Ⅱ 欧 州 共 同 体 の 対 外 政 策 決 定 過 程 ― 日 本 製 ベ ア リ ン グ 問 題 に 関 す る 決 定 過 程 ― 長 尾 悟(国 際 基 督 教 大 学) 1序― 問 題 の 所 在 ECは,ど の程 度,国 際 政 治 の舞 台 にお いて ひ と つ の政 治 単 位 と して外 交 政 策 を 展 開 して い る のだ ろ うか 。 本 報 告 は,こ う した問 題 意 識 でECの 対 外 政 策 決 定 過 程 を と り挙 げ る 。 ECの 決 定 タ イ プ を 「国 家 主 導 型 」 と 「共 同 体(委 員 会)主 導 型 」 とに 分類 し,前 者 を 「制 動 」 傾 向,後 者 を 「統 合 」 傾 向 と規 定 した場 合,現 状 は両 者 が 混 在 して い る と言 え よ う。本 報 告 は,前 述 の問 題 意 識 の 中で,こ う した仮 設 を, 対 日 ボ ー ル ベ ア リ ング問 題 に つ いて の決 定 過 程 を分 析 す る こ とに よ って確 認 し よ う とす る もので あ る。 2分 析 ア プ ロ ー チ 1)対 外 政 策 決 定 過 程 の基 本 的 枠 組 本 報 告 の基 本 的 分 析 構 造 は制 度 的 側 面 と時 間 的 推 移 あ る い は手 続 き の順 に よ る推 移 の側 面 の二 つ に分 割 され る。 前 者 は政 策 決 定 シス テ ム に関 係 す る ア ク タ ー,つ ま り,公 的機 関 や 利 益 団 体 な ど を明 確 にす る こ とで,さ らに純 然 た る制 度 的 組 織(平 面 的)分 析 と決 定 に参 加 す る 当事 者 間 の関 係(垂 直 的) 分 析 の二 つ に分 け て分 析 す る。 後 者 は国 際 環 境 と国 際 組 織 内環 境 の 関 係,国 際 組 織 内 環 境 の各 参 加 者 間 の 関 係 が 時 間 的 手 続 き 的推 移 と と もに ど の よ うに関 連 付 け られ て い くの か,つ ま り,政 策 決 定 シス テ ム 内 の組 織 間 政 治 過 程 を明 確 にす る(立 体 的 分析)。 2)ECの 平 面 的 分 析 ECの 政 策 決 定 に関 係 す る ア ク タ ー を,そ れ らの構 成 要 素 の性 質 に よ り分 類 を試 み る(表1)。 こ の 分 類 を,各 政 策 決 定 に適 合 さ せ る と そ れ らに関 わ
って く るア ク タ ーで,ど の レベ ル の ア ク タ-が 中心 とな るの か と い う こと が 判 明 す る 。 3)ECの 垂 直 的 分 析 こ の分 析 に使 用 す る モ デ ル の中 核 と な る ア ク タ ー は① 加 盟 国 の各 政 府,② そ の代 表 か らな る理 事 会,③ 常 駐 代 表 委 員 会,④ 欧 州 理 事 会,⑤ 超 国 家 的 機 関 と して の委 員 会 で あ る。 それ らは,ECの 政 策 決 定 によ り直 接 的 に関 与 す る,つ ま り,対 話 の フ ォ ー ラム内 に位 置 す る ア ク タ ーで あ る。 主 に,委 員 会 -政 府 ,委 員 会-理 事 会,委 員 会-常 駐 委 の 相 互 間 お よ び欧 州 理 事 会 内,理 事 会 内,常 駐 委 内 にバ ーゲ ニ ングが 見 られ,こ れ らの ア ク タ ーに 何 らか の 圧 力,あ る い は影 響 を与 え て い るの が 共 同 体 レベ ル で は 欧 州 議 会,経 済 社会 評 議 会,ECSC諮 問 評 議 会,各 種 の 委 員会,利 益 団 体,ま た,国 家 レベ ル で は議 会,利 益 団 体,国 民 が 存在 し,両 レベ ル に対 して 国 際環 境 が あ る。 この モ デル で あ る政 策 決定 を展 望す る と,EC内 の ど の機 関 が ど の よ うな 関 係 で決 定 に参 加 した の か が 明 らか に な る 。 ま た,ど の機 関 が最 終 決 定 を行 った か も明 確 にで き る。 そ の指 標 と して 次 の よ うな仮 説 的分 類 を提 示 す る 。 A欧 州 理 事 会 によ る決 定=ECの 方 向 づ け,最 重 要 事 項 の決 定 。 B委 員 会 と理 事会 の協 議 の結 果 と して の 理 事 会 決 定=ECの 一 般 的 政 策, 重要 事 項 の 決 定 。 C委 員会 と常 駐 委 の間 の協 議 で な され た 常 駐 委 にお け る決 定=ECの 一般 的政 策 で重 要 度 の低 い レベ ル と思 わ れ る もの,事 務 的 な もの の 決 定 。 D委 員会 に よ る決 定=条 約 で 規定 され て い る事 項 お よ び政 策 執 行 に お け る 事 務 的手 続 き の決 定 。 4)ECの 立 体 的 分析 こ の分 析 は主 と して 決定 に 至 る経 過 を整 理 して記 述 す るこ と を 目的 と して い る 。 ECの 政 策 決 定 過程 は 〔Ⅰ〕 準 備 過 程,〔Ⅱ 〕 協 議 過 程,〔 Ⅲ〕 バ ー ゲ ニ ング ・決 定 過 程 の三 つ に 分割 で き,各 過 程 は い くつか の 局 面 ご と に複 雑 な動 き を示 す 。各 局 面 は以下 の通 りで あ る。 〔Ⅰ〕 準 備 過 程 1委 員 会 に よ る発 議
〔Ⅱ〕 協 議 過 程 2委 員会 に よ る調 査 研 究,政 策 案 作 成 お よ び決 定(提 案) 3理 事 会,常 駐 委 に お け る評 価,協 議 〔Ⅲ〕 バ ーゲ ニ ング ・決 定 過 程 4常 駐 委 と委 員 会 との間 の協 議 お よ びバ ー ゲ ニ ング 5理 事 会 と委 員 会 と の間 の協 議,バ ーゲ ニ ング お よ び理 事 会 にお け る 決 定 6欧 州 理 事 会 に お け る決 定 3(事 例)1977年7月26日,日 本 製 ベ ア リ ン グ に 対 す る 反 ダ ン ピ ン グ 手 続 の 決 定 1)日 本 製 ベ ア リ ング の ヨー ロ ッパ 進 出 とECの ダ ン ピ ング規 制 日本 は ア メ リカ に次 いで 世 界 第2位 の 生産 高 を 挙 げ,30%以 上 が 輸 出 され て い る。1972∼76年 の輸 出 量 を 調 べ る と約1/4がEC向 け で,そ の半 分 以 上 が 西 独 に輸 出 され て い る。 ECに お け る ダ ン ピ ング規 制 は1968年4月5日 に理 事 会 で 決 定 し,7月1 日か ら実 施 され た 。 そ の 規 則 によ る と,ダ ン ピン グへ の対 応 は 以 下 の よ うな 手順 で な され る。 加 盟 国 によ って提 訴 され る と,ま ず,共 同 体 レベ ル で 事 実 調 査 を行 う(予 備調 査)。 第2段 階 は本 調 査 で あ る。最 終段 階 は手 続 きの終 結 で,そ れ に は次 の 三 つ の 場 合 が あ る。 第1に,ダ ン ピ ング防 止 委 員会 で防 御 措 置 不必 要 と決 定 した 場 合,第2に 委 員会 が終 結 の 決 定 を し,理 事 会 が特 定 加 重 多数 決 で承 認 した場 合,第3に 輸 出業 者 が価 格 を修 正 す るか,EC向 け輸 出 の停 止 を 自発 的 に約 束 した場 合 で あ る。 2)立 体 的分 析 ① 準 備 過 程― 加 盟 国ベ ア リング業 界か らの圧 力 に よ る委 員 会 発 議 1976年9月24日,日 本 製 ベ ア リング の輸 入 急 増 に対 し,西 独,仏,英 の 業 界 首 脳 が ブ リュ ッセ ル で協 議,何 らか の輸 入 規 制 を行 うよ う委 員 会 に提 訴 す る こ と を決 め た。 こ の提 訴 は10月15日 に 出 され,委 員 会 は予 備 調 査 を 始 め た。11月10日 に は調 査 を終 え,委 員 会 は 「日本 製 ボ ー ル ベ ア リング,
テ ーパ ー ド ・ロ ー ラー ベ ア リ ング に関 す る反 ダ ン ピ ングお よび 反 奨 励 金 手 続 」 の 開 始 を 決 定,そ の 旨当 事 者 に官 報 で通 知 した(第1局 面)。 ② 協 議 過 程 ― 委 員 会 調 査 と 日本 との 交 渉 委 員 会 は,日 本 業 者 に質 問 状 を 送 り,さ らに77年1月18・19日,4月1 日,5月24・25日,6月14日 に公 聴 会 を 行 った 。 この 公 聴 会 で は,委 員 会 方 針 が 日本 業 者 の 「価 格 引 き上 げ によ る示 談 解 決 」 をめ ざす もの で あ った た め,実 質 的 な協 議 も行 わ れ た 。 そ の 間 の2月4日 には,委 員 会 は 日本 製 ベ ァ リ ング を ダ ン ピ ング と認 定 し,暫 定 ダ ン ピ ング防 止 税 をか け る こ と を 決 定 した 。 委 員 会 は4月 下 旬 で 調 査 を終 え,ま と め に入 っ たが,日 本 業 者 が3月 か ら自発 的 に実 施 して い る10%の 値 上 げ を15%以 上 にす る と い う提 案 を行 い, 6月14日 のEC-日 本 協 議 で 和 解 が 成 立 した。21日 に は,日 本 業 者 は ダ ン ピ ング防 止 委 員 会 に誓 約 書 を提 出 して い る。 しか し,委 員 会 は7月4日,日 本 製 ベ ア リ ング を ダ ン ピ ング と認 定 し, 防 止 措 置 を理 事 会 に提 案 した(第2局 面)。 委 員 会 の提 案 は①15%の ダ ン ピ ング防 止 関 税 を課 税 す る,② 日本 業 者 が 誓 約 を 守 れ ば,同 関 税 の適 用 を停 止 す る と い う骨 子 で あ った。 こ れ に対 し て は,加 盟 国 業 者 か ら不 満 が表 明 され て い た(第3局 面)。 ③ バ ーゲ ニ ング ・決 定 過 程― ダ ン ピ ング防 止 関 税 の決 定 7月22日,常 駐 委 に お い て討 議 が な さ れ た 。 ほ ぼ原 案 通 り① 一 律15%の ダ ン ピ ング防 止 関 税 を適 用 す る② ただ し,日 本 業 界 の価 格 引上 げ約 束 を考 慮 し,同 関 税 の適 用 を 一時 停 止 す る③ 暫 定 ダ ン ピ ング防 止 措 置 適 用 期 間 中 は15%,た だ し2社(光 洋 精 工,不 二 越)の 製 品 は10%の 関税 を徴 収 す る と い う決定 を 下 し(第4局 面),26日 に は 理 事会 で も修 正 さ れ ず に 承認 さ れ た(第5局 面)。 本 事例 を 立 体 的 分 析 を通 して 考 察 した 場 合 の 特徴 を 次 に若 干 述 べ て み る。 ま ず 第1に,調 査 開 始 は共 同 体 レベ ル の 欧 州 ベ ア リン グ連 盟,国 家 下 位 レ ベ ル の 各 国 業 者 とそ の 媒 介 役 と して の 各 国 政 府(英,仏,西 独)か らの 圧 力 に よ って な さ れ た 。 つ ま り,各 国 業 者 お よ び政 府 が委 員会 の意 見集 約 機 能 を 崇 高 な もの と考 え て いた の で は な いか 。 第2は,和 解 成 立 後,ダ ン ピン グの
決 定 を委 員 会 が 行 った こ と は,資 料 に は 現 わ れ て い な いが,委 員 会 が 各 加 盟 国 業 者 か ら何 らか の 圧 力 を受 け て い た の で は な いか と考 え られ る。 3)平 面 的 分 析 と垂 直 的 分 析 平 面 的,垂 直 的 分 析 の 手 続 きに 従 って の ア ク タ ー分 類 表(表2)と モ デル (図1)か らい くつ か の 特徴 が 現 わ れて く る。 第1に,本 事 例 は 最 重要 事項 の決 定 タ イ プ で は な か った こ と。 第2に,最 終 決 定 ア ク タ ーは 政 府 間 ア クタ ー で あ った こ と,つ ま り,理 事 会 決 定 で あ り, ロ ーマ 条 約 に 規 定 され て い るよ うな通 常 の決 定 過程 で あ った こ と。 第3に, 委 員 会 へ の圧 力 が 強 か った こ と。 そ の こ と に よ り委 員 会 は 共 同 体 の 理 念(自 由 化 政策)と 業界 の 圧 力(自 由 化 の制 限)の ジ レンマ に 陥 った と い う こ と。 しか し,委 員 会 は,結 果 的 に は加 盟 国 業 者 の主 張 と自 らの方 針 の妥 協点 を 見 い 出 し,両 者 の利 害 が調 整 さ れ るよ うに動 い た 。 4結 語 こ の問 題 は,西 独,仏,英 の業 者 お よ び欧 州 ベ ァ リング連 盟 とい った 業界 か ら委 員 会 へ 圧 力 が か か り,発 議 を うな が さ れ た 。委 員 会 は 一旦 和 解 が成 立 した に も か かわ らず,ダ ン ピ ング認 定 を行 った。 こ れ に は業 者 の圧 力 が加 わ って い た 。 しか し,理 事 会 決 定 で は,ダ ン ピ ング は認 定 す るが,そ れ よ り も前 に 日本 業 者 か ら値 上 げ の誓 約 書 が提 出 され て い るの で,そ れ が 守 られ れ ば課 税 は見 送 る,ま た,業 者 の20%以 上 の値 上 げ要 求 が20%以 下 に押 え られて い るこ と等, 委 員会 提 案 が 修 正 され ず に承 認 され た 。 こ こ に,委 員 会 の ネ ガ テ ィヴ な面 と ポ ジテ ィ ヴな 面 の 両 面 が 見 られ る。 つ ま り,「 日本製 ベ ア リ ン グ問 題 」 に関 して の決 定 過 程 は,「 国 家 主 導 」 の 部 分 と 「委 員 会 主 導 」 の 部 分 が 混 在 して い る と い え よ う。
(表1)ECの 政 策 決 定 に 関 係 す る ア ク タ ー