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津山高専紀要第26号(1988)

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津山高専紀要第26号(1988)

(41)

 した硝石と精製したイオウとを大層細かにして︑いっしょにつきま

 ぜた混合物に︑水を加えて避状のものとし︑次第に粒にして乾かし

 たものからできている﹂︒

︵19︶ 雪斎では次のようになっている︒

   ﹁私にはよく理解できませんが︑煙硝を作っている分子が急に硬

 い物質から気体となって︑最後には水蒸気にもどるのですから︑激

 しいにちがいない︑と想像します︒﹂

︵20︶  ﹁炉のたきつけや燃え方がなにか不ぞろいだと家人に不幸がお

 こる︒﹂﹀伍αΦ<ユΦ︒︒一bミ帖§犠遷二三ミ曾静匙お賊ぎミ舜︵客O昌7−

 閏︒=o巳℃ロ江冨臣昌αQOoヨ窟嵩響>8ω8a9目−ピ︒巳oP卜︒巳HΦ≦︒︒巴

 Φ康暦O⇒一り刈①.︶のげΦ尾島の項Q

  日本でも﹁風もないのに仏壇の燈明がきえる﹂のをそう考えたり

 .する︵大塚民俗学会編﹃日本民俗事典﹄弘文堂・一九七二年﹁死の

 前兆﹂の項︶︒

︵21︶ 初版にはない︒

︵22︶ 初版にはない︒

︵23︶ メーオi︵注︵6︶にある︶が血液にたいする化学反応としてと

 らえた︒なお︑黒血は二〇世紀の初めまで行われた治療法であった︒

︵24︶ 初版では一三年︵空気︶となっているが︑一一︒冥の誤りだろう︒

︵25︶ ﹁空気を﹂以下が︑雪斎では次のようになっている︒

   ﹁与える草木の葉が︑その気体を日の光で再び大気からとり論い

 て︑炭素をその養分として分離し・清気を大気中にかえし与える︑

 ということに注目しなければならない︒﹂

︵26∀ ﹁︒o壱ω①出αQまし︒︵ひとだま︶ 小さな炎となって肉体を離れ︑

 死者の部屋でも見られるが︑魂に安らぎがなければ︑それよりも墓

 の上で見られる︒﹂

   ﹁00壱︒︒Φ−Oき色Φ︵小さな炎︑つまり火の玉︶  墓地から︑死に.

 かかっている人か死ぬように運命づけられている者の家へと浮遊

 し︑葬式が行われるのと同じルートで飛んでいるのが見られる︒親  族を迎えにきた同族の魂だ︑という︒﹂︵ド・フリース前掲注︵20︶書︶︒

︵27︶ 錬金術師たちの実践が︑ハンブルグの商人プラント︵?1一六

 九ニカ︶によるリンの発見︵一六六九年ごろ︶につながった︒尿か

 らえられて空気中で自然発火し︑﹁暗黒のなかで冷たい光をはなつ﹂

 リンは非常な評判をよんだ︒

  クンケル︵一六三〇1 七〇二︶が︑その製法をふせたまま︑医

 薬学的性質を発表︵一六七八年︶した︒﹁すべての実験は他の人が

 くり返し確かめ.・利益をうけるようにすべきだ﹂と考えていたボイ

 ル︵■照影七一九一︶は︑一六八O年に︿白いリン﹀をえ︑その実

 験誌的研究を出版した︵一六八○年と八二年︶︒

  マルクグラーフ︵一七〇九一八二︶が︑﹃リンを固体の状態で尿

 中から従来よりも容易に・また・燃焼物質と尿中から分離した特殊

 な塩から便利に・純粋に製する二︑三の方法﹄一七四三年で︑リン

 をつつんでいた神秘のベールをはがした︒

  一七七六年には︑ガーン︵一七四五−一八一八︶が友人シェーレ

  ︵注︵5︶にある︶と骨灰からリンをえている︒︵ダンネマン前掲書

 4巻四三六−三七ぺ︑.5巻二五一−五三ぺ・二五九一六〇ぺなど︒

 ただしボイルの項は︑植村琢﹃化学領土の開拓者たち﹄朝倉書店・

 一九七六年=二四ぺ︑ロマノブ︿早川光雄訳﹀﹃化学をつくった人

 びと︵上︶﹄東京図書株式会社・一九七九年三〇1三一ぺ︒など︶︒

︵28︶ 初版にはない︒

︵29︶ 初版にはない︒

 本稿がなるにあたっては︑引用文献にお名前をかかげた方々

をはじめ︑国立国会図書館・東北大学︵狩野文庫︶・岡山大学

︵池田文庫︶︑そして︑本学の藤塚健・高山礎・堀悦男の諸先

生方のお世話になりました︒記して厚く感謝いたします︒

      ︵一九八八年八月二〇日︶

一128一

(2)

幸田

 前の清浄さと呼吸や燃焼に対する適性とをふたたび取りもどす︒﹂

 とのべた︒

  この影響のもとで︑植物の光合成と呼吸の真の発見者となったの

 が︑インヘンホウス︵一七三〇1九九︶である︒       いた   たいていの植物は︵緑色の茎と葉によって︶日光のなかで﹁傷ん

 だ空気﹂を改良するが︑これに反して︑夜間は﹁有害な空気﹂を排

 出し・空気を﹁不純﹂にする︵﹃植物に関する諸実験﹄一七九九年︶︒

  ︵ダンネマン前掲書8巻二七七ぺ・二九ニー三〇〇ぺ︶︒

  ﹁光合成﹂という名称は︑フェッファー︵一八四五−一九二〇︶

 が一八九七年に使った︒

︵8︶ o茸く﹃日げ費①﹃o葺.︵ ︶は雪斎にある注︒

  キャベンディシュ︵一七==1一八一〇︶は︑﹁可燃性空気﹂と

 よんで他の気体と区別し︵一七六六年︶︑﹁この可燃性空気と︿脱フ

 ロギストン空気︹酸素︺﹀との反応で水だけが生じる﹂のを観察し

 た︵一七八一年︶︒

  ラヴォワジェは︑ボイル︵一⊥ハニ七−九一︶の化学元素の考え︵﹃懐

 疑的な化学者﹄一六六 年︶をもとに︑自らの新しい燃焼理論で︑

 水を生じる﹁可燃性空気﹂を元素とし︑﹁水をつくるもの﹂という

.意味のラテン語の名称ξ時︒αq窪をつけた︵一七八三年︶︒︵﹃科学

 史技術史事典﹄弘文堂・一九八三年﹁水素﹂の項︒︶

︵9︶ N≦帥くΦ一ω8﹃摩擦マッチは︑一八二七年に薬剤師ウォーカー︵一

 七八一力−一八五九︶によって発明された︑とされる︒そこで︑﹁細

 長い木片のさきにイオウの︿頭﹀をつけたもの﹂として訳した︵サ

 トクリフ父子︿市場泰男訳﹀﹃エピソード科学史1﹄ 一九六二年︑

 社会思想社・一九七一年・=四−一五ぺ︶︒

︵10︶ 初版にはない︒

︵11︶  ﹁水が元素ではなく︑酸素と水素の化合物である﹂ことを最初

 に発見したのは誰か  これについては論争があったが︑﹁二つの

 気体の化合物が水を︑水だけを生じる﹂ことを実験に基づいて最初  にのべたのは注︵8︶にあるキャベンディシュである︵一七八一年︶︒   ︵ダンネマン前掲書8巻五三ぺ・六六ぺ︶︒

︵12︶ 内oOr国09ω8出■︵ ︶は雪斎にある注︒

︵13︶ 雪斎には欠く︒

︵14︶ 雪斎では﹁九八○倍﹂︒なお︑次の第九講﹁蒸気﹂にも︑﹁水は

 蒸気に変わると一四〇〇倍にもふくれるが︑空気はその希薄さでは

 水の八○OI九〇〇倍だ﹂とあり︑密度での比較である︒

  ﹁水は火の力によって蒸発して︑その蒸気は水がその前にしめて

 いたよりもはるかに大きな空山︵ほぼ二〇〇〇倍︶を直ちに要求し

 ⁝⁝﹂モーランド︵一六二五力−九五︶の手稿﹃測度・重量・平衡

 に帰せられるあらゆる種類の機械による水のくみあげ︒﹄

  ウォット︵一七三六−一八一九︶は︑﹁液体状態と気体状態にお

 ける水の容積の比を測定しようと熱中し⁝⁝もとの容積のほぼ一八

 ○○倍に膨脹することをたしかめた︵一七六三−六四年︶︒﹂︵二つ

 ともダンネマン前掲書6巻八五ぺ・七九ぺなど︶︒

︵15︶ <餌︒︒8ピロ︒巨・﹁固定空気﹂のこと︒        ヘ  ヤ   へールズ︵一六七七一一七六一︶が︑動・植・鉱物の中に空気が

 ヘ  へ

 固定されている事実を明らかにし︑それらの空気の量を測定した︵一

 七二五一二七年︶︒空気を弾性をもつ単一の物質と考えて︑﹁いわゆ

 る弾性状態では斤力として・固定状態では引力として作用する不思

 議な性質がある﹂とした︵﹃植物静力学﹄一七二七年︶︒

  ブラック︵一七二八−九九︶が﹁石灰水を白濁させることから︑

 普通の空気と異なった化学種である﹂として︑この気体の名称に﹁固

 定空気﹂︹今日の炭酸ガス︺を使った︵一七五六年︶︒︵両君とも︑

 前掲注︵8︶書﹃科学史技術山事典﹄︶

︵16︶ 初版にない︒

︵17︶ 原注・一六〇一一六一ぺ参照︹第七講﹁空気の性質﹂の㈱ペー

 ジの上段︒︺

︵18︶ 雪斎では次のようになっている︒﹁煙硝は精製した木炭と精製

一129一

(3)

津山高専紀要 第26号 (1988)

(39)

 これで旦那の大切な話が終わりました︒でも︑トインマン

にとっては︑時々は大層むつかしすぎる所もありました︒

 しかし︑彼はますます自然科学の考え方に慣れはじめたの

で︑︿最も重要なことはよく理解している﹀と︑十分に示す

ことができるようになりました︒

︵注︶

︵1︶  ﹁空気﹂が物質であることは︑古代ギリシャから知られている

 が︑﹁単一の元素ではない﹂と︑その種類を区別したのは︑ファン・

 ヘルモント︵一五七九−一六四四︶にはじまる︵﹃医学の門﹄ 一六

 四八年刊︶︒

︵2︶ ファラデー︵一七九一−一八六七︶はハ一八二三年に塩素ガス

 の液化に成功した︒しかし︑酸素・窒素・水素などは︑カイユテ︵一

 八三ニー一九=二︶とピクテ︵一八四六−一九二九︶とが一八七七

 年に独立に酸素と窒素の液化に成功するまで︑﹁永久気体﹂とよば

 れていた︒

︵3∀ ラヴォワジェ︵一七四三−九三︶も︑

  ① 熱や光を︑﹁熱素﹂や﹁光町﹂という元素と考えている︒︹カ

 ルノー︵一七九六−一八三二︶の熱力学的研究︵﹃火の動力につい

 ての考察﹄ 一八二四年︶でも︑﹁熱素﹂がある︑との仮定のもとに

 行われた︒︺

  ②大気空気を︑=方では呼吸に適し・他方では呼吸に適さな

 い二つの弾性流体﹂に分解している︵﹃化学原論﹄一七八九年︶︒︵ダ

 ンネマン︿安田徳太郎・三編﹀﹃︵新訳︶大自然科学史﹄ 一九二〇1

 二三年︑三省堂・一九七七−七九年・7巻三三八ぺ・二二ぺ︶︒

︵4︶ ω鼻﹃9け.︵︶は雪斎にある注︒

︵5︶ ピΦげ9︒・−営費.N巳くΦ︻Φζ受■N窪︻︒・ε︷︷Φ目﹄訂=受.︵ ︶  は雪斎にある注︒   プリーストリ︵一七三三−一八〇四︶が﹁脱フロギストン空気﹂  として︑シェーレ︵一七四二⁝入六︶が﹁火の空気﹂として︑一七  七一年にそれぞれ独立に︿酸素﹀を発見した︒   ラヴォワジェは︑はじめ﹁すぐれて呼吸に適する空気﹂とよび︑  人々は﹁生命空気﹂とよんだが︑この気体が﹁ほとんどすべての物  質と化合して酸を作る﹂ので↓︿酸素﹀と名づけた︵﹁酸の本性に関  する考察﹂一七七七年︶︒︵ダンネマン前掲注︵3︶書7巻一八ぺ・  二一−二六ぺ︶︒

︵6︶ 血液の循環についてのハーヴィ︵ 五七八−一六五七︶の研究

 は︑一六二八年の﹃動物の心臓ならびに血液の運動に関する解剖学

 的研究﹄︒

  ﹁呼吸の役割﹂について︑生理学者は﹁血液を冷却し︑血液を循

 環させる﹂と考えていた︒その間に﹁気体﹂を研究した人々がその

 本質を解明し︑﹁動物の雲斗は血管内を流れる血液の摩擦が原因だ﹂

 とする説をくつがえした︒

  呼吸の真相をさぐり︑︿化学反応としての本質﹀をあばくことに

 成功したのは︑メーオー︵一六四〇1七九︶だ︑という︒彼は︑﹁動

 物の呼吸によって空気中の︿生命に不可欠なある弾性部分﹀が奪わ

 れること︑空気は燃焼過程に絶対不可欠なある微分子を含んでいる

 こと﹂を明らかにした︵﹁硝石および硝石的空気物質︹つまり酸素︺︑

 燃焼および呼吸に関する研究﹂一六六九年︶︒

  プリーストリが﹁脱フロギストン空気﹂を発見し︑ラヴォワジェ

 が燃焼の研究を行い︑呼吸や発酵・腐敗などを追究した︒︵ダンネ

 マン前掲書4巻四七六一八一ぺ︑6巻一五一ぺ︑7巻五三−五五ぺ

 など︶︒

︵7︶ プリーストリは︑﹁植物の生長は︑動物の生命を維持するには

 不適当な腐敗した空気の中で︑りっぱに行われる︒﹂︑﹁ロウソクの

 炎によって有害になった空気も︑その中で植物を生長させると︑以

一130一

(4)

幸田

 旦那 でもネ︑あらゆる超自然的な現象に対するあんなにも

多くの論拠を聞いて︑その上に多くの﹁自然の学問﹂をしてき

たあとでは︑もう恐れをいだかず身震いもせずに眺めることを

望みたいのだがねえ︒

 じゃあ︑気をつけながら一度考えてごらん︒

 ﹁自然﹂の中には一つの物質がある︒その物質は︑燃気と炭

素とが引きあうよりももっと強く清気を引きつけ︑そのために︑      まさつ ごくわずか摩擦するか熱があると燃え出してしまうのだよ︒        リン  この物質は︑﹁燐﹂というもので︑すべての生き物の体の中

に含まれている︒生物の骨や汚物から蒸留してとり出すと︑はっ         ヨ  きりと分かるのだよ︒

 墓地や戦場や刑場や皮はぎ場や・そのほか人や獣の体がく

さったりその汚物が多くある場所ではどこでも︑これらの物が

くさって﹁リン﹂が必ず蒸発するのだよ︒とりわけ︑今のべた

死体や汚物が十分に土をかけずに埋められている場合には︑と

くにそうなのだ︒その上︑またこうした場所に心気が発生する

時にはいつも︵といっても︑ごくわずかの場所でしか発生しな

いのだが︶︑このリンの蒸気が燃気と結合して自然に風によっ

て吹き送られ︑空中で小さな明かりとなって燃えるのだよ︒

 そのためにこの明かりはっかむこともできず︑近寄ることさ

え全くできないことになる︒というのは︑その本体は空気なの

だから︑我々の動作が大気中に作る空気の流れがその明かりを

おのずと前へおし進め︑そのあとをまた反対に空気自身の吸引

力が追いかけていくから︑人がそれから離れてしまうことにな

るのだね︒

 だから︑﹁事態がどのように自然におこるのか﹂︑また他方で︑ ﹁迷信のためにどれほど多くのもっともらしい迷信の種が生れ るのか﹂を︑ちょっと考えてごらん︒  始めには︑鬼火を墓地や戦場や刑場などで見かけ︑次には︑ 鬼火から逃がれようとする時にそれが我々を追いかけ︑又逆に

ついていく時にはいつも我々に道を教えるように見えるのだ

ね︒  こういうわけで︑これを﹁鬼火︵迷い火︶﹂とよんでいるの

だよ︒  しかし︑﹁自然科学﹂を知らない﹁迷信家﹂は︑心配して︑

これを﹁なにかの理由で流浪するように運命づけられている死

者の魂﹂︹ひとだま︺とよんでいるのだね︒﹁自然科学﹂に熟達

している者は︑又燃えているリンを含んだ空気﹀がおこした自

然現象に他ならない︒﹂と知っているのに︑ね︒

 ﹁この小さな火がしばしばは現われない﹂という理由は︑﹁土

地と空気とがどこでもぴったりと同じように適しているのでは

ない﹂ということだけだよ︒なぜなら︑この︿リンを含んだ燃

気﹀という現象の本体には︑﹁リン﹂が必要なだけではなく︑

         ホ      あく 強いカリウム物質︵ホットアス︹ポタシュ︺とは︑強い灰汁を

       ホネ      ネあ  せんじつめたもの︶もまた必要だからだ︒おそらくまた石灰質        ホ の多い土地で迷い火を見かけるのはそのためだね︒

 人々は︑そのもの自身︵つまり︑こうしたいわゆる鬼火︶を

人工的に・強い灰汁の中でリンを熱して︑いくらか作り出して

いるのだよ︒

×

×

131 一

(5)

津山高専紀要第26号(1988)

(37)

からだね︒

 そこで︑だれもがこうした危険をさけようと.十分用心してい

る︒で︑普通は﹁ロウソクの火が暗くなるので︑生気が欠乏し

てきた︒﹂と見てとるのだね︒

 そういうわけで︑︿ロウソクが赤々と燃えたり暗くなったり

すること﹀から︑人を誤った方向に導く迷信は︑すべていつわ         りであり笑うべきことだ︑ということになるのだよ︒

       ヨ      ホ  油が不足するとか・灯心を切らないとかの他にも︑清気が多

いか少ないかだけでこうした事がおこるのだからね︒

 長い間とじてあった水槽も︑同じように窒息させる毒気でし

ばしば一杯になっているのだから︑人が中に入る前にまず火の

ついているロウソクを慎重にさげ下ろすがよかろう︒それが消

えると︑﹁中にいる人間は誰一人として生きながらえることは

できない﹂との証拠になるのだから︒

 ホ  ビ

 慎重さに欠けることが多いと︑必ず死でつぐないをしなけれ

ばならない︒つい最近のこと︑ある二人の兄弟が︑﹇人がもう

一人を助けようとして二人とも倒れてしまい︑それを助けよう

としてかけつけた三番目の者もみなこの空気にふれて死んでし

まったのだ︒

 この事件は︑一八三〇年七月一〇日のアムステルダムの新聞         に出たのだね︒

 呼吸のさい︑﹁生気と血液とが結合して生き物の体に熱素が

配分される﹂のだから︑﹁呼吸がふえると温かさをひきおこし︑

逆に減ると寒さをひきおこす﹂ということが分かる︒で︑睡眠

中には︑目覚めている時より呼吸がおだやかで数も少ないから︑

眠りは自然と寒さをひきおこすのだよ︒       しらく  しゃけつ  空気が血液を赤くすることは︑刺絡︹潟血︺した場合︑翌日 血溜め︵出血盆︶の中をみるとはっきり分かるのだよ︒つまり︑ 空気に接した血液の一番上の表面は赤く︑一番下は常にかなり 黒くなっている︑  下の方では空気にふれることは全くでき       ヨ  ないのだからね︒  ﹁草木の葉は日光をあびて清気をはき出す﹂ということはす        ロ  でにのべておいたから︑﹁光がないと︑葉はたった今︿無気﹀        という名称で論じた・その空気を出す︒﹂ということをいって       ホ おかなければならないね︒  そこで︑うっそうと木の葉の茂った道を夜分おそく散歩する と︑たいてい﹁少し体がだるく息苦しい︒﹂と思うのはそのた めだよ︒だからしばしば﹁広々とした野原や広場に行きたい︒﹂ と思うのだろうね︒  そういうわけで︑寝室一とくに静かにくつろげる寝室には︑ 夜分沢山の鉢植えの草や木をおいているのはよくないのだ︒そ れに︑とりわけ花はよくないね︒花はその蒸散作用で空気をびっ くりするほどだめにするからだよ︒とくに白ユリはとっても変 わっていて︑人をボウーとさせる性質があるのだから︒       おにび      へあ     りん  ﹁迷信家﹂が大層恐ろしがる﹁鬼火︵ひとだま︶﹂は︑︿燐を 含んだ燃気そのもの﹀なのだよ︒  これは︑普通墓地の死体から蒸発するのだ︒そして︑これが 清気にふれるとすぐにおのずと火がついて︑あちらこちらへと 浮遊するのだね︒  トインマン  ほんの少し﹁鬼火﹂のことをお話し下さいま したが︑旦那さん!私には分かりません︒よく身震いしながら

見たものですから︒

一132一

(6)

幸田

J.ボイスの「空気の性質」論と「空気の種類」論 一『民間格致問答』の第七講と第八講一

にあるものは何んでも押し出されてしまうのだよ︒そこで︑︵二︑

三の・あるいは多くのタルの火薬に同時に火がついて爆発した

ものだから︶その通り道にあるものは全部遠くまではじきとば

されてしまったのだ︒

 で︑その爆発の瞬間に︑たった今のべたその二種類の空気が

結合し  燃えあがって水となるのだ︒そのために︑空っぽで

空気のない空間がはっきりとできる︒通り道から追いやられた

大気には︑再びその場所をふさいで満たそうとする自然な傾向

があるものだから︑すぐその瞬間に︑大気は再び今のべた空っ

ぽで空気のない空間を満たそうとする︒もどってきながら︑二

倍になった力を使ったように真空になった空間をふさぐことに

なるのだ︒入りこんでくる激しい力で︑通り道にある物すべて

をくだいてしまうのだよ︒

 つまり火薬は︑初めには膨脹する衝撃を与え︑次には反対の

衝撃を必ず与えるものなのだね︒そのためにガラス窓を内側か

ら押しやり・壁を外側からたたき︑また反対にしたりするのだ

ね︒︵同様に︑この事は先にのべておいた恐ろしい出来事の場

合にもいたる所で観察されたのだったね︒︶       い つ  トインマン  へえi︑そうでしたか︒旦那!私は何時かそ

の話を聞きたいものだと思っておりました︒

 ええ︑ずうっと長い間︑﹁火薬のタルが爆発してあんなにも

ものすごく破壊され︑しかも︑あんなに遠方ででもそうなった

のはなぜなのか︒﹂︑その理由を一度知りたいものだと願ってお

りました︒というのは︑ラーペンブルクの破壊ぶりが最もひど

かったのですが︑﹁町のま反対の端の所でもやはり同じように

破壊された︒﹂という話だからです︒  ﹁火薬に火がついて燃えあがる時︑何がおこるのか﹂︑それ にまた﹁その爆発︵つまり︑その結果︶がどのようなものか﹂       ホ は︑今ではかなりよく分かりました︒  それがひきおこした破壊ぶりは︑追い払われて帰ってくる空 気の衝撃でおこるのですね︒  旦那  まさにそうだよ︒  同じような衝撃は︑小銃をぶっぱなす時にどの射手も経験す るものだ︒これを︑小銃の反動というのだね︒  発射したあと︑銃身の内側に湿り気があるのがわかるよ︒こ の湿り気は︑﹁火薬からうまれた空気が燃えてできた水だ﹂と いうことを示しているのだね︒  ピストルや大砲などでも全く同じだよ︒  じゃあ︑もとへもどろう︒今のべたあれこれの事柄の応用問 題に移ろう︒

応用問題  清気は︑ものを燃やすほかに生き物の温かさと呼吸とを助け

るだけではなく︑それによって消費され・うまく変化してしま

うものだから︑﹁石炭やストーブの火をあかあかと燃やしたり・

多くのロウソクに火をつけておりながら︑煙突一つない密閉し

た部屋に長い間とどまっていると︑どうしてそんなにひどく危

険なのか﹂という理由も理解できる︒というのは︑そうした火

が︑清気をすっかりとり除いてしまい︑外部から供給されなけ

れば︑中にいる人間とすべての生き物は死ななければならない

一133一

(7)

津山高専紀要第26号(1988)

(35)

体︺のままで・しかも全く透きとおっているのはどうしてなの

ですか?  旦那  なるほど︑お前さん︑︿結合していること﹀はたし

かだよ︒でも︑﹁化学﹂の実験ぬきには︑自然のこうした働き

を十分に説き明かしてあげることはできないね︒たった一つの

例で説明してあげることができるだけだよ︒

 ちょっと見てごらん︒ブランデーやジンやビールがどれほど

きれいに透きとおっているのかを︒

 でも︑これらは︑大層多くの炭素を含んでいるものなのだ︒

しかも︑世界で一番黒いものを生み出す物質を︑人がこれから

引き出すことができるのだよ︒

 さて︑もう一度﹁自然﹂の中のあれこれの現象にあたってみ

るために︑話を移そう︒

 化学の実験ができないので︑︿多分できるだろう﹀という可

能性があるだけなのだが︑﹁このあいだ一言だけしゃべってお

  ぜ いた・発火の状態でおこる火薬の爆発とその驚くべき作用はど

んなものなのか﹂を︑まず最初に解明してあげたいと思ってい

るのだ︒  気をつけてよく聞いておくれ︒これはとても大切な事柄なの

だからね︒

 寒気と混じった清気が︑蓄積された熱素︵つまり火︶によっ

て燃えあがると︑いつもその爆発は激しいものだよ︒つまり︑

この二つの空気が︑与えられた熱によって驚くほど膨脹し︑結

合して水になるのだね︒その結合はとても多くの熱を出すので

これらの種類の空気は大きな炎となって燃えあがって︑激しい

音をたてるのだ︒  また︑閉じこめられている火薬が爆発しても︑ちょうどそん       ヘ  へ な具合なのだよ︒例えば︑あの地域がちょうど恐ろしい出来事 のまっただ中にあったように︒       うた    ﹁君は今もまだあの詩を覚えているね︑    ライデンのまちで       こ と    あんな恐ろしい災害がおこったのを﹂        せき  お前さんも︑﹁ある運河にいた一隻の船に積みこまれていた         たる 火薬が︑二︑三の樽で爆発して︑その町の大部分がどれほど破 壊されてしまったのか﹂を︑まだきっと覚えているだろう︒で も︑その恐るべき結果を頭にえがかせたり︑この災害の原因を 想像させたりするのはむつかしいことだね︒

  ヨ ザ

 火薬というものは︑こまかな黒い粉で︑硝石とイオウと木炭        とを一緒にしてよく混ぜあわせてできている︒この混合物のう ち︑イオウと木炭とがびっくりするほどす早く火をつけ︑硝石 が威力をつけているのだ︒       えん  硝石には︑ちょうど他の塩の結晶体のように  そういって もよかろうが︑表面が堅く凍った一種の水がある︒硝石と結合 したこの水を︑﹁結晶水﹂とよんでいるのだよ︒その水は︑お れがしゃべったように︑大部分燃気でできており︑硝石は清気 の元素︹酸素︺を自らの中に含んでいるのだ︒  さて︑火のついた火薬は︑燃えているイオウと木炭とによっ て︑大層ぎっしりとつまっているこれらの物質︵硝石とその結 晶水︶を空気︹気体︺に変える︒つまり︑硝石は大部分清気に︑ そして︑結晶水は大部分燃気に変わるのだね︒  これらの空気は突然作られるのですごく猛烈に膨脹するの だ︒まるでいな光のような早さと驚くほど大きな力で︑通り道

一 134 一

(8)

幸田

    ホお  うだね︒そのために︑いな光がしたあと︑急にどしゃぶりにな         ることがよくおこるのだね︒

 しかし我々の場合には︑その実験がごく小規模で可能性があ

るというだけなのだから︑水はたいしてできないのだよ︒とい

うのは︑ちょっと考えてごらん︑空気は水より八○○直ないし

    ぜ 九〇〇倍も薄くまばらになっているのだよ︒そこで︑水を一︑

二滴手に入れるのにも全く多くの材料が必要となるのだね︒

 こうした小規模な実験で︑︿大規模におこる事柄が本当だ﹀

と証明することができれば︑まずはそれで十分なのだ︒

 じゃあ︑重いという訳で︑地下の洞穴や井戸などの低い所に

いつも存在している空気のある種類について︑ここで話さなけ

ればならないね︒

        ︹15︶       *︹16︶   すみのストフ  普通これを﹁硬直﹂といっており︑元来は﹁炭素質酸味の空

気﹂︵のちに﹁炭素気﹂というのは︑この﹁硬気﹂﹁炭素質酸味         の空気﹂のことだ︶と名づけている︒

 この空気は︑たった今論じた炭素と関係し結びついた清気︹酸

素︺からできたもので︑しかも︑清気によってよく引きつけら

れるものだよ︒つまり︑清気は炭素と結合することによって︑

すべての生命と火とを保ちつづける力を失ってしまうのだ︒そ

の結果︑産気は生き物の命を殺し︑燃えている火をすべて消し

てしまうことになるのだね︒

 この硬気は︑どんな発酵のさいにもできていて  ビールや

発酵した飲み物やそれにまたある種のミネラル・ウォーターの

効力をつくりだしている︒

 回気には︑あらゆる腐敗に対抗し・同時に腐敗を防ぐ特性が

あるのだ︒果物が一年たっても︑この空気の中ではおいしく新 鮮なのはそのためだね︒  こうした特質は︑おもにこの空気がもつ炭素からえているよ うに思える︒というのは︑きれいな炭︵つまり︑すべての異物 をのぞいた木炭︶にもくさるのを防ぐ力があるからだ︒きれい な炭の粉の中では︑新鮮な肉はそんなぐあいで全くくさらない のだから︑塩−︑つけにするよりもずっとうまいのだね︒  トインマン  本当にそヶですね︑旦那!不思議ですね︒  それに︑新しい板囲いをお作りになった時︑あなたが大工に

﹁外側が炭になるほど杭の下の方を焼くように︒﹂と指図して

おられたのを思い出しました︒

 これはきっとその木がくさらないようにと︑おっしゃったの

でしょう︒

 旦那  大層よくわかったね︒空気にさらされるとたやすく

腐るものは︑炭素で取りかこめばかこむほどますます腐りにく

くなるのだからね︒

 例えば︑﹁肉を煙でいぶすと︑それによってとても長い七三

が良好な状態であるのはどうしてか︒﹂  炭素で肉をおおう

ため以外にどんな理由があるのかな?

 ﹁木やそのほかの燃えるものの煙は︑水蒸気と炭素とである︒﹂

とたった今のべた事をちょっと思い出してごらん︒炭素でいっ

ぱいのこうした煙が肉の周りにまとわりついて︑それによって

肉が腐るのを防いでいるのだね︒

 トインマン  それも本当ですね︒でも︑全く考えてもみま

せんでした︒

 しかし︑旦那︑まだ聞きたいことがあります︒

 その黒い炭が清気と大いに結合しても︑その結果は空気︹気

一135一

(9)

津山高専紀要第26号(1988)

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しかも︑おそらくはほとんど信じられないこと﹂を話さなけれ

ばならないねえ︒

 それは︑﹁清気と燃気との結合から生まれる物質が︑人間に

きれいな水をつくり出してくれること﹂︑そんなわけで﹁水と

いうものは清気と燃気との元素が結合してできているというこ

と﹂だよ︒

 トインマン  え一︑水が!旦那!水ですよ!

 じゃあ︑物が燃えて水ができるのですか?とても奇妙だ︑ま

るで﹁火から水がとれる﹂とでもいうようで︑いやはやとんで

もないことをおっしゃいますね︒

 旦那  なるほど︑お前さん︑それもそうだね︑不思議だね

え︒ちょっと考えてみても︑とても奇妙だね︒       ヨ り  でも︑それが本当なんだよ︒お前さんのために少しは分かり

やすくできるかどうかやってみよう︒

 ええと︑お前さん︑蒸気︵煙︶のない炎を今までに見たこと

があるかい?

 そんなことは決してないだろう︒

 でも︑蒸気とはなんだろうね?水以外の何物でもあるまい!

蒸気と煙とは物を湿らせたり黒くよごしたりはしないのかな!

煙をふたのできる容器のたぐいでつかまえると︑はっきりと確

実に見ることができるよ︒

 たいていの場合︑こうした蒸気は確かにきれいな水ではない︒        すみのストフ 蒸気には︑燃える物質の分子  おもに炭とか炭素質︵あとで       らヨ 炭素というのにはこのことだ︶とよんでいて燃える物体の中に

はどこにでもある物質の分子  が混じりあっているのだか

ら︒  このロウソクを見てごらん!  どれ位蒸気がでているのかな︑また︑どこからこの蒸気がで てくるのかな?  これ自体は︑ロウと灯心の炭素から・それに燃焼によってで きた蒸気から出てくるだけだね︒水蒸気にまじっているこの炭 素が︑︿物がこうした蒸気で黒くよごれる原因﹀となっている のだよ︒  だが︑ここでは何か他のことを見せてあげよう︒  このコップの中に︑﹁エーテル﹂とよんでいるものが少し入っ ている︒これは最も細かな精気・つまり﹁アルコール﹂で︑完 全に水分がとってあって︑炭素はわずかか全く含んではおらず︑ ほとんど燃気の成分︹水素︺だけでできているのだ︒  さて︑これに火をつけて燃やしてみよう︒そうすると︑燃気 が大気中の清気と結びついて明るい炎があらわれ︑そしてこの 炎が水を出すのだよ︒くわしくいうと︑はじめに水蒸気ができ︑ 次に小さなしずくとなって集まり︑水となるのだよ︒  さあ︑ごらん︒その炎の上にかざしておいたこのコップが︑ どれほど湿って黒くよごれているのかを︒  トインマン  なるほど︑本当ですね!  じゃあ︑だれが一体これを考えついたのですか︒これなら︑ 水が必要な場合には︑燃気と清気とを少しばかり一緒にして燃 やしさえずればいいではありませんか︒  旦那  いやいや︑お前さん︑そういう風にはいかないんだ よ︒  自然なら︑これを大規模にうまくやれる︒とくに雷雨のさい︑

上空でいな光が非常に多くの燃気に火をつける時にはいつもそ

一136一

(10)

幸田

つの主成分の他にもまだ空気の種類がある︒﹂とのべておいた︒

 その中から二つだけとりあげて述べてみよう︒

       もゆべきくうき         ぜんき  じゃあ︑まず第一に︑︿可燃空気﹀︵のちに燃気︹水素︺とい

     らヨ  うのはこれだ︶という種類を論じよう︒

 燃気と名づけるのは︑﹁それ自身燃えるから﹂という理由で

はなく︑そうではなくて︑﹁人がほどよい熱で清気︵つまり生気︶

にふれあわせるとすぐに︑メラメラと燃気を燃えあがらせるこ

とができる︒﹂という理由からだ︒生気︹酸素︺とこの梅畑には︑

適当な温度があると︑互いに驚くほど強く引きあう傾向がある︒

そして︑この引きあう力が︿燃焼﹀とよんでいるものであり︑

あらゆる炎となって燃えている火を産み出すものなのだよ︒

 この空気の元素︹水素︺が︑﹁あらゆる燃える物質︹燃料︺

の中に含まれており︑しかも目の前で燃えている物質を構成し

ている﹂とは︑どういうことだろうか︒

 例えばこの空気・つまり最も大切なその元素は︑ビールやブ        ろう ランデーやジンや油脂や蝋や材木や紙︑それに燃料と名−︑つけて

いるものすべての中にとても沢山あるのだよ︒

 さあ︑ちょっとロウソクに火をつけて︑︿燃えること﹀を調

べてみよう︒

 ロウソクそのものは油脂であって︑よく燃える時の灯心には

その油脂がしみこませてある︒この油脂は燃気の元素で一杯に

なっているのだ︒さて︑大気の四分の一をなしている清気は︑

このロウソクの周りにもあり︑つめたい灯心の周りにもある︒

しかし︑これでは互いに結合するには余りにもつめたすぎる︒

 で︑さて﹁おれが何をするか?﹂というと︑燃えている︿イ         ら   オウのついたつけ木﹀をとって︑灯心の中にある油脂がとける だけではなく︑沸騰し蒸発しだすまでの問︑そのつけ木を灯心 につけておく︑としょう︒  油脂が蒸気になるとすぐに︑この熱くなった蒸気は周りにあ る清気と不意に結合して︑二つとも気体の状態を失うほどに激 しく引きあうのだ︒こうして油脂の蒸気  その大部分は燃気   がもえるさいにすべて炎となって現われた熱学もまた︑な          あ  くなってしまう︒この炎は元来あかくなった油脂の蒸気が出す        ものなのだ︒  こうして︑﹁清気は呼吸する時とちょうど同じように他の物 質と結合し︑空気の時に保っていた温かさを失って熱をひきお こした︒﹂ということ︑そしてまた﹁両方の場合とも清気が消 費された︒﹂ということが分かるだろう︒  トインマン  しかし︑﹁燃気︹水素︺が清気︹酸素︺をひ きつけるためには大層熱くしなければいけない︒﹂とは奇妙で       たきぎ すね︒生木の薪を燃えている火にくべる時に︑自分でもよく見 かけているのですが⁝⁝︒  燃えつかせる前に︑まず生木の中にある山気を確実に熱くす るにはまるまる一時間ほど火にくべておかなければいけないの ですから︒  旦那  本当にそうだね︒しかも︑こうして熱くすることは︑ 分子を解き放ち・膨脹させて薄くするためだけではなく︑もっ ともっとずっと早く他のとても細かな分子を引きつけることが できるのに役立つのだよ︒というのは︑こうした熱がなければ どの部分もお互いにずっとこれまでのままになっているのだか らね︒

 だが︑これから﹁お前さんにはきっと不思議に思えること︑

一137一

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津山高専紀要 第26号 (1988)

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ついて血を出すので︑﹁あれこれの細かな脈管で血液が運ばれ

ていること﹂が分かるね︒血液のこうした循環によって体が健

康になり維持されているのだ︒

 血液はそんな風に全身を回っているのだから︑回っている時

に血液はその多くを失ってしまう・つまりその全体から多くの

ものを体に与えているのだ︒そして︑血液は別の物質で占めら

れ︑そのために黒みがかった赤色になっているのだよ︒しかも︑       のう 絶妙な︿知恵﹀︹神様︺が︑血液を仁座もの小脇︹肺胞︺と細

かい血管をとおって心臓から送り出しているすばらしい仕組み

一これを﹁肺臓﹂というのだ  その仕組みを万一体に備え

させておられなかったとすると︑血液は今や全く急に循環をや

めて︑体を保持するための力も全然持てなくなるだろう︒

 で︑この肺臓の中では︑吸いこまれた空気が血液と混じりあっ

て血は清浄になり︑体を保ちつづける新しい力を備えることに

なるのだ︒こうして︑新し.くなり明るい赤色になった血液は︑

肺臓から再び心臓の他の部分︹左心房︺に帰っていくのだ︒そ

うして︑これが心臓の鼓動といわれているものによって全身に

おし出され︑しかも常にそんな風にして運ばれてゆくのだね︒

 さて︑﹁肺の中で空気にどんなことがおこっているのか﹂を︑

簡単に説明してあげよう︒

 息を吸いこむたびに︑血液がいっぱいある肺臓は空気によっ

てふくれる︒そして︑清気には血液を大層引きつけやすい性質

があり︑しかも︑血液がすでに述べたやり方で体中を回って不

必要なものとして集めてきた物質を︑この清気がとくによく引

きつけるのだ︒これがおこると︑その結果︑清気を作っている

物質︹酸素︺が血液に働いて︑血液が赤く清浄になるのだ︒し かし︑そのために清気は自分の元素︹酸素︺を失い︑熱素をも 失ってしまう︒そこで空気にはも早や清気は残っておらず︑そ の熱は生物体に移っていって︑それによって生物体は必要な温        かさをも保ちつづけることになるのだ︒  こうして︑今では﹁︹空気に︺四分の一の清気があることが なんと思慮深くて結構なことなのか﹂がもう分かっただろう︒ なぜなら︑我々がもし清気の中だけで生活したとすると︑清気 が恐ろしいほど多く血液に移っていき︑それによって多くの熱 をひきおこして全身が途方もない熱によって燃えつきてしまう にちがいないのだから︒  トインマン  旦那!それで私には︑﹁呼吸する度に私の肺 の中で清気が一部分使われていること﹂がはっきり分かりまし た︒しかも︑空気は常に十分補充されなければならず︑でなけ れば顔色が悪くなるにちがいないし︑間もなく全く窒素ばかり が残ることになるでしょう︒  旦那  清気は︑呼吸によって使われるばかりではなく︑我々 が貸すぐ論じるように︑すべての燃えている火によっても消費 されてしまうのだ︒  そこで︑清気をおぎなう手立てが必要とされるのだが︑これ については一つも欠けてはいないのだよ︒思慮深い︿創造主﹀ が︑あらかじめ十分に配慮しておられるのだから︒  すべての草木は︑とりわけ日の光をあびてとても多くの清気       ア  を出している︒そして︑これによって︑また︑おそらくは他の 多くの方法によって︑なお一層清気の減少に備えておられるの だよ︒

 今度の会合のはじめで︑﹁大気中には︑すでに取りあげた二

一138一

(12)

幸田

うに︑性質上大きなちがいがありうることはよくわかるだろう︒

つまり︑酢はすっぱい味がして刺激が強く︑金属をすぐにさび

させたりなどするのだが︑他方︑水は大層おだやかで味はない

ね︒  酢だけではとても害になるだろうし︑また︑水だけでは一つ

も効果がない場合には︑酢と水とを適当に混ぜると最も有益な

働きをする︹飲み物となる︺のだね︒

 さて︑大気を構成しているこの二つの空気も︑もともと同じ

事なのだ︒つまり︑その一つの種類は生命に害があって︑それ

だけしかないと我々みんなを必ずすぐに殺してしまう物質なの

だよ︒そして︑もう一つの種類は︑生命を大いに助けてくれて︑

それだけでは酸っぱくはないのだが︑酸化物を作りだす物質な

のだ︒そのために︑酸化物は決して酸っぱくはないが︑それに

はその物質が存在しているのだよ︒

 この物質だけしかないと︑時によると酢の場合のように︑余

りにも強く激しく働いて生命を早く使い果たさせてしまうにち

がいないのだ︒

 そこで︑︿最高の知恵︹神様︺﹀がこの二種類の物質をいっしょ

に混ぜあわせて︑この混合物の中で人が生命を保ちつ︑︑つけるの

にちようどふさわしい・この有り難い空気をお置きになったん

だよ︒        いきふさ  一つの種類には︑窒息させる性質があるので︑それを︿窒息

ぐくうき

空気﹀︵のちに窒気︹窒素ガス︺というのは︑この窒息空気の

  ハるい

ことだ︶と名−︑つけており︑大気全体のおよそ四分の三を満たし

ている︒そこで︑二番目の種類は四分の一となるのだが︑これ

      せいかつくうき       せいじょうくうき      さん もその性質によって︑﹁生活空気﹂とか﹁清浄空気﹂とかまた﹁成

をなすストフ

酸素質の空気﹂︵のちに﹁生気﹂または﹁酸素の気﹂というも       す  のは︑この生活空気・清浄空気・成酸素質の空気のことだ︶と 名づけているのだよ︒  だが︑窒素については︑﹁それだけで生き物の命を殺し︑そ の中では火を燃えさせないこと﹂以外には︑言うことは少しも ないね︒  ﹁清気︹清浄空気︺﹂つまり﹁生気︹生命空気︺﹂は︑それと は反対に︑生き物の命と火とを燃やしつづけることにもっぱら 役立っているのだよ︒一そこで︑この空気の中では︑明かり        たみぜ が一層あかあかと燃え︑火のつきかけた薪がパッと炎を出すの だ︒  トインマン  私もそれに気づきました︒それにしても︑こ の空気︹酸素︺は生命のためにも・また火が燃えるためにも同 じように役立つ︑とは全くすばらしい事ですね︒  旦那  いいことをいうね︑そうだねえ︒  実は︑我々の命というものは︑まるで終始大層おだやかに火 が燃えているようなものなのだよ︒  この事をお前さんに分かりやすく説明できるかどうか︑一度 試してみよう︒       せいみ  でも︑それはとてもむずかしいだろうね︒というのは︑舎密 学︹化学︺的な作用については︑お前さん何も知らないからな あ︒だが︑﹁ある物質が他の物質を好んだり選んだりして引き つけること﹂をお前さんも知っているのだから︑とくにそこに 気をつけなければいけないよ︒  我々の体の中にある血液は︑動脈と静脈によって体中をま

わっているので︑そのためにちょっとでも皮膚をやぶると︑傷

一 139 一

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津山高専紀要第26号(1988)

(29)

ておいたのを︑まだよく覚えているだろうね︒

 トインマン  覚えていますとも︑旦那!はっきりと覚えて

います︒  でも︑どういうことでしょうか︑﹁空気にも種類がある︒﹂と

いうのですか?

 じゃあ︑我々の周りにあってその中で我々が体を動かしなが

ら暮している空気は︑同じ性質の・目には見えない流体ではな

いのですか?

 旦那  そうだよ︑空気とはたった一つの種類でできている

        ハ り ものではないのだよ︒

 そのうちの二種類についてi最初に空気のおもな組成につ

いて話してあげよう︒次に︑空気中にあるもう一つの種類につ

いてはあとで話すことにしょう︒

 でも︑こうした組成は︑目に見える流体が混ざりあったもの

のように扱えばいいのだよ︒

 例えば︑ここに水の入ったコップがあり︑そしてこちらに大        す 層透きとおった酢の入ったビンがあるね︒で︑おれがこの酢を

水の中に入れると︑そうする時にはいつも酢酸と水との混合物

ができる︒

 だが︑よく聞いておくれ︒空気ではむずかしいのだから︒で

も︑お前さんのために教えてあげたい︑と思っているのでね︒

 トインマン  旦那︑先にお進みになる前に︑ぜひいってお

きたいことがあります︒

 ﹁たき火や煙突などから出る沢山の蒸気が︑空気中に上がっ

ていって空中で混じりあう﹂ということを少しばかり考えてみ

ますと︑﹁空気が混合物である︒﹂ということが︑私にはよく理 解できると思います︒  旦那  いやいや︑お前さん︑それは全然すじ道がちがうの だよ︒空気と蒸気とは︑とくにいっしょくたにしてはいけない んだ︒これらは互いに大層ちがったものだから︒  空気は︑もともと流体の一種であって︑蒸気とは﹁両方とも 弾性があるということ﹂・つまり﹁膨脹したり収縮したりでき るということ﹂でだけは大いに一致している︒だが︑空気はい つも目には見えない弾性のある流体であって一どのように濃 くなろうと・あるいは冷たくなろうと︑決して目に見える物体         へ   にはならないのだよ︒  それに反して︑蒸気はほんの少し冷たくなったり濃くなった りすると︑見ることができ︑また︑弾性をなくしてしまうのだ︒  だがまあ︑わしが話そうと思っていることを聞いておくれ︒  我々が住んでいる地球の大気を構成している空気は︑おもに 二つの気体の混合物なのだ︒ちょうど︑このコップの中の液体 が︑酢酸と水との混合物であるようなものだよ︒  その二つの空気︹気体︺は︑大気中で上から下まで大層よく 混ざりあっているので︑そのためにく風﹀という・空気のたえ まない運動が大いにおこっているのだね︒ちょうど︑水から蒸 気ができ・氷という硬い物質から水ができるように︑しかも︑        ハユ ただ温素︹画素・カロリック︺によって水が蒸気となるように︑ この空気の種類も人がその元素とよんでいるある物質を含んで いて︑その物質が熱素と強く結びつくことによって空気となっ ているのだ︒  さて︑熱によって空気ができているこれらの物質は︑ちょう どこの酢酸と水との混合物が︹もとの酢や水と︺大層ちがうよ

一 140 一

(14)

幸田

 気︵高度七〇〇〇メートル︶の温度・組成・磁気力を測定した︒﹁雷

 雨は︑酸素と水素との爆発によっておこる︒﹂と説明するための大

 気の上層における水素ガスの含有などは見られない︑と証明した︒

   ︵気球は︑飛行船の発明される一八五二年まで︑ただ一つの実用

 的有人航空機であった︒︶

︵4︶ 雪斎では﹁一〇〇〇ポンド﹂︒

  一平方フィートー1九二九・〇一㎡︑一ポンドー1四五三・六9とす

 ると︑二〇〇〇ポンドでは︑一平方センチあたり九七七グラムとな

 る︒   ﹁一平方センチあたり約一キログラム﹂だから︑初版の方をとつ

 ておいた︒

︵5︶ 一万一三〇〇キログラム〜.一万三六〇〇キログラムにあたる︒

  雪斎では=万五〇〇〇ポンド﹂︒

︵6︶ 雪斎では﹁琴の糸﹂︒

︵7︶ 雪斎にはここに次の注がある︒

   ﹁聴道も鼓膜もくわしくは医書で知るように﹂︒

︵8︶ 一フィートー1三〇・四八㎝とすると︑三二九・四メートルとな

 る︒   雪斎では=〇六七フィートつまり三三五ヤール﹂となっており︑

 一ヤールー1四五インチ︵一インチー1二・五四㎝︶とすると︑﹁三二五・

 四メートルないし三八二・九メートル﹂となる︒

  ﹁音の速度﹂は︑﹁アカデミア・デル・チメント︵実験アカデミア︶﹂        せんこう   ︵一六五七一六七︶が測定している︒﹁遠距離にある大砲の閃光と

 その爆音が伝わってくるまでに経過した時間を︑振り子の振動に

 よって測定し︑一秒間に一一一一パリ・ブート︹約三六一・一メー

 トル︺の測定値をえている﹂︒︵ダンネマン前掲注︵2︶書4巻一四

 八ぺ︶ ︵9︶ 雪斎には次の注がある︒

   ﹁以上の諸物の内に空気がこもっていることは︑医学書を見て知  るように﹂︒

︵10︶ トリチェリ︵一六〇八i四七︶とヴィヴィアー二︵一六二ニー

 一七〇三︶による=ハ四三年の実験︵人が最初に作った真空﹁トリ

 チェリの真宛二﹂︶︒

  水銀を満たした約一メートルのガラス管を使い︑倒立させると︑

 一〇メートルの水の高さに相当する七六センチメートルの水銀柱に

 なり︑水銀柱の上方に何もない空虚ができることを示した︒またこ

 の水銀柱にみられる変動を気圧の変化から説明した︵水銀気圧計の

 発明︶︒︵ダンネマン前掲書4巻三九ニー九三ぺ︶︒

  一ドイム一インチー1二・五四㎝とすると︑﹁三〇ドイム﹂は七

 六センチメートルにしかならない︒

︵11︶ 板倉聖宣・現代語訳﹁民間科学問答﹂﹃︵少年少女科学名著全集

 30︶日本はじめての科学読物﹄︵国土社・一九八二年︶の一六五−

 一七七ぺ︒

︵12︶ 初版にはない︒

×

×

 さて︑今また急に同じようなやり方で話が始まり︑

だんな

旦那が次のように第八回の話をしたのです︒

第八回目の話 約束通り

 空気一般については説明したので︑今度はその種類に話を移

すことにしょう︒

 おれが﹁⑥ 空気はいろいろな種類でできている︒﹂とのべ

一141一

(15)

津III高専紀要第26号(1988)

(27)

わした連中がワッハッ.ハッと笑ってしまったこと﹂がわかった

のだよ︒  世間が静まりかえった夜分おそくには︑﹁人が階段をのぼっ

たり︑二階を歩いたり︑ドアをあけ閉めするのを聞いた﹂と思

うことがよくあるのだね︒でも︑これらはどれもこれも隣りか

ら偶然に音が伝わっただけでおこることだよ︒

 ある時︑おれが若かったころ戸外で︑閉めきった空き家のド       かぎ アの前に立っていたことがあった︒その家のドアには鍵がか

かって.いて︑鉄の取っ手︵ノブ︶もついており︑後ろ側にある

馬小屋の入口とつながっていたのだよ︒ちょうどその時︑人が

馬小屋の戸をあけたのだ︒

 ︿ちょうつがい﹀のきしむ音を思いうかべてごらん︒

 ﹁この空き家の中にだれか人がいて︑ドアの取っ手を回して

いる﹂と神かけて断言してもよいほどに︑家の入口の鉄の取っ

手にその音が伝わっていたのだよ︒

 実をいうと︑よく見ていたので︑﹁音は馬小屋の入口でして

おり︑そこから伝わっているのだ﹂と気づき︑何遍も何遍もそ

れを確めたので︑﹁中に人がいる﹂とは少しも思わなかったの

だがね︒

×

×

 こうして︑﹁空気一般﹂に関するお話と︑旦那とトインマ

ンとの対話が終わりました︒

 ﹁次の機会には同じやり方で空気のいろいろな種類を教え

てあげよう﹂との約束で終わりとなったのです︒

︵注︶

︵1︶ 当時は気体一般のことを﹁空気﹂とか﹁弾性流体﹂とかよんで

 いた︒ ︵2︶  ﹁空気に重さがある﹂ことは︑古代から想定されていた︒レオ

 ナルド・ダ・ヴィンチ︵一四五ニー一五一九︶とカルダーノ︵一五〇

 一−一五七六︶もそれを認め︑後者は﹁空気は水より五〇倍だけ軽

 い﹂と考えた︒︵ダンネマン︿安田徳太郎・訳編﹀﹃︵新訳﹀大自然

 科学史﹄一九二〇一二三年︑三省堂・一九七七−七九年・4巻九八

 ぺ︶︒   ガリレオ︵.一五六四−一六四二︶は︑﹁ガラスの大びんをとり︑

 ポンプで空気をその中へおしこみ︑このびんを精密な天秤にのせて

 平衡をたもたせた︒それからびんの口をあけたところ︑圧縮された

 空気が放出されて︑容器はいちじるしく軽くなった︒﹂︵同書九四ぺγ

  ゲーリケ︵一六〇ニー八六︶は︑一六五〇年ごろ真空ポンプを発

 明し︑五四年に大気圧の大きさを示す実験を公開した︒また︑︿ガ

 ラス容器に空気の入っているときと︑真空にしたときとの重量の差

 をはかることによって︑閉じこめられた空気の重さをはかった﹀﹃真

 空についての︵いわゆる︶マグデブルクの新実験﹄一六七二年︑﹃︵少

 年少女科学名著全集5︶新発見の報告﹄国土社・一九六.五年・ 二

 八−三〇ぺ︒︵同書四二二ぺ・四〇九ぺ︶

︵3︶  ︿気球による大気の探究﹀

  一七八三年にモンゴルフィエ兄弟が熱気球を発明した︒ジョセブ

  ︵一七四〇一一八一〇︶とジャック︵一七四五−九九︶の二人︒

  一七八三年に科学者シャルル︵一七四六−一八二三︶が人をのせ

 た水素気球による飛行に成功した︒︵キャヴェンディシュ.︵一七三

 一−一八一〇︶が一七年前に発見した﹁可燃性ガス﹂︹水素︺を利

 用した︒︶

  一八〇四年にゲi・リュサック︵一七七八−一八五〇︶が上層大

一142一

(16)

幸田

木をきりハンマーでたたいている人をながめる場合には︑斧や

ハンマーがふりおろされてからしばらくして︑やっとうちおろ

されて出た音が聞こえるだろう︒

 音を伝達することが︑明らかに聞えさせるための条件だ︒音

を出している物体から耳まで︑棒か棒のようなものをおくと分

かるのだよ︒長い角材のこちら側で小さなピンを落すか・指で

かるくたたくかし︑あちら側で耳をつけていると︑はっきりと

聞こえるからね︒また︑その角材のこちら側からあちら側へと

互いにひそひそとしゃべつても︑お互いにはっきりと理解でき

るからね︒

 また︑敵の軍勢が来襲してくる時︑堅くて高い土地にいさえ

すれば︑太鼓の皮の上においたサイコロが振動するので分かる

のも︑同じだね︒

 いわゆる︿物いう人形﹀に使ってある伝声器の作用もそれと

同じことだ︒つまり︑縁日でしばしばこういうしゃべる人形と

か顔とかを見かけるのだが︑多くは口にラッパ︹伝声器︺をく

わえているようだね︒このラッパは︑ものをいう時に声を強め

るためにそこにつけてあるのだよ︒

 さて︑親方  というのは︑こうした人形や顔の見世物師と

か見物人のだれかのことだが  ︑その親方がこのラッパを通

して︑話し声がラッパに入るように話しかけるのだ︒

 普通︑あれこれと質問すると︑再び人形のラッパから答えが

返ってくる︒

 こんな事は伝声器によってだけできるのだが︑その管は︑や

ぐらや床やうしろの幕とか・顔や人形のかけてあるコードと

       い す か・人形のすわっている椅子の足とかを通っていて︑やぐらの 上とか幕のかげとか仕切りとかにいる人によって管理されてい るのだ︒つまり︑人形のラッパを仲立ちにして聞いたお互いの 話全部が︑こんな伝声管の端で語られているのだよ︒ちょうど︑ 自分がしゃべっているのを伝声管によって自分で聞くようなも のだね︒  それなのに︑﹁ラッパがとりつけてある箇所には目に見えな い穴があいていて︑ラッパの声が共鳴し反響したものだ﹂とば かり︑人々が思っていたのだね︒  いろんな場所やさまざまな縁日で見世物にしている・いわゆ る︿見えない娘﹀もちょうどこんな具合だったのだよ︒  ﹁声を導いたり伝えたりすること﹂を話していて︑耳にだけ は聞こえる・いわゆる化け物を思い出してしまった︒  例えば︑かなり大きな家にすんでいるおれの友達の一人が︑ ある晩おそく食堂でこしかけながら一人目読み物をしていた時 だった︒その食堂のドアの前にはポーチ︵玄関︶がついている のだが︑突然そのドアこしに隣家に接している中庭の戸から︑ 二人の男が互いに追いかけあうような激しい叫び声を聞いた︒ そこで︑この男は︑おそるおそる﹁そこにいるのはだれだ﹂と たずねたのだ︒すると︑その叫び声が高笑いして答えるように 思えた︒そのために︑すみずみまで調べてみたのだが︑何も見

つからなかったのだよ︒

 しかし︑あとで﹁隣りの家の・わが家よりももっと高くなっ

ている中庭で︑けんかをし追いかけあうような叫び声をあげな

がらくネズミVを追いかけたこと︑そのあとでネズミが逃げ方

を知っていて追跡者たちからうまく逃げおおせたので︑追いま

一143一

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