中国における地域在住高齢者のうつ状態の関連要因
- ライフスタイル及び心身への健康の影響を中心に -
叢 蘭 キーワード:うつ状態,中国の高齢者,心身の健康 . 抄録:近年急激な高齢化社会の到来に伴い様々な社会問題が出現している中国では,うつ症状 患者の増加は最も大きな課題の一つである。運動機能,日常生活活動能力,身体疾病障害の発 生が日常生活自立の困難を引き起こす。生活に失望,情緒不安及び感情障害が,うつ状態を生 じやすい(王・楊,2008)。本研究は,大規模の調査に基づいて,高齢者のライルスタイル及び 心身の健康がうつ病状態に及ぼす影響について明らかにすることを目的としている。調査対象 者は,中国F省の1950名高齢者であった。回収されたのは1910名(男1665名,女245名),平 均年齢は全体で74.5±6.7歳であった。 うつ状態軽から重度の者は200人であった。加齢と共に,うつ状態軽度群及び中・重度群の 有病率が上がった。80歳以上の男性におけるうつ状態発症の増加が非常に明確であった。全体 的の傾向としては,慢性疾患のうつ状態の有病率は9.4%∼ 28.8%であった。うつ平均値が正 常値者より高く見られた。「抑うつを感じる」等高齢者のうつ平均得点が著しく増加した。家族 サポートの不十分によって,「家族関係が悪い」,「配偶者が死亡」等のうつ状態が比較的に高か った。その一方,「友人や同僚のことを心配する」等のうつ状態が低く見られた。「長期的にベ ッドから離れない」のうつ得点が高く,生活活動状況とうつ得点の関連が見られた。睡眠障害 の「睡眠薬ないと眠れない」等の高齢者,また認知障害の「家族や友人の名前を覚えられない」 等の高齢者のうつ得点平均値が増加した。 本調査の結果では,高齢者うつ状態を引き起こす原因は,多くの要因による総合的な作用と 影響され,そして,生活の質にも密接な関連にあると考えられる。身体的な病,社会的な心理 要因,家庭要因,経済要因,ネガティブなライフイベント及び生物学的な要因等は,うつ病の 発生にとって重要となる。高齢者のうつ予防と心理健康教育を行い,高齢者の心理的ケアを重 視する等に力を入れるべきだと考えられる。Ⅰ.問題と目的
うつ病は,世界で最も一般的な疾病・死亡原因の1つである。メイヤー(2005)によれば, うつ病は人種や国籍を問わず,世界全体に存在している。WHO(2007)の統計では,世界のう つ病患者の数は約1億2000万人とされている。中国でも,うつ症状患者の増加は大きな課題のしている。高齢期のうつ病の関連要因として,朗(2009)は,空の巣現象,生活自立度低下,一 人暮らし,配偶者の死亡などの家族サポートとソーシャルサポ−トの欠如及び慢性身体疾患は 高齢者のライフスタイルに大きな影響を及ぼすと報告した。解(2010)は,高齢者の認知機能 の低下,記憶機能の欠損,などの認知障害とうつ状態が相関することを示した。運動機能,日 常生活活動能力の低下や,身体疾病障害の発生が日常生活自立の困難を引き起こす。生活に失 望,情緒不安,理由なし感情爆発など感情障害,うつ状態を生じやすい(王・楊,2008)。 本研究は,大規模の調査に基づいて,高齢者のライルスタイル及び心身の健康がうつ状態に 及ぼす影響について明らかにすることを最終的な目的としている。本論文において用いられる 中心的な用語「うつ病」について,概念規定を行う。うつ病は人々における最も重要,そして 有病率の最も高い心理的問題と言われている。孟(1989)によると,うつ病は復合的な情緒体 験として捉え,一般的な悲しみと異なる。うつ病は悲しみの他,苦痛,怒り,罪悪感,恥ずか しさなどの情緒も含まれている。また,うつ状態は,何れの単一のマイナス情緒より強く,長 時間継続する。 心理学の先行研究では,うつ状態に関する研究蓄積が多い。DSM-IV-TR(精神疾患の診断・ 統計マニュアル)(2000)によれば,うつ病は,例示した症状のうち5つ(またはそれ以上)が同 じ2週間の間に存在し,病前の機能からの変化を起こしていると定義している。大うつ病性障 害は主症状として,①抑うつ病気分と,②興味・喜びの喪失,副症状として,③食欲障害,体 重障害,④睡眠障害,⑤精神運動性焦燥または制止,⑥易疲労性・気力減退,⑦無価値,罪責 感,⑧思考力・集中力の減退,⑨自殺念慮,自殺企図をあげ,これらの症状のうち5つ以上(少 なくとも1つは主症状)が2週間以上存在し,病前の機能からの変化を起こしている状態と定 義されている。 中国における高齢者に対する生活状況測定指標の開発はこれまでにないため,本研究では, 高齢者の生活状況測定指標を試作した。測定指標の作成にあたって,朗(2009),胡(2004), 馬ら(2006),解(2010),袁(2005),張ら(2009),王・楊(2008)を参照した。質問紙は86 項目で構成された。慢性疾患,情緒状態,家族サポート,生活活動状況,睡眠障害及び認知障 害の項目を含む。また,疾患を有し通院する高齢者のうつ状態,慢性疾患,情緒状態,家族サ ポート,生活活動状況,睡眠障害及び認知障害とそれらの相互関連性及び関連する要因につい て明らかにし報告する。 高齢期に見られるうつ状態に心理社会的要因が影響するが,年齢や性差が要因として介在す るほか生活状況における要因も影響を及ぼしていると考えられる。本研究は,高齢者の生活と 密接に関連すると考えられる生活状況とうつ状態との関連について検証する。これによって, 社会的な課題といえる高齢期のうつ状態の理解と効果的な介入方法の検討に役立つと考えられ る。また,高齢者が健康で充実した生活を送るための知見を提供する意義がある。
Ⅱ.方法
1.調査時期 1) 予備調査:2009年7月 2) 本調査:2009年8月∼ 2009年9月及び2009年12月∼ 2010年1月 2.調査対象者 予備調査の対象者は2009年7月1日現在中国F省に在住する60歳以上の143名(男124名, 女19名)の高齢者であった。また,本調査の対象者は,2009年8月1日現在中国F省に在住す る60歳以上の1950名の高齢者であった。なお,本研究の対象とした高齢者は社会地位が比較 的に高く,全て退職した軍の幹部や大学の教授,知識人であった。ある機構から提供された名 簿により,調査前亡くなる,また回答に不備の者40名を除去し,回収されたのは1910名(男 1665名,女245名)であった。調査対象者の平均年齢は全体で74.5±6.7歳であった。 3.測定尺度 1) フェイスシート:年齢・性別2) うつ状態では,老年期うつ状態評価尺度(The Geriatric Depression Scale:GDS)の30 項目を使用した。 3) 筆者は35項目の生活状況測定指標を作成した。 4.手続き 調査面接に関する訓練を受けた医療保健や心理専攻している大学生・大学院生を中心に構成 された調査員による質問紙調査を行った。なお,調査対象者及び調査環境によっては面接・聞 き取り法により実施し,わかりにくい表現を避けた。また,中国F省医科大学病院倫理審査委 員会の承認を得た。研究の実施や研究結果の公表は,十分な理解が得られてから研究参加の意 志を確認し,同意書で研究協力の承諾を得た。 5.分析方法 生活状況測定指標の信頼性を確認した。また,うつ状態について分析し,性別,年齢とうつ 状態の関連について,男女全体,性別毎の世代層別でも実施した。生活状況測定指標とうつ状 態の関連について分析を行った。
Ⅲ.結果
1.調査対象の年齢,性別 調査対象者の男女別,年齢別の分布は図1に示した。調査対象者のうち,70 ∼ 79歳の高齢 者は1008名(52.8%)であった。最も多い者は75 ∼ 79歳であり,男性と女性はそれぞれ529 名(31.8%)と85名(34.7%)であった。最も少ないのは85歳以上の者であり,そのうち男性 は101名(6.1%),女性は11名(4.5%)であった。図1.調査対象者の性別と年齢分布 2.予備調査と本調査における結果の比較 予備調査と本調査における143人の比較に関しては,予備調査を行った時の調査対象者143 人には,2 ヶ月後に本調査を行った 。予備調査と本調査の両方に参加した143人は全調査対象 者の7.5%を示していた。また,2回における143人の調査対象者のうち,GDS得点21 ∼ 30点 うつ状態中・重度群のものは共に2人であった。異なったのは正常とうつ状態軽度群のところ で1人の差が出た。従って,予備調査と本調査からは143人のうつ状態について差が認められ なかった(χ2 =0.06, P=0.97)。 表1.2 回調査された143人の比較 うつ程度 予備調査 本調査 0∼ 10点(正常) 129 130 11∼ 20点(うつ状態軽度群) 12 11 21∼ 30点(中,重度うつ状態) 2 2 合計 143 143 χ2 =0.06,df=2, P=0.97(2- sided) 予備調査と本調査の143人における生活状況測定指標について比較を行った,2回の調査に おける結果の一致率は高い値を示した。それぞれ各項目を検討した結果,「国家や政治を心配 する」,「政治に関心を持つ」,「たまにミーティングや活動に参加する」の項目については,本 調査の「はい」と回答するものは予備調査と比較すると,明らかに増加していた。そのほかの 項目に対して,χ²検定を行った2回の結果では,顕著な差異が見られず,すなわち,再検査の 信頼性が示された(P>0.05)(表2)。
表 2.予備調査と本調査の143人における生活状況測定指標の比較 3.うつ状態についての分析 GDSにおける調査対象者の平均得点は5.10±4.42,最高得点は28点,最低得点は0点であ った。1910人のうち,0 ∼ 10点の正常者は1710人(89.5%),11 ∼ 20点のうつ状態軽度群の ものは179人(9.4%),21 ∼ 30点のうつ状態中・重度群のものは21人(1.1%)であった。う つ状態の総計は10.47%であった(表3)。 表 3.調査対象者のうつ症状(N=1910) うつ得点 n % 0∼ 10点(正常) 1710 89.5 11∼ 20点(うつ状態軽度群) 179 9.4 21∼ 30点(うつ状態中・重度群) 21 1.1 合計 1910 100.0
4.性別,年齢とうつ状態の関連について 調査対象者の 1910 人のうち,うつ状態軽から重度の者は 200 人であった。その中,男性は 176人であり,うつ状態の総計は10.57%である。また,うつ状態にある女性は24人であり, 9.8 %であった。本研究では,男女のうつ状態の差は有意性が認められないことが示された (χ2=0.283,P>0.05)(表4)。また,60歳以上の高齢者には,男女を問わず,年齢の増加に連れ て,うつ得点は高くなった。特に70歳以後明らかに上がっていた。また,80歳以上の男性に おけるうつ状態発症の増加が非常に顕著であった。 表 4 性別とうつ状態の関連について(N=1910) うつ状態程度 男性 女性 合計 n % n % n % 0∼ 10点(正常) 1489 89.4 221 90.2 1710 89.5 11∼ 20点(うつ状態軽度群) 157 9.4 22 9.0 179 9.4 21∼ 30点(うつ状態中・重度群) 19 1.1 2 0.8 21 1.1 合計 1665 100 245 100 1910 100 χ2 =0.283,df=2, P=0.868(2- sided) 5.慢性疾患とうつ状態の関連について 慢性疾患のうつ状態は9.4%∼ 28.8%であった。そのうち,うつ状態の有病率は20%以上の 身体疾患は脳卒中の後遺症などである。慢性疾患患者のうつ平均値が正常値者より高いことが 示された(表5)。分散分析の結果によると,3つ以上の疾患を有する高齢者のうつ得点が明ら かに高いことが示された。疾患数が多くなるにつれ,うつ状態の平均得点も高くなっていた。 つまり,7つ以上の疾病になった患者のうつ状態平均得点が最も高かった。そして,患者のも つ疾病の数の違いが,うつ状態平均値では,大きな差異となった。(表6)。 6.情緒状態とうつ状態の関連について 本研究から,情緒状態とうつ状態の発生,また情緒障害とうつ程度に関連がみられることが 示された。情緒状態項目のうち,「抑うつを感じる」,「継続的に胸が苦しい」,「自殺を考えた ことがある」と回答した高齢者は中・重度うつ状態にある傾向にある(表7)。
表 5 慢性疾患とうつ状態の関連について(N=1910)
表 7 情緒状態とうつ状態の関連について(N=1910) 7.家族サポートとうつ状態の関連について 家族サポートとうつ状態の関連についての分析結果から,家族サポートが不十分なケース (「家族関係悪い」,「配偶者が死亡」,「生活が苦しい」,「子どもから離れて住む」,「子どもが忙 しい」,「生活を心配する」,「病気を心配する」)である高齢者のうつ状態が比較的に高かった。 その一方,自分自身以外の対象に対して関心をもっている「友人や同僚のことを心配する」, 「政治に関心を持つ」である高齢者のうつ状態が低かった(P<0.01)(表8)。
表 8 家族サポートとうつ状態の関連について(N=1910) 8.生活活動状況とうつ状態の関連について 毎日仕事をする高齢者が2.87%であり,うつ状態の得点が最も低かった。その一方,長期的 にベッドから離れない高齢者では,中・重度うつ状態群の得点が18.5%であり,最も高かった。 つまり,「長期的にベッドから離れない」高齢者のうつ得点が高く,生活活動状況とうつ得点の 強い関連が見られた(表9)。
表 9 生活活動状況とうつ状態の関連について(N=1910) 9.睡眠障害及び認知障害とうつ状態の関連について 本研究では,「すぐ目覚めるし,再び眠りにつくのが難しい」場合のうつ状態は22%であっ た。従って,睡眠,認知障害とうつ程度の間には明白な関係が存在していた(P<0.01)。また, 「睡眠薬を飲んでも眠れない」の高齢者のうつ状態中・重度群の有病率が比較的に高く見られ た(表10)。 表10 睡眠及び認知とうつ状態の関連について(N=1910)
Ⅳ.考察
世界保健機関(WHO)の統計データより,うつ症状の高齢者は全高齢者の7%∼ 10%を占め るとの報告があった(WHO,2000)。本研究では,1910人の調査対象者のうち,うつ状態のあ る人は10.5%であった。その内訳は,うつ状態軽度群は9.4%,うつ状態中・重度群は1.1%で あるため,本研究はWHOの統計データを支持する結果が得られた。また,今田・川上(2005) 及び長田(2007)は,高齢者のうつ状態有病率は,診断基準や対象者の選択方法が異なるもの の1%未満から10%以上と報告をしていることからも裏付けられた。さらに,中国国内外の報 告では,うつ状態の有病率低い場合は1%∼ 3%,高い場合は30%∼ 40%であることが示され ている(鄭・朱・王,2001)が,本研究はこれらを支持する結果でもあった。 本研究の対象とした高齢者は社会地位が比較的高く,主に退職した軍の幹部や大学の教授, 知識人であった。こうした高齢者でも,うつ状態に陥りやすく,注意を払うべき問題となって いる。本研究の結果では,年齢群を75歳未満の前期高齢者と75歳以上の後期高齢者に分けた。 そのうち,前期高齢者は861人,うつ状態があるもの54人,有病率は6.27%(54/861)である。 後期高齢者は1049人,うつ状態があるもの146人,有病率は13.92%(146/1049)である。従 って,年齢とうつ状態の発生には関連があることが示された。加齢と共に,身体機能や生理機 能の退化により,うつ状態に陥りやすくなるためと考えるからではないかと思われる。身体疾 患の増加や生活能力の減退から,1人暮らし,ソーシャルサポートの不足,生活の質(QOL)の 悪化などの理由で,高齢者のうつ状態有病率が増加する可能性が示唆された。朗(2009)は, 家族サポートとソーシャルサポートについて,空の巣現象,生活自立度低下,一人暮らし,配 偶者が死亡及び慢性身体疾患が全て高齢者のライフスタイルに大きな影響を及ぼすと報告し た。本研究はそれを支持する結果になった。 出村ら(2003)の研究において,高齢者女性のうつは男性に比べて高く,高齢者のうつに性 差が認められることは一般的傾向と推測される。しかし,Vink et al.(2008)など高齢者の男性 と女性のうつ状態有病率における顕著な差異がないとの報告もある。本研究では,男性でうつ 状態がある者は176人,有病率が10.57%(176/1665)であった。女性でうつ状態がある者は24 人,有病率が9.8%(24/245)であった。80 ∼ 84歳の集団では,女性のうつ得点は6.17,男性 の5.75より多少高く見られる。しかし,全体の有病率の有意な性差は示されなかった(P>0.05)。 Vink et al.(2008) などと類似の結果を示したといえる。高齢者の年齢によるうつ状態への影 響が明らかであり,うつ状態の有病率が高いことがわかった。 本研究では,慢性疾患によるうつ状態への影響を検討するため,高齢者がよく罹患する慢性 疾患の調査を行った。慢性疾患の種類によりうつ状態に異なる影響を及ぼしている。慢性疾患 を有する高齢者のうつ状態有病率は9.4% ~28.8%,そのうち,有病率20%以上の慢性疾患は脳 卒中,パーキンソン病,慢性腎不全,肝硬変,肺心臓病が挙げられる。そして,解(20l0),袁 ら(2005),王・楊(2008)などは,うつ状態の有病率を高める慢性身体疾患は中枢神経系と臓 器機能に大きなダメージを与える結果を得られた。本研究はそれを支持する結果であった。とも指摘している。慢性疾患の種類による高齢者の情緒への影響の差が大きいことが示されて いる。木戸(1990)は,脳卒中後の3 ヶ月,うつ状態の有病率は50%になることを報告した。 また,パーキンソン病を患う高齢者のうつ状態有病率は25%∼ 70%に至ることが示唆された。 これらの疾病は大脳機能の喪失を誘発することによってうつ状態を発生すると考えられる。そ の他,身体疾患を持つ患者の生活能力,自信の喪失あるいは経済的困難,家族サポート及びソ ーシャルサポートの欠陥などの原因でうつ状態を引き出す可能性が示唆される。つまり,高齢 者のうつ発生の予防と治療には身体疾患のみでなくサポートや経済状況,生活能力などの要因 に注目すべきである(Djernes, et al, 2008)。本研究では,慢性身体疾患なしの者は76人,うつ 状態の有病率が6.6%(5/76)である。慢性身体疾患ある者は1834人,うつ状態の有病率が10.6 %(195/1834)である。従って,慢性身体疾患のある・なし高齢者におけるうつ状態の有病率 の差異が少なかった。しかし,新福(1990)では,慢性身体疾患のない高齢者もうつ状態を発 生する可能性があると示唆した。慢性身体疾患はうつ状態を発生する唯一の誘因ではない。そ れ以外の影響要因も関連すると報告があった。すなわち,高齢者のうつ状態に影響する関連要 因の研究を深めることにより,全面的にうつ予防と対策に繋がると考えられる。 本研究の結果により,「毎日仕事をする」,「たまにミーティングや活動に参加する」,「家事 をする」に当てはまる高齢者のうつ状態有病率が低い。それに対して,「暇である」,「病気のた め休む」,「長期的にベッドから離れない」,「入院する」,「ICUに入院する」に当てはまる高齢 者のうつ状態有病率が明らかに全体的のうつ状態有病率より高く見られる。従って,精神的・ 心理的状況の改善に期待されるとの結果が得られた。積極的に社会活動を参加することによっ て,うつ状態の有病率も減少すると明示していた。 王・楊(2008)の研究によれば,運動機能,日常生活活動能力,身体疾病障害の発生が日常 生活自立の困難を引き起こす。生活に失望すること,情緒不安,理由のない感情爆発などの感 情障害などによって,うつ状態を生じやすい。本研究では,日常生活における活動はうつ状態 に明らかに影響を与えている。日常生活の自立能力が正常である高齢者のうつ状態有病率が低 く,すなわち,能動的な生活をしている者のうつ得点が低いことがわかった。その一方,日常 生活の自立能力には問題がある高齢者のうつ状態有病率が高く,すなわち,横になる生活を中 心とする者のうつ得点が高く見られる。従って,本研究の結果は先行文献の結果を支持した。 身体疾患の治療を除き,適当な家事をすること,積極的に娯楽活動や人付き合いを行うことが, 高齢者の生活の質やうつ状態の予防には非常に有効であると考えられる。 本研究は家族サポートとうつ状態の関連についての分析結果から,家族サポートが不十分で あること,つまり,「家族関係悪い」,「配偶者が死亡」,「生活が苦しい」,「子どもから離れて 住む」,「子どもが忙しい」,「生活を心配する」,「病気を心配する」という高齢者のうつ状態有 病率が比較的に高かった。その一方,「友人や同僚のことを心配する」,「政治に関心を持つ」で ある高齢者のうつ状態有病率が低く見られた。その結果,家族からの関心やサポートは,特に
内の不和,子女の無関心,高齢者の負担扱いは,高齢者うつ状態が発生する危険要因となると 先行研究の結果を支持された。 本研究の慢性疾患,情緒状態,家族サポート,病状状態,仕事・活動状態,睡眠状況だけで は,うつ状態の影響要因としては,不十分であり,高齢者のうつ状態を十分に説明しうるとは 言い難く,他にうつ状態に関連する要因が存在することが推察される。特に,学歴,社会的地 位,経済的な要因などの関連性が調べられなければならないだろう。また,本研究の結果では, うつ状態を呈した高齢者のうつレベルそのものを改善するには至らなかったが,うつに関係す ると考えられる包括的な心身の健康度の改善に寄与するため,主たる介入手段にうつ予防プロ グラムの開発が期待される。
付記
本研究の執筆にあたり,桜美林大学大学院森和代教授により最後まで非常に手厚く,寛大な 態度で大変有益な御指導を頂きました。心より御礼申し上げます。質問紙調査にご協力頂いた 高齢者の皆様にも,心から感謝の意を申し上げます。引用・参考文献
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