裁判員制度の合憲性に関わる判例法理
─下級審判例を中心として─森 山 弘 二
1 はじめに 2 裁判員制度の骨格 3 下級裁判所における判例法理 4 論点の整理 5 むすびにかえて1 はじめに
裁判員法1 が施行され、この(2012 年)5 月で 3 年が経過した。 最高裁判所が公表した「裁判員裁判の実施状況について(制度施行 ∼平成 24 年 5 月末 ・ 速報)」によれば、この間、3,801 人の被告人 に裁判員が参加する裁判によって判決が言い渡され、21,944 人の市 民が裁判員を、7,630 人の市民が補充裁判員を経験したとされる2。 裁判員制度に関わる憲法論議は、司法制度改革審議会が制度の骨 格を公表した頃より本格化し、一部に強い違憲論が展開されたが3、 1 「裁判員の参加する刑事裁判に関する法律」(平 16 法 63 号)、以下「法」と略 することがある。また、裁判員法に基づき、国民を裁判員として一定の刑事事 件に参加させる制度のことを「裁判員制度」、裁判員が参加する裁判のことを「裁 判員裁判」、裁判員が参加する裁判の対象事件のことを「裁判員事件」という。 2 最高裁判所ホームページ http://www.saibanin.courts.go.jp/topics/ 参照。 3 大久保太郎「裁判員制度案批判」判例時報 1750 号 25 頁、同「裁判員制度案 批判(続)(上 ・ 下)」判例時報 1772 号 3 頁 ・1774 号 3 頁、西野喜一『裁判員制 度批判』西神田編集室(2008 年)、小田中聡樹「裁判員制度の批判的考察」丹宗 ・ 小田中編『構造改革批判と法の視点』(花伝社、2004 年)39 頁、香城敏麿『憲 法解釈の法理』(信山社、2004 年)525 頁、安念潤司「自由主義者の遺言」藤田 ・ 高橋編『憲法論集―樋口陽一先生古希記念』(創文社、2004 年)369 頁など。おおよそ、制度が実施される 2009 年頃までには裁判員制度の合憲 性を認める学説4が「多数説」化したと評しうる5。他方、裁判員 制度の合憲性に関わる違憲審査は、以下で詳論するように、制度施 行の翌年(2010 年)4 月以降、主として高裁レベルで相次ぎ、その いずれにおいても合憲判断が示されている。そして、2011 年 11 月 16 日、最高裁判所大法廷は、15 人の裁判官の全員一致で、国民の 司法参加一般について、その憲法許容性を包括的に容認するとと もに、実際に採用された裁判員制度の骨格について、それが、憲 法 31 条、32 条、37 条 1 項、76 条、80 条 1 項に反するものではな いとの判断を行った6 。これにより、裁判員制度自体についての憲 法論議は、実務上、収束に向かうのではないかと思われるが、憲法 学の観点からみれば、裁判員制度(さらには国民の司法参加一般) についての憲法理論上の分析はむしろ始まったばかりであり、す でに論じられている憲法上の論点の中にも、理論上ないし解釈論上 さらなる検討を要する問題が多数存在しているように思われる。ま た、裁判員法が施行されて 3 年が経過し、見直しの時期を迎えてい るが7、その「見直し」の結果、この制度のいかなる点をどのよう に改変することが可能か、あるいは改変すべきかという問題に対応 4 市川正人「国民参加と裁判員制度」法律時報 76 巻 10 号(2004 年)41 頁、笹 田栄司『司法の変容と憲法』(有斐閣、2008 年)81 頁、土井真一「日本国憲法 と国民の司法参加」長谷部他編『岩波講座 ・ 憲法(4) 変容する統治システム』(岩 波書店、2007 年)235 頁など。 5 裁判員制度の合憲性についてはじめて判示した東京高判 2010・4・22 東高刑時 報 61 巻 78 頁の判例評釈者は、いずれも、学説における合 ・ 違憲の分布状況に ついて、合憲説を「多数説」と評する。たとえば、判例タイムズ 1341 号 (2011 年) 38 頁。また、「[ 座談会 ] 裁判員制度」ジュリスト 1363 号(2008 年)90 頁以下 の各発言参照。 6 最大判 2011 年 11 月 16 日刑集 65 巻 8 号 1285 頁。 7 裁判員法附則 9 条は、「政府は、この法律の施行後三年を経過した場合にお いて、この法律の施行の状況について検討を加え、必要があると認めるときは、 その結果に基づいて、裁判員の参加する刑事裁判の制度が我が国の司法制度の 基盤としての役割を十全に果たすことができるよう、所要の措置を講ずるもの とする」と定める。
するには、この制度が単に違憲ではないといったいわば消極的な解 釈論を超えて、各問題領域ごとの憲法上の要請なり制約なりを見極 める作業が必要となろう。 本稿は、裁判員制度の「見直し」の問題や、さらには裁判員制度 のみが憲法上可能な市民参加の制度ではないことに留意しつつ、主 として、司法への国民参加に必要かつ十分な憲法上の制約なり要請 とは何かという観点から、裁判員制度の問題を分析しようとするも のである。裁判員制度に関わる憲法上の論点は多岐にわたるが、こ こでは、さしあたり裁判員制度の合憲性をあつかった下級審判例を 概観し、そこで表れた論点をとりあげ、問題の所在等を整理するこ とを直接の目的とする。本稿は、また、最高裁判所のこの問題に関 わる判例法理を分析するための前提作業でもあることを付言してお きたい。
2 裁判員制度の骨格
最初に、下級審判例において憲法上問題となった論点に関係する 範囲で、裁判員制度の概要をあらかじめ整理しておくことにする。 ①選出方法(選任) 裁判員は、衆議院議員の選挙権を有する者の中から無作為に選 任される(法 13 条)。具体的には、ⓐ各年ごと、各地方裁判所ご とに、選挙人名簿に登録されている者からくじで裁判員候補予定 者を選定し、候補者名簿を作成するとともに、名簿に記載された ことを候補予定者に通知する(法 20 − 25 条)。ⓑ裁判員裁判の 対象事件ごとに、裁判員候補者を候補予定者の名簿から無作為抽 出し、呼出状と質問票を送達する。呼出しを受けた者は、裁判員 等選任手続の期日に出頭しなければならない。呼出しに応じて出 頭した者には、旅費、日当等が支給される(法 26 − 30 条)。ⓒ 選任手続期日に出頭した裁判員候補者に対して質問手続をおこない、不選任決定のなされなかった者から、くじその他の作為の加 わらない方法により裁判員(および補充裁判員)を選任する(法 37 条)。候補者の中で、欠格事由・就職禁止事由・不適格事由 (法 14 − 18 条)に該当する者は除かれ、辞退を申立てた者の中 で、裁判所が辞退事由(法 16 条)に当たると認めた者も除かれる。 なお、検察官と被告人は、裁判員候補者について、理由を示さな い不選任の請求(原則 4 人まで)をすることができ、裁判所は請 求があった候補者を必ず不選任決定するから、基本的に、裁判員 (および補充裁判員)は検察官側も弁護人側も選任に反対しなかっ た候補者の中から選ばれることになる(法 36 条参照)。 ②対象事件 地方裁判所が第 1 審の裁判権を有し、かつ、3 人の裁判官の合 議体で取り扱うこととされている事件のうち、裁判員法 2 条 1 項 1 号 ・2 号が定める刑事事件、すなわち、ⓐ法定刑が死刑または 無期の懲役もしくは禁固に当たる罪(殺人、強制わいせつ致死傷・ 強姦致死傷、強盗致傷・強盗致死、現住建造物等放火など)に係 る事件と、ⓑ法定合議事件のうち故意の犯罪行為で人を死亡させ た事件(ⓐに該当するものはⓑから除かれるので、傷害致死、危 険運転致死、逮捕監禁致死などの罪に係る事件)が裁判員裁判の 対象となる(法 2 条 1 項、裁判所法 24 条、26 条 2 項・3 項参照)。 したがって、裁判員が参加する裁判は、法定刑に死刑または無期 刑が含まれる罪などの重大刑事事件だけを対象とする。また、対 象事件の取扱いは、法 2 条、3 条、裁判所法 26 条の規定による こととなるので、通常の陪審制とは異なり、被告人は犯罪事実を 最初から認めていても、従前の裁判官よる裁判を望んでも、裁判 員裁判の対象事件である限り、必ず裁判員裁判が行われる。被告 人にここでの選択権はない。
③裁判体(合議体) 裁判員の参加する合議体は、裁判官 3 人と裁判員 6 名によって 構成される。公判前整理手続により公訴事実に争いがないと認め られ、事件の内容などを考慮して適当と認められるもので、当事 者にも異議がないとき、例外として、裁判官 1 人と裁判員 4 人で 審理・裁判できる(法 2 条 2 項・3 項・4 項)。なお、裁判員と裁 判官によって構成される合議体の裁判官のことを法 6 条 1 項は「構 成裁判官」と呼ぶ。 ④裁判員の権限 裁判員は裁判官とともに「事実の認定」(具体的な犯罪事実な どの認定)、「法令の適用」(裁判官が示した法令の解釈を前提と して、法律要件に認定事実を当てはめ、有罪か無罪かなどを判断 すること)、有罪の場合には「刑の量定」(刑の種類とその量に関 わる判断)を行う(法 6 条 1 項)。裁判員は公判に立ち会い、こ れらの判断に必要な事項については、裁判長に申し出て、証人や 被告人に直接質問することもでき(法 56 − 59 条参照)、評議に 際しては、裁判官と同じ 1 票を行使することができる(法 66 条 1 項)。その余の判断、すなわち「法令の解釈に係る判断」や「訴 訟手続に関する判断」などは、裁判官のみの合議により行われ、 したがって、裁判員は、法令の解釈などの判断については、評議 に参加し、評決する権限をもたない(法 6 条 2 項、68 条 1 項・2 項)。 ⑤評決方法 裁判員の関与する判断の評決は、「構成裁判官及び裁判員の双 方の意見を含む合議体の員数の過半数の意見による」(法 67 条 1 項)。この評決方法の意味するところは、裁判員も裁判官も同じ 1 票をもち、評決は基本的に単純多数決によるが、その多数意見 には、最低1人ずつの裁判官と裁判員が加わっていなければなら ないという要件が付加されているということである。もっとも、
裁判員法が採用する合議体の構成からすれば(原則として、裁判 官 3 人と裁判員 6 名、例外的に裁判官 1 人と裁判員 4 人の合議体)、 いずれの合議体においても、裁判員が加わらなければ過半数に達 することはないから、「『構成裁判官及び裁判員の双方の意見を含 む』という付加的な要件がとくに意味を持つのは、合議体の員数 の過半数の意見に最低1人の裁判官が加わっていることを要する という点にある」8。 こうした評決方法が犯罪事実の認定や量刑の判断に適用される が、量刑について意見が分かれ、上記の付加要件を満たす多数意 見が形成されないとき、「その合議体の判断は、構成裁判官及び 裁判員の双方の意見を含む合議体の員数の過半数の意見になるま で、被告人に最も不利な意見の数を順次利益な意見の数に加え、 その中で最も利益な意見による」(法 67 条 2 項)。事実の認定に おいて、同様の問題が生じた場合(たとえば、殺意の有無や被告 人が犯人か否かの認定について、多数意見が上記の付加要件を満 たさない場合、すなわち、多数意見が裁判員のみの賛成する意見 であった場合)、その取扱いについては、「検察官が立証責任を負 う事実の存在又は不存在が認定できなかったものとして取り扱う ことになる」、すなわち、殺意の有無については、その立証が不 十分であるとして、その存在が認定されないこととなり、被告人 が犯人であるか否かについては、「被告人が犯人である」という 事実を認定することができないから、被告人に無罪が言い渡され ることになる9。 裁判官のみの合議により行われる「法令の解釈に係る判断」や 「訴訟手続に関する判断」などは、従来通り、裁判官のみの過半 数の意見で決せられる(法 68 条 2 項参照)。もっとも、裁判官は、 8 辻裕教「『裁判員の参加する刑事裁判に関する法律』の解説(3)」法曹時報 60 巻 3 号(2008 年)91 頁。 9 辻・前掲注(8)91 頁および 93 頁の注 119。
その合議により、裁判官のみによって行われる評議を裁判員(お よび補充裁判員)に傍聴させ、その意見を聴くことができる(法 68 条 3 項)。 ⑥裁判員の義務 裁判員候補者、裁判員または補充裁判員には出頭義務があり (法 29 条 1 項(裁判員候補者に対する裁判員等選任手続の期日へ の出頭義務)、52 条(裁判員の関与する判断をするための審理を すべき公判期日などに出頭する義務)、66 条 2 項(評議に出席し、 意見を述べる義務)、63 条 1 項(判決等を宣告する公判期日に出 頭する義務))、それに違反して、正当な理由がなく出頭しないと きには、法 66 条 2 項の場合を除き、過料(10 万円以下)が課さ れうる(法 112 条)。また、裁判員選任手続において行われる裁 判員候補者に対する質問票への虚偽記載や質問への虚偽陳述に対 しても、罰金(50 万円以下)や過料(30 万円以下)が定められ ている(法 110、111 条)。 裁判員(補充裁判員を含む)は「評議の秘密」(評議の経過並 びにそれぞれの裁判官および裁判員の意見並びにその多少の数) を漏らしてはならず(法 9 条 2 項、70 条 1 項)、評議の秘密その 他職務上知り得た秘密を漏らしたときは、6 月以下の懲役または 50 万円以下の罰金が科され、任務を終えた裁判員らにも罰則が ある(法 108 条 1 項、2 項)。 ⑦控訴 裁判員裁判の対象事件やその裁判体の構成は、地方裁判所の裁 判権やその構成を定めた裁判所法 24 条や 26 条の特則として定め られたものである(法 2 条参照)。すなわち、裁判員がその構成 員となる裁判体は地方裁判所に属するものであり、その裁判は地 方裁判所においてのみ行われる。したがって、裁判員の対象事件 といえども、その控訴審からは裁判員が参加しない裁判官のみに
よる裁判が行われる。
3 下級裁判所における判例法理
本稿では、裁判員法ないし裁判員制度に関わる憲法上の論点が争 われ、それについての憲法解釈が示された下級審判例のうちで、現 在(本稿執筆時)の時点で、電子媒体を含めて公刊された判例集に 掲載されたものをすべて分析対象とする。公刊されていない下級審 判例でこれについての憲法解釈が示されたものもかなりあろうが、 判例集に掲載された個々の判例にはとくに掲載に値するとの判断が 判例編集者にはあろうから、これらを分析対象とすることによって、 現時点でのこの問題に関わる下級審判例の全体像は見渡せるものと 考える。 分析対象とした判例は全部で 6 件、東京高裁判決が 5 件、地裁判 決が 1 件であり、すべて 2010 年の 4 月以降の半年間に集中している。 判決年月日が早い順に整理する。 (1)東京高等裁判所 2010 年 4 月 22 日判決(東高刑時報 61 巻 78 頁) 本件は、殺人 ・ 死体遺棄の罪などに係る事案の控訴審で、第 1 審(宇都宮地判 2009・12・4、判例集未登載)において裁判員裁 判が行われた。被告・控訴人は、①憲法は司法権の担い手として 裁判官のみを予想して設計されており、裁判員制度は被告人の裁 判を受ける権利(憲法 32 条、37 条)を侵害する、②裁判員裁判 は国民に裁判への参加を強制し、守秘義務や財産上の不利益等の 負担を課しており、国民の基本的人権(憲法 13 条、18 条、19 条、 21 条、29 条)を侵害する、③裁判員制度における手続は、証拠 開示手続に著しい不公平があること、裁判員に対する分かりやす さ、参加しやすさばかりを指向した争点・証拠の絞り込みが行わ れるため、本来あるべき刑事裁判の主張や立証の在り方を切り捨 てている面などがあり、憲法 31 条(適正手続の保障)に違反する、として原審が行った裁判員裁判の無効を主張した。本判決は、「裁 判員制度と憲法の関係が争点とされ、これらについて初めての判断 が示されたケース」10 とされる。なお、本件は上告されず、控訴棄 却で確定している。 ①憲法 32 条、37 条違反について 判決は、上記①について、以下のように判示した。すなわち、 ⓐ憲法が定める司法の章の諸条項(とりわけ、76 条 3 項や 78 条) からすれば、「憲法が裁判官を下級裁判所の基本的な構成員とし て想定していることは明らかであるが、憲法は下級裁判所の構成 については直接定めておらず(憲法 76 条 1 項では『法律の定め るところによる』とされている。)、裁判官以外の者を下級裁判所 の構成員とすることを禁じてはいない。憲法と同時に制定された 裁判所法 3 条 3 項が刑事について陪審の制度を設けることを妨げ ないと規定していることや、旧憲法(大日本帝国憲法)24 条が 『裁判官の裁判』を受ける権利を保障していたのに対し、現行憲 法 32 条が『裁判所における裁判』を受ける権利を保障すること としていることからも、憲法制定当時の立法者の意図も、国民の 参加した裁判を許容し、あるいは少なくとも排除するものではな かったことが明らかである」(下線、引用者。以下同。)。 つぎに、ⓑ「憲法は、76 条 2 項(ママ、おそらく 76 条 3 項の 誤植であろう<引用者>)、32 条、37 条などの規定によって、独 立して職権を行使する公平な裁判所による法に従った迅速な公開 裁判を要請し、そのような裁判を受ける権利を刑事被告人に保障 している」。そして、裁判員法では、「法による公平な裁判を行う ことができる裁判員を確保するために、資格要件や職権の独立に 関する規定等が置かれ、適正な手続のもとで証拠に基づく事実認 定が行われ、認定された事実に法が適正に解釈、適用されること 10 判例タイムズ 1341 号 (2011 年)37 頁。
を制度的に保障するために、法令の解釈や訴訟手続に関する判断 は裁判官が行い、裁判員が関与する事項については、合議体を構 成する裁判官と裁判員が対等な権限を持って十分な評議を行い、 その判断は裁判官と裁判員の双方の意見を含む合議体の過半数に よって決せられることとされており、このような裁判員制度は憲 法の上記要請に沿うものであって、刑事被告人の権利を侵害する ものではない。」 ②憲法 13 条、18 条、19 条、21 条、29 条違反について 判決は、上記②について、以下のように判示した。ⓐ「裁判員 制度が裁判員に選任された者について、辞退事由が認められない 限りその職に就くことを義務付けているのは、裁判員制度が司法 に対する国民の理解の増進とその信頼の向上に資する(裁判員法 1条)という重要な意義を有する制度であり、そのためには広く 国民の司法参加を求めるとともに国民の負担の公平を図る必要が あることによるのであって、十分合理性のある要請に基づくもの である。そして、その義務の履行の担保としては刑事罰や直接的 な強制的措置によることなく秩序罰としての過料を課すにとどめ (同法112条)、一定のやむを得ない事由がある場合には辞退を 認め(同法16条。なお、平成20年1月17日政令第3号の6 号は、「精神上の重大な不利益が生ずると認めるに足りる相当の 理由」を辞退事由として規定している。)、また、対象事件につい ては必ず公判前整理手続に付して争点や証拠を整理することとし て集中的・計画的審理の実現を図り(同法49条)、出頭した裁 判員に対して旅費・日当を支給する(同法11条)等、国民の負 担を軽減する措置を講じている。裁判員制度の意義の重要性を踏 まえて、これらの点を考慮すると、裁判員になることが義務付け られているとはいえ、それは裁判員制度を円滑に実施するための 必要最小限度のものと評価することができ、そのような制度が憲 法13条、18条、19条等に抵触するとはいえない。」
ⓑ「憲法21条が保障する表現の自由も公共の福祉による合 理的で必要やむを得ない程度の制限を受けることがあるところ、 裁判員、補充裁判員及びこれらの職にあった者に守秘義務を課す ことは適正な刑事裁判を行うために必要不可欠なことであり、裁 判員法108条に規定する内容の刑罰を伴う守秘義務を課すこと は憲法21条に抵触するとはいえない。」 ⓒ「財産権にはそれ自体に内在する制約があるほか、憲法29 条2項により立法府が社会全体の利益を図るために公共の福祉に 適合するような規制を加えることができることとされており、裁 判所としては、立法府の判断が合理的裁量の範囲を超えるもので ある場合に限り憲法29条2項に違背するものとしてその規制立 法の効力を否定することができるものと解すべきである(最高裁 判所大法廷昭和62年4月22日判決・民集41巻3号408頁 参照)ところ、上記の裁判員制度の目的が公共の福祉に合致する ことは明らかであるし、所論が指摘する財産上の不利益が生じる 可能性があるからといって、裁判員制度を設置した立法府の判断 が合理的裁量の範囲を超えるものとはいえない。」 ③憲法 31 条違反について 判決は、上記③について、「現行の証拠開示制度は、充実した 公判審理を継続的、計画的かつ迅速に行うための公判前整理手続 において、当事者に主張を明示させ、類型的証拠のほか主張関連 証拠を開示させることとしたものであって、その目的や手続は合 理的かつ妥当なものであり、憲法31条に違反するものとはいえ ない。」不当な争点・証拠の絞り込みが行われている等の主張に ついては、「いずれも制度運用上の問題であって、そのような運 用に陥らないような配慮が求められることは当然であるが、直ち に憲法31条の問題となるものではない」、と判示した。
(2)東京高等裁判所 2010 年 6月21日判決(東高刑時報 61 巻 138 頁) 本件は、覚醒剤取締法違反、関税法違反の事案であり、覚醒剤取 締法の営利目的輸入に係る罪には「無期の懲役」がその法定刑に 含まれており(同法 41 条 2 項参照)、第 1 審(千葉地判 2010・1・18、 判例集未登載)において裁判員裁判が行われた。本件の上告審が、 裁判員制度の合憲性を最高裁がはじめて判断した 2011 年 11 月 16 日大法廷判決である。 被告・控訴人は、判決裁判所の構成の違法を次の 2 点において主 張した(刑訴法 377 条 1 号参照)。すなわち、①原審の判決裁判所は、 裁判官でない裁判員が刑事裁判に関与したという点で、下級裁判所 の裁判官の任命方法を定めた憲法 80 条 1 項に違反する、②裁判員 法は特定の事件に限って裁判員裁判の対象としており、同法に従っ て構成された原審の判決裁判所は、特別裁判所の設置を禁じた憲法 76 条 2 項にも違反する、というものである。 ①憲法 80 条 1 項違反について 判決は、上記①について、以下のように判示した。すなわち、「憲 法が裁判官を下級裁判所の基本的な構成員として想定しているこ とは、憲法が司法権に関する第 6 章の中で裁判官の職権の独立や その身分保障等を定めていることからしても明らかといえるが、 憲法 80 条 1 項の文言を見ても、下級裁判所の構成員がすべてこ のような裁判官で占められなければならないことを規定したもの とは考え難く、むしろ、憲法は下級裁判所の設置については『法 律の定めるところによる』(憲法 76 条 1 項)としていて、その構 成等について直接定めておらず、裁判官以外の者が裁判に加わる ことを禁止した明文の規定も置いていないこと、憲法と同時に制 定された裁判所法 3 条 3 項が刑事について陪審の制度を設けるこ とを妨げないと規定していることや、旧憲法(大日本帝国憲法) 24 条が「裁判官の裁判」を受ける権利を保障していたのに対し、 現行憲法 32 条が「裁判所における裁判」を受ける権利を保障す
ることとしており、憲法制定当時の立法者の意図としても、国民 の参加する裁判を許容し、あるいは少なくとも排除するものでは なかったといえることなどに照らすと、憲法 80 条 1 項は、あく までも下級裁判所の裁判官について、その任命方法を定めたもの にすぎないと解されるから、裁判官でない者が刑事裁判に関与し たという一事をもって同条項違反の問題が生じるものとは考えら れない。」 ②憲法 76 条 2 項違反について 判決は、上記②については、以下のように判示した。すなわち、 ⓐ裁判員の参加する合議体は、司法権を行使する通常裁判所の系 列に属する下級裁判所として裁判所法により設置された地方裁判 所において、裁判員法 2 条 1 項が定める一定の刑事事件を処理す るために構成されるものであるから、憲法 76 条 2 項にいう特別 裁判所には当たらない、また、ⓑ「所論は、裁判員が、最高裁判 所の指名した者の名簿(憲法 80 条 1 項)とは無関係に、広く国 民の中から無作為に選任されるものであることを指摘して、裁判 員の参加する合議体は、通常裁判所の系列からは外れている、と いうのであるが、独自の見解であって、採用できない。」 (3)東京高等裁判所 2010 年 6月29日判決(東高刑時報 61 巻 143 頁) 本件は、(2)事件と同じ、覚醒剤取締法の営利目的輸入罪に係る 事案であり、第 1 審(千葉地判 2010・2・18、判例集未登載)におい て裁判員裁判が行われた。本件の上告審が、裁判員裁判を受ける か否かについて被告人に選択権が認めなくても憲法 32 条、37 条に 違反しないとした 2012 年 1 月 13 日最高裁第二小法廷判決(判タ 1366 号 81 頁)である。 本件控訴審において、被告代理人は、①憲法が保障する「裁判所 において裁判を受ける権利」(32 条)について、この「裁判所」と は、憲法第 6 章の諸規定(76 条 3 項、82 条 2 項、78 条)からすると、
資格を有し、かつ身分保障のある裁判官によって構成される裁判所 でなければならないから、裁判官としての資格も身分保障もない裁 判員を裁判所の構成員に加える裁判員法は、憲法 32 条に違反する、 ②裁判員はくじで選定されるから、当該事件との関係で公正さを担 保できず、また、裁判員の氏名等も非開示とされているので、裁判 官に認められている除斥・忌避の制度と同様の意義を持つ不適格事 由の制度が十分に機能するかも疑問であるから、裁判員裁判では憲 法 37 条 1 項所定の「公平な裁判所」の保障がない、③ⓐ裁判員法は、 裁判員の保護を理由に、裁判員の氏名、住所、年齢、職業等その特 定に必要な事項を非開示としている(法 101 条、109 条)から、裁 判の公平かつ適正を確保する上で不可欠なものとして憲法 37 条 1 項が規定する公開裁判の原則に違反する、ⓑ裁判員の氏名等その特 定に必要な事項が被告人に開示されないため、被告人の防御権を十 分に確保することができず、また、裁判員の氏名等が非開示である と、欠格事由や就職禁止事由にあたる者を排除することが著しく困 難であるから制度的欠陥があり、憲法 31 条の適正手続条項が実質 的に保障されていない、④裁判員は臨時の公務員であるところ、主 権者である国民の全体意思に基づかないくじという偶然の事情で選 定されるから、憲法 15 条 1 項が定める国民の公務員選定罷免権を 侵害する、⑤裁判員法 15 条は、一定の職種について就職禁止事由 を定めるところ、例えば特定の行政機関の職員、司法修習生、自衛 官について裁判員の対象から排除すべき合理的理由がないから、憲 法 14 条の定める「法の下の平等」に違反する、⑥裁判員法は、裁 判官の多数、すなわち 2 名の意見が無罪であっても、裁判員 4 名以 上の意見によって有罪となる可能性を肯定している(法 67 条参照) 点で、裁判官による裁判を保障した憲法の精神に著しく抵触する、 と主張した。
①憲法 32 条違反について 判決は、上記①については、以下のように判示した。すなわ ち、憲法 32 条所定の「裁判所」とは、憲法 76 条 1 項の司法権が 属するとする「最高裁判所及び法律の定めるところにより設置す る下級裁判所」をいうと解されるが、「憲法が、司法についての 第 6 章において、任命、身分保障、任期、定年、報酬等の裁判官 に関する規定を置き、かつ、それしか置いていないことからする と、裁判官は『裁判所』の必須ないしは基本的な構成要素である ということができる。しかし、このことは、必ずしも裁判官以外 の者がおよそ裁判所の構成員となり得ないことまでも意味するも のではない。この点、所論は、憲法は裁判官以外の者が裁判所の 構成員となることを全く予定していない旨主張するが、大日本帝 国憲法 24 条が『裁判官』の裁判を受ける権利という規定の仕方 をしていたのに対し、憲法 32 条が『裁判所』の裁判を受ける権 利という規定の仕方をし、裁判官による裁判を保障しているわ けではないことからすると、下級裁判所については、法律で定め るところにより、裁判員を構成員として含む裁判所を設置すれば、 それが同条にいう『裁判所』に該当することになるというべきで ある・・・。したがって、裁判官以外の者を裁判所の構成員とす ることが、直ちに憲法 32 条に違反するということはできない」。 ② 憲法 37 条 1 項所定の「公平な裁判所」について 判決は、上記②について、以下のように判示した。すなわち、 裁判員はくじその他の作為が加わらない方法により選任される が、このような「無作為抽出を基本とする選任方法が採用された 理由の一つには、選任手続の透明性、公平性の確保が容易という ことが挙げられるのであって、むしろ、公平性に配慮したもので ある。」つぎに、「裁判員法は、裁判官の除斥に該当するものとし て、裁判の公正を害するおそれのある客観的事情を事件に関する 不適格事由として掲げ、そのいずれかに該当する者は当該事件に
ついて裁判員となることができないと規定する(17 条)とともに、 忌避に該当するものとして、裁判所がこの法律により不公平な裁 判をするおそれがあると認めた者は、当該事件について裁判員と なることができないと規定し(18 条)、「公平な裁判所」を確保 するための仕組みを整えている。この点、所論は、裁判員の氏名 等につき非開示とされているから、この制度が機能するか疑問で ある旨主張するが、裁判員法は、裁判員候補者に不適格事由がな いか等の判断に資するため、裁判所が質問票を用いることができ、 裁判員候補者には、刑罰等の制裁を科した上で、この質問票に虚 偽の記載をしてはならない旨定めている(30 条、110 条、111 条)。 また、裁判長は、選任手続期日の二日前までに呼び出した裁判員 候補者の氏名を記載した名簿を検察官及び弁護人に送付しなけ ればならず、同期日における選任手続前に質問票の写しを検察官 及び弁護人に閲覧させなければならないとし、公正な裁判を確保 するための裁判員候補者に関する情報開示について規定している (31 条)。」 ③ 憲法 37 条 1 項所定の「公開裁判」について 判決は、上記③について、以下のように判示した。すなわち、 ⓐ「裁判員法は、何人も裁判員等の氏名、住所その他の個人を特 定するに足りる情報を公にしてはならないと定め(101 条)、訴 訟当事者(検察官若しくは弁護人若しくは被告人の総称)又は訴 訟当事者であった者が裁判員候補者の氏名等を漏らす行為を処罰 する旨定めている(109 条)。しかし、その趣旨は、裁判員等の 個人を特定する情報が公になることにより、裁判員等に対する請 託、威迫がなされたりして裁判の公正が害される事態を防止する とともに、一般国民である裁判員等のプライバシーや生活の平穏 を保護しようとするものである。つまり、これらの規定は、裁判 員の保護だけのものでなく、裁判の公正の確保をも目的とするも のである。」また、37 条 1 項が定める「公開裁判」とは、「その
対審及び判決が公開の法廷で行われる裁判の意であり(憲法 82 条参照)、裁判員を含めた審判者全員の氏名が公開されるかどう かとは直接関係ない」。 ⓑ「弁護人は、選任手続に先立ち、裁判員候補者に関する情 報開示を受けることとなっており(裁判員法 31 条)、被告人にお いても、そのうち知る必要があると考えられるものについては、 弁護人から伝達されることが予定されている(同法 109 条も、こ れらの情報を被告人が知りうることを前提としている。)のであ るから、この所論もその前提を誤っており、失当である。」 ④憲法 15 条 1 項違反 判決は、上記⑥については、以下のように判示した。すなわち、 「憲法 15 条 1 項の趣旨は、すべての公務員の地位が究極的には国 民の意思に基づくものでなければならないというものであり、必 ずしもすべての公務員を国民が直接に選定、罷免すべきことを意 味するものではない。所論も、このことを前提に、裁判官の場合 には、選挙を通じて選任された国会の信任する内閣により指名又 は任命されるから、その地位は国民の全体意思に間接的に由来す るといえるが、裁判員の場合には、くじという偶然の事情で選定 されるから、任命権者の意思が介在する余地がなく、民主的契 機を全く欠く、というのである。」しかし「裁判員裁判の制度は、 主権者たる国民が国権の一翼をなす司法権の行使に直接参画しよ うとするものであり、国会議員を選ぶことにより間接的に立法権 の行使に関与することや、国会の信任を受けた内閣が裁判官を任 命するという形で更に間接的に司法権の行使に関与することに比 しても、十分に民主的契機を備えたものと評価できる。また、そ の選定方法として、くじという無作為抽出を基本とする方法が採 用されたのは、上記の選任手続の透明性・公平性の確保という理 由のほか、国民一般の感覚を裁判内容に反映させるため、できる だけ幅広い層の国民から選任されることが望ましいという理由等
によるのである。したがって、裁判員の選定が憲法 15 条 1 項に 違反」しない。 ⑤憲法 14 条違反について 判決は、上記⑥については、以下のように判示した。すなわち、 「裁判員法は、15 条 1 項 3 号において一定条件の国の行政機関の 幹部職員を、同条項 16 号において司法修習生を、同条項 18 号に おいて自衛官をそれぞれ就職禁止事由と定めている。しかし、行 政機関の幹部職員については、裁判員は司法権行使の意思決定に 参画するので三権分立の観点から、行政権行使の意思決定に参画 する者を除く趣旨であり、司法修習生については、国民一般の感 覚を裁判に反映させるという観点から、法律専門家を除く趣旨で あり、自衛官については、有事の場合に緊急に対処する職責を負っ ていること等に配慮する趣旨であり、それぞれ十分な合理性が認 められる。その他の就職禁止事由として定められている職種につ いても同様である。」したがって、裁判員法 15 条は憲法 14 条 1 項の定める「法の下の平等」に違反しない。 ⑥裁判官の少数で有罪になる可能性について 判決は、上記⑥については、以下のように判示した。すなわち、 「裁判官 2 名が無罪、1 名が有罪の意見であった場合、これまで の裁判官 3 名の合議体では無罪となるが、裁判員 6 名が加わった 合議体ではそのうち 4 名以上が有罪の意見であれば有罪の結論と なる。しかし、憲法は『裁判官による裁判』を保障したものでは ない」ので、所論は前提自体を欠く。「もっとも、付言すると、・・・ 裁判官が裁判所の基本的な構成要素であると解されるから、裁判 官の存在が実質的に意味を持たないような制度である場合には、 被告人の裁判を受ける権利の侵害が問題となり得る。しかし、裁 判員法は、裁判官 3 名と裁判員 6 名による必要十分な評議がなさ れる(66 条参照)ことを前提に、評決の場面でも、合議体の員
数の過半数の意見に最低 1 名の裁判官が加わっていることを要す るとするものであって、最終的に裁判官の多数意見が通らなかっ たからといって、裁判官の存在を無意味にするようなものとはい えない。すなわち、裁判員法が定める評決方法をもって、憲法が 保障する裁判を受ける権利を侵害するものではない。」 (4)新潟地方裁判所 2010 年 7 月 23 日判決 (LLI / DB 判例秘書登載【ID 番号】06550390) 本件は、強制わいせつ致傷の事案で、弁護人は、以下の点におい て、裁判員裁判は憲法に違反するとして、公訴棄却を主張した。す なわち、①裁判員法によれば、裁判員はくじで選ばれて、裁判員候 補者を母体として、その中から具体的な事件ごとに、くじその他の 方法により選任されるが、裁判官とともに裁判に関与し、評議にお いては裁判官と同等の評決権を有するとされているから、裁判員は、 実質的には裁判官にほかならず、下級裁判所の裁判官の任命手続等 を定めた憲法 80 条 1 項に違反する、②ⓐ裁判員は、その氏名も住 所も公表されず、判決に署名もせず、判断に全く責任を問われるこ とのない者であり、しかも裁判外の情報により判断を左右される者 がいることは避けられないから、裁判員が参加した裁判所は、「公 平な裁判所」ということはできない、また、ⓑ裁判員裁判対象事件 は受理から終局まで長期間を要し、滞留を重ねており、「迅速な裁 判」ということもできないから、憲法 37 条 1 項に違反する、③裁 判員法 67 条によれば、裁判官3人の過半数の意見よりも、裁判員 らの意見が多数のゆえ優越する場合があり、これは裁判官が裁判員 の意見に拘束されることを意味するから、裁判官の独立を保障する 憲法 76 条 3 項に違反する、④憲法 32 条にいう「裁判所」とは、憲 法に適合したものでなければならず、裁判員の参加した裁判所は憲 法に違反するものであるから、憲法 32 条に違反する、⑤裁判員法は、 裁判に参加したくない者を含めて国民に裁判参加を義務付けており、 苦役に服させられない権利(憲法 18 条)、思想及び良心の自由(同
法 19 条)、信教の自由(同法 20 条)、財産権の不可侵の原則(同法 29 条)に反する、と主張した。 ①憲法 80 条 1 項違反について 判決は、上記①について、「憲法には陪審制、参審制等、一般 国民を裁判に参加させる制度について明文の規定はないが、そこ から直ちに憲法がこれを禁止しているものと解さなければならな い論理必然性はなく、憲法は、これを禁止しているのではなく、 立法政策によって国民の参加する裁判を採用することを許容して いると解することもできる」としたうえで、理由付けおよび結論 とも(2)判決の①と同旨の判断を示している11 。 11 判旨は(2)判決の①と同旨であるが、微妙なニュアンスがあるので念のため、 全文を以下に掲載しておく。 確かに、憲法が、下級裁判所の構成員として裁判官しか明示しておらず、そ の下級裁判所の裁判官につき、その職権の独立、任命手続、身分保障等を定め ていることからすれば、憲法は、裁判官を下級裁判所の基本的な構成員として 想定していると考えられる。しかしながら、憲法76条1項は、司法権が最高 裁判所及び「法律の定めるところにより」設置する下級裁判所に属すると規定し、 下級裁判所の構成について直接定めているわけではなく、憲法には、裁判官以 外の者を下級裁判所の構成員とすることを禁ずる規定はない。また、大日本帝 国憲法24条は「裁判官の」裁判を受ける権利を保障していたのに対し、憲法 32条は「裁判所において」裁判を受ける権利を保障することとし、憲法と同 時に制定された裁判所法3条3項は、刑事について、別に法律で陪審の制度を 設けることを妨げないと規定するところ、その制定過程等に照らしても、憲法 制定当時の立法者の意図は、国民の参加する裁判を禁止したのではなく、立法 政策に委ねたものであるということができる。以上によれば、憲法には裁判員 制度に関する規定はないが、憲法は、裁判官以外の者が下級裁判所の構成員と なることを、少なくとも排除するものではないというべきである。 そして、憲法80条1項が任命手続等について規定しているのは下級裁判所 の裁判官についてであり、憲法自体が、裁判官以外の者が下級裁判所の構成員 になることを排除していないのであれば、その者は同項の適用を受けないので あるから、弁護人が主張するところの同項違反の問題を生じることはない。
②憲法 37 条 1 項の「公平な裁判所」と「迅速な裁判」について 判決は、上記②については、以下のように判示した。すなわち、 ⓐ「裁判員法は、法と証拠に基づく公平な裁判を行うことができ る裁判員を確保するため、裁判員に法令に従い公平誠実にその職 務を行う義務を課す(裁判員法9条1項)とともに、裁判員の職 権行使の独立を定め(同法8条)、裁判員に対する圧力を排除す るための方策(同法 101 条、102 条1項、106 条、107 条)を講 じている。また、裁判員の欠格事由(同法 14 条)、事件関係者の 不適格事由(同法 17 条)及び不公平な裁判をするおそれを理由 とする不適格事由(同法 18 条)を置き、その選任手続(同法 33 条以下)や解任(同法 41 条ないし 44 条)について規定し、さら に、適正な手続のもとで証拠に基づく事実認定が行われ、認定さ れた事実に法が適正に解釈、適用されることを制度的に保障する ため、法令の解釈や訴訟手続に関する判断は裁判官が行い(同法 6 条 2 項、66 条 3 項、4 項)、裁判員が関与する事項については、 合議体を構成する裁判官と裁判員が対等な権限を持って十分な評 議を行い(同法 6 条、66 条)、その判断は裁判官と裁判員の双方 の意見を含む合議体の過半数によって決せられることとされてい る(同法 67 条)ことから、構成その他において偏頗なき「公平 な裁判所」であることが確保されているというべきである。」ま た、ⓑ「裁判員裁判対象事件の進行状況の問題点は、いずれも制 度運用上の問題にすぎず、裁判員制度の制度的な欠陥とはいえな い。裁判員裁判対象事件が滞留しないように運用上の配慮が求め られることはもちろんであるが、それが直ちに憲法 37 条 1 項の『迅 速な裁判』違反の問題となるものではない」、とする。 ③憲法 76 条 3 項違反について 判決は、上記③について、以下のように判示した。すなわち、 ⓐ「上級審の裁判所の判断が下級審を拘束する場合(裁判所法4 条)や、裁判官のみの合議体において、多数決原理(同法77条)
により、少数派の裁判官が多数派の裁判官の意見に従わなければ ならない場合など、裁判官は、法律に基づき、司法の機能を確保 するための一定の制約を受けることは当然に予定されており、裁 判官の独立は、裁判官個人の意見が常に裁判所の判決になること までを保障するものではない。」そして、上記②の判示のとおり、 ⓑ「裁判員法は、公平誠実に職務を行うことができる裁判員を確 保するための方策や、適正な手続のもとで証拠に基づく事実認定 が行われ、認定された事実に法が適正に解釈、適用されることを 確保するための方策を備えている。裁判員制度は、上記のような 制度的な保障のもと、裁判官と裁判員がそれぞれ独立して職権を 行いつつ協働し、十分な議論を尽くした上で、最終的に評決をし、 事実認定や量刑につき、最も適正な結論を求めていくものである から、裁判員らの意見が多数のゆえ優越することがあったとして も、それは他の裁判官又は裁判所からの拘束と同様、司法の機能 を確保するために課された法律に基づく制約として、許容される ものと考えられる」から、憲法 76 条 3 項に違反するものではない。 ④憲法 32 条違反について 判決は、上記④については、「裁判員法の定める裁判員の参加 した裁判所が憲法に適合するものであることは上記のとおりであ るから、裁判員制度は、憲法32条にも違反しない」とする。 ⑤憲法 18 条、19 条、20 条、29 条違反について 判決は、上記⑤について、(1)判決の②−ⓐと同旨の判示を行っ た。すなわち、「裁判員制度が、裁判員に選任された者について 辞退事由が認められない限りその職に就くことを義務付けている のは、裁判員制度が司法に対する国民の理解の増進とその信頼の 向上に資する(裁判員法1条)という重要な意義を有する制度で あり、そのためには広く国民の司法参加を求めるとともに国民の 負担の公平を図る必要があることによるのであって、これは十分
に合理性のあるものといえる。そして、裁判員法は、裁判員とな る義務の履行を担保するための手段としては、刑事罰や直接的な 強制的措置によることなく秩序罰としての過料を課すにとどめて いる(同法112条)ところ、一定のやむを得ない事由がある場 合には辞退を認めており(同法16条)、さらに平成20年1月 17日政令第3号の6号は、『自己又は第三者に身体上、精神上 又は経済上の重大な不利益が生ずると認めるに足りる相当の理 由』を辞退事由として規定し、裁判員法16条8号及び同政令の 1号ないし5号の列挙事由に該当しない場合でも、個別具体的な 事情に照らし、適切に辞退を認めるための包括条項を設けるなど して、国民の負担を過重にせず、義務負担の公平を図ろうとして いる。また、裁判員裁判対象事件については、必ず公判前整理手 続に付して争点や証拠を整理することとして集中的・計画的審理 の実現を図り(裁判員法49条)、出頭した裁判員等に対して旅 費・日当等を支給する(同法11条、29条2項)など、国民の 負担を軽減するための手当を施している。こうした点を考慮する と、裁判員制度では国民は裁判員になることが義務付けられてい るとはいえ、それは上記のとおり重要な意義を有する裁判員制度 を円滑適正に実施するための必要最小限度の負担と評価すること ができるから、国民の基本的人権たる自由権、苦役に服させられ ない権利(憲法18条)、思想及び良心の自由(同法19条)、信 教の自由(同法20条)、財産権の不可侵の原則(同法29条) に反するとはいえない」。 (5)東京高等裁判所 2010 年 8 月 30 日判決 (高等裁判所刑事裁判速報集平成 22 年 92 頁) 集団強姦致傷、わいせつ略取、監禁、強姦致傷等の事案について の判決に対して、被告人が、以下のように、裁判員制度自体の違憲 とその運用の違憲性を主張して控訴したものである。すなわち、① 憲法には参審制度に関する規定がないから、裁判員が加わった裁
判所は憲法32条にいう「裁判所」、37条1項にいう「公平な裁 判所」、76条1項にいう「下級裁判所」に当たらず、同条3項が 定める裁判官の独立を侵害し、裁判官の任命や身分保障について具 体的な規定を設けている78条、80条にも反する、②ⓐ裁判員が 加わったために、裁判官だけの審理による判決よりも量刑が重くな る一定の犯罪類型が現に存在しており、特に性犯罪事件に関してそ の傾向が顕著である、市民に法に基づく公平な判断を期待できない 事件、典型的には性犯罪事件に関しては、裁判員が加わった裁判体 は、もはや憲法の保障する公平な裁判所(憲法37条1項)とはい えない、ⓑ現行の裁判員裁判においては、「市民感覚の尊重」の美 名のもと、上級審が第一審判決の見直しに消極的となり、第一審の 終審化が既成事実化されようとしており、裁判員が加わった第一審 は、法律の定めるところにより設置する「下級裁判所」(憲法76 条1項)とはいえない、ⓒ被告人の公平な裁判所による裁判を受け る権利(憲法37条1項)を確保するために、裁判官の除斥(刑訴 法20条)、忌避(同法21条)の制度が設けられているが、裁判 員については、類似の制度は設けられているものの(裁判員法17 条、18条)、弁護人に対して開示される裁判員候補者に関する情 報は氏名だけであり、事件に関する不適格事由の有無やその他の不 適格事由の有無を検証する情報の開示がなされない運用となってい る、本件でもこの点の検証が不可能な運用がなされた、などとして、 裁判員法による制度の運用一般、又は本件に関する原審での運用が 憲法違反である、と主張した。 ①裁判員制度自体の違憲について (32 条、37 条 1 項、76 条 1 項 ・3項、78 条、80 条) 判決は、上記①について、以下のように判示した。すなわち、「憲 法76条1項は下級裁判所の設置については法律の定めるところ による旨規定しており、現行憲法制定の経緯等にも照らすと、憲 法は裁判官以外の者を下級裁判所の構成に加えることを禁じてい
ないというべきである。そして、所論のいうその余の憲法の諸規 定は、裁判所が他の権力からの指示、命令を受けることなく独立 して職権を行使する公平な機関であること、法に基づいた裁判を 行うものであることを要請し、そのような裁判所において裁判を 受ける権利を保障しているものと解されるところ、裁判員の参加 する刑事裁判に関する法律(以下「裁判員法」という。)の諸規 定は、上記の憲法上の要請を満たすのに十分なものになっている といえる。したがって、裁判員裁判制度自体が憲法の上記各条項 に違反するとの論旨は理由がない。」 ②裁判員裁判制度の運用の違憲性について 判決は、上記②について、以下のように判示した。すなわち、 ⓐ「仮に性犯罪事件の量刑について所論のいうような傾向がある としても、裁判員法に基づいて運用される裁判員裁判においてそ のような量刑がなされるのであれば、それが憲法37条1項に違 反するものでないことは上記のとおりであり、むしろ、国民の健 全な社会常識が刑事裁判に反映されるという裁判員制度導入の趣 旨に沿うものというべきである」。ⓑ「裁判員裁判による第一審 が終審化しているという事実はないから、所論は前提を欠いてい る。ⓒ弁護人において、開示された裁判員候補者の氏名をもとに、 手持ち資料と照合するなどして、裁判員候補者の中に事件関係者 等裁判員となるにふさわしくない者が含まれていないかというこ とを調査することが可能であることに加え、裁判員候補者に対す る質問、これに対する虚偽回答の禁止等、裁判員法上予定された 制度を適切に運用することにより、公平な判断をすることができ ないおそれがある者を裁判員として選任しないという憲法上の要 請は十分に満たすことができるというべきである。そして、所論 がるる主張する点を検討してみても、本件の裁判員等選任手続に おいて、上記の憲法上の要請に反する運用がなされたとはいえな い。」「以上から、裁判員法による制度の運用一般についてはもち
ろん、本件についての原審での運用についても、憲法違反を主張 する所論に理由は」ない。 (6)東京高等裁判所 2010 年 10 月 26 日判決 (東京高等裁判所判決時報 61 巻 253 頁) 本件は、殺人未遂、銃砲刀剣類所持等取締法違反に係る事案の 控訴審で、被告・控訴人は、①裁判官としての資格を有しない者 が裁判に影響を与えることができるようなものは、憲法 32 条にい う「裁判所」にはあたらない、②裁判員は、法律および証拠によっ て認定できる事実以外のものに簡単に影響されるから、裁判員の 参加する裁判所は憲法 37 条 1 項の定める「公平な裁判所」には当 たらず、被害者参加人は証拠以外のものに基づいて意見を述べる から、その弊害は倍加され、被告人の裁判を受ける権利はより侵 害される、と主張した。 判決は、①について、(3)判決の①と表現を含めてほぼ同一の判 示を行い、②については、(4)判決の②−ⓐに示された理由付けと 同旨の理由を挙げ、裁判員が加わったからといって「公平な裁判所」 でなくなるわけではなく、また、「被害者参加人又はその委託を受 けた弁護士が行う意見陳述は証拠とならないのである(刑訴法 316 条の 38 第 4 項)から、これにより弊害が倍加するということもで きない」、と判示した。
4 論点の整理
付随的審査制の下において、裁判所の示す憲法判断は、個々の訴 訟において訴訟当事者がいかなる理由付けでいかなる違憲の主張を 行うかにより、その判示内容や判示の仕方は変化する。また、下級 裁判所判例に表れた裁判員制度に関わる憲法上の論点も多岐にわた るが、それらは、大別して、①下級裁判所の組織・構成に関わる問 題12 、②被告人の権利に関わる問題、③裁判員(ないし裁判員候補者、 したがって、国民一般)の権利に関わる問題、に分けることができ る。もっとも、被告人の裁判を受ける権利を定めた憲法 32 条や 37 条にいう「裁判所」は、その構成において憲法上の要請を満たすも のでなければならないから、その意味で、①の裁判所の構成に関わ る問題は②の被告人の権利侵害問題と重なり合うことになる。裁判 員裁判の 32 条違反が争われた(3)判決の①と(4)判決の④、(6) 判決の①は、実質的には、「下級裁判所の構成」についての解釈の みで当該争点を処理した事例といえる。 (1)裁判所の組織・構成に関わる問題 ①下級裁判所の構成と憲法上の要請 一般に、「裁判所」という場合、司法権を有する国家機関ないし 官庁としての裁判所と司法権を行使する裁判体としての裁判所の二 つの意味があるが、ここでの問題は、後者の意味の「裁判体として の裁判所」の構成に関わる問題、とくに、下級裁判所において司法 権を行使する裁判体はいかに構成されるべきか、あるいはされるべ きでないかに関わる。下級裁判所の構成に関わる論点のうちで、従 12 司法権の独立や裁判所の構成に関わる問題は、②の被告人の裁判を受ける権 利と密接に結びついた問題であり、場合によってはいわば表裏の関係になるこ ともあろうが、公権力の行使に関わる国家機関の組織・構成に関わる問題と被 告人の人権問題は、理論上も、実際上も、分けて考えるべきものと思われる。 それぞれの領域で問題となる論点が、常に表裏の関係にあるわけではない。来の陪審・参審違憲論の核心をなし、国民の司法参加にとって「最 大の障壁」であったのは、日本国憲法が裁判官の職権の独立(76 条 3 項)やその身分保障(78 条)を定めている以上、憲法上の手 続で選任された裁判官(憲法 80 条の定める裁判官)以外の者が裁 判に関与することは許されないのではないかという問いであったと される13 。 憲法は、下級裁判所の構成については明文規定をおかず(最高裁 の構成については 79 条 1 項参照)、下級裁判所の「裁判官」につい ての規定(76 条 3 項、78 条、80 条など)のみを定め、国民の司法 参加についての規定を置いていない14 。判例は、こうした憲法の規 定の仕方から、憲法により職権の独立とその身分が保障された裁判 官が「下級裁判所の基本的な構成員」((1)判決、(2)判決、(4) 判決)ないし「必須ないし基本的な構成要素」((3)判決と(6)判 決15)であること(以下、国民の司法参加のあり方に対して、こう した観点から想定される憲法上の要請ないし制約のことを「裁判官 の基本的構成員性」からの要請という)を確認したうえで、憲法は 裁判官以外の者を下級裁判所の構成に加えること、すなわち、国民 の参加した裁判を許容している、とする。このように解する根拠と して、判例は、憲法が下級裁判所の構成についての明文規定をおい ていないことのほか、憲法 76 条 1 項が下級裁判所の「設置」を「法 律の定めるところに」よるとしていること、明治憲法が定める裁判 を受ける権利(旧憲法 24 条)が「裁判官」の裁判を明記していた のに対して、現憲法 32 条では、「裁判所」において裁判を受ける権 13 宍戸常寿「裁判員制度の合憲性(刑事裁判例批評 174)」刑事法ジャーナル No28(2011 年)92 頁)。 14 この憲法の「沈黙」の意味をめぐって、学説では、①国民の司法参加(陪審・ 参審)を容認するには憲法上の明文規定が必要か否か(陪審・参審に関わる事 項は必要的憲法事項といえるかどうか)という点が、そして、②この憲法の「沈 黙」の意図が、国民の司法参加を許容するものであったのかそれとも排除する ものであったのかという制憲者意思の理解が焦点とされてきた。 15 (5)判決はこの第一の要請を単独では抽出していない。
利に変更されたことを共通にあげている。また、この「裁判を受け る権利」についての表記変更や、憲法と同時期に制定された裁判所 法に刑事陪審を許容する規定(3 条 3 項)がとくに挿入されたこと からうかがわれる憲法制定当時の「立法者の意図」(制憲者意思) に言及する判例も多い((1)判決、(2)判決、(4)判決など16)。 裁判員裁判が憲法 80 条 1 項((2)判決の①、(4)判決の①)や 憲法 32 条((3)判決の①、(4)判決の④、(6)判決の①)に違反 するとの主張は、下級裁判所は裁判官のみによって構成されるべき であり、また、被告人にはそうした裁判官による裁判を受ける権利 が保障されていると主張するものであるから、憲法が一般国民を下 級裁判所の構成に加えることを許容するものであれば、「裁判官の 基本的構成員性」の内実を積極的に論ずることなく、当該争点を処 理したことを不当とまではいえない。もっとも、下級裁判所をどの ように構成しても憲法上の問題は生じない、というわけにはいか ない。職権の独立と身分が保障された裁判官が下級裁判所の「基本 的な構成員」であることが憲法上の要請であるとすると、裁判に参 加する国民と裁判官のそれぞれの権限や役割分担のあり方によって は、違憲となる可能性がありうる。こうした意味において、たとえ ば、(3)判決の①((6)判決の①も同様)が、下級裁判所の「設置」 を立法事項としている憲法 76 条 1 項をよりどころとして、「憲法 32 条が『裁判所』の裁判を受ける権利という規定の仕方をし、裁 判官による裁判を保障しているわけではないことからすると、下級4 4 裁判所については、法律で定めるところにより、裁判員を構成員と4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 して含む裁判所を設置すれば、それが同条にいう『裁判所』に該 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 当することになるというべきである4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4」(傍点引用者)とする判示は、 形式的な文理解釈に過ぎ、疑問である。 一般に、国家機関の設置を 立法事項とする場合、その機関の構成も含めて法律で定められるの 16 (5)判決は「憲法制定当時の経緯」とのみ表現し、(3)判決と(6)判決は文 理解釈のみで、制憲者意思に言及しない。
が通常であろうが17 、当該立法が憲法に適合するものでなければな らないことは当然であるから、「裁判官の基本的構成員性」からの 憲法上の要請ないし制約が想定される場合、そうした要請が法律の 定める下級裁判所の構成の仕方や各構成員の権限といかなる関係に あるかが問われなければならないはずである。 なお、制憲者意思との関係で裁判所法 3 条 3 項に言及する判例 ((1)判決、(2)判決、(4)判決)が共通して、「国民の参加した裁判」 (国民の司法参加)を「裁判官以外の者を下級裁判所の構成員とす ること」と同義に解していることは注目されてよい。これらの判例 は、「国民の司法参加」の制度に陪審制が含まれることを前提に、「裁 判官以外の者を下級裁判所の構成に加えること」の憲法許容性を論 じており、(1)判決の①−ⓐと(2)判決の①はいわば間接的に、(4) 判決の①は明示的に、「国民の参加した裁判」と「裁判官以外の者 を下級裁判所の構成に加えること」を同義と理解し、陪審制も含め て「裁判官以外の者を裁判所の構成に加えること」と認識している ということになる。裁判員制度は裁判官と裁判員がひとつの合議体 を構成するという意味で、参審制的側面をもち、まさに裁判官と裁 判員はひとつの裁判体を構成する。これに対して、陪審員団は裁判 官とは独立して合議体を構成し、裁判官は陪審の評議・評決には直 接関わらないが、陪審の評決に基づき裁判官が法の解釈と適用を行 うという意味で、裁判官と陪審員は全体としてひとつの裁判体を構 成し、陪審員(団)も「裁判所の構成員ないし構成要素」とみるこ とができる18。そうだとすると、上記諸判例は、参審制的な国民参 加ばかりではなく陪審制の憲法許容性をも弁証したということにな 17 下級裁判所の設置に関わる裁判所法は、それぞれの裁判所の構成についての 規定を置いている。裁判所法 15 条、23 条など参照。 18 陪審員も裁判所の構成員とみることができるという見解はかねてより学説で も主張されていた。常本照樹「司法権―権力性と司法参加」公法研究 57 号(1995 年)74 − 75 頁。なお、兼子一・竹下守夫『裁判法〔新版〕』(有斐閣、1978) 28 頁も参照。(3)判決や(6)判決は、陪審制の憲法許容性に触れるのを避けて、 文理解釈中心の理論構成を行ったようにも思われる。
り((4)判決は意図的にそのような論理構成をとっている)、さら にこれに対して、取り立てて「裁判官の基本的構成員性」からの制 約に言及しなかったという意味でも注目される。 ②下級裁判所の構成と評議・評決方式 判例は、この「裁判官の基本的構成員性」からの要請について、 それが一般国民を下級裁判所の構成から排除することまでを求める ものではないというその消極面を語るのみで、その要請の積極的意 味を固有の問題として取り上げない傾向がみられる。そうした意 味でとくに注目されるのが(3)判決の⑥の判示である。同判決は、 裁判官の多数(2 名)が無罪、その少数(1 名)が有罪でも、裁判 員を含む合議体の多数が有罪ならば被告人が有罪となることについ て、憲法は「裁判官による裁判」を保障したものではないから、憲 法 32 条に違反しないという文理解釈を示したうえで、以下のよう に判示した。 「もっとも、付言すると、・・・裁判官が裁判所の基本的な構 成要素であると解されるから、裁判官の存在が実質的に意味を 持たないような制度である場合には、被告人の裁判を受ける権 利の侵害が問題となり得る。しかし、裁判員法は、裁判官 3 名 と裁判員 6 名による必要十分な評議がなされる(66 条参照) ことを前提に、評決の場面でも、合議体の員数の過半数の意見 に最低 1 名の裁判官が加わっていることを要するとするもので あって、最終的に裁判官の多数意見が通らなかったからといっ て、裁判官の存在を無意味にするようなものとはいえない。す なわち、裁判員法が定める評決方法をもって、憲法が保障する 裁判を受ける権利を侵害するものではない。」 この判示は、「裁判官の基本的構成員性」からして、「裁判官の存 在が実質的に意味を持たないような制度」は被告人の権利保障の観4 4 4 4 4 4 4 4 4 4