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雑誌名 法と経営学研究所年報 = Annual Report of

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(1)

影響をめぐって―

著者 西山 由美

雑誌名 法と経営学研究所年報 = Annual Report of

Institute for Business and Law

巻 1

ページ 51‑63

発行年 2019‑09‑30

その他のタイトル The Digital Economy and the BEPS Action Plans from the View of VAT/GST

URL http://hdl.handle.net/10723/00003785

(2)

デジタル経済に対するBEPS行動計画

―― 消費課税への影響をめぐって ――

 西 山 由 美

1  デジタル経済の光と影

デシタル経済は、従来のビジネスのグローバル化・スピード化を画期的に推進しただけでなく、

サービスの提供者(企業)とその受領者(消費者)との関係を従来のビジネスの非対称関係から 対等関係へと変化させている。すなわち、企業がCRM(customer…relationship…management)

やFSP(frequent…shopper…program)1)…を通して、個々の顧客の自社製品・サービスに対するニー ズや評価を把握することにより、企業と消費者が対等な関係で双方向に結びつくことができるよ うになった2)

デジタル経済の進展はさらに進み、企業と個人の取引から、個人と個人との取引の可能性を広 げ、このような個人間取引を繋ぐプラットフォームビジネス、いわゆるシェアリングエコノミー3)

が登場した。日本国内シェアリングエコノミーの市場規模は図 1 のとおりであり、2021年度には 1000億円を超えると予想される。

1,200 予測 1,000 800 600 400 200 0

(億円)

398 503

636 752 752

856 967 967

2015 2016 2017 2018 2019 2020 2021(年度)

1,071

図 1  日本のシェアリングエコノミーの市場規模

出典:経済産業省『平成30年版情報通信白書』76頁

しかしながら、成長めざましいデジタル経済は、その担い手である巨大多国籍IT企業(いわ ゆる「GAFA」4))をめぐって次のような課題を抱えている5)

第一に、巨大多国籍企業による市場の寡占による自由競争の阻害である。第二に、これらの企 業が収集する膨大な個人情報に関して不適切な収集や利用がなされていることである。第三に、

これらの企業が巨額の所得を低税率国に移すことによって節税を行い、従来型の企業の税負担に 比べてきわめて不公平な状況となっていることである。

たとえばグーグルは2016年 1 月、英国歳入関税庁に2005年以降の追徴課税分約 1 億3000万ポン

(3)

ド(約189億円)を納付したが、同社が欧州の本社機能をEU域内では法人税率が最低水準のアイ ルランドにおく節税スキームを、英国政府が否認したからである。同社のそれまでの毎年の納税 額は約2000万ポンド(約 2 億9000万円)であったと報道されている6)。また、アップルは2016年 8 月、同社がアイルランド政府から税制上の優遇を受けたことがEU法の禁ずる「国家による企 業への補助」(EU機能条約107条)にあたるとしたEUの欧州委員会の判断により、同委員会の指 示によるアイルランド政府から約130億ユーロ(約 1 兆6115億円)の追徴課税の危機に直面した7)

高度にグローバル化したデジタル経済における巨大多国籍企業の課税問題は、企業側からすれ ば節税であり、課税主権のある政府側からすれば課税逃れであり、これに対処するためにOECD 租税委員会は2012年 6 月、「税源浸食と利益移転(base…erosion…&…profit…shifting,…以下「BEPS」

という)に関するプロジェクト」を立ち上げた。そして同委員会は2013年 7 月、G20の支援によ る15項目の「BEPS行動計画」を公表した。

OECDのスタンスは、多国籍企業による行き過ぎた節税行為を企業モラルの欠如としてとらえ るのではなく、多国籍企業の活動実態と各国の税制や既存の国際的課税ルールとの間にミスマッ チがあることによって生じているとし、この15項目の行動計画に沿って、国際協調を基盤に、有 効に対処する必要を強調するものである。

さらに同委員会は2015年 9 月、「最終報告書」8)を承認し、同年10月にG20財務大臣・中央銀 行総裁会議、翌月11月にG20サミットに報告され、日本を含むOECD加盟国は、この最終報告書 に沿って必要な法整備と租税条約の改正を進めることとなった9)

本稿では、上記BEPS問題を踏まえ、OECDによるBEPS行動計画が基本的には多国籍企業に対 する所得課税を中心に構築されている一方で、消費課税への影響も多大であるという認識のもと で、その影響について考察を行う。その際に、付加価値税(消費税)率が相対的に高く10)、国 境を越えるサービス提供について「仕向地国(消費地国)課税」を原則とし、かつ、デジタル経 済の一大消費地エリアであるEU域内の状況を中心に考察を行う11)

2  BEPS行動計画

21  BEPS行動計画の概要

OECDが2013年 7 月に策定し、2015年 9 月に最終報告書を公表した15項目の行動計画の概要は 以下のとおりである12)

行動計画 1 :デジタル経済に対する課税対応

(Addressing…the…Tax…Challenges…of…the…Digital…Economy)

電子商取引等のデジタル経済に対する直接税・間接税の課税上の課題への対応を検討する。

行動計画 2 :ハイブリッド・ミスマッチの効果の無効化

(Neutralising…the…Effects…of…Hybrid…Mismatch…Arrangements)

金融商品や事業体に関する複数国間における税務上の取扱いの差異(ハイブリッド・ミスマッ チ)の効果を無効化するため、国内法上・租税条約上の措置を検討する。

行動計画 3 :外国子会社合算税制の強化

(4)

(Designing…Effective…Controlled…Foreign…Company…Rules)

軽課税国等に設立された外国子会社を使ったBEPSを有効に防止するため、適切なタックスヘ イブン税制を設計する。

行動計画 4 :利子控除制限ルール

(…Limiting… Base… Erosion… Involving… Interest… Deductions… and… Other… Financial…

Payments)

相対的に税負担の軽い国外関連会社に過大に支払われた利子について損金算入を制限するルー ルを検討する。

行動計画 5 :有害税制への対抗

(…Countering… Harmful… Tax… Practices… More… Effectively,… Taking… into… Account…

Transparency…and…Substance)

各国が設ける優遇税制の有害性を経済活動の実質性から判定するための新基準及び制度の透明 性を高めるための新基準を検討する。

行動計画 6 :租税条約の濫用防止

(Preventing…the…Granting…of…Treaty…Benefits…in…Inappropriate…Circumstances)

条約漁り(第三国の居住者が不当に条約の特典を得ようとする行為)をはじめとした租税条約 の濫用を防止するため、OECDモデル租税条約の改定及び国内法の設計を検討する。

行動計画 7 :PE(恒久的施設)認定の人為的回避の防止

(Preventing…the…Artificial…Avoidance…of…Permanent…Establishment…Status)

PE認定の人為的な回避に対処するためOECDモデル租税条約のPEの定義について修正を検討 する。

行動計画 8 −10:移転価格税制と価値創造の一致

(Aligning…Transfer…Pricing…Outcomes…with…Value…Creation)

以下の対応策を講じるため、OECD移転価格ガイドラインの改訂等を検討する。

行動 8 :適正な移転価格の算定が困難である無形資産を用いたBEPSへの対応策

行動 9 :…グループ内企業に対するリスクの移転、過度な資本の配分等によって生じるBEPSの 防止策

行動10:その他移転価格算定手法の明確化やBEPSへの対応策 行動計画11:BEPSの規模・経済的効果の分析方法の策定

(Measuring…and…Monitoring…BEPS)

BEPSによる法人税収の逸失規模について、データの評価・指標の抽出・分析方法の策定を実 施する。

行動計画12:義務的開示制度

(Mandatory…Disclosure…Rules)

プロモーター及び利用者が租税回避スキームを税務当局に報告する制度(義務的開示制度)を 検討する。

行動計画13:多国籍企業の企業情報の文書化

(5)

(Guidance…on…Transfer…Pricing…Documentation…and…Country-by-Country…Reporting)

共通様式に基づいた多国籍企業情報の報告制度を検討する。

行動計画14:相互協議の効果的実施

(Making…Dispute…Resolution…Mechanisms…More…Effective)

租税条約に関連する紛争を解決するためのより実効的な相互協議手続を検討する。

行動計画15:多数国間協定の策定

(Developing…a…Multilateral…Instrument…to…Modify…Bilateral…Tax…Treaties)

世界で約3,000本以上ある二国間租税条約にBEPS対抗措置を効率的に反映させるための多数国 間協定を検討する。

2 . 2  行動計画 1 に関する最終報告書(2015年)

行動計画15項目のうち、消費課税に直接言及をしている唯一のものが行動計画 1 (デジタル経 済に対する対応)である。この項目に関するOECDの2015年最終報告書(“Addressing…the…Tax…

Challenges…of…Digital…Economy…–…Action1:…2015…Final…Report”、以下「最終報告書」という)の 冒頭では、次のように述べられている。

「国際課税の問題が、今日ほど大きな政治課題になったことはない、各国の経済や市場の統合 が進んだのは最近のことであり、100年も前につくられた国際課税ルールに緊張が生じている。

現行ルールの脆弱性がBEPSを惹起していることから、租税システムへの信頼を取り戻し、経済 活動が行われ、かつ、価値が創出されている場所で課税がなされるように、政策立案者による大 胆な変革が求められるのである。・・・15項目の活動計画は、 3 つの支柱により支えられている。

第一に国境取引に係る各国国内法間の融合、第二に現行ルールの基本要件の強化、第三に透明性 と明確性の改善である。」13)

最終報告書ではまず、BEPSに対抗するための基本原則として2001年OECDオタワ会議で示さ れた 5 つの原則、すなわち「中立」「効率」「明確・簡素」「フェアネス」「柔軟」を掲げている。

このうち「フェアネス」とは、脱税や租税回避の余地が極力排除されることが確保されているこ とをいう。納税義務はあるのに徴収が執行できないために納税を免れている納税者グループが存 在する場合、ルールに従って納税した者は「アンフェアだ」と感じ、課税当局の執行に対する協 力を得ることが困難となる14)

最終報告書は所得課税に関して、とくにPE概念の見直しの必要性を強調している。具体的には、

従来のPE概念を拡大し、事業の準備的・補助的機能を担う施設についてもPEとみなすべきであ るとする。たとえば、オンライン販売事業において多くの従業員が商品管理や発送を行う倉庫、

あるいは顧客との契約に重要な役割を果たす広告サービスのオンラインプロバイダーなどは、

PEとみなすべきであると提言している。

また最終報告書は消費課税に関しても、準備的・補助的機能をもつ施設についてPE概念の拡 張をひとつの選択肢として考慮すべきとしている。さらに踏み込んで、その他の選択肢として、

(6)

①新たな課税地ルールとして「重要な経済的存在(significant…economic…presence)」概念の導入、

②特定のデジタル取引に対する源泉税の導入、③平衡税(equalisation…levy)15)の導入について も言及している16)

最終報告書はBEPSプロジェクトの次のステップについて、今後のデジタル経済のさらなる発 展に伴って現時点の提案にも進展がありうるため、行動計画の実施状況について定期的な点検が 必要であり、2020年に実施状況報告書を公表するとしている。

2 . 3  行動計画 1 の実施状況に関する中間報告書(2018年)

OECDは、行動計画 1 の実施状況に関して2020年に公表予定の実施状況最終報告書に先立ち、

2018年 3 月に報告書(“Tax…Challenges…Arising…from…Digitalisation…–…Interim…Report…2018”…、以 下「中間報告書」という)を公表した。

OECDレベルでの具体的な実施状況としては、以下のとおりである。

チリでは2018年 8 月、国外の事業者から国内の個人に対するデジタルサービスに対する新税の 導入案が議会に提出された。ノルウェーでは、デジタルビジネスに対する課税を2019年秋までに 導入することを検討している。また、フランス政府は2018年12月、デジタル税を2019年 1 月から 導入することを公表した17)

EUレベルでは、EU域内の市場はデジタル経済の圧倒的な消費地であり、かつ、国家財政の付 加価値税収への高い依存度とあいまって、シェアリングエコノミーを含むデジタル経済に対する 消費課税の議論がきわめて活発である18)

欧州委員会は2018年 3 月、デジタル事業に課税に関する新たな指令案を公表した19)。この指 令案によれば、デジタル経済に対する課税を短期的手法と長期的手法の二段構えで実現すること をめざす。すなわち、まず「デジタルサービス税(以下「DST」という)」を導入し、その後、「重 要な電子的存在(significant…digital…presence、以下「SDP」という)」によって課税地国を決め る法人課税に移行しようというものである。

暫定的新税のDSTは、事業者の総売上金額に対して 3 %の税率を乗じるものであるが、企業の 所得に対する課税でなく、売上げに対する課税であることに特色がある。また、将来的にDST から移行すると想定されている新たな法人課税は、従来のPE概念に代え、SDPという新たなPE 概念を用いる。

2 . 4  EU域内の対応

2 .41 「同等の競争の場」(level playing field)の確保

EU域内でデジタル経済に対する課税が喫緊の問題であるのは、BEPS問題の渦中にある巨 大多国籍企業やAirbnbやUberなどのシェアリングエコノミー企業の本社所在地は米国であ るが20)、莫大な価値が創出されているのがEU域内であるにかかわらず、課税ルールの欠缺 によって、EU域内での課税が困難となっているからである。

この問題について、EU域内のシェアリングエコノミー課税に関する2018年 2 月の欧州議 会の調査報告書21)(以下「欧州議会報告書」という)は、社会の機動性向上と社会正義の実

(7)

現との両立が難しいことを認識したうえで、「同等の競争の場」(level…playing…field)が確保 されなければならない、すなわち、同一市場で類似事業を行うときにはフェアな競争条件が 設定されなければならないとする22)。同報告書は、次のように指摘する。

「シェアリングエコノミーに課税がなされないなら、それは課税ベースを侵食することに なる。なぜならば、シェアリングエコノミーの市場での優位性が高まり、課税がなされる伝 統的なビジネスモデルは、競争上の不利益を被ることになる。類似の活動は、それが伝統的 なビジネスであれシェアリングエコノミーであれ、同じように課税がなされなければならな い。」23)

既存のビジネスと新たなビジネスに対して同じ税負担を求めるという理念のもとでとるべ き手段の選択肢として、「新たなビジネスモデルには新たな租税」という発想がありうる。

ただしこの選択肢は、税制の複雑化につながることのほか、新税による税負担を既存の税に よる税負担と同等に設定するのは難しいという難点はある。しかしEUでは、この新たな租 税の導入が試みられている。

2 .42 平衡税

EU域内で導入が検討されているのは、EU域内に向けてデジタルコンテンツを販売する多 国籍企業(典型的にはアマゾン)に対する平衡税(equalisation…levy)である。この税は、

当該企業の所得金額ではなく売上金額を課税標準として、これに一定の税率を乗じるもので あり、上述のOECDのDSTの原型である。

この新税は、上記の「同等の競争の場の確保」を目的としたものであり、導入を主導して いるのは、フランス、ドイツ、スペインおよびエストニア24)である。しかしながら、税制 優遇によってこれらの多国籍企業誘致に積極的な加盟国(ルクセンブルク、アイルランド、

マルタなど)の強い反対にさらされている25)

米国のサーバーから外国に配信されたデジタルコンテンツ(電子書籍、音楽ソフト、アプ リなど)は、当該外国にはPEがないことから、そこで商品としての価値が創出されている にかかわらず、法人税を課すことができない。物品の流通であれば、PEの概念を拡大する ことで26)、課税に取り込むことができるが、インターネットを通して販売されるデジタル コンテンツについては、利用者の国での法人課税はなおも困難である27)。そこで、当該米 国企業の当該外国の売上金額を課税ベースに課税を行うというものである。

これに対して米国は、自国企業の課税強化を理由に新税に反対している。また、理論的に は、法人税は利益に対する課税が原則であって、売上高に課すのは法人課税の理念に反する という批判がなされる。さらに、国内では利益に対して法人税が課され、国外では平衡税が 課されるという二重課税のリスクもある。

この平衡税の議論の停滞を解消するべく、前述のとおりEUは2018年、二段構えの制度導 入計画を組み込んだ新制度案を策定した。すなわち、暫定的な措置としてのDSTを導入し、

(8)

たとえばインターネット上の広告サービス、インターネット上の売買仲介サービス(シェア リングエコノミー)、利用者から収集したデータの提供といったデジタルサービスから生じ る売上高(全世界売上げが 7 億5,000万ユーロ以上かつEU域内売上げが5,000万ユーロ以上)

を有する企業に対して、利用者が主として価値を生み出している加盟国での売上高を課税 ベースに課税を行う28)。次に長期的な取り組みとして、価値(利得)が生み出されている 国で課税が行われるように、従来の「PEなくして課税なし」のルールを変更し、たとえば インターネット上のプラットフォームについて、ある加盟国での年間売上高が700万ユーロ 超、課税期間の利用者が10万人超、またはデジタルサービスにかかる契約が3000件以上のい ずれかの要件を満たす場合、当該加盟国にSDPまたは仮想PE(virtual…PE)が存在するもの とみなして法人税を課す29)

3  BEPS行動計画の消費課税への影響 3 . 1  BEPS行動計画と消費課税

BEPS行動計画は、主として所得課税領域における課税逃れを念頭においたものであるが、

消費課税領域への影響もきわめて大きいことについては、とくに実務家からしばしば指摘され るところである30)

15項目の行動計画の中で、間接税(消費税)に直接言及しているのは「行動計画 1 」(デジ タル経済に対する課税対応)であるが、PE概念の見直しとの関連で「行動計画 7 」(PE認定 の人為的回避の防止)も消費課税への影響がある。また、移転価格に関する行動計画 8 -10つ いても、消費課税への影響は大である。それは、課税当局が認定する独立当事者間価格によっ て、消費課税の課税標準が算定されるからである31)。ただし本稿では、BEPS行動計画の消費 課税への影響を行動計画 1 に限定して考察していく。

デジタル経済に対する消費課税の原則は、「仕向地国(消費地国)課税」であり、とくに B 2 B取引では、仕向地国の事業者(デジタルサービスの受領者)が申告納税を行う「リバー スチャージ方式」が適用される。しかしながら、一見完成したようにみられるこの仕向地国課 税ルールについても、以下の課題が残されている。

第一に、行政コストのへの配慮から国外からのデジタルサービスの課税最低価額を設定する 場合、同一または類似のデジタルサービスが国内で提供されれば消費税が課され、海外から提 供されれば消費課税が課されず、国内と国外の事業者間の競争中立が阻害される。

第二に、B 2 C取引において国外の事業者(デジタルサービスの提供者)が顧客の所在地国 ごとに課税事業者登録をしなければならないが、巨大多国籍企業はともかく、中小事業者が漏 れなく関係各国に課税事業者登録をするかどうか、課税当局が逐一それを確認できるかどうか という問題がある。

第一の課税最低価格への対応については、少額であっても課税徴収を行うか、国内事業者に ついても課税最低価格を設定するかのいずれかが考えられるが、いずれにしても最適な解決と はならない。前者の場合32)、事業者と課税当局双方にとってコストがかさむ。また後者の場合、

国内取引の一定金額のサービスについて非課税とする場合、この非課税取引に対応した仕入税

(9)

額の控除が遮断されてしまう33)

第二の国外事業者の事業者登録への対応については、EU域内で導入されているように、事 業者には域内加盟国のいずれかの国で課税事業者登録をさせ、その国で申告納税をさせるとい う簡素な手法(「ワンストップ方式」)が考えられる34)。しかし、これを実施するためには、

関係国間での課税徴収手続の共通化と徴収税額の配分ルールの明確化が必要となるため、消費 課税制度の共通化がなされているEU域内でのみ可能な手法といえよう。

3 . 2  EU域内における固定的施設(FE)概念の再検討 3 .21 付加価値税指令における固定的施設(FE)

EU域内では、付加価値税領域ではPEではなく、「固定的施設(fixed…establishment,…以下

「FE」という)」概念を用いており、このFEをデジタル経済との関係でどのように位置づけ るかが議論の的となっている。

EU域内の付加価値税共通ルールを定める付加価値税指令では、以下のように規定されて いる。

付加価値税44条

サービスの提供地は、事業を行う納税義務者がその事業を行う場所とする。しかしながら、

当該サービスが、納税義務者が事業を行う場所以外に所在する当該納税義務者のFEに提供 される場合には、サービスの提供地は当該FEの場所とする。

付加価値税指令はFEの定義規定をおいていないが、FEの定義に関する解釈規則では、次 のようにFEを説明している。

解釈規則11条

指令44条の適用に関し、「FE」とは、事業の設立地以外の場所にあるあらゆる施設をいい、

その事業のために提供されるサービスを受領してこれを使用するのに十分な継続性と人的・

技術的資源において十分な構造を特徴として有していなければならない。

以上のようなルールは存在するものの、とくにデジタル経済なおけるFEの解釈はなおも 明確ではない。

3 .22 「Welmory事件」  

デジタル経済におけるFEの解釈が争われた最近の重要な欧州司法裁判所判例として、

「Welmory事件」(欧州司法裁判所2014年10月16日判決)がある35)

【事実の概要】

キプロスで設立されたWelmory社(以下「W社」という)は、オンラインプラットフォー

(10)

ムでオークション販売を行う事業者であり、オークションに出品された物品の入札権(以下

「bid」という)を販売していた。W社は2009年 4 月、ポーランドで設立された P 社と提携契 約を締結し、それにもとづき P 社はW社に対して、インターネットオークションを行うため の各種サービスのほか、オークション品の商品紹介などのサービスの提供を行うこととなっ た。

両社間の契約の仕組みは、次のとおりである。顧客はまずW社から多数のbidをオンライ ン上で購入し、それにより P 社が提供するオークションに参加する権利を得る。従来のオー クションとは異なり、顧客はbidにより入札を行い、最も高いbidで入札した顧客にオークショ ン品は販売される。

W社は契約の翌年の2010年 4 月、 P 社の株式を100%取得した。同時期に P 社は、W社に 対して提供した広告やデータ処理サービス料についてインボイスを発行した。これについて W社は、これらのサービスはW社の設立地で行われ、キプロスの付加価値税が課税されるも のでありと考えている。しかしながらポーランドの課税当局は、ポーランド国内にFEが存 在し、ポーランドの付加価値税が課税されるとして課税処分を行った。

P 社はポーランドの国内の行政裁判所に課税処分の取り消しを求めて提訴した。同裁判所 は、W社と P 社は経済的に不可分のひとつの事業活動を行っており、ビジネス全体は両社の 協力関係によってポーランドで行われていると判断した。これを不服として P 社は上級行政 裁判所に上訴したが、同裁判所は、付加価値税指令44が定めるFEの解釈についての先決裁 定を求めて、欧州司法裁判所に付託した。

【付託事項】

ポーランドで設立された P 社によるサービスが、他の加盟国で設立されたW社に提供され る場合、W社の経済活動が P 社の施設設備を利用することによって遂行される状況のもとで、

付加価値税指令44条が定めるFEが P 社設立地にあるといえるか。

【先決裁定】

欧州司法裁判所は、FE概念の解釈にあたっては、サービスの提供者でなく受領者の側か ら考えなくてはならず、付加価値税指令44条の規定によって本件における課税地がポーラン ドであるというためには、 P 社により提供されるサービスをポーランドで受領し、かつ、本 件のような仕組みのインターネットオークション用にそれらのサービスを利用するために

「十分な継続性と十分な人的・技術的資源」を有していなければならないとしたうえで36) 以下の判断を示した。

「W社が行ったオンラインオークションの仕組みは、まず P 社にオークションウェブサイ トを利用させ、次にポーランドの顧客にbidsを販売するものであり、このために人的・物的 設備をポーランドに設ける必要はないが、そのことは[FEの該当性にとって]重要ではない。

むしろ、コンピューター設備、サーバー、ソフトウエアといったものがビジネスには必須な のである。」37)

W社の「オークションに必要なコンピューター設備やサーバーはポーランド国外に設置さ れている」という主張に対しては、W社が P 社から提供されるサービスを受け取るための人

(11)

的・技術的資源がポーランド国内にあるかどうかの判断は、国内裁判所の排他的司法権に服 すものであることを前提とし38)、提携契約によって結合されている 2 つの会社の経済活動 が、経済活動全体の結果として、ポーランド国内の顧客のためかどうかということは、W社 のFEがポーランド国内にあるかどうかにとって本質的なことではなく、 P 社からW社に提 供されたサービスとW社からポーランド国内の顧客に提供されたサービスと区分されなけれ ばならないとしたうえで39)、FEの解釈について以下のような判断をした。

「ある加盟国で設立された第一の納税義務者が他の加盟国で設立された第二の納税義務者 からサービスの提供を受ける場合、そのための設備が業務に十分な程度であり、サービスの 受領ができるような人的・技術的資源において相当な構造を持っている場合には、付加価値 税指令44条のFEを持っているとみなされなければならない。」40)

以上のように、欧州司法裁判所はデジタルビジネスにおけるFEの存否判断につき、まず サービスの受領者の観点からどのようなサービスを受けたのかをみたうえで、そのサービス を受けるための構造が、人的・技術的な観点からみて十分かどうかで判断されるべきである とした。この「構造」(structure)にはコンピューター設備やサーバーも含まれることから、

本件先決裁定を受けたポーランドの裁判所は、ポーランド国内の P 社のW社に対するオンラ インサービスがW社のビジネスにとって必要なものであり、そのサービスを提供するための P 社のコンピューター技術とそれをオペレートする人材が十分なものであったかどうかを判 断することになる。

3 .23 仮想FE

所得課税における新たなPE概念と同様、FE概念についてもデジタル経済の進展に伴い進 化することは避けられず、上記「Welmory事件」の欧州司法裁判所判決からも導かれるよ うに、コンピューター設備やソフトを含む「仮想FE」概念が必要となる。これには以下の ものが含まれると考えられるであろう41)

① ある国での活動が主である代理人であっても、法的な提携関係のもとで他国において自 国の事業と関連のある活動を行っている場合には、この代理人を当該他国におけるFEと みるべきではないか。

② 操業後には保守サービスだけを必要とする、他国向けに電力が供給される風力発電施設 は、発電された電力が自国で電力網に供給される場合には、自国のFEとみるべきではな いか。

③ オンラインコンテンツ提供者は、提供国の顧客に対してコンテンツ内容をコントロール でき、提供国顧客に関する情報保存ができる場合で、かつ、電子サービスに関するシステ ムを独自に運用している場合には、これをFEとみるべきではないか。

4 .デジタル経済における所得課税と消費課税の近接

以上のように、GAFAと称される巨大多国籍企業やAirbnbやUberに代表されるシェアリング

(12)

エコノミー企業に牽引されるデジタル経済の課税問題に対するOEDDやEUの取り組みを考察し てみると、所得課税と消費課税の二分論ではなく、問題の根幹は共通するものとして対応してい ることがわかる。このことは、最終目的はSDPにもとづく法人課税(デジタル経済における「SDP なくして課税なし」の新たなルール)へ移行するまでの暫定措置として、企業の「所得金額」で はなく「売上金額」を課税標準とDSTを導入することにも表れている。重要なのは、現行の課 税ルールの欠缺によって過度に課税を軽減してきたこれらの企業に応分の負担(fair…share)を してもらうということである。

これまで、一定の課税期間の所得をその源泉地国で把握する所得課税と、取引ごとにその売上 金額(対価の金額)をその消費地国で把握する消費税課税との二分論にもとづき、前者について はPEによる課税国の特定、後者については―とくにEUでは―FEによる消費地国の特定がなさ れてきたが、デジタル経済に対する課税においては、すなわち仮想PEと仮想FEが融合したSDP の概念が妥当していくのではないかと考える。

BEPSプロジェクトにおける消費課税の問題は、主として行動計画1で取り上げられる各論の ように取り扱われる傾向にあるが、所得課税と共通するSDPの意義づけを深化させることを通し て、BEPS問題の主要問題のひとつとなろう。このように位置づけることで、デジタル経済時代 の法的安定性とともに、状況と必要に応じたビジネス市場のコントロールが可能になるはずであ 42)

1)… CRMは、企業が個々の顧客との関係を管理することにより、顧客の新規獲得や維持をはかって長期 的視点から収益を得ようとするものであり、またFSPは、優良顧客を差別化して、当該顧客からの評 価等の種々の情報提供などの貢献度に応じて優遇を与えるものであり、ともに有効なマーケティング の手法とされる。

2)… …このような企業と消費者との双方向関係だけでなく、当該企業の顧客同士のインターネット上での 情報交換を通して、企業はさらに自社製品・サービスに対する評価を獲得することになる。

3)… シェアリングエコノミー(または共有型経済)の明確な定義はないが、内閣官房シェアリングエコノ ミー促進室は、「個人等が保有する活用可能な資産等(スキルや時間等の無形のものを含む。)を、イ ンターネット上のマッチングプラットフォームを介して他の個人等も利用可能とする経済活性化活 動」と説明する(経済産業省『平成30年版情報通信白書』71頁)。

4)… これらの多国籍企業の代表格であるGoogle,…Apple,…Facebook,…Amazonの頭文字をとってGAFAと呼 ばれたり、Facebook,…Alibaba,…Amazon,…Alphabet(Googleの親会社)の頭文字をとってFAAAと呼 ばれたりすることもある。

5)… 巨大多国籍IT企業がもたらす課題について、日経新聞(朝刊)2018年 7 月19日記事参照。

6)… 日経新聞(朝刊)2016年 1 月23日記事による。

7)… EU域内でも法人税率が低水準のアイルランドやルクセンブルクは、このような税制優遇を通して巨 大多国籍企業の自国への誘致を図っており、欧州委員会による追徴課税指示は、アマゾンに対する約 2 億5000万ユーロ(約316億円)の税制優遇を行ったルクセンブルク政府にも行われている。アップ ル社に関する追徴課税の指示を受けたアイルランド政府は、なおも多国籍企業誘致の思惑があり、

2017年10月時点で追徴課税を行っていない模様である(日経新聞(朝刊)2017年10月 4 日)。

8)… 15項目の行動計画の最終報告書は、下記のURLで閲覧できる。

http://www.oecd.org/ctp/beps-2015-final-reports.htm(2019.4.1)

(13)

9)… BEPSプロジェクトと行動計画に関する一連の文献については、金子宏『租税法』(弘文堂、第23版、

2019)557-562頁参照。

10)… EU28か国(英国含む)中、消費税(付加価値税)標準税率が最も高いのはハンガリーの27%、最も 低いのはルクセンブルクの17%である。EU域内の付加価値税共通ルールを定める付加価値税指令97 条 1 項により、加盟国は標準税率を15%以上に設定しなければならない。EU域内の付加価値税共通 ルールの最新情報につき、IBFD,…EU VAT Compass 2018/2019…(2018),…pp.711-724。

11)… このような視点は、Jürgen…Scholz,…Die…feste…Niederlassung…im…Lichte…von…BEPS…–…Anforderungen,…

Rechtsfolgen…und…Praxisfragen…zu…umsatzsteuerlichen…Betriebsstäten,…in:…Umsatzsteuerforum…e.V.…

Bundesministreium… der… Finanzen,… 100 Jahre Umsatzsteuer in Deutschland 1918-2018

(Ottoschmidt,…2018)に拠るものである。デジタル経済と消費課税の研究にあたっては、明治学院大 学法と経営学研究所研究プロジェクトの助成を得た。

12)… 国税庁HPの解説による。http://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/kokusai/beps/index.htm…(2019.4.1) 

13)… …Final…Report,…at…Forward。…

14)… 消費課税におけるフェアネスにつき、拙稿「消費課税における『事業者』と『消費者』―フェアネス の視点からの考察」税法学573号(2017)209頁以下。

15)… デジタル経済と従来型ビジネスとの競争中立を担保するために、前者について課税を行うものであり、

インドは2016年にこれを導入した。

16)… ただし最終報告書では、この 3 つの選択肢はBEPSプロジェクト全体およびデジタルビジネス市場へ の影響が大きいことも示唆されている。

17)… その後、デジタル業界への多大な影響を考慮し、2019年税制改正草案に盛り込まず、2019年の継続 審議としたが、反政府運動(いわゆる「黄色いベスト運動」)の低所得者への増税に対する反発の影 響もあり、EU域内での合意形成を待たず、デジタル税の導入に踏み切った。土居丈朗「GAFAに課 税せよ!…広がる『デジタル税』の招待―フランスやイギリスで強まる課税包囲網」2019年 3 月 4 日付 東洋経済オンライン参照。

18)… EU域内のデジタル経済に対する課税問題をテーマとして、2018年 5 月に独日シンポジウム「グローバ ル・エコノミーと租税法からの応答―日独の場合」(早稲田大学比較法研究所主催・独日法律家協会共 催)が開催された。このシンポジウムにおける拙報告につき、Yumi…Nishiyama,…The…Collaborative…

Economy…and…VAT/Consumption…Tax,…Die Zeitschrift für Japanisches Recht (Vol.24…Nr.47,…2019),…

PP.51-68。

19)… COM(2018)148…final。

20)… Airbnbの設立は2008年、Uberの設立は2009年、ともに設立地・本社所在地は米国・サンフランシス コである。

21)… European…Parliament,…The collaborative economy and taxation: Taxing the value created in the collaborative economy (February,…2018)。

22)… 報告書14頁。ここでいう「同等」とは、結果の平等ではなく、機会の平等が想定されている。

23)… The…European…Commission,…Tax Policies in the European Union: 2017 Survey…(2017),…p.48,…Box…2.1.

24)… エストニアは、2004年EU加盟、2011年に共通通貨ユーロを導入している。国の政策として電子政府 化を積極的に推進し、これにともなって、デジタルビジネスも急激に発達している。

25)… この新税に注目したのがOECDであり、デジタル経済に対する法人課税の手法のひとつとして、EU の平衡税の手法を検討した。しかしEUの視点が「同等の競争の場の確保」であるのに対して、

OECDの目的は、デジタル経済を展開する多国籍企業への課税強化である。

26)… たとえば、物流拠点となる倉庫もPEに取り込むなど。

(14)

27)… 日経新聞2018年 2 月24日付朝刊によれば、プライスウォーターハウスクーパーの推計として、世界の 電子書籍の市場希望は、2015年時点で約100憶ドル( 1 兆700億円)となっている。

28)… …2018年 3 月21日付欧州委員会プレスリリースによれば、税率を 3 %に設定した場合の域内の税収は、

約50億ユーロと試算されている。

29)… この方法によって得た税収は、デジタルサービスの利用者が利用時に所在している加盟国に分配され る。

30)… 脚注11)のScholz氏はドイツの税理士であり、KPMGからも…“Don’t…underestimate…BEPS’…impact…on…

direct…tax”(2016)という報告書が出されている。

31)… 所得課税において移転価格税制が適用される場合に、消費課税における対価の額も修正されることは 必要であるとはいえ、消費課税の修正申告を当初の支払いに遡って訂正するのかどうか、発行された インボイスの修正が可能かどうかなど、副次的な問題が生じる。

32)… EU域内の付加価値税共通システムは、課税最低金額を設定していない。

33)… 非課税取引において、その取引には消費税が課されない一方で、その非課税取引にかかる仕入れで負 担した消費税を控除することができない。たとえば、医療法人が非課税の医療サービスを行う場合、

そのサービスにかかる仕入れ(たとえば医療用ベッドの購入費や病院内の清掃サービスの利用料など で負担した消費税)を控除することができない。

34)… 登録国で徴収された付加価値税は、当該登録国で一定の手数料を差し引いたうえで、関係国で配分さ れる仕組みになっている。EU域内のこの仕組みは、現時点では通信とデジタルサービスといった一 定のサービスについて適用されるため、「ミニ・ワンストップ方式」と呼ばれる。

35)… C-605/12。

36)… 判決文para.58-59。

37)… 判決文para.60。

38)… 判決文para.62。

39)… 判決文Para.64。

40)… 判決文Para.65。

41)… Scholz(fn.11),…574-575。

42)… Scholz(fn.11),…576。

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