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従業員持株制度の草創期

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従業員持株制度の草創期

11 

は じ め に

日本の従業員持株制度の歴史は昭和 40年を境として大きく分けること が出来るように思われる。昭和 30年代後半までは様々な型の従業員持株制 度がそれぞれの時期の社会的要請を受けて登場する。

制度として確立した従業員持株制度は極めて少なく,

支配的な型の従業員持株制度というものは見られないように思われる。

だがその頃までは,

また一般的もしくは

かし昭和40年代に入ると,日本は世界市場に経済大国の一つとして登場す る。昭和 30年代後半における貿易自由化に引き続いて資本自由化が行われ る。従業員持株制度としては従業員集団による月掛投資型が急速に普及し はじめる。後にはこれが支配的な型の従業員持株制度として確立し,単に 従業員持株制度といえばこの型のものを指すようになる。そこで昭和 39年

までを従業員持株制度の草創期として昭和 40年以降と区別し,本稿ではこ の草創期の従業員持株制度を取り扱う。

その論述の順序としては,まず従業員持株制度に関する各種調査により ながら各々の調査が行われた当時の従業員持株制度の一般的状況を明らか にする。次に各々の時期の代表的と思われる従業員持株制度についてその

一六 六

‑ 25  16‑ 1  166 (香法'96)

(2)

従業員持株制度の華創期(市川)

開始時期,制度内容および開始にいたる背景を明らかにする。しかる後草 創期の従業員持株制度について総括的なまとめを行う。

従業員持株制度についての各種調査

1 序

従業員持株制度についての調在は昭和 39年以前において筆者の知る限 り5回行われている。これらの調査はいずれも従業員持株制度が世間の注 目を集めたときに行われている。 1つは第二次世界大戦終了後間もない頃 に従業員持株制度が日本経済民主化の手段として注目されたときに行われ ており,他の 4つは昭和 30年代後半になって,日本経済が貿易自由化を控 えて,大型株の株価不振• 安定株主の確保対策として,増資を円滑に行う 手段として注目されたときに行われている。昭和 30年代後半の調究は 35 年, 37年, 39年と 2年おきに行われている。 39年には上場企業の調査と中 小企業の調在の 2つが行われている。ここではこれらの調査の概要を見て

みよう。

六五

2 斎藤栄三郎博士の調査

斎藤栄三郎博士は昭和 22年 (1947年)日本で最初の従業員持株制度につ いての実証的研究である『従業員持株制度の実証的研究』を著された。同 書において第二次世界大戦終了直後の従業員持株制度について調在がなさ れている。斎藤博士は株式会社が資本主義の経済組織の中枢神経であると いう認識の下に,株式会社を最大多数の最大幸福のために運用すべきであ り,その目的を実現するものとして従業員持株制度に注目する。つまり斎 藤博士が日本における従業員持株制度の実証的研究を行ったのは経済民主

(1) 

化の一助とするためであった。同書において従業員持株制度とは,「会社が 自社の従業員に特別の条件をもって,自社の株式を分譲し,従業員に株式 (1)  斎藤栄三郎『従業員持株制度の実証的研究』 (1947 1

16‑1 165 (香法'96) 26 

(3)

を所有せしめる制度」である。従って従業員が勝手に市場で株式を購入し 株主となったとしても,これを従業員持株制度とは言わない。特別の条件 と言うのは, (1)株式の購入価格を市価より安くしたり, (2)配当を一般株式 より優先せしめたり, (3)購入条件として,毎月の月給から少額を積み立て て,株式購入額に達したとき,株式を完全に従業員の所有に移したり, (4)

(2) 

従業員の功労に報いるために無償で株式を分与したり等々である。この定 義から明らかなように,同書においては,会社が従業員に特別の条件を認 めている限り,恒常的な制度を有しない場合にも従業員持株制度と考えら れている。

1回の調査では全国の主要会社に 3,000枚の調在表を配布した。その 中味は「貴社では,従業員に株式を分与していますか。もし実行している とすれば,その方法及び全株式数に対する従業員の持株数並びにその利轡 得失」であった。これに対し 106社から回答がありそのうち 64社が従業員 持株制度を実施していた。しかしその回答内容は「実施している」という 程度の簡単なものであった。そこで従業員持株制度を採用している会社に のみ,さらに第 2回の調音表を送った。その内容は「(1)いつから従業員持 株制度をはじめましたか, (2)この株式購入資金はどうしていますか, (3)転 売を禁止していますか, (4)従業員の持株には議決権がついていますか, (5)

(3) 

全株式に対する従業員株の割合, (6)会社に対する影響,」であった。これに 対しては 39社が回答を寄せた。その調壺の結論は次のとおりであった。

(1)従業員持株制度は全国にわたって行われている。

(2)資本金額は扶桑金属 (41,800円),三菱本社 (24,000万円)等 のように巨額のものもあるが,中規模程度の会社に多い。この原因として は,(イ)資本金が多くなると,従業員では,株式を消化しきれず,結局一般 市場から株式を募集する結果となる。(口)中規模程度の会社では,いわゆる 六

(2) 2 (3)  同所。

27  16~1--164 (香法'96)

(4)

従業員持株制度の草創期(市川)

家族主義の精神で会社首脳部が従業員に株を分け易い。い)従業員側からみ ても会社の内容が判るから,株式を持とうとの意欲が中規模の会社に多い。

(3)業種から見ても,あらゆる種類の会社が従業員持株制を採用している。

(4)従業員の持株は割合に少ない。(イ)全株数の 5割以上従業員が持ってい るのは大阪合同,典服産業,中部日本の 3社,(口) 2割以上 5割未満は,大 日本特殊工作所,興和紡績,理研護諜,昭和化工,大阪商事の 5社,い) 1 割以上 2割未満は津田駒工業,電元工業,大和製鋼,早川電機,三河セメ

ント産業,東武鉄道の 6社,(二) 1割未満は 25社,(ホ)比率不明 25社,この

(4) 

25社は第 2回目の調査に回答を寄せなかったものである。

斎藤調査では, 3,000社に調査表を配布したが,回答を寄せたのは 106社

(回答率 3.5%)であり,従業員持株制度に対する関心は一般的には低か ったと思われる。同調査では,会社が従業員に特別な条件を認めている限 り,恒常的な制度を有していない場合にも,従業員持株制度と考えられて いるが,従業員持株制度を実施していた会社は 64社(調査表送付会社総数 の2.1%)にすぎなかった。

3 東北大学商法研究室の調査

昭和 35年 (1960年)に東北大学商法研究室が「重役及び従業員の持株」

に関するアンケート調査を行った。同調査は株式懇話会加盟の資本金 5, 000万円以上の 598社を対象として行われ,回答を寄せたものは 267社(回 答率 44.6%)であった。同調査では従業員の持株が従業員持株制度によっ

たものか否かは調査していない。同調査によれば,従業員の株式取得に際 して会社が直接または間接に資金援助を与えたものが 77社(調査表送付会

(5) 

社総数の 12.9 %)ある。この 77社は会社が特別の条件を持って従業員に 六 自社株を所有せしめているので,斎藤調査によれば,従業員持株制度を実

(4) 38‑‑39

(5)  東北大学商法研究室「重役および従業員の持株に関する実態調杏」商事法務201 (1961 19

16~- 163 (香法'96) ‑ 28  ‑

(5)

施していることになろう。斎藤調査の時よりも従業員持株制度がかなり普 及していることを示すものであろう。

従業員が取得した株式の処理についてみると,内規で株式の譲渡を制限 しているものが 7社あり,この 7社はいずれも資本金5億円未満である。

また従業員の退職に当たって株式の譲渡をあっせんするとかの内規を定め ているものが 10社あり,この 10社はいずれも資本金が 10億円未満であ

東北大調査によると,従業員の株式保有を積極的にすすめたい理由とし ては, (1)積極的経営参加促進および,それにより労資双方の立場を理解し 健全な組合の発展に寄与する =24社, (2)会社運営への認識,愛社精神の高 揚,生産能率の向上のため=21社, (3)安定株主層の確保ならびに強化の点 を協調するもの=17社, (4)従業員の将来の貯蓄,定年退職後も一定の収入 を得られるため= 2社, (5)未公開で外部資本にのみ依存できない=1社,

(7) 

である。労使協調,愛社精神の高揚,安定株主の確保が主要な理由のよう である。

4 大和証券の調査

大和証券が昭和 37年 (1962年)に従業員持株制度についてのアンケート 調脊を行った。同調査の目的は前年に問題となった大型株の不振打開策と して,安定株主の確保,増資資金の獲得と言った面から一段と注目されだ

(8) 

した従業員持株制度の実態を明らかにすることであった。この調査におい て従業員持株制度とは「従業員の自社株購入にあたって会社が便宜を与え ることを恒常的に制度化している」ものとされた。これによれば,従業員 持株制度の要件として, (1)会社が便宜を与えていること, (2)恒常的な制度

(6) 22 (7) 22

(8)  大和証券株式会社『従業員持株制度』 (1963年)序

29  161162 (香法'96)

 

(6)

・ 

従業員持株制度の草創期(市川)

となっていること,の 2つが考えられており,一時的な自社株購入運動等 は従業員持株制度として考えられなかった。大和証券は束京証券取引所の 全上場会社 1,050社に質問表を送付した。そのうち 623社(うち不備 2社)

(9) 

が回答してきた。このうち従業員持株制度を実施している会社は 41社(回

(JO) 

答総数の 6.6%)であった。

従業員持株制度の管理機関についてみると,会社 18社,従業員組合2社, 特別に設置した団体 12社,その他(共済会等) 6社,会社と従業員組合 l

(ll) 

社,会社と特別に設置した団体 1社,無記入 l社である。無記入を除いた 40社のうち,会社が従業員持株制度の管理に関係しているものが 20社あ り,そのうち 18社は会社のみが管理機関である。このような場合,従業員 の資金および株式が会社の企業活動に利用されるおそれがあり,従業員の 権利保全の面から問題があると思われる。

制度加入者の資格についてみると,社員なら誰でも加人できる 28社,加 入資格に制限を設けているもの 12社,無記入 l社である。加入資格に制限 を設けているものの内訳は一定年数以上の勤務者に限るもの 6社,管理職 員のみ 3社,年齢・会員歴によるもの 1社,人社後3年かつ本級 l万円以

(12) 

上とするもの 1社,社長の指名せるもの 1社である。無記入を除く 40社の うち 28社において従業員持株制度は社員なら誰でも加人できる制度とな っている。

同調査により実施会社の規模をみると, 41社中の 25社が資本金 10億円

03) 

未満,また 21社が同 5億円未満である。上場会社では比較的小資本の会社 において従業員持株制度の実施率が高いようである。

制度実施の主なねらいについてみると,愛社精神の高揚 35社,従業員福 祉の向上 30社,安定株主の確保 23社,労使間の協調 18社,増資対策 5社,

(9)  IEi]  13 (IO) 同 18貞 (11) 50 (12) 同 56‑57貞 03)  fGJ 19

16‑1 ‑161 (香法'96) ‑30  ‑

(7)

外部資本による支配の防止 4社,資本・経営・労働の一体化 l社,小額資

Ill) 

金の積吃による自社株取得の容易化 l社であった。これによると,愛社籾 神 の 高 揚 , 従 業 員 福 祉 の 向

J ‑ . ,

安定株主の確保が従業員持株制度実施目的 の3本柱であると思われる。東北大調脊に比べると,従業員福祉の向上が 3本柱の 1つとして出現している。特に資本金の比較的小さい会社

o o

円未満)において,安定株主の確保,労使間の協調,外部資本による支配

(¥5) 

の防止のために従業員持株制度を実施する会社が多く見られる。

会社が与えている便宜についてみると,資金的援助を与えているもの 34 社,資金的援助を与えていないもの 5社,無記人 2社である。資金的援助

の方法としては,(イ)奨励金の形で購人資金の一部を援助するもの 4社,(口)

資金を貸し付け,分割返済させるもの 23社,(ハ)株式売買手数料を会社が負 担するもの 2社,(イ)と(口)の併用 l社,(口)と(ハ)の併用 3社,(イ),(口),(ハ)の併

(16) 

用 1社である。また購入資金について積立を実施しているもの 16社,実施 していないもの 21社,無記入

4

社であるが,資金的援助を与えていない 5

(171 

社はすべて積立を実施している。これによると,会社が従業員に与える便 宜としては株式購入資金を貸し付け,それを分割返済させる(借入利用型 従業員持株制度)のが28社(無記入を除いた実施会社のうちの 71.8%)  で,最も一般的である。

株式購入方法についてみると,(イ)増資新株につき従業員に新株引受権を 与えるもの 10社,(口)既発行株を取得させるもの 19社,(ハ)失権株を取得さ せるもの 4社,(イ)と(口)の併用 2社,(口)と(ハ)の併用 3社,(イ),(口),(ハ)の併用

(18) 

1社,無記入 2社である。これによると既発行株式を取得させるものが 25 社(無記入を除いた実施会社 39社のうちの 64.1 %)で最も多く,次いで

(14) 

r

a

2021 

n

(15) 21 (16) 60

(17)  十亀博光「従業員の自社株保有及び持株制度の実態調在」商事法務261 (1962 8

(18)  大和証券前掲注(8)63

六〇

‑ 31  16‑1‑‑160 (香法'96)

(8)

従業員持株制度の草創期(市川)

増資新株につき従業員に新株引受権を与えるものが 13社である。

株式の譲渡制限についてみると,加入者の持株譲渡を制限する定めのあ

(19) 

るもの 18社,その定めのないもの 23社である。従業員持株制度実施会社 のうち 44%もの会社が持株の譲渡を制限している。譲渡制限の方法として は,取得後一定期間内の譲渡を禁止するもの 4社,原則として譲渡を認め ないもの 3社,会員間の譲渡のみ認めるもの 3社,会社の承認を要するも の2社,融資返済までの譲渡を禁止するもの 2社, 500株未満の譲渡のみ禁

(20) 

止するもの 1社,無記入 3社である。

従業員持株制度に対する従業員組合の反応についてみると,協調的と回

答したもの 2~3 社,非協調的と回答したもの()社,あまり問題としていない

(21) 

もの 13社,組合無し 4社,無記入 1社である。これからみる限り,従業員 組合は従業員持株制度に協調的でこそあれ,反対はしていないようである。

従業員持株制度が実施されていない場合の従業員の自社株取得方法につ いてみると,従業員自らが一般市場で購入 385社(回答会社総数575社に 占める比率一以下同じー66.9 %) , 新株発行に際し新株引受権を与えた 195 社 (33.9 %) , 功労の意味で従業員に与えた 141社 (24.5%), 株式公開に 際し従業員に与えた 124社(21.6%),失権株を優先的に取り扱った 106社 (18.4 %)である。この他にアンケート項目には入れてなかったが,財閥 解体にともなう放出株の取得と記載したものが 30社(5.2%), 公募株の優

(22) 

先的取扱いと記載したものが39社 (6.8 %)あった。

最初の調究では従業員が自社株を取得する際に会社が何らかの経済的援 助を与えたか否かを調杏していなかった。そこでアトランダムに 50社を選 定してこの点について再調脊を行った。それによると,恒常的な制度とし て従業員持株制度を実施していないが,従業員の自社株取得に際して会社 五九

(19) 31 (20)  IBJ  30 ‑32 (21) 144 (22)  r,i1 22

16‑1 ‑159 (香法'96) ‑ 32 

(9)

t:.:l) 

が直接または間接に資金的援助を与えているものが約 3分の 1あった。従 業員持株制度実施会社が回答会社総数の 6.6%であったことと比べると,

その比率は著しく高いと言うことができよう。

従業員持株制度の従業員持株に対する影評を知るために従業員持株制度 実施会社と実施していない会社を比較してみよう。株主総数に対する従業 員株主数の割合(実施会社 8.70 

%, 

非実施会社 2.70 %)は実施会社にお いて著しく高い。だが自社株保有従業員 1人当たりの所有株式数(実施会 社 1,248株,非実施会社2,727株)は逆に実施会社においてかなり低い。

その結果,発行済株式総数に占める従業員持株数の比率(実施会社3.38%, 

非実施会社 1.84 %)は実施会社において若干の高率を示すにとどまってい る。従業員総数に対する自社株保有従業員数の割合(実施会社 33.59

%, 

非実施会社 7.01 %)であり,当然のことながら,制度実施会社において著

(24) 

しく高くなっている。

5 上 林 調 査

神戸大学経営学部上林研究室が昭和 39 5月に従業員持株制度につい ての調脊を行った。同調査では従業員持株制度とは「従業員の自社株取得 が,会社の勧奨,斡旋,援助等の方法によって,会社の経営方針ないし政

(25) 

策として行われる場合」である。したがってそれは大和証券調査とは異な り,恒常的に制度化されているものに限られない。それによれば一時的な 自社株購入運動のようなものでも会社の方針として行われるものは従業員 持株制度に含まれることになる。しかし従業員が会社の方針とは関係なく 市場から応募,買い入れによって任意に自社株を取得する場合は含まれな いこととなる。

同調査では大阪証券取引所の上場会社844社にアンケート用紙を郵送し

(23) 同 23頁 (24) 同 28‑29頁

(25)  上林正矩「従業員持株制度に関する実証的研究」[神戸大学経営学部有価証券研究セ ンター編『株式保有の特殊研究』 (1965年)所収〕 91

五八

16‑1  158 (香法'96)

(10)

従業員持株制度の位創期(市川)

たが,回答のあったものは 402社(回答率 47.5%)であった。そのうち従 業員持株制度を採用している会社は 71社(回答総数の 17.7 %)であった。

その内訳をみると,「(a)常設機関を設けているもの 11社, (b)常設的制度と して採用しているもの 16社, (c)制度としての規定は設けていないが,会社 が従業員に贈与,融資,斡旋等を続けているもの 24社, (d)制度は規定して いないが,会社が従業員の持株を勧誘ないし奨励しているもの 20社,」で

(26) 

あった。「常設機関を設けているもの」および「常設的制度として採用して いるもの」は合わせて 27社であり,これは回答総数の 6.7%に相当する。

この両者を合わせたものは大和証券調究における「恒常的な制度として従 業員持株制度を採用しているもの」にほぼ等しいと思われる。とするど恒 常的な制度として従業員持株制度を実施しているものが回答総数に占める 比率は大和証券調在では同答総数の 6.6%であるので,両調在において共

に約 15分の 1と見ることができよう。

従業員持株制度の採用目的については特に項目を設けて質問していない ので,資料として不完全である。制度実施会社であって回答中に意見を記 載しているものが22社あった。これら 22社のうち従業員持株制度の採用 目的として,安定株主の確保をあげるものが 14社,愛社精神の高揚等をあ げるものが 14社,労使協調等をあげるものが 4社,貯蓄奨励等をあげるも

(27) 

のが 3社であった。これによると,安定株主の確保,愛社精神の高揚が従 業員持株制度採用の主な目的であるように思われる。

従業員持株制度が従業員の自社株保有にどの程度影響しているかについ てみよう。従業員持株制度を採用している会社で従業員の自社株保有につ いて報告のあったのは 66社であった。株主総数に占める従業員株主数の割 合は従業員持株制度を採用しているもの 66社合計では 6.19 %, 採用して

(28) 

五 いないもの 241社合計では 3.59%であり,前者において明らかに高い。発 七

(26) 98

(27) 102, 142 ‑143 (28) I108‑109 l:

16‑1‑‑157 (香法'96) 34  ‑

(11)

行済株式総数に占める従業員持株数の割合は従業員持株制度を採用してい るもの 66社合計では 2.56 

%, 

採用していないもの 241社合計では 2.78 

であり,後者において若干高く,大和証券調査とは逆の結果が出ている。

6 東京商工会議所の調査

東京商工会議所が昭和 39年 (1964年)に「中小企業における経営近代化 の実態」について調杏した。調脊対象は東京に本社本店を有する製造業者

(29) 

のうち資本金 1億円以下の企業 2,350社で,有効回答数は 879社であった。

ClO) 

879社のうちすでに株式を公開しているものが 51社あった。同調在では従 業員持株制度を単に「従業員に自社株をもたせる制度」と考えているよう

(:JI) 

である。

従業員持株制度の採否状況を本調査の結果からみると,現在すでに採用 しているものが 461社(回答総数の 52.4%)であり,また今後採用したい

!)

とするものが 179社である。

従業員持株制度を採用している企業を従業員数の規模別にみると, 50人 未満では回答企業数 151社中の 50社, 50人以上 100人未満では 205社中 の99社, 100人以上 300人未満では 372社中の 217社, 300人以上 500人

(:l3) 

未満では 83社中の 52社, 500人以上では 68社中の 43社である。従業員持 株制度が普及しているのは大規模層ほど高く, 300人以上では 62.9%が採 用しているが, 50人未満では 33.1%にすぎない。従業員が 100人以上にな ると資本金 1億円以ドの企業でも約 6割が従業員持株制度を採用してい る。

従業員持株制度の適用対象範囲を見ると,大多数の従業員を対象として 実施しているものは 66社(採用企業総数の 14.3 %)にすぎず, 395社 (85.

(29)  東京商工会議所『中小企業における経営近代化の実態』 (1964 1 (30) 40

(3D 23, 37 (32) 23 (33)  [Ii] 50

‑ 35 ‑ 16‑1~156 (香法'96)

I. 

(12)

従業員持株制度の草創期(市川)

(34) 

7 %)が一部の従業員のみを対象として実施している。大和証券の東京証券 取引所上場会社を対象とする調壺とはかなり異なる。

従業員持株制度実施の効果としてあげられているものは集計総数で 596 ある。そのうちセなものについてみると,従業員の愛社精神が高揚したが 276 (集計総数の一以下同じ一46.3%) , 従業員の勤労意欲が向ヒしたが 202 (33.9 %), 現金支出が節約できて従業員の優遇措置ができたが37(6. 

2 %)であった。

経営者区分によって従業員持株制度の採否状況を見る。代表者が創立者 である 473社のうち 257社 (54.3%)において従業員持株制度を実施して おり,今後採用する意向を持つものは 96社であり,今後も採用しない企業 は61社である。経営者が社内出身者である 46社のうち 26社 (56.5%)が 実施中であり,今後実施する意向のものは 5社,採用意思のないものは 7 社である。経営者が社外出身者である 93社のうち実施中のものは 36社

(38.7%), 今後採用の意向を持つものは 15社,採用の意思のないものは

(36) 

26社である。一般に経営者が創立者(創立者自身の同族を含む)または社 内出身者である場合には従業員持株制度に対して積極的な傾向がみられる 反面,社外出身者の場合には消極的な面がうかがわれるようである。

株式公開と従業員持株制度の関係を見る。すでに上場している会社は 51 社であるがそのうち 38社 (74.5%)が, また株式公開の意向を持つ企業 では総数 234社中の 158社 (67.5%)が実施している。株式の公開をしな

(37) 

い企業では総数374社中の 164社 (43.9%)が実施している。株式の解放 性の高い企業ほど従業員持株制度の実施に積極的であるように思われる。

一般に中小企業では経営者が創立者(創立者の同族を含む)または社内 出身者であってかつ株式を公開または公開しようとしている企業において 五五

(34)  同所。

(35)  同所。

(:16) 同 39 (37) 40頁

16‑1 155  (香法'96) ‑ 36  ‑

(13)

従業員持株制度の実施率が高く,経営者が社外出身者でかつ株式を公開し ない企業において実施率が低くなる傾向があるようである。

7 各種調査の総括

従業員持株制度を単に「従業員に自社株を持たせる制度」と考えるなら

ば,昭和 39 年当時において,東京商l~会議所の調脊によれば資本金 1億円 以下の中小企業でも従業員数が 100人以卜^の規模になると約 6割が従業員 持株制度を採用している。従業員持株制度を「従業員の株式取得に際して 会社が直接または間接に資金援助を与えたもの」として考えると,昭和 35 年当時において東北大調在によれば資本金 5,000万円以じの会社において 約 3割が従業員持株制度を採用している。また昭和 37年当時において東京 証券取引所上場会社についての大和証券調査によると約 3分の 1が従業員 持株制度を採用していることとなる。従業員持株制度を「従業員の株式取 得が,会社の勧奨,斡旋,援助等の方法によって,会社の経営方針ないし 政策として行われる場合」として考えると,昭和 39年当時において大阪証 券取引所上場会社についての上林調査によれば約6分の 1において従業員 持株制度を採用していることとなる。従業員持株制度を「従業員の自社株 購入にあたって会社が便宜を与えることを恒常的に制度化しているもの」

として考えると,昭和 37年当時において東京証券取引所上場会社について の大和証券調査によれば約 15分の 1において従業員持株制度が採用され ていることとなる。この数字は昭和 39年当時における大阪証券取引所上場 会社についての上林調査でもほぽ同じである。

昭和 30年代後半における従業員持株制度の実施状況についてまとめる と,従業員の株式取得に際し,会社が便宜を与えることを恒常的な制度と しているものは上場会社の約 15分の 1であるが,会社が直接または間接に 資金的援助を与えるものは

1 :

場会社の約 3分の 1であった, と見ることが できるようである。

東京証券取引所上場会社において従業員持株制度が

t H

常的な制度となっ 五四

37  ‑ 16  1 154 (香法'96)

(14)

従業員持株制度の草創期(市川)

ている場合の主な管理機関は会社であり,制度加入者については多くの場 合従業員であればよく特に制限はない。 ところが中小企業において従業員 に自社株を持たせる場合には 8割以上のものが対象を一部の従業員のみに 限っている。

従業員持株制度をすすめる理由としては,昭和 35年の東北大調査では労 使協調,愛社精神の高揚,安定株主の確保が,昭和 37年の大和証券調在で は愛社精神の高揚,従業員福祉の向ヒ,安定株主の確保が,昭和:39年の上 林調査では愛社精神の高揚と安定株主の確保が

t

なものとなっている。昭 和 37年の調在においてのみ従業員福祉の向上が主な理由となっているが,

昭和 30年代後半においては愛社精神の高揚,安定株主の確保,労使協調が 従業員持株制度をすすめる 3本柱であったと思われる。

東京証券取引所上場会社についての大和証券調査によれば, 会社が従業

一五 三

員に与える便宜としては,株式購入資金を貸し付けそれを分割返済させる のが最も一般的であった。従業員の株式取得方法としては,既発行株式を 取得するもの (25社)が最も多いが,増資新株につき新株引受権を従業員 に与えるもの (13社)もかなりある。株式の譲渡制限については,定めの ないもの (23社)が多いが,定めのあるものも (18社)相当ある。

従業員持株制度実施の効果については,昭和 39年の中小企業を対象とし た東京商工会議所の調査によれば,従業員の愛社精神が高揚した,従業員 の勤労意欲が向上したとするものが多い。従業員持株制度はほぽ意図した 効果をあげているようである。

株主総数に占める従業員株主数の割合について,従業員持株制度を採用 している会社と採用していない会社を比較すると,昭和 37年の大和証券調 査によれば採用会社では 8.70 

%, 

非採用会社では 2.70%であり,昭和39 年の上林調査によれば,採用会社では 6.19%, 非採用会社では 3.59%で ある。制度採用会社において明らかに高いといえよう。

発行済株式総数に占める従業員持株数の割合について,従業員持株制度 を採用している会社と採用していない会社を比較すると,大和証券調査で

16‑1 ‑153 (香法'96) ‑38 

(15)

は採用会社が 3.38

%, 

非採用会社が 1.84%であるが,上林調査では採用 会社が 2.56 %, 非採用会社が3.59%である。両調在で逆の結果が出てい るが,その原因の 1つは大和証券調査では従業員持株制度を恒常的な制度 として実施している会社に限られているからであろう。とすると,従業員 の持株比率を高めるためには従業員持株制度を恒常的な制度として実施す ることが必要であると思われる。

個別従業員持株制度の開始とその背景

1  第二次世界大戦終了前における従業員持株制度の開始とその背景

( 一

) 日本最初の従業員持株制度ー兼松奨励会一

日本最初の従業員持株制度は大正 7年 (1918年) 3月18日の株式会社兼

(38) 

松商店設立と同時に発足した同社の兼松奨励会であるとされる。この年は 第一次世界大戦が終了した年でもあり,前年にロシア革命によって世界最 初の社会主義国家が生まれている。兼松奨励会の淵源および組織構造は現 在においても極めて興味を引くものがあり,また同会はその後の従業員持 株制度の先駆けとも考えられるので,同会についてやや詳しく述べよう。

兼松商店は日本・オーストラリア間の貿易を目的として明治 22年 (1889 年)に兼松房次郎氏の個人事業として創業された。同氏はその創業の主意

として「向来我が国の福利を増進するの分子を絃に播種栽培す」と記して

(39) 

いる。同商店は日本経済の拡大と共に順調に成長し,大正元年 (1912年) に資本金 30万円の悟名組合として組織される。同阻名組合における持分 は,営業者である兼松房次郎氏が 10万円,胆名組合員が 20万円であり,

その 20万円の内訳は兼松夫人が 47,300円,店員 18名が 152,700円であっ

(40) 

た。店員の持分は各々の功労に応じて無憤分与されたものであり,それが (38)  八木弘「従業員持株制度について」[『商法の諸問題竹田先牛古稀記念』 (1952年)所

238 頁,上林前掲注(25)9:~

(39)  兼松株式会社『兼松[iij顧六十年,n (1950 56 (40) 同 73

‑ :"39  16‑1 ‑152 (香法'96)

(16)

従業員持株制度の草創期(市川)

過半を占めることとなったのは,兼松房次郎氏がその事業を自己一人のも

(41) 

のとは考えずに店員と共同の企業組織を理想としていたからであった。同 商店は兼松房次郎氏の死去によって,大正2年 (1913年)に合資会社に組 織替えされるが,当初の資本金は匿名組合と同じ 30万円であった。同合資 会社の無限責任社員は兼松房次郎氏の継嗣である馨氏と店員 6名であり,

有限責任社員は兼松未亡人とその縁故者および勤務満 3年以上の店員 12 名であった。兼松馨氏が初代社長となったが,同氏はその持分の半分を大 正 4年に会社に譲渡し,大正 7年に株式会社に改組された時に残る持分も 譲渡して,全く事業より退くこととなった。そこで,事業は兼松家と完全

(42) 

に分離されることとなった。兼松商店は大正 7年 (1918年)に資本金200 万円の株式会社に改組されるが,この新会社は専ら同店の従務員を主体と

して発足した。すなわちその発行済株式総数 40,000株(全額払込済)のう ち兼松奨励会が 9,970株,店員 21名(当時の正式店員の約半数)が 29,030

(tl) 

株,兼松未亡人が 1,000株を保有した。同商店の株式は定款によってあら かじめ会社の承諾を得た後でなければ他人に譲渡もしくは質入れまたはそ

1411 

の予約をすることができないものとされていた。

兼松奨励会は商店の業務に従事するものを奨励することを目的として,

株式会社設立の時に合資会社から組織変更記念として金5万円の寄付を受

(45) 

けて設立されたものであり(会社設立型従業員持株制度),商店の従務員で

(46) 

ある全部の株主.を会員とする。

同会は勤務年数満 3年に達した従務員に対しその持株より株式を贈与 し,また引き続き定期的に追加贈与を行う(無償交付型従業員持株制度)。

贈与を受けた株+は商店の業務に従事しなくなった時には直もに同会に各 (41) 72貞

(42) 80 (43)  [81  86

(44)  兼松株式会社 bKG100 (1990 228頁 (45)  [P]  31

(46)  兼松前掲注(39)86

16 ‑l  l S 1 (香法'96) ‑40 

(17)

自所有の株式を移転する。それを実行するため,株主はあらかじめ停止条

(17) 

件つき株式譲渡の意思表示を同会および面店に申し出ておく。

同会が株式の移転を受けた時は次の方式により算出された金額を支払 う。商店の株金払込額,諸準備積立金(用途の特定しているものを除く),

繰越利益金の総額より繰越損失金および滞貨見込額を控除した残額によっ て株式の時価を算定する。同会は株式の移転者にその者が商店の業務に 15 年以上従事していた時には時価の金額を, 15年に満たない時にはその年数

(18) 

に按分した金額を支払う。

商店の取締役が同会の維持員となり,維持員の 3分の 2以上の同意によ って同会の一切の事項を決議執行する。ただし同会の権利義務は維持員の

(11)) 

決議によって選定した代表者の名義を持ってこれを有するものとする。

同会が有する株式の株主総会での議決権行使に関しては,単に維持員代 表によって行使されていたが,昭和 23年 3月に奨励会規約が改正され,ぁ らかじめ奨励会総会での承認を得るべきこととなり,会員は奨励会総会に

(511) 

おいて会社株式 1株につき 1個の議決権を有することとなった。

兼松奨励会は従務員に無伯で分与した株式をその退職時に有償で買い戻 している。これによって同会は非公開株式の現金化を保障すると共に株式 の出人りする貯蔵所としての機能と退職金制度としての機能を兼ね備えた ものとなっている。同会はまた兼松商店の厳格な定年制とあいまって,事 業に現実に参加し責任を負担する従務員が株式を所有し,持株と共に新陳 代謝していく機構となることによって店内に活気横溢する現役者を確保す

(51) 

るのに役立っている。同会は現在でも閉鎖的な会社の従業員持株制度にと って株式の買戻価格の算出方法等極めて有益な参考となるように思われ る。

(47)  兼松前掲注(44)31 ‑32 (48) 34

(49) 35

(50)  兼松前掲注(39)120~130 頁。

(

5り 同 87

五〇

‑41  16  1 ‑‑150 (香法'96)

(18)

従業員持株制度の草創期(市川)

兼松奨励会は昭和31年に最後の奨励を行って解散し,その持株は兼松株 式会社の代表取締役を会員とする兼松会に引き継がれた。兼松会は昭和 32 年 2月期から昭和 36年 3月期まで兼松株式会社の発行済株式総数の 87.3

%を保有していたが,同社の株式上場を円滑に行うため(昭和 36年 10月 大阪証券取引所二部上場,昭和 38年8月大阪証券取引所一部上場),その 持株を徐々に処分し,昭和 38年3月期には同社の大株主のほとんどが金融 機関となった。同社はその後昭和 47年になっていわゆる月掛投資型の従業

(52) 

員持株制度を発足させている。

兼松商店の従業員持株制度は創業者が資本・経営・労働の三者一体の企 業組織を理想としてこれを実践したことまた多年事業と兼松家の分離を主

(53) 

張しておりこれが養嗣子によって実行されたことによるものである。だが その時代的背景としては兼松奨励会発足の前年に当たる大正 6年 (1917 年)にロシア革命が勃発し世界最初の社会主義国家が成立したことおよび 時代的思潮としての大正デモクラシーを無視できないと思われる。

兼松奨励会はいわば従業員の持ちたる会社を実現するためのものであ り,現職の従業員のみが資本の所有者であるという資本民主化の理想を実 現するものである(資本民主型従業員持株制度)。このような企業が日本の 代表的な商社の一つとして第二次世界大戦をはさんで 40年余も存在し続

けたことは一種の奇跡のように思われる。

兼松奨励会が解散するに至る原因は次のようなものであろう。昭和 30年 代における日本経済の急速な成長に応じて兼松株式会社も規模を拡大する 必要があり,そのために同社は巨額の資本を調達しなければならなかった。

株主はすべて従業員であるといういわば純血主義では,巨額の資本を調達 することは困難であった。そこで同社は株式を公開することになり,特定 四 の大株主が 90%近い株式を保有することは許されないこととなった。株式 九

(52)  兼松江商株式会社『 KG• 1974 (1975 88頁 (53)  参照,兼松前掲注(39)80頁

16‑1~149 (香法'96) ‑42  ‑

(19)

上場を円滑に行うため,兼松会はその持株を徐々に処分して市場に株式を 供給すると同時に金融機関を中心とする安定株

t

に株式をはめ込んでいっ たものであろう。昭和 30年代の日本では大衆に株式投資を行うことのでき るほどの経済的余裕はなく,間接金融による企業資金供給方式が確立する。

企業が規模拡大を求める限り企業は資金供給先として金融機関を頼りとせ ざるを得なくなり,各種の金融機関が大企業の大株主として登場する。

( 二

) その他の従業員持株制度の開始とその背景 (1)

斎藤栄三郎『従業員持株制度の実証的研究』 (1947年)には 11頁から 38 頁にかけて各会社からの回答内容が掲載されている。それによると,第二 次世界大戦終了前において従業員持株制度の開始時期の明らかなものは 23社であり,これをその早い順にみると第 1表のとおりである(ただし郡 是製糸については,斎藤同書では昭和初頭となっているが,筆者が同社の

(5,1) 

社史により大正 9年に改めた)。これら 23社のうち 10社は増資に際して また 6社は株式会社設立に際して従業員持株制度を開始している。戦前・

戦中を通じて,増資または株式会社設立に際して従業員持株制度を開始す る例が多いように思われる。

1 第 二 次 世 界大 戦終了前における従業 員持株 制 度の開 始 時期 大 正7年 兼 松 昭 和15 平 野 製 作 所

9年 郡 是 製 糸 16年 湯 浅 金 属 産 業

11年 秩 父 鉄 道 17年 九 小1I配電,油谷屯T 14年 福 助 足 袋 18年 茅 場 産 業 , 丸 栄

昭 和 4年 中 央 木 材 19年 丸 万 証 券 , 中 央 発 条 , 相 模 鉄

9年 第 一 製 薬 道,料井光業,日本発条,帝

10年 野 沢 屋 国 産 業 朝 比 奈 鉄 鋼 11 日本特殊陶業 20年 束 東 無 線 電 機 13年 三 菱 商 事

第 1表より見ると,第二次世界大戦終了前の従業員持株制度の開始時期 四八

(54)  グンゼ株式会社『グンゼ株式会社八十年史.0 0978 156

‑ 43  ‑ 16‑1 148 (香法'96)

(20)

従業員持株制度の草創期(市川)

四七

については,大正 7年から同 14年までの時期 (8年間に 4社),昭和元年 より同 8年までの時期 (8年間に 1社),昭和 9年より同 20年までの時期

(12年間に 18社)の 3期に分けることができるように思われる。

(2)  大正 7年から同 14年まで

大正 7年の兼松を皮切りとして同 14年までの 8年間に合わせて 4社が 従業員持株制度を開始した。これらの会社の中には第一次世界大戦中およ

びその後の好況による利益蓄積を財源として大幅な増資を行い,その際に 従業員の功労に報いるため株式を無償交付したものがある。その背景には 時代的思潮としての大正デモクラシーがあったと思われる。既に見た兼松 の従業員持株制度もその 1つと考えられよう。もう lつの例として郡是製 糸の場合がある。

郡是製糸はその社名から明らかなように,郡の発展を蚕糸業の振興をも って達成しようとして設立された。それゆえ同社は専ら蚕糸業奨励の機関

(5:i) 

であることを経営の精神としていた。同社は大正9年0921年)12月 10日 に資本金を 276万 6,650円から 2,000万円へと 7倍を超える増資を行っ た。その際,同社は 2万株を従業員に功労株として無償交付し,その払込 金25万円は大正 8年度の決算処分として支出した(無償交付型従業員持株 制度)。その株は役職員男女に対し職位と勤続年数により配分した。たとえ ば,エ員については,勤続 5年以上 l株, 7年以上 5株, 10年以上 7株と

(56) 

定め,結果として多数のエ女も株主名簿に名を連ねることとなった。

郡是製糸には昭和初頭から同 18年まで「郡是同志会」という名称の社員 を会員とする会社株式取得組織があったが,その後中止した。同志会では 会員が任意に申し出た金額を月々の給与から積み立てる。同志会は市場そ の他から機を見て株式を買い付ける(市場購入型従業員持株制度)が,そ の場合の資金は会社から借り入れる(借入利用型従業員持株制度)。毎年 1 回締切り,年間購入の平均価格で,会員の積立預金の額に按分して株式を

(55) 同 108109 (56) 同155156

16147 (香法'96) ~44~""

(21)

配当する。同志会会員の取得した株式には厳密な意味での譲渡制限はない が,株式を処分する際には一応,同志会会長の了解を求めることにしてあ

(57) 

った。

なお,大正時代に秩父鉄道や福助足袋も増資を契機として従業員持株制

(58) 

度を実施した。

(3)  昭和元年より同 8年まで

この時期に従業員持株制度を開始したのは 1社のみであり,極めて少な い。これは金融恐慌(昭和 2年)から世界恐慌(昭和 4年)の影響を受け ての農業恐慌(昭和 5年)にわたる昭和恐慌の影榔によるものであろう。

(4)  昭和 9年から同 20年まで

昭和 10年頃より従業員持株制度を開始する企業がやや多くなり,同 9年 から 16年までの 8年間に 6社ある。これらの中には日本経済の重工業化に 伴って資金調達が必要となったためもしくは財閥攻撃に対して同族色を薄 めるため等の理由から株式公開や増資を行い,その際従業員持株制度を開 始した会社がある。たとえば三菱財閥では,従来岩崎一家で独占する形と なっていた資本の一部を社会一般に分かち従業員の参加を求めて開放的に 三菱の事業を経営することとし,まずその第一歩として三菱鉱業株式の公

(59) 

開を行った。三菱分系諸会社の中では,三菱商事が最も遅く昭和 13年 7月

16 日に株式を公開し,その際取引先•関係先および本社と分系会社役職員

(fill) 

に,株式を 1株(額面 50円,払込済)につき 70円で分譲した(株式公開 型従業員持株制度)。その結果,総数 60万株中約 36万株が分譲され,その 範囲は,国内はもとより台湾・朝鮮・「満小卜1」の各地に及び,その人数は 4, 000名に達した。同社会長船田一雄氏はその趣旨について「他の資本を加え て三菱独占の形を改め,当社と関係の深い取引先の協力を求め,また会社

(57)  斎藤前掲注(1)13貞

(ssl  r:15; 18

(59)  三菱商事株式会社『三菱商事社史(上巻)(1986 164 (60) 447

16 ...  1 .  1.46 (香法'96)

‑」

/'¥ 

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