「理科I」で統一的自然像を(上) : 「物質史」の授業構想
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(2) . 「理科1」 で統一的自然像を (上) --「物質史」 の授業構想 --. 倉 賀 野. 序章 1節. 志. 郎. 「理科1」 で統一的自然像を 「理科1」 を自主編成の 「機子」 に. 1978年の高等学校・学習指導要領の改訂で 「理科1, 1 1」 が新設され, 1は必修化された. その 「理科1」は各個別科学の「事項を有機的に組み合わせ -- 人間と自然とのかかわりで総合的にま. )る こ と が 目 的 と さ れ て い る と め」 1 .. 指導要領の具体的内容は次のようになっている。. 「内容. 1 ) 力とエネ ルギー:力と運動, 落体の運動, 仕事と熱, エネルギーの変換と保存 2 ) 物 質の構成と変化:物質の構成単位, 物質の成分元素, 物質量, 化学変化とその量的関係 3 ) 進化:細胞とその分裂, 生殖と発生, 遺伝と変異, 生物の進化. 4 ) 自然界の平衡:地球の運動, 地球の形状, 地球の熱収支, 生態系と物質循環 〉 ) 人間と自然:資源, 太陽エネ ルギーo原子力の活用, 自然環境の保全」1 5 。 この学習指導要領の提示する 「総合性」 が自然科学の各教科からいくつかの項目を拾い集めたよ. うな 「寄木細工」 的性格をもつもので統 ー性に欠けることは 様々に論じられている 。 要点を整理すると, 次のような特徴 点が指摘されている。 1 . 「物理, 化学, 生物, 地学の4分野に並列させて, 第5分野として人間と自 然」をおくという構 ) 成で, 各分野で 「基礎」 とおぼしき内容を寄せ 集めたものにしかなっていない 2 . しかも 「総合性」 が欠けるばかりでなく, 何故にそれらが「基礎」 であるのかが吟味されているかどうかも疑わしい 。 2. しかも「基礎」のある部分のみ「理科1」にもっていっ たため, 専門の各教科と内容において「分 断」 されている. 一方 では 「このためにたとえば進化ぬき の生物という科目のよう に 科目として , ) の完結性・統一性を持ちえない選択科目になってしまった」3 。 3 . また, 中学校では 「高度すぎる」 という 「配慮」 の基に, 運動の第2法則, エネルギー保存則な どの 「中学校理科の中核」 が高校にまわさ れている。 問題の解決が高学年へとずらさ れたといわれ. ても仕方のない状況になっている。 このため 「国民として最低必要な自然科学的素養を共通して身 につけていくことを目標におかなければならない」義務教育 である中学校理科の「統一性と完結性」 ) も 失 わ れ て き て い る。4. しかも具体的な 「理科1」 の教科書も, ほとんどが学習指導要領 の各分野の 「並置」 をそのまま 採用しておりさらに加えて 「進学校用」 と 「底辺校用」 とが分断されている 。 39.
(3) . 倉賀野 志 郎. このような状況の中で必修化さ れた 「理科1」 への不安, 疑問も出さ れており 「県教育委員会あ たりでさえ, 『理科1』を生物や 地学などに読みかえていく高校が多いのではないだろうかと非公式 )と の こ と であ る 4 人 でや れ ば 総 合 性 の 意 味 は な い し さ り と て 1 人 では 困 難 と い に 言 っ て い る」5 , 。. うことになれば, このようにならざる をえないのかもしれない.. しかし一方では 「理科1」 をどうするのかということを通して 「4教科の教員の間で, 理科教育 生」をどのように構築していく を話し合う機会が生まれ」ているのも事 実である。 「自然科学の統 ー1. か, という議論を媒介として「国民のすべてが身につけておくべき自然科学的素養とは何か」や「そ )がこの 「理科1」 によって逆 れを獲得させていく細かな手だてま でふまえた教育 課程の自主編成」7 に 問 わ れ て き て い る と み る こ と も で き る.. 本稿は, この 「総合性」 により積極的に対置した形で 「理科1 で統 一的自然像を」 という視点よ り教育内容の模索を試みたものである。 これは, 「総合性」に対する批判において, 我々自身の「統 一的自然像」 , それらを媒介としての「統一的自然観」が反照され , 「科学教育の内容の統一的構成」. ていく必要があり, さらには, それは教授労働手段(狭義には「授業書」 , 2節を参照)へと具現化o 「統一的自然像」 の対置という点から考 対象化さ れていかねばならない, と考えたからである. えるならば, 各個別分野での個々の領 域に基づく 「総合性」 批判は, その局面に限定さ れている以. 上, いまだ不充分な批判 であると考えている。 また教育内容構成論だけのレベ ルの議論も, 理科1 が現に教科書で出ている段階において, これまた不充分のそしりをまぬがれえない. どう しても「統 ー性」を具体的な自然像として提出し, 教授労働 手段として対象化していく必要があるわけ である。 このよう な 「統 ー性」 を理科1の教育内容において論じていくことは次のような意義をもっと 思. わ れ る.. ①小学校 では身のまわり の事象が バ ラ バ ラに 扱わ れており, 中学校では2分野制で物理・化学 と生物・地学とが分離さ れている. さらに高校では各教科に専門分化する。 「統一的自然像」 を, あ. る段階で集中的に過 去の蓄積を基にして形成することを目 ざすべきであるとすると, 高校1年 (理 科1)でそれを計るべきかどうかという問題は残るが, 現状において, この理科1を艇子として「統 一的構成」 を模索することは有意義であろう. ②また, 「統一的自然像」 , 「教育内容の統一的構成」 という問題は, その 「統一性」 を構成する視. 点として 「統一的自然観」 そのものの明確化にも通 じている。 この意味で 「統一的構成」 は科学教 育において どのような 「観」 を形成していくべきか, ということ自体を具体的自然像にかかわった ) 形 で 課 題 化 す る こ と に な る.8. ③小中高の科学教育において, どのような統一的自然像, 自然観を形成していくのかを明確にし ていくことによって, 小中高の各段階 での個々 の教育内容の位置づけを論じていくことができる. それは, また個々の分野での授業書化への展望をたてること ともつながっ ている. しかし, このような 「統一性」 を議論する場合, 次のような点にも留意しておく 必要がある. ④自然科学全体の 「統 ー性」 という問題には, 必らずその背景に, どのような視点からの構成で あるのか, ということが存在している. どのような局面, 視点に着目するかによ って 「統 ー性」 は. いくつかの可能性を有しており, 唯ひとつ限定さ れるものではない.(当然, 現代科学の水準に規定 される歴史的限界性ももっている。) ⑬ある局面, 視点による 「統一的自然像」 は教育内容として論 じられていく場合, 授業書へと対. 象化さ れ授業実践を経て検討されていく べきもの である. この点, 「統一的構成」の構想はただ単な 40.
(4) . 「理科1」 で統一的自然像を (上). る プランや目標づくりとしてではなく, 教授労働手段としての授業書へと具体化され, 授業実践の 中で今後, 吟味されていく必要がある。. ⑥また 「統一的自然像」 の構成は, 自然科学の各領域にまたがっており, とても一個 人によって 構成しえるものではない。 この意味で 「統一的自然像」 は各個別科学の専門家と現場の先生との集 団的作業により具体的に積み上げられていくべきものであろう。. 以上④, ⑧, ⑥の意味において, 以下に論じる 「統一的構成」 はあくまで 「試案」 として提出さ. れて い る も の であ る.. なお, 「理科1 1」 の「科学の歴史的事例についての研究」 なども積極的に活用していく必要がある と考えているが, 展開は別の機会に譲ることにする. 2節. 自 然 像 を構 成 して い く に あ た っ て の 3 つ の レ ベ ル. 教育内容の具体的構成を考えていく場合, その手続きをいくつかの段階に分けて考えていっ た方. がよ い と 判 断 し て い る。. ) その区分を考えていく上での前提としての「科学教育学」の全体構成を次のように設定している。9 1) 科学の教授労働手段への 「転化」 過程 1。 「科学」 そのものの科学論的吟味 2。 教育内容への転化と, その対象化. a 。 系統性を論じる教育内容論 b 。 教授労働手段 (狭義には授業書). 2) 教授労働手段の教授-学習過程への投入による授業実践 教授-学習過程に 「労働過程論」 の概念が転用されており, その労働行為のレベ ルを規定し, 客 観的に適否の判定が可能で, 歴史的蓄積性が生じうる, 対象化さ れた 「教授労働手段」 が全体構成. を枠づけている。 教授労働手段の中で, とりわけ中心的な位置を占めるものとして 「授業書」 を設 定しているが, その授業書の構成要素である教材, 教具, 科学読物等も, その手段に含まれている。. この構成の各段階にそって自然像の内容を具体的に検討していく場合, 次の3つのレベルにわけ て考えていかなければならない。 まず第一としては 「統一的自然像」 の 「統一性」 の科学論的吟味のレベ ル (1-/) 。 第二に, そ の 「統一性」 を教育内容として, どのように系統化するかを吟味するレベル (/-2 a)。 第 三 に,. その系統化さ れた 「自然像」 をどのような 「単元」 構成に基づく授業書群にしていくかを吟味する レ ベ ル (1 - 2 b ) 。. 第一レベルでは 「統 一性」 は 「構造」 をもったものとして考察されていく必要があるが, 第二レ ベ ルでは, その構造は時系列的に展開さ れ 「教育内容」 という視点より新たに考察される必要があ る。 また第三レベ ルでは以上に加えて, 具体的な授業書の構成にかかわるわけだから, いくつかの 0 ) 「単元」 に分解して, 「認識過程論」 に基づく 吟味が要求されてくる 1 。 このような各レベ ルの吟味を踏まえた授業書等が教授-学習過程に投入され, 授業実践によって 検討されるわけ である。 本稿 (上) では第一, 第二レベルまでを展開し, 第三レベ ルは (下) で展 開 さ れ て い る。. 41.
(5) . 倉賀野 志 郎. 1章. 自然像の科学論的な吟味. 教育内容において, どのような統一的自然像を提出するのかという問題は, その前提として 「統 一性」 そのものの吟味を 必要とする. この 「統一性」 の科学論的吟味に あたって, ここでは田中一, 岩崎允胤, 宮原将平各氏の 「物質の運動諸形態」 に着目した 「自然の歴史的・階層的展開」 の考え 方 を ベ ー ス と す る.. 1節. 岩崎o宮原両氏の 「歴史的 o 階層的展開」. 1 1 ) ま「自然は多様の統一として, 相異なる運動形態の相互連関をなしている」 岩崎・宮原両氏の視 点; ) と い う も の で, そ の 多様の統 一性. は現代科学の成果によ って支持され, 当然, 「歴史的 (p 22 . 制約」 も有 している. その上でまず 「物質とその運動との不可分離性の理解に基づく運動諸形態の ) p 相互移行と転化」 の段階的発展の見地より 「階層性」 について次のように論じている. ( .131 「素粒子から超 銀河にいたる全系列」 は 「主系列」 と名づけられる. 一方, 「高分子のうちでタン パク質と核酸とを基本物質とする生命の誕生とその発展は -- 主系列から出た枝系列として 理解. される」 .この「階層性の把握は,素粒子から下方に, また超銀河 ) 系から上方に向か って閉じていない」 p .134 .(. ここでは「地球的運動形態は -- 主系列ではあるが枝系列を 契機として含むところに成立」しており, 「生命の発生と発展を それ自身のうちに契機として含んでいるところ」 にその 「特殊. ) 性」 が見られる. ( p .135 しかし, この 「階層間の相互移行・相互転化について考察す るかぎりでは, 階層性はまだ非歴史的」 で 「階層性を歴史性の 反映とみることによって, 階層性の移行と転化を歴史的発展の. 契機としてみる」 ことが必要になってくる. その 「歴史性の観 ) 点を導入すれば -- 次の基本系列が示さ れうる」 p .139 .( ′郊 ′. 社 運動形態 タ 生物的運動形態. (地球的運. . 動形態). 銀 運. 動 器 す. 河 (=星雲). 星. 団. iる 全 全物質( その 星. 存 マクロ物本 署 在. 在 形態 髭. 豊). 分. 子. 惑星的運動形態. /. 恒星的運動形態. . 銀河的運動形態. . 超銀河系的運動形態. / 42. 1 1図. 工図. 生. 物.
(6) . . 「理科1」 で統一的自然像を (上). 1 1図の1図との関連について両氏は,「主系列の上方から下降し, 主系列と枝系列との交叉してい るところ(地球的運動形態)から, こんどは右側 の枝系列を上昇するような系列である」 ( )と 1 p .14 している。 「歴史的な総過程 では, 分子も原子も, 原子核も素粒子も -- 歴史的な 所産」 なの であ. り, この意味で 「自然の階層性は歴史のなかで形成された結果」 (p ) と言えることになる. 42 .1 2節. 科学論的な吟味. A歴史性と階層性とを統一する視点 歴史性は, 空間的な諸状況の配置である階層性に対しては 「契機」 としての意味をもつもので , 2 )この点 階層性と歴史性 (1図 階層性の系列を「発生的」に説明し得るもの でなければならない 1 。 ,. と1 1図) との対応を, 前述の岩 崎り宮原両氏のように結びつけるのはいささか機械的す ぎるように 思われる。 これは階層性が歴史的な形成物であることが指摘されているにもかかわらず 歴史性と , 階層性の連関が, 内的な必然性をもつものとして, まだ充分に展開さ れていないところに起因して い る と 思 わ れる。. こ の 「自 然の 歴 史 性 ・ 階 層 性」 に つ い て 最 初 に. 三. 互の間の関係ととも に考察する という意 味 で三. i. o. 。. 1. 豊富蔓延 争覇豊里孟島袋 翻. 区分をおこなっている. この視点からすると, 目. 翻饗犠叢 豪 書 華 き 誉. なも うな 刷 の 鞭 . 捌 とし. の. とより非線形性や不安定性をも含むあらゆる現象 に拡張できないだろうか」 (④序論)という問題意 識の基に設定されている。 この非線形熱力学は,. 星. 雲. 天. 体. ! i -. -. 人. 間. 多細胞生物. 細闘 厚 醐質1単. i誓酬 !. 非線形熱力学」 より改めて見なおすことを現在,. 4 ) 考 えて い る1 . こ の 熱力 学、 \ は 「熱力 学 の 方 法 を, 平 衡 は も. -. -. 定式化した田中一氏 は 「史的自然」 を図1 1 1のよう に表現し 「単一の世界の中に生成した質をその相. 餅…. 史 的 自 然 、くもので, 囲ま省略して (実際には新しく加ゎってし. 表現してある). m図. 非平衡線形熱力学とは異なり, 非線形を対象としているが故に, 構造の安定性, その構造のゆらぎ を介しての他の動的状態における「構造」 (散逸構造)への 質的転化, 構造の階層性と進化などを統 一的に把握することも対象となりはじめている 。 まず構造に関しては 「平衡構造」 と 「エネルギーと物質とを外界と交換しながら形成さ れ維持」 される 「散逸構造」 とが巨視的に 区分さ れる. この 「散逸構造」 は自由エネルギーの流れなどがあ るために 「平衡点」 よりゆらぎによってずれていった構造が, 動的状態において巨視的な内部秩序 を形成する構造で, エントロピーは最初の状態より局所的には減少しえる .. 43.
(7) . 倉賀野. 志. 郎. この 「散逸構造の形成機構はボルツマンの秩序原理に 基礎を置いている平衡構造の形成機構と根 本的に対比される」 (⑪ p .5) ものとなっている。 「古典熱力学は本質的に 『構造の破壊』 の原理で あったが, 生物などの一見熱力学第二法則に反する事象などを物理的に把握していくためには「『構 造の創造』 の理論」 を構築する必要があり, 散逸構造はここに出てくる概念といえる. また 「新し い 『構造』 が常に不安定性の結果として出現する」 ということからするならば, 「散逸」 は 「時間・ 空間における秩序の源」 (④序論) とも言えることになる。 この動的状態において形成される 「散逸構造」 は, 「どのような不安定さが次々 と起こっ たか」 と いうこと で 「系は自己の n歴史ぃ という次元」 をもっ ており, この視点からすると 「進化は構造安 ) 定性の問題として捉えられる」 ことになる. (⑪ p .12. 構造を動的・歴史的に捉えていくことによっ て 「不連続性によって構造の階層性が存在すること」 ) を 一不安定性を媒介とした安定性 という考え方によって説明していくことができる. (⑪ p .274 プリ ゴジーヌは, これを 「巨視的世界の統一的記述」 として 「散逸」 を介した上での 「安定性の概. 念こそ, 物理の統一性とさま ざまな階層における記述の 多様性とを, 矛盾 なく調和させる」 (⑪. ) も の と な る だ ろ う と 述 べ て い る。 p .274. 階層性と進化・歴史性とを統 一して考えていく視座をこの熱力学に 求めている理由も, この 一非. 平衡を媒介とした平衡の把握ぃ という「媒介論的視点」にある. この視点からすると, 各階層の「定 在」 は, 他のレベ ルの階層的構 造から非平衡的進化によっ て宇宙史的規模における 「散逸構造」 と して形成されてきたと把握していけることになる. この時, 階層・進化を理解する上での重要な結 節点となるのは, 星の核融合反応などによる自由エネルギーの定常的な u流れ, という概念 であろ う。 杉本大一郎氏は 「現在の熱平衡状態からはずれた宇宙」 が 「熱平衡の宇宙から発生した」 とい う事実を, クラウジウスの 「宇宙の熱力学的死」 とは異なり, 重力という非平衡に着目した 「重力 5 )それによると 「宇宙の最初に潜在的に含まれていた」ところの一負 熱力学」より解き明かしている。1 , の エ ン ト ロ ピー は 「重力熱力学的カタストロフイによ っ て顕在化」 し, この 「顕在化を通じて,. われわれは宇宙における多様性の発現や天体の 進化を見ることになる」 . この場合は「重力」に着目 し て い る わ け だ が, どの よ う な 流れ、 、 がいっ発生し, それによ っていかなる 「散逸構造」 が形成. されてきたかを考えることによっ て各階層の連関の進化史的 必然性を明確に していけるわけ であ る.. B無機的自然と有機的自然 「無機-有機」 の連関も, この非平衡熱力学的視点より構 成し直していく必要があると考えてい. る.. 岩崎・宮原両氏は, 他の階層からの分枝の可能性を排除しないとした上で, 地球的レベ ルにおけ る 「枝」 として有機的自然を系列化している. これは空間的スケールに着目しての表現の仕方では. あるが, 主系列を特徴づける無機としての 「質」 と, 有機としての 「質」 は明白に異なっている. \無機→有機・生命 という 「物質の進化」 は 「相」 この異質性に 「散逸構造」 より着目した場合, \ , の大きな転位とみなしていく べきもの で, 「枝系列」という表現形式は, この点の強調としては不充. 6 ) 分 であ る と 思 わ れる。1. 生命という 「相」 を 「非平衡熱力学的視点」 から考えると 「生物学的過程は自然の外にあるので. )とみな はなく, 非線形で平衡から遠く 離れた非平衡条件に特有な物理法則に従っている」(⑪ p .14 1 7 } される。 そこ では「エネ ルギーと物質の流れは, 機能的, 構造的秩序を作り出し」ており, 「生物系 の機能にとって散逸構造は疑いもなく重要な役割を果たしている」 . 44.
(8) . 「理科1」 で統一的自然像を (上). 清水博氏は,これらの点をまとめて「 ( 1 )生きている状態は -- 多くの分子や要素の集合体がも つ, グローバルな状態 (相)」 で, 「 ( 2 )生きている状態における系は, 高い秩序から発現し, それを維持. する能力を持っ て」 いる。 さらに 「 ( 3 )その秩序は結晶にみられるような 静的秩序ではなく, 動的秩 序であり -- その秩序を完全に維持するためには, エネ ルギーや物質の絶えざる流れを必要」とす 8 )と し て い る る,1 。. もちろん生命という 多様な 「相」 をすべて, この非平衡的側面にのみ環元しえないが, 分子生物 学における自己秩序形成の問題, 進化における散逸構造の役割など広範囲な現象を統一的に構成し ていける有力な視座のひとつがこれであると言えるだろう。 例えば, この視点からすると, 地球上. における生命形態の発生は, 星 (太陽) の核融合反応による局所的ネ ゲントロピーと, それによる エネルギー流を, 光エネルギーの固定化を介して自 己秩序化に組織する系の発展とみなすことがで き, 物質代謝の概念, 地球進化史と結びついた形での生態系進化もこの概念 で包括しえるだろう 。 とりわけ地球の場合には大気の進化史とも からんでいる。 また 「環境と相互作用し, エネ ルギーと物質とのやりとり」 こそ, 散逸構造の 「存在の本質的要 9 }として 「ひ 素」 という点では, 「社会」 とりわけ 「都市」 なども 「人間と自然との間の物 質代謝」1. とつの適当な例」 (⑪ p .4)としてあげることができるかも知れないが, そのためには自然科学と社 会科学とを統一するという視点からの吟味が必要となるだろう 。 C階層性のいくつかの局面 各階層は, 前述の 「非平衡を媒介とした平衡」 という考え方からすると, 各 「相」 を措定する動 的平衡状態を静的局面において把握し, 非連続的な空間的諸構造へと射影したものと考えている。. このため各階層は互いに異質的ではあるが, 単なる空間的大きさの配序ではなく, 個々の階層の運 動形態を規定している相互作用と, その発現形式によって連関を有しているわけである。 ( 「相」 の 2 0 ) この側面を, 田中一氏に従っ て以降 「質」 と呼ぶ。) この相互作用と, その発現形式によって特徴づけられる 「相」 の空間的側面に投影された 「質」 は, 個々 のレベ ルでの個別的自然像にかかわって展開する時, その 「質」 をいく つかの局面に 分け て考察した方がよいと考えている. 静的であるが故に要素を抽出しやすくなっていると判断するか. らである。 この階層性の 「質」 の局面は当然, 動的平衡状態と, その転位を規定している 「物質と エネルギーの流れ」 と結びつけて分析されていく 必要がある。 ただし階層性の 「質」 の各局面には, 動的状態を措定するパラメーターは直接, 顕わには出てこない。 現時点 で, この 「質」 の各局面として, 「質料り形相」 にかかわらせて, 原子論 (アトミズム) ,. エネ ルギー, 関係概念としての情報・エントロピー, を設定している. 各階層を貫ぬくものとして, これらの局面が設定しえるのは, 各階層の 「質」 が非平衡状態の 「相」 を介してつながっているか らである. 例えば生命体にもエネ ルギー保存則が成立するのは, 生命現象を散逸構造として考えて 1 〉 いく こ と に よ っ て 必 然化 し え る わ け であ る.2. 「質」 をどの局面で分析, 展開していくかによって階層性から組織される 「統一的自然像」 の構. 成様式は異なってくる。. ) 原子論:物質の実体的側面に着目しての原子論的自然像の展開 がこれにあたる. その実体と a しての 「質」 は 「場と物質の矛盾」 などにしめされるように認識論的に閉じていない。 b ) エネル. ギー:実体的側面とは区別され, エネルギーは質的に異なる現象間の相互転化を規定する 「転化性 2 }で 質を量的測面において展開する より広範囲な現象間の「転化」を論じていく中で そ の測度」2 , 。 , 2という関係は 質量をエネ ルギーに の測度としての量的規定は多様化し, より深化する。 (E=mc , 45.
(9) . 倉賀野 志 郎. 量的に関係づけるが, その 実体としての質. は量的側面に環元しえない.) ) 情報・エントロピー:相互作用の発現形式をこの局面においても考察していく必要があるの c は, 情報・エントロピーが, 個々のアトムやエネ ルギーの存在形式だけ でなく, その集団としての 「質」 にかかわる関係概念, 分配形式に直接結びついているからである.. 板倉聖宣氏は, 科学史上で「最も多産だっ た4大仮説」として 「その一は原子論の哲学 --, その 二は自然界の諸力(エネルギー)が相互に作用 し相互転化するという自然観 --, その三は -- 進 2 3 ) 化論の哲学」 , そして,20世紀にはいって, 有効性を発揮してきた「自然の法則の階層性の考え方」 をあげている. 科学史上の問題とは質的に異なっ てはいるが, 今までの分析からすると, この4大 仮説のうち前2者と後者とは異質であることに留意 しておく必要があろう. 基礎理科研究札幌 グ ルー プは, この4大仮説の考え方を基にして,「統一的自然観を養うのに 欠くことのできない基本概. 念」として「エネルギーの保存と互換性」 , 「物質とその階層性」 (原子論的物質観と物質の階層性) , 4 ) しかし自然科学の「総合的展開」に 「可逆性と不可逆性」(進化論的世界観)の3つをあげている.2 とって必要なことは, 「柱」 を設定することではなく, どのようにして何故に, そのような「柱」 が 柱として措定しえるのかを展開することであろう. 「非平衡熱力学」は, この課題に対するひとつの 切 り こ み 方 を し め し て い る.. 1 1章. 教育内容としての統一的構成試案. 1節. 「物質史」 の構想. 前述のように自然科学の統一的自然像は,そのまま では教育内容とはならない.統一的自然像は, さらに子どもの認識可能性を考慮して, 教育内容の統 一的構成へと「転化」させていく必要がある. それは前章での 「視点」 に 基づく歴史的・階層的自然像を, 個々の結節点を規定する 「質」 を中心 として, 教育内容として どのように再系列化していくのか, ということに答えていくことに相当す る.. 本章では, とりわけ歴史性の契機に着目した 「物質史」 の構想に焦点をあてて, 理科工の教育内 容として統一的構成上のいくつかの視点を考察しておこう. 教育内容としての 「物 質史」 の統一的. 構成の全体概要は次の通り である.. 構想は大きく3部に分かれており, 1部は現存する自然を非平衡熱力学的視点より把握すること 1部がその 「定在」 の歴史的把握にあたる. 1 を目 ざしており, 1 1部は総展開にあたる. 以下, 1, 1 5 ) 1 1部の全体構成に焦点をあてて内容構成上の視点に ついて考察していこう,2 紙数に制 限があるので各項目ごとに説明しないで, 基本的な概要のみ触れてある. 理科1で構成. しようとしている物理的側面にかかわる 「力とは何か」 や 「補論」 等は次章の授業書の方で展開し て い る.. 2節 「物質史」 の教育内容としての構成上のいくつかの基本視点 A. 「歴史性」 をどこから導入するか 歴史的契機は, ある歴史的断面の定在の必然性を歴史的に把握するというもの で, この意味で「歴 46.
(10) . 「理科1」 で統一的自然像を (上) W. 図. O. 「物理史」 授業構想. 1部:宇宙-地球-生物. 1 1部:歴史への遡源-- 「物質史」. エ ネ ル ギー ・ エ ン トロ ピー の 流 れ. 4つの相互作用. ・エネルギーの質的相互転化とその保存. . 「力」 と は 何 か. ・非平衡状態に基づくエントロピー概念. ・電磁的相互作用の生み出す多様な世界. 「宇宙--太陽」 ・宇宙の階層性 I. 銀河から超銀河へ 原子から素粒子へ ・密度からみた原子論 ・ネ ゲン トロ ピー源 と して の 星・ 太陽. 「太陽--地球」 ・太陽-地球のエネルギー流システム 2. 地球に おける エ ネ ル ギー 分 配システ ム. (水と大気のサイクル) 惑星比較気候学 ・地球の内部 「地球--生物」 ・生態系生態学. 3. 太陽-植物-動物のエネルギー流 光合成と呼吸. 「宇宙史」 ・素粒子から宇宙史へ (ビック・バン理論) 各元素の生成史 恒星の歴史 ・太陽系形成史 各惑星の定在・地球史の特殊性 「地球史」 ・生きている地球 マントル熱対流による大陸移動史 ・気候史 海水と大気の起源 各オーダーの気候変動史 「地球生態系の歴史」 ・地球史の特殊性 水 生命による酸素形成史. C と Nのサイ ク ル. ・エントロピーよりみた群集生態学 「生命」 の物理・化学的システム ・生きている状態とは何か 4. 動的秩序の自己形成 ・物質代謝 ・生命の連続性 生殖・遺伝. 補 論. 「生物進化史」 ・生物進化史-地球史とのかかわりで 植物と動物の進化史 ・生命の発生 化学進化・分子進化 宇宙生物学. ・人間と自然のあいだの物質代謝と、 その撹乱 社会的物質代謝. ・過去をさぐる手段. ・形態よりみた自然---右と左. ・ 「対数 グラ フ」 に つ いて. 各種年代測定学. 史」 はその前提として非歴史的な 「空間」 が措定さ れてはじめて意味をもちえる. 「空間的諸状況」. との対比において歴史が意味をもっとすれば,「宇宙史--元素合成史--太陽系形成史--地球史 ÷ → 控学進化 生物進化史」 という自然科学上での進化史像は, そのままでは教育内容構成の順. 序としては採用できない。 前提として現存する 「自然」 の動的・階層的諸連関を押えておく必要が あることになる. しかし一方, 現在の 「自然」 がまさに, そのような形態をとる必然性は 「歴史」. においてしめされるという関係もある。 教育内容において各 「相」 の歴史的契機をどのように構成していく べきかということは, 最終的 47.
(11) . 倉賀野. 志. 郎. には教育内容の対象化さ れた授業書によって実践的に検討されていくべきものであろうが現時点で は次のように考えている. 今までの点を考慮して, 各歴史は下図のような3つのステッ プを1サイ クルとして構成される. 6 } 「統一的構成」 の全体も大きくこのようなステッ プに分かれている.2 1. 現象 (空間的諸状況). -- 過去のある時点での歴史的断面. 2. 当の現象の 「歴史」 への遡源 他の現象の歴史性との連関 でとらえられていく 3。 「現象」 そのもの の必然的再構成 他の現象との必然的連関. その後の進展への予想 定在の必然性を歴史的に構成していく ことによ って, その意味がより明確になっていく事例は各 「相」 に数多くある. 例えば宇宙史においては, 元素の周期律表と各元素の宇宙・地球の存在比を 2 7 ) 地球上に重金属が存在し とりわけ Feが多 「歴史」 の所産として続みとるといっ たもの である. , 8 } いというのも超新星の爆発時(太陽系スパイ ク)の合成に由来するといえる 2 . また生物レベ ルでも 同じようなことがいえる. C, H, N, 0によって地球上の生命体のほとんどの部分が構成されて いる. この大きな理由も元素合成史に隠さ れているといえ, 生命が重元素を必要とし第1 工族型の恒. 星が重元素をもつ惑星系をもちえる可能性を有するということからすると, 地球上 での生命の発生 9 ) 時 期 も 宇 宙 史 の 中 に 位 置 づ い て い る と い え る こ と に な る。2. B。 第1部:非平衡熱力学的視点 「流れ」 が存在する状況で, ある種の 「動的構造」 が形成されるという考え方そのものは常識的 なものといえる. それが非平衡熱力 学的に 扱われるべき運動形態の独自な対 象として, 客観的に. 存在するものとして意識的に自覚化さ れ, 研究対象として位置づけられたところに「非平衡熱力学」 の意味がある. この点からすると各種の 「相」 を 「散逸構造」 として一般化するだけでなく, 個々 の構造の特殊性が明らかにさ れていかなければならない. そのためには各散逸構造を, それを特徴 づけている 「流れ」 によっ ていくつかに区分して考えていく必要がある.. まず第1として, 星の核融合反応によって生じるエネルギーの流れの段階である. 定常的エネル ギー流の形成は 「自 己重力系の熱力学」 へと組織されていくことが必要で, とりわけ, その核融合 反応によ って生じる局所的なネ ゲントロピーの発生は, 地球上における 「多様性」 の形成にとって 0 ) 大 き な 意 味 を も っ て い る.3. 第2として, 地球の表層上の諸現象を地球内部, 及び外部からのエネルギー流と, その分配現象 1 ) そのエネルギーの分配様式は時間的.空間的 として把握し地球全体を開放系として 設定する段階。3. に押えていく必要がある。 ここ では, とりわけ気候史などに着目しており, 他を媒介にしてはじめ 3 2 ) 気候史は変 て地球がわかる,という意味から惑星比較気候学にま で拡張することを考えている. 3 3 } 第3として 生態系生態学の生命を含め 動のオー ダーを区分して考察していかなければならない。 , た地球生態系の物質・エネルギーサイ クルの段階。光合成と呼吸,植物と動物などもエネ ルギーの流 れという視点からすると流れのサイ クルの一環として位置づけて考えていく必要があり, それに炭 素と窒素などの物 質循環がからん でく る。 また食物連鎖のピラミッ ドも熱力学的な意味を帯びてく 48.
(12) . 「理科1」 で統一的自然像を (上) 4 ) る。3. 第4として, 生命現象を 「平衡状態からはるかに離れた点での自己秩序化現象」 として把握して いく段階。 物理o 化 学 的に そ れ が 維 持 さ れ て い る こ と がこ こ で の ポイ ン ト で, こ の 意 味 か ら す る と 5 ) 物 質 代 謝 は, 太 陽 に よ っ て 発 生 した ネ ゲン ト ロ ピー の 消 費 と い う 性 格 を も っ て い る.3. 第5として, 「社会的物質代謝」 の段階。 (構想では補論として扱っている。) 農業は今ま での視 点からすると, 組織されたエネ ルギー固定化の形態ともいえるもので, 都市と農村との物質サイク. ルは 「社会的物質代謝」 とも呼べる。 公害問題な どを扱う 時, す ぐに事態の深刻さ の強調 に目 が いきがちであるが, その公害などを 「社会的物 質代謝の組織的な乱れ」 として位置づけて教育内容 6 ) と して 再 構 成 し て いく こ と が 必 要 だろ う。3. 教育内容構成の視点を考える時, 全段階を通して重要なことは 「流れ」 という概念をどのように 組織していくのか, ということである。 この点に関しては 「動を媒介としての静の把握」 という認 識論的契機における媒介論的視点に着目することを考えている. エントロピーなどを考える時, 平 衡を前提とする熱力学の基では, 静的定常的な形態が中心となっ て, それからのわずかな ズレとし. て動的な状態を扱っ ている。 こ れだと厳密な意味に 基づく と, 部屋でストー ブをつけるともはや. 「温度」 概念をも語ることができなくなってしまう。 しかし日常的には動的な状態の方が多い。 静 的状態はむしろ抽象化されたもので, かえって動を動として組織する方が認識しやすいと考える。 構想の第1部では, 物理的レベ ルにおけるエネ ルギーリエントロ ピーを扱う部分 が, この基本的. パターンをしめしている。 エネ ルギー保存則にしても 「質的転化現象」 が背後に存在し, 永久機関 不能を媒介として, 「エネルギー」 やその 「保存」 が認識されてきたのである。 エントロピーの場合. 9 ) に も, エ ネ ル ギー 流か ら 構 成 し て い く こ と が 考 え ら れ る。3. 非平衡熱力学という視点も こ基づく統一的構成の場合, エネルギーリエントロピーの流れという 一 側面に限定しているため, かなり広範囲な現象を包括することができる。 しかし, 一側面にのみ着 目しているため, 現象をいささか機械的に把握してしまう面もあり, 概念の不当な拡大は厳に慎し. まなければならない。 例えば食物連鎖をエントロピー で理解していく場合も微生物は有機物分解者 3 8 ) そのエントロピー概念を社会にまで適用するともなれば概念そのも とのみは位置づけえないし, 9 ) のの再吟味も必要となるであろう。3 1部:進化史像を構成していく視点 C, 第1 物質進化は, どの局面, 連関において対象を把握するかによって様々な側面をもっ ている。 杉本 大-郎, 浜田隆士の両氏は生物進化に 限定して進化の 「投影面」 の相違による表現様式の差を紹介. しているが, 物質進化全体についても, そのように各側面に 「投影」 して考えていくことが必要で あると思われる. 例えば気候史ひとつ例にとっても, 宇宙史, 地球史,生物進化史のそれぞれにかかわる側面をもっ. ている。 地球の他の惑星に対する特殊性は, 水と生命形態の発生にある。 この特殊性が顕著にあら われているのが 「大気の歴史」 である。 太陽エネルギーの光合成という形態での固定化は大気組成 1 ) また それによるオ ゾン層の地上からの後退は 生物進化に の酸素濃度を序々に変化させてきた。4 , ,. 反作用して陸上への進化を促進している。 これは各 「相」 の歴史が相互に影響しあっ てきたことを 意味している。 現在の 「自然」 は, その長い歴史的経過を経て, ある一定レベ ルでの平衡状態に達 したシステムと言えよう. また充分確認された事例 ではないが, 氷河期の周期性を説明するために. 考えられた地球の運動の永年変化に 基づくミランコビッ チの太陽幅射曲線は過去の地学事象とかな 49.
(13) . 倉賀野. 志. 郎. 4 2 ) さ ら に銀 河 系 の 渦 り よ い 一 致 を し め して い る.. 状腕の密度パターンに太陽系が突入する時の衝撃 波が 「何らかの形 で地球磁場の反転期を支配した 可能性」 や, 数億年規模 での氷河期を誘因した可 3 ) 能性など ざ指摘さ れている.4. 進化史像は, このようないくつかの側面の複合. に よ っ て 明 らか に な っ て い く も の で, 当 の 対 象 そ. のものを孤立的にとり上げて構成することは有効 ではないと考える. 各進化史像が複合的に組み合 わさ って全体として 「物質史」 像が浮かび上がっ てくるわけである. 「非平衡」に基づく「動的構造」 の空間的階層的側面への投影として各 「質」 が考 えられているのであるから, 各 「相」 の歴史が累 層的に前段階での 「質」 と結びついていることは ある意味では当然とも言える.. 三次元系統樹とその投影表現図. V図. 物質史における新しい 「相」 の出現は, ビッ ク・バン以降, 温度と密度の低下につれて, 各 「相」 を特徴づける相互作用の個々のレベルにおける現われとみていくことができる. 以下, 各 「相」 に. 即して内容構成上の視点として, 前述の 「複合性」 のいくつかの特徴 点を簡単に触れておこう. 1)宇宙史. 宇宙初期の非重粒子からの各種素粒子及び各元素の合成史は, 「相転移」としての性格をもってい 4 4 る) . ある温度段階 でどのような相互作用が主となるかによって, 「相」が形成さ れているわけ であ る. この点からすると, ビック・ バン理論における宇宙形成史は, 素粒子論での各相互作用の時間 軸への投影という性格をもっていることを指摘しておく必要がある. ビッ ク・ バン以降の各レベ ル での 「質」 の発現は, 現在素粒子論が客体としている 「物質」 (現時点 での物質概念) の各レベ ルと 5 ) 密接に結びついており, 宇宙創成期への遡源は, 物質そのものの究極への遡源であるとも言える.4 この意味で宇宙史初期過程は, 原子論・素粒子論と-諸にして考えた方がわかりやすくなる. 素粒 子論で対象としているニュ ートリノがごくわずかでも 質量をもっていれば, そ れがただちに宇宙論. に影響してくるというような結びつきを両者はもっている.. 原子論や物理学上の基本法則を 「現象」 として, その 「定在」 を歴史的に把握していくという問 題は非常に興味ある課題のひと つであろう. 事実としては確定さ れてはいないが, ガモフ, デイラッ 6 }なども歴史的に法則を定在化しようとする試 みとして教育内容に取り クの「万有引力定数進化説」4 上げていく意義は大きいと思わ れる. 2)地球史. 地球史を構成する場合, キーポイントになるのは, 太陽系の他の惑星に対する地球の特殊性 であ 4 7 ) その特殊性の中心的な柱のひとつが 生命の発生とその進化である この特殊的事情により ろう. , , . 地球史はそう でない場合と大幅に異なっている. それ以外の点も考慮して内容構成上の要点を整理 すると次のようになる.. ①他惑星に対する地球の特殊性 8 ) ア. 「水」 の 存 在4. イ. 生命発生 -- 生物進化史と地球史 50.
(14) . 「理科1」 で統一的自然像を (上). ②地球の外部, 内部エネルギー流の役割 地球外部エネルギー (太陽)が地球史に 果 した役割は 有機- 無機 の生態系システムの進化史や,. 地球上でのエネ ルギー分 配史を考える上で大きい. しかし, それと同時に内部エネ ルギーについて も注目しておく 必要がある. 地球内部に核分裂によるエネ ルギー源が存在するのは太陽系形成時の 9 ) 内部からのエネルギー対流の時間的変動は 大陸移動などを介して地球史 生物 宇宙史の所産で4 , , , 0 ) この場合 地球上の現時点 での大陸や 生物 の諸配分 エネ 進化史に直接,間接に結びついている.5 , , ルギー分配形式としての気象などは 「現象」 にあたる. とりわけ大陸移動の場合, ぜひ 「海底」 に焦点をあてて教育内容を考えていく 必要がある. 陸上 の地図はよく 見かけるが, 海底となると 「平らになっている」 という程度のイメージしかない場合. も多い。 ハワイ 島が富士山の数倍の大きさをもつ9, 00om 級の地球最大の火山 であることを認識す 1 } るためには, 島の海上部分だけを見ていてもわからないと言うこと である。5 3)生物進化史. まず生命の発生について. 生命の発生は, 生命の連続性との対比ではじめて意味をもってくる。 また生命の発生へのオ パーリン的ア プローチや分子進化・化学進化は生命体の物 質代 謝, 有機-無. 機の生態系システムにおける動物o植物の位置づけとも対応をもっており, 生態系を地球史的観点 2 ) この化学進化などを教育内容として構成する場合 地 から把握していく問題ともつながっている.5 , 球上生命形態の意味を媒介論的に考えるということにより,「宇宙生物学」にま で拡張することが必要 3 ) 生命の形態や素材のもつ意味を もう一度自由に考えなおしてみることによ って 逆に定 となる。5 , ,. 在のもつ意味を問おう, というものである. 海水の化学組成を生体の構成元素が反映しているのに, 何故にリン(P)などという数少ない物質が利用さ れているか, などを考えていく場合, そこまで たちかえっ た方がわかりやすくなる. 生物進化については, 進化そのものの計量化につながっている 「分子進化の中 )に着目したい アミノ酸座位の平均置換速度によって提出される「一様な 立説」駁 。 時間」 概念は, 生物進化そのもののメカニズムにつながっている面もあると判断 される。 分子生物学によって提出さ れている考え方を歴史的に 「定在化」 するこ とも 重 要 で, ま た そ れ を マ ク ロ な レ ベ ル で の 生 物 現 象 と 結 び つ け て い く こ と も 必. 要と思われる。瑚 遺伝子の組み合わせという面か らみたオスとメス は2重ラセ 6 ) ン と 結 び つ い て い る。5. しかし, 一方 で現代分子生物学の限界も教育内容として 入れる必要があろう. 長谷川政美氏はA. ケストラーの 「組織化のより高いレベ ルからみると一部分 で あり, 低いレベ ルからみると全体であるょうな機能的単 位」 として 「ホロン」 と. いう概念を紹介している. 下図における 「各階層はそれぞれ一つのホロンとみな すことができる」 . その上で「ゲノム全体の遺伝情報文の高次の文法」 という 「ゲ 7 ) ノ ム レ ベ ルの ホ ロ ン」 の 重 要 性 が 示 唆 さ れて い る.5. 生半系 申 個平群 個体 -. 器官 細胞 ー. 細胞中器官 高分子や集合体 高孝子 分子. VI図. 51.
(15) . 倉賀野. 志. 郎. 〈注〉 1 ) 文部省 「 197 8年 高等学校・学習指導要領」 2 ) 山岡寛人 「 『理科1』 教科書をめくって」 『理科教室』1 9 81年7月号 新生出版 P .8. ) 山岡寛人 「『理科工』 の問題点とその克服のために 『理科教室』1 3 98 0年5月号 新生出版 p .16 . 4 ) 山岡寛人 前掲書 P .17 . ) 山岡寛人 前掲書 P 5 .14 . ) 石井信也 「小中学校理科と 『理科工』 前掲1 6 98 0年 『理科教室』 p .5. ) 林淳一 「教育課程と 『理科1』 の問題 -- それは高校だけの問題ではない」 前掲1 7 9 8 0年 『理科教室』 8 ) 自然像・自然観は社会ま で含めると世界像・世界観となる. ここまで論じていくためには 「自然科学と社会科学 との統一」 にまで拡張して考えていかなければならない 「像-観」 については岩崎.宮原 『科学的認識の理論』 . V I I章 197 6年 大月書店 9 ) 「科学教育学」 の全体構成は 同ヒ海道職業教育研究会」 で1 9 81年1月に話した記録をまとめた 「自然科学にお ける授業書づくりの-手順」『北海道の職業教育』 第7集, に基づいている . なお社会科については藤岡信勝氏が, このようなステップについて論じている . 「社会科教材づくりの視点と 方法」 19 81年6月号 『社会科教育』 明治図書 1 0 ) 高村泰雄氏は 「教育研究, 教育運動の中で明確に, 哲学と科学というものを区分した方がよい」 としている . 「人類社会の発展過程の中で, これだけは, こういう段階で教えた方がいいというものは客観的に ある」 しか , , し,「それは一つの哲学」 .「それを具体的にどんな風に, だれでもが認めるという形で客観的に科学的に確立した らよいのかという問題が別にある」 .「哲学としてあっても科学としてそれが確定されているという事にはならな い」 19 7 8 北海道の教育』 1 9 9年 p 6~67 7 . 合同教研推進委員会編 『 .6 . 1 1 ) 岩崎允胤・宮原将平 『現代自然科学と唯物弁証法』1 97 2年 大月書店 1 2 ) 見田石介氏は 「存在の必然性, 発生史をたどること」 の認識論的意義を 「ヘーゲル論理学の特色」 のひとつと して強調している. ヘーゲル論理学研究会編 『見田石介・ヘーゲル大論理学研究』第1巻 19 7 9年 大月書店 P . . 5 ~11. 1 ) 田中- 「現代と自然科学」 1 3 9 6年 汐文社 p 3 7 .48 . 田中氏はまた, 連らなりあい, 重なりあいを強調する理由から 「主・枝系列」 を 「主・副鎖」 「階層性」 を 「累 , 層性」 と 呼ん でいる.. P .40 .. 1 4 ) 「非平衡非線形熱力学」 の主要な参考文献 ③P. グランスドルフ, 工. プリ ゴジーヌ 『構造・安定性・ゆらぎ』(松本元 他訳) 1 97 7年 みすず書房 ◎G, ニコリス, 1. プリ ゴジーヌ 『散逸構造 -- 自己秩序形成の物理学的基礎』(小畠陽之助 他訳)1 9 8 0 年 岩波書店 ) 杉本大一郎 「宇宙の星の熱力学と進化の源泉」 『星の進化と終末』現代天文学講座7 1 1 5 9 7 9年 恒星社 P . 253~254 .. ) 梯明秀, 芝田進午氏は, この異質性を強調して自然史を3つの段階, すなわち「1 無機的自然 -- 天体史的 1 6 , 段階, 2, 有機的自然 -- 生物的段階, 3, 人間的自然 -- 社会的段階」 に区分している . 梯明秀 『物質の哲学的概念』 1 9 71年 青木書店 p 9 70年 青 .35 , 芝田進午 ・『人間性と人格の理論』 1 木書店. P .22~24 .. 1 ) 生命も熱力学の法則に従っているという点では, E. シュレデインガーの 「生物体は 『負エントロピー』 を食 7 べて生きて」おり, 「生きているものは -- 今までに知られていない『物理学の別の法則』を含んでいるらしい」 と いう 予測 に は 反 して い たこ とに なる E シ ュ レ デイ ン ガー 『生 命と は 何 か』 1951年 岩 波 書店 p . . . 111 .. 1 ) 清水博 『生命を捉えなおす -- 生きている状態とは何か』 1 8 9 97 8年 中公新書 p .9 . 1 9 ) 吉田文和 『環境と技術の経済学 -- 人間と自然の物質代謝の理論』1 9 80年 青木書店 第二章 20 ) 「質」 と 「量」 というカテゴリーは, その質の転位を考えていく時, 動的状態をも表現しうるカテ ゴリー (本 稿では 「相」 ) を加えて吟味されていく必要があると思われる. 「質」 と 「量」 のみでは不充分さが残る . ) L. プーズナー 『生物とエネルギー』 21 (寺本英訳) 1 97 8年 培風館 第1章 2 2 ) T. ゴルンシュタイン 『弁証法的自然科学概論』 62 (相馬春男訳) 昭和8年 白揚社 p .1 . 2 3 ) 板倉聖宣 「自然認識の歴史」 『教育学全集7巻・自然と法則』 所収 1 96 8年 小学館 p 3~5 4 .5 . 52.
(16) . 「理科1」 で統一的自然像を (上) 4 ) 基礎理科研究札幌グループ 2 1973 年. P .129 。. 「総合的理科の内容と展開についての研究」. 『北海道の理科』特集号 第1 7号. ) 各々の項目の現代科学が提出する個別的自然像については, 本稿は解説が目的ではないので参考文献を見てい 2 5 ただきたい. 1冊で間に合わせるとしたら下記の文献が適している. 日本化学会編 「物質の進化」 『化学総説』 No 9 80 学会出版センター . 30 1 「宇宙-地球-生物」 について全体を通して叙述したものとしては次のようなものがある. 藤本正行, 中川直哉 他 「講座 宇宙・物質・人間」『理科教室』 所収 1 97 9年1 0月 号 ~1980 年 9月 号, P. クラウド 『宇宙・地球・人間』 1, 1 11 9 8 1年 岩波現代選書 2 6 ) 松本清張氏は歴史叙述の方法として 「結果である現在を, その原因になっているすく前の過去に求めていく」 倒叙法. について「大きな魅力をもっている」と述べている。 『清張通史1 -- 邪馬台国』 1 976年 講談 社. P .10~11 。. 2 ) R. j. テイラー 『元素の起源』(中内清 他訳)1 7 9 75年 共立出版 第5章 ) 小沼直樹編 『地球科学1 2 8 3一一 太陽系における地球』1 978年 岩波書店 第3章4節 2 9 ) S. L. ミラー, L. E. オーゲル 『生命の起源』 (野田春彦訳) 1 975年 培風館 第15章 ) 杉本大-郎 『宇宙の終烏』 1 30 97 8年 講談社V. V1 ) R. N. TW ファイアンズ 『地球の歴史と生態学』 3 1 (森主-訳) 19 7 7年 紀伊国屋書店 第4章 3 2 ) 森山茂 『大気の歴史 -- 原始大気から惑星大気へ』 19 81年 東京堂出版 第5章 ) 根本順吉 「気候変化」 『気候と人間シリーズ2』 19 3 3 8~5 9 8 0年 朝倉書店 p .5 。 04 3 4 ) 寺本英編 「生命の物理」 『現代物理学の基礎8』(第2版) 1 9 8年 岩波書店 p 7 .202~2 。 ) 「非平衡熱力学」 を 「生物の系に適用することは, 非常な光明をもたらすきざしをみせはじめている。」 3 5 A. L. レーニンジャー 『生命とエネルギーの科学』 (藤本大三郎 他訳) 1 9 67年 化学同人 p .36 。 6 ) 北野 康編 「地球と環境の化学」 『岩波講座・現代化学2 3 2 』 19 8 0年 岩波書店 第1 1部 3 ) 教育内容構成として, このような視点は高村泰雄, 島田一平両氏に加え, 主として若菜博氏によって検討され, 7 既に授業書化に着手されている. 3 8 ) 奥野良之助 『生態学入門 -- その歴史と現状批判』 1 79~1 80 97 8年 創元社 P .1 . 9 ) 吉田文和氏は, 前掲 『環境と技術の経済学』 で, 玉野井芳郎氏の経済学でのエントロピー概念の使用法を批判 3 して い る.. 玉野井芳郎. 『エ コ ノミー とエ コ ロ ジー』. 1978 年. みす ず 書 房. 4 ) 杉本大一郎・浜田隆土 『宇宙地球科学』 1 97 5年 東京大学出版会 p 0 8 0 ,2 。 4 ) W。 ルーベイ, L. V. パークナー, L. C. マーシャル 『海水と大気の起源』 (竹内均訳) 1976年 1 談社. 講. P .162~163 。. 4 2 ) 山本義一編 「気候変動」 『大気環境の科学4』 1 979年 東京大学出版会 第1章 94 92~1 4 3 ) 杉本大-郎 前掲書 P .1 。 ) S。 ワインバーグ 『宇宙創成はじめの3分間』 4 4 (小尾信弥訳) 19 77年 ダイヤモンド社 V章 45 ) 佐藤文隆, 佐藤勝彦 「宇宙が1センチだった頃 -- 素粒子の大統一理論とビックバング宇宙」 『自然』 1981 年 6月号 4 )P 6 97 9年 北 .A.M, デイラック 「宇宙論に対する新しい基礎」 (藤井寛治訳) 『異端の科学史』 所収 1 大図書刊行会 4 7 ) 『科学』1 9 78年7月号 「太陽系進化論の現状」 についての 「特集」 がある. 「太陽系進化論」 は地球史を 含めた各惑星の定在の展開ともいえる. ) 「水」 に関する文献は多い. 「水」 という単元で授業書化する意義も大きい と思われる。 4 8 北野康 『水と地球の歴史』 1 98 0年 NHK ブックス・北野康 他編 「海水の物理化学」 『海洋科学基礎講 座10 』 1 97 0年 東海大学出版会 ) 林忠四郎 他編 「宇宙物理学」 『岩波講座 現代物理学の基礎1 4 9 1 』(第2版) 1 9 0 78年 岩波書店 第1 章 ) E.H・コルバート 「さまよえる大陸と動物たち」 50 (小畠郁生 他訳) 1 9 80年 講談社 6 ) 佐藤任弘 『海底地形学』 19 1 5 6 9年 丸善 P .3 。 2 ) 化学進化・分子進化に関する文献も多い。 5 9 M. カルビン 「化学進化』(江上不二夫 他訳) 1 70年 東京化学同人, 江上不二夫編 「進化の化学」 『岩 波講座 現代化学19 』 19 79年, 原田馨 『生命の起源』 1 97 7年東大出版会 ) 江上不二夫 「生命を探る」(第2版) 第1 5 3 0章生命の起源と宇宙生物学 1 0年 岩波新書, その他に, 9 8 大島泰郎 『宇宙生物学』 1 977年 光文社 53.
(17) . 倉賀野 志 郎. 『岩波講座 現代生物学7』 1976 年 岩波書店 4 ) 木村資生 他編 「生命の起源と分子進化」 5 『別冊蛋白質核酸酵素』 1980 年 共立出版 「 タンパク質合成系の起源 」 ) 石神正造, 長野敬 5 5 への歴史 』 1 9 8 0年 新生出版 第2章 『 岩田好宏 オス・メスから男・女 6 ) 5 P 束 .38 9 7 7年 東京大学出版会 『生命科学の基礎2 目組織化』 1 . 7 ) 長谷川政美 「分子進化」 5. 6年度に受けた北大・教育学部・鈴木秀一教授を代表と 本研究は, 文部省科研費補助 金を昭和5 研究」の一環として行なわれたもので ける基礎的学力の形成に関する実証的 する「高等学校にお ある. また階層性と歴史性とを統一していく視点として「非平衡」に着目することは同教育学部 の高村泰雄助教授に有益な御教示を頂いた. この場を借りて謝意を表したい (本学講師 釧路分校). 54.
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