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契約による株式譲渡の制限

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契約による株式譲渡の制限

著者 来住野 究, KISHINO Kiwamu

雑誌名 明治学院大学法学研究 = Meiji Gakuin law journal

巻 95

ページ 25‑49

発行年 2013‑08‑31

その他のタイトル Contractual Restrictions of Share Transfer

URL http://hdl.handle.net/10723/1575

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契約による株式譲渡の制限

来住野   究

Ⅰ はじめに

 従業員持株制度は,従業員の株式による財産形成を支援し,従業員の勤労意 欲・愛社精神を高揚させるほか,会社にとっては安定株主づくりに役立つなど の利点があるため,これを採用する会社は多い。従業員持株制度は上場会社の 95%以上が採用しており(1),その他の会社にも普及している(2)。他方で,従業 員持株制度は,従業員の従属性を利用した経営者支配の道具となるおそれもあ り,従業員株主による不適切な株主総会の運営など法的紛争を惹起することも ある(3)。その中で最も問題となるのが,従業員持株制度に伴う株式譲渡制限契 約の効力である。すなわち,従業員持株制度においては,通常従業員持株会が 運営主体となって定期的に自社株を共同購入し,それを拠出額に応じて従業員 に分配するという形態をとるのが一般的であるが,制度運用の円滑化を図るた め,従業員以外には株式を譲渡しないとか,退職時には会社・持株会またはそ れらが指定した者などに対して,一定の価格(例えば取得価格)で売り渡すなど の合意がなされることが多く,この合意の効力をめぐって争いが生ずることが 少なくない。この場合,株式を譲渡するか否かの自由・相手方選択の自由が奪 われるだけでなく,取得価格での売渡が強制される場合には株主にキャピタル ゲインを得る機会を与えないことになるため,投下資本回収を不当に妨げるこ とになるのではないかという問題が提起される。

 また,合弁会社においても,合弁事業の経営にあたって当事者が約定の役割

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を長期にわたって安定的に果たすようにするため,合弁契約上,一定期間の株 式譲渡を禁止したり,合弁の解消・変更等に伴う利害調整を図るため,株式譲 渡の条件・手続などについて定めを設けておくことが多い。そのため,かかる 約定の有効性と限界を検証するための前提として,契約による株式譲渡制限の 一般法理を構築する必要がある。

 そこで,本稿では株式譲渡制限契約の効力について従業員持株制度に伴う場 合を中心として検討し,附随的に合弁会社における株式譲渡制限契約にも言及 することとする。

Ⅱ 学説・判例の状況

1.学説

 昭和 25 年商法改正により株式譲渡の自由が絶対的に保障され,定款をもっ てしてもこれを制限することができなくなったことに伴い,昭和 26 年に制定 された「商法等の一部を改正する法律施行法」2条2項は新法に抵触する契約 の条項も新法施行の日からその効力を失うと定めていたため,かつては株式譲 渡制限契約は一切無効であると解する見解もあった(4)

 その後,契約による株式譲渡制限の有効性は柔軟に解されるようになった。

ニュアンスの違いをも考慮すれば学説はかなり多岐に分かれるが,主に次のよ うな見解が主張されている。

 まず,会社と株主との契約による場合と会社以外の者と株主との契約による 場合とに分けて契約の有効性を判断する見解が支持を集めた。すなわち,会社 と株主との契約による場合には,株式譲渡の自由を保障した平成 17 年改正前 商法(以下,便宜上「旧商法」と略称する)204 条1項(会 127 条)の脱法行為と して原則として無効であるが,契約内容が株主の投下資本回収を不当に妨げな

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い合理的なものである場合には有効であると解される。一方,会社以外の者と 株主との契約による場合には,旧商法 204 条1項の関知するところではないか ら,契約自由の原則に基づき原則として有効であるが,会社と株主との契約の 潜脱手段と認められる場合や株主の投下資本回収を不当に妨げるなど公序良俗

(民 90 条)に反する場合には無効とされる(5)

 これに対して,会社が当事者となる場合も契約自由の原則が妥当し,公序良 俗に反する場合に限って無効とすれば足りると解する見解も有力に主張されて いる(6)。そして,従業員退職時における固定価格での売渡強制が公序良俗に違 反するかについては,かかる契約は売却益を否定し,株式投資の利益を剰余金 の配当に限定するものである以上,配当性向が 100%でない限り,株式投資の 本質に反する(7)などとして,有効性の判断基準を配当性向・配当実績に求め,

配当性向の低い場合にはこれを無効と解する見解が多い。なお,従業員持株制 度に伴う株式譲渡制限契約については,附合契約的になされることが問題とさ れることも多いが,契約内容の不当性の有無こそが先決問題である。

 また,商法の規制は,単に定款による制限のみならず契約による制限をも含 む譲渡制限一般について,投下資本回収の機会を不当に奪ってはならないとい う理想を明らかにしているため,契約による譲渡制限がこの理想と矛盾する場 合には,その契約は無効としなければならないと解する見解もある(8)2.判例

 従業員持株制度に伴う株式譲渡制限契約の効力に関する公刊判例としては,

①東京地判昭和 48 年2月 23 日判時 697 号 87 頁(9),②東京地判昭和 49 年9月 19 日判時 771 号 79 頁(10),③神戸地尼崎支判昭和 57 年2月 19 日下民 33 巻1

〜4号 90 頁(11),④東京高判昭和 62 年 12 月 10 日金法 1199 号 30 頁(12),⑤名 古屋地判平成1年1月 18 日判タ 770 号 248 頁,⑥京都地判平成1年2月3日 判時 1325 号 140 頁(13),⑦神戸地判平成3年1月 28 日判時 1385 号 125 頁(ワー

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ルド事件)(14),⑧名古屋高判平成3年5月 30 日判タ 770 号 242 頁(⑤の控訴審判 決)(15),⑨東京地判平成4年4月 17 日判時 1451 号 157 頁(16),⑩東京高判平成 5年6月 29 日判時 1465 号 146 頁(⑨の控訴審判決)(17),⑪最判平成7年4月 25 日集民 175 号 91 頁(⑤⑧の上告審判決)(18),⑫東京地判平成 10 年8月 31 日判時 1689 号 148 頁(19),⑬東京地判平成 19 年 10 月 25 日判時 1988 号 131 頁(日経新 聞事件)(20),⑭東京高判平成 20 年4月 24 日金判 1312 号 35 頁(⑬の控訴審判 決(21)),⑮最判平成 21 年2月 17 日判時 2038 号 144 頁(⑬⑭の上告審判決)(22)が ある(23)

 いずれも,定款により株式譲渡が制限されている非公開会社の事案であり(① は不明),⑨⑩を除き,従業員持株制度の運用主体としての会社または従業員 持株会との間で,従業員を退職する際には,会社・従業員持株会またはその指 定する者に対して取得価格と同額(額面額)で(⑫では取得価格の2割増しで)譲 渡する旨の契約を締結したという点では大差ない。⑨⑩は,他の事案とは異な り,従業員持株会の規約は,㋐持株会は,会員の所有する株式を共有として,

その管理運営を行うことを目的とし,株式は持株会の理事長に管理のため信託 され,㋑持株会の会員は自己の有する持分を持株会以外の者には譲渡すること ができず,㋒会員が死亡したときまたは会員資格を喪失したときはその持分は 当然に持株会に移転し,㋓その場合の一株に相当する持分の買取価額は配当還 元方式により定め,右方式による価額が額面金額に満たないときは額面金額に よるというものであったため,むしろ共有持分の譲渡制限であって,株式自体 の譲渡制限とは異なるように思われる。

 判例は⑨を除きいずれもかかる契約を有効と解しているが,この論点に関す る最初の最高裁判例である⑪は,「商法 204 条1項に違反するものではなく,

公序良俗にも反しないから有効であ」ると判示するにすぎない。かかる契約が 株式譲渡の自由を保障した旧商法 204 条1項(会 127 条)に違反するかについ ては,同項は当事者間の個別的な債権契約の効力について規定するものではな

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いとしているが(①②③⑤⑧),さらに実質的な判断を加えて,従業員持株制度 の目的・内容,利益配当の実績に鑑みれば株主の投下資本回収を不当に妨げる ものではないと判示するものもある(②③)。契約当事者が会社か会社以外の 者かによって効力を区別したものはない。ただし,⑩では,株式譲渡制限契約 は会社内の任意団体たる持株会と株主との間に交わされたものであって,商法 の規定の適用が直接問題となる場合ではない上,会社が商法の規定の適用を回 避するため,持株会を設立してこれを会社と従業員との間に介在させたという ような特段の事情は認められないとして,契約当事者が会社であれば効力が異 なる可能性を示唆している。公序良俗に反するかについては,譲渡制限株式は 市場における自由な売買が予定されていないこと(⑥⑦⑩⑫⑮),時価にかかわ りなく額面額で株式を購入できること(④⑤⑥⑦⑧⑩⑭⑮),相当程度の利益配 当がなされており(④⑤⑥⑦⑧⑩⑫),多額の利益を計上しながら特段の事情も ないのに一切配当を行うことなくこれをすべて会社内部に留保していたという ような事情もないこと(⑮),譲渡制限株式につき個別的に譲渡価格を定める ことが実際上困難であり(④⑤⑧),時価による株式譲渡を認めると従業員持株 制度が維持できないこと(⑭)などを理由として,かかる契約は従業員株主に 不当な不利益を与えるものではなく,投下資本の回収を著しく制限する不合理 なものではないとしている。

 一方,契約の効力を否定した唯一の判例である⑨は,「被告会社の株式のよ うな非上場株式については,任意に株式の譲受人を探しだすことも株式の時価 を正確に定めることも実際上は困難であり,また,1割の配当率であっても,

これを投資利回りとしてみれば金融機関の預金金利よりは高率であって,従業 員の財産形成にそれなりに寄与しているといいうることも事実であるが,この ような事情を勘案しても,本件契約において定められている共有持分の強制譲 渡の対価の算定方式は,被告会社のように配当性向が低く,株式の価値のうち キャピタルゲインが極めて大きい場合には,キャピタルゲインの取得について

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何らの考慮も払っていない点において,株主の投下資本の回収を著しく制限す る不合理なものといわざるをえず,公序良俗に反し無効というべきである。」

と判示している。

 株式譲渡制限契約の効力は当事者の真意に基づいて締結されたことを前提と するが,附合契約的になされるため,判例には株式譲渡制限契約の効力以前に 合意の成否が争われたものもある(合意の成立を否定したものとして⑨)。⑬では,

株式譲渡につき取締役会の承認を要するとともに,株式の譲受人は事業に関係 のある者に限る旨の定款規定のある日刊新聞社において,退職・死亡などによ り株主資格を失ったときまたは個人的な理由で株式を売却する必要が生じたと きは持株会が一株 100 円で買い戻すとのルールが確立し,持株会と株主との間 には,持株会から株式の譲渡を受ける際にかかるルールに従う合意があったか が専ら争われているにすぎず,裁判所は合意の成立を認定したが,そこでは契 約による株式譲渡制限も有効であることを前提としていると思われる。

 なお,株式売渡強制の相手方が会社である場合には自己株式取得となるため,

平成 13 年改正前商法 210 条との関係で株式譲渡制限契約の効力が争われたも のもあるが(③⑥),現行法の下では自己株式取得自体は禁止されていないため,

ここでは特に問題としない。

Ⅲ 従業員持株制度に伴う株式譲渡制限契約

1.株式譲渡自由の原則との関係

 契約による株式譲渡制限は株式譲渡自由の原則に反しないかが問題となる が,そもそも株式譲渡自由の原則は何を保障しているのかを確認しておこう。

 株式譲渡自由の原則は,株主の投下資本回収の手段を保障すると説明される。

すなわち,株式会社では退社による持分の払戻が認められないため,株主が株

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式を他人に売却することによって投下資本を回収して会社から離脱する手段と して,株式の自由譲渡性が保障される。したがって,投下資本回収の手段とし ての株式譲渡は強行法的に保障されなければならず,定款をもってしても株式 譲渡を禁止することはできない。しかし,会社法 127 条は,準物権契約たる株 式譲渡について規定したものであり,投下資本回収を目的とする債権契約たる 株式の売買契約について規定したものではないし,投下資本回収を目的としな い贈与契約を原因とする株式譲渡も対象とする。したがって,株式譲渡自由の 原則を投下資本回収の手段の保障としてのみ捉えることは不十分である。そこ で,株式譲渡自由の原則については,株式会社では株式譲渡の相手方は誰でも 差し支えないという点を重視すべきである。相手方の如何を問わず株式の移転 を認めるのが会社法 127 条の趣旨である。定款によって株式譲渡を制限できる とすれば,それは株式譲渡の準物権的効力を制限するという効力を有するもの でなければ意味がない。

 要するに,会社法 127 条は,準物権契約としての株式譲渡の自由を保障する ものであり,株式の売買契約・贈与契約といった債権契約を対象とするもので はない(24)。ただ,準物権契約としての株式譲渡の自由を保障しなければ,株式 の売買契約にも支障を来し,投下資本の回収が妨げられるため,株式譲渡自由 の原則の趣旨として投下資本回収の保障が指摘されるのである。

 では,契約により株式譲渡の準物権的効力を制限することはできるか。

 思うに,準物権契約としての株式譲渡の効力を自治的に制限できるのは社団 法的拘束力のある定款のみであり,契約によって株式譲渡の準物権的効力を制 限することはできない。すなわち,契約による株式譲渡制限が有効であるとし ても,その契約は株主に対して一定の作為義務または不作為義務を課するとい う債権的効力を有するにすぎず,これに違反する株式譲渡は,譲受人の善意・

悪意を問わず有効である。この点につき,民法 466 条2項によれば,当事者間 の特約により債権譲渡を禁止または制限した場合,その特約は善意の第三者に

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対抗できないが,悪意の第三者には対抗できるため,この規定が契約による株 式譲渡制限にも類推適用できるかについても検討を要する(25)。しかし,債権譲 渡を禁止または制限する特約により,債権はその属性として譲渡性が制限され るため,悪意の第三者との関係においては債権譲渡の無効という準物権的効力 を生ぜしめる(26)のに対して,譲渡に関する株式の属性は定款によって決まり,

会社と株主との個別的な株式譲渡制限契約によって株式の属性を変えることは できない(27)。したがって,契約による株式譲渡制限の場合には民法 466 条2項 の適用はなく,当事者間に債権的効力を生ぜしめるにとどまる。そして,会社 法 127 条の保障する株式譲渡自由の原則は準物権契約としての株式譲渡を対象 とするものであるから,契約による株式譲渡の制限は,それが会社との間でな されたものであると会社以外の者との間でなされたものであるとを問わず,会 社法 127 条の関知するところではない。したがって,契約による株式譲渡の制 限は,その内容が公序良俗に反するものでない限り,有効であると解すべきで ある。

 この点につき,株式譲渡制限契約について一般的・社会的な意味での公序良 俗はまず問題とならないであろうから,公序良俗といっても,それは株式会社 法における公序良俗であって,結局その実質は株式譲渡自由の原則の趣旨とい うのにほかならないのではないかという指摘があり(28),株主の投下資本回収の 機会を不当に奪うものであるかどうかということが有効性の具体的な判断基準 として示されることも多いが,これは株式譲渡制限契約が株式の属性に影響を 及ぼすという考えが前提となっているのではないか。しかし,社員たる地位は 社団の性質に応じてその譲渡が制限されうるところ,株式会社では株主の投下 資本回収を保障するために株式に自由譲渡性を付与した以上,その属性は自由 な処分が可能な所有権と何ら異ならないから,株式譲渡制限契約の妥当性も物 の処分を制限する契約の妥当性と同様の基準をもって判断すればよい。した がって,公序良俗に反するか否かは,客体が株式であるということに拘泥する

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必要はなく,財産権の処分に対する不当な制限であるか,対価等の点において 一方当事者(従業員株主)に一方的に不利益を強いるものであるかを基準とし て判断すればよい。

 ただし,会社が当事者である場合において,会社が株式に与えた属性と株式 譲渡制限契約の内容が矛盾するといえる場合には,その契約は無効である。例 えば,定款により株式譲渡を制限していない会社が,株主との契約により,株 式譲渡につき会社の同意を要する旨約定することは,会社とは無関係に譲渡し うるという株式の属性に反する。かかる契約は,株式の属性を変容せしめるこ とのない債権契約にとどまる以上,当事者間のいわば紳士協定としてその効力 を認める余地もあるが,会社の意思としては矛盾しているし,ましてその違反 に対して違約金(損害賠償額の予定)などの制裁を伴う場合には,定款による株 式譲渡制限の潜脱とのそしりを免れないため,無効といわざるをえない。また,

譲渡制限株式の譲渡承認とその不承認に伴う対象株式の買取に関する手続(会 136 条以下)は,株主に投下資本回収を保障するための強行法的性質を有する ものであるし,株式譲渡の準物権的効力にもかかわる以上,会社・株主間の契 約によって変更しうるものではないから,かかる手続規制を変更する旨の契約 も無効というべきである(29)

2.公序良俗との関係

(1)譲渡先の限定・退職時の売渡強制

 これは株式に固有の問題ではなく,特定の財産の譲渡先を限定したり,一定 の時期に譲渡を強制する旨の約定が公序良俗に反するかという一般的な問題と して論ずるべきであるが,不動産の買戻特約(民 579 条)の厳格な要件を回避 するものとして再売買の予約が広く利用されていることに鑑みれば,公序良俗 に反するということはできない。しかも,従業員持株制度は従業員を構成員と して運用するものであり,株式の拡散を防止することに制度構築上の合理的な

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理由があるといえるし,譲渡制限株式については,本来相手方選択の自由がな い以上,かかる特約はむしろ株式の処分を容易ならしめるものである。

 問題として残るのは,従業員持株会などの従業員持株制度の運営主体が,違 反する株式譲渡の実現を阻止するために株券を預かる場合である。株式譲渡制 限契約が債権契約にとどまり,それに違反する株式譲渡も有効であるから,株 式譲渡制限契約の実効性を担保するためには,株券をどこかに預託させるなど して株券の交付をできなくする必要があるといわれる(30)が,それは事実上株 式譲渡の準物権的効力を制限するに等しいからである。しかし,株主は受寄者 を通じて株式を占有している以上,指図による株券の占有移転(民 184 条)に より株式を譲渡することは妨げられないと解される。もっとも,従来の株券保 管振替制度のように(株券保管振替法 23 条)株券を混合(混蔵)寄託することが できればその特定性は失われるが,株式が譲渡された場合には交付された株券 の番号(会 216 条柱書)と譲渡人の株主名簿上の株券番号(会 121 条4号)が一 致しなければならないから,受寄者を株式の名義人としておかない限り,株券 の混合寄託は認められないというべきである(31)。そのため,株券発行会社にお いては,株式譲渡制限契約に伴って株券を預託させても,譲渡当事者間に株式 譲渡を躊躇させる心理的効果をもたらすにすぎず,株式譲渡制限の実効性を担 保することはできない。株券が発行されない場合は,当事者は合意のみによっ て株式を譲渡できるため,会社は株式譲渡制限契約違反を理由として名義書換 を拒絶することはできない。その結果,株式譲渡制限契約は,株券が発行され ない譲渡制限株式についてのみその実効的な機能を果たしうることになろ う(32)

(2)売渡価格の固定

 取得価格での売渡が強制される場合,株主にキャピタルゲインを得る機会を 与えないことは,投下資本回収を不当に妨げるものといえるかということが議

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論される。その際,学説・判例上配当性向・配当実績が重要な考慮要素となっ ていることは,前述の通りである。なるほど,売渡価格に株式の持分価値が反 映されない場合には,剰余金の配当により株式の持分価値の一部が継続的に株 主に還元されるべきであるということは理解しうる。しかし,契約の効力は契 約締結時の事情を基準として判断するのが大原則であるから,配当性向・配当 実績といった契約締結後の事情によって契約の効力が左右されるはずはな い(33)。株式売渡までにどの程度の配当がなされたか,売渡価格は時価からどの 程度乖離しているかなどを判断基準とする判例・学説の立場は,結果論である といわざるをえない(34)。そこで,約定時(株式取得時)を基準として従来の配 当実績と将来の配当性向の予測などを総合して判断されるべきであり,約定が 的確な予測の下になされていれば有効な合意であり,事後に会社が業績不振と なり,当初予想された配当利回りが確保されなかったとしても,かかる事後的 事情によって遡って約定の効力は否定されないと解する見解も主張されてい る(35)。しかし,将来どの程度の配当が期待できるかということは投資判断であ り,投資家の自己責任に属する。まして,株式譲渡制限契約の相手方が会社で あれ会社以外の者であれ,相手方の一存で剰余金配当額を左右することはでき ない以上,剰余金配当に関する事項は契約の内容にはなりえない。配当が期待 できなければ株式を取得しなければよいだけのことであって,剰余金配当の見 込みが相手方または第三者による詐欺に該当したとしても,不法行為に基づく 損害賠償責任の問題とすればよい。会社法は投下資本回収の手段としての株式 譲渡を保障しているにすぎず,投下資本回収自体を保障しているわけではな い(36)。会社法 144 条は譲渡制限株式について適正な価格による譲渡を保障して いるが,これは,買取人は譲渡人が自ら選択した者ではなく,売渡価格につき 自由な交渉が期待できないからである。

 また,取得価格が当時の時価よりも低額であれば,取得時に利益を得ている ことになるし,売渡価格を固定するということは,株価が上昇したときにキャ

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ピタルゲインを得られない反面,株価が下落したときにもキャピタルロスを負 担しないことをも意味する(37)から,それはまさに株主の投資判断に属する。か かる契約は株価変動による損益を従業員持株会に転嫁することを目的としてい るといえるが,従業員株主が株価変動に伴う利益享受と損失負担を望まず,専 ら元物たる株式から分離された果実というべき剰余金配当のみによって利殖す ることを期待し,それが従業員持株制度を通じて実現できる場合に,かかる意 思を否定する必要はあるまい(38)。したがって,売買価格は当事者の自由に委ね られるべきものであり,法律が投下資本回収の金額の妥当性についてまで後見 的な役割を果たす必要はない。従業員持株制度への加入期間が長期にわたるこ とにより,当時の取得価格が現在の貨幣価値から著しく乖離しているというこ ともありうるが,その場合には事情変更の原則により現在の貨幣価値にふさわ しい売渡価格に修正する余地はある(39)

 百歩譲って,取得価格での株式売渡強制が公序良俗に反するとしても,かか る約定のみを無効と解することはできるのか。取得価格での売渡強制は低廉な 取得価格の設定とも密接不可分の関係にあるから,従業員による株式取得の効 力までも否定されることになるのではないか。そうであれば,無効と解する意 味はなくなるし,取得価格での売渡強制に関する約定のみを無効とすることは,

従業員株主に対する過保護となる。

 したがって,取得価格での株式売渡強制に関する約定も有効であると解すべ きである。

 ところで,非公開会社において,従業員株主が株式譲渡制限契約で譲渡先と して約定されていない者を譲受人として株式譲渡承認請求をしてきた場合,会 社がそれを承認せず買取人として従業員持株会を指定したとしても,譲渡承認 請求者は買取通知の日から 20 日以内に裁判所に対して売買価格の決定の申立 をすることができ,適正価格での買取が保障されるため(会 144 条2〜5項・7 項),従業員持株会は約定価格での買取が実現できないおそれがある。しかし,

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旧法(旧商 204 条ノ4)とは異なり協議が調わないことは売買価格決定申立の要 件とはなっていないが,買取価格は第一次的には当事者の協議によって定めら れるべきものである(会 144 条1項・7項)。買取価格の合意に瑕疵がない場合に,

裁判所がそれを覆せるはずがない。従業員持株会が株式譲渡制限契約における 売買価格の約定を主張・立証すれば,裁判所による売買価格の決定は阻止でき るというべきである(40)

3.株式譲渡制限契約の性質

 株式を譲渡する場合にはその相手方を従業員持株会または従業員に限定する とともに,従業員退職時には従業員持株会に対して所定の価格で売り渡さなけ ればならない旨の一般的な株式譲渡制限契約の性質は,始期付売買契約または 再売買の予約であると解される。

 始期付売買契約である場合,特に株式移転時期に関する特約がない限り,従 業員は退職すると同時に,株式の売渡義務を負うだけでなく,株式は当然に持 株会に移転することになる(41)。ただし,譲渡制限株式については会社の承認が 譲渡の効力要件となると解すべきである(42)から,持株会への譲渡には会社の承 認を要しない(正確には,会社の承認があったものとみなす)旨の定款の定め(会 107 条2項1号ロ)があることを前提とする。また,従業員株主が売買代金を受 領する前に株式移転の効力を認めるという契約内容は,株主保護の点で問題が 残る。一方,従業員株主が在職中に株式を譲渡する場合については,譲渡先を 持株会に限定する旨の約定があったとしても,それは他への株式譲渡をしない という不作為義務を生ずるにすぎないと解すべきであるから,第三者に株式を 譲渡する旨の意思表示をしたからといって,それを持株会への譲渡と擬制す る(43)のは乱暴である。したがって,かかる約定は,株式譲渡を希望する従業員 株主に対して,持株会に対する形成権たる株式買取請求権を認めるものと解す べきであろう。

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 一方,再売買の予約である場合,従業員株主は株式譲渡を希望する場合また は退職時には従業員持株会に対して形成権たる予約完結権を行使することがで き,従業員持株会も退職時には従業員株主に対して予約完結権を行使すること ができる。その効果として,売買契約に基づく株式移転義務と約定価格の代金 支払義務が生ずる。株券が発行されていない場合における株式移転の効力発生 時期については,当事者間の約定があればそれに従うが,代金支払の時と解す るのが穏当であろう(44)

Ⅳ 合弁会社における株式譲渡制限契約

 少数の当事者が共同して事業を営むために設立した合弁会社では,当事者は,

単なる出資者にとどまらず,相互の高度な信頼関係を基礎として,一定の支配 権のバランスを維持しながら,会社の経営に積極的・恒常的に参画しようとす る。そのため,当事者は,他の当事者による支配関係の変動や合弁会社からの 離脱について重大な利害関係を有する。かかる特色を有する合弁会社やベン チャー企業に適した会社形態として,新会社法は合同会社を創設したが,非公 開の株式会社も利用される。そこでは,定款に株式譲渡制限に関する定めを設 けるだけではなく,それを補強するために合弁契約でも株式譲渡の制限や強制 について定めておくのが通常である(45)。合弁会社設立後合弁会社自身も合弁契 約に加入する場合には,合弁会社は株式譲渡制限契約についてその当事者とな りうる。

 合弁契約における株式譲渡制限の態様としては,主に同意条項(consent re- striction)・先買権条項(first refusal right)・売渡強制条項(call option)・買取強制 条項(put option)がある。同意条項とは,他の当事者の同意なしに株式を譲渡 することを禁止する定めである。先買権条項とは,当事者が第三者に株式を譲 渡しようとするときは,他の当事者に対して事前に通知することを要し,通知

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を受けた当事者は一定期間優先的に株式を買い取ることのできる権利(先買権)

を有するものとし,その期間内に他の当事者が先買権を行使しなかった場合に 限り,当初の譲受人に対して株式を譲渡できるものとする定めである。売渡強 制条項は,合弁契約違反・当事者の信用不安など合弁関係の継続を困難にする 一定の事由が生じたときは,他の当事者の保有する合弁会社の株式を買い取る ことのできる権利に関する定めであり,買取強制条項とは,自己の保有する株 式を他の当事者に売り渡すことのできる権利に関する定めである。また,合弁 事業の安定した遂行を担保するために,当事者は一定期間または一定の事由が 生ずるまで株式の譲渡その他の移転ができない旨定めることもある。

 これらのうち,同意条項は,他の当事者の同意が得られない限り株式を譲渡 する道が閉ざされるのであるから,適用期間を限定したり先買権条項と併用し なければ,財産権の処分に対する過度の制約として無効となりうるが,それ以 外の条項については,原則として有効であるといってよい。先買権条項・売渡 強制条項・買取強制条項は,一定の場合に一方当事者に株式売買契約を成立せ しめることのできる形成権を付与するものであるから,そこに付された条件が 不合理でない限り,有効であると解される(46)。まして,合弁契約においては当 事者は自己の利害を慎重に考慮するから,当事者の一方にのみ不利益となるよ うな内容となることは考えにくい。しかし,これらは債権契約にとどまる以上,

契約に違反する株式譲渡の効力を阻止することはできない(47)。株式譲渡の効力 は,専ら譲渡制限株式の譲渡に関する会社の承認の有無によって決まる。合弁 会社自身が合弁契約に加入している場合には,合弁会社は先買権者の意向に 沿って承認・不承認・買取人の指定を行う義務を負うが,それに違反した承認・

買取人の指定に基づいて株式譲渡がなされたとしても,その効力が否定される わけではない。事後的に債務不履行に基づく損害賠償責任を追及するとしても,

他の当事者の損害の立証は非常に困難であるため,損害賠償額の予定により損 害賠償請求の可能性を確保しておくほかはない。

(17)

Ⅴ まとめ

 以上の検討を要約し,従業員持株制度の問題点を付言して結びとする。

 株式譲渡自由の原則は,準物権契約としての株式譲渡の自由を保障するもの であり,その効力を制限できるのは定款のみであるから,契約によって株式譲 渡を制限しても債権的効力を有するにすぎない。したがって,株式譲渡制限契 約の効力は,原則として,当事者の如何を問わず,その内容が公序良俗に反す るか否かによって決すればよい。

 合弁会社における株式譲渡制限契約は,合弁関係の維持または解消に関する 合理性を有し,財産権の処分に対する過度の制約とならない限り,有効と解さ れる。

 従業員持株制度に伴う株式譲渡制限契約,主に従業員退職時には従業員持株 会に対して取得価格と同額で株式を売り渡すことが強制される約定は,株価変 動に伴う利益・損失は享受せず,専ら剰余金の配当のみによる収益を目的とす るものであり,従業員株主の利益を一方的に害するものではないから,有効で あるが,その対象が株券の発行されない譲渡制限株式でなければ,契約の実効 性は担保できない。従業員株主が約定の譲渡先(従業員持株会)以外の者に譲 渡した場合には,譲渡承認請求・買取請求に関する会社法の手続に服し,譲渡 の効力も所定の承認機関による承認の有無によって決まるし,固定された売渡 価格についても貨幣価値の変動により修正される可能性があるため,株式譲渡 制限契約の実効性は疑わしい。

 このように,従業員持株制度に伴う株式譲渡制限契約を有効と解するからと いって,その問題性を否定するつもりはない。従業員株主の労働の成果という べき剰余金が十分に配当されず,剰余金の内部留保により株式の価値が高騰し ているのにその価値を享受できなければ,従業員株主が強い不満を抱くのは当

(18)

然である。従業員持株制度が従業員株主の財産形成支援を標榜している以上,

従業員株主からの不信を招き,従業員持株制度への参加を敬遠させるような配 当政策には相応の歯止めがかかるであろうが,取締役や支配株主が事実上の配 当決定権を濫用して配当金を低額に抑え,従業員株主の利益を侵害するおそれ もないわけではない(48)。しかし,従業員株主がそれに対抗して,剰余金配当を 実現する法的手段はないに等しい(49)。従業員株主が剰余金配当決議を左右しう る程度の議決権数を有していたとしても,経営者の配当政策に異を唱えること は容易ではない。従業員による労働の成果の分配は株主に対する剰余金配当で しか実現できないわけではないから,従業員持株制度は経営者支配の道具にす ぎないとの批判も免れない。このように,従業員持株制度に伴う株式譲渡制限 契約は従業員株主と持株会との間になされ,契約自体には法的に瑕疵はないと しても,会社と従業員株主との間に配当性向や経営者支配をめぐる事実上の問 題として現出するところに,この制度の問題点の悩ましさがある。会社が従業 員持株制度に伴う株式譲渡制限の正当性ばかりを主張して(50),従業員株主の経 済的な不満を十分に顧みないようでは,会社と従業員株主との間の溝は埋まる まい。

(1) 全国証券取引所上場会社を対象とした平成 10 年度の調査によれば,従業員持 株制度の実施会社は 96.3%であった(高橋聡「平成 15 年度従業員持株会状況調査結果 の概要」商事法務 1717 号(2004 年)36 頁)

(2) 従業員持株制度においては,従業員持株会が自社株の買付やその株式の管理に ついて証券会社または信託銀行に業務委託することが多いが,そのほとんどが証 券会社方式である。証券会社方式は,日本証券業協会の「持株制度に関するガイ ドライン」に従って運用され,間接参加方式と直接参加方式とがあるが,実際に は間接参加方式が多い。野村證券の開発した間接参加方式は,従業員持株制度に 参加する従業員全員によって民法上の組合たる持株会が組織され,参加者は出資 金という形で自社株の購入資金を拠出し,証券会社を通じて買い付けた自社株は

(19)

組合財産となるため,参加者は拠出金額に応じてそれを共有する。山一証券の開 発した直接参加方式は,幹部従業員など一部の従業員が民法上の組合たる持株会 を組織し,組合員以外の従業員は積立金という形で株式購入資金を拠出し,組合 員がこれを管理する。買い付けた自社株は,組合持分を介さずに参加者が共有す る。いずれの方式でも,自社株は持株会の理事長名義となり,参加者の持分は理 事長に管理信託される。一方,信託銀行方式は,参加者たる従業員を委託者兼受 益者として,信託銀行に自社株の購入・管理を信託するものである。従業員持株 制度の実態については,新谷勝『新しい従業員持株制度』(2008 年・税務経理協会)

1 頁以下参照。

(3) 従業員持株会に対する奨励金の支給が株主の権利行使に関する利益供与にあた るかが争われたものとして,福井地判昭和 60 年 3 月 29 日判タ 559 号 27 頁(熊谷 組事件)。株主総会において従業員株主を他の株主よりも先に入場させて株主席の 前方に着席させた措置の適法性が争われたものとして,最判平成 8 年 11 月 12 日 判時 1598 号 152 頁(四国電力事件)。従業員持株制度の下で締結が強制される株式 信託契約につきその効力を否定したものとして,大阪高決昭和 58 年 10 月 27 日 高民集 36 巻 3 号 250 頁。日本版ESOPのスキームに基づき従業員持株会支援会 に対してなされた新株の第三者割当が著しく不公正な方法による新株発行として 差し止められるかが争われたものとして,東京地決平成 24 年 7 月 9 日金判 1400 号 45 頁。

(4) 松田二郎=鈴木忠一『條解株式會社法上』(1951 年・弘文堂)116 頁,西本寛一「株 式譲渡制限契約」愛知学院大学論叢法学研究 7 巻 1 号(1964 年)48 頁。

(5) 大隅健一郎=今井宏『会社法論上巻〔第3版〕』(1991 年・有斐閣)434 頁,石井 照久=鴻常夫『会社法第一巻』(1977 年・勁草書房)222 頁,田中誠二『三全訂会社 法詳論上巻』(1993 年・勁草書房)387 頁,前田雅弘「契約による株式の譲渡制限」

法学論叢 121 巻 1 号(1987 年)36 頁以下,石田榮一「退職時の従業員持株譲渡制 限について」堀口亘先生退官記念『現代会社法・証券取引法の展開』(1993 年・経 済法令研究会)33 頁等。

   前田雅弘「判批」『会社法判例百選〔第2版〕』(2011 年・有斐閣)47 頁は,会社 法は,会社のもつ譲渡制限の需要と投下資本回収確保の要請とのバランスを,定 款による譲渡制限の制度に結実させたのであるから,会社が契約で株式譲渡を制 限してこのバランスを崩してしまうことは,株式の自由譲渡性を定める規定の趣 旨に反し,契約は無効となるが,会社以外の者が譲渡制限を行うことについては,

その者が会社からの独立性を欠く場合を除き,契約自由の原則が妥当すると解す る。

   青竹正一「株主の契約」菅原菊志先生古稀記念論集『現代企業法の理論』(1998

(20)

年・信山社)7 頁以下(『閉鎖会社紛争の新展開』(2001 年・信山社)所収)は,株主の投 下資本回収の機会を不当に奪う会社との契約は商法 204 条 1 項に違反して無効で あるが,会社が契約当事者となっていない契約については,商法 204 条 1 項の適 用は問題とならず,いかなる態様の契約が許されるかは,株主の投下資本回収の 機会を不当に奪うことにならないか,投下資本回収の機会を制約する合理的理由 があるかによって判断されるべきであるとして,従業員持株制度に伴う株式譲渡 制限契約は有効であると解する。

(6) 河本一郎ほか「座談会・従業員持株制度をめぐる諸問題(三・完)」民商法雑誌 98 巻 3 号(1988 年)8 頁[森本滋発言],森本滋「株式の譲渡制限」法学論叢 16 巻 3・4 号(2000 年)108 頁,三枝一雄「従業員持株制度の商法上の問題点」法律 論叢 67 巻 2・3 号(1995 年)216 頁,神崎克郎『商法Ⅱ(会社法)〔第3版〕』(1991 年・

青林書院)168 頁,弥永真生『リーガルマインド会社法〔第 13 版〕』(2012 年・有斐閣)

64〜65 頁。

(7) 神崎克郎「従業員持株制度における譲渡価格約定の有効性」判例タイムズ 501 号(1983 年)6〜7 頁。株式投資の本質に反することを強調する見解として,南保 勝美「従業員持株制度における株式買戻」法律論叢 67 巻 4・5・6 号(1995 年)

416〜419 頁。

(8) 上柳克郎「株式の譲渡制限」大阪学院大学法学研究 15 巻 1・2 号(1989 年)14 頁(『商事法論集』(1999 年・有斐閣)所収),柿崎榮治「構造的視点からの閉鎖的株 式会社の社団性に関する若干の考察」服部榮三先生古稀記念『商法学における論 争と省察』(1990 年・商事法務研究会)190 頁。三原園子「定款に全部株式譲渡制限 の定めのある株式会社における従業員持株会による株式の買戻し規定の効力」関 東学院法学 20 巻 3 号(2011 年)88 頁も同旨か。

   市川兼三『従業員持株制度の研究』(2001 年・信山社)428〜440 頁は,株式譲渡 制限契約の効力は株式譲渡自由の原則に違反するかの問題であるとした上で,従 業員持株制度の目的や当事者の利害状況を考慮して次のように解する。すなわち,

従業員持株制度は従業員の勤労意欲・経営参加意識の向上や職場定着を目的とす る場合,株式の継続保有を前提とするから,従業員の株式取得の経緯等から見て 無理がないと思われる一定期間に限って従業員に取得価格での譲渡を義務づける ことはできるが,従業員が多年にわたって株式を保有し続けてきたような場合に は,従業員持株制度の目的は十分に達成されており,また十分な期間にわたって 株式投資の危険をしているし,株式価値の増大は労働の成果であるから,その際 の譲渡価格は企業成長を反映する公正な価格であるべきである(436〜438 頁)。ま た,同・462〜465 頁・476 頁・478 頁では,従業員が会社への貢献という会社ま たは経営陣の信頼に反した場合,具体的には5年間の在職または5年間の株式継

(21)

続保有に反した場合には,取得価格での株式買戻は認められるが,その期間を超 える場合には公正な価格での株式買戻が認められるにすぎないと主張する。

(9) この判例の評釈として,吉井溥・法律のひろば 26 巻 9 号(1973 年)66 頁,江 頭憲治郎・ジュリスト 618 号(1976 年)159 頁,宮島司・法学研究 51 巻 3 号(1978 年)103 頁。

(10) この判例の評釈として,伊藤勇剛・法律のひろば 28 巻 8 号(1975 年)76 頁,

久保井一匡・企業法研究 253 号(1976 年)27 頁。

(11) この判例の評釈として,中島史雄・法律のひろば 36 巻 3 号(1983 年)67 頁,

高橋紀夫・松山商大論集 34 巻 1 号(1983 年)147 頁,坂田桂三・金融商事判例 671 号(1983 年)55 頁,甘利公人・上智法学論集 27 巻 1 号(1984 年)173 頁,龍 田節・商事法務 1055 号(1985 年)102 頁,竹村純・西南学院大学法学論集 18 巻 4 号(1986 年)149 頁,柴田和史・ジュリスト 864 号(1986 年)104 頁,鈴木千佳子・

法学研究 61 巻 10 号(1988 年)125 頁,山口賢『新証券・商品取引判例百選』(1988 年・有斐閣)180 頁,前田雅弘『会社判例百選〔第5版〕』(1992 年・有斐閣)38 頁。

(12) この判例の評釈として,藤田祥子・法学研究 67 巻 7 号(1994 年)129 頁。

(13) この判例の評釈として,大内捷司・判例タイムズ 735 号〔平成元年度主要民事 判例解説〕(1990 年)238 頁,新谷勝・金融商事判例 841 号(1990 年)42 頁,森淳 二朗・法学セミナー428 号(1990 年)118 頁,小野寺千世・ジュリスト 1016 号(1993 年)121 頁,片木晴彦・商事法務 1318 号(1993 年)35 頁,近藤龍司・法学研究 68 巻 5 号(1995 年)127 頁。

(14) この判例の評釈として,藤村知己・徳島大学社会科学研究 5 号(1992 年)1 頁,

市川兼三・商事法務 1321 号(1993 年)8 頁・1322 号(同年)27 頁・1323 号(同年)

17 頁(前掲『従業員持株制度の研究』所収)。この事件を契機とする論稿として,山 口賢「従業員持株会と退職時の株券の返還」商事法務 1265 号(1991 年)9 頁以下・

1266 号(同年)28 頁以下。

(15) この判例の評釈として,春田博・法学セミナー449 号(1992 年)144 頁,藤原俊 雄・静岡大学法経研究 41 巻 4 号(1993 年)65 頁,高松宏之・判例タイムズ 821 号〔平成4年度主要民事判例解説〕(1993 年)188 頁。

(16) この判例の評釈として,石田榮一・金融商事判例 926 号(1993 年)41 頁,前田 雅弘・私法判例リマークス 8 号(1994 年)116 頁,出口正義・日本大学司法研究 所紀要 5 巻(1994 年)141 頁,畔栁正義・判例タイムズ 852 号〔平成5年度主要 民事判例解説〕(1994 年)24 頁。

(17) この判例の評釈として,畠田公明・判例時報 1470 号(1993 年)208 頁,川島い づみ・法律のひろば 47 巻 2 号(1994 年)74 頁,楠元純一郎・佐賀大学経済論集 26 巻 6 号(1994 年)135 頁,藤原俊雄・判例タイムズ 907 号(1996 年)66 頁,同・

(22)

判例タイムズ 975 号(1998 年)36 頁,金義勝・早稲田法学 74 巻 1 号(1998 年)

233 頁。

(18) この判例の評釈として,宮島司・ジュリスト 1091 号〔平成7年度重要判例解説〕

(1996 年)85 頁,藤原俊雄・判例タイムズ 948 号(1997 年)13 頁,黒石英毅・法 学新報 105 巻 4・5 号(1999 年)287 頁,前田・前掲注(5)百選 46 頁。

(19) この判例の評釈として,清水忠之・ジュリスト 1199 号(2001 年)99 頁,藤原 俊雄・静岡大学法政研究 6 巻 2 号(2001 年)207 頁。

(20) この判例の評釈として,菊地雄介・受験新報 686 号(2008 年)28 頁,拙稿・法 学研究 81 巻 11 号(2008 年)105 頁。

(21) この判例の評釈として,木下崇・速報判例解説 4 号(2009 年)105 頁。

(22) この判例の評釈・コメントとして,弥永真生・ジュリスト 1374 号(2009 年)22 頁,鳥山恭一・金融商事判例 1312 号(2009 年)1 頁,同・法学セミナー653 号(2009 年)121 頁,河内隆史・商事法研究 72 号(2009 年)29 頁,西川義晃・速報判例解 説 5 号(2009 年)123 頁,川島いづみ・判例時報 2060 号(2010 年)174 頁,森本滋・

私法判例リマークス 40 号(2010 年)106 頁,山本爲三郎・法学教室判例セレクト 2009 Ⅱ(2010 年)16 頁,中村信男・ジュリスト 1398 号〔平成 21 年度重要判例解 説〕(2010 年)118 頁,三原園子・関東学院法学 20 巻 1 号(2010 年)27 頁,品川仁 美・法学 74 巻 4 号(2010 年)162 頁,内栫博信・志學館法学 12 号(2010 年)177 頁,

草野真人・別冊判例タイムズ 29 号〔平成 21 年度主要民事判例解説〕(2010 年)

182 頁,石田眞・富大経済論集 56 巻 3 号(2011 年)209 頁,小林俊明・専修ロージャー ナル 6 号(2011 年)271 頁,張笑男・商事法務 1976 号(2012 年)67 頁。本件をめ ぐる特集記事として,「日刊新聞法の今日的意義」新聞研究 694 号(2009 年)10 頁以下。本件を素材とする論稿として,新谷勝「従業員持株制度と株式の売渡強 制」税経通信 64 巻 7 号(2009 年)24 頁,周田憲二「従業員持株制度による売渡 の強制」鳥谷部茂ほか編『現代民事法改革の動向Ⅲ』(2009 年・成文堂)207 頁,

𠮷岡伸一「従業員持ち株会と従業員間の買戻し代金額についての特約」岡山大学 法学会雑誌 59 巻 2 号(2009 年)1 頁,松嶋隆弘「メディアの『閉鎖性』の検討」

日本大学政経研究 46 巻 2 号(2009 年)105 頁,同「『メディアの閉鎖性』に関す る会社法的考察」民事法情報 281 号(2010 年)84 頁。

(23) これらの判例の分析・整理については,辻武司「従業員持株制度における譲渡 価格約定の効力」米田實先生古稀記念『現代金融取引法の諸問題』(1996 年・民事 法研究会)58〜65 頁,福田千恵子「従業員持株制度下における株式譲渡制限契約」

門口正人判事退官記念『新しい時代の民事司法』(2011 年・商事法務)285〜290 頁 参照。

(24) 田中耕太郎『改訂会社法概論下巻』(1955 年・岩波書店)327 頁,大隅健一郎「株

(23)

式の譲渡」田中耕太郎編『株式会社法講座第二巻』(1956 年・有斐閣)640 頁,大 隅=今井・前掲注(5)415 頁,大森忠夫=矢沢惇編集代表『注釈会社法(3)(1967 年・有斐閣)61 頁[大塚市助執筆]。

(25) 河本ほか・前掲注(6)8 頁[森本滋発言]は,商法 204 条 1 項但書が規制対象 とする譲渡制限は,その会社のすべての株式について,その付加的属性となる譲 渡制限制度ではないかとしつつ,契約による株式の譲渡制限はいわば民法 466 条 2 項の「当事者が反対の意思表示をした」場合の譲渡制限の定めであるとする。

(26) かかる物権的効力説が通説であるが(我妻榮『新訂債権総論』(1964 年・岩波書店)

524 頁等),債権譲渡禁止特約に違反する債権譲渡も有効であり,債務者は悪意の 譲受人には悪意の抗弁をもって対抗しうるにすぎないと解する債権的効力説も近 時有力となっており(前田達明『口述債権総論〔第3版〕』(1993 年・成文堂)400 頁,池 田真朗『債権譲渡法理の展開』(2001 年・弘文堂)337〜338 頁・363 頁,清原泰司「譲渡禁 止特約付き債権譲渡に関する一考察」和歌山大学経済理論 285 号(1998 年)45 頁以下等), 民法(債権法)改正検討委員会「債権法改正の基本方針」【3.1.4.03】は,債権譲渡 禁止特約に反してなされた譲渡の効力は妨げられないが,譲受人が特約につき善 意かつ無重過失であれば,債務者は特約をもって譲受人に対抗できないという内 容に民法 466 条 2 項を改正する提案をした。「民法(債権関係)の改正に関する中 間試案」(平成 25 年 2 月 26 日)第 18 の1でも,譲渡制限特約のある債権が譲渡さ れた場合において,譲受人に悪意または重大な過失があるときは,債務者は,当 該特約をもって譲受人に対抗できるものとしている。

   特約の効力について,物権的効力説は,債権からその属性としての譲渡性を奪 い,権利自体を変質させると解し,債権的効力説は,債権の譲渡性自体は影響を 受けることなく債権者は譲渡しない義務を負担するにすぎないと解するものと整 理されるのが通常であるが(奥田昌道『債権総論〔増補版〕』(1992 年・悠々社)431 頁), 米倉明「債権譲渡禁止特約に関する再検討」愛知学院大学論叢法学研究 47 巻 2 号(2006 年)5〜7 頁は,債権譲渡禁止特約は債権自体から譲渡性を奪う場合と譲 渡行為だけを禁止するにとどまる場合とに区別できるとしつつ,後者は民法 466 条 2 項の対象外であるとする。

(27) 河本ほか・前掲注(6)19 頁[前田雅弘発言]は,株式譲渡制限契約によって株 式の属性が変わると解するようである。

(28) 前田雅弘「契約による株式の譲渡制限」私法 51 号(1989 年)239 頁。

(29) 拙稿・前掲注(20)113 頁。

(30) 神田秀樹『会社法〔第 15 版〕』(2013 年・弘文堂)95 頁。

(31) 河本一郎『有価証券振替決済制度の研究』(1969 年・有斐閣)228〜229 頁。

(32) 河本一郎「『二重譲渡』を防ぐ制度作りの重要性」新聞研究 694 号(2009 年)29

(24)

頁は,日経新聞事件のような株式の二重譲渡を防止して従業員持株制度に伴う株 式譲渡制限の実現を担保するためには,譲渡制限株式についても株券を発行して 持株会が預かっておくべきことを指摘するが,会社とは無関係に流通することを 予定しない譲渡制限株式について無記名証券たる株券の発行を認めること自体に 理論的な問題がある(拙稿「株券不発行への課題」朝日法学論集 29 号(2003 年)274 頁 以下)。また,本文で述べたように,指図による株券の占有移転を通して株式を譲 渡することは妨げられないところ,判例・通説によればその譲渡は当事者間では 有効であり,株式譲渡制限契約の効力は譲受人には及ばないから,持株会に対す る株券の寄託は役に立たない。

(33) 出口・前掲注(16)147 頁,新谷・前掲注(2)225 頁。

(34) 稲葉威雄ほか『条解・会社法の研究2株式(1)(別冊商事法務 124 号)(1990 年・

商事法務研究会)91 頁・93 頁[稲葉発言],95 頁[江頭憲治郎発言]。

(35) 新谷・前掲注(22)27 頁。

(36) 株主が会社財産に対する持分価値をもって株式を売却することにより投下資本 を回収できるのは,株主は剰余金配当請求権と残余財産分配請求権を有するから にほかならない。ところが,会社法 105 条 2 項は剰余金配当請求権と残余財産分 配請求権のいずれか一方のみを強行法的に保障しているにすぎないため,定款に より残余財産分配請求権を剥奪することができる。この場合,従業員持株制度に おける株式譲渡制限と同様,株主は剰余金配当によって利殖できるにすぎない。

株式投資の本質または会社財産に対する持分価値を反映した価格での投下資本回 収の必要性を強調するのではあれば,かかる属性の株式を発行できることをむし ろ問題とすべきである(私見によれば,残余財産分配請求権は株主の本質的権利であり,

定款をもってこれを剥奪することはできないはずである。拙稿「法人の営利性」倉澤康一郎 先生古稀記念『商法の歴史と論理』(2005 年・新青出版)224 頁)

(37) ただし,会社の経営危機などにより株価が約定額を下回った場合に,実際上持 株会に約定額を支払える資力があるかは疑わしいが(牛丸與志夫「従業員持株制度の 問題点」浜田道代=岩原紳作編『会社法の争点』(2009 年・有斐閣)63 頁,川島・前掲注(22)

178 頁参照),それはキャピタルロスというよりも債務者の支払不能のリスクとい うべきである。

(38) 加藤修「株式制度の想定外利用と従業員持株制度」法学研究 81 巻 12 号(2008 年)

83 頁,新谷・前掲注(2)235 頁。倉澤康一郎ほか編『判例講義会社法〔第2版〕』

(2013 年・悠々社)28 頁[松山三和子執筆]は,当事者の意思は,株式とは別物の,

自益権としては剰余金配当を主な内容とする,擬似株式にすぎないものを取得さ せまたは取得することであったのではないかと述べ,小林・前掲注(22)279 頁は,

「投下資本回収に関する株主権の内容を合理的な範囲で修正した個別契約と考え

(25)

てよい」と述べるが,契約よって株式の属性まで変わるかのような表現は適切で はない。

(39) このように売渡価格に貨幣価値の変動を反映させるべきであるとすれば,従業 員株主による長期間の株式保有が予定される従業員持株制度においては,売渡価 格を固定する実益は乏しくなるから,売渡価格の合理的な算定方法を定めておく ことが望ましいと思われる。

(40) 長嶋・大野・常松法律事務所編『アドバンス新会社法〔第3版〕』(2010 年・商 事法務)160 頁は,従業員持株制度に伴う株式譲渡制限契約に関するものではない が,指定買取人と株主との間で予め売買価格について合意しておくことは可能で あると解する。この場合,裁判所の買取価格の決定が買取価格の約定に優先する ことを防止するため,買取価格決定の申立権を約定により予め放棄させておくべ きであると指摘されるが,約定の買取価格が現在の貨幣価値に照らして妥当でな い場合には裁判所による是正を認めるべきであるから,申立権自体は保障される べきであろう。

(41) 前掲京都地判平成 1 年 2 月 3 日と前掲神戸地判平成 3 年 1 月 28 日は,いずれ も株式譲渡制限契約を始期付売買契約と解し,従業員退職に伴う株式の移転を認 めるが,後者は,株式譲渡制限契約の相手方である会社に株券を預けていた事案 であり,従業員株主からの会社に対する株券返還請求を棄却したのに対して,前 者は,従業員株主が株券を保有していた事案であり,会社からの従業員株主に対 する株券引渡請求を認容した。しかし,前者の判例については,なぜ株券の引渡 なく株式移転の効力を生ずるのか疑問である。

(42) 会社の承認を欠く株式譲渡の効力については,拙稿・前掲注(32)274 頁以下参照。

(43) 前掲東京地判平成 19 年 10 月 25 日は,従業員株主による株式譲渡承認請求に 対して会社が不承認を回答した後,同株主から買受人指定請求がなされたことを もって,株式売却の意思の確定という停止条件が成就し,持株会との間で株式の 売買契約の効力が生じたと判示する。これに対する批判は,拙稿・前掲注(20)

113 頁参照。

(44) 平成 17 年改正前商法 204 条ノ 4 第 4 項は,先買権者に対する株式の移転は売 買代金支払の時にその効力を生ずるものと規定していた。新会社法に同旨の規定 はないが,当事者の合理的意思解釈により同様に解されよう(江頭憲治郎『株式会 社法〔第4版〕』(2011 年・有斐閣)234 頁,山下友信編『会社法コンメンタール3』(2013 年・

商事法務)404 頁[山本爲三郎執筆])

(45) 合弁契約による株式譲渡制限については,ジョイント・ベンチャー研究会編

『ジョイント・ベンチャー契約の実務と理論』(2006 年・判例タイムズ社)13〜16 頁[棚橋元執筆]・109〜131 頁[髙橋利昌執筆]・236〜252 頁[黒田伸太郎執筆],

(26)

清水建成「合弁契約における株式譲渡を伴う終了条件に関する考察」判例タイム ズ 1274 号(2008 年)5 頁以下,岩倉正和=佐藤丈文編『会社法実務解説』(2012 年・

有斐閣)62〜63 頁・68〜74 頁[志村直子執筆]参照。

(46) 伊藤靖史ほか『事例で考える会社法』(2011 年・有斐閣)471〜472 頁[田中亘執筆]

は,契約による株式の譲渡制限によって,会社(実質的には取締役会や代表者)に同 意権や買取先指定権を与える場合において,その合理的な理由に乏しく,かつ現 経営陣の支配権の維持・確保のためにその権限が利用されるおそれがあるときは,

定款による株式の譲渡制限を行う際の厳格な手続を経ることなく,「取締役が株 主を選ぶ」という株主にとってリスクの高い仕組みを利用する点で,株式の譲渡 制限に関する会社法の規定を脱法するものとして,無効と解すべきであるとする。

公開会社が自らかかる株式譲渡制限契約の当事者となる場合のみならず第三者た る会社のためにする契約であっても,会社の同意権・買取先指定権の根拠は会社 の意思に求められる以上,本文で述べたように,株式に自由譲渡性を与える会社 の意思と矛盾するものとして無効と解すれば足りるのではないか。

(47) ジョイント・ベンチャー研究会編・前掲注(45)246〜249 頁[黒田執筆]。なお,

石丸裕康「ジョイント・ベンチャー・アグリーメント(株主間契約)の法的性質と その特色」企業法学会編『企業法学(1994 Vol.3)(1994 年・商事法務研究会)174 頁 は,合弁会社自体を株式譲渡制限契約の当事者としておけば,会社は株主の契約 違反を理由として譲受人からの名義書換請求を拒絶できると解する可能性を示唆 するが,有効に株式を譲り受けた以上,譲受人からの名義書換を拒絶することは できない。

(48) 小林俊明「閉鎖会社における従業員持株制度と株式譲渡制限契約」専修法学論 集 111 号(2011 年)63 頁。

(49) 拙稿「剰余金配当請求権について」信州大学法学論集 6 号(2006 年)283 頁以 下参照。

(50) 日経新聞事件における日経新聞社の見解(日本経済新聞平成 21 年 2 月 18 日朝刊 26 面)参照。

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