睡眠呼吸障害とトラック運転者の交通事故との
関連についての研究
― 平成 26 年度(本報告)
ISSN 2185-8950
タカタ財団助成研究論文 ―
研究代表者
谷川 武
研究代表者
順天堂大学大学院医学研究科
教授
谷川 武
研究協力者
労働安全衛生総合研究所
上席研究員
高橋正也
順天堂大学大学院医学研究科
准教授
和田裕雄
順天堂大学大学院医学研究科
助教
丸山広達
順天堂大学大学院医学研究科
講師
白濱龍太郎
岡山大学大学院医歯薬学総合研究科
助教
江口依里
愛媛大学医学部附属病院
医員
淡野桜子
報告書概要
本研究では,交通事故のリスクである睡眠呼吸障害に関してトラック運転者を対象とし て調査した.平成26 年度は,愛媛県トラック協会に所属する 23~70 歳の 292 人のトラッ
ク運転者を対象に,1) 睡眠呼吸障害と交通事故リスクとの関連について平成 25 年度と
同様の検討を実施することに加え,2) Psychomotor Vigilance Task (PVT)の 3 分間検 査を用いて客観的な眠気を測定した.さらに,睡眠呼吸障害の重症度と客観的な眠気との 関連に自律神経機能がどの程度関与しているかを調べるため,自律神経機能検査を実施し た. その結果,重度の睡眠呼吸障害であっても,主観的な眠気がない者が 90%以上に上り, その割合は,肥満の有無,年齢を層別してもほとんど変わらないことが明らかになった. 以上の結果に加え,自律神経機能の副交感神経が障害されているという結果が得られた. 睡眠呼吸障害の重症度,肥満度,自律神経機能と眠気との関連を検討したところ,睡眠 時間 6 時間未満では,睡眠呼吸障害が重症なほど客観的な眠気が強いこと,また,肥満者 において,自律神経機能の指標(CVRR)が悪いほど自覚的な眠気が強いという関連が得 られた.また,平成 25,26 年度のトラック運転手 480 名における分析の結果,睡眠呼吸 障害が重症なほど交通事故率は有意に高かった. 以上の結果から,睡眠呼吸障害のスクリーニングには,客観的眠気検査を用いることが 不可欠であること,客観的な睡眠呼吸障害スクリーニング検査の結果から重症の睡眠呼吸 障害が疑われる者では交通事故のリスクが高い可能性が示された.また,PVT 検査によっ て睡眠呼吸障害による客観的な眠気の検出の可能性が示された.さらに,睡眠呼吸障害の 重症度と客観的な眠気との関連の背景に自律神経機能が影響している可能性が示された. 今後,これらの知見にもとづいた対策により,多くの運転者の睡眠呼吸障害を治療につ なげ,居眠りや注意不足による交通事故防止に寄与する仕組み作りが期待される.
目 次
睡眠呼吸障害とトラック運転者の交通事故との関連についての研究第 1 章 はじめに
1.1. 睡眠呼吸障害とは 1.2. 睡眠呼吸障害による事故例(表 1) 1.3. 睡眠時無呼吸症候群スクリーニング検査に関するこれまでの取り組み第 2 章 睡眠呼吸障害の対策
2.1 睡眠呼吸障害の検査及びスクリーニング検査2.1.1 エプワース眠気尺度(Epworth sleepiness Scale, ESS)(表 2) 2.1.2 「眠気がないから睡眠時無呼吸はない」とは言えない
2.1.3 Polysomnography(PSG)検査
2.1.4 フローセンサーを用いたスクリーニング(図 1)
2.1.5 Psychomotor Vigilance Test(PVT)によるスクリーニング(図 2) 2.1.6 スクリーニング検査及び CPAP 治療の効果 2.2 本研究の内容 2.2.1 対象 2.2.2 解析項目 2.2.2.1 生活習慣について 2.2.2.2 身体指標について 2.2.2.3 睡眠に関する指標について 2.2.2.4 職業に関する情報について 2.2.3 統計解析について
第
3 章 結果
3.1 本研究の結果 3.1.1 対象者(表 3)3.1.2 睡眠呼吸障害と各指標との関連(表 4) 3.1.3 睡眠呼吸障害と自覚的眠気(ESS)との関連(表 5-9) 3.1.4 肥満と各指標との関連 (表 10) 3.1.5 自立神経機能検査と各指標との関連(表 11) 3.1.6 肥満度別,睡眠呼吸障害と眠気ならびに精神運動覚醒との関連 (表 12) 3.1.7 肥満度別,自律神経機能と眠気ならびに精神運動覚醒との関連(表 13) 3.1.8 睡眠時間別,睡眠呼吸障害と眠気ならびに精神運動覚醒との関連(表 14) 3.1.9 睡眠時間別,肥満と眠気ならびに精神運動覚醒との関連(表 15) 3.1.10 睡眠時間別,自律神経機能と眠気ならびに精神運動覚醒との関連(表 16) 3.1.11 自律神経機能検査で層別化後,睡眠呼吸障害と精神運動覚醒検査(表 17) 3.1.12 CVRR 別,肥満と眠気ならびに精神運動覚醒との関連(表 18) 3.1.13 飲酒習慣別,睡眠呼吸障害と眠気ならびに精神運動覚醒との関連(表 19) 3.1.14 睡眠呼吸障害と交通事故との関連(図 3) 3.1.15 交通事故と諸指標との関連(表 20) 3.1.16 肥満度別,交通事故と諸指標との関連(表 21) 3.1.17 睡眠時間別,交通事故と諸指標との関連(表 22) 3.1.18 ESS 点数別,交通事故と諸指標との関連(表 23) 3.2 結果のまとめ 3.2.1. 睡眠呼吸障害(RDI) 3.2.2. 肥満 3.2.3. 自律神経機能検査 3.2.4 事故率
第
4 章 結論と課題
4.1 本研究でわかったこと 4.2 スクリーニング検査の重要性 4.3 新たなスクリーニング検査の可能性 4.4 睡眠呼吸障害を原因とする交通事故を減らすために 参考文献第 1 章 はじめに
1.1. 睡眠呼吸障害とは
睡眠呼吸障害(sleep disordered breathing, SDB)とは,睡眠中の呼吸停止や低換気な どの呼吸に関する異常を指し,睡眠呼吸障害に加えて日中の眠気,集中力の低下,疲労な どの症状を伴う症候群が睡眠時無呼吸症候群(sleep apnea syndrome, SAS)である.睡 眠時無呼吸症候群は,高血圧,脳血管疾患や虚血性心疾患等の循環器疾患,糖尿病の危険 因子であることが報告されている.我が国においては,睡眠時無呼吸症候群の推定患者数 は数百万人であり,かつ持続陽圧呼吸療法(continuous positive airway pressure, CPAP)
が確立しているにも関わらず,現在治療中の患者数は約30 万人と未だ少ない.その原因と して,スクリーニング検査の普及の遅れ,治療への連携が不十分であることが挙げられる. 欧米においては,1980 年代初めから睡眠センターが各地に設立され,睡眠時無呼吸症候 群診療が積極的に行われてきたが,我が国において睡眠時無呼吸症候群が取り上げられる ようになったのはごく最近であり,CPAP 治療の保険診療が開始されたのは 1998 年であ る. これまでに,我々は,睡眠中の呼吸障害の程度を客観的かつ簡便に計測する手法である フローセンサ法による睡眠呼吸障害スクリーニング法を開発し,トラック運転者の交通事 故防止,循環器疾患予防を目的とする睡眠呼吸障害スクリーニングを全国的に展開してき た. 睡眠呼吸障害治療の第一選択は,持続陽圧呼吸療法である.鼻マスクを通して気道に陽 圧をかけることで上気道の閉塞・狭窄を防ぐ方法で,治療継続さえ出来れば十分な効果が 得られる.対症療法ではあるが,合併症の予防や臨床症状の明らかな改善が期待できる. 睡眠時無呼吸症候群は,徐々に重症化するため,眠気が加齢による慢性疲労症状と誤認 されやすく,睡眠時無呼吸症候群による眠気という認識が起こりにくい.一方,潜在的睡 眠時無呼吸症候群罹患者の多くは,日中の過度な眠気に気づかないことから受診行動に至 らず放置されている. 「自覚症状がなければ本人は困っていないのだから治療は必要ない」という意見もある が,自覚症状のない睡眠呼吸障害は社会的にも健康上も大きなリスクである.睡眠時無呼 吸ないし低呼吸に陥ると,呼吸再開の際に短時間の覚醒を生じる.このように睡眠が断片 化されることにより,睡眠の質および量が損なわれ,日中の強い眠気や集中力の低下を生 じる.これまでの報告では,我が国の運転免許保有者 3,235 人を対象にしたアンケート調 査において,睡眠時無呼吸症候群と診断されたことのない運転者と比較して睡眠時無呼吸 症候群と診断されたことのある運転者の居眠り運転事故のリスクは 3.1 倍であることが明 らかになっている.運転業務中において事故を起こした場合,運転者が事故後に睡眠時無 呼吸症候群と診断され,さらに責任無能力者と認定された場合には,使用者(企業)がそ
の責任を追及されることもあり得る(民法第 714 条,第 715 条).したがって睡眠呼吸障 害は,患者個人の健康にとどまらず,社会全体の安心・安全を確保する上で重要な課題と して捉える必要がある. 1.2. 睡眠呼吸障害による事故例(表 1) 睡眠呼吸障害が関与したと考えられる事故・事件の一例を表1に示す.これらは睡眠呼 吸障害が関与している事故の氷山の一角に過ぎないと考えられる.
表 1 睡眠呼吸障害が関与したと考えられる事故・事件 年月 場所 事故状況 判断・判決(2014年7月現在) 2002年8月 和歌山県 乗用車が対向車線にはみ出 し,軽乗用車と正面衝突.3人 が重軽傷.乗用車の運転手は 中等から重症のSASと診断. 2005年2月 SASのため,突発的に睡眠して いた疑いが払拭できないとし て,業務上過失傷害罪の成立を 認めず,無罪判決.(大阪地裁) 2003年2月 岡山県 JR山陽新幹線で運転士が居眠りをしたまま運転.けが人な し.運転士はSASと診断. 2004年3月 本人にSASの自覚がなかった として,不起訴処分(起訴猶 予).(岡山地裁) 2003年6月 茨城県 乗用車が対向車と衝突.2人死 傷. 2005年3月 運転手がSASを認め,禁固2年6 ヵ月執行猶予4年.(水戸地裁 支部) 2003年10月 岐阜県 名鉄新岐阜駅で電車が車止め に衝突.4人軽症.運転士はSAS と診断. 2006年2月 運転士はSASと診断されたが「責 任能力」ありと判定され,業務上 過失致傷罪. 2004年3月 羽田発山口宇部行きの全日空 機機長が居眠り. 2004年7月 SASと緊張感の欠如が複合したとして訓戒処分. 2004年9月 広島県 船長が居眠りをしたまま貨物 船がコンクリート製護岸に乗 り上げ,住宅1戸と空き家が全 壊.男性1人が軽傷. 2004年9月 船長を業務上過失往来妨害と 業務上過失傷害容疑で広島地 検に書類送検.(呉海上保安 部) 2005年7月 山口県 山口県沖で貨物船が停泊中の 液化ガス船に衝突し重油流出 2006年12月 SASを理由に航海士に行政処分を科さない,不懲戒処分.(門 司地方海難審判所) 2005年11月 滋賀県 名神高速道路でトラック・バ スなどを含む多重事故が発 生.男性7人死傷.トラック運 転手は重度のSASと判明. 2007年1月 事故を起こした元トラック運 転手に禁固3年の実刑判決. (大津地裁) 2008年1月 山形県 高速バスの運転士が眠気を催 し走行が不安定に.乗客がバ スを停車させて事故を防い だ. 2008年1月 医療機関で検査を受け,軽度 のSAS症状が判明. 2008年3月 愛知県 大型トレーラーが赤信号の交 差点に進入.横断歩道を横断 中の男性を死亡させた.運転 手は起訴後に重度のSASであ ることが判明. 2008年11月 SASの影響で眠りにおちた可 能性を否定できず無罪判決. (名古屋地裁)後に最高裁ま で争われ,懲役5年の実刑が確 定. 2009年10月 長崎県 遊漁船が岩場に衝突し釣り客 ら3人が死傷.船長がSASであ り慢性的な睡眠不足であった ことが判明. 2010年12月 船長を業務上過失致死傷容疑 で熊本地検に書類送検.(熊 本海上保安部) 2012年4月 群馬県 関越自動車道で走行中のツア ーバスが運転手の居眠りによ り防音壁に衝突.乗客45人が 死傷.運転手にはSAS症状が確 認された. 2014年3月 SAS患者が眠気を感じることな く突然眠ってしまうことが医学 的に不合理ではないと認められ たが,運転手に懲役9年6ヵ月・罰 金200万円の実刑判決が確定.(前 橋地裁) 2012年7月 東京都 首都高速湾岸線でトラックが ワゴン車に衝突.東京税関職 員6人が死傷.トラック運転手 にSAS症状が確認された. 2014年7月 SASの影響があったとしても眠 気を感じた時点で運転を中止す ることができたとして元運転手 に禁錮5年6ヵ月の有罪判決.(東 京地裁)
1.3. 睡眠時無呼吸症候群スクリーニング検査に関するこれまでの取り組み 国土交通省は,重症睡眠時無呼吸症候群と後に診断された新幹線運転士による居眠り運 転事件(2003 年 2 月)の後,『SAS に注意しましょう』というマニュアルを発行した. 2007 年に改訂された同マニュアルには,『眠気のない SAS に注意』と記され,職業運転 者に対しては,眠気の有無にかかわらず自宅で簡単な機器を用いて睡眠中の呼吸状態をモ ニタリングする客観的な睡眠時無呼吸症候群スクリーニング法が推奨されている.しかし ながら,運転業務者を雇用する事業者レベルでの取り組みは未だ業種間,企業間で一致し ておらず,健康増進,安全向上を目的とした客観的な睡眠時無呼吸症候群スクリーニング の導入について産業医・産業保健師による積極的な取り組みが望まれている. 以上のような背景より,睡眠呼吸障害は重大な事故につながる危険性が高いため,睡眠 呼吸障害の早期発見と早期治療は不可欠である.そのためには,スクリーニング検査を普 及させ,治療への連携を進める方策が重要であり,事業主,運転者,一般市民に対して睡 眠呼吸障害に関する知識,スクリーニング検査・治療についての知識を普及させることが 重要である.また,日本国内において睡眠呼吸障害が実際にどの程度交通事故に関連して いるかについての報告が十分であるとは言えない.したがって,本研究では,理想的なス クリーニング検査の形を追及すべく,従来の眠気や身体指標に関する問診票,諸身体数値 にくわえて精神運動覚醒テストpsychomotor vigilance test (PVT)や自律神経機能検査 を施行して,事故との関連との検討することとした.
第 2 章
睡眠呼吸障害の対策
2.1 睡眠呼吸障害の検査及びスクリーニング検査
2.1.1 エプワース眠気尺度(Epworth sleepiness Scale, ESS)(表 2)
日本でよく使用されている主観的な眠気を評価する質問票である.これは,下記の8 項 目の日常生活上の状況において,0.眠くなることはめったにない,1.時々は眠くなる, 2.眠くなることが多い,3.いつも眠くなる,の 4 つのうち 1 つを選択する.総得点が 11 点以上の場合を病的な眠気がありと定義される. 表 2 エプワース睡眠尺度 状 況 1 座って読書をしている時 2 テレビを見ている時 3 人が大勢いる場所(会議の席や劇場/映画館など),じっと座っている時 4 他人が運転する車に,休憩なしで1 時間ほど乗っている時 5 午後,横になって休憩している時 6 座って人と話をしている時 7 昼食後,静かに座っている時(飲酒はしていないものとする) 8 自分で車を運転中に,交通渋滞などで2,3 分停車している時 2.1.2 「眠気がないから睡眠時無呼吸はない」とは言えない 運転者に対する主観的な質問票によるスクリーニング検査では,その後の検査や治療に かかる「費用」や「時間」,又は「解雇の不安」等から虚偽の回答をする可能性がある.睡 眠呼吸障害と交通事故の関連を分析した2 つの報告では,自動車事故歴と主観的な眠気と が関連していなかった.さらに,全日本トラック協会に加盟しているトラック運転者2 万 人に対して実施した調査により,中等度以上の睡眠呼吸障害があるトラック運転者の86% 以上が質問票では過度の眠気がないと判定されている.さらに,睡眠呼吸障害があっても 自覚的な眠気がない場合もある.眠気のない睡眠呼吸障害について,興味深い報告がある. Van Dongen らによると,慢性的に 1 晩あたり 6 時間未満の睡眠を 2 週間持続させると, 最大 2 日間全く睡眠をとっていない状態と同様の認知機能の障害をもたらし,しかも眠気 評価の結果では,大部分の対象者は認知機能が障害されていることに気が付いていなかっ た.これらのことより,ESS 等の主観的眠気のアンケート調査のみを SAS 判定に用いる ことは,特に交通事故防止の視点からは不適切と考えられる. 2.1.3 Polysomnography(PSG)検査 睡眠時無呼吸症候群の診断基準の基本は,PSG 検査である.これは,睡眠の質や量を調 べるために,脳波や眼球筋電図,筋電図,鼻と口の気流,いびき,心電図,動脈血酸素飽 和度,胸・腹部の呼吸運動,体位,筋電図と多数の電極・センサーを装着して行う検査で
ある.
PSG の前段階の検査として,簡易 PSG を実施する.これは,血中酸素飽和度と鼻の気 流といった,閉塞型睡眠時無呼吸症候群(Obstructive Sleep Apnea Syndrome, OSAS) の診断に最低限必要な項目を測定出来るもので,機種によっては,胸郭運動や心電図,体 位なども測定可能である.
2.1.4 フローセンサーを用いたスクリーニング(図 1)
フローセンサー法はパルスオキシメトリ法と同程度の簡便さで,非肥満者の睡眠呼吸障
害の検出度が高いという特長がある.これは,鼻・口の気流を検知するセンサー(NGK
Spark Plug Co. Ltd, Nagoya, Japan)により,気流変化の程度および頻度から無呼吸およ
び低呼吸状態を調べる方法である.1 時間当たりの無呼吸・低呼吸の回数を呼吸障害指数
(Respiratory Disturbance Index, RDI)として,その回数が多いほど睡眠呼吸障害が重 症であると判定される.本スクリーニング法の再現性は良好であり,運転業務従事者のス クリーニング法として有用であると考えられている.
図 1 フローセンサによるスクリーニング
2.1.5 Psychomotor Vigilance Test(PVT)によるスクリーニング(図 2)
客観的に睡眠呼吸障害を検出できる可能性がある手法として,PVT(Psychomotor Vigilance Test:精神運動覚醒検査)が挙げられる.この検査では,被験者は,画面に 10 分間ランダムな間隔で点灯する数字に気づいたらすぐに手元のボタンを押す.ボタンを押 した反応時間が記録され,点灯した数字が一旦消える.それを10 分間繰り返し,反応時間 と注意力の持続性を検査する.十1分に睡眠をとっている場合,一般に 0.5 秒未満で反応 するとされ,短時間睡眠である場合,反応時間が 500mm 秒以上遅れる.検査中に寝てし まう場合にはほとんど反応を示さない.
図 2 PVT によるスクリーニング 睡眠呼吸障害の患者は,健常者と比較して,PVT 検査で測定する平均反応時間や反応遅 延,誤反応が増大することがこれまでに報告されている.さらに,PVT 検査の結果による 覚醒度・注意力の低下と交通事故リスクが有意に関連すると報告もある.PVT 検査は NASA のスペースシャトル計画や産業現場において客観的な覚醒度・注意力を測定する際 に広く使用されており,PVT 検査を実施することによって,睡眠呼吸障害に罹患したトラ ック運転者が運転事故などの眠気に起因する仕事上の事故の危険度を推定することが期待 できる.この,PVT 検査は 10 分間のものが主流であるが,近年の最新版では,より簡便 に3 分間で測定することが出来る PVT が開発されている. 2.1.6 スクリーニング検査及び CPAP 治療の効果 以上のようなスクリーニング検査により SAS が疑われる運転者を適切に治療につなげ ることができれば,交通事故の削減が期待できる.SAS の一般的な治療は CPAP であるが, CPAP 治療により,日中の眠気が改善することや事故率が改善することが報告されている. 全てのトラック運転者をスクリーニングすれば,最低10%,多ければ 25%の運転者が SAS であると推定される.さらなる交通事故の削減につなげていくためには,スクリーニング 検査をすすめ,適切な治療につなげる必要がある.
2.2 本研究の内容 2.2.1 対象 平成 26 年度に実施した,愛媛県トラック協会加盟の運転者など 297 名の内,PVT 指標 やESS に不備のある者を除いた男女 292 名を対象とした. 2.2.2 解析項目 2.2.2.1 生活習慣について 自記式の問診により,喫煙習慣については,現在喫煙者は本数並びに喫煙年数を回答, 飲酒習慣については,現在飲酒する者は,日ごろ飲用する酒の種類と 1 日平均量を回答, 運動習慣については,過去 1 か月間の激しい(汗をかくくらいの)運動をすることが,1 週間に平均何時間あったかについて「なし」「1-3 時間未満」「3-6 時間未満」「6-8 時間未満」 「8-12 時間未満」「12 時間以上」で回答を得た.睡眠時間については,夜間の睡眠呼吸状 態を測定した日の就寝・起床時間から算出した. 2.2.2.2 身体指標について
身長,体重は実測の上,Body mass index(BMI:体重(㎏)/身長(m)2)を算出し
た.日本肥満学会の基準に従い,対象者を正常以下(BMI<25),肥満(BMI≧25),また 肥満度 II(BMI≧30)に分けた. 自律神経機能として,きりつ名人(株式会社クロスウエル)を用いて,CVRR (Coefficient of Variation on R-R interval:R-R 感覚の標準偏差/R-R 間隔の平均値)×100),ならび にLF/HF 比(高周波成分と低周波成分の比)を評価した.なお CVRR と LF/HF 比は, 正規分布ではなく,1 未満の数値で表されるため,両指標とも 1 を加算した後,自然対数 変換を行い,幾何平均(自然対数の数値を指数変換後1 を引いた)を算出した.扁桃腺の 切除の有無については,自記式の問診により回答を得た. 2.2.2.3 睡眠に関する指標について 睡眠呼吸障害の指標として,フローセンサ法により一晩の呼吸障害指数(respiratory
disturbance index, RDI)を測定した.いびきについては,自記式の問診により過去 3 か 月間のいびきの頻度を「ほぼ毎日」「週3~4 回」「週 1~2 回」「月 1~2 回」「ない」「わか らない」で回答を得て,週 1 回以上をいびきありとした.また同様に自記式問診により, ESS で主観的な眠気を評価した.解析においては,7 点未満 7-10 点,11 点以上に分類し た. PVT を用いて,3 分間測定を行い,客観的な眠気を評価した.今回解析に用いた指標は, 平均反応時間,平均反応時間の逆数,反応時間の内上位10%の平均時間,反応時間の内下 位10%の平均時間の逆数の 4 種を用いた. 2.2.2.4 職業に関する情報について 短距離(300km 以内),ならびに長距離(300km 以上)運転する日の平均的な睡眠時間,
1 年間の運転距離,長時間労働(14 時間/日以上)について自記式の問診により回答を得た.
事故経験については,自記式の問診において,「あなたが運転する車やトラック(自家用ま
たは業務用車両)で事故または衝突がありましたか」という問いに対し,1 回以上経験の
ある者を事故経験ありとした.
2.2.3 統計解析について
統計解析は,SAS 9.4 Software(SAS Institute Inc.)を用いて実施した.本研究では, 睡眠呼吸障害の指標である,RDI 値を 10 回/時未満,10 回/時以上 20 回/時未満,20 回/時 以上に分類し,主観的眠気(ESS),客観的眠気(平均反応時間,平均反応時間の逆数,反 応時間の内上位10%の平均時間,反応時間の内下位 10%の平均時間の逆数)の性・年齢調 整平均値を共分散分析にて求め,直線的な傾向性について,性・年齢を調整した重回帰分 析にて分析を行った.また,睡眠呼吸障害の主たる原因として,肥満が考えられる.肥満 は自律神経機能の乱れにより生じていることが示唆されており,自律神経機能低下→BMI 増加→睡眠呼吸障害増悪→眠気が強まる、というパスが考えられる.そこで,本研究では, BMI を 25 未満,25 以上 30 未満,30 以上に分類し,自律神経機能の指標のうち,RDI な らびに BMI との相関の強かった CVRR を 3 分位に分類し,同様に眠気の指標との関連を 分析した.さらに,RDI,BMI,CVRR は一方向的な関係ではなく,相互に影響を及ぼし ている可能性が考えられるため,BMI(25 未満・25 以上),CVRR(中央値で 2 分位)に よる層別解析も実施した.眠気の背景には,種々の理由による短時間睡眠といった睡眠時 間や日頃の飲酒習慣の影響も考えられるため,睡眠時間(6 時間未満・6 時間以上)ならび に飲酒習慣の有無(RDI のみ)による層別解析も実施した. さらに,事故経験の有無で,RDI や BMI,CVRR,眠気の指標に特徴があるか確認する ため,性・年齢調整平均値を共分散分析にて算出した.さらに,BMI(25 未満・25 以上), 睡眠時間(6 時間未満・6 時間以上),ESS(5 点未満・5 点以上)の層別化解析を行った.
第 3 章 結果
3.1 本研究の結果 3.1.1 対象者(表 3) 本解析は292 名を対象として行われた.喫煙率は 53.1%で睡眠時間は 6.2 時間であった. BMI の平均は 25.9kg/m2で,全体の50.7%が肥満あるいは過体重と考えられた.RDI の平 均は 15.9 回/時,全体の 44.9%がいびき症状を有した.ESS は平均 5.4 点であった. 運転手については,短距離の際は平均6.1 時間/日,長距離運転の際は平均 6.4 時間/日の 睡眠をとっており,総運転距離は平均 54801km/年であった.長時間労働を報告した者は 23 名(8.0%),交通事故を起こしたことがあると回答した者は 33 名(11.3%)であった. PVT の指標である,平均反応時間,平均反応時間の逆数,反応時間上位 10%の平均時間, 反応時間下位10%の平均時間の逆数については,平均反応時間は 239.4msec,反応時間上 位 10%の平均時間は 186.0msec,平均反応時間の逆数は 4.4/sec,反応時間下位 10%の平 均時間の逆数は 2.8/sec であった.また,自律神経機能検査では,CVRR の幾何平均値は 3.5,LF/HF 比の幾何平均値は 2.5 であった.表 3 対象者の特徴 有効回答数 平均値 または 人数 標準偏差 または 割合(%) 総数 292 名 292 名 男性 292 名 282 名 (96.6%) 年齢, 年 292 名 44.3 (10.8) 生活習慣について 喫煙者 292 名 155 名 (53.1%) 飲酒者 292 名 187 名 (64.0%) 運動習慣あり 288 名 147 名 (51.0%) 睡眠時間, 時間/日⋆ 267 名 6.2 (1.4) 身体指標について
Body mass index,
kg/m
2 292 名 25.9 (4.8)肥満者 292 名 148 名 (50.7%) CVRR⋆2 292 名 3.5 LF/HF 比⋆2 292 名 2.5 扁桃腺切除 288 名 18 名 (6.3%) 睡眠に関する指標について RDI, 回/時 292 名 15.9 (11.8) いびきをかく 292 名 131 名 (44.9%) ESS, 点 292 名 5.4 (3.2) 平均反応時間 292 名 239.4 (27.1) 平均反応時間の逆数 292 名 4.4 (0.4) 反応時間の内上位10%の平均時間 292 名 186.0 (16.2) 反応時間の内下位10%の平均時間の逆数 292 名 2.8 (0.4) 職業について 短距離運転時の睡眠時間, 時間/日 108 名 6.1 (1.5) 長距離運転時の睡眠時間, 時間/日 187 名 6.4 (2.9) 総運転距離, km/年 220 名 54801.2 (75301.4) 長時間労働 287 名 23 名 (8.0%) 事故経験 292 名 33 名 (11.3%) ⋆ :RDI を測定した日の睡眠時間 ⋆2 :幾何平均値
3.1.2 睡眠呼吸障害と各指標との関連(表 4) RDI 値を 10 未満,10 以上 20 未満,20 以上の 3 群に分類し,各指標との関連を検討し た.年齢は各々41.6 歳,44.0 歳,48.8 歳であった.一方,BMI は各々22.6 kg/m2,24.9 kg/m2, 27.0kg/m2と有意に高くなる傾向が認められた(p<0.01).また,肥満者の割合は各々16.1%, 42.5%,50.5%であり,RDI 高群になるほど肥満者の割合の有意な増加が認められた (p<0.01).さらに,自律神経機能検査において,CVRR 値は各々 3.74,3.45,3.25 であ り,RDI 高群になるほど CVRR 値の有意な低下が認められた (p=0.03).一方,LF/HF 比,PVT の各指標では,有意な関連は認められなかった. 表 4 RDI3 区分別の対象者の特性(性年齢調整平均値・割合) RDI 傾向性 <10 10-<20 20+ 総数 109 107 76 男性, 人 101 107 74 年齢, 年 41.6 44.0 48.8 生活習慣について 喫煙者, % 41.0 34.9 27.1 0.07 飲酒者, % 41.0 39.3 34.7 0.39 運動習慣あり, % 30.8 43.3 49.7 0.02 睡眠時間, 時間/日⋆ 6.2 5.9 5.9 0.27 身体指標について
Body mass index,
kg/m
2 22.6 24.9 27.0 <0.01肥満者, % 16.1 42.5 50.5 <0.01 CVRR⋆2 3.74 3.45 3.25 0.03 LF/HF扁桃腺切除比⋆2, % 2.15 2.1 2.23 3.0 2.15 3.8 0.98 0.65 睡眠に関する指標について いびきをかく, % 19.2 30.5 50.3 <0.01 ESS, 平均反応時間点 243.10 4.6 240.95 4.8 245.99 5.1 0.30 0.40 平均反応時間の逆数 4.36 4.40 4.29 0.23 反応時間の内上位10%の平均時間 185.48 185.63 189.21 0.10 反応時間の内下位10%の平均時間の逆数 2.73 2.81 2.76 0.67 職業について 短距離運転時の睡眠時間, 時間/日 5.8 6.2 6.1 0.45 長距離運転時の睡眠時間, 時間/日 5.7 6.6 5.8 0.99 総運転距離, km/年 64659.6 50964.2 38913.6 0.06 長時間労働, % 3.0 5.0 0.6 0.53 事故経験, % 8.0 9.4 15.7 0.11 ⋆ :RDI を測定した日の睡眠時間 ⋆2 :幾何平均値
3.1.3 睡眠呼吸障害と自覚的眠気(ESS)との関連(表 5-9) RDI 値を 10 未満,10 以上 20 未満,20 以上の 3 群に分類し,ESS 点数を 7 点未満,7 点以上11 点未満,11 点以上に層別して比較検討したところ,RDI 値 20 以上の睡眠呼吸障 害を有していても,ESS11 点未満の主観的な眠気がない者が 90%以上に上った.また,そ の割合は,肥満の有無や年齢について層別してもほとんど変わらないことが明らかになっ た. 表 5 RDI と ESS の関連(全体) RDI 合計 <10 10-<20 20+ 弱 眠 気 の 自 覚 強 E S S <7 人 85 81 57 223 % 38.1 36.3 25.6 100.0 7-<11 人 15 18 16 49 % 30.6 36.7 32.7 100.0 11+ 人 9 8 3 20 % 45.0 40.0 15.0 100.0 合計 109 107 76 292 表 6 RDI と ESS の関連(年齢層別:40 歳未満) RDI 合計 <10 10-<20 20+ 弱 眠 気 の 自 覚 強 E S S <7 人 33 27 12 72 % 45.8 37.5 16.7 100.0 7-<11 人 9 9 3 21 % 42.9 42.9 14.3 100.0 11+ 人 5 4 0 9 % 55.6 44.4 0.0 100.0 合計 47 40 15 102 表 7 RDI と ESS の関連(年齢層別:40 歳以上) RDI 合計 <10 10-<20 20+ 弱 眠 気 の 自 覚 強 E S S <7 人 52 54 45 151 % 34.4 35.8 29.8 100.0 7-<11 人 6 9 13 28 % 21.4 32.1 46.4 100.0 11+ 人 4 4 3 11 % 36.4 36.4 27.3 100.0 合計 62 67 61 190
表 8 RDI と ESS の関連(肥満度別:BMI25 未満) RDI 合計 <10 10-<20 20+ 弱 眠 気 の 自 覚 強 E S S <7 人 59 33 24 116 % 50.9 28.5 20.7 100.0 7-<11 人 8 7 3 18 % 44.4 38.9 16.7 100.0 11+ 人 7 3 0 10 % 70.0 30.0 0.0 100.0 合計 74 43 27 144
表 9 RDI と ESS の関連(肥満度別:BMI25 以上) RDI 合計 <10 10-<20 20+ 弱 眠 気 の 自 覚 強 E S S <7 人 26 48 33 107 % 24.3 44.9 30.8 100.0 7-<11 人 7 11 13 31 % 22.6 35.5 41.9 100.0 11+ 人 2 5 3 10 % 20.0 50.0 30.0 100.0 合計 35 64 49 148 3.1.4 肥満と各指標との関連 (表 10) 肥満度によりBMI<25(痩せおよび正常範囲内),25≦BMI<30 の過体重,30≦BMI の 肥満の3 群に分類し,肥満と各指標との関連について比較検討した.CVRR 値は,BMI<25 群では3.8,25≦BMI<30 群では 3.3,30≦BMI 群で 2.8 であり,BMI が高くなるほど CVRR が有意に低くなる傾向が認められた(p<0.01).一方,LF/HF 比は,3 群間で有意な関連 は認められなかった.
PVT 指標は,3 群間で有意な関連は認められなかった.
RDI 値は,BMI<25 群では 10.7,25≦BMI<30 群では 15.7,30≦BMI 群で 24.4 であっ た.BMI が高くなるほど RDI 値が有意に高くなる傾向が認められた(p<0.01).また,い びきを呈する割合は BMI<25 群では 21.9%,25≦BMI<30 群では 38.4%,30≦BMI 群で 62.7%であった.BMI が高くなるほどいびき症状を呈する割合が有意に高くなることが認 められた(p<0.01).
しかしながら,自覚的な眠気症状の指標(ESS)は,BMI<25 群では 4.7 点,25≦BMI<30 群では4.8 点,30≦BMI 群で 5.2 点であり,3 群間で有意な関連は認められなかった.
運転歴(短距離運転時の睡眠時間,長距離運転時の睡眠時間,年間総運転距離,長時間
労働の割合)は,3 群間で有意な関連は認められなかった.しかしながら,事故経験率は
BMI<25 群では 8.0%,25≦BMI<30 群では 12.6%,30≦BMI 群で 20.7%であった.BMI
が高くなるほど事故を経験する割合が有意に高くなることが認められた(p=0.02). 表 10 肥満度 3 区分別の対象者の特性(性年齢調整平均値・割合) BMI 傾向性 <25 25-<30 30+ 総数 144 99 49 男性, 人 135 99 48 年齢, 年 44.6 45.7 40.7 生活習慣について 喫煙者, % 36.2 36.7 34.6 0.89 飲酒者, % 39.0 41.6 34.3 0.72 運動習慣あり, % 37.9 33.2 47.4 0.46 睡眠時間, 時間/日⋆ 6.1 6.1 5.9 0.58 身体指標について CVRR⋆2 3.8 3.3 2.8 <0.01 LF/HF 比⋆2 2.1 2.5 1.8 0.61 扁桃腺切除, % 1.66 6.51 2.72 0.48 睡眠に関する指標について RDI, 回/時 10.7 15.7 24.4 <0.01 いびきをかく, % 21.9 38.4 62.7 <0.01 ESS, 点 4.7 4.8 5.2 0.36 平均反応時間 243.8 241.7 244.4 0.92 平均反応時間の逆数 4.35 4.36 4.31 0.77 反応時間の内上位10%の平均時間 186.41 186.12 187.77 0.69 反応時間の内下位10%の平均時間の逆数 2.74 2.77 2.78 0.48 職業について 短距離運転時の睡眠時間, 時間/日 6.1 5.3 5.5 0.17 長距離運転時の睡眠時間, 時間/日 6.0 6.2 6.5 0.26 総運転距離, km/年 53532.9 45456.7 43836.7 0.44 長時間労働, % 3.7 -0.9 3.0 0.59 事故経験, % 8.0 12.6 20.7 0.02 ⋆ :RDI を測定した日の睡眠時間 ⋆2 :幾何平均値
3.1.5 自立神経機能検査と各指標との関連(表 11) 自律神経機能検査の指標の一つであるCVRR 値を 2.87 未満,2.87 以上 4.14 未満,4.14 以上の3 群に分類し,CVRR 低値群,CVRR 中等度群,CVRR 高値群と各指標との関連を 比較検討した.年齢は,CVRR 低値群で 48.9 歳,CVRR 中等度群で 44.9 歳,CVRR 高値 群39.1 歳であった.CVRR 値が高くなるほど年齢が低年齢であった. 生活習慣(喫煙,飲酒,運動習慣,睡眠時間)は,3 群間で有意な関連は認められなか った.BMI は,CVRR 低値群で 25.9 kg/m2,CVRR 中等度群で 23.7 kg/m2,CVRR 高値 群23.4 kg/m2であった.CVRR 値が高くなるほど BMI は有意に低くなることが認められ た(p<0.01).また,肥満者の割合は CVRR 低値群で 42.3%,CVRR 中等度群で 30.0%, CVRR 高値群 19.8%であった.CVRR 値が高くなるほど有意に肥満者の割合が低くなるこ とが認められた(p<0.01).一方,LV/HF 比は 3 群間で有意な関連は認められなかった. RDI 値は,CVRR 低値群で 16.0,CVRR 中等度群で 12.3,CVRR 高値群で 12.0 であっ た.CVRR 値が高くなるほど RDI 値は有意に低くなることが認められた(p=0.03).いび き症状を呈する割合は3 群間で有意な関連は認められなかった.ESS 点数は CVRR 低値群 で5.3 点,CVRR 中等度群で 4.9 点,CVRR 高値群 4.3 点であった.CVRR 値が高くなる ほど ESS 点数は有意に低くなることが認められた(p=0.04). PVT 指標は,3 群間で有意な関連は認められなかった. 運転歴(短距離運転時の睡眠時間,長距離運転時の睡眠時間,年間総運転距離,長時間 労働の割合)は,3 群間で有意な関連は認められなかった.
表 11 CVRR3 区分別の対象者の特性(性年齢調整平均値・割合) CVRR 傾向性 <2.87 2.87-<4.14 4.14+ 総数 97 98 97 男性, 人 96 93 93 年齢, 年 48.9 44.9 39.1 生活習慣について 喫煙者, % 39.6 37.0 31.9 0.32 飲酒者, % 40.9 34.4 43.5 0.74 運動習慣あり, % 37.0 34.7 43.8 0.39 睡眠時間, 時間/日⋆ 6.0 6.1 6.1 0.70 身体指標について
Body mass index,
kg/m
2 25.9 23.7 23.4 <0.01肥満者, % 42.3 30.0 19.8 <0.01 LF/HF 比⋆2 1.14 1.16 1.15 0.89 扁桃腺切除, % 8.24 3.11 -2.83 <0.01 睡眠に関する指標について RDI, 回/時 16.0 12.3 12.0 0.03 いびきをかく, % 35.7 27.5 27.3 0.27 ESS, 点 5.3 4.9 4.3 0.04 平均反応時間 240.55 245.76 242.94 0.52 平均反応時間の逆数 4.40 4.30 4.36 0.44 反応時間の内上位10%の平均時間 184.08 188.50 185.90 0.43 反応時間の内下位10%の平均時間の逆数 2.79 2.74 2.73 0.33 職業について 短距離運転時の睡眠時間, 時間/日 5.6 6.3 6.2 0.25 長距離運転時の睡眠時間, 時間/日 6.0 6.1 6.1 0.68 総運転距離, km/年 54272.4 50988.3 47578.7 0.61 長時間労働, % 0.1 0.0 0.0 0.23 事故経験, % 9.6 11.2 9.8 0.96 ⋆ :RDI を測定した日の睡眠時間 ⋆2 :幾何平均値
3.1.6 肥満度別,睡眠呼吸障害と眠気ならびに精神運動覚醒との関連 (表 12)
肥満度(BMI25 未満と BMI25 以上)で層別化し,RDI を 10 未満,10 以上 20 未満, 20 以上の 3 群に分類して,RDI 低値群,RDI 中等度群,RDI 高値群と ESS 点数ならびに PVT4 指標との関連を比較検討した. ESS 点数ならびに PVT4 指標は,非肥満者および肥満者ともに,RDI との有意な関連は 認められなかった. 表 12 肥満度別 RDI3 区分の ESS,ならびに PVT4 指標の性年齢調整平均値 RDI 傾向性 <10 10-<20 20+ 非肥満者(人数) 74 43 27 ESS, 点 4.8 4.7 4.5 0.73 平均反応時間 246.01 242.04 246.03 0.95 平均反応時間の逆数 4.32 4.41 4.28 0.72 反応時間の内上位10%の平均時間 186.34 184.44 190.40 0.25 反応時間の内下位10%の平均時間の逆数 2.68 2.78 2.76 0.29 肥満者(人数) 35 64 49 ESS, 点 3.8 4.3 4.9 0.11 平均反応時間 231.19 231.84 238.73 0.13 平均反応時間の逆数 4.47 4.46 4.36 0.16 反応時間の内上位10%の平均時間 184.40 186.32 188.85 0.23 反応時間の内下位 10%の平均時間の逆数 3.06 3.08 3.00 0.36
3.1.7 肥満度別,自律神経機能と眠気ならびに精神運動覚醒との関連(表 13) 肥満度(BMI25 未満と BMI25 以上)で層別化し,CVRR 値を 2.87 未満,2.87 以上 4.14 未満,4.14 以上の 3 群に分類して,CVRR 低値群,CVRR 中等度群,CVRR 高値群と ESS 点数ならびにPVT4 指標との関連を比較検討した. ESS 点数は,肥満者において,CVRR 低値群で 5.9,CVRR 中等度群で 5.0,CVRR 高 値群 4.2 であった.CVRR 値が高くなるほど ESS 点数が有意に低くなることが認められた (p=0.01).一方,非肥満者においては, 3 群間で有意な関連は認められなかった. PVT4 指標は,非肥満者および肥満者ともに,3 群間で有意な関連は認められなかった. 表 13 肥満度別 CVRR3 区分の ESS,ならびに PVT4 指標の性年齢調整平均値 CVRR 傾向性 <2.87 2.87-<4.14 4.14+ 非肥満者(人数) 38 50 56 ESS, 点 4.6 5.0 4.4 0.78 平均反応時間 246.35 244.65 245.59 0.91 平均反応時間の逆数 4.35 4.32 4.32 0.74 反応時間の内上位10%の平均時間 185.77 187.08 187.06 0.70 反応時間の内下位10%の平均時間の逆数 2.70 2.73 2.69 0.84 肥満者(人数) 59 48 41 ESS, 点 5.9 5.0 4.2 0.01 平均反応時間 232.61 242.93 236.28 0.36 平均反応時間の逆数 4.44 4.28 4.40 0.48 反応時間の内上位10%の平均時間 185.78 192.80 187.31 0.49 反応時間の内下位 10%の平均時間の逆数 3.09 2.98 3.01 0.20
3.1.8 睡眠時間別,睡眠呼吸障害と眠気ならびに精神運動覚醒との関連(表 14) 睡眠時間(6 時間/日未満と 6 時間/日以上)で層別化し,RDI を 10 未満,10 以上 20 未 満,20 以上の 3 群に分類して,RDI 低値群,RDI 中等度群,RDI 高値群と ESS 点数なら
びに PVT4 指標との関連を比較検討した. ESS 点数は,睡眠時間 6 時間/日未満,以上ともに,RDI との有意な関連は認められな かった. 睡眠時間6 時間/日未満の者において,PVT の平均反応時間は, RDI 低値群では 234.6, RDI 中等度群では 229.3, RDI 高値群では 242.6 であった.統計学的に有意ではないが, RDI 値が高くなると平均反応時間が低くなる傾向が認められた(p=0.09).PVT の平均反 応時間の逆数は,RDI 低値群では 4.5,RDI 中等度群では 4.6,RDI 高値群では 4.4 であっ
た.平均反応時間と同様に統計学的に有意ではないが,RDI 値が高くなると平均反応時間
の逆数は低くなる傾向が認められた(p=0.06).反応時間の内上位 10%の平均時間は,RDI
低値群では 180.7,RDI 中等度群では 180.4,RDI 高値群では 187.5 であった.RDI 値が
高くなると上位10%の平均時間が高くなる傾向が認められた(p=0.05). 一方,睡眠時間 6 時間/日以上の者において,3 群間で有意な関連は認められなかった. 表 14 睡眠時間別 RDI3 区分の ESS,ならびに PVT4 指標の性年齢調整平均値 RDI 傾向性 <10 10-<20 20+ 6 時間/日未満(人数) 33 39 30 ESS, 点 4.1 5.2 4.7 0.67 平均反応時間 234.55 229.26 242.55 0.09 平均反応時間の逆数 4.50 4.56 4.35 0.06 反応時間の内上位10%の平均時間 180.67 180.43 187.54 0.05 反応時間の内下位10%の平均時間の逆数 2.83 3.00 2.84 0.79 6 時間/日以上(人数) 65 57 43 ESS, 点 5.8 5.7 6.2 0.50 平均反応時間 239.03 240.42 240.82 0.74 平均反応時間の逆数 4.35 4.35 4.34 0.90 反応時間の内上位10%の平均時間 188.39 189.46 189.70 0.70 反応時間の内下位 10%の平均時間の逆数 2.91 2.91 2.92 0.89
3.1.9 睡眠時間別,肥満と眠気ならびに精神運動覚醒との関連(表 15)
睡眠時間(6 時間/日未満と 6 時間/日以上)で層別化し,肥満度により BMI<25(痩せお よび正常範囲内),25≦BMI<30 の過体重,30≦BMI の肥満の 3 群に分類し,BMI<25 群, 25≦BMI<30 群,30≦BMI 群と ESS 点数ならびに PVT4 指標との関連を比較検討した.
ESS 点数ならびに PVT4 指標は,睡眠時間 6 時間/日未満,以上ともに,3 群間で有意な 関連は認められなかった. 表 15 睡眠時間別肥満度 3 区分の ESS,ならびに PVT4 指標の性年齢調整平均値 BMI 傾向性 <25 25-<30 30+ 6 時間/日未満(人数) 46 35 21 ESS, 点 4.2 5.3 5.2 0.18 平均反応時間 235.55 233.96 241.52 0.42 平均反応時間の逆数 4.48 4.49 4.36 0.33 反応時間の内上位10%の平均時間 182.21 181.87 187.27 0.27 反応時間の内下位10%の平均時間の逆数 2.86 2.91 2.83 0.83 6 時間/日以上(人数) 82 58 25 ESS, 点 6.0 5.4 6.2 0.88 平均反応時間 240.54 239.05 239.80 0.81 平均反応時間の逆数 4.33 4.37 4.34 0.78 反応時間の内上位10%の平均時間 189.34 188.68 189.06 0.88 反応時間の内下位 10%の平均時間の逆数 2.89 2.90 2.96 0.52
3.1.10 睡眠時間別,自律神経機能と眠気ならびに精神運動覚醒との関連(表 16) 睡眠時間(6 時間/日未満と 6 時間/日以上)で層別化し,自律神経機能検査の指標の一つ である CVRR 値を 2.87 未満,2.87 以上 4.14 未満,4.14 以上の 3 群に分類し,CVRR 低 値群,CVRR 中等度群,CVRR 高値群と ESS 点数ならびに PVT4 指標との関連を比較検 討した. ESS 点数ならびに PVT4 指標は,睡眠時間 6 時間/日未満,以上ともに,3 群間で有意な 関連は認められなかった. 表 16 睡眠時間別 CVRR3 区分の ESS,ならびに PVT4 指標の性年齢調整平均値 CVRR 傾向性 <2.87 2.87-<4. 14 4.14+ 6 時間/日未満(人数) 33 35 34 ESS, 点 4.7 4.6 4.1 0.47 平均反応時間 235.66 237.87 232.83 0.62 平均反応時間の逆数 4.48 4.42 4.52 0.68 反応時間の内上位10%の平均時間 181.57 184.11 181.57 1.00 反応時間の内下位10%の平均時間の逆数 2.83 2.88 2.88 0.61 6 時間/日以上(人数) 57 58 50 ESS, 点 6.5 6.0 5.6 0.18 平均反応時間 235.61 241.41 241.13 0.28 平均反応時間の逆数 4.42 4.32 4.32 0.21 反応時間の内上位10%の平均時間 186.16 190.76 188.97 0.36 反応時間の内下位 10%の平均時間の逆数 2.99 2.90 2.88 0.15
3.1.11 自律神経機能検査で層別化後,睡眠呼吸障害と精神運動覚醒検査(表 17) CVRR 値(3.57 未満と 3.57 以上)で層別化し,RDI を,RDI を 10 未満,10 以上 20 未満,20 以上の 3 群に分類して,RDI 低値群,RDI 中等度群,RDI 高値群と ESS 点数な
らびに PVT4 指標との関連を比較検討した. CVRR 値 3.57 未満の者において,ESS 点数は,RDI 低値群で 5.4 点,中等度群で 6.4 点,高値群で6.8 点であった.RDI が高くなるほど ESS 点数が高くなる傾向が認められた (p=0.07). 一方,CVRR 値 3.57 以上の者においては,この傾向は認められなかった(p=0.34). PVT4 指標は,CVRR 値 3.57 未満,以上ともに,3 群間で有意な関連は認められなかっ た. 表 17 CVRR2 区分別 RDI3 区分別の ESS,ならびに PVT4 指標の性年齢調整平均値 RDI 傾向 性 <10 10-<20 20+ CVRR 3.57 未満(人数) 45 52 49 ESS, 点 5.4 6.4 6.8 0.07 平均反応時間 236.88 239.21 238.26 0.86 平均反応時間の逆数 4.46 4.47 4.42 0.54 反応時間の内上位10%の平均時間 183.38 183.70 186.40 0.31 反応時間の内下位10%の平均時間の逆数 2.89 2.90 2.98 0.20 CVRR 3.57 以上(人数) 64 55 27 ESS, 点 4.7 4.2 4.0 0.34 平均反応時間 242.80 236.69 251.23 0.16 平均反応時間の逆数 4.35 4.42 4.21 0.16 反応時間の内上位10%の平均時間 185.27 185.32 191.21 0.11 反応時間の内下位 10%の平均時間の逆数 2.73 2.87 2.62 0.29
3.1.12 CVRR 別,肥満と眠気ならびに精神運動覚醒との関連(表 18)
CVRR 値(3.57 未満と 3.57 以上)で層別化し,肥満度により BMI<25(痩せおよび正 常範囲内),25≦BMI<30 の過体重,30≦BMI の肥満の 3 群に分類し,BMI<25 群, 25≦ BMI<30 群,30≦BMI 群と ESS 点数ならびに PVT4 指標との関連を比較検討した.
ESS 点数ならびに PVT4 指標は,CVRR 値 3.57 未満,以上ともに,3 群間で有意な関 連は認められなかった. 表 18 CVRR2 区分別 BMI3 区分別の ESS,ならびに PVT4 指標の性年齢調整平均値 BMI 傾向性 <25 25-<30 30+ CVRR 3.57 未満(人数) 61 54 31 ESS, 点 5.8 6.1 6.9 0.17 平均反応時間 238.86 233.32 240.58 0.95 平均反応時間の逆数 4.44 4.49 4.39 0.74 反応時間の内上位10%の平均時間 184.37 183.00 186.12 0.76 反応時間の内下位10%の平均時間の逆数 2.90 2.95 2.90 0.79 CVRR 3.57 以上(人数) 83 45 18 ESS, 点 4.6 4.4 3.8 0.33 平均反応時間 242.76 244.23 247.61 0.43 平均反応時間の逆数 4.35 4.32 4.25 0.38 反応時間の内上位10%の平均時間 186.01 187.15 190.06 0.33 反応時間の内下位 10%の平均時間の逆数 2.73 2.72 2.73 0.89
3.1.13 飲酒習慣別,睡眠呼吸障害と眠気ならびに精神運動覚醒との関連(表 19) 飲酒習慣の有無別に,RDI を 10 未満,10 以上 20 未満,20 以上の 3 群に分類して,RDI 低値群,RDI 中等度群,RDI 高値群と ESS 点数ならびに PVT4 指標との関連を比較検討 した. ESS 点数ならびに PVT4 指標は,飲酒習慣の有無ともに,3 群間で有意な関連は認めら れなかった. 表 19 飲酒習慣の有無別 RDI3 区分別の ESS,ならびに PVT4 指標の性年齢調整平均値 RDI 傾向性 <10 10-<20 20+ 飲酒習慣なし(人数) 40 36 29 ESS, 点 4.8 5.2 5.7 0.24 平均反応時間 242.91 237.76 244.40 0.70 平均反応時間の逆数 4.37 4.43 4.32 0.51 反応時間の内上位10%の平均時間 184.16 184.45 188.13 0.23 反応時間の内下位10%の平均時間の逆数 2.74 2.91 2.79 0.79 飲酒習慣あり(人数) 69 71 47 ESS, 点 3.8 3.9 4.1 0.74 平均反応時間 255.56 254.51 259.46 0.40 平均反応時間の逆数 4.14 4.17 4.06 0.30 反応時間の内上位10%の平均時間 193.90 193.88 197.74 0.22 反応時間の内下位 10%の平均時間の逆数 2.52 2.56 2.54 0.84
3.1.14 睡眠呼吸障害と交通事故との関連(図 3)
平成25,26 年度のトラック運転手 480 名において,RDI 値を 10 未満,10 以上 20 未満, 20 以上の 3 群に分類して,RDI 低値群,RDI 中等度群,RDI 高値群と事故経験のある者
の割合を比較検討した.RDI 値が高くなるほど,事故経験のある者の割合が高くなり,有 意差が認められた(p=0.05). 図 3 睡眠呼吸障害と交通事故との関連 0 2 4 6 8 10 12 14 16 0-9.9 10-19.9 ≥20 呼吸障害指数 (RDI) 交通事故 を起こ した者 の 割合(% ) 傾向性 p=0.05
3.1.15 交通事故と諸指標との関連(表 20) 事故経験の有無と,BMI,CVRR,RDI,ESS ならびに PVT4 指標との関連を比較検討 した. BMI は,事故経験がある者では 26.0kg/m2,事故経験がない者では24.0 kg/m2であり, 有意差が認められた(p=0.02). RDI 値は,事故経験がある者では 16.6,事故経験がない者では 12.8 であり,事故経験 がある者の方がRDI 値は高い傾向が認められた(p=0.07), ESS 点数は,事故経験がある者では 6.0 点,事故経験がない者では 4.7 であり,事故経 験がある者の方がESS 点数は高く,有意差が認められた(p=0.02). PVT4 指標は,2 群間で有意差は認められなかった. 表 20 事故経験者の肥満度,CVRR,RDI,ESS,ならびに PVT4 指標の性年齢調整平均値 事故 P 値 なし あり 人数 259 33
Body mass index,
kg/m
2 24.0 26.0 0.02CVRR⋆ 3.55 3.58 0.89 RDI, 回/時 12.8 16.6 0.07 ESS, 点 4.7 6.0 0.02 平均反応時間 243.08 246.99 0.39 平均反応時間の逆数 4.35 4.27 0.27 反応時間の内上位10%の平均時間 186.22 189.03 0.32 反応時間の内下位 10%の平均時間の逆数 2.75 2.72 0.56 ⋆ :幾何平均値
3.1.16 肥満度別,交通事故と諸指標との関連(表 21)
肥満度(BMI25 未満と BMI25 以上)で層別化し,事故経験の有無と,BMI,CVRR, RDI,ESS ならびに PVT4 指標との関連を比較検討した. CVRR 値は,非肥満者において,事故経験がある者では 4.63,事故経験がない者では 3.64 であり,事故経験がある者の方が高く,有意差が認められた(p=0.04).一方,肥満者にお いて,2 群間で有意差は認められなかった. ESS 点数は,非肥満者において,事故経験がある者では 6.1 点,事故経験がない者では 4.7 点であった.また,肥満者において,事故経験がある者では 5.2 点,事故経験がない者 では4.0 点であった.非肥満者,肥満者ともに,事故経験がある者の方が,ESS 点数が高 かったが,2 群間で有意差は認められなかった. PVT4 指標は,非肥満者,肥満者ともに,2 群間で有意差は認められなかった. 表 21 肥満度別事故経験者の BMI,CVRR,RDI,ESS,ならびに PVT4 指標の性年齢調整平均値 事故 P 値 なし あり 非肥満 人数 133 11
Body mass index,
kg/m
2 21.5 21.4 0.82CVRR⋆ 3.64 4.63 0.04 RDI, 回/時 10.5 11.4 0.71 ESS, 点 4.7 6.1 0.15 平均反応時間 245.25 248.01 0.72 平均反応時間の逆数 4.33 4.25 0.50 反応時間の内上位10%の平均時間 186.65 190.07 0.44 反応時間の内下位10%の平均時間の逆数 2.71 2.66 0.63 肥満 人数 126 22
Body mass index,
kg/m
2 35.6 36.3 0.47CVRR⋆ 4.19 3.84 0.35 RDI, 回/時 19.5 22.6 0.32 ESS, 点 4.0 5.2 0.08 平均反応時間 233.02 239.14 0.29 平均反応時間の逆数 4.44 4.35 0.32 反応時間の内上位10%の平均時間 186.34 188.99 0.49 反応時間の内下位 10%の平均時間の逆数 3.06 2.99 0.43 ⋆ :幾何平均値
3.1.17 睡眠時間別,交通事故と諸指標との関連(表 22) 睡眠時間(6 時間未満/日と 6 時間以上/日)で 2 群に層別化し,事故経験の有無と,BMI, CVRR,RDI,ESS ならびに PVT4 指標との関連を比較検討した. BMI は,睡眠時間 6 時間以上/日の者において,事故経験がある者は 30.9 kg/m2,事故 経験がない者では 28.3kg/m2であり,事故経験がある者の方が高く,有意差が認められた (p=0.02).一方,睡眠時間 6 時間未満/日の者において,2 群間で有意差は認められなか った. RDI 値は,睡眠時間 6 時間未満/日の者において,事故経験がある者では 17.8,事故経 験がない者では 12.7 であり,事故経験がある者の方が高い傾向が認められた(p=0.10). 一方,睡眠時間6 時間以上/日の者において,2 群間で有意差は認められなかった. ESS 点数は,睡眠時間 6 時間以上/日の者において,事故経験がある者では 6.9 点,事故 経験がない者で 5.5 点であり,事故経験がある者の方が高い傾向が認められた(p=0.06). 一方,睡眠時間6 時間未満/日の者において,2 群間で有意差は認められなかった. CVRR ならびに PVT4 指標は,睡眠時間 6 時間未満/日,以上ともに,2 群間で有意差は 認められなかった. 表 22 睡眠時間別事故経験者の BMI,CVRR,RDI,ESS ならびに PVT4 指標の性年齢調整平均値 事故 P 値 なし あり 6 時間/日未満 人数 89 13
Body mass index,
kg/m
2 23.1 23.3 0.94CVRR⋆ 3.46 3.98 0.26 RDI, 回/時 12.7 17.8 0.10 ESS, 点 4.5 5.1 0.51 平均反応時間 235.55 240.10 0.50 平均反応時間の逆数 4.47 4.38 0.42 反応時間の内上位10%の平均時間 182.43 185.55 0.49 反応時間の内下位10%の平均時間の逆数 2.87 2.86 0.92 6 時間/日以上 人数 145 20
Body mass index,
kg/m
2 28.3 30.9 0.02CVRR⋆ 3.65 3.41 0.47 RDI, 回/時 14.8 17.5 0.36 ESS, 点 5.5 6.9 0.06 平均反応時間 238.73 242.99 0.49 平均反応時間の逆数 4.36 4.30 0.49 反応時間の内上位10%の平均時間 188.45 190.68 0.56 反応時間の内下位 10%の平均時間の逆数 2.94 2.85 0.33 ⋆ :幾何平均
3.1.18 ESS 点数別,交通事故と諸指標との関連(表 23) ESS 点数(5 点未満と 5 点以上)で 2 群に層別化し,事故経験の有無と,BMI,CVRR, RDI,ESS ならびに PVT4 指標との関連を比較検討した. BMI は,ESS5 点未満の者において,事故経験がある者では 26.9 kg/m2,事故経験がな い者では23.6kg/m2であり,事故経験がある者の方が高く,有意差が認められた(p=0.03). 一方,ESS5 点以上の者において,2 群間で有意差は認められなかった. ESS 点数は,ESS5 点以上の者において,事故経験がある者では 7.9 点,事故経験がな い者は 6.8 点であり,事故経験がある者の方が高かったが,2 群間で有意差は認められな かった.一方,ESS5 点未満の者においては,2 群間で有意差は認められなかった. CVRR,RDI 値,ならびに PVT4 指標は,ESS 点数 5 点未満,以上ともに,2 群間で有 意差は認められなかった. 表 23 ESS 点数別事故経験者の BMI,CVRR,RDI,ESS ならびに PVT4 指標の性年齢調整平均値 事故 P 値 なし あり 5 点未満 人数 119 11
Body mass index,
kg/m
2 23.6 26.9 0.03CVRR⋆ 3.65 3.52 0.76 RDI, 回/時 11.9 15.7 0.25 ESS, 点 2.6 2.8 0.65 平均反応時間 248.78 256.68 0.35 平均反応時間の逆数 4.27 4.10 0.18 反応時間の内上位10%の平均時間 189.52 195.80 0.20 反応時間の内下位10%の平均時間の逆数 2.67 2.63 0.67 5 点以上 人数 140 22
Body mass index,
kg/m
2 24.2 25.4 0.26CVRR⋆ 3.45 3.64 0.59 RDI, 回/時 13.6 16.9 0.24 ESS, 点 6.8 7.9 0.08 平均反応時間 237.36 239.26 0.71 平均反応時間の逆数 4.45 4.42 0.75 反応時間の内上位10%の平均時間 182.48 183.29 0.81 反応時間の内下位 10%の平均時間の逆数 2.82 2.79 0.69 ⋆ :幾何平均
3.2 結果のまとめ 3.2.1. 睡眠呼吸障害(RDI) 睡眠呼吸障害と肥満度,肥満者の割合,いびきの症状は,有意な正の関連が認められた. 睡眠呼吸障害と自律神経機能(CVRR)は,有意な負の関連が認められた. 睡眠呼吸障害と自覚的眠気症状(ESS)は関連が認められなかった. また,睡眠時間が6 時間未満/日の者において,睡眠呼吸障害が悪化するにつれて,客観 的眠気(PVT 各指標)が強くなる傾向が認められた.しかし,睡眠時間が 6 時間以上の者 においては,この関連は認められなかった. CVRR3.57 未満の者において,睡眠呼吸障害が悪化するにつれて,自覚的眠気症状(ESS) が強くなる傾向が認められたが,CVRR3.57 以上の者においては,この関連は認められな かった. 3.2.2. 肥満 肥満と睡眠呼吸障害,いびき症状,事故経験率は,有意な正の関連が認められた. 肥満と自律神経機能(CVRR)は,有意な負の関連が認められた. 3.2.3. 自律神経機能検査 自律神経の機能の低下と肥満,睡眠呼吸障害,自覚的眠気は,有意な正の関連が認めら れた.肥満者においては,自律神経機能検査の低下と自覚的眠気は,有意な正の関連が認 められたが,非肥満者においては,この関連は認められなかった. 3.2.4 事故率 睡眠呼吸障害が重症になるほど,交通事故を起こした者の割合が高くなり,有意な正の 関連が認められた.事故経験がある者の方が,肥満度が高く,自覚的眠気が強くなり,有 意な正の関連が認められた.また,事故経験がある者の方が,睡眠呼吸障害が悪化する傾 向が認められた.非肥満者においては,事故経験がある者の方が,自律神経機能が良好で あり,有意な負の関連が認められたが,肥満者においては,この関連は認められなかった. また,睡眠時間が6 時間以上/日の者においては,事故経験がある者の方が,肥満度が高く, 有意な正の関連が認められた.
第 4 章 結論と課題
4.1 本研究でわかったこと 本研究の結果より,重症の睡眠呼吸障害を有していても,主観的な眠気がないものが 96.1%に上り,その割合は,肥満の有無や年齢について層別してもほとんど変わらなかっ た.また,睡眠呼吸障害の重症度が高いほど,交通事故を起こしたことのあると回答した 者の割合が有意に高くなることが示された.さらに,睡眠呼吸障害の重症度は副交感神経 の活動抑制と関連していること,睡眠呼吸障害の重症度が高いほど,PVT にて測定した客 観的な眠気も増大していることが示唆された. 4.2 スクリーニング検査の重要性 現在,我が国には数百万人規模の睡眠時無呼吸症候群患者がいると推定されるが,すで に治療を開始されているのは30 万人程度にとどまり,膨大な人数の患者が未治療で放置さ れている.トラック業界においても,これまで助成制度を活用する等で睡眠時無呼吸症候 群のスクリーニング検査を実施したが,治療に結びついた者は全患者数から推定すると僅 かであり,睡眠時無呼吸症候群スクリーニング検査の受診率向上が課題である.スクリー ニング検査には,前述のとおり,様々な方法が挙げられるが,信頼性が高く,簡便に実施 できることが重要である.今回の対象者においては,中等度以上の睡眠呼吸障害を持つ者 の90%以上が日中の眠気がないと回答していることから,主観的なスクリーニング検査に 加えて,フローセンサ法やPVT のような客観的なスクリーニング検査が不可欠であること は明らかである. 4.3 新たなスクリーニング検査の可能性 平成26 年度は,客観的な眠気をより簡便に測定することができる PVT を使用し,睡眠 呼吸障害の重症度と客観的な眠気との関連を292 人の愛媛県のトラック運転者を対象に検 討し,新たなスクリーニング検査としての可能性を探った.その結果,フローセンサ法に 加え,パルスオキシメトリ法,さらにPVT および自律神経機能検査を使用することにより, 睡眠呼吸障害をより的確に把握できる可能性が示唆された. 4.4 睡眠呼吸障害を原因とする交通事故を減らすために 睡眠呼吸障害を原因とする交通事故の予防のためには,睡眠呼吸障害ならびに睡眠呼吸 障害の健康障害や事故との関連についての知識の普及が不可欠である.この普及活動には, 中小事業者への働きかけ,ならびに,都道府県における取組みのばらつき解消が課題とな る.さらに,スクリーニング検査を受診してもその後の治療に結びつかない者も多く存在する.その背景には,専門医療機関の数が推定患者数に比べて不足していることや,眠気 を自覚していない患者が多いこと,たとえ自覚症状を有する場合でも,睡眠時無呼吸症候 群への認識不足のために眠気が加齢による慢性疲労症状と誤認されやすく,多忙のために 専門医療機関への受診行動をとらないことが理由として挙げられる.未治療の睡眠呼吸障 害の患者をいかに掘り起こし,診断し,適切な治療に結びつけるかということは,国民の 安全・安心な暮らしを実現するための重要課題と言える.治療状況を詳細に把握し,サポ ート体制を強化すること,さらに,事業者個人の睡眠時無呼吸症候群についての正しい認 識・理解と啓発が今後も必要であり,全国レベルの啓発をさらに検討していく必要がある. 本研究での活動は,全国どの地域でも活用できる事例であり,本研究における睡眠呼吸障 害スクリーニングと新たな検査による睡眠呼吸障害と交通事故との関連に関する検討と, 特にスクリーニング検査後の治療連携について,より詳細に検討すること,さらに,その 事例を全国へ発信することで,交通事故の低減に貢献していきたいと考えている.
参考文献
1. Guilleminault C, Tilkian A, Dement WC. The sleep apnea syndromes. Annu Rev Med 1976;27:465-84.
2. Morgan BJ, Dempsey JA, Pegelow DF, Jacques A Finn L, Palta M, Skatrud JB, Young TB. Blood pressure perturbations caused by subclinical sleep-disordered breathing. Sleep 1998 ; 21 : 737-746.
3. Fletcher EC. Hypertension in patients with sleep apnoea: a combined effect? Thorax 2000 ; 55 : 726-728.
4. Duran J, Esnaola S, Rubio R, Iztueta A. Obstructive sleep apnea-hypopnea and related clinical features in a population-based sample of subjects aged 30 to 70 yr. Am J Respir Crit Care Med 2001 ; 163 : 685-689.
5. Nieto FJ, Young TB, Lind BL, Shahar E, Samet JM, Redline S, D' Agostino RB, Newman AB,Lebowitsz MD, Pickering TG. Association of sleep-disordered breathing, sleep apnea, and hypertension in a large community based study. JAMA 2000 ; 283 : 1829-1836.
6. Peppard PE, Young T, Palta M, Skatrtld J. Prospective study of the association between sleep-disordered breathing and hypertensions. N Engl J Med 2000 ; 342:1378-1384.
7. Hu FB, Willett WC, Coldiz GA, Ascherio A, Speizer FE, Rosner B, Hennekens CH, Stampfer MJ. Prospective study of snoring and risk of hypertension in women. Am J Epidemiol 1999 ; 150 : 806-816.
8. Davies CW, Crosby JH, Mullins RL, Barbour C, Davies RJ, Stradling JR. Case-control study of 24 hour ambulatory blood pressure in patients with obstructive sleep apnoea and normal matched control subjects. Thorax 2000 ; 55 : 736-740.
9. Shahar E, Whitney CW, Redline S, Lee ET, Newman AB, Nieto FJ, O'Connor GT, Boland LL, Schwartz JE, Samet JM : Sleep-disordered breathing and cardiovascular disease: cross-sectional results of the Sleep Heart Health Study. Am J Respir Crit Care Med 2001 ; 163 : 19-25.
10. Hu FB, Willett WC, Manson JE, Colditz GA, Rimm EB, Speizer FE, Hennekens CH, Stampfer MJ : Snoring and risk of cardiovascular disease in women. J Am Coll Cardlol 2000 ; 35 : 308-313
11. Koskenvuo M, Kaprio J, Telakivi T, Partinen M, Heikkila K, Sarna s : Snoring as a risk factor for ischaemic heart disease and stroke in men. BMJ 1987 ; 294 : 643
12. Mooe T, Franklin KA, Holmstrom K, Rabben T, Wiklund U. Sleep disordered breathing and coronary artery disease: long-term prognosis. Am J Respir Crit Care Med 2001 ; 164 : 1910-1913.
13. Yaggi HK, Concato J, Kernan WN, Lichtman JH, Brass LM, Mohsenin V. Obstructive sleep apnea as a risk factor for stroke and death. N Engl J Med 2005 ; 353 : 2034-2041.