[調査研究]
応答の形式からカウンセラーのありょうを記述する試み
一佐治守夫の逐語記録の検討一
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1.問題と目的
心理臨床における個人面接では、何が行われて いるのであろうか。カウンセラー側に注目すれ ば、通常、カウンセラーは、クライアントの話を 聴き、応答する。カウンセラーは、聴いていると きには何をし、応答するまでは何をし、応答して いるときには何をし、応答した後には何をしてい るのであろうか。 カウンセラーのありようや行っていることに関 しては、さまざまな理論的枠組み(例えば、精神 分析的心理療法、認知行動療法、クライアント中 心療法など)を用いて、さまざまな接近の仕方が おこなわれている。 その結果、例えばクライアント中心療法におい ては、治療者の3
条件として呼ばれる、「無条件 の肯定的関心J
r
共感的理解J
r
自己 」が、治療 者の状態として特定されており、また治療者は 「感情の反射」を行なっているとして「技法」の ひとつに特定されている。 さて、個人面接におけるカウンセラーのありよ うや行っていることをとらえるためには、どのよ うな方法によればよいのであろうか。ひとつの方 法は、カウンセラー自身が、面接中の自分自身の 体験を内省するやり方である。ただし、面接中に 研究目的で内省することはできない。したがっ て、面接終了後、記憶をたよりに内省するか、ま たは何らかの記録を手がかりに内省することにな '文教大学大学院人間科学研究科小 林 孝 雄 *
KOBAYASHI
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ろう。もうひとつの方法は、面接を行ったカウン セラーではない者が、その面接に関する何らかの データ(カウンセラーに関するもの、またはクラ イアントに関するもの、または両者や面接の場に 関するもの)をもとに、{也人であるカウンセラー が行っていることを特定したり、他人で、あるカウ ンセラーの内的状態を推測したりすることによ る。 筆者は、佐治守夫0924-1996)
の面接に関す る記録をもとに、佐治守夫が面接でどのようなあ りようでいたのか、何を行っていたのかを記述す ることを試みている(小林・岡村.2
0
0
7
.
岡村・ 小林.2
0
0
9
.
小林・岡村,印刷中.)。その佐治の ありょう、行っていたことを記述することは、ひ とりのマスターセラピストが行っていたことを理 解するという点で、まずは意義があると考える。 そして、カウンセラーはいかにあるか、何をする のかを検討する上で、意義があると考える。 本論文では、佐治が残しているいくつかの面接 記録のうち、「学校で友人と交際を持たない中学 生j と題して発表された中学生男子との面接の逐 語記録(佐治.1
9
6
5
)
を検討のための材料とする。 検討はカウンセラーの応答の形式に注目し、カウ ンセラーのありょうを推測して記述する。そし て、佐治の行っていた実践の意義について議論す る。I
I
.
方 法1
.検討材料 佐治守夫の面接の逐語記録。「学校で友人と交際を持たない中学生
J
として発表されている、男 子中学生との逐語記録(佐治.1
9
6
5
)
のうち、第l
回目。2
.
検討の手順 カウンセラーの発言(応答)を、その形式上の 特徴という視点から分類する。 まず、逐語記録を黙読、およびシナリオロール プレイのように音読し、カウンセラーの発言一つ 一つについて、どのような形式の応答であるか、 筆者の主観によって特定し、記述する。音読した 際には、音読しているという行為に対応する内的 状態を、筆者自身の内的状態を内省することでも 検討する。したがって、このとき、筆者自身の個 人面接にまつわる体験などが影響している。 記述した表現どうしを比較し、それぞれの違い と共通点をもとに、少数の種類にまとめる。何を どうまとめるかは、筆者の主観的判断によること になる。 もとの逐語記録に戻り、カウンセラーの各発言 が、まとめた種類のどれにあたるのか検討する。 表1 抜粋1 (84から A18) あてはまるものがなければ、種類を検討しなお す。 応答の種類として記述した表現そのものを検討 したり、I
田の面接内で、面接の進行にともなっ て出現する応答の種類に変化があるのかを検討す ることによって、カウンセラーのありょうを推測 する。 なお、以上の方法は、何らかの質的研究法に忠 実に沿ったものではないが、応答の種類の表現の 産出においては、S
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(
1
9
9
5
)
の方法を参考に している。m
.
結果
1
.
事例の抜粋 まず、事例の抜粋を3
つ示す。(表l
、2
、3
)
表中、S
はカウンセラー(佐治)、A
はクライ アントを示す。開始から順にS'A
それぞれに通 し番号がつけられている。一回目の面接は、S98
、A97
までである。カウンセラーの発言に付した 番号は応答の種類(表4
参照)を示す。発言中括54
どんなことでも、うん、あなたの話したいことからでいい。うん A4 じゃあ。 lまくいつも考えているんですがね。(ウン)人間の、何か、価値がありますね。(人間ノ)個人の価値(ハ ア、ハア)それが何によって決まるか、(ハア、ハア)ぼくと友だちがいるんですけどね。(ウン)その人とい つも昼休みそういう問題を考えているんですけどね。(ハア)55
そういうこと、話し合う友だちがいるのね。(エエ)うん。[1-1②]A5
その人も心理学という本を持って(ハイ)その人も心理学の本持っているんですがね。その人も心理学とかそ ういうものに興味があるんですね。(ハア、ハア)それからええと、ちょっとあの、それからぼくが学校の友だ│ ちとあんまり話しないっていうのは、(ハイ)まあ、しゃべりたいんですけどね。(ウン)ぼくは、あんまり口 がうまくないんですね。(ハア、ウン、ウン)しゃべるのが、そうすると、そういうなんかしゃべる気にならな いから(ハア、ハア)そして、その人も(ウン)静かな方でね。ぼくと気持ちが合うんです。56
ああ、そう。その人だとそういう、個人が価値があるってどういうことなんだろう、そんなことをこう話し合っ たりするのに気が合うわけね。(エエ)そう、他の人だとこっちもあんまり口がうまくないし、そう話す気になl
らない。(エエ)うーん、うーん。[1-1②③]A6
だけど話すときは話すんですけど、(アアソウ。ウーン、ウーン)で、先生はどう考えますか。個人の価値はど うやって決まるか。57
個人の価値はどうやって決まるか? うーん、一人ではどんな話をしているんですか。どんなこと?[1-2①1
A7
たとえば、人閥、個人がありますね。(ウン)そして、それは心理的なものだけで決まるのではなくて(ウン) あの心理的なものと物質的なものですね。(ハイ)そのものの、あの、うーんと、そのあの原因ですね。その心 理的だったら、ぼくが何かしようと思った原因とか(ウン、ウン)それからえーと、ぼくが何か社会的なこと l をしたとしますね。(ハイ、ウン)その結果ですよね。それが物質的なものと考えられるとしますね。(ハア、 ハア、ハア)すると、その原因が二つ、原因が二っと考えて、二つに考えたときに、(ウン)個人の価値が決ま ると思うんですけどね。S8 何 人 山 そ う い う こ と を や り た い カ と い う こ と ( エ エ ) 仇 持 山 い な も の ( 日 ) う ん 一 結果がどうなっていくか。[1-1③] A8 ええ、それと同じふうに。同じ、同一に考えるわけで、す ~;).o そのあの、心理的なものと(ウン)物質的なもの と必ず一致しなければいけないと思うんですよ。ぼくは。 S9 うーん、うん、一致するってどういうことかしら。 [1-2①] A9 たとえば、ぼくが、あの、えーと、こういう、何かしたいものがありますね。(ウン)その結果とそれからそのl 後に出て来たものと(ウン)そのものが原因が等しくなければいけないと思うんですね。その一つのものと、(ウ ン)考えたときに、個人の価値が決まると思うんですけど。 SlO うーん。ちょっとむずかしいな。その一致するってどういうことですか。こっちがこうやりたいと思う、こう ありたいと思う、その気持ちが、(ハア)そう、あるわけね。 [3②、 1-2①、 2-1②] A10 ええ、で、それで時間というものであの決まる。あ、ずっとしてそう結果になるわけで、しょ。 Sl1 はい。結果にそれがこう発展していくわけね。うん。[1-1②] A11 で、それと一致するわけですよね。 S 12 自分のしたいと思ったとおりに、その結果が出てくるかつてこと(エエ)うんうん。[1-1②] A12 もし、仮定しますよね。(ハイ)出て来たとすると、その結果と(ウン)あの心理的なものと、ある程度関連性 はあるわけで、すよね。(ハイ、ハイ)それ、そのため。 S 13 つながっていますよね。(エエ)その人がこうやりたいと思って、その結果がこう出て来たんだから、はい(エエ) そういうつながりはある。(エエ)[1-1②] A13 そうすると、それを二つに考慮してて、すね。(ウン、ウン)そのことから考えていって(ウン)個人の価値とい うものがこう決まると思うんですけど。 S 14 うーん、ああそう。実際にその人がどんなにこうやりたいと思っても、結果としてそうならなかったら、ゃっ ばり価値がないと思う。 [2-1②] A14 それにあの(ウン)あのそれによってで、すね。(ウン)ぼくたちが(ウン)あの人に何か冨ったりで、すね。それ によって自分たちがこうだって反省できるしね。(ウーン、ウン)進歩っていうものがあるわけですね。 S 15 はあはあはあ、うーん、自分の思っていることが他の人にどう受けとられるか、その結果がどうなるかつてこ とでやっぱり自分もいろいろ考えたりするってこと(ハイ)うーん、うーん、はい。 [2-2③] A15 そいで、あの、そのことを出発点にして(ハイ)あの全部と個人の間の関係とか、(ウン)そういう集団ですね。 (ウン)集団のそういう力とかそういうのを考えたわけです。(ウーン、ウーン、ウーン、ウン)そうすると、 たとえばこういう電車がありますね。(ウン)二つの、二両編成だったら、一両を人間と考えますよね。(ウン) そうするとその電車は連結器でつながっているわけですね。(ハイ、ハイ)そいでこの連結器ってものは、ある、 先生と私は(ウン)あの生まれた人間である以上は、(ウン)ある関係があるわけですね。(ハイ)連結器と同 じように、(ウン、ウン)そうすると、(ハイ、ハイ)だからぼくは他人とは、他人ってことは絶対ありえないっ てわけですよね。そうするとい..一 S 16 うーん、うーん、完全に他人だってことはない。何かの形でこう少なくとも人間である以上、人間としてこの 同じつながりがあると思うのね。(エエ)はい。 [2-1②] A16 そうするとあの連結器ってものは、(ウン)ある事件によって、たとえば電車だったら、あの(ウン)何か事故 があって切れるってことがありますよね。(ウーン)それをあの世の中の事件として取り上げたい、それと同じ ようにして考えた場合。 S 17 うーん、はあはあ、一つ一つがこうぶつかったり、何か衝突があったり、関係がこう切れたり(エエ)悪くなっ たりすることは、何か故障があるみたい(エエ)と考えることもできるだろう(エエ)うーん、うん、うん。 [2-2③] A17 それをもとにして考えたわけです。 S 18 うーん、うん、そうするとあなたとしては、他の人と自分というもの、あるいは人同士というものは、本来は、 こう何かつながらいがあるはずのものだろうと思う。(エエ)うんうん。 [2-1②] A18 で、それで、、今の社会ってものは、そういうふうにないと思うんですけど、(ウーン)先生。
表2 抜粋2 (A30からS40) A30 先生は今の社会はどうあるべきだと思いますか。今も、先生も不満があるわけでしょ。今の社会にあって。 S31 不満ていうのは、そのみながいっしょになっていない、そういう近づこうと努力しないってことですか? [1-2①
1
A31 ええ、すべての点で。 S32 すべての点で。うーん、うん、 A君が知りたいのは、他の人もそれと同じような気持ちになぜならないんだろ うってそういう疑問? [1-2①] A32 ええ、そういうのもありますけどね。(ウーン、ウン、ウン、ウン) S33 自分がぜひそうしたいと思うけれど、何かそういうことが他の人の努力として足りないんじゃあないかってい うことね。(ハイ)うーん、うん、うん、そういう所で社会というもの、あるいはひとりひとりの社会の中の個 人というものがこう進歩しないでどっか引掛かつてとまっちゃっている。(ウン)うーん、うん、そういうのを みるとこう何かいやになっちゃうみたい。 [2-1③、 4-2③】 A33 いやになりは、ならない。努力、それに、意欲を燃やしたい。 S34 そんなふうに意欲を燃やしたい。(ウン)うーん、自分で何とかそういうふうに他の人も動くように、こう何か 働きかけて(エエ)そうして行きたいと思うわけね。 [4-1③、 2-1②1
A34 で、あの(ウン)今、ある程度、知識がないとそういうことはできないわけですね。(ウン、ウン)ぼくが今しゃ べるなんていうことはですね。今考えるわけですね。で、三年、今ぼくは二年ですよね。すると三年まで同じ│ 組なんですよ。(ハア、ハア)それで今二年で何か基礎を固めておいて、三年においてぼくの考えを実行に移し たいんですよ。 S35 ああそう、今、他の人と、こう他の、組の他の人ね(エエ)と話さないでいるっていうことはもっと自分の考 えをじっくり固めて…… [2-2②] A35 その時において、そこから行動していかなければ、(ハア、ハア、ウーン、ウン)結果としては意図を出ないと 思っているんですけど……(ウーン、ウン、ウン) S36 自分としては、ほんとにもう大丈夫だ、こういうことをはっきり他の人にいえる、どっから突っつかれでもそ うだってこういえるような自信が持てるまであんまり言いたくない。(エエ)[4-1③] A36 そいでおいて、あの、行動すると(ウン)あの、失敗してから(ウン)あのだめだと恩っちゃあいけないと思 うから。(アア、ソウ、ウーン) S37 自分で確信が持てる、こういうことをみんなに話してみんなにもそうしてもらいたいということをはっきり他 の人にも伝えられるし、(エエ)それだけしっかりした考えを持ってから(ハイ)話したい(ハイ)うーん、そ うですか、はい、うん。 [4-1③】 A37 そいで、あの、いろいろ考えていますがね。(ウーン、ウン) S38 そういうことで、自分の考えをまとめよう、固めよう、そういうふうに努力している。そういうのが今なのね。│ (エエ)うーん、うん、それが他の人からみると、こう黙っている(黙ッテ、ナンカヘンナ)何もしないって、 そういうふうにみられるわけね。 [2-1②、 3③1
A38 そうですね。でもぼく、他の人からどんなにいわれでもおこったことはありませんね。(ウン)ですが、それに ついてもあのいやな気持ちありますけどね。(ウン)あの何も思っていない。(ウーン、ウン) S39 まだ、自分がほんとにいえる時期じゃあないから、もう少しこうじっとがまんしていようと(エエ)人から何 といわれでも…… [4-1③] A39 でそれが固まった時には、ぼく、それを百われた時には、その人に自分の考えだけをいってみたいんですけど ね……(ウーン、ウン、ウン) S40 まあ、今は、自分のそういう考え方、他の人にはっきりこういう、それだけの自信がないから(エエ)うーん。 [4-1③]表3 抜粋3 (A49-852) A49 ええ、それから、今、体育、休んでいますからね。(アア、ソウ)そいで、、他の人から、まだなぜ体育やらないかっ│ て言ってるけど(ウン)まあ、ぼくは、ただちょっと足が悪いとか(ハイ)そういうことだけ言っている。(ウー ン、ウン、ウン)たとえば、運動会の練習できびしいことがありますよね(ウン)そうすると、(ハイ)ぼくに│ なぜやらせないかつて来るわけで「すよ。(ハイ、ハイ)そうすると、だけどそういうこともみんながぼくがただl 足が悪いって言っただけでも向うは信用しない(ウン)わけですよね。(ウーン、ウン)それでも、ぼくはおこっ l たことはない。(ウン)えーと、ただそういうこともただしょうがないと思っているだけですよね。(ウーン、 ウン) S50 ほんとは、他の人にもっと信用してもらいたい、自分の言ってることを本当に受け入れられたいんだけども、 今はしょうがないと思うわけですね。(エエ)うーん。 [2-2②] A50 それだけに(ウン)たとえば、向うから質問されたときにて、すね。(ウン)それだけの自分が、あれが確信がな いわけで、すね。(ウン、ウン)それで、もおっかないし、おつかないから今のうちに、三年になるまでにで、すね。(ハ ア)そういうことの完全なあれを作って行きたい。(ウーン、ウン) S51 しかし、今の自分じゃあ、そういう他の人たちにはっきりわかってもらう、自分の気持をわかってもらうのに ちょっと何か不安みたい。(ウン)自信がないみたい。(ウン)うーん、身体が弱いってこと、やっぱりこう(苦 ニシテ・・・・・・)ウーン、苦にしてる。(シテイマセン)してない。はあはあ。 [4-2③] A51 ぼくよりもっとひどい人もいるし(ウン)そういうのを考えると、そんなこといえない(ハア)と思うんです けど。 S52 まあ、仕方がない。(エエ)あんまりそんなこと気にしないで、やっぱり自分の考え、自分の気持ち、もっとはっ きり知らしておきたい(ハイ)[4-1③
1
弧内カタカナ表記は、発言中に相手発した言葉を 示す。2
.
応 答 の 種 類 筆 者 が 特 定 し た 、 応 答 の 種 類 は 、 表4
の通りで ある。以下、表の説明を補足する。 [1.内容について]1-1
、1-2
は、クライアントの語った「内容」 について、確認したり質問する応答である。この 応答の中心は「内容」であり、それを思っている クライアント、クライアントカ宝それを,思っている ことについては、あまり応答には盛り込まれてい ない。つまり、1-
と 思 う の ね 」 な ど の 表 現 が 含 まれていない。応答がクライアントに向けられた ものかどうかについては、①クライアントのレス ポ ン ス を 要 求 す る 、 ② レ ス ポ ン ス は 要 求 し な い が、クライアントに向ける、③カウンセラーの自 己確認のように言う、の3
種類がありうる。[
2
.
あなたにおいて思いがある]2-1
、2-2
は 、 あ る 内 容 に つ い て 、 そ れ は ク ライアントカ久思っていることで、ある、ということ を含んだ応答である。応答には、1-
と思う」、 1-考 え た り す る 」 、 な ど の 表 現 が 含 ま れ る こ と が 多 言 い 換 え れ ば 、 こ の 種 類 の 応 答 は 、 あ る 内 容 が 存 在 す る の は 、 ク ラ イ ア ン ト と い う 「 場 所 」 に お い で あ る 、 と い う こ と を 含 ん だ 応 答 で あ る と 考 え る。「場所Jは、西田幾多郎のいう「場所」である。 「私jと「思い」の関係は、「私がJ思っている、 と い う 主 語 的 な 関 係 で は な く 、 「 私 に お い て 」 思 い が あ る 、 と い う 述 語 的 関 係 で あ る こ と を 示 す 概 念である。 事 例 の 応 答 で は 、 「 あ な た は 」 と い う 二 人 称 の 主 体 を 指 す 表 現 は ほ と ん ど 含 ま れ て い な い 。 「 あ なた」が含まれるのは、S
l
、S
4
、S
1
8
、S
9
7
であり、IA
君jが 含 ま れ る の はS
2
1
、S
3
2
で あ る 。 こ の うちS
l
、S
9
7
は 、 面 接 の 導 入 と 終 了 に 関 す る 応 答である。なお、S
1
8
で 「 あ な た と し て はjとい う表現が用いられている。これは、体験の「主体」 を 指 し て い る の で は な く 、 体 験 が 存 在 し て い る 「 場 所 」 を 指 し て い る 、 と と ら え る ほ う が 適 切 で あると筆者は考える。 ま た こ の 種 類 は 、 ク ラ イ ア ン ト と い う 、 あ る 特 定 の 「 場 所 」 を 、 は っ き り と 意 識 し た 応 答 で も あ る、とも考える。 応 答 が ク ラ イ ア ン ト に 向 け ら れ た も の か ど う か表4 応答の種類 応答の種類 説明と応答例
[
1
内容について]1-1
クライアントが諮った「内容J
について、カウンセラーが理解したことを音楽にする。I
あなたが諮った内容は、 クライアントに向けたものかどうかについて、以下の3
種類がある。(以下同様) こういう内容ですね。 ①クライアントのレスポンスを要求する ②レスポンスは要求しないが、クライアントに向ける ③カウンセラーの自己確認のように言う ---ー---.・ー・ー--- 〔応ク答ラ例イ〕ア(抜ン粋トよがり諮)っS
、 缶5
た 「内、容S
J
8
、にS
関1
1
す、るS
1
こ2
、とS
を1
3
、、カS
3
ウ2
前ンセ半ラーが質問する。①②I
1-2
あなたが語った内容に閑 〔応答例)S
7
、S
9
、S
3
1
して、このことはどういう 内容なのですか。[
2
.
あなたにおいて思いがある]2-1
ある「内容」とは、クライアントが「思っているJ
のである、という点をはっきりとさ (あなたは)こういう内 せた応答。②③ 容のことを思っているので 〔応答例)S
lO、S
1
4
、S
1
6
、S
1
8
、S
3
3
前半、S
3
4
、S
3
8
前半 すね。 ー・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・圃且・・・・a・-.--・, 咽_.--ーーー・".‘ー・・・・・ー・吻・ー・---・・・・・・・・・ーー・ーー--・・・ー・_._---唱2-2
「ある思い」について、その思いがあるのは、クライアントという「場所」であること (あなたにおいては)こ を想定した応答。この場合、ことさら、r
(
あなたは)そう思っているのですね」と付け加 う い う 思 い が あ る の で す えなくてよい。患っている思いの中身だけを言葉にする場合もある。②③ ね。 〔応答例)S
1
5
、S
1
7
、S
3
5
、S
5
0
[
3
.
わたし(カウンセラー)の思いの表明]3
カウンセラーが思っていることの表明。②③ (カウンセラーである) 〔応答例)S
lO冒頭、S38
後半 私はこう思っている。[
4
.
・わたし語り']4-1
あること思っている、そういう思いがある、ということの端的な表明(・わたし誇り.)。 自分はこう思っている 「どこにおいてか」、という場所(クライアント、カウンセラー)が明確にされない。した がって、表明された「思いJ
は、場所の限定がない匿名的なものであり、クライアントも、 ク ラ イ ー 問 の 表 明 と 一 一 … ③l
-ー・---〔応答例)S
3
4
前半、S
3
6
、S
3
7
、S
3
9
、S
4
0
、S
5
2
4-2
ある思いがある、ということについて、一歩5
1
いて自分で確認する応答。4-1
同様に 自分にはこういう思いが .わたし語り.であり、そのままクライアントは利用できる。③ あるみたいだ 〔応答例)S
3
3
後半、S
5
1
に つ い て は 、 ② レ ス ポ ン ス は 要 求 し な い が 、 ク ラ イ ア ン ト に 向 け る 、 ③ カ ウ ン セ ラ ー の 自 己 確 認 の よ う に 言 う 、 が あ る 。 に つ い て は 、 ② レ ス ポ ン ス は 要 求 し な い が 、 ク ラ イ ア ン ト に 向 け る 、 ③ カ ウ ン セ ラ ー の 自 己 確 認 の よ う に 言 う 、 が あ る 。[
3
.
わ た し ( カ ウ ン セ ラ ー ) の 思 い の 表 明 ] ク ラ イ ア ン ト と は 別 の 人 問 、 別 個 の 「 場 所 」 と し て の カ ウ ン セ ラ ー に 生 じ た 思 い の 表 明 で あ る 。 こ こ で も 、 「 場 所 」 は 、 カ ウ ン セ ラ ー に お い て 、 で あ る の だ か ら 、 は っ き り し て い る 。 応 答 が ク ラ イ ア ン ト に 向 け ら れ た も の か ど う か[
4
.
.わたし語り.] ク ラ イ ア ン ト の 思 い を 、 た だ 「 思 いJ
として、 言 葉 に し て い る 。 こ の と き 、 ど こ の 「 場 所 」 に お い て か 、 と い う こ と は 、 応 答 に は は っ き り と 含 ま れ な い 。 い わ ば 、 ど こ の 「 場 所 」 に お い て も そ の 表 現 を 発 す る こ と が 有 効 で あ る よ う な 形 式 の 応 答である。応答がクライアントに向けられたものか どうかについては、③カウンセラーの自己確認の ように言う、である。 例えば、
S
3
6
の応答を見てみる。 「自分としては、ほんとにもう大丈夫だ、こう いうことをはっきり他の人にいえる、とεっから 突つつかれでもそうだ、ってこういえるような自信 が持てるまであんまり言いたくない。」 これは、カウンセラーの口から発せられている が、そのままの言葉で、クライアントの口から発 せられでも有効である。 永井(
2
0
0
6
)
は次のように言う。 「さてでは、確実に存在するのは、思いだろう か、それとも私だろうか。そう問われたなら、お そらく正解は、その二つは同じことである、とい うものであろう。私ならば必ず思い、思えば必ず 私であるからだ。というより、直接的な仕方で 思っている(意識している)当のものを『私J
私 と呼ぶのである(そして、思い以外のものは存在 しない)o
J
(p.31)S
3
6
の言葉が表現しているものは、どこに(ど の「場所」に)おいてか、ということを抜きにし た、むき出しの「思い」であると考える。つまり、 むき出しの「私」である。これを自分(わたし) の自己確認のように発する。この種類の応答を、 本論では‘わたし語り' と名づける。 この応答では、カウンセラーにおいて存在する 思いなのか、クライアントにおいて存在する思い なのか、に関する部分は消去されている(あるい は、はじめから無い)。そもそも考えてみれば、 自分の思いを表明するときは、「私において j で あることは明らかであるのだから、表明に含まれ なくてよい。「思い」が存在するのは「私」にお いてであり、そもそも「思い」が「私」であるの だから。応答中に、「自分」という表現が用いら れていることが、「場所」の消去と関連している と考える。 この4-1
の応答は、カウンセラーによって発 せられたものでありながら、クライアントが「思 い」を,思っている際に、クライアントの「思い」 の表明としてそのまま通用する。「自分」という 表現は、そのことを可能にしている。 次の4-2
の応答は、自らの「場所」に存在し ている「思い」について、自己検討することを喚 起する。S
5
1
を見てみる。 「しかし、今の自分じゃあ、そういう他の人た ちにはっきりわかってもらう、自分の気持をわ かってもらうのにちょっと何か不安みたい。(ウ ン)自信がないみたい。」 これは、種類としては、そのままどの「場所」 においても有効な表現、すなわち‘わたし語り' であると考える。しかし、単なる「思い」の表明 ではない。ある「思い」があるようだ、と自分で 自分の思いを確認する表現である。この応答が、 クライアントの‘わたし語り' としてすんなり通 用した場合には、自らの「場所」に存在する「思 い」についての、自己検討を自然に促すことにな るのであろう。 以上が、事例について、本論で特定した応答の 種類である。3
.
佐治はどのようなありょうのでいたのか さて、以上のように応答の種類を表現した上 で、面接においてカウンセラーである佐治はどの ような「ありょう」でいたのか。 事例の前半、抜粋l
では、[1.内容について] の応答が多くみられ、徐々に[
2
.
あなたにおい て思いがある]が出現していると考える。(表1) 中盤、抜粋2
、3
では、[
2
.
あなたにおいて思 いがある1
から、徐々に[
4
.
.わたし語り'】が 出現している。(表 2、3) この大まかな推移、および上記応答の種類につ いての表現を踏まえて、佐治のありょうを次のよ うに記述できるのではないか。 (1)まず、クライアントの語った「内容」そのも のを正確にとらえようとする。(
2
)
その上で、そのような「内容」ゃ「思い」が、 クライアントという「場所J
において存在して いるのだということを、正確にとらえようとす る。(
3
)
クライアントの「場所」において、どのよう な「思い」が存在しているかを正確に理解でき るようになるにつれ、徐々に、カウンセラーの 「場所」において、クライアントの「思い」を 生じさせることが可能になる。そしてその「思ぃ」を、「場所
J
(所在)を消去した、むき出し の「思い」として表明することができるように なる。(本論では、これを‘わたし語り. と呼ぶ。)
加えて、そのような「思い」があることを、ク ライアントが自然に自己検討するような言葉を発 することもできるようになる。 以上のように、本論では記述する。 なお、(lJ-(
3
J
は、l
回の面接全体の流れ、 あるいは複数回の面接の流れとして当てはまるの ではないか。また、l
田の面接中、ある話題につ いても当てはまる流れではないだろうか。 そして、(1]-(
3
J
と移るにつれ、応答はクラ イアントに向けられているというよりも、カウン セラーの自己確認のように発せられる。クライア ント、カウンセラーという二つの「場所」は明確 にされなくなる。このことから、クライアントと、 二人でいながら、クライアントの「場所」に存在 する「思い」を、カウンセラーの「場所」を利用 して思ったうえで.わたし言音り' している、とで も言えるのではないか。W.
考察
1
.
佐治のありようについて 本論では、佐治の面接記録を検討材料に、応答 の形式に注目して応答の種類を特定し、その種類 について筆者が産出した記述、および面接中の応 答の種類の推移にもとづいて、面接中の佐治の 「ありょうJ
を推測して記述した。 応答の種類の特定から、佐治の「ありょう」の 推測まで、筆者の主観的な判断が大きく影響して いるO ではあるが、判断のもととなった材料であ る逐語記録の抜粋から、筆者の判断の是非につい て部分的に検討できると考える。しかしながら、 筆者の主観的判断が適切であるかどうかについて は、佐治本人による検証はできない。ただし、佐 治の実践を知っている方たちにとって、本論の記 述が適切か適切でないかの議論を可能にするかど うかが、本論の記述に意味があるかどうかの、判 断基準のひとつといえるのではないか。 筆者としては、検討材料とした逐語記録と、本 論で産出した記述が矛盾しないと考えていること から、佐治の「ありょう j に関する記述として、 提示することにした。 また、他の事例に関する、次の佐治の記述とも 矛盾しないのではないかと考えている。 「この時、カウンセラーは意図的に後のクライエ ントの変化を期待していないことは、明らかであ る。カウンセラーは、クライエントの中にうごき つつある、彼独特の感情の世界と、その世界をう けとっている彼の存在とに、より明確に迫ろうと していたのにすぎない。そして、この努力こそが、 カウンセリングの最初にして最後のものなのであ る。この努力が、クライエントを支えて、彼一人 では恐れていた世界を、彼自身の手でまさぐり、 その扉をあけることを可能にするのである。J
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佐 治.1
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6
6
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仮説として本論の記述を提示したい。2
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佐治の応答の形式の特徴について 本論では、佐治の応答について、形式に注目し てその種類を特定することを試みた。特に、{
4
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‘わたし語り.1
として特定した応答が、佐治の応 答として特程史的であると考える。カウンセラーに よって発せられた言葉でありながら、クライアン トの「思い」の表明としてそのまま通用するよう な応答である。そして、カウンセラーとクライア ント、二人いながら、本来は一つの「場所」に存 在する「思い」を、二人で‘わたし語り' してい る、とでも言えるのではないかとの考えを示し た。 本論の冒頭で、カウンセラーは、聴いていると きには何をし、応答するまでは何をし、応答して いるときには何をし、応答した後には何をしてい るのであろうか、という問いを記した。この間い に対して、検討した事例における佐治は、「クラ イアントと二人で、いながら、クライアントの『場 所J
に存在する『思い』を‘わたし語り' しよう としている」と、答えることができるのではない だろうか。 「自分J
f
こっち」など、どの「場所」にも通用 する表現が使われていることは、このことに関係 しているのではないか。 また、応答には、いわゆる「主語」がほとんど 使われていない。日本語には文法上「主語」が無く、英語に代表される、行為主を明確にする「す る言語」に対して、行為主を明確にせず自然の中 に存在していることを重視した「ある言語」であ るとの考えがある(金谷.