21 仙台医療センター医学雑誌 Vol. 10, 2020
1.はじめに
2019 年 11 月 10 日から 23 日までの約 2 週間、 フ ィ リ ピ ン 熱 帯 医 学 研 究 所(Research Institute for Tropical Medicine; RITM)に研修に行かせて 頂いた。RITM は感染症の治療と研究を目的として、 1981 年に JICA の援助によってマニラ首都圏モン テンルパ市アラバンに設立された施設である。フィ リピンは発展途上国で貧富の差が激しく、公衆衛生 上の課題が多くあるため、日本では滅多に見られな い感染症が数多く存在する。今回私はそれらを経験 し、自らのスキルアップを図ることを目的として本 研修に参加させて頂いた。現地での研修内容や学ん だことをここに報告させていただく。 2.研修中の一日の流れ 朝は8 時頃からカンファレンスで始まる。現在 入院している患者の前日から当日朝にかけての変化 を全体で確認し、それを踏まえて今後の方針を決定 する。カンファレンス終了後は病棟回診となるが、 病棟内には結核で入院している患者がいるため、 N95 マスクを装着して回診を行う。その後は各々 外来と病棟に分かれて業務を行う。我々は回診終了 後、主に感染症のレクチャーを受けた。デング熱や HIV、狂犬病など現在フィリピンで流行している感 染症についてである。昼食は院内のcafeteria や近 くのfestival mall で食べた。午後は感染症のレク チャーもしくは外来見学をさせて頂いた。16 時〜 17 時に 1 日の業務は終了となる。業務終了後は現 地のスタッフもしくは我々のみで近くのfestival mall へ食事や買い物に出かけたり、最終日に 2 週 間のまとめとして今回学んだことのプレゼンを課せ られていたため、その作成に当てたりした。
3.狂犬病と animal bite clinic
日本国内では1956 年を最後に狂犬病の国内症例 は確認されていないが、世界的にみると年間約5 万 5 千人の患者が出ており、フィリピンでも年間約 200 〜 300 人が出ている。 RITM には鉄格子がついた狂犬病専用の病室があ り、初日に病室を案内してもらった。狂犬病は発症 すると興奮や不安状態になり周囲の人々にとって危 険な存在となる。致死率がほぼ100% であり、発症 から数日で死に至るため狂犬病を発症した患者を死 亡するまで閉じ込めておく部屋である。私が滞在し た期間には狂犬病患者はいなかったが、その1 週 間ほど前に1 人いたようで、その患者も 24 時間以 内に亡くなったとのことであった。上記のため発症 予防が重要で、動物咬傷を受け、感染の可能性が考 えられた時点で発症予防の対応をとっていく。発症 予防を目指した標準的な暴露後予防策としては、ま ず、創部の消毒、洗 浄を行う。その後、 動物との接触の状況 に よ っ て3 つ の カ テゴリーに分類し処 置を行う。傷のない 皮膚を舐められた、 動物に触れた等のカ テ ゴ リ ー1 に 該 当 する場合はこれ以上 の処置は不要、出血 のない咬傷等のカテ フィリピン研修で学んだこと
海外研修報告
フィリピン研修で学んだこと
矢浦一磨 国立病院機構仙台医療センター 初期研修医 2 年目 狂犬病患者の病室22 仙台医療センター医学雑誌 Vol. 10, 2020 ゴリー2 に該当する場合には狂犬病ワクチン接種 を開始、粘膜や傷のある皮膚を舐められた、出血を 伴う咬傷等のカテゴリー3 に該当する場合には狂 犬病免疫ガンマグロブリンと狂犬病ワクチン接種を 開始する。RITM には動物咬傷患者を専門とする animal bite clinic があり、毎日 100 人前後の患者 が受診しワクチン接種が行われていた。 4.デング熱 デング熱は蚊によって媒介される感染症で、熱帯 や亜熱帯地域を中心に流行しており、世界で年間約 1 億人もの患者がいると推定されている。RITM で もcommon disease の一つで発熱、腹痛、嘔吐の患 者が受診したらデング熱を鑑別にあげ検査が行われ ていた。デング熱には7 つの warning signs がある。 腹痛、持続的な嘔吐、粘膜出血、胸水や腹水、無気 力、肝腫大、血小板低下を伴うヘマトクリットの上 昇で、デング熱と診断され、このどれかが見られる 場合には重症型に至るリスクが高いようで入院適応 となる。我々の滞在期間にも数人の患者が入院して いた。今回我々は2 週間のまとめとしてデング熱 の患者を取り上げ、日本でのデング熱の実情を交え てプレゼンを行ってきた。症例は21 歳男性で発熱、 腹痛、嘔吐を主訴に近医受診、迅速キットでデング 熱の診断となりRITM に紹介となった。RITM 受 診時、Plt5.2 万、Ht48%と Plt 低下を伴う Ht 上昇 もあり、warning signs を 3 つ満たしているため重 症型に至る可能性を考慮し入院、脱水補正のために 点滴加療となった。Plt が徐々に低下し、第 4 病日 にはPlt1.2 万まで低下したが、第 5 病日には Plt の回復とwarning sign の消失を確認できたため重 症型には至らないと判断されて退院となった。 日本で見られるのは輸入感染のみで国内感染は第 二次世界大戦の時期を最後に確認されていなかっ た。だが2014 年に約 70 年ぶりに国内感染が確認 された。今後、地球温暖化や国際化が進行すること でデング熱の患者が増加する可能性が取り沙汰され ている。日本でも患者数が増え、将来診る機会があ るかもしれず、そのような際には今回学んだことを 生かせればと思う。 5.最後に 本研修を通じて普段の診療では滅多に診ることが できない感染症を経験することができ、非常に有意 義な2 週間であった。また、レクチャーやコミュ ニケーションを英語で行ったが、質問したい事が英 語で伝えられない場面があり、自分の英語力のなさ を痛感した研修でもあった。今後さらにグローバル 化が進み、日本人ではない患者と接する機会が増え ることが予想され、英語力向上の必要性も改めて感 じられた。 最後に、本研修を行うにあたって2 週間現地で ご指導して下さったRITM の先生方、研修の手配 や現地での引率をして下さった橋本院長や西村先 生、今村先生を始め、病院関係者各位に深く感謝致 します。 RITM の先生と フィリピン研修で学んだこと