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大学進学者 における学習経験 と学習性向

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(1)

大学進学者 における学習経験 と学習性向

‑ ユ ニバ ーサル ・ア クセスに向 けた

「新 しい時代 の教 養教 育の文化 的条件‑

大 前 敦 巳

1.問題設定

大学 ・短大の進学率が同年齢人口のほぼ半数 に達 し,マーチン ・トロウ (1976)のい う 万人型の教育機会 (ユニバーサル ・アクセス)が現実の ものにな りつつある現在,多様 な 経路 を想定 した進学条件 の整備 をすることが重要な課題 となっている。生涯学習体系への 移行 に伴い,年齢や国籍 をは じめ とする社会的属性 に制約 されない学習者の増加が見込 ま れている。高等教育への進学 に限 って も,入学試験 による選抜が人生の重大岐路 と認識 さ れ るほど過熟 した受験競争の時代が過 ぎ,個々人のニーズや状況 に合わせて志望校 を選ぶ 傾 向が強 まっている。その ような構造的変化のなかで高学歴社会 を迎えるにあた り,単 に 学歴が社会的シグナル となるのではな く,その背後 にある様 々な 「学習歴」 を考慮 に入れ た進学やキャリアのあ り方が重要 な意味 を帯びて くると考 えられる そこには学校卒業後 の成人期 におけるリカレン ト学習のみならず,初等 中等教育段階からの連続性 に注 目する ことが求められよう

20022月の中央教育審議会答 申 「新 しい時代 における教養教育の在 り方 について

においては,個人の人格形成だけでな く目に見 えない社会の基盤 として,①幼 ・少年期,

②青年期,③成人期の3段 階にわたって求め られる トータルな教養の課題 を提示 している

主 として高等教育の問題 として論 じられて きた教養教育 も,「幼児期か らの家庭教育,初 等 中等教育 も含めた学校 の教育活動全体,地域での様 々な活動,社会生活 における様 々な 体験や学習を通 じて,いかに教養 を身に付 けてい くかを考 える必要がある」と述べ られる

旧制高校 を母体 とする教養主義の喪失過程 を描 き出 した竹内 (2003)は,平均人的な大衆 文化への同化 ・適応が正統化 される現代 の状況 に対 し,教師や友人などの 「人的媒体 介 した教養の自省 ・超越機能 を再喚起 して,新たな出発点 を探 る しめ くくりにしている

おおまえ ・あつみ /上越教育大学

キーワー ド/学生生活条件,学習経験,学習性向,新 しい時代 の教養教育

J

(2)

教育経営研究 10号 2α対.3

大前 (2002,2003)は,高等教育進学者 (主 に文科系学生) における過去の学習経験 を調査す ることによ り,その同質的な同化が もたらされる側面 と,多様化が進行 している 側面 を明 らかにす ることを試みた。その結果,調査対象 となったすべ ての大学 ・短大 にお いて,同質的なメインス トリームを構成す る進学ルー トと学習経験 が見 られることを確認 した。つ ま り,国籍,年齢層,全 日制普通高校卒の面でほぼ同一であ り,家庭教育の経験 が相対的 に乏 しく,小学生時に習いごとに通い,中学生時以降に塾や予備校 に通 うとい う 主要な学習経験 のパ ター ンがあることを明 らかにした。 しか し,その背後 には,主 に周辺 層の学生 において,各大学 ・短大の社会的文脈 に固有の多様性 を包含 していることを指摘

した

本稿 は,その ような学習経験の同質性/多様性 とい う関係性 に着 目しなが ら,初等中等 教育時代 の経験が,大学生 にどの ような学習性向をもた らしているのかについて,同様の デー タを用いて分析する。その際,フランスのルーアン大学 とパ リ第8大学で も実施 した 調査結果 を対照 させ ることによって, 日本の大学生 に現れる学習経験 と学習性向の特徴 を 明確化す ることを試みる。 これ らの間には,いかなる多様 な関連性が見 られるのか,その つ なが りを前提 にいかなる 「新 しい時代 の教養教育を考 えるこ とがで きるのか,そ して それが可能 になる条件 はどのようなものであるのか,その ような問いを本稿 において立て てみることに したい。

2.分析視角と方法

本稿 で取 り上 げ る調査 データは,20025‑ 7月にかけて,関西 と北 陸の7大学 ・短 大の1・2年生 を対象 に実施 した質問紙調査 による ものである その うち本稿の分析 に用 いたのは,次の5大学の結果である。

( 最 も競争的 な関西の私立大学 (以下 「関西私立Sと表記 :n‑ 194)

関西の国公立大学 (関西国公立」:n‑ 121)

関西の私立大学 (関西私立」:n‑ 174)

北陸の国公立大学 (北陸国公立」:n‑ 263)

北陸の私立大学 (北陸私立」:n‑ 151)(1)

学部 に関 しては,文学 ・人文社会系 に加 えて,総合科学系,芸術文化系,教育系 (教員 養成系 を除 く) も含めた広義の 「文科系に範囲を限定 している 加 えて,⑥ ルーアン大 学 とパ リ第8大学のデー タは,20022‑ 3月に,いずれ も文学 ・人間科学部 を対象 と す る授業 を通 じて収集 した ものであ り,今 回の分析 では両大学の1・2年生サ ンプルを合 算 した もの を用いている

分析 を行 うにあたっては,次の ような単純 なモデルを想定 した。つ ま り,性別や出身階 層 などの学生の社会的属性が,初等中等教育時代の家庭教育や塾 ・習いごとなどの学習経 験 に影 響 を もち, そ れ が 学 習 に対 す る顕 在 ・潜 在 の両 面 を含 む意 識 や態 度 の性 向

(3)

大前 /大学進学者 における学習経験 と学習性向 (disposition)あるいは先有傾向(predisposition)に結 びついている と仮定 したモデルである

社会的属性の うち出身階層 については,質問紙調査 では父親 と母親の職業 と学歴 を質問 している なかで も母親の学歴 は,子 どもの教育 に大 きく関与 していると推察で きるの に 加 え,① 中学以前,②高校,③専 門学校 ・短大,④大学 ・大学院 とい うカテゴリーに幅広

く分布 しているため, これを量的変数 とみな して分析 に用いることに した(2

過去の学習経験 に関 しては,小学校低学年,小学校高学年,中学生,高校生のそれぞれ の時期 に受 けた教育の経験 を質問 している。 ここでは,① 「家族 か ら日常的に勉強 を教 え て もらう」家庭教育経験,②塾 ・予備校 ・家庭教 師の経験,③文化活動 (音楽 などの習い ご と) とスポーツを合 わせた経験 について,受 けた時期 の合計数 (0‑ 4)を,学習経験 頻度 を表す変数 として使用する。

学習性 向 を表す変数 として,「一般 に学校 で よい成績 をとるため には,次の どの要因が 重要であると考 えますかと質問 した項 目を取 り上げる 分析 においては,①一般教養,

②専 門的知識,③論理的思考,④文章 をうま く書 くこと,⑤ 学習計画 を立てること,⑥規 則 的 な自宅学習,⑦授業 中にノー トをとること,⑧ モチベ ーシ ョン (動機づけ),⑨努力 をす ること,⑲生 まれつ きの能力,のそれぞれについて,「とて も重要である‑4, し重要である‑ 3,「あま り重要でない‑ 2,「全 く重要でない‑ 1と得点化 した変 数 を使用する。 これ らの得点の相互関係 に着 目して,各大学の学生 における学習性向の特 徴 を明 らかにす ることを試みる

3.初等中等教育時代の学習経験

まず,各大学 における学習経験の頻度 を,平均値 と標準偏差 によって概観 してお くこと に したい ( 1) 家庭教育経験 については,関西 と北 陸の5大学がいずれ も平均 1ポイ ン ト前後であるの に対 して,ルーア.ン・パ リ第8大学では1.75ポイ ン トと高 くなってお り,

1学習経験頻度についての平均値と標準偏差 (大学別)

家庭教育 塾 .家庭教師 習いごと

平均値 標準偏差 平均値 標準偏差 平均値 標準偏差 関西私立S 1.01 1.12 1.68 1.02 2.58 1.23 関西国公立 0.97 1.03 1.91 1.06 2.55 1.15 関西私立 1.02 1.16 1.76 1.03 2.61 1.19 北陸国公立 0.95 1.13 1.19 1.04 2.63 1.17 北陸私立 0.93 1.15 1.16 1.08 2.25 1.27

77

(4)

教育経営研究 第10 ・3

2 家庭教育経験頻度についての平均値 (大学別 ・性別 ・母親学歴別)

性別 母親学歴

男性 女性 中等以下 専門短大 大学 関西私立S 0.88 1.09 0.83 0.77 1.51 **

関西国公立 0.85 1.06 0.96 0.97 1.07 関西私立 0.87 1.13 1.01 1.13 1.29 北陸国公立 0.94 0.94 0.78 0.96 1.33 * 北陸私立 0.90 0.94 0.73 1.12 1.58 *

*p(0.05 ** p(0.01

日本の大学生 における家庭教育経験の比重の小 ささが顕著である。反対 に,塾 ・予備校 ・ 家庭教師 をみると, 日本 の大学で1ポイン ト以上 の平均値 になっているのに対 し,ル⊥‑

ン ・パ リ第8大学で は0.39ポイン トにす ぎず, 日本 の大学生が学校外教育 に大 き く依存 した学習経験 を有 してい ることがわかる。その程度 には地域差があ り,特 に関西の大学で ポイン トが高 く,北陸では3割程度の学生が塾通 いの経験がない と答 えている。文化活動 とスポーツの習い ごとについては, 日本 ・フランス ともに2ポイン ト以上の値 になってい るが,ルーアン・パ リ第8大学が2.14ポイン トで最 も低 く,標準偏差が 1.52と最 も高 くなっ ている

次 に,学生の社会的属性別 にみた学習経験頻度の違いを確恵 してお くことに したい。表 2は,各大学 における性別,母親学歴別の家庭教育経験の平均値 を記 した ものである。参 考 までに,性別 には独立2群のt検定,母親学歴別 には一元配置分散分析 の結果 も合わせ て記載 している 性別 については,女性のほうが平均値が高い傾向がみ られるが,いずれ の大学 とも大 きな違いが見 られるわけではない。

他方,母親学歴別 にみ る と,学歴が高 くなるほ ど平均値 も高 くなる傾向があ り,特 に関 西私立Sと北陸の国公立 ・私立大学で顕著であ る。 この傾 向は,父親 の職業 や学歴 か ら みて も同様であ り,学歴 が高 く,専門職の家庭 であるほど家庭教育経験が豊富 になってい る (反対 に労務職や 自営業 で平均値が低い)。その意味では,家庭教育経験頻度の差 は, 家庭か ら相続 される 「文化資本の差 を表 してい ると考 えて もよいだろう。ただ し,全体 の平均値が高かったルーアン ・パ リ第8大学 においては, 日本のケースほど社会的属性 に よる違いは見 られなかった。

塾 ・予備校 ・家庭教師の経験 については,関西 と北陸の大学 においては,全体の平均値 が高い こともあって家庭教育 ほ ど社会的属性 に よる差 は見 出 され なか った (フランスの ケースでは社会的属性 による違いが見 られ,高学歴で 自営業 ・軍 門職の家庭 で塾通いを多

くさせ る傾向がみ られる)。

文化活動 ・スポーツな どの習いごとに関 しては, 日本の大学では性別 による差が顕著 に

(5)

大前 /大学進学者における学習経験 と学習性向 3 習いごと経験頻度についての平均値 (大学別 ・性別 ・母親学歴別)

性別 母頼学歴

男性 女性 中等以下 専門短大 大学

関西私立S 2.07 2.90 ** 2.26 2.61 2.94 **

関西国公立 2.18 2.80 ** 2.49 2.73 2.55

関西私立 2.37 2.78 * 2.60 2.73 2.78

北陸国公立 2.20 2.82 ** 2.49 2.56 2.98 *

北陸私立 2.07 2.38 2.21 2.42 2.47

*p0.05 **p(0.01

表れている (3)。母親学歴別 には,関西私立Sと北陸国公立 において,学歴が高 くな るほど習いごとも多 く通 わせる傾向がみ られる。 しか し,母親の学歴 による違いが最 も表 れているのは,ルーアン ・パ リ第8大学においてである。フランスのケースでは,社会的 属性 にかかわ らず家庭教育経験が広 く一般的に行 われている一方で,出身階層の高い学生 になると,さらに習いごと (主に休 日やバカンス期 の学外 クラブ参加)の経験が豊富 になっ て くるといえる。

それに対 して, 日本 の大学生においては,初等 中等教育時代 に塾や習いごとに通わせ る ことが,同質的なメインルー トを構成 して多数派 を占めているなかで (大前,2003),衣 庭教育経験の違いに社会的出自の影響が反映 される結果 となっている。他方,性別 (ジェ ンダー)の影響 に関 しては,家庭教育経験 において違いは見 られなかった ものの,習いご とが女性 によって多 く担 われているという特徴が認め られる このような日本の (関西 と 北陸の文科系)大学生 に特有の学習経験は,何 らかの学習性向の特徴 にも結 びつ く形で構 造化 されているのだろうか。以下では,その間題 に焦点 を当てて分析 を続 けてい きたい。

4.学習性向の分析

日本 とフ ランスの教育 は, きわめて単純化 された図式であるが,学歴社会 と資格社会 と い う対比で語 られることが多い。前者は,かつて 「試験地獄」 とまで言われた入学試験の 関門があ り,「いい学校‑いい会社‑いい人生」 とい う学歴主義的な価値観の下で,受験 競争が繰 り広 げられる。後者は,高校 (リセ)の修了時にバカロレアと呼ばれる国家試験 を受け,その資格 を取得すれば,原則 として誰で も大学 に進学することがで きる ただ し, 入学すれば容易 に卒業で きる 「トコロテン方式では決 してな く,大学 だけでな く中等教 育以前 において も,授業 についていけない者の留年や進路変更が後 を絶 たない。実質的に は授業期間中に ドロップアウ トを伴 う形で選抜が行われてお り,これが社会問題 にもなっ ている (特 に社会的不平等 との関わ りにおいて)0

・ J

(6)

教育経営研究 10号 2α対・3

4 学校でよい成績をとるための要因 (学校別)

関西私立S 関西国公立 関西私立 北陸国公立 北陸私立 ルーアン .パ リ第8 一般教養 3.2.4 3.09 3.60 3.31 3.47

専門的知識 3.37 3.49 3.46 3.49 3.42 3.34

論理的思考 3.51 3.15 3.01 3.30

文章 をうまく書 くこと :,,: 3.54 3.41 3.50 3.39 3.42 学習計画を立てること 3.10 2.97 3.19 2.95 3.01 3.06 規則的な 自宅学習 2.99 2.98

授業中にノー トをとる 3.17 3.19 3.37 3.08 3.44 :章3顛 言 モチベーション 3.36 3.34 3.05 3.35 2.92

努力 をすること 3.23

※とても重要である‑4,少し重要である‑3,あまり重要でない‑2,全く重要でない‑1, とした場合の平均値

その ような教育 と社会の文脈のなかで,「学校でよい成績 をとるための要因について 質問 した結果を示 したのが表4である。 まず, フランスのケースか らみてみると, 日本の 大学生 に比べて一般教養 (culturegenerale)を重視する傾向が強 く, さらに授業 中にノー トをとること(prenderedesnotesdecours),モチベーシ ョン (etremotive)の平均値が高い (表の網掛 け部分)。 このことか ら,ルーアン ・パ リ第8大学の学生 においては,授業 をは じめ とす るコミュニケーシ ョンの話題 に通 じるための一般教養 と,自分が学ぼうとす る授 業内容 に対する動機づけを有 した状態で,教師の話す ことをよく理解 してノー トに取 って い くことが,学業成績面の (す なわち授業 にしっか りついてい くための)要因であると考 えられている

続いて,関西 と北陸の大学生 に目を移 してみると,すべての大学 において努力 をするこ とが重要である と答 える傾向が高い ことが第1に挙 げ られる 2に,関西私立Sでは 文章 をうまく書 くことが重視 されているのに対 して,関西 と北陸の国公立大学では論理的 思考の平均値が相対的に高い。第3に,関西私立 ・北陸国公立 ・北陸私立では規則的な自 宅学習 を重視する傾向が強い(ルーアン・パ リ第8大学 において も同様)。日本 においては, 努力の重要性が全体 として共有 されているなかで,関西私立Sでは文科系 らしく文章力

を重視す るが,国公立大学では (入試の影響か らか)論理性のほうが優位 に立 ってお り, それ以外 の大学では規則正 しく勉強する習慣 をもつことが重視 されているわけで, これ ら の結果か ら,学歴社会 を反映 した 「禁欲的頑張 る主義」 (大村,1997,pp.5980.)の側面 が表れているといえるだろう

これ らの 「学校で よい成績 をとるための要因は,学生の社会的属性や過去の学習経験 とどの ように結びついているのだろうか。以下の分析では,それぞれの学習性向に関する 項 目と,家庭教育経験お よび習いごと経験 との相関係数 を計算 し,さらに母親学歴 をコン

(7)

大前 /大学進学者 における学習経験 と学習性向

国1ルーアン・パリ第8大学

一般 敬 藁

規 則的な白宅学習

育 相 関 係数

I‑A・・・宏 慮 敬 育 偏相 関係数

= 習いこと 相関係

‥・O‑・習いこと 偏相関 係 数

トロール変数 とした偏相関係数 を重ね合わせ ることにより,本稿で設定 したモデルの具体 的な関係 の様相 を検討する

1は,ルーアン ・パ リ第8大学の結果 をレーダーチ ャー トに表 したものである。相関 係数の 目盛 りは,学習性向に関す る各項 目を頂点 とする10角形の最 も内側 (中心)が0.2

(負の相関),頂点 と中心の中央がo(無相関),最 も外側の頂点部分が0.2(正の相 関) と なっている(3).したが って,学習経験 と学習性向の間に正の相関が見 られるほ ど,外側 に大 きく広がる点 と線が措かれ,無相関であると真ん中部分 に分布 し,負の相関になるほ ど中心 に向けて小 さく集 まるグラフの形 になる。ルーアン ・パ リ第8大学 においては,全 体的に無相関に近い結果であることが多い。つ まり,学生の社会的属性や学習経験 にかか わ らず,表4の平均値 を′もつ分布 に近い ものが見 られるとい うことである しか し, より 詳細 に結果 をみると,家庭教育経験の頻度が多いほど,生 まれつ きの能力が重要であると 考 え,反対 に論理的思考や一般教養は重要でないと考 える傾向が見 られる 習い ごと経験

との相関については,論理的思考 に加 えて努力 をすることと負の関係 になっている。偏相 関係数 との差が大 きくないことか ら,家庭教育や習いごとの経験が多い者ほど,論理的思 考や後天的要因を重視 しない傾 向があ り.,あえて解釈 を与えるとすれば,フランスのデ ィ

レッタン トな文学部学生 に特有 とされる 「天賦 の才のイデオロギー (ブルデュー&パス ロン,1964‑ 1997,p.127)が表れているといえるか もしれない。

フランスのケースに対 して,関西 と北陸の大学生の結果 を見てみることに しよう。図2 は,最 も競争的な関西の私立大学の結果であるが,ルーアン ・パ リ第8大学の結果 よ りも 外側 に大 きく広がる形の分布 を していることがわかる。つ まり,多 くの項 目で,学習経験

と学習性向の間には正の相関が見 られるとい うことを表 している。家庭教育経験 との相関 をみると,文章 をうま く書 くこととは正の関係が,モチベーションとは負の関係が認め ら 21

(8)

教育経営研究 10 20043

GE]2 関西 私立S

一般 敬 蓑

規則的 な自 宅学 習

相 関 係 数

‑‑ 血= ・真 庭 散育 偏相関係

= 習いこと 相 関 係 数

8‑‑習いこと 偏相関桟

れる。習いごと経験 において も,文章 をうま く書 くこととは強い正の相関があ り,さらに はモチベーション,努力 をすること,一般教養,専 門的知識などとも正の相関が見 られる。

ただ し,授業中にノー トをとることと生 まれつ きの能力については,偏相関係数が小 さく 表れてお り,習いごと経験 との結 びつ きよ りも母親学歴の影響が及んでいる可能性がある。

この ことか ら関西私立Sにおいては,家庭教育や習いごとの経験が豊富であるほ ど, こ の大学に特有の文章力 を重視する傾向が高 ま り,習いごと経験 との関わ りにおいては,努 力やモチベーシ ョンなどの後天的要因を重視す る傾向 とも結びついている。

続いて,図3は関西国公立の結果 を表 した ものである 項 目によって相関の程度が大 き く異 なっているところに特徴がある 家庭教育経験 は,規則的な自宅学習 と生 まれつ きの 能力 を重視することと正の相関があるが,モチベーション,専門的知識,論理的思考,文 章 をうまく書 くことなどとは負の相関になっている 習いごと経験 との相関については, 規則的な自宅学習のほかに授業中にノー トをとること,学習計画 を立 てること,専門的知 識 と正の相関があ り,生 まれつ きの能力,一般教養,論理的思考 とは負の相関が表れてい 偏相関係数 との隔た りは大 きくな く,家庭教育や習いごとの経験が多いほど,着実 に 勉強す ることを重視す る傾 向が高 まるように見受 け られる一方で,国公立大学 に特有で あった論理的思考 は重視 されな くなっている とはいえ,文章力や一般教養などの文科系 に求め られるような学習性向が高 まるわけで もな く,む しろ受験勉強 に関わるような 「 力」 に結びついた価値観が表れているのではないか と推察する

関西私立の結果 をみると,分布の形状が よ り外側 に大 きく広がってお り,多 くの項 目で 学習経験 との正の相関があることをうかがわせ る (図 4)。家庭教育経験 は,論理的思考, 一般教養,専門的知識,文章 をうまく書 くことと正の相関があ り,授業中にノー トをとる こととは負の相関になっている。習いごと経験 に対 しては,努力 をすることと授業中にノー

(9)

大前 /大学進学者における学習経験 と学習性向

匡14 関 西私立 一般敬

規 則的 な自 宅 学習

豪虚数育 相関 係 数

‑・・A‑‑・麦虚数育 偏相

習いこと 相関 係数

・目 白 習いこと 偏相関係

トをとること と比較的準い正の相 関が表 れてお り,生 まれつ きの能力,規則的な自宅学習, 論理的思考 ,専門的知識 とも正の相関がある。負の相関になっているのは,モチベーシ ョ ンである。 このことか ら関西私立 においては,学習経験が後天的な学業成績要因に大 きく 結 びついてお り, しか も論理的思考や専 門的知識 といった職業生活 につなが る学習性向が 高 まることが興味深い。

北陸国公立 において も,学習経験が後天的な学業成績要因に結 びついている (図 5)。

家庭教育経験 は,授業【印 こノー トをとること,努力 をすること,モチベーシ ョン,学習計 画 を立てること,文章 をうま く書 ぐことと正の相関が見 られる。習いごと経験 において ち, 授業 中にノー トを とること,努力 をすることと正の相関があ り,加 えて専 門的知識 とも正

23

(10)

教育経営研究 10号 2α相.3

5 北陸 国公立 一般散義

規則 的 な自 宅 学 習

豪 虚 数 育 相 関 係 数

‥・血・‑麦 虐 散 育 偏 相 関 e 習いこと

相関係数

‑ 18‑ ・習いこと 偏 相 関 係

BE)6 北 陸私立 一姫敬蓑

規 則 的 な自 宅 学 習

豪虐散 育 相関 係数

・京虚数

育 偏相 関係数

習いこと 相関係

I‑・0・・・習いこと 偏相関 係 数

の相関がある一方で,学習計画 を立てること,生 まれつ きの能力 とは負の相 関 となってい る。ただ,関西私立に見 られたように,職業生活 に結 びつ くような実学的 な学習性 向が 目 立 って表れているわけではない。

北陸私立の結果 をみる と, よりいっそ う学習性向 との正の相関が顕著 な結果 になってい る (6)。家庭教育経験 は,努力 をす ること,モチベーシ ョン,生 まれつ きの能力,学 習計画 を立てることと正の相関があ り,偏相関係数 においては専門的知識 も正の相 関を示 してY、る (また,授業 中にノー トをとることの相 関係数は負 の値 を示 しているが,偏相関 係数 は無相 関に近いので,母親学歴の影響で負 の相 関になっていた もの と推測 される)。

習いごと経験 との関わ りになると,負の相関 を示 しているものはない。努力 をすることと

(11)

大前 /大学進学者における学習経験 と学習性向

専 門的知識が2.0以上の比較的強い相関 を示 してお り,規則的な自宅学習,学習計画 を立 てること,文章 をうまく書 くこと,論理的思考 とも正の相関がみ られる。 とりわけ北陸私 立 における習いごと経験 は,努力重視 に代表 される後天的な学習性向 と,専 門性 ・文章力 ・ 論理性 といった職業生活 に結びつ く現実的な学習性向をもた らしている。

以上の分析結果か ら,関西 と北陸の大学生 における学習性向は,フランスの場合 に比べ て,家庭教育や習いごとの経験 に依存する程度が大 きい といえる。特 に,努力重視 をは じ め とする後天的な学業成績要因は,そ うした学習経験 によって培われているのであ り,実 際,そう信 じられるようになるか らこそ,塾や習いごとに頻繁に通 うことが ごく自然に認 識 されるのだろう。偏相関係数 との隔た りが大 きい項 目もあま り見 られなかったことか ら, 母親学歴 に代表 される社会的属性以上 に,初等 中等教育時代の学習経験が,大学生の学習 性向に大 きな影響 を及ぼ していると考 えられる

また,同 じ学習経験 を積み重ねて も,大学 によって様々に異 なる学習性向が形成 されて い ることも明 らか になった。関西私立Sでは文章力の重要性が,国公立大学では着実 な 勉強 を通 じた 「学力重要性が,学習経験の豊富 な学生 によって認識 されている 私立大 学 においては,た とえ文科系であって も,専門的知識や論理的思考 といった職業生活につ ながる実学的な学業成功観 をもった志向性がみ られる このように初等 中等教育だけでな く,大学 によって も異 なるタイプの学習性向が散見 されたことか ら,その可塑的な側面が 浮 き彫 りになった といえよう

5.考 察

学業成績要因 という観点か らであるが,関西 と北陸の文科系学生が身につけている学習 性向が,過去の学習経験や所属する大学 によって形づ くられる傾向が大 きい とい う結果 を 勘案すれば,幼少期か ら成人にいたる トータルな自己形成面での学習が重要な意味 を帯 び て くると考 えられる。塾や習いごとに多 く通 うとい う同質的な学習経験が共有 され, しか もそれが努力 をするとい う後天的な要因の重視 に結 びついていることか らしても,大多数 の学生にとっては,教育 を通 じて自己をつ くり上げてい くことに対する信頼が依然強 く堅 持 されているといえるだろう新 しい時代 の教養教育」 を構想するにあたって も,当然 そ うい う人々の教育 に対す る信頼 を基盤 に据 えることが出発 の大前提 でなければな らな

い 。

問題は,周知の ように近代 日本 における教育意識が,「立身出世主義」 (竹内,1997) 原型 とする,学歴主義秩序 に根 ざした受験体制のなかに組み込 まれて きた経緯があること である。今 日のように大学進学が常態化 している状況においては,大学 間格差 によって学 生の意識や態度の違いが見 られることが指摘 され る。武内 (2003a,pp.171172)は,大 学 によって異なる特性 を備 えた学生が集 まって くることに関わる学生文化の規定要因とし て,次の.4つを挙 げている。

25

(12)

教育経営研究 10号 2α対・3

大学 の特性 (地理的環境 ・歴史的伝統 ・規模 ・施設 ・学部構成 ・教授 団の構成 ・カリ キュラム ・授業 ・学生指導体制 など)

( 入学 して くる学生の特性 ・同 じ大学 に通 う友人か ら受 ける影響

学生 の進路 (就職先)

大学 の入学偏差値 (ランク)・世間の大学 に対す る評判 ・大学 イメージ (チ ャー ター) これ らの諸要因の組合わせ に よって,それぞれの大学 に特有 の学生文化やパ ー ソナ リ テ ィが知 らず知 らずに醸成 される とい う。

本稿 の分析 において見 られた大学 間の学習性向の違い も,競争的 (selective)であるか 否か,国公立 と私立,大都市 と地方 といった要因によってつ くり出 されている面があるこ とは,否定で きないか もしれない。 しか し,冒頭で述べ た ようにユニバーサル ・アクセス の時代 を迎 えるにあたって,単 にどの大学 に入学す るかだけでな く,個 々人のニーズや状 況 に合 わせ た学習条件 を整備 し,学習意識 を醸成 してい くことが求め られ よう 別の とこ ろで武 内 (2003b)は,15大学 と4短大の在学生,お よび5大学 と2短大の卒業生 を対象 とするア ンケー ト調査の結果か ら,学生たちは,大学 を 「学問の場としてだけでな く,

サークル, アルバ イ ト,交友,旅行 などさまざまな体験 をす る場であると考 えている ことを指摘 している そ して,最近の学生 における傾 向 として,「就職難時代 の学生

個人化 す る学生を挙 げ,「大学のキ ャンパス ライフの豊 か さは,学生が選べ る選択肢が どれだけ多様 に用意 されているか にかかっている(p.137)と述べている

その意味 において,大学界の構造的な変化 と矛盾 (アレゼ‑ル 日本編,2003)に対時で きるだけの 自己 を確立するべ く,「新 しい時代 の教養教育」 の充実 を図ってい くことが1 つの重要 な鍵 になると筆者 は考 える。そのためには,審議会答 申文書のなかで も,「特 に 重視すべ き観点」の 1つに掲 げ られている 「異文化 との接触」を看過するわけにゆかない。

ここでい う 「異文化」とは,単 に異 なる国や地域の文化 とい う意味だけでな く,異 なる性, 世代,国籍,言語,宗教,価値観 ,生 き方,習慣 などあ らゆる 『自分 とは異 なるもの』の ことを指す。 これ らの様 々な 「異文化を相互 に尊重で きる力 を主体的 ・自発的 に身に つけるこ とな くして,教育 に信頼 を置 く同質的な学習経験 を共有 しなが ら,そこにとどま

らず, ます ます多様化する学習のあ り方 を受 け入れてい くことはで きないだろう。

註】

(1)この調査では,ほかに関西の最 も競争的な国公立大学 と関西の私立短期大学 も対象にしているが, 前者 は文科系学生の分析サ ンプル数が十分得 られなかったため,後者は紙幅の関係上議論 を大学生 に限定 したために,今回の分析か ら除外することに した。これ ら2つの大学 ・短大については,稿 を改めて詳 しく検討することにしたい。

(2)フランスのケースでは,主に外国出身の学生で母親の学歴が 「な し」 と答 えた場合 も少なからずあ り,① 中学以前 にコー ドしている それ以外のカテゴリーは,② 中等教育職業技術資格,③バカロ レア と中等後職業技術資格,④高等教育資格 に区分 したものを用いている

(3)0.2(また‑0.2)をこえる係数 については,図示の見やす さの関係上,0.2(または‑0.2)の とこ

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大前/大学進学者における学習経験 と学習性向 ろにプロ ッ トを している

参考文献≫

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ブルデュー,P.,パス ロ ン,J.C.,1964‑ 1997,石井洋二郎監訳 『遺産相続者たち一学生 と文化』藤原書 店 .

中央教育審議会,2002「新 しい時代 にお ける教養教育の在 り方 について (答 申)」平成14221日, 文部科学省 ホームページ (http:〟www.next.go.jp).

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上越教育大学研究紀要22巻 第1号,pp.201215.

大前敦 巳,2003「高等教育進学者 にお ける学習経験 の同質性 と多様性 一関西 と北陸の文科系学生 を対象 とす る調査結果の探索的分析 ‑上越教育大学研究紀要』 第23巻第1号,pp.6174.

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トロウ,M.,1976,天野郁夫 ・喜多村和之訳 『高学歴社会の大学』東京大学 出版会 .

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参照

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