• 検索結果がありません。

小学校における望ましい家庭学習を推進するための方策 ― 教育実践家・教育学者の宿題に関する論説を通して ―

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "小学校における望ましい家庭学習を推進するための方策 ― 教育実践家・教育学者の宿題に関する論説を通して ―"

Copied!
11
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)Title. 小学校における望ましい家庭学習を推進するための方策 ― ・教育学者の宿題に関する論説を通して ―. Author(s). 藤村, 美由紀; 杉本, 任士. Citation. 北海道教育大学大学院高度教職実践専攻研究紀要 : 教職大学院研究紀要 , 9: 145-154. Issue Date. 2019-03. URL. http://s-ir.sap.hokkyodai.ac.jp/dspace/handle/123456789/10424. Rights. Hokkaido University of Education. 教育実践家.

(2) 北海道教育大学大学院高度教職実践専攻研究紀要 第9号. 自由投稿論文. 小学校における望ましい家庭学習を推進するための方策 ― 教育実践家・教育学者の宿題に関する論説を通して ― 藤村美由紀*1・杉本 任士*2. 概 要 本稿は、著名な教育実践家や教育学者の家庭学習に関する論説を整理し、今後の望ましい家庭学習 指導の在り方について検討した。小学校における家庭学習指導は、全国学力・学習状況調査の結果を 受け、近年ますます重要性を増している。論説を整理した結果、家庭学習指導では、宿題として復習 を課すだけでは、学習への関心や意欲、思考力や判断力などを育むことが難しいという指摘が見られ た。また、予習も宿題として課し、授業の中に組み込んでいくことの必要性が示唆されていた。さら に、活用型学力・探究型学力の育成も視野に入れ、家庭学習指導を推進する重要性が述べられていた。 しかし、家庭学習の方針を転換するに当たっては、児童・保護者のみならず教師にも過剰な負担を強 いる可能性がある。今後の家庭学習指導の在り方として、小中一貫した9年間を見通した指導計画を 作成することが望ましい。また、学級担任だけではなく、全ての教員が組織的に家庭学習指導に関わ ることが期待される。. 1.はじめに 本稿では、著名な教育実践家や教育学者の家庭学習に関する論説を整理し、今後の望ましい家庭学 習指導の在り方について検討した。2015年に実施されたTIMSS(国際数学・理科教育調査)の結果 は、2011年の調査に比べて小学4年生の算数・理科、中学2年生の数学・理科において平均得点が上 昇し、1995年の調査開始以来の最高得点であった。また、2015年に実施されたPISA(OECD生徒の 学習到達度調査)に関しても、調査の重点であった科学的リテラシーと数学的リテラシーが加盟国中 トップであった。このことから、日本の児童生徒の学力は概ね好ましい状況であると考えられる。こ の結果について高木(2017)は、日本の教育が目標としてきた「生きる力」がしっかりと育まれてい ることの証明だと述べている。 その一方、国立教育政策研究所(2016)は、TIMSSの算数・数学、理科に対する児童生徒の意識 に関する質問紙調査の結果、前回調査と同様、小学校の「理科は楽しい」という質問項目を除き、国 際平均を下回っている項目が多いことを指摘している。学力が高いのにもかかわらず、学習に否定的 な意見をもつ児童生徒が多いことについては、様々な要因が考えられる。その要因の1つとして考え られるのは、児童の学校の授業以外の学習状況である。国立教育政策研究所(2018)によると、平成 30年度の全国学力・学習状況調査の学校質問紙調査において、 「調査対象学年の児童に対して、前年 ───────────────────── *1. 北海道教育大学教職大学院(大学院教育学研究科高度教職実践専攻)専門職学位課程(現職派遣). *2. 北海道教育大学教職大学院(大学院教育学研究科高度教職実践専攻)函館. 145.

(3) 藤村美由紀・杉本 任士. 度までに、算数の指導として、家庭学習の課題(宿題)を与えましたか」という質問に対して「よく 行った」と回答した学校は83.3%、「どちらかといえば、行った」と回答した学校は16.2%であった。 また、「調査対象学年の児童に対して、前年度までに、家庭学習の取組として調べたり文章を書いた りしてくる宿題を与えましたか」という質問に対して「よく行った」と回答した学校は28.4%、 「ど ちらかといえば、行った」と回答した学校は56.0%であった。また、児童質問紙調査において、 「家で、 学校の宿題をしていますか」という質問に対して、 「している」と回答した児童は68.4%、 「どちらか といえば、している」と回答した児童は23.2%であった。このことから、我が国のほとんどの小学生 は家庭で宿題に取り組んでいるといえる。一方で、児童質問紙調査において、 「家で、自分で計画を 立てて勉強をしていますか」という質問に対して「している」と回答した児童は16.7%、 「どちらか といえば、している」と回答した児童は35.5%であった。また、 「家で、学校の授業の予習・復習を していますか」という質問に対して「している」と回答した児童は18.1%、 「どちらかといえば、し ている」と回答した児童は37.0%であった。したがって、我が国の小学生は、提出の義務があり、決 められた内容の宿題には取り組むものの、自主的に計画を立て自分の課題に応じた家庭学習を行うま でには至っていないことがわかる。このような提出の義務がある決められた内容の宿題が、児童生徒 の家庭での学習の意欲を減退させている可能性がある。 本来、家庭学習は学校の教育課程外の事項であり、義務付けられているものではない。それにも関 わらず、全国学力・学習状況調査の学校質問紙調査では、9項目にわたって質問されている。このこ とからも、学校による家庭学習指導の成果は教育行政としても重要な事項になってきていることがわ かる。 天笠(2013)は、宿題に象徴されるような家庭での学習は、学校が長年にわたって児童や家庭に求 め続けてきたことであり、学校現場にはさまざまなノウハウや実績の積み重ねがあると述べている。 また、中学生になると自ら進んで学習しなくなる子どもがいる現状があることから、成長するにつれ 自律して学習に取り組める子どもを一人でも多く育てることが教育改革の一つの課題であると指摘し ている。これ以降、著名な教育実践家や教育学者の家庭学習に関する論説を整理し、今後の望ましい 家庭学習指導の在り方について検討する。. 2.小学校における現在の家庭学習指導 本節では、家庭学習の定義を整理し、我が国の小学校教員の家庭学習指導の現状について述べる。 中学校・高等学校においては、教科担任がそれぞれに宿題を課すことから、別の機会に論じることと する。 小林(2009)によれば、家庭学習は、一般的に宿題と宿題以外の家庭学習に大別される。宿題は、 教師の直接的な指示・管理の下に行われる家庭学習であり、基本的に授業の一環として行われる。ま た、宿題に対しては、教師が点検・評価・事後指導を加えることが多い。他方、宿題以外の家庭学習 とは、教師の直接的な指示を伴わない自学自習である。これに対しては、教師による内容や提出期日 の直接的な指示・強制の対象とはならない。しかし、自主的な学習としてふさわしい内容の例示や計 画づくりの指導、励ましなどが行われることもあり、必ずしも教師の無関与を前提とした学習ではな い。なお本稿では、家庭学習とは宿題と宿題以外の自主的な学習の2つを指すものとする。宿題は、 教師によって内容や提出期日などを指示・管理されたものであり、必要に応じて点検・評価・事後指 導を伴うものとする。宿題以外の自主的な学習については、以下「自主学習」と呼ぶ。 「自主学習」 146.

(4) 小学校における望ましい家庭学習を推進するための方策. は内容への直接的な指示・管理はないが、定期的・不定期的に内容や提出期日について指導、励まし などが加えられるものである。なお、現在では学習塾や通信教育が児童の放課後の学習に大きな役割 を果たしているが、本稿は小学校教員の家庭学習指導の在り方を論じることを目的としているため、 学習塾や通信教育については本稿では取り上げず、別の機会に譲ることとする。 家庭学習の指導について田中(2009)は、1)家庭学習の習慣化を促進すること、2)自作教材や ノート活用の工夫、3)プロジェクト的課題の導入、4)基礎的指導の充実、5)家庭学習のガイダ ンス、6)家庭学習の点検・評価、の6点を教師の指導行動として挙げている。実際にはこれら全て が行われるわけではない。小林(2009)によれば、家庭学習の習慣化の促進や放課後等の補充指導に は多くの教師が取り組んでいるものの、調べたり表現したりすることを求めるプロジェクト的課題に 取り組ませている教師は、 「とてもあてはまる」 「どちらかといえばあてはまる」という回答の合計で も3割に満たないと報告している。 宿題の内容について佐藤(2013)は、国語科での漢字や言葉の学習、算数科での計算の学習に加え、 音楽科での笛やオルガン、体育科での倒立や逆上がりなど様々であることを指摘している。 「自主学習」について天笠(2013)は、ある自治体で作成された家庭学習の手引きを例に挙げてい る。天笠(2013)によると、その手引きの内容は、児童生徒と保護者に対して、家庭における学習時 間の確保や、主体的・自律的な学習方法の形成などを求めることが主要な柱となっている。天笠 (2013)は、近年こうした手引きを作成・配布し家庭への働きかけを図ったり、家庭学習を求める学 校の取組を推奨したりする自治体が現れていることを指摘し、 「自主学習」といっても学校が主役と なって子どもに家庭での学習を迫り、親は脇役におかれがちなことを批判している。. 3.復習中心の宿題から予習中心の宿題へ 本節では、教育学者や教育実践家の論説を整理し、家庭学習指導における予習指導の必要性につい て述べる。 佐藤(2013)は、学校で習得あるいは定着したものを、学校外で習熟あるいは熟達の状態にさせ、 その状態を持続させるために宿題が行われることが多いことを指摘した。また、佐藤(2013)は、こ うした宿題も必要であるが、これだけでは学習内容への関心や学ぼうとする意欲、課題を解決する思 考力や問題を解決する判断力などを育むことは難しいと批判している。その上で、教師が宿題を出す にあたっては、単元の核となる重要事項を精選し、つけたい力を明確にしながら学習課題を考えるべ きだと論じている。 このような批判は40年以上前から存在していた。村上(1975)は、日本の児童に見られる思考力の 低さや自発性の低さ、学問に対する興味の低さは宿題によるという可能性を示唆している。それは、 宿題が復習重視で予習軽視であり、受身学習であるからである。村上(1975)は、従来の宿題による 復習から、予習を重視し児童が予習してきたことを授業に生かすとともに、復習的反復練習はできる だけ授業の中に包含すべきであると指摘している。その上で、教師はしっかりと目的をもって宿題を 与え、予習の仕方を身につけることができるよう具体的な指導が必要であると述べている。 市川(2004)は、児童に予習を課し授業に生かすという、 「学習の習得サイクルと探究サイクル」 (図 1)を提唱している。市川(2004)は、宿題を出す学校が減少していることを憂慮し、宿題を出さな いほうが子どもは自発的に学習するようになるという論は、目標と過程、あるいは、理想とその実現 方法を混同していると批判している。実際には宿題を出されないと何をどう勉強してよいのかわから 147.

(5) 藤村美由紀・杉本 任士. ないという子どもが多く、家庭学習の習慣 やスキルがつかなくなると論じ、宿題に よって家庭学習の仕方を身につけるように し、次第に自分で計画を立てて勉強できる ようにすることが大切だと主張している。 また、一般的に「教師は授業で勝負する」 と言われているが、授業だけで学習が成立 するのではないことを強調し、予習と復習 があってこそ授業の内容を理解できるのだ と説明している。ただし、こういった「学. 図1 学習の習得サイクルと探究サイクル (市川,2004). 習の習得サイクルと探究サイクル」を行うには、低学年の児童はまだ自ら学ぶ力が身についていない ため難しいとも論じている。そこで、 「低学年型の学習モデル」 (図2)を提唱している。市川(2004) によると、このモデルは、授業の中に全てを包み込む形で行われる。何をどうやっていいかまだわか らない子どもたちに、教師が付き添ってスキルを教えていく形である。そして、小学校高学年くらい から、 「学習の習得サイクルと探究サイクル」に少しずつ転換し、授業を一つのリソースとして自律 的に学んでいく力を育てていく。予習の仕方を教えるには、授業の最初の5分を予習タイムとして、 その日の授業で扱うページを児童に読ませる。読んでもよくわからなかった箇所があれば各自で付箋 を貼り、授業を受けてその箇所の理解が進むようにさせる。市川(2004)は、こうした方法に慣れて きたら、家庭において予習を行わせることを推奨している。 予習の効果については、古くから先行 オーガナイザー研究が行われている。先行 オーガナイザーとは、これから学ぶ内容に ついてあらかじめ与えられる抽象的な枠組 あるいは概念知識のことである(Ausubel, 1960)。篠ヶ谷(2016)は、先行オーガナ イザーの有効性について述べた上で、教科 書を読んで予習した場合、教科書に記載さ れている個々の知識の関連や、授業で初め て扱われる詳細な内容の理解が促進される 可能性が高いと論じた。. 図2 低学年型の学習サイクル (市川,2004). 近年、反転学習の研究が盛んに行われている。篠ヶ谷(2016)によると、反転学習は、知識伝達の 部分を動画教材の視聴などによって自宅ですませ、授業ではその知識をもとに議論を行う授業形態で ある。つまり、全員が予習をしてきていることが前提となる授業形態である。佐賀県武雄市の実践で は、ICT導入の目的の1つに家庭学習の充実を掲げていた(東洋大学現代社会総合研究所,2015) 。 その結果、家庭学習と授業が連動し家庭学習の充実につながったとの報告があった。一方で、反転学 習を実施した教科や取組の時間が限定的であること、教師負担が増えること、児童生徒がどこまで予 習に時間をかけられるかの検証が不足していることも報告されている。篠ヶ谷(2016)は、反転学習 の効果について一定の成果があるとしながらも、反転学習を行うにあたってタブレットなどを用いる ことが前提のように扱われていることを否定し、安易にICTを用いるのではなく児童生徒の理解が促 進される一つの手段として考えるべきであると述べている。 148.

(6) 小学校における望ましい家庭学習を推進するための方策. 4.活用・探究型学力を育成するための家庭学習の在り方 本節では、教育学者や教育実践家の論説を整理し、家庭学習指導によって活用・探究型学力の育成 を図る必要性について述べる。 中山(2013)は、家庭学習を学校での学習の延長としか捉えていないことを問題視している。中山 (2013)によると、本来家庭学習は、学校での知識と子どもたちの日常をつなぎ、学校で学んだこと を外の世界へ広げる役割をもっている。学校での学習は学校内だけで終わるのではなく、日常の世界 ともつながっており、意味があるのだと感じることで子どもたちの学習が大きく広がる。例えば、家 の人と一緒に近所を散歩して発見したことを書くといった家庭学習を挙げ、こうした活動も子どもの 学習経験を広げる重要な家庭学習の一つであると述べている。こうした観点から、学習の定着を図る 復習や、基礎・基本を鍛えるドリル練習だけが家庭学習というのでは、その意義が半減すると指摘し ている。 田中(2013)は、21世紀型学力の育成をねらいとする学校教育の充実にとっては、家庭学習の在り 方を見直し、課題解決的で企画実践的な学びを保証しなければならないと述べている。田中(2013) は、21世紀型学力は、習得型学力・活用型学力・探究型学力・社会的実践力で構成されていると定義 した。このような21世紀型学力の育成は、家庭学習の改善なくしては実現できないと主張し、従来の 習得型学力の育成を目指した家庭学習だけではなく、活用型学力の育成や探究型学力の育成も視野に 入れる必要があることを指摘している。 活用型学力とは、思考力・判断力・表現力のことである。田中(2013)は、活用型学力を育成する ために、家庭学習においては次のような活動を取り入れることを提唱している。1)課題解決型の家 庭学習に取り組むこと、2)多様なジャンルの家庭読書をすること、3)家族で一緒にパズルやクイ ズを解いて楽しむこと。田中(2013)によると、フィンランドがPISA読解力で良好な成績を収めて いるのは、家庭学習で研究レポートを作成し、それを授業の中で練り上げて改善を行う課題解決的な 家庭学習に取り組んでいる成果であると考えられる。また、物語や小説ばかりではなく、紀行文や図 鑑や機械のパンフレットなど多様なジャンルの家庭読書を行い、家庭読書した本について家の人と対 話することによって、基礎的なものの見方や考え方に慣れ、対話力が身につく。活用型学力には、理 詰めで筋道を立てて考える論理力と飛躍する個性的なひらめきや発想力が必要であることから、瞬間 的に課題解決のアイディアを思いつく練習ができる知的なパズルやクイズを家の人と一緒に解いて楽 しむことが重要である。 探究型学力とは、課題を発見し、解決していく力である。田中(2013)によると、家庭において豊 かな実体験をし、地域の人などとふれあうことによって、学校での探究活動の基盤となる力が養われ る。また、自分の家庭学習を自己点検・自己評価することで、課題を発見し改善していく力が伸びて いく。こうした活動を行うことによって、自ら学習課題を立て、主体的に課題を解決する実践力が育 まれ、21世紀の社会で求められる探究型学力が育成できると論じている。. 5.継続的な指導の在り方 本節では、教育学者や教育実践家の論説を整理し、家庭学習指導における継続的な指導の必要性に ついて述べる。 家本(1997)は、小学校において学級の児童の宿題をどうするかは学級担任の指導権に属するもの 149.

(7) 藤村美由紀・杉本 任士. と考えられており、宿題の内容は学級担任の指導観に基づいて決められていたと指摘している。渡邉 (2010)は、教員一人一人が様々な工夫をして家庭学習の習慣形成に努めている様子が見受けられる 反面、実際にはあまり効果が見られないのは、教師間に家庭学習の課題の与え方についての共通理解 が図られていないためであると批判している。そのため、指導の一貫性・継続性が失われ、家庭学習 の習慣形成を困難にしていると指摘している。 田中(2017)は、家庭学習指導を継続的に行うことの重要性について提唱している。田中(2017) によれば、子どもの家庭学習力は、小学校だけで伸ばすものではなく、逆に中学校になって急に育て 始めても効果は薄い。そこで、小中連携教育の要として家庭学習力向上を位置づけ、小学校3年生か ら中学校3年生になるまでの7年間を青少年の家庭学習充実期間とする。田中(2017)は、この期間 中は子どもたちの自己マネジメント能力の向上を目指し、学年が変わっても、担任が替わっても、同 じ中学校区にある小中学校では、どの児童生徒も継続した指導を受けられるようにすることが必要で あると述べている。 また、海外の研究では、Zimmerman(1989)は、自己調整学習(self-regulated learning)という 考え方を提唱している。自己調整学習とは、学習者が、メタ認知、動機づけ、行動において、能動的 に自分自身の学習過程に関与する学習である (Zimmerman,1989) 。Schunk and Zimmerman(1997) は、自らの学習を自ら管理し、効果的に学習を進めていく力は、1)観察的レベル:教師や保護者、 友人など優れた学習者の手本を見る段階、2)模倣的レベル:そうしたモデルの真似をする段階、 3)自己制御されたレベル:他者から教わったスキルを自分で使えるようになる段階、4)自己調整 されたレベル:環境に合わせて学習スキルを応用できる段階、であると分析し、年齢だけではなく、 児童が今どの段階にいるのかを把握した指導が必要であると述べている。. 6.組織的な指導の在り方 本節では、教育学者や教育実践家の論説を整理し、家庭学習指導における組織的な指導の必要性に ついて述べる。 佐藤(2013)によれば、教師は、児童が宿題の提出期限を守れなかった場合には催促や再提出を求 めること、単なる返却をするのではなく真摯に示唆や添削を口頭もしくは文字で行うこと、授業内の 学習状況と比較しながら宿題の達成度や到達度を子ども一人ひとり個別に評価していくことが求めら れる。 一方で、学級担任だけがこのような指導を行うのではなく、学校として組織的に行うべきであるこ とも示唆されている。文部科学省(2017)は、平成29年告示の学習指導要領において、開かれた学級 経営の実現を目指す必要性を指摘し、学級担任が、校長や副校長、教頭の指導の下、学年の教師や生 徒指導主任、さらに養護教諭など他の教職員と連携しながら学級経営を推進することを求めている。 また、文部科学省(2016)は、 「小中一貫した教育課程の編成・実施に関する手引き」の中で、小学 校6年生から中学校1年生になる段階で、上手な勉強の仕方がわからないという子どもが急増してい たり、学校段階間の指導にギャップがあったりすることを明らかにし、9年間を通じてどのように家 庭学習について指導するのか小中学校の教師が時間をかけて議論をすることの価値について言及して いる。 国立教育政策研究所(2018)は、家庭所得、父親学歴、母親学歴の3変数による合成指標である「家 庭の社会経済的背景(Socio-Economic Status) 」の点数が低いのにも関わらず、学力調査における得 150.

(8) 小学校における望ましい家庭学習を推進するための方策. 点が予測値を上回るか、子どもの家庭背景に起因する学力の不平等が統計的に予測される程度に比べ て小さい学校を見出した。それらの学校に共通する特徴は、1) 家庭学習指導、2) 管理職のリーダー シップと同僚性の構築、実践的な教員研修、3)小中連携教育、4)言語に関する授業規律や学習規 律の徹底、5)学力調査の活用、6)基礎基本の定着の重視、少人数指導、少人数学級の効果、 7)放課後や長期休業期間中の補習、であった。これらの学校では、家庭学習の指導にあたって、最 上級学年で目指す姿を校内で共有し小学校1年生から指導を始める取組や、放課後学習会を担任だけ ではなく教務主任等も入れて全校体制で指導する取組を行っていた。 また、組織的に指導することによって、教師の長時間労働を改善できる可能性がある。文部科学省 (2018)によれば、2016年に実施された教員勤務実態調査において、小学校教員の平均勤務時間は11 時間15分であった。この結果に関して妹尾(2018)は、教師の長時間労働解消のためにも、採点やコ メント書きについてはなるべく減らすとともに、学級担任以外にやってもらえるなら任せることを提 案している。しかしながら、宿題や家庭学習を丁寧に採点したりコメントを書いたりすることは、学 級担任にとって子どもと向かう大切な時間であると考えられている。. 7.保護者への働きかけの在り方 本節では、教育学者や教育実践家の論説を整理し、家庭学習指導における保護者への望ましい働き かけの在り方について述べる。 家本(1997)によると、宿題は学力を高める目的だけで行われるのではなく、学習習慣の形成とい う生活スキルを身につける目的がある。このような目的は、もともと保護者から要求されたものであ るが、教師にとっても望むことであったため、学校の教育活動として定着した。しかしその一方で、 時代の変化とともに保護者も学級担任の宿題観を無条件に容認するわけではなくなり、 「宿題を増や してほしい」「宿題を出さないでほしい」 「子どもの個性に応じて出してほしい」等、学級担任に対し て要求をする事例も増加している。 天笠(2013)によると、家庭学習の成否のカギを握るのは、子ども自身であるとともにやはり保護 者であって、保護者に自覚を促すという観点からどこまで迫れるかがポイントとなる。学力形成のた めには安定した生活環境が重要である。家庭学習を推進する側は、家庭学習は保護者や兄弟姉妹の励 ましを通して子どもの成長を図るものであることをもっと啓発していくことが必要である。 一方で田中(2017)は、家庭が学力向上にとってマイナスの環境となる可能性を示唆している。田 中(2017)は、場合によっては保護者や兄弟姉妹が非協力者や妨害者になる可能性を指摘し、学校に おける学習と家庭における学習を比較した場合の困難点として以下の5点を示した。1)教師という ペースメーカーがいない状況で、子ども自らがペースメーカーとなって進めなくてはいけないこと、 2)テレビゲームなど学習阻害要因が多く、誘惑にあふれた環境の中で自律的・主体的に学ぶことが 求められること、3)家庭の教育力によって影響を受けやすい状況の中で、自ら進んで自覚と自己責 任をもって学ぶ必要があること、4)宿題や予習・復習だけではなく、読書や調べ学習などの自主学 習が学力向上のために必要とされること、5)自分にとって学びやすい時間帯や方法などを見出し、 自己の特性に応じた家庭学習方法を確立しなければならないこと。田中(2017)は、これらの困難点 をクリアさせ、家庭での学習をアクティブ・ラーニングの基盤とすることは容易なことではないと述 べた。しかし一方で、学校教育の新たな課題として、子どもの家庭学習に関わる自己マネジメント能 力を育成し、具体的な授業での指導や指導場面の在り方を工夫することが必要であると指摘している。 151.

(9) 藤村美由紀・杉本 任士. また、自己マネジメント能力は、子どもに任せているだけでは育たないことを強調し、教師がお膳立 てしすぎないように留意しながら、段階に応じた指導が必要であると述べている。. 8.今後の展望 これまで、教育実践家や教育学者の家庭学習に関する論説を考察してきた。その結果、教育現場に おいて家庭学習の指導は長く行われてきたが、学力観の変化に伴って家庭学習指導の在り方について も転換していく必要性が見出された。 村上(1975)が指摘するように、従来の我が国の家庭学習指導は復習中心であり、予習中心に宿題 を出したり自主学習を促したりする教師は多くはなかった。ドリルやワークを使った復習は、児童に とっても教師にとっても取り組みやすい課題であり、現在の我が国の児童の高い計算力や識字率を支 えていると言える。しかし復習中心の受身的な宿題が、我が国の児童に見られる思考力や自発性の低 さ、学問に対する興味の低さにつながっている可能性がある。平成29年(2017年)告示の学習指導要 領で求められている主体的・対話的で深い学びの実現を目指した授業改善を行っていくためには、従 来の復習に偏った家庭学習指導から、市川(2004)が示す「学習の習得サイクルと探究サイクル」を 意識した、予習と復習がバランスよく行われる指導へと転換していく必要がある。 平成29年(2017年)に告示された「学習指導要領解説 総則編」によると、厳しい挑戦の時代を迎 えるにあたって、子どもたちがさまざまな変化に積極的に向き合い、他者と協働して課題を解決して いくことや、様々な情報を見極め知識の概念的な理解を実現し情報を再構成するなどして新たな価値 につなげていくこと、複雑な状況変化の中で目的を再構成することをできるようにすることが求めら れている。こうした求めに応じるためにも、田中(2013)が示すような活用型・探求型の家庭学習も 取り入れ、21世紀型学力の育成を目指した家庭学習指導に転換していく必要がある。 予習型の家庭学習や課題解決型の家庭学習を取り入れていくためには、子どもや保護者の負担につ いても配慮する必要がある。市川(2004)が示す「学習の習得サイクルと探究サイクル」では、予習 をして授業に臨み、復習で定着を図ることが提唱されている。子どもが家庭で予習を行うためには、 教科書を読んでわからないところに線を引く、既習の事項と結び付けて考える、図や表を書くことな どが必要である。また、田中(2013)が示す課題解決型の家庭学習を行うためには、計画の立て方、 情報の集め方、分析の仕方、自己評価の仕方などについての知識が必要である。このような方法につ いて、教師は、一人一人の児童の実態に応じて機会を逃さず丁寧に指導し、点検・評価し、改善に向 けて丁寧にアドバイスすることが必要となる。 天笠(2013)は、保護者に対して、家庭学習は保護者や兄弟姉妹の励ましを通して子どもの成長を 図るものであることを啓発することが重要だと述べている。しかし田中(2017)が指摘するように、 家庭環境が整わず、家族が子どもの学習にとって妨げとなる場合もある。また、保護者が子どもの学 習を支える意識をもっていたとしても、具体的な方法がわからない場合もある。保護者を啓発するに 当たっては、教師が学級通信などで、学校でどのような学習をどのように行っているのか丁寧に伝え るとともに、発達段階に応じた望ましい家庭学習の方法や課題解決の手立てについて具体的な方法を 示して協力を依頼する必要がある。 渡邉(2010)は、教師間に家庭学習の課題の与え方について共通理解が図られていないため、家庭 学習の習慣形成が困難になっていると指摘している。つまり学級担任には、児童や保護者の負担軽減 のための指導に加え、前学年までどのように指導されていたのかを把握し、最終学年の目指す姿を共 152.

(10) 小学校における望ましい家庭学習を推進するための方策. 有し、段階的に指導することが必要とされる。また学年団として方針を統一し、予習課題について検 討することも必要である。そのためには、学級担任が単独で自分の学級を指導するだけではなく、学 校として組織的に指導することが重要である。また、同じ中学校区の小中学校で、共通理解にたった うえで9年間を見通した家庭学習の指導を行うことも重要である。文部科学省(2016)は、 「小中一 貫した教育課程の編成・実施に関する手引き」の中で、中学校への進学時に勉強の仕方がわからない という子どもが急増することや、小中学校間の指導に溝があることを指摘している。この溝をなくす ため、9年間を見通したカリキュラムが必要である。同じ中学校区内の小中学校の教師が連携してカ リキュラムを作成し、義務教育終了時の目指す姿を共有することが求められている。そのことで、学 級担任が替わっても中学校に進学しても、同じ方針で家庭学習の指導を受けることができるため、学 年が変わるたびに宿題の方法が変わるという混乱を避けることができる。また妹尾(2018)は、宿題 の採点やコメント書きを分担して行うことを提唱している。校内においては、学級担任だけが家庭学 習指導をするのではなく、点検や採点・コメント書きを分担するシステムを作る。このことにより、 1人の児童を複数の目で見ることが可能になり、より児童理解が進むことが期待できる。また、学校 として児童の学習状況を把握することができるため、校内の学習状況の分析や保護者の啓発活動に生 かせると考えられる。. 9.おわりに 本稿では、著名な教育学者や教育実践家の論説を整理し、より良い家庭学習指導の在り方について 検討してきた。全国学力・学習状況調査における質問紙調査の結果から、多くの学校や教育行政が、 児童生徒の家庭学習習慣の形成に取り組んでいることが明らかとなった。今後は、学校での豊かな学 びを強化するような家庭学習の在り方について検討していく必要がある。また、学校と家庭が連携し て家庭学習指導を行うことも重要である。そして、予習を含めた家庭学習指導を行う上での諸条件や 課題を明らかにする必要がある。 平成29年(2017年)に告示された学習指導要領に示された新しい時代に必要とされる資質・能力の 1つである、学びを人生や社会に生かそうとする「学びに向かう力・人間性等」を育むために、学校 と家庭での学びの望ましいサイクルについて今後も検討を続けていきたい。. 引用文献(アルファベット順) 天笠 茂(2013) .なぜ,家庭学習が大切なのか 児童心理,963,1-10. Ausubel, D. P. (1960). The use of advance organizers in the learning and retention of meaningful verbal materials. Journal of Education Psychology, 51, 267-272. 市川 伸一(2004) .学ぶ意欲とスキルを育てる―いま求められる学力向上策― 小学館 家本 芳郎(1997) .宿題 出す先生,出さない先生 ―一人ひとりを伸ばすために― 学事出版 小林 洋(2009) .子どもの家庭学習と総合学力との関係,授業と家庭学習のリンクが子どもの学力を伸ばす―学力 向上のための基本調査2008より―,48-71,ベネッセ教育総合研究所. . https://berd.benesse.jp/berd/center/open/report/gakuryokukoujou/2008/hon/pdf/data_04.pdf(2018年 9 月27 日アクセス) 小林 洋(2009) .教師による家庭学習充実と授業との連動の取組状況,授業と家庭学習のリンクが子どもの学力を伸 ばす―学力向上のための基本調査2008より―,72-86,ベネッセ教育総合研究所. . 153.

(11) 藤村美由紀・杉本 任士. https://berd.benesse.jp/berd/center/open/report/gakuryokukoujou/2008/hon/pdf/data_05.pdf(2018年 9 月27 日アクセス) 国立教育政策研究所(2016) .OECD生徒の学力到達度調査(PISA) http://www.nier.go.jp/kokusai/pisa/index.html(2018年9月20日アクセス) 国立教育政策研究所(2016) .IEA国際数学・理科教育動向調査(TIMSS2015)のポイント. . http://www.nier.go.jp/timss/2015/point.pdf (2018年9月20日アクセス) 国立教育政策研究所(2018) .平成30年度 全国学力・学習状況調査報告書 質問紙調査. . http://www.nier.go.jp/18chousakekkahoukoku/report/question/(2018年9月20日アクセス) 国立教育政策研究所(2018) .保護者に対する調査の結果と学力等との関係の専門的な分析に関する調査研究(国立 大学法人お茶の水女子大学)報告書 http://www.nier.go.jp/17chousa/pdf/17hogosha_factorial_experiment.pdf (2018年10月5日アクセス) 文部科学省(2016) .小中一貫した教育課程の編成・実施に関する手引き. . http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/detail/__icsFiles/afieldfile/2018/01/19/1369749_1.pdf (2018年9月20日アクセス) 文部科学省(2017) .小学校学習指導要領(平成29年度告示)解説 総則編 文部科学省(2018) .教員勤務実態調査(平成28年度)の分析結果及び確定値の公表について(概要). . http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/30/09/__icsFiles/afieldfile/2018/09/27/1409224_001_3.pdf(2018年10 月10日アクセス) 村上 芳夫(1975) .主体的学習体系3学習方法学習の指導 明治図書 中山 勘次郎(2013) .家庭学習を“修行”にしない学習時間の工夫 児童心理,963,29-35. 佐藤 真(2013) .なぜ,宿題を出すのか 宿題の目的・内容・方法・評価 児童心理,963,23-28. Schunk, D. H., Zimmerman, B. J. (1997). Social origins of self-regulatory competence. Educational Psychologist, 32, 195-208. 妹尾 昌俊(2018) .半径3mからの「働き方改革」第8回 採点・添削は聖域か? 総合教育技術 73⑽,23-28. 小学館 篠ヶ谷 圭太(2016) .授業外の学習の指導 岡田 涼・中谷 素之・伊藤 崇達・塚野 州一(編) 自ら学び考え る子どもを育てる教育の方法と技術 140-156.北大路書房 高木 秀人(2017) .過去トップクラスの調査結果は現場の実践が正しかったことの証明 総合教育技術 71⒃,3639.小学館 田中 博之(2009) .子どもの家庭学習力を育てる教育の創造,授業と家庭学習のリンクが子どもの学力を伸ばす― 学力向上のための基本調査2008より―,4-23,ベネッセ教育総合研究所 https://berd.benesse.jp/berd/center/open/report/gakuryokukoujou/2008/hon/pdf/data_01.pdf(2018年 9 月27 日アクセス) 田中 博之(2013) .活用・探究型学力を家庭学習でどう育てるか 児童心理,963,48-55. 田中 博之(2017) .アクティブ・ラーニングが絶対成功する!小・中学校の家庭学習アイディアブック 明治図書 東洋大学現代社会総合研究所(2015) .武雄市「ICTを活用した教育」2014年度第二次検証報告書 要約版,19-22, https://www.city.takeo.lg.jp/kyouiku/docs/20150928kyouiku02.pdf 渡邉 誠一 (2010) .家庭学習の習慣形成についての指導に関するアンケート調査報告 山形大学教職・教育実践研究, 5,47-54. Zimmerman, B. J. (1989). A social cognitive view of self-regulated academic learning. Journal of Education Psychology, 81, 329-339.. 154.

(12)

参照

関連したドキュメント

一貫教育ならではの ビッグブラ ザーシステム 。大学生が学生 コーチとして高等部や中学部の

小学校学習指導要領総則第1の3において、「学校における体育・健康に関する指導は、児

小・中学校における環境教育を通して、子供 たちに省エネなど環境に配慮した行動の実践 をさせることにより、CO 2

小学校における環境教育の中で、子供たちに家庭 における省エネなど環境に配慮した行動の実践を させることにより、CO 2

 履修できる科目は、所属学部で開講する、教育職員免許状取得のために必要な『教科及び

 履修できる科目は、所属学部で開講する、教育職員免許状取得のために必要な『教科及び

「PTA聖書を学ぶ会」の通常例会の出席者数の平均は 2011 年度は 43 名だったのに対して、2012 年度は 61 名となり約 1.5

「PTA聖書を学ぶ会」の通常例会の出席者数の平均は 2011 年度は 43 名、2012 年度は 61 名、2013 年度は 79 名、そして 2014 年度は 84