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資産・負債観と収益・費用観に関する一考察(清水哲雄教授退官記念論文集)

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資産・負債観と収益・費用観に関する一考逆

井  上  良  二

1 はじめに  米国の財務会計基準審議会(Financial Accounting Standards Board一以下 FASBと略記する)は,1976年の討議資料において損益計算書と貸借対照表 の「連携」を前提とすれば,利益の概念およびそれに伴う計算に関連して資産 ・負債観と収益・費用観とがあることを明らかにした。しかし,その記述内容 からは,その差異について必ずしも明確な認識を得られないと解されるのであ る。二つの考え方の本質的な差異はどこにあるのであろうか。これが本稿の問 題意識である。そこで,第2節においてこの二つの考え方をFASBによって 明らかにする。次いで,この相違点を明らかにするために,第3節において近 代会計学をその基礎としてもつ現行の制度会計が基本的に収益・費用観を採用 しているという点に着眼し,その計算構造上の特徴点を析出する。さらに,第 4節においてFASBの概念ステイトメントによって,そこで想定されている 計算構造を析出し,両者の比較によって資産・負債観と収益・費用観の相違点 に関する結論を導き出すことが本稿の目的である。

II FASBによる資産・負債観と収益・費用観

 「連携された財務諸表(articulated financial statements)」を前提としての 資産・負債観の考え方は,「利益をある期間における企業の経済的資源の正味の 増加の測定値とみるものである。こうして,この考え方の論者は,基本的には, 利益を資産および負債の増加および減少によって定義する。利益の積極的要素  収益一は,期間中の資産の増加および負債の減少によって定義される。利益

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の消極的要素一費用一は,期間中の資産の減少および負債の増加によって定義   ユラ される」とする。この考え方の下では,収益および費用は資産および負債によ って定義されていることになる。収益および費用は資産および負債の増減とさ れているからである。そうであれば,収益および費用が定義される前に,資産 および負債の定義が行われている必要があることになる。  こうして,資産および負債がこの利益に関する資産・負債観におけるキー概 念とされる。「財務諸表における他のすべての要素一株主持分あるいは資本,利 益,収益,費用,利得および損失一は資産および負債の差額としてあるいは資        2) 産および負債の属性の測定値の変化として測定される」のである。  これに対して,利益概念およびその測定に関して収益・費用観を主張する論 者は,「利益を,産出物を獲得し,利益を得てそれを販売するために投入物を利 用するにあたっての企業の効率性の尺度であるとする。この考え方の主張者は, 基本的には利益を当該期間の収益と費用の差額によって定義する。…(中略) …収益および費用一企業の利益獲得活動からの産出物および企業の利益獲得活 動への投入物の財務的表現一がこの考え方のキー概念である。収益および費用 は関連する現金収支が行われる期間よりもむしろ投入と産出の行われる期間に 認識される。もし,収益および費用を認識する時期の選択が結果として期間収 益からその収益を獲得する原価(費用)を差引くことを,行わせることになる ならば,利益は収益・費用観の下で適切に測定される。この考え方の主張者に よれば,収益および費用を測定し,努力(費用)とその期間における成果(収 益)とを関連せしめるためにその認識時期を選択することが財務会計における       3> 基本的な測定過程である」とする。  こうして,収益・費用観は,利益を収益と費用との差額の概念とし,その測 1) Financial Accounting Standards Board, A n Analysis of lssues related to Concoptual Fvameworfe for Accounting and Roporting : Element of Financial Statements and Their Measzarement, Discussion Mernorandum(Stamford, Conn : FASB, December 2, 1976), par. 34. 2) lbid., par. 34. 3) lbid., pars.38−39.

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      資産・負債観と収益・費用観に関する一考察  113 定において対応の概念に基礎をおいているとされていることになる。収益は実 現基準により認識され,費用はこの収益の認識に二酉己されて対応の概念によっ        4) て支配されることになるというのである。  このことから,収益・費用観においては,「収益・費用が支配的な概念である から,資産・負債の測定は一般的には利益測定過程における必要によって決定 される。かくして,収益・費用観を反映する貸借対照表は資産および負債なら びにその他の要素として企業の経済的資源あるいは他の経営体への資源の引渡        5) 義務を示さない項目を含む」ことになるのである。  両者の差異を実質的なものと非実質的なものとに分けるとすれば,第一の実 質的な差異は,測定の問題である。資産・負債観は,資産および負債の定義, 特性,測定に左右され,利益を基本的には資産および負債のある種の変化の正 味の結果とみる。収益・費用観は,収益および費用の定義,特性,測定に左右 され,基本的には資産および負債の変化を収益・費用の結果とみる。また,収 益・費用観の主張者は,利益測定の目的を企業あるいは経営者の業績を測定す ることであるとして,経営者の行為に関心をもち,経済的資源のような物的対 象物に関しては付随的に関心をもつにすぎない。これに対して,資産・負債観 の主張者は,企業行動の目的は富を増加させることであり,企業が保有する物 的対象物の変化は,通常,企業が当該期間に何を行ってきたかの最善の証拠で あり,唯一の妥当な証拠であると主張するとされることになる。  収益・費用観の主張者は,「収益は,一般的には,受取った資産および返済 された負債の価値によって測定され,費用は一般的に用いられた資産の原価あ るいは発生した負債の額によって測定されるかち,利益は結果として企業の富 の増加の尺度となる。しかし,収益・費用観の支持者は,利益が基本的には企 業の業績あるいは収益力の尺度であって富の増加の尺度であるのは付随的であ るにすぎないし,利益は企業の資源あるいは義務の価値のすべての変化を反映 4) lbid., par. 39. 5) lbid., par. 42.

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       6) するように予定されていないことを強調する」のである。  こうして,FASBは,ある期間の収益とそれに関連する費用とを対応し, 企業の業績あるいは収益力を測定することを収益・費用観の支持者の特徴とみ ていることになる。この対応の概念の強調が資産・負債観ではその計上を否定 する権利・義務を伴わない見越・繰延項目を計算構造に導入させる結果となる。  第二の実質的差異は,利益の概念とその結果としての利益の測定である。資 産・負債観によれば,利益は純資産の変化であり,したがって,経済的資源と 将来において他の経営体に経済的資源を引渡す義務という属性の測定値の変化 額である。収益・費用観によれば,利益は収益と費用との問の差異であり,経 済的資源および経済的資源を引渡す義務の変化を示さなくとも,費用を収益に 対応させるために必要であり,適切であれば,それらは費用・収益に含まれる ことになる。収益・費用観は,利益を経済的資源あるいは経済的資源を引渡す 義務の変化に限定するならば,費用と収益の誤った対応をもたらし,期間利益 の測定を歪めるものであるとする。これに対して,資産・負債観は,利益は経 済的資源および経済的資源の引渡義務の変化によって厳格に定義されるのであ るから,利益を決定するためにそれらに関わらない費用および収益を認めるこ とは利益測定を個人的な判断に依存せしめ,結果として利益測定を歪める危険          7) があることを指摘する。これが利益概念に対する両者の考え方の相違である。 他方,両者の考え方に関わる非実質的差異は,(1)収益・費用観によれば損益計 算書が貸借対照表よりも有用であるが,資産・負債観によれば,貸借対照表は 損益計算書よりもより有用であるとする,(2)収益・費用観によれば費消された 歴史的原価を収益に対応させて利益を決定するのに対して,資産・負債観によ れば,資産・負債は現在原価あるいは現在価値によって評価されるという。し かし,この討議資料によれば,このような議論は,実は,支持者によるよりも, むしろ反対者によって利用されており,過度に単純化された区別はそれらのも 6) lbid., par.49. 7) See, ibid., par.56.

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      資産・負債観と収益・費用観に関する一考察  115       8) つ差異をかえって不明瞭にすると指摘するのである。というのは,「利益測定が 財務会計および財務諸表の焦点であるということに両グループとも同意するで あろう。さらに,もし損益計算書と貸借対照表が連携しているとすれば,当該 期間の利益を測定することと資産・負債の増加あるいは減少を測定することと は同一の測定の異局面である。すなわち,収益の認識は結果として純資産の増 加をもたらし,費用の認識は結果として純資産の減少をもたらす。同様に,も し純資産の増減が資本拠出,資本の引出し,『保有利得』のような取引あるいは 事象から生じないかぎり,純資産増加の認識は収益を認識させ,純資産の減少 の認識は費用を認識させる。こうして,収益の実現基準および費用の対応基準 は資産・負債観の下での資産および負債の変化を認識する手段であり得るし, 資産および負債のある種の変化を認識することは収益・費用観の下で収益を実 現させ,費用を対応させる手段となり得る。資産・負債観と収益・費用観とは 連携された財務諸表において明らかに重なり合っており,しばしば資産,負債, 収益,費用のもつ同一の属性を測定し,同一事象を収益および純資産の増加と して認識し,同一事象を費用および純資産の減少として認識するであろう。換 言すれば,同一の利益が企業の業績あるいは経営効率の尺度であり,また,同       9) 時に企業の富の増加の尺度であり得る」とするのである。しかし,これは非実 質的差異への批判とのみいえず,実質的差異に対する批判,少なくとも実質的 差異をはなはだ不明瞭にするものといわなければならない。  また,「それぞれの考え方が特定の測定基準と自動的に結合することはない。 確かにほぼ40年の間収益・費用観を強調する権威ある意見書が展開されてきて いるが,その実務は資産・負債観と共存可能であり,しばしば資産・負債観に よって記述され定義されている。現在取替原価は販売収益と対応することがで きる。このことは収益・費用観が費消された原価を収益に対応させることに限       10) 定されないことを示している」のである。このように考えるならば,はたして, 8) See, ibid., par. 44. 9) lbid., par.45L46. 10) lbid., par.47.

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両者の考え方の真の相違点はどこにあると考えられるべきなのであろうか。そ れは権利・義務を伴わないような見越・繰延項目の計上の可否のみにあるので あろうかが次に問われなければならないことになろう。  以上の観点に立って,次節において近代会計理論をその基礎とする現行の制 度会計が基本的に収益・費用観を採用しているといわれる点に着眼し,その特 徴点を析出することにしよう。 III 制度会計のおける計算構造  近代会計学においては,財務会計は,とりわけ制度会計といわれるものは資 金提供者によって委託された資金を運用し,その結果生じた分配可能利益を計 算し,伝達することを目的として行われていると解され得る。そのために,制 度会計は,その認識・測定の対象をこの資金の循環過程と想定している。この ような委託された資金は,当初,貨幣の形態をもって行われる。それ故に,こ の資金の循環過程は,貨幣の姿態変換の過程であるともいい得る。例えば,調 達された資金によって商品を購入したとすれば,その商品は貨幣が具体的にと る姿態の一つである。商品は貨幣の具体的な表象物,体現物であり,商品の実 体は貨幣であると解される。この商品は,販売されることによって,再び,本 来の貨幣の形態に戻るのである。この姿態変換の過程は,貨幣動態あるいは貨 幣運動と呼ばれる。損益の計算方法には,損益法と財産法とがあることは周知 の事実であるが,財産法によれば,ここでの利益は,貨幣動態あるいは貨幣運 動の結果として存在する資金額(資金量)から当初資金額(資金量)を差引い た額として計算される。  ここで注意すべきことは,ここで想定されている計算は,貨幣動態あるいは 貨幣運動を認識・測定の対象としているということである。すなわち,貨幣の 姿態変換の過程の記録は,貨幣の増減という形態,よって収入と支出として行 われるということである。この計算が全体計算として行われるかぎり,収支計 算はそのまま損益計算となり得る。しかし,期間損益計算として行われるとき には,収支計算はそのままでは損益計算となることはできない。収支を期間的

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       資産・負債観と収益・費用観に関する一考察  117 に配分する必要が生ずるのである。ここに必要とされるものが貸借対照表であ る。上述のように,制度会計は,資金の循環過程を跡づけるものであると考え てきた。その循環過程は,下図のように表現され得る。上段は第一回目の循環 であり,下段は第二回目の循環である。第二回目の循環は,獲得された資金が 資金提供者に対しての資金の払い戻しの過程を経ず,ただちに,再度,投下さ れ,それがG”として回収されたことを示しているのである。経営活動は,この ような資金投下・回収の繰り返し・複合からなっている。  もし,それぞれ独立した循環が当該期間内に完了するならば,そこでは,期 間損益計算が資金回収額と資金投下額との差額として,あるいは,また,G’と Gとの差額やG”とG’との差額として計算することができる。それは全体損益 計算の場合と同じである。(G:貨幣,W:財・用役, P:生産, Pm:生産手段, A: 労働用役) 調達過程      投下過程      回収過程  払戻過程

7Gg/p“”H(,)“..”.TG・r

    Gt 一 {XM 一一一 (P) 一一一 W一 G”

しかし,期間計算の場合には,循環過程の途中で期末を迎える資金循環が存在 するはずである。その場合には,貨幣は他の形態として存在することになる。 それはPmの形態であり得るし, Wの形態でもあり得る。 Pmは,材料,土 地,建物,機械等であり,Wは製品・商品である。 PmやWであることは資金 の運用形態であることを意味しており,資産である。この資産は,貨幣動態観を とる以上,その実体は,貨幣であるとみなければならないのであった。そうで あれば,その貨幣としての資金は調達源泉をもつ。それが負債および資本とし て表現される。よって,貸借対照表の作成が不可欠であることになるのである。  こうして,貸借対照表が経済的実態の反映ではないとしても資金の運用状態 と資金の源泉という意味での財政状態を明らかにすることは否定し得ないとこ ろである。しかし,財政状態が,一方で,資金の運用形態を表すという点につ

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いては,さらなる詳細な検討を必要とする。資金の循環過程の完了は,資金の 調達及び資金の提供者への返還を除けば,通常,資金投下から資金回収に姿態 を変換することによって完了する。循環過程が未完了の状態であるというのは, 新規に調達され未投下の状態にあるか,循環過程が完了して回収が行われたが 未投下の状態にあるか,投下されているが投下状態のままにとどまり,未だ回 収まで至っていないということを意味するのである。前二者を未投下の状態に あると解すれば,資金の運用状態を示す資産は,実は,資金の未投下状態にあ るか,あるいは投下状態にあり,未だ未回収の状態にある資金を表現するもの であるといわなければならないのである。  この場合,未投下状態をいずれかの時点で投下されたうえで,回収されるは ずのものであると考えれば,運用状態は,現在投下されているか将来投下され る資金の状態をストックの観点にたって表示するものということができる。そ れ故に,資産とは,元来,過去支出あるいは将来支出を意味するものであるこ とになる。  しかし,同時に,未投下の資金をいずれかの時点で投下されると想定される とすれば,それらに共通する性格は,未回収の状態であることになる。未回収 の状態とは,将来における回収を意味することになる。すなわち,それは将来 における収入を意味するものとなる。  このことを明らかにするために,貸借対照表のもついまひとつの役割を考察 する必要がある。現在の制度会計が所得分配機能をもち,会計目的が分配可能 利益の計算と伝達であると解するかぎり,貸借対照表も,また,この分配可能 利益の計算と伝達という要請を充足すると考えなければならないのである。こ の場合の充足方法には二種のものがあり得る。第一は,損益法の投下資金回収 計算を補助し,その計算が可能になるような役割を演じているというものであ る。第二は,貸借対照表が独立して分配可能利益を計算:するというものである。        11) 第一の観点は,シュマーレンバッハによって明らかにされたものである。第二 11) Siehe Eugen Schmalenbach, Dynamishe Bilanz, 13. Aufl. (Kdln und Opladen : 1962) ,  SS. 62−72.

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      資産・負債観と収益・費用観に関する一考察  119 の観点は,独立して直接的の損益の計算を行うとする考え方と,間接的に損益 の計算を行うとする考え方がある。前者の考え方には,ワルプ,飯野利夫説が       12) あり,後者の考え方には,武田隆二説がある。ここでは,ワルプ説によりなが ら貸借対照表での利益計算の構造を検討してみよう。      13)  ワルプ理論の特徴点の一つは,企業の経営活動は,給付系列と収支系列との 対流関係によって把握されており,それら系列ごとに損益計算が可能であると する点に求められよう。このことは損益計算書と貸借対照表とでそれぞれが独 立に損益計算を行い得ることを示すものである。「損益勘定は給付系列の結果を       14) 総括し,残高勘定は収支系列の結果を総括する」とし,「1 残高勘定は,その 歴史的な締切機能を果すことによって,必然的に収支系列との結果を総括する ものとなり,それとともに他方では,必然的に損益計算の一つの用具となる。 2 複式簿記においては,すべての個別項目の計算だけが複式の計算なのでは なく,損益計算もまた複式の計算なのである。複式の損益計算は,恣意的ない し任意的な計算ではなく,計算項目の本質とそれらを勘定を用いて表示するこ       15) とによって必然的に与えられる計算である」とするからである。  では,ワルプ理論において,貸借対照表はどのように理解されているのだろ うか。ワルプはシュマーレンバッハとの対比により以下の貸借対照表のシェー       16) マを示している。  ここでの戻し計算された支出とは,どのようなものであろうか。「損益計算に ついて過剰記帳額と不足記帳額とがある場合には,残高勘定の本源的な内容す なわち収支系列の内容は一収支系列に対応する給付系列の内容と同様に一不完 全なものであり,過大記帳項目を除外し,過小記帳項目を受入れることによっ て,いずれも修正する必要があるのである。過大記帳された受入額(商品,機 12)武田隆二『会計学一般教程 第2版』中央経済社 1991年,第6章参照。 13) Ernst Watb, Die Erfolgsrechnung privater und 6ffentlicher Betriebe (Berlin: ln−  dusrieverlag Spaeth&Linde,1926).戸田博之『ワルプ損益計算』千倉書房,1983年。 14)a.a. O., S.61.同訳書 46頁。 15)a.a. O., S.68.同訳書 53頁。 16)a.・a.O., S.10Z同訳書 100頁。

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   シュマーレンバッハ ワルプ 1支出・未費用 2給付・未収入 3支出・未収入 4給付・未費用

5貨幣

12004

費用・未支出 収入・未給付 収入・未支出 費用・未給付 1収支系列の内容  =シュマーレン  バッハにおける

 5,3および2

 の一部 2戻し計算された  支出  =ンユマーレン  バッハにおける

 1と4

3追加計算された  収入  =ンユマーレン  バッハにおける

 2

1収支系列との内  容  =シュマH一一・・レン  バッハにおける  3および2の一  部 2戻し計算された  収入  =ンユマーレン  バッハにおける

 2

3追加計算された  支出  =シュマーレン  バッハにおける

 1と4

械)が給付勘定に含まれている場合には,収支系列におけるそれに対応する払 出し記帳は過大である。損益計算のためには,費用になっていない未費消高は 支出について控除されなければならず,勘定を用いる計算においては,それは       17) 逆記帳(Ritckbuchung)すなわち収入計算によって行われるのである」。こうし て,戻し計算支出は,商品あるいは機械のような給付勘定において未費消のた めに残高となっているものに対する支出が残高勘定において過大に支払われた ものとして戻されてきたものであることになる。そして,支出の戻りは収入を 意味するものとされることに注意しなければならない。このことは貸方の戻し 計算収入についても同様と考えられるのである。かくて,「収支系列との諸勘定 の残高は最終的に残存している支出を意味しており,戻し計算された支出は収 入になり戻し計算された収入は支出になるから,残高勘定においては修正され た収入・支出計算(richtiggestellte Einnahme一 und Ausgaberechnung)が生じ      18) ることになる」のである。 17)a.a. O., S.73.同訳書 59頁。 18)a.・a,0.,S.75.同訳書 61頁。

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      資産・負債観と収益・費用観に関する一考察  121  このように考えることによって,ワルプの貸借対照表は,借方において収入, 貸方において支出を表現していることになり,収入と支出との差額として利益 を計算していることになるのである。このことは,貸借対照表の借方である資 産は収入を意味するのであり,資産を計算的に擬制された貨幣価値在高として みる資産現金説に通じているものと考えることができるのである。

IV FASBの計算構造

 FASBの計算構造を明らかにするためにはその資産概念および負債概念を 検討するのが有効である。概念ステイトメント第6号「財務諸表の構成要素」 によれば,資産は,「過去の取引あるいは事象の結果として,ある特定の実体に より取得または支配されている,発生の可能性の高い将来の経済的便益であ 19) る。」。この資産は,「三つの本質的な特徴を有している。すなわち,(a)資産 は,単独でまたはその他の資産と結びついて直接的または間接的に将来の正味 キ・ヤッシュ・フU一に貢献する能力を有する,発生の可能性の高い将来の便益 であること,(b)特定の実体がその経済的便益を獲得することができること, (c)その便益に対する自体の権利または支配を付与する取引その他の事象がす        20) でに発生していること,である。」。また,「すべての資産(経済的資源)が有す る共通の特徴は,『用役潜在能力』または『将来の経済的便益』であり,それら を利用する実体に用役または便益を提供する希少な能力である。営利企業にお いては,このような用役潜在能力または経済的便益は,最終的には当該営利企       21) 業への正味キャッシュ・フn一をもたらす」ものである。  こうして,資産は,経済的資源であり,それは経済的便益を保有しているこ とが示されている。しかも,この経済的便益は,直接的であれ,間接的であれ, 企業に対して正味キャッシュ・フローをもたらすものであることに注意しなけ 19) Financial Accounting Standards Board, Elements of Financial Statements(Stam−  ford, Conn:FASB, December 1985),par.25.平松一夫・広瀬義州訳『FASB財務会計  の諸概念』中央経済社 1994年 297頁。 20)Ibid., par.26.同訳書 297頁。 21)Ibid., par.28.同訳書 298頁。

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ればならない。すなわち,資産は,キャッシュ・インフロー,したがって貨幣 収入をもたらす能力であることになる。  これに対して,負債は,「過去の取引または事象の結果として,特定の実体 が,他の実体に対して,将来,資産を譲渡しまたは用役を提供しなければなら        22)ない現在の義務から生じる,発生の高い将来の経済的便益の犠牲である」。この 定義によれば,負債は資産を譲渡しまたは用役を提供しなければならないとす ることから明らかなように,資産のマイナスという一面をもっていることにな る。資産が正味キャッシュ・フローであるとすれば,負債は,その正味キャッ シュ・フローのマイナス要因である。こうして,キャッシュ・アウトフロー, したがって支出としての意味を持つといわなければならない。  以上の点から,FASBにおいて想定されている貸借対照表の借方は,収入 を,貸方は支出を意味することになるのである。 V 貸借対照表の計算構造の検討  これまでの検討で,制度会計においても,FASBが想定する会計において も,貸借対照表は収入と支出とによって構成されていることが明らかになった。 では,制度会計とFASBの会計は同質のものということができるのであろう か。形式的にはまさに同質のものと考えざるを得ない。はたしてそれでよいの であろうか。資産・負債観を反映していると考えられるFASBの想定する会 計と収益・費用観を反映していると考えられる制度会計との間に差異は存在し ないのであろうか。このことを検討するために,再度,制度会計の貸借対照表 における損益計算の構造を考察してみる必要があろう。飯野利夫教授によれば,       23} 貸借対照表における損益計算は以下のように行われるとされる。  この貸借対照表での損益計算について,飯野理論においては,「種々の源泉 から調達されて企業に投下されている資本投下額のうち,回収可能額および効 果が次期以降に持続する額ならびに資本として回収された額(貨幣以外の形に 22)lbid., par. 35.同訳書 301頁。 23)飯野利夫『資金的損益貸借対照表の軌跡』国元書房 1979年。

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資本回収額:  現  金  受取手形

 売掛金

資産・負債観と収益・費用観に関する一考察  123       1,000 7,000 5,000 うち,回収不能見込額(貸倒引当金) 回収資本のうちの回収可能額 投下資本額:

 資本金

 剰余金

 支払手形

 買掛金

12,000  500 11,500 10,000 3,000 6,000 5,000 12,500 24,000  うち,未回収投下資本額:   回収可能額:

  商品(原価)  8,500

   回収不能見込額     500  効果持続額:   建     物    5,000   前 払 費 用     500 投下資本のうちの回収済額:    当期純利益 8,000 5,500 13,500 1O,500 2,000 よって回収された場合には,それの貨幣による回収可能額)を資本調達の源泉, 資本の使途および資本の回収形態を明記して一表にあつめることによって,現 に企業に投下されている資本について,その調達源泉と運用の結果を静態的に 表示するとともに,資本の運用によって生じた利益を資本有高に即して計算表        24) 示しようとするのが貸借対照表である」とされる。上記の貸借対照表において 商品を回収可能額によって表示することは,資金の循環過程で考えるかぎり, 投下過程にあり,投下額によって表示され,効果持続額として解釈することも 可能であり,飯野理論における計算構造としては矛盾を生ずるものではない。 よって,商品もまた効果持続額として以下の理論を展開する。 24)同上書 283頁。

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 飯野理論においては,貸借対照表の利益は,資本有高に即したものであると とらえられる。貸借対照表が残高勘定を基礎とするかぎり,その考え方に何の 問題もない。しかし,次のように解釈することも可能であるはずである。貸方 で表現される投下資本額から効果持続額を差引くということは,資本の投下に よって獲得した効果のうち効果持続額を控除することを意味するのであるから, それは効果喪失額を計算していることになる。他方,資本として回収された額 (貨幣以外の形によって回収された場合には,それの貨幣による回収可能額) は,販売等を通じて企業が獲得した価値部分である。この価値部分から投下資 本のうちの効果喪失額を差引いて利益を計算していることになるのである。こ こでの資本として回収された額とは何であろうか。それは価値増加の原因を表 現する収益を裏付けている具体的な財を示しているはずである。また,投下資 本のうちの効果喪失額は,価値減少の原因を表現する費用(これは,また,資 本投下によって存在していた拘束が解除されることを意味する)を裏付けてい る財の減少を意味するはずである。そうであれば,貸借対照表における損益計 算は,確かに資本として回収された額としての収入と投下された資本(=支出) のうち失われた部分を表す投下資本であるから,これは支出のうちの効果の失 われた部分であることになろう。それは支出によって表現することができると いうことができよう。こうして,貸借対照表における損益計算は,上述の意味 での限定を受けた収入から限定を受けた支出を差引く形での計算であることに なる。  これは,ワルプ理論・FASBの収入から支出を差引くことによって利益を 計算するとする主張と軌を一にしていると考えられる危険がある。しかし,そ れは明確に区別する必要がある。というのは,ワルプ理論においては借方の収 入は当該期間に受入れられた収入,過去の支出の戻し計算という擬制による収 入および将来の収入を含むものと考えられていたからである。このことは貸方 側についても同様である。だが,飯野理論においては,収入は当該期間に属す る資本の回収額であると解されているということである。負債は投下資本額た る支出を構成するものである。したがって,飯野理論における貸借対照表によ

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      資産・負債観と収益・費用観に関する一考察  125 る損益計算は,実は,収益・費用による損益の計算であることを意味している ことになるのである。この意味で,ワルプ理論における貸借対照表の損益計算 理論とは,決定的に異なるものといわなければならない。そして,この飯野理 論における貸借対照表の損益計算の理論が,制度会計における貸借対照表の役 割であると考えるべきであろう。すなわち,ここに,資産・負債観と異なる収 益・費用観の理論が存在するのではないかと考えるのである。資産・負債観に おける貸借対照表は,収入と支出とを想定するが,それは経済的実態の表示の ためのものであり,直接的に損益計算を行うことを意図するものではなく,損 益計算書による損益計算と貸借対照表による財政状態表示をこそ,むしろ意図 していると解されるのではなかろうか。 VI むすび  FASBによって展開された利益概念およびそれに伴う計算の理論に関する 資産・負債観と収益・費用観との相違点がFASBの討議資料においては必ず しも明確ではなく,「連携」を想定するかぎり差異の識別が困難であるかのよう な記述が存在するのである。両者の考え方は,同一物の異局面からの計算にす ぎないのであろうか。この問題意識の下で,両者の考え方の中での損益計算の しめる役割に相違があるのではないかと考え,特に貸借対照表における損益計 算の構造を検討したのである。この結果,ワルプ理論においては,貸借対照表 の借方は収入,貸方は支出を表現するものと解され,FASBの想定も同一で あると考えられたのである。しかし,飯野理論を検討することによって,貸借 対照表における損益計算は,収益・費用の計算を具体的な財(特に収入・支出 というかたちでの貨幣)によって行ったものであり,形を変えた収益費用計算 であることが明らかになったのである。言換えれば,制度会計によって示され る収益・費用観においては,資産・負債観の場合のように財政状態表示を直接 的に意図するものではなく,二重の収益費用計算が行うという点にこそ特徴が あるというべきではないかと指摘したのである。

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