原発巣の退縮と考えられた原発性肺癌の一剖検例 小山敏雄 須田耕一 山梨県立中央病院病理、山梨医科大学病理学教室’ 1、はじめに 癌の退縮とは何らかの原因で癌が縮小することであり、その中で原因が不明のものは自 然退縮と呼ばれている。我々は肺扁平上皮癌の原発巣の退縮と考えられた一剖検例を経験 したので報告する。 2、症例
76歳、男性
主訴:悪心、嘔吐、食欲不振 家族歴・既往歴:特記すべきことなし。 喫煙歴:喫煙はしていたが詳細は不明。 現病歴:昭和55年より高血圧、喘息を指摘されていたが放置していた。昭和58年に高 Ifi1圧、慢性呼吸不全にっき某病院で内服治療を受けるようになったが、昭和61 年頃より時折呼吸困難が出現し、入退院を繰り返すようになった。昭和63年1 1月より感染を契機に呼吸困難が増悪し同病院に入院した。また平成元年3月に 腹部超音波検査で大動脈瘤が発見され、山梨県立中央病院心臓外科へ転院し、4 月13日に腹部大動脈瘤手術(Y字グラフト置換術)を施行した。この頃より尿 蛋白が認められ、プレドニン内服により改善した。その後クレアチニン、BUN も上昇し、6月に再び飯富病院に入院し、平成2年6月6日県立中央病院内科に 転院となった。 臨床経過:入院時には尿毒症症状を認め、血液透析を週に2∼3回の割合で導入し、IVH による栄養、酸素投与などを開始した。喀疾からはMRSA、尿中からは緑膿菌 が検出された。8月28日より呼吸不全増悪し、一時的に人工呼吸装置にしたが 8月29日に自己抜去し、その後は意識状態も低下した。9.月12日突然40°C の発熱があり、血圧低下し、敗血症によるショック状態となり、9月14日死亡 し即日に病理解剖を行なった。 3、病理解剖学的所見左肺400g、右肺450gであり、両肺にはびまん性の汎小葉型慢性肺気腫が認めら
れ、山中のll度に相当する(図1、2)。同肺織切片に硫酸バリウム法(山中)で沈澱さ せた強拡大標本を図2に示す。びまん性に汎小葉型の肺気腫が存在するのが観察された。左肺のB−2aの分岐後の1枝には径3mm大の小結節が認められた(図3)。同小結節
は組織学的にはほとんど線維化巣よりなり、厚い膠原線維を主体とし、その中に断裂、崩 壊した弾性線維がみられた(図4、5)。この弾性線維の由来は明かではないが、線維が太く 全体の構築から考えて肺胞領域はわずかしか巻きこんでいないことから、気管支壁周囲の 増生した弾性線維と考えられた。図4のように図の右上および右下に肺胞領域がみられる が、右上の肺胞領域への侵襲はわずかと考えられ、右下の肺胞領域への侵襲はみられなか った。また、動静脈はこの線維化巣の近傍にみられ、気管支動脈が併走していること等か ら、同線維化巣は気管支壁を中心とした部分の搬痕であると思われた。この線維化巣の周 囲には全周に図6のごとき扁平上皮癌のリンパ管浸潤がみられた。従ってこの線維化巣は 癌の退縮の結果生じたものであることを強く示唆するものである。一部静脈壁への侵襲も みられ、これは癌の静脈侵襲を示唆する。 左右肺を径1∼2cmにわたって全割スライスして検索したが、その他に原発巣を考えさ せる病変は全くみられなかった。この扁平上皮癌のリンパ管浸潤は周囲の胸膜下リンパ管 にもみられた。また、同腫瘍は両側肺門リンパ節および傍大動脈弓部リンパ節にも転移を きたし(図7)、後者のリンパ節は7×2.5×2cm大にまで腫大していた。リンパ節転移巣 はいずれも図8のごとく角化の目立っ高分化扁平上皮癌であり、細胞間橋も明瞭であった。 一49一4、考案 癌の自然退縮とは適当な治療や外来因子なくして癌が縮小することと定義されており、 その退縮が部分的で不完全なものであってよいとされている。 Challisらは1966年から1987年の12年間に504例の癌の自然退縮の報告例を検討した1)。 そのうちの組織型別では上位より悪性黒色腫、悪性リンパ腫、腎細胞癌があげられ、つい で白血病・神経芽細胞腫となり、この6種で全体の40%を占める。肺癌は退縮例全体の5 %(504例中25例)を占め固形癌の中ではやや多い傾向がある。これに対し、1900年から 1965年まで調べたEverson&Cole2)やBoyd3)らの報告では237例中5例(2.1%)と少ない。
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転移しこその後高カロリー輸液を契機に徐々に肺腫瘤が縮小し4ヵ月でX線上肺陰影はほ とんど消失した。この間に腫瘍に対する治療は全く行なっていなかった。しかし、その1 ヵ月後に再び腫瘤が増大し死の転帰をとった例である。 本例は加藤らの例とは全く異なり剖検時に偶然発見されたlatent CanCerの例であり、 しかも原発巣の退縮が剖検時に強く示唆される例は過去7年間のMEDLINEの検索では全く みられず、きわめて稀な報告と思われる。この例については肺流域にのみ癌が限局してお り、しかも肺内に原発巣を思わせるものは両肺を通じて1ヵ所しかなく、しかもその病巣 の全周に癌のリンパ管浸潤がみられることで肺癌原発巣の退縮像と断言できた。しかも同 部位はもともと気管支壁(皿次分枝)であったことも扁平上皮癌の原発巣としてよく合致 する。 自然退縮の原因としてChallisらは免疫学的要因、内分泌学的要因、外科的要因、壊死、 感染、外傷等をあげている1)が、本例にっいては外科的手術による可能性が最も考えられきiま麹麟㌶麟ξ麟鵠揃饒羅議隷㌶謡ξ灘蹴薯
zやすい。その後リンパ管内に残存していたものがリンパ節へと拡がっていったものであ るという推定は可能である。 5、結語 本例のようなものは、しばしば病理解剖例でも原発不明癌としてかたずけられる傾向が纂纏鵠;欝聾雛1市欄このみ齢みられ場合には根気よく月櫨の原発巣を
参考文献 1)加藤政仁他:自然退縮した肺癌の1例。目胸疾会誌、24:188−193、1986. 2)Challis,G. B.and Stam, H. J.:The spontaneons regression of cancer. A review of cases from 1900 to 1987. Acta onco1.,29:545−550,1990. 3)Everson,T. C.and Cole, W. IL:Spontaneons regression of cancer. Philadelphia, Penn:JB Saunders & Co.,1968. 4)Boyd, W.:The spontaneous regression of cancer. Springfield, Il1:Charles C Thomas,1966. 一50一Fig.1 Left lung (400g) with high volume and low elasticlty. Fig.2 Aslice lobvler method, of lung with diffuse pan− emphyseme by bariwm sulfate
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き擁 めぷ・ 藩「 F19.3 A smell nodule, 31wm ln dlameヒer, 1s seen (arrows}, A branch of B−2a bron⊂hus is showm through a sound. F19.4 Low power view of a f]brotic pest surrovnded by a branch of B−2a bronchus〔Br), bronchlal artery〔BA), vein(V) and twe alveoler a「eas・ (HE xlo) 一51一鞍 fh・ 釦夕、章 霧 、蘂 e