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IRUCAA@TDC : ブラキシズムのある開咬を伴った広汎型慢性歯周炎患者に歯周組織再生療法を行った一症例

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Posted at the Institutional Resources for Unique Collection and Academic Archives at Tokyo Dental College, Available from http://ir.tdc.ac.jp/

Title

ブラキシズムのある開咬を伴った広汎型慢性歯周炎患者

に歯周組織再生療法を行った一症例

Author(s)

渡邉, 直子; 齋藤, 淳

Journal

歯科学報, 113(2): 171-177

URL

http://hdl.handle.net/10130/3021

Right

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抄録:開咬とブラキシズムを伴う臼歯部の歯周組織 破壊を認める広汎型中等度慢性歯周炎患者にエナメ ル基質タンパク質(EMD)による歯周組織再生療法 を行い,良好な結果が得られた1症例を報告する。 患者は51歳女性で,左側の上下顎臼歯部の歯肉腫脹 を主訴に来院した。開咬を呈し,臼歯部を中心に深 い歯周ポケットと骨吸収が認められた。また,日中 のクレンチング,夜間就寝時のブラキシズムがあっ た。歯周基本治療中に,夜間のスプリント装着を開 始し,歯周外科治療に移行した。臼歯部を中心に EMD を用いた歯周組織再生療法を行った。外科治 療後,矯正治療を初診時に計画していたが患者が希 望しなかったため,サポーティブペリオドンタルセ ラピー(SPT)へと移行した。開咬やブラキシズムと いう悪条件が存在しても,再生療法を含めた適切な 歯周治療を行うことにより,歯周組織を安定した状 態に導くことができた。 緒 言 開咬は歯周炎の増悪因子であり,歯周治療後の経 過に悪影響を与える。平成23年の歯科疾患実態調査1) によると,調査した16歳から20歳において,オー バーバイトが−0.5mm を超える開咬は約8.3%を占 めていた。開咬の矯正治療は不正咬合の中でも難易 度が高く,歯周炎を伴った場合は,さらに治療が難 しくなると思われる。 歯周治療が困難となる症例には,“力”が関与し ており,ブラキシズム,咀嚼時の咬合力,嚥下時の 歯の接触などがその原因として挙げられる。ブラキ シズムは,咀嚼筋群が何らかの理由で異常に緊張し て下顎が非機能的に動き,その結果,上下の歯をこ すり合わせたり,くいしばったり,連続的に歯を噛 み合わせることであると定義されている2) 。ブラキ シズムが認められる患者は少なくないが,そのすべ てが歯周炎に罹患するわけではなく,毎日グライン ディングを行っていても歯周組織はいたって健康な 人がいることも知られている。ブラキシズムが歯周 炎に深く関与する理由は,ブラキシズムにより歯に 異常な強い力が加わり,歯周組織に咬合性外傷を引 き起こすためではないかと考えられるが,まだ科学 的に十分解明されていない。 中等度以上の歯周炎であっても,適切な歯周基本 治療を行い,歯周組織再生療法を含めた歯周外科治 療を行えば,良好な経過が得られる場合も多い。現 在,わが国では歯周組織再生療法としてエナメルマ トリックスタンパク質(EMD)3) が高頻度で使用され ている。しかし,開咬など咬合状態に問題がある患 者に対する歯周組織再生療法の有用性については不 明な点が多い。 今回,予後に影響を及ぼすと思われるブラキシズ ムのある開咬症例に EMD を用いた歯周組織再生療 法を行い,良好な経過を得たので報告する。 症 例 患者は51歳女性。左側の上下顎臼歯部の歯肉腫脹 を主訴に来院した。現病歴として,約25年前に千葉 に転居し,近医を定期的に受診していたが,2005年 頃より上下顎臼歯部の歯肉の腫脹および違和感があ

臨床報告

ブラキシズムのある開咬を伴った広汎型慢性歯周炎患者に

歯周組織再生療法を行った一症例

渡 直子

齋藤 淳

キーワード:歯周組織再生療法,EMD,開咬 東京歯科大学歯周病学講座 (2012年12月4日受付) (2012年12月17日受理) 別刷請求先:〒261‐8502 千葉市美浜区真砂1−2−2 東京歯科大学歯周病学講座 齋藤 淳 171 ― 55 ―

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り,その都度かかりつけ医を受診し,咬合調整や縁 上スケーリング処置等の簡単な治療は受けていた。 2008年8月頃より上下顎左側大臼歯部の腫脹を繰り 返すようになり,紹介状を持参し本学千葉病院保存 科に来院した。全身既往歴としては,脂質異常症, 境界型高血圧症であった。口腔内所見では,咬合面 観で13,24,26に歯肉の発赤・腫脹を認めるが,下 顎前歯部には強い炎症は認められない。また,48に 半埋伏歯を認め,右側頬粘膜に咬傷と圧痕を認め る。歯列・咬合所見では,開咬を認め,大臼歯のみ が接触しており,大臼歯では咬耗を認めた(図1)。 初診時のプロービングデプス(PD)4mm 以上の部 位は全体の48.8%,6mm 以上の部位は19.8%であ り,プロービング時の出血(BOP)部位は38.7%で あった。O Leary の Plaque Control Record(PCR)は 72.3%であった。13,24,26,27,34,46,47,48 から排膿を認め,上下顎左右大臼歯では1∼2度の 動揺があった(図2)。エックス線写真所見では, 17,26で歯根長の2/3まで骨吸収し,上下顎左右犬 歯,24遠心,36近心で垂直性骨欠損,上下顎左右側 大臼歯の根分岐部に透過像を認めた(図3)。これら のことから広汎型中等度慢性歯周炎と診断した。 治療計画は,まずモチベーションの確立,プラー クコントロールの徹底,48抜歯,ブラキシズムに対 するスタビライゼーション型スプリントによる治 療,再評価後,PD4mm 以上の歯周ポケット残存 部位に対して歯周外科治療,再評価後,開咬に対す る矯正治療を行い SPT へと移行する計画を立て, 以上の治療計画を患者に説明,同意を得て治療を開 始した。なお,症例報告における臨床データの使用 について患者に説明を行い,文書による同意を得 た。本症例報告は東京歯科大学倫理委員会の承認を 得て行った(承認番号:380)。 結 果 治療経過として,歯周基本治療では,プラークコ ントロールの確立,26,37咬合調整,48抜歯,ブラ キシズムおよび咬合性外傷への対応としてスプリン 図1 初診時口腔内写真 渡 ,他:開咬を伴う慢性歯周炎患者への再生治療 172 ― 56 ―

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ト作製,全顎スケーリング・ルートプレーニングを 行った。歯周基本治療後の再評価では,PD4mm 以上の部位は全体の28.4%,6mm 以上の部位は 0.5%で あ っ た。BOP 部 位 は14.8%残 存 し て い た が,排膿部位は消失した。PCR は26%に改善した。 17,13,11,24,26,36,37で1∼2度の動揺を認 めた。Jönsson らの非外科的歯周治療の成功基準4) に照らし合わせた結果,「不十分」と判定されたた め,当初の治療計画に従い,歯周ポケット残存部位 に対して歯周外科治療を行うこととした。 患者に歯周外科治療および EMD を使用した歯周 組織再生療法について説明を行い,文書による同意 を得た。14,15にフラップ手術を行い,16,13,12, 23,24,25,26,27,36,37,47,46に は EMD に よる歯周組織再生療法を行った。 再評価後,口腔機能回復治療として24,26,37の 図2 初診時エックス線写真 図3 初診時歯周組織検査 歯科学報 Vol.113,No.2(2013) 173 ― 57 ―

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歯冠修復を行い,その後サポーティブペリオドンタ ルセラピー(SPT)に移行した。SPT 移行後2.5年の 口腔内写真,再評価結果およびエックス線写真を図 4∼6に示す。歯周外科治療,とくに EMD による 再生療法を行った部位は,良好な経過が認められた (図7)。EMD を適用した部位には,SPT 期にかけ 図4 SPT 移行2.5年の口腔内写真 図5 SPT 移行2.5年のエックス線写真 渡 ,他:開咬を伴う慢性歯周炎患者への再生治療 174 ― 58 ―

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て,統計学的に有意な PD の改善が認められた(図 8)。 現在,SPT 移行後3年2か月が経過し,歯周ポ ケット4mm 以上が5部位で認められるものの,慢 性,急性の炎症症状はほぼ認められず,良好な歯周 組織の状態が保たれている。現状での問題点とし て,⑴義父の介護でトイレや入浴の介助が必要でス トレスが溜まりやすい,⑵肩こりや頭痛がある,⑶ 26遠心の根分岐部病変の炎症が残存している,⑷下 顎臼歯部に知覚過敏症状が時々生じている,などが 挙げられる。 考 察 歯周組織再生誘導法(GTR 法)と比較して,EMD は治癒形態に違いがあるものの,臨床的な効果に有 意差はないとされている5,6) 。EMD は1壁性や2壁 性の骨欠損を含め,複雑な骨欠損状態,また多数歯 にわたる骨欠損,歯根の近接,角化歯肉が少ない場 図6 SPT 移行2.5年の歯周組織検査 図7 EMD 応用部位(#24)の経過 <初診時> <IP 後> <RCT+EMD 後> <SPT> 歯科学報 Vol.113,No.2(2013) 175 ― 59 ―

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合や薄い場合にも適応できる。日本歯周病学会の指 針7) によると,歯周組織再生療法の選択基準として, エックス線上で本症例のような骨欠損が4mm 以上 で,幅が2mm 以上の場合には歯周組織再生療法だ けではなく,骨移植を併用した方が良いとされてい る。また,歯周ポケットの深さが6mm 以上,エッ クス線上で深さが4mm,幅2mm 以上で根面と骨 壁の角度が25度以下の骨欠損に EMD を応用する と,成績が良好であると報告されている8) 。本症例 では頬粘膜の過緊張があり,自家骨採取が困難で あったため,併用できなかった。 今回,EMD を応用した12歯の PD の変化では, SPT 期間には約4mm の改善を認めた(図8)。本 学水道橋病院における臨床成績の報告では,2年間 で本症例とほぼ同様の4.4mm の歯周ポケットの改 善を報告している9) 。EMD 単独での応用には適さ ない部位も含まれていたことを考え合わせると,今 回の結果は良好であると考えられる。しかし,初診 時の歯周ポケットの深さで結果が左右されるため, 結果の解釈には注意が必要である。 本症例のようにブラキシズムが強く,動揺歯が限 局し,骨吸収が中等度である場合は,咬合調整を し,オクルーザルスプリントの使用が推奨されてい る7) 。本症例では,歯周基本治療時よりスタビライ ゼーション型スプリントを毎晩装着している。咬合 性外傷や動揺が認められる歯における EMD の臨床 成績はまだ,不明な点が多いとされている。創傷治 癒および歯周組織再生において血餅の安定は重要で ある10) 。創面の可動性や歯の動揺は血餅の安定に破 綻をきたし,治療が失敗に至るとする報告もある11) 。 最近の in vitro の研究12) では,線維芽細胞に進展刺 激を加えた場合,EMD は治癒(細胞の migration) にマイナスの影響があることが示されている。これ は,EMD を応用した場合,細胞には強い咬合力な どのストレスをかけない方がよいということを示唆 している。咀嚼時の咬合力は,最大でもその個人の 最大咬合力の約40%(20kg 程度)が発揮されるだけ で,それほど大きな力ではないと考えられている。 さらに咀嚼時間も長くないことから,歯周組織には 外傷力として働くわけではないと推測されている。 嚥下力に関しても,歯や歯周組織に加わる力そのも のは大きなものではなく,作用時間も少ない。問題 は睡眠時のブラキシズムで,その力は最大咬合力以 上,ときには100kg 以上になることもあるといわ れ,大きな力を作用させる可能性がある13) 。 本症例のような開咬の症例の場合,臼歯部に過重 負担がかかるため,EMD 応用後の安静は困難であ る。武内らは,開咬を伴う重度慢性歯周炎の症例報 告のなかで,やはり重要なこととして,炎症と2次 性咬合外傷のコントロールを挙げている14)。本症例 ではスタビライゼーション型スプリントも併用し対 応を試み,歯周組織の安定を得ることができた。し かしながら,咬合の因子により再発の危険性が高い ことは容易に推察される。さらに,患者のストレス など,心理・社会・行動面への配慮も重要であり, 今後,適切な SPT の期間について慎重に検討して いく。 以上,本症例では,開咬やブラキシズムなどの問 題に対して大きく咬合を改善することはできなかっ たものの,良好なプラークコントロールのもと,歯 周組織再生治療を含む歯周治療で安定した歯周組織 が維持できることが示された。 謝 辞 治療にあたりご協力いただきました東京歯科大学千葉病院 歯科衛生士部の皆様に深謝いたします。 本論文の要旨は第1回日本歯周病学会関東9大学・日本臨 床歯周病学会関東支部合同研修会(2012年2月11日,東京)に おいて発表した。 図8 EMD 応用部位(n=12)のプロービングデプス最深 部の変化(平均±標準偏差) **

p<0.01,***p<0.001,Friedman test with Dunn s Multiple Comparisons Test

渡 ,他:開咬を伴う慢性歯周炎患者への再生治療 176

(8)

文 献

1)厚生労働省:平成23年歯科疾患実態調査,厚生労働省, 2012.

2)加藤 :最新歯周病学,276−282,医歯薬出版,東京, 1994.

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5)Cortellini, P., Tonetti, M. S. : Clinical performance of a regenerative strategy for intrabony defects : scientific evidence and clinical experience. J Periodontol, 76:341− 350,2005.

6)Esposito, M., Grusovin, M. G., Coulthard, P., Worthing-ton, H. V. : Enamel matrix derivative(EmdogainⓇ

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P., Tonetti, M. : Baseline radiographic defect angle of the

intrabony defect as a prognostic indicator in regenerative periodontal surgery with enamel matrix derivative. J Clin. Periodontol, 31:643−647,2004.

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12)Sanders, J. E., Chuang, A., Swiec, G. D., Bisch, F. C., Herold, R. W., Buxton, T. B., McPherson, J. C. 3rd : The effects of enamel matrix derivative and cyclic mechanical strain on human gingival fibroblasts in an in vitro defect healing model. Int J Periodontics Restorative Dent, 31: 671−678,2011. 13)池田雅彦:治りやす い 歯 周 病 と 治 り に く い 歯 周 病, ヒョーロン・パブリッシャーズ,東京,2011. 14)武内謙典,工藤 求,篠田 純,西堀明美,豊田真基, 西堀雅一:開咬を伴う重度慢性歯周炎患者に包括的な治療 を行った一症例,日歯周誌,50:193−200,2008.

Periodontal Regenerative Therapy for Generalized Chronic Periodontitis with Open Bite and Bruxism : A Case Report

Naoko WATANABE,Atsushi SAITO

Department of Periodontology, Tokyo Dental College

Key words : Periodontal regeneration, Enamel matrix derivative, Open bite

We hereby report a case of generalized chronic periodontitis with open bite and bruxism treated with periodontal regenerative therapy using enamel matrix derivative(EMD). The patient(was a 51-year-old woman who)presented with the chief complaint of gingival swelling in the molar region. She had open bite and deep periodontal pockets and alveolar bone loss in the molar region. She also had clenching dur-ing daytime and episodes of bruxism durdur-ing sleep. Durdur-ing initial therapy,the patient was instructed to wear a night guard. Periodontal surgery including periodontal regeneration with EMD was then per-formed,mainly in the molar region. Since the patient refused to receive orthodontic treatment,she was subsequently placed under supportive periodontal therapy. In spite of unfavorable pre-existing con-ditions such as open bite,it was possible to achieve stability in the periodontal tissue by adequate peri-odontal treatment including regenerative therapy. (The Shikwa Gakuho,113:171−177,2013)

歯科学報 Vol.113,No.2(2013) 177

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