症状、家族との関係、精神的な不安を和らげ、患 者や家族にとってより良い療養生活を送ってもらうために行うケア」と定義した。. 3.調査内容. (1)自記式質問紙. 対象となった訪問看護師(以下;看護師)13名の基本情報を得るため無記名の個人票を作成した。調. 査項目の内容は、①性別、②年齢、③取得資格、④訪問看護の経験年数、⑤一般病院の経験年数、⑥勤 務状況、⑦訪問看護室の人数、⑧平成21年4月∼平成24年5月末までにがんを合併した患者の人数、. ⑨患者のがんを知ったきっかけ、⑩カンファレンスの頻度、⑪意見を求めた人(複数回答)、以上11項 目である。. 次に、がんを合併した統合失調症患者(以下;患者)の特徴を明らかにするため、⑫性別、⑬年齢、. ⑭入院期間、⑮がんの部位、⑯がんの自覚症状、⑰家族背景、⑬患者への病状説明、⑲家族への病状説 明、⑳がん治療の選択、⑳治療を行った場所、⑳訪問看護の実施回数、⑳がんの療養期間、⑳転帰、以 上13項目の合計24項目を記入してもらった。. (2)看護師へのインタビュー. 筆者らは看護師が調査への同意をした時点で、インタビューの日時と場所を決定した。その後、看護 師と1対1になり、「あなたがこれまで患者さんに大切に行ったケアの内容をお聞かせ下さい」と質問し. た。さらに、「あなたが患者さんとのやりとりを通して困難と感じたケアの内容は何でしょう」「現在、 あなたは患者さんががんを合併した状況をどのように受け止めていますか」について、インタビューガ. イドを作成し聞き取り調査を行った。インタビューの内容は了承を得たのちICレコーダーに録音し、逐 語記録を作成した。 −2−.

(4) 4.調査期間. 平成24年6月1日∼12月30日にデータ収集を行った。. 5.分析方法. 自記式質問紙の24項目については単純集計を行った。また看護師へのインタビューについては、質的. 帰納法による分析を行った。本研究の目的は、単科精神科病院の看護師を対象に、患者にどのような緩 和ケアが行われているのか現状を明らかにすることである。この目的に沿って逐語記録を何度も読み込 み、会話の意味を確認した。まず、時系列ごとに、患者ががんと診断された時、療養期間、看取りの時. 期の3段階に分け、時間的な経過に沿って変化したケアの内容に着目して、それぞれの段階で検討を行 った。分析としては看護師が『大切に行った緩和ケアの内容』、すなわち患者に対する「気配り、配慮、 安心、幸せ、穏やかさ」などを表現していると思われる文脈を1つの単位とした。同様に、看護師が『困 難と感じた緩和ケアの内容』については、「不安、ためらい、苛立ち、葛藤、難しさ、自信の喪失」を表 現していると思われる文脈を1つの単位とした。. その後、逐語記録のデータから『大切にしたケア』と『困難と感じたケア』の主要な内容を抽出し、. ラベル名をつけた。さらに、内容が相似するラベル名同士を集めサブカテゴリー名をつけ、サブカテゴ リー間から共通したテーマを抽出し、それを最終的にカテゴリー名とした。. このような分析の検討を行う過程では、質的研究を専門にしている研究者3名、臨床経験が豊富な訪 問看護ステーションの管理者5名、精神科認定看護師3人と共に解釈に不明な点はない力犠論を重ね、. 例外となるラベルや見落としているラベルがないか、各カテゴリーの関係を逐語録のデータにさかのぼ り、分析の信頼性と妥当性を高めていった。. 6.倫理的配慮. 本研究は、健康科学大学研究倫理委員会と対象となった5病院の医療倫理審査委員会で審議を受け、. 承認を得てから実施した。筆者らは対象者に、本研究の意義、目的、方法、研究参加における自由意志 の尊重、プライバシーの保護、質問紙への記載は無記名であること、研究の途中で協力を中止しても看. 護業務や人事考査に不利益がないことを口頭と文書で説明し了承を得てから行った。また、個人情報を 保護するために対象施設及び対象者に各々ID番号を割り当て匿名化し、全ての調査は個室で行った。. Ⅲ、結果と考察. 1.看護師の概要 看護師の概要を表lに示すb対象となった5施設の訪問看護室の設置形態は、単科精神科病院の併設 型であった。看護師のうち女性が占める割合は76.9%、男性よりも多かった。年齢は、31∼40歳が53.8%. と最も多く、次いで41-50歳が23.0%であった。看護師の資格は正看護師84.6%が最も多かった。また、 精神科認定看護師、精神看護専門看護師、がん専門看護師、ケアマネージャーの資格については13名全 −3−.

(5) 員が未収得であった。. 調査時における訪問看護の経験年数は0∼5年が84.6%、平均3.1年(SD±0.8)と最も多かった。一 般病院の経験年数は0∼5年が53.8%、次いで11∼15年が23.1%とM字型の分布を示していた。この理由 の1つは、対象者の8割近くが女性であり、結婚・出産・育児などのライフサイクルや疾病が影響して 一般病院を退職し、その後数年の休職期間を経て、精神科病院の訪問看護室に再就職したケースとして 多く含まれていることが考えられた。. 勤務状況をみてみると、常勤が92.3%で最も多く、8時30分から17時30分の時間帯で仕事をしてい. た。訪問看護室の人数構成は、准看護師0∼2人、看護師2∼3人・精神保健福祉士0∼2人・作業療法士 1∼2人・介護福祉士1∼2人・ホームヘルパー1∼2人であり、1施設における平均人員は5人以下と回 答した施設が84.6%であった。. 看護師が平成21年4月∼平成24年5月末までに関わったがんを合併した患者の人数は5人以下と全 員が回答しており、平均3.2人(SD±1.4)であった。患者のがんを知ったきっかけは、精神科病院から の申し送りが53.8%で最も多く、次いで「家族からがんの情報を得た」23.1%であった。カンファレン. スの頻度は、「なし」と回答した人が53.8%で最も多く、次いで「問題があった時のみ」が23.1%であっ. た。看護師が患者の対応やケアについて相談し意見を求めた専門職は「同僚」が最も多く28.9%、次い で「精神科医」21.6%、他の専門職と意見交換をしていた人は少数であった。. これらの結果より、本研究の対象者は31歳以降の常勤で働く女性看護師が多く、訪問看護と一般病院 の2つの施設における経験年数は、共にザ5年と回答した人が半数以上を占め、経験年数としては短期. といえる。そのなかで、8割以上の看護師は訪問看護の経験年数が5年以下であった。このような背景 から、調査期間を通して年間の症例数が少ないがんを合併した患者を受け持った状況は、非常に少なか ったと言え、多くの症例を積み重ねてこれまで得た豊富な経験、さらにはがんの専門知識を統合させて 緩和ケアに活かすことは困難な状況と言えた。. 看護師は、身近にいる同僚や医師にケアに対する相談や助言を求める傾向があった。この事実は、患 者ががんと診断された後、患者や家族、一般病院の訪問看護室、地区担当保健師、市区町村の障害者保. 健福祉担当部署、精神保健福祉士など、多職種の合同カンファレンスを開催するためのコーディネータ ーの不在との関連性が示唆された。. また、患者の詳細な病状について、看護師は申し送りの書面でしか知り得ていなかったケースが53.8%. を占めており、がんの病状説明をしたのは主に精神科病院の医師であった。この理由は、がんと診断し た一般病院の医師と精神科病院の医師が、患者のがんの病状について電話や紹介状でやり取りをし、最 終的に精神科の医師に対応が任されていた経緯を示しているものであった。. こうした状況から、看護師は患者の緩和ケアを行う時に、在宅緩和ケアについての専門的な知識を持 った一般病院の医師、がん専門看護師、薬剤師などと共に、がんに伴う身体的なアセスメント、さらに. は精神症状との兼ね合いを総合的に判断する機会がなかったと考える。つまり、単科精神科病院の訪問. 看護サービスで緩和ケアの優先度を検討する他職種カンファレンス、情報を共有するための時間、看護 師自らがスキルアップをするためのサポート体制が整備されていない事実が明らかとなった。 −4−.

(6) 表1.看護師の概要 N=13. %. 女男. 性別. 76.9. 23.1. 年齢儲). 資格. 31-40 41-50. 23.0. 51-60. 7.8. 看護師 准看護師. 84.6. 伽5. 84.6. 6−10. 15.4. 15.4. 87177. 一般病院の経験年数. 15.4 53.8. ●3 ●7 ●7 ● 3●2 7 5. 訪問看護の経験年数. 21-30. 俳5 6-10 11-15 16-20. 勤務状況 訪問看護室の人数. がんを合併した患者の人数 患者のがんを知ったきっかけ. 92.3. 1−5. 84.6. 6-10. 15.4. 1−5. 100. 7.7. 毎日 月に1-2回 月に3-4回. 問題があった時のみ 医. 意見を求めた人(複数回答). 賊紳 科 艦燕蝿︾峠楠. なし. 師. 識枇. −5−. 53.8 23.1 15.4. 7.7. 0 4 7 1 8 96661111. 精神科病院からの申し送り 家族の情報 患者の状態 検査. ●1 ●0 ●0 ●7 ●7 ●7 ●7 ● 白●3 ● 8 5●7 1 235 22 11. カンファレンスの頻度. 21以上 常勤 非常勤.

(7) 2.患者の栂腰. 患者の概要を表2に示す。患者は男性4人、女性3人、合計7人であった。年齢は41∼50歳が42.9% と最も多く、次いで51-60歳が28.5%であった。調査時における患者の入院期間について尋ねたところ. 16年以上が57.2%と半数を超え、年齢が高い患者ほど過去の入院期間は長期化し、在宅生活への移行が 困難である状況が示された。がんの部位は、女性の乳がんが42.9%と最も多く、男性は消化器系のがん であった。. 患者ががんと診断された時、看護師が観察した患者の自覚症状は、全身倦怠感が42.0%と最も多く、 次いで腹満が21.1%、その一方で患者の自覚症状は「なし」と回答した人は15.9%であった。. 患者の家族背景は独居が最も多く57.1%、次いで同胞と同居42.9%であった。この背景には、患者が精 神症状の割上や再発で長期の入院を余儀なくされ、その結果、社会との接点が少なく結婚して家庭を持 つ機会に恵まれにくかったこと、さらに患者の両親が既に亡くなっていたため、同胞と同居するに至っ ていた。同居している同胞は既に結婚して家庭を持っていたため、その家族と共に患者が暮らしていた。 さらに、精神科の医師は患者への病状説明42.9%に比べ、家族への説明が85.7%と高かったが、医師 から説明を受けた家族は、がん治療「なし」を選択した人が57.1%と最も多かった。その一方、病状説 明を受けた患者は乳がんを合併した女性患者であり、手術28.縦、手術と化学療法14.3%を選択していた。. このように、患者と家族への病状説明に差異がある中で、患者ががんと診断された時、病状は既に進 行しており、余命1年未満と予測されていた。患者ががん治療を行った場合は、一般病院で手術を受け、. その後精神科病院に戻る26.3%が最も多く、次いで一般病院でがん治療を受け、その後在宅で治療を受 ける16.6%であった。. 訪問看護の回数は、月に3-4回が最も多く71.4%、平均3.2回(SD±1.3)であった。また、患者が がんと診断されてからの療養期間は7∼12ケ月が42.8%と最も多く、次いで1-6ケ月28.6%、余命期間と ほぼ相似した療養期間を示していた。対象となった患者7名中6名は既に死亡しており、現在治療を受 けている慰者は1名であった。. このように、がんと診断された時には女性は乳がん、男性は消化器系のがんを合併するなど、既に病. 状が進行して治癒の可能性は厳しく、患者は1年以内に8割以上が亡くなっており、一般病院の医師が 予測した余命期間とほぼ相似していたと言える。このような厳しいがんの病状から、精神科の医師は患 者よりも家族に病状の説明を行い、今後の治療方法について家族の意向を重視していたと考える。家族 は様々な状況から患者のがん治療を望まず、患者と家族への病状説明に差異があるため、相互に円滑な コミュニケーションが取られていたとは言い難い状況が示唆された。. −6−.

(8) 表2.患者の概要 N=7. 男女. 性別. % 57.1 42.9. 年齢億). 入院期間(年). 42.9. 51-60. 28.5. 61-70. 14.3. 71-80. 14.3. 1-5. 14.3. 6-10. 28.6. 11-15. 14.3. 16以上. 42.8. 賑胃肺剛柵. がんの部位. 41-50. 42.8 14.3. 14.3 14.3 14.3. あり. 鯛. 蝿雛鯛雛. がんの自覚症状(複数回答). 42.0 21.1 10.5. 10.5. 家族背景. 患者への病状説明 家族への病状説明 がん治療の選択. なし. 15.9. 独居. 57.1. 同胞と同居. 42.9. あり なし. 42.9. あり. 85.7. 不明. 14.3. 57.1. あり. 手術. 手術と化学療法 あり. 一般病院で治療後、精神科病院に戻る 一般病院で治療後、在宅で治療する. がんの療養期間(ヶ月). 転帰. 26.3. 16.6 57.1. なし. 訪問看護の実施回数(回/月). 14.3 57.1. なし. がん治療を行った場所. 28.6. 1-2. 14.3. 3-4. 71.4. 5以上. 14.3. '-6. 28.6. 7-12. 42.8. 13-18. 14.3. 19-24. 14.3. 治療中. 14.3. 死亡. 85.7. −7−.

(9) 3.喬漢師へのインタビュー. 分析結果を図1−3に示す。看護師のケアは時間的な経過に沿ってどのように変化したのかに着目し、 (1)がんと診断された時、(2)療養期間、(3)看取りの時期の3段階に分けて整理した。そして、各々. の段階で大切にしたケア、困難と感じたケアの内容を示す文脈の検討と精選を行った。その結果、ラベ ル数は『』81、サブカテゴリーはく>17、カテゴリーは【】6となった。文中の「」は生デー タを示すb. (1)がんと診断された時. 患者ががんと診断された時、大きく浮かび上がってきたケアの特徴は、【がん告知や治療の選択は精. 神科の主治医に委ねられる】【患者への意思決定能力や認識力について消極的な姿勢・責任の回避】 の2つであり、これらはがん告知をめぐる看護師の揺れる思いと困難な状況を表したカテゴリーであっ. た。そのカテゴリーと関連するサブカテゴリーは、く一般病院の医師、精神科病院の主治医との連携が. 困難>、<患者自身に決めてもらう>、く家族の意向を優先>、<経験・知識・技術の不足>、く判断 に揺れる>、く精神科の訪問看護はできる範囲が限定される>の6つであった。各々のサブカテゴリー とカテゴリーの関連について述べる。. まず、がんと診断した一般病院の医師は「既にがんが進行しているので余命は1年と予測」し、「個室 の確保ができないので受け入れが難しい」「入院中は家族の付き添いが条件です」「患者が暴れたりした. ら誰が責任を取るのか」「何をするのかわからないので不安」などの受け入れ側の事情に基づく発言や偏 見から、精神科病院の主治医とは電話や紹介状でのやりとりに留まることが多かった。そのため、看護 師はほとんど患者の病状について医師と直接話し合う機会が限られ、今後に向けての適切な判断とケア の方向性が見いだせなかった。その結果、ケアとして大切にした言葉が表現されなかったと推察する。 一方精神科病院からは、「身体合併症病棟がないので治療が困難」「一般病院の医師と精神科医がそれ ぞれの専門的な立場から意見を主張するだけで、明確な方針がつかめない」「治療費の負担が大きい」. 「社会資源について医療や福祉、行政の手続きが煩雑」などが語られ、一般病院と精神科病院の間に挟 まれた看護師は、<一般病院の医師、精神科病院の主治医との連携が困難>であると感じていた。. 美濃ら'8)は、「がん治療・がん告知の権限は必然的に治療施設の医師に委ねられる」と述べている。 しかし、本調査の結果からは【がん告知や治療の選択は精神科の主治医に委ねられる】状況が語られ、. 告知の状況に違いを生じていた。この背景には、対象施設が精神科病院併設型の訪問看護室という施設 の違いがあり、看護師の役割や責任範囲が異なったこと、さらには患者のがんが既に進行し、余命1年 という厳しい予測であったため、一般病院の医師が告知について消極的になった結果と考えた。. 本調査の結果から、主治医が患者にがん告知を行う条件として、①一般病院の医師から告げられた余 命期間、②患者の精神症状と理解力、③家族がいない独居の患者、④家族と音信不通の患者、という4. つの要因が告知をめぐる判断の目安となっていた。その一方、主治医は患者が自分で決められないと判. 断すると、<家族の意向を優先>にして、患者へのがん告知や治療をしなかった事実が明らかとなった。 看護師の語りからは、「訪問は1人で対処するので、精神症状が悪くなったらどうすればよいのかとつ −8−.

(10) さの判断に迷う」「手術後は全く一般病院と手が切れてしまうので術後の消毒や薬の管理を患者がどこ までできるのか不安」「在宅でがんを合併した患者は少ない。それに死ぬ時はほとんど(精神科病院に) 戻るのでわからない」「1人暮らしだから自殺するんじゃないだろうか、訪問するまで生きているかなと 考え、玄関で足がすくんでしまう」など、これまでにない<経験・知識・技術の不足>の心情が表現さ れた。. また、看護師は主治医が患者よりもく家族の意向を優先>にして、家族が「このまま静かに精神科で 看取って欲しい」「がんの治療はしないから本人には言わないで」「散々苦労をしていまさら治療も何も ない」など、『患者と家族の関係の希薄さ』に直面していた。このような状況から、「もし患者が告知を されたらどうなるんだろう。違う選択をしたのだろう加「主治医と家族が決めたことに私が口を出すの. は災いのもと」「患者にとって良いことが家族にとって負担になるのであれば、何が良いの力悪いの力答 えがみつからない」「あまり深く関わると大変なので患者と家族にできるだけ距離をおいて穏便にすませ. たい」「家族には患者ががん治療を受けずに死んでもいいんですかと聞きたくても、なかな力言葉がだせ ず、家族から責任は誰がとるのかと言われたら何も言えない」など、主治医、患者、家族、各々の立場 の違いを知り<判断に揺れる>思いが吐露された。. そして、「担当が決まってもカンファレンスを開くのはよっぽど大変なケースのみ。負担です」「カン. ファレンスは点数がとれないので時間を割くのは難しい」「訪問では精神的なケアが主となるので一般病. 院との関わりがとても大切」「全体をコーディネートしてくれる人がいない」「誰かがいつも一緒にいれ ば、よいアイディアを出せるのに」「アドバイスがあると違う、現実はそのような人がいないので厳しい」 「どこから手を出してよいのか家庭問題が大きすぎて担当するのに尻込みしてしまう」などが語られた。. こうした状況から看護師は、<精神科の訪問看護はできる範囲が限定される>と否定的な感情が高ま. り、【患者への意思決定能力や認識力について消極的な姿勢・責任の回避】となって表現された。 がんと診断された時点では、まず患者の苦痛や苦悩がどのような精神症状となって現れているのか、. 適切な判断が求められる。高柴'9)は、精神科の臨床では精神症状を把握するといったことが軽視され、 医療スタッフが患者の精神症状にしっかり向き合うことを避け、その苦痛や辛さに対して具体的に目を 向けなかった事実を指摘している。本研究の結果から、看護師はがんと診断された患者の告知と家族の 思いを知ることで<判断に揺れる>気持ちが影響し、どのような精神症状となって現れているのか、効. 果的なコミュニケーションをとる具体的なケアと適切な判断をするには至らなかったと考えた。. −9−.

(11) −精神科病院 『個室の確保. 『身体合併症病棟の不足』. 『家族の付き添いを条仏. 『明確な方針がつかめない』. 1精神疾患患者への偏見』. 『治療費負担の問劉. 『余命1年の予測」. 『医療、福祉、行政の手続きが燃良I. <一般病院の医師、精神科病院の主治医との連携が困難>. ‐ 巳 【がん告知や治療の選択は精神科の主治医に委ねられる】. 且. 且 <患者自身に決めてもらう> 『患者はがん治療を選択』. 『単身者の場合は告知』. 『家族の関わりがない時は告知』 『告知後の動揺・不劃. く判断に揺れる>. く経験・知識・技術の不足> 『精神症状の調上』. 『告知されない後ろめたさ』. 『がん治療後の健康管劃. 『主治医と家族が決めたこと』. 『対処がわからない』. 『答えが見つからない』. 『見通しが立たない』. 『患者と家族に距離をおく』. 『自殺の心配』. 『家族への働きかけを踊曙』. <精神科の訪問看護はできる範囲が限定される> 『カンファレンスは時間がないのでほとんど行われない』『コーディネーターがいない』 『マンパワー不足』『アドバイスが直ぐに受けられない』『患者や家族の問題が複雑で尻込みする』. 且 【患者への意思決定能力や認識力について消極的な姿勢・責任の回避】. 図lがんと診断された時 −10−.

(12) (2)療養期間. 患者の療養期間中、大きく浮かび上がってきたケアの特徴は、【ケアの視点を変える】【訪問看護の. 価値を見いだし責任と役割を自覚する】という看護師の専門性と役割に対する意識を表したカテゴリー が2つであった。そのなかで、看護師が大切にしたケアの内容を示すサブカテゴリーは、<健康管理の. 重視>、<同僚や主治医に相談>、<肯定的なフィードバックを積み重ねる>、<積極的な治療をしな いのであればこのまま看取りたい>の4つであった。また、看護師が困難と感じたケアの内容を示すサ ブカテゴリーは、<身体症状と精神症状の判断に迷う>、く訪問看護の受け入れを拒まれる>の2つで あった。各々のサブカテゴリーとカテゴリーの関連について述べる。. 看護師が最も大切にしたケアはく健康管理の重視>であった。特に、「服薬に対して患者に理解しても らえるよう丁寧にコミュニケーションをとる」「抗精神病薬の飲み忘れがないかを一緒に確認する」「薬 を壁のポケットに一緒に入れ、目で確認できるよう工夫をする」「テーブルに薬袋を置き、訪問看護室の 電話番号を大きく壁に貼り、困った時は連絡できるような手立てを考えた」が語られた。この状況は、 看護師が<身体症状と精神症状の判断に迷う>なかで、「患者が拒薬・怠薬をすることにより、さらに精 神症状が割上する」ことを予測し、その予防に最も気を配りケアを行った結果を示したものと考えた。 そして、「がんの痛みや庫れの有無を聞きだすため、血圧を測りながらコミュニケーションをとり様子 をみる」「食欲があるかを尋ね、食べられるものをできるだけ口に入れてもらい食生活に関する援助を行 う」など、患者の日常生活に目を向けた生活リズムを整える工夫と援助の方法が語られた。 その一方、看護師は患者から「自分は治っている」「訪問しなくていい」など、強い『拒否』や『突然. のキャンセル』に遭遇し、<訪問看護の受け入れを拒まれる>様子が語られた。この様子は、がんを合 併したという事実に加え、患者の訪問支援を継続することが、いかに難しい現実かを示したものと言え よう。また、『患者や家族が病気に対して無関心』であり、看護師と率直なコミュニケーションがとりに くく、信頼関係を作っていくのは困難な状況が示された。その相互関係は、余命告知を受け残された時 間が短いにも関わらず変化はしなかった。そのため、看護師は「訪問を一方的に断られるとこちらは選 択肢がない、このまま訪問の中断を続けて良いのだろうか」と対応に苦慮した心情が語られた。遠藤ら ”)は、悪性腫傷を合併した統合失調症患者の援助に対して、看護師の困りごとは「患者の訴えの少なさ」 「治療やケア、療養の理解や協力を得ることの困難さ」と述べている。対象施設数や対象者が異なるも のの、多くの看護師が悩んでいる事情は、本調査の結果からもほぼ同様と言えた。. このような状況から浮かび上がったケアの特徴は、「訪問にこだわらず不安だったらいつでも電話して. いいよ」「あなたが一番したいことは何って聞いて、不安や甘えを受け止める」「これまでの患者と家族 の関係をゼロにして、『緩やかな関係作り』から始めてみるなど、看護師自らが【ケアの視点を変える】 柔軟性を持ち、患者と家族に再度向き合う姿勢であった。こうした転機を経た看護師は、「精神科は一般 科と違って話を聴くのがプロだから、それができるとわかり自信が生まれました」「がんは身体的なアセ スメントが必要だけど、それよりも患者は何が一番辛いのか、精神的な苦痛を取り除くのがとても大切 だというのが理解できた」など、<肯定的なフィードバックを積み重ねる>精神看護のやりがいを生き 生きと語っていた。 -11-.

(13) 看護師はこれらの体験を通して、がんを治療するのは一般病院であるが、患者が<積極的な治療をし ないのであればこのまま看取りたい>心情の変化が語られ、【訪問看護の価値を見いだし責任や役割を 自覚する】言動を示したものと考えた。. これらの結果を踏まえ、ケアの困難さを軽減する方法と精神症状の緩和を可能にする2つの具体策を. 整理した。①患者と看護師の健康管理をめぐるやりとりを抽出してクリティカルパスに置き換え、他の 専門職がわかりやすい看護記録として反映させる。②ケアを行っている時に、患者と看護師がどのよう なコミュニケーションをしているのか、ナラテイブを取り入れた記録の導入を行う。ナラテイブとは患 者の語りをそのまま引き出すことである21)。例えば、看護師が日常的に行う血圧測定の場面で、看護師 がどのように声をかけ、患者はどのような返答をしたのか、またはどのような表情や行動をとったのか、. その時に感じたこと考えた内容をナラテイブとして看護記録に記すbこの方法を取り入れる理由は、精. 神科看護師がイ興聴の技術を最も得意とする専門職だからである。この精神看護の傾聴技術を有効に活か し、患者がどのような語りをしていたのか、そのナラテイブな記録をチームで共有する。 これら2つの方法を取り入れることが可能になれば、短時間で患者の希望をできるだけかなえるケア. の方向性についてメンバー全員が協議できる一助になるのではないかと考える。さらに、患者が語った ナラティブの内容を次回の訪問時に、看護師が患者や家族にわかりやすく説明することができれば、よ. り丁寧な情報の提供をするためのコミュニケーション場面が増え、訪問看護を受け入れる一助に繋がる のではないかと言える。. 今後、増加が予測される身体合併症患者に対して、精神科病院の緩和ケアを向上させるためには、が ん専門看護師、精神科専門看護師、認定看護師と共に、他職種合同の研修会、カンファレンスでナラテ. イブの記録の意義についてチームで議論を積み重ね、導入に向けた検討が必要と考える。. −12−.

(14) <身体症状と精神症状の判断に迷う>. く健康管理の重視> 『薬剤の管理・服薬の援助』. 『訴えが乏しい』. 『血圧測定をする』. 『ボデイイメージの弼上を確認できない』. < = > 『気分の偏劃. 腕みや庫れの有無を観察』. 『拒薬・怠薬による精神症状の謝上』. 『排世状況を聴く』. 、. 『睡眠の深さと時間を聴く』. <=>. 『食生活に関する援助』. <訪問看護の受け入れを拒まれる> 『拒剖. 『活動・生活リズムを整える援助』 ﹁. F. I. 『突然のキャンセル』. ︼. 『患者や家族が病気に対して無関>M. く同僚や主治医に相談> 『主治医のもとへ積極的に足を運ぶ』. <=>. 『選択肢がない』. 『がんの本を読んで知識を積み重ねる』 |︶. 陥談できる時間を工夫する』 宝 一. 【ケアの視点を変える】. 且. <肯定的なフィードバックを積み重ねる>. 『電話相談を積極的に導入』『患者と家族の間に入り調整役になる』『緩やかな関係作り』 『ゆっくり患者のペースに合わせる』『家族の辛さも理解する』『不安や甘えを受け止める』 『患者の希望と現実のギャップを埋める』『できることとできないことの見極めをする』. Ⅱ 、/. Ⅱ 、/. 【訪問看護の価値を見いだし責任と役割を自覚する】. 図2療養期間 -13-.

(15) (3)看取りの時期. 患者のがんが進行し、看取りの時期で大きく浮かび上がってきたケアの特徴は、【患者にとって望ま. しい死を考える】【精神科だからこそできる緩和ケアの価値を実感する】という看護師の死生観を表 すカテゴリーが2つであった。そのなかで、看護師が大切にしたケアの内容を示すサブカテゴリーは、 <患者の希望柵いを肯定的に支える>、くつながりを強める>、<患者の生と死に寄り添う>の3つ. であった。また、看護師が困難と感じたケアの内容を示すサブカテゴリーは、<ADL低下に伴う介護の 負担>、く変えられない現実との対崎§>の2つであった。各々のサブカテゴリーとカテゴリーの関連に ついて述べる。. 看護師は、「患者がだんだん自分の体が思うようにならなくなって不安になり、目つきが変わったんで すもそんな時は大丈夫だよと声をかけ、ちょっと体の向きを変えてみようとか、枕を使って楽な姿勢を アドバイスしました」「少しでも穏やかで楽しい時間を過ごせるように自宅でできる楽しみ、例えばぬり えを一緒にする、囲碁につきあうなど、身体的なケアよりも楽しみを優先にしました」「訪問時間は30. -40分程度で短いために限りがあるんですが、1人で落ちつきがない時は座ってゆっくりと手を触り、 肩をもんで緊張をほぐしました」「患者が煙草を吸いたいと言ったので、どうしようか考えました。でも、 残り少ない時間の中でできるだけ希望を叶えようと思い、布団を縁側にまで引っ張りだして、そこで煙. 草を吸って話しを聴き、気分が落ち着いたと言われああ良かつたとしみじみ思いました」など、看護師 のこれらの語りからは、<患者の願いや希望を肯定的に支える>精神的なケアの重要性が示された。. その一方、「がんの痛みや衰弱が激しくなって、日常生活がどんどん困難になる」につれ、「どうしよ うもない現実に気分が沈んでいく」「1回の訪問時間は短く効率的にしないと仕事が終わりません。その なかで介護度が重くなると業務をこなしきれない」「どんなに関係の悪い家族でも、おむつを買ってもら. ったり衣服のことをお願いしないといけません。家族に色々と相談しないと何も進まないことが多くて 大変」など、看護師が患者の<ADL低下に伴う介護の負担>に直面し、日常生活の援助に追われ、疲労 が蓄積したケアの困難さを示す様子が語られた。. そのような状況で看護師は、「同僚に愚痴をこぼして気分を変える」「主治医にあとどれくらいかを聞. いて心の準備をする」など、周囲とのくつながりを強める>言動が示された。また、「一般病院に勤務し ている友人にがん患者の状況を聞いてみる」「精神保健福祉士と介護保険サービスの適応について相談 してみる」など、他専門職との情報交換を試みていた。そして、「バザーで下着なんかを売っていると、 そうだAさんの着替えが少ないから買っておこうって自然に思うんです」「おむつがなかなか買えなく. て、そういえばBさんの押入れに古いタオルがあるから、それを代用して間に合わせようとか、そんな. 感じで家族になったつもりで、昔はどこの家でも看取ったでしょう。普通に最期まで面倒みようってな りますよ」など、家族のような役割を担ってケアを行った様子が語られた。 しかし、看護師は「患者が家族にどれだけ迷惑をかけていたのかを知っているけど、最期になっても. 家族との付き合いがほとんどなく哀しい」「(患者が)死ぬ間際になって今まで会ったこともない家族や 親戚が来て、貯金通帳を探していたのを見ると、悲しいというより腹が立ちました」「このままがんを知 らないで本当に良かったのか、せめて死ぬ時に真実を話すことが必要じゃないだろうかと悩み苦しみま −14−.

(16) した」など、看護師の力だけではどうしようもない<変えられない現実との対時>に直面した複雑な心 情が語られた。. このような状況の中で看護師は、「患者から、もう自分は死ぬのかと聞かれ、どうしてと聞いたら、し. ばらく黙って、怖い怖いといってボロボロ泣いたんですbうんうんと言って側にいました。それっきり 死ぬことは言わなくなりました」など、患者が死を予測した不安な思いを傾聴する様子が示された。. さらに、「一般病院の患者さんは家族のためにがん治療をするから、最期は本当に凄まじい姿になりま. すbでも、精神科の患者は家族のために積極的ながん治療という選択がない。自分の生命のままに生き て、死を迎えることは自然な姿ですごく幸せb私もしゃかりきにならず、平常心で患者に接する機会を もらいました」「何も治療をしない。そして普段と変わりない生活を過ごしていずれ亡くなる。普通に暮 らす患者を見て私も自然体で関わります」など、これらの語りからは患者の生命を自然に委ねて、最期 を看取る看護師の飾らない言動が述べられていた。. これまでの語りから、看護師は患者ががんと診断された時、【がん告知や治療の選択は精神科の主治. 医に委ねられる】【患者への意志決定能力桶識力について消極的な姿勢・責任の回避】ケアの困難 さを感じていたが、患者の看取りを通してこれまで気がつかなかった生の価値、死の意味、人とのつな がりを求める願い、希望など、スピリチュアルな存在に目を向け、ケアをより深めた関わりが示された. と言えよう。そして、く患者との願いや希望を肯定的に支える><患者の生と死に寄り添う>心情の 変化は、患者の生命に対して万物を超えた神秘性を感じ、「今までありがとう」という感謝の気持ちと なって表現されたと考えた。. これらの看取りを通して、看護師は【精神科だからこそできる緩和ケアの価値を実感する】【患者 にとって望ましい死を考える】患者の生と死についてケアを振り返った結果、QOLを高めた展開過程が 表現されていた。. 医療の場面でQOLが注目を集める中、わが国における精神障害者のスピリチュアリテイにおける検討 は極めて少ない21)。緩和ケアにおいて、患者のスピリチュアリテイは個人の存在価値を根本から問うも のであり正解はない。そのような状況で、看護師は統合失調症さらにはがんという病いを抱えた患者の 生と死に直面し、様々な迷いや戸惑いを感じていたが、看取りを通して患者のQOLを高めたスピリチュ アルケアを実践していたものと考えた。. −15−.

(17) くADL低下に伴う介護の負担>. <患者息の願いや希望を肯定的に支える> 『孤独感や不安が強い時にアドバイスを増やす』. 肺みや衰弱が激しくなる』. 『楽しみの時間を増やす』. 『日常生活が困鋤. 『タッチングして緊張をほぐす』. 『関わる 『関わる時間の短さ』. 稀望を叶える』. 『家族に相談しないと何も進まない』 『家族に. 『あるがままを受け止める』. 『叩Lが低下する』 『叩Lが1. くつながりを強める>. 『同僚・主治医・友人・家族』. 陥専門職との情報交換を試みる』 『家族のような役割を担う』. く変えられない現実との対時>. て患者の生と死に寄り添う> 『死への不安を傾聴する』. 『孤独な死を看取る』. 『生命を自然に委ねる』. 『家族との確執が解けなし虚しさ』. 『平常心を保って接する』. 『がんを知らないで死ぬことの苦悩』. 『感謝の気持ちを伝える』. U. 且. 【患者にとって望ましい死を考える】. 【精神科だからこそできる緩和ケアの価値を実感する】. 図3看取りの時期 −16−.

(18) Ⅳ.まとめ. 本調査の結果から、患者ががんを合併すると、ほとんどの割合で患者への告知がされなかった事実が 明らかとなった。さらに、看護師はがんという身体合併症に関してく経験・知識・技術の不足>を自覚 し、ケアを困難にする影響要因となっていた。そのため、がんの告知や今後の見通しについて判断に揺 れた結果、主治医と積極的に検討を重ねることはなかったと言える。. このような状況から、看護師の<経験・知識・技術の不足>を補う案は5つに要約される。①在宅で. 暮らす患者と家族との関わりを円滑にするため、外来及び病棟看護部門と情報を共有する体制作りを行. う。②在宅での看取りを可能にするためには、身体合併症に関する看護教育プログラムの検討と継続支 援を行う。③一般総合病院と単科精神科病院の間で相互研修を行い、看護技術を向上させる。④主治医. の病状説明に看護師が同席し、患者と家族にとってより良い選択ができる情報の橋渡しを行う。⑤緩和 ケアに対する理解を深めるため、がん専門看護師、精神科専門看護師、認定看護師と共に事例検討会を 導入し、ナラテイブの記録導入について議論を進める。. 今後、身体合併症が原因となって最期を迎える統合失調症患者は増加すると予測される。そのため、. その人らしく心穏やかに自宅で最期が迎えられるように見守り、寄り添ってケアをする訪問看護師の存 在は緩和ケアを進める貴重な専門職と言えよう。. 【患者にとって望ましい死を考える】【精神科だからこそできる緩和ケアの価値を実感する】、こ れらのケアの特徴は、看護師が患者の尊厳や価値、そして生命の神秘さを感じ取ってスピリチャルケア. を実践した内容を示したと言え、このようなケアの大切さを看護師にフィードバックできる専門的なチ ームリーダーの存在が求められる。. V.本研究の限界と今後への示唆. 本研究で対象となった施設は、平成21年厚生労働省地域保健医療基礎統計の都道府県別精神科在宅訪 問看護施設リストを参考に、回答が得られた13施設に協力を依頼し、調査への参加と同意が得られた5 施設、13名の訪問看護師を対象とした。. そのなかで、がんを合併した患者に対する告知の是非、治療の選択方法が看護師の緩和ケアにどのよ. うな影響を及ぼしているのか、患者の身体状況と糊申状況に応じたケアの実態を明らかにした。しかし、. 他の施設でこの結果を適応できるかは不明である。したがって、対象地域と対象者数を増やして、さら なる分析を深めていきたい。. 謝辞. 本研究は、平成24年度公益財団法人在宅医療助成勇美記念財団の助成を受けて実施したものである。 ご協力いただいた看護師の方々に感謝すると共に、亡くなられた患者の皆様のご冥福を心からお祈り申 し上げますも. -17-.

(19) 文献. 1)日笠哲:総合病院における精神疾患患者の身体合併症治療の概観一呉医療センターにおける精神疾患 患者の癌の診療状況−,医療,(61),132-135,2007.. 2)大森寛,藤田洋輔,坪井きぐ子,他:当院精神科病棟における身体合併症治療の現状,広島医 学,(62),138-141,2009.. 3)尾崎麻里子:精神科訪問看護の間隔の差からみえるもの−LASMIを利用して−,東京都保健医療医学 会誌,(106),150-151,2002.. 4)服部希恵,北島謙吾,森田敏幸:精神障害者の社会機能および日常生活自己管理が社会参加に及ぼす影 響,日本精神保健医療学会誌,10,(1),118-126,2001.. 5)谷田部佳代弥,半津節子,永井優子,他:精神科看護職の評価する精神障害者の地域生活の困難に関す. る検討一退院・地域生活支援及び研修参加の経験の有無による比較−,日本社会精神医学会 誌 , 2 0 , ( 3 ) , 2 3 3 2 3 4 , 2 0 1 1 .. 6)船越明子,松下太郎,沢田秋,他:日本における統合失調症患者への精神科訪問看護に関する実態報告, 日本病院・地域精神医学会誌,48,(2),169-170,2005.. 7)吉野賀寿美:精神科訪問看護の役割日本病院・地域精神医学会誌,(40),36,1997.. 8)西村伸:地域施設通所精神障害者の身体的健康の現状,悌教大学大学院紀要,社会福祉学研究科 篇 , ( 3 7 ) , 1 0 3 1 1 5 , 2 0 0 9 .. 9)精神障害者の家族支援のl考察一退院前の家族の抱える問題から継続看護を考える−,日本農村医学 会誌,55,(5),512,2007.. 10)斉藤利幸:障害者の在宅支援への関わり−障害者を支える家族の思いをケアに生かして−,日本病 院.t鵬青神医学会誌,45,(2),23俳231,2002.. 11)樽本尚文,住吉秀律,冨田洋平:当院における精神障害者の身体合併症治療に関する現状と今後の課題, 広島医学,63,(11),756-759,2010.. 12)小林仁:がん対策基本法の意義とがん医療の在り方一立法過程からみた現状と課題立法と調査 一 , ( 2 6 5 ) , 5 5 5 7 , 2 0 0 7 .. 13)山下浩介:がん患者の在宅医療の現状と課題,治療,90,(1),163-168,2001.. 14)大川貴子,中山洋子:入院精神障害者の身体合併症の実態とケア上の困難さの分析,日本精神保健看護 学会誌,13,(1),63-71,2004.. 15)一瀬邦弘,中村満,竹林宏,他:身体合併症を有する患者の治療一当院での経験から-高淵上と統合 失調症の闘末-.SchizophreniaFrontier,5,(1),24-31,2004. 16)前掲書4. 17)林和彦:がんの最新治療総論(1)わが国の緩和ケアの現状,東京女子医科大学学会 誌,83,(1),1-5,2013.. −18−.

(20) 18)美濃由紀子,宮本真巳:がんを併発した精神疾患患者の治療・回復過程に影響を及ぼす要因,精神科看 護 , 3 0 , ( 6 ) , 4 8 5 5 , 2 0 0 3 .. 19)高柴哲次郎:精神科リハビリテーションの現状と展望一スタッフに求められる基本技能>精神科リ ハビリテーション,11,(6),411-416,2007.. 20)遠藤淑美,吉本照子,杉田由加里,他:悪性腫癌を合併した統合失調症患者の看護援助に関する研究, 精神科看護,34,(2),42-48,2007.. 21)橋本直子:リカバリーにおける SAの役割一スピリチュアリティの視点から 祉,41,(1),51-57,2010.. −19−. ■■■■■■. ,精神保健福.

(21)

参照

関連したドキュメント

② 特別な接種体制を確保した場合(通常診療とは別に、接種のための

いしかわ医療的 ケア 児支援 センターで たいせつにしていること.

では,訪問看護認定看護師が在宅ケアの推進・質の高い看護の実践に対して,どのような活動

411 件の回答がありました。内容別に見ると、 「介護保険制度・介護サービス」につい ての意見が 149 件と最も多く、次いで「在宅介護・介護者」が

町の中心にある「田中 さん家」は、自分の家 のように、料理をした り、畑を作ったり、時 にはのんびり寝てみた

平成 29 年度は久しぶりに多くの理事に新しく着任してい ただきました。新しい理事体制になり、当団体も中間支援団

となってしまうが故に︑

 講義後の時点において、性感染症に対する知識をもっと早く習得しておきたかったと思うか、その場