企業成長と経営組織の考察 -- 松下電器の事例研究 --
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(2) ただ戦略的決定が,かならずしも企業成長に直結する結果にならないこと も,確かである。企業の経営的な地位,市場的な立場を維持するにすぎない 結果の場合もある。あるいは企業そのものが,成長よりもむしろ保守的に維 持に熱心な場合もあろう。これらは,戦略的決定の有効さの問題であるとと もに,戦略的決定の前提となるべき,その企業のいわゆる戟略セットという か,経営理念や価値観に依存する問題であるといえる。 しかし企業が成長をもとめるとしたら,ある規模以上の展開は,有効な戦 略的決定を欠いては達成することは不可能といえよう。つまり常規的な,管 理的,業務的決定による戦術レベルでの展開では,ある限度以上の企業成長 は期待しえないといえる。そこに戦略的決定と企業成長の課題が見出される といえよう。 チェンバレンも,つぎのようにいっている。「企業が現有の製 品ライン,生産,マ ー ケティング,財務組織をしぼり抜いて,現在の真の資 産から可能最大限の 利益を引き出した後, 成長がもしあるとすれば, そ れは 企業資産の形態と 規模を変更する戦略的諸決定から生じるにちがいな い。」(注2) さて戦略的決定による企業成長の誘因や条件は,どんなものであろうか。 チェンバレンは,いくつかの成長への誘因をあげている。まず市場支配 0) 誘 因である。その企業が活動している業界,市場での影響力を強化したいとい う欲望であり,その産業内での企業が少数であればあるほど,また業界が効 果的に組織されればされるほど,なかでも企業みずからの市場占有率が拡大 されればされるほど,企業の影響力は価格形成などを通じて大きくなる。企 業が市場支配をしたいという欲望は,成長への誘因として刺激的であり,そ のために有効な戦略的決定が必要となるわけである。 こうした市場占有率拡大への努力のなかには,安全動機としての誘因もふ くまれているといえる。これは企業が競争に打勝つことによって,対市場, 顧客にたいして有利であるとともに安全である交渉地位を獲得することを意 注—2) N. W. チェンバレン,前掲訳書,-100頁o. 一130. (326)-.
(3) 味している。 だが成長への誘因としての安全動機は, 所与の市場での効果的 な地位の獲得というよりは, むしろ多数の新市場へ参入していく企業の行 動, たとえば「複合」企業 (conglomerate firm) といわれるものの行動に こそ, 安全をもとめての成長への誘因が見出されるといえよう。企業危険分 散の動機といえるかもしれない。。 こうした安全動機は多角化への関心を高 め,新製品開発をはじめとした研究開発志向を強めることになる。 これに つ いては, チェンバレンもいう。「企業の研究活動は,ーこうした逆境に対する 保険と繁栄への賭という二つの要素を結合する,魅力的な包みである。 いず れにせよ, 研究計画を企業自体の組織構造の中に組み込むならば,,本来の動 機が安全性にあるとしても,. 一. つの成長誘発効果をもつようである。」m�)そ. のためにも,「それは組織が大きければ, 危険分散政策をいっそう容易に遂 行できることを意味する。安全性を与える業務活動の多様性は経営規模と関 係がある」(注 4) という。. --. チェンパレンは, 企業成長への第三の誘因が, 経営管理層の心理的衝動で あるというc「企業が拡大を求める第三の誘因は, しばしば企業の戦略セッ トの中に深く埋められるようになる, ある経営管理層の心理的衝動にさかの ぼる。」ms汲これは,企業の成長と自分のそれとを同一視するところから,経 営者自身の満足感を満たすという理由で説明されている。企業帝国といわれ るものの創設と形成,. それへの他の実業家をはじめとした人々の注目と尊. 敬. これらはたしかに満足感の直接的な一源泉である。 しばらくチェンバレ ンの解説をみよう一一この型の経営者の中には, 成長のための成長という銀 念にとりつかれているようなものがいる。 大きいほどよい。 そういう経営者 は自社の諸設備を拡大し, 他の企業を吸収し, . 競争相手を買収し, 他の市場 を蚕食し, 海外活動に進出したいと考える。 これはナポレオン的コンブレッ 注ぺ3) N. W. チェンバレン,前掲訳書,104頁 o 注—4) 同上, 同書,105頁。 注—5) 問上, 同書,105頁。. -1:tl (327)-.
(4) クスである。しかし実業界のレオナルドもいる。この経営者は成長のための 成長というのではなくて)規模が独特の壮大な業績を達成するさらに大きな 可能性を開くよう成長を求めるのである。’彼らはおそらく芸術的な均整感を 楽しませるような,企業複合体を組み立てることを心に描<. と。 最後に金銭的刺激を成長への誘因としてあげる。企業の規模の拡大,っ まり成長は管理階層を多くし,上級管理層はそれだけ報酬も高くなるであろ うし;経営担当者のポ ー ナス・プランは企業の利益率というより,利益の絶 対額に結びついているから,企業規模の増大は利益を増加させ• したがって 個人的報酬も増加させることになるという。 • このような; より市場支配力をえたいという欲求,もっと安全な企業体制 をつくりたいという欲求,さらに成長が経営者にもたらす心理的,物質的報 酬という,これらの誘因について,チェンバレンは,「動機はほかにもあろ うが,かなり多くの一ー全部ではないが多くの一ー企業が,拡大を願わしい ものと考えていることを保証するには,以上で十分であろう」と,いう。 たしかに, 企業を拡大させ, 成長させる誘因としては十分かもしれない が,誘因間の相互関係なり,誘因中の主導関係など,、企業成長への誘因の並 列的でない関係,いうなら質的に序列づけられた立体的,構造的な関係が吟 味され,配列されなければならないのではなかろうか。そこにこれまで検討 してきた企業の個性なり:,戦略セットの経営的な位置づけが活きてくるので はあるまいか。その意味では,計算や打算が企業を先導するのではなく,経 営者のもつ個性からにじみでる思想なり哲学が,組織を主導し,計算が裏付 け補完する関係にあるといえよう。したがって企業の戟略セットのなかとい うより,•前提なり背景にある,経営管理層,なかでも経営者自身の心理的衝 動が中心である。•ただ経営者の心理的衝動の型態や内味については,さらに 別途の吟味を必要とするであろう。たとえば軍人型といえるナポレオン的な ものと,芸術家型であるレオナルド的なものだけでな<,むじろ日本的経営 の特性か,宗教家型とか思想家型といえる求道者的,ザピエ)K的なものもあ ー13 2 (.3お)ー.
(5) る。 それは石田梅岩の思想をあげ, 松下幸之助の理念をあげるだけでも事実 とされえよう。また心理的衝動という表現の内味についても,心理学的にも 深層心理学的な接近での理解や, むしろ哲学的な思想的, 宗教的な接近によ る理解すら必要で, 衝動という語句からの印象は, あまりにも皮相的な理解 にとどまるきらいすらありえよう。. .2). 企業成長の必妻・十分条件. 企業成長は, ある限度をこえては戦略的決定なくして期待しえない。その 戦略的決定は,経営環境の変化に適応する企業の資産の再農開である。企業 の経営環境には, 外部的現境だけでなく内部的環境の双方によって構成され 変化している。したがって外部的環境の変化の関係で,適応すべき企業の資 産の再展開としての戟略的決定と, 内部的環境にたいするそれとが両者あ る。企業成長にとって外部的環境の変化, それへの適応の条件こそは必要条 件であり, 内部的環境のそれは十分条件といえる。 そのため企業成長にとっ て必要にしてかつ十分な条件の追求と満足とは, 外部的かつ内部的環境の変 化とその適応の条件について考察されねばならない。 「成長への願望に加えて,成長に不可欠か, 成長を助長するか, の,あるいくつかの条件がある」(注 6) と, ぺンローズの研究を引用して,. ー一. いずれか. チェンバレンはいう。 そして図. 未利用の経営者サ ー ビスを利用できるこ. と一ー 「それを成長の第 一の必要条件」としている。 これは, 成長の第一の 十分条件というべきであり., 必要条件の第一としてはむしろ,. ス. クンフ.:t. ド�Stanford Re桑rqi. Institute)の研究成果にもあるように,.企業みず からが, たえず成長分野にいる,; とが, あげられよう。 ここでも成長条件を 企業にとって並列的でなく, 経営の構造的な適応関係から立体的な理解と把 握が必要といえる。それをふまえたうえで, 企業成長の内部的な十分条件の 注ョ6): N.:W. チェンパレン..前掲訳書.. 107頁。. -133 (329)-.
(6) 考察として, チェンバレンの理解が示唆に富んでいる。 未利用の経営者サ ー ビスを利用できること—�この経営的な意味をまず理 解したい。その意味するところは,経営者がつねに戦略的思考および戦略的 決定に,その能力と時間を活性化させることが,企業成長のための内部的な 第一の十分条件であるということである。企業が何か新しい事業をやりだす ときに,経営者達は不可避的に新たな問題を解きほぐすのに忙殺されるよう になる。非定型的ないわば戦略的決定を必要とする問題解決の過程である。 しかし時間の経過とともに問題は解決されて,かつて不慣れであった問題の 処理も,常規的となり標準化され,いわゆる定型化される。たしかにそうな れば責任のある経営者の時間は一部分解放される。この未利用の時間は空費 されることもあろう一おそらく職務上の漫然とした人づき合いや仕事の速 度をずっとゆるめることでふさがれよう一ーともいう。 だが経営者達のこの 未利用の時間を,新たな活動を探索させるようにしむけ,そのなかから新た な事業の計画を展開させ,推進し,業務活動を拡大さしていくところに,企 業成長の鍵がある。こうした経営者達にとっての学習過程が繰返し反復され ることによって,企業成長のためのノウハウは蓄稼されていく。 チェンバレンもいう。「戦略的思考は, 責任ある経営者も含めてそれに携 わる人々がその必要条件に精通するにつれて,しだいに常規的活動に代えら れる。こうした解放される創造力に富む人々の時間が新たな方向に転じられ て,再び新しい戦略的諸目的を生み,またやがて常規化されるようになる, 等々。現在の(常規的)活動で陳腐化の結果として打ち切られるものより多 くの活動がこの過程によって追加されれば,企業の成長は必至である。この ように,新しい活動を組織する経営者の才能をくり返し利用する以外に,拡 大を生み出すメカニズムは存在しない。生物学上のこれに相当する作用と違 って,企業には自然の成長過程はなく,成長は企因されるべきものである。 経営管理層以外に,他の諸要素――濱t本と労働一ーが必要ではあるが,これ らの要素やその代替物への接近もまた管理層が工夫することのできるもので. -134 (330)-.
(7) ある。この経営管理層こそほんとうの制約要因である。 」 (注 7) 少々,冗長な引用であるが,チェンバレンの解説には説得力がある。 たし かに企業は人なり,人材そのものが,企業の成長を左右するといってよかろ う。そしていま一つの企業の成長源泉については,「ある種のサ ー ビスの不 可分性 」 にあるという。これもある意味では,人材の問題であり,ただ専門 家達の問題であるだけである。 企業はその発展の段階において,広告,マ ー ケティング,デザイン, エン ジニアリングなどの専門的技術を必要とする。だが常規的な業務活動の水準 では,これらの専門家達を,かならずしも完全に活用しつづけるのに十分と はいえない。そのことは,経営者達の時間と能力が,獣略的決定を常規的活 動に転化するのにしたがって解放され,未利用になるのと同じ作用を演じて いる。この専門家達の時間と能力を, 企業の成長を築き上げるための基礎と し, 売上や資産に表現される追加的諸活動に吐け口を求めることになるので ある。 ただ,チェンバレンも適確に指摘しているように,未利用の経営者や専門 家の能力が存在すればいいとか,利用すればいいとかいうだけの問題ではな い。そこにこそ,企業の個性や戦略セットによる革新がなければならない。 それにむしろ,企業成長の課題があるといえよう。その指摘は —�しかしな がら未利用の経営者・専門家の能力,あるいは専門化された能力が新たな活 動を生み出すと論じるのは, 重要な中間段階を飛び越えることになる一ーと いう。そして一新たな可能性を生むものは 一企業内の諸資源の独特の集合 なり結合なのであり,革新を生むものは,独特の経験と関心をもつ人々の特 定の並列である 一ーという。また 一一こういう結合から生まれる着想は将来 のある特定のビジョンを反映している。事実,新しい製品やサ ー ビスはある 想像される状況によって凝縮される。それが頻発するためには,企業はこの ような想像力の働きを促す知的な環境,つまり戦略セットを備えていなけれ 注— 7) N. W. チ ェンバレ;/. 前掲訳書,108-109 頁。. -135 (331)-.
(8) ばな ら ない—ーともい う 。 だがチェ ンバレンは さ ら に,. ペ. ン ロ ー ズ の研究が, こ う した成長の潜在能. 力を確認 しただけで, 成長の実現手段を確認 していない, とい う 。 やは り , 人であ る 一一潜在能力を 現実化できる,. だれか一人ない し は 複数の人であ. る , 活力を注入する人物一ー こ れが必要であ る 。 すなわち ――着想が明確化 されるべきだとすれば,. なん ら かの企業者精神が 必要不可欠である, とい. っ。 チェ ン バレン は ,. 経済全体の 発展に かん し て,. 「循環的停滞」 (circular stagnation) にあたる,. G. ミ ュ ルダ ー ルがい う 変化を こ わがる企業,. 想. 像力に富む企業者 ク イ プの人物を欠いた, 型に はまったままの 企業と, 「累 積的因果関係」 (cumulative caustion) にある企業, 将来を期待できる環境 をつ く り あげ, ひとたび着想と活動が出 口 を与え ら れると, 企業は成長 し , その成長過程で 想像力と 活力に あふれる人た ちを 吸収するとい う 結果を生 じ , それがいっそ う 成長へ導くとい う よ う に累積的に進む, そ う いった企業 と に, 二区分する。 ただ, こ う した企業の二大類型化には , いくつもの段階 の程度にさ ら に 区分さるべき 中間類型があろ う 。. だが企業成長の究極の鍵. が, 企業家精神に富んだ, 活力ある人物, とい う こ とになると, その有無を 座標の両極にする こ とには意味がある。 もっとも, 企業家精神に富んだ, 活力ある人物を, 経営者および専門家を ふくめての人材と して, 企業成長のためのX 軸とするな ら , Y 軸 は企業成長 を促すよ う な働きのある知的な環境, つま り 戦略セ ッ ト の有無, 程度によっ て構成されるといえよ う 。 こ う し て企業成長のための内部的な十分条件と し て, X Y 両軸の成長マ ト リ ッ ク スを, チ ェンバ レ ンの所論か ら 理解する こ と ができよ う 。 こ こ で , われわれは, こ れまでみてきた, 戦略的決定と企業成長, および 企業成長の 必要, 十分条件の事例研究と して, 松下電器, そ して松下幸之助 を対象に し よ う と意図するのである。 <. -·. -136 ( 332 ) -.
(9) 3). 事業部 制の組繊. 松下電器の企業としての成長が, と くに松下幸之助の戦略的決定によるも 0) である こ. と は, すでにみてきたし(注 8 ) , またいろ い ろ の著作 も ある。 なか. でも 松下幸之助 自 身の最近の著作, 「 決断の経営」 は, その事例 その も ので あろう。 したが っ て松下電器における成長条件として, 外部的な経営環境へ の適応という必要条件は, 社史やその著作iこ み る よう に, 幸之助みずからの 「電気の時代」 への開眼に よ る決断をは じめ, 「家庭電化」 への専業細分化の 決断な ど, 徹底して成長市場分野に集 中する戦略的決定が, 結果として松下 電器を世界的企業にまで成長させるに役立 っ たことはいう ま で も あるまい。 こ うした外部的環境への適応という必要条件にかんする 戦略的決定につ い て は, 製品市場戦略の問題として, ある程度はすでに概観 も し た機会(注i). があ るし, 詳細は別途の, それだけの議論の機会にしたい。 こ こではむしろ,内 部的な経営環境への適応とい う , 企業成長の十分条件につい て, 松下電器の 事例をとお して考察してみたい と おもう。 松下電器の企業成長の十分条件として, ョ コ 軸 ーX の, 企業家精神に富ん だ, 活力ある人物に, 松下幸之助その人をあげるだけで十分とい えよ う 。 も っ と も 松下幸之助 が育て上げた経営者達そして専門家群, • こ れも十分な層の 厚さ, 広 さ を誇るものといえよう。 こ こでは, そうした人材を養成しえた土 壌というか, 組織 そして風土について検討 し ていく べきであろ う。 また企 業成長の十分条件の タ テ軸ーY については, 戦略セ ッ ト な い し価値セ ッ ト の 問題 として, 松下電器の経営理念および経営方針にかんして, すでに考察 し たところであ る (注10) 。 そこにおける松下幸之助の役割についても, すでにふ 注ー 8 ) 拙稿, 商経学叢26巻 1 号, 137頁;...,157頁。 注— 9 ) 拙稿, 商経学叢, 「松下電器の事例研究」 シ リ ー ズ。 注—1 0) 同上,; · 同書 ー137 (333 )ー.
(10) れている。 し たが って松下電器の組織の問題について検討 していく ことは, 松下幸之 助が独自に開発 し活用 してきた, い わゆる事業部制という組織について考察 し て い くことになる。松下•電 器に事業部制が採用されたのは, 昭和 8 年 5 月 である。それに先立 って, 電熱器事業部門での試行の時期はあるものの, 本 格的に組織と し て導入 し たのは, 1933年で ある。その当時, 欧米でも, デ ュ ポンなどすでに巨大企業といわれていたところに ようやく採用されて いる ディ ビジ ョン. ・. システ ム (Division System) と経営的には軌を一にする組. 織といえ る 。 ただその動機とか, 意図や運営の内味, 方法については, かな り 相異 し た 独自の も のを も っていることも,. すでに 理解 し たところであ. る(注11) 。たとえば採用の動機は, 松下幸之助の健康上の問題をふまえて, 多 面, 多忙な仕事を一人で 消化する 限界からであ ったことや, その意図に し て も, 人材を育成することに主眼をおき, し たが って運営の内味や方法も, た だ独立採算制という制度的なものでなく, また分権管理制との対応というだ け でなく, むしろ自主経営責任制という統合された運営を志向 している。 さらに松下電器の事業部制とい っても, 時代の風土というか, 経営環境と の適応関係において変化 し , 変遷 し きた っている。この変遷の歴史について は, かなり詳細に, かつ幾度か. すでにみている(注12) ので繰返さないが, 必 要な限度に お いて, 要約のみ し ておこう。すでにふれも し たように, 松下電 器が事業部制を採用 し たのは昭和 8 年であるが, それ以前の組織は, いわゆ る職能部制の体制である。当 初の事業部制は, 製品別のそれといわれるよう に, 製品 の販売 と生産を市場に直結 し て一事業体と し て組織化 したものであ り , 顧客志向, 市場志向の組織体制と して, 松下幸之助が構想 し た組織の原 点を忠実に表現しえて いる。この製品別事業部制を拡充 し て いくう ち に, ょ り自主責任経営体制と して徹底 し た分社制組織を, 昭和10年に確立する。こ 注一11) 拙著 「研究開発政策」 千倉書房刊, 昭和49年。 注 —12) 拙著, 前掲書お よ び商経学叢 「松下電器の事例研究」 シ リ ー ズ。 -138 ( 334 ) -.
(11) れは松下電器産業を中核にして, 傘下に 9 社のそれぞれ独立した法人である 分社を製品事業分野別に体制化したものである。ある意味では事業部制の徹 底した, あるいは完成された組織の形態ともいいえよう。 しかしやがて戦時体制をむかえ軍需産業に重心が移行していく経営環境0) なかにあって, そうした環境適応の組織体制として製造所制を昭和19年に採 用している。この組織形態は, 戦時体制下における軍需生産志向の経営に即 応するため, 製造機能を中心に, より職能的専門化をはかりながら, その管 理機能は分権化しつつも. より経営的には中央集権化した統合組織を, 非常 時体制として採用したものである。これにつづいて第二次世界大戦中および 直後の動乱の時期を克服すべく, 昭和24年には工場制として, さらに管理単 位を細分化し, 職能的にも製造機能により細密化し, ま さに 異常時体制への 組織として中央集権的な統合化をはかっている。もっともこの時期は時代お よび環境としても未曽 有の非常時に適応するための懸命な組織体制の採用で あり, 松下電器の事業部制の歴史における例外期であったともいえる。 昭和 25年, 戦後の動乱もようやく終息しかけ, 松下電器も諸々の制約から 解放されて復興の手掛りをつかみかけた時期に, 再度, 事業部制に組織を復 帰させている。ただこの時期に採用された事業部制は, 内容的に吟味してみ ると, かならずしも以前のそれと同一とはいいきれな い側面をもっている。 大戦直後の市場は混乱し疲弊しているため, 松下電器 自 体の内部状況からし ても, 各製品別にそれぞれが市場開拓にあたることができず, 企業全体とし て市場に直結する販売一元化の体制をとり, 各事業部はそれぞれの製品の生 産を中心に専念する組織を構築したのである。これは戦時体制下での製造所 制, 工場制の遺産ともいえようし, 直面する市場の環境への適応の体制とも いえよう。職能別事業部制という理由である。 やがて戦後復興が軌道にのり, 家庭の電化ブー ム そ して経済の高度成長の なかで, 松下電器も急成長し, 組織的な適応も事業部制を基本にしな がらも 変化していく。時系列的に摘記しておこう。昭和 29年, 水平的多角化といわ ー139 ( 335 )-.
(12) れる家電製品の総合化にともない事業部門も多数にわたり, いくつかの事業 分野グル ー プに 区 分し担当 する必要にせま られ, 事業本部制を 採用して い る。. このとき職能的に 販売を一元的に統轄する営業本部が 組織された こ と. は,戟後の適応の遺産であるとともに,のち に組織の遺物となって改革を必 要とする原因にもな る こ と は,事業部制の 原点からして注意すべき事柄であ る。 もはや戦後でない時期,国際化時代をむかえて,松下電器も経営体制を国 内経営局 と海外経営局に 二分して生産, 販売と もに適応していく 姿勢を表明 する。 昭和39年. 経営局体制の組織化といえよ う か。 だが戦後復興から所得 倍増によ る高度成長も さ すがにかげりをみせ,大型の不況に見舞 わ れ る よ う になり,昭和39年, 「東芝の悲劇」 を生んだ時期は,それま で急成長であっ た松下電器 も 例外であ り えず,減収減益の苦悩のなかに組織の改革 を,当時 すでに会長であ っ た松下幸之助が営業本部長代行に就任し,卒先垂範で断行 する。 すでにふ れもした職能別事業部制か ら ,事業部制の原点である製造, 販売寵結の体制, い わ ば事業部直販体制への回帰である。 戦後の膨脹の経済のなかで肥大した経営の組織を,不況を契機に切開 し筋 肉質化 した松下電器は,本来の事業部制の体制の う えに安定成長の時期をむ かえる。 昭和50年の総括事業本部制であり,同種事業分野を,だとえば無線 事業ダル ー プ,電化事業グル ー プ,電機事業グ ル ー プのよ う に総括 し, その 傘下に 同種製 品市場の各事業部を組織化し, しか も 各事業部が製販直結の 自 主責任の経営体であるよ う 陣容とした も のである。 だが成熟化 した家電市場 と 国際化 し た 日 本経済は,昭和4&年の石油危機を契機と して,さらに一段の 激動へ拍車をかけられ る 。 こ の経営環境の変動を乗切 る た めに,相談役と し ての松下幸之助みずからの決断で, ` 社長をは じめ首脳陣の世代の交替 を断行 する。 そこに展開される組織も, いま だ現在進行形といえるが,全事業部 を社長直轄とし , 周辺事業分野を別会社に組織化したのである。 昭和52年か ら,い まなお断続的に変革の対策がと ら れており, 一応; 直轄事業部制 と い 、. ー140 ( 3泌 )一.
(13) えようか。 すでにみたように, 総括事業本部制は, 戦前の分社制 を想起さ せ るものであり, 直轄事業部制は, 製品別事業部制とと もに周辺事業分野を分 社制に し た併合型の組織体制で, この不 確実性の時代といわれ, 低成長, 安 定成長の時期にたい し て適応 しつつあるようである。 ま さ に外部的な経営環境に適応 しつつ, 内部的な環境, 十分条件を整備 し き たっている過程, それはまた歴史的に, あ る 原点を中心に外部的 な必要条 件 に適応 しなが ら 標線状に 回帰 し,. かつ成長 し て い る 過程で ある ようであ. る。そこにまた, 原点と しての組織の概念なり, 構想, あ る いは理念であり 思想とい う ものを痛感する。その背後, ない し中核IC は. さ ら に経営者の価 値観 (Value Set) , 毅 略観 (Strategy Set) という, 規範一価値判 断的なあ る 実存と, その実践過程をふま えてみると, 実践 ー規範的 なある実在と の フ ィ ー ドバ ッ ク の シ ナ ー ジ効果が見出 さ れるようである。 こ こ に実学と しての 経営理論の考察すべ き 領域なり対象の,. 一. つの特性があるように思われ る の. であるが。. 4). 分権化に よ る適応. 松下電器の事業部制の組織の変遷 を, 経営環境の変化に適応する関係にお いて, 企業成長の過程に関連さ して素描 し て み た。そこには, チェンバレン もい う 組織の適応が見 出され, 「組織構造と 組織過程が従来の組織規模に適 合 していたり, 現在の大 き さ に適合 していると しても, 同 じものでは活動領 域が拡張されれば不 適当となるであろう」 と いう証言 を裏書 き している。 こ のことは彼が さ ら に付言 している証言とも表 裏する。 「経営組織の 革新」 に かん して,. M. ヘ ア ー が 「経営組織の 成長 の 実態史 と 生態 モ デル」 (M.. Haire, "Biological Models and Empirical Histories of the Growth of O rganization s" 1959 . ) についての研究で, 「組織は 成長するにつれて内部 の形態も変わ ら な け ればな ら ない 」 という成果その ものである。 そ して ヘ ア. ー141 ( 337 }-.
(14) ー. は, 成長する経営の組織にとって留意 し なければならない問題の領域, 三. つを強網 している。 「それは 部分間の コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン, 部分の全体への 統合, 職能専門化の新たな可能性である」(注13) という。松下電器の事業部制 の変遷の歴史なり過程を想起すれば, 首肯 し えるところといえよう。こうし た企業成長と経営組織の変化について は, A. チ ャ ン ド ラ ー の 「経営戦略と 組織」 (Alfred D. Chandler, Jr., Strategy and Structure, The M. I. T. Press, Cambridge, Mass., 1962) の主題でもあると指摘 している。 企業成 長のための組織変革の原則を探索 して幾多の努力がはらわれ, 伝統的な管理 限 界についての硬直的な概念から脱皮 して, 企業が効果的な革新者になる方 途が見 出されようとしている。それは経営組織の分権化による適応である。 た し かにチェ ンバレ ンも指摘しているところである。 「企業の 成長—組 織化された活動である一ー はその製品を も っと買おうとする消費者の意慾よ り多 く の事柄に依存 している。 」 それに 「企業の成長は新 し い需要分野に侵 入するために内部諸資源を利用できることよりもっと多 く の事柄に依存して いる。 」 したがって 「成長が 持続するためには 組織の 調整こそが 必要とな る」(注14) のである。そのための 「分権化による適応」 が必要 と なる。 では企業の成長そ して拡大にたいする障害はなにであろうか。その大きな 障害はた しかに, 「規模の増大が それとともに 規模の不経済をもたらすこと であろう。 」(注15) これにたいして, 「組峨の象皮病の治療薬として最も多 く 勧 奨されてきたのが分権化である」(注16) という。これをそのまま実践してみせ たのが, 松下電器であり, 松下幸之助といえよう。それは歴史的に動機や過 程は相異するが, チ ャ ン ド ラ ー の研究をみると, デ ュ ポンや G. M. な ど ア メ リ カにおける事業部制の展開も, ほぼ軌を一にしている。まさに経営組織 注—1 3) 注—14) 注— 15) 注ー16). N. W. チ ェ ンバ レン, 前掲訳書,115頁o 同上, 同書,116頁 o 同上, 同書, 116頁。 同上, 同書, 117頁o. 一142. ( 338 ) -.
(15) の分権化に よる適応で あ る。 !、 この事業部制 と い う 分権化IC よ る 組織は,ヽ , すで に松下電器の事例 につい て歴史的に も , 、 ま た以前には運営の側面にかん しで も, かな り 詳細 に み る 機会偉17) をもっ た の で割愛する。,_ た だ チ 土 ンバ レ ン も 強調する よ う に,・ 「こ豆准i織形態のもとではゥ. 企業の最高層で要求 さ れ る 調. 整の量 は 大幅に減 じ ら れる」 とい う ことであり, し た が っ て, 「企業経営 管 理層の注意は, 解放され、,': 全体的, 長期的計画-— と く に新製品 ラ イ; ン の 計 画一ーに焦点を合わせ る」偉18) よ うになる。 ^ そのと き.,.," 「中央本部ほ三つの 重要な機能を果す。 ` ずなわち, 本部は準 自 律単位が どれだけよ く 活動してい' る か, 監督者として役立つ。 :本部は企業収益を最も有効に使用で き る と 信 じ る単位に配分する, 企業収益の収集, 分散の拠点である。 さ らに, 本部は企 業の既存の下位部門で現在行わ れてい る どんな活動 と も 無関係の新 し い冒険 的な事 業に着手する。」 (�9) こ う して, 「この分権組織形態の意義は, この形 態が成長に必然の (ある い は 少な く とも歓迎で函なM".)こ能率の損失を伴わず に成長が起こるのを可能にするとい う 事実にある」(即0) とい う 。 ·- . も っと も 分権化が;, '企業の成長の限界を克服 さ せ ること も確かで ある力!, それ 自 体の代価が必要で あ る こ と も 確かである。 や は り 以下も,- 7- ェ Xバ ぃ ンの所輪で あ る が一—規範を定め るこ と , 政策を決定す る こ と5 意思決定を. ス テ ム 目 的の も つれが必然的に 生 じ る 6 た と えばー一準 自 律的事業部は,. そ. 行 う ことが下位単位の 自 由裁量 に ゆだねられる度合いが大と なるにつれ, ・ シ. の親で ある企業に と づ ての利益の吟味を第→!Ci行 う よ りも ; 当 然, 自 己の準 自 律的利益の増進をは か る よ う に行動する ものと予;期できる , のであ る 。そ: う か と い っ て――全体シ ス テ ム の 諸規範を 課する こ と は,、ー 自 由裁量 を抑 え で;:よ り 太 き な共通条件群iご全部が従 うよ う 強要す るもので,':分権化が解決. • ,:-, •• - — ,.. ' , ... 、.. :ン l , �1 9, 9, r‘ • • ,9. 注一17) 拙稿, 商経学叢, 「松下電器の事例研究」 シ リ ー ズ。 注-18) N. W. チー ンバ レ ン, 前掲訳書.·ns頁 o 注—19) 同上, 同書, 123頁o c, c•; 注ー20) 同上, 同書, 122頁。 -1位 (339 }. 一.
(16) をめざしていた調整の問題を再び提起する, ことになる。 したがって一ー わ れわれは分権化とは大規模経営の不経済を克服する一つの有力な方法である と結論できようが, 分権化が単位当 り 原価の上昇というプレ ー キにいつか 出 く わすことなしに無限の拡大を可能にするということには疑いをもたなけれ ばならない理由がある, という。 , これまで チ ェ ンバレンの所論を忠実にふまえてきたが, 論議としてだけで なく, 松下電器の事業部制による分権化の適応と展開の, 歴 史的な過程を事 実としてた どってみても,. そこには 組織の分権化による 企業の成長ととも. に, 企業全体としての 目的からの逸脱と組織単位の効率の低減から, 幾度と なく企業全体からしての統合化の対策そして事業部間の細分化の対策が組織 的に調整さ れていることを理解する。. 5). 事業多 角 化の展開. 企業成長の限界は, 経営組織の管理限 界もさることなが ら , むしろ市場規 模にあるのではなかろうか。 チ ェ ンバレンの設問は,「成長企業が 到達する 最終的な規模限界は, 企業が活動する市場におけるその製品需要の飽和によ っ て課せ ら れるか」(注21) という。 A. F. バー ンズの 「一種の産業生命曲線」 の著名な研究を引用しているが, それは あく まで産業でのことであ り , かな らずしも企業にはあてはまらないであろう。 たしかにチ ェ ンバレンも確認し ていうように, 「成長志 向型の 企業が多くの産業に発展するのを阻むものは 何もない。」(注22) むしろ 「製品多角化は 衰退しつつある企業が その成長を加 速させようと努める一つの主要な手段である」 (注23) といえよう。 また「研究 に関心をもつ企業が多様化した製品 ラ イ ンヘと導かれるのはまず必然的であ 注—2 1) N. W. チ ェ ンバ レン, 前 掲訳害, 126頁。 注ー22) 同上, 同書, 126頁。 注ー23) 同上, 同書, 127頁。. -144 ( 340 ) -.
(17) ろう。」(即0 そ して 「持続的成長を 見せる企業は大部分, 多角化戦略の方を 好んだのである 。 」(即の チェンバレンは; ィ ン タ ーナ シ ョ ナル, テレフ ォ ン 社. ・. ア ン ド ・ テレグ ラ フ. (Intematio四1 Telephone and Telegraph Corporation, ITT) の買収. 多角化計画の事例 を引 用 して解説しているが. ま さに アメ リ カ 的な好例とい えよう。 日本的な事例としては, 外部的成長方式 od) より, 内部的成長方式. (External Grow,th Meth:... (Internal Growth Me出od) が, 風土的に適合. し ていると いわれ, その典型の一つとして松下電器の成長パ タ .,.. ン があげ ら れえよう。 だがここで大切なこ と は, 企業の多角化戦略で成長をもたらすという こと よ り , む し ろ 多角化戦略の展開がやがて企業の成長の限界をつ く りは し な い かとい う こ と である。 チ ェ ンバレンも, 「多角化が企業規模の増大を可能に することは十分に明白 であるが, はたして極度の多 様性をかかえる企業がそ の総合的な結合を効果的に管理できるかどうかは明確でない」ぽ筑) と いう。 V. フ 冒ソ ク スの 研究成果を引 用 じて, 「多角化した製品 ラ イ ン と 多数の 工場 をも つ企業は,多角化していない単一工場企業に比 して; 企業資産に対する 収益や従業員一人当り付加価値額が よ り 高いことが認め ら れたが, さ き の点 (つま り 巨大多角化企業の 効果的管理一一筆者注書) に ついてはなん ら 決定 的な証拠はな い のである」(即1) ともい う 。 さ らに企業の成長にかん し ては, 製品や事業の領域だ け でなく , 市場あ る いは地域の側面からも考察さ れねばな ら ないであろう,すなわ ち 「地域的拡 大に固有の成長の可能性」{tJ;28) であ る。 企業が成長 の た めに必要な製品の市 湯は, ただ国内だけでな く 国際的に多数の 国 々 を対象と する こ とができ , 国 注-24) 注�25) 注ク6) 注c.21) 注ー28). }J. w. チエ ンパレン, 前 掲訳書,121頁o 同上, 同書, - l切頁o 同上, 同書, 1_29頁o 同上,同書,130頁o 同上, 同書, 130頁o. -145 (341 )ー.
(18) 際企業, さらには多 国籍化企業 と して活動する こ と が可能で あり, 現実に世 界, まさに地球市場を対象に活動 しつつある企業が多数, 実現 しており, 市 場からの企業成長の限界は, かなり広範 と いえそうで ある。 さきの製品が多様化 し た 巨 大多角化企業 と しても, また市場を国際的にも と める多国籍化巨大企業 と し ても, 日 本的には勿論, 世界的にも通用する事 例 と して, 松下電器の経営の事例は考察の対象に評価されえよ う 。 いまなお 成長 しつつある松下電器が, いかにみずからの成長の限界を克服するか, こ れはこれまでの事例が経営史の資 料 と され, 経営理論の素材 と されようが, こ れからの事柄は, まさに現在進行形で あり, む しろ未来形で あり, 経営政 策の対象 と されよう。 し か し そこに こ そ真の経営の意義があり, 松下幸之助 のいう 「百の学問より一の実践」の真実が見出され, 「経営学は 教えられる が, 経営 は教えられない」 と いう意味が含蓄されている。も っ と もそこに, 経営学のあ り方を示唆されている と もいえよう。 そこで企業成長の限界は, いまだ製品的そ して市場的な側面からの, 多 角 化および多国籍化によって克服されつつある事実をふま え た と き, またここ で組織的 な 側面からみた企業成長の限界をもう一度, 吟味 し な お しておかな ければなるまい。企業が成長する とき, その組織には関連 し た二つの条件が 必要で ある と , チ ェ ンバレ ンはいう。す なわち , 「組織は 活力をも っ た 一組 の内部関係および外部関係を持続 し な ければならない」(注29) と 。そ してここ で と くに関係があるのは内部のそれで ある。組織を活力あるものにさせる内 部の関 係 と は,意思決定 と の関連にお ける課題で ある。企業の各構成員は 自 分に と って と くに重要な問題について, ある政策を と ら せるよう努力する。 それは各構成員が, すでにみ た よ うに自分の地位一個性一交渉の結合構造 し だいで, 戦略的決定か常規的 決定のいずれかにより大きな 関 心を持つこ と と なる。 し たが っ て 「重要な事柄は, 企業の構成員はすべてある種の決定に関 して選好をもち , し たがって常規的 決定 と 戦略的決定 と を問わず, 集団構成 注ー29) N. W. チェ ンバ レ ン, 前掲訳書 130頁。 -146 ( 342 )ー.
(19) 員のだれかの 選好の産物で な し に 意思決定が行われる こ と は な いだ ろ う と い う ことで あ る 。」 (注30) こ の こ と は企業に お け る 個入と同様に, 組織の単位 に つ いてもいえ ること であ る 。 組織には, 長期 に 継続して交渉 さ れた産物と し て の 「一組の複合的 規範 (あるいは 政策・ 決定)」 (1!31) , があり ,. こ の 「規範のセ ッ ト」 は戦略的. 決定を は じめ常規的決定な ど 組織活動のすべて を包括 し,, 全構成員を拘束 し ていると い え る 。 し たが っ て, 「企業が存続するたIt Iこは, この規範, 政策, 決定の複合体全体が, 企業の活動を任せ る 人々のす ぐてにと っ て満足でき る ものでなければな ら ないだけでなく , そ れ ら の 条¢ の中の金銭的要素ー一参 加者に与えられる金銭的報酬ーーは, 企業外部の 、々, その顧客との 一連の 交渉取決め に よ っ て時間を通 じて十分に補填さす な ければな ら ない。」(注匹) チ ェ ン バレン は,. 企業成長 に と っ て, 規範をは じ ) と し た 政策 決定の 複合体 全体が, 組織お よ び全構成員に理解でき, 満足で きる か ぎ り において, 組織 的な限界はない と予期 しているのである。 た だ 「組織が大きければ、 規範、 政策i 決定, 交渉の複合体を調整する経営管理階の職務はそ れ だけ困難 と な る。 組織が成長率の低下, 成長の停止; 崩壊さえ経験す る 理由の 一つ は , ' 全 構成員が同意で き る 共通の 一組の諸条件を見つけ るのがますま す困難となる ことであ る。」 (1!33) 「こう して成長それ自体――意見の謂整が必要 と な る 人数 の膨脹, お よ び共通の政策が採択されな ければな ら ない活動や代替数の膨脹 —が, ある点でそれ以上の成長へのプ レ ー キをなすよ うである。」(注34) こう した成長への 障害は, 組織の単位を独立させる複合企業の場合, 交渉 の調整問題も削 滅され, チ ェ ンバ レ ンも指摘 し ているよ うに, 分権化される ことによって, 「事業部がある程度の 自治権を行使 しており, そのことは活 注ー30) 注ー31) 注—32) 注-33) 注—34). N. W. チェンパ レン,前掲訳書, 121 頁。 同上, 同書, 132頁。 同上, 同書, 133頁 o 同上, 同書, 134頁。 同上, 同書, 134頁。. -147, ('343: )ー.
(20) 力を も っ た 内部関係の システ ムを維持 しやす く す る 。 と い う の も, 各事業部 は他部門で受容さ れ る か ど う かを懸念せずに, 自 部門の構成員Ir. つ いての共 通分母を探 し 出すこ と ができ る か らである。」(注35) し か し こ れで問題が完全に 解決 し た とはいい え な い。 なぜな ら 中央本部が存在 し, 中央統制が機能 し て い る か ぎ り に お いては, 事業部数の増加は利害の対立を複合的に醸成す る も ので あ り, と くに財務的問題や研究開発など に つ いては, 各事業部間での不 満は惹起 しやすい も のであ る 。 この こ と については, チ ェ ンバ レ ン も 確認 し ているo ' 「準企業の 一族の中での この よ う な確執は ご く 普通に見 ら れ る 。 こ の確執はと り つ く ろ う こ と ができ る と し て も , それが起こ し た摩擦は成長を 妨げ る の である 」偉匈 と 。 た し かにこれまでの妓述 に み ら れ る よ う に, 製品市場戦略の展開の場面に は多角化, 多 国籍化によ っ て企業成長の限界は克服 さ れえ る 可能性はあ る よ •う であ る が, む し ろ 経営組織戦略の展開の領域にお いて, 事 業部化, 複合企 業化 し えた と し て も , な お企業成長の障壁が存在する 可能性が う かがえ る と い え よ う 。 つま り企業成長は経営環境の外部的な必要条件 よ り, 内部的な十 分条件によ っ て 限界づ け ら れる可能性がある よ う であ る 。 こ の こ と は松下電 器の経営の歴史において, 製品市場戦略の表面の考察 も さ る こ と なが ら , 経 営組織戟略 と しての事業部制 の変遍の歴史 との関連で 内 面の考察を手掛け つ づ け て き た意義も見出 し え よ う 。. 注ー35) N. W. チェ ンバ レン, 前掲訳書 .134頁o 注—36) 同上, 同書, 135頁o ―. -148 ( 34 : }一.
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