被虐待児への教員の関わり方に関する研究
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(2) 第1章 問題の所在と研究の目的. 第1節 問題意識 近年、虐待件数が急増し、児童虐待は社会問題となっている。厚生労働省によると、児 童相談所が処理した児童の福祉に関する相談のうち、虐待に関するものは、児童福祉法施 行前の平成11年度(11,631件)に比べ、平成23年度においては4.8倍(59,862件)にも 増加している(図1参照)。子どもの痛ましい死亡事件も続いており、平成23年度中には、. 82件(98人)の死亡例が国に報告されている。. 虐待問題は、福祉や教育、医学、臨床心理学、精神医学等、様々な分野において研究が 行われてきた。研究の着眼点は研究者や専門分野によって異なるが、どの研究からも虐待 問題の解決の難しさや、虐待問題の根の深さが感じられる。具体的な介入についての提案 を行っている研究分野もあるが、学校教育場面における具体的な介入に関する文献は殆ど みられない。教員という立場で虐待問題を捉えるとき、学校生活において被虐待児に対し て、直接的な関わりをもつことになるため、日常的に支援することが可能であるとともに、. 効果的な支援を行うことが要請されているとも言える。教員の働きかけによって、虐待で 受けた傷を癒したり、小野(2011)が指摘するように、「虐待から始まる不適応な発達経路 から子どもを守り」、成長させたりすることができると考えると、被虐待児への対応におい. て教員の果たす役割は大きな意義をもつものと考えられる。子どもにとって、家庭に次ぐ 第二の生活の場である学校は、教員の関わり方次第で被虐待児の大きな成長の場となりう るであろう。数井(2003)は、Barrett Kruse et.al.,(1998)の「被虐待児が虐待のサイ. クルを破るための経路は学校の中、教室の中にこそ存在する」という考え方に拠りながら、. 「被虐待児との関係は簡単ではないが、教師はセラピストになる必要はなく、教師が本来. 最も得意とする分野で十分に対応できることで、関わることが重要である」と指摘してい る。したがって、学校における日常の教育活動のなかで、教員が被虐待児にどのように関 わり、どのように働きかけていくのかが、被虐待児に対する成長支援という点において重 要な課題であると考える。. 虐待は子どもの心身に大きな影響を与える。被虐待経験が影響して様々な問題行動を表 出する子どもが多いという指摘もある(例えば、古田(2011)など)。法務総合研究所(2001). が行ったr少年院在院者に対する被害経験のアンケート調査」によると、家族から身体的 暴力、性的暴力及び不適切な保護態度のいずれか1つでも受けた経験のある者が、全体の 約70%にのぼると報告されている。この数値から、被虐待経験が、少年院在院者の非行等 の背景に少なからず影響を与えていると考えることができる。. 一175一.
(3) また、小木曽(2004)がr世代を超えて虐待が繰り返されてしまう事実も現場で指摘さ れた」と言うように、虐待は世代間で連鎖する場合も少なくない。柏女(2001)は、「主た. る虐待者のうち、自身が虐待を過去に受けた経験をもつ者の割合は23%であった」と指摘 している。その他の研究においても、約3割が虐待を繰り返すという結果が示されている (Kaufman,J.,&Zieg1er,E.,1987;Zeanah,C.吐andZeanah,P.D.,1989)。つまり、被. 虐待児の約3割が、自分が経験した虐待を、将来我が子に行ってしまう可能性がある、と いうことである。虐待の世代間連鎖が起こる背景には、池田(1987)が指摘するように、 「攻撃する親と同一化して、衝動的、乱暴な大人となり、(中略)わが子に暴力をふるう親. になること」があると考えられる。このような「虐待の連鎖」を断ち切るためには、被虐 待児自身が抱える問題を、少しでも軽減、解消させることが必要である。未解決な問題を 抱えたままだと、それが将来の親子関係に投影される可能性が高いからである。. 被虐待児は、施設から、あるいは一時保護の後に家庭から学校に通学し、他の児童・生 徒と同しように一目の多くの時間を学校で過ごすことになる。したがって、被虐待児が示 す行動上の問題を、教員がどのように捉え、対応・指導していくかによって、被虐待児の 生活や、人との関係性が変わってくると考えられる。被虐待児が抱える問題を改善してい くためには、学校における教員の関わり方や学級の環境(規範意識や文化風土、雰囲気な ど)、また、子ども同士の関わりが重要な意味をもつことになる。. 亜洲霜理. 1舳画 軌、ニア警. 榊炉榊. !旦.出目1. 邊正洲一. 舶,1軸一 眠籠距. 里見”, 幽。館・且. ,。;,1. 坐醐 一. 輔,戦王 ¥1乱r幽螂榊舳. ¥ 箪 箏 浮 箏 岬 尊 邪 箏 耶 粋 平 箪 早 平 耶 耶 耶 箏 寧 尊 雛. 機 虞 跳 機 繍 城 維 銭 機 煙 機 鮫 眩 籔 篶 慈 城 敏 奴 鰻 奴 機蓑. 墓墓婁墓室墓室墓 玉 ;基孟二 三三ニ ;;姜芋蓑 葦s 換 度 表 模 意 覆 覆 務 年 重 」阜 匡 旱 華 年 長 ? 症 年 ・皐 皐 旱 】. 度 議 履 濠 .度 種= 務 書 獲 表 業 購= 療 優. 図1 児童虐待対応件数. 一176一.
(4) 第2節研究の目的と方法 1 研究目的 本研究は、「学校教員の被虐待児への関わり方」について検討し、未来の養育者でもある. 被虐待児への適切な関わり方や支援の方向性を探り、大きくは「虐待の連鎖を断つ」こと をめざすものである。そのために、被虐待児の成長発達にとって、教員のどのような関わ りや働きかけが適切なのかを明らかにし、具体的な働きかけについて提案することが本研 究の目的である。. 2 研究方法 研究の進め方と手順は、以下の通りである。. 第一に、虐待に関する先行文献のレビューを行い、虐待が与える影響や、被虐待児の特 徴を明らかにする。そのうえで、第二に、被虐待児と関わった経験がある小学校教員(学 級担任、児童支援加配担当教員)、養護教諭、児童養護施設職員を対象にインタビューを行 い、被虐待児への指導・支援の工夫、関わる中での困難点などについて明らかにする。. 第三に、校区に児童養護施設がある小学校と、情緒障害児短期治療施設内の小学校にお いて、被虐待児への教員の関わり方を参与観察し、その特徴を抽出する。さらに、観察で は見て取れない関わりの意図や指導上の工夫などについて聴き取りを行う。. 第四に、以上の研究を通して、被虐待児への教員の適切な関わり方についての提言を行 う。. 第2章 被虐待児と関わるうえでの特徴の理解 第1節 先行研究からみる被虐待児の特徴 虐待は子どもの心身に大きな影響を与える。そのために引き起こされる行動の特徴につ いて、斉藤(2001)の指摘を参考にまとめると、以下の通りである。. 児童虐待によって主たる養育者への愛着を断たれた人間の子どもは、内的、外的刺激に 極端に敏感になり、ちょっとしたことに過剰反応し、不安に耐えられなくなる。絶え間な く動き回る過活動性を示すこともあるが、静止中は抑うつ的で、引きこもっている場合が 多い。大人にまとわりついたりもするが、極端に受動的なこともある。集団での遊びに参 加できず、他人との交わりを避け、怖がる傾向もみられる。虐待する親には凍りついたよ うな緊張のまなざしを向けたり、親の欲求に対して異常な敏感さを示したりすることもあ. る。他人への攻撃性をうまく調節できず、自己破壊的になって自傷行為に及ぶ場合も少な くない。そのため、成人後も抑うつ的になりやすく、安定した人間関係や職業を継続しに. 一177一.
(5) くいという特徴がみられる。. また、被虐待経験が影響して、様々な行動の問題を表出する子どもが多いという指摘も ある。古田(2011)は、「周囲からみた“表面的な’’行動の問題」という視点で、被虐待児. の行動の特徴を「①多動、衝動性、集中カの低下、不注意、②意欲低下、やる気のなさ、. 被害的な受け取り、③暴言、暴力、④自傷行為、⑤反社会的行動」とまとめている。これ らは、被虐待体験が影響して様々な行動上の問題として表れている例である。しかし、教 育現場でこのような行動を示す子どもに対応する時、表面的な行動のみで判断してしまい、 「どうしようもない非行児、問題児」として扱ってしまうことも少なくない。非行児・問. 題児として決めつけて指導・対応をするだけでは、彼らの大人に対する不信感を一層強め てしまうことにもなりかねない。古田(2011)の指摘するように、「こうした子どもを“た だの非行児”として厳しく叱る、行為だけを制限するということをしても何の意味もない。 かえって、大人への不信感や詰めを増すことにもなるし、感情のコントロールの問題から、 叱責されたことで“キレる’’ことにもつながる」と言えるであろう。. 第2節被虐待児との直接的関わりからみえるもの 情緒障害児短期治療施設において、被虐待経験のある女児Aと女児B(いずれも小学校 中学年)と関わった経験からみえてきた被虐待児の特徴について検討を行う。. 女児Aとは、放課後の時間帯に学習サポーターとして1対1で関わった。Aは、人懐っ こく、筆者の腕にしがみつくなどスキンシップも多かった。学習の合間には、「髪の毛結ん で。」、「髪触られると落ち着くの。」と甘える様子も見られたり、「一緒にトイレに行く。つ. いてきて。」と言い、自ら筆者の手を握って一緒にトイレヘ向かった。トイレ中は、「ちゃ んと待ってる?」、「そこにおってよ。」と筆者が傍にいるのか常に確認していた。しかし、. 学習中には「どうせ自分には出来ない。」という発言が多く聞かれ、」席やる気を失くして しまうとなかなか課題に取り組もうとせず、反抗的になることもあった。. 女児Bは、初対面の時、他児と同じように親しく話しかけ関わろうとすると、警戒して いるような鋭い目つきで筆者を見て、避けるような素振りがみられた。その後、徐々に関 わっていくと、鋭い目つきで見ることはなくなった。学校生活の様子からは、友人に対し て突発的に「殺すぞ。」と暴言を吐いていたり、「なんでそんなに私はつかり言うんよ。」と. 被害的な受け取りをする場面が多くみられた。. A,Bと関わる中で、意欲が低下した状態から学習に向かわせる時、どのように働きかけ たらよいのか、また、突発的な暴言に対する指導と、指導したことに対する被害的受け取. 一178一.
(6) りにどのように対応したらよいのかという点に、特に難しさを感じた。. 第3章 被虐待児と関わる教員及び施設職員の意識. 第1節調査概要 1 目的 被虐待児が在籍する学級を受けもった経験、または、被虐待児と関わった経験がある現 職教員に対してインタビューを行い、被虐待児への指導・支援に対する教員の意識や工夫 について探ることが、本調査の目的である。. 2 調査方法 (1)調査対象. 被虐待児と関わった経験がある小学校教諭4名(学級担任3名、児童支援加配担当教員 1名)、養護教諭2名、児童養護施設職員2名の計8名から協力を得て、インタビューを行 った。被験者の語りをそのまま引用するため、小学校学級担任3名それぞれをA,B,C、. 児童支援加配担当教員をD、養護教諭2名をE,F、児童養護施設職員2名をG,Hと表 記する。. (2)調査時期. 平成23年2月∼平成24年9月にかけて実施した。 (3)調査内容. 各自の経験した事例をもとに、以下の内容から構成される半構造化面接を1人(1組) 1回行った。質問内容については、子どもの虹調査研究(2009)を一部参考にした。 ・事例の概要. ・被虐待児童の学校生活における指導において感じる困難について ・上記の困難に対処するうえで工夫していることはあるか ・被虐待児にどのような力をつけたいと感じているか ・被虐待児と関係性を築くことの難しさや工夫など. 第2節調査結果 インタビュー内容は部分的に逐語記録にまとめ、語られた内容をKJ法に基づいて分類し. た。分類は、臨床心理学を専門とする大学教員1名と小学校教員1名の協力を得、筆者を 含む3名で行った。. 逐語記録を細分化し、切片化したデータに内容を表現するラベルをつけ、類似するラベ ル同士をまとめたところ34のグループに分類された(下位カテゴリー)。これをさらに集. 一179一.
(7) 約した結果、8つのカテゴリーにまとめることができた。8つのカテゴリーは、【子どもと 関わるうえでの留意点】、【子どもの資質】、【先生の思い】、【生活習慣】、【生活環境】、【虐. 待へのイメージ】、【先生と子どもの関係性】、【連携】である。以下、8つのカテゴリーを. 【】で、下位カテゴリーを〈〉で示す。 【子どもの資質】に関しては、学級担任、児童支援加配担当教員に、多くの語りがみら れた。学級担任はく良い面〉について多くを語ったが、児童支援加配担当教員は〈大人へ の不信感〉や〈パニック〉等、被虐待児が示す特有の言動についての語りが多かった。【関 わるうえでの留意点】でも、〈ほめる〉に関しては学級担任に、〈ケア的な関わり〉に関し ては児童支援加配担当教員に多くの語りがみられた。【生活習慣】に関しては、養護教諭に. よって多く語られたのに対し、他では殆ど語られなかった。また【連携】に関しては、学 級担任、児童支援加配担当教員ではあまり語られなかったが、養護教諭、児童養護施設職 員では多くの語りがみられた。. 第3節 学校教員と施設職員の役割と意識の比較 学級担任には、他と比較して子どもの良い面に目を向け、ほめることを意識している傾 向がみられる。学級という集団の中で、被虐待児が学校生活を送りやすい環境づくりをし ている表れではないかと考えられる。. これに対し、児童支援加配担当教員は、子どもが抱える問題やその時の心境に寄り添い. ながら、1対1での対応を行っている傾向がみられる。児童支援加配担当教員の具体的な 語りのなかに「児童が納得するまで話を聞く(D)」、「時間がある時には加配の先生がしっ. かりと話を聞く、泣きたかったら泣かせる(D)」という語りがみられた。児童支援加配担. 当教員は、1対1で関わることができるので、子どもの心情や状況に寄り添いながら対応 することが可能となる。このような関わりを通じて、被虐待児が話を聞いてくれる相手に 対して安心感や信頼感を抱くようになるのではないかと思われる。. 養護教諭は【生活習慣】や1連携】について多くを語った。このことから、学級担任、 児童支援加配担当教員が被虐待児の内面や学級内での生活面等に着目しているのに対し、. 養護教諭は被虐待児の生活上の課題や背景、子どもを取り巻く外部環境に着目し、支援の ための体制づくりを意識する傾向があると言える。. 児童養護施設職員は1関わるうえでの留意点】と1連携】についての語りが多かった。 学校が教育の場であるのに対し、児童養護施設は生活の場であり家庭に代わる場である。 生活の場でありながらも、「監視されていると感じている子どもも実際にいる(H)」とい. 一180一.
(8) う。そのため、「学校では許せないことでも、施設では目をつぶる部分がある(H)」とい う語りがあった。また、「如何に子どもの『親代わり』になるか(G)」、「子どもたちの言. 動を『虐待からの影響』と捉えるのではなく『その子の個性』として捉える(H)」という. 他では聞くことのできなかった語りもあった。このことから、子どもが今まさに安心して 生活し、息抜きができる場を作ることと、また、施設の使命である自立支援に向けて、外 部機関との連携をしっかり進めようとしている傾向があると考えることができる。. 第4章 被虐待児への教員の関わり. 第1節 児童養護施設と情緒障害児短期治療施設の概要 児童養護施設は、保護者のない児童や保護者に監護させることが適当でない児童に対し、. 安定した生活環境を整えるとともに、生活指導、学習指導、家庭環境の調整等を行いつつ 養育を行い、児童の心身の健やかな成長とその自立を支援する機能をもつ施設である。. 一方、情緒障害児短期治療施設(情短施設)は、心理的・精神的問題を抱え、日常生活 の多岐にわたって支障をきたしている子どもたちに、医療的な観点から生活支援を基盤と した心理治療を行う場である。施設内の分級など学校教育との緊密な連携を図りながら、. 総合的な治療・支援を行う。また併せて、その子どもの家族への支援を行う。比較的短期. 間(現在の平均在園期間2年4ヶ月)で治療し、家庭復帰や、里親・児童養護施設での養 育につなぐ役割をもつ。また、適所部門を持ち、在宅通所での心理治療等の機能を持っ施 設もある。. 第2節 児童養護施設が校区にある小学校教員の関わり. 1 目的と方法 児童養護施設が校区にあるX市立Y小学校において、被虐待児に対する教員の関わりを 1ヶ月間観察した。観察対象とした主な教員は、被虐待児が在籍する通常学級担任と、児. 童支援加配担当教員の2名である。観察1ヶ月の前半2週間は、被虐待児が在籍する通常 学級担任の関わりを観察し、後半2週間は、要支援児童を担当する児童支援加配担当教員 の関わりを観察した。被虐待児への関わりを明確にするため、被虐待児と他児童への教員 の関わりを比較しながら観察を行った。関わる際の意識や意図については、見えにくい部 分もあるので、必要に応じて聴き取りを行った。. 通常学級担任と児童支援加配担当教員の被虐待児への関わり方や指導の工夫の具体を観. 一181一.
(9) 察することを通して、被虐待児への適切な関わり方と思われるものを抽出することが目的 である。. 2 結果と考察 通常学級担任と児童支援加配担当教員の関わりについて、場面ごとに区切った指導支援 の具体的事例を、以下に示す。. (1)通常学級担任の関わり. 事例でとりあげる対象児童3名について説明すると、次の通りである。. 事例1,2,4における対象児童(以下、女児A)は中学年で、児童養護施設内でも一 番手のかからない児童であり、学力や生活力等も比較的高い児童であった。そのため、担 任からみても、特別に気になる児童ではなかった。. 事例3の対象児童(以下、男児B)は、低学年である。観察当時、脱走癖があった。. 事例5の対象児童(以下、女児C)は、低学年である。聴き取りを行った当時、情緒不 安定であった。 〈事例1 〉 教員が全体に教授している時や、各自で問題に取り組む活動を指示した時に、女児Aは隣の席の児童と私語 をすることが多かった。教員は始め、全体に教授しながら2人の方を向いて、rいいですか?」と、注意を促し た。その後一時的に私語はなくなったが、時間が経っとまた私語をしていた。その時教員は、授業を止めて「も う席替えるよ。ずっとこそこそ話してるよね。」と2人に対して指導した。指導後、女児Aは隣の児童から話し かけられても必要最低限な会話だけを交わし授業に取り組んでいた。教員は2人の様子をさりげなく見ていた。. 〈事例2 〉 授業開始時、女児Aは教員の指示を聞きつつも、筆箱の中身を整理したり、髪の毛を触ったりしていた。教 員はその様子をうかがいながら、授業を進めていた。授業の終わりに本時のまとめの解説をしている時、Aは 髪の毛を触っていた。教員は、「Aさん、先生は髪の毛で喋っていますか?」と注意をした。その後Aは髪の毛 を触ることを止めた。教員は全体に教授しながら、Aに視線を送り様子を見ているようだった。. く事例3 ) 男児Bは、運動会のダンスの練習中、他児とのトラブルがあり担任から指導を受けた。その後、機嫌を損ね 練習に参加せず、体育館から出ていこうとした。担任は、すぐにBを追いかけ捕まえたが、Bは泣きじゃくっ. ていた。担任は逃げようとするBを抱きかかえ、落ち着かせるために場所を移動して1対1で話をした。担任 が「どうしたん?何が嫌で逃げようとしたん?」と聞き、Bが(いつもは理由を話さないが)理由を話すと、「そ. 一182一.
(10) うか。嫌やったんやね。」とBの気持ちに共感し、気持ちを安定させた。その後、担任とともに体育館へもどり、 練習に加わることができた。. 事例1,2,3から言えることは、やってはいけないことやその場にふさわしくない態 度が見られた時、また、周りに迷惑をかけるような行動をとった時には、他の児童と変わ りなく指導をしているということである。しかし指導後には、必ず児童の様子をうかがっ. たり、場合によっては児童と1対1で向き合う時間をとり、気持ちを安定させる関わりを もっていた。被虐待児の中には、感情のコントロールが難しかったり、気持ちの整理がつ きにくいため、精神的に不安定な状態であったり、ちょっとしたことで腹を立ててしまう. 児童がいる。そのため、教員は指導をしている時や指導をした後に、児童から不満や苛立 ちの原因、行動を起こした理由などをしっかりと聞きだし、気持ちの整理がつくように手. 助けを行う必要がある。事例1,2,3にみられる教員の働きかけは、そのような意図を もつものと考えられる。. 〈事例4 〉 女児Aが日記や作文に、家族に関すること内容や、友人関係のトラブルに関する内容(トラブルの問題は解 決したが、その時の気持ちを綴った内容であった)を書いてきた時、深く追求はしないが、「心配しているよ」 や、「いつでも見ているからね」というコメントを書いていた。そこには「彼女の気持ちを掘り返すようなこと をするのはどうかと思う」、rこちらが深く聞くことによって、逆に彼女が深く考えてしまうきっかけになって しまうからあえて追求しない」という配慮がみられた。. 目記や作文へのコメントなどの表面的にはみえない部分でも、被虐待児を安心させたり、 教員との関係を深めたりする関わりがなされていた。教員の「いつでも見ているからね」 というコメントには、r話したい時にはいつでも話にきていいよ」というメッセージが込め られているように思われる。. 〈事例5(聴き取り) 〉 女児Cは当時1情緒的に不安定であり、同じ児童養護施設から通っている同じ学級の女児Dに対しては、何か あるとすぐに手を出すことがあった。担任が注意をすると、すねたり暴れたり(ひっかく、蹴る)暴言を吐い たりしていた。ある時、自暴自棄になったCは「死にたい」と発言した。担任は、低学年であるCの口から「死 にたい」という言葉が出たことに衝撃を受けた。しかし、Cからこのような言動がでても慌てることなく落ち 着いた口調で、rあなたは大切な存在だから」、rあなたはこの学級の大切な存在だ」と伝え続けた。. 被虐待児は、腹立たしくどうしようもない感情を抑えきれない状態になると、自暴白菜. 一183一.
(11) になったり、言葉では気持ちを言い表せないために暴力として表現したりする場合がある。. 担任はCが示す言動に困りながらも、大切な存在であるということを伝え続けていた。伝 え続けることによって、女児に居場所があることや自己肯定感を育んでいると考えられる。. またこのような言動は、担任に対する試行動と捉えることもできる。言動に対する反応を みて、自分を受け入れてくれる大人であるかどうかを確かめている。したがって、試行動 に対しては、児童の言動を受け入れ、揺るがない関わりを保つということが必要になって くる。. 5事例の通常学級担任の関わりには、学級の一員であるという意識を強くもち、特別扱 いすることなく他児童との関係性の中で育てていこうという特徴がみられる。また、個人 的な関わりをもつ場と全体の一員として関わる場の二場面を上手く使い分け、児童に安心 感や所属感を抱かせる関わりを行っている点も通常学級担任の特徴である。 (2)児童支援加配担当教員の関わり. 事例1の対象児童(以下、男児D)は低学年、事例3の対象児童(以下、男児E)は中学年 である。両者とも、自分の気持ちを文章として表現することが苦手であり、単語をぽつぽ つと語る程度である。 く事例1 〉 男児Dが登校時に友人とトラブルを起こしたとき、教員は両者から話を聞き解決させたが、自分の気持ちを 言葉に表せないDは浮かない顔つきであった。教員はDの表情から気持ちが塞いでいることを感じ取り、気持 ちを少しでも安定させるために、下足箱まで手をつないで移動した。移動の間には、児童が興味をもっている こと(昆虫について)を話題に会話をしていた。. 〈事例2 〉 登校中に機嫌を損、校門付近で微々をこねて座り込んでいる児童がいた。教員は児童の隣にそっと腰掛け、 わが子に話すように優しい言葉で話しかけながら、児童を落ち着かせていた。. 教員は、トラブルや問題が解決したところで関わりを終わりにするのではなく、その後 の表情や様子から児童の心情を汲み取り支援していた。友人とトラブルがあった後の不安 定な気持ちを解消できないまま学校生活を送ると、学習への意欲低下や問題行動につなが る可能性がある。満たされていない気持ちを汲み取り、個人的にじっくり関わる機会をも つことによって、心の安定を図っていると捉えることができる。このような個人的な関わ りは、児童にとって、気持ちを安定させるだけでなく、絶対的に愛情を注いてもらう経■験. や、自己を心配し大切にしてくれる人がいることを感じとることができる機会となる。. 一184一.
(12) 〈事例3 〉 理科の授業で、「ものさしを使って茎の長さを調べよう」という課題があった。男児Eと他数人はものさしを もっていなかったので、課題に取り組めていなかった。「ものさしないからできない」と言う児童に対して、「忘. れたらどうするの?」と教員は返答をした。E以外の児童は自ら友人に「貸して」と頼み課題に取り組んでい たが、Eは誰にも言えないでいた。それを見ていた教員は、「Eさんも忘れたんだって」、「誰か貸してくれる人 はいないかな?」と周りの児童に言い、Eの気持ちを代弁しているようであった。. 自分の思いや感情を言葉で言い表せないために、友人とうまくコミュニケーションが取 れずに対人関係が築けなかったり、事例3のように授業の課題に取り組めなかったりする ことがある。場に応じて、教員が児童の代弁をしたり、気持ちを言語化したりすることが 必要になると考えられる。しかし、全て支援する必要はない。部分的に仲介に入ることで、. 児童が自身で行えるように導くという意識が重要である。. 3事例の児童支援加配担当教員の関わりには、1対1でじっくり関わる中で、児童の内 面に目を向けた関わりが重点的になされているという特徴がみられる。また、絶対的に愛 情を注いてくれる大人がいることを感じさせ、情緒的安定を図る役割を担っているという 点も特徴としてあげられる。. 第3節 情緒障害児短期治療施設の小学校教員の関わり. 1 目的と方法 さまざまな背景を抱える子どもが集まる施設内学級における被虐待児への教員の関わり 方を観察し、学級担任が被虐待児と関わるにあたって意識していることや、一般校の通常 学級担任の被虐待児への関わりと比較し、その特徴を見出すことが本調査の目的である。. 2 結果と考察 事例1,2,3の対象児童(以下、女児F、女児G)は小学校中学年である。 〈事例1 〉 女児Fが他児童から注意されたことに対して「殺すぞ」、「最悪な人や」と突然言った。教員はすぐに反応し、. 落ち着いた語り口調でrFさん、そんな言葉言っていいんかな?」と問いかけるように注意をした。. 突発的に出る暴言は、これまで育った環境から身についたものであるという認識をもっ て対応し、頻繁に出る「殺すぞ」などの発言に対して、担任はその都度注意していた。発 した時の感情にもよるが、Fは注意を素直に受け入れていた。暴言が発せられるたびに注 意をすることで、F自身に暴言を使ってしまっていることを気付かせ、意識化させようと していた。まずは使ってはいけない言葉であることを認識させ、そのうえで、そのような. 一185一.
(13) 言葉を使っていると自分自身で気付くようにさせることが大切である。. 〈事例2 (聴き取りより)〉. 総合的な学習の時間に児童と一緒にお菓子作りを行い、親子で料理をするような雰囲気を体験させた。その 時の児童の様子は、普段の学習時間とは逢う表情が見られた。また、校外学習に出た時、お弁当ではなくレス トラン等で食事をしたり、駅の改札では児童自身に切符を購入させたりした。. 幼い時から親元を離れて生活していると、「家庭的な体験」や「親の温かさ」を感じる機. 会があまりない。このような体験がないまま将来大人になると、親になったときの子ども への関わり方が分からなかったり、切符の買い方やレストランでの食事の仕方などの常識 が身についていなかったりするために、社会に出てから生活面で嫌な経験をしたり、困難 を抱え込んだりする恐れがある。学校で様々な機会を設けて、担任が一人の大人としての モデリレを示すことによって、児童に家庭的な体験や社会性を身につける経.験をさせること. が必要である。児童の現状を踏まえたうえで、将来像とすり合わせながら、必要に応じて 様々な体験ができるような機会をもつことが求められる。. 〈事例3 〉 1対1で指導する時、女児Gは「面倒くさい」、「なんで私だけを怒るんよ」と聞く耳をもたずに反抗的な態 度を示していた。それに対して担任は、「なんで怒られてるんやろうね?」と語りかけるような口調で返答した り、rそれが人の話を聞く姿勢ですか?」と表情を硬くして場面など、メリハリのある指導をしていた。終始、 担任が話すのではなく、児童と対話しながら指導を進め、高圧的にはならないよう間に冗談を挟み、Gの気持ち を落ち着かせながら指導を行っていた。. 個人的な指導を行う際に、まずは児童が自身の言動を振り返り、反省することができる ような状態をつくることが大切である。指導を受けている理由が分からないままであると、. 指導をされたという事実に対する意識だけが残り、本来伝えたいことが伝わらなかったり、 被害的受け取りをしたりする可能性もある。他にも、「やっぱり大人は」という大人への不. 信感を強めることにつながってしまう場合もある。また、担任からの聴き取りにおいて、 「厳しく叱る時はあるが、フラッシュバックをさせないようにしている」という語りがあ. った。高圧的な指導をしてしまうと、過去の被虐待体験を思い出しフラッシュバックさせ てしまう恐れがあるからである。そのようなことを防ぐためには、児童と対話をし、指導 理由を明確にしながら関わっていくことが大切である。. 3事例における情緒障害児短期治療施設内の学級担任の関わりからは、被虐待児の特徴. 一186一.
(14) を踏まえそれぞれの生育歴に配慮しつつ、細やかな指導・関わりがなされていることが確 認できる。授業中のちょっとした児童の発言を聞き逃さず、その都度その場で的確な声掛 けを行ったり、発表中は児童の目をしっかりと見て反応を返したりするなど、きめ細かい 関わりが継続的に行われている。このような丁寧な関わりが継続されることにより、児童 は安心感や所属感を抱くことができるようになるのではないかと考えられる。. 情緒障害児短期治療施設内学級は通常学校と異なり、少人数学級であり、カリキュラム 上の自由もきくというような点が、教員のきめ細やかなかかわりを可能にしている側面も あると思われる。. 第5章 学級担任としての被虐待児への支援の在り方 策1節 被虐待児の特徴と対応方法. 学級担任としての支援の在り方を探るために、第4章第2節、第3節でとりあげた事例 における教員の関わり方を整理し、一覧表にまとめた(表1)。. 被虐待児が示す言動の特徴を考え、教員がどのようなことを意図して関わっているのか (関わりの意図)を聴き取りによって得た内容から整理した。さらに、関わるうえでの見. 立て(意図、理由)が具体的にはどのような指導支援行動として表出されるのかを、観察. 記録から抽出し、記述した。第2節、第3節では、具体的な指導支援行動をエピソード記 録として示したが、ここでは、エピソード記録として記述しなかったものも加え、項目別 に簡潔な表現でまとめた。なお、それぞれの立場の違いをa:通常学級担任(複数・女)、 b:児童支援加配担当教員(女)、c1情緒障害児短期治療施設内の学級担任(男)で表記して いる。. この表は、被虐待児の特徴に応じて、どのような意図で、どのような関わりをすれば適 切な対応になるのかを示すものである。 表1被虐待児の特徴に応じた教員の関わり方 破虐待児の特徴. 理由. 指導支援行動の具体例. ’父親、母親の温かさ等を知らな. ・一 盾ノ散歩に行ったり、遊んだりして、. 関わりの意図. 受け止め方 大人への不信感. モデルとして関わる. いまま大人にならないように (C). ・児童が親になった時のことを考 えて(b). 一187一. 触れ合う時間をもつ。.
(15) ・父親、母親の存在を感じさせる ため(b,c). ・絶対的に愛情を注いてくれる対象が 必要であると感じるため(b). ・甘えたくても甘えられる人がい ないため(a). ・トラブルは解決後も気持ちが塞いでい る児童に対して、児童が興味をもって. いること話題に会話をしながら、手を つないで歩く。. ・A先生の言うことは聞くがB先. うまくいった指導例(成功例)、逆にう. 生の言うことは聞かないという. まくいかなかった指導例(失敗例)を. ことがないようにするため(C). 教員間で共有する。. ・児童が教員(相手)によって態 度を変えることを防ぐため(C). ・これまでの環境に影響を受けず に生きてこうとする、強い子ど もに育てていく責務があると思 うため(a,b). 試行動への理角. ・試行動によって自己を受け入れ. ・絶えず「学級の大切な存在である」、「あ. てくれる存在であるか確認して. なたは大切な存在である」ことを伝え. いる場合があるため(a). る。. ・甘え直しをしている場合もある ため(a). 見捨てられ感を. 抱きやすい. 丁寧に反応する. ・受け入れられているということ を感じさせるため(C). ・児童に「無視された」と感じさ せないようにするため(C). ・他児と話をしている時でも、「今はOO と話しているからちょっと待ってね」 等、何かしら反応する。 ・しっかりと目を見て聞く。. 心的反応 フラッシュバック. ・フラッシュバックをさせないた. ・1対1で指導する時、教員ばかりが話 すのではなく児童に問いかける。. め(C). ・叱られたという事実に対する意. ・児童がr面倒くさい」、rなんで私だけ. 識だけが残らないようにするた. を怒るんよ」と聞く耳をもたずに反抗. め(C). 的な態度を示しても、児童の気持ちを 落ち着かせながら指導をする。. 一188一.
(16) ・相手を伴ったトラブルの指導を. 被害的受け取り. 児童の心情に合わせる. ・トラブルヘの対応は、始めに「何が嫌. 受けた児童が、指導を受けたこ. だったのか」、rなぜトラブルになった. とに対する気持ちを、相手に繰. のか」を両者から平等に聞く。そのう. り返さないようにするため(b). えで事実と互いのすれ違いを修正しな. ・児童が「調べられている」、「聞. がら原因を明確にさせ、それぞれを指. かれている」と感じないように. 導する。. するため(C). 過敏. 特別扱いしなレ. ・必要以上に心配し過ぎない(a). ・作文や日記に友人とのトラブルや家庭. ・原因を無理に聞き出さない(a). に関する内容を書いた児童へのコメン トに、「いつも見ているよ」、「心配して. いるからね」と安心感を与えるような 言葉を書き、執拗に問い詰めない。. 雌. 情緒的不安定. 安心感を与える. ・児童が安心感をもてるようにす るため(b). ・児童を落ち着かせるため(b). ・児童の目線に合わせたり、肩に手を回 してスキンシップを行う。. ・業間休みに児童が知っている童謡や J■pop,K−popを流す。. ・登校中に機嫌を損ね校門付近で駄々を こね、座り込んでいる児童に対して、 児童の隣にそっと腰掛け、わが子に言古. すように優しい言葉遣いで話しかけな がら、児童を落ち着かせる。 感情のコントロール. 気持ちの整理を助ける. ・児童が気持ちの整理がつくよう にするため(b). ・相手を伴うトラブルヘの対応には、始 めに「何が嫌だったのか」、「なぜトラ. ブルになったのか」を両者から平等に 聞いたうえで事実を確認し、お互いの すれ違いを修正しながら原因を明確に し、それぞれを指導する。. 意欲の低下 苦手意識をもたせなし. ・「どうせ自分にはできない」とい. ・学年を跨いで、既習事項から入ったり. う気持ちを抱きやすいため(C). クイズ形式で発問をしたりしながら、. 徐々にレベルを上げ本時の目当てにつ. 一189一.
(17) なげる。. ・学級に所属感をもたせるため(a). 自尊感情の低下. ・さりげなく手伝いを頼む。. ・小さなことでも褒め、できたことを褒. めてもらえる場面を数多く体験させ る。. ・バスケットの練習時、手本として全体. の前でプレーさせ、みんなから拍手を もらうことで認められていることを実 感させる。. 行動 苛立ち. な気持ちを溜めさせ伽. ・小さい苛々を抱えたままにする. ・自分の気持ちを言葉で表現できない児. と、それが蓄積した時に、突発. 童に対して、教員が単語をつなげ文章. 的な言動にっながってしまうた. として反復する。. め(b). 衝動的な暴言. 暴言への気付きを促. ・これまでの育ちから身についた 暴言を改善させるため(C) ・児童自身に、暴言が無意識的、. ・他児童から注意されたことに対して「殺 すぞ」、「最悪な人や」と突然言った児. 童に対して、すぐに反応し、落ち着い. 突発的に出てしまっていること. た語りでrそんな言葉言っていいんか.. に気付かせるため(C). な?」と問いかけるように注意をする。. ・暴言を使わないように習慣化さ せるため(o). ・パニックになっている時には理. パニック. 屈が通じないため(C). ・時間を置いてクールダウンさせたり、. 冗談や児童の息抜きになる事を指導の なかに挟んでガス抜きをする。. 人聞関係の特徴. 協調性の欠如. 他者理解を促. ・役割や立場を変えて考えさせ他 者の存在に気付かせる(C). コミュニケーシ ョンカの欠如. ・r相手はどういう気持ちになる?」、『も. し自分が同じことされたらどう?」と. ・相手の気持ちを考えさせる(o). 問いかけ、他者の存在について考えさ. ・他者の気持ちを考えさせる(b). せる。. ・自分の本当の気持ちを表せてい. ・茎の長さを測る課題があったとき、も. ないために、友人に正しく理解. のさしをもっていなかったため課題に. 一190一.
(18) されないことがあるため(a). 取り組めていなかった児童がいた。友 人に「貸して」と頼めずにいる様子を 見て、「誰か貸してくれる人はいないか な?」と児童の代弁をする。. 橋渡し役をする. ・教師の関わり方が子ども同士の. ・その時々に合った関わり方を教える。. 関わりにもつながるため(a) ・社会に出たときに「お父さん、. 親子関係の不全. お母さん」といった文言は、日 常的に使われるため(a,b). ・家庭の温かさを感じさせるため. 親子で行うようなこと(料理や キャッチボール等)を体験させ. ・児童養護施設との共通認識のもと、「お. 父さん、お母さん」と言った文言は使 う。. ・総合的な学習の時間に児童と一緒にお. 菓子作りを行い、親子で料理をするよ うな雰囲気を体験させる。. る(C). 社会生活スキル. 社会的適応への配一,. の欠如. ・外食施設や公共機関の利用の仕 方を体験させる(C). ・校外学習などでお弁当ではなくレスト. ラン等で食事をし、料理の注文の仕方 や外食施設の利用の仕方を教える。 ・駅の改札で児童自身に切符を購入させ、. 公共機関の利用の仕方を教える。. 第2節 学級担任としての支援の基本と関わりにおける留意点 学級担任の支援における基本は、第一に、被虐待児に関わる教員が、虐待を受けてきた という過去をしっかりと踏まえ、r被虐待児の特徴を理解すること」と、第二に、r被虐待 児との信頼関係を構築すること」にあると言える。関係性が構築されることによって、被 虐待児がr育ち直し」を行うための基盤が形成されると考える。したがって、学級担任は、. 学校における日常的な教育活動を通して、被虐待児の育ち直しを支援することができる立 場にいると言える。. 被虐待児の特徴の理解については、第2章で述べたr被虐待児の特徴」が、学校場面で はどのような行動として表れることが多いかを把握しておくことが不可欠である。教員と 被虐待児の関係が、親と同様の虐待状況の再現に陥らないように意識することが大切であ る。. 被虐待児との信頼関係の構築に関しては、r親」という大人から虐待を受けてきた被虐待. 一191一.
(19) 児は、「大人」という存在に対して不信感や恐怖感をもっていることを意識する必要がある。. 一番廿えたい対象である親に甘えることができなかったり、感情を素直に表出したくても 表出できなかったりする環境にいたために、「どうせ自分は受け入れてもらえない」、とい う感覚を抱き、「甘えることを知らない」まま成長してしまう可能性がある。学級担任は、. 教員であるとともに一大人である。したがって、被虐待児が抱く大人への不信感や恐1有感. を払拭できる立場にいるとともに、更にはネガティブな心理状態を立て直すための基盤と なる愛着対象にもなり得る存在であるということを意識して関わることが望まれる。 関わりにおいて留意すべき点として、次の二点が指摘できる。. 一点目は、被虐待児の苛立ちのサインを見落とさないこと」である。行動の始めに見ら れるちょっとした苛立ちのサインを見て取り、パニックとして行動に表出される前に気付 き、気持ちを落ち着かせることが大切である。. 二点目は、「試行動にのみこまれないこと」である。担任をわざと困らせる言動を示す場. 合がある。そのとき、これは試行動(求愛行動)であり、甘え直しをしているものと捉え ることが大切である。「この人は本当に自分を受け入れてくれるのか」、「自分が感情を表出. しても大丈夫か」と試しているのである。そのため、いけないことはいけないと端的に指 導するのはよいが、決して感情的にならないように努めることが求められる。このような やり取りの中で担任との信頼関係が築かれ、被虐待児自身も「育ち直し」をしていくため の基盤を獲得していくことになるのではないだろうか。. 以上のことは、生徒指導という点から考えたときに、被虐待児に対してだけではなく他 児童に対しても一般的に行われるべき望ましい関わりであると言える。しかし、被虐待児 への関わりにおいては、如何なることがあっても忘れてはならないことであると思われる。. 第6章総合考察と今後の課題 第1節総合考察一レジリエンスの視点からみた関わりの特徴一 被虐待経験のある児童への関わり方を検討するために、被虐待児への理解と関わりの専 門性が高いと思われる教員の関わり方を観察し、その特徴を抽出した。その結果、具体的 な指導支援行動は異なっていても、関わりの意図には共通点が見出された。その基盤に流 れるものは、「レジリエンスを高めるための道筋を示す」ということである。. レジリエンスとは、小塩(2002)によれば「困難で脅威的な状況にもかかわらず、うま く適応する過程・能力・結果のこと」である。社会においては生活上、虐待や事件、事故、. また自然災害や経済的な問題など回避・解決が困難な出来事が起こる可能一性がある。この. 一192一.
(20) ようなストレスやネガティブなライフイベントを経験しながらも、精神的不健康に陥らず、. 心理的、社会的に良好な状態を維持し、適応的な生活を送っている者も少なからずいる。. ネガティブなライフイベントを経験してもそれを糧とし、乗り越えていくプロセスを理解 するのに有効な概念が、レジリエンス(resilience)である。. レジリエンスの概念については、未だ十分な精激化が図られていないが、日本の代表的 な研究としては、次のようなものがあげられる。. 小塩(2002)は、レジリエンスの構成因子として、興味や関心の多様性を表す「新奇性 追求」、自分の感情をコントロールする「感情調整」、将来に目標をもつなどの未来に対す. る肯定的な志向性を表す「肯定的な未来志向性」の3因子をあげている。また、石毛・無 藤(2005)や大石・岡本(2009)の研究では、自分の判断や行動を見直そうとする心1性で ある「内省性」、困難に対して音を上げず自ら取り込もうとする態度である「遂行性」、ネ ガティブな心理状態を立て直すために他者との関係を基盤にしようとする「内面共有性」、. 物事をポジティブに考える傾向を表す「楽観性」の4つの因子から成ることが指摘されて いる。. レジリエンスの視点からみた被虐待児への関わりの特徴をまとめると以下の通りである。 第一に、「大人になった時のことを考えて」、「親になった時のことを考えて」と子どもが. 養育者になった時のことを考えた関わりや、「社会に出た時に嫌な思いをしないように」、. r将来強く生きていけるように」という子どもが将来社会に出たときのことを考えた関わ りがなされている。これは、小塩(2002)のいう「肯定的な未来志向性」にあたると思わ れる。. 第二に、「児童の心情に合わせて対応」したり、「気持ちを整理させる」話の聞き方をし. て、感情を落ち着かせる関わりや、指導する時は「相手の気持ちを考え」させたり「立場 を置き換えて」考えさせながら自己の行いを振り返らせる関わりがなされていた。これは、. 石毛ら(2005.2009)のいう「内省性」に関わるものと考えられる。これらの関わりを通 して、子どもと教員との間に信頼関係が構築され、「内面共有性」が育まれていくのではな いかと考えられる。. 第2節今後の課題 学校現場における観察を通じて、教員と子どもの関わりとともに、子ども同士の関わり. や、学級全体としての支援の在り方が、被虐待児に大きく影響しているのではないと思わ れた。本研究においては、被虐待児に対する教員の関わりに焦点を当てたため、この二点. 一193一.
(21) については触れることができなかった。被虐待児と他児との関わりや、被虐待児が在籍す る学級全体としての支援の在り方についての分析を行うことが、今後の課題である。. 引用文献 Barrett−Kruse,C.,Mart inez,E.,and Car11,N. 1998 Beyond report ing suspected abuse :Pos i tive1y influencing the deve1oPment of the student within the c1assroom 〃。允∫3ゴ。η∂ノ ∫o力。o∫ Cbαη8θノゴ〃9. 1:3 ,57−60. 法務総合研究所2001一児童虐待に関する研究一(第1報告) 法務総合研究所研究部報告 第11号 古田洋子 2011子どもの行動に及ぼす影響 こころの科学 通巻159号 68−73. 池田由子 1987児童虐待ゆがんだ親子関係 中央公論柱 石毛みどり・無藤隆 2005中学生における精神的健康とレジリエンスおよびソーシャル・サポートとの関連 一受験期の学業場面に着目して一教育心理学研究53(3)356−367. 柏女霊峰・才村純2001子ども虐待のとりくみ ミネルヴァ書房 2−13 J・・nK・ufm・nandEdw・rdZig1・r,Ph.D.1987D。・bu・・d・hi1d… b…m・・bu・i・・p・…t・?. ルθrゴ・釧伽伽W〃柳ゴ。/5∫oo加ゴ・η57(2)186−192. 数井みゆき 2003展望子ども虐待一学校環境に関わる問題を中心に一教育心理学年報 第42集 148−173 子どもの虹情報研修センター 2009平成19・20年度研究報告書被虐待児の学校場面における支援に関する調. 査研究社会福祉法人横浜博前会子どもの虻情報研究センター 厚生労働省 httpl//㎜.mh1w.go.jp/stf/houdou/2r9852000002fxos−att/2r9852000002fy23.pdf(2012,IO.15 アクセス). 厚生労働省 http1//㎜.mh1w.go.jp/bunya/kod㎝o/syakaiteki_yougo/O11 htm1 (2012.11.28アクセス). 小木曽宏 2004家族援助の方法と実際(5)一r被虐待」とr非行」問題の世代間連鎖一 千葉明徳短期大. 学紀要第25号3−12 大石郁美・岡本祐子 2009青年期における時間的展望とレジリエンスとの関連 広島大学大学院心理臨床教 育研究センター紀要 第8巻 43−53. 小塩真司・中谷素之・金子一史・長峰伸治 2002ネガティブな出来事からの立ち直りを導く心理的特性一精. 神的回復カ尺度の作成一カウンセリング研究Vo1.35No.157−65 小野善郎 2011展望・子ども虐待の視座 こころの科学通 巻159号 18−23. 斉藤学2001児童虐待というトラウマ斉藤学編児童虐待一臨床編金剛出版 Zeanah, C.H. and Zeanah, P.D., 1989 Intergenerationa1 transmission of maltreatment :Insights from attachment theory and research. 月∫ア。カゴ∂亡γア; 52, 177−196.. 一194一.
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