ジグソー法を取り入れた演習の試み
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(2) 北海道教育大学紀要(教育科学編)第67巻 第₂号 Journal of Hokkaido University of Education(Education)Vol. 67, No.2. 平 成 29 年 ₂ 月 February, 2017. ジグソー法を取り入れた演習の試み 戸 田 ま り 北海道教育大学札幌校発達心理学研究室. Introducing Jigsaw Method to the Course of Developmental Psychology TODA Mari Department of Developmental Psychology, Sapporo Campus, Hokkaido University of Education. 概 要 大学教育において,教える学問の内容ではなく学生が積極的に勉学に取り組むための手立て を準備することは,重要と指摘されつつも,これまで必ずしも頻繁には顧みられてこなかった。 今回,より深い学びを促すため学部の専門科目における演習にジグソー法を導入した。その授 業実践について報告する。同じ教員による過去の専門科目の事後評価と比較すると,授業以外 での学習時間は増加傾向が見受けられ,わずかではあるが出席率も向上した。また,この方法 についての受講生の評価は比較的高いものであった。こうした方法を用いる場合の利点と課題 について考察した。. 問 題. められている。それには過去にそうであったよう な知識注入型の教育だけでは間に合わず,主体的. 平成24年8月,中央教育審議会は「新たな未来. 能動的に自分から新しいことを学ぼうとする姿勢. を築くための大学教育の質的転換に向けて」とし. を育てなくてはならない。. て今後の中長期的な大学のあり方について答申し. 一方,現在の大学生がどの程度,学修に時間を. た(中央教育審議会,2012) 。大学はめまぐるし. かけているかを調べてみると,はなはだ心許ない. く変わり続ける予測困難な社会に対応し,これを. 結果となっている。2013年に京都大学と電通育英. 切り拓いてゆく人材を育成するための最前線であ. 会が共同で行った全国の国公私立大学生に対する. るべきとの見解がある。さらに,進学率の上昇に. 調査では,一週間に授業に関する予復習,課題な. より大学に進学する層が従前と同じではないこと. どを行う時間は平均で4.89時間であった。これに. から,教育の方法自体に思いきった変革が必要で. 「授業とは関係のない勉強を自主的にする(平均. あるとの見方も強い。単に既存の知識を学ぶだけ. 2.46時間)」, 「勉強のための本(新書や専門書など). では不十分であり,答えのない課題に取り組み,. を読む(平均1.82時間)」を足しても,合計で9.17. 想定外の困難にも立ち向かってゆける人間像が求. 時間であり一日に換算すると約1時間19分にすぎ. 55.
(3) 戸 田 ま り. ない。これに対し,テレビは週平均9.52時間,メー. 上,手抜きをすることができず,積極的能動的な. ルやSNS等は8.29時間,ネットサーフィンは9.08. 活動が行われやすいと考えられる。もともと人種. 時間となっており,合計で週平均26.89時間,一. 間緊張の高い学校において協同的な学習を導入す. 日平均に換算すると約3時間50分が使用されてい. ることで児童間の偏見や人間関係を改善しようと. る。学生が授業以外に学修する時間は,テレビや. 試みられたものだが,結果として学習効果も高く. インターネット等の3分の1というのが実態であ. なるとされている。. る(京都大学/電通育英会共同,2013) 。前述の. このジグソー法を,個々人の知識の統合を支援. 中教審答申の中にある全国の学長,学部長に対す. する方法として利用しようと開発されたのが三宅. るアンケート調査でも,学生の授業外の学修時間. ほか(2011)による知識構成型ジグソー法である。. が「不十分」 「やや不十分」とするものが約75%. 小中高校の授業改善のために設定されたが,大学. であった。さらに学生に「自ら学び考える習慣が. 教育においても利用され,多くの実践と検討が行. 不足」しており課題であると考える割合も8割以. われている。三宅らは中学理科と高校古典での導. 上にのぼっている(中央教育審議会,2012)。. 入事例を紹介しているが,いずれの授業でも事後. 自ら学び,考える姿勢は,学問のみならず様々. にねらいとして設定した知識内容が深まっている. な課題とその解決を追究する上で不可欠であり,. ことが認められた。大学教育においては,友野. 大学教育で最も重視されなくてはならない側面で. (2016)が教職科目の3つの講義においてジグソー. あろう。これまでの大学教育では,この側面の涵. 法を取り入れ,学生の参加度の向上に一定の効果. 養を個々の学生の意欲や能力に帰してきたきらい. が見られ評価も肯定的であると報告している。し. がある。しかし意欲的な学生だけが進学してくる. かし自分が担当しなかった部分の理解が不十分に. とは限らず,こうした側面を育てるようなカリ. なったり,グループ内での話し合いが十分できな. キュラム構成と教育方法が求められている。20年. いこともあり,改善の余地が示された。児玉・小. 以上前から大学教育についても多くの実践が積み. 山(2016)では,受講生が300名を越える講義科. 重ねられているが(例えばRabow, et al., 1994 丸. 目において複数回のジグソー法を導入し,活動中. 野・安永(訳)1996;宇田,2005;Barkley, et al.. の自己評価や授業後の自己効力感を調べると共に. 2005 安 永( 監 訳 )2009; 小 田・杉 原,2010,. 講義内容の理解について検討した。専門科目の内. 2012) ,大学での教育全般を大きく変革するには. 容に対する興味や学習意欲については9割以上の. 至っていないのが現状である。. 学生から肯定的な評価を受けた。また,ジグソー. こうした大学教育の改善は初年度学生向けの入. 法を導入しなかった過年度の同一科目の学生の成. 門科目や教養科目等で検討されることが比較的多. 績と比べたところ,導入後の学生の成績が上昇し. いが,戸田(2015)は専門科目である演習におい. ていることがうかがわれた。湯澤(2016)では,. て学生の学修時間を上昇させるためにジグソー法. 発達障碍を字面だけでなく自分ごととして理解す. の導入を試みた。ジグソー法とは,小集団(元集. るために複数回のジグソー法を取り入れ,一定の. 団)があるテーマについて学習する目標を与えら. 教育的効果を得ている。また武田ほか(2016)は,. れ,各成員が別の集団におもむき別々の関連テー. 小グループでのディスカッションや問題基盤型学. マについて学び,その後,元集団に戻ってそれぞ. 習(Problem-Based Learning)の効果を高める. れの学習内容を伝えて全体的な理解を深めること. ためにジグソー法を導入し,受講生のレポートを. を狙った協同学習の一方式である(Aronson, et. テキストマイニングの手法で分析して授業方法の. al., 1975;蘭,1980;友野,2015)。ひとりひとり. 効果測定を行っている。. が集団で学んだことを元集団に戻って学んでいな. 戸田(2015)が専門科目の演習においてジグソー. い他の成員に伝えなければならないという構造. 法を取り入れたのは,授業時間以外の学生の学習. 56.
(4) ジグソー法を取り入れた演習の試み. 時間が少ないことに危機感を覚えたのがひとつの. 授業目標は「①特定のテーマについての最新の. 理由である。一般に専門の演習で専門領域の先行. 研究動向を学ぶ」および「②研究をどう組み立て. 研究について学ぶ場合,レポーターを割り当て,. るか考えることができる」の2点である。到達目. レポーターが資料や論文を読んできて発表し残り. 標としては,①については「そのテーマの問題背. の受講者はそれを聞いて質問する,という形式が. 景と研究動向について説明できる」,②について. 多いと思われる。この形式は一見すると受講者の. は「身近な事項とテーマを結びつけ新たな研究計. 能動的な学習を促しているように見えるが,詳細. 画を立てることができる」とした。具体的な内容. に内実を検討すると,レポーターだけが入念な準. としてはレジリエンス(精神的回復力)を取り上. 備をして後の者は当日聞くだけとなる場合も少な. げ,これについて検討している実証論文を読むこ. くない。また,自分の担当以外の部分については. ととした。. 受け身になりおざなりな学びに終始する,担当で. 受講者は同専攻の学部2年~4年22名であっ. はない部分は予習復習が積極的に行われず知識と. た。専攻生ではあるが2年生と4年生ではこれま. して定着しないなどの課題が挙げられる。つまり. でに学んだ知識の量も異なる。また2年生は心理. もともと意欲的な学生以外は,担当のレポーター. 学での実験や調査方法および統計的分析などの方. にならない限り積極的能動的な学びが行われにく. 法論をこの授業と平行して履修中である。従って. い状況があると思われる。このような「担当者だ. 論文を読み解く際,未習のテクニカルタームや分. けが学び,担当者以外の受講者が受動的にしか学. 析方法等があり理解が困難になることも予想され. ばない」ことが起こりえる授業形態ではなく,ひ. る状況であった。なお,この授業は,初めてジグ. とりひとりが能動的に学ぶことを促す演習の形式. ソー法を導入した2015年度前期の「発達心理学演. を探るためにジグソー法が導入された。同じ授業. 習Ⅰ」(戸田,2015)と同じ時間帯に設定してあ. 者の過年度の授業と比較すると「1回の授業につ. り受講者は前期と同じであったため,全員がジグ. き予復習をしない」者が29%からゼロに減るとい. ソー法を用いて論文を読む経験を有している。. う結果を得た(戸田,2015) 。ただし授業者も受 講者も共に初めての試みであったために試行錯誤. 2 授業の流れ. 的な面があり,必ずしも毎回の演習がスムーズに. 15回の授業の流れをTable.1に示す。初回に取. 進んだわけではなかった。. り上げる概念について講義し,今後の授業の進め. そこで本研究では戸田(2015)で行った授業形. 方の説明を行った。第2回に論文類①として当該. 態をより洗練し,受講生の予復習時間をさらに伸. 領域のレビュー論文3本を用意し,22名を3~4. ばし学修内容の定着を図ることを目的として授業. 名ずつのエキスパートグループ①に分けてグルー. 実践を行い,予復習時間や出席率,授業に対する. プごとに発表レジュメを作成することとした。. 意欲などがどのように変化するかを検討すること. 第3回には各エキスパートグループからひとり. とした。. ずつとなるようホームグループ①を設定し,そこ で自分が担当した論文の内容を発表した(Fig.1)。 第4回及び第8回には,それぞれ論文類②,③と. 方 法. して論文数に応じた新たなエキスパートグループ. 1 授業の概要. を設定し,グループで指定された論文を読んで発. ジグソー法を取り入れた授業は,2015年度後期. 表資料を作成した後,各々のメンバーが新たな. の「発達心理学演習Ⅱ」である。この授業は教育. ホームグループ②および③に移動して発表を行っ. 臨床専攻発達・教育心理分野. 注1). での専門科目で. あり,選択必修として設定されている。. た。論文類②では同じひとつの尺度を用いた6本 の論文を選んだ。論文類③では同一著者同一テー. 57.
(5) 戸 田 ま り. Table.1 全体の授業の流れ 授業 回数. 内容. 論文類数. ジグソー活動. 研究協力依頼 学習意欲評価1. 1. 概念説明と講義. 2. 論文類①配布とグループ分け. 3. 論文類①の発表. 4. 論文類②配布と次のグループ分け 論文類②に関わる全体講義. 5. 論文類②の発表. ホームグループ②で各自発表(前半3本). 6. 論文類②の発表. ホームグループ②で各自発表(後半3本). 7. ルーブリックについての講義 発表評価のルーブリック試作. 8. 論文類③配布と次のグループ分け. 論文類① 計3本. エキスパートグループ①で資料理解と発表 準備 ホームグループ①で各自が発表. 論文類② 計6本. エキスパートグループ②で資料理解と発表 準備. 中間評価(大学公式の授業評価) 論文類③ 計5本. エキスパートグループ③で資料理解と発表 準備. 9. 論文類③の発表. ホームグループ③で各自発表(前半3本). 10. 論文類③の発表. ホームグループ③で各自発表(後半3本). 11. 論文類③の全体まとめ 試作ルーブリックについての議論. 12. 論文類④配布と次のグループ分け. 13. 発表準備. 14. 論文類④の発表(全体). 15. 論文類④の発表(全体) まとめ. エキスパート(読解)グループ 【論文A】 a1 a2 a3. 【論文B】 b1 b2 b3. 【論文C】 c1 c2 c3. 授業及びジグソー法に対する学生評価. 論文類④ 計6本 論文類④についてはジグソー活動を行わ ず,小グループそれぞれが論文を1~2本 ずつ担当し,全体に対して学会発表形式で 学習意欲評価2 報告を行った。 ジグソー法評価(選択式,自由記述) 期末評価(大学公式の授業評価). かりづらく全体像が把握しにくかったため,最後 ホーム(発表)グループ a1 b1 c1. a2 b2 c2. a3 b3 c3. の1回は敢えて通常の発表形式とした。 この他,他者の発表を能動的に聞いて理解する ことを促すため,それぞれの発表ごとに疑問や意 見,感想等を述べるワークシートを作成し,小集 団(ホームグループ)における口頭での質疑とは. Fig.1 ジグソー学習を取り入れた論文読解と発表 のイメージ 図注)各a1からc3は,各々の受講生を表す。. 別に記入を求めた。これらワークシートは成績評 価に使用した。なおこれ以外に,演習中にルーブ リックを用いた評価方法を紹介し,今回の発表を 評価するためのルーブリックを受講生間で試作す. マによる5本の論文を選んだ。グループ分け及び. る事も行っているが,本論文では取り上げない。. 人数調整,論文の選択は全回にわたりすべて教員 が行った。グループ構成にあたっては,なるべく. 3 授業およびジグソー法についての受講者評価. 学年がバラバラになるように,そして同じ人と何. ⑴ 授業評価. 度も同じグループとならないように配慮した。以. 大学として行っている授業の期末評価を利用. 上,ジグソー法を用いた論文読みは計3回行われ. し,授業1回についての予復習時間と,授業に対. た。第12回以降の論文類④についてはジグソー法. する満足度を取り上げた。満足度に対する回答は,. ではなく,小グループ単位での全体への発表とし. 「非常に満足」から「非常に不満」までの5段階. た(Table.1の「ジグソー活動」欄参照)。すべて. 評定である。. ジグソー活動にしてしまうと,他のホームグルー. ⑵ 授業に対する学習意欲. プでどのような質疑や議論が起こっているのかわ. 初回と最終回(第15回)の授業内に,受講者の. 58.
(6) ジグソー法を取り入れた演習の試み. 学習意欲をたずねた(Table.1の「学習意欲評価. 上げた演習Ⅱ,および同じ授業者の過年度授業. 1および2) 。岡田・中谷(2006)による大学生. (2014年度前期「発達心理学」)についてである。. 用学習動機づけ尺度より「内発」, 「取り入れ」, 「同. 今回の演習Ⅱで予復習を「していない」という者. 一化」の3つの下位尺度を使用した。ただし回答. はいなかった。初めてジグソー法を取り入れた演. 者の負担軽減のため,元論文でそれぞれの因子に. 習Ⅰでは1回の授業あたり0.5~1時間の予復習. 負荷量の高かった5項目( 「同一化」については. と答えた者が多かったが,今回の演習Ⅱでは1時. 3項目)を抽出してたずねることとした。これら. 間以下は半数以下となり,1~2時間と答えた者. に加え,学生が授業を受講する時にあり得る「な. が47%,2~3時間が13%であった。ただし過年. んとなくなりゆきで」, 「友だちと一緒だったので」. 度および演習Ⅰと比較して統計的な有意差は得ら. の2項目を加えた。学習意欲評価2は最終回であ. れていない。. るため,項目文章の語尾を過去形に書き換えると. 学習満足度は「非常に満足」が46%(演習Ⅰ). 共に, 「時々全部やめてサボりたくなった」の1. から67%(演習Ⅱ)と割合としては増えたが,こ. 項目をさらに加えた。回答は「あてはまる」から. ちらも統計的に有意な差には達していない. 「あてはまらない」までの5段階評定である。. (Fig.3)。過年度授業も含めいずれの授業におい. ⑶ ジグソー法についての評価. ても「不満」, 「非常に不満」と答えた者はいなかっ. 最終回(第15回)に,ジグソー法を行ったこと. た。. について多肢選択式の質問に対する回答を求め. 全体の出席率平均は92.7%であった。これは同. た。選択肢は「面白かった」「つらかった」「よく. 一受講者が前期に受講した演習Ⅰの出席率94.8%. わからなかった」 「学習の助けになった」 「その他」. よりは低いが,図中に取り上げた過年度授業(2014. の5つで,あてはまるものをすべて選択する形式. 年度「発達心理学」:91.3%)や,ジグソー法を. である。これ以外にジグソー法を用いて演習を. 取り入れなかった2013年度の同じ演習科目(発達. 行ったことについて自由な感想を求めた。. 心理学演習Ⅰ:88.1%,同 演習Ⅱ:88.6%)よ り高い(戸田,2015)。. 4 倫理的配慮 初回に,この演習全体を授業研究の対象とした. 2 学習意欲について. い旨を口頭と書面で説明し,研究に協力できる場. 岡田・中谷(2006)から抜粋した項目群につい. 合は署名する文書を配布した。授業は通常通り行. ては,それぞれの下位尺度ごとに平均評定値を求. われるが研究への参加は自由であり,自分を対象. めた。受講前および受講後の各得点についてクロ. としてほしくない場合は署名する必要はないこ. ンバックのα係数を求めたところ,「内発」 , 「同. と,参加拒否によるいかなる不利益も生じないこ. 一化」得点はいずれもα=.66~ .85と満足すべき. とを説明した。協力を拒否する受講生はなかった. 値であった。「取り入れ」得点も試算したが,受. ため,受講生22名すべてのアンケート等を分析の. 講前のα係数が.35,受講後も.56と低かったため,. 対象とした。. 平均評定値は用いず項目ごとに比較することとし た。. 結 果. Table.2に受講前後での得点の推移を示す。学 習に対する内発的な動機づけと,内容に価値があ. 1 学習時間と学習満足度および出席率. ると認め積極的に取り組もうとする同一化は受講. Fig.2に期末評価に回答された授業1回あたり. 前後で変化が見られなかった。不安や恥を回避す. の予復習時間を示した。示されているのは戸田. るための動機づけである「取り入れ」項目として. (2015)で分析した前期の演習Ⅰと本研究で取り. 当初設定された5項目のうち,「しておかないと. 59.
(7) 戸 田 ま り. 3 ジグソー法についての評価. 演習Ⅱ(今回). Fig.4は受講後にたずねたジグソー法について. 演習Ⅰ. の評価である。それぞれの質問に「あてはまる」. 過年度の授業. 0%. 50%. 0.5~1時間. していない. 1~2時間. 100%. 2~3時間. 3時間以上. Fig.2 1回の授業あたりの予復習時間. と回答した者の割合を示した。「面白かった」が 7割を超えたのに対し,「学習の助けになった」 と回答した者は4割に満たなかった。「よくわか らなかった」者も2割弱,存在した。 4 自由記述. 演習Ⅱ(今回). Table.3に受講後のジグソー法についての自由. 演習Ⅰ. 記述を示した。なお,Table.3の記載はすべて元. 過年度の授業. の記述を「である」調に変更すると共に,口語的 0%. 1:非常に満足. 50% 2:満足. 100%. 3:どちらとも言えない. Fig.3 授業に対する満足度. な表現を文章体になおし,ジグソー法以外の内容 が書かれた部分は削除してある。これは記述内容 から個人が特定されるのを避けるためである。 記述は10個あり,ジグソー法の長所を指摘した. (授業を取っておかないと)不安」は下降傾向が. ものが1,ジグソー法に限らずグループとして学. 見られたが,他の4項目は受講後,有意に上昇し た。特に「良い成績や評価を得たい」,「課題など. 学習の助けになった. を与えられるから(やる)」の2項目は0.1%水準. よくわからなかった. で上昇していた。追加で加えた「なりゆきで出席」,. つらかった. 「友だちと一緒だったので」の2項目はどちらも. 面白かった. 5%水準で下降した。受講後のみにたずねた「時々. 0. 20. 全部やめてサボりたくなった」は,1.95と「あて はまらない」側に偏った平均評定値であった。. 40. 60. 80. (%). Fig.4 「ジグソー法について」の受講後の回答(%). Table.2 受講前後での平均評定値とSD 平均(SD). t値. 受講前. 受講後. 学習動機づけ尺度(内発). 3.51(0.58). 3.72(0.63). -1.69. 学習動機づけ尺度(同一化). 3.46(0.79). 3.60(0.92). -0.57. しておかないと不安. 2.95(1.16). 2.43(1.12). 1.99†. 良い成績や評価を得たい. 2.24(1.04). 3.52(0.98). -4.79***. 課題などを与えられるから. 1.71(1.00). 3.52(0.93). -5.92***. まわりに能力を示したい. 1.24(0.44). 1.76(1.09). -2.06†. しなければならないようになっている. 2.76(1.22). 3.43(1.25). -2.14*. なりゆきで出席. 2.52(1.21). 1.90(1.00). 2.15*. 友だちと一緒だったので. 2.29(1.55). 1.76(1.09). 2.75*. 時々全部やめてサボりたくなった (受講後のみ). 1.95(1.17) †. :p<.10, :p<.05,**:p<.01,***:p<.001. 60. 100. *.
(8) ジグソー法を取り入れた演習の試み. Table.3 ジグソー法についての自由記述 ◦ジグソー法の長所について グループ学習では自分の担当場所しか念入りに勉強しないことが多いが,ジグソー法だと一人で全部発表する ので勉強しなければならず,嫌でも学べるのが良い。 ◦グループ学習の長所について わからないところはグループで聞いて,そこで解決したり教えてもらえたりするのが良い。 みんなが論文を自然と理解することになるので,力になる。 知らない人に教えるという観点は必要だ。 ◦グループであることが短所となる場合 みんな意欲満々であれば良い方法だけれど,そうでなければだらけあってしまう。 みんな内容がわからないところは触れなくてもいいかといった雰囲気があり,本末転倒で残念。 ◦メンバーの積極性の温度差 学年等が違う人とグループになった時, (お互いの授業時間の関係で,授業外で予復習するのに)時間を合わせ るのが大変だった。そのため負担が偏ることがあった。 授業を欠席する人がいた。 欠席者が多いとジグソー学習は向いていない。. 習することの長所を述べたものが3,グループで. および内容が将来などに役立ちそうだという同一. あるが故に場合によっては社会的手抜きの方向に. 化については変化は認められなかった。双方とも. かたむく危険を指摘したものが2,メンバー間の. 授業前から高めの評価であったため,変化が現れ. 積極性の違いや負担の偏りを指摘したものが3で. にくかったかもしれない。「良い成績や評価を得. あった。. たい」,および「課題があり」「しなければならな い」という気持ちでの動機づけは大きく上昇した。. 考 察. 授業者が促すだけでなく,ジグソー法を用いるこ とで他の仲間への責任が生まれ,やらなくてはな. ジグソー法を取り入れた演習を二期続け,受講. らないという意識を引き出したのであろう。また,. 生の学習時間や学習満足度等がどのように変化す. 積極的に関わったからこそ良い評価を得たいとい. るかについて検討した。授業外の予復習などの学. う気持ちが強まったことも考えられる。「なりゆ. 習時間は,統計的に有意なレベルには達しなかっ. きで出席」「友だちが一緒だったので」の2項目. たが数値は増加した。前期について検討した戸田. は評定値が「あてはまらない」方向に有意に減少. (2015)と同様,ジグソー法を取り入れなかった. した。当初はそうした気持ちがあったとしても,. 同一授業者の過年度の授業と比較すると,予復習. 受講によってより消極的でない態度に変容したと. 時間は増加傾向にあると考えられる。授業に対す. 言える。. る満足度に大きな変化はなかった。これはもとも. ジグソー法自体については「面白かった」とい. と,過年度授業についても「やや不満」「不満」. う評価が7割を超えた。しかし「よくわからなかっ. の回答がなく, 「どちらとも言えない」も少数で「満. た」あるいは「つらかった」という評価もあった。. 足」 「やや満足」に偏った評価であったので,変. ジグソー法という方法がわからなかったのか,ジ. 化が現れにくかったのではないか。出席率はジグ. グソー法を用いて読み解こうとした先行研究がよ. ソー法を取り入れた場合にやや高くなっており,. くわからなかったのか,この回答だけでは判断で. 責任を持って仲間に説明しなければならないとい. きないが,説明や演習の進め方にさらに工夫の余. う形式が影響した可能性がある。. 地がある。自由記述からはグループで学習するが. 学習動機づけを受講前後で比較すると,内容自. ために,「全員がわからなかった部分」が取り残. 体が面白くて学習するといった内発的動機づけ,. されたまま次に進んでしまうという危険が指摘さ. 61.
(9) 戸 田 ま り. れた。これは先行研究でも指摘されていた部分で. の偏りや不公平が起こるのをどう防ぐかという点. あり,ジグソー法に共通する課題だと考えられる. があげられる。これはジグソー法に留まらず,協. (友野,2016)。また,メンバーの積極性に差異. 同学習を行う際に必ずぶつかる課題であろう。授. があると積極的に学習する者から不満が出たり,. 業の仕組みを明確にしルールを徹底することと共. 積極的でない者の理解が不十分のまま授業が進ん. に,今以上に知的な興味関心を引き出すような課. でしまうことがあり得る。実際,ホームグループ. 題設定が望まれる。個々人の元々の積極性に頼る. に戻っての発表を聞くと,エキスパートグループ. のではなく,課題の呈示や活動方法を工夫する,. で相談しながら資料を読み解いていったにもかか. 個々の受講生の既有知識等を把握した上で学力等. わらず,実はよくわかっていないのではないかと. に応じて一律でない課題を設定するなどの試みが. 思われる発表者もあった。理解が深まっていない. 必要である。. 受講生を把握し,間違った理解のまま進まないた. 小中高校への新学習指導要領の改訂時期を迎. めの何らかの手立てが必要である。. え,アクティブ・ラーニングの導入が叫ばれてい. 今回の演習では,半期で計20本の論文を多読す. る。学習者の積極的能動的な学習を促す方法はこ. ることができた。ジグソー法を使用した部分では. れまでも小学校などで広く検討,実践されてきた。. 数名の小人数グループ(ホームグループ)で発表. しかし高等教育になればなるほど学ぶべき内容が. が行われるため,発表者になってもあまり緊張せ. 増え,一方的な知識注入型にかたよりがちであっ. ずにプレゼンテーションができること,全員が必. たのは否定できない。本学は教員養成系大学であ. ず発表をすることである程度は学習への積極性も. り,まず大学教育の中で学生がさまざまな形の積. 引き出せたのではないかと思われる。また小集団. 極的能動的な学びを体験できるよう働きかけてい. であるため,学会発表形式で全体に対してレポー. くことが必須であろう。. ターが発表する場合よりは非公式的な雰囲気があ り,ささいな疑問も気軽に質疑できたのではない. 注. かと思われる。 課題としては以下の2点があげられる。第一に, 各個人の発表を評価する方法が必要である。発表. 1.平成26年度入学生までの名称である。現在は「学校 教育専攻教育心理学分野」である。. 時には一斉に複数のグループが発表を始めるた め, そ の 最 中 に 教 員 が 全 員 の 発 表 を く ま な く チェックするのが難しい。発表中にひとりひとり について,間違った理解をして不正確な報告をし ていないかを確かめるのが困難であった。個々の. 文 献 蘭 千寿 1980 学級集団の心理学 ─Jigsaw学習法を 中心として─ 九州大学教育学部紀要(教育心理学部 門) 25,1,25-33.. 受講生の理解はあとから作成レジュメとワーク. Aronson, E., Blaney, N., Sikes, J., Stephan, C., & Snapp,. シートで判断したが,この点については改善が必. M. 1975 Busing and racial tension: The jigsaw route. 要である。たとえば各グループにTAをつけて資 料内容の読み込みや理解度をチェックする,タブ レット端末を用意して発表を動画として記録する などの方法が考えられる。今回は試行的なレベル に留まり本論文では検討していないが,受講生と 共に発表を評価するルーブリックを作成し,相互. to learning and liking. Psychology Today, 8, 43-50. Barkeley, E. F., Cross, K. P., & Major, C. H. 2005 Collaborative Learning Techniques: A Handbook for College Faculty. John Wiley & Sons, Inc. (安永悟(監訳) 協同学習の技法:大学教育の手引 き ナカニシヤ出版) 中央教育審議会 2012 新たな未来を築くための大学教 育の質的転換に向けて~生涯学び続け,主体的に考え. 評価を行うことも考えられる。. る 力 を 育 成 す る 大 学 へ ~( 答 申 )http://www.mext.. 第二に,受講生間の積極性の差異によって負担. go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo0/toushin/1325047.. 62.
(10) ジグソー法を取り入れた演習の試み. htm (2016.9.23アクセス) 児玉典子・小山淳子 2016 初年次教育における統合教 科の学習を促進するファクターとしてのジグソー法の 試み YAKUGAKU ZASSHI 136(3),381-388. 京都大学/電通育英会共同 2013 大学生のキャリア意識 調査2013 http://www.dentsu-ikueikai.or.jp/transmission/ investigation/result/(2016.9.23アクセス) 三宅なほみ・齊藤萌木・飯窪真也・利根川太郎 2011 学習者中心型授業へのアプローチ:知識構成型ジグ ソー法を軸に 東京大学大学院教育学研究科紀要 51, 441-458. 小田隆治・杉原真晃(編著) 2010 学生主体型授業の 冒険:自ら学び,考える大学生を育む ナカニシヤ出 版 小田隆治・杉原真晃(編著) 2012 学生主体型授業の 冒険2:予測困難な時代に挑む大学教育 ナカニシヤ 出版 岡田 涼・中谷素之 2006 動機づけスタイルが課題への 興味に及ぼす影響 教育心理学研究 54,1-11. Rabow, J., Charness, M. A., Kipperman, J., & RadcliffeVasile, S. 1994 Sage Publications, Inc. (丸野俊一・安永悟(訳) 討論で学習を深めるには: LTD話し合い学習法 ナカニシヤ出版) 武田香陽子・高橋淳・島森美光・益川弘如 2016 ジグ ソー法とPBLを組み合わせた協働学習の学習効果の検 証 大学教育学会誌 38,1,144-153. 戸田まり 2015 大学での演習にジグソー学習を取り入 れた試み 北海道心理学研究 第38号,62. 友野清文 2015 ジグソー法の背景と思想 ─学校文化 の変容のために─ 学苑 No.895,1-14. 友野清文 2016 教職科目におけるジグソー法の実践と 課題 学苑 No.905,54-68. 宇田光 2005 大学講義の改革:BRD(当日レポート方 式)の提案 北大路書房. (札幌校教授). 63.
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