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アディクションとソーシャルワーク -わが国における理論研究の概観-

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『日本福祉大学社会福祉論集』第 143・144 号 2021 年 3 月  要 旨  本研究の目的は,依存・嗜癖といわれる「アディクション」分野におけるソーシャル ワーク実践の礎となる理論について,先行研究のレビューから概観を明らかにすること である.アディクションをもつ人たちへのかかわりは難しいとされ,アディクションを 専門で取り組んでいる人や機関に支援をゆだねる傾向が強い.そこでアディクションに 特化したソーシャルワーク理論が存在しているのか,そもそもその理論の必要性がある のかについて,先行研究のレビューを行い考察した.その結果,アディクションにおけ るソーシャルワークの理論ではエンパワーメントアプローチをベースにしており,そこ にナラティヴアプローチ,リカバリー概念など親和性が高い理論が影響し合っている. また,当事者の主体性の尊重といったポストモダンの思想潮流と親和性が高いというこ とが考えられた.さらに社会への働きかけの重要性を指摘しているが,一方でマクロレ ベルのソーシャルワークにおいての理論化と実践がまだなされていないことが課題とし てあげられた.上記はアディクションに限らず他の精神保健分野の課題でも同様である と考えられ,アディクションに特化したソーシャルワーク理論があるということではな く,アディクションに対する忌避感情が支援の困難さを生み出しているのではないかと いう仮説を得ることができた. キーワード:アディクション,ソーシャルワーク,エンパワーメント

 Ⅰ.本研究の目的と背景

 何かにハマること,何かに依存することは人に様々な身体的・精神的な影響を及ぼす.それが 依存症という疾患であり,その疾患により様々な社会生活上の問題を引き起こすことは周知の事 実である.例を挙げればアルコールのコントロールができないことによって仕事ができなくな る,そのことにより経済的に困窮してしまう,家族関係がうまくいかなくなり時に家族が崩壊し

アディクションとソーシャルワーク

   わが国における理論研究の概観   

田 中 和 彦 

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てしまう,といったことである.何かに依存することにより,生活問題が引き起こされていけ ば,疾患の治療や回復と並行して生活問題の解決に取り組まなければならず,そのためにソー シャルワークが必要となっていく.依存からの回復には,治療や自助グループでの活動,ソー シャルワークが求められるといっても過言ではない.なお,依存症は昨今,アルコールや覚せい 剤などの中枢神経作用薬の使用による「物質依存」と,ギャンブルやゲーム,インターネットな どの行動による依存である「行動嗜癖」の総称として「アディクション」という言葉を使うこと が多い.本稿でも依存行動を物質・行動の両側面からとらえ,依存対象にかかわらず,依存によ り社会生活上の困難がありそこにソーシャルワークの必要性を認識しているという立場から, 「アディクション」という言葉を用いる.  現在のアディクションにかかわる治療や支援の現場では,アディクションに対して「アディク ションは難しい」「できればかかわりたくない」「アディクションは専門で取り組んでいる人(機 関)がやればよい」という忌避感情のもと,アディクションをもつ人へのかかわりに拒否的にな る傾向がみられる.ここで少し長くなるが,アルコール依存者に対するソーシャルワーク研究の 先駆者である窪田暁子の言葉を引用したい.  アルコール依存者の絶望を深くするもう一つの社会的条件は,援助を求めて専門機関を訪れて も,なかなか適切な治療や援助が得られないこと,そればかりでなく医療機関でも,福祉相談機 関でも,アルコールの問題があるというだけで厄介者扱いをされることが多く,またそれらの場 所で出会う人々の多くが,何回入院してもまた飲んでしまったり,その度に生活が崩壊していく 様子を見せていること,そして社会一般にもアル中は治らない,という見方が強く存在するとい う事実からくる.  社会的に落伍者とのレッテルを貼られ,しかも援助を求めに行けば,そこには有効な治療法が ないといわれる.家族の場合には,困惑して相談にいっても,「本人に治す意志がなければどう にもならない」「本人をまず連れてきて下さい」といわれて,とりつく島もないということが多 い.一般社会からの非難,また阻害,また阻害と,治療や援助の専門家や専門機関からの締め出 しという二重の壁が,本人及び家族の絶望を深めていく(窪田1995:13)(1)  窪田の論文はアルコール依存について論じているが,これをアディクションに置き換えたと き,25 年たった現在でもあまり変わらない現状があることに驚く.この 25 年の間に,アルコー ル健康障害対策基本法が施行(2014 年),厚生労働省での依存症対策総合支援事業の開始(2017 年),ギャンブル等依存症対策基本法の施行(2018 年)と国のアディクションに対する施策は大 きく変化し,制度や仕組みが構築されてきている.また,さまざまな治療法も拡大を見せ,認知 行動療法をベースにした治療法の広がり,アルコール依存症については,断酒のみではなく節酒 も含めた治療の選択肢の拡大,それに伴う新しい薬物療法の開始など,大きな変化があるもの の,未だに治療や支援に携わる現場の感覚としては「アディクションは難しい」「かかわりたく

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ない」「専門の人(機関)がやればよい」という思いが根強くある.それは筆者がかかわる支援 者に対するアディクション研修の参加者からもよく聞かれる.このような認識の中,アディク ションに対するソーシャルワークは必要性を認識されながら,まだ理論が構築されていない現状 がある.もっと言えば,そもそもアディクションに特化したソーシャルワーク理論が必要なのか さえ共通認識としてない中で,「アディクションをもつ人への支援は専門で取り組んでいる人に 任せる」という考えが主流となっている.しかし,ソーシャルワークは,専門であろうとなかろ うと,ソーシャルワークが必要な状況であればかかわることが求められており,そのためのソー シャルワーク理論とそれに基づく視点とスキルが求められる.  そこで本稿では,アディクション分野におけるソーシャルワークの先行研究のレビューを行う ことにより,この分野におけるソーシャルワーク理論研究の取り組みを概観すること,アディク ション分野のソーシャルワーク理論の必要性について吟味していくことを目的とする.

 Ⅱ.方法

 まず,アディクションにおけるソーシャルワークの理論研究の実態をつかむため,CiNii によ る文献検索を2020 年 9 月 19 日に行った.検索ワードを「アディクション ソーシャルワーク」 としたところ,12 件の文献がヒットした.そのうち,社会福祉分野の総合研究誌での特集で掲 載された論文が6 件,職能団体雑誌の特集で掲載された論文が 1 件,学会の分科会報告が 1 件, 看護領域の論文として掲載されたものが1 件,アディクションにかかわる特定分野のソーシャル ワーク実践や研究が3 件であった.さらに検索ワードを「依存症 ソーシャルワーク」としたと ころ,17 件(うち,重複してヒットする論文が 1 件あるため実質は 16 件)の文献がヒットした. そのうち,社会福祉分野研究誌での特集で掲載された論文が7 件,司法分野研究誌の特集で掲載 された論文が1 件,医療分野研究誌の特集で掲載された論文が 1 件(検索では同じ論文が重複し てヒットするが1 件とカウントする),職能団体雑誌の特集で掲載された論文が 1 件,連携に関 する研究論文が2 件,アルコール依存症者の治療中断に関する研究論文が 1 件,医療観察法に関 する研究論文が1 件,実践論文が 2 件であった.アディクション分野におけるソーシャルワーク 研究の特徴としては,まず社会福祉系の総合研究誌や職能団体が発行する雑誌での特集論文が多 くを占めていることが挙げられる.さらには,アルコールや薬物という特定のアディクションに 特化した研究が多く,アディクション分野におけるソーシャルワークの理論に特化した研究につ いては筆者が検索する限り見つからなかった.  そこで,アディクション分野におけるソーシャルワークの総説論文である「アディクションと ソーシャルワーク」(山本2020)(2)に着目した.この論文では,アディクションに対するソー シャルワークについての視点と様々な取り組みを論じているが,その中で「ソーシャルワーク実 践研究」として,西川の薬物問題をもつ家族への援助研究(3),稗田の一般医療機関におけるアル コール依存症の回復支援の実践研究(4),引土の治療共同体モデル研究(5),大嶋のフェミニスト

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ソーシャルワークと生活共同体モデル(6)について紹介している(山本2020:14-15)(2) .本稿では 先に引用した窪田の論文と学位論文の書籍化として刊行されている西川,稗田,大嶋の研究を概 観し,アディクションにおけるソーシャルワーク理論を考察していく.

 Ⅲ.結果

1.エンパワーメント視点から見たアルコール依存者の回復と回復支援にかかわるソーシャル ワーク  まず,窪田暁子の「アルコール依存者の回復をエンパワーメントの視点からみる」をもとにア ルコール依存者に対するソーシャルワークについて概観する.アルコール依存者は,成育環境の 中での影響や,家族関係や様々な人間関係から影響を受けた個人的なレベルでの問題と,労働と いう点で現代社会の個人競争の原理と成果主義による自己責任の社会の価値体系においてアル コールに溺れることへの自己責任論,さらには医療・福祉の専門家たちによるアルコール問題へ の忌避的なかかわり方,治療や支援の拒否というところに集約される社会的レベルにわたる屈折 した構造があるとしている.このような状況にあるアルコール依存者がアルコールをやめて回復 に取り組むプロセスは,単にアルコールをやめることにとどまらず,自分自身の内的な変化と, 社会の偏見への挑戦,さらには社会改革を目指していくプロセスであり,そのプロセスはエンパ ワーメントそのものであるといえる.  アルコール依存症からの回復には自助グループが有効であるといわれており,わが国では,ア メリカで誕生したAA とわが国で誕生した断酒会がある.窪田は AA の回復のステップである 12 ステップのうち最初である第 1 ステップに着目している.AA の第 1 ステップは「われわれ はアルコールに対して無力であり生きていくことがどうにもならなくなったことを認めた」つま りアルコールに対して無力であることを認めること,これは一種の敗北宣言であるが,アルコー ルに対しての敗北宣言であり,家族や治療者,もっと言えば社会に対しての敗北ではないことに 留意する必要がある.窪田は,酒に対して無力になっている自分を認めることが救いになるとい うメカニズムに注目しており,それを仲間たちの中で体験すること,その仲間内では一般社会の 価値尺度に縛られない独自の工夫をしているということによりそれを可能にするとしている.こ れを筆者はアルコールに対して無力を認めることが内在化しがちな自身のアルコール問題を外在 化し,少し距離をもってみることができると考える.そのことで無力であることを肯定すること により力を得るという,一種逆説的であるものの,それがエンパワーメントへの出発点となると 考察する.  さらに窪田は,アルコール関連問題にかかわるソーシャルワークの実情を指摘し,「アルコー ル関連問題にかかわるソーシャルワーカーが,しばしば家族の演じているのと同じ役割を依存症 本人及び家族に対してとり,それによって,回復を阻害していることがある」と述べている(窪 田1995:17).このような巻き込まれについて,窪田は①援助者側の社会的優位性から全面的依

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存と全面的なコントロールの間をゆれること,②ソーシャルワーカーの自信のなさ,その職業的 アイデンティティが未確立に近く,極めて不安定であるという事実,③依存されることによって 自らを確かめようとし,被援助者と「共依存」関係に陥りやすいパーソナリティの人がソーシャ ルワーカーのような職業を選ぶ傾向をもつ,という3 点をあげて,「庇護的,干渉的,あるいは 情緒的に巻き込まれた援助関係は,いずれにしてもエンパワーメントアプローチの対極に位置す るものである」と述べている(窪田1995:18).  このような状況に陥りやすいソーシャルワークに対して,窪田は,AA 方式をなぞらえて, ソーシャルワーカーに求められる第1 ステップは「ワーカーが援助できることは極めて小さいと いうことの認識であり,クライエントを支配しようとしたり,問題の渦中から救うことができ る,あるいは答えを提供するのは自分しかいないといった誇大な幻想を捨て去ることである」と 述べている(窪田1995:19).これは非常に示唆に富む言葉である.ソーシャルワーカーの多く が,クライエントの問題を何とかしたい,と躍起になり,さまざまな解決方法を提案し,時にそ れを強要することすら現場では起こりうる.しかし,ソーシャルワークにできること,特に個人 を変容するときにできることは極めて小さく,ただ一緒にいることがクライエントの支えとなる ことも多くある.そしてそれはアルコール依存にかかわるソーシャルワーカーに限ったことでは ない.エンパワーメントアプローチは,クライエントの自立的な考えと行動を妨げることなくか かわっていく.そして,ミクロのかかわりの無力さを認識しているからこそ,エンパワーメント 概念が社会問題に視点をもち,社会変革への取り組みを必要としている.そのようなソーシャル ワーカーの姿勢をエンパワーメントの理論から窪田は導き出しているといえよう. 2.薬物問題をもつ家族への心理教育手法を用いたプログラムの研究とソーシャルワーク  次に,家族支援として薬物問題をもつ家族への援助研究をまとめた西川京子の『薬物問題をも つ家族への援助研究』を取り上げる.西川は家族ストレス論,家族システム論,EE 研究に基づ く心理教育論の3 つから家族援助に接近し,薬物依存の家族を対象とした「薬物家族の家族危機 からの回復と家族システム・メンバーの回復・成長を援助する心理教育の理論的枠組みと実験援 助モデルの構成」に取り組んだ.家族が薬物を使っているという家族危機が発生すると,家族に は薬物使用継続,薬物関連問題の継続,家族機能不全の強化というストレスが挙げられる.さら に,外部機関への援助を求めた際におこる,専門職援助への抵抗,自助グループへの懐疑,当事 者への不信などのストレスも大きくかかり,累積したストレスとなる.そのことに対する心理的 サポートとして,①新旧の対処資源と対処法を学び,②新たな知識と情報を得ることによって, 対処が可能となるという枠組みを形成した.薬物問題をもつ家族はその問題を何とか解決しよう とするが,往々にしてその対応はうまくいかない.それは薬物を使用している家族に対しての怒 りや,それが見つかることへの恐れなどから感情的な対応になりがちであるということが挙げら れる.また薬物問題に対しての正しい知識も普及していない中では,家族の対応はどうしても前 述のような感情的な対応になりがちである.そのため,薬物問題をもつ家族への援助は正しい知

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識と適切な対応を知ることを目的とする.西川も援助目的を①薬物問題への認識を改善するため に知識と情報を提供する,②家族の対処能力を高めるために対処資源と対処法を伝達し,家族機 能・嗜癖傾向・コミュニケーションの改善を進める,③薬物関連問題の解決により家族の現状を 改善する,④家族自身の回復を支援する,⑤自助グループや薬物関連社会資源を紹介し,回復を 社会化する,⑥薬物当事者の断薬による回復を支援する,としている(西川2011:74-77, 144).それは自己決定・自己責任・自立・エンパワーメント,リカバリーの理念にサポートされ る.  西川は心理教育の手法を用い,薬物問題をもつ家族が大きなストレスを抱えていること,その ストレスを生み出している構造に着目し,知識の定着とコミュニケーション方法の改善により家 族機能・嗜癖傾向を改善させ,家族の回復と本人の回復を家族の心情に寄り添いながら実証的に 取り組んでいる.しかし,西川の研究の中で興味深い点は,「家族の過半数が自助グループや薬 物関連社会資源に不参加であること」「予後調査の断薬率33.3% という低い結果と断薬していて も自助グループNA や回復施設ダルクなどの回復を促進すると考えられている薬物関連社会資 源を活用しないこと」が明らかになっている点である(西川2011:145).ここに社会資源との 媒介ともなり得るソーシャルワークがうまく機能していないのか,それとも新たな回復スタイル が確立されつつあるのか,このあたりは今後も注視すべき点であろう.  もう一つ,西川の研究で注目したい点は,家族メンバー一人の変容がほかの家族メンバーの変 容へとつながり,家族システム全体が変化するという仮説が実証されなかった点である.その理 由として西川は「家族システム自体がさらに大きな社会システムに組み込まれており,その社会 システムからの大きな影響が当事者・家族に及び,その回復や回復の社会化を左右しているとい う自明の理を確認した」と述べている(西川2011:146).つまり,ここでは本人や家族へのア プローチは重要であるものの,実は本人や家族が社会の中にある薬物問題への誤解や偏見から大 きな影響を受けており,そのことが自分自身の内なる偏見を生み出しており,家族システムの変 容には社会の変容が両輪でなければならない,ということを示唆している.ここにソーシャル ワークの視点として,社会変革の視点が求められるのである. 3.一般医療機関におけるアルコール関連問題ソーシャルワークの研究  アルコール依存症者のリカバリーを支援するためのソーシャルワーク理論の生成研究におい て,リカバリーの三次元的構造理論に基づき,一般医療機関のソーシャルワーカー実践を明確化 したのが稗田である.この項では稗田の『アルコール依存症者のリカバリーを支援するソーシャ ルワーク理論生成研究』を取り上げる.リカバリーの三次元的構造理論では,X 軸をリカバリー ヒストリー,Y 軸を自己実現のプロセスとしたとき,Z 軸として支援システムの応答の質を挙げ ている.アルコール依存症の回復は奇跡的なものである一方で,偶発的なものではなく,意図的 に生み出されるものとしており,それを可能とするのが,アルコール依存症の回復を支える支援 システムである.この支援システムは支援時期によって柔軟にその連携先などを変化させていく

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が,そのための支援システムの応答性をよくしていく取り組みにソーシャルワーカーが仕掛け人 として介在していくことを求めている.さらに,稗田はソーシャルワーカーがアルコール関連問 題を「個人の問題」としていたことに着目し,リカバリーの三次元的構造理論はアルコール問題 を見える化するレンズのような役割としている.そのレンズの存在を「ソーシャルワーカーとし ての,自らのアイデンティティのあり様についてよくみえるようになり,アイデンティティが喪 失していたことへの気づきを与える機能を発揮するものとなる」と指摘し(稗田2017:205), 一般医療機関におけるアルコール関連問題ソーシャルワーク実践のアイデンティティを目的,価 値・原則,知識・実践モデル/アプローチ・技能,支援過程,役割に分けて論じている.  そのうえで一般医療機関におけるアルコール関連問題ソーシャルワーク実践は,問題解決の主 体が常にクライエントにあることを前提としており,クライエントと協働して問題解決を図ろう とする対等な関係性を基盤としている,としている.そのことをパールマンの問題解決モデルと の関連で述べていることが特徴的と言える.(稗田2017:215-217)  また,稗田は自身が2014 年に施行されたアルコール健康障害対策基本法の成立過程に幹事団 体の役員としてもかかわっており,ソーシャルワーカーが政策提言を行うマクロレベルのソー シャルワークにも関心が強い.その稗田が,「今ほど,ソーシャルワーク実践理論の必要性と汎 用性の重要性が求められている時代はない.しかしながら,支援するソーシャルワーク実践を理 論化せず,政府と国民に説明責任を果たすことのできるようなソーシャルワーク方法理論を未だ 確立させていないことがアルコール健康障害対策基本法を推進するうえで大きな障壁(課題)と なっている」と自戒を込めて述べていることも着目すべき点であろう(稗田2017:222).  最後に稗田が実践ガイドを作成するプロセスで出会ったソーシャルワーカーの言葉の中で「理 論の枠組みが大きすぎるあまり,実践においては個々のソーシャルワーカーの力量が強く影響を 及ぼすものと思われます.アルコール依存症の一つの特徴でもある,病気の否認や支援の拒否に 対してもう少し具体的な支援技術展開に関する説明があってもよいかと思われます.当然,クラ イエントのみに対する支援とはなりませんが,『支援を拒否する患者』への動機づけは,非常に 難しいところであり,これらの説明があるだけで『汎用性』が広がると思われます」という言葉 がある(稗田2017:205).このことからも,実際の支援については理論にとどまらず実践的イ メージを共有できるような支援技術の必要性がうかがえる.しかし,ここで陥りやすい点とし て,このような「効果的なかかわり方」ということに着目しすぎることにより,その支援技術に はソーシャルワークの価値が伴っていない場合が見受けられる危険性があるということである. つまり,テクニカルな部分のみならず,目的,価値を念頭においた稗田の理論は現場実践に大き な示唆を与えるものとなっている. 4.生活支援共同体における女性嗜癖者へのフェミニストソーシャルワーク  アディクション領域において,特に女性の嗜癖者へのかかわりからフェミニストソーシャル ワークの必要性と,その視点からの生活支援共同体の理論をまとめたのが大嶋である.ここでは

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大嶋の学位論文をもとにした著書である『生き延びるためのアディクション 嵐の後を生きる 『彼女たち』へのソーシャルワーク』を取り上げる.  大嶋は,フェミニストカウンセリングを学び実践する中で感じた限界の一つとして,生活場面 を観察しなければ正確なアセスメントができず,生活支援と心理的支援が別個のものではないこ とをあげている.さらにエンパワーメントアプローチとナラティヴアプローチから大きな触発を 受け,フェミニストソーシャルワークについて規定している.それは,視点としてはジェンダー の視点で社会現象をとらえること,エンパワーメントの視点からは個人が抱える困難は社会の ジェンダー規範の変革とともに解消が可能であること,援助を求める人が内包している力に気づ いてそれを発揮できるようにすること,抑圧を跳ね返す力を信じ,またどのような抑圧にも尊厳 を破壊することはできないこと,ナラティヴの視点から今まで語られなかった語りの中に貴重な 事実があることと,本人を苦しめるドミナントストーリーをオルタナティヴストーリーに書き換 える困難性を認識しながら,ドミナントストーリーのもつ矛盾点を見つけ出し,それに対抗する 言葉を探し出すかかわりを重要としている.そして,これらを通して,社会にあるジェンダー不 平等を是正することを最終目標としている(大嶋2019:216-217).  さらに大嶋は,自らが取り組んでいる生活支援共同体の実践から,アディクションの回復過程 におけるフェミニストソーシャルワークとして,①安全の構築期,②主体性の獲得期,③親密圏 の創造期におけるかかわりをまとめている.安全の構築期では,女性嗜癖者の症状の覚知や,そ のメカニズムを知り,それが病気であることを理解すること,さらにはソーシャルワーカーの姿 勢として「無知の知」を示しながらそれでも「知ろうとする姿勢」を示し続けること,そのこと が援助関係の柱となっていくと述べている.主体性の獲得期では,クライエントが自分と他者の 境界を認識し,自分と他者の差異を知り,受け入れていくように支えることとしている.その作 業が進む中で復学や進学,就職など社会との接点も広がっていくため,そこに対応する情報やス キルの獲得も必要であるとしている.親密圏の創造期においては,クライエントが他者との対等 な関係とは何か,ということを理解するプロセスである.そのためには過去の喪失体験や被害体 験と向き合うこととなり,そこには大きな痛みを伴う.その痛みを分かち合える仲間とのかかわ りの中で,安全を実感していきながら新たな物語を得ていく.3 つのプロセスの中でソーシャル ワークは,さまざまなグループワーク,食事提供,自助グループの活用,就労支援,などを展開 していく.  上記の実践を支える大嶋のソーシャルワーカーとしての姿勢は以下の文言に集約されている. 「クライエントに巻き込まれることで,禁忌とされてきた援助者としての境界線から,一歩クラ イエント側へ踏み出すことの勧めである」(7)(大嶋2011:97).ソーシャルワーカーがクライエン トとの一定の距離を保ち,境界線を強固なものとしてクライエントとかかわろうとするのではな く,彼ら彼女らの生きてきた歴史から社会との関係を見ることがソーシャルワーカーとしての姿 勢であるといえる.

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 Ⅳ.考察

 4 つの先行研究の概観を踏まえ,アディクションとソーシャルワークを考察する.まず,アル コール依存や薬物依存家族,女性嗜癖者という対象はさまざまであるものの,アディクションに おけるソーシャルワークは窪田の理論の影響を受けてエンパワーメントの視点の強いものとなっ ていることがうかがえる.エンパワーメントの概念は,1975 年にソロモンの『黒人へのエンパ ワーメント―抑圧された地域社会におけるソーシャルワーク』によりソーシャルワークでその概 念が初めて用いられたが,今やエンパワーメントはソーシャルワークの重要な概念の一つとして 挙げられている.アディクションへのソーシャルワークにおいてもそれは例外ではなく,成育の 中で,環境の中で,関係性の中で,社会構造の中で抑圧されてきたアディクションをもつ人やそ の家族がエンパワーメントしていくプロセスにとって,個人の変容とともに社会の変容が重要視 されている.  次に問題解決という視点で考察していきたい.先行研究においてもアディクションの対象と なっている物質や行動を「やめさせる」という問題解決ではなく,そのことがなぜ起きているの か,その背景や構造を自らが知り,取り組んでいくということを重要としている.ここにもエン パワーメントの思想は見て取れる.アディクションがクライエントにとってどのような意味をも つものなのか,どのような必要性のあるものなのかを知り,クライエントが主体者となってその 問題を解決できるようにしていくかかわりは,クライエントのナラティヴを重視し,無知の姿勢 をもち,クライエントのことがわからないからこそわかろうとすること,いわば「わからなさか らの出発」を重視している.そこでは,クライエントが主体者であり,支援が支配的ではなく, クライエントのペースによって行われる.生命の危機などの場合を除き,徹底的にクライエント に寄り添い,クライエントが自らをエンパワーメントしていくことがリカバリーにつながってい くという思考をもち,ポストモダンの思想潮流ととても親和性が高いものである.これは,ア ディクションが歴史的にみてもセルフヘルプ活動を重視し,もともと当事者の主体性を重んじる 文化があることと大いに関係していると考えられる.  さらにソーシャルワーカーの役割として,窪田,西川,稗田,大嶋の4 名ともが社会への働き かけの重要性を指摘している点を挙げておきたい.これは先に述べたエンパワーメントアプロー チとも関連する.ソーシャルワークはクライエントとのかかわり,家族とのかかわりというミク ロ視点のソーシャルワークに焦点化しがちであるが,個人の変容を促そうとするがあまり,クラ イエントに対して時に支配的になる傾向がある.これではソーシャルワークの価値である主体性 の尊重に反することにもつながり,ソーシャルワーカーが支援を主導的に展開する危険性をはら んでいる.ソーシャルワークはもちろん個人へのかかわりを大切にしつつ,社会を変容していく ことが求められており,それはアディクションのソーシャルワークでも重要な部分であろう.し かし,前述で稗田が指摘している通り,日本のソーシャルワークにおいてこの部分が弱いという

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ことも認めざるを得ない.メゾレベル,マクロレベルの実践の重要性が改めて示されたといえ る.  ここまで述べてきた4 名の研究とその考察について,これはアディクションに特化したものと いえるだろうか.同じ精神保健分野のソーシャルワークであってもおそらく同様の視点をもち, 同様の姿勢でクライエントとかかわり,そして社会に対する視点をもつだろう.しかし,なぜ冒 頭で述べたように「アディクションは専門でやっている人(機関)でかかわればよい」という考 えが多くあるのだろうか.それは,先ほど引用した稗田の研究過程で出会った研修参加者の具体 的な支援展開への説明や研修を求める声にヒントがあると考える.つまり,現場のソーシャル ワーカーの多くが,アディクションをもつ人達への直接的なかかわりの方法に困っており,どの ようにしたらやめることを決意させることができるかというような動機付けや,どこにつなげた らよいのかという連携など,より具体的な支援の方向性に関心をもつことにより,結果としてア ディクションのソーシャルワークが分野特性に特化したものとなっているのではないだろうか. 推測の域を出ないがその背景には,アディクションをもつ人とのかかわりのなかで支援がうまく いかなかったり,結果が出なかったりという支援者の傷つき体験があり,アディクションと一定 の距離を取ろうとしたり,問題解決を急ぐような具体的な支援方法を欲したりするのかもしれな い.アディクションに対する忌避感情が支援の困難さを生み出し,アディクションに特化した ソーシャルワーク理論の必要性を欲しているという仮説を得られたと考える.そのことについて は引き続き考察を深めていきたい.  最後に本研究の限界と課題を述べる.本研究は文献レビューをもとにアディクションに関する ソーシャルワーク理論に迫ったが,そもそも対象となる先行研究が少なく,概観を述べるにとど まった.アディクションにおけるソーシャルワークの実践報告から理論研究へと高めていく必要 性がある.今回のレビューで明らかになったエンパワーメントアプローチ,ナラティヴ,メゾ・ マクロレベルのソーシャルワークについて,アディクションに引き寄せてさらに論考を深め, ソーシャルワークとして言語化していく必要性がうかがえた.それは次稿の課題としたい. 注)文中に「依存者」「依存症者」という表現があるが,依存症者という表現は病者である認識 が強くソーシャルワークの表現としては一考の余地はあるものの,先行研究に基づく表現を 尊重したため,両方の表記がある. 引用・参考文献 (1)窪田暁子「アルコール依存者の回復をエンパワーメントの視点からみる」『ソーシャルワーク研究』 第21 巻 2 号,相川書房,1995,pp11-20 (2)山本由紀「アディクションとソーシャルワーク」『ソーシャルワーク研究』第 46 巻 2 号,相川書房, 2020,pp5-16 (3)西川京子『薬物問題をもつ家族への援助研究 心理教育に基づく実験援助モデル開発とその評価』相 川書房,2011

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(4)稗田里香『アルコール依存症者のリカバリーを支援するソーシャルワーク理論生成研究 一般医療機 関での実践を目指して』みらい,2017 (5)引土絵未「アディクション回復支援における治療共同体モデルの構築―米国治療共同体 Amity モデ ルを中心に」同志社大学博士論文 (6)大嶋栄子『生き延びるためのアディクション 嵐の後を生きる『彼女たち』へのソーシャルワーク』 金剛出版,2019 (7)大嶋栄子「嗜癖当事者にかかわる援助者のポジショナリティ」『精神保健福祉』第 42 巻 2 号,へるす 出版,2011,pp94-97

参照

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