三重大学教育学部附属教育実践総合セ ンター紀要
2 0 0 9
, 第2 9
号,9 9‑ 1 0 2
頁ステン ドグラス法の進化 と拡大
‑ 開発後に得 られた新知見 と施行法の工夫をめ ぐって ‑
河 口 恭子*・馬場佐和子**・玉田 尚子日*・小山内 薫
‥ **
ステ ン ドグラス法 (以下
SG
法 と略記)が論文 に発表 されて一年、我 々四名 の執筆者 はこの間、 さまざまな 角度 か らSG法 を追試 す る中で、 いろいろな工夫 も試 みて きた。SG法 の素 晴 らしさを再確認す ると共 に、新 し
い視点 を手 に入 れたのである。例えば、子 どもの主体性 の特徴 を再 吟味す るとい う着想、仲間意識 を確実 に穣成 す る具体的 な実践、教室 の雰 囲気 を明 る くしそれを国際交流 に役立て る方法、 あ るいは、SG法 は、実 は、癒 し の作用 も併 せ持 ってい るとい う利点 の確認 な どである。更 に、新 しいSG法 との整合性 の問題が今後浮上 して く
る点 に も触 れた。キーワー ド :色だ けの絵、主体性、仲間意識、癒 し
1
. は じめに :四人の実践 の開始本論文の著者、四名 は、 これまでの活動を踏 まえ、既 に
2 0 0 8
年3
月末 まで に、4
月か ら始 まる新年度 に向け て、改めて、 自分の担 当す るクラスの子 どもたちや学生 を対象 に したステ ン ドグラス法 (以下、SG法 と略記す る) を続 けていって、子 どもたちの 自尊感情を高めると 同時 に仲間意識 を高 めて くれ る、「SG法 の効力 を確認 しよう」 を合言葉 に していた。 その際、 ま とめ役のSG
法開発者の小 山内か らは、方法上の注意点、描画 に関す る注文 は何 ひとつ出されていない。 それは、昨年度発行 の、三重大学教育学部 附属教育実践総合 セ ンター紀要第2 8
号 に繰 り返 し強調 されている、SG法 の精神か らいっ て、 当然のことなのだか ら。こうして新学期か ら、上記 四名が担 当するSG法が、そ れぞれの勤務校で開始 された。 四名が
SG法を実施 した回
数 とその対象者数は、各担当クラスの規模や、他科 目の授 業時間確保 との関係 もあり異なっている。 実施 中に得 られ た結果には、 もちろん、四人に共通する傾向が見 られるが、と同時に、それぞれ独 自の工夫が編み出されたり、予想 も しなかった、興味深い、知見 と経験が得 られている。
そこで、本稿の進め方は、先に、SG法の基本画制作の 手順について、簡単 に復習 しておく。その際、子 どもの心 の動きをできるだけ細か く辿 ることに心がけた。それから、
まず、たった今述べた、 四人に共通するSG法上の傾 向を 確認 し、それから、 四人各 自が
SG法施行に当たり、重視
した目標 と工夫 した点及び新 しい経験 内容に考察を加えな*伊勢市立東大淀小学校
**伊勢市立御薗小学校
***伊勢市立北浜 中学校
****三重大学教育学部 附属教育実践総合 セ ンター
が ら、具体 的に報告する。最後にこの同 じ紀要
2 9
号の1‑9
頁に発表 してある、 "新 しいステンドグラス法"( SGⅡ
ないし色絵 四法 と記載。 これまでのSG法を SGI
と呼び 名を変え、SGIとSGⅡを併せて、 ステンドグラス法 ( S G
法) と総称 してある)を視野に入れ、今後のSG法に関
して、具体的な実施法の模索の必要性を確認することにな るだろう。
2.4
人 に共通するSG
体験SG法 に初 めて出会 う子 どもたちは、大抵の場合、最
初の教示 「今 日は色塗 り遊 びをや ります」を耳 にす ると、直接、「何すんの?」と口に した り、言葉 には出 さない けれ ども、多少 の不安 と緊張の表情をす る。 この不安 と 緊張 は、彩色 中に次第 に薄れていって、やがては穏やか な気持 ちにな り、 自然 と楽 しさに変化 してい く。 もちろ ん、不安感 を持つ こともな く、 これか ら何か楽 しいこと が始 まるか もしれない、 と期待する子 どもも中にはいる。
まず、ペアーを組んだ二人 (三人で も変わ りはない) に、
それぞれ 「自分の好 きなクレヨン」 を一本ずつ、選んで もらい、 その ク レヨンで画用紙一枚 (八切 りない しA4 判大) に、半分ずつの枠を担当 して もらい、2色ででき た
1
個 の枠 を (図4
で確認できる)描いて もらう。 この 枠の出現 に子 どもたちは、 これまで味わ ったことのない、不思議 な気持 ちに囚われ る。子 どもたちは、画用紙 に枠 をつ けることによって、実 は、枠内に自分の心が収赦 し 二人 だけの世界が出現 し初めていることは、知 る由 もな
い。
次 の、同 じクレヨンで線 を引き合 いマス目を作 る場面 では、 「こんな風 でいいのかな」 と戸惑 うことも多 いけ れ ども、5‑6本 の直線 ・曲線 ・ギザギザ線 でかな りの
‑ 9 9‑
河 口 恭子 ・馬場佐和子 ・玉田 尚子 ・小山内 薫
マス目が出来、色の住む部屋が出揃 うと、先ほどまであっ た戸惑 いは、 ち ょっとした安堵 「荷降 ろ しの気分」 に変 わ る。 そ して、 しば し、枠 に支 え られた未彩色のた くさ んのマス目が集 まっただけの画用紙 を 「どうい う画像が できて くるのかなあ」 の期待 と少 しの不安が混 じった気 持 ちで眺める。
ここで 「色の仲間たち、みんな集 まれ っ !の気持 ちで、
相手 と相談 しなが ら、マス目をた くさんの色で塗 っていっ て ください」 の教示がな され ると、子 どもたちは、作業 全体 の動 きを大 まか に把握で きる。 そ して、やお ら相手 との相談が始 まる。 どっちが最初 に塗 り始 めるのか。最 初の彩色 は何色 にす るのか。次 の彩色 は どのマス 目にす るのか、 そ して何色を使 うのかな どである。 この相手 と の相談 と確認行為 は絵が完成す るまで、 自然 と続 いてい く。 こうして、何の色 も未 だ塗 ってない自か ったマス目 が塗色によって、 どん どん色付 けされたマス目に変わ り、
画用紙の鮮やか さが次第 に増 していき、最後のマス目の 塗色が終わ って色絵 は完成 し、基本画が生 まれ る。 と同 時 に、子 どもたちは、安堵 の気持 ちと強 い達成感 に襲わ れ る。 そ して、促 されな くて も、 あ っちこっちで見せあ い っこ (シェア リング) が始 まる。 そ して、「わ っ !す ごっ !
」
「その色キ レイだね」、「楽 しいなあ」、「最高 !」、 とい った類 の喜 びと楽 しさに満 ちた感想が出され る。 こ うした、子 どもたちの さまざまな情動 の動 きが、昨年度 の紀要論文で、かな りの貢を割いて報告 した、 クレッシェン ド体験 その ものである。
以上 は、初 めてステ ン ドグラス法 を試 みた子 どもたち の体験 を、情動の動 きを中心 に述べた ものであるが、二 回、三回 と繰 り返 してい くと、作品が どんな変化を示 し、
子 どもたちの気持 ちはどう変 わ ってい くのだろうか。
最初 に見 られ る色絵 の上 での変化 は、大雑把 に 「遊 び 心」 と括 ることのできる現象である。 この遊 び心 は、遊 ぶ とい う言葉か ら連想 され る、気楽 な心性 ばか りではな い。冒険、挑戦、工夫、緊張 に裏打 ちされた ものである。
図1では、 目立たないように小 さ く人 の顔 を忍 びこませ ている し、図
2
では 「団子三兄弟」 の様 な形の ものを右 に描 き、左 には、 カマキ リの前脚 を想わせ る鋭 い形 の も のを配 し、 ‑ ‑ トまで描 いて い る。 つ ま り自由奔放 な (自由勝手 な)色絵 に仕上 げてい る。 図3
で は、線 を引 いてマス目を作 る段階 までに既 に画面全体の構成 を考え ていた ことが十分 に推測 され る。穏やかな波 山と起伏の 激 しい波 山を中心 に据えた この絵 は、SG法 の繰 り返 し が もた らした ものだ と考 えない訳 にはいかない。 とい う の も、 これまで、最初か らこうした傾向の絵 を措 いた子 どもは一人 もいない、 とい う経験 は、本稿執筆者 四名 に 共通 しているか らであ る。 つ ま り、SG法 を繰 り返す と い うことは、「遊 び心」 を誘発す ることにな るのである。要す るに、SG法 を重 ねてい くと、子 どもの心 は、次
第 に自由奔放 にな ってい く。 自由奔放 とい う我 々の形容 は、子 どもたちに対す る我 々の褒め言葉、賞賛の言葉で ある。第一、 こうした、 自由奔放な姿勢があって初めて、
子 どもたちは成長 の礎 を手 に入れ るのである。以上、 四 名 の共通体験 を述 べて きたが、 ここか らは、SG法 に関 連 して、四人 それぞれが独 自に、考えた こと、工夫 した 事、 これまで予想 しなか った体験等 につ いて報告す る。
3.子 どもの主体性 と SG
法ここでは、繰 り返 し行 った
SG法 の実施 中に経験 し、
考え させ られた、子 どもの主体性 に関 して、発達心理学 的な側面を重視 しなが ら、二つのエ ピソー ドを紹介す る。
① 自分 の縄張 り (陣地) を相互 に確保 したペアー
SG
法の経験 が豊 かな (このクラスの子 どもたちは、これまで
SG法 に限 らず表現 の さまざまな方法 に挑戦
してきた経緯 がある) ここに紹介す る小学二年生 のペ アーは、 あ る日のSG
法実施 に際 して、初めか ら、二 人 ともこう主張 した。「
(画用紙の) ここか ら半分は私」、「じゃあ、 ぼ くは こち ら (の半分)」。 こうして、二人 とも、 自分 だけの領域 をそれぞれ確保 してか ら、描画 活動 に入 ったのである。当然、 自分の色塗 りの面積 は、
最初の画用紙 の半分である。 そこで二人 とも、 まるで 申 し合わせた様 に、別の画用紙 を 自分の領域の外側 に 一枚ずつ付 け足 して、塗色可能 な面積 を画用紙一枚分 に増や したのである。 この二人 の 自己主張の特徴 は、
一方的な 自己主張 に終わ ってはいない ことである。つ ま り、 自分 の意志 を貫 くばか りでな く、 ちゃん と相手 の主張を も承認 している。 ここには、相手 を主体性 を
もった人 間 とみなす、暗黙のルールができている。
小 山内 も同 じ様な場面を大学生の
SG法で確認 してい
る。SG法二回 日の目、線引が終わり、彩色に取 り掛かっ た場面で、Ⅹ君 は無言 のまま、画用紙の右側か ら真ん 中に向かって空色 と青の二色だけで塗色 し始めた。一方、これまた無言の
Y君は逆 に左側から赤 とピンク二色だけ
を用いてやはり中心 に向かって彩色 していったのである。一見、 寒色系 と暖色系の激突 に見えたその色絵 は、 結 局、画用紙の真ん中部分に点在 していた四マスに塗 られ た黄色で、調和の取れた図像 として完成 したのである。
これは、大学生の彩色をめぐる、 自己主張 と相互承認の 場面であ り、 先 ほどの小学二年生の陣地確保の場合 と 同 じ原理が働いていて、興味深い。
②sG法での前作 を 「失敗作」 と判断、描 き直 した
T君
T君 は広 汎性発達 障害の診断を受 けている。T君のSG法の色絵の作 り方 の特徴 は、線 引きではぐい ぐいと
強 く措 き、塗色は、 自分の好きな赤 と紫二色の多用であ る。 その中には自作の絵 も含まれている、廊下に展示 し た全員の基本画 を じっくり見比べたT君 は、 自分の方‑ 1 0 0‑
ステ ン ドグラス法 の進化 と拡大
か ら筆者 に語 ったのは、 「日頃、母が、絵 を措 く時はい ろいろな色を使 うのが良いとア ドバイスして くれているこ と」、 「同 じ色が隣同士 になるとキレイさが出ないこと、
たくさんの色を使 うとキレイになることに気着いたこと
」
だった。そして、「先生、 もう一回やろう !
」
とクレパス を用意 してきたのである。描 き直 した作 品は、前作 に比 べてた くさんの色が使われてお り、 とりわけ、新作で印 象深いのは、好 きな紫を最後 に残 った小 さなマス目に塗 り、 「これ、 葡萄や!」と満足 そうに話 していたことであ る。 (この3章の記述 は河 口)4.
仲間意識 を育 む具体的 な方法筆者 が心 がけた課題 は、仲間作 りの実践 だ った。筆者 が新担任 の
2
年B
組 の生 徒 の中 には特別支援学級 に在 籍 している ものの、 「いろんな ことを友達 と一緒 に した い」 とい う気持 ちが人一倍強 いA君 がいた ことも、筆 者 の実践 の動機 の一つであ った。筆者 のS G
法への注 目は、
S G
法 の基本画制作 だけに留 ま らない。出来上 が った作 品を並 べて様 々な、 「クラス全員 の連 帯意識 ・仲間意識」 が 自然 と出て くるような言葉 その も のを基本画 をいろいろと組み合 わせて並べて作 ってい く′ のである。図
4
を見て欲 しい。 これは 『みんな ともだち』を作 ることに決めた時の、基本画
7
枚 か らな る、 ひ らか な 「と」であることは、す ぐに分か る。この図
4
をみ るだけでは 「簡単 に絵 を並べただけでは ないか」 と思 われ る危険性 があ る。 しか し、実際 にA4 判大 の しか も長方形 の絵 を用 いて ちゃん と した形 のひ ら かなに整 えてい くことは、意外 に難 しい。実際 に試 みれ ばす ぐ分 か る。 図5
は、『2B
大 スキ』 の ス ローガ ンの 最初 の文字、2を構成す るのに、 どの絵 とどの絵 を組 み 合 わせれば良 いのか額 を寄せ集 めて相談 している子 ども た ちの姿 で あ る。 こう して出来上 が った作 品、『2B
大 スキ』 を図6
に示 した。 (この4
章 の記述 は馬場)5.
教 室の雰囲気 の明るさと国際交流中学
1
年 の担任である筆者 は、生徒 たちに、完成 した 色絵 をひとまとま りに して教室の入 り口の辺 り、黒板 の 隣に配 して もらった。 まず図8を見て欲 しい。 ひとまと
ま りに した基本画 その ものは、図7に示 してある。た った これだけの工夫で、「この教室明 る くな ったね」、
「楽 しいね」 とい う声が聞かれ るよ うにな ったのである。
これは どうゆ うことなのか。教室 に入 る時、 いやで も目 につ くこの基本画 の
1
枚一枚 が、 自分 が作成 した絵 だけ でな く、 クラスメー ト全員 の基本画 と一緒 にな って、制 作時の楽 しか った情動 を一気 に想 い出させて くれ るか ら ではないだろうか。2 0 0 8
年6
月 に国際交流の一環 として、ベ トナム中学生5
名を迎え入れたのは、 この教室だった。 国際交流の授業 内容を 「ステンドグラス法」に決めたのも生徒たち自身で、まるで前か ら決めてあった様 に、交流授業はスムーズに進 んでいった。 まだ英語のアルファベ ットを覚えるのが精いっ ぱいの生徒がいるこの時期、英会話によるコミュニケーショ ンは覚束ない。
S G
法 は、 この欠点を補 って余 りある。 あ ちこちで笑 い声が聞かれ、色絵 に、 日本語 ・ベ トナム語 ・ 英語の単語を自由奔放に書 き込んでいた。 隣席のベ トナム の男の子 に「 Il o v ey o u」
と挨拶 (告 白 ?) した 日本の 女の子 までいた。ベ トナムからの交流生 たちは、 自分の絵 をデジタルカメラに収めていた。終 りの参加者全員の記念 撮影 のバ ックを飾 ったのは、 当然、S G
法 による色絵たち だった。 (この5
章の記述は玉 田)6.
癒 Lと してのS G
法S G
法体験者 の大学生 の感想文 に、 「木 曜 日の この午 後の時間は、月曜 日か らの疲れが ピークに達 しています。ところが、色塗 りを している間 に疲れが どっかに吹 っ飛 んで しまい、す ご く気持 ちが楽 にな りま した (原文のま ま)」とい うものがあ った。 この 「癒 され る体験」 につ いて尋ねた ところ、半分 ほどの学生 がは っき りと肯定 し ていた。 (この
6
章 の記述 は小 山内)7 .おわ りに
本稿 において、我 々四名 の執筆者 は、互 いの文章 を読 み合 い検討す る時間を十分 に取 ることができなか った。
しか し、 1. のは じめに、 で触 れた様 に、新 しい
S G
法 が誕生 した以上、今後、SDI
とSDⅡ
の整合性 と組み合 わせの問題 が、 間違 いな く浮上す る。文 献
小 山内薫 ら 1989 枠づ け法 における 「枠」 の意味 芸術療法
2 0
巻p 7‑1 3
小 山内薫 ・玉 田尚子 ・河 口恭子
2 0 0 7
中学生描画 の物 語性‑HTP
アイテム選択法 を実施 してみて一 三重大学教育学部 附属教育実践総合 セ ンター紀要2 7
号
p3 5‑4 0
小 山内薫 ・河 口恭子 ・馬場佐和子
2 0 0 8
ステ ン ドグラ ス法一 自尊感情 と仲間意識を育む最適な方法 の導入一 三 重大学教育学部 附属教育実践総合 セ ンター紀要2 8
号p7‑1 2
河 口恭子
2 0 07
教育臨床 の視点 を授業 の中で どのよ う に活か してい くか‑みんなで'絵 を措 いて もっと元気 に なろ う‑2 0 0 6
年度 内地留学生研究報告書‑ 1 01‑
河 口 恭子 ・馬場佐和子 ・玉 田 尚子 ・小 山内 薫