理学療法の歩み 32 巻 1 号 2021 年1月 35 はじめに 骨粗鬆症は骨折リスクが増大した状態である。 WHO(世界保健機関)では,「骨粗鬆症は,低骨 量と骨組織の微細構造の異常を特徴とし,骨の脆弱 性が増大し,骨折の危険性が増大する疾患である: A disease characterized by low bone mass and
microarchitectural deterioration of bone tissue, leading to enhanced bone fragility and a conse-quent increase in fracture risk」と定義している1)。 骨粗鬆症は一般的に認識されているような単なる骨 の老化現象だけではなく,病的な疾患である。骨強 度が減少し脆弱性骨折が生じやすくなる疾患である ため,予防および治療が必要不可欠である。 脆弱性骨折とは骨強度が低下して発生する骨折で あり,立った姿勢からの転倒などの軽微な外力に よって発生した非外傷性骨折を指す1)。脆弱性骨折 は椎体骨折と非椎体骨折(大腿骨近位部骨折,橈骨 遠位端骨折,上腕骨近位部骨折)が高齢者の 4 大骨 折といわれている1)。脆弱性骨折の発生を把握する ことは比較的容易であり,また異なる地域や人種間 の比較も可能である。本邦においては,吉村ら2,3) が実施した大規模住民コホート研究から得られた 年代別有病率からの推定では,2005 年の年齢別人 ■活動報告■
理学療法士から広める骨粗鬆症の予防
―骨粗鬆症リエゾンサービスと骨粗鬆症マネージャーの紹介―
水戸奈津美
1,2),佐藤綾香
2),佐藤明広
2)伊勢田大地
2),横山 蓮
2),渡邉好孝
2) 要旨 世界保健機関は,「骨粗鬆症は,低骨量と骨組織の微細構造の異常を特徴とし,骨の脆弱性が増大し,骨 折の危険性が増大する疾患である」と定義している。骨粗鬆症は病的な疾患で脆弱性骨折が生じやすくなる ため,予防および治療が必要不可欠である。医療法人松田会松田病院では理学療法士が 2015 年に骨粗鬆症 マネージャーを取得し,その後,2018 年に院内に骨粗鬆症リエゾン委員会を設立した。委員会では,骨粗 鬆症の予防と早期より治療を開始すること,ならびに,治療継続率向上のために骨粗鬆症リエゾンサービス を多職種で連携し実施している。人生 100 年時代に突入している今,メディカルスタッフは骨粗鬆症による 脆弱性骨折の超早期から予防に関わることが重要である。骨粗鬆症の早期発見と治療の重要性を訴求するこ とによって,その身体的効果と社会的な意義を共有し行動できる理学療法士を増やすことが,宮城県民の運 動器疾患を減少させることに寄与すると考えている。 Key Words:骨粗鬆症リエゾンサービス;脆弱性骨折;多職種連携 1) 仙台市役所健康福祉局保険高齢部地域包括ケア推進課 Natsumi Mito, RPT: Promotion Section forC o m p r e h e n s i v e C a r e f o r t h e C o m m u n i t y of National Health Insurance and Senior Citizen Department,Public Health and Welfare Bureau, Sendai City Hall
2) 医療法人松田会松田病院リハビリテーション部 Natsumi Mito, RPT, Ayaka Sato,RPT, Akihiro
Sato,RPT, Daichi Iseda,RPT, Ren Yokoyama, RPT, Yoshitaka Watanabe,RPT: Department of Rehabilitation, Matsuda Hospital
中心となり骨折患者を把握,骨折リスクや転倒リス クを評価し,必要な患者には治療を実施するシステ ムである。この FLS により 2 次骨折患者の発生率 の低下や医療費の減少の成果を上げている。 骨 粗 鬆 症 リ エ ゾ ン サ ー ビ ス(Osteoporosis Liaison Service:OLS)とは,「医師および多職種 のメディカルスタッフが相互に連携しながら実施す る,骨粗鬆症の予防と改善および骨折防止の取り組 み」である5)。一般社団法人日本骨粗鬆症学会(以 下,日本骨粗鬆学会)が 2012 年より提唱しており, 骨粗鬆症の予防・啓発を含む活動のことを示してい る。OLS は治療開始率と治療継続率の向上を目的 とし,「初発の骨折を防ぎ,骨折の連鎖を断つ」こ とを目指している5)。 骨粗鬆症マネージャーとは,日本骨粗鬆症学会が 骨粗鬆症治療におけるリエゾンサービスの普及を目 的に設立した,骨粗鬆症の診療支援サービスに関わ るメディカルスタッフを対象とした資格である。第 1 回目の骨粗鬆症マネージャーレクチャーコースは 2012 年に新潟で開催され,2014 年より認定試験を 口構成では有病者数は 1,280 万人といわれている。 Cooper ら4)がデータベース(PubMed)の検索か ら得られた文献 51 報をレビューした大腿骨近位部 骨折の発生率の国別推移では,欧米諸国は 1990 年 代前半より低下に転じているが,本邦は初回調査の 1986 年から現在に至るまで増加の一途を辿ってい る(図 1)。 上記のように骨粗鬆症への対応が急務とされる 中,医療法人松田会松田病院では理学療法士 1 名が 2015 年に骨粗鬆症マネージャーを取得した。2018 年に骨粗鬆症リエゾン委員会を設立し現在に至る。 その活動内容と結果を報告する。 骨粗鬆症リエゾンサービスと骨粗鬆症マネージャー リエゾン(liaison)とはフランス語で「連絡係」 や「つなぎ」と訳され,診療におけるコーディネー ターの役割を意味している。英国では 1990 年代後 半より骨折リエゾンサービス(Fracture Liaison Service:FLS)が開始され,英語圏の国々を中心 として発展している。FLS はコーディネーターが 図 1 大腿骨近位部骨折発生率の各国の比較図
理学療法の歩み 32 巻 1 号 2021 年1月 37 委員会設立のために,実際の啓発活動の紹介に加 え,当院での脆弱性骨折患者の退院時の骨粗鬆症治 療率などを可視化した資料を作成した。その結果, 当法人の運営会議にて承認され,2018 年 7 月に骨 粗鬆症リエゾン委員会が院内に設立された(表 1)。 これを機に委員は増加し,2019 年 10 月現在は 22 名が活動している(図 2)。委員の構成は,医師 3 名, 歯科医師 1 名,理学療法士 6 名,薬剤師 1 名,管理 栄養士 2 名,診療放射線技師 2 名,看護師 4 名(外 来・入院部門),歯科衛生士 1 名,相談員 1 名,広 報 1 名の 10 職種である。骨粗鬆症認定医 2 名と, メディカルスタッフ 8 名が骨粗鬆症マネージャーと なった。本委員会は理学療法士の参加割合が高いこ とが特徴である。 OLS の主な活動内容と成果 委員会の活動目的は,多職種連携にて円滑な骨 粗鬆症診療体制を確立し,骨粗鬆症治療の開始率 と継続率を向上し骨折発生率を低下することであ る。当院では,活動開始時より一次骨折予防を含め た OLS を中心として行ってきた。2019 年 5 月に日 本骨粗鬆症学会より前向き研究の依頼を受け,FLS が本格化した。 一次骨折予防は啓発活動が中心であり,院内では 入院患者には 2 か月に 1 回,外来受診者には 6 か 月に 1 回,講話と運動指導を実施している(図 3)。 院外での啓発活動は,地域包括支援センターや商業 施設からの依頼を受け,無料で出張講座を実施して いる(図 4)。啓発活動は講話と測定であり,簡易 実施している。資格取得には国家資格(看護師,診 療放射線技師,薬剤師,管理栄養士等全 15 のうち 1 以上)を有するメディカルスタッフで日本骨粗鬆 症学会会員であること,日本骨粗鬆症学術集会への 参加(過去 3 年のうち 1 回),半日の骨粗鬆症マネー ジャーレクチャーコースの受講が必須であり,年一 回資格試験が行われている。2020 年 4 月現在は 3,600 名が資格を取得し,全国で OLS を実施している。 全取得者における理学療法士の割合は 19%であり, 看護師(保健師,助産師を含む)の 51%に次いで 2 番目に多い職種である6)。 骨粗鬆症リエゾン委員会の設立 当院で勤務する理学療法士 1 名が,2015 年に骨 粗鬆症マネージャーを取得した。日本骨粗鬆症学会 認定医が 2016 年に着任し,メディカルスタッフへ 骨粗鬆症を理解するための勉強会を開催した。勉強 会の参加者の中から筆者を含むメディカルスタッフ 4 名が,同年に開催された骨粗鬆症レクチャーコー スの受講後,資格試験を受験した。その後管理栄養 士が加わり,有志による骨粗鬆症チームを結成し た。2016 年 12 月からは毎月 1 回,入院患者に対し て骨粗鬆症の講話を開始した。2017 年には前年に 受験した理学療法士 3 名と薬剤師 1 名が資格試験に 合格し,骨粗鬆症マネージャーとなった。これを受 け委員会設立準備を開始した。委員会は就業時間内 で活動することとし,同年,診療放射線技師もチー ムへ加わった。2018 年 2 月からは外来患者向けの 講話も 6 か月に 1 回開催している。 表 1 骨粗鬆症リエゾン委員会の設立まで 2015 年 理学療法士 1 名が骨粗鬆症マネージャーを取得 2016 年 整形外科医(認定医)が着任,院内コメディカル向け勉強会開催 理学療法士 3 名,薬剤師 1 名が骨粗鬆症マネージャーを取得 有志での OLS は骨粗鬆症チームの名称で開始 管理栄養士が骨粗鬆症チームに参加 2016 年 12 月 入院患者を対象とした講話を開始(1 回/ 2 か月) 2017 年 1 月 診療放射線技師が骨粗鬆症チームに参加 2018 年 2 月 外来患者を対象とした講話を開始(1 回/ 6 か月) 2018 年 7 月 法人運営会議にて骨粗鬆症チームは骨粗鬆症リエゾン委員会として承認 委員会発足により看護師等が参加し委員が増加 多職種連携体制が整い,組織立った FLS を開始 日本骨粗鬆症学会からの FLS の前向き研究依頼を受諾
ための啓発活動に参加された延べ人数は院内外含 め約 1,000 名となった。院内に設置されている二重 エネルギー X 線吸収測定法(dual energy X-ray absorptiometry:DXA)の骨密度測定器の稼働件 数は 2017 年 4 月では 83 件,2019 年 10 月は 154 件 と増加した(図 5)。
二 次 骨 折 予 防 の FLS に お い て は,2020 年 4 月 に は FLS の 成 果 を 評 価 す る 国 際 骨 粗 鬆 財 団 (International Osteoporosis Foundation:IOF)か ら当院が東北初の銀(Silver)レベルの認証を得る ことができた(図 6)。加えて,脆弱性骨折のうち 椎体骨折と大腿骨近位部骨折で当院に入院した患者 の退院時治療率について,FLS 開始前の 2017 年 9 月から 2018 年 7 月の 10 か月間は 10%であったが, 開始後の 2018 年 8 月から 2019 年 6 月の 10 か月間 では 21%と増加した(表 2)。骨粗鬆症の投薬治療
骨密度測定器を持参し,定量的超音波法(quantita-tive ultrasound sonography:QUS)にて測定した。 測定は 30 分間に 20 名程度測定可能であり,商業施 設で開催した際は,1 回の開催で 120 名の測定希望 者が訪れ,関心の高さを知った。 二次骨折予防としては,当院に入院した大腿骨近 位部骨折と椎体骨折患者を対象とし,FLS を実施 している。FLS は医師の指示の下,対象者への指 導は多職種連携にて取り組み,理学療法士による運 動指導,薬剤師による薬剤指導,管理栄養士によ る栄養指導を必須とした。退院後は受傷日から 6・ 12・24・36 か月毎に電話にて状況を聴取し,骨粗 鬆症学会指定のアンケートに回答を依頼している。 毎回,服薬状況について確認し,外来・かかりつけ 医での治療継続を促している。 2016 年から 2019 年の 4 年間で,一次骨折予防の 図 2 骨粗鬆症リエゾン委員会 図 3 入院患者を対象とした講話/管理栄養士 図 4 商業施設での一般市民を対象とした講話と 骨密度測定
理学療法の歩み 32 巻 1 号 2021 年1月 39 ダーメイドの指導や環境設定を行えることが理学療 法士の強みであると考える。このことは,OLS 活動 における理学療法士の狭義の役割であり,広義での 役割としては県民に対して,一次予防としての骨粗 鬆症検診を促すことに社会的使命があると考える。 骨粗鬆症による脆弱性骨折の予防は,理学療法士 として働いている身近な地域に出向くことによっ て,全世代の住民に向けての啓発活動を行うことが できる。若年者の骨粗鬆症の発症予防の関わりは, より高い最大骨量を獲得するための支援であり,中 高年者においては骨折リスクを増加させないための 適正な体重管理や運動指導を実施することによって 運動器疾患の予防に繋がり,そして,老年期の未治 療者の早期抽出に関わることは,老年期特有の疾病 と障害の予防にも繋がり,健康寿命の延伸に寄与で は長期間継続することが必要であるため,退院後の 外来診療での整形外科医の負担は増加する。今後退 院時治療率をより高めるためには,かかりつけ医と の骨粗鬆症診療の連携が重要となると考えている。 OLS における理学療法士の役割 骨粗鬆症治療の日本における問題は治療開始率と 治療継続率の低さであり,原因には骨粗鬆症の啓発 の不足,医療機関同士の連携不足などがあげられて いる1)。藤田ら7)は,理学療法士の役割は,「転倒 リスクの評価」と併せて,「運動指導」が重要であ ると述べている。これに加えて理学療法士の職業特 性から考察すると,骨粗鬆症の成因や骨密度の計測 結果のみかたなど医学的な知識を持っていること, 対象者の身体機能を評価し生活様式に合わせたオー 図 6 国際骨粗鬆症財団(IOF)の認定証 図 5 当院における骨密度測定器(DXA)の稼働件数の推移 表 2 FLS 開始前後の当院入院患者の退院時骨粗鬆症薬治療率の変化 集計期間 開始前 開始後 2017 年 9 月から 2018 年 7 月 2018 年 8 月から 2019 年 6 月 大腿骨近位部骨折の入院患者数 92 名 103 名 椎体骨折の入院患者数 35 名 54 名 入院時の骨粗鬆症治療薬の治療率 21 % 21 % 退院時の骨粗鬆症治療薬の治療率 10 % 26 %
くとともに,骨粗鬆症に関心を持って介護予防や健 康支援に意義を理解し活躍できる仲間を増やしてい きたい。 共に活動してきた骨粗鬆症リエゾン委員会のメン バーと,本委員会活動を力強く牽引してくださって おります当院整形外科部長甲川昌和先生に感謝の意 を表します。 引用文献 1) 折茂 肇:骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン 2015 年版(第 1 版).ライフサイエンス出版,東京,2015. 2) Yoshimura N, Muraki S, et al.: Cohort Profile;
Research on Osteoarthritis/osteoporosis Against Disability (ROAD) Study. Int J Epidemiol 2010; 39: 988-995.
3) Yoshimura N, Muraki S, et al.: Prevalence of knee osteoarthritis, lumbar spondylosis and osteoporosis in Japanese men and women: the research on osteoarthritis/osteoporosis against disability study. J Bone Miner Metab 2009; 27: 620-8.
4) Cooper C, Cole, ZA et al.: Secular trends in the incidence of hip and other osteoporotic fractures. Osteoporos Int 2011; 22(5): 1277-1288. 5) 中村利孝:わかる! できる! 骨粗鬆症リエゾンサー ビス―骨粗鬆症マネージャー実践ガイドブック―(改 訂版 2).ライフサイエンス出版,東京,2020. 6) 一般社団法人日本骨粗鬆症学会[オンライン].東 京.日本骨粗鬆症学会;2020[更新 2020-04-01;入 手 2020-11-01] 入 手 先:http://www.josteo.com/ja/ liaison/authorization/rule.html 7) 藤田博暁,荒井智之,他:骨粗鬆症リエゾンサービ スにおける理学療法士の役割.日本骨粗鬆症学会雑 誌,2018;4(1): 9-13. 8) 人生 100 年時代構想会議中間報告[オンライン].東 京:内閣府,2017[更新 2017-12:入手 2020-10-10]. 入手先:http://www.kantei.go.jp/jp/singi/jinsei100n-en/pdf/chukanhoukoku.pdf きると考える。 人生 100 年時代構想会議中間報告(2017 年)に よれば,日本では 2007 年に生まれた子供の半数が 107 歳より長く生きる8)とされ,人生は 100 年時代 に突入している。生きる資源である健康な身体を 100 年以上保つためには,骨密度の高い丈夫な骨を 維持することが基本であると考える。そのために は,理学療法士の骨粗鬆症マネージャーがすべき一 義は,多くのメディカルスタッフに対して骨粗鬆症 の予防と治療の重要性を訴求すること,そして,意 義を理解し共に行動できる仲間を増やすことにある と考えている。理学療法士から広める骨粗鬆症の予 防は,国家の未来構想には必要不可欠な活動である と確信している。 おわりに 筆者の理学療法士としての初任施設は当法人であ り,これまでに老人保健施設,病院(外来,急性期 病床,地域包括ケア病床),訪問看護ステーション にて経験を積んできた。勤務したどの部門において も,骨折によって生活が一変してしまった患者と関 わることが多かった。この経験を活かし,運動器疾 患を減少させるために理学療法士としての役割を果 たしていきたい。 2020 年 11 月より筆者は当法人では非常勤職員と なり,仙台市役所で地域リハビリテーション活動支 援事業の担当として勤務することとなった。骨粗鬆 症の予防について理学療法士の診療報酬として担保 はされていないが,介護予防や健康増進などの啓発 活動を広域的に継続させるためには,行政の理解と 支援が必要になると考える。今後,筆者は行政の視 点から市民に向けて果たす役割を十分に発揮してい