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アラヒノダクチリーの二症例

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〔臨 床 実 験〕

(東京女医大誌第27巻第3号頁158−161昭和32年3月)

アラヒノダクチリーの二症例

東京女子医科大学眼科学教室(主任加藤教授) 岩 イワ 瀬 セ 節 セツ 子 コ

(受付昭和32年1月29日)

緒 言 アラヒノダクチリーは,1896年Marfanによ り,Dolichostenomelieとして初めて報告され, その後,眼科医が本症に先天性水晶体偏位を認め てから,その報告例も屡々見られる様になった。 後にAchardがこの疾患をアラヒノダクチリー と命名した。1931画面eveは本症の原因を胎生 期の中胚葉に於ける欠陥とし,中胚葉性の骨格, 靱帯,筋肉,腱,結合織,脂肪組織,一血.管,心臓 の変化が圭で,外賢葉性の変化があれば二次的の 栄養障害による発育不良によるもので,先天性中 胚葉性栄養障害マルフアン症候群とした。現在, 内分泌異常説,新陳代i話説等あるが,このWeve の説が最:も有力である。私も最:近,両眼水晶体偏 位を伴ったアラヒノダクチリーの不全型及び左眼 の先天性雛髪状網膜剥離を伴える定型的アラヒノ ダクチリーの2例の全身的所見を検し得たので, 左程稀な疾患ではないが,之を報告しておくこと は決して無意味ではないと思う。 症 例 第1例 患者:小○正○,8才の男児 初診:昭和31年3月26日 主訴:視力障害 既往歴:生来健康で食欲があるのに肥らない。 家族歴:両親は健康で血族結婚ではない。同胞も健 康で眼の悪いものはない。唯父方の祖父が若年で死亡 し,眼が悪かったという。 現病歴:幼時より物を見るのに,眼を近づけて見 る。就学して学業にさしつかへるので,視力障害の原 因を明らかにするために当眼科を訪れた。 現症:全身所見としては,全体に痩せた感じ で,手足の細長いのが目立ち,長頭症で年令より も老けた感じがする。身長は124cmで同年令に 比べて高く,体重は21kgで普通であるが皮下脂 肪が少い。病的反射はみられず,扁平足はなく, 上肢下肢とも年令に比して長く,その周径は小さ い。又軽度のO−Bein, Rosenkranzを認める。胸 廓の発育が悪く,脊柱の運動範囲は大である。手 指は過度の伸展が可能で運動範囲が大であるが, 関節に異常を認めない。耳介は大きいが形状異常 はない。口腔,歯芽発生は正常である。胸部に於 ては,心濁音界は正常で心音は純,肺には打聴診 上異常はなく,レ線所見に於ても特記すべき所見 を認めない。肝脾は触れなかった。 眼所見としては,視力は右眼0.03(0.1×一12 D),左眼0.04(0.1×一12D)。散瞳すると,両 眼とも(0.1×一20D)。光線反応は異常なく,瞳 孔不同,瞳孔偏位は認められないが縮瞳症を認め 第一図左 眼 Setsuko IWASE : (Department of Ophthalmo!ogy, Tokyo Women’s Medical Cojlege) : Two cases of arachnodactylia.

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47 る。外眼部は特記すべき事はない。虹彩には虹彩 震猛症を認めない。水晶休は両眼とも内上方に偏 位砺混濁はなく,大きさは普通であるが,細隙 燈顕微鏡検査で,細い水晶体小帯がみられた。 眼底には定型的二重乳頭像,強度の豹紋状眼底を

示す外,異常を認めない。眼圧16mmHg,眼球

突出度12mm,眼窩直径32mm,角膜の大きさ

12×10mmで正常である。視野は外側より軽度に 狭窄している。石原式色盲表で色覚異常を認めな い。 臨床検査所見としては,血液生化学的所見は, 総蛋白量7.4g/dl,残余窒素27mg/d1, K+20mg/ dl,〕Na+323mg/dl,無機リン5.8mg/dl, Cai+9.8 mg/d1で正常値である。血液像は,赤血球数450 万,白.血球i数7200,血色素:量90%(Sahli),白』fi! 球百分率は好中球58%,リンパ球35%,好酸球4 %,好塩1基■R O%,単球3%,N:L1.6。普通10 才で成人と同様の百分率を示すが,本島では8才 ですでに成人の百分率を示している。.血圧98/60 mmHg,紙数72/min,肺活量指数11.29,基礎代 謝率は+15%,EKGはエE常である。尿所見に異 常なく,アドレナリン試験は中等度陽性を示す。 」噴L液梅毒反応,トキソフ。ラスミン反応は陰性で, ツ反応は半年前陽転している。骨のレ線所見とし て,トルコ鞍がやや大きく,頸椎棘突起,上腕骨 骨頭の発育が悪く,第5腰椎に潜伏性脊椎破裂を 認めた。手根骨の核の発育遅く,舟状骨,豆状骨 の核の出現が認められなかった。左脛骨粗面の核 がすでに出現して大きい。足指は細長い感じがす るが骨に異常はみられなかった。 治療及び経墨:両眼に水晶嚢切割術を行い,白 内障をおこさせ,水晶体の吸収をはかったとこ ろ,術後約1ヵ月で,視力は右眼0.1(0.3×+5.O D),左眼0.01(O. 3×十6.OD)となった。その後, 佐藤氏刀にて後発白内障切詮術を両眼に2回行 い,最終手術より更に,約2カ月半では,視力は 右眼0。2(0.7×一1−7.OD),左眼0.2(0.8×十8.O D),近距離視力は,右眼0.工(O.6×10D),左眼 0.1(0.5×十10D)となった。右眼に後発白内障 を僅かに認めるが,患者は日常生活及び学業に支 障を来たさないという。

第2例

患$:大○惇○,27才の男 瓢診:昭秘31年5月7H 主訴:視力障害 饒往歴:幼時より頭痛,心悸充進を訴えていた。昭 和29年7月,自然気胸,昭和30年9月,肺浸潤のため 療養,昭和31年5月,心悸充進を主訴として,:本学心 臓血.圧研究所に入院し心室中隔欠損の疑いとの診断を うけた。 家族歴:両親は血族結婚ではない。現在,肺結核で 療養中の姉は幼時より視力障害を訴えているが,他の 同胞は健在で,唯背が高く痩せているという。 現病歴:幼時より視力障害あり,左眼は先天性白内 障の診断で,12才の時手術をうけ,以来,手動を弁じ る程度となった。その当時の視力及び術式は不明であ る。就学時より左外斜視に気付いている。心臓血圧研 究所より,アラヒノダクチリ…の疑いがあるため,眼 検査を依頼された。 現症:全身所見としては,全身痩せて細長く, 身長は173cm,体重は48. 5k9,胸囲75cmで,皮 下脂肪が少い。軽度の扁平足を認め,手足の指は 細長く,攣縮をおこしている。叉爪,特に手の爪 にチアノーゼが著明に認められ,肘関節は変形し ている。胸廓の発育が悪い。口蓋は高く,上顎前 歯列は,やや前方に突出し,歯牙発生は正常で, 二重歯列はない。長頭症を認めた。胸部に於て は,心濁音界は右に拡大し,聴診上左胸雷害に収 縮期の雑音を聞く。肺にはレ線所見に於て,結核 性病変を認める。肝脾は触れない。 眼所見としては,視力は右眼0.1(0.8×一6.5 D),畑鼠20cm/mm,光線反応は右眼は異常な く,左眼は直接及び同感反応なく瞳孔偏位を認め る。縮瞳症はない。外眼部に異常は認められな い。虹彩は右眼は正常で虹彩震盈症なく,左眼に は虹彩後癒着及び人工的虹彩欠損を認める。水晶 体は右眼に水晶体偏位や白内障を認めず,左眼は 瞳孔領の%以上に後発白内障を認めた。眼底所見 は,右眼には耳側コーヌスの他異常なく,左眼に は後発白内障があるため,はっきりしない。眼圧

は,右眼30mmHg,左眼18mmHg,眼球突出度

は右眼17mm,左眼15mm,眼窩直径は両眼とも 40mm,角膜の大きさはエ2×1エmm,で特に右眼 の眼球突出を認める。視野は外側より軽度に狭窄 している。石原式色盲表で色覚異常を認めない。 斜視度は正切スカラでは,右眼5度s左眼36度で ある。眼筋麻痺はない。 臨床検査所見としては,血液生化学的所見は, 総蛋白量7.459/dl,残余窒素21mg, C1−3581ng/ 一 159 一

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48 d1, K+12mg/dl, Na+293mg/dl,無機リン3.5 mg/dl, Ca丹7.8m菖/d工でKとCaが減少してい る。』h1.液像は,赤血球数500万,白抽倒1数7000, 血色素量82%(Sahli),白血球百分;率は好中球62 %,リンパ球33%,好酸球1%,単球4%,N:L は1.87で正常である。血.圧128/40mmHg,回数 75/min.,基礎代謝率は+22%であった。肺活量 指数19.1で同年令に比し減少し,EKGは両心室 肥大を示し,尿所見とし℃は蛋白痕跡的(スルポ サリチル酸法)ウロビリノーゲンは中等度陽性, 比重1.032,沈渣に赤血球,白!血球を若干認める。 血液梅毒反応,トキソプラスミン反応は陰性で, ツ反応は陽性,血液の細菌学的培養検査で緑色連 鎖球菌が検出された。骨のレ線所見として,全身 の骨は細長く,トルコ鞍は梢拡大し,肘関節の澆 骨小頭,尺骨肘頭の発育不全,形態異常を認め, 左納骨小頭の脱臼がある。特に蜘蛛状指趾,外反 栂指,第1趾外反位がある。 治療及び経過:細菌性心内膜炎,肺結核病像が 落付いたので,8月1日,眼科に転科し,左後発 白内障,外斜視の手術を行った。左眼の共晶性外 斜視は治癒したが,後発白内障手術後の眼底検査 に而て,先天性鐡襲状網膜剥離を確認し,視力の 改善は得られなかった。 総括並びに考按 アラヒノダクチリーに於ては,主として中胚葉 性の変化が見られる。即ち四肢が痩せて細長く, 関節には多く攣縮,叉は過度の伸展をみる。長頭 症,眼球突出,耳介大で細長く,対耳輪は突出 し,耳軟骨の発良不良のため恵雨を作る事もあ り,又口蓋高く轡曲,時に二分し,歯列は二重排 列する事が多い。肩凡骨は羽状をなし,胸廓の変 形をみる事が多い。脊柱は過度の前轡叉は後轡を 示し,潜伏性脊椎破裂をみる事がある。叉筋肉は 一般に発育不良で細いが麻痺はなく,扁平足,内 反足の事が多いと記載されている。第1例はその 2,3症状を伴い,第2例は定型的アラヒノダク チリーを示すと思われる。又レ線所見に託て,ト ルコ鞍の拡大を認める事があるので,一部の人は 本症の原因を,下垂体の機能異常によると云う が,本症は先天性疾患で脂肪が少く,性腺の機能 異常を認めず,末端肥大がない点から反対するも のもある。私も2例にトルコ鞍の拡大を認めた が,その他の症状を伴わず,下乖体の機能異常に よるとは思われない。西面核の癸現が早いと云わ れているが,第1例では手根骨の発現が,かへっ て遅れている。本症に於ける心臓障害は,Weve によると25∼30%にみられると云い,軽度の収縮 期又は前収縮期雑音をきき,弁膜症,卵円孔開 存,心拡:大を認め,血圧は一般に低く,脈は弛緩 する。叉はEKG所見に心筋障害を認めた例もあ り,1 U検例13就中,心臓血管系に全く異常を認め なかったのは唯1例であったという。.私の第2例 に於ては,既往歴その他により先天性心疾患と思 われる。肺には葉数の減少しているものもあり, 叉胸廓変形のために肺炎をおこしやすく,死亡す る事もあるという。第2例に於て肺結核,自然気 胸をおこした事はあるが肺炎はおこした事がない という。アラヒノダクチリーは,屡々眼の先天異 常を伴う事が知られている。最も多いのは,先天

性水晶体偏位で,Weveは本症中33%にこれを

み,両眼に来る事が多いという。叉水晶体の前房 脱臼のため,急性緑内障をおこしたり,水晶体小 帯の緊張が減弱され,水晶体の形が球状に近くな り,且つその前方に転移するため強度近視を訴へ 一40Dに達する事がある。叉偏位の状態に依って は十14Dの遠視になる事もある。樹虹彩震感症, 瞳孔偏位,瞳孔運動の異常,縮瞳症,小角膜,大 角膜,斜視,眼球震糧症等の先天異常を伴う事が 多い。第1例に於ては,定型的水晶体偏位,二重 乳頭像,縮瞳症を認めた。叉散瞳しなければ一12 Dの近視で,散瞳すれば一20Dとなる。此の主な 強度の眼鏡の装用は不可能であるし,叉急性緑内 障等をおこす恐れがあるので水晶体を摘出する事 が望ましい。両眼に水晶嚢切割術を行い,水晶体 の吸収をはかり,更に後発白内障切心術を行う事 により,右眼0.2(0.7×十7. OD),左眼0.2(0.8 ×+8.OD)の視力改善をみた。水晶休偏位の原因 としては,いろいろあるが本葉に於ては,角膜, 心膜,水晶体の大きさは普通であり,中胚葉性の 索状物,虹彩脈絡膜欠損等を認めなかったので, 水晶体小帯の変化によると心えられる。即ち,水 晶体小帯は外胚葉性であるが,その栄養は中胚葉 性の.睡1管により行われ,その栄養障害によって, 水晶体小帯が細く切れ易いか延び易いか発育不均 等か,叉は異常に長く発遠すると思われる。第2 例に於ては左眼に共心性外斜視,先天性温言状網 膜剥離,右眼に強度の近視を認めた。省この例に 一 160 一

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49 於て右眼には水晶体偏位を認めず,左眼に偏位が あったかどうかは,12才の時,:先天性白内障の手 術を行っているので不明である。アラヒノダクチ リーは報告例の約30%に遺伝及び家族性がみられ るが,血族結婚でなくてもおこり得る。Weveは 家族遺伝性で恐らく優性遺伝であろうという。色 覚異常を認める事多く,本邦では男に多くみら れ,梅毒反応は陰性の事が多いという。私の経験 した2例とも,はっきりした遺伝関係は認められ なかった。 結 論 両眼水晶体編位を伴ったアラヒノダクチリーの 不全型及び左眼の先天性繧襲状網膜剥離,先天性 白内障を伴った定型的アラヒノダクチリーの2例 の全身的所見を報告し,第1例に手術的治療を行 って視力の改善をみた。 終りに加藤教授の御指導御校閲を深謝し,心臓血圧 研究所,整形外科,小児科,放射線科の諸先生の御緩 助を感謝いたします。 (本稿の要旨は昭和31年5月25目東京女子医科大学学: 会第79回例会にて口述した。) 主要文献 1)庄司義治:銀科臨床医報,15,282(1920) 2) Weve:Arch. f. Augenhk Bd. 104, S.1(193D 3)下山忠典:日本眼科学会雑誌,35,1369(1931) 4)早川宏学:日本眼科学会雑誌,37,220(1933) 5)大山信郎:眼科臨床医報,35,895(1939) 6)梶 利一:日本眼科学会雑誌,44,2368(194G)

7) F.C. Lutman and J.V. Neel: Arch. o,,

Ophth. 41, 276 (la.49)

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