原 著 〔書女医蕪,鵠56巻空曇ll載言〕
症候性および無症候性原発性胆汁性肝硬変症の比較検討
東京女子医科大学 消化器内科学教室(主任 小幡 裕教授) カネ コ ァツ コ金 子 篤 子
(受付 昭和61年7月5日)Comparison of Symptomatic and Asymptomatic Primary
Biliary Cirrhosis
Atsuko KANEKO
Department of Gastroenterology(Director:Prof. Hiroshi OBATA)
Tokyo Women’s Medical College
The clinical course, laboratory data and histological change of asymptomatic primary biliary cirrhosis
(aPBC)were compared with those Qf symptomatic group.
Although the mean age of asylnptomatic group on the first visit was older than that of symptomatic group, they still remained on their early stage(Scheuer’s grade 1)histologically, and fifty percent of aPBC remained in asymptomatic state during the follow−up period, and there were no fatal cases in the
asymptomatlc groUp.
The serum bilirubin levels, ICG−R15, serumCu levels were higher in symptomatic group significantly, which showed mainly cholestatic change in liver biopsies. While serum total bile acid levels were higher and their ratios resembled the pattern of extrahepatic cholestasis in symptomatic group, the ratios were not different from normal controls in aPBC.
In immunological studies, serum IgM levels were higher and plasma cell’s infiltration in liver biopsy
specimens were more prominent in asymptomatic PBC, there was, however, no relation between them. Autologous mixed lymphocyte reaction of both groups significantly decreased, suggestゴng the defect of
the autoreactive T cells of patients with PBC.
The difference in laboratory data and clinical course of both groups seems to re且ect histological changes. 緒 言 原発性胆汁性肝硬変(PBC)は,その診断基準 の普及,検査法の進歩により無症候性の症例の発 見機会が増え,症候性群との比較が少なからずな されてきた.その結果,無症候性群は必ずしも症 候性群の前段階ではなく1),むしろ進行しないか, あるいは進行が極めて緩徐である別の病像を示す ものであることが推測されてきた2).しかし無症 候性の状態にとどめている因子はいまだ解明され ていない.今回我々は当科で経験した26例につき 両群間の臨床経過,検査所見を組織所見と共に比 較検討し,さらに免疫学的背景を探求する目的で 自己リンパ球混合培養反応(Autologous Mixed Lymphocyte Reaction:AMLR)を健常者を混え 3群間で比較したので報告する. 対象および方法 対象は昭和47年から59年までの12年間に厚生省 の「難治性の肝炎調査研究班一自己免疫性肝炎分 科会」の診断基準3)に準拠し,肝生検または臨床所 見によりPBCと診断し得た自験26例である.う ちわけは初診時に黄疸,皮膚痙痒感がみられたい わゆる症候性(S)群14例,上記症状を持たない無 症候性(A)群12例である.両週間で,年齢・性, 症状・血液検査所見・合併症,臨床経過,血清胆
汁酸分画,組織所見,AMLRにつき比較検討した. なお胆汁酸分画測定法は高速液体クロマトグラ フィーによった.また,AMLRはヘパリン加末梢 血によりFico11−Hypaque比重遠心法にてリンパ 球分離を行ないヒツジ赤血球とロゼット形成の後 に再度遠心しT細胞及びnon T細胞に分離iし, 1×105のT細胞をResponder ce11,マイトマイ シン・Cで処理した5×104のnon T細胞をSt㎞ula− ting cellとして4日間混合培養し,3H−Thymidine 1μCi添加後さらに18時間培養, T細胞の増殖反 応を3H・Thymidineの取り込み量(△cpm)で表示 した. 成 績 1.年齢・性(Table 1) 男女比はS群で2:12,A群で1:11と両群共 に女性が多い.初診時平均年齢はS群47.9歳(33 歳∼70歳),A群51.0歳(37歳∼67歳)とS群が約 3歳若い, 2.症状・血液検査所見・合併症(Table 2, Table 3) S群初診時症状は廣痒感・黄疸を伴うものが7 例と最も多く,黄疸のみ5例,廣痒感のみが2例 であった.S群のうち3回目食道静脈瘤破裂によ る吐血を主訴とし,うち2例は黄疸を伴っていた. 一方A群は健康診断時あるいは偶然の機会に検 査を行ない,異常を指摘されている. 初診時理学所見ではS群全例に肝腫大を認め たのに対しA群では半数に認めたのみであった. 脾腫はS群9例,A群3例,食道静脈瘤の合併は
Table l Sex and age distribution in PBC on the
.丘rst visit
Symptomatic Asymptomatic
Male Female Male Famale
∼29 R0∼39 S0∼49 T0∼59 U0∼69 V0∼ 11 44211 1 2432 tQta1 2 12 1 11 mean age 47.9 51.0 S群にのみ5例で,門脈圧充進症状はS群に多く みられた. 合併症として両三共に約半数にSjδgren症候 群又はSicca complexを認めたが, S群では関節 痛など全身症状を含むSj6gren症候群が優位で
あったが,A群では乾燥症状のみのいわゆる
Sicca complexが優位であった.なお他の合併症としてはS群で慢性腎不全が1例,A群で
Basedow病が1例に認められた.Table 2 First Symptom or Sign
No. of patients Symptom or sign Symptomatic Asymptomatic n〒14 n罵!2 First symptom icterUS 5 itching 2 icterus+itching 7 variceal bleeding 3 Physica1丘ndings hepatomegaly 14 6 splenomegaly 9 3 xanthelasmata 1 0 varicies 5 0 Collagen disease Sjδgren synd, 5 2 Sicca complex 1 5
Table 3 Laboratory data on the first visit
Symptomatic Asymptomatic n=14 n=12 T−Bil (mg/d1) 4.3±3.79 0.6±0.13
GOT
(KU) 98.7±53.9 74.4±35.6GPT
(〃) 47.4±22.6 56.7±34.4 ALP (KAU) 52.4±31.5 402±25.4 LAP (GU) 611±208.7 623±302 γ一GTP (mU/ml) 273±154.9 201±113 T−Chol (mg/d1) 285±97.3 224±48.2 ICGR15 (%) 21.3±!0.7 9.6±3.2 IgG (mg/d1) 1923±763.4 1859±483 IgA (〃) 413±184.9 293±111 IgM (〃) 669±393 995±313 Cu (μ9/d1) 178±50.2 138±18.4 ChE (」pH) 0.5=ヒ0.16 0.9±0.15AMA
十 n=10 n=0 一 n=4 n=0 一→十 n=0 n=2 mean±SD.Symptomatic group ↑ {n=14) † † † † Asymptomatic group @ (n=12) 一10 一5 ↑ 5 10
■レτime〔years} First visit [=]:asymptomatlc I 囲、、,。,、.g ■ :icterUS Fig.1Clinical course 血液検査所見では,総ビリルビン,ICG−R15,血 清銅(Cu),コリンエステラーゼ(ChE)がS群で 有意に異常値を示し,IgMはA群で有意に高値で あった.抗ミトコンドリア抗体(AMA)はS群14 例中10例,A群12例中10例に陽性で,初診時陰性 だったA群2例は経過中陽性となっている。 3.臨床経過(Fig。1) 両群の臨床経過はFig.1に,初診時から左に問 診による受診前の状況,右に受診後の状況を示し た.症状発現又は生化学検査異常発現時からの平 均経過年数はS群6.3年,A群4.1年である,なお 問診による状況は確認し得た場合であり,生化学 検査異常は胆道系酵素,膠質反応,γグロブリソの 上昇などによった. S群では14例中5例(36%)カミ死亡しており,死 因は消化管出血1,肝不全4例であった.死亡時 平均年齢は54.8歳,症状発現から死亡までの期間 は平均5.9年であり,生存例の症状発現からの平均 経過期間は6.5年であった. A群は全例生存しており,12例中6例は経過中 廣痒感が出現しS群へ移行したが黄疸は伴わな かった.生化学異常発見時から藤痒感出現までの
Table 4 Serum bile acid levels and their ratios in
patients with various hepatobiliary diseases
Disease No, of モ≠唐? TBA iμ9/m1) G/T 窒≠狽奄 C/CDC 窒≠狽奄 Normal controls 9 2.5±0.40 3.75±1.09 0.77±0.08 Cirrhosis {compensated 5 30,9±6.89 5,66±0.85 0.32±0.04 decompensated 7 37,7±8.47 1,88±0.15 0.22±0.05 Extrahepatic @Cholestasis 5 23.4±6.53 2.52±0,83 1.74±0,27 PBC .唐凾高垂狽盾高≠狽撃b
o
9 79.3±90,28 1.26±0.90 1,71±1.11 asymptomatiC 7 19.6±8.08 2.25±1.38 0,77±0,08 mean±S.D.TBA:total bile acid
G:91ycine T;taurine
C :cholate CDC:chenodeoxycholateTable 5 Liver histology
()二%
Symptomatic Asymptomatic Tota1
n=13 n=9 n;22 Scheuer I 1(7.7) 9(100) 10(45,5) II 3(23.1) 3(13.6) Stage H十III 1(7,7) 1(4.6) III 6(46,2) 6(27.2) IV 2(15.4) 2(9.2) 一 8 2 granuloma 十 5 7 destruction 十 5 8 inter・ 撃盾b浮撃≠ 梓 8 1 bile р浮モ狽 proliferation 一 8 8 十 5 1 plasma cell 一 4 1 ± 3 0 十 2 3 升 4 5 平均経過期間は1.9年であった.一方無症候性のま ま推移している6例の平均経過年数は4.7年で あった. 4.血清胆汁酸分画(Table 4)
S群9例(うちA→S群2例),A群7例につい
て測定した.検査時S群は全例黄疸又は廣痒感を 伴い,これらでは血清総胆汁酸(TBA)の著明な 上昇,グリシン/タウリン(G/T)比の低下,コー ル酸/ケノデオキシコール酸(C/CDC)比の上昇を認めた.これは面外性胆汁うっ出時のパターンと 類似していた.
一方A群はTBAの上昇はみたものの,その組
成は正常コントロール群との間に差を認めなかっ た, 5.組織所見(Table 5) S群13例,A群9例につき検討を行なった.その うち外科的喫状肝生検はS群10例,A群7例であ る.Scheuer分類によるとS群ではStage IIIが 6例(46.2%)と最も多く,Stage IVが2例 (15.4%)であり,両者で61.6%を占めている.こ れに対しA群では全例がStage Iであった. さらに肉芽腫の有無,小葉間胆管の破壊・増殖, 形質細胞の浸潤の程度につき各群間の比較検討を 行なった.小葉間胆管の破壊は痕跡又は消失して いるものを→+とし,増生はグリソン梢1つにつき 5コ以上の胆管を認めるものを+とした.形質細 胞浸潤は目立つものを+ト,散見されるものを十と した.肉芽腫はS群で13例中5例に,A群で9例 中7例に認められた,小葉間胆管の変化はS群に 強く,破壊のi著明なもの8例,胆管数の増加を認 めたもの5例であった.A群においては破壊著明 および胆管数の増加を認めたものは各々1例のみ であった.また,形質細胞浸潤の程度はS群では 7例にはほとんどみられなかったのに対して,APhoto l Liver biopsy of symptomatic primary biliary cirrhosis (H−E stain, original
magnification×40)
It shows the Scheuer’s stage ILIII, destructions and proliferations of interlobular bile ducts are
prominent. 群では8例にみられ浸潤高度なものが半数以上を 占めていた.以上をまとめると,小葉間胆管の破 壊・増殖はS群で,肉芽腫と形質細胞浸潤はA群 で多く認められた.それぞれの典型的な組織像を photo 1,2に示した. 6.IgMと形質細胞浸潤(Fig.2) A群において血清IgMが高く組織的に形質細 胞の浸潤が著明であったことから両者ゐ関係をみ
Photo 2 Liver biopsy of asymptomatic primary
biliary cirrhosis(H・E stain, original magnifica− tion×100)
shows the Scheuer’s stage I involving granuloma.
lgM {mg/dl, 3000 2000 1000 0 ● ● 8 8 。 3
。 . 8 8
, : ’ 8
o 一 ± + +・→+ plasma cell ●:Symptomatic o:AsymptomaticFig.2 Serum IgM and Plasma cell in tissue(n=
L
ヌ &薪5
ぎ 量 & 8 .≡ 畳 渾 隻 貞 応 0 Fig.3 P<O.025 P〈0,005一
● 誌 ElControl Syrnptomatic Asymptomatic Autologous mixed lymphocyte reaction
たが,A群において形質細胞浸潤が高度なほど」血 清IgMが高い傾向にあった. 7.AMI、R(Fig.3)
S群7例(うちA→S群4例),A群4例,コン
トロール群5例について検討した.PBC症例ではコントロール群に比し著明なAMLRの低下をみ
た.S群, A群問では有意差はなかったがS群の 方が低い傾向を示した.なおS群のうちAからS 群へ移行したものと初診時から症候性であったも のとの間に差は認められなかった, 考 察1969年Sherlock4)が無症状のPBC 2例を
presymptomatic PBCとして報告して以来,症例報告が増すとともにpresymptomaticに代わっ
てasymptomatic PBCの呼称が広く使われるよ うになったことは,そのまま本疾患に対する概念 の変遷を示しているように思われる.すなわち無 症候性状態が必ずしも症候性への前段階ではない というものである.そこで症状発現と組織学的進 展の関連性が問題となり,無症候性状態が組織学 的変化が軽度であることにもとつくものなのか, あるいは組織学的に高度な進展を示していても無 症候性であり得るのかといった疑問が浮上してぎ た.さらに組織学的変化を軽度にとどめている因 子,あるいは組織的変化の進展にもかかわらず症 状発現を抑制している因子の存在の有無が課題と なってきている.その解明には両州間の臨床像, 組織像を詳細に把握し比較検討することが重要と 考えられる. 疫学的には本疾患は40歳台から50歳台の女性に 好発するといわれているが5),S群およびA群の 年齢差に関しては,F五emingら6)の報告では診断 時S群50歳,A群52歳, Jalnesら6)によれぽ診断時 S群52.5歳,A群61歳とA群で高いか又は差がな い傾向にあり,自験例でも初診時S群48歳,A群 51.5歳と諸家の報告と同様であった.A群の比率 に関してはSherlockら5)の11%, Flemingら6)の 20%と!970年代は10∼20%であったのに対し,近 年はChristensen8)34%, James7)48%と増加傾向 にあり,本邦でも伊藤らDの報告で30例中12例,加 登ら9)17例中11例,自験例26例中12例と約半数を 占めるに至っている. PBCの臨床症状と組織所見との関係について, Christensenら8)は236{ 」の分析により,盛痒感は 胆管の破壊や増殖およびpiecemeal necrosisと, 肝腫大は線維化と関連すると述べている.自験例 でもS群において小葉間胆管の変化が著しく廣 痒感との関連性が推測されたが,肝腫大は組織的 に線維化の軽度なA群にもみられ,両者の関係は 明らかでなかった. 一方組織学的Stageと症状の有無とに関連が ないとする説6)7)10)11)は,A群の中にもかなり Stageの進んだものが含まれることを根拠の1つ としている.しかしこれらの報告はいずれも針生 検標本主体の検討であることにも留意しておきた い.早期PBCに高頻度にみられる肉芽腫の確認 には外科的回状肝生検がより有用であると思われ るからである.ちなみに自験例においては22例中 17例が外科的襖状肝生検による. 次に血液検査所見をみると自験例ではS群に おいて総ビリルビン,ICG−R15が高く,これはS 群の61.6%がStage III以上と病期の進展した症 例が多いことの反映と思われた.血清銅の高値, ChEの三値も同様にS群の組織変化の進行と関連していると考えられた. 合併症として食道静脈瘤はS群のみでA群に は認められず,A群の経過追求でも吐血を呈した
症例はみられなかった.しかしPBCでは
presinusoidal blockにより組織学的には線維化 が進行していない早期からすでに門脈圧充進症状 を呈する例のあることが知られており12)14),早期 から消化管検査をする必要があろう.近年Dry gland syndromeの概念が提唱され,
PBCにおける腺上皮細胞障害が注目されている が15),自験例においても両三共約半数にSj6gren 症候群またはSicca complexの合併をみた.さら にS群において関節痛など全身症状を含むSj6− gren症候群が優位であったことも興味深い. A群の中にも経過を追うと症状発現をみるも
のがあるが,Longら10)は総計20例の
Asymptomatic PBCを2∼11年追求し,平均2.2 年の無症候状態を経て半数がS群に移行したが, A群にとどまるものとの間に組織学上の差はほ とんど見出されなかったと報告している.自験例 でもA群12例中6例と半数において後に廣痒感 が出現しているが,無症候状態持続症例との間に 組織学的な差異を認めていない.しかしながら全 例Stage Iを示したA群の中で2例は部分的に Stage IIIの所見を呈しており,その1例は生検後 まもなく廣痒感出現してS群に移行し,他の1例 は初診時より強い全身倦怠感を訴えていた. A群と正常対象群との間で生存率に差を認め ないとする報告が多い1)2>7).組織学的に予後に関 与する因子としてChristensenは初診時のStage をあげ8),Rollらは線維化の様相即ち門脈域に限 局した線維化は予後良好と述べている2).さらに RollらはPBC 280例の検討において,肉芽腫の有 無は生存率とは無関係としながらも,懊三三生検 に限定した80例の検討では有意差はないが肉芽腫 を有する例の方が予後が良い傾向にあるとしてい る.自験例でもA群は全例Stage Iで死亡例がな く,予後と初診時のStageには関連性があると思 われるが,これらの症例が将来組織学的にいかに 進展するものであるかは今後の観察を待たねぽな らない. PBCの胆汁酸分画は症状発現期間の長い程,また組織学的に進行している程TBAは上昇しC/
CDC比は低下するといわれ,これは主として
CDCの上昇によるとされている16).組織学的には自験例はS群でStage Iが3例(うち2例はA→
S君羊), Stage IIカミ1f列, Stage II十IIIカミ1f列, Stage IIIが4例と半数以上がStage II∼IIIを示
したのに対し,A群は全例Stage Iであった.自
験例におけるS群でのTBAの上昇, C/CDC比
の上昇はこれらの半数以上がStage IIからIIIで Stage IVの肝硬変の時期のものがなく胆汁うっ 滞の時期のものが主だったことに起因すると考えられた.一方A群ではTBAの軽度上昇がみられ
PBCでは早期からTBAの上昇が認められるこ
とが示唆された.また,G/T比は癌痒感を伴う症 例では伴わない症例に比し低下をみるといわれて いる17>.自験例でもS群のみにG/T比の低下を みたが,盛痒感とG/T比の関係については今後 A群例の長期にわたる経過観察による必要があ る. A群において形質細胞浸潤が高度なほど血清IgMが高い傾向にあったが,これはPBCにおけ
るIgM上昇の機序を考える上で興味深い結果で あった. PBCの発生機序に関しては,自己抗体の出現, 自己免疫疾患の合併などの臨床像より異常な免疫 反応のかかわりが考えられており,血清IgMの上 昇や抗ミトコンドリア抗体の出現などから液性免 疫の異常が示唆されている.この点に関し近年は Supressor T cellの機i能異常が報告され18)PBC 患者の免疫異常に対して細胞レベルでの解析がさ れつつある.一方Jamesら19)は本症におけるAMLRの低下を報告している.自験例でもPBC
においてコントロール群と比較しAMLRの著明
な低下をみている.さらにA群S群問では有意差 は認めなかったもののS群でより低い傾向がみられた.これまでの報告はPBCにおけるAMLR
の低下は必ずしも病期分類の進行度と相関しない とされている19)20).しかしながら自験例では同じStage Iを示す症例であってもA群に比しS群
(A→S群を含む)は有意差は認められなかったもののやや低い傾向を示した.これら自験例の検
討結果から,PBC症例においてT細胞と非T細
胞間の自己認識機構に異常が存在することが明らかとなった.またA群,S群に同様にAMLRの低
下を認められたということはAMLRの低下が本
疾患の発生機序に何らかの関与をしている可能性を示唆すると思われる.PBCにおけるAMLRの
低下の機序はまだ明確にされておらず,Supres− sor T cellの機能低下や血清因子の存在など2D今 後究明すべき点が数多く残されている. 要 約昭和47年からの12年間に当科で観察し得た
PBC 26例につき症候性群,無症候性群に分け比較 検討し以下の結論を得た.1.A群は全例ScheuerのStage I, S群は
61.6%がStage III以上を示し,組織学的進行度と 症状及び予後の関連性が示唆された.2.血清胆汁酸分画はA群ではTBAの軽度上
昇のみであるが,S群では胆汁うっ滞パターンを 爪した.3.A群ではS群に比し血清IgMが高値で,組
織学的には形質細胞浸潤の著明なものが多くみら れたが,血清IgMと形質細胞浸潤の間には明らか な関連はみられなかった. 4.両三共にAMLRは著明に低下し,本症にお けるT細胞の自己認識能に異常が認められた. 結 語臨床経過からA群の中にはS群の前段階とも
いえるものと無症状のまま経過するものの2つの 群が存在する可能性が考えられた.また無症候状 態は組織学的変化が軽度であることに基づくこと が推測され,症状発現には小葉間胆管の変化や胆 汁酸分画におけるG/T比の低下などの関連性が 考えられた.また.A群の組織学的変化を軽度にと どめている因子の解明には今後の検索を持たねぽならないが,AMLRの低下がA群で少ない傾向
であったことから免疫学的機序の関わりも示唆さ れた. 稿を終えるにあたり,御指導御校閲下さいました小 幡 裕教授に謝意を表します.また御三導いただきま した久満董樹助教授,山内克己先生に深謝いたしま す. 本論文の要旨は第19回日本肝臓学会東部会で報告 した. 文 献 1)伊藤よしみ・ほか:原発性胆汁性肝硬変一症候 性・無症候性についての比較検討.肝臓 24(8) 853∼858 (1983)2)Roll, J., et al.:The prognostic importance of
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