論文の内容の要旨
氏名:齋 藤 佑 記
専攻分野の名称:博士(医学)
論文題名:重症心不全における心エコー図によるpulmonary arterial capacitanceの臨床的意義に関する 検討
背景:左心不全では高頻度に肺高血圧症を合併することが知られており、左心不全に肺高血圧症を合併す ると右室後負荷が上昇する。左心不全において右室後負荷は右心不全発症の原因となり、予後に関わる因 子であると考えられる。肺動脈のコンプライアンスを表すpulmonary arterial capacitance (PAC)は、右心 カテーテル検査で算出され、右室後負荷を反映する指標の一つであり、近年、この指標が原発性肺動脈性 肺高血圧症や左心不全の予後予測因子であることが報告された。一方、PACを非侵襲的に心エコー図で測 定する方法も報告されている。しかし、左心不全においてこの心エコー図によるPACの有用性やカテーテ ル検査での血行動態指標との関係性は明らかでない。
方法:研究1 2010年8月~2014年9月に心不全の血行動態評価の目的で入院した全症例のうち、心エ コー図検査と右心カテーテル検査を同日に施行した左室駆出率35%未満の左心不全症例、30例(うち3例 は異なる時期に各検査を施行した重複症例)を対象とした。心エコー図による PAC と肺動脈楔入圧
(pulmonary arterial wedge pressure : PAWP)、肺血管抵抗 (pulmonary vascular resistance: PVR)と いったカテーテルによる血行動態指標との相関関係を評価した。研究2 2010年1月~2013年7月に心 不全管理の目的で入院した全症例のうち、65歳以下、左室駆出率35%未満の左心不全症例72例を対象と し、後方視的に解析した。心エコー図で求めたPACの中央値(1.33ml/mmHg)により症例を2群(high
PAC群、low PAC群)に分け、1年間の心事故発生率(死亡もしくは左室補助人工心臓装着)を比較した。
結果:研究1 心エコー図によるPACは、右心カテーテル検査で測定したPACと有意な相関関係を認め
(r=0.75, p<0.0001)、またPAWP、PVRと負の相関関係を認めた(r=-0.40, p=0.02, r=-0.72, p<0.0001)。
研究2 Low PAC群では、NYHA (New York Heart Association) 分類が増悪しており、血中BNP濃度、
総ビリルビン値もhigh PAC群より高値であった。Low PAC群では、high PAC群に比べ心事故発生率が 高値であった(p=0.001)。PACは年齢、性別とNYHA≧3、log BNP、左室駆出率、右室拡張末期径、
最大下大静脈径、総ビリルビン値、三尖弁逆流圧較差を組み合わせて補正しても心事故発生に有意に関係 した。
結論:心エコー図によるPACは重症心不全における予後予測に有用であると考えられた。