• 検索結果がありません。

実行機能に困難のある児童生徒のアセスメントと介入

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "実行機能に困難のある児童生徒のアセスメントと介入"

Copied!
21
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

George McCloskey:Philadelphia College of Osteopathic Medicine マクロスキー 今日ここにお招きいただきまし て、ありがとうございます。皆さんに実行機能に ついてお話しできることを光栄に思っておりま す。

1 実行コントロールとは

 始めに、実行機能の作用(以下、実行コントロー ル)に関して少しお話ししたいと思います。よく 実行コントロールについて語られるときには、実 行コントロールは脳の代表取締役(

CEO

)であり、

指揮官となって、脳の他の部分に指令を送ってコ ントロールしていると説明されることが多いかと 思います。しかし、この比喩はどちらかというと 不完全で、大きな企業であれば、社長と、あとは 全て平社員というだけではないですね。社長なり 代表取締役と実際に働いてくれる人とを繋ぐ中間 管理職がいます。実行コントロールも同様に、取 締役に至るまでに、何層にもわたって中間管理職 の層があるというふうに考えていただくといいと 思います。もちろん、脳のその他の機能、労働者 と言っていますけれど、それは脳のいろんな部分 にあるわけで、そのいろんな部分を動かすために 中間管理職として実行コントロールが作用し、そ してそれが何層にもわたって取締役のところまで 繋がっていると考えていただくのがいいと思いま す。

 このように、実行コントロールは前頭葉内にあ

る管制塔のようなもので、精神活動の指示的な働 きをしますが、それは単一で動いているわけでは なく、層状に複数の機能を持っています。そし て、そこから合図や指示を受けて実際に動く労働 者は、思考、感情、行動、知覚という

4

つの主な 部門に分かれています。これらはそれぞれ脳の異 なる部分によって行われています。

2 実行コントロールの2つの役割

 先ほどからお話ししているように、実行コント ロールには

2

つの重要な役割があります。それぞ れ『実行機能マネージャー』、『実行スキルマネー ジャー』と呼んでいます。『マネージャー』という のは、中間管理職だと思ってください。

1

つめの

『実行機能マネージャー』は、その機能を“いつ”

使うかということを合図します。

2

つめの『実行 スキルマネージャー』は、“どのように”するかと いうことを指示します。

 例えば、計画をしなければならないときには、

『実行機能マネージャー』はいつ計画したらいい のかということが分かっているので、「今しなさ い」と信号を送ります。それから、『実行スキル マネージャー』は、その計画をするためには脳の どの部分がどのように働く必要があるかを知って いるので、各部門の労働者に「今、このようにし なさい」と指令を出します。さらに、『実行スキ ルマネージャー』は、労働者が働き始めてからも、

ジョージ・マクロスキー

実行機能に困難のある児童生徒の アセスメントと介入

――認知神経心理学に基づく「子どもの学習・行動が変化を促す技法論」――

「学習障害と産出障害」

【特集:実行機能に注目した支援・介入】明星大学発達支援研究センター 国際講演録

(2)

それが適切にできているかどうかを確認し、作業 を維持するようにします。

 私の臨床経験では、“いつやればいいかという ことは分かっていても、それをどういうふうにや ればいいか分からずうまくいかない人”と、“や り方は分かっていても、いつやればいいのかとい うことが分からない人”がいるように思います。

例えば、計画を立てる際に、前者は、『実行機能 マネージャー』はうまく働いているので、「今や ればいい」ということは分かりますが、どのよう に取り組めばいいかという点についてはつまずき が生じます。このような、やり方・取り組み方が 分からないという状態は、必ずしも計画する能力 がないことが原因とは言えません。計画をする際 に必要な

1

1

つの能力を(労働者たちがそれぞ れ)持っていても、それをコーディネートして上 手に使うという点がうまくいかないために、せっ かく能力があっても使えない状態になっていると 考えます。

 一方、後者は、『実行スキルマネージャー』は うまく働いており、どのようなことをすればいい かについてもよく知っているので、取り組むこと 自体は問題なく行えます。しかし、必要なとき・

必要な場所で使うことができないため、周りの人 からすると、その人は計画の立案がうまくできる か分からないままになることがあります。

 『実行スキルマネージャー』がうまく稼働して いない場合は、トレーニングをして、上手に使う 方法を教えることができます。ただし、支援者が いない場面や新しい環境の中であっても、本人が 教わった内容を“いつ”使うのかということを理 解したうえで使えるようにする必要があります。

また、『実行機能マネージャー』がうまく稼働し ていない人の場合においても、念のため『実行ス キルマネージャー』がうまく作動するようにト レーニングを行います。その後、トレーニングの 場で本人が学んだ内容をどのようなときに使えば いいか、考えてもらいます。両者を比較すると、『実 行機能マネージャー』のほうが、修正して改善し ていくのに苦労を伴います。

3 実行コントロールの階層

 実行コントロールは企業で言う管理的な働きを する部分であり、層状に構成されているとお伝え しました。そのうち、労働者に最も近い管理職の 層が、『自己調整』に関わる実行コントロールで す。これは、皆さんが毎朝目覚めたとき、

1

日を 過ごしていくうえで最初に使うものであり、その ときに何が必要かということで動いていくものだ と思っていただくといいと思います。

 この『自己調整』は、その日ごとに改められて いくのですが、毎日起きたとき、新たに

1

日を始 めるための調整を

1

週間続けたとしても、「週末 の金曜日までにやらねばならなかったことが終 わっていない」というようなことがあるかもしれ ません。この場合、

1

1

日を調整しているだけ ではうまくいきません。例えば、「金曜日までに

○○をする」とか、「エネルギーを週末までとっ ておく」などのような、『自己調整』をさらに調整 する『自己決断』という、より高次の実行コント ロールが今度は必要となります。そのためには、

自分の“強み”と“弱み”を理解する『自己認識』

も必要です。企業に例えると、最初の『自己調整』

は中間管理職の係長で、『自己決断』や『自己認識』

はその上の課長ぐらいのイメージです。

 日々の臨床活動の中で、私が子どもと実行コン トロールのトレーニングをするときには、「“自 分はこういうふうになりたい”というゴールはあ る?」と聞きます。そして、ゴールがあるならば、

「そのゴールを達成するために、今、問題がある ことに気付いている?」と質問をしていき、自分 の状態を意識させます。それらに返答できる子ど もであれば、「あなたのゴールを達成するために、

どのように自己調整をしていけばいいかというこ とについては、先生は手助けできるよ」とアプロー チします。もちろん、中には「ゴールが全くない」

という子どもや、ゴールの達成に問題があること に気付いていない子どももいます。そのような場 合は、そこを介入のポイントとして、“どのよう にすれば自分のゴールを持つことができるか”と

(3)

いうことを教えたり、自分の問題点に気付くため に、課長レベルの実行コントロールが動くように 働きかけたりしていきます。自分のゴールなどを 明確にした後は、下のほうの実行コントロールの うち、どの部分でつまずきが起こっているのかを 見ていきます。その後は、それを“いつ”使えば いいのかが分からないのか、“どのように”した らいいのかが分からないのかを特定していき、そ こに働きかけるということをします。

 『自己認識』や『自己決定』よりも上のレベルに なると、今度はゴールをただ達成すればいいので はなく、ゴール達成の背後にはどんな作用がある のかを考えるようにしていきます。ゴールの達成 によって他の人を犠牲にするとか、環境を犠牲に するなどのことが起こるとすれば、“仮にゴール を達成したとしても、その影響で周囲がマイナス の状況になったり、他の人が何かを失うことに なったりするけれど、それで本当にいいのか”と いうことを考えます。つまり、作用とゴールとの 組み合わせについて考えるようにするのが、この 次のレベルになります。ですから、そこには当然、

道徳や倫理というものも関係します。今、自分の ゴールを道徳的・倫理的な面から見てどうである かということ、そして、それがゴールの設定に影 響し、さらにはそのゴールの設定が自己調整の在 り方を決定していく、これが『自己発展』の段階 となります。

 一番上の代表取締役になると、もう少し哲学的、

精神的になっていきます。そのゴールによって、

その後の全てが決定されていくわけなので、「こ ういう自分が、道徳や倫理と統合してゴールを決 められるか」といったように、自分の精神をつか さどります。一番上は『超自我統合』と言い、自 分を突き動かしている精神的なものや哲学的なも のは、自分の中にあるのか、あるいは外からのも のなのかなどについて考えるような領域になりま す。

 これまでお話ししたように、実行コントロール は、日常的な活動とそれの自己調整だけではあり ません。前頭葉における意識の階層(スペクトラ

ム)になっていて、それがどこまで活性化されて いくのか、というようなイメージでご理解いただ ければと思います。

 小学生の場合には、おそらく自己調整のところ で十分に介入できると思いますが、それが中学生、

高校生になっていく中で、自己認識や自己決定が 大事になっていくということがお分かりいただけ るかと思います。

4 自己調整に関わる実行コントロール  自己調整を行うためには、「注意をコントロー ルする」「計画を立てる」など、非常に多くのこ とが必要となりますが、それら

1

1

つに対応す る実行コントロールがあり、全部で

7

つのクラス ターに整理できます(図

1.

)。

図 1. 自己調整の実行コントロールにおける7つのクラス ター (本講演の配布資料を基に編集者が作成)

 まず、『注意』のクラスターは、〔認識〕〔焦点 化〕〔維持〕という

3

つのマネージャーに分けら れます。学校の先生が子どもについて語るときに、

「ちっとも注意しない」「注意散漫になっている」

と言うことがあります。そして、「“ちゃんと注意 を向けなさい”とか“ちゃんと聞きなさい”と伝 えても、言うことを聞かない」と先生たちは不満 を口にします。しかし、先生がただ「注意を払い

(4)

なさい」と言っているだけでは、“どのように何 をしたらいいか分からない”“先生の指示が明確 になってないために、その行動ができない”とい うような子どもがたくさんいます。この他にも、

“いつ注意を向けるべきか”のサインを出して教 えてもらえれば、注意を払う方法は知っていると いう子どもや、それでもまだ先生の指示が漠然と しすぎていて分かりづらいという子どももいま す。

 例えば、〔認識〕というのは、実際に知覚する わけなので、いつそちらを見たり、聞くように耳 を傾けたり、あるいは、触ったりということをし なければいけないかという合図を送ります。さら に、いつすればいいかだけではなく、どのぐらい 長くそれをし続けなければいけないか、何を見た り、聞いたり、触ったりしなければいけないかと いうことを指示します。「注意を払いなさい」と 言っただけでは、何をすればいいか分かりにくい ですが、「今、先生が書き終わるまで、黒板を見 ていなさい」と伝えられると、非常に具体的にな りますよね。「先生の話が全部終わるまで聞いて いなさい」とか「積み木を形ができるまで触って いなさい」のように言えば、いつまでに何をすれ ばいいのかよく分かります。

 図

1.

には全部で

33

の実行コントロールが記さ れていますが、それぞれに対してもっと具体的に 合図を送るということもしますし、

1

つずつだけ ではなく、他のものと組み合わせながら合図を 送っていくこともします。例を挙げれば、最適化 のクラスターにある〔モニタ〕と〔修正〕を同時に 使うということがあります。例えば、「間違いを 探しなさい」と言うときには、こちらは当然、“間 違いがあるかどうかモニターすること”“間違い を見つけたらそれを修正すること”を期待してい るわけです。しかし、「間違いを探しなさい」と 言うだけでは、子どもによっては、間違いは見つ けるけれども、それを自動的に修正することがな かったりします。

 具体的には、テストを提出したときに、先生が

「間違いがないかちゃんと見た?」「見直しはし

た?」と聞くと、子どもは「しました」と答えます。

そのうえで先生が、「でもこことここを間違えて いるよ。どうしてそれを直さなかったの?」と聞 くと、子どもは、「えっ?」という顔をすること があります。そのような子どもたちの中には、非 常に頭のいい子どももいます。そのため、先生側 としては、その子どもは当然そのようなことが分 かっているものだと思います。しかし、実際、そ の子どもは、“間違いを見つける→直す”という ことが繋がっていないままになっています。この ような場合には、「見直しをしなさい」と指示す るだけではなく、「見直しをして、間違いを探して、

間違いがあったらそれを直しなさい」といった指 示を出すことで、子どもは十分に機能できるわけ です。

5 自己調整に関わる実行コントロールの発達  

7

つのクラスターに分かれた

33

の自己調整の 実行コントロール(図

1.

)は、生まれたときから 徐々に発達をしていきます。中には、もう少し年 齢が上がってから必要とされるものもあります。

1.

の【】内には、必要性が増してくる学年を示 しました。幼稚園や小学校に入って集団活動にな ると、先生は最初に「注意を払いなさい」という ことを要求します。そのため、注意を払えない子 どもというのは、私たち支援者側が最初に気付く タイプだと思います。

 注意を払えているということが分かれば、次は、

「こちらの指示や働きかけに対して反応する」と いうような『取り組み』に関する内容を求めるよ うになります。「止まれ」と言ったときにその作 業を止めるとか、「○○をしなさい」と言ったら 実際にその活動を始めるといったことをこちらは 期待しますので、そこでまた、うまくいかない子 どもに気付くことになります。取り組みがうまく いっていない子どもは、注意が払えない子どもの 次に、皆さんが気付くタイプだと思います。

 それから、『最適化』というものを求めるよう になります。いろいろと注意を払って、実際に指

(5)

示に従って反応するようになったら、今度は自分 のやっていることをモニターし、間違いがあれば、

それを訂正し、さらに、バランスを取って、ふざ けていいときと真面目にやらなければいけないと きの調整がうまくできるようになることを、こち らは期待するようになります。

 『最適化』の中に〔調節〕とありますが、思考や 感情などの度合いを調節するということも、この くらいの年齢で期待するようになっていきます。

例えば、私たちが子どもたちの行動を見るときに、

自分の行動をモニターして、それをいい具合に調 節するということができるかどうかを見ていきま すが、こちらが期待するような行動にならないと きには、何かうまくいっていないことに気付くわ けです。具体的に言うと、話をするタイミングは 理解していても、実際に話をする際にはすごく大 きな声になってしまったり、行動するタイミング は理解していても、やりすぎてしまったりする子 どもです。調節がうまくいってないと、このよう なことが起こります。ですから、先生や支援者が

「話をしてもいいよ。でも、怒鳴らないでね」と か「動いてもいいよ。でも、走らないでね」といっ たように伝えてあげると、こういった子どもたち の調節を助けることになります。

 小学校高学年になりますと、『記憶』というと ころの自己調整もうまくならなければなりませ ん。テストを受けたり、テストのために勉強した りするようになりますので、どういうことを一時 的に保存したらいいか、どういうふうに操作すれ ばいいか、また、どのように記憶しておいたらい いか、さらには、記憶するときのルーティンにつ いても自分で分かることが期待されていきます。

中学・高校生くらいになりますと、『見立て』が できる必要が出てきます。それはどのくらいのも のなのか、どのようになるかということを予想し て、そこを自己調整していくということ、分析を すること、それにどのくらいの時間が必要かを把 握することが求められます。そして、それを比較 していくということも必要となります。

 これまでのお話でお分かりいただけますよう

に、学年が上がるほど、自己調整の要求度合が増 していきますし、自己調整をうまく使うことが求 められます。すごく面白いことに、私たちは、子 どもにこれを一切教えずに期待をしています。私 たちは、こういった自己調整の力を、「もうこの ぐらいの年齢になったのだから、これぐらいでき ていいはずだ」と言うだけで、“いつ”“どのよう に”使うといいかについてアドバイスをすること もなく、教えることもなく、ただやってくれるこ とを期待しているのです。

6 内的な欲求と外的な要請

 さまざまな子どもの実行コントロールについて 見ていきますと、次のようなパターンがあること に気付きます。それは、『自分のやりたいことや 好きなことであれば、うまくできる』ということ です。自分が好きではないことに対しては、パ フォーマンスも最も悪くなるということが見られ ます。例えば、ゲームは

5

時間もやっていられる のに、宿題だと

15

秒でダメになってしまうとい うことがあります。

5

時間も注意を向けて集中し てゲームはできていますから、注意を払えないわ けではありませんよね。つまり、自己調整をうま く働かせることはできるけれども、本人が苦手ま たは嫌いなことはできないという現象が起こりま す。

 本人が好きなことなら取り組みやすいという点 は当然ながら納得できます。モチベーションの問 題と言ってしまうと簡単ですよね。しかし、モチ ベーションが低くても取り組まなければならない ことはたくさんあります。自分が好きなことや興 味があるところには、モチベーションを上げた り、うまく自己調整したりすることができている わけですよね。これと同様に、今度は外側から要 求をされて、本人としてはそれほど乗り気になら ない、好きではないことに取り組まねばならない ときに、脳をそちらに向けて取り組む方法につい て、教えていく必要があるわけです。

 まず、自己調整をしているときの脳の働きにつ

(6)

いて簡単に説明します。脳の中心には、脳の報酬 センターというものがあります。そして、実行機 能と脳の報酬センターには、非常に密接な関係が あり、これを『内的欲求の経路』と呼びます。自 分が好きなことをやるときには、報酬センターが 実行機能にエネルギーを与えます。活気づけると いうか元気づけるというか、そういった働きをす るので、実行機能が作動しやすくなります。これ を私たちは『内発的報酬』と呼びます。一方、取 り組むべき内容が自分のしたいことではないと き、先生や保護者からの指示は外側からの要請と なりますから、内的な脳の報酬センターのほうか ら実行機能が元気づけられることはないので、外 側からの要請に反応するようにどうにかして脳を 動かさなければなりません。それがうまくいかな い子どもの場合、実際に出された指示に従わない ので、周囲からは、「その指示に対して反抗して いる」というように思われがちです。ところが実 際は、外的な要請に対して、どうにかして自分を 動かそうとしているものの、その方法が分からな いためにフラストレーションを感じているという ようなことが起こっています。

 もちろん、宿題に取り組むための時間以上に、

宿題をすることを嫌がっている時間が長くなって いることがあります。これは、エネルギー自体は ありつつも、それを効果的に使って外側の要請に 反応することができないままになっている状態と 言えるでしょう。そういうときの工夫としてよく 使われるのは、“外側からの報酬を考える”とい うことです。先ほどは内的に報酬を受けていまし たが、本人に対する外側からの報酬をある意味で は餌にして、そちらに行動を向けるようにします。

例えば、「もしこれに取り組めば、こういういい ことがある」といった条件を出すこと、あるいは

「もし、これをしなければ、こういうことになる」

といった罰を呈示することもあるかもしれません が、多くの人はそれによって動機づけられて動い ていきます。

 もし、それでうまくいかない場合には、他のこ とを考えなければいけません。なぜなら先ほどの

実行スキルマネージャーがうまく動いていない可 能性があるからです。つまり、どのようにすれば いいか分からない状態です。そうなると、どんな ご褒美を呈示したとしても、一向にそれを得るこ とはできず、取り組まなかったことによる罰は受 けるということが重なるため、子どもが非常に強 いフラストレーションを感じるようになります。

そういう場合には、もう

1

回戻って、どういうふ うにしたらいいかということから教えていき、実 際にご褒美がもらえるように進めていきます。

 こういうところがうまくいっていない子どもに よく行う方法としては、実際に自分が好きなこと には取り組めていることを使って、こちらがやっ てほしいということとその内容を重ね合わせ、そ の子どもにとっては、自分のやりたいことをやっ ているような感覚、状態にするということが考え られます。例えば、同じ課題や作業をするにして も、「ゲームをしよう」と言って作業にゲームの 要素を取り入れます。これによって、子どもに面 白そうだと思わせることができれば、同じ作業で あっても、子どものほうは自分でやりたいことを やっていることになるので、実際に取り組めるよ うになります。難しい面もありますが、すごく効 果的にうまくいく方法でもあります。もう少しう まくサポートできるようになると、大きくなるに つれて今度は先ほどの自己決断によって、自分が どうしてこのゴールを持つのかということに繋げ て、そのゴールを達成するために少し我慢ができ たり、実際に達成できることが内発的な報酬に なったりすることで、うまくいくようになります。

 私たちの脳というのは、自分がやりたくてそれ が満たされるという内的欲求の経路のほうが、

4

10

倍くらい効率的に働くと言われています。

今、この中で自分がすごく好きなことを仕事でし ている人はどのくらいいらっしゃいますか?その 方たちは、この内的欲求の経路を使って仕事して されているという状態です。そうでなくて、この 仕事嫌いと思ってやってらっしゃる方は、外発的 な報酬、罰や自己決断を使う経路になりますので、

エネルギーを非常に無駄遣いしていることにもな

(7)

ります。ですから、仕事もうまくいかないとい うことが起こりやすくなり、苦労もしますし、給 料が安過ぎると思ったりするということになりま す。

7 外的要請に対する実行コントロールの 介入事例

 内的欲求の経路と外的な要請の経路について扱 いましたが、実際にものすごくやる気もあって、

やろうともしていて、非常にエネルギーもあって 優秀なのに、それでもうまくいかないという子ど もの事例を紹介したいと思います。

 J君という

10

歳の男の子です。初めて会った とき、お母さんに「J君はどんなことが好きな の?」と聞いたら、「絵を描くのが好き」と答えた ので、絵を描く作業から始めました。用紙の上部 に呈示された見本図を、用紙の下部に写すという とても簡単な模写のテストをしたところ、非常に よくできました。彼は取り組む前に「僕は絵を描 くのがすごく上手なんだ」と言い、非常に素早く 描いて、「もう終わったよ。楽しかった。他にもっ とない?」と聞いてきました。そこで私は、レイ の複雑図形検査を出し、「今度はこれを描いてみ て」と言いました。こちらも先ほどと同じような 模写のテストですが、かなり複雑な図形です。彼 は、もちろん自分は絵が得意なので、自信を持っ て始めましたが、なかなかうまくいかず、徐々に 自信を喪失し、冷や汗をかき始めるような状態に なっていきました。

 テストの結果、最初の簡単な模写テストでは

75

パーセンタイルで、彼が実際に優秀な労働者 を持っている、つまり、この絵を模写することに 使う能力(スキル)自体は、

75

パーセンタイルの 優秀な力を持っているということを示していま す。一方、複雑画テストは

1

パーセンタイルでし た。この彼の状態というのが、優秀な労働者をちゃ んと使って作業できていない、つまり、実行コン トロールがうまくいっていない状態だと思ってい ただけるといいと思います。彼は非常に自信を失 い、ひどい状態になっていましたので、その絵を

描く作業はおしまいにして、他の言語的な課題を やりました。

 

3

分後、また私は、「さっき描いた絵(レイの複 雑画)の中で覚えているものを描いてみて」と言 いました。このとき、見本図は見せないで、自分 で思い出すだけで描いてもらいましたが、そのと きも自分が思い出せたものがほんの少しだけだっ たことに、非常に彼自身も驚いて、「でも、僕、

絵は上手なんだよ」と言いました。アセスメント は彼の家で行っていたので、私は、「きみがすご く絵が上手で、絵を描くのが好きだということは 知っているよ。何か私に見せられるような絵はあ るかい?」と聞きました。彼は、「ある」と答え、

自分の部屋に上がっていって、細かい部分までよ く表現された躍動感のあるドラゴンの絵を持って きました。非常に上手でした。

 この事例は、先ほどお伝えしたような内的欲求 と外的要請による産出の違いをよく表していると 思っています。自分がやりたいと思うときには自 己調整がうまく働いて、クオリティの高いものを 産出できるのですが、外側から要請された際には 実行コントロールをうまく使えず、本来の力を出 せずに、パフォーマンスが低下したように見える ということが分かると思います。

 その後、私は何をしたかというと、もう

1

回複 雑図形の見本を出し、新しい紙を彼に渡して「こ れ、すごく複雑な絵なんだよ。とても難しくて、

いろんなパーツを持っているから、私たちはこれ を複雑図形って呼んでいるんだ」と言いました。

さらに、「きみはそれを一気にバーッと描いてし まおうとしていたけど、それだとうまくいかな かったね。今度は

1

1

つのパーツを見て、その パーツごとに描いていくことにしよう。まず、始 める前にこの絵を見て、これが一番描きやすい、

これを最初に描きたいというものはあるかな?」

と聞きました。そして、「それが決まれば、そこ から繋げていくことができるよ」と教えました。

すると彼は、

30

秒ほどこの絵を見て、「まず、こ の四角を描くことができるよ」と言って、四角を 描きました。私が「次は、何が描ける?」と聞く

(8)

と、「次は、そこにバツ印を付けることができるよ」

と言いました。その後も、私が彼の実行コントロー ルの代わりとなり、「次は?」というように導い ていくことで彼は自分が持っている力を発揮する ことができました。このように、自分の自己調整 を使おうとすると難しい状態になりますが、支援 者がその代わりになったことで、彼は上手に絵を 描くことができました。つまり、J君は能力がな いわけではなく、実行コントロールをうまく作動 できなかった状態であったと言えます。

 

1

時間ほどアセスメントをして、その後、お母 さんと

90

分くらい結果に関するお話をして、帰 路に就く前に、私が最後にやったことが、彼を呼 んで「さっきの図があるでしょ。あれを思い出し ながら描いてみて」と言いました。だいたい

2

間半後のことです。

2

時間半後に「描いてごらん」

と言ったときに、彼がどのような順番で描いた かというと、先ほど取り組んだように、最初に四 角を描き、次にバツ印を描いていきました。先ほ ど私が導いたとおりの順番で描いてくことによっ て、彼は図を完成させました。これは、自分の記 憶に入れるときに、構造化された形で整理して入 れていけば、出力するときも整理して出せるとい うことを示している事例だと思います。これが認 知的な介入方略の

1

つだと思っていただけるとい いと思います。「こういうふうにやるといいよ」

というステップを教えることはできますが、もっ といいのは、さきほどの「次は?」というような 質問によって、J君に何をすればいいかを思い起 こさせるという作業のほうが、ずっと効果があり ます。私が「きみの労働者たちを働かせることも できるけれど、きみ自身でその労働者たちを動か すこともできるんだよ」ということを教えていっ たわけですね。つまり、私がした質問をJ君自身 が自分に対してしていけば、同じようなことがで きるということを気付かせていきます。時には、

ただ単に適切な質問をすることが、最善の介入の 方法になることがあります。

8 実行コントロールへの介入 ~4つの方略  実行機能につまずきのある子どもに介入すると き、私は、連続性をもって実行コントロールの介 入をしています。まずは、「何がゴールか」につ いて確認をしていきます。もし、ゴールがなけ れば、「どうしてゴールがないのか」というとこ ろからやっていきます。その後で、「あなたの実 行コントロールができることを私が代わりにしま す」と、外的に管理をしていきます。そして、“ど のような言葉がけや質問があれば、自分が何をす ればいいかということを理解して行動に繋げられ るのか”という点を子どもが認識できるようにし ていきます。それで、「今、私が言ったことによっ て、きみの労働者が動いているね。きみ自身が言 うことでも労働者を動かすことはできるよ」と、

今度は自分でやる方法を教えます。そして、「今、

うまく使えているよ」とか「うまくいっていない ね。このようにしたらいいよ」というようなフィー ドバックを与えながら、自分自身でやっていける ようにします。フィードバックは徐々に減らし、

子どもが自らの力で実践できるように持っていき ます。支援者が外側からコントロールしていたこ とを、徐々に内的にしていき、一人でやっていけ るところまでもっていくようにします。

 学校でよく起こりがちなのは、この外側からの コントロールを必要以上に行うということです。

「これをやって」「今やって」などの指示はする一 方で、本人が自分で自己調整しながらやっていく という点に関しては教えていないことが少なくあ りません。やはり学校での指示の出し方やアプ ローチを、『外的コントロール』というところから、

もっと『内的コントロール』に向かうようにして いく必要があると思います。

9 方向付け方略

 方向付け方略というのは、まず子どもにゴール 決定をさせて、それからゴールに向かわせるとい うことをします。この段階で、「きみにぴったり

(9)

な方略を考えよう」「解決方法を考えよう」といっ たことをやっていきます。その話し合いの中で、

実は子どものほうから出てきたことが非常にうま くいく場合があります。そのとき、自分としては どういうものがいいか言えないままになってしま う子どもがいます。そういった子どもたちは、今 まで先生から何をすればいいか指示され、言われ たとおりにやるということばかりをしてきたため に、「このほうがやりやすい」というようなこと を自分で特定できなかったり、言えなかったり します。そうなるとまた、「先生は専門家でしょ。

どうしたらいいのか、先生が言ってよ」というよ うな態度になってしまいます。

 こういった中で、“自分の考えや要望を言って いい”という状況をつくること、“自分の言うこ とには非常に大きな効果がある”ということも教 えていく必要があります。また、この段階で「ど のように脳が働くのか」「脳にどのような訓練を すると、うまく機能していくのか」など、脳に関 することを説明します。私の場合、図を描いて説 明することが多いです。

10 外的コントロール方略

 外的コントロール方略というのは、私たちが彼 らの外付け前頭葉になっている状態です。ここで どういった言い方をすれば、この子どもが動ける か、自分の持っている労働者を働かせることがで きるか、といったことを見つけ出して、それを具 体的に伝えます。先ほど説明したように、「黒板 を書き終わるまで見ていなさい」とか「話し終わ るまで聞いていなさい」といった声かけの仕方が 有効であれば、そういった声かけによって彼らの 労働者の持っている力をきちんと発揮できるよう にしていきます。

 このとき、その子どもに有効な方略が分かる場 合もあります。その際には「これが有効だから、

試しに使ってごらん」「こういうふうにやってご らん」などのように、どうやればうまくやってい けるかということについて、導入していくことも

あります。これは橋渡し方略の

1

つです。

11 橋渡し方略

 橋渡し方略の中には、いろいろな方法がありま すが、ここには、有効でよく使われているものを 挙げています(図

2.

)。

図 2. 橋渡し方略

 先ほどのJ君の事例では、外的要請と内発的な 欲求を合わせるということをしました。本人の取 り組みを向上させることにもなりますし、当然、

元気づけられて続けるということも起こり得ま す。

 また、機能マネージャーとスキルマネージャー の説明をしましたが、実行コントロールの

7

つの クラスターのうち、低学年で必要な『注意』や『取 り組み』では、特にこれらをうまく働かせる必 要があります。その訓練に非常に有効な方法が、

フィードバックをしながら精度を上げていくよう な練習やリハーサルです。例えば、英語圏では、「サ イモンセッズ(

Simon says

)」というゲームがあり ます。「

Simon says

」の言葉から始めた指示にだ け従い、この言葉のない指示には従わないという

(10)

ルールです。このゲームでは、いつ反応しなけれ ばならないかを自分で考えてから行動するという ことが必然的に要求されます。このゲームは、子 どもが楽しんで取り組むので、幼稚園、保育園や 低学年の先生がよく行います。しかし、それがな ぜ、その子どもたちの発達に有効なのかというこ とを考えずに使われていることが多くあります。

ここで重要なことは、そのゲームをする中で、脳 の必要な部分を使って、さらにフィードバックが あるということです。小学校に入学する子どもの 中には、学校で作業をするのに必要な脳の部分を、

ほとんど使う機会のないまま小学生になるケース もあります。脳のネットワークというのは、使え ば使うほど強くなるので、こういったゲームを頻 繁に行うことは非常に有効です。

 フィードバック付きの振り返り質問もとても効 果的です。例えば、子どもが「何するの?」と聞 いてきたとき、「○○をするよ」というような直 接的な指示を出すのではなく、「何をすればいい と思う?」と、むしろ質問を返すことによって、

子どもが「何すればいいんだっけ」と考える状態 をつくり出していきます。それが、子どもが実際 に脳を使うという意味で大変有効です。先生方は、

とても一生懸命やって、答えをどんどん教えるこ とに集中しがちです。けれども、そうではなく、

むしろ教えることを控えて、考えるというプロセ スを子どもたちに体験させ、自分で自分の答えを 生成するという機会をつくり出すことが、非常に 大切なのだとお伝えしています。

 このテクニックに関して、教員を対象にした研 修をよく行います。あるとき、研修の合間の休み 時間に、受講中の教員の方(Aさん)が、講師で ある私のところにやってきました。Aさんには、

高校生の障害のあるお子さん(B君)がいます。

ある日、

B

君は、学校から帰った後、放課後に予 定されていた、就労に関する勉強会に行く予定で した。スクールバスで帰ると

15

時半に着くけれ ども、放課後の勉強会に行くためのお迎えは

16

時まで来ないことが分かりました。それで、B君 はお母さんのAさんに「

15

時半にバスから降りる

けど、

16

時まで迎えが来ない。どうしよう」と連 絡をしました。Aさんは、普段であれば、「○○

しなさい」と返事を書いていましたが、ちょうど 実行コントロールの研修を受けている最中だった ので、「その間、何をしたらいいと思う?」とメー ルで返しました。しかし、その後

2

時間経っても 返信が来ないので、心配になってきたとのことで した。そこで私は、Aさんに対して「どうしたら いいと思いますか?」と聞きました。Aさんは、「何 をすることに決めたの?」とB君にメールを送り ました。すると、「

15

時半のスクールバスに乗っ て帰ろうと思う。もし、お母さんがそれまでに帰っ てきれていれば送って行ってもらえるし、そうで なければ、歩いても行けないことはないと思うか ら歩いて行く」と返信が来たそうです。Aさんは、

自分の子どもがそこまでできると思っていなかっ たと、とても驚いていたそうです。私は、「

1

回、

保護者や支援者が引いてみて、子どもにやらせる 機会を与えなければ、どれだけできるか、本当の ことは分かりませんよ」とお話しました。

 橋渡し方略の中に、手本を見せる(モデリング)

がありますが、これはどんなことを教えるときに も非常に有効な方法です。「どういうふうにやれ ばいいかを見せるから、見ていて」と促していき ます。昨日、私が見学に行った日本のある学校で も、音楽の先生がとても上手にそれをなさってい ました。

 また、認知的な方略の指導というのは、先ほど J君の事例で説明したように、「何をすればいい と思う?」「次は何をすればいいと思う?」とい うやり取りをして、それを今度は本人自ら実践し、

支援者はそれに対してフィードバックを与えてい きます。このようなアプローチが、認知的な方略 の指導です。

 特定のプログラムや技術については、ご存知の ものもあると思います。いろいろな文献に出てい ますし、効果も実証されていますが、よく考えて みると、これらはどれも自己調整を強化していく ためのプログラムになっています。例えば、認知 行動療法は、自己調整を自分の中でどういう言葉

(11)

を使いながら行っていくかを促しているわけです から、同じように自己調整を強化するものと考え ていいと思います。

 今、アメリカでは、“マインドフルネス的認知 行動療法”というアプローチがよく行われていま す。マインドフルネスという部分に自己認識を上 げていく働きがあります。そのため、セラピスト がいない場面でも、クライアントが自ら自己認識 を持ってマインドフルで物事を行って、認知行動 療法のプロセスをやっていけるということになり ます。これが

1

つ、仮想的な実行機能の働きをう まく活用したアプローチだとご理解いただけると 思います。これに、例えば動機づけ面接なんかを 付けていただければ、さらに多層にわたってアプ ローチをかけることになります。

12 内的コントロール方略

 内的コントロール方略には、図

3.

のような方 法があります。

図 3. 内的コントロール方略

 外的コントロールから内的コントロールに持っ ていく橋渡し的な方略を用いることで、内的コン トロール方略を自分で使えるようになり、さらに 自分で自分の行動を操れるようになったところ で、それを維持していく必要があります。その際、

自己モニタリング、つまり自分で自分をモニター できるということは非常に大事なポイントになり ます。例えば、子どもに「向上していると思う?」

と聞いて、「うん」と答えれば、「何をもって向上 していると思うのか」ということを聞いていきま す。自己モニタリングができていない場合、子ど

もは向上しているかどうか答えられません。自己 モニタリングができていれば、どのように自分が 変化しているかということも分かるようになりま す。そうなると、自己認識のほうも上がっていき ます。どのような状況がよくて、どのような状況 が悪いのかという点についても認識できるように なります。

 自分に対するご褒美は、例えば、「これを

1

間やったら

15

分ぐらいゲームやろう」とか、自 分で自分に条件を与えて、駆け引きをしながら取 り組んでいくイメージだと思いますが、それは自 分の中で自分の労働者たちと労使交渉をしている ような感じですね。これだけやれば、こんなに休 めるといったことをしているのと同じになります ので、それも有効です。

 この中で最も難しいのは、『瞑想』だと思います。

瞑想は、現在のアメリカの心理学や教育の場面で よく活用されています。瞑想によって、前頭葉の 働きが強まるという結果が出ていて、非常に効果 があるという研究もあります。しかし、非常に難 しいので、それを教えていくことも必要かもしれ ません。

13 自動化

 ここで、ある実験について少し説明したいと思 います。『自動化』と呼ぶのですが、“いつ”実行 コントロールがうまく働いている必要があるか、

ということを説明したものです。実験では、まず、

初めての課題を与え、それを行っている最中の脳 の活動について調べました。すると、前頭葉のと ころで実行コントロールが非常に使われている状 態が見られました。次に、「何をやるか」「いつや るか」「どのようにやるか」の指示を出し、

25

間の練習をしてから、再度課題に取り組んでもら いました。そうすると、今度は実行コントロール をほとんど使っていませんでした。つまり、その 作業が自動化されていて、実行コントロールを使 わなくても自動的にできる状態になっているとい うことです。

(12)

皆さんは、今、ノートをとったり、メモをしたり されていますね。自分の頭に浮かんだことを書く ということを、今は自動的にやられていますが、

最初に書くということを学んだときは、そのよう にはいかなかったのではないでしょうか。最初に 何かを学ぶときには、実際にその作業をすること だけでも、前頭葉の実行コントロールをすごく使 うということが起こります。

 読み方や書き方を初めて習う頃は、前頭葉の実 行コントロールをよく使う必要がありますが、う まく読んだり書いたりできるようになれば、自動 化されて、それらの作業にそれほど実行コント ロールを使わなくて済むようになります。“読み”

の場合、スムーズに読めるようになると、「この 漢字の読み方は何だ?」「この言葉はどこで区切 るのだろう?」といった小さな疑問にエネルギー を割く必要がなくなるので、「これはどういう意 味だろう?」といった、より全体的な文章の意味 や解釈に頭を使うことができます。このように、

自動化されていれば、素早く、苦労なく取り組め ますが、自動化されていないと、やることも遅い うえに、苦労もすごく大きくなるということが分 かると思います。また、考えることがたくさんあ ると、ペースは遅くなり、それに関わるエネルギー も大きくなります。

14 実行コントロールのアセスメント  ここからは、実行コントロールをどのようにア セスメントしていくかということに関して述べた いと思います。

 私が行っているアセスメントは、プロセス・ア セスメントといって、非常に注意深く観察をする ことで、

1

1

つ導き出していくという形のもの です。標準化されたテストは非常に重要であり、

その子どもが、同じ年齢集団の他の子どもと比べ てどうであるかということを得点で出すのです が、それがその子どもの全てを語っているのでは ない、ということが当然出てきます。プロセス・

アセスメントのアプローチでは、“その人がどの

ようにその課題に取り組んだのか”ということが、

得点と同等に重要であるということが言えます。

ルリアは、

1940

50

年代の段階で、そのプロセ ス・アプローチをマスターしていました。戦争の 生存者が戦争によって脳に損傷を起こすとどのよ うに行動に表れるかということについて、詳しく 観察する中で、様々なことを明らかにしてきまし た。もちろん、怪我をされた人にとってその怪我 は不幸でしたが、科学に関して言えば、このルリ アの研究が、私たちに多くの情報を与えてくれる ことになりました。彼は、実際に頭に傷を受けた

1000

人の人たちを何十年もかけて調べ、どの 脳の部分が、どういう行動に影響しているのかと いうことを割り出していきました。

 今は、脳画像の技術が非常に進歩しましたので、

実際に行動しているとき、どのように脳が反応し ているかということが、画像で分かるようになり ました。けれども、私が臨床で対象者に会うとき、

必ずしもそういう機械を使って脳画像を調べられ るわけではありません。では、どうするかと言い ますと、まず、ルリアのように行動を詳しく観察 し、何ができていて何ができていないのか、どう いうふうであるからこういう行動になっているの か、ということの仮説を立てます。そして次に、

それを実証していくためのテストを行い、うまく いっているところ、うまくいっていないところを 割り出していきます。実践を通して学んでいくと いうことは、エイジス・カプラン(

Edith Kaplan

1988

年 に 著 し た“

The Process Approach to Neuropsychological Assessment

”という書籍に もあります。しかし、脳の働きのアセスメントに 関する内容は、この本の

1

章だけにしか書いてあ りませんでしたので、私は

1993

年に直接彼女に 会って質問をしてきました。そのとき彼女は非常 に重要なことをたくさん示唆してくれましたが、

その中でも私は、“行動を見ることは実は得点以 上にものを語ることがある”ということを教わり ました。

 例えば

WISC

WAIS

などの標準化された検 査を使うときは、検査者は、何を、いつ、どのよ

参照

関連したドキュメント

の設問を抽出したところ、 2 年生では全 77 問中 19 問、 3 ・ 4 年生では全 86 問中 11 問、 5 年生では 全 86 問中 4 問、 6 年生では全 86 問中 6

開発したツールの有用性を把握するため,本学の学生 24 人ととさでん交通の社員の方々24 人に各 3 回ずつ

- 1 -

の概略に寝て記すこととする。 1) 精神療法,暗示療法,催眠術及び精神分析』

ル』にした。この話は登場人物カミ少なく、主人公

るのであり,したがって対話 のパートナーとして東ドイツ を認め,共産主義の支配する 国家を認めて,相互に対話を

 回答者の属性について6項目,慢性疾患のある児童

日本政府は国連子どもの権利条約批准を受けて1997年に