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豊かなスポーツライフを実現するための高校体育のあり方 : 生涯スポーツ社会の構築を目指した人間形成に着目して

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(1)

平成

27年

学位論文

豊かなスポーツライフを実現す るための高校体育のあ り方

一生涯スポーツ社会の構築を目指 した人間形成に着 日して―

兵庫教育大学

大学院

学校教育研究科

教育内容・方法開発

専攻

行動開発系コース

M14203G

(2)

目 次 序 章 第

1節

研究の動機及び 目的 .… ………

2節

研究の方法 .… ……… 注 .… ………

1章

生涯 教 育論 の再 考 と生涯 スポー ツ概念 の再検討 第

1節

生涯教育論の再考 .… ………・

1項

生涯教育論の社会的背景 と基本的思想 .… ………

2項

生涯教育の 目的 と教養 .… ………

3項

教養 の獲得の方法 .… ………

4項

ま とめ .… ………・

2節

生涯スポーツ概念 の再検討 と課題 .…………・

1項

生涯スポーツ概念の再検討 .… ………・

2項

生涯スポーツの課題 .… ………・

3項

ま とめ 。…………‥………。 第

2章

スポー ツ を享 受 す る原 理 の検討 第

1節

文化 としてのスポーツ .… ……… 第1項 スポーツとは 。……… 第

2項

スポーツと文化理解の変容 .… ………・

3項

スポーツの価値 .… ………・

4項

ま とめ 。………・ 第

2節

スポーツの享受の原理 .… ………・

1項

スポーツの享受 とは .…………・

2項

原理の分類 。………・ 第

3項

ま とめ .… ………・ 1 3 4 5 5 7 9 11 11 12 17 20 21 24 24 27 29 30 31 32 33 37 39

(3)

3章

生涯 ス ポー ツか らみ た各学校 段 階 の位 置 づ け 第

1節

小学体育における生涯スポーツの観点 .… ………・40

2節

中学体育における生涯スポーツの観点 .… ………・44

3節

高校体育における生涯 スポーツの観点 .… ………・ 47

4節

まとめ .… ………。49 注 ...・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 52 第

4章

生涯 スポー ツ社 会 の実現 を 目指 した高校 体 育 の あ り方 の提案 第

1節

生涯スポーツの実現に向けた学習 の 目的・内容・方法 .… ………。53

1項

学習の 目的 と内容 .…………・ 53

2項

学習の方法 .… ………・55

2節

まとめ .… ………・59 結 章 第

1節

総括 第

2節

今後の課題 引用・参考文献 .… ………‥………66 話 9 “   馬 ﹀ 6   6

(4)

第 1節

研究の動機及び目的

わが国は、戦後、高度経済成長 を経て、科学 。医療・情報技術の発達によ り生活は豊か にな り著 しい発展 を遂げた。生活の機械化・ 自動化が進み、平均寿命 は男女 とも

80歳

を超 え、いまや超高齢社会 を迎 えている。 しか し、その反面、体を動かす機会の減少、高齢者 の健康の維持・増進、子 どもの運動離れや二極化な どが新たな課題 として私たちに直面 し ている。このような環境において、生涯 にわた り運動やスポーツに親 しむ ことができる「豊 かなスポーツライフ」を送 ることには大きな意義がある。 スポーツは人生をより豊かな充実 したものに し、身体的・精神 的な欲求にこたえる世界 共通の人類の文化の一つである。健康の維持、意欲や気力 といつた精神 面の充実は、刻々 と変化 している現代社会を生きてい くうえで、生活全体の活力や文化 を支 える必要不可欠 な要素であ り、極めて大きな役割 を持つ。そ して、学校教育の中で全ての児童・生徒が運 動やスポーツを体験す ることができる学校体育の果たす役割 は、ますます重要 となつてい るといえる。

1977年

に初めて生涯スポーツとい う日本独 自の用語が使用 され、スポーツヘ の関心や必要性がますます高ま り、それ以降、多 くの生涯スポーツ論が論 じられてきた。 生涯スポーツとい う言葉は広 く浸透す るよ うにな り、高等学校学習指導要領 にも生涯スポ ーツ志向の内容が内包 され、その重要性 は高校体育の 目指すべき方向性を示 していると言 える。

1988年

の高等学校学習指導要領では、楽 しさを重視 した 目標が掲げ られ、知識 を深める とともに技能を高め、運動の楽 しさや喜びを経験 しなが ら生涯 にわたつて豊かなスポーツ ライフを継続す る資質や能力の育成 を 目指 している。

1989年

の高等学校学習指導要領改 訂では、個性 を生かす指導の重視 を基本方針 として掲げ、生涯スポーツ志向の典型 として 選択制授業が実施 されてきた。生徒が主体的に興味・関心に応 じた種 目を選択 し習熟す る ことによつて、就学後の運動やスポーツの継続 を 目指す ことができる学習方法 として取 り 入れ られ、現在も多 くの高校体育で実施 されている。 さらに、

2009年

の高等学校学習指導要領解説体育編 Dにおける日標では、次のよ うに明 記 されている。

(5)

運動の合理的、計画的な実践を通 して、知識 を深めるとともに技能 を高め、運 動の楽 しさや喜びを深 く味わ うことができるよ うに し、 自己の状況に応 じて体力 の向上を図る能力を育て、公正、協力、責任、参画な どに対す る意欲 を高め、健 康・安全 を確保 して、生涯 にわたつて豊かなスポーツライ フを継続す る資質や能 力を育てる この 日標 は、小学校 、中学校及び高等学校

12年

間の一貫性 を踏 まえ、高等学校 における 体育の学習指導の方向性 を示 したものである。運動の楽 しさや喜びを深 く味わ うことをね らい として、主体的条件に応 じて社会的態度や愛好的態度 を獲得 し、就学後に運動やスポ ーツを継続的に実践できるよ うにな り、生涯 にわたつて豊かなスポーツライフの実現 を図 ることを目指 してい る。そのなかで、高等学校 における体育では、卒業後にも継続 した運 動やスポーツを実践す ることができる人間の育成 をね らい としていることが理解できる。 しか しなが ら、文部科学省 による世論調査 力において、

2013年

では成人の週

1回

以上の スポーツ実施率は

47.5%で

あ り、全体 として男性、女性 ともに成人のスポーツ実施率は緩 やかな上昇傾向であつたものの、

2015年

の調査では

40.4%に

低下 している。 この結果か らみても、成人が継続的に運動やスポーツを実践 しているとは言い難いのが現状である。 このように、生涯スポーツが一般的に認知 されているにもかかわ らず、依然 として生活 のな力ヽこ運動やスポーツが定着 していないことは、生涯スポーツが単にスローガンとして 掲げ られているに過 ぎず、その理念が浸透 していないのではないだろ う力ヽ そ して、生涯 スポーツの必要性は理解できても、その理念や方策 を系統 された学習期間の最終段階であ る高校体育の教育に具体的に示す ことができていないか らではないだろ う力Ъ 例 えば、生涯 スポーツに向けた取 り組みの一つ として実施 されてきた選択制授業にも課 題があると考え られ る。「個性化」「個別化」 をね らい としているものの、真に個人に応 じ た教育が達成 され、生涯にわたる運動やスポーツの実践につながる教育がなされていると は考 えに くい。 さらに、 自身の経験か ら現在の高校生の特徴 として、①系統 された学習が実践 されてい るにもかかわ らず、運動やスポーツの知識や理解が乏 しく、技能 も未熟な状態である (知 識・理解の不足、技能の未習熟)、 ② グループやチーム内で 自分の意見を主張 した りす るよ うな 自発的な発言ができない (周囲 とのコミュニケーシ ョン能力の欠如)、 ③ 自己や集 団の 課題に対 して 自ら考 え判断 して行動す ることができない指示待 ち人間が多い (課題解決能

(6)

力の欠如)、 ④運動やスポーツに対 して無関心 (楽しさや喜びの体験不足

)な

どを挙げるこ とができる。体育教員 として、 どれ も獲得 してほ しい能力や経験であ り、言い換 えれば、 これ らは生涯スポーツ社会 を実現 してい くうえで、体育における人間形成 に不可欠な要素 で もある。 以上のことか ら、高等学校 を含 めて学校体育が生涯スポーツ社会を 目指 していることは 理解できるが、系統 されて学習 されている運動やスポーツ活動が学校体育以降における継 続的な実践につながつていないことは明 らかである。生涯スポーツ社会を実現 してい くた めにも従来の高校体育のあ り方を見直 さなければ、生涯にわたつて運動やスポーツを継続 的に実践す ることが困難ではないか と推測 される。 そ こで、本研究は、学校体育に結びつけ られた生涯スポー ツ概念が不十分であるとい う 仮説 に基づき、生涯 スポーツ社会の構築を 目指 した人間像の形成 を検討す ることによつて、 個 々人が生涯 にわたつて 自己に応 じた運動やスポーツ活動 を継続的に実践できるよ うな高 校体育のあ り方 を提言す ることを 目的 とす る。 第

2節

研 究 の方法 本研究では、上記の目的を達成するべ く、以下の刊 頃で研究を進める。

1.生

涯教育論の再考 と生涯スポーツ概念の再検討 生涯スポーツを理解するためには、まず、生涯スポーツ概念に影響を与えたポール・ ラ ングランの生涯教育論を理解する必要がある。ラングランの生涯教育論を以下の観点から 明らかにし検討する。 ①生涯教育論提唱の社会的背景 と基本的思想 ②生涯教育論の目的と教養 ③教養の獲得の方法 つぎに、平澤0粂野が編集 した「生涯スポーツ」などか ら生涯スポーツの概念を整理 し、 教育論 としての課題や問題点を考察 し指摘す る。

2.ス

ポーツを享受する原理の検討 生涯スポーツ社会を実現 していくうえで、体育におけるスポーツと人間形成の関係を理 解する。そのためにはスポーツを文化的側面から捉える必要があ り、文化 としてのスポー

(7)

ツを検討す る必要がある。また、生涯スポーツを実践す る人間像 を形成す るためには生涯 スポーツ教育論 を論 じてい くことが重要であ り、その理念 を実践に結びつける原理 を明 ら かに してい く。

3.生

涯 スポーツか らみた各学校段階の位置づけ 保健体育審議会答 申や学習指導要領 な どか ら小学校、中学校、高等学校 の各段階におけ るスポーツの享受について明 ら力ヽこす るとともに、生涯 スポーツに果たす体育の位置づけ を理解 し、学校体育の方向性や役割な どを考察 してい く。

4.生

涯スポーツ社会の実現を 目指 した高校体育のあ り方の提案 1∼

3を

視座 として、学習の 目的 0内容・方法を示 しなが ら、生涯スポーツ社会 に向けた 高校体育のあ り方を提案す る。 注

1)文

部科学省

,高

等学校学習指導要領解説 体育編

,東

山書房

,2009

2)文

部科学省 世論調査 スポーツ実施率

(8)

1章

生涯教育論 の再考 と生涯 スポー ツ概念 の再検討

第 1節

生涯教育論の再考

ここでは、生涯スポーツ概念 を再検討す る うえで、それに強い影響 を与えた とされ るポ ール・ ラングランの生涯教育論について明 ら力ヽこす る。 わが国では、社会教育審議会 (1971年

)pに

おいて提示 された答 申 「急激な社会構造の 変化に対処す る社会教育のあ り方について」の中で 「生涯教育」 とい う用語がは じめて使 用 された。その中で社会的条件の変化 とそれに伴つて生 じている教育的課題 を示 し、それ に対応す るために生涯教育の観点に立ち、教育制度全体が学習者 に配慮す る必要があると された。 その後、

1975年

、波多野完治によつてラングランが提唱 した生涯教育論 "が 翻訳 され、 生涯教育の考え方が一般化 され る契機 となつた。波多野はラングランの生涯教育論 をいち 早 く日本 に紹介 した人物であ り、ラングランが生涯教育を提唱 した

1965年

のユネスコの 国際成人教育委員会にも出席 している。 ラングランはその委員会で提 出 した ワーキング・ ペーパーにおいて生涯教育論を主張 し、ユネスコや多 くの国々か ら高 く評価 されている。 この生涯教育論が現出 した背景には、

1960年

代のフランスの社会的、教育的課題が根底に あるとす る吉田 めの論考をもとに、ラングランが提唱 した生涯教育論の思想、当時の学校 教育、 目的、方法について明 らかに してい く。 第

1項

生涯教育論の社会的背景 と基本的思想 ラングランは幼少期 に第一次世界大戦 を経験 し、

1930年

代初めにパ リ大学の一部であ るソルボンヌを卒業 と同時に国家試験に合格 して教授資格 を取得 した。 この試験は非常に 難 しく、資格を持つ ことは高 く評価 され るものであ り、伝統的な教育制度 を勝ち抜いてパ リで教職 の道へ と進んだ。その後、第二次世界大戦が始ま り、ラングランはそ こで レジス タンス運動 のに参加す ることになる。 この経験のなかでラングランの生涯教育論は形成 さ れていつた と波多野は指摘 している∂。 ラングランは レジスタンス活動 のなかで階層 に関係 な く市民が一体 となつて活動す る 経験 を通 じて、 レジスタンスが 自ら情報 を判断 し行動 を決定 してい く様をこれか らの教育 のあ り方であるとして成人教育の必要性 を感 じとり、改めて学校教育 の重要性 を認識す る とともに学校教育が成人教育 の準備期でなければな らない と考 えた。つま り、学校 で教育

(9)

が終わるのではなく、学校 では成人教育のために必要な能力 を養 う役割 を持たなければな らず、教育が生涯にわたつて継続 されなければならない と考 えたのである。 さらに、 レジ スタンス活動がフランスの解放 につながつたように、主体的、 自発的な活動が人間の解放 につなが り、成人が 自ら学ぶ ことで社会全体 を良 くす ることができると主張 した。 また、ラングランは

1960年

代の社会の様子を「諸変化の加速」0、「人 口の増加」つ、「科 学的知識及び技術系の進歩」Dな どの側面か ら、成人教育の必要性 を説明 した。「諸変化の 加速」 とは、人類の歴史において社会の変化は何 も新 しい ものではな く、変化は生 じるも のであるが、今後はますます変化の加速化が大きくなるとし、「何世代 にも及ぶ労力 を要 し たほ どの改革が、いまやたつた一世代で達成 され る」 とその様子 を述べている。 さらに、 「精神は諸構造の発展 との関係で、 しば し遅れをとつてい る」 とし、社会の変化に比べ人 間の精神 的発展が遅れていると指摘 した。つま り、ラングランは社会全体の急速な変化に 対応す るには、成人になつてか らも学習す る必要があ り、生活す る社会において生涯 にわ た り学び続 けることがその手段であると考えた。このことは、「科学的知識及び技術系の進 歩」にも同 じことが言える。社会を変化 させ る主要因が科学技術であ り、その進歩が社会 全体に浸透 していると考え、そこで生活 しているあ らゆる分野に携わる人たち全てが生涯 学び続けなければな らない とした。 さらに、「人 口の増加」を見てみると、「人 口増加 と平行 して教育 を受ける普遍的な権利 についての、全 く正当化 され る感情が発達 され る」 とし、教育を受ける権利 が浸透 したこ とによ り、より教育への受容が高まつた。その結果、学校 とい う施設ではこの要求に応 え られない とされた。そ して、単に学校を増やす ことで教育 に対す る受容に応 えられ るわけ でな く、教育の質的な改革 を要請 した。つま り、教育を学校でのみ行 うのではなく、就学 後 の期間も含 めた生涯全体において教育活動 を続 けることで解決 し得 るとされた。 その教育の質的な改革について、ラングランはそれまでの伝統的な学校教育を痛烈に批 判 している。彼 自身 も受けていた当時の学校教育は、知識偏重のいわゆる「詰 め込み教育」 であった。伝統的な学校教育 では、社会に必要な教育 を提供 し、その教育の競争に勝 ち残 った者が知的労働 の職 に就 くものであつた。 当然なが ら、社会的に上位階層であ り文化的 教養を身につけた子 どもがその競争に勝利 し、それ以外の ものは排除 されるよ うにな り、 その結果、社会では身分格差が生 じて知的労働 と技術労働 をよ り分離 させ ることとなつた。 また、教育の方法 も子 どもを中心 としない教育であ り、よ り効率的に画一 された教育が 展開 され、教師は子 どもの基本的欲求を満たす ことをせず、正 しい動機づけを与えること

(10)

はなかつた。そのため、子 どもたちは意味のない と思える学習を繰 り返 し、知識偏重の競 争心を煽 ることにな り、 自ら考えて行動す ることができな くなつていつた。 このよ うな状 況か ら、ラングランは当時の社会が求める人間を育成す るよ うな伝統的な学校教育ではよ り良い社会を築 くことはできない と考え、質的な教育改革の必要性を主張 したのである。 このように、ラングランは第二次世界大戦下の レジスタンス活動において、成人教育の 必要性 を感 じ、成人が 自ら学ぶ ことによつて社会は良 くなると考 えた。また、社会の変化 の加速化や科学技術の進歩、人 口の増加 な どに対応す るためには、成人になつてか らの教 育 (自 らの学び

)が

不可欠であ り、学校教育だけでな く、就学後の教育を考 えなければな らない と考 え、 自ら学ぶ能力の育成 を目指 した質的な教育改革を要請 した。 さらに、学校 教育で獲得 した知識がその後の社会生活 と乖離 していることか ら、知識偏重で学習者 を中 心 としない伝統的な学校教育を批判 した。そ して、ラングランは「学校 はむ しろ充実 し完 全 な教育の過程へのための重要で決定的な導入部」9と して、成人教育 の成功のためには学 校教育の成功が不可欠であ り、学校教育の重要性 を改めて示 した。生涯教育の必要性 に気 付いた大人が学校教育を改善 させ、改善 された学校教育のなかで子 どもたちが成人になつ て も自ら学び続 けることができるよ うな教育を施す ことによつて、成人教育を充実したも のにできると考 えた。つま り、学校教育が良 くなれば成人教育が良くな り、成人教育が良 くなれば学校教育をより良 く改善できるのである。そ して、 このような教育 の改革が将来 的に社会を良い方向に変転 させ るものであると考えられ る。 第

2項

生涯教育の 目的 と教養 では、上記のよ うな生涯教育の理念を掲げたラングランは、 どのようにその教育を具体 化 しようとしたのだろ う力ヽ まず、ラングランは生涯教育の 目的 として「あるがままの人間」10、 「適応性」1つ、「幸福 への教育」1'、 「生活の質の向上のための教育」19、 「平和 と国際理解の教育」1のの

5点

を 挙 げている。吉田はこれ らの 目的において、生涯教育が「幸福への教育」を目的 としてい ることが最 も肝要であるとした。 しか し、前述 したよ うに生涯教育の質的な教育改革のた めには 「あるがままの人間」を育成 してい く必要があるのではないだろ う力ち そのために は 「適応性」を獲得 して 「幸福への教育」 と「生活の質の向上のための教育」を目指す こ とによつて 「平和 と国際理解の教育」につながるもの と考 えた。 「あるがままの人間」 とは、言葉のイメージ通 りではなく、アイデンティテイが確立さ

(11)

れた人間を意味 している。つま り、個人は独立 したものであ りなが ら社会に存在 している 限 り、社会に所属 している。個人 と社会は隔離 され るものではな く、密接 に関連 し互いに 支 え合 うものであるが、個人 とはその集団の力に流 された り競争に傾いた りす ることな く、 自分に責任 を持ち行動す ることができなければな らない。 ラングランはこのよ うな人間を 「あるがままの人間」 として生涯教育の 目的 と考えている。 このような人間を育成 してい くために 「適応性」の獲得が必要 となる。 「適応性」はすでに述べたように、社会の変化の加速に取 り残 されないために獲得 しな ければな らない能力であ り、人間が生活におけるすべての側面に対応 してい くときに、 日 的 と結びつけるための能力でもある。すなわち、社会の変化 に対す る人間の積極的な手段 の一つだ といえる。 この 「適応性」を身に付 け 「幸福への教育」 と「生活の質の向上のた めの教育」を目指 さなければな らない。 「幸福への教育」において、ラングランは何かを得た りす ることが幸福ではな く、 自分 が 自分であることが真の幸福 と考 えた。人が幸福 になるためには他の物を支配 した り疎外 した りす るのではな く、自分 を自分でコン トロールできる力、「自制の力」が必要であると し、「自制の力」は 自然に身につ くものではなく、この力を与えるものが教育であるとした。 そ して、生涯教育は 「生活の質の向上のための教育」でなければな らず、教育 によつて 物質的豊か さのみな らず精神的豊か さをもた らす 「生活の質の向上」につなが り、最後に は、「平和 と国際理解」に充ちた社会に変わるもの と考えられ る。このことは、ラングラン が経験 した三度の世界大戦 と自らも参加 した レジスタンス活動か ら、平和に対す る思いが 非常に強 く、教育によつて生活の質は良 くな り個人の多様 な欲求を満たす ことができ、教 育によつて社会をよ り良 くす ることができると痛感 したか らであると理解できる。 それでは、これ らの生涯教育の 目的は どのよ うにすれば果た されるのであろ う力■ この 目的を達成す るために獲得すべき必要なものを吉田は「教養」であるとしたlD。 大辞泉に よると、「教養」とは「学問、幅広い知識、精神 の修養な どを通 して得 られ る創造的活力や 心の豊か さ、物事に対す る理解力」10と されている。つま り、教養 とは単なる知識や技能 の獲得を示すのではな く、知識や技能の獲得か ら何かを創造す る力や文化的な振舞い方を す ることであると理解できる。また、ラングランは、「教養 とは、それによつて人がよ りい っそ う自分 自身になるよ うな努力 と経験の全体を指す ものである」1つと述べている。すな わち、教養 とは自分 を精神 的によ り高めるために行われる努力 と経験であ り、それは獲得 した知識 を活用す ることであると考 える。獲得 した知識 を活用 してい くには、知識 を自分

(12)

のもの として理解 し、それまでの経験によつて獲得 された知識 と結びつけることで、新た な知識 を獲得 していかなければな らず、その知識の獲得 も自分 自身で行わなければな らな い。 なぜ な らば、 自分が生きている社会は常に変化 し加速 し続 けてお り、その変化に適応 させ るための知識 を獲得 しなければならないか らである。つま り、自分で獲得すべき知識 を獲得す ることであ り、獲得すべ き知識の学び方を学ぶ とい うことが必要 となる。知識 を 自分の力で獲得す る能力を身につけることは生涯教育の 目標であ り、 日標 を達成す ること は 「教養」の獲得につながつてい くと考 え られ る。教養 を獲得す ることで学習す る楽 しみ や意欲が高ま り、ひいてはそのような向上が所得の豊か さをもた らす ことにつながる。生 活が豊かになることで、人々の関心や欲求は文化的な充足に向け られ、文化的芸術的教養 が高まれば精神的豊か さをもた らすだろ う。教養 を獲得 した人間は、社会における集団に おいても、 自制す る力によつて 自分の行動に責任 を持 ち、集団の力に流 されず生活の質を 良 くしてい くことができる 「あ りのままの人間」にな り得 るのである。 この「教養」は現在 の 「生きる力」に類似 した能力であると考 えられ る。「生きる力」と は、「基礎的な知識 。技能 を習得 し、それ らを活用 して、自ら考 え、判断 し、表現す ること によ りさまざまな問題 に積極的に対応 して解決す る力」10であ り、生涯教育 の 日標 は 「生 きる力」の獲得 を目指す もの ともいえる。 しか し、獲得 した知識 を活用 して新たな知識 を 獲得 した り、問題 を解決 した りす る場合 にはその過程 において「モラル」が必要なのでは ないか と考 える。つま り、獲得 した知識 をどのよ うに活用す るのかはその個人の「モラル」 によつて決定 されなければな らない。 もし、獲得 された知識 を「モラル」に欠けた活用を すれば、生活の質を向上 させ ることはな く、平和 と国際理解 につながることもないであろ う。「モラル」を獲得す ることは 「教養」の獲得 と同 じぐらいに重要であると考えられ る。 第

3項

教養 の獲得の方法 では、 どのよ うに して 「教養」を獲得すればよいのであろ う力Ъ ラングランはその方法 として「動機づけ」19、「学習の習慣を身につける」20、 「自己教育の方法を学ぶ」2Dの

3点

を挙げている。これ らの獲得す る方法の順序 としては、「動機づけ」、「自己教育の方法を学 ぶ」、「学習の習慣 を身につける」であると考 える。 まず、「動機づけ」についてラングランは伝統的な学校教育の弊害 として外的な動機づけ を批判 している。そ こでは、点数、賞罰、称賛 とけん責のシステムの下、教師によつて刺 激が与えられる。その刺激は、生徒たちにとつて表面的なもので しかなく、大多数の生徒

(13)

は内的な動機 につながつてはいない。 ラングランは、伝統的な学校教育において内的動機 づ けの不在 を指摘 した うえで、「教育の機能的な面は学習への最 も強力な動機 を与 えると い うことである」2カと主張 した。 この 「最 も強力な動機」 とは内発的な動機づけであると いえる。つま り、生徒たちが 自ら進んで学習に向か う意欲の源泉であ り、その学習活動に 楽 しさや喜び、興味 。関心が内包 されなければな らない。ラングランは、教育の 目的が「学 ぶ ことを学ぶ」であ り、その契機 として動機 は非常に重要であると考 えた。 つぎに、「自己教育の方法を学ぶ」ことが「学ぶ ことを学ぶ」要素であるといえる。教育 は関係概念であ り、教え育てる人 (能動者

)と

教 え育て られ る人 (受動者)力 れヽなければ 成立 しない ものである。 ラングランは、教育 の主体は教師ではな く、教育 され る生徒が主 体 とな り、 自分 自身が 自分の教師 (能動者

)と

な り自分 自身 (受動者

)に

教育 してい く自 己教育が 「学ぶ ことを学ぶ」につながるとした。つま り、 自己の中で教育の関係性 を創 り だす ことである。限 られた時間の中で社会の変化に対応 してい くには、教師が教 えること だけではすべてを網羅す ることは不可能であ り、 自分で知識 を獲得す る方法を模索 して活 用す る能力が要求 され る。つま り、何 を学ぶかを自らが考 えて獲得 してい くことが必要な のである。 最後に、ラングランは学習 も習慣の

1つ

であるとい う考えか ら、「学習の習慣 を身につ ける」 よ うに しなければな らない とした。習慣 を身につけることは、一度や三度の行動で は容易に習慣化 され ることはなく、その内容 によつては長時間を要す る場合 もある。 ジ ョ ギングを例に とると、は じめの うちは 目的による高い意欲 によつて継続 されてい くが、体 調面などの主体的条件や天候な どの物理的条件な どによつて次第に継続が困難 とな り、習 慣 として行 うことができなくなることがあるのではないだろ う力■ ま して、 自己教育の習 慣 ともなればなお さらであろ う。一度の活動で獲得 され ることな どない し、長期的に継続 す ることで しかその習慣は身につかない と思われ る。 しか し、一度その習慣 を獲得す るこ とができれば、その経験により新たな活動 にも挑戦す ることができると考えられる。 このよ うに、ラングランは生涯教育の 目標 を 「学ぶ ことを学ぶ」であるとし、そ こか ら 教養の獲得 を目指 しているといえる。そのためには、内発的な「動機づけ」によつて 「自 己教育の方法を学ぶ」ことを継続 して行い、「学習の習慣 を身 につける」ことができる教育 でなければな らない と考 えた。 しか しなが ら、動機づけ、 自己教育、習慣化だけでは「モ ラル」を獲得す るには至 らない。教養 には 「′いの豊か さ」の側面があ り、人間がよ りよく 生きよ うとす る人間 らしさも含まれている。生涯教育の 目的は「あるがままの人間」を育

(14)

成す ることであ り、その人間は個人的にも社会的にも責任 ある行動を 自ら選択 しなければ な らない。つま り、「モ ラル」を持ち合わせた 「あるがままの人間」が生涯教育の真の 目的 であるといえる。そのためには、幅広い知識 を獲得す るとともに地域社会 とのつなが りを 増や しなが ら仲間 との交流や コミュニケーシ ョンが図 りやすい状態をつ くり出 し、他者 と の関わ りを積極的に持つ ことができる環境 を整 えることが必要で、他者の考 え方を享受 し た うえでの責任ある行動をとることができると考える。 第

4項

ま とめ 本節のま とめとして、ラングランの質的な教育改革について論 じる。 ラングランは 自身 の経験か ら、成人教育の必要性 を感 じ、教育 が社会を変えてい くもの と考 え、質的な教育 改革の必要性 を主張 した。この質的な教育改革について

3つ

の要点を挙げることができる。 ①生涯教育を理解 した大人による学校教育の改善が成人教育の成功へ導 く正の循環 ②知識偏重の 「詰め込み教育」か ら、正 しい動機づけによる生徒 を中心 とした教育への 転換 ③教育を学校 のみで終わ らせ るのではな く、就学後の生涯 にわたる学びの継続 このなかで、ラングランは生涯教育の導入部である学校教育の役割 を 「自ら学ぶ能力」 を育成す ることであると考えた。 また、伝統的な教育では、教育 が子 どもに動機づけを行 うことができず、教育 と生活が乖離 していることを問題視 した。学校は地域社会の一部で あるとい うラングランの考えか ら、教育 と生活す る社会 とを結びつけるために生活 と関連 性 のある動機づけを持たせ ることが生涯 にわたる学びにつながると考 えた。 ラングランの 生涯教育論は、「生涯」とい う時間 と教育 を統合 (時間的統合

)す

るとい う意味だけではな く、教育を学校のみで行わず、生活す る地域社会 と家庭につなが りのある統合 (空間的統 合

)を

意味す るのである。すなわち、教育の質的改革はこの統合であ り、ここに生涯教育 の意義があるといえる。 第

2節

生涯 スポー ツ概念 の再検討 と課題 ここでは、生涯スポーツ社会へ と導 くための学校体育について考察するために、生涯ス ポーツ概念を再検討 して生涯スポーツを明 らかにしていく。また、ラングランの生涯教育 論 と比較するとともに、生涯スポーツの課題を考察する。

(15)

1項

生涯スポーツ概念の再検討 生涯スポーツ とい う用語は、

1970年

代後半以降に使用 され るよ うにな り、

1977年

に平 澤・粂野が編集 した 「生涯スポーツ」がわが国では じめての文献である。粂野は、生涯ス ポーツを 「生涯の各時期、各分野において、必要に応 じて、いつでも学べるような多様な スポーツ活動の学習の機会の保障 とそのための環境整備 を意味す る」20と とらえ、生涯ス ポーツの実現のためにはスポーツの適時性 をめぐる問題が極 めて重要であると述べ、生涯 の各時期 における一般的特性か ら社会的条件 と問題点を指摘 し、今後の課題 を提示 してい る。また、「人間は全生涯 を通 じて、生存・労働0諸 活動 し、学習 し続けることなしには歴 史的社会体制のなかで共存 し共働す ることができない」 とし、生存・労働・諸活動 と学習 は密接に関連性 を有す るもの とした。つま り、学習を個人的活動ではなく社会活動の一環 として とらえ、その他の社会活動 と同 じよ うに考えている。そ して、スポーツ活動 もその 諸活動のなかに位置づけ、人間の基本的活動の一環 (社会活動の一環

)と

して考 え、スポ ーツ活動 と学習には結びつきがあると強調 した。粂野の生涯スポーツの考 え方にはラング ランが提唱 した生涯教育論の理念 が根底 にあ り、生涯スポーツは生涯 を通 じて短時間にお いてのみ行われ るのではな く、また、スポーツ活動 を社会活動 と結びつけ、生活のな力ヽこ 全生涯にわたつて位置づけるもの と理解できる。その後 も生涯スポーツの概念や理念に関 しては様々な議論がなされてきた。 森り

││(1985)は

具体的な生涯スポーツの定義づけを していないが、「生涯にわたつて行 われ るスポーツ活動は個人のライフステージによつて、そのスポーツのや り方、楽 しみ方 は変わつて くるかもしれない (中略

)大

切 なことはライフステージによつてスポーツの楽 しみ方、や り方が変わつた としても、スポーツを人生の友 として生涯スポーツによる人生 の楽 しみ

t人

生の充実感 をとらえることであろ う」2のと述べ、生涯の各時期 におけるスポ ーツ との関わ り方が変わっても、スポーツを自己の生活のなかに取 り込み、充実 させ るこ とを 目的 としている。また、「スポーツはそれぞれが 自らの楽 しみ方、や り方で行 う自発的 な活動でなければな らない」として、自発的活動 によるスポーツの実施 を うなが している。 そのためには、「地域の生活 と地域の条件その ものの中に誰で も気軽にスポーツができる よ うな場 (施設

)と

プログラム・事業・仲間が用意 されていかなければな らない」 と社会 的保障の必要性 を指摘 した。以上のことか ら、剰 ‖の生涯スポーツの考え方は、「生涯 にわ たって、個人のライフステージに適 したスポーツ活動 を自発的に行い、スポーツを生活の 一部 とす ることによつて人生を充実 させ ることができ、そのためにも生活の場にスポーツ

(16)

活動ができる環境 を用意 しなければな らない」 と理解できた。 金崎は、生涯スポーツとは 「すべての人び とが各 自に健康・体力や運動能力の状況、興 味 。関心、 日標、ライフスタイルな どに応 じて、 自主的、 自発的に文化 としてのスポーツ 活動 を生涯 にわたつて学習 し、生活のな力ヽこ取 り入れて継続 してい くことである」20と定 義づけた。金崎は、生涯スポーツは 「みんなのスポーツ」運動の理念 を内包 し、生涯教育 の考 えを基礎 としていると指摘 した。「みんなのスポーツ」運動 は性別 、年齢、職業、社会 階層な どを問わず、だれ もがスポーツに親 しむことで、そのための社会的条件 を保障 して い こ うとす るものである。その理念 は 「スポーツは人間性や社会の発展に必要な要素であ り、スポー ツを実践す ることは人間の基本的権利 であることを認 め、これを保障 していこ うとす るもの」であ り、生涯スポー ツは人権や人間性 を尊重 し、スポーツの文化的価値 を 高め、すべての人が主体的にスポー ツに関わ りを持 ち、スポーツ文化の担い手になること を 目指す もの とした。以上のことか ら、金崎 と森川の生涯スポーツの考 えは類似 している と考 えられ る。また、両者の生涯スポーツの概念 は 「みんなのスポーツ」の理念を内包 し ているほか、エ リクソンのライフサイクル論20を用いている共通点があ り、それぞれのラ イ フステージにおいて発達課題 に応 じたスポーツ活動への関わ りを強調 している。 このエ リクソンのライフサイクル論 について 日下は 「人間の生 (生命

)を

空間軸に沿つ て考 えると『 生活』 とい う文化・社会的な問題領域が現れ る し、時間軸 に沿つて考 えると 『 人生 。生涯』 とい う発達心理

0社

会的な問題領域が現れ る」2つとし、生涯 スポーツは身 体活動や運動の文化を媒体 として横軸 (生活領域

)と

縦軸 (ライフステージ

)に

広が り、 互いに関連 しなが ら豊かなもの とな り向上 してい くもの とした (図 1)。

(17)

有機的連関 ※国内外にお ける私的な 時・ 空間 遊 び 主体的活動 図

1

ライ フ・ スポー ツの構 図

:多

様 な主体的身体運動 (日下

2001)

これ らの生涯 スポー ツの概念 を集約す る と以下のよ うに生涯スポーツを定義づ けるこ とができる。 「生涯スポーツとは、社会的に整備 された環境のもと、生涯にわたって自主的 。自発的 に個人の能力や ライフステー ジに応 じたスポーツ活動 を行 うとともにスポーツを生活 のなかに取 り入れて継続 してい くこと」 そ して、この定義か ら生涯スポーツの条件、動機、方法、実践お よび 目標の観点によ り、 ①社会的条件の整備 、② 自主的・ 自発的な意志の形成、③主体的条件 に応 じたスポーツ活 動の選択、④スポーツ活動の実践、⑤スポーツの生活化の

5つ

の要素を挙げることができ、 それ らを図式化 した (図 2)。 地 域 社 会 ●成人中期 ●成人後期 ラ ・ 学校期

(18)

社会的条件の整備

2

生涯 スポー ツの実現へ の流れ 図

2は

生涯スポーツの実現への流れを表 してお り、「自主的0自発的な意志の形成」から 順に次の段階へ と進み、最終的に「スポーツの生活化」へ とつながることを意味 している。 また、「社会的条件の整備」はすべての段階に対 して働 きかけるものであ り、常に刺激 を与 える要素であると考 えた。 ここで、各項 目について考察 してい く。 ①社会的条件の整備 (条件) 生涯にわたつてスポーツ活動を行 う際に、地域社会や生活の場 にスポーツ活動ができ る環境を整 えることは人間がスポーツす る権利 に基づ くものであ り、行政が人々の要求 や権利 を保障す るものである。スポーツ基本法23pの第三章 「基本的施策」のなかにも国 及び地方公共団体に対 して、スポーツ施設の整備、指導者の配置など必要な施策を講 じ る努力の要請が記載 されてお り、法的に支 えられた条件である。

(19)

② 自主的・ 主体的な意志の形成 (動機) 生涯スポーツは他か ら強制 され るものではなく、実践者が 自ら進んで 自主的 。自発的 に行 うものであることを示 している。 自主性・ 自発性が形成 され るためには、 日標 に向 か う動機が存在 し、その動機 は人によつて 目的的 目的 と手段的 目的に分かれ る。いずれ にせ よ、生涯 スポーツの意義は、社会的に認 め られ るものであるが、無理に行 うもので も、スポーツが嫌いな人にまで強要 され るものではない。 ③主体的条件 に応 じたスポーツ活動の選択 (方法) ライフサイクル論の発達段階における発達課題 に応 じて、スポーツをどのよ うに継続 してい くのか、またはスポーツと関わつてい くのかは、各 自の健康状態、体力や運動能 力、興味 。関心、ライフスタイルな どによつて選択 され るべきである。また、そのこと は身体的障害を持つ人に対 しても同 じことがいえる。スポーツ活動によつて生活に支障 が生 じた り、ま してや負傷 した りす るよ うでは生涯スポーツ として成 り立たない。各 自 の主体的条件に適 したスポーツ活動 を選択す ることが重要である。 ④スポーツ活動の実践 (実践) スポーツ活動には 目的的スポーツ活動 と手段的スポーツ活動があ り、前者は、スポー ツ活動 自体に因果法則はな く、スポーツ活動か ら得 られ る楽 しさや喜び、達成感 な どの 精神的充足を満たす活動 といえる。後者 はスポーツ活動 をす ることによつて別の 目標 を 達成 しよ うとす る活動のことで、健康増進のためのジ ョギングやダイエ ッ トのためのエ クササイズな どがこれにあたる。いずれにせ よ、 目的的であれ手段的であれ、生涯 にわ たってスポーツ活動を実践す ることが求められている。 ⑤スポーツの生活化 (目標) 継続 したスポーツ活動 を実践す ることにより、スポーツ活動が生活の一部 とな り、ス ポーツとい う文化 と生活の他の文化が結びつ くことは生涯 スポーツの第一義的な 目標で あるといえる。そのためには、各 自がスポーツと関わ りを持つなかで、スポーツ文化の 担い手 とな り文化 としてのスポーツを倉J造し、継承 していかなくてはな らない。つま り、 スポーツを享受 し、 自己の中で精神的豊か さを獲得 しなが ら、社会の中でスポーツ活動 を行 う実践者 になることである。

(20)

このよ うに、生涯スポーツの実現には、上記の

5つ

の段階があ り、それ らを図式化する と図

2の

よ うに表す ことができた。また、それぞれの生涯スポーツの概念 には 「みんなの スポーツ」運動の理念が内包 されてお り、一部の人のスポーツか らすべての人のスポーツ ヘの転換が示唆 されていた。 さらに、エ リクソンのライフサイクル論を用いて、ライフス テージにおけるスポーツとの関わ り方を示 し、生活 とスポーツ活動の結合 を主張 している。 さらに、日下はエ リクソンのアイデ ンテ ィテ ィ論2のにも着 目し、生涯スポーツには個人の 特定のスポーツ 「一生涯のスポーツ」 も含まれると考えた。 このスポーツは生涯の友 とな り、成長 を共に し、最終的な到達点が 「私のスポーツ」 といった個人に とつての 「スポー ツの意味・価値」であ り、個人の 「スポーツ信条」になると主張 した。つま り、ライフス テージのそれぞれの特徴に応 じて 自主的・継続的にスポーツを行 うことによ り、人生にお けるスポーツの意味を獲得 し、より豊かな経験や生活ができるもの と考 えられ る。 第

2項

生涯スポーツの課題 先に述べたよ うに、文部科学省 の世論調査 (2015年

)で

は、成人の週

1回

以上のスポー ツ実施率は

40.4%で

、前回

(2013年

)の

47.5%に

比べ7.4ポイン トも低下 している。 こ の結果は、成人の運動・ スポーツ離れを意味 している。 ラングランの生涯教育論に置き換 えて考えれば、大人の運動・スポーツ離れは子 どもの運動・ スポーツ離れを引き起こし、 その子 どもも大人になればさらに運動・ スポーツ離れに陥って しま う負の循環になるであ ろ う。では、生涯スポーツの理念や必要性は理解できるものの、生涯 スポーツの実践に至 つていないのは何故であろ う力Ъ これには、図

2で

示 した 「生涯スポーツの実現の流れ」 における「社会的条件 (体育・ スポーツ施設の整備・充実、スポーツ指導者の育成、スポーツクラブの育成・支援な ど) の整備」が不十分であることが関連 していると考えた。 文部科学省 によれば、平成

20年

(2008年

)体

育・ スポーツ施設現況調査結果の概 要30では、平成

14年

(2002年

)と

比較す ると民間スポーツ施設数は増加 しているが、学 校体育・ スポーツ施設数、大学・ 高専体育施設数、公共スポーツ施設数、職場スポーツ施 設数においては減少 してお り、総数でも減少 している。 スポーツ指導者の育成においては、 日体協や各競技団体、公益財団法人 日本 レクリエー シ ョン協会 をは じめ、多 くのスポーツ団体において も養成や研修が行われてお り、量的に は増加傾 向を示 している3D。 しか し、スポーツ団体によるスポーツ指導者の需要が、詳細

(21)

に把握できていないため、今後のスポーツ指導者の養成等において、量的・質的な 目標が 明確 でない状況にある。 スポーツクラブの育成 0支援において も、平成26年度 (2014年度

)総

合型地域スポー ツクラブ育成状況調査30では、2002∼ 2014年の期間で育成 クラブ数 もクラブ育成率39も 増加 しているが、総合型地域スポーツクラブに関す る実態調査結果341では、300人未満の 規模のクラブ数は全体の

69%で

、会員の内訳 をみると就学後か ら59歳 まで割合は総数の 38。

9%で

4割 にも満たない状況である。つま り、就学後にも運動やスポーツを継続的に実 践 しよ うとす る人に とって総合型地域スポーツクラブを利用 しにくい状況にあるのではな いだろ う力Ъ これ らの現状や結果 をみても、生涯スポーツの実践 にむけて社会的条件が十分に満た されているとは言い難 く、国や地方公共団体がその役割 を果た しているとは言えず、生涯 スポーツ社会の実現にとって早急に対応 しなければならない と考えられる。 さらに、生涯スポーツの理念 が明 らかになつても、その理念 を生涯スポーツの実践 とし て当てはめることはできていない とい うことも要因ではないだろ う力ち 関根3めはライフサ イクルにおける生涯学習 とい う観点か ら生涯学習論を支 える一つの基礎理論である生涯発 達理論に着 日した。生涯スポーツも人間のライフサイクル とい う視点において関連 してい ることか らエ リクソンの理論に焦点を当てて批判的に検討す ることで生涯スポーツの構造 の解明を試みたのである。生涯発達理論は人が生涯 にわたつて行 う活動一般に関わる点で 一般理論 と見なす ことができ、生涯に関す る一般性に基づ く理論 と考えると、生涯スポー ツ論は身体的特殊性 に基づ く理論であると考えた。すなわち、生涯スポーツは生涯にわた つて行 う身体活動であることか ら、一般理論を踏まえた身体的特殊性 に基づいた理論であ り、一般理論は身体的特殊性 に基づ く生涯スポーツの理念 となる。 しか し、関根は生涯ス ポーツの理念 が明 らかになつても、理念 をそのまま実践の レベルに移 し替えることは困難 が伴 うことを示唆 している。彼は一つの理念 に対 して一つの実践が行われるのであれば、 多様 な理念解釈 のもとに多様な実践が生まれ ることになると考 えた。つま り、生涯スポー ツの理念 は実践の数だけ存在す ることにな り、もはや理念 としての機能を果た していない ことを意味 している。そ して、さらに理念 が実践によつて実現 され る保証はなく、理念は そのまま実践にならない と疑問視 してお り、理念 を実践へ と媒介す るもの、すなわち 「原 理」が必要 と考 えた。 このことよ り、関根は生涯スポーツの構造は理念、原理、実践の三層で構成 されると考

(22)

え、生涯 スポーツの原理は体育学あるいはスポーツ科学の知見に基づいた構成が必要であ ると主張 している。 この原理は学習者 自身の実践のための原理、その支援 システムのため の原理、生涯発達論 か ら示唆 を得た生涯 にわたる原理の

3つ

のタイプに分けられ るとした。 すなわち、生涯スポーツの原理には 「スポーツ享受の原理」、「スポーツ支援の原理」、「循 環の原理」の二つである。 「スポーツ享受の原理」では身体的老いの克服、楽 しみ、 自己実現の要素で構成 され、 スポーツ活動による自己の身体機能を確保す ること、興味 。関心を持つ楽 しみや 目的を果 たす ことによる達成感・充足を求めることを示 し、「スポーツ支援の原理」では健康へのサ ポー ト、行政施策で構成 され、行政による人々の健康に対す る支援やそのための施策や制 度 を示 していると理解できる。そ して、「循環の原理」を構成す るのは、学習成果の活用 と それを基に した世代間の交わ りであ り、各ライフステージにおけるスポーツ活動 と地域社 会を統合 してい くことである。 生涯スポーツを実践す る人が何を求めているかでその原理 も異な り、個人のスポーツ活 動に対す る動機が多様である限 り、統一的画一的な原理は存在す ることはないのである。 この生涯スポーツの理念、原理、実践の構造を図

3で

表 した。

実 践

3

生涯 スポー ツの構 図

スポー ツ享受

の原理

生涯 スポー ツ

の実践

スポーツ支援

の原理

生涯 スポー ツ

の実践

循環 の原理

生涯 スポー ツ

の実践

(23)

3で

示 したよ うに、原理が理念 を実践へ と橋渡 しす ることによ り、生涯スポーツのイ メージが明確 に構成できるのである。生涯スポーツの理念 が実現 され るには、実践 しよう とす る人の動機 に対応 した原理でなければな らず、それに適 した原理 によつて理念が実践 へ とつながつてい くもの と考えられる。 このよ うに、生涯スポーツには社会的条件の整備 は不可欠であるが、同時に生涯スポー ツの理念 を実践に結びつける原理の構築が課題解決につながると考えた。 第

3項

ま とめ 本節のま とめ として、生涯スポーツをラングランの生涯教育論の視点か ら論 じる。生涯 スポーツの概念 は、

5つ

の段階か ら構成 されてお り、生涯にわたつてそれ らの段階を満た す実践が望ま しい と考えられ る。 しか しなが ら、文部科学省 の調査結果か ら、生涯 スポー ツの実践には至っていない と判断できる。それを解決には、社会的条件の整備 が不可欠で あることと生涯 スポーツの理念が実践につなげる原理の構築が必要であると考 えた。 しか し、真の生涯スポーツの実践者 とはそのよ うな社会的条件にも左右 されないのでは ないだろ う力、 変化す る社会において、そ こで生活す る人には多様な生活様式があ り、日 的 と結びつけるために適応す ることが求め られ、ラングランも変化す る社会への適応 を目 指す ことを示唆 している。すなわち、各 自を取 り巻 く環境に適応 しなが ら主体的条件に応 じたスポーツ活動 を実践す ることができる能力が求められ る。 さらに、真の生涯スポーツの実践者 には社会の諸制度 を改革 してい くことも望まれ るの ではないだろ う力Ъ すなわち、ラングランの主張 した教育 の質的改革において、成人教育 の必要性 を理解 した大人が学校教育を改善 させ、学校教育が改善 されれば成人教育が改善 されてい くとい う正の循環を 目指 したよ うに、生涯 スポーツの必要性 を理解 した人が学校 や地域 を含む社会全体や諸制度を見直 し、改善 してい くことによつて、社会的条件がより 整備 され、生涯スポーツが実現 されてい く好循環 を創 りだす ことができるのではないだろ う力Ъ 平成

24年

(2012年

)に

制定 されたスポーツ基本計画30に記載 されている「スポー ツを通 じてすべての人々が幸福で豊かな生活 を営む ことができる社会」を 目指す ことは、 まさにラングランが主張 した教育 が社会を変 えることと類似 してお り、学校教育の体育に おいてスポーツとい う文化財 を主教材 とす る教育 を展開す ることには大きな意味があると いえる。そ して、生涯スポーツの実現に向けて、教育すべきことは生涯スポーツの原理で ある「学習者 自身の実践のための原理」、すなわち、スポーツの享受であるといえるのでは

(24)

ないだろ う力Ъ このよ うに、生涯スポーツ社会を実現 してい くためには、「適応」と「変革」の能力を持 ち合わせた実践者が必要であ り、豊かなスポーツライ フを 目指す学校体育においてスポー ツが享受できる人間を育成 してい くべきであると考 える。 注

1)社

会教育審議会答 申集「急激な社会構造の変化に対処す る社会教育 のあ り方 について ― 答 申

1971年

一」

,全

日本社会教育連合会

,1975

2)ポ

ール・ ラングラン著 波多野完治訳

,生

涯教育論入門 第一部

,全

日本社会教育 連合会

,1975

3)吉

田淳

,ポ

ール・ ラングランの教育思想研究

,二

重大学学術 リポジ トリ

,2007,33頁

41第

二次世界大戦下においてフランスは ヨー ロッパの主戦場 とな り、大規模な破壊 を被っ た。

1940年

、シャノL/ル・ ド・ ゴール将軍がイギ リスで演説 を行い、国内外のフランス人 に対独抵抗運動を呼びかけ、ナチス・ ドイツによるフランス占領か らフランスの解放を 目指 したものである。

5)ポ

ール・ ラングラン著 波多野完治訳

,生

涯教育論入門 第二部

,全

日本社会教育 連合会

,1981

6)前

掲書

2 15頁

7)前

掲書

2 16頁

8)前

掲書

2 17頁

9)前

掲書

5 69頁

10)前

掲書

5 5頁

11)前

掲書

5 12頁

12)前

掲書

5 13頁

13)前

掲書

5 16頁

14)前

掲書

5 18頁

15)前

掲書

3 33頁

(25)

16)松

村明監修

,大

辞泉

,小

学館

,2012

17)前

掲書

2,51頁

18)文

部科学省 子 どもたちの生きる力

,2010

http://search.yah∞。co.jp/search?aq=‐ 1&ei UTF‐

19)前

掲書

5 29頁

20)前

掲書

5 50頁

21)前

掲書

2 44頁

22)前

掲書

5,31頁

23)平

澤薫・粂野豊編

,生

涯スポーツー幼児・児童・青年・成人・ 高齢者のための一, プ レスギムナスチカ

,1977

24)森

川貞夫

,生

涯 スポーツのすすめ

,共

栄出版

,1985

25)金

崎良三

,生

涯スポーツの理論

,不

味堂

,2000

26)E.H。 エ リクソンのライフサイクル論によれば、人間の一生を 「孝L児期」「幼児期」「児 童期」「学童期」「青年期」「成人期」「壮年期」「高齢期」とい う

8つ

の発達段階に分類 し、特徴的な性格をもつたライフステージにおける発達課題 を設定 した。

27)日

下裕弘・丸山富雄・加納弘二

,生

涯スポーツの理論 と実際

,大

修館

,2001

28)文

部科学省 スポーツ基本法 条文 (平成

23年

法律第

78号

) http[′

│…

.meXt・go.jp/a_menu/spon/kihOnhOu/attach/1307658.htm

29)E.H.エ

リクソンのアイデ ンティテ ィ論は、人間の心理社会的な発達をライ フサイクル (人生周期

)と

して とらえ、人格が、最終的には、アイデ ンテ ィテ ィとい うものを 目指 して段階的に形成 されてい くとい う立場をとつた。

30)文

部科学省 平成

20年

度 体育・スポーツ施設現況調査結果の概要 httpγ′

… mext・gOjpわ 」nenu/tOukei/chousa04/shisetsu/kekka/1261398.htm

31)文

部科学省 スポーツ基本計画

2012

httpソ′

ww‐

mext.gojp/b_menu/shingi/chousa/spon/o25/attach/1357438.htm

32)文

部科学省 平成

26年

度 総合型地域スポーツクラブ育成状況調査 httpソ′ … mextogOjp/電 menu/sports/club/

33)ク

ラブ育成率:鎗J設済又は総説準備 中のクラブがある市区町村数

(市区町村数)

34)文

部科学省 平成

26年

度 総合型地域スポーツクラブに関す る実態調査結果 httpブ/wwttmextogoojp/a_menu/sports/club/

(26)

35)関

根正美

,生

涯スポーツ論の構造論的批判

,体

育・ スポーツ哲学研究,25‐

1,2003,

37‐46

36)文

部科学省 スポーツ基本計画 (参考資料

)

平成

24年

httpl′′

… .meXt・go.jp/component/a menu/sports/detai1/icsFiles/a■eldme/2012/10

(27)

2章

スポー ツを享受す る原理 の検討

1節

文化としてのスポーツ

ここでは、第

1章

で述べた生涯スポーツ社会を実現 してい くうえで、学校体育において 生涯スポーツを実践す る人間をどのよ うに形成 してい くのかについて明 らかにす る。 生涯スポーツ概念のなかにはスポーツを文化 として とらえているものも少な くない。ス ポーツ基本法の前文にもあるよ うに「スポーツは、世界共通の人類の文化」3つ でぁ り、一 般的にもスポーツは文化 として広 く認識 され るようになった。生涯スポーツ社会の実現を 目指す うえで、生涯スポーツの基底詞であるスポーツを文化 として とらえる立場か らスポ ーツとは何かについて明 らかに してい くとともに、スポーツと文化理解の変容、スポーツ の価値について も明 ら力ヽこしてい くこととす る。 第

1項

スポーツとは 諸説 あるが、スポーツの語源は、ラテ ン語の “disportare(desportare)"か ら由来 した もの といわれている 3乳 その意味は、「

dis=cawj、

「portare=away」 (運び去 る

)で

あ り、そこか ら「娯楽や気晴 らし、満足」とい う意味を持っていた。この “disportare"が 古 代 フランス語において “desporter(仕事か ら離れ る

)"と

な り、さらに、13、

14世

紀には イギ リスに伝わつて、その後、“disport(遊ぶ、戯れ る

)"と

な り、やがて接頭語の “di" が省略 されて

16世

紀に “sport"になつた とされた。 “sport"は、17、

18世

紀までは主 として狩猟な どの戸外活動を意味 してお り、

19世

になると、イギ リスにおいて近代 スポー ツが組織化・成立 していき、“sport"が、「競技・ 競争」の意味合いを持つよ うになったのである。つま り、もともとスポーツ とは仕事か ら 離れた空間で気晴 らしに遊ぶ ことを意味 してお り、そこに近代スポーツの出現 とともに競 争性が付加 された身体的活動 といえる。そ して、

1968年

のメキシコ・オ リンピック大会時 に開催 された 「国際体育スポーツ協議会」におけるスポーツ宣言30によ り、スポーツは以 下のように定義 された。 Sport

l.Any physical activity whiCh has the character ofplay and which invOlves a

(28)

is a sport.

Ifthis activity involves competition,it must then always be performed with a spirit ofsportsmanship.There can be llo true sport without the idea offair play.

Sport thus de6』ed is a remarkable means ofeducation.

この宣言において、スポーツは、①プ レイの性格 を持ち、 自己または他人 との競争、あ るいは自然の障害 との対決 を含むすべての身体活動である、② もしも競争す るな ら、スポ ーツマンシップの精神 に基づいて行われなければな らない。 フェアプ レイのない ところに は、真のスポーツは存在 しない、③ このよ うに定義 されたスポーツは素晴 らしい教育の手 段であると定義 された。この定義か らスポーツには、遊戯性、競争性、身体活動性、倫理・ 道徳性の

4つ

の性質があ り、スポーツは教育的価値 のあるもの と理解できる。 スポーツは、その語源にもあるよ うに遊戯の要素を持つ もの と考 えられ る。オランダの 文学史家J.ホイジンガ401は遊びの形式的特徴 を「自由」、「実生活の虚構」、「没利害」、「時 間的空間的分離」、「秩序 の創造」の

5つ

であるとし、遊び とは、「あるはつき り定め られた 時間、空間の範囲内で行われ る自発的な行為 もしくは活動である。それは自発的に受 け入 れ られた規則に従つている。その規則 はいつたん受け入れ られた以上は絶対的拘束力を持 つている。遊びの 目的は行為そのもののな力ヽこある。それは緊張 と歓びの感情を伴い、ま たこれは『 日常生活』 とは、防1のもの』 とい う意識 に裏づけられている」40と定義 した。 つま り、遊びは他か ら命令 されてす るものではな く、 自由な活動であ り、 日常生活か ら分 離 されたある一定の限定 された時間的、空間的なところで、 自らが創 つた秩序に したがつ て 自発的に行われ る活動であ り、物理的利害や個人的充足 と結びつ く活動ではない と考え たのである。人び とを夢中に させ る楽 しさや面 白さが遊びの本質であ り、スポーツが遊戯 性 を有 しているといえる。 また、ホイジンガは「緊張の要素 こそ、遊びのなかでは とくに重要な役割 を演 じている」 と述べ、遊びは緊張を解 こ うとす る努力であると主張 した2)。 これは、赤ちゃんが玩具で 遊ぼ うとしているときでも、公園でか くれんぼを しているときでもそ うなのである。つま り、あることを成 し遂げるために緊張の状態に入 り、その緊張のなかで遊ぶ人の さまざま な能力が試 され ることになることを意味 し、多かれ少なかれ競争的な性格を帯びてい く程 度に応 じて、緊張も増 してい くのである。 さらに彼 は 「遊びは何 ものかを求めての闘争で あるか、あるいは何かを表す表現であるかの どちらかである。 この二つの機能は、遊びが

(29)

何物かを求める闘争 を『 表現す る』 とい うふ うに して、また、遊びが最 も表現のす ぐれて いる者 を選び出すために競争の形 をとるとい う具合に して、一つにまとめられることもあ りえないではない」431と述べ、遊びには闘争 と表現の機能があ り、遊びが闘争 (競争

)を

つ くり、人間を鍛 え、 さまざまな工夫を凝 らし発展 させ るものであるとした。 このことか らスポーツが遊戯性を有 しているのであれば、当然なが ら、スポーツには競争性 も持 ち合 わせていることになる。 競争 を伴 った遊びが、スポーツ となるためにはそれが身体活動性 を有 していなければな らない。スポーツ宣言にもあるよ うに、「スポーツは身体活動である」ことはスポーツを成 立 させ る条件であるといえる。人間の諸活動のなかで どの程度 を身体活動 とす るかは一概 にはいえない。 なぜな ら、スポーツはその生まれた背景や地域社会、価値観や考え方 によ って多様であ り、その基準 となるものが見当た らないか らである。 しか しなが ら、おおよ そ遊戯性や競争的な性格を持ち合わせた身体活動をスポーツととらえることができるであ ろ う。 そ して、スポーツに競争が伴 うな らば、スポーツマ ンシ ップの精神 に基づかなければな らない。競技会の選手宣誓にもたびたび登場 しているこのフ レーズは、もとは主 として「狩 猟家の腕前 (技量)」 を意味 していたが、

19世

紀後半のイギ リスのパブ リック・スクール や大学な どのエ リー ト教育 のなかにおいて、人間 としての精神的資質や礼儀作法な どが求 め られ るよ うにな り、いつ しか倫理性や道徳性を意味す る言葉 となつた。スポーツマンシ ップ とは、「各種 目に共通 したエチケ ッ ト(行動規範

)の

基本であ り、具体的には『感情の 抑制、相手や仲間への思いや り、勝負 にこだわ り過 ぎない心、フェアプ レイ』 をい うもの である」441とぃ ぅものであ り、フェアプ レイ とは 「ルール を守 る、相手を尊重す る、マナ ーが良い」 ことをい う。すなわち、競争性による勝敗への欲求を倫理ない し道徳規範に基 づ く行動がスポーツに求め られているのである。 このよ うに、スポーツはその語源に実生活か ら離れた空間における気晴 らしの遊びを意 味 してお り、

1968年

の「国際体育スポーツ協議会」におけるスポーツ宣言のなかで定義 さ れた。その定義か らスポーツには遊戯性、競争性、身体活動性、倫理・道徳性の性質があ ることが理解できる。現在、われわれの周 りには多 くのスポーツが存在 し、オ リンピック 競技に認定 されている

400種

類 を大 きく超えて存在 しているといわれている。それ らのス ポーツはすべて倫理・道徳規範 に基づいた身体活動でなければな らないが、遊戯性 と競争 性のバ ランスによつて特徴づけることができる。例 えば、プロスポーツは勝利 を第一義的

参照

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