〔学位論文要旨〕
松本歯学 42:14₇~148,2016フックによる矯正用ワイヤーの固定機構について
藤田 一隆
松本歯科大学 大学院歯学独立研究科 硬組織疾患制御再建学講座 (主指導教員:山田 一尋 教授) 松本歯科大学大学院歯学独立研究科博士(歯学)学位申請論文Fixing mechanism of orthodontic wire by hook
K
AZUTAKAFUJITA
Department of Hard Tissue Research, Graduate School of Oral Medicine, Matsumoto Dental University
(Chief Academic Advisor : Professor Kazuhiro Yamada)
The thesis submitted to the Graduate School of Oral Medicine, Matsumoto Dental University, for the degree Ph. D. (in Dentistry) 現在,歯科矯正治療では主にマルチブラケット 装置が用いられている.その治療の中で,歯を移 動するために用いるエラスティックゴムやコイル スプリングを矯正用ワイヤーに取り付ける際に 様々なフックが用いられている.フックには,ワ イヤーを屈曲するタイプ,真鍮線を自在ろう着す るタイプ,既製フックをかしめるタイプなどがあ る.ろう着するタイプとワイヤーを屈曲するタイ プは専門的な技術を必要とする.一方,クリンパ ブルフックは口腔内で装着できる,チェアータイ ムが短縮できる,専門的な技術を必要としないな どの利点があるが,フックがかしめた場所からず れるという欠点がある.そこで我々は,この既製 フックの固定の強化を目的とし,ワイヤーとフッ クにサンドブラスト処理を行い,ワイヤーとフッ ク間の摩擦抵抗を検討することとした. 本研究には,ワイヤーには0.01₇×0.025inch ス テンレススチール(SS)─ 角 形 ワイヤー(以 下, SS ワ イ ヤ ー),0.01₇ ×0.025inch Nickel Titan
(NiTi)─角形ワイヤー(以下,NiTi ワイヤー) の 2 種類を使用し,既製フックにはクリンパブル フック(以下,フック)を使用した,クリンピン グプライヤーは先端形状が三角と四角の 2 種類を 使用した. ワイヤーにフックをかしめた際の摩擦抵抗の計 測では,かしめる力の大きさを一定にする為に, 万能試験機の圧縮機能を用いた.また,ワイヤー とフック間の摩擦抵抗の計測には万能試験機の引 き抜き機能を用いた.このワイヤーにフックをか しめる摩擦抵抗の実験から,ワイヤーにフックを かしめる力10kgf でワイヤーにフックが接触する ことが示され,35kgf で摩擦抵抗の増加が終了し たことより,本研究では15kgf を摩擦抵抗の計測 における弱い力とし,35kgf を強い力とした. ワイヤーにフックをかしめた際のワイヤーの変 形の検討では,弱い力15kgf ではほとんど変形が 認められず.強い力35kgf では変形が認められた. この結果から,口腔内でワイヤーにフックを装着
松本歯学 42⑵ 2016 148 する際に強い力(35kgf)でかしめるとワイヤー に変形が生じる為,ワイヤーの口腔外における再 調整が必要となることが示された. ワイヤーへのサンドブラスト処理は Karasawa らの方法に準じて,処理距離20mm,処理時間 5 秒× 4 方向,処理気圧0.5MPa,処理方向ワイヤー の長軸方向に対して垂直にサンドブラスト処理を 行った.また,フックへのサンドブラスト処理は 同条件で処理時間を 5 秒 1 方向にて行った . 表面 粗さの計測場所は,ワイヤーはフックと接する面 を計測し,フックは,サンドブラストしやすい場 所(以下,フックⒶ)とフックがワイヤーに接し ている場所(以下,フックⒷ)の 2 か所を計測し た.試験片の表面粗さの計測は共焦点レーザー顕 微鏡にて行った.サンドブラスト処理後の表面粗 さの 検 討 では SS ワイヤー,NiTi ワイヤーは 共 にまんべんなくサンドブラスト処理され,両者共 にサンドブラスト未処理に対し,有意に大きな表 面粗さを認めた.また,フックではサンドブラス ト処理と未処理の間に有意差は認められなかっ た.これより,矯正臨床においてワイヤーへのサ ンドブラスト処理は表面粗さの増加に有効である ことが示された. サンドブラスト 処 理 の 有 無 によるワイヤー─ フック間に発生する摩擦抵抗の比較では,四角の プライヤーで,35kgf でかしめたサンドブラスト 未処理のワイヤーとフックの組み合わせに対し, 15kgf でかしめたサンドブラスト処理のワイヤー とサンドブラスト未処理のフックの組み合わせと ワイヤーとフックにサンドブラスト処理した組み 合わせが有意に大きな摩擦抵抗を示した.三角の プライヤーでは同じ条件で同等の摩擦抵抗を示し た.以上の結果から,サンドブラスト処理により ワイヤーの表面粗さは変化して,摩擦抵抗が有意 に増加し,フックのみのサンドブラスト処理では フックの表面粗さは変化せず,摩擦抵抗の増加に 影響ないことが示された. 本研究より,ワイヤーへのサンドブラスト処理 により,弱 い 力(15kgf)でフックをかしめても 臨床的に十分な固定が得られることが示された.