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総供給関数と「独占」(出江秋利教授退官記念論文集)

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総供給関数と「独占」

近 藤 学

1.序

 ケインズ体系の有効性をめぐって,今日理論的ならびに実証的・政策的な立        ユラ 場から種々の批判ないし再検討が行われている。しかしながらそれらの諸議論 においては,ケインズ体系の有効性を「独占」もしくは「独占資本」の行動と いった資本制経済の現代的変化とむすびつけて吟味しようとする視点は明確で はない。一般に,ある理論の部分的な有効性が間われているのではなく,パラ ダイムそれ自体の有効性が賜われている場合には,その理論が前提としている 経済像や経済観といったものと現実経済との対応関係がまず問題とされるべき であろう。  1930年代の「体制的危機の時代」において,慢性化しつつあった当時の失業 の救済を自らの使命と考えたケインズ経済学が,「独占資本主義」とも呼ばれ る現代経済の制度的・構造的変化をその理論体系のなかにうけいれたであろう        2) ことは当然に予想されることである。 1)そのような試みとしてLeijonhufvud[8], Buchanan et a11[9],Tobin[10],宇  沢[11]を挙げておく。 2)ケインズ体系と「独占」の関連を問おうとする試みは問題の重要性に比してはあ  まり多くない。そのようなものとして新野・置塩[1],置塩[2],宮崎[4],中村  [12],安井[6]がある。なお新野・置塩[1]では,ケインズが受けいれた現代資本主  義の理論的特徴として(1)社会の消費性向が低くなったこと,②企業の将来予想収益が  低くなったこと,(3)管理通貨制度が行われていること,(4)貨幣賃金率が下方には固定  していること,を挙げられている。(第三部,第二章)本稿の議論も多くのものを置  塩の諸論稿によっているが,引用の都合上逐一典拠を明示しなかった場合もあること  を,あらかじめことわっておきたい。尚,拙稿[15]においてもケインズの現代資本主  義観を検討している。

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 166  出江秋利教授退官記念論文集(第245号)  ところが,他方においてケインズは「古典派」経済学の完全雇用理論を批判 した際に,雇用量と実質賃金率の逆感応関係をいわゆる「第一公準」から導出 した。このことから,ケインズが収穫逓減型の生産技術と「完全競争経済」を 前提していたことが予想される。  一方における「寡占経済」の承認(ケインズはそれを承認したと考えられ る)と,他方における「完全競争経済」の承認は一見両立不可能な想定であっ て,このため多くの論者は現代資本主義の構造的変化というケインズ経済学の 大前提を後景においやり,「第一公準」を承認するというケインズの立言にそ って「完全競争的」に(すなわち新古典派的に)ケインズ体系を理解しようと しているようにみえる。しかしながら,ケインズにおける「第一公準」の承認 は,「完全競争経済」の想定からの必然的帰結であるというよりも,逆に実質 賃金率と雇用量の間の逆感応関係を導き出すための一種のトリッグともいうべ きものであり,むしろこの逆感応関係は資本家の価格設定態度を理論的に表現 したものと読むことが十分に可能である。  本稿の目的は上述した問題意識から,ケインズの枠組みを生かしながら,彼 の理論体系の中に「独占」の問題をどのように導入しえるかを検討したもので ある。そのさい特に総供給関数と「独占」との連関が議論の中心となる。また このことの検討は次のような意義をもつものと考えられる。  (イ)ケインズの体系が「独占」という現代経済の構造変化と.その特徴を十分 にふまえたものであり,そのゆえに一定の有効性をもちえたことが理解できる。  (ロ)総供給関数がたんに物理的・技術的に定まる不変の関係を表現したもの でなく,独占資本を中心とした企業者の利濁要求態度を表現したものであり, したがって失業を克服する際の方途として,「総供給管理政策」ともいうべき あたらしい視点と政策の提示が可能となる。  ㈲ 消費需要の狭あい性や失業と物価のトレード・オフという現代経済の特 徴が総供給関数と,したがって独占資本の行動と密接な関連をもつことが理解 できる。(本稿では十分に展開されない)  (;)ケインズ体系がなぜ成功し,またなぜその有効性を失うにいたったかの

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      ㌧総供給関数と「独占」  167 原因の一端を理解することができる。  本稿の構成については以下のとおり。まず第丑節および第皿節では,総供給 関数の一義性を保証するための条件を明らかにするという立場から,ケインズ の議論の再構成と,総供給関数の三つの性質を確認する。第W節では,ケイン ズ体系に「独占」の問題を組み入れるための収穫一定型モデルが提示され,第 V節で,「独占」と総供給関数の連関が追跡される。第VI節では,第V節での 考察をもとに,失業を克服するための新しい方途が検討される。 9. 総供給関数の再構成 ケインズが与えた総供給関数(aggregate supPly function)の表現は,・  (1) Z/w−Z.一ip(N)       3) という簡単なものである。(「一般』P.65)ここで,Zは「総供給価格(aggre− gate supPly price)」または「売上金額(proceeds)」とよばれ「企業者がそ れ(Zのこと…引用者)によってそれだけの雇用(Nのこと…引用者)を提供 するにまさに値すると考える売上金額の期待値」(「一般』p.28)のこと、であ る。Wは単位労働支出あたりの賃金額,すなわち賃金率である。したがって Zwは賃金率で実質化した「売上金額の期待値」であり,あるいは「売上金額 の期待値」によって購入=支配可能な労働の量をあらわしている。またZは, 個々の企業者の立場からみれば,一定の雇用に対応して各企業が獲得でぎると 考えるそれぞれの所得=付加価値額の総計と等しく,それぞれの所得・は,「要 因費用(factor cost)」と「利潤」の和に等しい。(『一般』P.28,29)NはZw との関係で各企業が雇用しようとする主観的労働需要量の総計である。  さて,Z”と!>’のあいだに(1)のような直平な表現が可能であり,かつそれ が経済的に有意味なものであることを理解するためには,いくつかの仮定とと もに,経済循環にかんするケインズの独自の考え方を知ることが必要である。 3)以下,ケインズの『一般理論』か. 轤フ引用は,後記参考文献[5]中の邦訳によるも  のとし・邦訳65頁を『一般』P・ 65と表記するC.とにする。    、

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 168  出江秋利教授退官記念論文集(第245号) われわれは.このことを明かにするために,いささか迂回的ではあるが,ケイ ンズの経済循環論をマルクス=レオンチェフの再生産論との対比によって浮き 彫りにすることから議論をはじめよう。  この経済にはnコの企業(もしくは産業,以下同じ)が存在し,それぞれ 次のような生産関数をもつものと想定する。 (A. 1) x, 一一 fi (N,), O=fi (O), dfi/ dN, =fi >O i一一 1…n (A. 2) d2f“/ dN: == f,, 〈O i== 1…n (A.3) xii/N{=6ii i, 1’=1… n ここで,Xiは第i企業の生産量,瓦はおなじく雇用量, XiiはXiを生産す るために第ゴ企業から購入され,実際に消耗された中間財の量(もしくは第ゴ        4) 産業から購入され,第i産業で実際に消耗された生産財の量),ξi‘は正また はゼロの実数で,第i企業における第ゴ財にかんする資本装備率であり,本 節の議論においては一定と考える。  次に,Vk‘をケインズの意味での第i企業の所得(=付加価値額)とし, 要因費用としては賃金所得(wVi)のみを考える。したがってee i企業の利潤 ll∫は定義により,  {2) lli一一Vki−wNi i=1…n となる。  次に,第i企業のある期における販売量をs‘とする。完成品在庫の持ち出 し(または積み残し)を考慮すれば,もはや販売量Siと生産量Xiとは一致 しない。次に,第ε企業の使用者費用をU‘とする。使用者費用Uiはケイ ンズ独得の概念であって,すぐ後でみるように販売量Siの導入とともに総供 給関数を構成する上で重要な役割を演じている。使用者費用U∫とは,「①彼 (=第i企業者…引用者)が設備を遊ばしておく代わりにそれを使用するこ とによってこうむる犠牲,ならびに②彼が他の企業から購入しなければならな 4)Xiiのなかには資本設備の減耗分もふくむものと考える。

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      総:供給関数と「独占」  169 いものの対価として彼らに支払う額」(『一般』p.27.尚,番号は引用者)から 構成される。今,期首資産額(ストック)をG?,期末資産額したがって次期 の期首資産額をGiとし, Piを第i財の単位価格,塚をeg i企業における第 ゴ財にかんする期首ストック量,Siiを第i企業がその期に購入した第」財の 量(第ゴ企業から第i企業への販売量),Ciを第i財の消費需要量, I」、(≧ 0またはく0)を第i企業における第ゴ財にかんする純投資量(この純投資 量のなかには完成品在庫投資量および資本減耗にかかわる補填投資量は含まな いものとする),塩(≧0またはく0)を第i企業の完成品にかんする在庫投資 量とすれば,i= 1…nに対して,  (3)G9・=Σ,P,feii  (4)Gi瓢Σノρ,栂+ΣiPゴS」i 一 ZJpixii+PilSi  (5) Sii=Xii十li∫    」=1… n  ㈲ Si=Xi−ISi=Σssii+Ci=Σ」Xii+Σみ+Ci      ラ が成り立つ。したがって,使用者費用σ‘の第一の部分は,  G9−Gl・ ・一ΣiPisii+ΣiPiXi, 一Pillsi(==一dG,とおく)   の となり,第二の部分はΣipisiiであるから結局,  (7)⑦=G9−G}+Σ」PiSi, = 2Mixii一あls‘  i=1…n となる。また,ケインズの定義から,  (8)カ、s、識ひ汁Vk、=Ui+Zi i=1…n が成り立つ。乙は第∫企業の純販売額である。  ここで述べておかねばならないことは,ケインズの場合には,われわれの場 合と異なって,Siやs,fのなかに企業の自己消費分を含めていないということ    う である。しかしながら,この差異は形式的な定義の問題であって,Siやsゴiの  5)資本設備の陳腐化や持ち越し費用等は無視する。  6) 『一般』P・62ないしP.76を参照。  7) 『一般』P.61以下。

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 170  出江秋利教授退官記念論文集(第245号) なかに企業の自家消費分をふくめるか否かにかかわらず,以下の議論は成り立 つのである。(興味ある読者は試みられよ)むしろ問題はケインズが総供給関 数(1)を導いた際に,たんなる総販売額ではなく,そこから使用者費用を差し引 いた,いわば純販売額を「総売上金額」Zとよび,これを計画雇用量Nと結 びつけたことの意味をどう理解するかである。多く.の論者はケインズが企業の 統合(吸収や合併による)の問題を考えており,そのために企業の統合の度合       き  に無関係な量をえるために純販売額を考えたとみている。しかし企業の統合に よって総販売額が変化するのは,販売額を自家消費分を含まないように定義し たことに依存しているにすぎない。したがって,われわれの定義したように, 販売額のなかに自家消費分を含ませてやれば,企業の統合の如何にかかわらず 総販売額は不変である。ケインズがわざわざ総供給関数において,総販売額 Σ,p,S、ではなく純販売額Zと雇用量を結びつけたことの真意はもっと別のとこ ろにもとめられねばならない。われわれは次のように考える。すなわち,ケイ ンズは生産量と販売量が暗黙のうちに等しいとみなす(セー法則1)従来の経 済学を批判するために,総生産額ではなく総販売額を議論の中心にすえ,これ と計画雇用量との関係を考えようとした。ところが販売量はもっぱら需要の状 態に依存し,したがって雇用量と一義的な関係をもたないから,このままでは 総販売額と計画雇用量のあいだに総供給関数(1)のような一義的な表現を導くこ           とは:不可能である。ところが,使用者費用をケインズのように定義し,総販売 額から使用者費用を差し引いた純販売額を考えれば,この純販売額Zは純生産 物価額yと等しくなり,後にみるように雇用量とのあいだに一義的な関係が導 かれるのである。このことを示そう。尚,以下の議論は封鎖体系に限定される。  まず,純生産物価額y’は次のように定義される。 (9) Y=Z],P, y,=Z,P,(x,一Zixii) 8)実際ケインズもそのように述べている。『一般』P.28の脚注(3)。 9)ついでに述べておけば,ケインズは『一般』P.52}こおいて使用者費用を雇用量の  関数として扱っているが,(7)より明らかなように使用者費用Uiには在庫投資fSiも  含まれるたあ,厳密にいえば誤りである。

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      総供給関数と「独占」 171 ここでyiは第i財の純生産量である。すると,    Z=Σ」Z戸Σ,(P‘s一U‘)       (∵(8)より)    =Σi{P,s,一(ΣiPjXi一PilSi)}     (∵(7)より)    =Σ、{あ(Xi−ISi)一(Σノρ」κ」一Pils,)} (∵(6)より)    == Z, (pixi一 Xipixii) == 2iPixi一 Z, (Z」pixi,)    == Z,p ,x, 一 =j (2,pixi,) == 2,p,x, 一 Z, (Zip ,x ,i)    =Σ,P,(x一ΣiX、i)=Y       (∵(9}より) となって,  ao) z==vk=y が導かれる。ただしVle=Σ,鴨である。 ao)より総販売額から使用者費用を差 し引いた純販売額Zは,ケインズの意味の総所得Vkとひとしく,かつ純生 産物価額yとひとしい。この証明は次の表をみればわかりよい。  表1,表2はそれぞれケインズの経済循環の考え方およびマルクス=レオン チェフの再生産論の考え方を図示したものである。表1の太い実線で囲んだ部 分は使用者費用の総計σ=Σ、αを表す。表2の太い実線で囲んだ部分はマル クスの意味での不変資本部分(価額表示)であり,今期の生産で消耗した生産 O

T

m

m

F 1 2 1     2 ρ1S11 カ1S12 カ2S21 ρ2S22

・1瀕霰

販売額

 PISI  P2S2 n * PnSnl 一aG, PnSn2 一AG,

付加備・・■Vfe・

販売馴・・s・ P2S2 ρ。s。。

偏1偏1

一∠σ鐸 γゐ。 カ。s, 表1 注)*行は各企業の使用者費用の第一の部分をあらわす

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172 出江秋利教授退官記念論文集(第245号) From\To 1     2 1 カ1κ11 ρ1κ12 2 ρ2κ21 カ2〃22

_]四壁投資需要

PIXI” P2×2st PICI P2C2 P1(Σん十ISI) P, (Zil,j 十ls,)

生焼「P・x・

P2×2 財の価額を表す。また表2の,1…nの各行末はそれぞれの生産額を記載すべ きであるが,紙幅の関係で省略してある。V毎はマルクスの意味での第i企 業(むしろ産業と考えるべきであるが)の付加価値額である。  尚,ケインズは『一般理論』第六章の補論において使用者費用の別の定義を 与えている。(『一般』p.76)それは使用者費用を,他企業から購入した財の 価額から「経常投資」を差し引いたものとするものであるが,⑤を(4)に代入し, (3)を考慮すれば,    dG, 一一 Gl 一 G!?・ = ]Zip」li, +p,ls, となるから,使用者費用の定義(7)より    U, == 2jpjs」, 一 (Xipili, +p,ls,) となって,ケインズの与えた定義がコンシステントであることがわかる。  ケインズとマルクスの考え方の違いは根本的には生産財(または資本財)と 消費財を区別することの理論的意義をどのようにつかむかに依存していると考 えられる。ケインズはこの区別を曖昧なものとしてしりぞけた。(『一般』p. 28)そして個々の資本家の立場からいわば直接的に経済循環をとらえようとし た。これに対してマルクスはこの区別を社会的再生産の立場から高く評価し, 再生産一般との関連において資本制経済の特殊性をあきらかにしょうとした。 このたあ個々の取引にはこだわらず,むしろ一般的・抽象的に社会的生産全体

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      総供給関数と「独占」 173 の相互連関性の解明に注意をはらった。このように,両者め理論的立場や目的 は相違しているにもかかわらず,全く驚くべきことec・,両者はともに純生産価 額Yをとらえることに成功しているのである。というのは,Vm=Σ‘Vm,と すると,    Vm ・・ 2iVmi・Σi(PiXi一Σψゴκ5‘)   (∵表2より)     =Z,p,x,一2,(Zjpjxi,)=X,p,x,一Zi(2」Pixi,)      一一2Ypixi−Xi(piZixii) =Xi,p},xi一£ipi(Zjx,i)     == Z,p,(x,一 Xix,i) == 2,p,),,= Y であるから,結局,  (鋤 Vm==Y (∵(9}より) が成立する。⑬,ωを考慮すれば,  (1幻 Z=%=y=・砺z が成立するのである。われわれは(12)を根拠として,以下においては主として Zのかわりにy’を計画雇用量Nとの関係で考察することにしょう。別言すれ ばわれわれの総供給関数は,  (13) Y/w==Y.=ip(N) と表現される。  議論に再び総供給関数の構成問題にもどそう。  まず就業構造パラメーターθを次のように定義する。 (A.4) ei=N,/z,Ni=N,/N i一一1…n とおけば,Σ」θ,=1。また,0<θ‘〈1(‘=1…n)と仮定する。さらにθ=(θ1, …,θ。)とし,θを就業構造パラメーターとよぶ。  (A.1>,(オL3),{9}より  ω Ni=x一Σゴ靭=ノi(N‘)一Σiξijム「i  i=1…n

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174  出江秋利教授退官記念論文集(第245号) であるが,(A.4)より,  (15) Sソi=.f’(θ,1▽)一Σ】,ξヴθノ〉’    i=1… n となり,純生産物y、はNとすべての就業構造パラメーターθ,および&i(ゴ == 1…n)の関数となることがわかる。  ここで,後の議論の便宜のためにこの経済における純生産可能条件を求めて おこう。体系が純生産可能であるため“には,  (16)  1‘==fi(N,)/N、=f,V 9θ,N)/θ,N      i=1… n とおくと(1,を第i企業の労働生産性とよぶ),次のnコの連立方程式が菊 るN>0なる値にたいし,

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とならねばならない。聞式の右辺のn行n列の行列をd(1,)とおくと,こめ ためにはまず行列∠(のが周知のホーキンス=サイモンの条件をみたさねば    エの ならない。注意すべきはわれわれの経済では,(A.1),(A.2)の想定によって, 各労働生産性1‘はNの増大とともに低下してゆくことである。このことは(16) を1>’で微分すれば,  (18)   dl,/dN= (f,一1‘)/エ〉’        i=1・・。n となるが,仮定(A.1),(A.2)によって1∫>fiが成立するから  (19)   dl,/c乏N〈0 となることから知られる。したがってこの経済ではNの増大とともに行列∠ (1,)が純生産可能条件を満たさなくなる可能性がある。Oの事実は収穫逓減 10)Debreu−Herstein[7],二階堂[14]P.1L以下この条件を純生産可能条件とよぶ。

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      総1供給関数と「独占」  175 型経済の欠陥である。つぎに,行列d(1,)の主対角要素の中の各1‘をf‘に 置き換えた行列を∠(f‘)とする。1∫>f“であるから,d(1’):≧(f“)となり・行 列ri(f,)が純生産可能であれば行列lt(1,)もまたそうである。そこで,適当 な範囲のNにたいして, (A.5) 行列A(fi)は純生産可能 と仮定する。  さら}C ,(ITより,(・4,5)が成立したとしてもθの如何によってはすべての y,が正値をとる保証はない。そこでさらに, (A.6) d(f,) ・[e,, … , e.]T>O と仮定する。[・]Tは行列の転置を表す。(A.6)の意味は就業構造を考慮した 場合にもこの経済は純生産可能であるということである。  すると個より  eo) oy,/oN=f,e,一zie,ie」>o i=1…n  (21) ∂2二yi/∂1>『2==.プ⊇、θ婆〈O    i=1… n(●.●(A.2) より)  22) Oyi/Oei一一(fi一&i)N>O i=1… n  (23)  ∂)ソi/∂θ,篇一ξガN<O       i≠ゴ, i,」=1… n  (24) oy,/og,i==一eiN〈o i, 1’一一1… n となる。⑳のように!▽の増大とともに純生産量)7iが逓減してゆくのは,こ の経済が収穫逓減型の生産構造をもつことの帰結である。また(22),(23)より就業 構造の変化が純生産量に影響することがわかる。尚,行列d(f,)が純生産可 能条件を満たすとは,この経済が一定の社会的分業と一定の生産力構造をもつ ことを意味していると考えられる。その意味で行列d(fi)のことを簡単に再 生産構造とよぶことにしょう。  さて,一定の再生産構造d(f,),および就業構造θ ・=(θ、,…,θ。)があたえ られれば,(15)よりyiはNの関数となる。そこで,  (25)  yi=二yi(1>’)         i=1。●・n

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 176  出江秋利教授退窟記念論文集(第245号) とかこう。すると,  tz6) Z=Y=Z,p,y,=Z,P,N,(N) となる。㈱より明かなように,Zもしくはyは,全ての価格P,とNの関数 となって,(1)もしくは(13)のようなNのみの関数とはならない。試みに圏の両 辺をWで除しても同じことであって,各ムないしPi/WがNの関数という 特別の関係を導入しなければ,(1)は根拠がなくなるのである。  ここでケインズは「第一公準」を援用する。今,市場は完全競争的であると し,各企業はプライス・テーカーとして行動するとすればケインズの意味の利 潤ll‘は,  ⑳ π‘=あsドσrz〃N言   i=1…n     =Pisi一 (Zipixi, 一p,ls,) 一 wAl’,    =P、(s,+ls,)一ΣjPiXii−wAVi    =カ、κi一(Σノカ,ξガ十w)N,    =p,fi (Al’,) 一 (£ ipiei, + w) Al’i となるから,利潤最大化の一階の条件より,  ⑫8>力誘一Σノρ,ξゴF躍    i=1…n (∵(7)より) (∵(6)より) が成立する。⑱はわれわれの経済における「第一公準」である。さらに圏の両 辺をWで除して,  (29) Pi/w=:qi i==1…  n とおけば,  (30) qifi(eiN)一Zjqi6ji=1 i=1…n となる。(30)より,各qiをパラメーターとみれば,通常の労働需要関数が導か れるが,これを逆に,2Vをパラメーターとみれば,(A.5)より,    det. d(fi)40

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であるから,     11) とができる。       総供給関数と「独占」  177 陰関数定理によって,各qiはNの関数として陽表的に書くこ したがって, (31) qi=qi(N) i一一1・一n と書ける。  (3ユ)の解釈は重大である。限界生産力説の立場からすれば,完全競争の仮定に より各企業は価格への支配力を持たないのであるから,(31)は市場で決まる実質 価格(ql,…, q。)が与えられたときに,これを所与として各企業が利潤の最 大化を追求するならば,経済全体としてNだけの雇用が計画されるというこ とを表しているに過ぎない。したがって因果関係は(qi,…, qn)→Nである。 ところがケインズはこれを逆転し,N→(q1,…, qn)と読む。すなわち各企業 がN‘ (i=1…n)だけの雇用を行い,したがって経済全体としてNだけの雇用 を行うためには市場での実質価格は(q1,…, q。)で定まる水準になければな らず,その実質価格のもとでは,全ての企業者は利潤の最大化を達成すること ができるというふうに。この意味で(鋤はすべての企業が雇用をNだけ行うの に引き合うと考える一定の期待価格ないし要求価格水準を表現したものと考え られている。別言すればケインズは〈31)を企業の(実質)価格設定態度とみてい る訳である。しかしながら,ケインズのこの解釈は限界生産力説の立場からす れば問題がある。すなわち,一方で企業の価格支配力をゼロとおきながら(す なわち企業をプライス・テーカーとみながら),他方で企業の価格設定態度を 考える(すなわちプライス・セッターとみる)ことは論理矛盾である。そこで, われわれは次のように考えよう。ケインズはもともと完全競争の想定が現実的 であるなどと信じてはいないが,企業の価格設定態度としては(31)を認めており, その根拠づけのためにいささか便宜的に限界生産力説を使おうとしたのだ,と 考えれば,ケインズ流の(31>の解釈を一応認めることができる。  (3①をqi,θ,,ξii,1Vにかんして全微分すれば, i=1…nに対して, 11)陰関数定理については例えば,高木[13]第7章を参照。尚,det. AとはAの行列  式のこと。

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178  出江秋利教授退官記念論文集(第245号)    dqifi 一Σjdqiξ」i= 一 qifii(dθ∫N十θ,dN)十Σゴ9μξガ をえる。これより(A.5)の逆行列が非負となることを用いて,  (32) ∂qi/∂N>0, ∂(li/∂θj≧0, ∂qi/∂ξノ,≧O      i,」, ん=1・一n       が導かれる。  かくして(25),(31)より総供給関数は,  ㈱ Z” = Yw= Zl iqiJii=Σiqi(N)yi(N)=φ(N) となり,ケインズの与えたとうりのNのみの関数となることができるのであ る。  ここで総供給関数が1Vのみの一義的な関数として導かれるためにケインズ        13)がおいたとみられる主な仮定を一括しておく。   1.再生産構造d(f‘)一定…(A.1)および(A.3)   2.就業構造θ一定…(A.4)   3.体系は純生産可能…(A.5)および(A.6)   4.完全競争(各企業は価格の設定を行わない)   5.収穫逓減型の生産技術…(A.2)   6.企業の利潤最大化行動は不変 1∼3の仮定は純生産物が存在し,また25)の関係を導くために必要であった。 4∼6の仮定は三位一体となって限界生産力説をなし,「第一公準」を経由し て⑳の関係を導くために必要であった。上でのべたように,ワルラス的経済観 に基づく限界生産力説を仮定せず,直接に⑳のような関係が導かれるならば, 4∼6の仮定は除くことができる。また6は労働者の闘争力や労働運動を中心 とした社会運動の動向に依存して変化するものと考えられる。尚,1∼6以外 にケインズがあげた条件としては,労働の同質性,封鎖経済の想定がある。開 放経済において総供給関数がどのように構成されるかは重要な問題であるが, 12) くわしくは,置塩[2]を参照のこと。 13)置塩[2]P.232以下を参照。

(15)

      総供給関数と「独占」  179 本稿では立ち入らない。  上記諸条件もしくは諸仮定からも知れるように,「独占」の成立は経済構造, 産業構造,企業および労働者の諸行動などに影響を与え,したがって総供給関 数を変化させるものと考えられる。この検討は第IV節で行われる。       皿. 総供給関数の性質  前節ではケインズの総供給関数(1}ないし(13)がどのように構成されるかを明か にし,ケインズの議論がセー=ワルラス流の経済観とはいささかおもむきの異 なったものであることを説明した。本稿ではケインズのオリジナルな総供給関 数がもつ3つの性質を,置塩[2]の議論にそって明かにしよう。  (34 [性質1] Y”>N.  (証明) 倒より    Yw=Σiqiyi=[ql,…, qn]d(1,)[θ1,…,θ。]〒1V  (∵囮より)     〉[q、,…,(ln]d(f,)[θ,,…,θ.]TN   (∵1,>f‘より)     =[1,…,1][θ、,…,θ”]TN   (∵(30>より)     =1>’  (∵(A.4)より)       Q.E.D.  (34の意味は,〔12),(2)より  (35)yザN=(Vk−wl▽)/w=Σi(Vki−wNi)/w=・]Zilli/w>0 であるから,賃金率ではかった総利潤が存在しなければ企業は雇用をおこなわ ないということである。  (36)[性質2] dY’”/di>>1.  (証明)㈱より,  ㈱ 4焉/dN=Σ、(dq/dN)yi+Σiqi(dyi/dN). しかるに(20),(30),(A.4)より,

(16)

180 出江秋利教授退官記念論文集(第245号)   >liqi(dyi/dlV)=[qi, …, q.]d(fi)[ei, …, e.]’         =[1, ”’, 1][Oi, ”’, On]’=:1 が成り立つ。よって圃,舩より,    dY./dN=Zi(dq,/dN)y,+1>1 が導かれる。       Q●E’ D’  (36)の意味は,Σ∫πノ”=U.とおくと,(35)より    dUw/ dN= d( Yw 一N)/dN= (dYw/ dN) 一1>O であるから,結局,企業は実質総利潤が増大しなければ,雇用を増やさないと いうことである。  (38) [性質3]   プ;、∫≦;一2(dq,/ dN)プZ・,/q∫θ,(i=1… n)     ならばd2 Y:w/dN2>0.  (証明)儲をさらにNで微分すると,  (39)d2 Y。/dN2一Σ、(d2qi/dN2)yi+2Σ、(dqi/dN)(dy、/ dN)         + X,q, (d2yi/ dN2) . しかるに,(21)より,  (40) Ziqi(d2yi/dN2) ==[qi, …, q.][fiie:, …, f..e;]’ とかける。 また,圃をNで微分すると,    (dq i/ dN) fi一]Z), (dq」/ dN) eii=一ai fi ,・e, (i=1・・一n) となるが,これを行列でかくと,  (41) [dqi/dN, … , d(1π/d!▽]d(プ})==[一(llプ1,θ1, 。・・, 一qn fnnθn]

(17)

       総供給関数と「独占」 181 となる。(4①,㈹および⑳より  (42) Σiqi(d2yi/dl>’2)=一[dqi/dl>’, … , dqn/♂1V]A(f‘)[θ1, 。・。, θπ]T          ”・ 一Σ、(dqi/ dN)(軌〃N) となる。したがって,(39),(42)より  (43)d2 Y./ dlV2 = X‘(42qi/dN2)」,i十Σi(dq,/ dN)(dヅ、/dN) となる。幽の右辺第2項は⑳,(32)より正,よってd2q,/ dN2の符号が非負であ れば証明は完了する。そこで㈹をさらにNで微分すると,  圓[d2q、/dN2,…, d2qn/aN2]d(f,)=[F,,…, Fn] ただしF戸一2(dqi/ dN)f,,θ∫一q,f,,,e?(i=1…n)で, fiiiはf’の三階の導関数 である。(44,(A.5)より,F≧0(i==1…n)ならばd2q,/ dN2の符号は非負と なるが,そのためには    一2(d(i‘/dN)プ;‘θ」一(Ziプニ露θ睾≧0    (i=1… n) すなわち,(38)の条件がなりたてばよいことがわかる。 Q.E.D.  尚,(38)の条件は,労働の限界生産力が加速度的に逓減する場合,すなわち       の 芳‘‘<0の場合には明らかに成立するが,たとえノ;‘≧0であっても(38)の条件を 満たす限り,[性質3]d2 Y”/dN2>0が導かれる。  (38)の意味は    d21T”/dN2=d2(Yw 一1>『)/dN2=d2 Y”/dN2>0 であるから,企業は雇用の増大以上に実質総利潤が増大しなければ雇用を増や さない,ということである。このことは,別の角度からみれば,雇用の増大と ともに資本家の分配率が増大すべきことを要求している。というのは,資本家 14) 置塩[2]P.225の仮定(2.12)のケース。

(18)

182  出江秋利教授退官記念論文集(第245号) 階級の分配率をμとすると, (45) pt =II/Y :Ilw/Yw= ¢(N) ’N/ip(N) であるから,μは,総供給関数を通して,1Vの一義的な関数となる。㈲より,  (46) dpt/ dN一 [{ (ddi/ dN) N/ ip} 一1]/ip であるから,㈱内の(⑳/dN)N/φ>1ならば4μ/dN>0となる。別言すれば, 実質純販売額(または実質純生産額)の雇用に関する弾力性が1より大きけれ ば4μ/dN>0が導かれる。ところが0=φ(0)(∵(A.1)より), d2 Yw/ dN2>        S5) 0ならば平均値の定理より(dφ/dN)N/il>1が証明される。したがって, O=ip(O), d2 Y./dN2>O 〉(dip/dN)N/¢>1 >dpt/dN>O が成り立つのである。 Yw

/5グ4

     / A    /    一    /   /  一  /

/B

 /

/グ

c No 図1

N

 以上のことから,ケインズの総 供給関数は決して単純に物理的・ 技術的に定まるものではなく,総 資本の「あからさま」な利潤要求 態度(とくに(30))式の第一公準) を体現したものであること,別言 すれば,資本制経済における企業 家の行動様式を巧みに理論化した ものであることが知れるのである。  尚,上記(34),(36),(38)の3つの性 質および0=φ(0)を考慮したケ インズの総:供給関数は,図1のよ うになる。雇用量が1Voのときに は資本家の分配分はAB,労働者 15) 置塩[2]P.230を参照。

(19)

      総供給関数と「独占」  183 のそれはBCで表わされる。みられるように,雇用の増大は労働者の相対的 分け前を低下させる限りにおいて可能となる。こうした総資本の特殊な雇用態 度・雇用様式は,間接的に人々の消費需要の状態を規定する。 IV。「独占」の導入とモデルの提示  前節までの議論においては,できるだけケインズの精神に沿ったかたちで, 総供給関数の再構成を試みた。しかしながら,すでに指摘したように,完全競 争の想定にたつ限界生産力説は,ケインズの経済面と矛盾するばかりでなく, 「独占」の導入というわれわれの課題とも整合しない。そこでまず限界生産力 説を批判し,その後に「独占」の導入と整合的な,われわれのモデルを提示し よう。  限界生産力にたいする第一の批判は,それが完全競争という非現実的な想定 に立脚しているという点である。すなわち,完全競争のもとでは全ての企業者 は価格への影響力をもたず,ただプライス・テーカーとしてのみ行動すると想 定されているが,もしそうならば,諸価格が需給の変化におうじて変化すると         いう事実を合理的に説明することができない,ということである。けだし,価 格を誰れも動かせないのに,価格が動くということはありえない。この矛盾を さけるためには,ワルラスのように競売人の存在を考えるしかないが,証券市 場や一部の生鮮食料品市場などを別とすれば,現実の無数の市場に競売人が存 在し,彼らが価格を動かしていると想定することはきわめて非現実的である。 むしろ各企業者の商品は彼らの私有財産なのであり,彼らの同意なく売買契約 が成立することは有り得ないのであるから,彼らの商品の価格設定権は基本的 には売り手の側にあると見るのが正当であろう。このことは,それが実現する か否かは別として,各企業者は常に何等かの価格設定態度をもち,それにもと づいて実際に価格の設定を行なうものと考える,ということである。勿論,「独 占」が成立した場合とそうでない場合とでは企業の価格設定態度は大いに異な 16) 置塩[2]p.235.

(20)

184  出江秋利教授退官記念論文集(第245号) っていると考えられるが,ここでの閥題は資本制経済の下での企業者をプライ ス・セッターとみるか否かということである。この点で,完全競争の想定は認 められない。  第二の批判点は,通常のS字型の生産関数を考えた場合,(3①,㈱より,  (47)  lli=:qi(1‘一プ;・)wrv「        (i==1, ●。●, n) であるから,利潤が存在するためには1,>fiでなければならないが,そのた めには生産が常に労働生産性1,の最大点=正稼常働水準以上の水準にあるこ       ユの とを要請し,したがって現実的でないということである。  第三の批判点は,収穫逓減型経済では利潤が存在する限り (ち〉みなる限 り),雇用量(したがって生産規模)の増大とともに生産物1単位あたりの平 均費用は逓増しなければならないが,現実には平均費用は一定ないし逓減して いるのではないかということである。とくに重化学工業が支配的な現代におい ては一層この点は考慮されねばならない。  第四の批判点は,(19>において示したように,収穫逓減型経済では生産規模の 増大とともに労働生産性1‘が減少し,したがって体系が純生産可能でなくな り,極端な場合には純生産物が存在しなくなるということである。  また,限界生産力説一般にたいする批判ではないが,(A.1)∼(・4.3)のモ デルでは,資本装備率ξi、(ゴ篇1…n)の上昇と労働生産性1,の増大との連関が 切断されており,この点でも現実的でないということである。  以上の理由からわれわれは限界生産力説をとらず,また(A.1),(A.2)と も異なる,新しいモデルを導入しよう。  尚,「独占」という用語については本稿では次のように考える。諸資本間の 自由競争は,景気変動の過程をつうじて生産の大規模化,最低必要資金量の増 大,産業構造の高度化などの生産の集中・集積をおしすすめる。他方では株式 制度の普及・利用や,銀行資本と産業資本とのさまざまな結合関係をつうじて 資本の集中・集積がすすむ。こうした生産および資本の集中・集積は相互にか 17) 置塩[2ユp. 239.

(21)

      総供給関数と「独占」  185 らみあいながら,カルテル,トラスト,コンツェルンなどと呼ばれる巨大資本 とそれによる市場支配をつくりだし,また,市場集中度の上昇,重層的な競争 構造,下請け制や系列化の発展,非価格競争とよばれる新しい競争の形態,価 格の下方硬直化,参入障壁などをつくりだす。このように,生産および資本の 集中・集積によって19世紀的な自由な競争環境が大きく変化し,市場=産業構 造,諸島本間の競争関係,諸資本の行動様式(とくに価格への支配力の強化) などの諸レベルにおける資本制経済の新しい歴史的な変化の総体を,「独占」 もしくは「独占資本主義」とよぶことにする。  まず,生産関数を (B.1) Xi=fi(x、, x、パ・・, x。i, N,)  i=1…n とおき,各fiは一次同次関数とする。また各ブは毎≧0(ゴ=1…n), N‘≧0 の範囲で定義され,境界条件として,少なくとも一つの生産要素が0のときは Xi=Oとする。各生産要素に関する限界生産力は, (B.2) ofi/axi,==f」i>O, O f,/ON,=f,,>O i, 」’=1…n であるとし,第i企業(または産業)における第」財にかんする資本装備率 ξiiは(A.3)と同様にして, (B.3) x」,/.IV’i=ei,20 i, 1’=1一・・n とする。すると(B.1),(B.3)より,  (48) xi=Nif’(ei,, e2b … , e.i, 1) i=1… n となるから,  (4g) li=li(eib g2i, … , e.i)=f’(eib g,,, … , e.i, 1) i==1… n とおくと,(48),(49)より,  (50) li=xi/Ni i=1…n となる。よって1‘は資本装備率によって定まる労働生産性であることがわか

(22)

186  出江秋利教授退官記念論文集(第245号) る。後の議論のために資本装備率が労働生産性にどのように影響するかをしら べると,  (51) al,/06」,・=f」,>O i, 1’=1… n であるから,資本装備率の上昇は労働生産性を増大させることがわかる。また (B.1)より,!V‘一定でξii=0すなわちXii=0ならば, Xi=Oであるから ∫FOが成り立つ。また,(48)∼(50),(B.3)より,  (52) a21,/aee,=fii,N, i, 」’=1… n が成り立つ。ただしム、=∂f”/∂Xj,=∂2fi/∂壕で, ee i企業における第ブ財に かんする二階の導関数である。そこで, (B・4)プ}、、=∂〃∂xノ、=∂2∫シ∂埠>O  i,ゴ=1…n        なる仮定を追加しよう。以上(B.1)∼(B,4)  lt      の仮定から,労働生産性lsと資本装備率ξi、        σ=1…n)の間には図2のような関係が成り立        つ。       さて,総供給関数が存在するための大前提は,  o       en  この体系が純生産可能であることであるから,        (50),(・B.3)より      図2  (53) yi−m xi−Z」xi,==liN,一Zig,iNi>O i=1…n が,ある!▽‘>0の組にたいして成立しなければならない。すると,

6■窯1鷺:]

とおけば,そのためにはdが周知の条件を満たさなくてはならない。よって, (B.5) dは純生産可能

(23)

      総供給関数と「独占」 187 と想定する。  さらに,就業構造パラメーターθ‘(i=1…n)を第豆節と同様に定義する。 すなわち, (B.6) (A.4)と同じ とする。すると,第ll節の議論と同様に,(B.5)であってもθ、の如何によっ ては体系は純生産が可能でなくなるから, (B.7) A[e,, … , e.]T>O と仮定する。  ところで,働およびXii=(ξ,ノ/li)Xjに注意すれば,  (55) [yi, … , y.]’ =[fiij一(e,,・/li)] [xi, … , x.]’>O i, 」’=1… n であるから1‘>0(i=1…n)なる限り,(B.5)と(55}のなかのn×n行列が純 生産可能であることとは同値である。ただしfiijはクロネッカーのデルタ。 ξ‘ノZ,=勘/κ,であるから,行列[δザ(ξ‘i/ li)]はレオンチェフ型の投入==産 出行列をあらわす。そこで,資本装備率ξ、ノが自部門の投入係数ξ扉駅ん=1 …n)にどのように影響するかをみると,  (56) O(6,,/1,)/Oe,, :一(e,,/IY) (Ol,/a6,,)          =_(ξ、ゴ/弓).fij<0  (∵(51)より)ん≠i  (57) O(e,,・/1,)/Oe,,・=(e,,/1?・) {(1/6,,・)一(al,/Oe,,・)}〈O となる。(57)が成立するのは,われわれの経済では(B.1)∼(B.4)より(ま たは図2より明かなように)  (58) (li/e,,・)一(Ol,/08,i)〈O i, 1’=1… n が成り立つからである。  (56),(5Tからわかるように資本装備率の上昇はその企業(または部門)の労働 生産性をたかめ,かつその企業(または部門)の投入係数(労働投入係数をふ

(24)

188  出江秋利教授退官記念論文集(第245号) くむ)を減少させる。したがって,資本装備率の上昇は社会全体の純生産物を 増大させることがわかる。この事実は前節までのモデル(A.1)∼(A.6)で は考慮できなかったことである。  総供給関数が存在するための大前提の第二は,第一公準の成立すなわち幽よ り利潤が存在することであった。われわれの場合には限界生産力説をとらない から第一公準は成立しない。そこであらためて利潤存在の条件を考えよう。ま ず利潤lliは  (59)ll‘=PiX一(Σ」カiXii+wNi)   i・=1…n と定義される。労働は同質的で,また簡単のために労働者の貯蓄は無視しえる 程度のものと考える。すると,第」財にかんする労働者の単位労働支出あた りの実質消費水準をb、とすれば,  (60) w=X,P,b, が成立する。労働者は労働力の再生産のためになんらかの消費を必要とするか ら,ろノのうち少なくとも一つは正である。次に,労働単位あたりの利潤π、を,  (61)πi=πノN,  i=1…n と定義すれば,労働単位あたり利潤が存在するためには,ある[Pi,…, P。]> 0にたいして,(59)∼(61)および(B.3),(50)より,  (62)[π、,…,π。]=[P、,…,Pn][トろ]>0 が成立しなければならない。ここで行列[∠一b]は(54)の行列の第fゴ要素δ、ili 一ξ」ゴを,δ、,1ノーξ,i−b,におきかえた行列である。また行列ろは (63)b一= mZ/i[II 3/1] である。

(25)

       総供給関数と「独占」  189  (62)より,[π1,…,πn]>0となるためには,(62)を満たす[Pi,…, Pn]>0なる 解が存在しなければならず,そのためには行列[d−b]が周知の条件を満たさ ねばならない。そこで, (B.8) A一ろは剰余生産可能 と仮定する。  さらに,剰余生産物X、を次のように定義する。  (64 zi=yi−biN i=1一・n すると,(53)およびb、N=Σib, Vノに注意して,  (65)9,={1,θ一ΣJ(ξii+勾θゴ}1▽  i=1…n となるが,行列でかくと,  (66) [zi, … , z.]T=[d−b] [e. … , e.]TN である。また働,⑳より,  (67) Zillt=[Pi, ’”, Pn] [d−b] [Oi, ”’, On]’N であるから,(66),㈱より  (68)Σ‘ll,=[Pi,…, P。][91,…,9。]丁 が成立する。これより,[Pi,…, P。]>0なるかぎり,剰余生産物が存在すれば かならず総利潤が存在することがわかる。ところが㈹より,剰余生産物が存在 するためには(B.8)であってもθの如何によっては負値となる可能性がある。 そこで,利潤の正値性を保証するために, (B.9) [d−b] ・[e,, ・一・, e.]T>O を仮定する。結局,(B.8),(B.9)が成り立てば,労働単位あたり利潤がすべ て正となる価格ベクトルの存在が保証され,かつ任意の正なる雇用水準にたい して剰余生産物の存在が保証されるのである。

(26)

190  出江秋利教授退官記念論文集(第245号)  次に,労働一単位あたりの純生産物をsbi(i=1…n)とすれば,定義および (53)より, (6g) di,=y,/N==1,e,一zie,,ei i=1・一n である。後の議論のために,ψゴがどのような要因に依存しているかを調べて おこう。 ㈲ 1,ψぎは,自部門iの技術進歩,すなわち1‘,鋸の上昇により,増加     する。(∵fii>1,/ξ,,と(B.5)による)   2.ψfは,他部門ゴの技術進歩,すなわちξiiの上昇(したがってlj     の上昇)により,減少する。   3.ψ,は,自部門iの就業構造θ,の増大により,増加する。   4.ψiは,他部門」の就業構造θ」の増大により,減少する。        ψ‘は図3のように,再生産構造ti,就業構造θが一  穿t        定ならば一定の係数であって,Nにたいしてどれだ

   K

    \     けのy、が産出可能かをしめす一種の生産力係数であ        る。    ψi     以上でほぼわれわれの新しいモデルの構造的・生        産力的側面が明かになったものと考える。次の問題     図3        は,総供給関数を構成するための他の側面,すなわ ち企業の価格設定様式の検討である。  限界生産力説を批判したさいに,およそ資本制経済を考えるかぎり企業をプ ライス・テーカーとみることは非現実的であるとのべた。では,企業をプライ ス・セッターとみた場合,どのように価格設定態度を定式化すればよいだろう か。  企業は与えられた賃金率および原材料などの生産費用のもとで可能なかぎり 高く自己の生産物価格を設定しようとするだろう。そのさい価格の上限は無限 定ではない。彼らが考慮するのは次の三つの要因と考えられる。一つは市場の

(27)

      総供給関数と「独占」  191 需要状態である。市場が超過需要的であれば価格の引き上げは容易とみるだろ う。逆に市場が超過供給的であれば価格の引き下げもやむおえないと考えよう。 二つは,他のライバル企業との競争関係である。競争関係が完全競争的であれ ばそれだけ価格の釣り上げには慎重にならざるをえない。逆に,競争関係が独 占的であれば,それだけ価格の操作は容易となろう。三つは労働者との対抗関 係である。われわれのモデ汐では労働は同質的と考えているから,賃金率の引 き上げはすべての企業者の利潤を悪化させる。このため賃金率の引き上げによ る利潤の低下にたいしては,企業者は利害共通の立場から(互いに他と競争す ることなく),自己の価格の釣り上げによって,抵抗しようとするだろう。具 体的に賃金率の上昇に対してどの程度の価格への転嫁が可能かは,労働運動や 他の社会運動の動向に依存しよう。  そこで,企業者iは設備の稼動状況によって市場の状態を判断するものと考 え,正常稼動に対応する雇用量を1▽9とする。このとき,競争関係が完全競 争的で,資本の参入・退出が容易な場合には企業老は生産費に均等な利潤をみ こんだ自然価格ないし正常価格P9を設定するものと考える。また競争関係が 独占的であるか,または労働者の抵抗力が弱くなれば,それだけ1囎に対応 する価格は上昇し,ρ9+αiとなるものとする。ここでαiは企業者iの独占力 をあらわす正のパラメーターとする。また旧く瓦のときには価格はゆるやか に上昇するが,設備の物理的限界に近付けば近付くほど価格は激しく高騰する ものと考える。最後に,賃金率の上昇は,労使の関係が一定の場合は,そのま ま価格に上乗せするが,労働者の抵抗力が強くなれば,α、の下落によって価 格の釣り上げを抑えることができるものと考える。  以上の検討から具体的な企業の価格設定態度として, tr1) Pi/w=qi=2,(Ni)+cr,, dRi/dNi>O, d22,/dlV?・>O, i=1…n と想定する。(図4参照)市場が完全競争的であればヵ2/wo=2、(!▽9)が成り立 つ。ここでp?(i=1一・n),woは,

(28)

192 9       より定まる正の数で,1が価値尺度財の場       18)        合は躍≡1,rは正の均等利潤率である。  ql一一一一一      以上,㈹,(71)よりわれわれの場合の総供

      1  給関数輔成す・・とができ・.

       Ni (73) Y/w == Y. =: ]2EI),Giyi=Xi {Ri (Ni)       図4       +α,}ψ、N=Σ∫{2,(θ∫N)+αi}ψ,N であるから,独占力パラメーターα=(α、,…,αn),再生産構造ri,款業構造 θが一定ならば,実質純生産額は雇用量Nのみの関数となる。みられるよう に,われわれのモデルは,「独占」の問題を直接的に考察することができる。 その検討は次節にゆずり,ここでは㈲がケインズの総供給関数と全く同じ3つ の性質をもつことを確認しておこう。  ㈲ [性質1]Y”>N.  (証明)(60)より,1漏Σノg、奄に注意して,圃,(B. 6)を考慮すれば,  (75) [qi, … , q.]b[ei, … , e.]T==1 が成り立つ。よって圃,(54より,    Y.一N=[qi, … , q.]d[ei, … , e.]’N一[qi, … , q.]b[ei, … , e.]TN       =[qp … , q.] [d−b] [ei, … , e.]TN となる。これより[ql,…, q。]>0,(B. 9), N>0を考慮して四を得る。        Q.E.D.  ㈲ [性質2]dY”/dN>1.  (証明)個を1>’で微分すると, 出江秋利教授退官記念論文集(第245号)       (72) (/O‘,1;=Slp+,,£)2]’PiO’(6ii+bj) i一=1…n   cvs 18)均等利潤率については置塩[3]第1章などを参照。

(29)

      総供給関数と「独占」  193 ㈱ dY”/dN=・Σ,(dλ,/ dN)ψ」1▽+Σ∫(Ri+αi)ψ‘ となるが上弘治一項は㈹,翻,(B.7)より正。また第二項は,㈲より,    Σ,(2i十αi)ψ‘一1=[q、,…,q。]d[θ、,…,θ。]〒        一[qi, ・・一, q.]b[ei, … , e.]T       =[q1,…, q。][d−b][θエ,…,θ。]T>0 となって,1より大。ゆえに,    dY”/4N=Σ、(dR,/dN)ψ、N+Σ、(λi+㊧ψ、       >Z, ( d2,/ dN) ip,N + 1>1.  cr8)[性質3]d2 Yw/dN2>0.  (証明)繍をさらに1Vで微分すると,    d2 y:”/dN2=Σ∫(d2λ,/ dN2)ψ,N+2Σ,(dλ,/ d!▽)ψ‘ を得るが,㈲,㈱,(B.7)より,右辺は正となる。 Q. E. D. Q.E. D. 最後に,N=Oのときは(B.1)よりん5=0(i=1…n)となり, Y”=0が成立 する。以上より,われわれの総供給関数も図1のように書ける。      V. 総供給関数の規定因一「独占」との関連で一  第1およびW節の議論からもわかるように,総供給関数は再生産構造d,就 業構造θ,および独占力αの影響をうける。前二者は主として純生産物とい う実物的要因に影響を与え(このことはすでに㈹で一部ふれた),また後者は 企業者の供給価格という価格的要因に影響を与える。まず,実物的要因と価格 的要因を別々に考察し,しかる後に両者を統一的に考慮しよう。  まず,ある企業i(または部門)で技術進歩があった場合を考える。われわ れのモデルでは技術進歩とは資本装備率 6i,の上昇とそれによってひきおこさ れる労働生産性1,の上昇のことであった。((51)を参照)と同時にこのことは, 投入係数の減少を引き起こす。(働,(5Tを参照)ところである企業の生産過程

(30)

194  出江秋利教授退官記念論文集(第245号) における技術進歩とは,個々の生産要素がバラバラに資本装備率を上昇させる のではなく,いわば相互に連関しながら全体として資本装備率を高めるものと 考えられるから,われわれは技術進歩と言う場合,ξ、、(ゴ=1…n)全ての上昇と 考えよう。別言すれば行列d.,あるいは[6,,・ 一 (e,i/ 1) ,]のee i列の要素全て が変化すると考える。すると(69)より,    dip, = (dl,一 dg,,)0,    dψゴ=一dξi、θ‘(ゴ≠i) であるから(73)より,  (7g) dY.=N]1[],q,d¢,=Ne,(aidli−Ziq, deii) をえる。(79)の(・)内は,第i企業の技術進歩にともなう労働単位あたりの実質 付加価値額の増分である。しかるに    q,dl、一Σ函4ξ、、=Σ擁プ;・,dξ,,一Σ泌4ξ∫, (∵〈49),励より)      = ZJ (q, f,・, 一 qj) deii      >Σゴ匂、(1,/ξ,,)一q、)dξ、、       C.’(58)より)      = X, (qix, 一 qjx,i) de,i/x」i>O となるから,      dY.>O が帰結される。すなわちある企業における技術進歩は純生産物の増大を通して, 総供給関数を上方にシフトさせる。  次に就業構造の変化をみよう。㈱をθに関して全微分すると,  (so) dY.=N2Z,(da,/dN,)ip,de,+N=,q,(1, de,一ZS,, de,) となる。(80)の第一項は就業構造が変化したことに伴う,価格への影響による総 効果,第二項は同じく純生産物への影響による総効果である。Σ,dθ、=・oであ るから,例えばde,>0とすると少なくとも一つの企業ではdθ,〈O(k≠i)

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       総供給関数と「独占」 195 となり,(se)の符号は一般には確定しない。そこで第i企業(または部門)の 雇用の増大は,すべてee k企業(または部門)からの引き抜きによって行なわ れたと考えると,(たとえばee i企業を大企業,第k企業を中小企業,もしく は第i部門を工業,ee le部門を農業と考えよう)4θ戸一dθk, dθ、 ==O(ゴコ1… n,;ゴ≠i,k)であるから,  (81)  dY=”;=N2{(dλ」/dN‘)ψ‘4θ‘十(dZ,/d〈r々)ψゐ4θゐ}・     +N{④z一Σ泌ξ、,)dθ,+(¢脇一Σ鳥ξゆ鵡} となる。⑳の第二項の(・)のなかは,それぞれee i企業およびeg k企業の 実質付加価値生産性である。経験的にみて労働力を吸収する企業は吸収される 企業よりも付加価値生産性は高いと考えられる。また労働力を吸収された場合 にも所得の確保のために価格はあまり引き下げられないと考えると(すなわち dλ,/ dN,≒0とすると),    dY.>O なる可能性がきわめて高いと考えられる。したがって,就業構造が変化した場 合,総供給関数を上方にシフトさせる可能性が高い。  次に独占力αの影響を考えよう。αを変化させる要因は,すでに述べたよ うに,他のライバル企業との競争関係と労働者の抵抗力の二つである。競争関 係の弛緩すなわち市場の寡占化はαを増大させる。また労働者の抵抗力の強 化はαを下落させる。(73)をαで全微分すると,  (82) dY.=N(Zi¢,dai) となる。これより経済の寡占化の進行は総供給関数を上方にシフトさせ,また 労働者の抵抗力の増大は,それを下方にシフトさせることがわかる。また(82)よ り,これらの効果は全ての企業(または部門)で一様ではなく,純生産物にか んする労働生産性ψfが高い企業(または部門)の影響がより大きいことがわ かる。  以上,技術進歩,就業構造,独占力がそれぞれ総供給関数をどのように変化

(32)

196  出江秋利教授退官記念論文集(第245号) させるかを,それぞれ孤立的にとりあげ検討した。しかし,行論からもうかが えるように,これらの三者の要因は個々バラバラなものではなく,相互に密接 に連関している。  ある部門における資本装備率の上昇は,投下資金の大規模化=最低必要資金 量の増大,参入障壁の形成をまねき,また他方で労働生産性,付加価値生産性 を高め,利潤を増大させる。利潤の増大は投資の増大→労働力の流入=就業構 造の高度化をもたらす。また,ある部門(生産財部門)における独占の成立は, 価格の釣り上げ→他の部門の生産費の上昇=利潤の悪化→他の部門の資本装備 率・労働生産性の増大→他の部門の投下資金の増大をまねき,次々と経済全体 を寡占化してゆく。そしてこうした経済全般の寡占化は従来の競争関係を徐々 に変化させ,価格への支配力を上昇させる。このように,「独占」の成立は生 産技術,就業構造,独占力の変化,さらには「独占」の波及と密接に絡み合い ながら,進行してゆくのである。(図5参照) 資本装備率の上昇 一一j,

e

就業=産業構造の高度化 .

e

独占力の強化と 「独占」の波及 図5 このことの認識は,「独占」と総供給関数の連関を追跡しようとするわれわれ にとって,きわめて重要かつ有用である。すなわち,「独占」の成立が経済構 造,経済行動の諸レベルの変化といわば一体的に生じるものならば,われわれ は安んじて「独占」の成立およびそれの経済全般への浸透が,総供給関数を上 方にシフトさせると結論することができるのである。そのルートは四重である。 第一のルートは資本装備率,したがって労働生産性の上昇をとうして純生産物 を増大させる。第二のルートは就業構造の高度化をつうじて,主として純生産 物を増大させる。第三のルートは独占力の形成による価格の釣り上げである。 第四のルートは他の部門への「独占」の波及によってである。これらの諸要因 は相互に連関しながら総供給関数を,徐々にかまたは急激に,上方にシフトさ るのである。

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総供給関数と「独占」  197 V正.結びにかえて  前節では,収穫一定型のわれわれのモデルにおいて,「独占」の成立が総供 給関数を上方にシフトさせることを明らかにした。本節ではそのことの含意を 「総供給管理政策」ともいうべき視点からみなおし,失業を克服するための新 しい可能性をさぐってみたい。  今,勾配が1よりも小というケインズ型の総需要関数を所与とすれば,「独 占」の成立は明らかに均衡雇用量を減少させる(N。→N,)。また失業を克服す るために,公共支出を行った場合でも(Dw→1)♂),独占的な企業による価格 の釣り上げによってその需要を吸収してしまえば,雇用は減少することさえあ りうる(Na→Nc)。  われわれはこうした状況のなかでど のようにして雇用と生活を守ることが できるだろうか。  前節での考察を延長して考えれば, 次のように答えることができよう。ま ず第一に,過度の技術進歩を可能なか ぎり抑制する必要がある。そのさいと くに,労働生産性が高く,就業構造の 比率も高い巨大企業でのいわゆる「合 理化」をペース・ダウンさせることが 重要になろう。また中小企業の労働生 Yw b c 尺 a x Dが Dw       N        Nb IVc Na        図6 産性を高め,彼らを巨大企業の有効な競争者として育成してゆくことは競争的 な市場環境を維持し,独占価格を低めるためにも必要である。  第二に,就業構造,したがって産業構造の適正化が必要である。そのために も付加価値生産性の相対的に低い部門,例えば農業または中小企業などの生産 力構造の一層の近代化,労働生産性の上昇,協同化=大規模化,低利資金の優 先的供給などの政策によって,失われた雇用を再びよびもどすことが必要とな

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198 出江秋利教授退宮記念論文集(第245号) ろう。  第三は独占企業の価格政策への規制である。そのためには労働運動や消費者 運動の自主的発展を促進するとともに,不当な独占価格にたいする国民の審査 権の保証,独占企業の流通系列化にたいする規制,独占企業の投機的行為に対 する規制,独占禁止政策の強化などが必要となろう。  第四は労働時間の短縮と賃上げである。これらは直接に雇用を増加し,また はその減少をくいとめるだけでなく,所得の増大をつうじて消費財需要をたか め,消費財産業の安定的成長を可能にし,また就業構造を適正化させる。また 労働時間の短縮や賃金引き上げ,「合理化」の抑制をめぐる労働運動の発展は, 独占企業の価格支配にたいする最も強力な規制力であるとともに,国家の民主 的諸政策(たとえばキャピタル・ゲインにたいする課税強化などの租税政策や 福祉政策,最低賃金制度の実現など)をささえる重要な保証となる。  第五は,こうした雇用と生活の安定をもとめる,労働者,中小企業者,農民, 消費者などの多数の声を自らの政策として実施する意思と能力をもったより民        主的な政府の実現が必要となろう。  そして,上述したような,総供給関数を下方シフトせしめる諸政策とともに, 公共支出をできるかぎり労働集約的な,したがって中小企業や消費財産業など にふりむけるなどの,新しい発想にたつ総需要管理政策との結合が重要となろ う。  このように,総供給関数と「独占」の連関の分析は,ケインズ型の「総需要 管理政策」の限界を明らかにし,また「総供給管理政策」ともいうべき新しい 発想と政策の必要性をわれわれに提示するのである。  尚,総供給関数は上述した政策的な含意にとどまらず,資本制経済の重要な 特質である消費需要の狭あい性,物価と失業のトレード・オフ関係といった重 要な認識とも密接に関係し,これらを規制している。こうした諸点の分析は稿 19)ケインズ主義の一限界は,現代国家を,諸階級間の利害対立から超越した,たん  なる国民一般の共同利害の守り手とみる国家観に起因するものと思われる。尚,拙稿  [15]において,不十分ながら,レーニンとケインズの国家観を対比的に検討した。

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