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1.高 高齢者の生活時間

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(1)

高齢者の生活時間

三 富 紀 敬

は じ め に

本稿は、高齢者の生活時間に関する調査研究を振 り返 りながら、これに一定の検討を 加えるものである。

1.高齢者の生活時間に関する調査研究

高齢者の経済的な地位に関する調査研究は、実に豊富である。古 くは、BoS.ロ ウン トリー『貧困一都市生活の研究―』(マクミラン社、1902年)における分析 をあげるこ とができよう。ロウントリーは、良 く知 られるように労働者が貧困状態におちいるライ フサイクル期のひとつとして労働市場から引退する高齢期をあげる│ぉ この指摘は、そ 40年後に刊行の『ベヴアリジ報告

 

社会保険及び関連サービス』(1942年)に も継承 される。ベヴアリジは、「幼年期以後に稼得能力を喪失させる原因のなかで最 も重要な ものは、老齢である」0)と して、この認識を拠 り所に老齢期の所得保障としての年金制 度について構想する。同時に、ベヴアリジは、「老齢の経済的・社会的影響は人によつ て一様ではない。老齢のために極度の貧困におちいる者もあれば、そうならない者もあ る」(鋤と、ロウントリーによる1936年ヨーク調査の結論を引き合いに出しながら、指摘 する。

高齢者の経済的な地位に関する日本の調査研究は、これらの貧困や社会保障について の業績の影響を受けな力、ら、早くから手がけられてきたし、今日でも盛んである。

高齢者の所得 と消費あるいは貯蓄残高などの諸指標 に示 される経済的な地位の分析 に 比べると、高齢者 の生活時間に関する作業は、はるかに乏 しい。その理由は、い くつか 考えられる。最 も基本的なことは、貧困研究 と生活時間研究の歴史的な蓄積 における相 違である。前者は、すでに示 したように100年以上の歴史を持つ。他方、後者は、国際

BoSccb(im Rowntree,Povet,a Study oftown life,Macmillan and CooLtd,1902,p。 111.

山田雄三監訳『ベヴアリジ報告 社会保険及び関連サービス』至誠堂、1975年 、138頁 。 同上、139頁 。

(2)

本に絞っていえば1941年 (昭16年)に実施の日本放送協会 (NHK)『国民生活時間 調査』に端を発する。しかも、生活時間調査が定期調査 として実施されるのは、日本を 含めて例外なく戦後の1960‑70年 代以降である。

生活時間調査の目的は、区々である。まず、英国放送協会 (BBC)や 日本放送協会 の調査がそうであるように(放送番組の編成の基礎資料 としての調査である。また、女 性の労働力化の可能性や労働力化に伴 う家事労働の東縛についての検討を目的にする。

あるいは、工業化や都市化に伴う新 しい現象 としての交代勤務制の影響に関する調査 を 目的にする。さらに、平均寿命の延びと老齢退職者の増加を背景に、高齢者の生活時間 に関する検討を目的にする。生活時間調査の目的は、このように区々であり、高齢者の 生活時間の検討は、そのごく一部に過 ぎない。しかも、高齢者の生活時間の検討は、高 齢者の増加に触発されてのことであることから、欧米諸国に比べて高齢化の進展の遅い 日本においては、高齢者の生活時間の検討を主題にする調査研究は、一段 と遅 くなるの も至って自然の結果である。

高齢者の生活時間について初めての検討を施 したのは、労働省『生活時間白書一婦人 のレジャー・タイムについての研究―』(大蔵省印刷局、1961年)に所収の調査結果

「主婦の24時間一全国11,000人の主婦の時間 しらベー」である。この調査は、主婦の生 活時間について年齢階層別の分析を加える。これに従えl飾0歳台に属する主婦の生活時 間は、20歳台から50歳台の主婦のそれに比べて、睡眠時間と家事時間について総 じて短 く、社会奉仕などの「社会に連なるため」の時間及び「生産的な仕事」に費やす時間に ついて長しヽ4L

この調査は、その表題から伺うことができるように主婦の生活時間を主題にしてお り、

高齢者の生活時間を正面から扱うわけではない。結果として高齢者は、主婦の年齢階層 別分析の一部 として登場する。分析の結果 も至って少ないことも、自然の帰結である。

これに続 く作業は:、 筆者の知る限り経済企画庁『生活時間の構造分析一時間の使われ 方 と生活の質―』(大蔵省印刷局、1975年)である。この著書は、夫婦を単位 とした時 間配分の特徴 について、労働 と家事及び自由時間に視点を当てた分析を施 した上で、特

)労働省 『生活時間白書一婦人の レジ ャー・ タイムについての研究― 』大蔵省印刷 局、1961年 、 192‐195頁 。

(3)

高齢者の生活時間

にライフ・ステージに着 日しなが ら検討 を進める。これに従えば、夫の年齢50歳以上で 子供のいないライフ・ステージの夫婦 は、夫の年齢49歳以下で子供のいないライフ・ス テニジの夫婦 と並んで、多 くの自由時間を享受する。自由に使 うことのできるこずかい が最 も多いこととあいまって、夫婦2人だけのレジャーも、活発である鰤L

先の調査が、高齢者の生活時間の全般 に触れているのに対 して、この調査 は、高齢者 の自由時間に焦点を絞ったところに特徴 を持つ。それだけに、高齢者 の自由時間に関す る新 しい知見 を提供する。 しか し、高齢者の生活時間全体 に関 しては、特 に調査結果 を 提供 していない。

経済企画庁 による作業が、高齢者 を含む夫婦世帯の自由時間に焦点を当てたのに対 し て、総務庁 『生活時間 とライフスタイル』(日本統計協会、2000年)は、高齢者の自由 時間を含む生活時間全体 に検討 を加えている。高齢者の生活時間は、これに従 えば長い 生理的時間をはじめ短い仕事時間、男性 について長 く女性 について短い家事時間、長い 余暇時間及び平 日と日曜 日における生活時間変動の少なさなどを、特徴 にするoL

日本の生活時間に関する調査研究は、この2000年の成果 をもって高齢者の生活時間の 簡単な鳥政図を描いた、 ということがで きる。

2日 高齢者の生活時間 と積極的な自由時間

以下では、総務省『社会生活基本調査』を主に用いなが ら、高齢者の生活時間につい て検討 してみたい。 ここで高齢者 とい う場合 には、『社会生活基本調査』における年齢 階層区分 とその変遷などを考慮 に入れて、65歳以上の年齢階層 に属する人々を意味する。

高齢者の生活時間は、15歳以上64歳以下の年齢階層 に比べ ると、生理的時間 と自由時 間について長 く、仕事時間 と家事時間において短い (表 1)。 高齢者の労働力率は、男 性 においてさえ60歳代後半以降に目立って低下 し、これが、高齢者雇用における短時間 就業の多 さと相侯 って、仕事時間を短 くする。加えて、65歳以上の高齢者のいる世帯は、

高齢者 のみの単身もしくは夫婦世帯であ り、子供のいる世帯 に比べると家事時間 も自ず と少ない。これ ら2つ の要因が、高齢者の生活時間を大枠 において規定する。

)経済企画庁『生活時間の構造分析二時間の使われ方 と生活の質一』大蔵省印刷局、1975年176‑

179頁184頁

o)総務庁『生活時間とライフスタイル』 日本統計協会、20004、 52‑60頁79‑80頁90‑93頁

(4)

(単位 :時"分)

一 時活 動 二 次活動 二次活 動

1976年

15歳以 上 (A)

65歳以 上69歳以 下 (B)

65歳以 上 (C)

10。 42 11.27 11. 53

7.51

5。 31 4.22

5. 27 7. 02 7. 23 81年

(A) (B) (C)

10。 44 11.28 11.54

7. 52 5, 24 4. 13

5. 24 7.08 7. 53 01年

(A) (B) (C)

10.34

11。 13 11.49

7. 00 3. 49 5.02

6. 26

8。 22 7.45

(資)総務省『社会生活基本調査』各年版より作成。

高齢者 の生活時間は、前出の表に示す ように1976年から2001年4半世紀 に基本的に 変化 していない。この4半世紀 に変化 を遂げたことといえば、生理的時間の減少 をはじ め仕事時間と家事時間の合計である2次活動の減少及び自由時間の延長である。 このう ち生理的時間と2次活動に充てられる時間の減少は、比較的に僅かであるのに対 して、

自由時間の延長は、比較的大 きい。これらの変化は、高齢者に独 自の特徴ではない。15 歳以上人口におおむね共通する特徴である。

自由時間は、その活動の種類に即 して消極的な自由時間と積極的な自由時間 とに三分 される。前者 は、総務省『社会生活基本調査』の分類 に従 えば「テレビ・ ラジオ・新 聞・雑誌」 と「休養・ くつろぎ」か らなる。後者 は、「学習 。研究 (学業以外)」「趣 味 。娯楽」「スポーツ」「ボランテイア活動 0社 会参加活動」「交際 ご付 き合い」である。

高齢者 の 自由時間は、 この三分法 に従 えば積極 的な自由時間が全体 の4分1強 (65‑69歳 層、26.6%、 2001年)を占める。 これは、15歳以上人口の平均 (29.4%)に べると、やや低い比率である。 しか し、年積極的な自由時間は、1981年か ら2001年にかけ

(5)

高齢者の生活時間

ての20年間に23分の伸びを示す。これは、同 じ期間における15歳以上人口の平均的な伸 (16分)よ りも長い。また、消極的な自由時間は、15歳以上人口の平均で増加 を記録 する (24分)のに対 して、60歳代後半層高齢者 において減少する (8分)。 高齢者の自 由時間は、1981年か らの20年間に積極化の傾向を示す、 ということがで きる。平均寿命 の延長が、こうした傾向を後押 ししているのではないか、 と考えられる。

自由時間のすごし方は、時間の長さや国民の健康状態に左右 されるばか りではない。

所得の要因を無視するわけにいかない。とりわけ自由時間の積極的な享受は、サービス 余暇時間の年齢階層別推移 (1981‑2001年)

(単位 :時1分)

消極 的 余 暇 積極 的余暇

1981年

男性

15歳以 上 (A) 65‑69歳

65歳以 上 (C)

女性

(A) (B) (C)

(A) (B) (C)

(B)

3.  3 1 5.  0 5

5。 45

3. 32 4. 58

5。 40

3. 29

5.  0 1

5.42

1.31 1. 38 1.42

1. 11 1. 09 1.06

1.21 1. 23 1. 20

5.02 6.43 7. 27

4. 43 6. 07 6.46

4. 50 6. 24 7.02 2001年

男 性

(A) (B) (C)

女 性

(A) (B) (C)

(A) (B) (C)

3. 58 6. 06

5.  2 1

3.48

5.  2 1

4.27

3. 53 5.41 4. 53

1.44 1.49 1. 56

1. 26 1. 2 1 1. 36

1. 37 1. 33 1. 46

5。 42 7. 55 7. 08

5. 14 6. 42 6. 03

5. 30 7. 14 6. 39

(資)表 1に同 じ。

(6)

NHK放送研究所『国民生活時間調査』 に従 えば、「社会参加」や「会話・交際」 より も「 レジャー」に傾斜する」ところに特徴 を持つ。たとえば「社会参加」 と「会話・交際」

に充てられる時間の合計は、成人全体 (31分、平 日、以下同 じ)、 60歳 (37分)、 70歳 以上 (38分)に対 して、「 レジヤー」の時間は、成人全体 (56分)、 60歳 (1時14分)、

70歳以上 (1時56分)であるoL成人全体 と高齢者 との格差は、前者について乏 しい のに対 して、後者 において大 きい。この傾向は、土曜 日や日曜 日にも認め られる。高齢 者層における「 レジ十二」への傾斜は明 らかであろう。

高齢者 における自由時間のすごし方 と所得水準 との関連 を直接 に示す調査結果は、残 念なが らない。そこで生活時間調査の所得階層別構成に関する計数を用いなが ら、検討

してみよう。

まず、 自由時間は、低い所得階層 において長 く、高い所得階層 において相対的に短い 生活時間の所得階層別構成 (2001年)

(単位 :時,分)

仕事時間 消 極 的 余 暇 時 間

積 極 的 余暇時間

余暇時間

100万 円未 満 (A) 100‑199万 (B) 600‑699万 (C) 900‑999万 (D) 1000‑1499万 (E) 総 数 (F)

3。 13 3.43 6.38 6.34 6.42 5.49

5.43

5。 27 3.36 3.29 3. 18 3.59

1. 16 1.18 1.28 1.30 1.37 1.31

6. 59 6.45 5.04 4. 59 4. 55 5. 30

(A) (B) (C) (D) (E) (F)

1. 1‐5

2.20

2。 32 2.48 2.53 2.27

4.16 4.09 3.19 3.17

3。 11 3.30

0.52 0.58

0。 20 1.24 1. 26 1.16

5. 08 5.07 3. 39 4. 41

4。 37 4. 46

(資)表1に同 じ。

(注)(1)表,「総数」は、表 に示 した所得階層 に加 えて他 の所得階層全体にかかわるそれで ある。     ̀

o)NHK放送文化研究所『データブック 国民生活時間調査2000』 日本放送出版協会、2001年29 頁、38‑39頁

(7)

高齢者の生活時間

(表 3)。 これは、前者 における短い仕事時間 と後者 において長い仕事 時間の結果である。

さらに、消極 的な自由時間は、低 い所得 階層で長 く、高い所得 階層 において短い。他方t

積極 的 な 自由時間は、前者 において短 く、後者 において相対 的 に長 い。乏 しい所得 は、

サー ビスヘ の対価 を伴 う積極 的 な自由時間の享受 を制約 し、他方、豊 かな所得 は、積極 的な自由時間の享受 を経済的な担保す るのである。 また、後者 は、 自由時間が仕事時間 の長 さの故 に相対 的 に短 いだけに、 この限 られた時間 をよ り活発 に過 ごそ うとす る動機 を育 むのである。後者 における積極 的な自由時間の相対 的な長 さは、 これ らの結果であ る。

お わ り に

高齢者の自由時間は、人口の高齢化の進展を考えるならば、今後 も延長の傾向を辿る ことになろう。また、人口の高齢化 は、健康な高齢者の増加を意味することから、積極 的な自由時間の延長にも運動することになろう。問題は、所得水準 とのかかわりである。

低い所得階層に属する人々は、所得の低 さの故に積極的な自由時間の享受を経済的に制 限される。高齢者による自由時間の積極的な享受を展望するとき、所得水準の確保は、

不可欠である。経済的な豊かさに支えられて、時間の豊かな享受が担保されるのである。

高齢者による自由時間の享受は、この年齢階層に属する人々一人ひとりの豊かさに止ま らず、レジャー産業などの活発化を通 して経済全体にも少なくない影響を及ぼすことに なろう。拙文によるささやかな検討は、このことを教えている。

         1

参照

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