〈 論 説 〉
民事執行と不当利得
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はじめに 金銭債権執行は、弁済金交付または配当によって締め括られる。配当は、配当表に基づいて行われる。そして、 西 日 当表は、配当期日に債権者全員の合意が成立した場合を除き、民商法等の規定する実体権の優先順序にしたがい作成 されるのを原則とする。したがって、配当手続内において、債権者および担保権者の各権利を確定する手続が用意さ れている。しかし、 それは、あくまで配当の実施を目的とした一応の認定に過ぎず、執行手続上の制約を免れない。 訴訟や倒産手続おける債権調査のごとき慎重な権利確定は、望めないどころか、手続として重たすぎる。したがって、 実施された配当と実体的権利関係との聞に阻額が生じ、不当配当または過誤配当と呼ばれる事態が生じる可能性は、 否定できない。こうした事態が生起した場合、不当利得による事後的調整を認めるべきか否かにつき、従来から争わ れ て お り 、 いまだ決着を見ない。 本稿では、この点に関する議論を簡単に整理・考察し、試論の展開を試みたい。判例・学説
判例としては、周知のとおり、二つの最高裁判決により J いわゆる制限的肯定説が確立された。すなわち、最高裁 平成三年三月一一一一日判断炉﹁抵当権者は抵当権の効力として抵当不動産の代金から優先弁済を受ける権利を有するの であるから、他の債権者が債権又は優先権を有しないにも関わらず配当を受けたために、右優先弁済を受ける権利が 害されたときは、右債権者は右抵当権者の取得すべき財産によって利益を受け、右抵当権者に損失を及ぼしたもので あり、:::配当の実施は係争配当金の帰属を確定するものではなく、したがって、右利得に法律上の原因があるとす ( 2 ) ることはできない﹂として、担保権者に対して不当利得返還請求権を認め、つづく最高裁平成一O
年三月二六日判 ( 3 ) 決が、﹁一般債権者は、債務者の一般財産から債権の満足を受けることができる地位を有するにとどまり、特定の執行 の目的物について優先弁済を受けるべき実体的権利を有するものではなく、他の債権者が配当を受けたために自己が 配当を受けることができなかったというだけでは右の損失が生じたということができないからである。﹂と先の平成三 年判決に沿った判断を示し 一般債権者に対しては不当利得返還請求権を否定した。 これに対して、学説においては、不当利得否定説が多数を占めるとされる。否定説は、配当受領者には法律上の原 因があることを根拠とする。すなわち、配当の基礎をなす配当表を作成する際に、債権者に対して関与の機会が与え られ、その積極的(民執八五条五項)または消極的(配当異議を申し出なかった場合、配当異議を申し出たが起訴な { 4 ) いし起訴証明を怠った場合)に表明される﹁賛意﹂が配当受領の法律上の原因となるものと評価できる、という。そ れゆえ、債権者に対して配当手続における手続保障がなかった場合には、利得正当化の根拠に欠けることとなり、例 外的に不当利得の成立を認めることとなる。多数説と異なり、担保権者と一般債権者とを区別せず、 いずれにも不当利得返還請求権を認める見解(肯定説)も 有力である。すなわち、 一般債権者は﹁執行目的財産の交換価値から弁済を受ける地位を手続的に保障されるだけで なく、実体法上も配当手続に従って有効に弁済を受ける権利﹂を、配当要求をした一般の先取特権者は﹁配当におい て優先的に配当を受けうるのであり、それは配当手続のみならず、:::実体法上も認められる権利﹂を、 その他の担 保権者は﹁当然に配当の対象とされる﹂権利を、それぞれ侵害され、利得を得たものに対して、不当利得返還請求権 ( 5 ) とする。もっとも、肯定説内部においても、不当利得返還請求権の成立に﹁合理的な絞り が認められるべきである、 をかけつつ一定範囲だけのものにだけ認めていく﹂べきであるとして、﹁配当期日への出席の有無、配当過誤の重大性、 届出債権の性質等を考慮し﹂、利益衡量的判断により、﹁配当が著しく公平を欠く場合﹂に制限する見解(以下﹁総合 ( 6 ﹂ 衡量説﹂という)もある。 さらには、判例と同様の制限的肯定説に立ちつつ、﹁不当配当が不利益を受けた担保権者の行為ないし怠慢に起因す る 場 合 に は 、 その不当配当は彼の側からの配当異議により是正されるべきであり、それを怠った場合には、その配当 ( 7 ) に消極的に賛成した﹂ものとして、不当利得返還請求権が成立する場面を限定しようとする見解も現れている。 217一一民事執行と不当利得 先に挙げた二つの最高裁判例を契機に議論が再燃し、不当利得の成立に好意的な見解がつぎつぎと公にされている。 配当手続には不当利得返還請求権を消滅ないし失権させるに十分な手続保障の措置に欠け、債権者に酷であるとする。 い ず れ の 見 解 に あ っ て も 、 強制執行(配当)手続の安定と不当な配当しか得られなかった債権者の救済の も っ と も 、 必要性との均衡を図ろうとしており、(無制限)肯定説と(例外付き)否定説の聞で、誰に対して、いかなる要件のも とで不当利得返還請求権を認めるか、肯定と否定のいずれが原則か、結論を一にするものがない。ますます混迷の度 を 深 め て い る 。
ところで、不動産執行後の債務者が無資力であることも少なくないことを考えると、不当利得を肯定するか否定す つぎの二点に認められょうか。第一に、配当受領者の主張しうる抗弁の相違である。否定説 によると、債権者は、場合によって債務者が有する不当利得返還請求権を代佐行使するほかはなく、その結果、たと えば、債務者に対する別口債権との相殺の抗弁のような、債務者に対する抗弁事由の対抗を受けることとなる。この 場合、債務者へのさらなる責任追及の負担をいずれが負うのかという問題となってくる。第二に、不当な配当の是正 るかの実質的な相違は、 方法に関してである。否定説によると、配当異議とそれに続く配当異議訴訟またはこれら救済方法が期待できない例 外的場合に認められる不当利得返還請求権のいずれか一本に絞られるのに対して、それ以外の見解では、不当利得が 肯定される限度において、債権者に対して配当異議訴訟との選択あるいは併用を許すことになる。この点では、否定 説の方が明確である。 こうした表面的相違にとどまらず、担保権者に不当利得返還請求権を認めた最高裁平成三年判決の裏には、不当利 得の本質論に関わる重大な問題が潜むようにも思われる。すなわち、最高裁は、過誤配当により、担保権者の優先弁 済権が﹁害され﹂ることにより、不当利得返還請求権が成立するという。こうした表現は、いわゆる侵害利得論を想 { 8 ) 起させる。周知のとおり、ドイツにおいては、強制執行(競売)における不当利得は、優先権に対する侵害利得
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昨日 0ロ)の一類型とされている。最高裁が、近時の学説の傾向を意識しつつ、不当利得類型論に歩を進 めたものと読めなくもない。そうであるならば、類型論を前提とした、不当利得返還請求権に関する詳細な要件論が 展開されるべきではなかったであろうか。法律構成としては、 一方で、配当は執行裁判所により実施されることから、 単純に、第三者たる裁判所の手による侵害利得と捉、えることも可能であるし、あるいは、債務者に帰属する配当財産 一種の三角的不当利 を原資とし、配当関係に立つ債権者・担保権者間における利得の有無が問題となる点に着目し、得と構成することもできよう。ドイツにおいては 一般に三角的不当利得関係は、給付利得
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ロ ) { 日 ) の問題とされている。しかし、そこでの思考方法は、ここでも利用できるのではあるまいか。たとえば、法律上の原 因の有無を判断する際に、債務者と配当受領者の関係から(被担保)債権の弁済受領権限の問題として論ずるのか、 あるいは、配当当事者聞に視点を置くのかによって、 その説明を異にするであろう。また、不当利得返還請求権の肯 否の判断の裏には、第三者たる債務者の無資力に対する危険をいずれの債権者・担保権者が負担すべきかという価値 衡量が潜むのである。 これに対して、この判示部分が、 たんに不当利得における損失要件(損害ではない)を肯定したに過ぎず、従来の 衡平説を維持するというのであるならば、最高裁としては、 その依って立つ公平感あるいは実質的根拠論を開陳すべ きではなかったであろうか。むしろ、この点に関しては、否定説の立場から、 その結果の妥当性に対する検証という 観点から、不当利得の返還を求める担保権者の実体に迫り、その不当利得による保護の必要性の欠落が厳しく論破さ ( 日 ) れている。衡平説は、硬直化を避け、事案ごとに妥当な結論を導きうるうまみがあるかも知れない。総合衡量説が、 その試みのひとつであろう。しかし、 たとえ衡平説に依拠するとしても、 不当利得の成立要件の検証はおろそかにさ 一一民事執行と不当利得 れるべきではない。 最高裁の判決理由を見る限り、 それらを事例判決と受け取ることは困難である。事例判決でない以上、不当利得論 の本質に迫る説得的な判一不を望みたかった。 各見解の批判的検討 ( ロ ) 不当配当の事後的矯正子段としては、不当利得以外には考えられない。実体法にそぐわない配当は是正されてしか( 日 ) るべしとする肯定説は、素朴な直感的正しさを有する。配当受領者の利得が正当化されない限り、不当利得返還請求 権が肯定されそうである。しかるに、配当子続自体による利得の正当化は、困難である。最高裁がいうように、配当 手続は、手続の構造上、配当金の帰属を確定するに十分な手続保障を与えていない。手続による実体関係の歪曲は好 ( M ) ましくなく、可及的に回避されるべきでもあろう。 当事者の処分意思に法律上の原因を求めることには、巧みな説明ではあるが、 限界があるのではなかろうか。実際 に当事者の同意に基づく配当が実施された場合ならばともかく、 配当期日に出頭せず、あるいは、配当異議の申出を しないなどの債権者ないし担保権者の態度を﹁配当表に対する賛意の消極的表明﹂とするのは、あくまで擬制に過ぎ ない。また、処分意思の表示に暇抗がある場合、これを掛酌せざるを得ないのではなかろうか。債権者は、通常、他 の配当要求債権者の債権ないし担保権者の被担保債権の消長などを知りえないのであり、 その配当受領権限につき錯 誤をともなうのは避けがたいであろう。かくして、例外として配当手続における手続保障に欠けた債権者に対しての ( 日 ) ( 日 ) み不当利得返還請求権を付与すべきとする正当な利益衡量が、裏切られはしないであろうか。不当利得返還請求権が ( 口 ) 成立する例外的範囲を、﹁自己の過失なくして配当異議事由の存在を知らなかった場合﹂にも拡張する見解の登場をみ たのも、自然な流れともいうことができるのではなかろうか。 い ず れ に せ よ 、 不当利得を請求する側の過失という主 観的帰責性が弁済受領者側の法律上の原因に影響することは、異質なのではなかろうか。 利得の正当化が困難であるとしても、、直ちに肯定説が支持されるべきとも断言できない。すでに指摘されているよ そもそも不当利得返還請求権の各成立要件の検証が十分ではなく、場合によっては発生するであろう債務者の ( 凶 ) 不当利得返還請求権との関係の解明も不十分である。両債権が併存するとしたならば、たとえば不当利得債務者が破 、 フ に 、 産し、あるいは、 その財産が競売されたような場合に、その他の債権者との関係において、不公平な結果とならない
であろうか。これ以外にも、 不当利得肯定説は、不明確な点を残す。たとえば、配当受領債権者または担保権者が不 当利得の返還に応じた場合の事後処理はどうなるのであろうか。第一に、 不当利得の返還を受けた限度において、不 当利得返還請求権者の債務者に対する債権は消滅するのであろうか。不当利得返還請求権と不当利得債権者の執行債 務者に対する債権との関係をどのように捉えるべきかという問題である。 一種の不真正連待債務として解決を図るの であろうか。少なくとも、 一方の消滅は、他方の消滅をもたらすが、この結果をどのように説明するのであろうか。 この点、担保価値の侵害を不当利得の根拠とする立場(侵害利得論または制限的肯定説)からするならば、第三者弁 済として処理するのが一貫するように思われる。また、不当利得債権者の債務者に対する債権に付されていた人的・ 物的担保の帰趨も問題となる。そして、不当配当受領者または担保権者の債務者に対する債権は復活するのであろう か。その時期、根拠が問題となる。あるいは、不当利得債権者の有していた債権が不当利得債務者に移転するに過ぎ ないのであろうか。復活するとしたならば、保証人の責任もまた復活するのであろう。復活するとしても、不当利得 ( 日 ) 債務者の利益が害されないよう、民法七
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七条が類推適用されるべきであろうか。 不当利得の肯定は、配当手続の意義を無に帰せしめ、 そのうえ、こうした不透明さをもたらすだけでなく、民事執 221一一民事執行と不当利得 行法の体系を損なわないであろうか。すなわち、肯定説を前提とした場合、 民 事 いわゆる過誤配等の場合に限らず、 執行法が自ら不当利得の問題を後に残すような制度設計をしていることになるのである。その結果として、場合によ つては、収拾のつかない事態を招きかねない。 ① 複数の不動産が一括売却(民執六一条)に付された場合において、 不動産ごとに配当順住ないし配当受領者の 範囲を異にするならば、売却代金が各不動産の最低売却価格に応じて案分して振り分けられ、 それぞれの配当原資が 算出される。ところが、各不動産が実際に売却代金に寄与した割合と最低売却価格にしたがった割付とで異なる可能性は、否定できない。担保権者が、執行以前に、担保不動産の価値を把握していることを理由に、執行配当による不 当利得を認めるならば 一括売却における代金総額の割付もまた不当利得の原因となるのではなかろうか。個別最低 価格と代金割付価格とを別に定めても、所詮は訴訟を経ない確定であり、問題は解消されない。 不当利得に三者が関係してくる場合、収拾がつかない事態を生じないであろうか。たとえば、ある不動産に対 ② して優先順位にしたがい甲(被担保債権五
OO
万 円 ) 、 乙 ( 同 一000
万 円 ) 、 丙 ( 同 一000
万円)三人の抵当権者 がおり、競売により一一OO
万円の配当財産が形成され、甲五OO
万円、乙六OO
万円、丙O
円の配当表が作成され、 ( 初 ) 配当が行われたとする。後日、甲の被担保債権の不存在を発見した丙が甲を相手に不当利得返還請求訴訟を提起した。 ( 幻 ) 五OO
万円の請求が認容されるとする見解がある。たしかに この事例において、甲の利得額に着目し、丙に対して、 配当異議訴訟の相対的解決と整合しよう。しかし、丙には五OO
万円の損失はなく、 一OO
万円の限度で請求は認容 されるべきではなかろうか。さもなくば、今度は丙が四OO
万 円 を 利 得 し 、 乙から四OO
万円の請求に応じなければ ならなくなる。ぐるぐる廻りを認めるのはおかしい。また、 乙も甲に対して四OO
万円の不当利得返還請求権を有す るはずであるが、丙の請求権との関係も問題である。ところが、 そ の 後 、 乙の債権の不存在も発覚したとしよう。丙 は、乙相手に、六OO
万円の不当利得の返還を求めることができよう。最終的には、甲は四OO
万 円 、 乙 はO
円、丙 は 七OO
万 円 を 、 それぞれ手にすることができる。これこそ、まさに、実体法と議離した結果ではなかろうか。こう した不都合を避けるためには、丙は甲と乙を共同被告とすればよいであろう。しかし、 つねに共同訴訟を要求するこ とは、丙に酷であり、不可能である。さらに、共同訴訟とした場合にも、弁論の分離が禁じられるとしなければ一貫 しない。この禁止の根拠ならびに当否は、 は な は だ 疑 わ し い 。 さ ら に 、 甲 ・ 乙 問 、 乙・丙問および丙・甲陽の訴訟が継起し、 それぞれ矛盾する内容の判断が下された場合、まさに収拾がつかない。これらの聞には、必要的共同訴訟の関係も認められず、併合強制も働かない。たしかに配当異議 訴訟においても、相互に矛盾した判決が下される可能性はあるが、関係人全員の関与する配当子続における調整が図 られるのである。後日、不当利得の名のもと、この調整の結果を覆すことを認めるのは、明らかに不当である。 三すくみの状態は、担保権と租税債権とが交錯する場面において、法律自体が予定する。担保権と租税債権の 聞においては対抗要件具備の時と法定納期限の先後により、租税債権相互の聞においては先着手主義により交付要求 ③ の先後にしたがって、それぞれの優先関係が決せられる。優劣を決する基準を異にすることから、担保権者と租税債 権相互の閣で、ある担保権に優先する租税債権が担保権に対して劣後する他の租税債権に対する関係において、後順 位に置かれるという事態が生じうる。こうした三すくみの事態に対処するため、国税徴収法二六条が配当における調 整を規定する。不当利得の成立を認めたならば、相互に不当利得を請求することができ、配当金が循環し続けること に な る で あ ろ う 。 ④ 一般に、配当異議訴訟は、異議申立人と被申立人との聞において配当に関する争いの相対的解決を図るものと されている。ところが、配当異議訴訟で他の債権者が勝訴した結果を援用して、他の担保権者または配当要求債権者 が不当利得の問題を蒸し返すことは必定である。それならば、不当利得訴訟を回避すべく、配当段階において、配当 異議訴訟の結果を他の債権者の配当額にも反映させる方策に傾くであろ沿い配当異議訴訟は、破産債権確定訴訟に似 てくる。配当表と債権表との対比は意味を失う。ところが、反対に、この考え方によるならば、配当財産の分配は配 当手続限りで問題とされるべきであり、後日の不当利得返還請求を否定しなければ、 一貫しないのではなかろうか。 民事執行による不当利得の問題は、民事執行法体系に再考を促す。不当利得を肯定した場合、 みすみす不当利得を 誘発するような措置は回避されるべきであろう。したがって、民事執行手続内における慎重な事実認定・権利関係に
対する判断が求められてこよう。そのことが民事執行の迅速を阻害することが憂、えられる。 四 配当表と不当利得 1 配当表による損失要件の排除 これまで不当利得の成否の主戦場は、法律上の原因の有無にあり、それ以外の要件、とりわけ損失および利得要件 ( お ) はあまり問題とされてこなかった。それは、当該強制執行により各債権者が得る配当は先験的に決まっており、それ 以下の配当しか受けられなければ﹁損失﹂があり、 それ以上の配当を受ければ﹁利得﹂したことになると考えられて つぎのように要約される。担保権者は、﹁執行目的財産の交換価 ( M ) 値を把握している。それ故、自分に帰属すべき価値は、配当手続参加以前の段階で順位に応じ、既に決まっている﹂ いるのではなかろうか。とりわけ担保権者について、 と。誤りは、この出発点にある。担保権者が担保目的財産からどの程度の債権回収が可能かは、まさに当該財産に対 する担保権の実行手続により規定される。担保権者は、確かに他の一般債権者に対する関係においては優先的地住を 有 し 、 より大きな債権回収への見込みを有する。しかし、実行以前の担保権は、債権回収可能性への抽象的な期待に しか過ぎない。担保物権が物の有する価値に対する直接的支配を内容とする物権であるとしても、 その価値自体が保 障されているわけではない。むしろ、担保権が実現されて初めて、 それがどれだけの価値を有していたかが遡って決 まってくるのである。担保権は、 その実行手続を通じて、その把握する抽象的価値の具体化・現実化をみるのである。 あるべき民事執行手続という側面から見た場合、担保権の実行手続は、 その価値を実現するに適した制度設計がなさ れていなければならないのである。さらに、現行民事執行法は、担保権につき消除主義を採用する。もしも、民事執 行手続による担保価値が実現されないというのであるならば、担保権を消除することは、財産権の保障を規定した憲
法二九条に違反するおそれすら認められよう。 結 局 、 担 保 価 値 は 、 その実行以前に決まっているのではなく、民事執行手続により形成されるのである。金銭債権 執行手続は、執行目的財産を差押え、換価し、弁済金交付または配当手続が行われることにより、締めくくられる。 ( お ) 配当財産は、執行目的財産に代わるものであり、後者の権利関係がそのまま前者に反映されなければならない。した ( お } がって、配当財産は、依然として債務者に属し、担保権者は、配当財産のうえに従前の順住のまま不可分的に担保権 ( 幻 } を保有することになる。目的財産が換価され、金銭化しでもなお、不可分性は失われない。配当手続終了以前にあっ ては、いまだ担保権は抽象的な存在であり続ける。配当実施段階にいたり、はじめて当該担保価値が現実化され、そ の価値が決せられる。配当は、配当表に基づき実施されるのであり、配当表こそが担保価値を実現する基礎となる。 { お ) すなわち、配当表は、一種の形成裁判であり、担保権の価値を形成する効力を有することになる。配当表の形成的効 力により、当該担保権の価値が確定されるのであり、配当手続終了後において、担保権がそれ以上の価値を有してい たとの主張は妨げられることになる。したがって、担保権者が担保権の侵害を理由に不当利得の返還を請求しようと しでも、損失がないこととなる。問題は、自らの担保権の価値が実現されたかどうかにあり、他人がどれだけの配当 225一一民事執行と不当利得 を受領したのかは、関係がない。たとえば、後順住の抵当権者が配当異議訴訟の結果、先順位の抵当権者より多額の 配当を得たとしても、それは後順位抵当権者が努力して自らの担保価値を高めた結果に過ぎないのであり、先順住抵 当権者としては、その結果を羨むべきではない。 配当要求をした一般債権者についても、同様に損失が認められない。任意弁済のアナロギ!として損失が否定され る の で は な い 。 一 般 債 権 者 も ま た 、 配当要求資格により限定づけられた配当受領権限に裏打ちされた執行目的財産を 掴取する一種の物権的地住を有している。積極説は、不当配当により法律上保障された配当を受ける地位が侵害され、
(MU) 損失が生じるものとする。しかし、問題は、こうした地住がどれほどの価値を有するのかである。 ( 初 ) 目的財産に対して把握している価値も執行手続をつうじて初めて実現されるのであり、適正な執行・配当手続の結果 一般債権者が執行 としての配当を受領した以上は、それ以上の価値が自らに帰属したであろうと主張する余地はないのである。 配当異議・配当異議訴訟は、配当財産が他の債権者に取り込まれていることを原因として、自己に帰属すべき権利 価値の実現が妨げられていること対する救済手続である。他の債権者の配当額それ自体の変更が目的なのではない。 これは、他の債権者と執行債務者との執行関係上の問題であり、基本的には、他の債権者が容鳴すべき問題ではない。 自己への配当に影響する限度で、他の債権者の配当に変更をもたらす利益が認められるに、過ぎないのである。 配当表と破産債権表との対比は、適切でない。破産債権者表には不当利得を遮断する効力が認められるのであろう か。明文上、債権者表には確定判決と同様の効力が付与されている(破産法二四二条)。しかし、そこで確定されるの は、破産債権としての適格性、存否および額だけである。たしかに、配当表は、債権や担保権の存否を確定する効力 を有せず、配当財産の帰属を終局的に確定するものでもない。この点、債権者表において確定されるのは、前者に関 してだけであり、その効力は後者にまで及ばない。破産配当においてもまた、配当表が作成され(破産法二五八条)、 これに基づき配当が実施される。この破産配当表には配当の帰属を確定する効力が認められるというのであろうか。 また、破産手続においては、担保権者は、別除権者として破産手続外に置かれ、 不当利得の問題は解消されない。 実体的確定力(債権・担保権に関する既判力) の不存在は、配当表を裁判として無意義なものとはしない。配当に 与るのは、差押債権者のほか、配当要求権者、担保権者など有資格者に限られる。配当手続においては、請求異議や 配当異議訴訟などによる反対の判断が提示されない限りは一応その権利を前提に、配当財産の分配が決せられる。当 ( 担 ) 該権利の存否については、別途訴訟手続による確定が保障されなければならない。したがって、後日、債権や担保権
の不存在が確定された場合、 不当利得の問題が生じる。この場合、 不当利得を請求するのは、執行債務者であり、他 の債権者は債権者代位の可能性がある。 準再審としての不当利得返還請求訴訟 2 ( 位 ) 配当表の形成力により損失が否定され、不当利得返還請求権の成立が妨げられるのであるならば、配当表の効力が 取り消されたならば、不当利得返還請求権が成立する可能性はある。裁判の効力を覆滅するには、(準)再審手続を要 する。配当手続に関する呼出を受けず、手続保障を受けなかった債権者は、 民事訴訟法三三八条一項三号を類推適用 して、準再審手続としての不当利得返還請求訴訟を提起することができる。詐欺、脅迫により正当な配当受領を妨げ られた場合にも、同様に、不当利得の返還が認められよう(同五号類推)。これらの場合、配当異議訴訟は提起されな かったであろう。したがって、単なる再審のみによる救済では不十分であり、これに代わる不当利得返還議求訴訟を ( お ) 認めなければならない。不当利得の返還とあわせて配当表の変更を求める必要はないであろう。けだし、配当実施後 には配当異議訴訟の利益はなく、再審手続において、事情の変化に応じた訴えの変更を要するのは、特異なことでは ( 鈍 ) ないからである。このように不当利得返還請求訴訟を配当異議訴訟の再審手続に代わるものと捉えるならば、執行裁 ( お ) 判所の属した裁判所の管轄が認められることになろう。執行記録の存する裁判所に管轄を認めることに合理性がある。 その他の再審事由については、その性質上類推に適しないかあるいは類推する必要がほとんどないであろう。 3 不当利得返還請求権の消滅 配当表による不当利得の遮断は、 不当利得返還請求権の消滅の問題ではなく、成立自体の問題である。例外的場合 にしろ、不当利得返還請求権は成立し得る。この不当利得返還請求権を、予めまたは事後的に、債権者が放棄するこ ( お ) とは妨げない。債権者の処分(放棄)意思(承認)は、不当利得返還請求権の消滅原固または権利行使障害事由とし
て、再構成されるべきであろう。すでに述べたように、法律上の原因としての賛意が説かれる場合、配当異議や配当 異議の起訴証明に関する不作為も消極的賛意の表明とされる。不当利得返還請求権の消滅原因としても、黙示の意思 表示を否定する必要はないが、単なる消極的態度では不十分な場合が多いであろう。債権者の処分(放棄)意思の表 一不が不当利得返還請求権の消滅原因とされる以上、当然に錯誤等意思の暇証を主張することが許されるべきである。 そのほか、信義則の一般的適用の結果として、不当利得返還請求権の行使が許されないとされることがあるのは、 当然である。しかし、不当利得の一般的成立要件とは、明確に区別して論じられなければならない。
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さいごに 配当表により債権または担保権の価値が実現されるものとし、債権者の損失が否定される。この見解に対しては、 配当表に基づき配当が実施される不動産競売の場合・ならばともかく、配当表を要しない強制管理(民執一O
七条)や 動産執行(民執一三九条二項)における配当には妥当しないのではないかとの疑問を生じよう。しかしながι
、配当 表が省略されるのは、債権者間で協議が整った場合であり、多くの場合に不当利得返還請求権の放棄が認められよう。 ま た 、 そもそも、配当表という裁判に基づき配当がなされる場合とそれなしに実施される配当結果とに関して、統一 的説明を与、える必要もないのではなかろうか。 ( 犯 ) これまで、配当表および配当手続の本質の解明が十分なされておらず、この点をおろそかにしたままでは、私見の 説得力に欠けよう。この点、後日の課題としたい。 ( 1 ) 民集四五巻三号三二二頁一一民事執行と不当利得 ( 2 ) そのほか、抵当権者の不当利得返還請求権を肯定した判決として、仙台高判平成三年二月一一一日判時一四 O 四号八五頁、東 京地判平成三年四月一九日判時一四 O 四号九四頁、判タ七七三号二六二頁がある。 ( 3 ) 民集五二巻二号五一三頁 ( 4 ) 中野貞一郎﹁民事執行法︹新訂四版︺﹄四八六頁 ( 5 ) 田原隆夫﹁不当な配当と債権者の不当利得返還請求権﹂金法一二九八号一八頁以下 ( 6 ) 滝沢幸代・民商一二 O 巻一号一三九頁、一四四頁以下 ( 7 ) 栗田隆﹁配当異議の申出をしなかった債権者と不当利得﹂金法一二八八号四頁、とくに八頁。自身、この見解を﹁限定的肯 定説﹂と命名する。配当手続における手続保障に不当利得返還請求権を否定する根拠を求める多数説の基本思想を制限説に接 続する見解と評することができよう。 ( 8 ) 松岡久和﹁過誤配当と不当利得﹂谷口知平追悼記念論文集 2 五一二頁以下は、類型論の立場から判例の結論を支持する。 ( 9 ) 司 回 日 宮 島 ¥ 、 叶 吋 H O B S -切 の 回 明 ∞ H N w 河 口 ・
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判決を﹁三角不当利得における給付利得の問題﹂の箇所 で 扱 っ て い る 。 (日)中野貞一郎・私法判例リマ l クス一九九二年︿上﹀一五八頁。これに対して、不当利得を否定した場合の弊宝口(配当要求債 権者や債務者の不当な策動を許容する結果となる)を指摘する秦光昭﹁配当異議の申し出をしなかった債権者の不当利得返還 請求の可否﹂手形研究四五六号一 O 頁が、唯一の肯定説側からの反論である。また、田原・前掲注 ( 5 ) 二 O 頁は、﹁積極説こそ が妥当な結論を与える﹂という。こうした実務家の感覚は大切にしたい。 (ロ)不法行為の成否は別問題である。(日)池田辰夫﹁配当異議訴訟をめぐる諸問題の現況﹂判タ七二九号三一頁は、積極説を﹁理論的な帰結﹂としつつ、﹁個別具体的 な ケ l スで﹂の因果関係を問題とするが、理論展開がなく、根拠が不明である。 (日比)石川明﹁配当異議と不当利得﹂金法九九二号八頁 (日)手続保障の欠知ゆえに配当異議訴訟の機を逸した一般債権者に関しても、損失がないとして、一律に不当利得の返還請求を 認めないことは、妥当でない。 (日)手続による利得の正当化 H 法律上の原因の肯定から、直ちに例外的処理の肯定には至りえないのではなかろうか。その余の 不当利得の要件の論証に欠ける。不当利得肯定説に対する批判が跳ね返ってこないであろうか。 (口)青山善充・時の判例・法教二二三号九九頁。そこでは、限定的肯定説と﹁同様の発想に立﹂ち、不当利得返還請求権者を﹁競 売目的物件につきその交換価値を掴取している﹂担保権者に限り、担保権者でも﹁異議申出の事由があることを知りつつ漫然 とこれをせず、後日不当利得返還請求訴訟を起こしうるとすれば、配当期日の意義は失われる﹂として、不当利得返還請求権 を否定する。結論の落ち着きはともかく、不当利得の要件との関連が明確でない。結果同旨、大村敦志・最高裁民事判例研究・ 法協一一一巻六号九二七頁。 (日)上原敏夫・取引法判例研究・ NBL 一五二号六三頁。岸上晴士山・判例評釈・ジュリスト増刊担保法の判例八七頁は、両債権 を不真正連帯債権の関係に置き、債権者の優先を説く。 (川口)石田穣・最高裁民事判例研究・法協九二巻三号三六五頁。過誤配当によっては、配当の実体的効果を生ぜず、債務が当初よ り消滅しないとする趣旨であろうか。事案を異にする判決の評釈であり、明らかではない。 (初)塚原朋一・金法一二九四号一九頁の例である。 (幻)前掲注(初) ( m μ ) 影響する限りにおいては、配当期日に異義を申し立てなかった債権者にも、訴訟参加が許されることになろう。 (お)否定説においても、例外的に不当利得の成立を肯定する。論者は、不当利得の要件のいずれかが否定されればよいとしなが らも、利得、損失および両者の間の因果関係を暗黙のうちに肯定しているのではなかろうか。一般債権者の損失がないとする 見解(野山宏・曹時五一巻一 O 号 二 O 九頁)からは、一切の例外的扱いを否定するのであろうか。あるいは、例外的に損失が 発生するというのであろうか。
231一一民事執行と不当利得 ( M ) 梶山玉香﹁手続終了後の実体的調整に関する一試論(二・完)﹂同志社法学四六巻五号八四四頁。同所において、つぎのよう に続けられる。﹁配当要求債権者の支配力は、手続への参加を通じて具体化される。自分にどれだけの価値が帰属するかは、手 続ごとに妥当する分配ル l ルにより決まる。﹂と。担保権者と分けることなく、この思考を貫くべきではなかろうか。経済状況 の変動や優先的負担の後発など担保価値も手続的諸要因に左右され、また先取特権や流動担保においては、価値把握財産の特 定・固定性という面において、一般債権者に近い。松岡久和・金法一三 O 四号六八頁は、一般先取特権者の地位把握の問題を 指摘する。反対に、手塚宣夫・判例評論・判時一六五五号二三七頁は、各債権者に帰属すべき配当額は按分によって決まって いるとし、本来受けるべき配当額を予定する。 ( お ) 回 の 出 N 日 w M 吋 w 切 の 白 血 mYN 一 可 申 ・ (お)中野貞一郎﹁配当手続の性格﹂破産強制執行研究一六八頁 (幻)この理を押し進めていけば、担保権者において、債務者が有する不当利得返還請求権の土に物上代位する可能性も認められ ょうか。それならば、不当利得の形で直接に返還請求を認めてもよさそうであるが、物上代位権を行使するためには、差押え が必要であり、他の債権者が参加する機会も保障され、利得の循環を防ぐこともできよう。 (お)配当表の法的性質につき、注解民事執行法 ( 3 ) 三六三頁︹中野貞一郎︺参照。同所では﹁配当表の法的性質を論ずる実益 に乏しい﹂とするが、何らの効力を有しないのであれば、単なる計算書としておけば済む。 ( m U ) 松本博之・私法判例リマ l クス一九号(一九九九年︿下﹀)一四七頁 ( ぬ ) ω n g ロ } 内 巾 ¥ 回
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巾 吋 ¥ ω 5 5 R N 者 自 岡 田 J N o -- m 可 巾 n r E 口 問 l w 問 。 ロ r c a l ・5 己 ︿ 巾 吋 m Z 日 n z s n y F 回 自 己 F8 ・ω 品は、﹁配当表は債務名義を 具 体 化 す る ﹂ と い う 。 (況)非訟裁判の効力と同じ発想である。 (辺)執行が外国で行われた場合、不当利得の準拠法、外国でなされた執行行為や付随的裁判の承認という異なった問題を生じる が、内国民事執行に準じて捉えればよいのではなかろうか。︿拘戸切のz
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ミ ・ (お)栗田・前掲注 ( 7 ) は、配当異議訴訟に代わる不当利得返還訴訟をいう。 ( 川 品 ) 何 日 円 r E S P -D 富 ロ ロ ロ 炉 問 。 B E N -) ( ) w お お 河 口 ・ 8 が、配当表実施後の配当異議訴訟において、支払い請求(不当利得返還)訴 訟 へ の 変 更 を 説 く 。(お)ただし、専属管轄とすべきかは、問題である。 ( お