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国内の教育領域におけるメンタルヘルスリテラシー教育の系統的レビュー

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国内の教育領域におけるメンタルヘルスリテラシー

教育の系統的レビュー

著者

竹森 啓子

雑誌名

人文論究

69

3/4

ページ

147-167

発行年

2020-02-20

URL

http://hdl.handle.net/10236/00028811

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国内の教育領域における

メンタルヘルスリテラシー教育の

系統的レビュー

竹 森 啓 子

Ⅰ.問

思春期はうつ病や不安症といった精神疾患の好発期である(Kessler et al., 2005)。また,精神疾患を治療せず放置してしまうとより深刻になる可能性が 指摘されている(Kendall & Suveg, 2006)。これらのことから,近年,児童 期青年期での精神疾患の予防,早期発見,早期対応が重要視されている。

精神疾患の予防,早期発見,早期対応のためにメンタルヘルスリテラシー (Mental Health Literacy ; MHL)の向上が重要であることが指摘されてい る(大久保・市来・堂上・井村・谷口・谷口,2011)。メンタルヘルスリテラ シーとは「精神疾患に関する認識や管理,予防するための援助についての知識 や考え(Jorm, Korten, Jacomb, Chiristensen, Rodgers, & Pollitt, 1997)」 のことである。Jorm(2000)は MHL が 6 つの要素から構成されることを主 張し,中根・吉岡・中根(2010)および小池(2017)はそれらを以下のよう に説明している(Table 1)。第一に「疾患を認識する能力」である。これは, 疾患を認識することのできる力のことであり,これが高いことで早期発見・早 期介入が可能になることが指摘されている。第二に「背景因子や疾患の原因に 関する知識と信念」とは,疾患の背景に関する知識と信念である。これには環 境要因や生物学的要因など,様々な要因が含まれる。第三には「自身で解決で きる介入に関する知識と信念」があり,これには自分自身で対処することの他 147

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に,家族や友人といったインフォーマルな他者から得られる支援への期待も含 む。第四に「専門家の支援に関する知識と信念」がある。これは専門家が実施 する支援内容の理解やそれに対する信念のことである。すなわち,精神科医や 公認心理師,薬剤師などに関する知識と信念のことを示す。第五に,「支援に 関する認識と態度」とは支援に対する態度のことである。例えばスティグマが 高いことで治療や介入を遅らせる可能性が指摘されている。第六に「情報の入 手法に関する知識」である。これはメンタルヘルスに関する情報を入手する方 法に関連した知識であり,先に挙げた MHL の構成要素に関わる知識や態度 の形成に重要な影響を与える要因でもある。このような MHL の向上につい て,社会全体へ向けたアプローチだけではなく,対象を絞ったアプローチ,例 えば学校現場でのアプローチが重要であることが指摘されている(吉岡・中 根,2015)。すなわち,教育領域における児童生徒や教職員を対象としたアプ ローチが重要である。 このような MHL を高める介入方法として,MHL 教育が実施されている。 Table 1 メンタルヘルスリテラシーの 6 構成要素 構成要素 内容 疾患を認識する能力 (Ability to Recognition) 疾患を適切に認識できる力のことを指す。その症 状が精神疾患なのかどうかを認識する際に必要と なる。 背景因子や疾患の原因に関する知識 と信念

(Knowledge of Risk Factors)

疾患の背景についての知識と信念のことを指す。 調子の悪さを知覚した際に,その原因を何に帰属 するかに影響する。 自身で解決できる介入に関する知識 と信念 (Knowledge of Self-treatment) 自分自身で解決するための介入に関する知識や信 念のことを指す。軽い運動や規則正しい生活など が含まれる。 専門家の支援に関する知識と信念 (Knowledge of Proffesional Help)

専門家の支援の内容や有効性に関する知識や信念 のこと。精神科や精神科医,カウンセラーに対す る態度や,薬物療法に関する態度がある。 支援に関する認識と態度

(Attitudes about Help)

支援とそれについての態度のことを指す。適切な 援助を求めるための態度のことであり,これには 精神疾患に対する偏見やスティグマが影響する。 情報の入手法に関する知識

(Knowledge of Seeking Informa-tion)

メンタルヘルスに関する情報の入手の仕方のこ と。複数の情報源とその特徴を理解し,情報を照 らし合わせることが重要となる。

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MHL教育を学級場面で実施することで,集団に対して MHL を高めることが できる(成田・大澤・丸山・青森,2018),MHL 教育の参加者が教員やス クールカウンセラーといった援助資源に援助要請行動ができる(小塩・種市・ 佐々木,2015),心身の健康を保つための生活習慣を獲得できる可能性がある (小塩・東郷・佐々木,2013)等といった利点がある。 近年,国内において,教育領域における MHL 向上の取り組みが注目され ている。その一例として,高等学校の新指導要領において精神疾患に関する授 業が必修に含まれたことが挙げられる。これにより 2022 年度から保健体育の 授業の中で「精神疾患の予防と回復」として,精神疾患の特徴や対処を扱うこ ととなる(文部科学省,2018)。また,MHL 教育は公認心理師の業務の一環 としても捉えられる。公認心理師の業務の 1 つとして「心の健康に関する知 識の普及を図るための教育及び情報の提供」が公認心理師法に定められてい る。この業務は「心の健康教育」とも呼ばれ,MHL 教育を含むものと考えら れる。 国内における教育領域での MHL 教育の研究データは,海外に比べると乏 しい(小塩他,2013)。青年期と若年層を対象とした MHL 向上のための介入 に関する系統的レビュー(Tay, Tay, & Klainin-Yobas, 2018)によると,複 数の研究が精神疾患に関する情報を提供することで MHL が改善し,スティ グマが低減したと報告していた。特にオーストラリア,イギリス,カナダ,ア メリカでは家庭や地域住民,精神保健サービス資源といった学校に関わる地域 への働きかけから,生徒への個別対応まで幅広い支援を網羅するシステムの中 で,学校での MHL 教育が実施されている(小塩他,2013)。児童生徒に関す る MHL の向上を目的とした教員対象の MHL 教育も実施されている。それ らのメタ分析を行った Yamaguchi, Foo, Nishida, Ogawa, Togo, & Sasaki (2019)によると,MHL 教育は精神疾患に関する知識を増やし,スティグマ を低減させる効果を持つ。一方,国内において中学生と高校生を対象とした MHL教育の実践研究は 2011 年以降増えつつある(成田他,2018)ものの, その効果を概観した展望論文はこれまでに報告されていない。 149 国内の教育領域におけるメンタルヘルスリテラシー教育の系統的レビュー

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Ⅱ.目

本研究では,国内の教育領域における MHL 教育の有効性と動向を概観す ることを目的とした。教育領域での MHL 教育が注目される現在において, 国内での MHL 教育の効果と動向を整理することで,教育領域での MHL 教 育をより改善するための示唆が得られることが期待される。このような視点か ら,本研究では展望の対象とされた MHL 教育の効果およびそれらの対象者, 研究デザイン,実施形態,実施者,プログラム内容,効果判定尺度などに特に 着目した検討を行った。

Ⅲ.方

文献検索方法 国内で実践された MHL 教育についての研究に関して,CiNii と医学中央雑 誌 Web 版を利用して文献検索を実施した。検索ワードは「(心の健康 or ここ ろの健康 or メンタルヘルス or 精神的健康 or メンタルヘルスリテラシー) and(教育 or 実践 or プログラム or 介入)」とし,児玉・志渡・池田(2018) に倣い Jorm et al.(1997)が MHL の定義を示した 1997 年以降の論文に限 定した。 文献検索時期 文献検索は 2019 年 2 月に実施した。 取り込み基準及び除外基準 検索の結果,CiNii で 1136 件,医学中央雑誌で 2150 件がヒットした。こ れらの論文の中から,小塩他(2013)を参考に,本研究の目的に従い(1)予 防教育として MHL の向上を目的としたプログラムを実施したもの,(2)教 150 国内の教育領域におけるメンタルヘルスリテラシー教育の系統的レビュー

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育領域でプログラムを実施したもの,(3)プログラムの内容を記載している もの,(4)プログラム効果として MHL の 6 構成要素のいずれかを量的に測 定しているもの,の 4 つの基準を設定し,すべての基準を満たす論文を選択 した。除外基準は設けなかった。選択の結果,該当する論文は 9 件であった。 スクリーニングでの該当件数のフローチャートを Figure 1 に示した。 選択された論文について,小塩他(2013)を参考に整理を行った。具体的 には,著者・発表年,対象者の年齢・属性・人数(対照群の有無),研究デザ イン,実施形態(プログラム形態・セッション数・時間),実施者,プログラ ムで扱う内容と効果,効果判定尺度・判定時期について整理した。 Figure 1 論文選択のフローチャート 151 国内の教育領域におけるメンタルヘルスリテラシー教育の系統的レビュー

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Ⅳ.結

年度ごとの論文発表件数を Figure 2 にまとめた。2007 年 1 件,2011 年 1 件,2013 年 1 件,2014 年 2 件,2015 年 1 件,2016 年 2 件,2017 年 1 件 で あった。2007 年に 1 件発表されてから 2011 年までは論文が発表されていな かった。2011 年以降は毎年 1 件から 2 件が発表されていた。 対象者の属性,実施者,実施形態,研究デザイン,プログラム内容と効果, 効果判定尺度と判定時期について Table 2 に示した。なお,MHL を量的に測 定しているが統計的検討をしていない研究が 2 件(足立,2013;早貸 他, 2016)認められた。これらの研究については,論文中で報告されているデー タに基づいて Fisher の直接確率検定を新たに行い,有意性を検討した。Ta-ble 2にはこれらの検定の結果も追加している。 MHL プログラムの効果 疾患を認識する能力を測定している研究は 5 件あった。その内 3 件では有 意な改善効果を示し,2 件は改善効果がなかった。ただし,改善効果が見られ た 3 件の研究ではすべてのプログラムにおいて疾患を認識する能力に直接的 Figure 2 文献の年次推移 152 国内の教育領域におけるメンタルヘルスリテラシー教育の系統的レビュー

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Table 2 抽出された研究の概要 著者 (発表年) 対象者の年齢 対象者の属性 対象人数 (実施群) (対照群) 実施者 実施形態 セッション 数・時間 研究 デザイン プログラムに含まれている内容 a/効果の有無 b 効果判定尺度 測定時期 認識 能力 c 背景 因子 d セルフ ケア e 専門的 支援 f 支援への 態度 g 情報 入手法 h その他 足立 ( 2013 ) 中学校高校 PTA n= 172 実施群 172 名 記載なし 講義 35 分× 1 回 CBA + / ++ /N A − /N A − /N A + / + −/N A − ビネット 独自質問項目 プログラム前後 早貸他 2016 ) 中学 2 年生 男子 n= 123 実施群 123 名 養護教諭 SC 講義 (映像視聴・ パワーポイント) ワーク( BS ) 50 分× 2 回 CBA + / ++ / + −/N A −/N A −/N A + /N A 援助要請 + / + ビネット 独自質問項目 プログラム前後 肥田他 2015 ) 中学 1 年生 n= 99 実施群 99 名 SC 大学院生 講義 ワーク ( BS ・ RT ) 120 分× 1 回 CBA − / − + /N A + / − −/− + / + −/N A 援助要請 + / − 被援助志向性尺度 ( 本 田 ・ 新 井 ・ 石 隈 , 2011 ) ビネット 独自質問項目 プログラム前, 1 か月後 小塩他 2016 ) 学校教員 SC 医療関係者 一般聴講者 n = 286 実施群 286 名 精神科医 教員 保健師 視聴覚教材 講義 模擬授業 約 130 分× 1 回 CBA + /N A + / ++ /N A − /N A − /N A − /N A − 独自質問紙 プログラム前後 大久保他 ( 2011 ) 中学 2 年生 n= 150 実施群 150 名 SC 大学院生 講義 (パワーポイント) ワーク( RT ) 60 分× 1 回 CBA − / NA + / −+ / +− / +− / + −/N A − 児童用抑うつ自己評価尺度(村田・清水・ 森・大島, 1996 ) ビネット 独自質問項目 プログラム前後, 3 か月後 佐藤他 2014 ) 高校 2 年生 男子 n= 41 実施群 21 名 対照群 20 名 記載なし 講義 ワーク( BS ) 50 分× 2 回 NRCT − / − + / −+ / ++ / + −/N A −/N A 援助要請 + / + WHO-Five W ell-Being Index ( Awata e t al., 2007 ) 援助要請態度尺度(大畠・久田, 2009 ) 相談行動の利 益 ・ コスト尺度改訂版 ( 永 井・新井, 2008 ) ビネット 独自質問紙 プログラム前後, 3 か月後 153 国内の教育領域におけるメンタルヘルスリテラシー教育の系統的レビュー

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著者 (発表年) 対象者の年齢 対象者の属性 対象人数 (実施群) (対照群) 実施者 実施形態 セッション 数・時間 研究 デザイン プログラムに含まれている内容 a/効果の有無 b 効果判定尺度 測定時期 認識 能力 c 背景 因子 d セルフ ケア e 専門的 支援 f 支援への 態度 g 情報 入手法 h その他 鈴江 ( 2017 ) 大学 1 年生 n= 452 実施群 452 名 大学教員 講義 ワーク( RT ) 質疑応答 90分× 1 回 CBA − / NA + / + −/N A + /N A − /N A − /N A − 自殺に関する認識テスト(高橋, 1999 ) プログラム前後 篁他 ( 2014 ) 高校 1 年生 n= 763 実施群 763 名 精神科 看護師 講義 50 分× 1 回 CBA + / +− / ++ /N A − /N A − /N A − /N A 援助要請 + / + 独自質問紙 ASPH 尺度(篁, 2010 ) プログラム前後 山口・ 三野 2007 ) 高校 2 ・ 3 年生 n= 180 実施群 99 名 対照群 81 名 大学院生 講義 当事者の語り 50 分× 2 回 NRCT + /N A + / + −/N A + /N A − / + −/N A 援助要請 + / − 先行研究 ( Crocetti, S piro, & Siassi, 1974 ;黒田, 2001 ; M ino e t a l., 2000 ; Mino et al., 2001 ;宗像, 1984 ;岡上・ 石原 , 1986 ;大 島・川 村・竹 島, 1999 ; Pinfold et al., 2003 )で使用された質問項 目からそれぞれ一部抜粋し構成された質問 紙 プログラム前後, 2−3 か月後 a )+はプログラムに含まれること,−はプログラムに含まれないことを示す。 b )+は有意な改善効果があったこと,−は有意な改善効果がなかったこと, NA は測定されていないことを示す。 c )メンタルヘルスリテラシーの 6 構成要素の疾患を認識する能力のこと d )背景因子や疾患の原因に関する知識と信念のこと e )自身で解決できる介入に関する知識と信念のこと f )専門家の支援に関する知識と信念のこと g )支援に関する認識と態度のこと h )情報の入手法に関する知識のこと i ) BS :ブレインストーミング, CBA :前後比較研究, NRCT :非ランダム化比較研究, RT :リラクセーション法, SC :スクールカウンセラー 154 国内の教育領域におけるメンタルヘルスリテラシー教育の系統的レビュー

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に焦点を当てた介入要素が含まれていたのに対し,改善効果がなかった 2 件 ではいずれもプログラムにこの要素が含まれていなかった。 背景因子や疾患の原因に関する知識と信念は 7 件のプログラムで測定され, 5件の研究で改善効果が見られた。ただし,その内 1 件では背景因子や疾患の 原因に関する知識と信念に関する介入要素がプログラムに含まれていなかっ た。なお,改善効果があった研究の中でも項目別に見ると結果が異なり,正答 率が上昇しない項目や(小塩他,2016;山口・三野,2007),改善しても正答 率が 50% 前後にとどまる項目(鈴江,2017)もあった。 自身で解決できる介入に関する知識と信念を測定した研究は 3 件であった。 2件で改善効果が確認された。 専門家の支援に関する知識と信念については,3 件のみが効果検討をしてお り,改善効果が示された研究は 2 件であった。改善効果を示した 1 件は本要 素をプログラムには含んでいなかった。 支援に関する知識と態度は,4 件のプログラムで測定されていた。いずれも 有意な改善効果を示した。その内 2 件の研究では,プログラムでは扱わず効 果判定のみをしていた。 情報の入手法に関する知識を測定した研究はなかった。 その他として,5 件の研究が援助要請の効果判定をしていた。5 件中 3 件で は改善効果があり,2 件では改善効果は見られなかった。 対象者のメンタルヘルスを測定した研究は 2 件のみであった。メンタルヘ ルスとして 1 件は抑うつ,1 件はウェルビーイングを測定していた。抑うつと ウェルビーイングのいずれもプログラム後調査では効果が見られず,フォロー アップ調査においてプログラム前より改善していた。 対象者の属性と実施者および実施形態 対象者の属性は中学生から教員や医療関係者までさまざまであった。具体的 に は,中 学 生 3 件,高 校 生 3 件,大 学 生 1 件,そ の 他(学 校 教 員,PTA (Parent-Teacher Association),医療関係者)2 件であり,中学生と高校生を 155 国内の教育領域におけるメンタルヘルスリテラシー教育の系統的レビュー

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対象とした研究が多かった。 実施者についても,属性は幅広かった。スクールカウンセラーが 3 件,大 学院生が 3 件,養護教諭等学校教員が 2 件,精神科医が 1 件,精神科看護師 が 1 件,大学教員が 1 件,保健師が 1 件であった。 実施形態は,9 件すべてが講義形式を採用していた。その内,講義だけを実 施しているのは 2 件のみであり,他の形態を同時に採用しているものが多か った。視聴覚教材が 2 件,ワークが 6 件,当事者の語りが 1 件で実施されて いた。ワークはブレインストーミングが 3 件とリラクセーション法が 3 件で あった。ブレインストーミングの内容は体調不良の原因(早貸他,2016),他 者への援助行動(早貸他,2016),ストレス対処法(肥田他,2015;佐藤他, 2014)であった。実施時間は最短が 35 分 1 セッションの計 35 分,最長が 130分 1 セッションの計 130 分であった。 研究デザイン 9件中 7 件が対照群を設定しない前後比較研究であり,2 件が非ランダム化 比較研究であった。ランダム化比較研究に該当する研究はなかった。 プログラムに含まれる内容 MHLの 6 構成要素の内,最も多くのプログラムに含まれたものは背景因子 や疾患の原因に関する知識と信念であり,9 件中 8 件で扱われていた。次いで 多かったのは疾患を認識する能力と自身で解決できる介入に関する知識と信念 であり,5 件のプログラムがこれらをそれぞれ含んでいた。一方で最も少ない ものは情報の入手法に関する知識であり,1 件のみがプログラムに含んでい た。 各プログラムはそれぞれ,MHL の 6 構成要素の 2 つもしくは 3 つを含んで いた。また,すべてのプログラムが,背景因子や疾患の原因に関する知識と信 念,疾患を認識する能力,自身で解決できる介入に関する知識と信念のいずれ か 1 つを扱っていた。8 件はこれら 3 つの要素から 2 つの要素を含めた。 156 国内の教育領域におけるメンタルヘルスリテラシー教育の系統的レビュー

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その他として,5 件のプログラムで援助要請について扱っていた。MHL の 6構成要素と援助要請以外でプログラムに含められたものはなかった。 効果判定尺度および測定時期 9件中 7 件が独自に質問項目を作成して使用していた。次に多いのはビネッ トであり,5 件の研究が使用していた。対象者にビネットの診断名の回答を求 め,正答であれば疾患を認識する能力があると見なした研究がほとんどであっ た。援助要請は既存の尺度が使用されることが多かったが,使用尺度は一貫し ていなかった。具体的には被援助志向性尺度(本田・新井・石隈,2011)が 1件,援助要請態度尺度(大畠・久田,2009)が 1 件,相談行動の利益・コ スト尺度改訂版(永井・新井,2008)が 1 件であった。 測定時期に関して,9 件中 5 件はプログラムの前後での測定であった。フォ ローアップ調査を実施したのは 4 件であった。フォローアップ調査の期間は 1 か月から 3 か月の範囲であった。1 か月が 1 件,2-3 か月が 1 件,3 か月が 2 件であった。

Ⅴ.考

本研究は国内の教育領域において実施された MHL 教育の有効性と問題点 を整理するため,効果検証の結果とそれらの研究の対象者,実施者,実施形 態,研究デザイン,プログラム内容,効果判定尺度と測定時期について検討し た。結果,ほとんどの要素が半数以上の研究で改善効果があることが示され た。しかし維持効果は示されず,現状のプログラムには改善の余地がある。ま た,背景因子や疾患の原因に関する知識と信念はほとんどの研究に含まれ効果 判定もされている一方で情報の入手法はプログラムでも効果判定でもほとんど 扱われないなど,MHL の 6 構成要素の一部のみに注目した研究が多かった。 ほとんどの構成要素について半数以上の研究で改善効果が示されたものの,現 状の MHL 教育で十分な効果があるとは言い難い。疾患を認識する能力はビ 157 国内の教育領域におけるメンタルヘルスリテラシー教育の系統的レビュー

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ネットの診断名を回答させる方法で測定することが多い。本研究では正答率が 高まることで改善効果があると見なしたため,プログラム後調査では練習効果 があった可能性は考慮するべきである。背景因子や疾患の原因に関する知識と 信念は,改善効果があった 5 件中 2 件では,改善しなかった項目もあった。 小塩他(2016)は,視聴覚教材が知識の増加に有効である可能性を示唆して いる。改善効果のなかった 2 件の研究は講義によって知識の定着を図ってお り(大久保他,2011;佐藤他,2014),知識の改善には講義形式だけでは不十 分な可能性がある。自身で解決できる介入に関する知識と信念および専門家の 支援に関する知識と信念は 3 件中 2 件で改善し,支援に関する知識と信念は 4 件すべてで改善効果があった。これらは効果を測定した研究数が少なく,いず れも各研究独自の質問項目を使用している。そのため,各プログラムがこれら の改善に有効であると結論付けるのは難しいだろう。また,情報の入手法に関 する知識と信念はいずれの研究でも測定されておらず,今後はこれに関する効 果も検討することが望まれる。 対象者は中学生や高校生といった思春期を対象とする研究が半数以上を占め た。思春期を対象とした研究では,その理由として思春期は精神疾患の好発期 であることや(肥田他,2015;大久保他,2011;佐藤他,2014;山 口・三 野,2007),生徒のメンタルヘルスの問題は学業不振や引きこもりにつながる 可能性があること(早貸他,2016),さらには思春期の生徒は自身でメンタル ヘルスの不調に気づくことが難しく,対応の遅れから発症や悪化につながる可 能性があること(早貸他,2016)等を挙げている。一方で,教職員,PTA を 対象とした研究もあった。教職員や医療関係者等を対象とした小塩他(2016) は世界保健機関(World Health Organization : WHO)が子どもだけでなく すべての教員に対しても MHL を提供する体制づくりを推奨していることか ら,教員向けの研修会として実施した。PTA を対象とした足立(2013)は, 児童生徒自身の周囲の大人が高い MHL を有することの必要性を指摘してい る。児童生徒の受療行動に親の援助が必要であること,児童生徒は多くの時間 を学校で教職員とともに過ごすことから,PTA を対象としている。また,養 158 国内の教育領域におけるメンタルヘルスリテラシー教育の系統的レビュー

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育者と教員が精神疾患に関する同じ知識や認識を有することで治療にスムーズ につながるというメリットも指摘している。上松・松下・片山・田辺(2017) によると,保護者を対象とした実践はほとんどなく,これは MHL 教育の課 題の 1 つであるとしている。また,児童を対象とした研究は該当しなかった。 児童期から心理的ストレスが増加していることから(岡安・高山,1997),児 童のストレスマネジメントの必要性が指摘されている(細田・三浦,2013)。 今後は児童や教員,養育者を対象とした実践を積み重ねることも重要である。 実施者のほとんどが心理学や精神疾患の専門家であった。また,全体の約半 数が学校外部の実施者であり,約半数がスクールカウンセラーといった学内関 係者が実施していた。学内の教職員は日常的に児童生徒と接していることか ら,学内の教職員が児童生徒を対象に MHL 教育を実施することで,児童生 徒から教職員への相談行動が促進する可能性が指摘されている(小塩他, 2015)。一方で教職員は MHL が低く(Walter, Gouze, & Lim, 2006 ; Her-bert, Crittenden, & Dalrymple, 2004),児童の重度ではないメンタルヘルス の問題には気づきにくいという報告もある(Splett, Garzona, Gibson, Wo-jtalewicz, Raborn, & Reinke, 2019)。また,教職員は学内での MHL 教育の 必要性を感じながらも実施の仕方が分からない状況にあることから(小塩他, 2016),教職員の MHL を高めたうえで,教職員が児童生徒を対象に MHL に 関する授業を実施するという,学内で MHL 教育を実施できるような体系を 構築する必要があるだろう。 実施形態は,講義形式と他の形態を併せて実施するものが多かった。他の形 態にはワークとリラクセーション法が多かった。一方で,当事者の語りを聞く ものは 1 件のみ(山口・三野,2007)であった。当事者との交流はスティグ マの低減に有効であることから(Corrigan, Morris, Michaels, Rafacz, & Rüsch, 2012),MHL 教育にも含めることが望ましいだろう。しかし,当事者 との交流を MHL 教育に含めるには,当事者と学校関係者の双方に承諾を得 ること,当事者と学校との日程調整等,複数の課題が生じることから難しいこ とが予想される。山口・三野(2007)も,当事者との対面交流の方が望まし 159 国内の教育領域におけるメンタルヘルスリテラシー教育の系統的レビュー

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いにも関わらず(Corrigan et al., 2012),当事者の語りをビデオに録画して 生徒に視聴させるという方法を取っている。今後はプログラム作成時に有効性 と実施可能性の両方を考慮する必要がある。

研究デザインはほとんどが対照群を設定しない前後比較研究であり,ランダ ム化比較研究(Randomized Controlled Trial ; RCT)は 1 件も該当しなかっ た。海外においても教職員を対象とした MHL 教育の RCT は 16 件中 1 件し かなく(Yamaguchi et al., 2019),RCT はあまり実施されていないのが現状 である。エビデンスレベルを高めるためには対照群や RCT の実施が必要であ る。しかし教育領域において教育は全員に等しく与えられるべきものであると いう考えが根付いているために RCT の実現は難しく(Cook, 2002),全員が プログラムを受講する機会を得る研究デザインが望ましいと指摘されている (Yamaguchi et al., 2019)。すなわち教育領域に適した RCT の実施法が必要 である。例えば個人をランダムに群分けする RCT ではなく,クロスオーバー 研究や Waiting List 群を設定した研究デザイン(Rudd & Johnson, 2008 ; Slavin & Cheung, 2017),学級や学校単位でランダムに群分けするクラス ター RCT では実現可能性が高まるかもしれない。 プログラム内容を Jorm(2000)の 6 構成要素に分類した結果,背景因子や 疾患の原因に関する知識と信念はほとんどのプログラムに含まれていた。 MHL教育の目標として,精神疾患に関する正しい知識をつけることを挙げる ものが多く,そのためにこの要素がプログラムに多く含まれていたと考えられ る。自身で解決できる介入に関する知識と信念は,専門家の支援に関する知識 と信念より多くのプログラムに含まれていた。いずれの研究も対象者は精神疾 患を発症していない集団であり,専門家による支援よりもセルフヘルプの方が 対象者にとって身近であったためであると考えられる。 すべての研究に,プログラムには含むが測定しない要素,もしくはプログラ ムには含まないが測定のみしている要素があった。加えてプログラムに含まな いが測定したものの内,改善効果が示されたものもあった。例えば大久保他 (2011)と山口・三野(2007)は支援に関する認識と態度としてスティグマを 160 国内の教育領域におけるメンタルヘルスリテラシー教育の系統的レビュー

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測定しており,プログラムでは扱わないが改善効果を示している。これらか ら,MHL の 6 構成要素が明確に分類できるのではなく,互いに影響を及ぼし ている可能性が考えられる。小塩他(2013)はこれまでの MHL 教育プログ ラムの内容は知識,偏見,援助要請の 3 つに分類できることを示唆しており, MHLの構成要素を再考する余地があるかもしれない。 本研究において展望された対象論文の内,約半数が援助要請についてプログ ラムで扱っていた。MHL の高さは援助要請を促進することが示唆されている (Ratnayake, & Hyde, 2019)。例えば Kutcher, Wei, & Morgan(2016)は,

MHLを高める介入の結果,MHL 向上とともに援助要請の指標も改善したこ とを示している。援助要請を促進するためには援助を求める本人と援助を受け 入れる周囲とがそれぞれ高い MHL を持っていることが有効である可能性も 主張されている(本田,2012;後藤,2017)。本研究の対象論文も,これらの 理由から援助要請を指標としたものが多かった。しかし対象論文の内,援助要 請の改善効果があったものは半数にとどまっていた。MHL が高くても援助要 請意図や援助要請態度が高くないことを示す先行研究(Rickwood, Cavanagh, Curtis, & Sakrouge, 2004)もあり,MHL と援助要請の関連についての知見 は一致していない。今後の MHL 教育の指標として援助要請を含めることが 妥当かどうか,研究と議論を重ねる必要がある。

効果判定尺度として,ほとんどの研究が独自に作成した質問項目を使用して いた。これらは妥当性が検討されていないものが多く,各研究の結果の解釈に は注意が必要である。O’Connor, Casey, & Clough(2014)は MHL の量的 な測定の問題点を以下のように指摘している。まず 6 構成要素を網羅する測 定尺度はなく,多くて 4 つ,大半の尺度は 1 つの要素しか含んでいない。さ らにそれらの尺度は信頼性と妥当性の検討が不十分であり,頑健な尺度はほと んどない。Yamaguchi et al.(2019)も本研究と同様に,教職員対象の MHL 教育における効果判定尺度の頑健性が低いことを指摘している。このような尺 度に関する課題は本邦に限ったものではないが,MHL 教育のエビデンス確立 のために喫緊に解決すべき課題である。 161 国内の教育領域におけるメンタルヘルスリテラシー教育の系統的レビュー

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対象者のメンタルヘルスはほとんど測定されていなかった。これは国内に限 った特徴ではない。MHL 教育に関してレビューをした小塩他(2013)や Tay et al.(2018)は,対象者のメンタルヘルスについては報告していない。 本研究の結果から,対象者のメンタルヘルスはプログラム直後ではなくフォ ローアップ調査で改善することが示された。しかしいずれの研究も対照群を設 定していなかったため,MHL 教育の効果か他の要因による効果かは明らかで ない。MHL が低いことで受療行動が遅れ,そのことでメンタルヘルスが低下 する危険性は考えられる。一方で MHL とメンタルヘルスの関係はほとんど 検討されておらず,両者には関連がないことを示す先行研究(Ratnayake, & Hyde, 2019)もある。MHL 教育の効果指標としてメンタルヘルスを測定す る意義については議論の余地がある。 フォローアップ調査はほとんど行われておらず,プログラムの維持効果まで は検討できていなかった。加えて研究によって維持効果は一貫しておらず,さ らなる検討が必要である。海外においてもフォローアップ調査をした研究は半 数以下であり(Yamaguchi et al., 2019),MHL 教育の効果を検討するうえ で,今後はフォローアップ調査も実施することが望まれる。 国内の教育領域における MHL 教育の限界点として,標準化されたプログ ラムがないことが挙げられる。MHL 教育のプログラム内容や対象者,効果判 定尺度が研究によって異なるため,これらを比較することは困難である。 Kelly(2007)は学校での MHL 教育は標準化されていないことを指摘してい るが,10 年以上経った現在でも未だ標準化には至っていない。今後は MHL 教育の標準化を意識した研究計画が必要である。 MHL教育を公認心理師の業務としての心の健康教育として捉えた場合,公 認心理師に求められることは以下の 2 点が考えられる。まず,学内関係者と しての児童生徒を対象とした MHL 教育の実施である。スクールカウンセ ラー等として教育領域に勤務する公認心理師は,学校内部の心理学の専門家で ある。児童生徒にとっては実際の相談相手であり,プログラム内容の専門性も 担保されるため,公認心理師は MHL 教育の実施者として適任であると言え 162 国内の教育領域におけるメンタルヘルスリテラシー教育の系統的レビュー

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る。次に,教職員に対する MHL 教育の実施である。心の健康教育の対象者 は教職員も含まれる。また 2020 年度に始まる高等学校での精神疾患に関する 授業に向けて,保健体育担当教員は MHL を高める必要がある。高等学校教 員に限らず教職員対象の MHL 教育を実施することで,受講した教職員は児 童生徒に対する MHL 教育の実施が可能となり,MHL 教育の普及が進むだろ う。 本研究の限界は 3 点挙げられる。第一に,スクリーニングやプログラム内 容の分類を著者 1 名で実施したことである。バイアスを排除するため,これ らは 2 名以上で行うことが望ましい。第二に,検索ワードとデータベースの 限界である。本研究で設定した検索ワードでは該当しない文献や,使用した データベースには載っていない文献があった可能性がある。第三に,本研究で は量的検討を実施していない点がある。本研究は RCT といった頑健な研究デ ザインに基づいた展望ではなく,メタ分析などの量的検討をしていない。その ため,本研究の結果は暫定的な結論に留まる。今後,RCT での MHL 教育研 究が増加することでメタ分析が可能となり,有効な MHL 教育の確立につな がるだろう。 謝辞 本研究の執筆にあたりご指導いただいた佐藤寛教授に感謝申し上げます。 引用文献 足立孝子(2013).PTA のメンタルヘルスリテラシー−現状調査と向上のための取組 み− 精神保健福祉,44, 330-337.

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参照

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